(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】電析物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25C 3/28 20060101AFI20250407BHJP
C25C 7/06 20060101ALI20250407BHJP
C25C 7/02 20060101ALI20250407BHJP
C22B 34/12 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
C25C3/28
C25C7/06 302
C25C7/02 308Z
C22B34/12 103
(21)【出願番号】P 2023538292
(86)(22)【出願日】2022-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2022020864
(87)【国際公開番号】W WO2023007918
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-10-02
(31)【優先権主張番号】P 2021125453
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】熊本 和宏
(72)【発明者】
【氏名】中條 雄太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】堀川 松秀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-173065(JP,A)
【文献】特表2015-507696(JP,A)
【文献】特開2005-105374(JP,A)
【文献】特開2018-012861(JP,A)
【文献】特開昭49-044919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25C 3/28
C25C 7/06
C25C 7/02
C22B 34/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融塩電解を用いた電解精製により、Tiを含有する電析物を製造する方法であって、
溶融塩浴としての塩化物浴にて、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料を含む陽極と、陰極とを有する電極を使用し、前記陰極上に精製チタン系材料を析出させて電析物を得る電析工程を含み、
前記電析工程で前記電極が複数個の陽極を有し、複数個の陽極のうち、一部の陽極の使用終了時期を残部の陽極の使用終了時期とずらして、前記陰極上への精製チタン系材料の析出を行う、電析物の製造方法。
【請求項2】
前記電析工程で、前記電極が複数個の陰極を有する、請求項1に記載の電析物の製造方法。
【請求項3】
前記電析工程で、前記電極の前記陽極の個数が前記陰極の個数よりも多い、請求項2に記載の電析物の製造方法。
【請求項4】
前記電析工程で、前記陰極の周囲に複数個の陽極が配置された電極を使用する、請求項1~3のいずれか一項に記載の電析物の製造方法。
【請求項5】
前記電析工程の途中で、使用終了時期に至った一部の陽極及び/又は残部の陽極を、新たな陽極と交換する陽極交換工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の電析物の製造方法。
【請求項6】
前記電析工程で、前記陰極上への精製チタン系材料の析出を継続しながら、前記陽極交換工程を行う、請求項5に記載の電析物の製造方法。
【請求項7】
前記電析工程の前に、チタン酸化物を含むチタン原料と、アルミニウムを含む還元剤と、分離剤とが含まれる混合物を加熱し、溶融状態の前記混合物から前記粗チタン系材料を抽出する抽出工程を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の電析物の製造方法。
【請求項8】
前記電析工程として複数段の電析工程を含み、後段の電析工程にて、前段の電析工程で前記陰極上に析出した精製チタン系材料を粗チタン系材料として含む陽極を使用し、
少なくとも一段の電析工程で、一部の陽極の使用終了時期を残部の陽極の使用終了時期とずらす、請求項1~3のいずれか一項に記載の電析物の製造方法。
【請求項9】
前記粗チタン系材料は、Al含有量が3質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電析物の製造方法。
【請求項10】
前記粗チタン系材料は、Ti含有量が85質量%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の電析物の製造方法。
【請求項11】
前記塩化物浴が、塩化マグネシウムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の電析物の製造方法。
【請求項12】
前記複数個の陽極の使用終了時期は、陽極に流れる電流値又はTi溶出量の関係に基づいて決定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の電析物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶融塩電解を用いた電解精製により、Tiを含有する電析物を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属チタンやチタン合金は一般に、大量生産に適したクロール法を用いる方法により製造される。しかしながら、この方法は、チタン鉱石に対し、塩化、還元が必要であり、さらにはスポンジチタン塊の破砕や電解による金属マグネシウムの製造も必要であり、多数の工程を行うので、金属チタンやチタン合金を効率的かつ低コストに製造できるとは言い難い。
【0003】
これに対し、溶融塩電解を用いた電解精製によれば、チタン合金を容易に製造することができる。
【0004】
この種の技術として、特許文献1には、「下記の工程を含むことを特徴とする、チタン鉱からのチタン生産物の抽出方法:チタン鉱と還元剤を含む化学ブレンドであって、前記チタン鉱対前記還元剤の比が、0.9~2.4の前記チタン鉱中の酸化チタン成分:前記還元剤中の還元用金属の質量比に相当する前記化学ブレンドを混合する工程;前記化学ブレンドを加熱して抽出反応を開始する工程であって、前記化学ブレンドを、1℃~50℃/分の上昇速度で加熱する工程;前記化学ブレンドを、5分と30分の間の時間、1500~1800℃の反応温度に維持する工程;前記化学ブレンドを、1670℃よりも低い温度に冷却する工程;および、チタン生産物を、残留スラグから分離する工程」で、「チタン生産物を、陽極、陰極および電解質を有する反応容器に入れる工程;前記反応容器を600℃~900℃の温度に加熱して溶融混合物を生成させ、前記陽極と陰極の間に電気的差動を適用してチタンイオンを前記陰極に付着させる工程;および、前記電気的差動を終了し、前記溶融混合物を冷却して精錬チタン生産物を生成させる工程;を含み、前記精錬チタン生産物の表面積が少なくとも0.1m2/gであること」が記載されている。
【0005】
また特許文献2には、「チタン母合金を生産するためのチタン-アルミナイドを電解精錬する方法であって、a.10質量パーセントよりも多いアルミニウム、及び少なくとも10質量パーセントの酸素、を含むチタン-アルミナイドを反応槽に配置する工程であって、前記反応槽がアノード、カソード、及び電解質を備えて設計され、前記電解質がアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属又はそれらの組み合わせのハロゲン塩を含む、工程;b.前記電解質を、溶融電解質混合物を生産するのに十分な500℃-900℃の温度まで加熱する工程;c.電流を、前記アノードから前記溶融電解質混合物を通って前記カソードに導く工程;及びd.前記チタン-アルミナイドを前記アノードから溶解させて、チタンアルミニウム母合金を前記カソードに堆積させる工程、を含む、方法」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2015-507696号公報
【文献】特表2020-507011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶融塩電解を用いた電解精製は具体的には、電解槽内の溶融塩浴にて、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料を陽極として使用し、陽極と陰極との間に電圧を印加する。これにより、陰極上に、粗チタン系材料に比して純度の高い精製チタン系材料が析出し、その精製チタン系材料としての電析物を得ることができる。
【0008】
そのような電解精製では、陽極は、使用に伴ってTi含有量が低下し、相対的にO含有量が増加することで電気抵抗が高くなること等の理由から、さらに継続して使用することが困難になる。したがって、ある程度多くの精製チタン系材料を得るには、陽極が使用できなくなったときに、その電解槽での操業を停止し、新たに電解槽を構築して操業を再開することが必要であった。
【0009】
しかるに、電解槽の操業の停止及び再開は、使用済みの電解槽の清掃や、その後の電解槽の構築、電解槽内の事前乾燥、溶融塩浴の形成その他の多くの作業を要し、電析物の製造効率の低下を招く。それ故に、一回の電解精製で長期間にわたって、陰極上に精製チタン系材料を析出させることが望まれている。
【0010】
この発明の目的は、比較的長期間にわたって電解析出を行うことができる電析物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者は鋭意検討の結果、Ti、Al及びOを含有する陽極が使用できなくなった後であっても、溶融塩浴は引き続き電解析出に使用できる状態にあることを見出した。この知見の下、発明者は、複数個の陽極を使用し、それらのうちの一部の使用終了時期を残部の使用終了時期とずらすことにより、陰極上への精製チタン系材料の電解析出を長期化できると考えた。
【0012】
この発明の電析物の製造方法は、溶融塩電解を用いた電解精製により、Tiを含有する電析物を製造する方法であって、溶融塩浴としての塩化物浴にて、Ti、Al及びOを含有して導電性を有する粗チタン系材料を含む陽極と、陰極とを有する電極を使用し、前記陰極上に精製チタン系材料を析出させて電析物を得る電析工程を含み、前記電析工程で前記電極が複数個の陽極を有し、複数個の陽極のうち、一部の陽極の使用終了時期を残部の陽極の使用終了時期とずらして、前記陰極上への精製チタン系材料の析出を行うというものである。
【0013】
前記電析工程では、前記電極が複数個の陰極を有することがある。
この場合、前記電析工程では、前記電極の前記陽極の個数が前記陰極の個数よりも多いことが好ましい。
【0014】
また、前記電析工程では、前記陰極の周囲に複数個の陽極が配置された電極を使用することができる。
【0015】
好ましくは、前記電析工程の途中で、使用終了時期に至った一部の陽極及び/又は残部の陽極を、新たな陽極と交換する陽極交換工程を含む。
【0016】
前記電析工程では、前記陰極上への精製チタン系材料の析出を継続しながら、前記陽極交換工程を行うことが好適である。
【0017】
前記電析工程の前には、チタン酸化物を含むチタン原料と、アルミニウムを含む還元剤と、分離剤とが含まれる混合物を加熱し、溶融状態の前記混合物から前記粗チタン系材料を抽出する抽出工程を含むことがある。
【0018】
この発明の電析物の製造方法は、前記電析工程として複数段の電析工程を含み、後段の電析工程にて、前段の電析工程で前記陰極上に析出した精製チタン系材料を粗チタン系材料として含む陽極を使用し、少なくとも一段の電析工程で、一部の陽極の使用終了時期を残部の陽極の使用終了時期とずらすことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明の電析物の製造方法によれば、比較的長期間にわたって電解析出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の一の実施形態に係る電析物の製造方法に使用可能な電解槽の一例を示す、溶融塩浴の深さ方向の断面図である。
【
図2】
図1のII―II線に沿う、溶融塩浴の深さ方向に直交する方向の断面図である。
【
図3】電解槽内での電極の他の配置例を示す、深さ方向に直交する方向の断面図である。
【
図4】電解槽内での電極の他の配置例を示す、深さ方向に直交する方向の断面図である。
【
図5】電解槽内での電極の他の配置例を示す、深さ方向に直交する方向の断面図である。
【
図6】比較例2の電解槽内での電極の配置を示す、深さ方向に直交する方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態に係る電析物の製造方法には、溶融塩浴中に浸漬させて配置した陽極及び陰極を含む電極間に電圧を印加し、陰極上での電解析出を行う電析工程が含まれる。溶融塩浴は塩化物浴とする。陽極には、Ti、Al及びO(酸素)を含有する粗チタン系材料が含まれる。この粗チタン系材料は導電性を有し、溶融塩電解を用いた電解精製に供することが可能である。電析工程では、陰極上に、上記の粗チタン系材料に比して相対的に純度が高い精製チタン系材料が析出する。精製チタン系材料は、粗チタン系材料と比較して、Ti以外のAlやO等の何らかの少なくとも一種の成分の含有量が少ないものである。なお、電析工程の前に、省略可能な任意の工程として、上記の粗チタン系材料を得るための抽出工程をさらに含むことがある。また、電析工程の後に、精製チタン系材料の水洗及び乾燥、精製チタン系材料の真空加熱処理等のような溶融塩浴の除去工程をさらに含むことがある。
【0022】
この実施形態では、電析工程にて、複数個の陽極を有する電極を使用する。そして、それらの複数個の陽極のうち、一部の陽極の使用終了時期が残部の陽極の使用終了時期と一致せずにずれるように、陰極上への精製チタン系材料の析出を行う。これにより、たとえば、一部又は残部のいずれか一方の陽極の使用が終了したとき、一部又は残部の他方の陽極は未だに使用することができる。その結果、陽極が一個だけである場合や、一部の陽極と残部の陽極の使用終了時期が同時期になる場合に比して、長期間にわたって電解析出を行うことができる。特に好ましくは、電析工程の途中に、使用終了時期に至った一部の陽極を、新たな陽極と交換する陽極交換工程を行う。
【0023】
なお、粗チタン系材料は、少なくともTi、Al及びOを含有するものである。また、精製チタン系材料は、少なくともTiを含有し、さらにAl及び/又はOを含有することもある。精製チタン系材料は、Ti及び不純物からなる金属チタンである場合や、合金元素を含むとともに残部がTi及び不純物からなるチタン合金である場合がある。
【0024】
(抽出工程)
抽出工程では、酸化チタン(TiO2)等のチタン酸化物を含むチタン原料と、アルミニウム(Al)を含む還元剤と、分離剤とが含まれる混合物を加熱する。それにより、たとえば、3TiO2+4Al→3Ti+2Al2O3のテルミット反応に基づいて、還元剤中のアルミニウムでチタン酸化物が還元されると推測される。加熱温度は1500℃~1800℃とする場合がある。混合物は加熱により溶融状態になった後、分離剤の作用により密度差で粗チタン系材料とスラグとが分離するので、粗チタン系材料を抽出することができる。
【0025】
チタン原料は、チタン酸化物を含むものであればよく、たとえば、必要に応じてリーチング等のアップグレート処理その他の処理が施されたチタン鉱石を挙げることができる。チタン原料として用いるチタン鉱石中のTiO2の含有量は、たとえば50質量%以上、典型的には80質量%以上、特に90質量%以上とすることがある。分離剤は、加熱後においてスラグから粗チタン系材料を分離しやすくするために使用される。分離剤として具体的には、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、酸化カルシウム及びフッ化ナトリウムから選択される一種以上とすることが好ましく、なかでもフッ化カルシウム(CaF2)は、混合物からの粗チタン系材料の優れた分離性をもたらすとともに、当該分離以外に及ぼす影響が少ないことから特に好適である。還元剤は、実質的にアルミニウム(Al)を単独で含むものとすることができる他、さらにCaやNa等を含むものであってもよい。たとえば、混合物は、TiO2:Al:CaF2がモル比で3:4~7:2~6になるように調整して作製する場合がある。
【0026】
抽出工程で得られる粗チタン系材料は、Ti、Al及びO(酸素)が含まれ、たとえば、Ti含有量が50質量%~80質量%、Al含有量が5質量%~30質量%、O含有量が8質量%~30質量%となる場合がある。また、前記粗チタン系材料は、Ti含有量が50質量%以上かつ85質量%以下、Al含有量が3質量%以上かつ40質量%以下、O含有量が0.2質量%以上かつ40質量%以下となる場合がある。典型的には、粗チタン系材料のTi含有量は60質量%以上、Al含有量は20質量%以下、O含有量は20質量%以下となることがある。
【0027】
このような粗チタン系材料は導電性を有するものであり、後述する電析工程で陽極に含ませて溶融塩電解に使用することができる。粗チタン系材料の比抵抗は、たとえば1×10-8Ω・m~1×10-4Ω・m、典型的には1×10-7Ω・m~5×10-5Ω・mである。
【0028】
(電析工程)
電析工程では、種々の電解槽を使用可能であるが、ここでは一例として
図1に示す電解槽1を用いて説明する。図示の電解槽1は、内部にて溶融塩を貯留させて溶融塩浴Bmを形成する容器状等の槽本体部2と、少なくとも一部が溶融塩浴Bmに浸漬させて配置される陽極3a及び陰極3bを有する電極3と、電極3が接続される図示しない電源とを含んで構成されている。槽本体部2は、図示は省略するが、開閉可能な蓋部材を有することがあり、また、内部にアルゴンガス等の不活性ガスの供給や気体の排出に用いるガス通路が接続され得る。この電解槽1は、槽本体部2の周囲に配置される図示しないヒーターにより内部を加熱することができる。
【0029】
ここで、溶融塩浴Bmは、主として金属塩化物を含む塩化物浴とし、たとえば、アルカリ金属塩化物及び/又はアルカリ土類金属塩化物を、たとえば70mol%以上、さらに80mol%以上、さらに90mol%以上含有することがある。このような塩化物浴は、フッ化物浴や臭化物浴、ヨウ化物浴に比して、低腐食性、低環境負荷及び低コストであることから好ましい。なかでも、塩化マグネシウム(MgCl2)を含む塩化物浴を用いたときは、O含有量のみならずAl含有量をも十分に低減された精製チタン系材料を得ることができる。塩化物浴中のMgCl2含有量は、30mоl%以上、さらに50mol%以上、さらに80mol%以上、さらに85mol%以上、特に90mol%以上であることが好ましい。塩化物浴には、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化ルビジウム(RbCl)、塩化セシウム(CsCl)、塩化ベリリウム(BeCl2)、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化ストロンチウム(SrCl2)及び、塩化バリウム(BaCl2)から選択される1種以上の金属塩化物を、たとえば70mol%以下、さらに50mol%以下、さらに20mol%以下、さらに10mol%以下、さらに5mol%以下で含むものとしてもよい。
【0030】
また、溶融塩浴Bm中には、必要に応じて、四塩化チタンよりもTiの価数が低い低級塩化チタン、具体的にはTiCl2(二塩化チタン)やTiCl3(三塩化チタン)等を含ませることもできる。溶融塩浴Bm中のチタンイオンの含有量は、好ましくは3mol%以上、より好ましくは5mol%以上、さらに好ましくは6mol%以上、特に好ましくは10mol%以上であり、20mоl%以下とすることがある。溶融塩浴Bm中の金属塩化物や金属イオンの含有量は、ICP発光分析や原子吸光分析により測定することができる。チタンイオンの含有量は、溶融塩浴Bm中の金属イオンの合計含有量に対する百分率として求められる。
【0031】
またここで、陽極3aとしては、たとえば上述した抽出工程で得られる粗チタン系材料が含まれるものを用いる。一例として、陽極3aは、Tiよりもイオン化傾向が小さいNi、Ni基合金、ハステロイ等の金属製の籠状容器を有し、この場合、その籠状容器内に粒状もしくは粉状等の粗チタン系材料を配置することができる。但し、陽極3aの形態はこれに限らず、たとえば、粗チタン系材料から溶解及び鋳造等により作製した棒状ないし柱状又は板状その他の任意の形状のものとしてもよい。陰極3bはTi製のものを使用可能であり、その形状は特に問わず、たとえば陽極3aの形状に合わせて適宜決定され得る。なお電極3は、陽極3a及び陰極3bの他、陽極3aと陰極3bとの間に配置される複極をさらに有するものであってもよい。
【0032】
電析工程では、電源から電極3の陽極3a及び陰極3bに通電し、電極3間に電圧を印加する。これにより、陽極3aに含まれる粗チタン系材料からチタンイオンが溶融塩浴Bm中に溶出し、チタンイオンが陰極3b上に精製チタン系材料として析出する。陰極3b上に析出した精製チタン系材料は、電析物に相当する。
【0033】
電析工程で上述したような電解析出を行っていると、陽極3a中の粗チタン系材料中のTi含有量が次第に減少すること等に起因して、陽極3aの電気抵抗が高くなる。その結果、陰極3b上での単位時間当たりの精製チタン系材料の析出量が少なくなることや、陰極3b上に精製チタン系材料が望ましい形態で析出しなくなること等により、陽極3aを継続して使用することが困難になる。このような陽極3aの使用終了時期は、陽極3aに流れる電流値や、理論Ti溶出量の関係等に基づいて決定することができる。上記の理論Ti溶出量は、電極3に流した電気量から陽極3aでのTi溶出量を算出し、そのTi溶出量及び、通電開始前の陽極3a中の粗チタン系材料のTi含有量から、式:理論Ti溶出量=(電気量から算出されるTi溶出量/粗チタン系材料のTi含有量)×100より求めることができる。Ti溶出量は、電気量から、式:Ti溶出量=電気量÷溶融塩浴中のTiイオンの価数÷ファラデー定数×Tiの原子量により算出される。塩化物浴である溶融塩浴中のTiイオンの価数は2価とする。例えば、理論Ti溶出量が50%以上になったときに、当該陽極3aが使用終了時期に至ったとみなすことは、生産速度の維持および陰極の精製チタン系材料の品質維持の点で好ましい。なお、陽極3aの使用終了時期は上記方法に限らず、電極3の構成等に基づき適宜決定すればよい。
【0034】
これまでは、陽極3aが使用終了時期に至ったとき、電解槽1の操業を停止し、電解槽1を清掃し、その後、再度電解槽1を構築するとともに溶融塩浴Bmを形成し、操業を再開していた。特に溶融塩浴BmがMgCl2を含む場合、MgCl2が吸湿性を有することから、電解槽1の操業の再開に当っては、電解槽1の内部を、溶融塩浴Bmを形成する前に水分が十分に無くなるまである程度長時間にわたって加熱することが必要になる。このように陽極3aが使用できなくなる度に、電解槽1の操業停止と再開を行うことは、作業負担を増大させる他、製造効率の低下を招く。
【0035】
これに対し、この実施形態では、
図1に例示するように、陽極3aを複数個とし、それらの複数個の陽極3aのうち、一部の陽極3a(たとえば一方の一個の陽極3a)の使用終了時期が、残部の陽極3a(たとえば他方の一個の陽極3a)の使用終了時期がずれるように、陰極3b上への精製チタン系材料の析出を行う。
【0036】
それにより、たとえば一部の陽極3aが使用終了時期に至ったとしても、残部の陽極3aは使用終了時期に至っておらず未だに使用できる状態にあることから、その後に当該残部の陽極3aの使用を継続することで、電析工程を長期間にわたって行うことができる。
【0037】
一部の陽極3aの使用終了時期を残部の陽極3aの使用終了時期とずらすには、一部の陽極3aと残部の陽極3aとで、使用開始時期(通電開始時期)をずらすこと、該陽極3aに含ませる粗チタン系材料の含有量や組成を異なるものとすること等が可能である。特に、一部の陽極3aと残部の陽極3aとで使用開始時期をずらすと、使用終了時期のずれを制御しやすくなる。たとえば、一部の陽極3aの使用開始時期から使用終了時期までの使用期間の30%~70%が経過したときに、残部の陽極3aの通電及び使用を開始することができる。
【0038】
複数個の円柱状等の陽極3aは、例えば
図2に示すように、円柱状等の陰極3bの周囲に配置することが好ましい。それにより、いずれの陽極3aから溶出したチタンイオンも、溶融塩浴の深さ方向に直交する断面でそれらの陽極3aの内側にある陰極3b上に精製チタン系材料として析出しやすくなる。
図2に示すところでは、当該断面視で二個の陽極3aを結ぶ線分のほぼ中央に、一個の陰極3bが配置されている。
図3では、四個の陽極3aが、当該断面視で陰極3bを中心とする円周上に、等間隔で互いに離れて配置されている。このように各陽極3aと陰極3bとの距離が実質的に等しくなるように、それらの陽極3a及び陰極3bを配置することが好適である。
【0039】
三個以上の陽極3aを用いる場合は、それらの陽極3aのうちの一個以上かつ総個数未満の陽極3aを一部の陽極3aとし、残りの一個以上かつ総個数未満の陽極3aを残部の陽極3aとして、当該一部の陽極3aと残部の陽極3aとで使用終了時期がずれるようにすることができる。
図3に示す例では、四個の陽極3aを使用しているので、そのうち、一個~三個を一部の陽極3aとし、残りを残部の陽極3aとする。なお、残部の陽極は複数個存在する場合、全て同様に扱う必要はなく、それらの残部の陽極をさらにグループ分けして使用終了時期を管理してもよい。
【0040】
電極3は、複数個の陽極3aと、複数個の陰極3bとを含むものとしてもよい。
図4に示すところでは、複数個の各陰極3bの周囲に、複数個の陽極3aが配置されている。より詳細には、
図4では、三個の陰極3bのそれぞれの周囲に四個の陽極3aが等間隔で互いに離れて位置し、隣り合う陰極3bどうしで、二個の陽極3aを共用するものとしている。
図4の例は、当該断面にて、一方向(
図3では上下方向)に二行でその直交方向(
図4では左右方向)に四列の陽極3aの間に、一行三列の陰極3bが、それぞれ陽極3aの当該一方向及び直交方向の中央に位置するように配置されているともいえる。
【0041】
電極3が複数個の陰極3bを有する場合、陽極3aの個数は、陰極3bの個数よりも多いことが好ましい。それにより、同じ精製チタン系材料の生成量に対して、陽極交換工程の頻度を少なくすることが可能となる。但し、陽極3aと陰極3bとを同じ個数としてもよい。
【0042】
陽極3a及び陰極3bの形状は、上述したような円柱状等の柱状のものに限らない。
図5では、いずれも板状である複数個の陽極3a及び複数個の陰極3bを、交互に並べて配置している。各陰極3bの周囲の両側には陽極3aが位置する。この場合でも、複数個の陽極3aのうちの一部の陽極3aと残部の陽極3aの使用終了時期がずれていれば、一部又は残部の陽極3aの使用終了時期になったときに、引き続き使用可能な陽極3aと陰極3bとの間での電気分解により、当該陰極3b上への精製チタン系材料の析出を継続させることができる。
図5に示す配置で、陽極3aと陰極3bとを同じ個数とすることも可能である。
【0043】
なお、電析工程の条件として、たとえば、溶融塩浴Bmの温度は450℃~900℃、陰極3bでの電流密度は0.01A/cm2~5A/cm2とすることがある。電流密度は、式:電流密度(A/cm2)=電流(A)÷電解面積(cm2)により算出することができる。電極3には、電流を連続的に流すことができる他、電流値をゼロにする通電停止期間が設けられて通電期間と通電停止期間とが交互に繰り返されるパルス電流を流してもよい。電極3間の最大電圧は、たとえば0.2~3.5Vになることがある。電析工程の間、電解槽1の内部は、アルゴン等の不活性雰囲気に維持することが好適である。
【0044】
電解析出により陰極3b上に析出した精製チタン系材料は、切削工具等を用いて陰極3b上から物理的に引き剥がすこと等により回収することができる。精製チタン系材料は、それが電着している陰極3bとともに、又は陰極3bから引き剥がした後に、溶融塩を除去するための酸洗浄及び/又は水洗浄が行われ得る。その後、必要に応じて真空乾燥を行うことがある。また、上記の洗浄や乾燥でなく、高温減圧条件により溶融塩を除去する真空分離を行ってもよい。電析工程の回数を増やすほど、精製チタン系材料中のチタン純度が高くなるので、所望するチタン純度に鑑みて電析工程の回数を適宜決定すればよい。これにより、金属チタン又はチタン合金等の電析物を製造することができる。
【0045】
(陽極交換工程)
電析工程の途中で使用終了時期に至った一部の陽極3aは、陽極交換工程にて新たな陽極3aと交換することが好ましい。陽極交換工程を行うと、残部の陽極3aが使用終了時期に至ったときに、当該新たな陽極3aで電解析出をさらに継続することが可能になる。
【0046】
また、一部の陽極3aが使用終了時期に至ったとき、残部の陽極3aは使用可能であるから、陽極交換工程を行っている間も、電解析出を一時的に停止することを要しない。つまり、電析工程で、残部の陽極3aを用いて陰極3b上への精製チタン系材料の析出を継続しながら、陽極交換工程を行うことが可能である。
【0047】
さらに、一部の陽極3aと残部の陽極3aをそれぞれの使用終了時期に、陽極交換工程で新たな陽極と順次に交換すれば、電解析出をより一層長期化することができる。この場合、一部の陽極3aと残部の陽極3aの使用終了時期がずれているので、一部の陽極3aと残部の陽極3aの陽極交換工程も異なる時期に行われる。
【0048】
たとえば
図3に示す配置では、四個の陽極3aのうち、溶融塩浴の深さ方向に直交する断面で、陰極3bを隔てて一方向(
図3の上下方向)の両側に位置する二個の陽極3aの使用終了時期を互いに同時期とし、その時期とはずらして、陰極3bを隔てて一方向に直交する方向(
図3の左右方向)の両側に位置する二個の陽極3aの使用終了時期を互いに同時期とすることができる。この場合、一方向の両側に位置する二個の陽極3a又は直交方向の両側に位置する二個の陽極3aのいずれか一方が使用終了時期に至ったとき、その一方の二個の陽極3aを交換し、また、他方が使用終了時期に至ったとき、その他方の二個の陽極3aを交換することができる。
【0049】
陽極3aを交換するには具体的には、たとえば、使用終了となった陽極3a(残渣)を電源から電気的に切断し、その使用済みの陽極3aを電解槽1内から取り出す。次いで、新たな陽極3aを、電解槽1内で溶融塩浴Bm中に浸漬させて配置し、電源に接続する。その後、新たな陽極3aへの通電を開始すると、当該新たな陽極3aを用いて電解析出を行うことができる。
【0050】
陽極交換工程を行う場合、各陽極3aに流れる電流値を、たとえば定期的に確認し、その電流値に基づいて、各陽極3aの使用終了時期及び交換の要否を判定することも可能である。陽極3aに流れる電流値が基準値を下回った場合、その陽極3aを交換すべきと判断することがある。
【0051】
なお、陽極交換工程を行わない場合、使用終了時期に至った一部の陽極3aは、電源から電気的に切断して放置しておくか、又は電解槽1内から取り出してもよい。
【0052】
(複数段の電析工程)
更なる精製のため、上述した電析工程を複数段行うことも可能である。複数段の電析工程を行う場合は、前段の電析工程で陰極3b上に析出した精製チタン系材料を、後段の電析工程で粗チタン系材料として使用する。すなわち、後段の電析工程では、前段の電析工程で陰極3b上に析出した精製チタン系材料を粗チタン系材料とし、当該粗チタン系材料を含む陽極3aを使用する。これにより、後段の電析工程では、その粗チタン系材料から不純物がさらに除去された精製チタン系材料が、陰極3b上に析出する。複数段の電析工程を行うと、不純物がほぼ含まれない金属チタンとしての電析物を製造することも可能である。
【0053】
複数段の電析工程は、同じ電解槽1及び溶融塩浴Bmを使用して連続的に行うことも可能である。この場合、前段の電析工程の陽極3aと陰極3bの極性を逆転させ、精製チタン系材料が析出した陰極3bを、後段の電析工程で陽極3aとして引き続き使用することができる。この場合、前段の電析工程で陽極3aを配置していた場所には新たに陰極3bを配置する。
【0054】
複数段の電析工程を行う場合、そのうちの少なくとも一段の電析工程で、先に述べたように、一部の陽極3aの使用終了時期を残部の陽極3aの使用終了時期とずらすことが好ましい。また、その電析工程の途中に先述の陽極交換工程を行うこととしてもよい。それにより、当該電析工程の長期化を実現することができる。
【0055】
(電析物)
一段又は複数段の電析工程により得られる精製チタン系材料としての電析物は、Ti以外の不純物の合計の含有量が、好ましくは5000質量ppm以下、より好ましくは3000質量ppm以下である。
【0056】
電析物は金属チタンである場合、一段の電析工程で得られるものは、一例として、Al含有量が800質量ppm~0.4質量%、O含有量が1000質量ppm~2.0質量%である場合がある。複数段の電析工程で得られるものは、Al含有量が5質量ppm~1000質量ppm、O含有量が100質量ppm~500質量ppmであり、残部がTi及び不可避的不純物からなる場合がある。電析工程において陽極の交換を実施する、同じ陽極を使用して長時間電析する、等によりAl含有量やO含有量が多くなってしまう場合もあるので、これらの含有量の目標値は操業条件に鑑みて適宜決定すればよい。
【0057】
電析物中の不可避的不純物は、鉱石由来のものや、塩化物浴由来のものである場合がある。具体的には、電析物は不可避的不純物として、N(窒素)含有量が0.03質量%以下であり、C(炭素)含有量が0.01質量%以下であり、Fe含有量が0.010質量%以下であり、Mg含有量が0.05質量%以下であり、Ni含有量が0.01質量%以下であり、Cr含有量が0.03質量%以下であり、Si含有量が0.005質量%以下であり、Mn含有量が0.05質量%以下であり、Sn含有量が0.01質量%以下である場合がある。
【0058】
精製チタン系材料として得られた電析物は外観が、目視でほぼ粒状であり、顕微鏡で観察すると多面体の微粒子が連なった立体的な形状をなすことがある。電析物に対し、63μmの目開きの篩で篩別を行ったとき、篩上の割合が質量基準で、たとえば25%以上、さらに50%以上、特に70%以上になることがある。篩別は、酸素濃度が5体積%以下であるアルゴン雰囲気のグローブボックス内で、電析物を破砕や粉砕しない程度に解砕してから行う。
【実施例】
【0059】
次に、この発明の電析物の製造方法を試験的に実施したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0060】
TiO2を含むチタン原料と、還元剤のAlと、分離剤のCaF2とが含まれる混合物をアルゴン雰囲気下で1500℃~1800℃に加熱し、溶融状態の混合物から、Ti、Al及びOを含有する粗チタン系材料を抽出した。チタン鉱石としては、TiO2含有量が95質量%であるものを用いた。混合物は、mol比がTiO2:Al:CaF2=3:4~7:2~6になるように調整した。
【0061】
上記の粗チタン系材料から採取したサンプルの成分について、金属成分はICP発光分析法(PS3520UVDDII、HITACHI社製)、酸素は不活性ガス融解-赤外線吸収法(TC-436AR、LECO社製)、窒素は不活性ガス融解-熱伝導度法(TC-436AR、LECO社製)、炭素は燃焼-赤外線吸収法(EMIA-920V2、堀場製作所社製)により分析し、粗チタン系材料の不純物含有量を測定した。該不純物以外の残部がチタンである。また、粗チタン系材料から10mm角のブロック形状として採取したサンプルについて、2端子測定法(低抵抗計3566-RY、鶴賀電機株式会社製)により比抵抗を測定した。それらの結果を表1及び2に示す。
【0062】
【0063】
【0064】
上記の粗チタン系材料に対し、溶融塩電解を用いた電解精製を行った。電解槽としては、内部の寸法が縦400mm、横800mmであるものを用いた。電解槽の内部にて溶融塩浴は、MgCl2のみを溶解させて作製し、深さを400mmとした。電解析出の間、塩化物浴の温度は約750℃に維持し、陰極での電流密度は0.4A/cm2とし、隣接した陽極と陰極との間の最大電圧は1.8Vとした。
【0065】
実施例1、2及び4並びに比較例1では、
図1及び2に示す配置の陽極及び陰極を使用した。実施例3では、板状の陽極及び陰極を
図5に示すように配置した。比較例2では、
図6に示すように、円筒状の陽極を円柱状の陰極の周囲を取り囲んで配置した。
【0066】
いずれの実施例1~4並びに比較例1及び2でも、陽極は多数の貫通孔を備え内部に溶融塩が浸入可能であるNi製の籠状容器を有し、その籠状容器内に粗チタン系材料を配置した。実施例1、2及び4並びに比較例1では、陽極及び陰極はそれぞれ、直径が100mmで高さが200mmの円柱状とした。実施例1、2及び4並びに比較例1の陽極における籠状容器内の粗チタン系材料の重量は、籠状容器1個当たり約3.5kgとした。実施例3では、陽極は縦が200mm、横が200mm、厚みが40mmの平板状、陰極は縦が200mm、横が200mm、厚みが20mmの平板状とした。実施例3の陽極における籠状容器内の粗チタン系材料の重量は、籠状容器1個当たり約3.6kgとした。比較例2では、陰極は実施例1、2及び4並びに比較例1と同様であり、陽極は、外径が240mm、内径が200mm、高さが200mの円筒状とした。比較例2の陽極における籠状容器内の粗チタン系材料の重量は、約6.2kgとした。
【0067】
いずれの実施例1~4並びに比較例1及び2でも、陰極上への精製チタン系材料の電解析出を行っている間、陽極に流れる電気量を確認し、陽極の理論Ti溶出量が50%になったときに当該陽極は使用終了時期にあると判断した。
【0068】
実施例1及び3では、複数個の陽極の使用開始時期及び使用終了時期が表3に示すようにずれるようにし、全ての陽極が使用終了になったときに電解析出を終了させた。実施例3では、
図5の陽極のうち左から1番目および3番目と
図5の陽極のうち左から2番目および4番目との使用開始時期及び使用終了時期をずらした。実施例2では、使用終了時期に至った陽極の交換を一回行って電解析出を継続させ、交換後の新たな陽極が使用終了になったときに電解析出を終了した。実施例4では、使用終了時期に至った陽極の交換を二回行って電解析出を継続させ、交換後の新たな陽極が使用終了になったときに電解析出を終了した。実施例2では合計三個の陽極を使用し、実施例4では合計四個の陽極を使用した。
【0069】
比較例1では、複数個の陽極の使用を同時期に開始したところ、それらの陽極は同時期に使用できなくなり、電解析出を終了させた。比較例2では、陽極の使用が終了したときに、電解析出を終了させた。
【0070】
実施例1~4並びに比較例1及び2のそれぞれの総電析時間及び陰極一個当たりの電析物量を、表3に示す。なお、実施例1~4並びに比較例1及び2のそれぞれで得られた電析物のTi、Al及びO含有量を、表4に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
表3より、同等の電極配置とした実施例1、2、4および比較例1では、陽極の使用終了時期をずらしながら電解精製を実施できた。また、陽極の交換を実施すると、総電析時間が長く、陰極一個当たりの電析物量が多いことがわかる。この結果、電解槽の操業の停止及び再開に伴う作業負荷の軽減も達成された。
【0074】
また、陽極の使用開始時期及び使用終了時期のずれをゼロ時間としたこと(陽極の使用開始時期及び使用終了時期を同時としたこと)を除いて、実施例3と同様にして電解精製を行った。その結果、総電析時間は実施例3よりも10分短くなった。したがって、実施例3のように電極の形状が変わった場合であっても同様の効果が得られた。
【0075】
また表4に示すように、実施例1~4で陰極上に析出した精製チタン系材料としての電析物は、不純物が良好に低減されていた。
【0076】
以上より、この発明によれば、比較的長期間にわたる電解析出が可能になることがわかった。
【符号の説明】
【0077】
1 電解槽
2 槽本体部
3 電極
3a 陽極
3b 陰極
Bm 溶融塩浴