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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/00 20060101AFI20250407BHJP
   E02F 9/02 20060101ALI20250407BHJP
【FI】
E02F9/00 B
E02F9/02 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024514887
(86)(22)【出願日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2023013560
(87)【国際公開番号】W WO2023199761
(87)【国際公開日】2023-10-19
【審査請求日】2024-09-25
(31)【優先権主張番号】P 2022066149
(32)【優先日】2022-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002457
【氏名又は名称】弁理士法人広和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本多 健志
(72)【発明者】
【氏名】岡野 一
(72)【発明者】
【氏名】村山 雄二
(72)【発明者】
【氏名】簗瀬 祥隆
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-116034(JP,A)
【文献】特開2006-070481(JP,A)
【文献】特開2016-008416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/00- 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用油圧モータによって自走が可能な下部走行体と、前記下部走行体上に旋回装置を介して旋回可能に設けられた上部旋回体と、を備え、
前記上部旋回体は、原動機と、作動油タンクと、前記原動機によって駆動されることにより前記作動油タンクに貯えられた作動油を吐出する油圧ポンプと、を備えてなる建設機械において、
前記下部走行体には、前記油圧ポンプから前記走行用油圧モータに供給される作動油の流れを制御する走行モータ用制御弁が設けられ、
前記作動油タンクと前記走行用油圧モータとの間は、油圧配管によって接続され、
前記油圧配管は、
前記作動油タンク、前記油圧ポンプおよび前記走行モータ用制御弁間を接続して作動油を供給する供給配管部と、
前記下部走行体に設けられ、かつ前記走行モータ用制御弁および前記走行用油圧モータ間を接続し、前記油圧ポンプから吐出されて前記走行用油圧モータに供給される高圧の作動油が流通する高圧配管部と、
前記下部走行体から前記上部旋回体に亘って設けられ、かつ前記走行モータ用制御弁および前記作動油タンク間を接続し、前記走行用油圧モータから排出されて前記走行モータ用制御弁から前記作動油タンクに戻る低圧の作動油が流通する低圧配管部と、から構成されていることを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械において、
前記下部走行体は、センタフレームおよび前記センタフレームの左右両側において前後方向に延びたサイドフレームを有するトラックフレームと、前記サイドフレームの後部に設けられ前記走行用油圧モータによって回転される駆動輪と、前記サイドフレームの前部に設けられた遊動輪と、前記駆動輪と前記遊動輪とに亘って巻回された履帯と、を備え、
前記センタフレームは、前記走行用油圧モータと前後方向で向かい合う後面に弁取付面を備え、
前記走行モータ用制御弁は、前記センタフレームの前記弁取付面に取付けられていることを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項2に記載の建設機械において、
前記旋回装置の旋回中心位置には、前記下部走行体と前記上部旋回体との間で作動油を流通させるためのセンタジョイントが設けられ、
前記低圧配管部は、前記センタジョイントを介して前記上部旋回体と前記下部走行体とに亘って設けられ、
前記低圧配管部のうち、前記センタジョイントと前記走行モータ用制御弁との間の弁側低圧配管部は、前記高圧配管部よりも前記履帯から離れた位置を通って配策されていることを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項1に記載の建設機械において、
前記走行モータ用制御弁は、左右方向に並んだ位置に、上下方向に位置をずらして複数個設けられていることを特徴とする建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、油圧ショベル等の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、建設機械の代表例としての油圧ショベルは、自走が可能な下部走行体と、下部走行体上に旋回装置を介して旋回可能に設けられた上部旋回体と、を備えている。上部旋回体の前側には、土砂の掘削作業等を行うための作業装置が回動可能に設けられている。
【0003】
また、上部旋回体は、原動機としてのエンジンと、作動油を貯える作動油タンクと、エンジンによって駆動されることにより作動油タンクに貯えられた作動油を吐出する油圧ポンプと、油圧ポンプから吐出されて走行用油圧モータに供給される作動油の流れを制御する走行モータ用制御弁と、を備えている。また、上部旋回体および下部走行体には、作動油タンクから油圧ポンプ等を経由して走行用油圧モータに対して作動油を給排する油圧配管が配策されている。
【0004】
近年では、油圧ショベルに対して省エネ化が望まれている。この場合、油圧ショベルには、省エネ化に関わる機器類が搭載される。従って、油圧ショベルは、機器類を上部旋回体に設置するためのスペースが限られるばかりか、省エネ化に関わる機器類および既存の機器類のメンテナンス等の作業性が悪くなる。
【0005】
そこで、油圧ショベルには、上部旋回体に設置されるのが一般的なエンジン、油圧ポンプ、燃料タンク、作動油タンクを下部走行体に移設したものがある(特許文献1)。これにより、特許文献1の油圧ショベルは、上部旋回体に設置スペースや作業スペースを確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実開平1-150653号公報
【発明の概要】
【0007】
特許文献1による油圧ショベルは、小型ないし中型の機種で、エンジン、油圧ポンプ、燃料タンク、作動油タンク等は、車格に応じた大きさとなっている。これにより、エンジン、油圧ポンプ、燃料タンク、作動油タンク等は、下部走行体に設置できる大きさに形成されている。しかし、鉱山の露天掘り等に用いられる大型の油圧ショベルでは、車格に応じてエンジン、油圧ポンプ、燃料タンク、作動油タンク等が大型化するから、このエンジン、油圧ポンプ、燃料タンク、作動油タンク等を下部走行体に設置することが難しい。この結果、大型の油圧ショベルは、省エネ化することができない上に、上部旋回体の設置スペースが限られたことでメンテナンス等の作業性が悪くなるという問題がある。
また、作動油タンクと走行用油圧モータとを接続する油圧配管は、メンテナンス性等を考慮すると、配管内を流通する作動油の圧力に耐えうる強度を確保しつつ、できるだけ容易に、かつ高い自由度で配策できることが好ましい。
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、上部旋回体に種々の機器を搭載できるようにスペースを確保すると共に油圧機器を接続する油圧配管の配策を容易にし、メンテナンス等の作業性を向上できるようにした建設機械を提供することにある。
【0009】
本発明は、走行用油圧モータによって自走が可能な下部走行体と、前記下部走行体上に旋回装置を介して旋回可能に設けられた上部旋回体と、を備え、前記上部旋回体は、原動機と、作動油タンクと、前記原動機によって駆動されることにより前記作動油タンクに貯えられた作動油を吐出する油圧ポンプと、を備えてなる建設機械において、前記下部走行体には、前記油圧ポンプから前記走行用油圧モータに供給される作動油の流れを制御する走行モータ用制御弁が設けられ、前記作動油タンクと前記走行用油圧モータとの間は、油圧配管によって接続され、前記油圧配管は、前記作動油タンク、前記油圧ポンプおよび前記走行モータ用制御弁間を接続して作動油を供給する供給配管部と、前記下部走行体に設けられ、かつ前記走行モータ用制御弁および前記走行用油圧モータ間を接続し、前記油圧ポンプから吐出されて前記走行用油圧モータに供給される高圧の作動油が流通する高圧配管部と、前記下部走行体から前記上部旋回体に亘って設けられ、かつ前記走行モータ用制御弁および前記作動油タンク間を接続し、前記走行用油圧モータから排出されて前記走行モータ用制御弁から前記作動油タンクに戻る低圧の作動油が流通する低圧配管部と、から構成されている。
【0010】
本発明によれば、上部旋回体に機器の設置スペースを確保することが可能となり例えば省エネ化するための機器を搭載することができる。また、油圧配管のうち、配策の容易な低圧配管の占める割合を多くすることができ、メンテナンス等の作業スペースを確保して作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態による油圧ショベルを示す右側面図である。
図2】下部走行体を示す平面図である。
図3】下部走行体を図2中の矢示III-III方向から示す後面図である。
図4】下部走行体の後側部位を図2中の矢示IV-IV方向から示す断面図である。
図5】走行用油圧モータに対する作動油の供給経路および戻り経路を模式的に示す構成図である。
図6】比較例による走行用油圧モータに対する作動油の供給経路および戻り経路を模式的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態による建設機械の代表例として、油圧ショベルを例に挙げ、図1ないし図6を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
図1において、建設機械の代表例となる油圧ショベル1は、鉱山の掘削(露天掘り)等に用いられる超大型の油圧ショベル(マイニング油圧ショベル)である。油圧ショベル1は、後述の下部走行体15と、下部走行体15上に旋回装置2を介して旋回可能に設けられた上部旋回体3と、上部旋回体3の前側に回動可能に設けられ、土砂の掘削作業等を行う作業装置4と、を備えている。
【0014】
旋回装置2は、下部走行体15上で上部旋回体3を旋回させる機構である。旋回装置2は、下部走行体15のトラックフレーム16と上部旋回体3の旋回フレーム5との間に設けられた円環状の軸受からなる旋回輪2Aと、旋回輪2Aの内輪に噛合して上部旋回体3を旋回させる旋回モータ(図示せず)と、を備えている。
【0015】
上部旋回体3は、支持構造体をなし前側に作業装置4が設けられた旋回フレーム5と、旋回フレーム5の左前側に搭載され、内部に運転室を形成するキャブ6と、旋回フレーム5の後部に取付けられ、作業装置4との重量バランスをとるカウンタウエイト7と、キャブ6とカウンタウエイト7との間に位置して旋回フレーム5に搭載された後述のエンジン9等を収容する建屋8と、を備えている。キャブ6の内部には、オペレータが座る運転席と、運転席の前方、左側、右側に位置して油圧ショベル1を操作する操作装置(いずれも図示せず)と、が設けられている。
【0016】
原動機としてのエンジン9は、カウンタウエイト7の前側に位置して旋回フレーム5上に設けられている。エンジン9は、例えばディーゼルエンジンとして構成されている。エンジン9は、旋回フレーム5の後側に左右方向に延在する横置き状態で1台設けられている。例えば、エンジン9の右側には、後述の油圧ポンプ10が取付けられている。また、エンジン9の左側には、ラジエータ、オイルクーラ、コンデンサ等からなる熱交換装置(いずれも図示せず)が配設されている。
【0017】
なお、原動機としては、ディーゼルエンジンと電動モータとを組み合わせたハイブリッド式の原動機または電動モータ単体としてもよい。一方で、原動機は、上部旋回体3の前後方向に延在する縦置き状態で設けてもよい。また、原動機は、左右方向に並べて2台搭載する構成としてもよい。
【0018】
油圧ポンプ10は、エンジン9の右側に取付けられている。油圧ポンプ10は、作業装置4の油圧アクチュエータ、旋回装置2の旋回モータ、下部走行体15の走行用油圧モータ20等を動作させるための作動油(圧油)を吐出するメインポンプ、これらの油圧アクチュエータを制御する制御弁(走行モータ用制御弁23を含む)を動作させるための作動油(圧油)を吐出するパイロットポンプを含んでいる。複数個の油圧ポンプ10は、例えば、可変容量型の斜板式油圧ポンプ、斜軸式油圧ポンプ、ラジアルピストン式油圧ポンプ等により構成されている。
【0019】
センタジョイント11は、旋回中心となる旋回装置2の旋回輪2A(後述するセンタフレーム17の円筒部17A)の中心に位置して下部走行体15と上部旋回体3との間に設けられている。センタジョイント11は、下部走行体15に対して上部旋回体3が旋回している場合でも、下部走行体15と上部旋回体3との間で、油圧アクチュエータを動作させるための作動油、走行モータ用制御弁23等を動作させるためのパイロット用の作動油、電気(信号)を流通させることができる。
【0020】
センタジョイント11は、上部旋回体3の旋回フレーム5に取付けられるボディと、ボディから下側に突出した状態でボディ内に回転可能に設けられ、下部走行体15のトラックフレーム16に取付けられるスピンドルと、を含んで構成されている。また、センタジョイント11は、ボディとスピンドルとの間に周方向に延びる複数本の環状油路と、複数本の環状油路に個別に連通した状態でボディ、スピンドルの外面に開口した複数本の油路(いずれも図示せず)と、を有している。
【0021】
そして、ボディには、後述するポンプ側高圧配管部25B、タンク側低圧配管部25G、ポンプ側パイロット配管部、ポンプ側ハーネス(いずれも図示せず)等が接続されている。一方、スピンドルには、弁側高圧配管部25C、弁側低圧配管部25F、弁側パイロット配管部、弁側ハーネス(いずれも図示せず)等が接続されている。
【0022】
図5に模式的に示すように、作動油タンク12は、油圧ポンプ10に供給するための作動油を貯えるもので、旋回フレーム5上に設けられている。作動油タンク12は、後述の供給低圧配管部25Aを介して油圧ポンプ10に接続されている。また、作動油タンク12には、タンク側低圧配管部25Gが接続されている。
【0023】
制御弁装置13は、エンジン9の前側に位置して旋回フレーム5上に設けられている。制御弁装置13は、例えば、ブロック状の構造体からなるマニホールドと、マニホールドに取付けられた複数個の制御弁と、を含んで構成されている。制御弁装置13(制御弁)は、油圧ポンプ10から作業装置4の油圧アクチュエータ、旋回装置2の旋回モータに供給される作動油の流れを制御する。
【0024】
ここで、制御弁装置13は、後述の走行モータ用制御弁23が下部走行体15側に移設されたことにより、走行モータ用制御弁23の分だけ小型化することができる。しかも、走行モータ用制御弁23を設置するためには、走行モータ用制御弁23用の配管、ホースの接続部や、周囲の弁や構造物との間にメンテナンスを行うためのスペースが必要になる。これに対し、制御弁装置13は、走行モータ用制御弁23を移設したことで、これらのスペースも省略でき、より一層小型化することができる。
【0025】
パイロット用制御弁装置14は、例えば、制御弁装置13の後側に位置して旋回フレーム5上に設けられている。パイロット用制御弁装置14は、制御弁装置13と同様に、マニホールドと複数個の制御弁とを含んで構成されている。パイロット用制御弁装置14は、制御弁装置13の制御弁、後述の走行モータ用制御弁23に供給されるパイロット用の作動油の流れを制御する。なお、パイロット用制御弁装置14は、下部走行体15に設置することもできる。
【0026】
下部走行体15は、後述の走行用油圧モータ20によって駆動輪19を回転させることによって走行する。下部走行体15は、後述のトラックフレーム16、駆動輪19、走行用油圧モータ20、遊動輪21、履帯22、走行モータ用制御弁23、ブレーキ弁24、油圧配管25を備えている。
【0027】
トラックフレーム16は、中央に位置するセンタフレーム17と、センタフレーム17の左右両側に設けられたサイドフレーム18(図1図4参照)と、を備えている。センタフレーム17は、中央に位置して上側に突出した円筒部17Aを有し、この円筒部17A上には、旋回装置2の旋回輪2Aが取付けられている。センタフレーム17には、円筒部17Aの中心位置にセンタジョイント11が配設されている。また、図2に示すように、センタフレーム17は、前側(遊動輪21側)に位置して左右両側に延びた前脚部17Bと、後側(駆動輪19側)に位置して左右両側に延びた後脚部17Cと、を備えている。
【0028】
さらに、図3に示すように、センタフレーム17は、左右の後脚部17Cの後面が弁取付面17Dとなっている。この弁取付面17Dは、後述の走行モータ用制御弁23とブレーキ弁24が取付けられる面で、走行用油圧モータ20と前後方向で向かい合って配置されている。
【0029】
サイドフレーム18は、センタフレーム17の左右両側、具体的には、左側の前脚部17B、後脚部17Cの先端部と、右側の前脚部17B、後脚部17Cの先端部とに前後方向に延びて設けられている。
【0030】
図1図4に示すように、駆動輪19は、サイドフレーム18の後部に設けられている。駆動輪19は、減速機、ドライブタンブラ(またはスプロケット)等からなり、減速機がサイドフレーム18の後部に取付けられている。駆動輪19には、後述の走行用油圧モータ20が取付けられている。
【0031】
図4に示すように、走行用油圧モータ20は、駆動輪19の左右方向の内側に、例えば、前後方向に並んで2個取付けられている。これにより、左側の駆動輪19に取付けられた2個の走行用油圧モータ20と右側の駆動輪19に取付けられた2個の走行用油圧モータ20とは、互いに対向するように駆動輪19から内側に突出している(図2図3参照)。走行用油圧モータ20は、例えば、可変容量型の斜板式油圧モータ、斜軸式油圧モータ、ラジアルピストン式油圧モータ等により構成されている。走行用油圧モータ20は、走行モータ用制御弁23から切換高圧配管部25D,25Eを介して作動油(圧油)が供給されることにより、回転軸(図示せず)を回転させ、その回転力で減速機を介して駆動輪19を回転させる。なお、走行用油圧モータ20は、必要とされる出力に応じて1個または2個以上設ける構成としてもよい。
【0032】
遊動輪21は、駆動輪19と前後方向の反対側となるサイドフレーム18の前部に回転可能に設けられている(図1中に右側のみ図示)。また、履帯22は、駆動輪19と遊動輪21とに亘って周回可能に巻回されている。
【0033】
ここで、下部走行体15は、多用される前進走行で履帯22の地面側が張るように駆動輪19が後側に配置され、これを元に前後方向を決定している。なお、下部走行体15の前後方向は、下部走行体15の前進方向、後進方向である。一方で、下部走行体15上で上部旋回体3が180度旋回した状態では、上部旋回体3から見れば前後方向が反対になる。
【0034】
走行モータ用制御弁23は、下部走行体15に取付けられている。走行モータ用制御弁23は、左側の駆動輪19に設けられた2個の走行用油圧モータ20に対応し、左側の弁取付面17Dに2個取付けられ、右側の駆動輪19に設けられた2個の走行用油圧モータ20に対応し、右側の弁取付面17Dに2個取付けられている。走行モータ用制御弁23は、油圧ポンプ10から走行用油圧モータ20に供給される作動油の流れを制御する油圧パイロット式の切換弁からなる。即ち、走行モータ用制御弁23は、走行用油圧モータ20の回転方向(正転、逆転)を切換えることができる。
【0035】
ここで、図3に示すように、2個の走行モータ用制御弁23は、左右方向および上下方向に位置をずらして設けられている。具体的には、左右方向の内側に位置する走行モータ用制御弁23は、左右方向の外側に位置する走行モータ用制御弁23よりも高い位置に配置されている。これにより、走行モータ用制御弁23を2個並んで配置した場合でも、高さ位置を変えることで、作業スペースを確保して点検、修理、交換等のメンテナンスを容易に行うことができる。また、合計4個の走行モータ用制御弁23を、下部走行体15に設けたことにより、4個の走行モータ用制御弁23の分だけ制御弁装置13を小型化することができる。
【0036】
しかも、走行モータ用制御弁23は、センタフレーム17の後面を利用して設置することにより、センタジョイント11と走行用油圧モータ20との中間位置に配置することができる。この構成では、油圧配管25を短く、かつ整然と配策することができ、組立作業、メンテナンス等の作業性を向上することができる。また、センタフレーム17の後面に設けた走行モータ用制御弁23は、容易にメンテナンスすることができる。
【0037】
ブレーキ弁24は、走行モータ用制御弁23を介して下部走行体15に取付けられている。ブレーキ弁24は、走行モータ用制御弁23と同様に、左側の駆動輪19に設けられた2個の走行用油圧モータ20に対応し、左側の走行モータ用制御弁23に重ねて2個取付けられている。また、ブレーキ弁24は、右側の駆動輪19に設けられた2個の走行用油圧モータ20に対応し、右側の走行モータ用制御弁23に重ねて2個取付けられている。ブレーキ弁24は、作動油の流れを制限することで、走行用油圧モータ20に制動を与えるものである。
【0038】
さらに、ブレーキ弁24は、走行モータ用制御弁23と同様に、内側に位置するブレーキ弁24が外側に位置するブレーキ弁24よりも高い位置にずらして配置されている。これにより、ブレーキ弁24を2個並んで配置した場合でも、作業スペースを確保して点検、修理、交換等のメンテナンスを容易に行うことができる。また、ブレーキ弁24は、走行モータ用制御弁23に重ねて取付けられているから、弁取付面17Dに取付スペースを必要としない上に、走行モータ用制御弁23とブレーキ弁24とを接続する配管を省略することができる。
【0039】
図5に模式的に示すように、油圧配管25は、油圧ポンプ10、センタジョイント11、走行モータ用制御弁23およびブレーキ弁24を経由して前記作動油タンク12と走行用油圧モータ20とを接続している。また、油圧配管25は、油圧ポンプ10から吐出された高圧な作動油が流通する高圧配管部(図5中の太線)と、走行モータ用制御弁23から作動油タンク12に戻される低圧な作動油が流通する低圧配管部(図5中の細線)と、を備えている。油圧配管25は、合計4個の走行用油圧モータ20に対応するように4組設けられている(供給側と戻り側で1組×4)。
【0040】
油圧配管25の構成について、作動油の流れ方向に沿うように具体的に説明する。油圧配管25は、作動油タンク12と油圧ポンプ10とを接続する供給低圧配管部(供給配管部)25A、油圧ポンプ10とセンタジョイント11とを接続するポンプ側高圧配管部(供給配管部)25B、センタジョイント11と走行モータ用制御弁23とを接続する弁側高圧配管部(供給配管部)25C、ブレーキ弁24と走行用油圧モータ20とを接続する2本の切換高圧配管部(高圧配管部)25D,25E、走行モータ用制御弁23とセンタジョイント11とを接続する弁側低圧配管部(低圧配管部)25F、センタジョイント11と作動油タンク12とを接続するタンク側低圧配管部(低圧配管部)25Gにより構成されている。2本の切換高圧配管部25D,25Eは、供給側となる一方で高圧な作動油が流通し、戻り側となる他方で低圧な作動油が流通する。
【0041】
ポンプ側高圧配管部25B、弁側高圧配管部25C、2本の切換高圧配管部25D,25Eからなる高圧配管部は、油圧ポンプ10から吐出された作動油の圧力に耐えることができるように耐久性の高い材料、構造で形成されている。高圧配管部に用いる配管は、金属配管、ホースを含んでいる。高圧配管部が金属配管の場合には、肉厚が厚い金属パイプ、材料の強度が高い金属パイプ等が用いられる。また、高圧配管部がホースの場合には、強度を持った素材が径方向に複数層重ねられた太い耐圧ホースが用いられている。従って、高圧配管部は、低圧配管部と比較し、配策スペースを要し、高価で加工や取り回しが難しい。
【0042】
供給低圧配管部25A、弁側低圧配管部25F、タンク側低圧配管部25Gからなる低圧配管部は、大気圧状態の作動油タンク12に戻される作動油が流通するときの圧力に耐えることができる耐久性を有していればよい。低圧配管部に用いる配管は、高圧配管部と同様に、金属配管、ホースを含んでいる。低圧配管部が金属配管の場合には、肉厚が薄く、低強度の金属パイプ等を用いることができる。また、低圧配管部がホースの場合には、耐久性の低いホースを用いることができる。従って、低圧配管部は、高圧配管部と比較し、細い配管、ホースを用いることで配策スペースを小さくできる上に、曲げなどの配策時の自由度が高く、安価で加工や取り回しが容易である。
【0043】
油圧配管25のうち、センタフレーム17で配策される弁側高圧配管部25Cと弁側低圧配管部25Fは、走行モータ用制御弁23から弁取付面17Dに沿って上側に延びた後に、後脚部17Cの上面の位置で屈曲して前側に延び、円筒部17Aの側部位置で円筒部17A側に屈曲し、円筒部17Aの側部を通ってセンタジョイント11に接続されている。
【0044】
ここで、図2に示すように、低圧配管部のうち、センタジョイント11と走行モータ用制御弁23との間の弁側低圧配管部25Fは、並行して延びる弁側高圧配管部25Cよりも下部走行体15の履帯22から離れた位置を通って配策されている。換言すると、弁側低圧配管部25Fは、弁側高圧配管部25Cよりもセンタフレーム17の円筒部17A(旋回装置2の旋回輪2A)に近い位置を通って配策されている。
【0045】
これにより、石やコンクリート片が履帯22に跳ねてセンタフレーム17側に飛んできても、履帯22に近い位置には、高強度な弁側高圧配管部25Cが配置されているから、石やコンクリート片等から弁側低圧配管部25Fを保護することができる。
【0046】
図6は比較例を示すもので、走行モータ用制御弁101が上部旋回体3に設けられている。従って、比較例の油圧配管102は、作動油タンク12と油圧ポンプ10とを接続する供給低圧配管部102A、油圧ポンプ10と走行モータ用制御弁101とを接続する第1ポンプ側高圧配管部102B、走行モータ用制御弁101とセンタジョイント11とを接続する第2ポンプ側高圧配管部102C、センタジョイント11とブレーキ弁24とを接続する弁側高圧配管部102D、ブレーキ弁24と走行用油圧モータ20とを接続するモータ側高圧配管部102E,102F、ブレーキ弁24とセンタジョイント11とを接続する弁側高圧配管部102G、センタジョイント11と走行モータ用制御弁101とを接続するタンク側高圧配管部102H、走行モータ用制御弁101と作動油タンク12とを接続するタンク側低圧配管部102Jにより構成されている。
【0047】
この場合、走行モータ用制御弁101と走行用油圧モータ20との間では、走行用油圧モータ20の正転、逆転の切換に伴って、高圧な作動油が流通する経路が切換えられる。このため、走行モータ用制御弁101と走行用油圧モータ20との間の配管は、全て高圧配管部になる。即ち、図6の比較例の低圧配管部は、供給低圧配管部102A、タンク側低圧配管部102Jだけである。
【0048】
これに対し、図5に示す本実施形態では、図6の比較例(即ち、上部旋回体3に走行モータ用制御弁101を設けた場合)と比べて多くの部分を低圧配管部にすることができる。具体的には、油圧配管25は、供給低圧配管部25A、弁側低圧配管部25F、タンク側低圧配管部25Gを低圧配管部にすることができる。即ち、本実施形態は、油圧配管25の全体の配管長に対し、配策の容易さや自由度の高い低圧配管部の占める割合を大幅に多くすることができる。従って、本実施形態は、油圧配管25の全体としての配策の自由度及び容易さが大幅に向上する。
【0049】
例えば、本実施形態においては、タンク側低圧配管部25G、即ち、センタジョイント11と作動油タンク12とを接続する配管は、上部旋回体3内においては直接的に(走行モータ用制御弁23を経由することなく)配策することができる。従って、例えば、タンク側低圧配管部25Gは、比較例におけるタンク側高圧配管部102Hおよびタンク側低圧配管部102Jの配管長よりも短くすることができる。
【0050】
本実施形態による油圧ショベル1は、上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について説明する。
【0051】
キャブ6に搭乗したオペレータは、エンジン9を始動して油圧ポンプ10を駆動する。この状態で、オペレータは、走行用の操作装置を操作することにより、下部走行体15を前進または後退させることができる。また、作業用の操作装置を操作することにより、作業装置4を回動させて土砂の掘削作業等を行うことができる。
【0052】
ここで、下部走行体15を走行させるときの作動油の流れについて述べる。エンジン9によって油圧ポンプ10が駆動され、作動油タンク12から供給低圧配管部25Aを通じて油圧ポンプ10に作動油が供給されると、油圧ポンプ10から高圧な作動油が吐出され、ポンプ側高圧配管部25B、弁側高圧配管部25Cからなる供給配管部を通じて作動油が走行モータ用制御弁23に供給される。走行モータ用制御弁23は、パイロット配管部を介して供給される制御信号に基づいて切換えられ、例えば、切換高圧配管部25D(高圧配管部)から走行用油圧モータ20に作動油を供給する。一方、走行用油圧モータ20を駆動した作動油は、切換高圧配管部25Eを通じて走行モータ用制御弁23に戻され、弁側低圧配管部25F、タンク側低圧配管部25Gからなる低圧配管部を通じて作動油タンク12に戻される。
【0053】
かくして、本実施形態では、油圧ショベル1は、走行用油圧モータ20によって自走が可能な下部走行体15と、下部走行体15上に旋回装置2を介して旋回可能に設けられた上部旋回体3と、を備えている。この上で、油圧ポンプ10から走行用油圧モータ20に供給される作動油の流れを制御する走行モータ用制御弁23が設けられ、走行モータ用制御弁23は、下部走行体15に取付けられている。
【0054】
従って、上部旋回体3に搭載された制御弁装置13は、走行モータ用制御弁23の分だけ小型化することができるから、上部旋回体3には、制御弁装置13が小型化した分だけ設置スペースを確保することができる。また、上部旋回体3には、搭載されたエンジン9、油圧ポンプ10、制御弁装置13等の機器を点検、修理、交換するためのスペースを確保することができる。この結果、油圧ショベル1を省エネ化するために必要な機器を設置するためのスペースを確保することができると共に、省エネ化するための機器を含む機器をメンテナンスするときの作業性を向上することができる。
【0055】
しかも、本実施形態においては、作動油タンク12と走行用油圧モータ20との間は、油圧配管25にて接続されている。この油圧配管25は、作動油タンク12、油圧ポンプ10および走行モータ用制御弁23間を接続して作動油を供給する供給配管部としての供給低圧配管部25A、ポンプ側高圧配管部25B、弁側高圧配管部25Cと、下部走行体15に設けられ、かつ走行モータ用制御弁23および走行用油圧モータ20間を接続し、油圧ポンプ10から吐出されて走行用油圧モータ20に供給される高圧の作動油が流通する高圧配管部としての2本の切換高圧配管部25D,25Eと、下部走行体15から上部旋回体3に亘って設けられ、かつ走行モータ用制御弁23および作動油タンク12間を接続し、走行用油圧モータ20から排出されて走行モータ用制御弁23から作動油タンク12に戻る低圧の作動油が流通する低圧配管部としての弁側低圧配管部25F、タンク側低圧配管部25Gと、を有する。
【0056】
従って、本実施形態は、油圧配管25の全体長さに占める低圧配管部の割合が多く(高圧配管部の割合が少なく)、油圧配管25の全体としての配策の自由度や配策の容易さ、脱着の容易さが向上する他、メンテナンス性の向上効果、コストの低減効果も得ることができる。
【0057】
下部走行体15は、センタフレーム17およびセンタフレーム17の左右両側において前後方向に延びたサイドフレーム18を有するトラックフレーム16と、サイドフレーム18の後部に設けられ走行用油圧モータ20によって回転される駆動輪19と、サイドフレーム18の前部に設けられた遊動輪21と、駆動輪19と遊動輪21とに亘って巻回された履帯22と、を備えている。また、センタフレーム17は、走行用油圧モータ20と前後方向で向かい合う後面に弁取付面17Dを備えている。この上で、走行モータ用制御弁23は、センタフレーム17の弁取付面17Dに取付けられている。
【0058】
従って、走行モータ用制御弁23は、センタフレーム17の後面を利用して設置することにより、センタジョイント11と走行用油圧モータ20との中間位置に配置することができる。これにより、油圧配管25を短く、かつ整然と配策することができ、組立作業、メンテナンス等の作業性を向上することができる。また、センタフレーム17の後面に設けた走行モータ用制御弁23は、手が届き易く、容易にメンテナンスすることができる。
【0059】
旋回装置2の旋回中心位置には、下部走行体15と上部旋回体3との間で作動油を流通させるためのセンタジョイント11が設けられている。下部走行体15には、走行用油圧モータ20に制動を与えるブレーキ弁24が設けられている。油圧配管25は、油圧ポンプ10、センタジョイント11、走行モータ用制御弁23およびブレーキ弁24を経由して作動油タンク12と走行用油圧モータ20とを接続するように設けられている。また、低圧配管部としての弁側低圧配管部25F、タンク側低圧配管部25Gは、センタジョイント11を介して上部旋回体3と下部走行体15とに亘って設けられている。この上で、低圧配管部のうち、センタジョイント11と走行モータ用制御弁23との間の弁側低圧配管部25Fは、高圧配管部である弁側高圧配管部25Cよりも履帯22から離れた位置を通って配策されている。
【0060】
これにより、石やコンクリート片が履帯22に跳ねてセンタフレーム17側に飛んできても、履帯22に近い位置には、高強度な配管からなる弁側高圧配管部25Cが配置されている。この結果、弁側低圧配管部25Fは、石やコンクリート片が飛んでくる方向から遠い上に、弁側高圧配管部25Cが壁となるから、石やコンクリート片等から保護することができる。
【0061】
走行モータ用制御弁23は、左右方向に並んだ位置に、上下方向に位置をずらして複数個、例えば、左右の位置に2個ずつ設けられている。これにより、走行モータ用制御弁23を近い位置に2個並んで配置した場合でも、高さ位置を変えることで、工具等を掛ける作業スペースを確保して点検、修理、交換等のメンテナンスを容易に行うことができる。
【0062】
なお、実施形態では、油圧配管25の弁側高圧配管部25Cと弁側低圧配管部25Fとを、センタフレーム17の円筒部17Aの側部(サイドフレーム18側)を通す構成とした場合を例示している。しかし、本発明はこの構成に限るものではなく、例えば、油圧配管の弁側高圧配管部と弁側低圧配管部を、センタフレームの円筒部の後部を通す構成としてもよい。
【0063】
実施形態では、センタフレーム17の弁取付面17Dに走行モータ用制御弁23を取付け、当該走行モータ用制御弁23に重ねてブレーキ弁24を取付ける構成とした場合を例示している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば、ブレーキ弁をセンタフレームの弁取付面に直接的に取付ける構成としてもよい。この場合、走行モータ用制御弁とブレーキ弁との間を高圧配管部で接続する。
【0064】
実施形態では、建設機械としてバックホー式の作業装置4を備えた油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、ローディングショベル式の作業装置を備えた油圧ショベル等の他の建設機械にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0065】
1 油圧ショベル(建設機械)
2 旋回装置
3 上部旋回体
9 エンジン(原動機)
10 油圧ポンプ
11 センタジョイント
12 作動油タンク
15 下部走行体
16 トラックフレーム
17 センタフレーム
17D 弁取付面
18 サイドフレーム
19 駆動輪
20 走行用油圧モータ
21 遊動輪
22 履帯
23 走行モータ用制御弁
24 ブレーキ弁
25 油圧配管
25A 供給低圧配管部(供給配管部)
25B ポンプ側高圧配管部(供給配管部)
25C 弁側高圧配管部(供給配管部)
25D 切換高圧配管部(高圧配管部)
25E 切換高圧配管部(高圧配管部)
25F 弁側低圧配管部(低圧配管部)
25G タンク側低圧配管部(低圧配管部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6