(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】半導体受光素子、光回線終端装置、多値強度変調送受信装置、デジタルコヒーレント受信装置、光ファイバ無線システム、SPADセンサーシステム、及びライダー装置
(51)【国際特許分類】
H10F 30/225 20250101AFI20250407BHJP
H10F 77/124 20250101ALI20250407BHJP
H10F 77/30 20250101ALI20250407BHJP
【FI】
H10F30/225
H10F77/124
H10F77/30
(21)【出願番号】P 2024547059
(86)(22)【出願日】2024-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2024013696
【審査請求日】2024-08-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石村 栄太郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 晴央
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-311562(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第114141903(CN,A)
【文献】特開2017-220580(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第117712215(CN,A)
【文献】特表2016-526295(JP,A)
【文献】国際公開第2009/088071(WO,A1)
【文献】特開2007-165359(JP,A)
【文献】特許第7224560(JP,B1)
【文献】特開2003-023174(JP,A)
【文献】特開2014-176072(JP,A)
【文献】特開2017-157974(JP,A)
【文献】特開2014-096637(JP,A)
【文献】特開2016-025513(JP,A)
【文献】特開2013-004543(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087783(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10F 30/00-39/95
H10F 77/00-77/40
H04B 10/00-10/90
H04J 14/00-14/08
G01J 1/00-1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成された化合物半導体からなる増倍層と、
前記増倍層上に形成されたp型電界緩和層と、
前記p型電界緩和層上に形成された光吸収層と、
前記光吸収層上に形成された第1窓層と、
前記第1窓層上に形成され、複数の孔部または残部が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造を有
し、前記第1窓層とは異なる材料からなる第2窓層と、
前記2次元周期構造上に少なくとも形成された表面保護絶縁膜と、
前記表面保護絶縁膜上に少なくとも形成された表面電極と、
を備える半導体受光素子。
【請求項2】
前記増倍層がデジタルアロイ構造であることを特徴とする請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項3】
前記増倍層がInAlAsからなるランダムアロイ構造であることを特徴とする請求項1に記載の半導体受光素子。
【請求項4】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成された化合物半導体からなる増倍層と、
前記増倍層上に形成されたp型電界緩和層と、
前記p型電界緩和層上に形成された光吸収層と、
前記光吸収層上に形成された窓層と、
前記窓層上に形成され、複数の孔部または残部が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造を有する表面保護絶縁膜と、
前記2次元周期構造上に少なくとも形成された表面電極と、
を備える半導体受光素子。
【請求項5】
前記増倍層がデジタルアロイ構造であることを特徴とする請求項4に記載の半導体受光素子。
【請求項6】
前記増倍層がInAlAsからなるランダムアロイ構造であることを特徴とする請求項4に記載の半導体受光素子。
【請求項7】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成された増倍層と、
前記増倍層上に形成されたp型電界緩和層と、
前記p型電界緩和層上に形成された光吸収層と、
前記光吸収層上に形成された窓層と、
前記窓層上に形成された表面保護絶縁膜と、
前記表面保護絶縁膜上に形成され、複数の孔部または残部が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造を有する表面電極と、
を備える半導体受光素子。
【請求項8】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成された増倍層と、
前記増倍層上に形成されたp型電界緩和層と、
前記p型電界緩和層上に形成された化合物半導体からなる光吸収層と、
前記光吸収層上に形成された窓層と、
前記窓層上に形成され、複数の孔部または残部が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造を有するコンタクト層と、
前記2次元周期構造上に少なくとも形成された表面保護絶縁膜と、
前記表面保護絶縁膜上に少なくとも形成された表面電極と、
を備える半導体受光素子。
【請求項9】
前記増倍層がデジタルアロイ構造であることを特徴とする請求項8に記載の半導体受光素子。
【請求項10】
前記増倍層がInAlAsからなるランダムアロイ構造であることを特徴とする請求項8に記載の半導体受光素子。
【請求項11】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたp型半導体層と、
前記p型半導体層上に形成された光吸収層と、
前記光吸収層上に形成されたp型電界緩和層と、
前記p型電界緩和層上に形成された化合物半導体からなる増倍層と、
前記増倍層上に形成された第1窓層と、
前記第1窓層上に形成され、複数の孔部または残部が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造を有
し、前記第1窓層とは異なる材料からなる第2窓層と、
前記2次元周期構造上に少なくとも形成された表面保護絶縁膜と、
前記表面保護絶縁膜上に少なくとも形成された表面電極と、
を備える半導体受光素子。
【請求項12】
前記増倍層がデジタルアロイ構造であることを特徴とする請求項11に記載の半導体受光素子。
【請求項13】
前記増倍層がInAlAsからなるランダムアロイ構造であることを特徴とする請求項11に記載の半導体受光素子。
【請求項14】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたp型半導体層と、
前記p型半導体層上に形成された光吸収層と、
前記光吸収層上に形成されたp型電界緩和層と、
前記p型電界緩和層上に形成された化合物半導体からなる増倍層と、
前記増倍層上に形成された窓層と、
前記窓層上に形成され、複数の孔部または残部が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造を有する表面保護絶縁膜と、
前記2次元周期構造上に少なくとも形成された表面電極と、
を備える半導体受光素子。
【請求項15】
前記増倍層がデジタルアロイ構造であることを特徴とする請求項14に記載の半導体受光素子。
【請求項16】
前記増倍層がInAlAsからなるランダムアロイ構造であることを特徴とする請求項14に記載の半導体受光素子。
【請求項17】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたp型半導体層と、
前記p型半導体層上に形成された光吸収層と、
前記光吸収層上に形成されたp型電界緩和層と、
前記p型電界緩和層上に形成された増倍層と、
前記増倍層上に形成された窓層と、
前記窓層上に形成された表面保護絶縁膜と、
前記表面保護絶縁膜上に形成され、複数の孔部または残部が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造を有する表面電極と、
を備える半導体受光素子。
【請求項18】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたp型半導体層と、
前記p型半導体層上に形成された光吸収層と、
前記光吸収層上に形成されたp型電界緩和層と、
前記p型電界緩和層上に形成された化合物半導体からなる増倍層と、
前記増倍層上に形成された窓層と、
前記窓層上に形成され、複数の孔部または残部が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造を有するコンタクト層と、
前記2次元周期構造上に少なくとも形成された表面保護絶縁膜と、
前記表面保護絶縁膜上に少なくとも形成された表面電極と、
を備える半導体受光素子。
【請求項19】
前記増倍層がデジタルアロイ構造であることを特徴とする請求項18に記載の半導体受光素子。
【請求項20】
前記増倍層がInAlAsからなるランダムアロイ構造であることを特徴とする請求項18に記載の半導体受光素子。
【請求項21】
前記第1窓層が屈折率の異なる2種類以上の半導体層によって構成されることを特徴とする請求項1から3、11から13のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項22】
前記2種類以上の半導体層における各半導体層間の屈折率差は0.05以上0.25以下であることを特徴とする請求項21に記載の半導体受光素子。
【請求項23】
前記窓層が屈折率の異なる2種類以上の半導体層によって構成されることを特徴とする請求項4から10、14から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項24】
前記2種類以上の半導体層における各半導体層間の屈折率差は0.05以上0.25以下であることを特徴とする請求項23に記載の半導体受光素子。
【請求項25】
前記n型半導体層がDBR層であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項26】
前記p型半導体層がDBR層であることを特徴とする請求項11から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項27】
前記DBR層の反射率が、1%以上40%以下であることを特徴とする請求項25に記載の半導体受光素子。
【請求項28】
前記DBR層のペア数が、2ペア以上14ペア以下であることを特徴とする請求項27に記載の半導体受光素子。
【請求項29】
前記DBR層の反射率が、1%以上40%以下であることを特徴とする請求項26に記載の半導体受光素子。
【請求項30】
前記DBR層のペア数が、2ペア以上14ペア以下であることを特徴とする請求項29に記載の半導体受光素子。
【請求項31】
前記表面電極の外周部の外側に、前記n型半導体層よりも上側の各半導体層が除去されたメサ構造を有することを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項32】
前記表面電極の外周部の外側に、前記p型半導体層よりも上側の各半導体層が除去されたメサ構造を有することを特徴とする請求項11から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項33】
前記メサ構造の側面部に表面保護絶縁膜及び電極を設けることを特徴とする請求項31に記載の半導体受光素子。
【請求項34】
前記メサ構造の側面部に表面保護絶縁膜及び電極を設けることを特徴とする請求項32に記載の半導体受光素子。
【請求項35】
前記メサ構造の側面部に反射防止膜を設けることを特徴とする請求項33に記載の半導体受光素子。
【請求項36】
前記メサ構造の側面部に反射防止膜を設けることを特徴とする請求項34に記載の半導体受光素子。
【請求項37】
前記デジタルアロイ構造は、異なる半導体材料でそれぞれ構成された2種類の半導体層が、2原子層から6原子層の周期でそれぞれ交互に積層されていることを特徴とする請求項2、5、9、12、15、19のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項38】
前記2種類の半導体層は、InAs層及びAlAs層、InAlAs層及びInGaAs層、並びに、互いに組成比の異なるInAlGaAs層、及びInAlAsSb層のいずれかの組み合わせであることを特徴とする請求項37に記載の半導体受光素子。
【請求項39】
前記増倍層はInAs/AlAsデジタルアロイ構造からなり、前記増倍層の層厚は60nm以上130nm以下であることを特徴とする請求項2、5、9、12、15、19のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項40】
前記孔部または残部の周期は、347nm以上571nm以下であることを特徴とする請求項1から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項41】
前記孔部の開口または残部の直径は、35nm以上343nm以下であることを請求項1から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項42】
前記光吸収層がInGaAsであることを特徴とする請求項1から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子。
【請求項43】
前記第1窓層はInPからなる請求項1または11に記載の半導体受光素子。
【請求項44】
前記第1窓層はInP、InAlAs、InAlGaAs、及びInGaAsPのいずれか1つの材料からなり、前記第2窓層はInP、InAlAs、InAlGaAs、及びInGaAsPのいずれか1つの材料であって前記第1窓層とは異なる材料からなる、請求項1または11に記載の半導体受光素子。
【請求項45】
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成された化合物半導体からなる増倍層と、
前記増倍層上に形成されたp型電界緩和層と、
前記p型電界緩和層上に形成された光吸収層と、
前記光吸収層上に形成された第1窓層と、
前記第1窓層上に形成され、複数の孔部または残部が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造を有する第2窓層と、
前記2次元周期構造上に少なくとも形成された表面保護絶縁膜と、
前記表面保護絶縁膜上に少なくとも形成された表面電極と、
を備え、
前記第1窓層と前記第2窓層は同一材料であり、前記第2窓層にのみ2次元周期構造が形成されていることを特徴とする半導体受光素子。
【請求項46】
前記第1窓層及び前記第2窓層の材料はi型InPからなる請求項45に記載の半導体受光素子。
【請求項47】
前記増倍層がデジタルアロイ構造であることを特徴とする請求項45または46に記載の半導体受光素子。
【請求項48】
前記増倍層がInAlAsからなるランダムアロイ構造であることを特徴とする請求項45または46に記載の半導体受光素子。
【請求項49】
請求項1から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子と、
光信号を前記半導体受光素子に入射する光合分波器と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路に接続され、増幅された前記電気信号からクロック・データを再生するクロック・データ再生回路と、
前記クロック・データ再生回路に接続され、前記クロック・データの誤りを訂正する前方誤り訂正回路と、
を備える光回線終端装置。
【請求項50】
請求項1から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子と、
光信号を前記半導体受光素子に入射する光合分波器と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路に接続され、増幅された電気信号をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換回路と、
前記アナログ/デジタル変換回路に接続され、前記デジタル信号を処理するデジタル信号処理回路と、
前記デジタル信号処理回路に接続され、前記デジタル信号の誤りを訂正する前方誤り訂正回路と、
を備える光回線終端装置。
【請求項51】
多値強度変調された光信号を受光する請求項1から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路に接続され、増幅された前記電気信号をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換回路と、
前記アナログ/デジタル変換回路に接続され、前記デジタル信号を処理するデジタル信号処理回路と、
を備える多値強度変調送受信装置。
【請求項52】
アナログ変調された光信号を出射する光源と、
アナログ変調された前記光信号を受光する請求項1から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力されたアナログ電気信号をアンテナに伝送する伝送路と、
前記伝送路に接続され、前記アナログ電気信号を電波信号として放射するアンテナと、
を備える光ファイバ無線システム。
【請求項53】
請求項1から20のいずれか1項に記載の半導体受光素子と、
強度及び位相が変調された偏波多重光信号の偏波を分離する偏波分離器と、
前記偏波分離器から出力される光信号を分波及び合成する90度ハイブリッド器と、
前記90度ハイブリッド器に接続され、デジタル信号を処理するデジタル信号処理回路と、
を備えるデジタルコヒーレント受信装置。
【請求項54】
請求項1から20のいずれか1項に記載された半導体受光素子によって構成されたSPADセンサーと、
前記SPADセンサーに、降伏電圧以上に印加した電圧及び降伏電圧未満の電圧を反復して印加するクエンチング回路と、
前記SPADセンサーから出力された電気信号を計測する光電子計測回路と、
を備えるSPADセンサーシステム。
【請求項55】
パルス状の光または周波数変調された光を発する光源と、
前記光源から出射された光が物体に反射して戻ってきた光を受光する請求項1から20のいずれか1項に記載された半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路によって増幅された電気信号に基づき距離を算出する測距回路と、
を備えるライダー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体受光素子、光回線終端装置、多値強度変調送受信装置、デジタルコヒーレント受信装置、光ファイバ無線システム、SPADセンサーシステム、及びライダー装置に関する。
【0002】
デジタル情報を活用するデジタルトランスフォーメーションの進展とともに、デジタル情報を相互に通信する通信ネットワークとデータの蓄積処理を行うデータセンタの発展が著しい。通信ネットワーク及びデータセンタ内通信には光通信が用いられる。光通信は、近年、高速化及び大容量化が目覚ましい進展を遂げている。光通信の進展の中で、光通信の受信器として、高い受信感度が得られるフォトダイオード(Photodiode:PD)及びアバランシェフォトダイオード(Avalanche Photodiode:APD)が必要とされる。
【0003】
光通信の加入者まで接続するアクセス網では、パッシブ光ネットワーク(Passive Optical Network:PON)が主たる方式として採用されている。PONシステムでは、1~2Gbpsの信号を伝送するG(E)-PONシステムから始まり、今後は10Gbpsの信号を伝送する10G-EPONシステム、XG-PONシステムが増加していくと予想される。
【0004】
さらに、ITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector)において、次世代高速PONシステムである50G-PONシステムが検討されており、アクセス網においても今後、50Gbps級の伝送が実用化されていくと期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平3-050875号公報
【文献】特開2005-159002号公報
【文献】特開2008-311562号公報
【文献】特開2016-178234号公報
【文献】特開2016-178293号公報
【文献】特開2018-63975号公報
【文献】特開2019-54145号公報
【文献】特開2019-68019号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Jinwen Song, et al.,“High-efficiency and high-speed germanium photodetector enabled by multiresonant photonic crystal” De Gruyter Nanophotonics 20200455 (2020)
【文献】Jiyuan Zheng, et al.,“Digital Alloy InAlAs Avalanche Photodiodes”,JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY,VOL.36,NO.17,SEPTEMBER 1,pp.3580-3585,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(1)APDにおける光吸収層に関する課題
高速の光通信に用いられるPD及びAPDは、光吸収層の構成材料として、光通信波長帯である1.3μm帯及び1.55μm帯において吸収係数が高いInGaAsが用いられる。たとえば、1.3μm帯では、10000/cm以上の高い吸収係数が得られる。
【0008】
PD及びAPDの応答帯域を広帯域化するには、光吸収層を構成するInGaAs層を薄層化してキャリアの走行時間を短縮する必要がある。しかしながら、光吸収層の層厚を薄層化すると、受光感度が低下するという問題が発生する。
【0009】
光吸収層の吸収係数をa、光吸収層の層厚をWとすると、量子効率η(=吸収される光子数/入射光子数)は、以下の式(1)で表される。
η=1-exp(-a・W) (1)
【0010】
式(1)において、たとえば、a=10000/cm、W=1μmとすると、量子効率ηは63%となる。ちなみに、受光感度S(A/W)は、S=η・λ(nm)/1240で与えられるので、波長1.3μmの光の場合は、受光感度は0.66A/Wとなる。
【0011】
一方、キャリアが光吸収を走行する時間で決定される3dB帯域ftrは、以下の式(2)で表される。
ftr=3.5Vav/(2πW) (2)
【0012】
式(2)において、Vavは電子及び正孔の平均飽和走行速度である。たとえば、光吸収層がInGaAsで構成され、Vav=5.35×106cm/s、W=1μmである場合は、式(2)にVav及びWを代入すると、ftr=29.8GHzとなる。
【0013】
したがって、光吸収層の層厚Wを1μmよりも厚くすると、量子効率ηは63%よりも高くなるが、応答帯域は29.8GHzよりも低下する。このような応答帯域と量子効率のトーレドオフを改善するためには、光吸収層の吸収量を高める必要がある。
【0014】
PDにおいて光吸収層の吸収量を高める方法として、特許文献2から8に開示されているように、いわゆるフォトニック結晶層を用いて入射した光を共振させる方法が提案されている。なお、フォトニック結晶層は、2次元周期構造とも呼ばれる。
【0015】
特許文献2から8に開示された素子構造では、フォトニック結晶層による共振を利用するため、たとえば特許文献6の
図3に示されるように、フォトニック結晶層は特定の狭い波長範囲内のみにおいてフィルターのような動作をする。したがって、所望の波長において高い受信感度を得るためには、結晶成長及び加工に高い精度が要求される。また、半導体受光素子は実際に使用する際に温度調整を行わないため、環境温度の変化にともない、共振波長が10nm以上変化して受信感度が大幅に変化してしまうという不具合が発生するおそれがある。
【0016】
フォトニック結晶層を適用したPDにおいて、近年、高い受信感度が得られる波長範囲の拡張を図る試みがなされている。たとえば、非特許文献1には、光吸収層の上下方向の光の閉じ込めを強くして、複数の共振モードが発生するようにして、複数の共振モードが複合して共振することにより、広い波長範囲で高い受信感度が得られる素子構造が報告されている。
【0017】
非特許文献1に記載の半導体受光素子は、シリコン(Si)基板上のSiO2層上に形成されたゲルマニウム(Ge)を吸収層とするPDに関するものである。非特許文献1の素子構造をInP基板上のInGaAsを吸収層とする高い受信感度を有するAPDに適用することは困難である。なぜなら、非特許文献1の半導体受光素子では、Geの光吸収層に孔部を設けてフォトニック結晶を有するPDとしているが、APDでは高電界が印加されるため、たとえばInGaAs光吸収層に孔部を設けると暗電流が増加してしまうという問題が発生するからである。
【0018】
さらに、光吸収層を構成するInGaAs層はバンドギャップが小さいため、光吸収によって発生したキャリアが孔部の表面で再結合し、受信感度が低下するという問題もある。また、複数の共振モードが発生するためには、光吸収層への光閉じ込めを強くする必要があり、光吸収層を低屈折率層によって挟む構造が適用されるが、APDでは光吸収層に隣接する増倍層の屈折率を低くすることは困難である。これらの理由から、InP基板上のInGaAsを吸収層とするAPDに最適な素子構造が強く望まれている。
【0019】
(2)APDにおける増倍層に関する課題
PONシステムに用いられる半導体受光素子であるAPDは、素子構造として、光吸収層(InGaAs)、電界緩和層(InPまたはInAlAs)、増倍層(InPまたはInAlAs)の各層により構成されている。増倍層に約800kV/cmの高電界を印加して、光吸収層において発生した電子及び正孔を増倍、つまりイオン化する。電界緩和層は増倍層の高電界が光吸収層に印加されないように電界を弱めるように機能する。ちなみに、電子のイオン化率はα、正孔のイオン化率はβと表記される。
【0020】
APDでは、電子及び正孔のイオン化率の比率が大きいほど、増倍時に発生する過剰雑音が小さくなり受信感度が高くなる。さらに、電子及び正孔のイオン化率の比率が大きいほど、増倍層における増倍時間が短くなるため、応答帯域が広帯域となる。
【0021】
電子及び正孔のイオン化率比kは、k=β/αで定義される。増倍層に電子が注入される場合は、イオン化率比kが小さくなるほどAPDの性能が向上する。光通信用APDの増倍層には、InAlAsまたはInPといった化合物半導体材料が用いられる。
【0022】
増倍層の構成材料としてInAlAsを選択した場合は、InPよりも電子及び正孔のイオン化率の差が大きくなる。なお、InPでは正孔の方が電子よりもイオン化率は大きく、正孔のイオン化率は電子のイオン化率の約2倍である。一方、増倍層の構成材料としてInAlAsを選択した場合は、電子のイオン化率の方が正孔のイオン化率よりも大きく、電子のイオン化率は正孔のイオン化率の約5倍である。したがって、InAlAsを増倍層とすると受信感度がより高くなるため、APDの増倍層の構成材料としては、InPよりもInAlAsの方が好適である。
【0023】
PONシステムでは、上述のように、半導体受光素子であるAPDに、広い応答帯域と高い受信感度が要求される。しかしながら、APDではPDとは異なり、増倍するのに要する時間、つまり増倍時間が増倍率を高くするのにともない長くなるため、高い増倍率において応答帯域が低下するという問題がある。
【0024】
光通信で用いられるInAlAsを構成材料とする増倍層を有するAPDは、他の半導体材料で構成されるAPDよりも広い応答帯域であるものの、増倍率が6以上では応答帯域は約20GHzにとどまる。つまり、50G-PONシステムに要求される37.5GHz以上の広い応答帯域は、従来のAPDを適用した場合は実現が困難であるという問題がある。
【0025】
上述のように、光通信に用いられる半導体受光素子であるAPDには、さらなる広い応答帯域での動作が要求される。特許文献1には超格子を増倍層に用いたAPDが記載されているが、超格子の各層の層厚は5~10nmであるため、各層のバンドギャップを反映した量子井戸として作用する。積層された各層の層厚が数nm以上となると、各層のバンドギャップを反映したエネルギー凹凸ができるためキャリアの走行を阻害し、走行速度が低下してしまうという問題がある。
【0026】
50G-PONシステムでは、半導体発光素子及び半導体受光素子の応答帯域、並びに半導体発光素子の光出力及び半導体受光素子の受信感度が不足している。このため、光回線終端装置(Optical Network Unit:ONU)、つまり加入者側の受信装置には、APDの後段にデジタルシグナルプロセッサ(Digital Signal Processor:DSP)によるデジタル帯域補償回路を設けることが考えられている。
【0027】
また、光回線終端装置(Optical Line Terminal:OLT)、つまり局舎側の受信装置では、半導体受光素子の受信感度不足を補うため、半導体光増幅器(Semiconductor optical amplifier:SOA)が必要であったり、ONUの送信側の電界吸収型変調器集積レーザーダイオード(Electro-absorption Modulated Laser Diode:EML)にSOAを集積し、光出力を増加させたりする必要がある。
【0028】
しかしながら、DSP及びSOAは消費電力が非常に大きく、コストの上昇要因となるため、既存のPONシステムから50G-PONシステムへの置き換えが進展しなくなると危惧されている。
【0029】
次世代高速PONシステム以外の既存のPONシステムにおいても、低コスト化のためにOLTから出力された光信号の分岐数を増加させることが検討されている。しかしながら、この場合も、OLT及びONUの送信側のEMLにSOAを集積し光出力を増加させる必要があり、送信器の消費電力の増大、及びコストの増加が発生するという問題がある。
【0030】
以上のように、半導体受光素子の受信感度及び応答帯域の限界を補うため、高価でかつ消費電力の大きいDSP及びSOAを、ONU及びOLTに組み入れた送受信器の設計がなされているが、消費電力の増大、及びコストの増加が発生するという問題がある。
【0031】
本開示は上記のような問題点を解消するためになされたもので、広い波長範囲において高い受信感度を有し、かつ広い応答帯域で動作する半導体受光素子を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本開示に係る半導体受光素子は、
InP基板と、
前記InP基板上に形成されたn型半導体層と、
前記n型半導体層上に形成された化合物半導体からなる増倍層と、
前記増倍層上に形成されたp型電界緩和層と、
前記p型電界緩和層上に形成された光吸収層と、
前記光吸収層上に形成された第1窓層と、
前記第1窓層上に形成され、複数の孔部または残部が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造を有し、前記第1窓層とは異なる材料からなる第2窓層と、
前記2次元周期構造上に少なくとも形成された表面保護絶縁膜と、
前記表面保護絶縁膜上に少なくとも形成された表面電極と、
を備える。
【0033】
本開示に係る光回線終端装置は、
上述の半導体受光素子と、
光信号を前記半導体受光素子に入射する光合分波器と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路に接続され、増幅された前記電気信号からクロック・データを再生するクロック・データ再生回路と、
前記クロック・データ再生回路に接続され、前記クロック・データの誤りを訂正する前方誤り訂正回路と、を備える。
【0034】
本開示に係る多値強度変調送受信装置は、
多値に強度変調された光信号を受光する上述の半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路に接続され、増幅された前記電気信号をデジタル信号に変換するアナログ/デジタル変換回路と、
前記アナログ/デジタル変換回路に接続され、前記デジタル信号を処理するデジタル信号処理回路と、を備える。
【0035】
本開示に係る光ファイバ無線システムは、
アナログ変調された光信号を出射する光源と、
アナログ変調された前記光信号を受光する上述の半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力されたアナログ電気信号をアンテナに伝送する伝送路と、
前記伝送路に接続され、前記アナログ電気信号を電波信号として放射するアンテナと、を備える。
【0036】
本開示に係るデジタルコヒーレント受信装置は、
上述の半導体受光素子と、
強度及び位相が変調された偏波多重光信号の偏波を分離する偏波分離器と、
前記偏波分離器から出力される光信号を分波及び合成する90度ハイブリッド器と、
前記90度ハイブリッド器に接続され、デジタル信号を処理するデジタル信号処理回路と、を備える。
【0037】
本開示に係るSPAD(Single Photon Avalanche Diode)センサーシステムは、
上述の半導体受光素子によって構成されたSPADセンサーと、
前記SPADセンサーに、降伏電圧以上に印加した電圧及び降伏電圧未満の電圧を反復して印加するクエンチング回路と、
前記SPADセンサーから出力された電気信号を計測する光電子計測回路と、を備える。
【0038】
本開示に係るライダー装置は、
パルス状に発光する光源と、
前記光源から出射された光が物体に反射して戻ってきた光を受光する上述の半導体受光素子と、
前記半導体受光素子から出力された電気信号を増幅する増幅回路と、
前記増幅回路によって増幅された電気信号に基づき距離を算出する測距回路と、を備える。
【発明の効果】
【0039】
本開示に係る半導体受光素子によれば、光吸収層よりも上側に形成された2次元周期構造と、2次元周期構造を覆う電極とで構成される素子構造を適用したので、広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有する半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0040】
本開示に係る光回線終端装置、多値強度変調送受信装置、デジタルコヒーレント受信装置、光ファイバ無線システム、SPADセンサーシステム、及びライダー装置によれば、半導体受光素子として本開示の半導体受光素子を用いたので、優れた性能を有する各装置及び各システムが得られるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】InAs/AlAsデジタルアロイ構造及びInAlAsランダムアロイ構造における屈折率の波長依存性を表す図である。
【
図2】InAs/AlAsデジタルアロイ構造及びInAlAsランダムアロイ構造における吸収係数の波長依存性を表す図である。
【
図3】実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す上面図である。
【
図5】
図5A及び
図5Bは、それぞれ実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの製造工程を表す断面図及び上面図である。
【
図6】
図6A及び
図6Bは、それぞれ実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの製造工程を表す断面図及び上面図である。
【
図7】
図7A及び
図7Bは、それぞれ実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの製造工程を表す断面図及び上面図である。
【
図8】
図8A及び
図8Bは、それぞれ実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの製造工程を表す断面図及び上面図である。
【
図9】
図9A及び
図9Bは、それぞれ実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの製造工程を表す断面図及び上面図である。
【
図10】
図10A及び
図10Bは、それぞれ実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの製造工程を表す断面図及び上面図である。
【
図11】実施の形態1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDにおける2次元周期構造の主な共振点を表す図である。
【
図12】
図11の点Pから点Qの間の屈折率分布を表す図である。
【
図13】実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図14】実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDにおける2次元周期構造の主な共振点を表す図である。
【
図15】
図14の点Pから点Qの間の屈折率分布を表す図である。
【
図16】実施の形態1の変形例2に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図17】実施の形態1の変形例3に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図18】実施の形態1の変形例4に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図19】実施の形態1の変形例5に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図20】実施の形態1の変形例6に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図21】実施の形態1の変形例7に係る半導体受光素子の一例である端面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図22】実施の形態2に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図23】実施の形態2に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDにおいて、DBR層の反射率及び量子効率におけるDBR層のペア数依存性を表す図である。
【
図24】実施の形態2の変形例1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型PDの素子構造を表す断面図である。
【
図25】実施の形態2の変形例2に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図26】実施の形態2の変形例3に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図27】InAlAs増倍層における電子のデッドスペースの電界依存性を表す図である。
【
図29】イオン化率比及びトンネル電流における増倍層の層厚依存性を表す図である。
【
図30】
図30Aから
図30Dは、増倍層及び電界緩和層におけるイオン化率を表す概念図であり、
図30Aはランダムアロイ構造からなる増倍層の場合、
図30Bはデジタルアロイ構造からなる増倍層の場合、
図30Cは部分的に無秩序化したデジタルアロイ構造からなる増倍層の場合、
図30Dは層厚の厚い電界緩和層及びデジタルアロイ構造からなる増倍層を組み合わせた場合のイオン化率をそれぞれ表す概念図である。
【
図31】実施の形態3に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図32】実施の形態3の変形例1に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図33】実施の形態3の変形例2に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図34】実施の形態3の変形例3に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図35】実施の形態3の変形例4に係る半導体受光素子の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【
図36】実施の形態4に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)を表す構成図である。
【
図37】実施の形態4に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(ONU)を表す構成図である。
【
図38】比較例である50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)を表す構成図である。
【
図39】実施の形態4に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)の構成を表す図である。
【
図40】実施の形態4に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(ONU)の構成を表す図である。
【
図41】実施の形態5に係る多値強度変調送受信装置の構成を表す図である。
【
図44】高光入力時のAPDの動作を説明する概念図である。
【
図45】増倍層を構成する材料ごとの電子及び正孔の滞留時間を表す図である。
【
図46】実施の形態6に係る光ファイバ無線システムの構成を表す図である。
【
図47】比較例である光ファイバ無線システムの構成を表す図である。
【
図48】実施の形態7に係るデジタルコヒーレント受信装置の構成を表す図である。
【
図49】
図49Aは比較例であるデジタルコヒーレント受信装置の波形を表す概念図であり、
図49Bは実施の形態7に係るデジタルコヒーレント受信装置の波形を表す概念図である。
【
図50】実施の形態8に係るSAPDセンサーシステムの構成を表す図である。
【
図51】
図51Aは比較例であるSAPDセンサーシステムの増倍特性を表す概念図であり、
図51Bは実施の形態8に係るSAPDセンサーシステムの増倍特性を表す概念図である。
【
図52】増倍層の構成ごとのクエンチング電界とガイガーモード電界の差を計算した図である。
【
図53】実施の形態9に係るライダー装置の構成を表す図である。
【
図54】
図54Aは比較例であるライダー装置のAPDの受信波形を表す概念図であり、
図54Bは実施の形態9に係るライダー装置のAPDの受信波形を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
実施の形態1.
<実施の形態1に係る半導体受光素子(APD)の特徴>
実施の形態1に係る半導体受光素子100の具体的な構造を説明する前に、先ず、実施の形態1に係る半導体受光素子100の構造上の特徴であるデジタルアロイ構造について、以下に説明する。
【0043】
発明者らは、2原子層のInAs層と2原子層のAlAs層とを繰り返し積層したInAs/AlAsデジタルアロイ構造(原子層超格子とも言われる。ALSL:Atomic Layer Super Lattice、非特許文献2)は、全体としてほぼ同じ組成比であるIn0.52Al0.48Asからなるランダムアロイ構造よりも光の屈折率が低いことを発見した。以下、In0.52Al0.48Asを、単にInAlAsと表記する。
【0044】
図1は、InAs/AlAsデジタルアロイ構造及びInAlAsランダムアロイ構造における屈折率の波長依存性を表す図であり、
図2は、InAs/AlAsデジタルアロイ構造及びInAlAsランダムアロイ構造における吸収係数の波長依存性を表す図である。
図1から、光通信で用いられる波長1200nmから1600nmの範囲では、InAs/AlAsデジタルアロイ構造はInAlAsランダムアロイ構造に比べて屈折率が小さいことが分かる。
【0045】
また、
図2から、InAs/AlAsデジタルアロイ構造は、650nm付近及び800nm付近において吸収係数にピークがあり、吸収係数が1.5倍に向上することが分かる。一方、720nm付近では吸収係数の減少が見られる。これは、全体としてほぼ同じ組成比であってもInAs層とAlAs層の周期性に起因してバンド構造が変化して、光吸収係数の波長依存性にも周期性が発生するからであると考えられる。また、バンド端波長である850nm以上において、InAs/AlAsデジタルアロイ構造では吸収係数が急激に低下している。この現象から、波長1200nmから1600nmの範囲において、屈折率が小さくなると考えられる。
【0046】
以上のように、ほぼ同じ組成であってもランダムアロイ構造をデジタルアロイ構造に置き換えることによって、屈折率を小さくすることが可能であることが分かる。発明者らは、この現象を利用し、2次元周期構造を適用した光通信用のAPDの増倍層に、InAs/AlAsデジタルアロイ構造を適用することを発案した。
【0047】
2次元周期構造を適用したPDでは、光を光吸収層に閉じ込めて受信感度を増加することが可能である。光を光吸収層に閉じ込める割合いを増加させたPDは、Photo-Trapping-Enhanced PDなどと呼ばれる。
【0048】
一方、APDにおいて、屈折率が相対的に大きい光吸収層に光を強く閉じ込めるには、光吸収層に隣接する増倍層の屈折率をできるだけ小さくする必要がある。上述のように、デジタルアロイ構造からなる増倍層はランダムアロイ構造からなる増倍層よりも屈折率が小さい。したがって、デジタルアロイ構造からなる増倍層では、ランダムアロイ構造からなる増倍層よりも増倍層による光吸収層への光閉じ込めが増加し、さらに2次元周期構造の適用によって発生する光の複合共振によって、広い波長範囲において受信感度の向上が実現できるという相乗効果を奏する。
【0049】
InAs/AlAsデジタルアロイ構造を増倍層に適用することについての他の利点を、以下に説明する。APDでは、電子及び正孔のイオン化率の比率が大きいほど、増倍時に発生する過剰雑音が小さくなり受信感度が高くなる。さらに、電子及び正孔のイオン化率の比率が大きいほど、増倍層における増倍時間が短くなるため、広帯域となる。
【0050】
電子及び正孔のイオン化率比kは、k=β/αで定義される。ここで、αは電子のイオン化率、βは正孔のイオン化率である。増倍層に電子が注入される場合は、イオン化率比kが小さくなるほどAPDの性能が向上する。したがって、光通信用APDの増倍層には、イオン化率比kが小さいInAlAsが用いられることが多い。
【0051】
増倍層をInAlAs層で構成する場合、ランダムアロイ構造よりもデジタルアロイ構造の方が正孔のイオン化率が低いため、イオン化率比kをより小さくすることが可能である。さらに、InAs/AlAsデジタルアロイ構造では、正孔のデッドスペース長が長いため、増倍層の層厚を130nm程度以下に薄層化することにより、正孔のイオン化率βをほぼゼロにできる。すなわち、k=0とすることが可能である。したがって、InAs/AlAsデジタルアロイ構造を増倍層に適用した場合、増倍時に発生する過剰雑音が小さくなるため受信感度が高くなり、また、増倍層における増倍時間が短くなるため、広帯域となる。
【0052】
以上のように、2次元周期構造を適用したAPDにおいて、デジタルアロイ構造の増倍層をさらに適用することにより、光の複合共振が増強され、高受信感度化と広帯域化が同時に実現可能となる。
【0053】
<実施の形態1に係る半導体受光素子の素子構造>
図3及び
図4Aは、実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図及び上面図である。なお、以下の説明において上側とは、半導体基板の表面から半導体層が積層された方向、つまり積層方向を意味し、下側とは積層方向とは反対の方向を意味する。
【0054】
実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例である裏面入射型APDは、n型InP基板1と、n型InP基板1上に順次形成された、キャリア濃度が1~5×10
18cm
-3であり層厚が0.1~1.0μmであるn型InPバッファ層2と、i型AlAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)と、i型InAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とを交互に複数回積層したデジタルアロイ構造からなるInAs/AlAs増倍層3(以下、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3と呼ぶ。)と、キャリア濃度が0.1~50×10
17cm
-3であり層厚が10~70nmであるp型InP電界緩和層4と、層厚が0.1~2.0μmであるi型InGaAs光吸収層5と、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6と、層厚が0.1~3.0μmであるi型InP第1窓層7と、層厚が0.1~3.0μmであり2次元周期構造70を有するp型InAlAs第2窓層8と、p型InGaAsコンタクト層9と、i型InP第1窓層7及びp型InAlAs第2窓層8上に形成されたSiN表面保護絶縁膜10と、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6の一部及びi型InP第1窓層7内に形成されたZn拡散p型領域12と、p型InAlAs第2窓層8に2次元的に配置された複数の孔部11と、n型InP基板1の裏面側に形成されたn型電極31及び反射防止膜40と、p型InGaAsコンタクト層9上及びp型InGaAsコンタクト層9で囲まれたSiN表面保護絶縁膜10上に形成されたp型電極32と、で構成される。なお、
図4Aと
図4Bでは、上面から見た構造が分かりやすいようにp型電極32を省略している。
【0055】
i型InP第1窓層7の構成材料として、InPの代りに、InAlAs、InAlGaAs、InGaAsPを用いて構成しても良い。また、i型InP第1窓層7は、InP層の単層ではなく、複数の半導体層で構成しても良い。また、n型InP基板1は基板の一例であり、n型InP基板1以外の基板であっても良い。
【0056】
p型InAlAs第2窓層8は、InAlAsの代りに、InAlGaAs、InGaAsP、またはInPを用いて構成しても良い。また、p型InAlAs第2窓層8は、InAlAs層の単層ではなく、複数の半導体層で構成しても良い。
【0057】
上述のp型InAlAs第2窓層8に設けられた2次元周期構造70は、p型InAlAs第2窓層8の表面から底面まで貫通し、底面側でZn拡散p型領域12が設けられたi型InP第1窓層7が露出する複数の孔部11が、一定の周期で2次元的に配列される構成となっている。
【0058】
2次元周期構造70の一例として、p型InAlAs第2窓層8に、孔部11を格子状に配列した構成が挙げられる。孔部11の表面側の開口の形状は、円形、矩形、三角形などが挙げられるが、他の形状を呈しても良い。あるいは、
図4Bの実施の形態1に係る半導体受光素子101に例示するように、p型InAlAs第2窓層8をエッチング時に円形に残すことで2次元周期構造70を形成しても良い。残部8sの形状は円形の他に矩形、三角形などが挙げられるが、他の形状を呈しても良い。なお、以降の実施の形態1~3において、孔部11すなわち凹部を、残部8sすなわち凸部と読み替えても良い。なお、半導体受光素子101が残部8sからなる2次元周期構造70を有する。
【0059】
2次元周期構造70における、一定の周期に対する孔部11の直径の割合は、10%以上80%以下の範囲内が好適である。孔部11の深さ(孔部を残部とする場合は高さ)は、100nm以上1000nm以下の範囲内が好適である。
【0060】
孔部11の底面は、
図3に示す一例のように、i型InP第1窓層7が露出する位置でも良いし、あるいは、p型InAlAs第2窓層8の途中に位置しても良い。
【0061】
p型InGaAsコンタクト層9の下部及びp型InGaAsコンタクト層9で囲まれた領域には、選択的にZn拡散p型領域12が形成されている。Zn拡散p型領域12の境界13は、
図3中において点線で示されている。
図3では、Zn拡散p型領域12はi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6に到達している。しかしながら、Zn拡散p型領域12はi型InP第1窓層7中に到達していても良いし、あるいはi型InGaAs光吸収層5に到達していても良い。
【0062】
n型電極31は、n型InP基板1の表面側のp型InGaAsコンタクト層9で囲まれた部分に対向する裏面側の面内には形成されていない。その代わりに、SiN膜などで構成された反射防止膜40が、n型InP基板1の表面側のp型InGaAsコンタクト層9で囲まれた部分に対向するn型InP基板1の裏面側の面内に形成されている。
【0063】
n型電極31は、n型InP基板1側からAuGe/Ni/Au、Ti/Pt/Au、あるいは、AuGe/Ni/AuとTi/Pt/Auを組み合わせた多層膜で構成されている。p型電極32は、Ti/Au、Ti/Pt/Auなどの多層膜で構成されている。なお、n型InPバッファ層2を、n型半導体層とも呼ぶ。
【0064】
n型InPバッファ層2のn型ドーパントとして、シリコン(Si)が最適である。n型InPバッファ層2からi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3にn型不純物が拡散してデジタルアロイ構造が無秩序化(ディスオーダ)することを避けるためである。ここで、無秩序化とは、デジタルアロイ構造の各層の組成が交じり合い、平均組成のランダムアロイ構造となってしまう現象を指す。
【0065】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3は、上述のように、InAs層(層厚が2原子層、約0.6nm)とAlAs層(層厚が2原子層、約0.6nm)の順序で交互に積層した半導体層で構成される。しかしながら、InAs層及びAlAs層の層厚が、それぞれ2原子層以上6原子層以下の範囲であれば良い。6原子層以下としたのは、InAs層とAlAs層の積層構造が量子井戸構造として機能しないことが望ましいからである。つまり、デジタルアロイ構造は、異なる半導体材料でそれぞれ構成された2種類の半導体層を、2原子層から6原子層の周期でそれぞれ交互に積層されている。
【0066】
さらに、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3の各層の原子層数は、2原子層以上4原子層以下が好適であり、2原子層が最適である。この理由は、各層の原子層厚が薄いほどデジタルアロイ構造によるイオン化率比kの低減効果が大きくなるためである。また、半導体受光素子としての性能だけでなく、生産性も考慮した場合は分子線エピタキシャル成長法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)による結晶成長の際にシャッター切り替え回数が少なくなる4原子層以上6原子層以下の層厚も好適である。以上の各要因を鑑みると、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3の各層の原子層数は、2原子層以上6原子層以下の周期が好適な範囲であると言える。また、同様に生産性の観点から、増倍層の全てをInAs/AlAsデジタルアロイ構造としなくとも、増倍層の一部をInAs/AlAsデジタルアロイ構造とし、残部をInAlAsランダムアロイ構造としても良い。
【0067】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3の層厚は40nm以上170nmの範囲が適しているが、300nm以下であれば良い。例えば、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚を100nmとすると、InAs層(2原子層)/AlAs層(2原子層)の繰り返しは85回となる。
【0068】
n型InPバッファ層2を構成するInPとの親和性を考慮して、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3の最初のAlAs層のみ、層厚を3原子層以上に厚くすることが好適である。あるいは、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3を、InAs層、AlAs層の順で交互に形成して積層しても良い。
【0069】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3の導電型はi型であり、キャリア濃度は1×1017cm-3以下が一例として挙げられる。しかしながら、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の導電型として、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であるp型またはn型であっても良い。
【0070】
InAs/AlAsデジタルアロイ構造で構成された増倍層以外にも、たとえば、アンチモン(Sb)を加えた材料系であるInAlAsSbからなるデジタルアロイ構造でも本開示の半導体受光素子の増倍層として適用が可能である。
【0071】
i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6は、InAlGaAsの組成を変えてバンドギャップを徐々に変化させた層であり、層厚はそれぞれ5nm以上50nm以下の範囲内である。InAlGaAsの組成はステップ状に変化させても良く、バンドギャップはInP層とInGaAs層の中間的な大きさである。あるいは、i型で組成の異なる2種類のInAlGaAs層を複数回、層厚を変えながら交互に積層することにより、等価的なバンドギャップを変化させてi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6を形成しても良い。i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6のキャリア濃度は5×1017cm-3以下であり、キャリア濃度が低ければi型の代りにp型またはn型でも良い。なお、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6は必ずしも必要ではなく、省略しても良い。また、p型InP電界緩和層4とi型InGaAs光吸収層5との間に、i型InAlGaAsグレーディッド層を挿入しても良い。
【0072】
p型InP電界緩和層4はランダムアロイ構造からなるp型InAlAs電界緩和層、またはInAs/AlAsデジタルアロイ構造からなるp型電界緩和層でも良い。
【0073】
<実施の形態1に係る半導体受光素子の製造方法>
実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例である裏面入射型APDは、n型InP基板1上に有機金属気相成長法(MOVPE:Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)またはMBE法などのエピタキシャル結晶成長法を用いて実現できる。実施の形態1に係る半導体受光素子100の製造方法を、以下に説明する。
【0074】
MOVPE法またはMBE法を用いて、n型InP基板1上に、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であり層厚が0.1~1μmであるn型InPバッファ層2を結晶成長する。
【0075】
n型InPバッファ層2上に、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が40~170nmであるi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3を結晶成長する。
【0076】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3上に、キャリア濃度が1×1016~5×1018cm-3であり層厚が10~70nmであるp型InP電界緩和層4を結晶成長する。p型InP電界緩和層4のp型ドーパントとして、Be、Znなどが挙げられる。
【0077】
p型InP電界緩和層4上に、キャリア濃度が1×1017cm-3以下であり層厚が0.1~2.0μmであるi型InGaAs光吸収層5を結晶成長する。
【0078】
さらに、キャリア濃度が5×1017cm-3以下であり層厚が5~50nmであるi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6、キャリア濃度が5×1017cm-3以上であり層厚が0.1~3.0μmであるi型InP第1窓層7、層厚が0.1~3.0μmであるp型InAlAs第2窓層8、及びp型InGaAsコンタクト層9を、順次結晶成長する。後工程で選択拡散を行いp型化するので、この時点では、p型InAlAs第2窓層8、及びp型InGaAsコンタクト層9はi型またはn型のいずれでも良い。
【0079】
結晶成長の終了後、受光領域及び受光領域をリング状に取り囲むp型InGaAsコンタクト層9以外の表面を絶縁膜で覆い、この絶縁膜を拡散マスクとして固相または気相で選択的にZn拡散を行うことにより、Zn拡散p型領域12を形成する。
図5Aの断面図及び
図5Bの上面図は、Zn拡散後の状態を表す図である。
【0080】
p型InGaAsコンタクト層9を、ドライエッチングまたはウエットエッチングなどの方法により不要部分を除去して、受光領域を取り囲むリング状に加工する。p型InGaAsコンタクト層9とp型InAlAs第2窓層8との間に、層厚が50nm程度のInP層をエッチングストッパー層として設けることにより、エッチングの深さ制御性を向上させても良い。
図6Aの断面図及び
図6Bの上面図は、p型InGaAsコンタクト層9をリング状に加工した後の状態を表す図である。
【0081】
受光部となる領域、つまり受光領域に、複数の孔部11を一定の周期で2次元的に配列されるように形成する。
図7Aの断面図及び
図7Bの上面図は、複数の孔部11が形成された状態を表す図である。
図7Bの上面図には、一定の周期で2次元的に配列される構成の一例として、格子状に2次元的に配置された複数の孔部11の例を示している。複数の孔部11は、p型InAlAs第2窓層8に設けられている。複数の孔部11が一定の周期で2次元的に配置された構造を、2次元周期構造70と呼ぶ。
【0082】
孔部11は、底面がi型InP第1窓層7に到達する程度の深さに設定される。すなわち、孔部11の底面には、Zn拡散p型領域12が設けられたi型InP第1窓層7が露出している。ただし、孔部11の底面は、i型InGaAs光吸収層5に到達していなければ良く、例えばi型InP第1窓層7の内部、またはp型InAlAs第2窓層8の内部に位置していても良い。
【0083】
複数の孔部11の形成後、リング状に加工されたp型InGaAsコンタクト層9の外周部に露出するp型InAlAs第2窓層8をエッチングして除去する。
図8Aの断面図及び
図8Bの上面図は、p型InAlAs第2窓層8をエッチング除去した状態を表す。p型InGaAsコンタクト層9の外周部に露出するp型InAlAs第2窓層8をエッチングする理由は、Zn拡散p型領域12の境界13には高電界が印加されるが、酸化しやすいInAlAs層を最表面とすると、暗電流が増加しやすくなるからである。
【0084】
第1窓層及び第2窓層を、共に酸化しにくいi型InP層で構成することも可能である。この場合は、p型InGaAsコンタクト層9の外周部のInP第2窓層のエッチングは不要となる。上述の構成とは逆に、第1窓層をInAlAs層で構成し、第2窓層をInPで構成しても良い。第1窓層と第2窓層との材料を変える理由は、孔部11の深さ(孔部を残部とする場合は高さ)、つまりエッチング深さの制御性が向上するからである。第1窓層と第2窓層との間に、エッチングストッパー層を設けることにより、エッチング深さの制御性を向上させても良い。
【0085】
次に、表面側に表面保護膜としてSiN表面保護絶縁膜10を全面に形成した後、リング状に加工したp型InGaAsコンタクト層9上のSiN表面保護絶縁膜10を除去して、オーミックコンタクト部を形成する。
図9Aの断面図及び
図9Bの上面図は、オーミックコンタクト部の形成後の状態を表す図である。
【0086】
SiN表面保護絶縁膜10は絶縁膜の一例である。表面保護膜として、SiO2膜、SiON膜、または有機材料からなる絶縁膜など、他の膜種の絶縁膜でも良い。さらに、SiN膜とSiO2膜を積層した膜構成でも良い。
【0087】
次に、リング状にエッチングしたp型InGaAsコンタクト層9上、及びリングの内周側のSiN表面保護絶縁膜10上に、p型電極32を形成する。
図10Aの断面図及び
図10Bの上面図は、p型電極32を形成後の状態を表す図である。
【0088】
p型電極32は、金属材料としてTi及びAu、またはPtが使用される。p型電極32は、金属反射膜としても機能する。具体的には、半導体層側から順に、Ti/Au、Ti/Pt/Au、Ti/Au/Pt/Au、Ti/Au/Ti/Pt/Au、Pt/Ti/Au/Ti/Pt/Au、などといった多層膜で構成する。
【0089】
表面側の加工の完了後、n型InP基板1の裏面にn型電極31及び反射防止膜40を形成する。先ず、n型電極の材料をn型InP基板1の裏面の全面に成膜し、n型InP基板1において、表面側のp型InGaAsコンタクト層9で囲まれた部分に対向する裏面側の面内に成膜されたn型電極の材料を除去することにより、n型電極31が形成される。
【0090】
さらに、n型電極の材料が除去された部分、つまり、n型InP基板1の表面側のp型InGaAsコンタクト層9で囲まれた部分に対向する裏面側の部分に、SiN膜などで構成された反射防止膜40を成膜する。以上が、実施の形態1に係る半導体受光素子の製造方法である。
【0091】
n型InP基板1の裏面側に形成された反射防止膜40から入射した入射光90が、n型InP基板1の表面側に設けられたi型InGaAs光吸収層5に垂直方向から入射する。p型InGaAsコンタクト層9で囲まれた受光領域が円形である場合の直径は5μm~1mmの範囲内であり、受光領域が矩形の場合の長辺の大きさは5μm~1mmの範囲内である。
【0092】
<実施の形態1に係る半導体受光素子の作用>
図3に示した実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例であるAPDの作用について、以下に説明する。
【0093】
半導体受光素子100の裏面側から入射した入射光90は、反射防止膜40を通過して半導体受光素子100の内部に入射する。入射光90は、n型InP基板1を通過し、i型InGaAs光吸収層5において入射光90の一部が吸収された後に、i型InP第1窓層7及びp型InAlAs第2窓層8に到達する。
【0094】
p型InAlAs第2窓層8には、格子状に形成された複数の孔部11、つまり2次元周期構造70が形成されているため、光の共振91が発生する。孔部11の内部にはSiN表面保護絶縁膜10が埋め込まれている。光通信で使用される波長帯1.3μm~1.6μmでは、SiN膜(屈折率:約2.0)とInAlAs層(屈折率:約3.25)の間で屈折率の差が大きいため、光の共振91が容易に発生する。また、InP層(屈折率:約3.2)と比較してInGaAs層は屈折率が高いため(屈折率:約3.6)、i型InGaAs光吸収層5とi型InP第1窓層7との間でも、光の共振91が発生する。
【0095】
図11は、2次元周期構造70における主な共振点を表している。また、
図12に、
図11中の点Pから点Qの間の屈折率分布を示す。光の共振91によって光強度が増加する位置を共振点と呼ぶ。たとえば、
図12の位置Aから位置Dの共振点が想定される。APDの動作時には、位置Aから位置Dにおいて、複合共振(Multiple resonant)が発生する。複合共振では、位置Aから位置Dの各共振点で同時に光が共振するが、各共振点の光強度は波長によって異なる。たとえば、ある波長では共振点である位置A及び位置Bの光強度が強くなる一方、異なる波長では共振点である位置Cの光強度が強くなる。
【0096】
光の共振91が発生する波長において半導体受光素子の受光感度は高くなるが、複合共振によりさらに広い波長範囲において受光感度が高くなる。この理由は、位置Aから位置Dの共振点において等価屈折率が異なるため、それぞれが異なる波長で光の共振91が発生するからである。たとえば、共振点である位置Aの場合は、屈折率の低い第1窓層に共振点の中心があるため、屈折率の高い光吸収層に共振点の中心がある位置Dよりも共振波長が短くなる。このように、実施の形態1に係る半導体受光素子100では複合共振を発生させることが可能であるため、数10nm以上の広い波長範囲において高受信感度である半導体受光素子を得ることができる。
【0097】
格子状という2次元周期的に配列された孔部11の周期(period:孔部11の中心間の距離)を変えると複合共振が発生する波長が変化する。したがって、所望の波長で複合共振が発生するように孔部11の周期を設定すれば良い。孔部11の周期は、概ね、複合共振が発生する波長を共振点の等価屈折率で割った数値である。
【0098】
光通信では、1250~1600nmの波長が用いられる。たとえば、複合共振が発生する波長を1600nm、等価屈折率を3.2とすると、孔部11の周期は500nm(=1600nm/3.2)となり、波長が1250nmの場合は、391nm(=1250nm/3.2)となる。層構成及び孔部11の開口率によって等価屈折率は変化し、2.8~3.6の範囲内の値となる。孔部11の周期は、347nm(=1250nm/3.6)から571nm(=1600nm/2.8)の範囲内で設定すれば良い。
【0099】
孔部11は開口が小さくなると加工が困難となる一方、孔部11の開口が大きいと孔部11以外の残余の部分の物理的強度が低下する。このため、孔部11の開口率(=孔部11の直径/孔部11の周期)は、10%~60%が好適である。したがって、孔部11の開口の直径は、最小で35nm(=347nm×10%)、最大で343nm(=571nm×60%)の範囲内で設定すれば良い。ここで、孔部11の直径は、孔部11の開口が円形である場合に適用される定義である。孔部11の開口が円形以外の他の形状、たとえば矩形の場合は対角線の長さ、三角形の場合は長辺の長さと定義すれば良い。
【0100】
x方向及びy方向に2次元周期的に、つまり格子状に配列された複数の孔部11において、x方向の周期とy方向の周期はほぼ同じ値であることが望ましい。この理由は、x方向の周期とy方向の周期が異なる場合は、受信感度の偏波依存性が発生するからである。受信感度の偏波依存性を低減する観点からは、孔部11の開口の形状は円形に近い方が望ましい。しかしながら、孔部11の開口の形状が三角形、四角形などの多角形または楕円形であっても2次元周期構造70として適用が可能である。さらに、三角形または四角形の形状を呈した孔部を近接して並べるなど、複数のパターンを近接して並べて1つの孔部のように機能させても良い。
【0101】
非特許文献1に記載の半導体受光素子に対する実施の形態1に係る半導体受光素子100の利点を、以下に説明する。非特許文献1に記載の半導体受光素子では、ゲルマニウム(Ge)によって構成された光吸収層に格子状に周期的に配置された孔部を設けているため、光吸収により発生した電子・正孔対が孔部の表面で再結合するので、受信感度が低下するという問題がある。また、孔部の底面ではGe層が露出しているため、暗電流が増加し、信頼性が低下するという問題もある。非特許文献1に記載の素子構造をAPDに適用した場合、APDでは高電界を印加するため、特に信頼性の低下が懸念される。
【0102】
一方、実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例であるAPDでは、i型InGaAs光吸収層5よりもバンドギャップの大きいp型InAlAs第2窓層8に孔部11を形成しているため、i型InGaAs光吸収層5において発生した電子及び正孔が孔部11までは拡散しない。また、p型InAlAs第2窓層8には電界が印加されないため、暗電流の増加、あるいは信頼性の低下といった不具合が発生しない。したがって、実施の形態1に係る半導体受光素子100によると、従来の非特許文献1に記載された半導体受光素子よりも、さらに高い受信感度、低い暗電流、かつ、高い信頼性の半導体受光素子を実現することが可能となる。
【0103】
また、非特許文献1に記載の半導体受光素子では、表面から入射した光の中で、フォトニック結晶であるGe光吸収層で吸収できなかった光は基板側へ透過されてしまう。一方、実施の形態1に係る半導体受光素子100の一例であるAPDでは、p型InAlAs第2窓層8の上部にはSiN表面保護絶縁膜10及びp型電極32が形成されているため、p型InAlAs第2窓層8を透過した光がSiN表面保護絶縁膜10及びp型電極32によって反射され、再びi型InGaAs光吸収層5へ戻されて光の共振に寄与するため、受信感度が向上するという効果を奏する。
【0104】
次に、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3の作用について説明する。i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3ではイオン化率比kが小さいことによる低雑音及び広帯域化が期待できるが、実施の形態1に係る半導体受光素子100の増倍層にInAs/AlAsデジタルアロイ構造を適用することにより、高受信感度化も達成できる。高受信感度化が可能な理由を、以下に説明する。受信感度を高めるためには光を光吸収層にできるだけ閉じ込める必要がある。上述のように、共振点が光吸収層に存在する場合は、高受信感度が実現できる。つまり、光吸収層が最も屈折率が高いため、多くの光成分は光吸収層へ閉じ込められるからである。
【0105】
上述の現象を、
図12を使って具体的に説明する。
図12は、
図11の位置Aの点Pと点Qの間の屈折率分布を表す。
図12の点線はInAlAsランダムアロイ構造増倍層の屈折率、実線はInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の屈折率をそれぞれ示している。
図11の位置C及び位置Dのように、光吸収層に共振点が存在する場合について考察する。
図12において、増倍層をInAs/AlAsデジタルアロイ構造で構成した場合は、光吸収層の両側(水平方向)の半導体層の屈折率が高いため、光吸収層部の中央付近に共振点が発生する。一方、増倍層をInAlAsランダムアロイ構造で構成すると、
図1に示すように、InAlAsランダムアロイ構造増倍層は屈折率が高いため、光吸収層部の共振点が半導体基板側に偏って光が放散してしまう。この結果、InAlAsランダムアロイ構造増倍層の場合は、光吸収層への光閉じ込め率が低下してしまう。
【0106】
一方、InAs/AlAsデジタルアロイ構造を増倍層に適用した場合は、
図1に示すようにInAs/AlAsデジタルアロイ構造の屈折率は低く、第1窓層を構成するInP層と同程度の屈折率となるので、増倍層への光の染み出しが減少する。つまり、InAs/AlAsデジタルアロイ構造を増倍層に適用すると、共振した光が光吸収層に効率よく閉じ込められるため複合共振が発生しやすくなるので、広い波長範囲において高い受信感度を有するAPDが実現できる。
【0107】
<実施の形態1の効果>
以上、実施の形態1に係る半導体受光素子によると、第2窓層に2次元周期構造を設け、半導体基板側から光を入射し、SiN表面保護絶縁膜とp型電極によって半導体層を覆うことにより光を内部に反射し、さらに、増倍層にInAs/AlAsデジタルアロイ構造を適用することによって光吸収層への光の閉じ込め量が増大する結果、複合共振によって広い波長範囲において半導体受光素子の高受信感度化が可能となる効果を奏し、また、低雑音化及び広帯域化が可能となる半導体受光素子が得られるという効果も奏する。したがって、25Gbps以上の応答帯域を必要とする用途においても、十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能となる。
【0108】
実施の形態1の変形例1.
<実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子(APD)の特徴>
図13は、実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子110の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子110は、第1窓層を屈折率の異なる複数層で構成する点に特徴がある。
【0109】
実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子110の素子構造において、n型InP基板1からi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6までの各層の構成は、実施の形態1に係る半導体受光素子100と同一の構成であるので、説明を省略する。
【0110】
実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子110のi型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6の上側に、層厚が0.1~3.0μmであるi型InP第1窓層7aと、層厚が0.1~3.0μmであるi型InAlAs第1窓層7bと、層厚が0.1~3.0μmであるi型InP第2窓層8aと、p型InGaAsコンタクト層9が順に形成されている。なお、i型InAlAs第1窓層7bを、i型InAlGaAs層で構成しても良い。
【0111】
i型InP第1窓層7a、i型InAlAs第1窓層7b、及びi型InP第2窓層8aのキャリア濃度は、それぞれ5×1017cm-3以下である。第1窓層7bをInAlGaAs層で構成する場合は、InAlGaAs層の組成波長λgはAPDに入射する光の波長よりも50~100nm短いため、第1窓層7bによる光吸収は発生しない。
【0112】
なお、p型InGaAsコンタクト層9、及びSiN表面保護絶縁膜10と、n型InP基板1の裏面側に形成されたn型電極31と、p型InGaAsコンタクト層9に囲まれたSiN表面保護絶縁膜10上に形成されたp型電極32は、
図3に示される実施の形態1に係る半導体受光素子100と同一の構成である。また、2次元周期構造70も、実施の形態1に係る半導体受光素子100と同一の構成である。
【0113】
Zn拡散p型領域12は、実施の形態1に係る半導体受光素子100と同様の領域、つまり
図13の断面図に示される領域に形成されている。一方、実施の形態1に係る半導体受光素子100の製造方法を示す
図6Aの断面図及び
図6Bの上面図では、リング状のp型InGaAsコンタクト層9の外周部より外側のp型InAlAs第2窓層8を除去しているが、実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子110の場合は、i型InP第2窓層8aはInP層で構成されているため、除去不要である。この理由は、実施の形態1に係る半導体受光素子100では、電界が印加されるZn拡散p型領域12の境界13の近傍では、p型InAlAs第2窓層8を構成するInAlAs層は表面酸化によって劣化しやすい一方、実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子110の場合は、i型InP第2窓層8aを構成するInP層は酸化による劣化が発生しにくいためである。
【0114】
<実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子(APD)の作用>
実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子110も、実施の形態1と同様、
図14に示すような共振点で複合共振が発生する。
図15に示す半導体受光素子110の屈折率分布では、i型InAlAs第1窓層7bは、i型InP第1窓層7a及びi型InP第2窓層8aよりも屈折率が高いが、i型InGaAs光吸収層5よりは低い。したがって、光吸収層の屈折率が最も高いため、光の共振点として
図14の位置C及び位置Dの光の強度の割合が大きい。複合共振によって広い波長範囲において高い受信感度を得るためには、
図14の位置Aと位置Bでの光の共振も確保する必要がある。
【0115】
図15に示す屈折率分布では、
図12に示す屈折率分布に比べて、i型InAlAs第1窓層7bの屈折率が高いため、
図14の位置A及び位置Bでも複合共振が発生しやすい。具体的には、1300nmの波長に対して、i型InP第1窓層7a(屈折率:3.204)と、i型InAlAs第1窓層7bの屈折率の差は0.05であり、第1窓層7bが組成波長λg=1240nmのInAlGaAs層(屈折率:3.454)の場合の屈折率の差は0.25となる。
【0116】
つまり、実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子110の素子構造では、第1窓層をi型InP第1窓層7a及びi型InAlAs第1窓層7bの2層からなる構造としたため、0.05~0.25の屈折率差が得られる結果、複合共振が発生しやすくなる。なお、
図15に示す屈折率分布の場合も、ランダムアロイ構造増倍層(点線)よりも、デジタルアロイ構造増倍層(実線)の方が、光吸収層への光閉じ込めが大きくなるため、複合共振での受信感度の改善効果が大きくなる。
【0117】
<実施の形態1の変形例1の効果>
以上、実施の形態1の変形例1に係る半導体受光素子によると、複数層からなる第1窓層を設けて上層側の屈折率を高くし、第2窓層に2次元周期構造を設け、SiN表面保護絶縁膜及びp型電極によって半導体層を覆うことにより光を内部に反射し、さらに、増倍層にInAs/AlAsデジタルアロイ構造を適用することによって光吸収層への光の閉じ込め量が増大する結果、光吸収層への光の閉じ込め量の向上と複合共振との両立が実現できるため、広い波長範囲において半導体受光素子の高受信感度化が可能となる効果を奏し、また、低雑音化及び広帯域化が可能となる半導体受光素子が得られるという効果も奏する。したがって、25Gbps以上の応答帯域を必要とする用途においても、十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能となる。
【0118】
実施の形態1の変形例2.
<実施の形態1の変形例2に係る半導体受光素子(APD)の特徴>
図16は、実施の形態1の変形例2に係る半導体受光素子120の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図3及び
図4Aに示す実施の形態1に係る半導体受光素子100では格子状に配置された複数の孔部11が形成されたp型InAlAs第2窓層8が設けられている。一方、実施の形態1の変形例2に係る半導体受光素子120では、第2窓層を設けず、i型InP窓層7cのみを設け、SiN表面保護絶縁膜10aに複数の孔部11aを設けることにより、格子状の2次元周期構造70aを形成している点に特徴がある。
【0119】
SiN表面保護絶縁膜10aの膜厚は、50nm以上500nm以下の範囲内である。SiN表面保護絶縁膜10aの代わりにSiO2膜を用いても良い。孔部11aの開口の形状は、円形、矩形、三角形などが挙げられるが、他の形状を呈していても良い。
【0120】
2次元周期構造70aにおける、一定の周期に対する孔部11aの直径の割合は、10%以上80%以下の範囲内が好適である。孔部11aの深さ(孔部を残部とする場合は高さ)は、100nm以上1000nm以下の範囲内が好適である。
【0121】
リング状のp型InGaAsコンタクト層9上、及びリング内のSiN表面保護絶縁膜10a上には、p型電極32が配置されている。
【0122】
<実施の形態1の変形例2の作用>
実施の形態1の変形例2に係る半導体受光素子120では、実施の形態1に係る半導体受光素子100と同様に、格子状に配列された複数の孔部11aの周期に対応した複合共振が発生し、広い波長範囲において光吸収層における光強度が増大する結果、高い受信感度が得られるという効果を奏する。実施の形態1に係る半導体受光素子100に対する利点は、半導体受光素子120では第2窓層がないことから、エピタキシャル結晶成長層の全体の層厚が薄くすむ点にある。
【0123】
SiN膜、SiO2膜などの絶縁膜への孔部11aの形成は、一般にドライエッチングまたはウエットエッチングが用いられる。絶縁膜と半導体層との選択エッチングは容易であるため、孔部11aの底面は半導体層の表面で正確に止めることが可能となる。したがって、2次元周期構造70aを構成する複数の孔部11aの深さ(孔部を残部とする場合は高さ)を均一にできるという効果を奏する。
【0124】
さらに、孔部11aはp型電極32で埋め込まれているが、たとえばp型電極32としてTi/Auからなる金属膜を適用した場合、p型電極32とSiN表面保護絶縁膜10aとの屈折率差が大きくなるため、共振効果がより得られやすくなるという効果も奏する。
【0125】
<実施の形態1の変形例2の効果>
以上、実施の形態1の変形例2に係る半導体受光素子によると、i型InP窓層上のSiN表面保護絶縁膜に格子状の2次元周期構造を設け、半導体基板側から光を入射し、SiN表面保護絶縁膜及びp型電極によって半導体層を覆うことにより光を内部に反射することで、複合共振によって広い波長範囲において半導体受光素子の高受信感度化が可能となる効果を奏し、また、低雑音化及び広帯域化が可能となる半導体受光素子が得られるという効果も奏する。加えて、実施の形態1に対して、SiN表面保護絶縁膜に設けられた孔部の深さ(孔部を残部とする場合は高さ)が均一になり、かつ屈折率差も大きくできることから光の共振が発生しやすくなるので、光の吸収効率が向上する。この結果、高受信感度で低雑音かつ広帯域化が可能な半導体受光素子が実現できるという効果を奏する。したがって、25Gbps以上の応答帯域を必要とする用途においても、十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能となる。
【0126】
実施の形態1の変形例3.
<実施の形態1の変形例3に係る半導体受光素子(APD)の特徴>
図17は、実施の形態1の変形例3に係る半導体受光素子130の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図3及び
図4Aに示す実施の形態1に係る半導体受光素子100では格子状に配置された複数の孔部11が形成されたp型InAlAs第2窓層8が設けられている。一方、実施の形態1の変形例3に係る半導体受光素子130では、第2窓層を設けず、i型InP窓層7cのみを設け、SiN表面保護絶縁膜10上のp型電極32aに孔部11bを設けることにより、格子状の2次元周期構造70bを形成している点に特徴がある。
【0127】
p型電極32aの膜厚は50nm以上500nm以下の範囲内である。p型電極32aの構成材料としては、Ti/Auの他にTi/Pt/Auなどでも良い。
【0128】
2次元周期構造70bの一例として、p型電極32aに、孔部11bを格子状に配列した構成が挙げられる。孔部11bの開口の形状は、円形、矩形、三角形などが挙げられるが、他の形状を呈していても良い。
【0129】
2次元周期構造70bにおける、一定の周期に対する孔部11bの直径の割合は、10%以上80%以下の範囲内が好適である。孔部11bの深さ(孔部を残部とする場合は高さ)は、100nm以上1000nm以下の範囲内が好適である。
【0130】
実施の形態1と同様に、リング状のp型InGaAsコンタクト層9の上には、p型電極32aを設けることにより、オーミックコンタクト部を形成している。
【0131】
<実施の形態1の変形例3の作用>
実施の形態1の変形例3に係る半導体受光素子130では、実施の形態1に係る半導体受光素子100と同様に、格子状に形成された複数の孔部11bの周期に対応した複合共振が発生し、広い波長範囲において光吸収層における光強度が増大する結果、高い受信感度が得られる。実施の形態1に係る半導体受光素子100に対する利点は、第2窓層がないことからエピタキシャル結晶成長層の層厚が薄くすむ点である。
【0132】
Ti/Auなどの金属膜で構成されたp型電極32aへの孔部11bの形成は、一般にドライエッチングまたはウエットエッチングが用いられる。p型電極32aの下側のSiN表面保護絶縁膜10との選択エッチングが容易であるため、孔部11bの底面はSiN表面保護絶縁膜10の表面で正確に止めることが可能となる。したがって、2次元周期構造70bを構成する複数の孔部11bの深さ(孔部を残部とする場合は高さ)を均一にできるという効果を奏する。
【0133】
また、リフトオフを用いてp型電極32aに孔部11bを形成することも可能である。さらに、p型電極32aと孔部11b、つまり空気との屈折率差が大きくなるため、共振効果がより得られやすくなるという効果も奏する。
【0134】
<実施の形態1の変形例3の効果>
以上、実施の形態1の変形例3に係る半導体受光素子によると、SiN表面保護絶縁膜上のp型電極に格子状の2次元周期構造を設け、半導体基板側から光を入射するので、複合共振によって広い波長範囲において半導体受光素子の高受信感度化が可能となるという効果を奏する。加えて、実施の形態1に対して、p型電極に設けられた孔部の深さ(孔部を残部とする場合は高さ)が均一になり、かつ屈折率差も大きくできることから光の共振が発生しやすくなるため、光の吸収効率が向上する。この結果、高受信感度であり、低雑音かつ広帯域化が可能な半導体受光素子が実現できるという効果を奏する。したがって、25Gbps以上の応答帯域を必要とする用途においても、十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能となる。
【0135】
実施の形態1の変形例4.
<実施の形態1の変形例4に係る半導体受光素子(APD)の特徴>
図18は、実施の形態1の変形例4に係る半導体受光素子140の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
図3及び
図4Aに示す実施の形態1に係る半導体受光素子100では格子状に配置された複数の孔部11が形成されたp型InAlAs第2窓層8が設けられている。一方、実施の形態1の変形例4に係る半導体受光素子140では、第2窓層を設けず、i型InP窓層7cのみを設け、i型InP窓層7c上のp型InGaAsコンタクト層9aに複数の孔部11cを設けることにより、格子状の2次元周期構造70cを形成している点に特徴がある。
【0136】
p型InGaAsコンタクト層9aの層厚は、50nm以上500nm以下の範囲内である。
【0137】
2次元周期構造70cの一例として、p型InGaAsコンタクト層9aに、孔部11cを格子状に配列した構成が挙げられる。孔部11cの開口の形状は、円形、矩形、三角形などが挙げられるが、他の形状を呈していても良い。
【0138】
2次元周期構造70cにおける、一定の周期に対する孔部11cの直径の割合は、10%以上80%以下の範囲内が好適である。孔部11bの深さ(孔部を残部とする場合は高さ)は、100nm以上1000nm以下の範囲内が好適である。
【0139】
p型InGaAsコンタクト層9a上に、p型電極32を設けることにより、オーミックコンタクト部を形成している。なお、p型InGaAsコンタクト層9aにおいて孔部11cを設けていない部分の上では、SiN表面保護絶縁膜10bは除去しなくても良い。
【0140】
<実施の形態1の変形例4の作用>
実施の形態1の変形例4に係る半導体受光素子140では、実施の形態1に係る半導体受光素子100と同様に、格子状に形成された複数の孔部11cの周期に対応した複合共振が発生し、広い波長範囲において光吸収層における光強度が増大する結果、高い受信感度が得られる。実施の形態1に係る半導体受光素子100に対する利点は、第2窓層がないことからエピタキシャル結晶成長層の層厚が薄くすむ点である。
【0141】
p型InGaAsコンタクト層9aへの孔部11cの形成は、一般にドライエッチングまたはウエットエッチングが用いられる。リング状のオーミックコンタクト部を形成する工程において同時に孔部11cを形成することが可能となるため、孔部11cの形成工程を別途設けずに済むという利点がある。
【0142】
p型InGaAsコンタクト層9aのエッチングの際は、下側で接するi型InP窓層7cとの選択エッチングが容易であるため、孔部11aの底面はi型InP窓層7cの表面で正確に止めることが可能となる。したがって、2次元周期構造70aを構成する複数の孔部11cの深さ(孔部を残部とする場合は高さ)を均一にできるという効果を奏する。
【0143】
p型InGaAsコンタクト層9aで孔部11cを形成していない部分にp型電極32を設けて、p型InGaAsコンタクト層9aとのオーミックコンタクト部を形成するので、p型InGaAsコンタクト層9aとp型電極32とのコンタクト面積が増加するため、半導体受光素子140のオーミック抵抗を小さくすることが可能である。
【0144】
<実施の形態1の変形例4の効果>
以上、実施の形態1の変形例4に係る半導体受光素子によると、i型InP窓層上のp型InGaAsコンタクト層に格子状の2次元周期構造を設け、半導体基板側から光を入射するので、複合共振によって広い波長範囲において半導体受光素子の高受信感度化が可能となり、さらに低雑音化及び広帯域化が可能となるという効果を奏する。加えて、実施の形態1に対して、p型InGaAsコンタクト層に設けられた孔部の深さ(孔部を残部とする場合は高さ)が均一になるので、光の共振が発生しやすくなるため、光の吸収効率が向上する。この結果、高受信感度であり低雑音かつ広帯域化が可能な半導体受光素子が実現できるという効果を奏する。したがって、25Gbps以上の応答帯域を必要とする用途においても、十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能となる。
【0145】
実施の形態1の変形例5.
<実施の形態1の変形例5に係る半導体受光素子(APD)の特徴>
図19は、実施の形態1の変形例5に係る半導体受光素子150の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態1及び実施の形態の変形例1から4では、p型領域をZnの選択拡散で形成している。一方、実施の形態1の変形例5に係る半導体受光素子150では、
図19に示すように、エピタキシャル結晶成長の際に、p型InP第1窓層7d、p型InAlAs第2窓層8b、及びp型InGaAsコンタクト層9bの各層にp型のドーピングを行うことで、メサ構造(以下、単にメサとも呼ぶ)を有するメサ型APDとしている。p型のドーパントとしては、Be、Zn、Mg、Cなどが適用可能である。各層のドーピング濃度は5×10
17cm
-3以上であり、1×10
18cm
-3程度が好適である。
【0146】
<実施の形態1の変形例5の作用>
格子状の2次元周期構造70に対して光を垂直方向から入射した場合、水平方向に進行する光92が発生する。水平方向に進行する光92はi型InGaAs光吸収層5で吸収され、徐々に減衰する。実施の形態1に係る半導体受光素子100の場合は、水平方向に進行する光92の一部がZn拡散p型領域12の境界13の外部に到達する可能性がある。この場合、Zn拡散p型領域12の境界13の外部に到達した光も吸収されて、電子及び正孔のキャリアが発生する。
【0147】
Zn拡散p型領域12の境界13の外部では電界が印加されていないため、発生したキャリアはゆっくりと拡散してZn拡散p型領域12へ戻ってきて電流信号として取り出される。電界が印加されていない領域をキャリアが拡散する時間は、電界が印加されている領域と比べて長いため、周波数応答が劣化する。この結果、APDのパルス応答波形において、すそ引きが発生するという不具合が発生するおそれがある。
【0148】
一方、
図19に示す実施の形態1の変形例5に係る半導体受光素子150の一例である裏面入射型APDでは、メサ型の素子構造であるので、メサ構造内部の全領域に渡って電界が印加されるため、パルス応答波形にすそ引きが発生しないので、周波数応答は劣化しない。
【0149】
<実施の形態1の変形例5の効果>
以上、実施の形態1の変形例5に係る半導体受光素子によると、メサ型の素子構造であり、メサ構造の内部の全領域に渡って電界が印加され、パルス応答波形にすそ引きが発生しないので周波数応答は劣化しないため、高受信感度であり低雑音かつ広帯域化が可能な半導体受光素子が実現できるという効果を奏する。したがって、25Gbps以上の応答帯域を必要とする用途においてもSN比に優れたパルス応答波形が得られ、十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能となる。
【0150】
実施の形態1の変形例6.
<実施の形態1の変形例6に係る半導体受光素子(APD)の特徴>
図20は、実施の形態1の変形例6に係る半導体受光素子160の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。
【0151】
<実施の形態1の変形例6に係る半導体受光素子の構造>
実施の形態1の変形例6に係る半導体受光素子160の一例である裏面入射型APDは、Feドープ半絶縁性InP基板1aと、Feドープ半絶縁性InP基板1a上に順次形成された、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であり層厚が0.1~1.0μmであるn型InPバッファ層2aと、i型AlAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)と、i型InAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とを交互に複数回積層したi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3と、キャリア濃度が0.1~50×1017cm-3であり層厚が10~70nmであるp型InP電界緩和層4と、層厚が0.1~2.0μmであるi型InGaAs光吸収層5と、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6と、層厚が0.1~3.0μmであるp型InP第1窓層7dと、層厚が0.1~3.0μmであり2次元周期構造70を有するp型InAlAs第2窓層8と、リング状を呈するp型InGaAsコンタクト層9と、p型InAlAs第2窓層8に2次元的に配置された複数の孔部11と、孔部11の底面に露出したp型InP第1窓層7d、p型InAlAs第2窓層8の表面、及び各層の側面部上に形成されたSiN表面保護絶縁膜10aと、表面に露出したn型InPバッファ層2a及び側面部に形成されたSiN表面保護絶縁膜10a上に形成されたn型電極31aと、リング状を呈するp型InGaAsコンタクト層9上及びp型InGaAsコンタクト層9に囲まれたSiN表面保護絶縁膜10a上に形成されたp型電極32と、n型InP基板1の裏面側に形成された反射防止膜40と、で構成される。
【0152】
<実施の形態1の変形例6に係る半導体受光素子の製造方法>
FeドープInP基板1aの上に、キャリア濃度が1~5×1018cm-3であり層厚が0.1~1.0μmであるn型InPバッファ層2aを成長する。n型InPバッファ層2aは導電層とコンタクト層の両方の機能を兼ねている。実施の形態1に係る半導体受光素子100と同様に、n型InPバッファ層2a上にi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3、p型InP電界緩和層4、i型InGaAs光吸収層5、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6の各層を順次、結晶成長する。
【0153】
i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6上に、実施の形態1の変形例5に係る半導体受光素子150と同様に、p型InP第1窓層7dを結晶成長する。さらに、実施の形態1に係る半導体受光素子100と同様に、p型InAlAs第2窓層8、及びp型InGaAsコンタクト層9の各層を順次、結晶成長する。
【0154】
次に、p型InGaAsコンタクト層9をリング状に加工し、p型InAlAs第2窓層8に複数の孔部11が格子状に配置されるように形成することにより、p型InAlAs第2窓層8に2次元周期構造70を設ける。リング状に加工したp型InGaAsコンタクト層9の外周部の外側を、底面がn型InPバッファ層2aに到達するまでエッチングして除去する。
【0155】
エッチング後、全面をSiN絶縁膜で覆い、オーミックコンタクト部を形成する部分のSiN絶縁膜を除去し、p型電極32及びn型電極31aを形成する。p型電極32は、リング状を呈するp型InGaAsコンタクト層9上及びp型InGaAsコンタクト層9に囲まれたSiN表面保護絶縁膜10a上に形成される。
【0156】
n型電極31aは、n型InPバッファ層2aに到達するまでエッチングすることにより形成されたメサの側面部を、各半導体層の側面部に設けられたSiN表面保護絶縁膜10aを介して覆うように形成される。あるいは、メサの側面部を覆う電極は、n型InPバッファ層2a上に形成されたn型電極31aとは接続せず、互いに独立した電極としても良い。また、メサの側面部の電極は、p型電極32と同時に形成しても良い。
【0157】
<実施の形態1の変形例6の作用>
実施の形態1の変形例2に係る半導体受光素子160では、格子状の2次元周期構造70に対して光を垂直方向から入射した場合、水平方向に進行する光が発生する。この水平方向に進行する光に対して、メサの側面部はSiN表面保護絶縁膜10a及びn型電極31aによって被覆されているため、反射ミラーとして機能する。したがって、水平方向に進行する光は、メサの側面部で内部側に反射して戻され、i型InGaAs光吸収層5によって吸収されるため、受信感度が向上する。
【0158】
なお、実施の形態1の変形例2に係る半導体受光素子160では、n型InP基板1よりも光吸収損失の小さいFeドープ半絶縁性InP基板1aを使用するため、さらに受信感度が向上する。
【0159】
<実施の形態1の変形例6の効果>
以上、実施の形態1の変形例6に係る半導体受光素子によると、メサの側面部にSiN表面保護絶縁膜及びn型電極からなる反射ミラーを設けたので、水平方向に進行する光を内部に戻すことが可能となるため、半導体受光素子の受信感度がより向上するという効果を奏する。したがって、25Gbps以上の応答帯域を必要とする用途においても、十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能となる。
【0160】
実施の形態1の変形例7.
図21は、実施の形態1の変形例7に係る半導体受光素子170の一例である端面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態1及び実施の形態1の変形例1から6では、裏面から光を入射する構成としている。一方、
図21に示す実施の形態1の変形例7に係る半導体受光素子170では、メサの側面部の端面の全面に反射防止膜41が設けられ、端面から入射光90が入射することを特徴とする。
【0161】
<実施の形態1の変形例7の効果>
実施の形態1の変形例7に係る半導体受光素子によると、第2窓層に2次元周期構造を設け、さらに、増倍層にInAs/AlAsデジタルアロイ構造を適用することによって光吸収層への光の閉じ込め量が増大する結果、複合共振によって広い波長範囲において高受信感度化が可能となる効果に加えて、端面の全面に反射防止膜を設けたので、一層、高受信感度化が可能となり、さらに低雑音化及び広帯域化が可能となる端面入射型の半導体受光素子が得られるという効果を奏する。したがって、25Gbps以上の応答帯域を必要とする用途においても、十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能となる。
【0162】
実施の形態2.
<実施の形態2に係る半導体受光素子(APD)の素子構造>
図22は、実施の形態2に係る半導体受光素子180の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態2に係る半導体受光素子180は、n型InPバッファ層2とi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3との間に、キャリア濃度が1~5×10
18cm
-3であるn型InAlGaAs層及びn型InP層を、この順序で交互に積層したn型DBR層14(Distributed Bragg Reflector:DBR)を設けている点に特徴がある。n型DBR層14以外の構成は、実施の形態1に係る半導体受光素子100とほぼ同一である。
【0163】
n型DBR層14はバッファ層としても機能する。したがって、n型InPバッファ層2は無くても良い。n型DBR層14は、MOCVD、MBEなどの結晶成長方法により形成される。n型DBR層14を、n型半導体層とも呼ぶ。
【0164】
i型InP第1窓層7の代りに、i型InAlAs第1窓層としても良い。また、逆にp型InAlAs第2窓層8の代わりにp型InP第2窓層としても良い。
【0165】
n型DBR層14を構成する各層の層厚tは、各層の屈折率をn、入射光の波長をλとすると、下記の式(3)を満たすように設定すれば良い。
t=λ/(4・n) (3)
【0166】
また、n型DBR層14を構成する各層の層厚を層厚tの奇数倍、つまり1t、3t、5t、・・・という構成としても良い。InAlGaAs層の組成及びInAlGaAs層/InP層のペア数によって、n型DBR層14の反射率を変化させることができる。
【0167】
たとえば、入射光の波長を1300nm、InAlGaAsの組成波長λgを1100nmとすると、屈折率nは3.38となり、n型DBR層14の1ペアを構成するInAlGaAs層の層厚は96.2nmとなる。InPの屈折率nは3.20であるので、n型DBR層14の1ペアを構成するInP層の層厚は101.6nmとなる。したがって、n型DBR層14の1ペアの層厚は、両者を合計した197.8nmとなる。
【0168】
n型DBR層14のInAlGaAs/InPのペア数は2以上20以下が好適であり、n型DBR層14の全体の層厚は0.4μm以上4μm以下が好適である。しかしながら、のペア数は積層する各層の屈折率に依存し、積層する2種類の層の屈折率差が小さくほど、より多くのペア数が必要となる。
【0169】
n型DBR層14は、上述したInAlGaAs/InPのペア以外に、InGaAs/InP、InGaAsP/InP、InGaAsP/InAlGaAs、InAlGaAs/InAlAs、InGaAs/InAlAsの各ペアでも良い。
【0170】
<実施の形態2の作用>
実施の形態2に係る半導体受光素子180は、実施の形態1に係る半導体受光素子100と同じ作用及び効果を奏することに加えて、より受信感度が向上するという作用及び効果を奏する。n型DBR層14の作用について、
図23に基づき、以下に説明する。
【0171】
図22に示すように、反射防止膜40から入射した入射光90は、n型DBR層14に到達する。n型DBR層14は光を反射するが、n型DBR層14よりも上側に位置する各層の共振条件を満たす波長は透過する。このため、n型DBR層14とp型電極32との間に垂直方向のキャビティが形成され、光の共振が発生する。
【0172】
n型DBR層14及びp型電極32によって閉じ込められた垂直方向の共振光は、p型InAlAs第2窓層8に格子状に配列された複数の孔部11によって形成された2次元周期構造70によって生じる光の共振、すなわち
図22に示された共振光を増強する。この結果、半導体受光素子180の受信感度が向上する。
【0173】
図23は、実施の形態2に係る半導体受光素子180の一例である裏面入射型APDにおける、DBR層の反射率及び量子効率の、DBR層のペア数依存性を表す図である。ここで、入射光の波長を1300nm、InAlGaAs層の屈折率nを3.38、層厚を96.2nm、InP層の屈折率nを3.20、層厚を101.6nmとした。i型InGaAs光吸収層5の屈折率を3.595、層厚を542nm、吸収係数を12716/cmとした。また、2次元周期構造70及びp型電極32による反射率は80%とした。つまり、2次元周期構造70及びp型電極32は、反射率80%のミラーとして機能する。
【0174】
n型DBR層14と反射率80%のミラーとの間に、InGaAs光吸収層、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層、InP窓層があるモデルで、計算により、キャビティ共振によって吸収される効率(量子効率)を算出した。
図23において、縦軸はn型DBR層14の反射率、及びInGaAs光吸収層において吸収される光の量子効率を表し、横軸はn型DBR層14のペア数を表している。
【0175】
図23に示すように、n型DBR層14のペア数の増加にともない、n型DBR層14の反射率は単調に増加する。一方、量子効率は、8ペアまでは増加するものの、8ペアを超えると減少する。これは、n型DBR層14を構成するペア数が8ペアを超えるとn型DBR層14を透過する光が減少するため、n型DBR層14と2次元周期構造70及びp型電極32からなるキャビティにおいて共振する光の量が減少するためである。
【0176】
80%以上の量子効率を得るためには、n型DBR層14の反射率として1%以上40%以下が好適である。また、n型DBR層14を構成するペアのペア数としては、2ペア以上14ペア以下が好適である。より高い85%以上の量子効率を得るためには、n型DBR層14の反射率として5%以上33%以下が好適であり、n型DBR層14を構成するペアのペア数としては4ペア以上12ペア以下がさらに好適である。
【0177】
特許文献2ではフォトニック結晶及びDBR層を用いた半導体受光素子が開示されているが、DBR層は表面から入射した光のうち光吸収層では吸収されずに透過した光を戻す役割のみ機能する。したがって、特許文献2に記載の半導体受光素子では、本開示のような2次元周期構造70並びにp型電極32及びn型DBR層14からなる垂直方向のキャビティは形成されていないので、垂直方向における光の共振による受信感度の向上は得られない。
【0178】
<実施の形態2の効果>
以上、実施の形態2に係る半導体受光素子によると、増倍層の下側にn型DBR層を設け、第2窓層に2次元周期構造を設け、2次元周期構造をSiN表面保護絶縁膜及びp型電極で覆い垂直方向のキャビティを形成したので、半導体基板側から光を入射することで、高い受信感度の半導体受光素子が得られるという効果を奏する。加えて、さらに、増倍層にInAs/AlAsデジタルアロイ構造を適用することによって光吸収層への光の閉じ込め量が増大する結果、複合共振によって広い波長範囲における高受信感度化が可能となり、さらに低雑音化及び広帯域化が可能となる半導体受光素子が得られるという効果を奏する。したがって、25Gbps以上の応答帯域を必要とする用途においても、十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能となる。
【0179】
実施の形態2の変形例1.
図24は、実施の形態2の変形例1に係る半導体受光素子190の一例である裏面入射型PDの素子構造を表す断面図である。n型DBR層14を増倍層3の下側に設ける構成は、実施の形態1の変形例1から6でも可能であり、同じ作用及び効果が得られる。実施の形態2の変形例1に係る半導体受光素子190は、実施の形態2に係る半導体受光素子180からi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3及びp型InP電界緩和層4を除去してPDとする点に特徴がある。実施の形態2の変形例1に係る半導体受光素子190においても、実施の形態2に係る半導体受光素子180とほぼ同様の効果が得られる。
【0180】
実施の形態2の変形例2.
図25は、実施の形態2の変形例2に係る半導体受光素子200の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態2の変形例2に係る半導体受光素子200は、
図20に示す実施の形態1の変形例6に係る半導体受光素子160におけるn型InPバッファ層2aを、n型DBR層14aに置き換えた構成である。水平方向と垂直方向に光を閉じ込めることによって、より高い受信感度が得られる。
【0181】
実施の形態2の変形例3.
図26は、実施の形態2の変形例3に係る半導体受光素子210の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態2の変形例3に係る半導体受光素子210は、実施の形態2の変形例2に係る半導体受光素子200に関して、基板側をp型、表面側をn型と、導電型を反転させた点に特徴がある。
【0182】
<実施の形態2の変形例3に係る半導体受光素子の構造>
実施の形態2の変形例3に係る半導体受光素子210の一例である裏面入射型APDは、Feドープ半絶縁性InP基板1aと、Feドープ半絶縁性InP基板1a上に順次形成された、層厚が0.1~1.0μmであるp型InPバッファ層2bと、キャリア濃度が1~5×1018cm-3でありp型InAlGaAs層とp型InP層が交互に積層されたp型DBR層14bと、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6と、層厚が0.1~2.0μmであるi型InGaAs光吸収層5と、キャリア濃度が0.1~50×1017cm-3であり層厚が10~70nmであるp型InP電界緩和層4と、i型AlAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)と、i型InAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とを交互に複数回積層したi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3と、層厚が0.1~3.0μmであるn型InP第1窓層7eと、層厚が0.1~3.0μmであり2次元周期構造70dを有するn型InAlAs第2窓層8cと、リング状を呈するn型InGaAsコンタクト層9cと、n型InAlAs第2窓層8cに2次元的に配置された複数の孔部11dと、孔部11dの底面に露出したn型InP第1窓層7e、n型InAlAs第2窓層8cの表面、及び各層の側面部上に形成されたSiN表面保護絶縁膜10aと、表面に露出したp型DBR層14b及び側面部に形成されたSiN表面保護絶縁膜10a上に形成されたp型電極32bと、リング状を呈するn型InGaAsコンタクト層9c上及びn型InGaAsコンタクト層9cに囲まれたSiN表面保護絶縁膜10a上に形成されたn型電極31bと、Feドープ半絶縁性InP基板1aの裏面側に形成された反射防止膜40と、で構成される。
【0183】
なお、p型InPバッファ層2bの代りに、n型またはi型のInPバッファ層を設けても良い。しかしながら、InPバッファ層は必ずしも必要ではない。
【0184】
<実施の形態2の変形例3に係る半導体受光素子の製造方法>
Feドープ半絶縁性InP基板1a上に、p型InPバッファ層2bを0.1~1μm、結晶成長する。キャリア濃度が1~5×1018cm-3であるp型InAlGaAs層及びp型InP層の順序で交互に積層したp型DBR層14bを結晶成長する。p型DBR層14b上に、i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層6、i型InGaAs光吸収層5、p型InP電界緩和層4、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3、n型InP第1窓層7e、n型InAlAs第2窓層8c、n型InGaAsコンタクト層9cの各層を順次、結晶成長する。
【0185】
p型DBR層14bは、実施の形態2に係る半導体受光素子200のn型DBR層14と導電型が異なるだけであり、ペアの各層の層厚及び構成材料は同一である。また、n型InP第1窓層7e、n型InAlAs第2窓層8c、及びn型InGaAsコンタクト層9cは実施の形態1の変形例5に係る半導体受光素子150と導電型が異なるが、各層の層厚及びキャリア濃度は同一である。
【0186】
次に、n型InGaAsコンタクト層9cをリング状に加工し、n型InAlAs第2窓層8cに複数の孔部11dが格子状に配置されるように形成して、n型InAlAs第2窓層8cに2次元周期構造70dを設ける。リング状に加工したn型InGaAsコンタクト層9cの外周部の外側を、底面がp型DBR層14bに到達するまでエッチングして除去する。
【0187】
エッチング除去後、全面をSiN膜で覆い、オーミックコンタクト部を形成する部分のSiN膜を除去し、p型電極32a及びn型電極31bを形成する。n型電極31bは、リング状のn型InGaAsコンタクト層9c上に形成される。
【0188】
p型電極32aは、p型DBR層14bに到達するまでエッチングすることにより形成されたメサの側面部、つまり各半導体層の側面部を、同じく各半導体層の側面部に設けられたSiN表面保護絶縁膜10aを介して覆うように配置される。あるいは、メサの側面部を覆う電極は、p型電極32aと接続せず独立した電極としても良い。また、メサの側面部の電極はn型電極31bと同時に形成しても良い。
【0189】
<実施の形態2の変形例3の作用>
n型半導体は、p型半導体よりも光の吸収損失が少ない。実施の形態2の変形例3に係る半導体受光素子210は、実施の形態2の変形例2に係る半導体受光素子200に対して、導電型を上下反転させている。このため、共振点が形成される第1窓層が、p型ではなくn型となるため、n型InP第1窓層7eにおける光の吸収損失を低減できるという優れた効果を奏する。
【0190】
<実施の形態2の変形例3の効果>
以上、実施の形態2の変形例3に係る半導体受光素子によると、共振点が形成される第1窓層の導電型がp型ではなくn型となるので、第1窓層による光の吸収損失が低減できるため、高受信感度の半導体受光素子が実現できるという効果を奏する。したがって、25Gbps以上の応答帯域を必要とする用途においても、十分な受信感度を有するAPDを得ることが可能となる。
【0191】
以上の各実施の形態及び各実施の形態の変形例では、いずれも増倍層が、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造で構成されている例を説明した。以下では、上述の各半導体受光素子の構造上の特徴の一つであるデジタルアロイ構造増倍層について、さらに詳述する。
【0192】
37.5GHz以上の広帯域のAPDを実現できれば、DSP及びSOAを用いなくても、次世代の高速PONシステムが実現できる。応答帯域の広帯域化が比較的容易なPDの場合、応答帯域は、
(1)RC時定数(Rは素子抵抗、Cは素子容量)
(2)キャリアの走行時間(空乏層内を電子または正孔が走行する時間)
によって制限される。APDではさらに、
(3)増倍時間(増倍層内で電子及び正孔が連鎖的に増倍する時間、増倍率に比例して増加)によっても制限される。
【0193】
PDでは上述の37.5GHzの帯域を実現できるが、APDでは増倍時間が必要なために、増倍率を高くすると所望の帯域実現が困難となる。増倍時間TMは、下記の式(4)から(6)で表される。
増倍時間TM=増倍率M/GB積 (4)
GB積=1/(2πNkτav) (5)
つまり、
増倍時間TM=2πNkMτav (6)
となる。
【0194】
ここで、GB積は増倍率と応答帯域の積、kはイオン化率比、Nはイオン化率比kにゆるやかに依存する係数、τavは電子及び正孔が増倍層を走行する平均時間である。したがって、イオン化率比kを小さくすることにより、増倍時間TMを短縮することが可能である。特に、高速PONシステムを実現するためには、増倍時間TMがゼロに近づくようにすること、つまり、イオン化率比kをゼロに近づける必要がある。
【0195】
イオン化率比kをゼロとするべく、増倍層の材料として種々の化合物半導体が提案されている。また、イオン化率比kを低減するために、組成の異なる半導体層を1~6原子層の周期で交互に繰り返し積層したデジタルアロイ構造が提案されているものの、デジタルアロイ構造においても構造を最適化しない限り、イオン化率比kをゼロとすることは困難である。なお、デジタルアロイ構造については、非特許文献2に記載されている。
【0196】
そこで、発明者らは、デジタルアロイ構造のイオン化率比kを低減すべく、2原子層のInAs層と2原子層のAlAs層を交互に繰り返し積層した増倍層を用いたデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDを作製し、増倍特性を解析した結果、キャリアが増倍層を走行してイオン化するまでの距離が、通常のバルク結晶からなるInAlAs、つまりInAlAsランダムアロイ構造増倍層を有するAPDよりも長いことを発見した。なお、キャリアが増倍層を走行してイオン化するまでの距離は、デッドスペースと呼ばれる。
【0197】
デッドスペースの長さ(以下、デッドスペース長と呼ぶ。)は、電子に比べて正孔の方が長いため、通常のバルク結晶からなるInAlAsランダムアロイ構造の場合は、増倍層の層厚を数10nmのレベルまで薄層化していくと、正孔がイオン化できないためイオン化率比kは低下する。しかしながら、増倍層の層厚を数10nmのレベルまで薄層化した場合に、所望の増倍率を得るためには、増倍層により高い電界を印加する必要があるため、トンネル電流などのリーク電流が増加するという新たな問題が発生する。つまり、トンネル電流が増加すると、APDで発生する雑音が増大してしまう。一方、発明者らの解析では、デジタルアロイ構造では、ランダムアロイ構造に比べて特異にデッドスペースが大きいため、層厚が100nm以上の増倍層であっても、イオン化率比k=0となることを発見した。
【0198】
つまり、APDの増倍層をデジタルアロイ構造で構成することにより、トンネル電流を抑制しつつイオン化率比k=0とすることが可能であることを、発明者らは初めて見出した。具体的には、本開示のデジタルアロイ構造からなる増倍層では、170nm以下の層厚でイオン化率比kが急激に低下し、特に、増倍層の層厚が60以上130nm以下の範囲でデッドスペース効果が劇的に良くなることを見出した。つまり、ランダムアロイ構造からなる増倍層または層厚の厚いデジタルアロイ構造からなる増倍層では実現が不可能であったイオン化率比k=0を、本開示のデジタルアロイ構造からなる増倍層を適用することにより、実現できることを発明者らは実証した。デジタルアロイ構造増倍層を有するAPDの増倍層の薄層化が、従来材料によるAPDの増倍層の薄層化よりもイオン化率比kの低減効果が高いことは、現時点で、いずれの研究機関からも報告されていない。
【0199】
実施の形態1及び2に係る半導体受光素子の一例であるAPDについて、以下に説明する。実施の形態1及び2に係る半導体受光素子は、デジタルアロイ構造で増倍層を構成する点に特徴の一つがある。
【0200】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造の一例として、i型AlAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)と、i型InAs層(一例として層厚が2原子層、約0.6nm)とを交互に複数回積層したデジタルアロイ構造が挙げられる。
【0201】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚は、40nm以上1000nm以下の範囲内である。しかしながら、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層におけるデッドスペース効果を増大させるために、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚を、40nm以上170nm以下の範囲内としても良い。さらに、半導体受光素子100の作製時の層厚の典型的なばらつきの度合いである20%を考慮すると、i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚は、50nm以上140nm以下の範囲内がより好適である。
【0202】
i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDの作用について、以下に説明する。実施の形態1及び2に係るAPDのように、デジタルアロイ構造増倍層を用いると、デッドスペース効果、つまりイオン化率比kの低減効果が強化されることを、発明者らは見出した。
図27は、InAlAs増倍層における電子のデッドスペースの電界依存性を表す図である。発明者らは、デジタルアロイ構造増倍層における電子の増倍特性を解析した結果、
図27のグラフに示すように、従来のInAlAsランダムアロイ構造増倍層よりも、本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の方が、デッドスペースが長くなることを明らかにした。
【0203】
図28Aから
図28Cは電子及び正孔のイオン化率をそれぞれ表す概念図であり、
図28Aは電子のイオン化の場合、
図28Bは正孔のイオン化の場合、
図28Cは増倍層を薄層化した場合のイオン化率をそれぞれ表す概念図である。従来のInAlAsランダムアロイ構造増倍層では、
図27のグラフに示すように、デッドスペース長は約45nmであるため、増倍層の層厚はデッドスペースの約1.5倍(約70nm)まで薄層化する必要がある。しかしながら、増倍層を70nmまで薄層化すると増倍層の電界が高くなり、トンネル電流の急激な増加にともない雑音が増加してしまう。
【0204】
一方、実施の形態1及び2に係るAPDのInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、
図27のグラフに示すように、印加電界の逆数が1.47×10
-6cm/Vである場合は、デッドスペース長は約85nmであるため、増倍層の層厚はデッドスペースの約1.5倍(約130nm)の層厚であってもイオン化率比kをゼロに近づけることが可能であることから、実施の形態1及び2に係るAPDではトンネル電流の影響は小さい。
【0205】
また、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、デッドスペースの印加電界依存性が大きい。たとえば、印加電界の逆数が1.27×10
-6cm/Vの場合は、
図27のグラフに示すように、デッドスペース長は約50nmであるため、増倍層を75nmまで薄層化する必要がある。つまり、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚は、InAlAsランダムアロイ構造増倍層の層厚よりも厚くすることが可能である。
【0206】
図29は、イオン化率比及びトンネル電流の増倍層の層厚依存性を表す図である。発明者らは、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層とInAlAsランダムアロイ構造増倍層を有するAPDをそれぞれ作製してイオン化率比kを測定し、さらに、
図29中に記載した文献1及び2の測定結果と合わせて
図29中にプロットした。なお、
図29中の文献1及び2は、下記のとおりである。
【0207】
(1)文献1
Yuan Yuan,et al. “Temperature dependence of the ionization coefficients of InAlAs and AlGaAs digital alloys”pp.794,Vol.6,No.8/August 2018/Photonics Research
(2)文献2
Wenyang Wang,et al. “Characteristics of thin InAlAs digital alloy avalanche photodiodes” pp.3841,Vol.46,No.16/15 August 2021/Optics Letters
【0208】
図29に示すように、InAlAsランダムアロイ構造増倍層では、増倍層の層厚を80nm以下にしないとデッドスペースによるイオン化率比kの低減効果が発現しない。一方、増倍層の層厚を80nmよりも薄層化すると、トンネル電流が急激に増加してトンネルブレークダウンが発生してしまう。増倍層の層厚が60nm付近で、イオン化率比kの低減とトンネル電流の制限がかろうじて両立するが、層厚のマージンは数nmほどしかなく、安定してAPDを製造することは極めて困難である。また、イオン化率比kも0.12と大きい。つまり、従来のInAlAsランダムアロイ構造増倍層では、薄層化によるイオン化率比kの低減効果をAPDに適用することは困難である。
【0209】
一方、本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、発明者らが発見したようにデッドスペースが大きいために、
図29に示すように、増倍層を薄層化していくと170nmの層厚からイオン化率比kが0.1以下へと低下を始める。ここで、イオン化率比kは増倍雑音の測定値から求められ、増倍率1~10の範囲でのイオン化率比の最小値である。イオン化率比kが同じ場合は、InAlAsランダムアロイ構造増倍層の場合と比べて、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚は2倍以上となる。
【0210】
図29のグラフに示すように、pn接合径が20μmのAPDにおいて、トンネル電流が1μAとなる増倍層の層厚として40nmを下限とすると、40nm以上170nm以下の範囲の層厚がInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の場合の最適な範囲となるが、かかる範囲内の層厚は十分に再現性良く作製可能である。
【0211】
デッドスペース効果によりイオン化率比kの低減効果が十分に得られるInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚は、印加電界の逆数が1.47×10
-6cm/Vである場合、デッドスペース長の約2倍と考えられるため、
図29に示すように、デッドスペース長が85nmであることを鑑みると、デッドスペース長の2倍である170nmがInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の層厚の上限として好適な値である。
【0212】
また、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層においてイオン化率比kを0.05以下に制御するためには、
図29のグラフより、増倍層の層厚は150nm以下が好適である。さらに、トンネル電流が1μA以下で、かつイオン化率比kがほぼゼロを満たすためには、増倍層の層厚として、60nm以上130nm以下の範囲が最適である。APDの作製時のマージンを10nmとする場合は、増倍層の層厚は70nm以上120nm以下の範囲に設定すると好適である。
【0213】
また、デッドスペースの長さとしては、
図27より50nm~90nmが好適である。増倍層の層厚に対するデッドスペースの長さの比率は、デッドスペース長の最小値50nmを増倍層の層厚の最大値170nmで割った値、つまり29%以上が好適である。割合が増加するほどイオン化率比kが小さくなるが、100%を超えることはできない。イオン化率比kが100%を超えると増倍が生じなくなるためである。したがって、増倍層の層厚に対するデッドスペースの長さの比率は、29%以上100%未満が原理的に好適である。さらに、今回の試作では増倍層厚が120nmであったので、42%(=50nm/120nm)から75%(=90nm/120nm)が実験的に確かめられた最適範囲である。
【0214】
発明者らは、従来のInAlAsランダムアロイ構造増倍層ではイオン化率比k=0が達成できなかったが、本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層においてイオン化率比k=0を達成できた理由を考察した。
【0215】
電子のデッドスペース長をDeと、ホールのデッドスペース長をDhとすると、イオン化率比k=0を達成できる条件は、以下の式(7)及び式(8)で表される。なお、式(7)がデッドスペース長の差の条件を表し、式(8)がトンネル電流の条件を表している。
Dhe=Dh―De>0 (7)
Dh>Tmin (8)
【0216】
ここで、Dheはホールと電子のデッドスペース長の差である。Tminは、トンネル電流が雑音に影響しないレベルまで十分に小さくなる増倍層の最小層厚であり、増倍層を厚くしていくほどトンネル電流は低減する。デッドスペース長の差の条件は、
図28Cの概念図に示すように、増倍層の層厚が正孔のデッドスペース長以下になると、正孔が増倍しなくなりイオン化率比k=0となることから、上述の式(8)のように設定されている。
【0217】
InAlAsランダムアロイ構造増倍層の場合は、
図27及び
図29から、増倍層を薄層化していくとイオン化率比kが低下し始める値は、Deは約40nm、Dhは約80nmである。pn接合径が直径20μmでありトンネル電流を100nA以下とする場合は最小層厚Tmin=90nmであることから、InAlAsランダムアロイ構造はトンネル電流の条件を満たさないので、イオン化率比k=0を達成することは不可能である。
【0218】
一方、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の場合は、増倍層を薄層化していくとイオン化率比kが低下し始める値は、Deは約80nm、Dhは約170nmであり、pn接合径が直径20μmでトンネル電流を100nA以下とする場合は最小層厚Tmin=90nmであるため、イオン化率比k=0の条件を満たす増倍層の層厚が存在する。なお、最小層厚Tminについては、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層とInAlAsランダムアロイ構造増倍層では、両者のバンドギャップが変わらないため同じ値となる。
【0219】
具体的には、ランダムアロイ構造の場合は、Deは約40nm、Dhは約80nmである。これに対してデジタルアロイ構造の場合は、Deは約80nm、Dhは約170nmであることを発明者らは見出した。
【0220】
InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、超格子を構成するInAs(格子定数=0.606nm)とAlAs(格子定数=0.566nm)との間の格子定数の差が6.55%と非常に大きい。このため、作製プロセスの途中で電界緩和層のドーパント、つまり不純物がInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層内に拡散し、増倍層内において無秩序化が発生する可能性がある。
【0221】
図30Aから
図30Dは、増倍層及び電界緩和層におけるイオン化率を表す概念図であり、
図30AはInAlAsランダムアロイ構造増倍層の場合、
図30BはInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の場合、
図30Cは部分的に無秩序化したInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の場合、
図30Dは層厚の厚い電界緩和層とInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を組み合わせた場合のイオン化率をそれぞれ表す概念図である。
図30Aに示すInAlAsランダムアロイ構造増倍層に比べて、
図30Bに示すInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層のデッドスペース長は長いが、電界緩和層からのドーパント拡散により、部分的に無秩序化したInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、
図30Cに示すように、デッドスペース長が短くなってしまう。
【0222】
InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層が無秩序化の影響を避けるためには、電界緩和層の材料及びドーパントの選定とドーピング濃度が重要となる。不純物拡散方程式は、以下の式(9)で表させる。
dN/dt=D(d2N/d2x)-F (9)
【0223】
式(9)において、Nは不純物濃度、tは時間、Dは拡散定数、xは位置、Fは拡散に作用する外的な力である。電界緩和層の材料としては、InP、InAlAsランダムアロイ構造、InAs/AlAsデジタルアロイ構造などが挙げられる。また、電界緩和層のp型ドーパントとしては、Be、Znなどが挙げられる。p型ドーパントを考慮すると、Beドープのp型InP電界緩和層及びInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の組み合わせが好適である。この理由は、Beは拡散定数Dが小さい点に加えて、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層との間にポテンシャル障壁を形成するためである。なお、ポテンシャル障壁は、式(9)のFに相当する。
【0224】
電界緩和層の層厚のばらつきが発生した場合に、電界緩和量、つまり層厚とキャリア濃度の積のばらつきが増大しないように、電界緩和層のキャリア濃度として2×1018cm-3以下が好適である。InAlAsを電界緩和層の構成材料とする場合は、Znドープが最適であり、キャリア濃度としては2×1018cm-3以下が最適である。なお、2×1018cm-3よりも不純物濃度が高くなると不活性の不純物が増加し拡散が発生しやすくなることから、キャリア濃度は5×1018cm-3以下であることが必須となる。
【0225】
電界緩和量ΔEは、以下の式(10)で表される。
ΔE=W・q・N/ε (10)
式(10)において、Wは電界緩和層の層厚、qは素電荷、Nは電界緩和層のキャリア濃度、εは誘電率である。電界緩和量ΔEが一定である場合は、電界緩和層のキャリア濃度を高くすると、キャリア濃度に反比例して電界緩和層の層厚を薄くする必要がある。
【0226】
電界緩和層のキャリア濃度Nが5×1018cm-3程度になると、電界緩和層の層厚は10nm程度となる。増倍層への不純物拡散によるデッドスペース長の短縮を防止するために、電界緩和層のキャリア濃度は5×1018cm-3以下となるように制御する。また、電界緩和層は10nm以上の層厚が必要である。
【0227】
一方、
図30Dに示すように、電界緩和層が電界緩和層のデッドスペース長の1.5倍以上に厚くなると、電界緩和層での増倍が発生する。
図27に示すように、ランダムアロイ構造ではデッドスペース長は45nm以下であるため、ランダムアロイ構造からなる電界緩和層の層厚は70nm以下とすることが必要である。一方、InAs/AlAsデジタルアロイ構造ではデッドスペース長は85nm以下であることから、デジタルアロイ構造からなる電界緩和層の層厚は130nm以下とすることが必要である。
【0228】
【0229】
<実施の形態1及び2に係る半導体受光素子(APD)のデジタルアロイ構造増倍層の効果について>
まず、実施の形態1及び2に係る半導体受光素子における第1の効果を、以下に定量的に説明する。従来のAPDの3dB帯域fcは、RC時定数による帯域制限をfrc、キャリアの走行時間で制限される帯域をftr、増倍時間による帯域制限をfmとすると、以下の式(11)で表される。
fc_APD=1/((1/frc)2+(1/ftr)2+(1/fm)2)0.5 (11)
【0230】
一方、実施の形態1及び2に係るInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDの3dB帯域fcは、イオン化率比kがゼロに近いため、式(4)、式(5)、及び式(6)より、RC時定数、及びキャリアの走行時間でのみ制限されるため、以下の式(12)で表すことが可能である。
fc_APD=1/((1/frc)2+(1/ftr)2)0.5 (12)
式(12)において、キャリアの走行時間ftrには、光吸収層を走行する時間に、増倍層を走行する時間が加わる。
【0231】
RC時定数は光吸収層の層厚及び増倍層の層厚の合計に反比例する一方、走行時間は正比例するため、式(11)は最大値を有する。すなわち、frc=ftrとなる場合に最大帯域となる。frc=ftrを代入すると、式(12)は、以下の式(13)で表される。
fc=ftr/√2 (13)
【0232】
また、走行時間で決定される3dB帯域ftrは、以下の式(14)で表される。
ftr=3.5Vav/(2πWt) (14)
【0233】
式(14)において、Vavは電子及び正孔の平均飽和走行速度、Wtは光吸収層及び増倍層の層厚の合計である。たとえばInGaAsの場合、Vavは5.35×106cm/sとなる。また、増倍層の層厚が100nm、光吸収層の層厚が400nmとすると、Wt=500nmとなる。
【0234】
Vav=5.35×106cm/s、及びWt=500nmを式(14)に代入すると、ftr=59.6GHzとなる。さらに、算出されたftrを式(13)に代入すると、実施の形態1及び2に係るInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDの3dB帯域は42.2GHzとなる。したがって、実施の形態1及び2に係るInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDは、50G-PONシステムに必要な帯域37.5GHzを満たすことが可能であることが、以上の考察から判明する。なお、以下の装置、システム等の説明においては、本開示の実施の形態1及び2に係るInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDを、本開示のDA-APDと呼ぶ。
【0235】
以上、実施の形態1及び2に係る半導体受光素子によると、層厚が予め設定された範囲内に制御されたデジタルアロイ構造増倍層をさらに有しているので、より広い応答帯域で動作し、かつ高い受信感度を有する半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0236】
実施の形態3.
実施の形態1及び2では、半導体受光素子の一例として、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDについて説明した。しかしながら、実施の形態1及び2に係る半導体受光素子は、増倍層がInAlAsランダムアロイ構造の場合でも、半導体受光素子として優れた素子特性を発揮する。
【0237】
図31は、実施の形態3に係る半導体受光素子220の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態3に係る半導体受光素子220は、実施の形態1に係る半導体受光素子100のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3が、i型InAlAsランダムアロイ構造増倍層3aである点のみが異なる。
【0238】
実施の形態3に係る半導体受光素子220は、増倍層がInAlAsランダムアロイ構造で構成されているものの、p型InAlAs第2窓層8に2次元周期構造70を設け、半導体基板側から光を入射し、SiN表面保護絶縁膜10及びp型電極32によって半導体層を覆うことにより光を内部に反射させるので、i型InGaAs光吸収層5への光の閉じ込め量が増大する結果、複合共振による広い波長範囲において高受信感度化が可能となり、さらに低雑音化及び広帯域化が可能となる半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0239】
実施の形態3の変形例1.
図32は、実施の形態3の変形例1に係る半導体受光素子230の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態3の変形例1に係る半導体受光素子230は、実施の形態1の変形例2に係る半導体受光素子120のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3が、i型InAlAsランダムアロイ構造増倍層3aである点のみが異なる。
【0240】
実施の形態3の変形例1に係る半導体受光素子230は、増倍層がInAlAsランダムアロイ構造で構成されているものの、i型InP窓層7c上のSiN表面保護絶縁膜10aに格子状の2次元周期構造70aを設け、半導体基板側から光を入射し、SiN表面保護絶縁膜10a及びp型電極32によって半導体層を覆うことによって光を内部に反射するので、複合共振によって広い波長範囲において半導体受光素子の高受信感度化が可能となり、さらに低雑音化及び広帯域化が可能となる。加えて、実施の形態3に係る半導体受光素子220よりも、SiN表面保護絶縁膜10aに設けられた孔部11aの深さ(孔部を残部とする場合は高さ)が均一になり、かつ屈折率差も大きくできることから光の共振が発生しやすくなるので、光の吸収効率が向上する。この結果、高受信感度であり低雑音かつ広帯域化が可能な半導体受光素子が実現できるという効果を奏する。
【0241】
実施の形態3の変形例2.
図33は、実施の形態3の変形例2に係る半導体受光素子240の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態3の変形例2に係る半導体受光素子240は、実施の形態1の変形例3に係る半導体受光素子130のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3が、i型InAlAsランダムアロイ構造増倍層3aである点のみが異なる。
【0242】
実施の形態3の変形例2に係る半導体受光素子240は、増倍層がInAlAsランダムアロイ構造で構成されているものの、SiN表面保護絶縁膜10上のp型電極32aに格子状の2次元周期構造70bを設け、半導体基板側から光を入射するので、複合共振によって広い波長範囲において半導体受光素子の高受信感度化が向上する。加えて、実施の形態3に係る半導体受光素子220よりも、p型電極32aに設けられた孔部11bの深さ(孔部を残部とする場合は高さ)が均一になり、かつ屈折率差も大きくできることから光の共振が発生しやすくなるため、光の吸収効率が向上する。この結果、高受信感度であり低雑音かつ広帯域化が可能な半導体受光素子が実現できるという効果を奏する。
【0243】
実施の形態3の変形例3.
図34は、実施の形態3の変形例3に係る半導体受光素子245の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態3の変形例3に係る半導体受光素子245は、実施の形態1の変形例4に係る半導体受光素子140のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3が、i型InAlAsランダムアロイ構造増倍層3aである点のみが異なる。
【0244】
実施の形態3の変形例3に係る半導体受光素子245は、増倍層がInAlAsランダムアロイ構造で構成されているものの、i型InP窓層7c上のp型InGaAsコンタクト層9aに格子状の2次元周期構造70cを設け、半導体基板側から光を入射するので、複合共振によって広い波長範囲において半導体受光素子の高受信感度化が可能となり、さらに低雑音化及び広帯域化が可能となる。加えて、実施の形態3に係る半導体受光素子220よりも、p型InGaAsコンタクト層9aに設けられた孔部11cの深さ(孔部を残部とする場合は高さ)が均一になるので、共振が発生しやすくなるため、光の吸収効率が向上する。この結果、高受信感度であり低雑音かつ広帯域化が可能な半導体受光素子が実現できるという効果を奏する。
【0245】
実施の形態3の変形例4.
図35は、実施の形態3の変形例4に係る半導体受光素子247の一例である裏面入射型APDの素子構造を表す断面図である。実施の形態3の変形例4に係る半導体受光素子247は、実施の形態2に係る半導体受光素子180のi型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層3が、i型InAlAsランダムアロイ構造増倍層3aである点のみが異なる。
【0246】
実施の形態3の変形例4に係る半導体受光素子247は、増倍層がInAlAsランダムアロイ構造で構成されているものの、増倍層の下側にn型DBR層14を設けて、p型InAlAs第2窓層8に2次元周期構造70を設け、2次元周期構造70をSiN表面保護絶縁膜10及びp型電極32で覆い垂直方向のキャビティを形成したので、半導体基板側から光を入射することにより、高い受信感度の半導体受光素子が得られるという効果を奏する。
【0247】
実施の形態4.
図36は、実施の形態4に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)260を表す構成図である。光回線終端装置260は、FEC261(Forward Error Correction:FEC)と、ドライバーアンプ262と、光源263と、WDM264(Wavelength Division Multiplexing:WDM)と、クロック・データ再生回路であるCDR265(Clock Data Recovery:CDR)と、制限アンプ266と、バーストTIA267と、本開示のDA-APD268と、を備える。
【0248】
なお、本開示のDA-APDとは、上述の実施の形態1、実施の形態1の変形例1から7、実施の形態2、実施の形態2の変形例2及び3で説明された、光吸収層の上側に格子状の2次元周期構造を設け、増倍層がInAs/AlAsデジタルアロイ構造であるAPDを指す。
【0249】
図37は、実施の形態4に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(ONU)を表す構成図である。光回線終端装置270は、WDM271と、光源272と、ドライバーアンプ273と、FEC274と、本開示のDA-APD275と、TIA276と、制限アンプ277と、CDR278と、を備える。
【0250】
図38は、比較例である50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)250aを表す構成図である。比較例である光回線終端装置250aは、前方誤り訂正回路であるFEC251(Forward Error Correction:FEC)と、ドライバーアンプ252と、光源253と、光合分波器であるWDM254(Wavelength Division Multiplexing:WDM)と、デジタル信号処理回路であるDSP255と、アナログ/デジタル変換回路であるADC256(Analog-to-digital converter:ADC)と、バーストTIA257(Trance Impedance Amplifier)と、従来のAPD258と、を備える。
【0251】
図38に示す比較例である50G-PONシステムの光回線終端装置250aのように、比較例である50G-PONシステムではデジタル帯域補償、つまり、DSP255が必要であった。一方、本開示のDA-APDを用いた50G-PONシステムでは、デジタル帯域補償が不要となる。すなわち
図37に示す実施の形態4に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(ONU)のように、本開示のDA-APD275を用いれば、広い応答帯域と高い受信感度が可能となるため、DSP回路の簡略化及び省電力化、SOAの出力パワーの低減が可能となる。
【0252】
PONシステムの多分岐化及びSOAの省略のためには、受信機のSN比を改善し受信感度を高める必要がある。たとえば、現状よりも分岐数を増加するために、光分波器を1段追加すると半分の光量となってしまうため、SN比を最低でも3dB改善する必要がある。APDを用いた受信機のSN比は、以下の式(15)で表される。
SN比=Iph2・M2/(2q(Iph+Id)M2・F・B
+4Kb・T・Ft・B/Rt) (15)
【0253】
式(15)において、IphはAPDの光電流、Mは増倍率、qは単位電荷、Idは増倍される暗電流、FはAPDの過剰雑音係数、Bは帯域、Kbはボルツマン定数、Tは絶対温度、Ftは増幅器の雑音指数、Rtは入力抵抗をそれぞれ表す。分母の左項はAPDのショット雑音を表し、分母の右項は増幅器の熱雑音を表す。
【0254】
式(15)を簡略化するために、IdはIphよりも十分に小さく、SN比が最大となる増倍率の場合に、APDのショット雑音の項と増幅器の熱雑音の項が等しいと仮定し、増幅器の熱雑音の項をAPDのショット雑音の項で置き換えると、SN比は以下の式(16)で表わされる。
SN比=Iph/(4q・F・B) (16)
【0255】
また、過剰雑音係数Fは、以下の式(17)で与えられる。
F=M(1-(1-k)・((M-1)2/M2)) (17)
【0256】
従来のInAlAsランダムアロイ構造増倍層の場合は、デッドスペース効果が発現するまでの薄層化(約70nm)をすると、上述のようにトンネル電流が増加して雑音特性が悪化する。トンネル電流をできるだけ小さくするためは、pn接合径を数μm以下に小さくする必要があるが、この場合、APDへ集光する際の位置合わせ精度が厳しくなる。デジタルアロイ構造増倍層の雑音特性よりは劣るが、このように増倍層の薄膜化によりランダムアロイ構造増倍層でもある程度の雑音低減は可能ではある一方、pn接合径が小径となるために生産性などの観点からは制約が発生してしまう。このため、薄層化されていないInAlAs増倍層の場合のイオン化率比kを0.2に設定して、システム設計がなされている。イオン化率比k=0.2で、増倍率が12倍の場合は、過剰雑音係数F=3.9となる。
【0257】
一方、実施の形態4に係る50G-PONシステムでは、InAs/AlAsデジタルアロイ構造を増倍層とするAPD、つまり本開示のDA-APDが半導体受光素子として適用される。本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層の場合は、100nm以上の層厚でもデッドスペース効果が機能するためAPDへの適用が可能であり、この場合、イオン化率比k=0となり、増倍率が12倍の場合は、過剰雑音係数F=1.9となる。したがって、従来のAPDの約半分の過剰雑音となる。この結果、本開示のDA-APDを適用すれば、SN比が3dB向上する。
【0258】
一般に、50G-PONシステムでは、分岐数を増加するために2分波器を1段挿入すると3dB損失が大きくなる。したがって、半導体受光素子として本開示のDA-APDを適用すると、50G-PONシステムに1段多く分波器を挿入することが可能となる。
【0259】
図39は、実施の形態4に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(OLT)の構成を表す図である。50G-PONシステムの光回線終端装置260aは、FEC261と、ドライバーアンプ262と、光源263と、WDM264と、DSP265aと、ADC266aと、バーストTIA267と、本開示のDA-APD268と、を備える。
【0260】
図40は、実施の形態4に係る50G-PONシステムの光回線終端装置(ONU)の構成を表す図である。50G-PONシステムの光回線終端装置260bは、FEC261と、ドライバーアンプ262と、光源263と、WDM264と、DSP265aと、ADC266aと、TIA267aと、本開示のDA-APD268と、を備える。
【0261】
本開示に係る半導体受光素子による効果を、さらに説明する。本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDは、増倍層の層厚を予め設定された範囲内に制御してイオン化率比kをゼロとすることにより、式(6)の増倍時間がほぼゼロとなる。この結果、増倍率を高くしてもAPDの応答帯域は劣化しない。つまり、本開示のDA-APDでは、従来のPDと同様、RC時定数及びキャリアの走行時間でのみ応答帯域が制限される。したがって、50G-PONシステムで必要となる応答帯域の広帯域化が可能となり、DSPによるデジタル帯域補償が無くとも受信することが可能となる。
【0262】
また、イオン化率比kがゼロに近くなると、受信感度を悪化させる過剰雑音が抑制されるため、SOAによる光信号の増幅が不要となる。さらに、50G-PONシステム以外のPONシステムでも、従来よりも多分岐化が可能となる。この結果、PONシステムの低コスト及び省電力化が実現できる。
【0263】
<実施の形態4の効果>
以上、実施の形態4に係る光回線終端装置によると、半導体受光素子として、本開示のDA-APDを用いたので、光信号の伝送距離が増加し、消費電力が低減できる光回線終端装置が得られるという効果を奏する。
【0264】
実施の形態5.
図41は、実施の形態5に係る多値強度変調送受信装置300の構成を表す図である。また、
図42A及び
図42Bは、実施の形態5に係る多値強度変調送受信装置300の受信波形を示す概念図である。
【0265】
多値強度変調送受信装置300は、多値の強度変調方式であるPAM(Pulse Amplitude Modulation)方式の多値強度変調送受信装置である。送信部ではDSP301において生成したデジタル信号を、DAC302aにおいてアナログ変換し、ドライバーアンプ303において増幅し、DFBレーザまたはEMLからなる光源304を駆動して、光ファイバケーブル310へ光信号を出射する。
【0266】
一方、受信部では、光ファイバケーブル310から光学系を経て本開示の半導体受光素子であるDA-APD305に入射し、光信号の電流への変換及び増倍を行い、さらに、Linear-TIA306において増幅した後に、ADC302bにおいてデジタル信号に変換して、DSP301により信号処理を行う。
【0267】
<実施の形態5に係る多値強度変調送受信装置の作用と効果>
PAM方式の多値強度変調送受信装置300では、NRZ(None Return to Zero)、RZ(Return to Zero)などの1と0の2値信号だけでなく、たとえば、PAM4(Pulse Amplitude Modulation-4)では、光の信号強度が異なる4値を受信する必要がある。PAM4の受信波形の一例を、
図42Aの概念図に示す。PAM4での受信波形の良否の判定には、TDECQ(Transmitter Dispersion and Eye Closure Quaternary)という指標が用いられる。TDECQは、以下の式(18)によって算出される。
TDECQ(dB)=10・log(OMA/(6・Qt・R)) (18)
【0268】
式(18)において、光変調振幅(Optical Modulation Amplitude:OMA)はレベル0からレベル3までの全振幅であり、QtはIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)で規定されたSER(Symbol Error Rate)に依存する値、RはSER値にするのに必要な付加雑音値である。TDECQ(dB)は、たとえば3dB以下と規定されている。TDECQ(dB)を小さくするためには、
(1)各レベルのアイ開口が均一であること
(2)各レベルの雑音が少ないこと
が必要である。
【0269】
光の信号強度が異なる4値からなる各レベルのアイ開口が均一であるためには、半導体受光素子のリニアリティが優れている必要がある。ここで、半導体受光素子のリニアリティが良いとは、光電流Iphが光入力パワーPinに比例して増加することである。つまり、光入力パワーPinが変化しても、Iph/Pinが一定であればリニアリティが良いと言える。
【0270】
また、PAMでは、強度の小さい信号から強度の大きい信号までを受信する必要があるため、ダイナミックレンジが優れている必要がある。つまり、光入力パワーPinが大きくなっても、Iph/Pinの低下量が小さければ、ダイナミックレンジが良いと言える。
図42Bの概念図に示す受信波形のように、リニアリティ及びダイナミックレンジが悪化すると、レベル2とレベル3の間に形成されるアイ開口が劣化する。
【0271】
PD及びAPDの場合、リニアリティが劣化する原因として、光入力の増加に伴い光電流が増加すると、増倍層及び光吸収層の中を走行する正孔及び電子が増加して、増倍層及び光吸収層の電界分布が変化することが挙げられる。かかる現象を空間電荷効果と呼ぶ。
【0272】
発明者らはAPDのリニアリティが劣化するモデルを検討した。
図43A及び
図43Bは、高光入力時のPDの動作を説明する概念図である。
図43Aの概念図に示すように、光入力が増大し、光電流が増加すると、あたかも、直列抵抗による電圧降下が発生してpn接合に電圧が印加されなくなるように空間電荷効果が作用する。この電圧降下により増倍率が低下する。これは、
図43Bの概念図に示すように、発生した電子及び正孔が電界分布に影響するためである。APDのリニアリティを劣化させる直列抵抗Rliは、以下の式(19)のように表される。
Rli=Rsc+Rd+Rlo (19)
【0273】
式(19)において、Rscは空間電荷効果による抵抗、Rdは素子抵抗、Rloは負荷抵抗である。Rd及び負荷抵抗は通常数10Ωであるが、Rscは数100Ω以上になる場合がある。
【0274】
光吸収により発生した電子及び正孔が空乏層内を通過する時間をTdとすると、Rscは、以下の式(20)で表されることを発明者らは見出した。
Rsc=W・Td/(2εS) (20)
【0275】
式(20)において、Wは空乏層の層厚、εは誘電率、Sはpn接合面積である。
空間電荷効果による抵抗Rscは、電子及び正孔が空乏層内に通過する時間をTdに比例する。したがって、電子及び正孔の走行速度を高めてTdを低減すれば抵抗Rscを減少することが可能である。
【0276】
本開示のDA-APDでは、光の共振により光吸収層の吸収量が高いため、光吸収層を薄層化することが可能となり、光吸収層の薄層化によって抵抗Rscを低減できる。この結果、アイ開口が均一となるため、TDECQが規定値を満たす。さらに、伝送距離を増加させたり、送信用レーザの駆動電流を低減するといったことが可能となる。
【0277】
本開示のDA-APDを用いた場合について、以下に説明する。まず、高光入力時におけるAPDの動作の場合を説明する。
図44は、高光入力時のAPDの動作を説明する概念図である。増倍層内において多数の電子及び正孔が発生すると、APDでは増倍層内の電界が変化、つまり、いわゆる空間電荷効果が発生する。この空間電荷効果の発生により、APDの増倍率が低下してリニアリティが劣化する。上述のように、APDのリニアリティの劣化は直列抵抗Rscが原因であるため、電子及び正孔の空乏層内における滞留時間Tdmを低減する必要がある。特に、増倍率が大きくなると、増倍層内における滞留時間Tdmが増加する。Tdmはいわゆる増倍時間と同一であり、以下の式(21)で表される。
滞留時間Tdm=増倍時間=2πNkMτav (21)
【0278】
式(21)において、NはEmmons係数(イオン化率比kに緩やかに依存する。)、Mは増倍率、τavは電子及び正孔が増倍層を走行する平均時間である。滞留時間Tdmから、増倍層をキャリアが横断する片道分の通過時間は除いている。Nは、イオン化率比k=0.5(InP)、0.2(InAlAs)、0.1(Si)、0~0.001(InAs/AlAsデジタルアロイ構造)の場合、それぞれ、0.55、0.83、1.1、2.0となる。
【0279】
図45に、増倍層を構成する材料ごとの電子及び正孔の滞留時間Tdmを示す。InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では増倍層内における滞留時間Tdmが画期的に減少する。つまり、増倍層内から電子及び正孔が早く排出されるため、増倍層での空間電荷効果が抑制される結果、InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層ではリニアリティ及びダイナミックレンジが向上する。
【0280】
この結果、従来のAPDでは
図42Bの概念図に示すようにPAM4のアイ開口が不均一であったが、本開示のDA-APDでは、
図42Aの概念図に示すようにアイ開口が均一となるため、TDECQが規定値を満たすことが可能となる。したがって、本開示のDA-APDを用いると、PAM用の送受信器でもAPDを使うことができるため、光信号の伝送距離が増加したり、送信用レーザの駆動電流を低減することが可能となる。
【0281】
<実施の形態5の効果>
以上、実施の形態5に係る多値強度変調送受信装置によると、半導体受光素子として本開示のDA-APDを用いたので、光信号の伝送距離が増加し、消費電力が低減できる多値強度変調送受信装置が得られるという効果を奏する。
【0282】
実施の形態6.
図46は、実施の形態6に係る光ファイバ無線システム400(Radio on fiber:RoF)の構成を表す模式図である。また、
図47は、比較例である光ファイバ無線システム450の構成を表す模式図である。光ファイバ無線システム400は、光源401と、光ファイバケーブルのような伝送路402と、本開示のDA-APD403と、アンテナ404と、を備える。
【0283】
実施の形態6に係る光ファイバ無線システム400では、アナログの電気振幅信号をLDなどの光源401に入力し、光振幅信号に変換する。変換された光振幅信号は光ファイバケーブル、つまり伝送路402によって伝送される。伝送された光振幅信号を、本開示のDA-APD403を用いて増倍して電気振幅信号に変換する。変換後の電気振幅信号をアンテナ404に伝送して、電波信号として放射する。
【0284】
実施の形態6に係る光ファイバ無線システム400は、電気信号源から距離の離れたアンテナ404に向けて、信号を効率的に供給することが可能である。また、伝送の途中でアナログからデジタルへの変換、またはデジタルからアナログへの変換を行わないため、システム構成が簡単で、かつ消費電力も小さいという特徴がある。
【0285】
<実施の形態6に係る光ファイバ無線システムの作用及び効果>
図47に示す比較例の光ファイバ無線システム450では、光ファイバケーブルによる伝送で信号が減衰してしまうとPD406では増倍できないため、十分な電波信号をアンテナから放射できないという問題があった。
【0286】
また、従来のAPDを用いると、
図43A及び
図43Bの概念図に示されるように、増倍層内の電子及び正孔が増加すると電界分布が変化するため増倍率が飽和し、ダイナミックレンジが確保できなくなってしまう。このため、十分な電気信号の振幅が得られないだけでなく、アナログ信号が歪んでしまうという問題があった。この結果、比較例のような光ファイバ無線システム450への従来のAPDの適用は困難であった。
【0287】
一方、実施の形態6に係る光ファイバ無線システム400で使用される本開示のDA-APDでは、光の共振により光吸収層による光吸収量が多いため、光吸収層を薄層化することが可能となるので、光吸収層の薄層化によって抵抗Rscを低減できる。この結果、広いダイナミックレンジにわたってリニアリティの良い応答が得られ、かつ、大きな電流振幅を得ることが可能となる。このように、本開示のDA-APDを用いて、光ファイバ無線システム400を構成したので、光伝送距離を長くしても強い電波信号をリニアリティよく出力することが可能となる。
【0288】
さらに、本開示の光の共振を利用したDA-APD403では、
図45に示すように、電子及び正孔の増倍層での滞留時間Tdmが短いために、増倍層内の電界分布の変化が抑制される。この結果、広いダイナミックレンジにわたってリニアリティに優れた応答が得られる。つまり、本開示のDA-APD403を用いて信号を増倍するので元の信号を再現することができ、かつ、大きな電流振幅を得ることが可能となる。
【0289】
本開示のDA-APD403の増倍率として、1.2~10倍の範囲内でも使用可能である。しかしながら、増倍率が大きくなると信号が歪むため、1.2~5倍の範囲内の増倍率で使用することが望ましい。また、増倍量は、光ファイバの損失及びAPDの量子効率が100%ではなく約80%である点を鑑みると、かかる損失を補うために、2~3倍の増倍率で使用することが最適である。
【0290】
<実施の形態6の効果>
以上、実施の形態6に係る光ファイバ無線システムによると、本開示のDA-APDを用いて光ファイバ無線システムを構成したので、光伝送距離を長くしても強い電波信号を出力することが可能な光ファイバ無線システムが得られるという効果を奏する。
【0291】
実施の形態7.
図48は、実施の形態7に係るデジタルコヒーレント受信装置500の構成を表す模式図である。実施の形態7に係るデジタルコヒーレント受信装置500は、本開示のDA-APD505aを用いている点に特徴がある。
【0292】
デジタルコヒーレント通信では、光ファイバ中を位相及び強度の両方を変調した光信号が偏波多重されて伝送される。デジタルコヒーレント受信装置500では、光ファイバケーブル501から入力された光信号を、まず偏波分離器502によって偏波分離する。偏波分離後、それぞれの偏波信号光を90度ハイブリッド器503a及び90度ハイブリッド器503bにそれぞれ入射する。一方、半導体レーザ504から局発光されたレーザ光は、互いに90度位相をずらした2つの信号に分離する。
【0293】
信号光とレーザ光を合波し、さらに、信号光を直交成分(I、Q)に分離して出力する。4つの光信号、つまり各偏波について、直交するI成分及びQ成分で合計4つの光信号は、本開示のDA-APD505aの2つが直列に一対に接続され90度ハイブリッド器503a、503b内に配置された4個のバランスド・ディテクタ505にそれぞれ入射する。バランスド・ディテクタ505から出力された電気信号をDSP506へ入力する。実施の形態7に係るデジタルコヒーレント受信装置500は、以上の構成となっている。
【0294】
<実施の形態7に係るデジタルコヒーレント受信装置の作用>
図49Aは比較例であるデジタルコヒーレント受信装置の波形を表す概念図であり、
図49Bは実施の形態7に係るデジタルコヒーレント受信装置の波形を表す概念図である。
【0295】
従来のバランスド・ディテクタでは、信号光を受光する半導体受光素子としてPDが用いられていた。一方、本開示のDA-APD505aを用いると信号を増倍することが可能であるため、局発光を小さく抑えることが可能となる。また、従来のAPDを用いると、
図44の概念図に示すように、増倍層内の電子及び正孔が増加すると電界分布が変化するため増倍率が飽和し、ダイナミックレンジが確保できない。このため、十分な電気信号の振幅が得られないだけでなく、アナログ信号が歪んでしまうという問題があった。この結果、
図49Aの概念図に示すように、比較例では波形A1と波形B1の間隔が狭くなり、コンスタレーション波形の強度信号が歪むため、APDの適用は困難であった。
【0296】
一方、実施の形態7に係るデジタルコヒーレント受信装置500で使用される本開示の光の共振を利用したDA-APDでは、光吸収層の吸収量が多いため、光吸収層を薄層化することが可能となり、光吸収層の薄層化によって空間電荷効果による抵抗Rscの影響を受けにくくなるので、広いダイナミックレンジにわたってリニアリティに優れたコンスタレーション波形が得られる。
【0297】
さらに、本開示の光の共振を利用したDA-APD505aでは、
図45に示すように、電子及び正孔の増倍層での滞留時間Tdmが短いために、増倍層内の電界分布の変化が抑制される。この結果、
図49Bの概念図に示すように、本開示のDA-APD505aを用いた場合は、波形Aと波形Bの間隔が広くなり、広いダイナミックレンジにわたってリニアリティに優れたコンスタレーション波形が得られる。つまり、APDで信号を増倍しても元の信号を再現することができ、かつ、大きな電流振幅を得ることが可能である。
【0298】
本開示のDA-APD505aの増倍率は、1.2~10倍の範囲内でも使用可能である。しかしながら、増倍率が大きくなると信号が歪むため、1.2~5倍の範囲内の増倍率で使用することが望ましい。
【0299】
<実施の形態7の効果>
以上、実施の形態7に係るデジタルコヒーレント受信装置によると、光信号を受光する半導体受光素子として本開示のDA-APDを適用したので、局発光(レーザ)の駆動電流を小さくすること、つまりデジタルコヒーレント受信装置の消費電力を小さくすることが可能となる効果を奏する。
【0300】
実施の形態8.
図50は、実施の形態8に係るSPADセンサーシステムの構成を表す模式図である。SPADセンサーシステム600は、光電子計測回路601と、本開示のDA-APDからなるSPADセンサー602と、クエンチング回路603と、を備える。
【0301】
SPADは、光子数のカウントだけでなく感度の良好な受光素子として使うことが可能である。しかしながら、後述するA:Quenching電圧から、後述するB:Geiger mode電圧までを絶えず繰り返す必要がある。繰り返し周期はナノsec~マイクロsecオーダーである。A:Quenching電圧とB:Geiger mode電圧の繰り返し周期を短くできれば、SPADの応答速度を高めることが可能である。
【0302】
つまり、本開示のDA-APDをSPADに用いると、応答速度の速い、A:Quenching電圧とB:Geiger mode電圧の切り替えが可能となり、SPADセンサー602の応答帯域を向上することが可能である。
【0303】
さらに、SPADセンサーシステム600に本開示の共振を利用したDA-APD505aを用いると、SPADセンサーシステム600に入射した光子(Photon)は、本開示の共振を利用したDA-APDからなるSPADセンサー602が有する光吸収層において吸収されて電子及び正孔の対が発生し、電子は増倍層に流れ込む。増倍層にはアバランシェブレークダウン電界よりも約10%高い電界が印加されている。
【0304】
この状態をガイガーモード(Geiger mode)と呼ぶ。ガイガーモードでは、電子は106倍のレベルに達するほど増倍する。発生した電子は電流として流れ、光電子計測回路601に流れる。1個の光子により発生する電流があらかじめ分かっていれば、SPADセンサーシステム600に入射した光子数をカウントすることが可能である。
【0305】
図51Aは比較例であるSAPDセンサーシステムの増倍特性を表す概念図であり、
図51Bは実施の形態8に係るSAPDセンサーシステムの増倍特性を表す概念図である。アバランシェブレークダウン電界以上の電界を増倍層に印加し続けると過剰電流が流れ出すため、光子を検出後にSPADセンサー602に印加する電圧を速やかに低減して、増倍層の電界を弱める。これを、クエンチング(Quenching)と呼ぶ。つまり、
図51A及び
図51Bの概念図によるSPADセンサーの増倍特性の比較に示すように、電圧をB:ガイガーモード電圧から、A:クエンチング電圧に下げ連鎖増倍を止め、その後、再び電圧を、A:クエンチング電圧から、B:ガイガーモード電圧に高めて、入射する光子を高感度で受光できる状態とする。
【0306】
電圧を制御するクエンチング回路603には、パッシブ回路とアクティブ回路がある。パッシブ回路では、SPADセンサー602に入射した光子により電流が流れると、SPADセンサー602に直列に接続した抵抗で電圧降下が発生し、SPADセンサー602に印加する電圧が低下することになる。つまり、クエンチング回路603は、SPADセンサー602に、降伏電圧以上に印加した電圧及び降伏電圧未満の電圧を反復して印加するように動作する。
【0307】
<実施の形態8に係るSPADセンサーシステムの作用と効果>
実施の形態8に係るSPADセンサーシステム600は、光子数のカウントだけでなく高受信感度の半導体受光素子として使うことが可能である。しかしながら、B:ガイガーモード電圧から、A:クエンチング電圧までを絶えず繰り返す必要がある。繰り返し周期はナノ秒からマイクロ秒のオーダーである。A:クエンチング電圧と、B:ガイガーモード電圧の差を小さくできれば、繰り返し周期を短くできるため、SPADセンサーシステム600の応答速度を高めることが可能である。
【0308】
パッシブのクエンチング回路603では、SPADセンサー602に直列に接続した抵抗値を下げることが可能となり、SPADセンサー602の応答速度が速くなる。また、アクティブのクエンチング回路603では、電圧の振幅が小さくなるため、駆動回路の簡略化及び省電力化が可能であり、さらに、応答帯域を広くすることも可能である。
【0309】
本開示の共振を利用したDA-APDでは、光吸収層の吸収量が多いため、光吸収層を薄層化することが可能となる。光吸収層の薄層化によって抵抗Rscを低減できるため、ブレークダウン電圧も低減できる。本開示のDA-APDをSPADに用いると、クエンチング電圧とガイガーモード電圧の差、つまり印加電圧差を小さくできるため、応答帯域の向上並びにクエンチング回路の簡略化及び省電力化が可能である。
【0310】
本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造を増倍層として用いた場合の作用について、以下に説明する。本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、
図28A及び
図28Bの概念図に示すように、デッドスペース長が長いため低電界では増倍が発生しない。しかしながら、電界を増加させていくとデッドスペース長が短くなるため、急激に増倍率が増えてブレークダウンに至る。InAlAsランダムアロイ構造増倍層のAPD、及び増倍層の層厚が厚いInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層を有するAPDでは、暗電流が10μAを超える電圧を降伏電圧とすると、降伏電圧の90%での増倍率が10倍を超える。一方、本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、降伏電圧の90%の電圧での増倍率が10倍以下となる。
【0311】
ブレークダウンに必要な電圧は、光吸収層の層厚、電界緩和層のキャリア濃度などの素子構造に依存するため、ここでは、定量化可能な増倍層の電界で効果を検証する。なお、リーチスルー電圧(~12V)以上では、SPADセンサー602に印加する電圧と増倍層の電界が比例する。
【0312】
図52は、増倍層の構成材料ごとのクエンチング電界とガイガーモード電界の差を計算した図である。本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層では、各増倍層のクエンチング電界とガイガーモード電界の差が170kV/cmと、特異的に低いことが分かる。本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層(薄層化DA)は、本開示のInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層と同様な超格子構造であるが薄層化されていない200nm以上の層厚を有するInAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層に対して、電界は120kV/cmも低い。
【0313】
<実施の形態8の効果>
以上、実施の形態8に係るSPADセンサーシステムによると、本開示のDA-APDをSPADセンサーに用いたので、クエンチング電界とガイガーモード電界の差、つまり印加電圧差を小さくできるため、応答帯域の向上、クエンチング回路の簡略化、及び省電力化が可能となるSPADセンサーシステムが得られるという効果を奏する。
【0314】
実施の形態9.
図53は、実施の形態9に係るライダー(Light Detection And Ranging:LiDAR)装置の構成を表す図である。
図54Aは比較例であるライダー装置のAPDの受信波形を表す概念図であり、
図54Bは実施の形態9に係るライダー装置700のAPDの受信波形を表す概念図である。
【0315】
実施の形態9に係るライダー装置700は、光源701と、本開示のDA-APD702と、TIA703と、測距回路704と、を備える。光源701は、パルス状の光(以下、パルス光と呼ぶ)、または周波数変調された光を発する。
【0316】
実施の形態9に係るライダー装置700では、光源から出射されたパルス光が物体705に当たって半導体受光素子に戻って来るまでの時間を計測することにより、物体705までの距離を算出する。光源701にはLDなどが用いられる。遠方まで測定するためには、LDの光量を増やす必要があるが、LDから出射する光量は目に対する安全上、上限が定められている。このため、半導体受光素子の受信感度を高める必要がある。そこで、実施の形態9に係るライダー装置700では、半導体受光素子として本開示のDA-APD702を高増倍率で使用する。
【0317】
検出した光パルスは本開示のDA-APD702で増倍されて電流パルスに変換される。その後、TIA703で増幅されて測距回路704に入力され、
図54A及び
図54Bの概念図に示すように、パルス信号の強度が予め設定した識別ラインを超えた時点を到着時間と判定する。測距回路704には、光源701から光パルスを出射したタイミングを信号として入力しており、両者の時間差に光速を乗じて、2で割れば物体705までの距離を算出できる。また、周波数変調した光を出射し、出射波と戻ってくる反射波との周波数差から距離を算出する方式も使用される。
【0318】
<実施の形態9に係るライダー装置の作用と効果>
物体705の反射率は必ずしも高くなく、かつ反射方向は様々であるため、微小光をAPDで検出する必要がある。従来のAPDでは、
図54Aの概念図に示すように、高増倍になるように電圧を設定して動作させると増倍時間が長くなり、APDから出力される電流パルス幅が広くなる。また、トンネル電流が増加して光パルスの識別が困難になる。出射波と反射波との周波数差から距離を算出する方式でも、周波数の識別が困難になる。
【0319】
一方、実施の形態9に係るライダー装置700で使用される本開示の光の共振を利用したDA-APDでは、従来のAPDでは受信感度が不足する場合であっても、高い受信感度が得られる。この結果、遠方の物体705の測距が可能となるだけでなく、光源701の光出力を小さくできるため省電力化が図られ、しかも、目に対する安全性も高くなる。
【0320】
さらに、本開示の光の共振を利用したDA-APD505aでは、20倍以上の高い増倍率でも
図29の説明において記載したようにトンネル電流は増加しないため、微弱光を識別することが容易に可能である。また、
図45に示すように、増倍層での滞留時間が短いため、
図54Bの概念図に示すように、ピーク強度が大きい電流パルスが得られるので識別感度が高い。この結果、遠方の物体の測距が可能となるだけでなく、光源の光出力を小さくできるため省電力化が図られ、さらに目に対する安全性も高くなるという効果を奏する。
【0321】
<実施の形態9の効果>
以上、実施の形態9に係るライダー装置によると、物体からの反射光を本開示のDA-APDで受光するので、遠方の物体の測距が可能であり、かつ光源の省電力化を図ることができ、さらに目に対する安全性も高いライダー装置が得られるという効果を奏する。
【0322】
本開示は、様々な例示的な実施の形態が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
【0323】
従って、例示されていない無数の変形例が、本開示の技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0324】
1 n型InP基板、1a Feドープ半絶縁性InP基板、2、2a n型InPバッファ層、2b p型InPバッファ層、3 i型InAs/AlAsデジタルアロイ構造増倍層、3a i型InAlAsランダムアロイ構造増倍層、4 p型InP電界緩和層、4 p型InP電界緩和層、5 i型InGaAs光吸収層、6 i型InAlGaAs/InAlAsグレーディッド層、7、7a i型InP第1窓層、7b i型InAlAs第1窓層、7c i型InP窓層、7d p型InP第1窓層、7e n型InP第1窓層、8、8b p型InAlAs第2窓層、8a i型InP第2窓層、8c n型InAlAs第2窓層、8s 残部、9、9a、9b p型InGaAsコンタクト層、9c n型InGaAsコンタクト層、10、10a、10b SiN表面保護絶縁膜、11、11a、11b、11c、11d 孔部、12 Zn拡散p型領域、13 境界、14、14a n型DBR層、14b p型DBR層、31、31a、31b n型電極、32、32a、32b p型電極、40、41 反射防止膜、70、70a、70b、70c、70d 2次元周期構造、90 入射光、91 光の共振、92 水平方向に進行する光、100、101、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、245、247 半導体受光素子、250a、260、260a、260b、270 光回線終端装置、251、261、274 FEC、252、262、273、303 ドライバーアンプ、253、263、272、304、401、701 光源、254、264、271 WDM、255、265a、301、506 DSP、256、266a、302b ADC、258 APD、257、267 バーストTIA、265、278 CDR、266、277 制限アンプ、267a、276、703 TIA、268、275、305、403、505a、702 DA-APD、300 多値強度変調送受信装置、302a DAC、310、501 光ファイバケーブル、306 Linear-TIA、400、450 光ファイバ無線システム、402 伝送路、404 アンテナ、406 PD、500 デジタルコヒーレント受信装置、501 光ファイバケーブル、502 偏波分離器、503a、503b 90度ハイブリッド器、504 半導体レーザ、505 バランスド・ディテクタ、600 SPADセンサーシステム、601 光電子計測回路、602 SPADセンサー、603 クエンチング回路、700 ライダー装置、704 測距回路、705 物体
【要約】
本開示の半導体受光素子(100)は、基板(1)と、基板(1)上に形成されたn型半導体層(2)と、n型半導体層(2)上に形成された増倍層(3)と、増倍層(3)上に形成されたp型電界緩和層(4)と、p型電界緩和層(4)上に形成された光吸収層(5)と、光吸収層(5)上に形成された第1窓層(7)と、第1窓層(7)上に形成され、複数の孔部(11)または残部(8s)が一定の周期で2次元的に配列された2次元周期構造(70)を有する第2窓層(8)と、2次元周期構造(70)上に少なくとも形成された表面保護絶縁膜(10)と、表面保護絶縁膜(10)上に少なくとも形成された表面電極(32)と、を備える。