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  • 特許-シロキサン組成物及びその使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】シロキサン組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20250407BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20250407BHJP
   C09J 183/07 20060101ALI20250407BHJP
   C09J 183/05 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C09J183/07
C09J183/05
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023547815
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-15
(86)【国際出願番号】 CN2021076173
(87)【国際公開番号】W WO2022170456
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390008969
【氏名又は名称】ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ジュンナン
(72)【発明者】
【氏名】ニエ,ジアン
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076407(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009175(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/121930(WO,A1)
【文献】特開2017-039885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09J 1/00- 5/19
9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シロキサン組成物であって、
(a) 1分子当たりケイ素原子に結合した2つのアルケニル基を鎖の両端に含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、
(b) 1分子当たりケイ素原子に結合した少なくとも3つのアルケニル基を含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、
(c) 1分子当たりケイ素原子に結合した2個の水素原子を鎖の両端に含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、及び
(d) 少なくとも1種のヒドロシリル化触媒
を含み、ただし、成分(c)は、組成物の総重量に基づいて30重量%以上の量で使用され、該組成物は、組成物の総重量に基づいて、0.01重量%以下の成分(e)1分子当たりケイ素原子に結合した少なくとも3個の水素原子を含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサンを含み、又は成分(e)を含まず
成分(c)が25℃で30mPa・s以上1,000mPa・s未満の動的粘度を有
成分(c)が、
(c1) 25℃における動的粘度が30mPa・s以上200mPa・s以下である、1分子当たりケイ素原子に結合した2個の水素原子を鎖の両端に含むオルガノポリシロキサン、及び
(c2) 25℃における動的粘度が200mPa・sより大きく5000mPa・s以下である、1分子当たりケイ素原子に結合した2個の水素原子を鎖の両端に含むオルガノポリシロキサン、を含む、
シロキサン組成物。
【請求項2】
成分(c)が、組成物の総重量に基づいて40重量%以上の量で使用される、請求項1に記載のシロキサン組成物。
【請求項3】
成分(c1)によって提供されるSi-H基のモル数と成分(c2)によって提供されるSi-H基のモル数との比が2:(1~10)である、請求項1又は2に記載のシロキサン組成物。
【請求項4】
成分(c)が、成分(a)及び成分(b)の全ケイ素結合アルケニル基1モル当たり0.6~1.0モルのSi-H基を提供する、請求項1~のいずれか一項に記載のシロキサン組成物。
【請求項5】
成分(b)が、以下からなる群から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載のシロキサン組成物。
(b1) 本質的にR SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなるオルガノポリシロキサン、
(b2) 本質的にR SiO1/2単位及びRSiO2/2単位からなるオルガノポリシロキサン、
(b3) 本質的にR SiO1/2単位、RSiO2/2単位及びR SiO2/2単位からなるオルガノポリシロキサン、及び
(b4) 本質的にR SiO1/2、R SiO2/2単位及びRSiO3/2単位からなるオルガノポリシロキサン
[式中、Rは各出現において独立して、2~6個の炭素原子を有するアルケニル基であり、Rは各出現において独立して、1~20個の炭素原子を有する脂肪族不飽和を含まない一価炭化水素基である。]
【請求項6】
成分(a)が、以下を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のシロキサン組成物。
(a1) 25℃における動的粘度が100mPa・s以上5000mPa・s未満である、1分子当たりケイ素原子に結合した2つのアルケニル基を鎖の両端に含むオルガノポリシロキサン、
(a2) 25℃における動的粘度が5,000mPa・s以上50,000mPa・s以下である、1分子当たりケイ素原子に結合した2つのアルケニル基を鎖の両端に含むオルガノポリシロキサン。
【請求項7】
以下を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のシロキサン組成物。
(a) 20~55重量%の、1分子当たりケイ素原子に結合した2つのアルケニル基を鎖の両端に含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、
(b) 1~10重量%の、1分子当たりケイ素原子に結合した少なくとも3つのアルケニル基を含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、
(c) 30~70重量%の、1分子当たりケイ素原子に結合した2個の水素原子を鎖の両端に含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、及び
(d) 少なくとも1種のヒドロシリル化触媒。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のシロキサン組成物から硬化されたシリコーンゲル。
【請求項9】
ASTM D1403に準拠して1/4コーンで測定された20~50の浸透値を特徴とする、請求項に記載のシリコーンゲル。
【請求項10】
ポッティング材料としての、請求項1~のいずれか一項に記載のシロキサン組成物の使用。
【請求項11】
前記シロキサン組成物が、ディスプレイ用のポッティング材料として使用される、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
光学接着材料としての、請求項1~のいずれか一項に記載のシロキサン組成物の使用。
【請求項13】
前記シロキサン組成物が、ディスプレイ用の光学接着材料として使用される、請求項12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シロキサン組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコーンゲル組成物は、典型的には以下、すなわち、i)少なくとも2つのケイ素が結合した、ビニル基などのアルケニル基を有する、ベースポリマーとしてのオルガノポリシロキサン、ii)少なくとも3個のケイ素結合水素原子(すなわち、Si-H基)を有する、架橋剤としてのオルガノハイドロジェンポリシロキサン、iii)アルケニル基へのSi-H基の付加反応を介して硬化生成物を生成する白金系触媒を含む付加反応硬化性オルガノポリシロキサン組成物である。
【0003】
従来のシリコーンゲル組成物の硬化生成物は、通常、高い浸透値(すなわち、非常に軟らかい)を有し、これは、これらのシリコーンゲルが陰圧環境下、例えば、高い高度に置かれた場合、低いゲル強度によって引き起こされる望ましくない気泡又は剥離が必然的に生じることを意味する。硬化ゲルの硬度を上げることは、問題を軽減するために使用される。しかし、硬化ゲルのより高い硬度は、通常、破断伸びの減少及び粘着性の減少をもたらし、これは、ディスプレイ用ポッティング又は光学接着(オプティカルボンディング)への応用に影響を及ぼす。
【0004】
ビニルMQシリコーン樹脂を架橋剤として使用するシリコーンゲル組成物も報告されている。EP1737504Bは、粘度400mPa・sのビニル末端ポリジメチルシロキサン100重量部と、ビニルMQシリコーン樹脂44重量部と、粘度15mPa・sの水素末端ポリジメチルシロキサン18重量部と、白金系触媒0.01%とを含有するシリコーンゲル組成物を開示している。しかし、このようなシリコーンゲルは、依然として、135という、より高い浸透値を有し、これは、気泡又は剥離が発生するため、陰圧環境下での使用に適していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】欧州特許第1737504号明細書
【発明の概要】
【0006】
既存の問題に鑑み、本開示は、適切な低い浸透性を有し、以下の性能の少なくとも1つ以上を示すシロキサン組成物及びそれから硬化されたシリコーンゲルを提供する。
1) 同じ浸透値を有する既存のゲルと比較して、より高い破断伸び及びより優れた変形抵抗性及び張力引張抵抗性、
2) より優れたゲル粘着性、
3) ゲルを95℃の温度に200時間さらしても、耐熱性に優れ、気泡又は剥離は生じない、
4) ゲルを-1気圧の陰圧に3日間さらしても、耐陰圧に優れ、気泡又は剥離は生じない。
【0007】
気泡又は剥離が発生する理由は2つある。1つは、ゲル中のいくつかの目に見えない気泡が高温又は陰圧で急速に膨張する、このため、ゲルの強度が充分に高くない場合に、それが目に見える膨張した気泡をもたらすか、又は剥離若しくは亀裂を引き起こすことである。もう1つは、ゲル支持用基材が高温又は陰圧で反り、ゲル強度が低いとゲルが引き離されて剥離又は亀裂を生じることである。
【0008】
本明細書において「シリコーンゲル」とは、架橋密度が低く、オルガノポリシロキサンを主成分とし、ASTM D1403(1/4コーン)に準拠した浸透値が20~200の硬化生成物を指す。これは、GB/T531-1999に準拠して実施されたゴム硬度測定において、測定値(ゴム硬度値)がゼロであり、有効なゴム硬度値を示さないほど充分に低い硬度を有する製品に相当する。
【0009】
本明細書において「浸透」という用語は、標準コーンがゲル試料中に特定の荷重下で特定の時間、自由(feely)落下する深さを指す。浸透が大きいほど、ゲルは柔らかく、その機械的強度は低い。シリコーンゲルの機械的強度は架橋密度の増加に伴って増加し、浸透は、減少し機械的強度は減少し、浸透は架橋密度の減少と共に増加するので、シリコーンゲルの浸透値もその架橋密度を特徴付けるために使用することができる。浸透値が高いほど架橋密度は低い。
【0010】
本明細書において「シリコーンゴム」とは、オルガノポリシロキサンを主成分とし、GB/T531-1999に準拠して実施されたゴム硬度測定において、測定値(ゴム硬度値)がゼロを超え、有効なゴム硬度値を示す硬化生成物を指す。
【0011】
本明細書において、「粘着性」という用語は、触ると粘着性であるが、他の材料に有意な程度まで接着しない材料の特性を指し、「接着」とは本質的に異なる。「接着」は、他の材料、例えば、基材に、典型的な化学的作用により接着する材料の特性を指し、接着強度が接着を評価するために通常使用される。加えて、接着は不可逆的であり、材料は、そこから剥離させると他の材料に再び接着することができない。しかし、粘着性を有する材料は、典型的な物理的作用により他の材料にくっつき、粘着性は可逆的であり、材料は、そこから剥離させても再び他の材料にくっつくことができる。
【0012】
本明細書において、「粘度」は、特に断らない限り、当該分野における従来の方法に従って測定される。
【0013】
本開示の第1の態様は、以下、すなわち、
(a) 1分子当たりケイ素原子に結合した2つのアルケニル基を鎖の両端に含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、
(b) 1分子当たりケイ素原子に結合した少なくとも3つのアルケニル基を含む少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、
(c) 1分子当たりケイ素原子に結合した2個の水素原子を鎖の両端に含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、及び
(d) 少なくとも1種のヒドロシリル化触媒、
を含み、ただし、成分(c)は、組成物の総重量に基づいて30重量%以上、好ましくは40重量%以上の量で使用され、組成物の総重量に基づいて、0.01重量%以下の成分(e)1分子当たりケイ素原子に結合した少なくとも3個の水素原子を含む少なくとも1種のオルガノポリシロキサンを含むシロキサン組成物を提供する。
【0014】
<成分(a)>
オルガノポリシロキサン(a)は周知である。アルケニル基は、鎖の両端にケイ素原子に結合し、残りのケイ素原子に結合する基は、それぞれ独立して、脂肪族不飽和を含まない一価の有機基から選択される。
【0015】
オルガノポリシロキサン(a)は、典型的には直鎖状である。いくつかの例示的なポリオルガノシロキサン(a)は、以下の式によって記載することができる。
SiO(R SiO)SiR
式中、Rは、各出現において独立して、2~6個の炭素原子を有するアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、ヘキセニル、好ましくはビニル、アリル及びプロペニル、より好ましくはビニルであり、
は、各出現において独立して、置換又は非置換の一価の有機基、特に1~20個、好ましくは1~10個の炭素原子を有する一価の炭化水素基、例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチルなどのアルキル、フェニル、トリル、キシリル、メシチル、エチルフェニル、ベンジル、ナフチルなどのアリール又はアルカリル、及び3,3,3-トリフルオロプロピル、o-、p-及びm-クロロフェニル、アミノプロピル、3-イソシアナトプロピル、シアノエチルなどの上記基のハロゲン化又は有機基官能化誘導体であり、好ましくはメチル及びフェニル、より好ましくはメチルであり、
mは正の数であり、オルガノポリシロキサン(a)が100~50,000mPa・s、例えば、200~20,000mPa・s、特に500~10,000mPa・sの25℃における動的粘度を有するようなものである。
【0016】
本開示の成分(a)は、単一のアルケニル末端オルガノポリシロキサンであってもよく、又は分子構造(例えば、置換基の種類及び数)若しくは粘度が異なる、異なるアルケニル末端オルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。オルガノポリシロキサンの混合物について、mは平均値を表し、mによって満たされる粘度範囲は混合物の粘度に対するものである。
【0017】
一般に、ポッティング材料として使用されるシリコーン組成物は、より低い粘度を有することが要求され、それに対応して、アルケニル末端オルガノポリシロキサンの粘度は通常低い。しかし、架橋密度を低下させるために、及びより高い破断伸び、より優れた粘着性及びより低い浸透性を有するシリコーンゲルを得るために、高粘度の少量のアルケニル末端オルガノポリシロキサンを成分(a)に組み込むことが好ましい。
【0018】
本明細書のある実施形態では、成分(a)は、(a1)25℃における動的粘度が100mPa・s以上5000mPa・s未満である、1分子当たりケイ素原子に結合した2つのアルケニル基を鎖の両端に含む、オルガノポリシロキサンと、(a2)25℃における動的粘度が5,000mPa・s以上50,000mPa・s以下である、1分子当たりケイ素原子に結合した2つのアルケニル基を鎖の両端に含む、オルガノポリシロキサンとを含む。上記の実施形態によれば、成分(a2)は、組成物(a)の総重量に基づいて2重量%~20重量%、例えば5重量%~15重量%の量で好適に使用され、成分(a1)によって提供されるアルケニル基のモル数と成分(a2)によって提供されるアルケニル基のモル数との比は、好ましくは(10~50):1である。
【0019】
本開示において、成分(a)は、組成物の総重量に基づいて、20重量%~70重量%、例えば35重量%~55重量%の量で好適に使用される。
【0020】
<成分(b)>
架橋剤として作用する成分(b)としてのオルガノポリシロキサンは、成分(a)としてのオルガノポリシロキサンとは異なる。ポリオルガノシロキサン(b)は、直鎖状、分枝状又は樹脂状であり得る。直鎖状ポリオルガノシロキサン(b)は、典型的には、R SiO1/2、RSiO2/2、R SiO1/2及びR SiO2/2(式中、R及びRは、上で定義した通りである)から選択される単位から構成される。分枝状又は樹脂状ポリオルガノシロキサン(b)は、三官能性単位、例えば、RSiO3/2及びRSiO3/2、及び/又は四官能性単位、例えば、SiO4/2(式中、R及びRは上で定義した通りである)をさらに含む。
【0021】
いくつかの例示的なポリオルガノシロキサン(b)は、(b1)本質的にR SiO1/2単位及びSiO4/2単位からなるオルガノポリシロキサン、(b2)本質的にR SiO1/2単位及びRSiO2/2単位からなるオルガノポリシロキサン、(b3)本質的にR SiO1/2単位、RSiO2/2単位及びR SiO2/2単位からなるオルガノポリシロキサン、及び(b4)本質的にR SiO1/2、R SiO2/2単位及びRSiO3/2単位(式中、R及びRは上で定義した通りである)からなるオルガノポリシロキサンを含む。本明細書において「本質的に」とは、ポリオルガノシロキサン(b)が、少なくとも80モル%、例えば少なくとも90モル%、さらには少なくとも95モル%の上に列挙した単位を含有することを意味する。
【0022】
本開示においては、ポリオルガノシロキサン(b1)が特に好ましく、R SiO1/2単位とSiO4/2単位とのモル比は、(0.4~1):1の範囲、例えば(0.5~0.9):1が適切である。
【0023】
成分(b)は、組成物の総重量に基づいて、1重量%~10重量%、例えば2重量%~8重量%の量で好適に使用される。
【0024】
<成分(c)>
成分(c)は鎖延長剤として使用される。好ましくは、成分(c)は、25℃で30mPa・s以上1,000mPa・s未満の動的粘度を有する。
【0025】
オルガノポリシロキサン(c)は、典型的には直鎖状である。いくつかの例示的なポリオルガノシロキサン(c)は、以下の式によって記載することができる。
HR SiO(R SiO)SiR
式中、Rは上で定義した通りであり、
nは正数であり、オルガノポリシロキサン(c)は30mPa・s以上1,000mPa・s未満の25℃における動的粘度を有するようなものである。
【0026】
本開示の成分(c)は、単一の水素末端オルガノポリシロキサンであってもよく、又は分子構造(例えば、置換基の種類及び数)若しくは粘度が異なる、異なる水素末端オルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。オルガノポリシロキサンの混合物について、nは平均値を表し、nによって満たされる粘度範囲は混合物の粘度に対するものである。
【0027】
より優れた粘着性及びより低い浸透性を有するシリコーンゲルを得るために、本開示の成分(c)は、好ましくは、(c1)25℃における動的粘度が30mPa・s以上200mPa・s以下である、1分子当たりケイ素原子に結合した2個の水素原子を鎖の両端に含む、オルガノポリシロキサンと、(c2)25℃における動的粘度が200mPa・sより大きく5,000mPa・s以下である、1分子当たりケイ素原子に結合した2個の水素原子を鎖の両端に含む、オルガノポリシロキサンとを含む。上記実施形態によれば、成分(c1)によって提供されるSi-H基のモル数と成分(c2)によって提供されるSi-H基のモル数との比は、好ましくは2:(1~10)、特に1:(1~5)である。
【0028】
本開示において、成分(c)は、成分(a)及び成分(b)の全ケイ素結合アルケニル基の1モル当たり0.6~1.0モルのSi-H基を提供する。
【0029】
成分(c)は、組成物の総重量に基づいて、30重量%~70重量%、例えば40重量%~60重量%の量で好適に使用される。
【0030】
<成分(d)>
成分(d)は、シリコーン組成物を付加硬化させるために先行技術において使用される様々なヒドロシリル化触媒、好ましくは白金系触媒、例えばクロロ白金酸、クロロ白金酸塩、白金のオレフィン錯体、及び白金のアルケニルシロキサン錯体であり得る。白金系触媒は、所望の硬化速度及び経済的考慮の対象となる量で使用することができ、これは通常、有効なヒドロシリル化反応を確実にするのに必要な最小レベルである。一般に、シロキサン組成物中の白金金属の重量は0.1~500ppm、例えば1~100ppmである。
【0031】
<成分(e)>
ポリオルガノシロキサン(e)は、1分子当たりケイ素原子に結合した少なくとも3個の水素原子を含み、直鎖状、環状、分岐状又は樹脂状のいずれでもよい。直鎖状又は環状ポリオルガノシロキサン(e)は、典型的には、R SiO1/2、HRSiO2/2、HR SiO1/2及びR SiO2/2(式中、Rは上で定義した通りである)から選択される単位から構成される。分枝状又は樹脂状ポリオルガノシロキサン(e)は、HSiO3/2及びRSiO3/2などの三官能性単位、及び/又はSiO4/2などの四官能性単位をさらに含み、式中、Rは上で定義した通りである。
【0032】
本開示のシロキサン組成物は、ポリオルガノシロキサン(e)を含まない。「含まない」とは、ポリオルガノシロキサン(e)が、組成物の総重量に基づいて、0.01重量%以下、さらには0.001重量%以下の量であることを意味する。
【0033】
<成分(f)>
シロキサン組成物は、組成物のポットライフ及び硬化速度を制御するための阻害剤(f)をさらに含んでもよい。阻害剤は、当分野で使用される様々な阻害剤、例えば、アルキノール、例えば、1-エチニル-1-シクロヘキサノール、2-メチル-3-ブチン-2-オール、ポリメチルビニルシクロシロキサン、例えば、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルテトラシクロ-シロキサン、マレイン酸アルキルであり得る。阻害剤の量は、その化学構造及び所望の硬化速度に従って選択することができる。一般に、組成物中の阻害剤の重量は1~50,000ppm、例えば10~10,000ppmである。
【0034】
<他の光学成分>
シロキサン組成物は、必要に応じて充填剤をさらに含んでもよい。充填剤の例には、炭酸カルシウム、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、シリカ粉末、珪藻土、ケイ酸ジルコニウム、有機モンモリロナイト、二酸化チタンなどの非熱伝導性充填剤、及び酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素、アルミニウム、銅、ニッケル、金、銀、グラファイト、グラフェンなどの熱伝導性充填剤が挙げられるが、これらに限定されない。当該分野において知られているように、電子部品のための接着剤、シーラント又は保護剤又はポッティング材料として使用されるシロキサン組成物は、適切な量の充填剤を含有し得る。しかし、ディスプレイ用のポッティング材料又は光学接着材料として使用されるシロキサン組成物は、光透過率の要件のために充填剤を含有してはならない。
【0035】
シロキサン組成物は、本発明の効果を損なわない限り、他の添加剤を適量含有してもよい。このような添加剤の例としては、溶媒、希釈剤、充填剤及びカラーペースト用の表面処理剤が挙げられるが、これらに限定されない。言及される溶媒の例は、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、ヘプタメチルヘキシルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、ドデカメチルペンタシロキサン、テトラデカメチルヘキサシロキサン、イソドデカンである。測定される希釈剤の例は、25℃で10~5,000mPa・sの動的粘度を有するジメチルシリコーンオイル、25℃で15~300mPa・sの動的粘度を有するMDTシリコーンオイルである。好ましくは、組成物は、前述の添加剤のいずれも含有しない。「含まない」とは、シロキサン組成物が、組成物の総重量に基づいて、0.1重量%未満、さらには0.01重量%未満の前述の添加剤を含むことを意味する。
【0036】
好ましい実施形態では、シロキサン組成物は、以下を含む。
(a) 20~70重量%の、1分子当たりケイ素原子に結合した2つのアルケニル基を鎖の両端に含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、
(b) 1~10重量%の、1分子当たりケイ素原子に結合した少なくとも3つのアルケニル基を含む少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、
(c) 30~70重量%の、1分子当たりケイ素原子に結合した2個の水素原子を鎖の両端に含む、少なくとも1種のオルガノポリシロキサン、及び
(d) 少なくとも1種のヒドロシリル化触媒。
【0037】
適切には、本開示のシロキサン組成物は、成分(b)、成分(c)及び成分(d)が同じパッケージに保存されず、成分(a)、成分(c)及び成分(d)が同じパッケージに保存されない2つ以上の別個のパッケージとして保存される。
【0038】
本開示のシロキサン組成物は、好適には200~10,000mPa・s、例えば500~5,000mPa・s、特に500~2,000mPa・sの室温(23±2)℃での粘度を有する。本明細書において粘度とは、硬化前の組成物の混合粘度を指す。組成物が2つ以上の別々のパッケージに保存される場合、粘度はまた、各パッケージの粘度を指す。
【0039】
本開示の第2の態様は、本開示の第1の態様のシロキサン組成物から硬化されたシリコーンゲルを提供する。
【0040】
これは、本開示の第1の態様に記載される組成物を架橋又は硬化させるか、又は上記のように別々のパッケージを混合し、続いて架橋又は硬化させることによって得られる。一般に、架橋又は硬化は、15~180℃の温度で10分~72時間行われる。より低い硬化温度及び短い硬化時間が望ましい。20~80℃の温度で15~120分間硬化することが好ましい。
【0041】
シリコーンゲルは、好ましくは、ASTM D1403に準拠して1/4コーンで測定して20~50の浸透値を有する。
【0042】
本開示の第3の態様は、電子部品用の接着剤、シーラント又は保護剤としての第1の態様のシロキサン組成物の使用を提供する。
【0043】
本開示の硬化したシロキサン組成物は、ゲルの形態であり、破断伸び、変形性及び追従性に優れ、電子部品用接着剤、シーラント又は保護剤として用いることができる。そのような電子部品は、回路基板、CPU、及び携帯電話を含むが、それらに限定されない。
【0044】
本開示の第4の態様は、電子部品又はディスプレイ用のポッティング材料としての、第1の態様のシロキサン組成物の使用を提供する。
【0045】
本開示のシロキサン組成物は、低い粘度及び良好な流動性を有し、圧力センサ、計量センサ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、及びディスプレイ、特に大型教育用ディスプレイ、屋外ディスプレイ、大型タッチスクリーン、及びタッチ自動車、ナビゲーション又は航空用ディスプレイ等の大型ディスプレイのポッティングのための操作を容易にする。本明細書において、大型ディスプレイは、概して、50インチ以上、さらには86インチ以上のサイズを有するディスプレイを指す。
【0046】
本開示のシロキサン組成物は、大型ディスプレイとガラスパネルとの間の隙間を埋めるために使用され、隙間内の空気を排出してディスプレイを反射防止にする。また、本開示の硬化したシロキサン組成物は、低浸透性のゲルであり、粘着性、光透過性及び耐陰圧性に優れ、高い高度でのディスプレイ用ポッティングに適し得る。
【0047】
本開示の第5の態様は、ディスプレイ用の光学接着材料としての、第1の態様のシロキサン組成物の使用を提供する。
【0048】
本開示の硬化したシロキサン組成物は、ゲルの形態であり、破断伸び、変形性、追従性、粘着性及び光透過率に優れ、ディスプレイ、特に大型ディスプレイの光学接着材料として用いることができる。また、硬化したゲルは低い浸透性を有し、陰圧に対する耐性に優れており、高い高度での光学接着に適している。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】実施例1~2及び比較例1~2によって得られたシリコーンゲルの粘着性試験曲線を示す。
【実施例
【0050】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、その範囲に限定されない。以下の実施例において条件を特定しないあらゆる実験方法は、従来の方法及び条件、又は製品仕様に従って選択される。
【0051】
<粘度の測定>
成分A及び成分Bの粘度は、室温(23±2℃)で10rpmの速度でNo.03スピンドルを使用するブルックフィールド粘度計によって測定した。
【0052】
<浸透の測定>
これはASTM D1403に準拠し、室温(23±2)℃で9.38gの1/4スケールのコーンを用いて行った。試験される試料は、35mm以上の直径及び30mm以上の深さを有するものとする。試験前に、各シロキサン組成物を平底ガラス皿に注ぎ、65℃で30分間硬化させた。次いで、試験される試料を有するガラス皿を針入度計のプラットフォーム上に置き、これをクレーンにより適切な位置に調整し、固定し、その後、コーンを連結するロッドを、コーン先端が試料の表面に接触したことが鏡を通して観察されるまで、ハンドルによってゆっくりと下げた。次いで、標準コーンを、ゼロ設定後に10秒間、それ自体の重量の下に落ちるように解放すると、試料に浸透し、その深さを変位インジケータによって記録した。同じ試料を少なくとも3回並列に試験し、各試験点とガラス皿縁部との間の距離は10mm未満にしてはならない。標準コーンは、各試験のために、清浄なものと交換されるか、又はアルコールで浸漬された綿又は布で拭かれなければならない。各試験の平均を結果とした。
【0053】
<ショア硬度Aの測定>
これは、規格GB/T531-1999に準拠して行った。
【0054】
<粘着性の測定>
これはP/25コーンを用いたテクスチャーアナライザーにより測定した。試験前に、平底ガラス皿(35mmの直径及び30mmの深さを有する)にシロキサン組成物を充填し、65℃に30分間供した。次いで、試験される試料を有するガラス皿を試験コーンの直下に置き、その後、テクスチャーアナライザーをオンにし、試験コーンが試料を2mmの深さまで浸透するまで、試験コーンを試料の表面まで2mm/秒の速度で下降させた。次いで、試験コーンを5秒間静置して、試料を完全に浸潤させ、その後、試料がそこから分離されるまで2mm/秒の速度で上方に移動させた。試験コーンが試料に浸透し、試料から引き出される時間と共に力をセンサによって記録した。試料の粘着性は、力-時間曲線による時間軸の下及び時間軸に囲まれた面積によって評価することができる。面積が大きいほど粘着性がより優れている。
【0055】
<高温試験>
各成分A、Bをスタティックミキサーで1:1の割合で混合し、得られた混合物を80インチディスプレイの偏光板にフィッシュボーンダイアグラムの様式で塗布し、その上にガラスパネルを軽くかぶせた。全プロセス中気泡は発生してはならない。その後、生成物を65℃に30分間供し、次いで室温で3日間静置した後、95℃のオーブンに200時間置いた。気泡又は剥離が観察されなかったか、又はゲルと偏光板又はガラスパネルとの間の分離が、95℃で200時間置かれた後に起こらなかった場合、生成物は高温試験に合格したと判定した。
【0056】
<陰圧試験>
各成分A、Bをスタティックミキサーで1:1の割合で混合し、得られた混合物を14インチディスプレイの偏光板にフィッシュボーンダイアグラムの様式で塗布し、その上にガラスパネルを軽くかぶせた。全プロセス中気泡は発生してはならない。その後、生成物を65℃に30分間供し、次いで室温で3日間静置した後、-1気圧の環境に3日間置いた。-1気圧で3日間置いた後、気泡又は剥離が観察されなかったか、又はゲルと偏光板又はガラスパネルとの間に分離が起こらなかった場合、生成物は陰圧試験に合格したと判定した。
【0057】
実施例及び比較例で用いた原料の詳細は以下の通りである。
【0058】
a1:25℃で約1,000mPa・sの動的粘度及び0.124mmol/gのビニル含量を有し、Wacker Chemicalsによって供給されるジメチルビニルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン。
【0059】
a2:25℃で約20,000mPa・sの動的粘度及び0.042mmol/gのビニル含量を有し、Wacker Chemicalsによって供給されるジメチルビニルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン。
【0060】
b1:0.7:1のM単位とQ単位とのモル比及び0.78mmol/gのビニル含量を有し、Wacker Chemicalsによって供給されるビニルMQ樹脂。
【0061】
b2:25℃で約340~820mPa・sの動的粘度及び2.8mmol/gのビニル含量を有し、Wacker Chemicalsによって供給される、側鎖にケイ素原子に結合した複数のビニル基を有するトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン。
【0062】
c1:25℃で約65mPa・sの動的粘度及び0.53mmol/gの水素含量を有し、Wacker Chemicalsによって供給される、ジメチルヒドロシロキシ末端ポリジメチルシロキサン。
【0063】
c2:25℃で約1,000mPa・sの動的粘度及び0.12mmol/gの水素含量を有し、Wacker Chemicalsによって供給される、ジメチルヒドロシロキシ末端ポリジメチルシロキサン。
【0064】
c3:25℃で約15mPa・sの動的粘度及び1.8mmol/gの水素含量を有し、Wacker Chemicalsによって供給される、ジメチルヒドロシロキシ末端ポリジメチルシロキサン。
【0065】
d:WACKER Chemicalsによって供給される白金系触媒、WACKER(R) CATALYST EP。
【0066】
e:25℃で150mPa・sの動的粘度及び1.8mmol/gの水素含量を有し、Wacker Chemicalsによって供給される、側鎖にケイ素原子に結合した複数の水素原子を有するトリメチルシロキシ末端ポリジメチルシロキサン。
【0067】
f:Wacker Chemicalsによって供給される阻害剤、WACKER(R) INHIBITOR PT88。
【0068】
g:Wacker Chemicalsによって供給されるメチルMQ樹脂、WACKER(R) MQ803。
【0069】
[実施例1~2及び比較例1~3]
表1の処方に従って、各成分A及び成分Bの構成成分をそれぞれ十分に混合した。次いで、成分A及びBをそれぞれ混合し、得られた混合物を65℃で30分間硬化させてシリコーンゲルを得た。
【0070】
各実施例及び比較例で得られたシリコーンゲルの浸透値を表2に示す。比較例3ではシリコーンゲルの代わりにシリコーンゴムが得られたため、ショア硬度Aを測定した。
【0071】
図1は、実施例1~2及び比較例1~2によって得られたシリコーンゲルの粘着性試験曲線を示す。実施例1によって誘導されたものは優れた粘着性を示し、実施例2のものは良好な粘着性を示すが、比較例1~2のものは実施例1~2のものよりも著しく悪い粘着性を示すことがわかる。例3で得られたシリコーンゴムは粘着性を有さず、対応する試験は行わなかった。
【0072】
表3に、実施例1~2及び比較例1~2で得られたシリコーンゲルの高温及び陰圧下での試験結果を示す。比較例1のものは、試験後に気泡又は剥離が観察されたため、両方の試験に不合格であった。比較例2のものも、ゲルと偏光板又はガラスパネルとの間の分離が試験後に観察されたため、両方の試験に不合格であった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
【表3】
図1