(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】検出装置および検出システム
(51)【国際特許分類】
B02C 17/18 20060101AFI20250407BHJP
【FI】
B02C17/18 Z
(21)【出願番号】P 2024510923
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022016122
(87)【国際公開番号】W WO2023188150
(87)【国際公開日】2023-10-05
【審査請求日】2024-01-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(74)【代理人】
【識別番号】100168332
【氏名又は名称】小崎 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100146592
【氏名又は名称】市川 浩
(74)【代理人】
【氏名又は名称】内田 敬人
(72)【発明者】
【氏名】池田 修造
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-83314(JP,A)
【文献】国際公開第2018/010880(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0052205(US,A1)
【文献】特開昭62-037086(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0145168(US,A1)
【文献】特表2017-513694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B02C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱物を粉砕するミルの起動時にドラムの内壁に固着した被加工物の有無を検出する検出装置であって、
前記ドラムの所定の初期回転角度において検出され、前記ドラムの内壁に固着した被加工物が存在する場合の初期トルクを記憶し、
前記初期トルク、前記初期回転角度および前記初期回転角度よりも大きい回転角度にもとづいて、前記ドラムの内壁に固着した被加工物が存在する場合の前記回転角度における最大トルクを計算し、
前記回転角度において検出されたトルクを前記最大トルクで除した比を計算し、
前記比とあらかじめ設定されたしきい値とを比較し、
前記比が前記しきい値よりも小さい場合に前記ドラムの内壁に固着した被加工物が存在しないと判定し、
前記ドラムの回転角度が前記初期回転角度よりも大きい角度であって、前記被加工物が前記ドラムの内壁から脱落し得る第1回転角度に達した後に、前記比が前記しきい値と等しいか、前記しきい値よりも大きい場合に前記ドラムの内壁に固着した被加工物が存在することを判定するように構成された検出装置。
【請求項2】
前記最大トルクをTmax、前記初期トルクをTL、前記回転角度をθ、前記初期回転角度をθLとしたときに、
前記最大トルクを計算することは、式(1)にしたがう計算を実行することである請求項1記載の検出装置。
Tmax=TL×(sinθ/sinθL) (1)
【請求項3】
前記ドラムの内壁に固着した被加工物が存在することを判定したときに、前記ミルの運転を停止する指令を生成する請求項1記載の検出装置。
【請求項4】
前記ドラムの内壁に固着した被加工物が存在することを判定したときに、
前記ドラムを現在までの回転方向とは逆方向に回転させた後、元の回転方向に回転させ、前記被加工物をゆするようにして前記被加工物の固着を解消する被加工物除去動作をする指令を生成する請求項1記載の検出装置。
【請求項5】
前記ミルのドラムを駆動する電動機と、
前記電動機を駆動する駆動装置と、
前記電動機の回転角度を検出する回転角度検出器と、
前記駆動装置が出力するトルクを検出するトルク検出器と、
請求項1記載の検出装置と、
を備え、
前記ミルは、ボールミル、SAGミルおよびAGミルのいずれかであり、
前記回転角度検出器は、前記回転角度を逐次検出して前記検出装置に送信し、
前記トルク検出器は、前記初期トルクして前記検出装置に送信し、前記回転角度における前記トルクを逐次検出して前記検出装置に送信し、
前記検出装置は、前記回転角度における前記トルクを受信するごとに、前記比を計算し、前記比と前記しきい値とを比較し、前記比と前記しきい値との大小関係を判定する検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、鉱物を粉砕するミルのドラムの内壁に固着した鉱物由来の被加工物の有無を検出する検出装置および検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉱石等の鉱物資源は、鉱山等で採取された後、所定の大きさおよび形状に整えられ、ボールミル、SAG(Semi-Auto Geneous)ミルまたはAG(Auto Geneous)ミル等の粉砕機によって細粒化される。ミルのドラム内に投入された鉱物資源は、細粒化される過程でドラムの内壁に固着することがある。たとえば、細粒化過程の被加工物が粉砕機内に滞留したまま操業を中断しドラムを長時間停止させた場合には、細粒化過程の被加工物がドラムの内壁に固着する可能性が高い。そのような場合に、操業再開時にドラムの回転を開始すると、被加工物がその自重によりドラム上部の内壁から剥がれて、ドラム底部に落下して、ドラムの内壁を破損することがある。
【0003】
定期的に、あるいは非定期にミルの操業を停止し、ドラムの内部を含めて点検または整備が行われる。このようなドラム内部の点検の際に、被加工物がドラムの内壁に固着していた場合には、固着した被加工物は、ドラムの内壁から剥がされる。
【0004】
鉱石等の被加工物のドラムの内壁への固着の有無は、ミルの操業を停止してドラムの内部を観察しなければわからない。頻繁にミルの操業を停止することは、鉱物資源の採集処理工程の生産性を低下させる。
【0005】
ミルの操業中に、被加工物のドラムの内壁への固着の有無を検出する技術が開発されている。たとえば、ドラムの内壁に被加工物が固着していないときの駆動トルクを測定しておき、ミルを再起動した後の電動機の回転角度と駆動トルクとの特性から被加工物の固着の有無を検出するシステムが知られている(特許文献1参照)。しかしながら、ミルの駆動システムは、設置場所に応じてそれぞれ設計され、最適化されている場合が多い。そのため、特許文献1のようなシステムでは、設置されたミルごとにトルク特性を取得しなければならず、被加工物のドラムの内壁への固着の有無の検出を簡便に実現することは困難である。
【0006】
ドラムの内部を観察せずに、ドラムの内壁に固着した被加工物の有無を容易に検出できる検出装置および検出システムが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の実施の形態は、上記問題点を解決するためになされたものであり、ドラムの内壁に固着した被加工物の有無を容易に検出できる検出装置および検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施の形態に係る検出装置は、鉱物を粉砕するミルのドラムの内壁に固着した被加工物の有無を検出する。この検出装置は、あらかじめ設定された初期回転角度において検出され、前記ドラムの内壁に固着した被加工物が存在する場合の初期トルクを記憶し、前記初期トルク、前記初期回転角度および前記初期回転角度よりも大きい回転角度にもとづいて、前記ドラムの内壁に固着した被加工物が存在する場合の前記回転角度における最大トルクを計算し、前記回転角度におけるトルクを前記最大トルクで除した比を計算し、前記比とあらかじめ設定されたしきい値とを比較し、前記比が前記しきい値よりも小さい場合に前記ドラムの内壁に固着した被加工物が存在しないと判定し、前記ドラムの回転角度が前記初期回転角度よりも大きい角度であって、前記被加工物が前記ドラムの内壁から脱落し得る第1回転角度に達した後に、前記比が前記しきい値と等しいか、前記しきい値よりも大きい場合に前記ドラムの内壁に固着した被加工物が存在することを判定するように構成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施の形態によれば、ドラムの内壁に固着した被加工物の有無を容易に検出できる検出装置および検出システムが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係るミルを例示する模式的なブロック図である。
【
図2】実施形態に係る検出装置の動作原理を説明するための模式図である。
【
図3】実施形態に係る検出装置の動作原理を説明するための模式図である。
【
図4】実施形態に係る検出装置の動作原理を説明するための模式図である。
【
図5】実施形態に係る検出装置の動作を説明するためのフローチャートの例である。
【
図6】実施形態に係る検出装置を例示する模式的なブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0013】
図1は、実施形態に係るミルを例示する模式的なブロック図である。
図1に示すように、検出システム1は、電動機5と、駆動装置6と、回転角度検出器7と、トルク検出器8と、検出装置10と、を備える。検出システム1は、ミル本体4とともに設けられる。
【0014】
ミル本体4は、変速装置等を介して電動機5と接続されている。ミル本体4は、後述するように回転するドラムを有している。ドラムは、円筒状の部材であって、所定の大きさとされた鉱物がドラムの内部に投入される。ミル本体4のドラムは、電動機5により回転駆動される。電動機5は、直流電動機または交流電動機であり、交流電動機の場合、たとえば誘導電動機や同期電動機である。駆動装置6は、電動機5に接続されている。駆動装置6は、電動機5に所定の電圧を印加し、所定の電流を流して、電流に応じて発生する磁界によって、電動機5を駆動する。
【0015】
駆動装置6は、図示しない主幹制御装置に導入された制御プログラムおよび制御プログラムのためのパラメータにしたがって、電動機5を駆動する。駆動装置6は、たとえば、あらかじめ設定されたパラメータである速度基準に追従する回転速度となるように、電動機5を駆動する。
【0016】
回転角度検出器7は、電動機5に接続されている。回転角度検出器7は、たとえば、電動機5の単位時間当たりの回転数を検出し、電動機5とミル本体4との減速比にもとづいて、ミル本体4のドラムの回転角度を計算して出力する。回転角度検出器7は、たとえば、ロータリーエンコーダ等を含む計測装置である。ロータリーエンコーダには、光学式や磁気式等適切なものが選定される。回転角度検出器7は、電動機5と一体となっていてもよいし、電動機5とは別体で設置されてもよい。回転角度検出器7は、電動機5の単位時間当たりの回転数を検出して出力し、検出装置10によって、電動機5の回転数をドラムの回転角度に換算してもよい。
【0017】
トルク検出器8は、駆動装置6に接続されている。トルク検出器8は、駆動装置6から出力電流に関する信号を入力して、出力電流にもとづいて、電動機5が出力しているトルクの値を計算して出力する。トルク検出器8は、駆動装置6と一体とされていてもよいし、駆動装置6とは別体で設置されてもよい。あるいは、トルク検出器8は、駆動装置6とは独立した個別のトルク検出機構を備えたものでもよい。
【0018】
ドラムの内壁に固着した被加工物の有無を検出する検出装置10は、回転角度検出器7の出力に接続され、トルク検出器8の出力に接続されている。検出装置10は、電動機5の回転角度のデータおよび電動機5のトルクのデータを逐次入力して、ミル本体4のドラムの内壁への被加工物の固着の有無を検出する。
【0019】
検出装置10は、ドラムの内壁に被加工物の固着がある場合のトルクをトルクの最大値として計算し、実測したトルクが計算されたトルクの最大値よりも十分に小さいときには、ドラムの内壁に被加工物の固着がないと判定する。検出装置10は、実測したトルクが計算されたトルクの最大値に近いときには、ドラム内壁に固着物が存在すると判定する。
【0020】
ドラムの内壁に被加工物の固着がある場合のトルクの最大値を最大トルクTmaxということとする。検出装置10は、以下のように最大トルクTmaxを計算する。すなわち、検出装置10は、あらかじめ設定された初期回転角度θLにおける初期トルクTLをトルク検出器8から入力する。初期回転角度θLは、ドラムの内壁への被加工物の固着が維持できる程度の十分に小さい値が設定される。
【0021】
電動機5は、初期回転角度θL以降も回転を続け、回転角度θは、回転角度検出器7によって、たとえば定周期で検出される。検出装置10は、回転角度θが検出されるたびに回転角度θの値および初期トルクTLの値を、後述する式(1)に適用して、回転角度θにおける最大トルクTmaxを計算する。
【0022】
検出装置10は、最大トルクTmaxを計算するたびに、実測のトルクTとの比を計算する。検出装置10は、あらかじめ設定されたしきい値αとT/Tmaxとを比較し、T/Tmaxがしきい値αより小さいときには、ドラム内壁に固着物がないと判定する。検出装置10は、T/Tmax以上のときには、ドラム内壁に固着物があると判定する。
【0023】
実施形態の検出装置10について理解を容易にするために、検出装置10の動作原理について説明する。
図2~
図4は、実施形態に係る検出装置の動作原理を説明するための模式図である。
図2~
図4には、
図1に示したミル本体4を構成するドラム40が示されている。
図2~
図4に示されたドラム40は、内部の様子が見えるように描かれている。ドラム40の内部には、被加工物P0~P2が配置されている。
図2~
図4では、ドラム40は、Cを中心にして、被加工物P0~P2とともに反時計まわりに回転する。
図2、
図3および
図4と図面番号が進むにつれて、時間が経過していることを示している。
【0024】
図2~
図4において、被加工物P0~P2は、同じ物質で同じ質量Mを有する。Gは、質量Mを集中質量とした場合の重心である。rは、中心Cと重心Gとの間の最短距離である。被加工物P0~P2は、ドラム40の回転により、その形状を変化させ得るが、以下の説明では、特に断らない限り、重心Gは、中心Cから距離rだけ離れた位置で一定であるものとする。
【0025】
図2には、ミル本体4の起動前のドラム40の様子が示されている。
図2に示すように、被加工物P0は、ドラム40の底に滞留している。被加工物P0は、ドラム40の内壁に固着しているものとする。被加工物P0は、自身の質量Mにより、重力方向にF=gMの力を受けている。
図2の状態のときのドラムの回転角度は基準値であり、このときの回転角度は、たとえば0°である。以下では、回転角度は、0°を基準とした角度であるものとする。
【0026】
図3には、
図2の状態からミル本体4が起動し、ドラム40が初期回転角度θLだけ反時計まわりに回転した様子が示されている。
図3に示すように、被加工物P1は、ドラム40の内壁に固着しており、初期回転角度θLは、
図3の中心Cと重心Gとを結ぶ線分が、
図2の中心Cと重心Gとを結ぶ線分となす角度である。
【0027】
図3の状態では、重心Gにおける重力による力Fは、ドラム40の円周の接線方向の成分および法線方向の成分に分解される。ドラム40の円周の接線方向の成分は、gMsinθLと計算され、ドラム40の円周の法線方向の成分は、gMcosθLと計算される。
【0028】
被加工物P1は、ドラム40の円周の接線方向の力gMsinθLにもとづいて、モーメントを生ずる。このときのモーメントは、中心Cと重心Gとの距離rを用いて、rgMsinθLと計算される。
【0029】
図3の状態においては、駆動装置6は、rgMsinθLのモーメントに打ち勝つように、電動機5を駆動するトルクを発生する。初期回転角度θLのときのトルクを初期トルクTLというものとする。検出装置10では、初期トルクTLがrgMsinθLに等しいものとして、以降の計算を実行する。
【0030】
図4には、ドラム40が初期回転角度θLから、さらに反時計まわりに回転し、回転角度θに達したときのドラム40の内部の様子が示されている。回転角度θは、
図4の中心Cと重心Gとを結ぶ線分が、
図2の中心Cと重心Gとを結ぶ線分となす角度である。
【0031】
図4に示すように、重心Gにおける重力による力Fは、
図3の場合と同様に、ドラム40の円周の接線方向の成分および法線方向の成分に分解される。ドラム40の円周の接線方向の成分は、gMsinθと計算され、ドラム40の円周の法線方向の成分は、gMcosθと計算される。
【0032】
図4の状態においては、被加工物P2は、ドラム40の円周の接線方向の力gMsinθにもとづいて、モーメントを生ずる。このときのモーメントは、中心Cと重心Gとの距離rを用いて、rgMsinθと計算される。
【0033】
被加工物P2がドラム40の内壁に固着している場合には、駆動装置6は、rgMsinθのモーメントに打ち勝つように、電動機5を駆動するトルクを発生する。ドラム40の内壁に被加工物が固着していない場合には、駆動装置6は、rgMsinθよりも十分に小さいトルクで電動機5を駆動することができる。したがって、rgMsinθは、検出装置10の動作において、駆動装置6が発生する最大トルクTmaxとすることができる。
【0034】
最大トルクTmaxは、以下のようにして、初期トルクTL、初期回転角度θLおよび回転角度θを、以下の式(1)に適用することにより計算される。
【0035】
Tmax=rgMsinθ
=rgMsinθL×(sinθ/sinθL)
=TL×(sinθ/sinθL) (1)
ここで、θ>θLである。
【0036】
初期トルクTLは、トルク検出器8によって検出され、検出装置10に入力される。初期回転角度θLおよび回転角度θは、回転角度検出器7によって検出され、検出装置10に入力される。検出装置10は、式(1)を用いて、最大トルクTmaxを計算することができる。
【0037】
検出装置10には、あらかじめしきい値αが設定される。検出装置10は、最大トルクTmaxとトルク検出器8によって検出された実測のトルクTとの比を計算し、回転角度θを検出するごとに、T/Tmaxを計算して、計算した結果としきい値αとを比較する。
【0038】
初期回転角度θLは、被加工物がドラムの内壁に固着した状態を維持できる程度の十分に小さい回転角度とされる。電動機5の起動時には、定常運転時よりも大きな起動トルクを要する。そのため、初期回転角度θLは、電動機5が起動トルクを脱した後の回転角度に設定されることが好ましく、電動機5およびミル本体4の機械の定数によって適切な値に設定される。初期回転角度θLは、たとえば20°程度とされる。
【0039】
しきい値αは、ミル本体4に応じて実験やシミュレーション等により適切な値が設定される。なお、θ=90°のときに、Tmaxは、最大値となるので、しきい値αは1よりも小さい値となる。
【0040】
なお、ドラム40は、初期回転角度θLを超えて回転しても被加工物が変形開始するまでは、被加工物の有無にかかわらず、T/Tmaxは1である。そのため、ドラム40が初期回転角度θLを超えた時点で、T/Tmaxがしきい値αを超えてしまい、検出装置10は、被加工物が固着していない場合でも被加工物の固着ありと判定してしまう。そこで本実施形態の検出装置10では、固着物の有無を検出する固着物有無検出角度(第1回転角度)θCが設定される。ドラム40の回転角度θがθCに達するまでの間は、T/Tmaxがしきい値αと等しいか、しきい値αよりも大きい場合においても、比較物の固着ありと判定しない。固着物有無検出角度θCは、被加工物の固着がなければ確実に被加工物が変形開始する角度に選定される。固着物有無検出角度θCは、たとえば60°程度とされる。
【0041】
上述の一連の動作をフローチャートを用いて説明する。
図5は、実施形態に係る検出装置の動作を説明するためのフローチャートの例である。
図5に示すように、ステップS1において、検出装置10は、回転角度検出器7によって検出された初期回転角度θLを入力し、トルク検出器8によって検出された初期トルクTLを入力し、初期回転角度θLおよび初期トルクTLを記憶する。
【0042】
ステップS2において、回転角度検出器7により、回転角度θが固着物有無検出角度θCに達したことを検出し、トルク検出器8は、回転角度θのときのトルクを検出する。検出装置10は、検出された回転角度θのデータおよびトルクTのデータを入力する。
【0043】
ステップS3において、検出装置10は、記憶された初期回転角度θL、記憶された初期トルクTLおよび入力された回転角度θを用いて、最大トルクTmaxを計算する。
【0044】
ステップS4において、検出装置10は、T/Tmaxを計算し、計算結果とあらかじめ設定されたしきい値αとを比較する。検出装置10は、T/Tmaxがしきい値αよりも小さい場合には、ステップS6において、固着物がないものと判定する。検出装置10は、計算したT/Tmaxがしきい値αに等しいか、しきい値αよりも大きい場合には、ステップS5において、ドラム40の内壁に固着物を検出したものと判定する。
【0045】
実施形態の検出装置10は、
図5に示したフローチャートの各ステップを実行するコンピュータ装置であり、コンピュータ装置は、各ステップを含むプログラムを記憶装置等に格納し、必要な場合に読み出して実行する。検出装置10を実現するコンピュータ装置は、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)でもよい。PLC上で実行される制御プログラムに
図5に示したフローチャートの内容を適用するようにしてもよい。
【0046】
図6は、実施形態に係る検出装置を例示する模式的なブロック線図である。
図6には、
図5に示したフローチャートが、PLCに導入される制御プログラムを表すように書き換えられている。
以下では、
図6にしたがって、実施形態の検出装置10の動作について説明する。
図6に示すように、検出装置10は、比較判定要素11,18、19、記憶要素12、演算要素13~17、数値制限要素21,22、およびOR論理要素23を備えている。
検出装置10には、初期回転角度θLがあらかじめ設定される。この例では、初期回転角度の入力端子Aに数値制限要素21が設けられている。入力端子Aに入力された初期回転角度θLは、比較判定要素11の一方の端子に入力される。
【0047】
数値制限要素21は、初期回転角度θLの範囲をあらかじめ制限するために設けられており、たとえば、電動機5の起動トルク発生時の回転角度よりも大きい最大制限値および45°よりも小さい最小制限値が設定されている。数値制限要素21の設定は任意であり、数値制限要素21を設けなくてもよい。
【0048】
電動機5から得られたドラム40の回転角度θ、または他の方法で得られたドラム40の回転角度θは、回転角度検出器7によって検出され、入力端子Bに入力される。入力された回転角度θは、比較判定要素11の他方の端子に入力される。
【0049】
比較判定要素11は、回転角度θの大きさが、初期回転角度θLの大きさよりも大きくなったときに、パルスを出力する。出力されたパルスは、記憶要素12に入力される。
【0050】
トルク検出器8によって検出されたトルクTは、入力端子Cに入力される。入力されたトルクTは、記憶要素12に入力される。記憶要素は、比較判定要素11が出力したパルスを受信したときに、トルクTを記憶する。回転角度θが初期回転角度θLを超えたときに出力されたパルスが記憶要素12に入力されるので、記憶要素12に記憶されるデータは、初期回転角度θLのときの初期トルクTLである。
【0051】
記憶要素12は、初期トルクTLを出力している。入力端子Bに入力された回転角度θは、演算要素13に入力される。演算要素13は、正弦演算を実行して、sinθを出力する。
【0052】
演算要素14には、演算要素13によって計算されたsinθおよび記憶要素12から初期トルクTLを入力し、これらを乗じた結果TLsinθを出力する。
【0053】
入力端子Aから入力された初期回転角度θLは、演算要素15に入力される。演算要素15は、正弦演算を実行して、sinθLを出力する。
【0054】
演算要素16は、演算要素14によって演算され出力されたTL・sinθを、演算要素15によって演算され出力されたsinθLで除して、結果を最大トルクTmaxとして出力する。詳細な計算は、上述した式(1)の導出過程を利用している。この例では、演算要素16の出力には、数値制限要素22が設けられている。数値制限要素22は、各演算要素によって発生する演算誤差により、不適切な演算結果を除外するために設けられている。
【0055】
演算要素17は、トルク検出器8によって検出されたトルクTを演算要素16によって演算され出力された最大トルクTmaxで除して出力する。
【0056】
比較判定要素18の一方の端子Dには、あらかじめしきい値αが設定され、比較判定要素18に入力される。比較判定要素18の他方の端子には、演算要素17によって演算され出力されたT/Tmaxが入力される。比較判定要素18は、T/Tmaxとしきい値αとを比較して、T/Tmaxがしきい値αよりも小さい場合には、ドラムの内壁への固着物がないと判定し、固着物がない旨の信号(Y)を出力する。T/Tmaxがしきい値αと等しいか、しきい値αよりも大きい場合には、比較判定要素18は、ドラム40の内壁への固着物があると判定し、固着物がある旨の信号(N)を出力する。この例では、固着物がない旨の信号(Y)は、論理値“1”に対応し、固着物がある旨の信号(N)は論理値“0”に対応する。
【0057】
比較判定要素18の出力は、回転角度θと固着物有無検出角度θCとの大小関係にもとづいて決定される。回転角度θと固着物有無検出角度θCとの比較判定は、比較判定要素19によって行われる。比較判定要素19の一方の入力には、端子Bが接続されており、回転角度θが入力される。比較判定要素19の他方の入力には、端子Eが接続されており、あらかじめ設定された固着物有無検出角度θCが入力される。
【0058】
OR論理要素23の一方の入力には、比較判定要素18の出力が接続され、OR論理要素23の他方の入力には、比較判定要素19の出力が接続されている。
【0059】
比較判定要素19は、回転角度θが固着物有無検出角度θCよりも小さいと判定した場合には、論理値“1”を出力する。したがって、OR論理要素23には、論理値“1”が入力されるので、比較判定要素18の出力にかかわらず、OR論理要素23は、論理値“1”、すなわち、固着物がない旨の信号(Y)を出力する。
【0060】
比較判定要素19は、回転角度θが固着物有無検出角度θC以上であると判定した場合には、論理値“0”を出力する。したがって、OR論理要素23は、比較判定要素18の出力の論理値を出力する。つまり、比較判定要素18が、固着物がある旨の信号(N)を出力した場合には、OR論理要素23は、固着物がある旨の信号(N)を出力する。比較判定要素18が、固着物がない旨の信号(Y)を出力した場合には、OR論理要素23は、固着物がない旨の信号(Y)を出力する。
【0061】
このようにして、実施形態の検出装置10は、ドラムの内壁への鉱物由来の被加工物の固着の有無を判定することができる。
【0062】
上述した検出装置10は、ミル本体4の点検等により停止後に、ミル本体4を起動する場合に動作する。つまり、ミル本体4が起動し、駆動装置6が電動機5の駆動を開始するときに検出装置10が動作して、ドラムの内壁への被加工物の固着の有無を検出する。検出装置10は、被加工物の固着を検出した場合には、たとえば、電動機5の駆動を停止する停止指令を生成する。停止指令を受信した図示しない主幹制御装置は、インターロックにより、ミル本体4の運転自体を停止させる。これにより安全に、固着物の除去等が行われる。
【0063】
検出装置10がドラム内壁への被加工物の固着を検出した場合には、上述に限らず、主幹制御装置に、被加工物の固着を解消する被加工物除去動作をさせる指令を生成してもよい。たとえば、被加工物除去動作をさせる場合には、主幹制御装置は、現在までの回転方向とは逆方向に-90°程度まで回転させ、その後元の回転方向に回転させるようにして、被加工物をゆするようにして、固着を解消させる動作である。
【0064】
検出装置10は、ドラムの内壁への被加工物の固着を検出しなかった場合には、そのまま動作状態を維持してもよいし、あらかじめ設定された回転角度を経過した後に、動作を停止するようにしてもよい。
【0065】
実施形態の検出装置10の効果について説明する。
実施形態の検出装置10では、電動機5の回転角度検出器7によって検出される回転角度およびトルク検出器8によって検出されるトルクにもとづいて、ドラムの内壁に被加工物が固着している場合のトルクを最大トルクTmaxとして計算することができる。最大トルクTmaxは、式(1)を用いて、容易に計算することができる。したがって、しきい値αを適切に設定することによって、簡便にドラムの内壁への被加工物の固着の有無を判定することができる。
【0066】
実施形態の検出装置10の検出装置10では、上述のようにして固着判定を行うので、ドラム等の機械系を含めた電動機のトルク特性をミルの設置状態、被加工物の種類や状態ごとに取得する必要がないので、設置や調整を簡便に実行することができる。
【0067】
このようにして、ドラムの内壁に固着した被加工物の有無を容易に検出できる検出装置が実現される。
【0068】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他のさまざまな形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明およびその等価物の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 ミル、4 ミル本体、5 電動機、6 駆動装置、7 回転速度検出器、8 トルク検出器、10 検出装置、11,18,19 比較判定要素、12 記憶要素、13~17 演算要素、21,22 数値限定要素、23 OR論理要素、40 ドラム