(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】固体電解質センサ及び固体電解質センサの使用方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/416 20060101AFI20250407BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
G01N27/416 371G
G01N27/409 100
(21)【出願番号】P 2024059319
(22)【出願日】2024-04-02
【審査請求日】2024-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140671
【氏名又は名称】大矢 正代
(72)【発明者】
【氏名】岩井 翔
(72)【発明者】
【氏名】影山 健友
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-008493(JP,A)
【文献】特開2015-169514(JP,A)
【文献】特開2021-071391(JP,A)
【文献】特開2009-133713(JP,A)
【文献】実開平05-071762(JP,U)
【文献】実開昭61-084853(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサプローブと、加熱炉と、を具備し、
前記センサプローブは、
固体電解質で形成されたセンサ素子、該センサ素子の表面に設けられた第一電極、及び、該第一電極が接している第一空間と区画されている第二空間において前記センサ素子の表面に設けられた第二電極を有し、前記第一電極と前記第二電極との間に生じる起電力が測定されるセンサ本体と、
周壁部及び底部からなる有底筒状で、内部に前記センサ本体を支持していることにより前記センサ本体との間の空間が前記第一空間となっているケーシングと、
前記ケーシングを貫通し、端部が前記第一空間の内部で開口している導入パイプと、
該導入パイプとは異なる箇所で前記ケーシングを貫通し、端部が前記第一空間の内部で開口している排出パイプと、を備えており、
前記センサ素子において少なくとも前記第一電極及び前記第二電極が設けられている部分が前記加熱炉の内部雰囲気に位置するように、前記センサプローブが前記加熱炉に挿入されている
と共に、
前記導入パイプ及び前記排出パイプは、前記ケーシングの前記周壁部を貫通しており、
前記第一空間において、前記導入パイプの開口の近傍において該導入パイプの軸方向と交差し、前記底部に向かって延びている平板状の邪魔板を更に備える
ことを特徴とする固体電解質センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の固体電解質センサの使用方法であり、
前記導入パイプから前記第一空間へ、-10℃~200℃の測定ガスを導入する
ことを特徴とする固体電解質センサの使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質をセンサ素子とする固体電解質センサ、及び、該固体電解質センサの使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体電解質(イオン伝導性セラミックス)をセンサ素子に使用して、水素ガス、酸素ガス、炭酸ガスなどのガス濃度を検出するガスセンサが種々提案されており、本出願人も過去に電位検出型のガスセンサについて複数の提案を行っている。これらのガスセンサは、同一イオンの濃度差により固体電解質に電位差が生じる濃淡電池の原理を使用したものであり、センサ素子を挟んだ二つの空間で検出対象ガスの濃度が異なる場合に、センサ素子に生じる起電力を測定する。二つの空間のうち、一方の空間において検出対象ガスの濃度が既知であれば、ネルンストの式により、測定された起電力とセンサ素子の温度から、他方の空間におけるガス濃度を知ることができる。或いは、一方の空間のガス濃度を一定とした状態で、他方の空間におけるガス濃度を変化させて起電力を測定することによって、予めガス濃度と起電力との相関関係を調べておくことにより、ガス濃度が未知の場合の起電力の測定値からガス濃度を知ることができる。
【0003】
ここで、固体電解質は、検出対象ガスの濃度(またはガス分圧。以下において同じ。)が起電力と相関関係を示す温度が、所定の温度範囲内に限られ、その下限値は数百度と高い。工業炉内のガス濃度を測定する目的などで固体電解質センサのセンサプローブを工業炉内に挿入する場合は、その下限値を超える高温の雰囲気内に固体電解質センサが存在するため、問題はない。
【0004】
ところが、検出対象ガスの濃度を検出しようとしている測定ガスの温度が、固体電解質において検出対象ガスの濃度が起電力と相関関係を示す温度範囲より低い場合がある。例えば、ガスバーナ、ガスタービン、エンジンなどから排出される排ガスについて、燃焼条件を制御したり燃焼状態の異常を検知したりする目的で、排ガス中の特定のガス濃度を検出する場合である。このような排ガスの温度は一般的に200℃以下であり、このような低い温度で、検出対象ガスの濃度が起電力と相関関係を示す固体電解質は、現状では存在しない。
【0005】
そこで、本出願人は過去に、ヒータ付きの固体電解質センサを提案している(例えば、特許文献1参照)。このようなヒータは、センサ素子を内部側から局部的に加熱する内装型ヒータと、センサ素子の外部を局部的に囲んだ外装型ヒータに大別される。
【0006】
しかしながら、測定ガスの流量が大きい場合、従来のようなヒータ付きの固体電解質センサでは、センサ素子の温度が、検出対象ガスの濃度が起電力と相関関係を示す温度範囲から外れた低温となってしまい、測定が不可能となることがあった。特に、水素ガスは熱伝導率が高いため、測定ガスにおける水素の濃度が高くなると、その傾向が顕著となる。また、測定ガスの流量が大きい場合は、センサ素子の内部温度に比べてセンサ素子の外表面の温度が低くなるような温度分布が生じ、正確な濃度測定が行えないことに加え、温度差に起因してセンサ素子に割れ等の損傷が生じて測定自体が不可能となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、測定ガスの温度が、固体電解質において検出対象ガスの濃度が起電力と相関関係を示す温度範囲より低く、測定ガスの流量が大きい場合であっても、センサ素子の損傷を抑制し、正確な濃度測定を行うことができる固体電解質センサ、及び、該固体電解質センサの使用方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる固体電解質センサは、
「センサプローブと、加熱炉と、を具備し、
前記センサプローブは、
固体電解質で形成されたセンサ素子、該センサ素子の表面に設けられた第一電極、及び、該第一電極が接している第一空間と区画されている第二空間において前記センサ素子の表面に設けられた第二電極を有し、前記第一電極と前記第二電極との間に生じる起電力が測定されるセンサ本体と、
周壁部及び底部からなる有底筒状で、内部に前記センサ本体を支持していることにより前記センサ本体との間の空間が前記第一空間となっているケーシングと、
前記ケーシングを貫通し、端部が前記第一空間の内部で開口している導入パイプと、
該導入パイプとは異なる箇所で前記ケーシングを貫通し、端部が前記第一空間の内部で開口している排出パイプと、を備えており、
前記センサ素子において少なくとも前記第一電極及び前記第二電極が設けられている部分が前記加熱炉の内部雰囲気に位置するように、前記センサプローブが前記加熱炉に挿入されている」ものである。
【0010】
ここで、第一電極が接している第一空間と第二電極が接している第二空間とが「区画されている」ようなセンサ本体の構成としては、センサ素子の形状が有底筒状であり、センサ素子のみによって第一空間と第二空間とが区画されている構成、或いは、センサ素子が筒状のホルダの端部または内部を封止しており、ホルダとセンサ素子によって有底筒状体が形成されていることによって第一空間と第二空間とが区画されている構成、を挙げることができる。
【0011】
本構成の固体電解質センサによれば、加熱炉の内部雰囲気にセンサプローブを挿入し、ケーシングを貫通させた導入パイプ及び排出パイプを介して、ケーシングとセンサ本体との間の第一空間に測定ガスを流通させる。これにより、加熱炉の内部雰囲気に置かれて、固体電解質において検出対象ガスの濃度が起電力と相関関係を示す温度範囲(以下、「使用可能温度範囲」と称する)内の温度まで十分に加熱されたセンサ素子で、測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0012】
そして、加熱炉の内部雰囲気は、従来の外装型ヒータや内装型ヒータによって加熱される雰囲気より容積が大きく、センサ素子の全体、またはほぼ全体が加熱炉の内部雰囲気に置かれて十分に加熱される。そのため、第一空間に導入される測定ガスの流量が大きく、測定ガスによってセンサ素子の熱が奪われやすくなったとしても、それを補い得る熱を加熱炉の内部雰囲気からセンサ素子に付与することができる。従って、センサ素子の温度を使用可能温度範囲内の温度に維持することができるため、測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0013】
また、センサ素子において少なくとも第一電極及び第二電極が設けられている部分が加熱炉の内部雰囲気に位置するように、センサプローブが加熱炉に挿入されているため、センサ素子に温度分布が生じにくいものとなっており、温度差に起因してセンサ素子に割れなどの損傷が生じることが抑制されている。
【0014】
本発明にかかる固体電解質センサは、上記構成に加え、
「前記導入パイプ及び前記排出パイプは、前記ケーシングの前記周壁部を貫通しており、
前記第一空間において、前記導入パイプの開口の近傍において該導入パイプの軸方向と交差し、前記底部に向かって延びている平板状の邪魔板を更に備える」ものである。
【0015】
導入パイプ及び排出パイプの双方がケーシングの周壁部を貫通している場合、導入パイプから第一空間に導入された測定ガスが、ケーシングの周壁部の内周面に沿って流通して排出パイプから排出されてしまうことがあり得る。導入パイプ及び排出パイプとの干渉を避けつつセンサプローブを加熱炉に挿入しようとすると、導入パイプ及び排出パイプそれぞれの開端の近傍のセンサ本体は、加熱炉によっては十分に加熱されないおそれがあり、センサ本体においてはケーシングの底部に近い側の部分が加熱炉によって十分に加熱されやすい。
【0016】
本構成では、第一空間に平板状の邪魔板を備えており、邪魔板は導入パイプの開口の近傍において、導入パイプの軸方向と交差しており、且つ、ケーシングの底部に向かって延びている。従って、導入パイプから導入された測定ガスは、邪魔板によって直進することが妨げられ、更に邪魔板によってケーシングの底部に向かって案内される。従って、センサ本体において、加熱炉によって十分に加熱されやすい部分まで測定ガスを案内して、その部分のセンサ素子に測定ガスを接触させることができるため、測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0017】
次に、本発明にかかる固体電解質センサの使用方法は、
「上記に記載の固体電解質センサの使用方法であり、
前記導入パイプから前記第一空間へ、-10℃~200℃の測定ガスを導入する」ものである。
【0018】
これは、上記構成の固体電解質センサの使用方法であり、測定ガスとして-10℃~200℃という低温のガスを使用するものである。このような低い温度範囲を、使用可能温度範囲に含む固体電解質は、現時点では存在しない。それにも関わらず、上記構成の固体電解質センサによれば、詳細は後述するように、このように低い温度範囲の測定ガスであっても、また、このような低い温度範囲で、且つ、流量の大きい測定ガスであっても、測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、測定ガスの温度が、固体電解質において検出対象ガスの濃度が起電力と相関関係を示す温度範囲より低く、測定ガスの流量が大きい場合であっても、センサ素子の損傷を抑制し、正確な濃度測定を行うことができる固体電解質センサ、及び、該固体電解質センサの使用方法を、提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の第一実施形態である固体電解質センサの縦断面図である。
【
図2】本発明の第二実施形態である固体電解質センサの縦断面図である。
【
図3】本発明の第三実施形態である固体電解質センサの縦断面図である。
【
図4】本発明の第四実施形態である固体電解質センサの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態である固体電解質センサD1~D4、及びその使用方法について、
図1~
図4を用いて説明する。まず、第一実施形態の固体電解質センサD1の構成について、
図1を用いて説明する。
【0022】
固体電解質センサD1は、センサプローブ1aと、加熱炉60とを具備している。センサプローブ1aは、センサ本体と、ケーシング40と、導入パイプ71bと、排出パイプ78と、を備えている。
【0023】
センサ本体は、センサ素子10と、第一電極11と、第二電極12と、熱電対23とを主に備えている。センサ素子10は有底円筒状であり、その外部空間が第一空間S1であり、その内部空間が第二空間S2である。つまり、本実施形態のセンサ本体では、センサ素子10のみによって第一空間S1と第二空間S2とが区画されている。第一電極11はセンサ素子10において第一空間S1と接する表面に設けられており、第二電極12はセンサ素子10において第二空間S2と接する表面に設けられている。
【0024】
第一電極11及び第二電極12それぞれには、電位計(図示を省略)と電気的に接続するためのリード線21,22が接続されている。ここで、第二電極12と電位計とを接続するリード線22は、第二空間S2に挿入されているセラミックス製の保護管26を挿通している。熱電対23も、この保護管26を挿通しており、その測定接点をセンサ素子10における第二空間S2側の表面に当接させている。また、第二空間S2には、基準ガスを導入するための基準ガス導入管25が挿入されている。なお、基準ガスとして大気を使用する場合は、基準ガス導入管25を使用することなく、第二空間S2を大気中に開放させてもよい。
【0025】
ケーシング40は、周壁部41と底部42とからなる有底円筒状である。ケーシング40は、その内部にセンサ本体を位置させた状態でセンサ本体を支持している。具体的には、有底円筒状のセンサ素子10の円筒状部分の外周面と、ケーシング40の周壁部41の内周面との間が、部分的に封止部51によって気密に封止されている。これにより、センサ素子10の外部空間である第一空間S1が、ケーシング40によって囲まれる。すなわち、ケーシング40とセンサ本体との間の空間が第一空間S1となる。
【0026】
ケーシング40には、周壁部41において封止部51より底部42側に、導入ポート45と排出ポート46とが異なる位置に貫設されている。本実施形態では、導入ポート45と排出ポート46とは、ケーシング40の周壁部41において対向する位置に設けられている。
【0027】
導入ポート45には、測定ガスを導入するための導入パイプ71bが挿入されている。これにより、導入パイプ71bはケーシング40の周壁部41を貫通し、導入パイプ71bの端部が第一空間S1の内部で開口した状態となる。導入パイプ71bは、測定ガス導入管71の中途から分岐している管であり、測定ガス導入管71において導入パイプ71bとの分岐部より下流側には、ガスの流通を開閉すると共にガスの流量を調整可能な開閉弁73が設けられている。これにより、測定ガス導入管71に導入された測定ガスの全量を導入パイプ71bに流通させることも、測定ガス導入管71に導入された測定ガスの一部のみを導入パイプ71bに流通させることも可能である。
【0028】
加熱炉60は、周壁部61と底部62とからなる有底筒状である。センサプローブ1aにおいて、導入パイプ71b及び排出パイプ78がケーシング40の周壁部41を貫通している位置より底部42側の部分が、加熱炉60の内部に挿入されている。従って、センサプローブ1aにおいて、第一電極11及び第二電極12が設けられている部分を含むセンサ素子10のほぼ全体が、加熱炉60の内部雰囲気に置かれている状態となる。
【0029】
上記構成の固体電解質センサD1を使用して測定ガスにおける検出対象ガスの濃度(または、ガス分圧。以下において同じ。)を検出する場合は、測定ガス導入管71から測定ガスを導入し、導入パイプ71bを介してセンサプローブ1aの第一空間S1に測定ガスを導入する。第一空間S1への測定ガスの導入は、排出パイプ78側に吸引ポンプを接続することにより行うことができる。或いは、測定ガス導入管71側にガスを圧送する送風機を接続することにより行うことができる。
【0030】
測定ガスは、排ガスなど200℃以下のガスであり、測定ガス導入管71が屋外に配されている場合などは季節によってはより低温のことがあり、-10℃~200℃の温度範囲にある。このような低い温度範囲の測定ガスをセンサ素子10に接触させた場合、センサ素子10の温度が、センサ素子10に使用している固体電解質の使用可能温度範囲を外れていると、検出対象ガスの濃度を測定することはできない。
【0031】
これに対し、本実施形態の固体電解質センサD1では、第一電極11及び第二電極12が設けられている部分を含むセンサ素子10のほぼ全体が、加熱炉60の内部雰囲気であに置かれている。そして、センサプローブ1aではセンサ本体が有底円筒状のケーシング40に囲まれており、ケーシング40とセンサ本体との間の空間である第一空間S1に、ケーシング40を貫通している導入パイプ71bを介して測定ガスが導入される。そのため、加熱炉60の内部雰囲気の温度を、センサ素子10に使用している固体電解質の使用可能温度範囲の下限値より高く設定しておくことにより、固体電解質で形成されたセンサ素子10の温度を使用可能温度範囲内の温度に維持することが可能となり、そのような温度に維持されたセンサ素子10に測定ガスを接触させることができる。これにより、測定ガスの温度が使用可能温度範囲の下限値より低い場合であっても、測定ガスに含有される検出対象ガスの濃度を、固体電解質センサD1によって測定することができる。
【0032】
そして、本実施形態では、センサ素子10のほぼ全体が加熱炉60の内部雰囲気である高温雰囲気に置かれており、従来の内装型ヒータや外装型ヒータによって局部的にセンサ素子10を加熱する場合に比べて、高温とできる雰囲気の容積が大きい。そのため、センサ素子10のほぼ全体を、使用可能温度範囲内の温度まで十分に加熱することができ、測定ガスに含有される検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0033】
また、センサ素子10のほぼ全体を、使用可能温度範囲内の温度まで十分に加熱することができるため、測定ガスの流量が大きい場合に、測定ガスによってセンサ素子10の熱が奪われたとしても、それを補い得る熱を周囲の高温雰囲気からセンサ素子10に与えることができる。従って、測定ガスの流量が大きい場合であっても、センサ素子10の温度を使用可能温度範囲内の温度に維持することができ、測定ガスに含有される検出対象ガスの濃度を、正確に測定することができる。
【0034】
加えて、センサ素子10のほぼ全体が加熱炉60の内部雰囲気に置かれており、センサ素子10に温度分布が生じることが有効に抑制されているため、温度差に起因してセンサ素子10に割れなどの損傷が生じることが抑制されている。
【0035】
次に、第二実施形態の固体電解質センサD2について、
図2を用いて説明する。固体電解質センサD2の構成において第一実施形態の固体電解質センサD1の構成と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0036】
固体電解質センサD2が固体電解質センサD1と相違する点は、センサプローブ1bの構成である。固体電解質センサD1におけるセンサプローブ1aでは、センサ素子10が有底円筒状であり、センサ素子10のみによって第一空間S1と第二空間S2とが区画されていた。これに対し、固体電解質センサD2のセンサプローブ1bにおけるセンサ本体では、センサ素子10が円筒状のホルダ30の一端に封止部56によって固定されていることにより、ホルダ30とセンサ素子10によって有底円筒状体が形成されており、その外側の空間である第一空間S1と内側の空間である第二空間S2とが区画されている。
【0037】
そして、センサプローブ1aでは、センサ素子10の円筒状部分とケーシング40の周壁部41との間が封止部51で封止されていたのに対し、センサプローブ1bではホルダ30の外周面と、ケーシング40の周壁部41の内周面との間が、部分的に封止部52によって気密に封止されている。これにより、センサ本体の外部空間である第一空間S1が、ケーシング40によって囲まれる。この封止部52より底面42側で、ケーシング40の周壁部41を導入パイプ71b及び排出パイプ78が貫通している点、ケーシング40とセンサ本体との間の空間が第一空間S1となっている点を含め、固体電解質センサD2におけるその他の構成は、固体電解質センサD1の構成と同様である。
【0038】
このような構成である固体電解質センサD2についても、導入パイプ71bを介して第一空間S1に測定ガスを導入することにより、固体電解質センサD1と同様に使用することができ、同様の作用効果が発揮される。特に、固体電解質センサD2では、センサ素子10の全体が完全に加熱炉60の内部雰囲気に位置しているため、加熱炉60によってセンサ素子10の温度を固体電解質の使用可能温度範囲内の温度に維持する作用効果が、より効果的に発揮される。
【0039】
次に、第三実施形態の固体電解質センサD3について、
図3を用いて説明する。固体電解質センサD3の構成において第一実施形態の固体電解質センサD1、及び第二実施形態の固体電解質センサD2の構成と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0040】
固体電解質センサD3の構成は、センサプローブ1bを備える固体電解質センサD2に邪魔板80を付加した構成、または、センサプローブ1aを備える固体電解質センサD1に、邪魔板80を付加した構成に相当する。
図3では、固体電解質センサD2に邪魔板80を付加した構成を例示している。
【0041】
邪魔板80は細長い平板状であり、ケーシング40とセンサ本体との間の第一空間S1に、ケーシング40の内周面との間に少しの空隙をあけた状態で位置している。具体的には、邪魔板は一端に突出部を有しており、その部分が、導入ポート45と封止部51または封止部52との間でケーシング40の内周面に固定されている。邪魔板80は、一方の端部側では導入パイプ71bの開口の近傍において、導入パイプ71bの軸方向に直交しており、そこからケーシング40の底部42に向かうように延びている。
【0042】
固体電解質センサD1では、ケーシング40の周壁部41を導入パイプ71b及び排出パイプ78が貫通しており、導入パイプ71b及び排出パイプ78をそれぞれ貫通させている導入ポート45及び排出ポート46が対向している。そのため、導入パイプ71bから第一空間S1に導入された測定ガスが、ケーシング40の周壁部41の内周面に沿って、或いは、センサ素子10の円筒状部分の外周面に沿って周方向に回り込み、そのまま排出パイプ78から排出されてしまうことがあり得る。導入パイプ71b及び排出パイプ78と加熱炉60との干渉を避けるために、センサプローブ1aでは、導入パイプ71b及び排出パイプ78がケーシング40を貫通している位置より底部42側の部分が、加熱炉60に挿入されることとなる。そうすると、測定ガスが導入パイプ71bから排出パイプ78まで周方向に回り込みながら流通してしまう場合、センサ素子10において測定ガスと接触する部分は、加熱炉60によって十分に加熱されていない部分となってしまうおそれがある。また、
図1で例示しているように、第一電極11及び第二電極12が有底円筒状のセンサ素子10の底部に設けられていると、その部分は加熱炉60によって十分に加熱されているものの、測定ガスがその部分のセンサ素子10に十分に接触することなく排出されてしまい、起電力を正確に測定できないおそれがある。
【0043】
これに対し、固体電解質センサD1に邪魔板80を付加した固体電解質センサD3では、導入パイプ71bを介して第一空間S1に測定ガスを導入すると、第一空間S1に流入した測定ガスはそのまま直進することが邪魔板80によって妨げられ、更に邪魔板80に沿ってケーシング40の底部42に向かって案内される。従って、加熱炉60で十分に加熱されている部分のセンサ素子10に測定ガスを十分に接触させることができ、測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。また、第一電極11及び第二電極12が有底円筒状のセンサ素子10の底部に設けられている場合であっても、その部分に向かって測定ガスが流通するように邪魔板80によって案内されるため、第一電極11及び第二電極12が設けられている部分のセンサ素子10に測定ガスを十分に接触させることができ、起電力を正確に測定することができる。
【0044】
同様に、固体電解質センサD2においても、導入パイプ71bから第一空間S1に導入された測定ガスが、ケーシング40の周壁部41の内周面に沿って、或いは、ホルダ30の外周面に沿って周方向に回り込み、そのまま排出パイプ78から排出されてしまうことがあり得る。固体電解質センサD2ではホルダ30にセンサ素子10を支持させているため、測定ガスが周方向に流通してしまうと、センサ素子10に測定ガスが接触しにくいものとなり、センサ素子10を加熱炉60で十分に加熱していても正確な測定をすることができないおそれがある。
【0045】
これに対し、固体電解質センサD2に邪魔板80を付加した固体電解質センサD3では、導入パイプ71bを介して第一空間S1に測定ガスを導入すると、第一空間S1に流入した測定ガスはそのまま直進することが邪魔板80によって妨げられ、更に邪魔板80に沿ってケーシング40の底部42に向かって案内される。従って、ホルダ30に支持されているセンサ素子10に測定ガスを十分に接触させることができ、センサ素子10は加熱炉60によって十分に加熱されているため、測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0046】
次に、第四実施形態の固体電解質センサD4について、
図4を用いて説明する。固体電解質センサD4の構成において第一実施形態の固体電解質センサD1、第二実施形態の固体電解質センサD2、及び第三実施形態の固体電解質センサD3の構成と同様の構成については、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0047】
固体電解質センサD4が固体電解質センサD1,D2,D3と相違する点は、導入ポート45及び排出ポート46がケーシング40の周壁部41ではなく底部42に貫設されており、導入パイプ71b及び排出パイプ78が底部42を貫通している点である。これに伴い、導入パイプ71b及び排出パイプ78と加熱炉60との干渉を避けるために、加熱炉60は底部62を有さず周壁部61のみからなる筒状の構成である。
図4では、加熱炉60の内部雰囲気に挿入されているセンサプローブがセンサプローブ1bである場合の固体電解質センサD4を例示しているが、センサプローブ1aが加熱炉60の内部雰囲気に挿入されている構成の固体電解質センサD4とすることもできる。
【0048】
このような構成の固体電解質センサD4では、導入パイプ71bを介して第一空間S1に測定ガスを導入したとき、測定ガスは第一空間S1においてケーシング40の底部42に近い部分を満たしてから、排出パイプ78を介して排出される。従って、センサプローブがセンサプローブ1bである場合、ホルダ30の端部に支持されているセンサ素子10に測定ガスを十分に接触させることができ、加熱炉60によって十分に加熱されているセンサ素子10によって、測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0049】
また、センサプローブがセンサプローブ1aである場合、第一電極11及び第二電極12が有底円筒状のセンサ素子10の底部に設けられていたとしても、その部分のセンサ素子10に測定ガスを十分に接触させることができるため、起電力を正確に測定して測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態の固体電解質センサD1~D4によれば、加熱炉60,60bの内部雰囲気にセンサプローブ1a,1bを挿入し、ケーシング40を貫通させた導入パイプ71b及び排出パイプ78を介してケーシング40とセンサ本体との間の第一空間S1に測定ガスを流通させている。これにより、加熱炉60,60bの内部雰囲気に置かれて十分に加熱されたセンサ素子10で、測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0051】
そして、加熱炉60,60bの内部雰囲気は、従来の外装型ヒータや内装型ヒータによって加熱される雰囲気より容積が大きく、センサ素子10の全体、またはほぼ全体が加熱炉60,60bの内部雰囲気に置かれて十分に加熱される。そのため、第一空間S1に導入される測定ガスの流量が大きく、測定ガスによってセンサ素子10の熱が奪われたとしても、それを補い得る熱を加熱炉60,60bの内部雰囲気からセンサ素子10に付与することができ、センサ素子10の温度を固体電解質の使用可能温度範囲内の温度に維持することができるため、測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
【0052】
実際に、本実施形態の固体電解質センサについて、測定ガスの温度が使用可能温度範囲の下限値より低い場合に、測定ガスの流量が大きくても測定ガスに含まれる検出対象ガスの濃度を正確に測定することができるか否かの確認試験を行い、従来の固体電解質センサである比較例と対比した結果を示す。
【0053】
本実施形態の固体電解質センサとしては、固体電解質センサD2の構成のものを使用した。検出対象ガスは水素ガスとし、センサ素子には、化学式AB1-aB’aO3-αにおいて、AをSr、BをZr、B’をYbとし、aが0.1である組成の固体電解質を使用した。この固体電解質の使用可能温度範囲は、380℃~650℃である。なお、αは酸素欠陥であり、A,B,B’のそれぞれの原子種、aの値、測定雰囲気の温度と酸素分圧等に応じて変化する値である。本実施形態の固体電解質センサにおいてセンサプローブを囲んでいる加熱炉は、内部雰囲気の温度が500℃に維持されるように調整した。
【0054】
比較例の固体電解質センサとしては、センサプローブ1bからケーシングを除いた構成に相当するセンサ本体に、センサ素子の部分のみを局部的に内側から加熱する内装型ヒータを付加した構成のものを使用した。センサ素子の固体電解質としては、上記と同一のものを使用した。
【0055】
本実施形態の固体電解質センサ、及び比較例の固体電解質センサの双方について、それぞれ、-10℃、25℃、200℃という固体電解質の使用可能温度範囲の下限値より低い温度の測定ガスを、第一空間に導入した。測定ガスの流量(単位時間当たり)は、200ml/min、500ml/min、1000ml/min、2000ml/minと変化させた。測定ガスは、水素1%-アルゴン99%、水素10%-アルゴン90%、水素30%-アルゴン70%、水素100%という水素濃度の異なる四種類とした。なお、ここでの「%」は体積百分率である。
【0056】
第二空間には水素濃度が既知である基準ガスを導入し、第一電極と第二電極との間に生じる起電力とセンサ素子の温度とを測定して、ネルンストの式を用いて、測定ガスにおける水素ガス濃度を算出した。算出された水素ガス濃度が実際の測定ガスにおける水素濃度と一致した場合、或いは、両者の差異が予め定めた所定の許容範囲(起電力の大きさに応じて、測定誤差を考慮して定めた範囲)以内であった場合を、正確に測定ができたとして「〇」で評価し、両者の差異が所定の許容範囲を超えたがセンサ素子には損傷が生じなかった場合を、測定はできたが正確には測定できなかったとして「△」で評価し、センサ素子に割れなどの損傷が生じた場合を、測定自体ができなかったとして「×」で評価した。その結果を、表1に示す。
【0057】
【0058】
表1から分かるように、比較例の固体電解質センサでは、測定ガスの流量が同じ場合で比較すると、測定ガスの温度が低くなるほど、正確に測定することができなかったりセンサ素子に損傷が生じたりすることが増加する傾向があり、この傾向は測定ガスにおける水素濃度が大きくなるほど顕著であった。これは、測定ガスの温度が低くなるほど、センサ素子を局部的に加熱する内装型ヒータではセンサ素子の温度を使用可能温度範囲内の温度に維持することが困難となるためであり、また、水素ガスは熱伝導率が高いために、測定ガスの水素濃度が高くなるほど、測定ガスによってセンサ素子の熱が奪われやすくなるためと考えられた。
【0059】
また、比較例の固体電解質センサについて、測定ガスの温度及び測定ガスの水素濃度が同じ場合で比較すると、測定ガスの流量が大きくなるほど、正確に測定することができなかったりセンサ素子に損傷が生じたりすることが増加する傾向があった。これは、流量が増加すると、測定ガスによってセンサ素子の熱が奪われやすくなり、センサ素子の温度が使用可能温度範囲から外れて正確な濃度測定をすることができず、センサ素子において温度分布が生じることにより、温度差に起因して損傷に至るためと考えられた。
【0060】
これに対し、本実施形態の固体電解質センサでは、-10℃~200℃の温度範囲で、正確な濃度測定が可能であった。-10℃は固体電解質の使用可能温度範囲より、かなり低い温度であるが、加熱炉の内部雰囲気に固体電解質センサを置くことにより、センサ素子の温度が使用可能温度範囲内の温度となるように十分に加熱されていることが分かる。また、測定ガスの流量を、200ml/minから2000ml/minに増加させても、正確な測定が可能であった。このことから、低温の測定ガスによってセンサ素子の熱が奪われたとしても、それを補い得る熱が加熱炉内部の高温雰囲気から付与されるため、センサ素子の温度を固体電解質の使用可能温度範囲内に維持できるものと考えられた。特に、1000ml/min~2000ml/minという非常に流量の大きな測定ガスであっても、センサ素子の温度を固体電解質の使用可能温度範囲内に維持して正確な濃度測定を行うことができることは意義が高い。すなわち、ガスを流通させる管の径が同じであれば、流速を大きくすれば流量が大きくなるため、測定ガスを大きな流速で固体電解質センサに導入することにより、測定ガスにおける検出対象ガスの濃度測定を効率よく行うことができる。
【0061】
加えて、測定ガスの水素濃度を100%まで高めても、正確な測定が可能であった。測定ガスにおける水素濃度が100%となることは、現実の測定現場ではあまりないことではあるが、このように熱伝導率の高いガスを多く含む測定ガスによってセンサ素子の熱が奪われたとしても、それを補い得る熱が加熱炉内部の高温雰囲気から付与されるため、センサ素子の温度を固体電解質の使用可能温度範囲内に維持できるものと考えられた。
【0062】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0063】
例えば、上記の実施形態におけるセンサプローブ1bでは、センサ素子10が有底円筒状であり、その開端が第二空間S2側に位置するようにホルダ30に固定されている場合を例示したが、開端が第一空間S1側に位置するようにホルダ30に固定されていてもよい。また、センサ素子10の形状は有底円筒状に限定されず、柱状や平板状であってもよい。更に、センサ素子10がホルダ30に固定される位置は、ホルダ30の端部に限定されず、ホルダ30の内周面における中途の位置で、センサ素子10が円筒状のホルダ30の内部空間を封止している構成とすることができる。これらの構成であっても、ホルダ30とセンサ素子10によって第一空間S1と第二空間S2とが区画される。
【符号の説明】
【0064】
1a,1b センサプローブ
10 センサ素子
11 第一電極
12 第二電極
40 ケーシング
41 周壁部
42 底部
60 加熱炉
71b 導入パイプ
78 排出パイプ
80 邪魔板
D1,D2,D3,D4 固体電解質センサ
S1 第一空間
S2 第二空間
【要約】
【課題】測定ガスの温度が、固体電解質において検出対象ガスの濃度が起電力と相関関係を示す温度範囲より低く、測定ガスの流量が大きい場合であっても、センサ素子の損傷を抑制し、正確な濃度測定を行うことができる固体電解質センサを提供する。
【解決手段】センサ素子10の表面に第一電極11及び第二電極12が設けられており、第一電極が接している第一空間S1と第二電極に接している第二空間S2とが区画されているセンサ本体と、有底筒状で内部にセンサ本体を支持していることによりセンサ本体との間の空間が第一空間となっているケーシング40と、それぞれケーシングを貫通し端部が第一空間の内部で開口している導入パイプ71b及び排出パイプ78とを備えるセンサプローブ1bにおいて、少なくとも第一電極及び第二電極が設けられている部分を、加熱炉60の内部雰囲気に挿入する。
【選択図】
図2