(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】正極活物質及びその製造方法、正極極板、二次電池、電池モジュール、電池パックと電力消費装置
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20250407BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20250407BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20250407BHJP
C01B 25/45 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/136
C01B25/45 Z
C01B25/45 M
(21)【出願番号】P 2024501214
(86)(22)【出願日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 CN2022099484
(87)【国際公開番号】W WO2023240603
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】524304976
【氏名又は名称】香港時代新能源科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】CONTEMPORARY AMPEREX TECHNOLOGY (HONG KONG) LIMITED
【住所又は居所原語表記】13/F., LKF29, 29 Wyndham Street, Central, Hong Kong, China
(74)【代理人】
【識別番号】100159329
【氏名又は名称】三縄 隆
(72)【発明者】
【氏名】▲蒋▼ 耀
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 欣欣
(72)【発明者】
【氏名】欧▲陽▼ 楚英
(72)【発明者】
【氏名】▲デン▼ 斌
(72)【発明者】
【氏名】袁 天▲賜▼
(72)【発明者】
【氏名】王 志▲強▼
(72)【発明者】
【氏名】徐 波
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 尚▲棟▼
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-082476(JP,A)
【文献】特開2016-127002(JP,A)
【文献】特表2010-529593(JP,A)
【文献】特開2017-143049(JP,A)
【文献】国際公開第2013/176067(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0117033(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第114256448(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア-シェル構造を有する正極活物質であって、コアと、前記コアを被覆するシェルとを含み、
前記コアは、Li
1+xMn
1-yA
yP
1-zR
zO
4を含み、ここで、前記xは、-0.100~0.100の範囲内の任意の数値であり、前記yは、0.001~0.500の範囲内の任意の数値であり、前記zは、0.001~0.100の範囲内の任意の数値であり、前記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、NbとGeから選択される一つ又は複数の元素であり
、前記Rは、B、Si、NとSから選択される一つ又は複数の元素であり、
前記シェルは、前記コアを被覆する第一の被覆層と、前記第一の被覆層を被覆する第二の被覆層とを含み、
ここで、前記第一の被覆層は、結晶性ピロリン酸塩M
aP
2O
7と結晶性酸化物M′
bO
cとを含み、ここで、前記aは、0よりも大きく且つ4以下であり、前記bは、0よりも大きく且つ2以下であり、前記cは、0よりも大きく且つ5以下であり、前記Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、NbとAlから選択される一つ又は複数の元素であり
、前記M′は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、IIIA族元素、IVA族元素、ランタン系元素とSbから選択される一つ又は複数の元素であり
、
前記第二の被覆層は、炭素を含む、正極活物質。
【請求項2】
前記コアにおいて、yと1-yとの比は、1:10~10:1で
ある、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記コアにおいて、zと1-zとの比は、1:9~1:999で
ある、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記第一の被覆層の被覆量は、前記コアの重量を基準として、0重量%よりも大きく且つ7重量%以下で
ある、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項5】
前記第一の被覆層における
結晶性ピロリン酸塩と
結晶性酸化物との重量比は、1:3~3:1で
ある、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項6】
前記第一の被覆層における
結晶性ピロリン酸塩の格子面間隔は、0.293-0.326nmであり、結晶方向(111)のなす角は、26.41°-32.57°で
ある、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項7】
前記第一の被覆層における
結晶性ピロリン酸塩の結晶度は、10%~100%で
ある、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項8】
前記第二の被覆層の被覆量は、前記コアの重量を基準として、0重量%よりも大きく且つ6重量%以下で
ある、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項9】
前記Aは、Fe、Ti、V、Ni、CoとMgから選択される少なくとも二つの元素である、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項10】
前記正極活物質のLi/Mnのアンチサイト欠陥濃度は、5.1%以下で
ある、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項11】
前記正極活物質がリチウムを完全に放出する前後の格子変化率は、7.5%以下で
ある、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項12】
前記正極活物質の表面酸素の原子価状態は、-1.83以下で
ある、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項13】
前記正極活物質の3トンにおける圧密密度は、2.0g/cm
3以上で
ある、請求項
1に記載の正極活物質。
【請求項14】
正極活物質の製造方法であって、
コア材料を提供するステップであって、前記コア材料は、Li
1+xMn
1-yA
yP
1-zR
zO
4を含み、ここで、前記xは、-0.100~0.100の範囲内の任意の数値であり、前記yは、0.001~0.500の範囲内の任意の数値であり、前記zは、0.001~0.100の範囲内の任意の数値であり、前記Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、NbとGeから選択される一つ又は複数の元素であり
、前記Rは、B、Si、NとSから選択される一つ又は複数の元素であるステップと、
結晶性ピロリン酸塩M
aP
2O
7を含む粉末と、炭素源及び
結晶性酸化物M′
bO
cを含む懸濁液とを提供し、前記コア材料と、
結晶性ピロリン酸塩M
aP
2O
7を含む粉末と、炭素源及び
結晶性酸化物M′
bO
cを含む懸濁液とを混合し、焼結して、正極活物質を得る被覆ステップであって、前記aは、0よりも大きく且つ4以下であり、前記bは、0よりも大きく且つ2以下であり、前記cは、0よりも大きく且つ5以下であり、前記Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、NbとAlから選択される一つ又は複数の元素であり
、前記M′は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、IIIA族元素、IVA族元素、ランタン系元素とSbから選択される一つ又は複数の元素で
ある被覆ステップとを含み、
ここで、前記正極活物質は、コア-シェル構造を有し、この正極活物質は、コアと、前記コアを被覆するシェルとを含み、前記コアは、Li
1+xMn
1-yA
yP
1-zR
zO
4を含み、前記シェルは、前記コアを被覆する第一の被覆層と、前記第一の被覆層を被覆する第二の被覆層とを含み、前記第一の被覆層は、結晶性ピロリン酸塩M
aP
2O
7と結晶性酸化物M′
bO
cとを含み、前記第二の被覆層は、炭素を含む、正極活物質の製造方法。
【請求項15】
前記コア材料を提供するステップは、
マンガン源と、元素Aの源と酸とを混合し、混合物を得るステップ(1)と、
前記混合物を、リチウム源、リン源、元素Rの源及
び溶媒と混合し、不活性ガスの保護で焼結し、Li
1+xMn
1-yA
yP
1-zR
zO
4を含むコア材料を得るステップ(2)とを含
む、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記
結晶性ピロリン酸塩M
aP
2O
7を含む粉末は、以下のステップによって製造され、
元素Mの源と、リン源と
、溶媒とを混合し、混合物を得、前記混合物のpHを4-6に調節し、混合し続け、乾燥を経て、焼結す
る、請求項14又は15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記被覆ステップにおける焼結温度は、500℃-800℃であり、焼結時間は、4-10hである、請求項1
4に記載の製造方法。
【請求項18】
正極極板であって、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一つの表面に設置される正極膜層とを含み、前記正極膜層は、請求項
1に記載の正極活物
質を含
む、正極極板。
【請求項19】
請求項
1に記載の正極活物
質を含む、二次電池。
【請求項20】
請求項19に記載の二次電池を含む、ことを特徴とする電池モジュール。
【請求項21】
請求項20に記載の電池モジュールを含む、ことを特徴とする電池パック。
【請求項22】
請求項19に記載の二次電池、請求項20に記載の電池モジュールと請求項21に記載の電池パックから選択される少なくとも一つを含む、ことを特徴とする電力消費装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、二次電池技術分野に関し、特に正極活物質、正極活物質の製造方法、正極極板、二次電池、電池モジュール、電池パックと電力消費装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池の応用範囲がますます広くなるにつれて、二次電池は、水力、火力、風力と太陽光発電所などのエネルギー貯蔵電源システム、及び電動工具、電動自転車、電動バイク、電気自動車、軍事装備、航空宇宙などの複数の分野に広く応用されている。二次電池は、飛躍的な発展を遂げているため、そのエネルギー密度、サイクル性能と安全性能などもより高く要求されている。二次電池の従来の正極活物質として、リン酸マンガンリチウムは、充放電中に、Li/Mnのアンチサイト欠陥が発生しやすく、マンガンの溶出が比較的深刻であり、二次電池のグラム容量に影響を与え、二次電池の安全性能とサイクル性能が悪くなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本出願は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来のリン酸マンガンリチウム正極活物質が充放電中にLi/Mnのアンチサイト欠陥が発生しやすく、マンガンの溶出が比較的深刻であるという問題を解決することによって、二次電池の容量が低く、安全性能とサイクル性能が悪いなどの問題を解決するための正極活物質、正極活物質の製造方法、正極極板、二次電池、電池モジュール、電池パックと電力消費装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するために、本出願の第一の態様は、コア-シェル構造を有する正極活物質を提供し、この正極活物質は、コアと、コアを被覆するシェルとを含み、
コアは、Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4を含み、ここで、xは、-0.100~0.100の範囲内の任意の数値であり、yは、0.001~0.500の範囲内の任意の数値であり、zは、0.001~0.100の範囲内の任意の数値であり、Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、NbとGeから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にZn、Fe、Ti、V、Ni、CoとMgから選択される一つ又は複数の元素であり、Rは、B、Si、NとSから選択される一つ又は複数の元素であり、
シェルは、コアを被覆する第一の被覆層と、第一の被覆層を被覆する第二の被覆層とを含み、
ここで、第一の被覆層は、結晶性ピロリン酸塩MaP2O7と結晶性酸化物M′bOcとを含み、ここで、aは、0よりも大きく且つ4以下であり、bは、0よりも大きく且つ2以下であり、cは、0よりも大きく且つ5以下であり、Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、NbとAlから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にLi、FeとZrから選択される一つ又は複数の元素であり、M′は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、IIIA族元素、IVA族元素、ランタン系元素とSbから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にLi、Be、B、Na、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、W、LaとCeから選択される一つ又は複数の元素であり、さらに選択的にMg、Al、Si、Zn、ZrとSnから選択される一つ又は複数の元素であり、
第二の被覆層は、炭素を含む。
【0005】
本出願の発明者は、実際作業において、リン酸マンガンリチウム正極活物質が深い充放電中において、Li/Mnのアンチサイト欠陥が発生しやすく、マンガンの溶出が比較的深刻であることを発見した。溶出されたマンガンは、負極に遷移した後、金属マンガンに還元される。これらの発生した金属マンガンは、「触媒」に相当し、負極表面のSEI膜(solid electrolyte interphase、固体電解質界面膜)の分解を触媒することができ、発生した副生成物の一部は、ガスであり、電池の膨張を引き起こしやすく、二次電池の安全性能に影響を与え、別の部分は、負極表面に堆積し、リチウムイオンが負極に出入りするチャンネルを妨げ、二次電池のインピーダンスを増加させ、電池の動力学的性能とサイクル性能に影響を与える。なお、損失したSEI膜を補うために、電解液と電池内部の活性リチウムが絶えず消費され、二次電池の容量維持率に不可逆的な影響を与える。
【0006】
それによって、本出願人は、化合物LiMnPO4のMnサイトとPサイトに特定の元素を同時に特定量ドーピングし、化合物表面にピロリン酸塩と酸化物を含む第一の被覆層を被覆し且つ第一の被覆層表面に炭素を含む第二の被覆層を被覆して正極活物質を得ることにより、Li/Mnのアンチサイト欠陥の発生を大幅に減少させ、マンガンの溶出を減少させて格子変化率を低減させ、二次電池の容量を向上させ、二次電池のサイクル性能、高温保存性能と安全性能を改善できることを意外に発見した。
【0007】
特に断りのない限り、化学式Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4において、Aが二つ以上の元素である場合、上記のy数値範囲の限定は、Aとなる元素の種類毎の化学量論数の限定だけでなく、Aとなるそれぞれの元素の化学量論数の和の限定でもある。例えば、Aが二つ以上の元素A1、A2……Anである場合、A1、A2……Anのそれぞれの化学量論数y1、y2……ynは、いずれも本出願がyを限定する数値範囲内に入る必要があり、且つy1、y2……ynの和も、この数値範囲内に入る必要がある。類似的に、Rが二つ以上の元素である場合、本出願におけるRの化学量論数の数値範囲の限定も、上記意味を有する。
【0008】
特に断りのない限り、化学式MaP2O7において、Mが二つ以上の元素である場合、上記のa数値範囲の限定は、Mとなる元素の種類毎の化学量論数の限定だけでなく、Mとなるそれぞれの元素の化学量論数の和の限定でもある。例えば、Mが二つ以上の元素M1、M2……Mnである場合、M1、M2……Mnのそれぞれの化学量論数a1、a2……anは、いずれも本出願がaを限定する数値範囲内に入る必要があり、且つa1、a2……anの和も、この数値範囲内に入る必要がある。類似的に、化学式M′bOcにおけるM′が二つ以上の元素である場合、本出願におけるM′の化学量論数bの数値範囲の限定も、上記意味を有する。
【0009】
第一の態様の任意の実施の形態では、第一の被覆層におけるピロリン酸塩の格子面間隔は、0.293-0.326nmであり、結晶方向(111)のなす角は、26.41°-32.57°であり、
選択的に、前記第一の被覆層におけるピロリン酸塩の格子面間隔は、0.300-0.310nmであり、及び/又は、
選択的に、前記第一の被覆層におけるピロリン酸塩の結晶方向(111)のなす角は、29.00°-30.00°である。
【0010】
第一の被覆層におけるピロリン酸塩の格子面間隔と結晶方向(111)のなす角が上記範囲にある場合、被覆層における不純物相を効果的に回避することができ、それによって材料のグラム容量を高め、二次電池のサイクル性能とレート性能を向上させる。
【0011】
第一の態様の任意の実施の形態では、コアにおいて、yと1-yとの比は、1:10~10:1であり、選択的に1:4~1:1である。ここで、yは、Mnサイトにドーピングされる元素の化学量論数の和を表す。上記条件を満たしている場合、正極活物質で製造された二次電池のエネルギー密度とサイクル性能をさらに高めることができる。
【0012】
第一の態様の任意の実施の形態では、コアにおいて、zと1-zとの比は、1:9~1:999であり、選択的に1:499~1:249である。ここで、zは、Pサイトにドーピングされる元素の化学量論数の和を表す。上記条件を満たしている場合、正極活物質で製造された二次電池のエネルギー密度とサイクル性能をさらに高めることができる。
【0013】
第一の態様の任意の実施の形態では、第一の被覆層の被覆量は、コアの重量を基準として、0重量%よりも大きく且つ7重量%以下であり、選択的に4-5.6重量%である。
【0014】
第一の被覆層の被覆量が上記範囲内にある場合、マンガンの溶出をさらに抑制するとともに、リチウムイオンの伝送をさらに促進し、二次電池の低インピーダンスを維持し、二次電池の動力学的性能を改善することができる。
【0015】
第一の態様の任意の実施の形態では、第一の被覆層におけるピロリン酸塩と酸化物との重量比は、1:3~3:1であり、選択的に1:3~1:1である。
【0016】
ピロリン酸塩と酸化物とを適切に配合することにより、両者の相乗効果を十分に発揮させるのに有利であり、マンガンの溶出をさらに抑制するとともに、二次電池の比較的低いインピーダンスを維持することができる。
【0017】
第一の態様の任意の実施の形態では、第一の被覆層におけるピロリン酸塩の結晶度は、10%~100%であり、選択的に50%~100%である。
【0018】
本出願のリン酸マンガンリチウム正極活物質の第一の被覆層において、一定の結晶度を備えるピロリン酸塩は、第一の被覆層の構造安定性を維持し、格子欠陥を減少させるのに有利である。これにより、一方では、ピロリン酸塩がマンガンの溶出を妨げる作用を十分に発揮させるのに有利であり、他方では、表面のヘテロリチウム含有量を減少させ、表面の酸素の原子価状態を低減させるのにも有利であり、それによって正極材料と電解液との界面副反応を減少させ、電解液の消費を減少させ、二次電池のサイクル性能と安全性能を改善する。
【0019】
第一の態様の任意の実施の形態では、第二の被覆層の被覆量は、コアの重量を基準として、0重量%よりも大きく且つ6重量%以下であり、選択的に3-5重量%である。
【0020】
第二の被覆層である炭素含有層は、一方で、「バリア」機能を発揮し、正極活物質と電解液との直接接触を回避することによって、電解液による活物質の腐食を減少させ、電池の高温での安全性能を向上させることができる。他方では、比較的強い導電能力を備えており、電池の内部抵抗を低減させることによって、二次電池の動力学的性能を改善することができる。第二の被覆層の被覆量が上記範囲にある場合、正極活物質の比較的高いグラム容量を維持する前提で、さらに二次電池の動力学的性能と安全性能を改善することができる。
【0021】
第一の態様の任意の実施の形態では、正極活物質において、Aは、Fe、Ti、V、Ni、CoとMgのうちの少なくとも二つの元素から選択される。上記範囲内でドーピング元素を選択することにより、ドーピング効果を補強するのに有利であり、一方で、格子変化率をさらに減小させることによって、マンガンの溶出を抑制し、電解液と活性リチウムの消費を減少させ、他方では、表面の酸素活性をさらに低減させ、正極活物質と電解液との界面副反応を減少させるのにも有利であり、それによって電池のサイクル性能と高温保管性能を改善する。
【0022】
第一の態様の任意の実施の形態では、正極活物質のLi/Mnのアンチサイト欠陥濃度は、5.1%以下であり、選択的に4%以下であり、さらに選択的に2%以下である。本出願の正極活物質では、Li/Mnのアンチサイト欠陥とは、LiMnPO4格子において、Li+とMn2+の位置が入れ替わることである。Li+伝送チャンネルが一次元チャンネルであり、Mn2+がLi+伝送チャンネルを遷移しにくいため、アンチサイト欠陥のMn2+は、Li+の伝送を阻害する。Li/Mnのアンチサイト欠陥濃度を低いレベルに抑えることにより、LiMnPO4のグラム容量とレート性能を改善することができる。
【0023】
第一の態様の任意の実施の形態では、正極活物質がリチウムを完全に放出する前後の格子変化率は、7.5%以下であり、選択的に6%以下であり、さらに選択的に4%以下である。LiMnPO4のリチウム放出プロセスは、二相反応である。二相の界面応力は、格子変化率の大きさによって決まり、格子変化率が小さいほど、界面応力が小さいほど、Li+伝送が容易になる。そのため、コアの格子変化率の減少は、Li+の伝送能力を補強するのに有利であり、それによって二次電池のレート性能を改善する。
【0024】
第一の態様の任意の実施の形態では、正極活物質の表面酸素の原子価状態は、-1.83以下であり、選択的に-1.88以下であり、さらに選択的に-1.98~-1.88である。これは、酸素の化合物における原子価状態が高いほど、その電子を得る能力が高く、即ち酸化性が強いためである。一方、本出願の正極活物質では、酸素の表面原子価状態を比較的低いレベルに制御することにより、正極材料表面の反応活性を低減させ、正極材料と電解液との界面副反応を減少させることができ、それによって二次電池のサイクル性能と高温保管性能を改善する。
【0025】
第一の態様の任意の実施の形態では、正極活物質の3トン(T)での圧密密度は、2.0g/cm3以上であり、選択的に2.2g/cm3以上である。正極活物質の圧密密度が高いほど、即ち単位体積当たりの活物質の重量が大きくなり、二次電池の体積エネルギー密度を高めるのにさらに有利である。
【0026】
本出願の第二の態様は、正極活物質の製造方法を提供し、この製造方法は、
コア材料を提供するステップであって、コア材料は、Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4を含み、ここで、xは、-0.100~0.100の範囲内の任意の数値であり、yは、0.001~0.500の範囲内の任意の数値であり、zは、0.001~0.100の範囲内の任意の数値であり、Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、NbとGeから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にZn、Fe、Ti、V、Ni、CoとMgから選択される一つ又は複数の元素であり、Rは、B、Si、NとSから選択される一つ又は複数の元素であるステップと、
ピロリン酸塩MaP2O7を含む粉末と、炭素源及び酸化物M′bOcを含む懸濁液とを提供し、コア材料と、ピロリン酸塩MaP2O7を含む粉末と、炭素源及び酸化物M′bOcを含む懸濁液とを混合し、焼結して、正極活物質を得る被覆ステップであって、aは、0よりも大きく且つ4以下であり、bは、0よりも大きく且つ2以下であり、cは、0よりも大きく且つ5以下であり、Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、NbとAlから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にLi、FeとZrから選択される一つ又は複数の元素であり、M′は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、IIIA族元素、IVA族元素、ランタン系元素とSbから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にLi、Be、B、Na、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、W、LaとCeから選択される一つ又は複数の元素であり、さらに選択的にMg、Al、Si、Zn、ZrとSnから選択される一つ又は複数の元素である被覆ステップとを含み、
ここで、正極活物質は、コア-シェル構造を有し、この正極活物質は、コアと、コアを被覆するシェルとを含み、コアは、Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4を含み、シェルは、コアを被覆する第一の被覆層と、第一の被覆層を被覆する第二の被覆層とを含み、第一の被覆層は、結晶性ピロリン酸塩MaP2O7と結晶性酸化物M′bOcとを含み、第二の被覆層は、炭素を含み、ここで、A、R、M、M′、x、y、z、a、b、cは、前述のように定義される。
【0027】
それによって、本出願人は、化合物LiMnPO4のMnサイトとPサイトに特定の元素を同時に特定量ドーピングし、化合物表面にピロリン酸塩と酸化物を含む第一の被覆層を被覆し且つ第一の被覆層表面に炭素を含む第二の被覆層を被覆して正極活物質を得ることにより、Li/Mnのアンチサイト欠陥の発生を大幅に減少させ、マンガンの溶出を減少させて格子変化率を低減させ、二次電池の容量を向上させ、二次電池のサイクル性能、高温保存性能と安全性能を改善できることを意外に発見した。
【0028】
本出願の第二の態様の任意の実施の形態では、コア材料を提供するステップは、
マンガン源と、元素Aの源と酸とを混合し、混合物を得るステップ(1)と、
混合物を、リチウム源、リン源、元素Rの源及び選択的な溶媒と混合し、不活性ガスの保護で焼結し、Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4を含むコア材料を得るステップ(2)とを含む。
【0029】
本出願の第二の態様の任意の実施の形態では、ステップ(1)は、20℃-120℃で、選択的に25℃-80℃で行われ、及び/又は、ステップ(1)において、500-700rpmで60-420分間攪拌して混合する。
【0030】
本出願の第二の態様の任意の実施の形態では、元素Aの源は、元素Aの単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物と水素酸化物のうちの一つ又は複数から選択され、及び/又は、元素Rの源は、元素Rの単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物、水素酸化物と無機酸のうちの一つ又は複数から選択される。
【0031】
本出願の第二の態様の任意の実施の形態では、ピロリン酸塩MaP2O7を含む粉末は、以下のステップによって製造され、
元素Mの源と、リン源と、選択的な溶媒とを混合し、混合物を得、混合物のpHを4-6に調節し、混合し続け、乾燥を経て、焼結すればよい。
【0032】
本出願の第二の態様の任意の実施の形態では、ピロリン酸塩MaP2O7を含む粉末を製造するステップにおいて、乾燥は、100℃-300℃で4-8h乾燥することであり、選択的に150℃-200℃で乾燥することであり、及び/又は、焼結は、500℃-800℃で且つ不活性ガスの保護で4-10h焼結することであり、選択的に650℃-800℃で焼結することである。
【0033】
本出願の第二の態様の任意の実施の形態では、被覆ステップにおける焼結温度は、500-800℃であり、焼結時間は、4-10hである。
【0034】
本出願の第三の態様は、正極極板を提供し、この正極極板は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一つの表面に設置される正極膜層とを含み、正極膜層は、本出願の第一の態様の正極活物質又は本出願の第二の態様の製造方法によって製造される正極活物質を含み、選択的に、正極活物質の正極膜層における含有量は、正極膜層の総重量を基準として、10重量%以上である。
【0035】
本出願の第三の態様の任意の実施の形態では、正極活物質の正極膜層における含有量は、正極膜層の総重量を基準として、90-99.5重量%である。二次電池が比較的高い容量と比較的に良いサイクル性能、高温保存性能と安全性能を有することを保証する。
【0036】
本出願の第四の態様は、二次電池を提供し、この二次電池は、本出願の第一の態様の正極活物質又は本出願の第二の態様の製造方法によって製造される正極活物質又は本出願の第三の態様の正極極板を含む。
【0037】
本出願の第五の態様は、電池モジュールを提供し、この電池モジュールは、本出願の第四の態様の二次電池を含む。
【0038】
本出願の第六の態様は、電池パックを提供し、この電池パックは、本出願の第五の態様の電池モジュールを含む。
【0039】
本出願の第七の態様は、電力消費装置を提供し、この電力消費装置は、本出願の第四の態様の二次電池、本出願の第五の態様の電池モジュールと本出願の第六の態様の電池パックから選択される少なくとも一つを含む。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本出願の一実施の形態のコア-シェル構造を有する正極活物質の概略図である。
【
図2】本出願の一実施の形態の二次電池の概略図である。
【
図3】
図2に示す本出願の一実施の形態の二次電池の分解図である。
【
図4】本出願の一実施の形態の電池モジュールの概略図である。
【
図5】本出願の一実施の形態の電池パックの概略図である。
【
図6】
図5に示す本出願の一実施の形態の電池パックの分解図である。
【
図7】本出願の一実施の形態の二次電池を電源として用いる電力消費装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面を適当に参照しながら、本出願の正極活物質、正極活物質の製造方法、正極極板、二次電池、電池モジュール、電池パックと電力消費装置を具体的に開示した実施の形態を詳細に説明する。しかしながら、必要のない詳細な説明を省略する場合がある。例えば、周知の事項に対する詳細な説明、実際に同じである構造に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に長くなることを回避し、当業者に容易に理解させるためである。なお、図面及び以下の説明は、当業者に本出願を十分に理解させるために提供するものであり、特許請求の範囲に記載されたテーマを限定するものではない。
【0042】
本出願に開示された「範囲」は、下限と上限の形式で限定され、与えられた範囲は、一つの下限と一つの上限を選定することで限定されるものであり、選定された下限と上限は、特定の範囲の境界を限定した。このように限定される範囲は、端値を含むか又は含まないものであってもよく、且つ任意の組み合わせが可能であり、即ち任意の下限は、任意の上限と組み合わせて、一つの範囲を形成することができる。例えば、特定のパラメータに対して60-120と80-110の範囲がリストアップされている場合、60-110と80-120の範囲も想定できると理解される。なお、最小範囲値として1と2がリストアップされており、最大範囲値として3、4及び5がリストアップされている場合、1-3、1-4、1-5、2-3、2-4と2-5という範囲がすべて想定できる。本出願では、特に断りのない限り、「a-b」という数値範囲は、a~bの任意の実数の組み合わせの短縮表現を表し、ここで、aとbはいずれも実数である。例えば、数値範囲「0-5」は、本明細書においてすでに「0-5」の間のすべての実数をリストアップしたことを表し、「0-5」は、これらの数値の組み合わせの短縮表現だけである。また、あるパラメータが≧2の整数であると表現すると、このパラメータが例えば整数2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12などであることを開示していることに相当する。
【0043】
本出願では「ある値以下」、「ある値以上」の範囲は、ある値を上限又は下限として限定された範囲を表す。
【0044】
特に説明しない場合、本出願のすべての実施の形態及び選択的な実施の形態は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成することができる。
【0045】
特に説明しない場合、本出願のすべての技術的特徴及び選択的な技術的特徴は、互いに組み合わせて新たな技術案を形成することができる。
【0046】
特に説明しない場合、本出願のすべてのステップは、順番に行われてもよく、ランダムに行われてもよく、好ましくは、順番に行われる。例えば、方法がステップ(a)と(b)を含むことは、方法が順番に行われるステップ(a)と(b)を含んでもよく、順番に行われるステップ(b)と(a)を含んでもよいことを表す。例えば、言及された方法がステップ(c)をさらに含んでもよいことは、ステップ(c)がいずれの順序で方法に加えてもよいことを表し、例えば方法は、ステップ(a)、(b)及び(c)を含んでもよく、ステップ(a)、(c)及び(b)を含んでもよく、ステップ(c)、(a)及び(b)などを含んでもよい。
【0047】
特に説明しない場合、本出願に言及された「含む」と「包含」は、開放型を表し、閉鎖型であってもよい。例えば、「含む」と「包含」は、リストアップされていない他の成分をさらに含むか又は包含してもよく、リストアップされている成分のみを含むか又は包含してもよいことを表してもよい。
【0048】
特に説明しない場合、本出願では、用語である「又は」は包括的である。例を挙げると、「A又はB」というフレーズは、「A、B、又はAとBとの両方」を表す。より具体的には、Aが真であり(又は存在し)且つBが偽である(又は存在しない)条件と、Aが偽である(又は存在しない)が、Bが真である(又は存在する)条件と、AとBがいずれも真である(又は存在する)条件とのいずれも「A又はB」を満たしている。
【0049】
特に説明しない場合、本出願では、メジアン粒径Dv50とは、正極活物質の累計体積分布百分率が50%に達した時に対応する粒径である。本出願では、正極活物質のメジアン粒径Dv50は、レーザ回折粒径分析法を用いて測定することができる。例えば、規格GB/T 19077-2016を参照し、レーザ粒度分析計(例えばMalvern Master Size 3000)を用いて測定する。
【0050】
特に説明しない場合、本出願では、用語である「被覆層」とは、コア上に被覆される物質層であり、物質層は、コアを完全又は部分的に被覆してもよく、「被覆層」は、ただ記述を容易にするために使用され、本発明を制限することを意図していない。同様に、用語である「被覆層の厚さ」とは、コア上に被覆される物質層のコア径方向における厚さである。
【0051】
特に説明しない場合、本出願では、用語である「源」とは、ある元素の源となる化合物であり、実例として、「源」の種類は、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、単体、ハロゲン化物、酸化物と水素酸化物などを含むが、それらに限らない。
【0052】
[二次電池]
二次電池とは、充電電池又は蓄電池とも呼ばれ、電池放電後に充電の方式で活物質を活性化させて使用し続けることができる電池である。
【0053】
一般的には、二次電池は、正極極板と、負極極板と、セパレータと、電解液とを含む。電池の充放電中に、活性イオン(例えばリチウムイオン)は、正極極板と負極極板との間を往復して吸蔵と放出する。セパレータは、正極極板と負極極板との間に設置され、主に正負極の短絡を防止する役割を果たすとともに、活性イオンを通過させることができる。電解液は、正極極板と負極極板との間で、主に活性イオンを伝導する役割を果たす。
【0054】
[正極活物質]
本出願は、コア-シェル構造を有する正極活物質を提供し、この正極活物質は、コアと、コアを被覆するシェルとを含み、
コアは、Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4を含み、ここで、xは、-0.100~0.100の範囲内の任意の数値であり、yは、0.001~0.500の範囲内の任意の数値であり、zは、0.001~0.100の範囲内の任意の数値であり、Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、NbとGeから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にZn、Fe、Ti、V、Ni、CoとMgから選択される一つ又は複数の元素であり、Rは、B、Si、NとSから選択される一つ又は複数の元素であり、
シェルは、コアを被覆する第一の被覆層と、第一の被覆層を被覆する第二の被覆層とを含み、
ここで、第一の被覆層は、結晶性ピロリン酸塩MaP2O7と結晶性酸化物M′bOcとを含み、ここで、aは、0よりも大きく且つ4以下であり、bは、0よりも大きく且つ2以下であり、cは、0よりも大きく且つ5以下であり、Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、NbとAlから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にLi、FeとZrから選択される一つ又は複数の元素であり、M′は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、IIIA族元素、IVA族元素、ランタン系元素とSbから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にLi、Be、B、Na、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、W、LaとCeから選択される一つ又は複数の元素であり、さらに選択的にMg、Al、Si、Zn、ZrとSnから選択される一つ又は複数の元素であり、
第二の被覆層は、炭素を含む。
【0055】
図1に示すように、本出願のコア-シェル構造を有する正極活物質は、コア11と、コア11を被覆する第一の被覆層12と、第一の被覆層12を被覆する第二の被覆層13とを含む。ここで、コア11は、Li
1+xMn
1-yA
yP
1-zR
zO
4を含み、コア11のリン酸マンガンリチウムのマンガンサイトにドーピングされる元素Aは、リチウム放出中におけるリン酸マンガンリチウムの格子変化率を減少させ、リン酸マンガンリチウム正極材料の構造安定性を向上させ、マンガンの溶出を大幅に減少させて粒子表面の酸素活性を低減させるのに寄与し、リンサイトにドーピングされる元素Rは、Mn-O結合長の変化のし易さを変えるのに寄与し、それによってリチウムイオン遷移障壁を低減させ、リチウムイオンの遷移を促進し、二次電池のレート性能を向上させる。第一の被覆層12は、結晶性ピロリン酸塩と結晶性酸化物とを含み、遷移金属のピロリン酸塩における遷移障壁が比較的高い(>1eV)ため、遷移金属の溶出を効果的に抑制することができ、結晶性酸化物は、高い構造安定性を備えるとともに、表面活性が低いため、結晶性酸化物の被覆により、界面副反応を効果的に軽減することができ、それによって電池の高温サイクルと高温保存などの性能を改善する。また、第二の被覆層13が炭素含有層であるため、LiMnPO
4の導電性能と脱溶媒能力を効果的に改善することができる。なお、第二の被覆層13の「バリア」作用により、マンガンイオンの電解液への遷移をさらに阻害し、且つ電解液による活物質の腐食を減少させることができる。そのため、本出願の正極活物質は、リン酸マンガンリチウムに特定の元素ドーピングと表面被覆を行うことにより、Li/Mnのアンチサイト欠陥の発生を減少させ、リチウム放出中におけるMnの溶出を効果的に抑制するとともに、リチウムイオンの遷移を促進することができ、それによって電池コアのレート性能を改善し、二次電池のサイクル性能、高温性能と安全性能を向上させる。指摘すべきこととして、本出願の正極活物質がLiMnPO
4ドーピング前の主な特徴ピークの位置とほぼ一致していることは、ドーピングされたリン酸マンガンリチウム正極活物質に不純物相がなく、二次電池性能の改善が、不純物相によるものではなく、主に元素ドーピングによるものであることを示す。
【0056】
いくつかの実施の形態では、Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4全体は、電気的中性を維持する。
【0057】
特に断りのない限り、化学式Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4において、Aが二つ以上の元素である場合、上記のy数値範囲の限定は、Aとなる元素の種類毎の化学量論数の限定だけでなく、Aとなるそれぞれの元素の化学量論数の和の限定でもある。例えば、Aが二つ以上の元素A1、A2……Anである場合、A1、A2……Anのそれぞれの化学量論数y1、y2……ynは、いずれも本出願がyを限定する数値範囲内に入る必要があり、且つy1、y2……ynの和も、この数値範囲内に入る必要がある。類似的に、Rが二つ以上の元素である場合、本出願におけるRの化学量論数の数値範囲の限定も、上記意味を有する。
【0058】
特に断りのない限り、化学式MaP2O7において、Mが二つ以上の元素である場合、上記のa数値範囲の限定は、Mとなる元素の種類毎の化学量論数の限定だけでなく、Mとなるそれぞれの元素の化学量論数の和の限定でもある。例えば、Mが二つ以上の元素M1、M2……Mnである場合、M1、M2……Mnのそれぞれの化学量論数a1、a2……Anは、いずれも本出願がaを限定する数値範囲内に入る必要があり、且つa1、a2……anの和も、この数値範囲内に入る必要がある。類似的に、化学式M′bOcにおけるM′が二つ以上の元素である場合、本出願におけるM′の化学量論数bの数値範囲の限定も、上記意味を有する。
【0059】
いくつかの実施の形態では、AがZn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、NbとGeから選択される一つ、二つ、三つ又は四つの元素である場合、Ayは、Qn1Dn2En3Kn4であり、ここで、n1+n2+n3+n4=yであり、且つn1、n2、n3、n4は、いずれも正数であり且つ同時にゼロではなく、Q、D、E、Kは、それぞれ独立してZn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、NbとGeから選択される一つであり、選択的に、Q、D、E、Kのうちの少なくとも一つは、Feである。選択的に、n1、n2、n3、n4のうちの一つは、ゼロであり、残りは、ゼロではなく、さらに選択的に、n1、n2、n3、n4のうちの二つは、ゼロであり、残りは、ゼロではなく、さらに選択的に、n1、n2、n3、n4のうちの三つは、ゼロであり、残りは、ゼロではない。コアLi1+xMn1-yAyP1-zRzO4において、マンガンサイトに一つ、二つ、三つ又は四つの上記A元素をドーピングすることは、有利であり、選択的に、一つ、二つ又は三つの上記A元素をドーピングし、なお、リンサイトに一つ又は二つのR元素をドーピングすることは、有利であり、このようにドーピング元素を均一に分布させるのに有利である。
【0060】
いくつかの実施の形態では、x、yとzの値は、コア全体を電気的中性に維持するという条件を満たす。
【0061】
コアLi1+xMn1-yAyP1-zRzO4において、xの大きさは、AとRの原子価状態の大きさ及びyとzの大きさの影響を受け、系全体が電気的中性を呈することを保証する。xの値が小さすぎると、コア系全体のリチウム含有量の低下を引き起こし、材料のグラム容量の発揮に影響を与える。y値は、すべてのドーピング元素の総量を制限し、yが小さすぎると、即ちドーピング量が少なすぎると、ドーピング元素は、機能せず、yが0.5を超えると、系におけるMnの含有量が少なくなり、材料の電圧プラトーに影響を与える。R元素は、Pの位置にドーピングされ、P-O四面体が比較的安定であるが、z値が大きすぎると材料の安定性に影響を与えるため、z値を0.001-0.100に限定する。
【0062】
また、コア系全体が電気的中性を維持することは、正極活物質における欠陥とヘテロ相をできる限り少なくすることを保証することができる。正極活物質に過剰な遷移金属(例えばマンガン)が存在する場合、この材料系自体の構造が比較的安定である、過剰な遷移金属は、単体の形式で析出されるか、又は格子内部にヘテロ相を形成する可能性が高く、電気的中性を維持することにより、このようなヘテロ相を最小限に抑えることができる。また、系の電気的中性を保証することは、一部の場合に材料にリチウム空孔を発生させることによって、材料の動力学的性能をより良好にすることもできる。
【0063】
プロセス制御(例えば、様々な源の材料を十分に混合し、粉砕すること)により、各元素が格子において凝集することなく均一に分布することを保証することができる。A元素とR元素をドーピングした後のリン酸マンガンリチウムのXRD図における主な特徴ピーク位置が、ドーピングしていないLiMnPO4と一致していることは、ドーピング過程において不純物相が導入されていないことを示すため、コア性能の改善は、ヘテロ相によるものではなく、主に元素ドーピングによるものである。本出願の発明者は、正極活物質を製造した後、集束イオンビーム(FIBと略称する)によりすでに製造された正極活物質粒子の中間領域を切り取り、透過電子顕微鏡(TEMと略称する)及びX線分光分析(EDSと略称する)により試験を行ったところ、各元素が凝集することなく均一に分布することを発見した。
【0064】
いくつかの実施の形態では、a、bとcの値は、MaP2O7とM′bOcを電気的中性に維持するという条件を満たす。
【0065】
いくつかの実施の形態では、第一の被覆層におけるピロリン酸塩の格子面間隔は、0.293-0.326nmであり、結晶方向(111)のなす角は、26.41°-32.57°であり、
選択的に、前記第一の被覆層におけるピロリン酸塩の格子面間隔は、0.300-0.310nm(例えば0.303nm)であり、及び/又は、
選択的に、前記第一の被覆層におけるピロリン酸塩の結晶方向(111)のなす角は、29.00°-30.00°(例えば29.496°)である。
【0066】
第一の被覆層におけるピロリン酸塩の格子面間隔と結晶方向(111)のなす角が上記範囲にある場合、被覆層における不純物相を効果的に回避することができ、それによって材料のグラム容量を高め、二次電池のサイクル性能とレート性能を向上させる。
【0067】
いくつかの実施の形態では、コアにおいて、yと1-yとの比は、1:10~10:1であり、選択的に1:4~1:1である。ここで、yは、Mnサイトにドーピングされる元素の化学量論数の和を表す。上記条件を満たしている場合、正極活物質で製造された二次電池のエネルギー密度とサイクル性能をさらに高めることができる。
【0068】
いくつかの実施の形態では、コアにおいて、zと1-zとの比は、1:9~1:999であり、選択的に1:499~1:249である。ここで、zは、Pサイトにドーピングされる元素の化学量論数の和を表す。上記条件を満たしている場合、正極活物質で製造された二次電池のエネルギー密度とサイクル性能をさらに高めることができる。
【0069】
いくつかの実施の形態では、第一の被覆層の被覆量は、コアの重量を基準として、0重量%よりも大きく且つ7重量%以下であり、選択的に4-5.6重量%である。
【0070】
第一の被覆層の被覆量が上記範囲内にある場合、マンガンの溶出をさらに抑制するとともに、リチウムイオンの伝送をさらに促進し、二次電池の低インピーダンスを維持し、二次電池の動力学的性能を改善することができる。
【0071】
いくつかの実施の形態では、第一の被覆層におけるピロリン酸塩と酸化物との重量比は、1:3~3:1であり、選択的に1:3~1:1である。
【0072】
ピロリン酸塩と酸化物とを適切に配合することにより、両者の相乗効果を十分に発揮させるのに有利であり、マンガンの溶出をさらに抑制するとともに、二次電池の比較的低いインピーダンスを維持することができる。
【0073】
いくつかの実施の形態では、第一の被覆層の厚さは、1-100nmである。それによって、遷移金属の第一の被覆層における遷移障壁が比較的高く、遷移金属の溶出を効果的に減少することができる。そのうちの酸化物は、比較的高い安定性を有し、界面副反応を効果的に軽減することができ、それによって材料の高温安定性を高める。
【0074】
いくつかの実施の形態では、第二の被覆層の厚さは、1-100nmである。
【0075】
いくつかの実施の形態では、第一の被覆層におけるピロリン酸塩の結晶度は、10%~100%であり、選択的に50%~100%である。
【0076】
本出願のリン酸マンガンリチウム正極活物質の第一の被覆層において、一定の結晶度を備えるピロリン酸塩は、第一の被覆層の構造安定性を維持し、格子欠陥を減少させるのに有利である。これにより、一方では、ピロリン酸塩がマンガンの溶出を妨げる作用を十分に発揮させるのに有利であり、他方では、表面のヘテロリチウム含有量を減少させ、表面の酸素の原子価状態を低減させるのにも有利であり、それによって正極材料と電解液との界面副反応を減少させ、電解液の消費を減少させ、二次電池のサイクル性能と安全性能を改善する。
【0077】
いくつかの実施の形態では、正極活物質の第一の被覆層ピロリン酸塩の結晶度は、当分野における一般的な技術手段によって試験され、例えば密度法、赤外分光法、示差走査熱量測定法と核磁気共鳴吸収法によって試験されてもよく、例えば、X線回折法によって試験されてもよい。
【0078】
具体的なX線回折法による正極活物質の第一の被覆層ピロリン酸塩の結晶度の試験方法は、以下のステップを含んでもよい。
【0079】
一定量の正極活物質粉末を取り、X線によって総散乱強度を測定し、それは、空間全体の物質の散乱強度の和であり、サンプルの順序状態とは関係がなく、一次放射線の強度、正極活物質粉末の化学構造、回折に関与する総電子数、即ち質量の多少と関係があるだけであり、そして回折図から結晶性散乱と非結晶性散乱を分離し、結晶度は、散乱の総強度に対する結晶部分散乱の比である。
【0080】
説明すべきこととして、いくつかの実施の形態では、被覆層におけるピロリン酸塩の結晶度は、例えば焼結プロセスのプロセス条件、例えば焼結温度、焼結時間などを調整することにより、調節されることができる。
【0081】
いくつかの実施の形態では、第二の被覆層の被覆量は、コアの重量を基準として、0重量%よりも大きく且つ6重量%以下であり、選択的に3-5重量%である。
【0082】
第二の被覆層である炭素含有層は、一方で、「バリア」機能を発揮し、正極活物質と電解液との直接接触を回避することによって、電解液による活物質の腐食を減少させ、電池の高温での安全性能を向上させることができる。他方では、比較的強い導電能力を備えており、電池の内部抵抗を低減させることによって、二次電池の動力学的性能を改善することができる。第二の被覆層の被覆量が上記範囲にある場合、正極活物質の比較的高いグラム容量を維持する前提で、さらに二次電池の動力学的性能と安全性能を改善することができる。
【0083】
いくつかの実施の形態では、正極活物質において、Aは、Zn、Fe、Ti、V、Ni、CoとMgのうちの少なくとも一つの元素から選択され、選択的に、Aは、Fe、Ti、V、Ni、CoとMgのうちの少なくとも二つの元素から選択される。上記範囲内でドーピング元素を選択することにより、ドーピング効果を補強するのに有利であり、一方で、格子変化率をさらに減小させることによって、マンガンの溶出を抑制し、電解液と活性リチウムの消費を減少させ、他方では、表面の酸素活性をさらに低減させ、正極活物質と電解液との界面副反応を減少させるのにも有利であり、それによって電池のサイクル性能と高温保管性能を改善する。
【0084】
いくつかの実施の形態では、正極活物質のLi/Mnのアンチサイト欠陥濃度は、5.1%以下であり、選択的に4%以下であり、さらに選択的に2%以下である。本出願の正極活物質では、Li/Mnのアンチサイト欠陥とは、LiMnPO4格子において、Li+とMn2+の位置が入れ替わることである。Li+伝送チャンネルが一次元チャンネルであり、Mn2+がLi+伝送チャンネルを遷移しにくいため、アンチサイト欠陥のMn2+は、Li+の伝送を阻害する。Li/Mnのアンチサイト欠陥濃度を低いレベルに抑えることにより、LiMnPO4のグラム容量とレート性能を改善することができる。本出願では、アンチサイト欠陥濃度は、例えばJIS K 0131-1996に従って測定することができる。
【0085】
いくつかの実施の形態では、正極活物質がリチウムを完全に放出する前後の格子変化率は、7.5%以下であり、選択的に6%以下であり、さらに選択的に4%以下である。LiMnPO4のリチウム放出プロセスは、二相反応である。二相の界面応力は、格子変化率の大きさによって決まり、格子変化率が小さいほど、界面応力が小さいほど、Li+伝送が容易になる。そのため、コアの格子変化率の減少は、Li+の伝送能力を補強するのに有利であり、それによって二次電池のレート性能を改善する。格子変化率は、当分野における既知の方法、例えばX線回折スペクトル(XRD)によって測定することができる。
【0086】
いくつかの任意の実施の形態では、正極活物質の表面酸素の原子価状態は、-1.83以下であり、選択的に-1.88以下であり、さらに選択的に-1.98~-1.88である。これは、酸素の化合物における原子価状態が高いほど、その電子を得る能力が高く、即ち酸化性が強いためである。一方、本出願の正極活物質では、酸素の表面原子価状態を比較的低いレベルに制御することにより、正極材料表面の反応活性を低減させ、正極材料と電解液との界面副反応を減少させることができ、それによって二次電池のサイクル性能と高温保管性能を改善する。表面酸素の原子価状態は、当分野における既知の方法によって測定し、例えば電子エネルギー損失スペクトル(EELS)によって測定することができる。
【0087】
いくつかの実施の形態では、正極活物質の3トン(T)での圧密密度は、2.0g/cm3以上であり、選択的に2.2g/cm3以上である。正極活物質の圧密密度が高いほど、即ち単位体積当たりの活物質の重量が大きくなり、二次電池の体積エネルギー密度を高めるのにさらに有利である。本出願では、圧密密度は、例えばGB/T 24533-2009に従って測定することができる。
【0088】
いくつかの実施の形態では、選択的に、正極活物質のボタン電池の平均放電電圧は、3.5V以上であり、放電グラム容量は、135mAh/g以上であり、選択的に平均放電電圧3.6V以上であり、放電グラム容量は、145mAh/g以上である。
【0089】
ドーピングしていないLiMnPO4の平均放電電圧が4.0V以上であるが、その放電グラム容量は、比較的低く、一般的に130mAh/g未満であるため、エネルギー密度が比較的低く、ドーピングによる格子変化率を調整することにより、その放電グラム容量を大幅に高めることができ、平均放電電圧が少し低下した場合に、全体のエネルギー密度は、明らかに上昇した。
【0090】
いくつかの実施の形態では、xは、-0.100-0.006の範囲内の任意の数値、例えば-0.01、-0.005、-0.001、0、0.001、0.002、0.004、0.005から選択される。この範囲内でx値を選択することにより、Li/Mnのアンチサイト欠陥の発生をさらに減少させ、マンガンの溶出を減少させて格子変化率を低減させ、さらに二次電池の容量を向上させ、二次電池のサイクル性能、高温保存性能と安全性能を改善することができる。
【0091】
いくつかの実施の形態では、yは、0.1-0.4の範囲内の任意の数値、例えば0.2、0.3、0.4から選択される。この範囲内でy値を選択することにより、Li/Mnのアンチサイト欠陥の発生をさらに減少させ、マンガンの溶出を減少させて格子変化率を低減させ、さらに二次電池の容量を向上させ、二次電池のサイクル性能、高温保存性能と安全性能を改善することができる。
【0092】
いくつかの実施の形態では、aは、1-4の範囲内の任意の数値であり、例えばaは、1、2、3、4である。
【0093】
いくつかの実施の形態では、bは、1-2の範囲内の任意の数値であり、例えばb1、2である。
【0094】
いくつかの実施の形態では、cは、1-5の範囲内の任意の数値であり、選択的に1-3の範囲内の任意の数値であり、例えばcは、1、2、3、4、5である。
【0095】
[正極活物質の製造方法]
本出願は、正極活物質の製造方法を提供し、この製造方法は、
コア材料を提供するステップであって、コア材料は、Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4を含み、ここで、xは、-0.100~0.100の範囲内の任意の数値であり、yは、0.001~0.500の範囲内の任意の数値であり、zは、0.001~0.100の範囲内の任意の数値であり、Aは、Zn、Al、Na、K、Mg、Mo、W、Ti、V、Zr、Fe、Ni、Co、Ga、Sn、Sb、NbとGeから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にZn、Fe、Ti、V、Ni、CoとMgから選択される一つ又は複数の元素であり、Rは、B、Si、NとSから選択される一つ又は複数の元素であるステップと、
ピロリン酸塩MaP2O7を含む粉末と、炭素源及び酸化物M′bOcを含む懸濁液とを提供し、コア材料と、ピロリン酸塩MaP2O7を含む粉末と、炭素源及び酸化物M′bOcを含む懸濁液とを混合し、焼結して、正極活物質を得る被覆ステップであって、aは、0よりも大きく且つ4以下であり、bは、0よりも大きく且つ2以下であり、cは、0よりも大きく且つ5以下であり、Mは、Li、Fe、Ni、Mg、Co、Cu、Zn、Ti、Ag、Zr、NbとAlから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にLi、FeとZrから選択される一つ又は複数の元素であり、M′は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、IIIA族元素、IVA族元素、ランタン系元素とSbから選択される一つ又は複数の元素であり、選択的にLi、Be、B、Na、Mg、Al、Si、P、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、W、LaとCeから選択される一つ又は複数の元素であり、さらに選択的にMg、Al、Si、Zn、ZrとSnから選択される一つ又は複数の元素である被覆ステップを含み、
ここで、正極活物質は、コア-シェル構造を有し、この正極活物質は、コアと、コアを被覆するシェルとを含み、コアは、Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4を含み、シェルは、コアを被覆する第一の被覆層と、第一の被覆層を被覆する第二の被覆層とを含み、第一の被覆層は、結晶性ピロリン酸塩MaP2O7と結晶性酸化物M′bOcとを含み、第二の被覆層は、炭素を含み、ここで、A、R、M、M′、x、y、z、a、b、cは、前述のように定義される。
【0096】
それによって、本出願人は、化合物LiMnPO4のMnサイトとPサイトに特定の元素を同時に特定量ドーピングし、化合物表面にピロリン酸塩と酸化物を含む第一の被覆層を被覆し且つ第一の被覆層表面に炭素を含む第二の被覆層を被覆して正極活物質を得ることにより、Li/Mnのアンチサイト欠陥の発生を大幅に減少させ、マンガンの溶出を減少させて格子変化率を低減させ、二次電池の容量を向上させ、二次電池のサイクル性能、高温保存性能と安全性能を改善することができることを意外に発見した。
【0097】
いくつかの実施の形態では、コア材料を提供するステップは、
マンガン源と、元素Aの源と酸とを混合し、混合物を得るステップ(1)と、
混合物を、リチウム源、リン源、元素Rの源及び選択的な溶媒と混合し、不活性ガスの保護で焼結し、Li1+xMn1-yAyP1-zRzO4を含むコア材料を得るステップ(2)とを含む。AとRは、前述のように定義される。
【0098】
いくつかの実施の形態では、ステップ(1)は、20℃-120℃で、選択的に40℃-120℃(例えば約25℃、約30℃、約50℃、約60℃、約70℃、約80℃、約90℃、約100℃、約110℃又は約120℃)で行われ、及び/又は、ステップ(1)において、500-700rpmの回転速度で60-420分間(さらに選択的に120-360分間であり、例えば約1時間、約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間)攪拌して混合する。
【0099】
いくつかの実施の形態では、ステップ(2)において、20-120℃で、選択的に40-120℃(例えば約30℃、約50℃、約60℃、約70℃、約80℃、約90℃、約100℃、約110℃又は約120℃)の温度で1-10h(例えば約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間又は約12時間)混合する。
【0100】
コア粒子の製造過程における温度と時間が上記範囲内にある場合、製造で得られたコア及びそれによって製造された正極活物質の格子欠陥が少なく、マンガンの溶出を抑制し、正極活物質と電解液との界面副反応を減少させるのに有利であり、それによって二次電池のサイクル性能と安全性能を改善する。
【0101】
いくつかの実施の形態では、ステップ(2)において、pHが3.5-6である条件で混合し、選択的にpHは、4-6であり、さらに選択的にpHは、4-5である。説明すべきこととして、本出願では、当分野において一般的に使用される方法により、例えば酸又は塩基を添加することによってpHを調節することができる。
【0102】
いくつかの選択的な実施の形態では、ステップ(1)で得られた混合物を濾過し、乾燥し、そして粉砕して粒径Dv50が50-200nmである元素Aでドーピングされたマンガン塩粒子を得、元素Aでドーピングされたマンガン塩粒子を、ステップ(2)においてリチウム源、リン源、元素Rの源及び選択的な溶媒と混合するために用いる。
【0103】
いくつかの実施の形態では、ステップ(2)において、混合物又は元素Aでドーピングされたマンガン塩粒子とリチウム源、リン源とのモル比は、1:0.5-2.1:0.5-2.1であり、選択的に約1:1:1である。
【0104】
いくつかの実施の形態では、ステップ(2)において、不活性ガス又は不活性ガスと水素ガスとの混合雰囲気で、600-950℃で4-10時間焼結し、選択的に、保護雰囲気は、窒素ガス70-90体積%と水素ガス10-30体積%との混合ガスであり、選択的に、焼結は、約650℃、約700℃、約750℃、約800℃、約850℃又は約900℃で約2時間、約3時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間又は約10時間焼結してもよく、選択的に、焼結の温度、焼結時間は、上記任意の数値の任意の範囲内であってもよく、コアの結晶度を向上させ、ヘテロ相の生成を減少させ、コアの粒子度を一定に維持することができ、それによって正極活物質のグラム容量、圧密密度を向上させ、レート性能を含む二次電池の全体性能を向上させる。
【0105】
いくつかの選択的な実施の形態では、ステップ(2)で混合された材料を乾燥して粉末材料を得、そして粉末材料を焼結してLi1+xMn1-yAyP1-zRzO4を含むコア材料を得る。
【0106】
いくつかの実施の形態では、ピロリン酸塩MaP2O7を含む粉末は、以下のステップによって製造され、
元素Mの源と、リン源と、選択的な溶媒とを混合し、混合物を得、混合物のpHを4-6に調節し、混合し続け、乾燥を経て、焼結すればよい。
【0107】
いくつかの実施の形態では、ピロリン酸塩MaP2O7を含む粉末を製造するステップにおいて、乾燥は、100℃-300℃で4-8h乾燥することであり、選択的に150℃-200℃で乾燥することであり、及び/又は、焼結は、500℃-800℃で且つ不活性ガスの保護で4-10h焼結することであり、選択的に650℃-800℃で焼結することである。
【0108】
いくつかの実施の形態では、被覆ステップにおける焼結温度は、500-800℃であり、焼結時間は、4-10hである。
【0109】
本出願の製造方法は、材料の由来に対して特に限定せず、ある元素の由来は、この元素の単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物と水素酸化物のうちの一つ又は複数を含んでもよいが、この由来が本出願の製造方法の目的を実現できることを前提とする。
【0110】
いくつかの実施の形態では、元素Aの源は、元素Aの単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物と水素酸化物のうちの一つ又は複数から選択され、及び/又は、元素Rの源は、元素Rの単体、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物、水素酸化物と無機酸のうちの一つ又は複数から選択される。
【0111】
いくつかの実施の形態では、元素Mの源は、元素Mの単体、炭酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物と水素酸化物から選択される一つ又は複数である。
【0112】
いくつかの実施の形態では、元素M’の源は、元素M’の単体、炭酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物、硝酸塩、有機酸塩、酸化物と水素酸化物から選択される一つ又は複数である。
【0113】
元素A、R、M、M’のそれぞれの源の添加量は、目標ドーピング量に依存し、リチウム源、マンガン源とリン源の使用量の比は、化学量論比に適合する。
【0114】
本出願では、マンガン源は、当分野における既知のリン酸マンガンリチウムの製造に利用可能なマンガン含有物質であってもよい。例として、マンガン源は、単体マンガン、二酸化マンガン、リン酸マンガン、シュウ酸マンガン、炭酸マンガンから選択される一つ又は複数であってもよい。
【0115】
本出願では、酸は、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ケイ酸、メタケイ酸などの無機酸と有機酸、例えばシュウ酸から選択される一つ又は複数であってもよい。いくつかの実施の形態では、酸は、60重量%以下の濃度の希薄な有機酸である。
【0116】
本出願では、リチウム源は、当分野における既知のリン酸マンガンリチウムの製造に利用可能なリチウム含有物質であってもよい。例として、リチウム源は、炭酸リチウム、水素酸化リチウム、リン酸リチウム、リン酸二水素リチウムから選択される一つ又は複数である。
【0117】
本出願では、リン源は、当分野における既知のリン酸マンガンリチウムの製造に利用可能な含リン物質であってもよい。例として、リン源は、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸アンモニウムとリン酸から選択される一つ又は複数である。
【0118】
本出願では、例として、炭素源は、デンプン、スクロース、グルコース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、クエン酸から選択される一つ又は複数である。
【0119】
[正極極板]
本出願は、正極極板を提供し、この正極極板は、正極集電体と、正極集電体の少なくとも一つの表面に設置される正極膜層とを含み、正極膜層は、前述した正極活物質又は前述した製造方法によって製造される正極活物質を含み、且つ正極活物質の正極膜層における含有量は、正極膜層の総重量を基準として、10重量%以上である。
【0120】
いくつかの実施の形態では、正極活物質の正極膜層における含有量は、正極膜層の総重量を基準として、90-99.5重量%である。二次電池が比較的高い容量と比較的に良いサイクル性能、高温保存性能と安全性能を有することを保証する。
【0121】
いくつかの実施の形態では、正極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとして、アルミニウム箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料ベース層と高分子材料ベース層の少なくとも一つの表面上に形成される金属層とを含んでもよい。複合集電体は、金属材料(アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することで形成されてもよい。
【0122】
いくつかの実施の形態では、正極膜層は、当分野において公知の電池用の他の正極活物質をさらに含んでもよい。例として、正極活物質は、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩及びその改質化合物のうちの少なくとも一つの材料を含んでもよい。しかし、本出願は、これらの材料に限らず、他の電池正極活物質として使用できる従来の材料を使用してもよい。これらの正極活物質は、単独で一つのみを使用してもよく、二つ以上を組み合わせて使用してもよい。ここで、オリビン構造のリチウム含有リン酸塩の例は、リン酸鉄リチウム(例えばLiFePO4(LFPと略称されてもよい))、リン酸鉄リチウムと炭素との複合材料、リン酸マンガンリチウム(例えばLiMnPO4)、リン酸マンガンリチウムと炭素との複合材料、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウムと炭素との複合材料のうちの少なくとも一つを含んでもよいが、それらに限らない。
【0123】
いくつかの実施の形態では、正極膜層は、さらに選択的に接着剤を含む。例として、接着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-プロピレン三元共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン三元共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体及びフッ素含有アクリレート樹脂のうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0124】
いくつかの実施の形態では、正極膜層は、さらに選択的に導電剤を含む。例として、導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの少なくとも一つを含んでもよい。
【0125】
[負極極板]
負極極板は、負極集電体及び負極集電体の少なくとも一つの表面上に設置される負極膜層を含み、負極膜層は、負極活物質を含む。
【0126】
例として、負極集電体は、その自体の厚さ方向において対向する二つの表面を有し、負極膜層は、負極集電体の対向する二つの表面のうちのいずれか一方又は両方上に設置される。
【0127】
いくつかの実施の形態では、負極集電体は、金属箔シート又は複合集電体を採用してもよい。例えば、金属箔シートとして、銅箔を採用してもよい。複合集電体は、高分子材料ベース層と高分子材料基材の少なくとも一つの表面上に形成される金属層を含んでもよい。複合集電体は、金属材料(銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン、チタン合金、銀及び銀合金など)を高分子材料基材(例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、ポリエチレン(PE)などの基材)上に形成することで形成されてもよい。
【0128】
いくつかの実施の形態では、負極活物質は、当分野において公知の電池用の負極活物質を採用してもよい。例として、負極活物質は、人造黒鉛、天然黒鉛、ソフトカーボン、ハードカーボン、シリコン系材料、スズ系材料とチタン酸リチウムなどのうちの少なくとも一つの材料を含んでもよい。シリコン系材料は、シリコン単体、シリコン酸化物、シリコン炭素複合体、シリコン窒素複合体及びシリコン合金のうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。スズ系材料は、スズ単体、スズ酸化合物及びスズ合金のうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。しかし、本出願は、これらの材料に限らず、他の電池負極活物質として使用できる従来の材料を使用してもよい。これらの負極活物質は、単独で一つのみを使用してもよく、二つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0129】
いくつかの実施の形態では、負極膜層は、さらに選択的に接着剤を含む。例として、接着剤は、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸ナトリウム(PAAS)、ポリアクリルアミド(PAM)、ポリビニルアルコール(PVA)、アルギン酸ナトリウム(SA)、ポリメタクリル酸(PMAA)及びカルボキシメチルキトサン(CMCS)のうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。
【0130】
いくつかの実施の形態では、負極膜層は、さらに選択的に導電剤を含む。例として、導電剤は、超伝導カーボン、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンドット、カーボンナノチューブ、グラフェン及びカーボンナノファイバーのうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。
【0131】
いくつかの実施の形態では、負極膜層は、さらに選択的に他の助剤、例えば増粘剤(例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na))などを含む。
【0132】
いくつかの実施の形態では、以下の方式で負極極板を製造することができる。上記負極極板を製造するための成分、例えば負極活物質、導電剤、接着剤といずれか他の成分を溶媒(例えば脱イオン水)に分散させて、負極スラリーを形成し、負極スラリーを負極集電体上に塗覆し、乾燥、冷間プレスなどの工程を経てた後、負極極板が得られる。
【0133】
[電解質]
電解質は、正極極板と負極極板との間でイオンを伝導する作用を果たす。本出願は、電解質の種類に対して具体的に限定せず、需要に応じて選択することができる。例えば、電解質は、液体、ゲル状又は全固体であってもよい。
【0134】
いくつかの実施の形態では、電解質は、液体であり、且つ電解質塩と溶媒とを含む。
【0135】
いくつかの実施の形態では、電解質塩は、ヘキサフルオロリン酸リチウム、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸リチウム、ヘキサフルオロヒ酸リチウム、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ジフルオロリン酸リチウム、ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、ジフルオロビス(オキサラト)リン酸リチウム及びテトラフルオロ(オキサラト)リン酸リチウムのうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。
【0136】
いくつかの実施の形態では、溶媒は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、1,4-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン及びジエチルスルホンのうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。
【0137】
いくつかの実施の形態では、電解液は、さらに選択的に添加剤を含む。例として、添加剤は、負極膜形成添加剤、正極膜形成添加剤を含んでもよく、さらに、電池のいくつかの性能を改善できる添加剤、例えば電池の過充電性能を改善する添加剤、電池高温又は低温性能を改善する添加剤などを含んでもよい。
【0138】
[セパレータ]
いくつかの実施の形態では、二次電池には、セパレータがさらに含まれる。本出願は、セパレータの種類に対して特に限定せず、任意の公知の良好な化学安定性と機械安定性を持つ多孔質構造セパレータを選択してもよい。
【0139】
いくつかの実施の形態では、セパレータの材質は、ガラス繊維、不織布、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリビニリデンフルオライドのうちの少なくとも一つから選ばれてもよい。セパレータは、単層フィルムであってもよく、多層複合フィルムであってもよく、特に制限がない。セパレータが多層複合フィルムである時、各層の材料は、同じであってよく又は異なってもよく、特に制限がない。
【0140】
いくつかの実施の形態では、正極極板、負極極板とセパレータは、捲回プロセス又は積層プロセスによって電極アセンブリに製造されることができる。
【0141】
いくつかの実施の形態では、二次電池は、外装体を含んでもよい。この外装体は、上記電極アセンブリ及び電解質をパッケージングするために用いられてもよい。
【0142】
いくつかの実施の形態では、二次電池の外装体は、硬質ケース、例えば硬質プラスチックケース、アルミニウムケース、鋼製ケースなどであってもよい。二次電池の外装体は、パウチ、例えば袋状パウチであってもよい。パウチの材質は、プラスチックであってもよく、プラスチックとして、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート及びポリブチレンサクシネートなどが挙げられる。
【0143】
本出願は、二次電池の形状に対して特に限定せず、それは、円筒型、四角形又は他の任意の形状であってもよい。例えば、
図2は、一例としての四角形構造の二次電池5である。
【0144】
いくつかの実施の形態では、
図3を参照すると、外装体は、ケース51とカバープレート53とを含んでもよい。ここで、ケース51は、底板と底板上に接続された側板とを含んでもよく、底板と側板とは、囲んで収容キャビティを形成する。ケース51は、収容キャビティと連通する開口を有し、カバープレート53は、収容キャビティを密閉するように、開口に蓋設可能である。正極極板、負極極板とセパレータは、捲回プロセス又は積層プロセスを経て電極アセンブリ52を形成することができる。電極アセンブリ52は、収容キャビティ内にパッケージングされる。電解液は、電極アセンブリ52に浸潤される。二次電池5に含まれる電極アセンブリ52の数は、一つ又は複数であってもよく、当業者は、具体的な実際の需要に応じて選択することができる。
【0145】
いくつかの実施の形態では、二次電池は、電池モジュールとして組み立てられてもよく、電池モジュールに含まれる二次電池の数は、一つ又は複数であってもよく、具体的な数は、当業者が電池モジュールの応用と容量に応じて選択することができる。
【0146】
図4は、一例としての電池モジュール4である。
図4を参照すると、電池モジュール4において、複数の二次電池5は、電池モジュール4の長手方向に沿って順に並べ設置されてもよい。無論、他の任意の方式で配列されてもよい。さらに締結具によってこれらの複数の二次電池5を固定してもよい。
【0147】
選択的に、電池モジュール4は、収容空間を有するハウジングをさらに含んでもよく、複数の二次電池5は、この収容空間に収容される。
【0148】
いくつかの実施の形態では、上記電池モジュールは、電池パックとして組み立てられてもよく、電池パックに含まれる電池モジュールの数は、一つ又は複数であってもよく、具体的な数は、当業者が電池パックの応用と容量に応じて選択することができる。
【0149】
図5と
図6は、一例としての電池パック1である。
図5と
図6を参照すると、電池パック1には、電池ボックスと、電池ボックスに設置される複数の電池モジュール4とが含まれてもよい。電池ボックスは、上部筐体2と下部筐体3とを含み、上部筐体2は、下部筐体3に蓋設可能であり、電池モジュール4を収容するための密閉空間を形成する。複数の電池モジュール4は、任意の方式で電池ボックスに配列されてもよい。
【0150】
また、本出願は、電力消費装置をさらに提供し、電力消費装置は、本出願による二次電池、電池モジュール、又は電池パックのうちの少なくとも一つを含む。二次電池、電池モジュール、又は電池パックは、電力消費装置の電源として使用されてもよく、電力消費装置のエネルギー貯蔵ユニットとして使用されてもよい。電力消費装置は、移動体機器(例えば携帯電話、ノートパソコンなど)、電動車両(例えば純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動自転車、電動スクータ、電動ゴルフカート、電動トラックなど)、電気列車、船舶及び衛星、エネルギー貯蔵システムなどを含んでもよいが、これに限らない。
【0151】
電力消費装置として、その使用需要に応じて二次電池、電池モジュール又は電池パックを選択することができる。
【0152】
図7は、一例としての電力消費装置である。この電力消費装置は、純電気自動車、ハイブリッド電気自動車、又はプラグインハイブリッド電気自動車などである。この電力消費装置の二次電池の高出力と高エネルギー密度に対する需要を満たすために、電池パック又は電池モジュールを採用することができる。
【0153】
[実施例]
以下、本出願の実施例を説明する。以下に記述される実施例は、例示的であり、本出願を解釈するのみに使用され、本出願に対する制限として理解されるべきではない。実施例に具体的な技術又は条件が明記されていない場合、当分野内の文献に記述された技術又は条件に従って又は製品明細書に従って行う。使用される試薬又は機器は、製造メーカが明記されていない場合、いずれも市購で入手できる通常製品である。本発明の実施例における各成分の含有量は、特に説明がない限り、いずれも結晶水を含まない質量を基準とする。
【0154】
本出願の製造例及び実施例に係わる原材料の由来は、以下のとおりである。
【0155】
【0156】
実施例1-1
(1)共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造
Fe、CoとVを共ドーピングしたシュウ酸マンガンの製造:689.5gの炭酸マンガン(MnCO3換算、以下同様)、455.2gの炭酸第一鉄(FeCO3換算、以下同様)、4.6gの硫酸コバルト(CoSO4換算、以下同様)と4.9gの二塩化バナジウム(VCl2換算、以下同様)をミキサにおいて6時間十分に混合した。混合物を反応釜に移し、5リットルの脱イオン水と1260.6gのシュウ酸二水和物(C2H2O4.2H2O換算、以下同様)を添加した。反応釜を80℃に加熱し、反応終了(気泡発生なし)まで、600rpmの回転速度で6時間攪拌し、Fe、CoとVを共ドーピングしたシュウ酸マンガン懸濁液を得た。そして懸濁液を濾過し、ケーキを120℃で乾燥し、その後に粉砕し、メジアン粒径Dv50が100nmのFe、CoとVを共ドーピングしたシュウ酸マンガン二水和物粒子を得た。
【0157】
Fe、Co、VとSを共ドーピングしたリン酸マンガンリチウムの製造:前ステップで得られたシュウ酸マンガン二水和物粒子(1793.4g)、369.0gの炭酸リチウム(Li2CO3換算、以下同様)、1.6gの濃度60%の希硫酸(60% H2SO4換算、以下同様)と1148.9gのリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4換算、以下同様)を20リットルの脱イオン水に添加し、混合物を10時間攪拌して均一に混合し、スラリーを得た。スラリーを噴霧乾燥設備に移して噴霧乾燥造粒し、乾燥温度を250℃に設定し、4時間乾燥し、粉末材料を得た。窒素ガス(90体積%)+水素ガス(10体積%)の保護雰囲気において、上記粉末材料を700℃で4時間焼結し、1572.1gのFe、Co、VとSを共ドーピングしたリン酸マンガンリチウムを得た。
【0158】
(2)ピロリン酸鉄リチウム及び、酸化アルミニウムとスクロースを含む懸濁液との製造
ピロリン酸鉄リチウム粉末の製造:4.77gの炭酸リチウム、7.47gの炭酸第一鉄、14.84gのリン酸二水素アンモニウムと1.3gのシュウ酸二水和物を50mlの脱イオン水に溶解した。混合物のpHは、5であり、2時間攪拌して反応混合物を十分に反応させた。そして反応後の溶液を80℃に昇温してこの温度を4時間維持し、Li2FeP2O7を含む懸濁液を得、懸濁液を過濾し、脱イオン水で洗浄し、且つ120℃で4h乾燥し、粉末を得た。粉末を650℃、窒素ガス雰囲気で8時間焼結し、室温まで自然冷却した後に粉砕し、Li2FeP2O7粉末を得た。
【0159】
酸化アルミニウムとスクロースを含む懸濁液の製造:47.1gのナノAl2O3(粒径約20nm)と74.6gのスクロース(C12H22O11換算、以下同様)を1500mlの脱イオン水に溶解し、そして6時間攪拌して上記混合物を十分に混合した。そして得られた溶液を120℃に昇温してこの温度を6時間維持し、酸化アルミニウムとスクロースを含む懸濁液を得た。
【0160】
(3)被覆
Fe、Co、VとSを共ドーピングした1572.1gの上記リン酸マンガンリチウムと15.72gの上記ピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)粉末を、前ステップの製造で得られた、酸化アルミニウムとスクロースを含む懸濁液に添加し、攪拌して均一に混合した後に真空オーブンに移して150℃で6時間乾燥した。そしてサンドミルにより得られた生成物を分散させた。分散後、得られた生成物を窒素ガス雰囲気において、700℃で6時間焼結し、目的生成物の双層被覆リン酸マンガンリチウムを得た。
【0161】
実施例1-2~1-6
共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において、二塩化バナジウムと硫酸コバルトを使用せず、463.4gの炭酸第一鉄、1.6gの60%濃度の希硫酸、1148.9gのリン酸二水素アンモニウムと369.0gの炭酸リチウムを使用する以外、実施例1-2~1-6におけるリン酸マンガンリチウムコアの製造条件は、実施例1-1と同じである。
【0162】
なお、ピロリン酸鉄リチウム及び、酸化アルミニウムとスクロースを含む懸濁液との製造過程及び第一の被覆層と第二の被覆層を被覆する過程において、使用される原料を、表1に示される被覆量と実施例1-1に対応する被覆量との比に従って調整し、実施例1-2~1-6におけるLi2FeP2O7/Al2O3の使用量をそれぞれ12.6g/37.68g、15.7g/47.1g、18.8g/56.52g、22.0/65.94gと25.1g/75.36gにし、実施例1-2~1-6におけるスクロースの使用量が37.3gである以外、他の条件は、実施例1-1と同じである。
【0163】
実施例1-7~1-10
スクロースの使用量がそれぞれ74.6g、149.1g、186.4gと223.7gであり、第二の被覆層である炭素層の対応する被覆量をそれぞれ31.4g、62.9g、78.6gと94.3gにする以外、実施例1-7~1-10の条件は、実施例1-3と同じである。
【0164】
実施例1-11~1-14
ピロリン酸鉄リチウム及び、酸化アルミニウムとスクロースを含む懸濁液との製造過程において、表1に示される被覆量に従って様々な原料の使用量を調整してLi2FeP2O7/Al2O3の使用量をそれぞれ23.6g/39.25g、31.4g/31.4g、39.3g/23.55gと47.2g/15.7gにする以外、実施例1-11~1-14の条件は、実施例1-7と同じである。
【0165】
実施例1-15
共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において炭酸第一鉄の代わりに492.80gのZnCO3を使用する以外、実施例1-15の条件は、実施例1-14と同じである。
【0166】
実施例1-16~1-18
実施例1-16では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において炭酸第一鉄の代わりに466.4gのNiCO3、5.0gの炭酸亜鉛と7.2gの硫酸チタンを使用し、実施例1-17では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において455.2gの炭酸第一鉄と8.5gの二塩化バナジウムを使用し、実施例1-18では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において455.2gの炭酸第一鉄、4.9gの二塩化バナジウムと2.5gの炭酸マグネシウムを使用する以外、実施例1-16~1-18の条件は、実施例1-7と同じである。
【0167】
実施例1-19~1-20
実施例1-19では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において369.4gの炭酸リチウムを使用し、及び希硫酸の代わりに1.05gの60%濃度の希硝酸を使用し、実施例1-20では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において369.7gの炭酸リチウムを使用し、及び希硫酸の代わりに0.78gのメタケイ酸を使用する以外、実施例1-19~1-20の条件は、実施例1-18と同じである。
【0168】
実施例1-21~1-22
実施例1-21では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において632.0gの炭酸マンガン、463.30gの炭酸第一鉄、30.5gの二塩化バナジウム、21.0gの炭酸マグネシウムと0.78gのメタケイ酸を使用し、実施例1-22では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において746.9gの炭酸マンガン、289.6gの炭酸第一鉄、60.9gの二塩化バナジウム、42.1gの炭酸マグネシウムと0.78gのメタケイ酸を使用する以外、実施例1-21~1-22の条件は、実施例1-20と同じである。
【0169】
実施例1-23~1-24
実施例1-23では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において804.6gの炭酸マンガン、231.7gの炭酸第一鉄、1156.2gのリン酸二水素アンモニウム、1.2gのホウ酸(質量分率99.5%)と370.8gの炭酸リチウムを使用し、実施例1-24では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において862.1gの炭酸マンガン、173.8gの炭酸第一鉄、1155.1gのリン酸二水素アンモニウム、1.86gのホウ酸(質量分率99.5%)と371.6gの炭酸リチウムを使用する以外、実施例1-23~1-24の条件は、実施例1-22と同じである。
【0170】
実施例1-25
実施例1-25では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において370.1gの炭酸リチウム、1.56gのメタケイ酸と1147.7gのリン酸二水素アンモニウムを使用する以外、実施例1-25の条件は、実施例1-20と同じである。
【0171】
実施例1-26
実施例1-26では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において368.3gの炭酸リチウム、4.9gの60%質量分率の希硫酸、919.6gの炭酸マンガン、224.8gの炭酸第一鉄、3.7gの二塩化バナジウム、2.5gの炭酸マグネシウムと1146.8gのリン酸二水素アンモニウムを使用する以外、実施例1-26の条件は、実施例1-20と同じである。
【0172】
実施例1-27
実施例1-27では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において367.9gの炭酸リチウム、6.5gの濃度60%の希硫酸と1145.4gのリン酸二水素アンモニウムを使用する以外、実施例1-27の条件は、実施例1-20と同じである。
【0173】
実施例1-28~1-33
実施例1-28~1-33では、共ドーピングされたリン酸マンガンリチウムコアの製造過程において1034.5gの炭酸マンガン、108.9gの炭酸第一鉄、3.7gの二塩化バナジウムと2.5gの炭酸マグネシウムを使用し、炭酸リチウムの使用量がそれぞれ367.6g、367.2g、366.8g、366.4g、366.0gと332.4gであり、リン酸二水素アンモニウムの使用量がそれぞれ1144.5g、1143.4g、1142.2g、1141.1g、1139.9gと1138.8gであり、60%濃度の希硫酸の使用量がそれぞれ8.2g、9.8g、11.4g、13.1g、14.7gと16.3gである以外、実施例1-28~1-33の条件は、実施例1-20と同じである。
【0174】
実施例1-34~実施例1-38、実施例1-43
ピロリン酸鉄リチウム及び、酸化物とスクロースを含む懸濁液の製造過程及び第一の被覆層と第二の被覆層を被覆する過程において、使用される原料を表1に示される被覆量と実施例1-1に対応する被覆量との比に従って調整し、実施例1-34におけるLi2FeP2O7/MgOの使用量をそれぞれ15.72g/47.1gにし、実施例1-35におけるLi2FeP2O7/ZrO2の使用量をそれぞれ15.72g/47.1gにし、実施例1-36におけるLi2FeP2O7/ZnOの使用量をそれぞれ15.72g/47.1gにし、実施例1-37におけるLi2FeP2O7/SnO2の使用量をそれぞれ15.72g/47.1gにし、実施例1-38におけるLi2FeP2O7/SiO2の使用量をそれぞれ15.72g/47.1gにし、実施例1-43におけるLi2FeP2O7/V2O5の使用量をそれぞれ15.72g/47.1gにする以外、他の条件は、実施例1-1と同じである。
【0175】
実施例1-39~実施例1-41
1)実施例1-39におけるコアLi1.1Mn0.6Fe0.393Mg0.007P0.9Si0.1O4の製造。
【0176】
FeとMgを共ドーピングしたシュウ酸マンガンの製造:689.5gの炭酸マンガン(MnCO3換算、以下同様)、455.2gの炭酸第一鉄(FeCO3換算、以下同様)と5.90gの炭酸マグネシウム(MgCO3換算、以下同様)をミキサにおいて6時間十分に混合した。混合物を反応釜に移し、5リットルの脱イオン水と1260.6gのシュウ酸二水和物(C2H2O4.2H2O換算、以下同様)を添加した。反応釜を80℃に加熱し、反応終了(気泡発生なし)まで、600rpmの回転速度で6時間攪拌し、FeとMgを共ドーピングしたシュウ酸マンガン懸濁液を得た。そして懸濁液を濾過し、ケーキを120℃で乾燥し、その後に粉砕し、メジアン粒径Dv50が100nmのFeとMgを共ドーピングしたシュウ酸マンガン二水和物粒子を得た。
【0177】
Fe、MgとSiを共ドーピングしたリン酸マンガンリチウムの製造:前ステップで得られたシュウ酸マンガン二水和物粒子(1791.3g)、406.3gの炭酸リチウム(Li2CO3換算、以下同様)、7.8gのメタケイ酸(H2SiO3換算、以下同様)と1035.0gのリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4換算、以下同様)を20リットルの脱イオン水に添加し、混合物を10時間攪拌して均一に混合し、スラリーを得た。スラリーを噴霧乾燥設備に移して噴霧乾燥造粒し、乾燥温度を250℃に設定し、4時間乾燥し、粉末材料を得た。窒素ガス(90体積%)+水素ガス(10体積%)の保護雰囲気において、上記粉末材料を700℃で4時間焼結し、Fe、MgとSiを共ドーピングした1574.0gのリン酸マンガンリチウムを得た。
【0178】
2)実施例1-40におけるコアLiMn0.999Fe0.001P0.995N0.005O4の製造。
【0179】
Feをドーピングしたシュウ酸マンガンの製造:1148.0gの炭酸マンガン(MnCO3換算、以下同様)と11.58gの炭酸第一鉄(FeCO3換算、以下同様)をミキサにおいて6時間十分に混合した。混合物を反応釜に移し、5リットルの脱イオン水と1260.6gのシュウ酸二水和物(C2H2O4.2H2O換算、以下同様)を添加した。反応釜を80℃に加熱し、反応終了(気泡発生なし)まで、600rpmの回転速度で6時間攪拌し、Feをドーピングしたシュウ酸マンガン懸濁液を得た。そして懸濁液を濾過し、ケーキを120℃で乾燥し、その後に粉砕し、メジアン粒径Dv50が100nmのFeをドーピングしたシュウ酸マンガン二水和物粒子を得た。
【0180】
FeとNを共ドーピングしたリン酸マンガンリチウムの製造:前ステップで得られたシュウ酸マンガン二水和物粒子(1789.9g)、369.4gの炭酸リチウム(Li2CO3換算、以下同様)、5.25gの希硝酸(60%HNO3換算、以下同様)と1144.3gのリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4換算、以下同様)を20リットルの脱イオン水に添加し、混合物を10時間攪拌して均一に混合し、スラリーを得た。スラリーを噴霧乾燥設備に移して噴霧乾燥造粒し、乾燥温度を250℃に設定し、4時間乾燥し、粉末材料を得た。窒素ガス(90体積%)+水素ガス(10体積%)の保護雰囲気において、上記粉末材料を700℃で4時間焼結し、1567.7gのFeとNを共ドーピングしたリン酸マンガンリチウムを得た。
【0181】
3)実施例1-41におけるコアLiMn0.50Fe0.50P0.995N0.005O4の製造。
【0182】
Feをドーピングしたシュウ酸マンガンの製造:574.7gの炭酸マンガン(MnCO3換算、以下同様)と579.27gの炭酸第一鉄(FeCO3換算、以下同様)をミキサにおいて6時間十分に混合した。混合物を反応釜に移し、5リットルの脱イオン水と1260.6gのシュウ酸二水和物(C2H2O4.2H2O換算、以下同様)を添加した。反応釜を80℃に加熱し、反応終了(気泡発生なし)まで、600rpmの回転速度で6時間攪拌し、Feをドーピングしたシュウ酸マンガン懸濁液を得た。そして懸濁液を濾過し、ケーキを120℃で乾燥し、その後に粉砕し、メジアン粒径Dv50が100nmのFeをドーピングしたシュウ酸マンガン二水和物粒子を得た。
【0183】
FeとNを共ドーピングしたリン酸マンガンリチウムの製造:前ステップで得られたシュウ酸マンガン二水和物粒子(1794.4g)、369.4gの炭酸リチウム(Li2CO3換算、以下同様)、5.25gの希硝酸(60%HNO3換算、以下同様)と1144.3gのリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4換算、以下同様)を20リットルの脱イオン水に添加し、混合物を10時間攪拌して均一に混合し、スラリーを得た。スラリーを噴霧乾燥設備に移して噴霧乾燥造粒し、乾燥温度を250℃に設定し、4時間乾燥し、粉末材料を得た。窒素ガス(90体積%)+水素ガス(10体積%)の保護雰囲気において、上記粉末材料を700℃で4時間焼結し、FeとNを共ドーピングした1572.2gのリン酸マンガンリチウムを得た。
【0184】
実施例1-39~実施例1-41の他の条件は、実施例1-1を参照する。
【0185】
実施例1-42
ピロリン酸ジルコニウムの製造過程において、123.2gの二酸化ジルコニウム(ZrO2換算、以下同様)と230.6gのリン酸(85%H3PO4換算、以下同様)を十分に混合した。それを350℃に加熱するとともに、2時間攪拌しながら反応混合物を十分に反応させた。そして反応後の溶液を350℃で4時間保持し、ZrP2O7を含む粘稠なペーストを得、最終的に固形化し、脱イオン水で洗浄し、得られた生成物をエタノールの入ったボールミルで4h粉砕し、得られた生成物を赤外線ランプで乾燥し、ZrP2O7粉末を得た。
【0186】
実施例1-44
ピロリン酸銀の製造過程において、463.4gの酸化銀(Ag2O換算、以下同様)と230.6gのリン酸(85%H3PO4換算、以下同様)を十分に混合した。それを450℃に加熱するとともに、2時間攪拌しながら反応混合物を十分に反応させた。そして反応後の溶液を450℃で4時間保持し、Ag4P2O7を含む粘稠なペーストを得、最終的に固形化し、脱イオン水で洗浄し、得られた生成物をエタノールの入ったボールミルで4h粉砕し、得られた生成物を赤外線ランプで乾燥し、Ag4P2O7粉末を得た。
【0187】
実施例1-45
コアの製造過程において1044.6gの炭酸マンガン、1138.5gのリン酸二水素アンモニウムと369.4gの炭酸リチウムを使用し、さらに105.4gの炭酸第一鉄、10.5gの希硝酸(60%HNO3換算、以下同様)を添加する以外は、実施例1-1と同じである。
【0188】
実施例1-46
コアの製造過程において104.5gの炭酸マンガン、1138.5gのリン酸二水素アンモニウムと371.3gの炭酸リチウムを使用し、さらに1052.8gの炭酸第一鉄、5.25gの希硝酸(60%HNO3換算、以下同様)を添加する以外は、実施例1-1と同じである。
【0189】
実施例1-47
ピロリン酸鉄リチウム及び、酸化アルミニウムとスクロースを含む懸濁液との製造過程において、表1に示される被覆量に従って様々な原料の使用量を調整してLi2FeP2O7/Al2O3の使用量をそれぞれ62.9g/47.1gにする以外、実施例1-47の他の条件は、実施例1-1と同じである。
【0190】
実施例1-48
スクロースの使用量が111.9gであり、第二の被覆層である炭素層の対応する被覆量を47.1gにする以外は、操作実施例1-1と同じである。
【0191】
実施例1-49
コアの製造過程において1034.3gの炭酸マンガン、1138.5gのリン酸二水素アンモニウムと371.3gの炭酸リチウムを使用し、さらに115.8gの炭酸第一鉄、5.25gの希硝酸(60%HNO3換算、以下同様)を添加する以外は、実施例1-1と同じである。
【0192】
実施例1-50
コアの製造過程において1091.8gの炭酸マンガン、1138.5gのリン酸二水素アンモニウムと371.3gの炭酸リチウムを使用し、さらに57.9gの炭酸第一鉄、5.25gの希硝酸(60%HNO3換算、以下同様)を添加する以外は、実施例1-1と同じである。
【0193】
実施例1-51
コアの製造過程において804.5gの炭酸マンガン、1138.5gのリン酸二水素アンモニウムと371.3gの炭酸リチウムを使用し、さらに347.4gの炭酸第一鉄、5.25gの希硝酸(60%HNO3換算、以下同様)を添加し、スクロースの使用量が111.9gであり、対応する炭素の被覆量が47.1gである以外は、実施例1-1と同じである。
【0194】
実施例1-52
747.0gの炭酸マンガン、1138.5gのリン酸二水素アンモニウムと371.3gの炭酸リチウムを使用し、さらに405.3gの炭酸第一鉄、5.25gの希硝酸(60%HNO3換算、以下同様)を添加し、スクロースの使用量が111.9gであり、対応する炭素の被覆量が47.1gである以外は、実施例1-1と同じである。
【0195】
実施例2-1
ピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)の製造過程において粉末焼結ステップにおける焼結温度が550℃であり、焼結時間が1hであり、Li2FeP2O7の結晶度を30%に制御し、Al2O3の製造過程において被覆焼結ステップにおける焼結温度が650℃であり、焼結時間が2hであり、Al2O3の結晶度を100%に制御する以外、他の条件は、実施例1-1と同じである。
【0196】
実施例2-2
ピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)の製造過程において粉末焼結ステップにおける焼結温度が550℃であり、焼結時間が2hであり、Li2FeP2O7の結晶度を50%に制御し、Al2O3の製造過程において被覆焼結ステップにおける焼結温度が650℃であり、焼結時間が3hであり、Al2O3の結晶度を100%に制御する以外、他の条件は、実施例1-1と同じである。
【0197】
実施例2-3
ピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)の製造過程において粉末焼結ステップにおける焼結温度が600℃であり、焼結時間が3hであり、Li2FeP2O7の結晶度を70%に制御し、Al2O3の製造過程において被覆焼結ステップにおける焼結温度が650℃であり、焼結時間が4hであり、Al2O3の結晶度を100%に制御する以外、他の条件は、実施例1-1と同じである。
【0198】
実施例2-4
ピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)の製造過程において粉末焼結ステップにおける焼結温度が650℃であり、焼結時間が4hであり、Li2FeP2O7の結晶度を10%に制御し、Al2O3の製造過程において被覆焼結ステップにおける焼結温度が500℃であり、焼結時間が6hであり、Al2O3の結晶度を100%に制御する以外、他の条件は、実施例1-1と同じである。
【0199】
実施例3-1~3-12
Fe、CoとVを共ドーピングしたシュウ酸マンガン粒子を製造する過程において、実施例3-1では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ60℃/120分間であり、実施例3-2では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ70℃/120分間であり、実施例3-3では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ80℃/120分間であり、実施例3-4では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ90℃/120分間であり、実施例3-5では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ100℃/120分間であり、実施例3-6では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ110℃/120分間であり、実施例3-7では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ120℃/120分間であり、実施例3-8では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ130℃/120分間であり、実施例3-9では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ100℃/60分間であり、実施例3-10では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ100℃/90分間であり、実施例3-11では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ100℃/150分間であり、実施例3-12では、反応釜内の加熱温度/攪拌時間がそれぞれ100℃/180分間である以外、実施例3-1~3-12の他の条件は、実施例1-1と同じである。
【0200】
実施例4-1~4-4:
ピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)の製造過程において乾燥ステップにおける乾燥温度/乾燥時間がそれぞれ100℃/4h、150℃/6h、200℃/6hと200℃/6hであり、ピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)の製造過程において焼結ステップにおける焼結温度と焼結時間がそれぞれ700℃/6h、700℃/6h、700℃/6hと600℃/6hである以外、他の条件は、実例1-7と同じである。
【0201】
実施例4-5~4-7:
被覆過程において乾燥ステップにおける乾燥温度/乾燥時間がそれぞれ150℃/6h、150℃/6hと150℃/6hであり、被覆過程において焼結ステップにおける焼結温度と焼結時間がそれぞれ600℃/4h、600℃/6hと800℃/8hである以外、他の条件は、実例1-12と同じである。
【0202】
比較例1
シュウ酸マンガンの製造:1149.3gの炭酸マンガン反応釜に加え、5リットルの脱イオン水と1260.6gのシュウ酸二水和物(C2H2O4・2H2O換算、以下同様)を添加した。反応釜を80℃に加熱し、反応終了(気泡発生なし)まで、600rpmの回転速度で6時間攪拌し、シュウ酸マンガン懸濁液を得、そして懸濁液を濾過し、ケーキを120℃で乾燥し、その後に粉砕し、メジアン粒径Dv50が100nmのシュウ酸マンガン二水和物粒子を得た。
【0203】
炭素被覆リン酸マンガンリチウムの製造:上記の得られた1789.6gのシュウ酸マンガン二水和物粒子、369.4gの炭酸リチウム(Li2CO3換算、以下同様)、1150.1gのリン酸二水素アンモニウム(NH4H2PO4換算、以下同様)と31gのスクロース(C12H22O11換算、以下同様)を取って20リットルの脱イオン水に添加し、混合物を10時間攪拌して均一に混合し、スラリーを得た。スラリーを噴霧乾燥設備に移して噴霧乾燥造粒し、乾燥温度を250℃に設定し、4時間乾燥し、粉末材料を得た。窒素ガス(90体積%)+水素ガス(10体積%)の保護雰囲気において、上記粉末材料を700℃で4時間焼結し、炭素被覆リン酸マンガンリチウムを得た。
【0204】
比較例2
689.5gの炭酸マンガンを使用し、さらに463.3gの炭酸第一鉄を添加する以外、比較例2の他の条件は、比較例1と同じである。
【0205】
比較例3
1148.9gのリン酸二水素アンモニウムと369.0gの炭酸リチウムを使用し、さらに1.6gの60%濃度の希硫酸を添加する以外、比較例3の他の条件は、比較例1と同じである。
【0206】
比較例4
689.5gの炭酸マンガン、1148.9gのリン酸二水素アンモニウムと369.0gの炭酸リチウムを使用し、さらに463.3gの炭酸第一鉄、1.6gの60%濃度の希硫酸を添加する以外、比較例4の他の条件は、比較例1と同じである。
【0207】
比較例5
ピロリン酸鉄リチウム粉末を製造する時に、9.52gの炭酸リチウム、29.9gの炭酸第一鉄、29.6gのリン酸二水素アンモニウムと32.5gのシュウ酸二水和物を50mlの脱イオン水に溶解した。混合物のpHは、5であり、2時間攪拌して反応混合物を十分に反応させた。そして反応後の溶液を80℃に昇温してこの温度を4時間維持し、Li2FeP2O7を含む懸濁液を得、懸濁液を過濾し、脱イオン水で洗浄し、且つ120℃で4h乾燥し、粉末を得た。粉末を500℃、窒素ガス雰囲気で4時間焼結し、室温まで自然冷却した後に粉砕し、Li2FeP2O7の結晶度を5%に制御し、炭素被覆材料を製造する時に、Li2FeP2O7の使用量が62.8gであるというステップを追加する以外、比較例5の他の条件は、比較例4と同じである。
【0208】
比較例6
62.92gのナノAl2O3(粒径約20nm)と37.4gのスクロース(C12H22O11換算、以下同様)を1500mlの脱イオン水に溶解し、そして6時間攪拌し混合物を十分に反応させた。そして反応後の溶液を120℃に昇温してこの温度を6時間維持し、酸化アルミニウムとスクロースを含む懸濁液を得たというステップを追加する以外、比較例6の他の条件は、比較例4と同じである。
【0209】
比較例7
非結晶性ピロリン酸鉄リチウム粉末の製造:2.38gの炭酸リチウム、7.5gの炭酸第一鉄、7.4gのリン酸二水素アンモニウムと8.1gのシュウ酸二水和物を50mlの脱イオン水に溶解した。混合物のpHは、5であり、2時間攪拌して反応混合物を十分に反応させた。そして反応後の溶液を80℃に昇温してこの温度を4時間維持し、Li2FeP2O7を含む懸濁液を得、懸濁液を過濾し、脱イオン水で洗浄し、且つ120℃で4h乾燥し、粉末を得た。粉末を500℃、窒素ガス雰囲気で4時間焼結し、室温まで自然冷却した後に粉砕し、Li2FeP2O7の結晶度を5%に制御した。
【0210】
酸化アルミニウムとスクロースを含む懸濁液の製造:47.19gのナノAl2O3(粒径約20nm)と37.4gのスクロース(C12H22O11換算、以下同様)を1500mlの脱イオン水に溶解し、そして6時間攪拌し混合物を十分に反応させた。そして反応後の溶液を120℃に昇温してこの温度を6時間維持し、酸化アルミニウムとスクロースを含む懸濁液を得た。
【0211】
1573.0gのコア、15.73gのピロリン酸鉄リチウム粉末を、上記懸濁液に添加し、製造過程において被覆焼結ステップにおける焼結温度が600℃であり、焼結時間が4hであり、LiFePO4の結晶度を8%に制御する以外、比較例7の他の条件は、比較例4と同じであり、非結晶性ピロリン酸鉄リチウム、非結晶性酸化アルミニウム、炭素被覆正極活物質を得た。
【0212】
比較例8-11
ピロリン酸鉄リチウム(Li2FeP2O7)の製造過程において乾燥ステップにおける乾燥温度/乾燥時間が、比較例8-10でそれぞれ80℃/3h、80℃/3h、80℃/3hであり、被覆過程において焼結ステップにおける焼結温度と焼結時間が、比較例8-10でそれぞれ400℃/3h、400℃/3h、350℃/2hであり、比較例11の被覆過程において乾燥ステップにおける乾燥温度/乾燥時間が80℃/3hであり、比較例8-9におけるLi2FeP2O7/Al2O3の重量比がそれぞれ1:3、1:1であり、比較例10でLi2FeP2O7のみを採用し、比較例11でAl2O3のみを採用する以外、他の条件は、実施例1-7と同じである。
【0213】
正極極板の製造
上記の製造された正極活物質である双層被覆リン酸マンガンリチウム、導電剤であるアセチレンブラック、接着剤であるポリビニリデンフルオライド(PVDF)を重量比92:2.5:5.5でN-メチルピロリドン(NMP)に添加し、攪拌して均一に混合し、正極スラリーを得た。そして正極スラリーを0.280g/1540.25mm2でアルミニウム箔上に均一に塗覆し、乾燥し、冷間プレスを経て、スリットし、正極極板を得た。
【0214】
負極極板の製造
負極活物質である人造黒鉛、導電剤である超伝導カーボンブラック(Super-P)、接着剤であるスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤であるカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)を質量比95%:1.5%:1.8%:1.7%で脱イオン水に溶解し、十分に攪拌して均一に混合した後に、粘度3000mPa.s、固形分52%の負極スラリーを得、負極スラリーを6μmの負極集電体銅箔上に塗覆し、その後に100℃で4時間焼成して乾燥し、ロールプレスし、圧密密度1.75g/cm3の負極極板を得た。
【0215】
セパレータ
ポリプロピレンフィルムを採用した。
【0216】
電解液の製造
エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートと1,2-プロパンジオールカーボネートを体積比1:1:1で混合し、そしてLiPF6を上記溶液に均一に溶解し、電解液を得た。この電解液において、LiPF6の濃度は、1mol/Lである。
【0217】
フル電池の製造
上記の得られた正極極板、セパレータ、負極極板を、セパレータが正負極間に位置して隔離の役割を果たすように順番に積層し、捲回してベアセルを得た。ベアセルを外装体に置き、上記電解液を注入してパッケージングし、フル電池(以下「フルセル」とも呼ばれる)を得た。
【0218】
ボタン電池の製造
上記の製造された正極活物質、PVDF、アセチレンブラックを90:5:5の重量でNMPに添加し、乾燥室で攪拌してスラリーを製造した。アルミニウム箔上に上記スラリーを塗覆し、乾燥し、冷間プレスして正極極板を製造した。塗覆量は、0.2g/cm2であり、圧密密度は、2.0g/cm3である。
【0219】
負極としてリチウムシートを用い、電解液として1mol/LのLiPF6の体積比1:1:1のエチレンカーボネート(EC)+ジエチルカーボネート(DEC)+ジメチルカーボネート(DMC)における溶液を用い、上記の製造された正極極板と共にボタン電池箱にボタン電池(以下、「ボタンセル」とも呼ばれる)として組み立てた。
【0220】
正極活物質の性質試験
1.コアの化学式及び異なる被覆層の組成の測定:
球面収差計(ACSTEM)を用いて正極活物質の内部ミクロ構造と表面構造を高空間分解能で特徴付け、三次元再構成技術を結び付けて正極活物質のコアの化学式及び第一、第二の被覆層の組成を得た。
【0221】
2.ボタン電池の初期グラム容量試験:
2.5~4.3Vで、上記の製造されたボタン電池を0.1Cで4.3Vまで充電し、そして4.3Vで電流が0.05mA以下になるまで定電圧充電し、5min静置し、そして0.1Cで2.0Vまで放電し、この時の放電容量を初期グラム容量とし、D0とした。
【0222】
3.ボタン電池の平均放電電圧(V)試験:
上記の製造されたボタン電池を25℃の恒温環境で、5min静置し、0.1Cで2.5Vまで放電し、5min静置し、0.1Cで4.3Vまで充電し、そして4.3Vで電流が0.05mA以下になるまで定電圧充電し、5min静置し、そして0.1Cで2.5Vまで放電し、この時の放電容量を初期グラム容量とし、D0とし、放電気エネルギー量を初期エネルギーとし、E0とし、ボタン電池の平均放電電圧Vは、E0/D0である。
【0223】
4.フル電池の60℃での膨脹試験:
60℃で、100%充電状態(SOC)の上記の製造されたフル電池を保存した。保存前後及び保存中に、SOCをモニタリングするように電池コアの開放電圧(OCV)と交流内部抵抗(IMP)を測定し、且つ電池コアの体積を測定した。ここで、48hごとに保存した後にフル電池を取り出し、1h静置後に開放電圧(OCV)、内部抵抗(IMP)を試験し、且つ室温まで冷却した後に排水法で電池コア体積を測定した。排水法は、まず文字板データを用いて自動的に単位変換する天秤で電池コアの重力F1を単独測定し、そして電池コアを完全に脱イオン水(密度は1g/cm3として知られている)に置き、この時の電池コアの重力F2を測定し、電池コアが受ける浮力F浮がF1-F2であり、そしてアルキメデス原理F浮に=ρxgxV排に基づいて、電池コア体積V=(F1-F2)/(ρxg)を算出した。
【0224】
OCV、IMP試験の結果から、本実験過程において保存終了まで、すべての実施例の電池は、常に99%以上のSOCを保持していた。
【0225】
30日間保存した後、電池コア体積を測定し、保存前の電池コア体積に対する保存後の電池コア体積の増加率を計算した。
【0226】
また、電池コアの残留容量を測定した。2.5~4.3Vで、フル電池を1Cで4.3Vまで充電し、そして4.3Vで電流が0.05mA以下になるまで定電圧充電した。5min静置し、この時の充電容量を電池コアの残留容量として記録した。
【0227】
5.フル電池の45℃でのサイクル性能試験:
45℃の恒温環境で、2.5~4.3Vで、上記の製造されたフル電池を1Cで4.3Vまで充電し、そして4.3Vで電流が0.05mA以下になるまで定電圧充電した。5min静置し、そして1Cで2.5Vまで放電し、この時の放電容量をD0として記録した。放電容量がD0の80%に低下するまで、前述の充放電サイクルを繰り返した。この時に電池が通過したサイクル数を記録した。
【0228】
6.格子変化率試験:
25℃の恒温環境で、上記の製造された正極活物質サンプルをXRD(型番はBruker D8 Discover)に置き、1°/minを用いてサンプルを試験し、且つ試験データを整理分析し、規格PDFカードを参照して、この時の格子常数a0、b0、c0とv0(a0、b0とc0は、単位格子の各方面における長さの大きさを表し、v0は、単位格子の体積を表し、XRDの仕上げ結果から直接取得可能である)を算出した。
【0229】
上記ボタン電池製造方法を用いて、正極活物質サンプルをボタン電池として製造し、電流が0.01Cに減少するまで、上記ボタン電池を0.05Cの小レートで充電した。そしてボタン電池における正極極板を取り出し、ジメチルカーボネート(DMC)に置いて8時間浸漬した。そして乾燥し、粉体を掻き取り、そのうちの粒径が500nm未満の粒子を選別した。サンプリングして上記試験用新鮮なサンプルと同様な方式でその単位格子の体積v1を算出し、(v0-v1)/v0×100%をそのリチウムを完全に放出する前後の格子変化率(単位格子の体積変化率)として表に示した。
【0230】
7.Li/Mnのアンチサイト欠陥濃度試験:
「格子変化率測定方法」で試験したXRD結果を標準結晶のPDF(Powder Diffraction File)カードと比較し、Li/Mnのアンチサイト欠陥濃度を得た。具体的には、「格子変化率測定方法」で試験したXRD結果を汎用構造解析システム(GSAS)ソフトウェアに導入し、仕上げ結果を自動的に取得し、その中には、異なる原子の占位状況が含まれ、仕上げ結果を読み取ることでLi/Mnのアンチサイト欠陥濃度を得た。
【0231】
8.遷移金属溶出試験:
45℃で80%まで容量が減衰するまでサイクルしたフル電池を0.1Cレートでカットオフ電圧2.0Vまで放電した。そして電池を解体し、負極極板を取り出し、負極極板上に30個の単位面積(1540.25mm2)のウェーハをランダムに取り、Agilent ICP-OES730で誘導結合プラズマ発光スペクトル(ICP)を試験した。ICP結果に基づいてそのうちのFe(正極活物質のMnサイトにFeがドーピングされている場合)とMnの量を計算し、それによってサイクル後のMn(及びMnサイトにドーピングされたFe)の溶出量を計算した。試験規格は、EPA-6010D-2014に準拠している。
【0232】
9.表面酸素の原子価状態試験:
上記の製造された正極活物質サンプルを5g取って上記ボタン電池製造方法に従ってボタン電池として製造した。電流が0.01Cに減少するまで、ボタン電池を0.05Cの小レートで充電した。そしてボタン電池における正極極板を取り出し、ジメチルカーボネート(DMC)に置いて8時間浸漬した。そして乾燥し、粉体を掻き取り、そのうちの粒径が500nm未満の粒子を選別した。得られた粒子を電子エネルギー損失分光法(EELS、使用した機器の型番はTalos F200S)で測定し、エネルギー損失端近傍構造(ELNES)を取得し、それは、元素の状態密度とエネルギーレベル分布状況を反映した。状態密度とエネルギーレベル分布から、価電子帯状態密度密度データを積分して、占有電子数を算出することによって、充電後の表面酸素の原子価状態を推定した。
【0233】
10.圧密密度測定:
上記の製造された正極活物質粉末を5g取って圧密専用金型(米国CARVER金型、型番13mm)に入れ、そして金型を圧密密度計に置いた。3Tの圧力を印加し、機器上で、圧力での粉末の厚さ(減圧後の厚さ、試験用のコンテナの面積は1540.25mm2)を読み取り、ρ=m/vから、圧密密度を算出した。
【0234】
11.X線回折法によるピロリン酸塩とリン酸塩の結晶度の試験
上記の製造された正極活物質粉末を5g取って、X線によって総散乱強度を測定し、それは、空間全体の物質の散乱強度の和であり、サンプルの順序状態とは関係がなく、一次放射線の強度、化学構造、回折に関与する総電子数、即ち質量の多少にのみ関係し、そして回折図から結晶性散乱と非結晶性散乱を分離し、結晶度は、結晶部分散乱と散乱の総強度との比である。
【0235】
12.格子面間隔となす角
上記の製造された各正極活物質粉末1gを50mLの試験管に取り、且つ試験管質量分率75%のアルコール10mLを注入し、そして十分に攪拌して30分間分散させ、そしてきれいな使い捨てプラスチックストローで適量の上記溶液を取って300メッシュの銅網に滴下し、この時、一部の粉末は、銅網に残り、銅網をサンプルと共にTEM(Talos F200s G2)サンプルキャビティに移して試験を行い、TEM試験の原画を得、原画フォーマット(xx.dm3)を保存した。
【0236】
上記TEM試験で得られた原画をDigitalMicrographソフトウェアで開き、フーリエ変換(クリック操作後にソフトウェアが自動的に完了)して回折パータンを得、回折パータンにおける回折スポットから中心位置までの距離を測定すると、格子面間隔が得られ、なす角は、ブラッグ方程式により算出された。
【0237】
13.被覆層の厚さ試験:
被覆層の厚さ寸法試験は、主にFIBにより、上記の製造された正極活物質の単個粒子の中間から100 nm程度の厚さの薄片を切り取り、そして薄片に対してTEM試験を行い、TEM試験の原画を得、原画フォーマット(xx.dm3)を保存した。
【0238】
上記TEM試験で得られた原画をDigitalMicrographソフトウェアで開き、格子ピッチとなす角情報から、被覆層を識別し、被覆層の厚さを測定した。
【0239】
選択された粒子に対して3箇所の厚さを測定し、平均値を取った。
【0240】
以上の結果を表1-4に示す。
【0241】
[表1] 実施例1-1~1-52及び比較例1-7の性能試験結果
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表2-9】
【表2-10】
【0242】
実施例1-1~1-52及び比較例1-4から分かるように、第一の被覆層の存在は、得られた材料のLi/Mnのアンチサイト欠陥濃度とサイクル後のFeとMnの溶出量を低減させ、電池のボタン電池グラム容量と圧密密度を向上させ、電池の安全性能とサイクル性能を改善するのに有利である。Mnサイトとリンサイトに他の元素をそれぞれドーピングする場合、得られた材料の格子変化率、アンチサイト欠陥濃度とFeとMnの溶出量を明らかに低減させ、電池のグラム容量と圧密密度を向上させ、電池の安全性能とサイクル性能を改善することができる。
【0243】
実施例1-2~1-6から分かるように、第一の被覆層の量が3.2%から6.4%に増加するにつれて、得られた材料のLi/Mnのアンチサイト欠陥濃度は、徐々に低下し、サイクル後のFeとMnの溶出量は、徐々に低下し、対応する電池の安全性能と45℃でのサイクル性能も改善されたが、ボタン電池グラム容量は、若干低下した。選択的に、第一の被覆層の総量が4-5.6重量%である場合、対応する電池の総合性能が最適である。
【0244】
実施例1-3及び実施例1-7~1-10から分かるように、第二の被覆層の量が1%から6%に増加するにつれて、得られた材料のサイクル後のFeとMnの溶出量は、徐々に低下し、対応する電池の安全性能と45℃でのサイクル性能も改善されたが、ボタン電池グラム容量は、若干低下した。選択的に、第二の被覆層の総量が3-5重量%である場合、対応する電池の総合性能が最適である。
【0245】
実施例1-11~1-15及び比較例5-6から分かるように、第一の被覆層にLi2FeP2O7とAl2O3が同時に存在し、特にLi2FeP2O7とAl2O3の重量比が1:3~3:1であるとともに、特に1:3~1:1である場合、電池性能の改善がさらに明らかである。
【0246】
[表2] 実施例1-1、実施例2-1~2-4の性能試験結果
【表3】
【0247】
表2から分かるように、第一の被覆層におけるピロリン酸塩の結晶度が徐々に増加するにつれて、対応する材料の格子変化率、Li/Mnのアンチサイト欠陥濃度及びFeとMnの溶出量は、徐々に低下し、電池のボタン電池容量は、徐々に増加し、安全性能とサイクル性能も徐々に改善された。
【0248】
[表3] 実施例3-1~3-12の性能試験結果
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【0249】
表3から分かるように、シュウ酸マンガン粒子の製造過程における反応釜内の反応温度と反応時間を調整することにより、本出願の正極材料の各性能をさらに改善することができる。例えば、反応温度が60℃から130℃まで徐々に増大する過程において、格子変化率、Li/Mnのアンチサイト欠陥濃度は、先に減少させた後に増大し、対応するサイクル後の金属溶出量、安全性能も類似する法則を呈したが、ボタン電池容量とサイクル性能は、温度上昇に伴ってまず増大した後に減小した。反応温度をそのまま制御し、反応時間を調整すると、類似する法則を呈することもできる。
【0250】
[表4] 実施例4-1~4-7及び比較例8-11の性能試験結果
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【0251】
表4から分かるように、本出願の方法によりピロリン酸鉄リチウムを製造する時、製造過程における乾燥温度/時間と焼結温度/時間を調節することにより、得られた材料の性能を改善し、それによって電池性能を改善することができ、被覆過程において、乾燥温度/時間と焼結温度/時間を調節することにより、得られた材料の性能を改善し、それによって電池性能を改善することができる。比較例8-11から分かるように、ピロリン酸鉄リチウムの製造過程における乾燥温度が100℃未満であり又は焼結ステップの温度が400℃未満の場合、本出願で製造を意図するLi2FeP2O7が得られず、それによって材料性能及び二次電池の性能を改善することができない。
【0252】
説明すべきこととして、本出願は、上記実施の形態に限らない。上記実施の形態は、例示であり、本出願の技術案の範囲内に技術的思想と実質的に同じ構成を有し、同じ作用効果を奏する実施の形態は、いずれも本出願の技術範囲内に含まれる。なお、本出願の趣旨を逸脱しない範囲内で、実施の形態に対して当業者が想到できる様々な変形を加え、実施の形態における一部の構成要素を組み合わせて構筑された他の方式も、本出願の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0253】
1電池パック、2上部筐体、3下部筐体、4電池モジュール、5二次電池、51ケース、52電極アセンブリ、53カバープレート、11コア、12第一の被覆層、13第二の被覆層。