(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-04
(45)【発行日】2025-04-14
(54)【発明の名称】測距装置、測距方法及び工作装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20250407BHJP
G01B 9/02004 20220101ALI20250407BHJP
【FI】
G01B11/24 D
G01B11/24 A
G01B9/02004
(21)【出願番号】P 2024571989
(86)(22)【出願日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2023021991
【審査請求日】2024-12-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 広樹
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0061770(US,A1)
【文献】国際公開第2020/070884(WO,A1)
【文献】特開2006-126168(JP,A)
【文献】特開2021-101192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
9/00- 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサヘッド部から、被加工物の加工面に照射された光と、前記センサヘッド部により受信された、前記加工面に反射された光との干渉光の周波数をシフトさせる周波数シフト部と、
前記周波数シフト部による周波数シフト後の干渉光の周波数帯域を制限する帯域制限部と、
前記帯域制限部による周波数帯域制限後の干渉光を周波数領域の信号に変換する信号変換部と、
前記信号変換部による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていなければ、前記周波数シフト部による前記干渉光の周波数のシフト量を変更させるシフト量変更部と、
前記信号変換部による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていれば、前記信号強度が閾値以上の信号に基づいて、前記センサヘッド部から前記加工面までの距離を算出する距離算出部と
を備えた測距装置。
【請求項2】
センサヘッド部から、前記被加工物の加工面として、前記被加工物の加工後の所望の形状を有する基準ワークの面に光が照射され、
前記周波数シフト部は、
前記基準ワークの面に照射された光と前記基準ワークの面に反射された光との干渉光の周波数をシフトさせ、
前記距離算出部は、
前記センサヘッド部から前記加工面までの距離として、前記センサヘッド部から前記基準ワークの面までの距離を算出することを特徴とする請求項1記載の測距装置。
【請求項3】
前記距離算出部は、
前記センサヘッド部により受信された加工面に油が付着されているために、前記信号変換部による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が2つ含まれていれば、前記信号強度が閾値以上の2つの信号に基づいて、前記加工面に付着されている油の膜厚と前記センサヘッド部から前記油面までの距離とを算出し、前記膜厚と前記油面までの距離とから、前記センサヘッド部から前記加工面までの距離を算出することを特徴とする請求項1記載の測距装置。
【請求項4】
周波数シフト部が、センサヘッド部から、被加工物の加工面に照射された光と、前記センサヘッド部により受信された、前記加工面に反射された光との干渉光の周波数をシフトさせ、
帯域制限部が、前記周波数シフト部による周波数シフト後の干渉光の周波数帯域を制限し、
信号変換部が、前記帯域制限部による周波数帯域制限後の干渉光を周波数領域の信号に変換し、
シフト量変更部が、前記信号変換部による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていなければ、前記周波数シフト部による前記干渉光の周波数のシフト量を変更させ、
距離算出部が、前記信号変換部による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていれば、前記信号強度が閾値以上の信号に基づいて、前記センサヘッド部から前記加工面までの距離を算出する
測距方法。
【請求項5】
被加工物の加工面に光を照射し、前記加工面に反射された光を受信するセンサヘッド部と、
前記センサヘッド部から照射された光と前記センサヘッド部により受信された光との干渉光を検出する光干渉部と、
前記光干渉部により検出された干渉光の周波数をシフトさせる周波数シフト部と、
前記周波数シフト部による周波数シフト後の干渉光の周波数帯域を制限する帯域制限部と、
前記帯域制限部による周波数帯域制限後の干渉光を周波数領域の信号に変換する信号変換部と、
前記信号変換部による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていなければ、前記周波数シフト部による前記干渉光の周波数のシフト量を変更させるシフト量変更部と、
前記信号変換部による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていれば、前記信号強度が閾値以上の信号に基づいて、前記センサヘッド部から前記加工面までの距離を算出する距離算出部と
を備えた工作装置。
【請求項6】
前記距離算出部は、
前記センサヘッド部の位置が移動される毎に、前記センサヘッド部から前記加工面までの距離を算出し、
前記距離算出部により算出された複数の距離に基づいて、前記被加工物の形状を算出する形状算出部を備えたことを特徴とする請求項5記載の工作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測距装置、測距方法及び工作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
被加工物の加工面に向けて光を照射したのち、加工面に反射された光を受信するセンサヘッド部から加工面までの距離を算出する測距装置がある。
このような測距装置として、例えば、特許文献1には、光ファイバを介してセンサヘッド部と接続されているセンサ本体部を備える測距装置が開示されている。センサ本体部は、光干渉部と距離算出部とを備えている。
光干渉部は、センサヘッド部から照射された光とセンサヘッド部により受信された光との干渉光を検出する。距離算出部は、干渉光を周波数領域の信号に変換し、周波数領域の信号に基づいて、センサヘッド部から被加工物の加工面までの距離を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な測距装置は、例えば、FPGA(Field-Programmable Gate Array)に実装される場合、測距時間の短縮、又は、メモリ容量の削減等のために、干渉光を変換することが可能な周波数領域の信号の周波数範囲(以下「変換可能周波数範囲」という)が制限されることがある。
特許文献1に開示されている測距装置においても、変換可能周波数範囲が制限される場合がある。また、センサヘッド部を搭載している加工ヘッドの移動に伴って、センサ本体部とセンサヘッド部とを接続している光ファイバが断線されることがある。光ファイバが断線された場合、断線された光ファイバを別の光ファイバと交換する必要がある。断線された光ファイバの光路長と、別の光ファイバの光路長とが一致していれば、当該測距装置の距離算出部は、センサヘッド部から被加工物の加工面までの距離を算出することができる。しかしながら、双方の光路長が一致していることは稀であり、双方の光路長の差分によっては、周波数領域の信号の周波数が、変換可能周波数範囲から逸脱する状況を生じてしまうことがある。このような場合、距離算出部は、センサヘッド部から被加工物の加工面までの距離を算出できなくなるという課題があった。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、周波数領域の信号の周波数が、変換可能周波数範囲から逸脱してしまう状況を生じても、センサヘッド部から被加工物の加工面までの距離を算出することができる測距装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る測距装置は、センサヘッド部から、被加工物の加工面に照射された光と、センサヘッド部により受信された、加工面に反射された光との干渉光の周波数をシフトさせる周波数シフト部と、周波数シフト部による周波数シフト後の干渉光の周波数帯域を制限する帯域制限部と、帯域制限部による周波数帯域制限後の干渉光を周波数領域の信号に変換する信号変換部とを備えている。また、測距装置は、信号変換部による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていなければ、周波数シフト部による干渉光の周波数のシフト量を変更させるシフト量変更部と、信号変換部による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていれば、信号強度が閾値以上の信号に基づいて、センサヘッド部から加工面までの距離を算出する距離算出部とを備えている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、周波数領域の信号の周波数が、変換可能周波数範囲から逸脱してしまう状況を生じても、センサヘッド部から被加工物の加工面までの距離を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る工作装置を示す構成図である。
【
図2】実施の形態1に係る工作装置のセンサ部20を示す構成図である。
【
図3】周波数掃引光の時間波形を示す説明図である。
【
図4】実施の形態1に係る測距装置42を示す構成図である。
【
図5】実施の形態1に係る測距装置42のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
【
図6】測距装置42が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合のコンピュータのハードウェア構成図である。
【
図7】測距装置42の処理手順である測距方法を示すフローチャートである。
【
図8】ピーク信号である反射光スペクトルが変換可能周波数帯域に含まれていることを示す説明図である。
【
図10】周波数シフト量が変更されることによって、反射光スペクトルが変換可能周波数帯域に含まれるようになった様子を示す説明図である。
【
図11】実施の形態2に係る工作装置を示す構成図である。
【
図12】実施の形態2に係る工作装置のセンサ部20を示す構成図である。
【
図13】加工面3aに油が付着されている基準ワークの一例を示す説明図である。
【
図14】シフト量変更部64から出力された2つのピーク信号を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示をより詳細に説明するために、本開示を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る工作装置を示す構成図である。
図1に示す工作装置は、テーブル1、バイス2、加工部10、センサ部20及びコントロール部50を備えている。
テーブル1は、加工対象の被加工物3を載せる台である。
バイス2は、被加工物3を加工する際に、被加工物3が動かないように固定する固定具である。
被加工物3は、加工部10によって、加工面3aが加工される金属等が該当する。
【0011】
加工部10は、加工ヘッド11、加工工具12、ヘッド駆動部13及び切削油ノズル14を備えている。
加工部10は、被加工物3の加工面3aに切削油を供給して、被加工物3の加工面3aを切削加工する。
【0012】
加工ヘッド11は、ヘッド本体部11a及びスピンドル11bを備えている。
ヘッド本体部11aは、スピンドル11b及びセンサヘッド部21のそれぞれを支持する金属製の構造体である。
スピンドル11bは、加工工具12を着脱自在に保持する図示せぬチャック装置を内蔵している。
スピンドル11bは、加工工具12を保持した状態で回転駆動する金属製の軸状部品である。
外周面11cは、ヘッド本体部11aが有している複数の外周面の中で、テーブル1と相対している外周面である。
【0013】
加工工具12は、フライス、エンドミル、ドリル、又は、タップ等の金属加工用刃物である。
加工工具12は、回転動作によって、被加工物3の加工面3aを切削加工する。
ヘッド駆動部13は、コントロール部50から出力される制御信号に従って加工面3aに対するヘッド本体部11aの位置を相対的に変化させる駆動機構である。
ヘッド駆動部13によるヘッド本体部11aの位置の変化方向は、
図1に示すx軸方向、y軸方向、又は、z軸方向である。
切削油ノズル14は、コントロール部50から切削油の供給指令を受けたときに、被加工物3の加工面3aに切削油を塗布するためのノズルである。
【0014】
センサ部20は、センサヘッド部21、センサ本体部22及び光伝送部23を備えている。
センサ部20は、センサヘッド部21の先端21aから、被加工物3の加工面3aまでの距離を算出する。
【0015】
センサヘッド部21は、ヘッド本体部11aの外周面11cに取り付けられている。
センサヘッド部21は、センサ本体部22から出力された照射光を加工面3aに向けて照射し、加工面3aに反射された照射光である反射光を受信する。
センサヘッド部21は、反射光を、光伝送部23を介して、センサ本体部22に出力する。
ここでは、センサヘッド部21が、照射光を加工面3aに向けて照射して、加工面3aに反射された照射光である反射光を受信している。しかし、これは一例に過ぎず、センサヘッド部21が、被加工物3の加工面3aとして、基準ワークの面に向けて光を照射し、基準ワークの面に反射された照射光である反射光を受信するようにしてもよい。
基準ワークは、例えば、被加工物3の切削加工後の所望の形状を有する金属等である。
【0016】
センサ本体部22は、照射光を、光伝送部23を介して、センサヘッド部21に出力する。
センサ本体部22は、センサヘッド部21から、光伝送部23を介して、反射光を取得する。
センサ本体部22は、照射光と反射光との干渉光を検出し、干渉光に基づいて、センサヘッド部21の先端21aから加工面3aまでの距離を算出する。
センサ本体部22は、センサヘッド部21の先端21aから加工面3aまでの距離をコントロール部50に出力する。
【0017】
光伝送部23は、例えば、光ファイバによって実現される。
光伝送部23は、センサ本体部22からセンサヘッド部21へ向かう光、及び、センサヘッド部21からセンサ本体部22へ向かう光の伝送路である。
図1に示す工作装置では、光伝送部23が設けられている。しかし、これは一例に過ぎず、工作装置には、光伝送部23が設けられていなくてもよい。この場合、センサヘッド部21とセンサ本体部22との間の光の伝送は、空間を介して行われる。
【0018】
コントロール部50は、ヘッド本体部11aの移動位置を示す制御信号をヘッド駆動部13に出力し、切削油の供給指令を切削油ノズル14に出力する。
【0019】
図2は、実施の形態1に係る工作装置のセンサ部20を示す構成図である。
センサ部20は、センサヘッド部21、センサ本体部22及び光伝送部23を備えおり、センサヘッド部21は、集光光学素子35を備えている。センサ本体部22は、周波数掃引光出力部31、光分岐部32、光干渉部36、アナログデジタル変換器(以下、「A/D変換器」と称する)39、A/D変換器40、レジスタ41及び測距装置42を備えている。
【0020】
周波数掃引光出力部31は、時間の経過に伴って周波数が変化する周波数掃引光を出力する周波数掃引光源31aを備えている。周波数掃引光出力部31は、周波数掃引光を光分岐部32に出力する。
周波数掃引光出力部31は、周波数掃引光を出力したタイミングを示すトリガ信号、又は、周波数掃引光の振幅を示す振幅信号をA/D変換器40に出力する。
【0021】
図3は、周波数掃引光の時間波形を示す説明図である。
周波数掃引光は、時間の経過に伴って周波数が最低周波数f
minから最高周波数f
maxまで変化する光である。周波数掃引光は、周波数が最高周波数f
maxに到達すると、一旦、周波数が最低周波数f
minに戻ってから、再度、周波数が最低周波数f
minから最高周波数f
maxまで変化する。周波数掃引光は、チャープ信号光と呼ばれることがある。
図3において、横軸は、時間を示し、縦軸は、周波数を示している。実線は、参照光を示し、破線は、反射光を示している。
干渉光は、参照光の周波数と反射光の周波数との差分の周波数を有する光である。
【0022】
光分岐部32は、光カプラ33及びサーキュレータ34を備えている。
光カプラ33は、周波数掃引光出力部31から出力された周波数掃引光を参照光と照射光とに分岐する光分岐素子である。
光カプラ33は、参照光を光干渉計37に出力し、照射光をサーキュレータ34に出力する。
【0023】
サーキュレータ34は、光カプラ33から出力された照射光を、光伝送部23を介して、センサヘッド部21の集光光学素子35に出力する。
サーキュレータ34は、集光光学素子35から出力された反射光を光干渉計37に出力する。
【0024】
集光光学素子35は、サーキュレータ34から出力された照射光を加工面3aに集光させる。
具体的には、集光光学素子35は、2枚の非球面レンズを備えている。2枚の非球面レンズのうち、サーキュレータ34側の非球面レンズは、サーキュレータ34から出力された照射光を平行光にする。加工面3a側の非球面レンズは、平行光を加工面3aに集光させる。
また、集光光学素子35は、加工面3aにより反射された照射光である反射光を受光し、反射光を、光伝送部23を介して、サーキュレータ34に出力する。
【0025】
光干渉部36は、光干渉計37及び光検出器38を備えている。
光干渉部36は、光分岐部32から出力された、参照光と反射光との干渉光を生成する。
光干渉部36は、干渉光を電気信号に変換して、電気信号をA/D変換器39に出力する。
【0026】
光干渉計37は、光カプラ33から出力された参照光とサーキュレータ34から出力された反射光との干渉光を生成し、干渉光を光検出器38に出力する。
光検出器38は、光干渉計37から出力された干渉光を検出し、干渉光を電気信号に変換する。
光検出器38は、電気信号をA/D変換器39に出力する。
【0027】
A/D変換器39は、光検出器38から出力された電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、デジタル信号を測距装置42に出力する。
A/D変換器40は、周波数掃引光出力部31から、周波数掃引光が出力されたタイミングを示すトリガ信号、又は、周波数掃引光の振幅を示す振幅信号を取得する。
A/D変換器40は、トリガ信号、又は、振幅信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、デジタル信号を測距装置42に出力する。
【0028】
レジスタ41は、例えば、周波数シフト量及び切削油屈折率を記録している記録媒体である。
レジスタ41には、センサヘッド部21から加工面3aに照射される光の焦点位置毎に周波数シフト量が記録されている。
なお、周波数シフト量は、光伝送部23を実現する光ファイバの光路長によって決まる値である。
切削油屈折率は、切削油ノズル14から加工面3aに供給される切削油の種類、切削油の濃度、又は、工作装置の周囲環境温度等によって決まる値である。
【0029】
測距装置42は、センサヘッド部21の先端21aから被加工物3の加工面3aまでの距離を算出する装置である。
図4は、実施の形態1に係る測距装置42を示す構成図である。
図5は、実施の形態1に係る測距装置42のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
測距装置42は、周波数シフト部61、帯域制限部62、信号変換部63、シフト量変更部64及び距離算出部65を備えている。
【0030】
周波数シフト部61は、例えば、
図5に示す周波数シフト回路71によって実現される。
周波数シフト部61は、A/D変換器39から、干渉光に係るデジタル信号(以下、「干渉光データ」という)を取得し、A/D変換器40から、トリガ信号に係るデジタル信号(以下、「トリガデータ」という)、又は、振幅信号に係るデジタル信号(以下、「振幅データ」という)を取得する。
周波数シフト部61は、例えば、トリガデータを取得した後に、干渉光データを取得すれば、レジスタ41に記録されている周波数シフト量だけ、干渉光データの周波数をシフトさせる。
周波数シフト部61は、周波数シフト後の干渉光データを帯域制限部62に出力する。
【0031】
帯域制限部62は、例えば、
図5に示す帯域制限回路72によって実現される。
帯域制限部62は、例えば、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、又は、ハイパスフィルタを備えている。
帯域制限部62は、周波数シフト部61から、周波数シフト後の干渉光データを取得する。
帯域制限部62は、周波数シフト後の干渉光データの周波数帯域を制限する。
帯域制限部62は、周波数帯域制限後の干渉光データを信号変換部63に出力する。
【0032】
信号変換部63は、例えば、
図5に示す信号変換回路73によって実現される。
信号変換部63は、帯域制限部62から、周波数帯域制限後の干渉光データを取得する。
信号変換部63は、周波数帯域制限後の干渉光データを例えばFFT(Fast Fourier Transformation)することによって、干渉光データを周波数領域の信号に変換する。
信号変換部63は、周波数領域の信号をシフト量変更部64に出力する。
【0033】
シフト量変更部64は、例えば、
図5に示すシフト量変更回路74によって実現される。
シフト量変更部64は、信号変換部63から、周波数領域の信号を取得する。
シフト量変更部64は、周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号(以下、「ピーク信号」という)が含まれていなければ、周波数シフト部61による周波数のシフト量を変更させる。
シフト量変更部64は、周波数領域の信号の中に、ピーク信号が含まれていれば、ピーク信号を距離算出部65に出力する。
【0034】
距離算出部65は、例えば、
図5に示す距離算出回路75によって実現される。
距離算出部65は、周波数領域の信号の中に、ピーク信号が含まれているために、シフト量変更部64からピーク信号が出力されれば、ピーク信号に基づいて、センサヘッド部21の先端21aから加工面3aまでの距離を算出する。
距離算出部65は、算出した距離を形状算出部66に出力する。
【0035】
形状算出部66は、例えば、コントロール部50に内蔵されている。
形状算出部66は、センサヘッド部21の位置が移動される毎に、距離算出部65によって算出された距離を取得する。
形状算出部66は、複数の距離に基づいて、被加工物3の形状を算出する。
ここでは、形状算出部66が、コントロール部50に内蔵されている。しかし、これは一例に過ぎず、形状算出部66は、例えば、測距装置42に内蔵されていてもよい。
【0036】
図4では、測距装置42の構成要素である周波数シフト部61、帯域制限部62、信号変換部63、シフト量変更部64及び距離算出部65のそれぞれが、
図5に示すような専用のハードウェアによって実現されるものを想定している。即ち、測距装置42が、周波数シフト回路71、帯域制限回路72、信号変換回路73、シフト量変更回路74及び距離算出回路75によって実現されるものを想定している。
周波数シフト回路71、帯域制限回路72、信号変換回路73、シフト量変更回路74及び距離算出回路75のそれぞれは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0037】
測距装置42の構成要素は、専用のハードウェアによって実現されるものに限るものではなく、測距装置42が、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現されるものであってもよい。
ソフトウェア又はファームウェアは、プログラムとして、コンピュータのメモリに格納される。コンピュータは、プログラムを実行するハードウェアを意味し、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、プロセッサ、あるいは、DSP(Digital Signal Processor)が該当する。
【0038】
図6は、測距装置42が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合のコンピュータのハードウェア構成図である。
測距装置42が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合、周波数シフト部61、帯域制限部62、信号変換部63、シフト量変更部64及び距離算出部65におけるそれぞれの処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムがメモリ81に格納される。そして、コンピュータのプロセッサ82がメモリ81に格納されているプログラムを実行する。
【0039】
また、
図5では、測距装置42の構成要素のそれぞれが専用のハードウェアによって実現される例を示し、
図6では、測距装置42がソフトウェア又はファームウェア等によって実現される例を示している。しかし、これは一例に過ぎず、測距装置42における一部の構成要素が専用のハードウェアによって実現され、残りの構成要素がソフトウェア又はファームウェア等によって実現されるものであってもよい。
【0040】
次に、
図1に示す工作装置の動作について説明する。
まず、光伝送部23を実現する光ファイバが断線されていないときに、工作装置が被加工物3の形状を算出する動作を説明する。
図1に示す工作装置では、被加工物3が、工作装置による加工済みの物であるものとする。ただし、これは一例に過ぎず、被加工物3は、工作装置によって加工が行われる前の物であってもよいし、加工途中の物であってもよい。
【0041】
コントロール部50は、ヘッド本体部11aの移動位置を示す制御信号をヘッド駆動部13に出力する。
ここでは、説明の簡単化のため、コントロール部50は、切削油の供給指令を切削油ノズル14に出力しないものとする。
ヘッド駆動部13は、コントロール部50から出力される制御信号に従って加工面3aに対するヘッド本体部11aの位置を相対的に変化させる。
【0042】
周波数掃引光出力部31は、加工面3aに対するヘッド本体部11aの位置が変化する毎に、時間の経過に伴って周波数が変化する周波数掃引光として、例えば、
図3に示すような周波数掃引光を光分岐部32に出力する。
また、周波数掃引光出力部31は、周波数掃引光を出力したタイミングを示すトリガ信号、又は、周波数掃引光の振幅を示す振幅信号をA/D変換器40に出力する。
【0043】
光カプラ33は、周波数掃引光出力部31から、周波数掃引光を取得する。
光カプラ33は、周波数掃引光を参照光と照射光とに分岐する。
光カプラ33は、参照光を光干渉計37に出力し、照射光をサーキュレータ34に出力する。
サーキュレータ34は、光カプラ33から出力された照射光を、光伝送部23を介して、集光光学素子35に出力する。
【0044】
集光光学素子35は、サーキュレータ34から出力された照射光を加工面3aに集光させる。
そして、集光光学素子35は、加工面3aにより反射された照射光である反射光を受光し、反射光を、光伝送部23を介して、サーキュレータ34に出力する。
サーキュレータ34は、集光光学素子35から出力された反射光を光干渉計37に出力する。
【0045】
光干渉計37は、光カプラ33から参照光を取得し、サーキュレータ34から反射光を取得する。
光干渉計37は、
図3に示すように、参照光と反射光との干渉光として、参照光の周波数と反射光の周波数との周波数差を有する光を生成する。
光干渉計37は、干渉光を光検出器38に出力する。
光検出器38は、光干渉計37から出力された干渉光を検出し、干渉光を電気信号に変換する。
光検出器38は、電気信号をA/D変換器39に出力する。
【0046】
A/D変換器39は、光検出器38から、干渉光を示す電気信号を取得する。
A/D変換器39は、干渉光を示す電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、デジタル信号を測距装置42に出力する。
A/D変換器40は、周波数掃引光出力部31から、周波数掃引光が出力されたタイミングを示すトリガ信号、又は、周波数掃引光の振幅を示す振幅信号を取得する。
A/D変換器40は、トリガ信号を取得すれば、トリガ信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、デジタル信号を測距装置42に出力する。
A/D変換器40は、振幅信号を取得すれば、振幅信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、デジタル信号を測距装置42に出力する。
【0047】
図7は、測距装置42の処理手順である測距方法を示すフローチャートである。
レジスタ41には、切断されていない光伝送部23の光路長に対応する周波数シフト量が記録されている。この周波数シフト量は、シフト量変更部64において、帯域制限部62による周波数帯域制限後の干渉光データに係る周波数領域の信号のうち、信号強度が閾値以上の信号であるピーク信号が、ピーク信号の検出が可能な周波数帯域に含まれるように、干渉光データの周波数をシフトさせる周波数シフト量である。つまり、ピーク信号である反射光スペクトルが、
図8に示すように、変換可能周波数帯域に含まれるような周波数シフト量がレジスタ41に記録されている。変換可能周波数帯域は、帯域制限部62により制限された周波数帯域である。
図8は、ピーク信号である反射光スペクトルが変換可能周波数帯域に含まれていることを示す説明図である。
図8において、横軸は、周波数を示し、縦軸は、信号強度を示している。
【0048】
周波数シフト部61は、レジスタ41から、センサヘッド部21から加工面3aに照射される光の焦点位置に対応する周波数シフト量を取得する。
周波数シフト部61は、A/D変換器39から、干渉光に係るデジタル信号である干渉光データを取得し、A/D変換器40から、トリガ信号に係るデジタル信号であるトリガデータ、又は、振幅信号に係るデジタル信号である振幅データを取得する。
周波数シフト部61は、トリガデータを取得した後に、干渉光データを取得すれば、周波数シフト量だけ、干渉光データの周波数をシフトさせる(
図7のステップST1)。
【0049】
周波数シフト部61は、振幅データを取得すれば、振幅データが示す周波数掃引光の振幅に基づいて、周波数掃引光の周波数が最低周波数f
minに戻ったタイミングを検出する。
周波数シフト部61は、周波数掃引光の周波数が最低周波数f
minに戻ったタイミングを検出した後に、干渉光データを取得すれば、周波数シフト量だけ、干渉光データの周波数をシフトさせる(
図7のステップST1)。
周波数シフト部61は、周波数シフト後の干渉光データを帯域制限部62に出力する。
【0050】
帯域制限部62は、周波数シフト部61から、周波数シフト後の干渉光データを取得する。
帯域制限部62は、周波数シフト後の干渉光データの周波数帯域を制限する(
図7のステップST2)。
帯域制限部62により制限される周波数帯域は、
図8に示す変換可能周波数帯域に相当する。
帯域制限部62は、周波数帯域制限後の干渉光データを信号変換部63に出力する。
【0051】
信号変換部63は、帯域制限部62から、周波数帯域制限後の干渉光データを取得する。
信号変換部63は、周波数帯域制限後の干渉光データを例えばFFTすることによって、干渉光データを周波数領域の信号に変換する(
図7のステップST3)。
信号変換部63は、周波数領域の信号をシフト量変更部64に出力する。
【0052】
シフト量変更部64は、信号変換部63から、周波数領域の信号を取得する。
シフト量変更部64は、周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号であるピーク信号が含まれているか否かを判定する。
光伝送部23が切断されていない状態では、周波数シフト部61が、レジスタ41に記録されている周波数シフト量だけ、干渉光データの周波数をシフトさせている。このため、
図8に示すように、ピーク信号が変換可能周波数帯域に含まれる。したがって、光伝送部23が切断されていない状態では、周波数領域の信号の中に、ピーク信号が含まれている。
シフト量変更部64は、周波数領域の信号の中にピーク信号が含まれていれば(
図7のステップST4:YESの場合)、ピーク信号を距離算出部65に出力する。
【0053】
距離算出部65は、シフト量変更部64からピーク信号が出力されれば、ピーク信号に基づいて、センサヘッド部21の先端21aから加工面3aまでの距離を算出する(
図7のステップST5)。センサヘッド部21の先端21aから加工面3aまでの距離は、ピーク信号の周波数から求めることができる。ピーク信号の周波数から距離を算出する処理自体は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
距離算出部65は、算出した距離を形状算出部66に出力する。
【0054】
コントロール部50が、ヘッド本体部11aの移動位置を示す制御信号をヘッド駆動部13に出力することによって、ヘッド本体部11aの位置が変更されれば(
図7のステップST6:YESの場合)、ステップST1~ST5の処理が繰り返される。
距離の算出が終了し、ヘッド本体部11aの位置が変更されなければ(
図7のステップST6:NOの場合)、工作装置は、一連の処理を終了する。
【0055】
形状算出部66は、センサヘッド部21の位置が移動される毎に、距離算出部65によって算出された距離を取得する。
形状算出部66は、複数の距離に基づいて、被加工物3の形状を算出する。複数の距離に基づいて、被加工物3の形状を算出する処理自体は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0056】
次に、光伝送部23を実現する光ファイバが断線されて、別の光ファイバに交換されたときの工作装置の動作について説明する。
この場合、テーブル1には、被加工物3の代わりに、基準ワークが載せられる。
図9は、基準ワークの一例を示す説明図である。
【0057】
コントロール部50は、ヘッド本体部11aの移動位置を示す制御信号をヘッド駆動部13に出力する。
ヘッド駆動部13は、コントロール部50から出力される制御信号に従って加工面3aに対するヘッド本体部11aの位置を相対的に変化させる。
【0058】
周波数掃引光出力部31は、加工面3aに対するヘッド本体部11aの位置が変化する毎に、時間の経過に伴って周波数が変化する周波数掃引光として、例えば、
図3に示すような周波数掃引光を光分岐部32に出力する。
また、周波数掃引光出力部31は、周波数掃引光を出力したタイミングを示すトリガ信号、又は、周波数掃引光の振幅を示す振幅信号をA/D変換器40に出力する。
【0059】
光カプラ33は、周波数掃引光出力部31から、周波数掃引光を取得する。
光カプラ33は、周波数掃引光を参照光と照射光とに分岐する。
光カプラ33は、参照光を光干渉計37に出力し、照射光をサーキュレータ34に出力する。
サーキュレータ34は、光カプラ33から出力された照射光を、光伝送部23を介して、集光光学素子35に出力する。
【0060】
集光光学素子35は、サーキュレータ34から出力された照射光を加工面3aに集光させる。
そして、集光光学素子35は、加工面3aにより反射された照射光である反射光を受光し、反射光を、光伝送部23を介して、サーキュレータ34に出力する。
サーキュレータ34は、集光光学素子35から出力された反射光を光干渉計37に出力する。
【0061】
光干渉計37は、光カプラ33から参照光を取得し、サーキュレータ34から反射光を取得する。
光干渉計37は、
図3に示すように、参照光と反射光との干渉光として、参照光の周波数と反射光の周波数との周波数差を有する光を生成する。
光干渉計37は、干渉光を光検出器38に出力する。
光検出器38は、光干渉計37から出力された干渉光を検出し、干渉光を電気信号に変換する。
光検出器38は、電気信号をA/D変換器39に出力する。
【0062】
A/D変換器39は、光検出器38から、干渉光を示す電気信号を取得する。
A/D変換器39は、干渉光を示す電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、デジタル信号を測距装置42に出力する。
A/D変換器40は、周波数掃引光出力部31から、周波数掃引光が出力されたタイミングを示すトリガ信号、又は、周波数掃引光の振幅を示す振幅信号を取得する。
A/D変換器40は、トリガ信号を取得すれば、トリガ信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、デジタル信号を測距装置42に出力する。
A/D変換器40は、振幅信号を取得すれば、振幅信号をアナログ信号からデジタル信号に変換し、デジタル信号を測距装置42に出力する。
【0063】
測距装置42の周波数シフト部61は、レジスタ41から、センサヘッド部21から加工面3aに照射される光の焦点位置に対応する周波数シフト量を取得する。
周波数シフト部61は、A/D変換器39から、干渉光に係るデジタル信号である干渉光データを取得し、A/D変換器40から、トリガ信号に係るデジタル信号であるトリガデータ、又は、振幅信号に係るデジタル信号である振幅データを取得する。
周波数シフト部61は、トリガデータを取得した後に、干渉光データを取得すれば、周波数シフト量だけ、干渉光データの周波数をシフトさせる(
図7のステップST1)。
【0064】
周波数シフト部61は、振幅データを取得すれば、振幅データが示す周波数掃引光の振幅に基づいて、周波数掃引光の周波数が最低周波数f
minに戻ったタイミングを検出する。
周波数シフト部61は、周波数掃引光の周波数が最低周波数f
minに戻ったタイミングを検出した後に、干渉光データを取得すれば、周波数シフト量だけ、干渉光データの周波数をシフトさせる(
図7のステップST1)。
周波数シフト部61は、周波数シフト後の干渉光データを帯域制限部62に出力する。
【0065】
帯域制限部62は、周波数シフト部61から、周波数シフト後の干渉光データを取得する。
帯域制限部62は、周波数シフト後の干渉光データの周波数帯域を制限する(
図7のステップST2)。
帯域制限部62は、周波数帯域制限後の干渉光データを信号変換部63に出力する。
【0066】
信号変換部63は、帯域制限部62から、周波数帯域制限後の干渉光データを取得する。
信号変換部63は、周波数帯域制限後の干渉光データを例えばFFTすることによって、干渉光データを周波数領域の信号に変換する(
図7のステップST3)。
信号変換部63は、周波数領域の信号をシフト量変更部64に出力する。
【0067】
シフト量変更部64は、信号変換部63から、周波数領域の信号を取得する。
シフト量変更部64は、周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号であるピーク信号が含まれているか否かを判定する。
レジスタ41に記録されている周波数シフト量は、切断されていない光伝送部23に対応しているシフト量である。このため、断線された光伝送部23の光路長と、交換された別の光ファイバの光路長との差分が大きければ、ピーク信号が変換可能周波数帯域に含まれなくなることがある。したがって、断線された光伝送部23が別の光伝送部23に交換された場合、周波数領域の信号の中に、ピーク信号が含まれなくなることがある。
シフト量変更部64は、周波数領域の信号の中にピーク信号が含まれていなければ(
図7のステップST4:NOの場合)、周波数シフト量の変更指令を周波数シフト部61に出力する(
図7のステップST7)。
【0068】
周波数シフト部61は、シフト量変更部64から、周波数シフト量の変更指令を受けると、周波数シフト量を変更し、変更後の周波数シフト量だけ、干渉光データの周波数をシフトさせる(
図7のステップST8)。変更後の周波数シフト量は、レジスタ41に記録されている周波数シフト量に対して、例えば、事前に設定された周波数だけ、加算又は減算した周波数シフト量である。
周波数シフト部61は、変更後の周波数シフト量をレジスタ41に記録させる。
周波数シフト部61は、周波数シフト後の干渉光データを帯域制限部62に出力する。
【0069】
帯域制限部62は、周波数シフト部61から、周波数シフト後の干渉光データを取得する。
帯域制限部62は、周波数シフト後の干渉光データの周波数帯域を制限する(
図7のステップST2)。
帯域制限部62は、周波数帯域制限後の干渉光データを信号変換部63に出力する。
【0070】
信号変換部63は、帯域制限部62から、周波数帯域制限後の干渉光データを取得する。
信号変換部63は、周波数帯域制限後の干渉光データを例えばFFTすることによって、干渉光データを周波数領域の信号に変換する(
図7のステップST3)。
信号変換部63は、周波数領域の信号をシフト量変更部64に出力する。
【0071】
シフト量変更部64は、信号変換部63から、周波数領域の信号を取得する。
シフト量変更部64は、周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号であるピーク信号が含まれているか否かを判定する。
シフト量変更部64は、周波数領域の信号の中にピーク信号が含まれていなければ(
図7のステップST4:NOの場合)、周波数シフト量の変更指令を周波数シフト部61に出力することによって、周波数シフト部61による周波数のシフト量を更に変更させる(
図7のステップST7)。
周波数シフト部61は、シフト量変更部64から、周波数シフト量の変更指令を受けると、周波数シフト量を更に変更し、変更後の周波数シフト量だけ、干渉光データの周波数をシフトさせる(
図7のステップST8)。
周波数シフト部61は、変更後の周波数シフト量をレジスタ41に記録させる。
周波数シフト部61は、周波数シフト後の干渉光データを帯域制限部62に出力する。
【0072】
ステップST2~ST4、ST7、ST8の処理は、周波数領域の信号の中にピーク信号が含まれるまで繰り返される。
図10に示すように、周波数領域の信号の中にピーク信号が含まれれば、テーブル1には、基準ワークの代わりに、被加工物3が載せられる。
図10は、周波数シフト量が変更されることによって、反射光スペクトルが変換可能周波数帯域に含まれるようになった様子を示す説明図である。
図10において、横軸は、周波数を示し、縦軸は、信号強度を示している。
被加工物3がテーブル1に載せられたのち、光伝送部23を実現する光ファイバが断線されていないときと同様の方法で、工作装置が被加工物3の形状を算出する。ただし、周波数シフト部61が用いる周波数シフト量は、周波数領域の信号の中にピーク信号が含まれるようになったときの周波数シフト量である。
【0073】
ここでは、光伝送部23を実現する光ファイバが断線されて、別の光ファイバに交換された場合、テーブル1には、被加工物3の代わりに、基準ワークが載せられ、その後、周波数領域の信号の中にピーク信号が含まれれば、テーブル1には、基準ワークの代わりに、被加工物3が載せられている。しかし、これは一例に過ぎず、光ファイバが断線されて、別の光ファイバに交換されても、被加工物3がテーブル1に載せられている状態で、
図7のステップST1~ST8の処理が行われるようにしてもよい。
【0074】
以上の実施の形態1では、センサヘッド部21から、被加工物3の加工面3aに照射された光と、センサヘッド部21により受信された、加工面3aに反射された光との干渉光の周波数をシフトさせる周波数シフト部61と、周波数シフト部61による周波数シフト後の干渉光の周波数帯域を制限する帯域制限部62と、帯域制限部62による周波数帯域制限後の干渉光を周波数領域の信号に変換する信号変換部63とを備えるように、測距装置42を構成した。また、測距装置42は、信号変換部63による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていなければ、周波数シフト部61による干渉光の周波数のシフト量を変更させるシフト量変更部64と、信号変換部63による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていれば、信号強度が閾値以上の信号に基づいて、センサヘッド部21から加工面3aまでの距離を算出する距離算出部65とを備えている。したがって、測距装置42は、周波数領域の信号の周波数が、変換可能周波数範囲から逸脱してしまう状況を生じても、センサヘッド部21から被加工物3の加工面3aまでの距離を算出することができる。
【0075】
図1に示す測距装置42では、周波数シフト部61が、A/D変換器39から、干渉光データを取得すると、周波数シフト量だけ、干渉光データの周波数をシフトさせている。周波数シフト部61は、干渉光データの周波数をシフトさせる前に、A/D変換器39から、干渉光データを取得すると、A/D変換器40から出力された、トリガデータ、又は、振幅データに基づいて、干渉光データに対して、周波数掃引光源31aの非線形性補償を行うようにしてもよい。非線形性補償の補償処理自体は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
また、周波数シフト部61は、干渉光データに対して、デシメーションによる信号の間引き等のダウンサンプリング処理を行うようにしてもよい。ダウンサンプリング処理自体は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0076】
実施の形態2.
実施の形態2では、センサヘッド部21から、油が付着されている加工面3aまでの距離を算出する距離算出部67を備える測距装置42について説明する。
【0077】
測距装置42以外の工作装置の構成は、
図1に示す工作装置と同様である。
図11は、実施の形態2に係る測距装置42を示す構成図である。
図11において、
図4と同一符号は、同一又は相当部分を示すので、詳細な説明を省略する。
図12は、実施の形態2に係る測距装置42のハードウェアを示すハードウェア構成図である。
図12において、
図5と同一符号は、同一又は相当部分を示すので、詳細な説明を省略する。
測距装置42は、周波数シフト部61、帯域制限部62、信号変換部63、シフト量変更部64及び距離算出部67を備えている。
【0078】
距離算出部67は、例えば、
図12に示す距離算出回路77によって実現される。
距離算出部67は、周波数領域の信号の中に、ピーク信号が含まれているために、シフト量変更部64からピーク信号が出力されれば、
図4に示す距離算出部65と同様に、ピーク信号に基づいて、センサヘッド部21から加工面3aまでの距離を算出する。
距離算出部67は、加工面3aに油が付着されているために、信号変換部63による変換後の周波数領域の信号の中に、2つのピーク信号が含まれていれば、2つのピーク信号に基づいて、加工面3aに付着されている油の膜厚とセンサヘッド部21から油面までの距離とを算出する。
距離算出部67は、膜厚と油面までの距離とから、センサヘッド部21から加工面3aまでの距離を算出する。
距離算出部67は、算出した距離を形状算出部66に出力する。
【0079】
図11では、測距装置42の構成要素である周波数シフト部61、帯域制限部62、信号変換部63、シフト量変更部64及び距離算出部67のそれぞれが、
図12に示すような専用のハードウェアによって実現されるものを想定している。即ち、測距装置42が、周波数シフト回路71、帯域制限回路72、信号変換回路73、シフト量変更回路74及び距離算出回路77によって実現されるものを想定している。
周波数シフト回路71、帯域制限回路72、信号変換回路73、シフト量変更回路74及び距離算出回路77のそれぞれは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又は、これらを組み合わせたものが該当する。
【0080】
測距装置42の構成要素は、専用のハードウェアによって実現されるものに限るものではなく、測距装置42が、ソフトウェア、ファームウェア、又は、ソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現されるものであってもよい。
測距装置42が、ソフトウェア又はファームウェア等によって実現される場合、周波数シフト部61、帯域制限部62、信号変換部63、シフト量変更部64及び距離算出部67におけるそれぞれの処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムが
図6に示すメモリ81に格納される。そして、
図6に示すプロセッサ82がメモリ81に格納されているプログラムを実行する。
【0081】
また、
図12では、測距装置42の構成要素のそれぞれが専用のハードウェアによって実現される例を示し、
図6では、測距装置42がソフトウェア又はファームウェア等によって実現される例を示している。しかし、これは一例に過ぎず、測距装置42における一部の構成要素が専用のハードウェアによって実現され、残りの構成要素がソフトウェア又はファームウェア等によって実現されるものであってもよい。
【0082】
次に、
図11に示す測距装置42の動作について説明する。距離算出部67以外は、
図4に示す測距装置42と同様である。このため、ここでは、距離算出部67の動作のみを説明する。
【0083】
距離算出部67は、シフト量変更部64からピーク信号を取得する。
例えば、
図13に示すように、加工面3aに油が付着されている場合、
図14に示すように、シフト量変更部64から、2つのピーク信号が出力されることがある。加工面3aは、基準ワークの面、又は、被加工物3の加工面である。
図13は、加工面3aに油が付着されている基準ワークの一例を示す説明図である。
図14は、シフト量変更部64から出力された2つのピーク信号を示す説明図である。
図14において、横軸は、周波数を示し、縦軸は、信号強度を示している。
2つのピーク信号のうち、一方のピーク信号は、油面に反射された反射光スペクトルである。2つのピーク信号のうち、他方のピーク信号は、油面を透過して加工面3aに反射された反射光スペクトルである。
加工面3aに付着されている油は、切削油ノズル14から供給された切削油である。
【0084】
距離算出部67は、一方のピーク信号に基づいて、センサヘッド部21から油面までの距離L1を算出する。ピーク信号に基づいて、油面までの距離L1を算出する処理自体は、公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
また、距離算出部67は、他方のピーク信号に基づいて、センサヘッド部21から加工面3aまでの距離L2を算出する。ただし、油を透過する光の速度は、油の屈折率に応じて変化するため、他方のピーク信号に基づいて算出された距離L2は、誤差を含んでいることがある。
以下の式(1)に示すように、真空中の光の屈折率が“1”であるとすれば、油の屈折率nが高いほど光の速度vは遅くなり、油の屈折率が低いほど光の速度vは速くなる。
n=c/v (1)
式(1)において、cは、真空中の光の速度である。なお、空気中の光の速度c’は、摂氏0度及び1気圧の下では、1.000292である。空気中の光の速度c’と油を透過する光の速度vとの関係は、以下の式(2)のように表される。
n=c’/v (2)
【0085】
距離算出部67は、距離L2を補償するため、以下の式(3)に示すように、油の屈折率nを算出する。
n=
{((FFT12-FFT11)-(FFT02-FFT01))×Lbin}
/(d1-d0)
(3)
式(3)において、d0,d1のそれぞれは、加工面3aにおける複数の位置のうち、加工面3aまでの距離が既知である位置の距離である。距離d0の位置と距離d1の位置とは、互いに異なる位置である。
FFT01は、距離d0の位置における加工面3aからのピーク信号を示す周波数軸であるFFTBinの番号であり、FFT01は、距離d0の位置における油面からのFFTBinの番号である。
FFT11は、距離d1の位置における加工面3aからのFFTBinの番号であり、FFT12は、距離d1の位置における油面からのFFTBinの番号である。
Lbinは、FFTBinであり、例えば、FFTサイズによって決まる。
【0086】
距離算出部67は、油の屈折率nを式(2)に代入することによって、油を透過する光の速度vを算出する。
そして、距離算出部67は、油を透過する光の速度vに基づいて、油の膜厚Wを算出する。膜厚Wは、例えば、センサヘッド部21から光が照射された時刻とセンサヘッド部21により反射光が受信された時刻との時刻差と、速度vとに基づいて算出することができる。
距離算出部67は、以下の式(4)に示すように、油面までの距離L1と油の膜厚Wとを用いて、補償後の距離L2’を算出する。
L2’=L1+W (4)
【0087】
以上の実施の形態2では、距離算出部67が、加工面3aに油が付着されているために、信号変換部63による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が2つ含まれていれば、信号強度が閾値以上の2つの信号に基づいて、加工面3aに付着されている油の膜厚とセンサヘッド部21から油面までの距離とを算出し、膜厚と油面までの距離とから、センサヘッド部21から加工面3aまでの距離を算出するように、測距装置42を構成した。したがって、測距装置42は、加工面3aに油が付着されているときに、周波数領域の信号の周波数が、変換可能周波数範囲から逸脱してしまう状況を生じても、センサヘッド部21から被加工物3の加工面3aまでの距離を算出することができる。
【0088】
なお、本開示は、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本開示は、測距装置、測距方法及び工作装置に適している。
【符号の説明】
【0090】
1 テーブル、2 バイス、3 被加工物、3a 加工面、10 加工部、11 加工ヘッド、11a ヘッド本体部、11b スピンドル、11c 外周面、12 加工工具、13 ヘッド駆動部、14 切削油ノズル、20 センサ部、21 センサヘッド部、22 センサ本体部、23 光伝送部、31 周波数掃引光出力部、31a 周波数掃引光源、32 光分岐部、33 光カプラ、34 サーキュレータ、35 集光光学素子、36 光干渉部、37 光干渉計、38 光検出器、39,40 A/D変換器、41 レジスタ、42 測距装置、50 コントロール部、61 周波数シフト部、62 帯域制限部、63 信号変換部、64 シフト量変更部、65 距離算出部、66 形状算出部、67 距離算出部、71 周波数シフト回路、72 帯域制限回路、73 信号変換回路、74 シフト量変更回路、75 距離算出回路、77 距離算出回路、81 メモリ、82 プロセッサ。
【要約】
センサヘッド部(21)から、被加工物(3)の加工面(3a)に照射された光と、センサヘッド部(21)により受信された、加工面(3a)に反射された光との干渉光の周波数をシフトさせる周波数シフト部(61)と、周波数シフト部(61)による周波数シフト後の干渉光の周波数帯域を制限する帯域制限部(62)と、帯域制限部(62)による周波数帯域制限後の干渉光を周波数領域の信号に変換する信号変換部(63)とを備えるように、測距装置(42)を構成した。また、測距装置(42)は、信号変換部(63)による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていなければ、周波数シフト部(61)による干渉光の周波数のシフト量を変更させるシフト量変更部(64)と、信号変換部(63)による変換後の周波数領域の信号の中に、信号強度が閾値以上の信号が含まれていれば、信号強度が閾値以上の信号に基づいて、センサヘッド部(21)から加工面(3a)までの距離を算出する距離算出部(65)とを備えている。