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特許7661681ノロウイルスを検出するためのオリゴヌクレオチド
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  • 特許-ノロウイルスを検出するためのオリゴヌクレオチド 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】ノロウイルスを検出するためのオリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6837 20180101AFI20250408BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20250408BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20250408BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20250408BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
C12Q1/6837 Z ZNA
C12Q1/686 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2020127372
(22)【出願日】2020-07-28
(65)【公開番号】P2021023286
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019139567
(32)【優先日】2019-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺内 謙太
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108546781(CN,A)
【文献】特開2016-154468(JP,A)
【文献】ロシア国登録特許2506317(RU,C2)
【文献】国際公開第2018/198682(WO,A1)
【文献】特開2016-019495(JP,A)
【文献】Journal of Virological Methods,2010年,Vol.167,pp. 90-94
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含むことを特徴とする、試料中のGII型ノロウイルスの存在を検出する方法:
(1)以下の(I)及び(II)の組合せからなる一対の核酸プライマーセットを用意する工程:
(I)配列番号6~37若しくは配列番号42~54のいずれかで示される塩基配列からなる核酸プライマー:及び
(II)配列番号4で示される塩基配列からなる核酸プライマー、
(2)前記試料と、前記工程(1)で用意した一対の核酸プライマーセット及び耐熱性DNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液(但し、有機極性溶媒を含むものを除く)とを混合した混合液を調製する工程、及び
(3)反応容器を密閉後、1ステップRT-PCR反応を実施する工程
ここで、前記1ステップRT-PCR反応液が、更に以下の(III)及び(IV)の組合せからなるGI型ノロウイルスを検出するための一対の核酸プライマーセット:
(III)配列番号2で示される塩基配列からなる核酸プライマー;及び
(IV)配列番号3で示される塩基配列からなる核酸プライマーを含む、方法
【請求項2】
ノロウイルスGI型およびGII型をそれぞれ検出可能である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記1ステップRT-PCR反応液が、更に配列番号38、配列番号39、若しくは配列番号40で示される塩基配列からなる核酸を含むプローブを含有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記プローブがTaqManプローブである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料が、核酸の単離処理も加熱処理も行っていない試料である、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記工程(2)及び(3)が同一容器で行われることを特徴とする、請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記工程(3)において反応容器を密閉後、一度も蓋を開閉することなく1ステップRT-PCR反応を実施することを特徴とする請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記工程(3)において、サイクル反応の前及び/又はサイクル反応中に、ウイルスを破砕してウイルス内の核酸を露出させるため及び/又は核酸増幅反応においてホットスタート酵素を活性化させるために熱処理を実施することを含む請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記試料が血液試料、糞便試料、及び/又は拭き取り検査試料である請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記試料が水、生理食塩水または緩衝液に懸濁された懸濁液である請求項1からのいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記耐熱性DNAポリメラーゼが、ファミリーAに属する耐熱性DNAポリメラーゼである、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
前記耐熱性DNAポリメラーゼが、Tthポリメラーゼ、Hawk Z05ポリメラーゼ、及びそれらの変異体よりなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記1ステップRT-PCR反応液が、更に1mM以上の2価陽イオンを含む、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記1ステップRT-PCR反応が、一酵素系1ステップRT-PCR法である、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
配列番号6~37若しくは配列番号42~54のいずれかで示される塩基配列からなる核酸プライマーと、配列番号4で示される塩基配列からなる核酸プライマーとを組み合わせてなる、GII型ノロウイルスを検出するための核酸プライマーセットと
配列番号2で示される塩基配列からなる核酸プライマー及び配列番号3で示される塩基配列からなる核酸プライマーを組み合わせてなるGI型ノロウイルスを検出するための核酸プライマーセットと、
を含有する、有機極性溶媒を含まない1ステップRT-PCR反応液を用いての1ステップRT-PCR反応に用いるための、GI型ノロウイルス及びGII型ノロウイルスをそれぞれ検出可能な核酸プライマーセット組成物。
【請求項16】
耐熱性DNAポリメラーゼを更に含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
ノロウイルスGI型およびGII型をそれぞれ検出可能である、請求項15または16に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、更に配列番号38、配列番号39、若しくは配列番号40で示される塩基配列からなる核酸を含むプローブを含有する、請求項15から17のいずれかに記載の組成物。
【請求項19】
前記プローブがTaqManプローブである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記試料が、核酸の単離処理も加熱処理も行っていない試料である、請求項15から19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
前記試料が血液試料、糞便試料、及び/又は拭き取り検査試料である、請求項15から20のいずれかに記載の組成物。
【請求項22】
前記試料が水、生理食塩水または緩衝液に懸濁された懸濁液である、請求項15から21のいずれかに記載の組成物。
【請求項23】
前記耐熱性DNAポリメラーゼが、ファミリーAに属する耐熱性DNAポリメラーゼである、請求項15から22のいずれかに記載の組成物。
【請求項24】
前記耐熱性DNAポリメラーゼが、Tthポリメラーゼ、Hawk Z05ポリメラーゼ、及びそれらの変異体よりなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項15から23のいずれかに記載の組成物。
【請求項25】
前記組成物が、更に1mM以上の2価陽イオンを含む、請求項15から24のいずれかに記載の組成物。
【請求項26】
前記1ステップRT-PCR反応が、一酵素系1ステップRT-PCR法である、請求項15から25のいずれかに記載の組成物。
【請求項27】
請求項15から26のいずれかに記載の組成物を含む、試料中のGII型ノロウイルスの検査を行うためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれるGII型ノロウイルスを検出するための核酸プライマーとして使用され得るオリゴヌクレオチドに関する。更に、該オリゴヌクレオチドを用いて、試料中に含まれるノロウイルスGII型を検出する方法及びそのためのキット等に関する。本発明により、例えば、糞便試料、血液試料、環境拭き取り試料等におけるノロウイルスを高感度にて検出することが可能である。本発明は、生命科学研究、臨床診断や食品衛生検査、環境検査等に利用できる。
【背景技術】
【0002】
ノロウイルスは、食中毒の原因ウイルスであり、日本での食中毒患者の半数はノロウイルスが原因と言われている(非特許文献1)。したがって、ノロウイルスを簡便、迅速、高感度に検出することは、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等で重要であることは言うまでもない。
【0003】
ノロウイルスの病原体検査では、組織培養法が確立できておらず、電子顕微鏡法、ELISAによる免疫学的抗原検出法、または核酸増幅技術を利用したウイルス遺伝子の検出法が開発されてきた。これらの検査法の中で、高感度にノロウイルスを検出可能な核酸増幅技術は、汎く使われている。ノロウイルスのRNAゲノムの塩基配列は多様性に富んでいるため、核酸増幅法で検出するためにいくつかの技術が開発されてきた(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。このうち、日本においては、厚生労働省医薬食品局安全部監視安全課の通知(食安監1105001号)に基づくリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法が公定法として普及している。
【0004】
ノロウイルスの感染の原因としては、主にノロウイルスに汚染された食品を飲食することによる。また、ヒトの手を介した感染も多いため、調理施設、医療現場、老人介護施設及び保育園などでは定期的な検便検査が求められている。大量調理施設衛生管理マニュアルには、調理従事者等の定期的な検便検査に、月に1回以上又は必要に応じて、ノロウイルスの流行期である10月から3月にかけてノロウイルスの検査を含めることが追加されている。
【0005】
また、定期的な検便検査に加えて、汚染経路の解明や施設環境等の汚染状況の把握には、ふき取り検査が有用である。ふき取り検査は、例としては、まな板や包丁、ふきん、食器などの調理器具類、冷蔵庫の取手、浴室のドアノブ、洗面所、厨房、トイレ、浴室などの蛇口、調理者の手や指、浴室、洗面、手すり、居室などの施設などを綿棒等で拭き取り、水や緩衝液に溶出したものを試料とした検査である。検便検査やふき取り検査の試料は、糞便や、検査場所の汚れやほこりを多量に含むため、RT-PCRを阻害する夾雑物や、非特異的な増幅を引き起こすノロウイルス由来以外の核酸を多く含んでいる。
【0006】
夾雑物を多く含む検体から、RT-PCR法を用いて特定の遺伝子を増幅し、高感度に検出するために重要となる要素のひとつに核酸プライマーがある。プライマー対の例として、ノロウイルス検出用のプライマーとしては、厚生労働省医薬食品局安全部監視安全課の通知(食安監1105001号)に記載のプライマー(配列番号1~5)が挙げられており、汎用されている。
【0007】
ところで、一般的に、1ステップRT-PCR反応を用いて複数の種類の核酸を標的として同時に増幅し、検出を行う場合、1つのRT-PCR反応系に複数種類の核酸プライマーセットが含まれることになる。このとき複数種類の標的核酸に対する逆転写反応およびPCR反応が1液中にて行われるため、反応液中に含まれる複数種類のプライマーセットが、各核酸の増幅反応へ相互に影響しあうことが知られている。各プライマーのTm値が異なる点も反応系に影響を与える。その結果、逆転写反応、PCR反応それぞれにおいて、非特異的な増幅、または根本的な増幅不良を引き起こす。このため、1ステップRT-PCR反応における核酸プライマーセットの選定は、検出感度を決める重要な要素の一つとして知られている。
【0008】
ノロウイルスの検査においてもまた、GI型ノロウイルス(以下、ノロウイルスG1型、又は単にGI、G1等ともいう)、GII型ノロウイルス(以下、ノロウイルスG2型、又は単にGII、G2等ともいう)等の複数の標的RNAを同時に検出ことが通常求められる。この際、作業が簡便であることに加え、試料のロスや飛散リスク、他試料へのコンタミネーションリスク等を抑えることができる1ステップRT-PCR反応で検査を実施できれば実用上有益である。そしてノロウイルスは感染力が強く、10~100個のウイルスで感染が成立するといわれている(非特許文献2)。このため、より高感度に検出できる方法が求められており、とりわけ1ステップRT-PCR法、なかでもGI型、GII型等の複数の標的核酸を対象とするマルチプレックスでの1ステップRT-PCR法において、高感度にノロウイルスを検出できる手法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-052265号公報
【文献】特開2015-119656号公報
【文献】特許第4437525号公報
【文献】特許第4414648号公報
【文献】特許第5354216号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】厚生労働省ホームページ、分野別の政策一覧>健康・医療>食品>食中毒>4.食中毒統計・調査結果、(2)過去の食中毒発生状況、平成30年(2018年)食中毒発生状況(https://www.mhlw.go.jp/content/H30jokyo.xls)
【文献】厚生労働省ホームページ、ノロウイルスによる食中毒の現状と対策について(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000105662.pdf)
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】試験例1の各プライマー条件における増幅曲線の代表例を示す図である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、より高感度に試料中に含まれるGII型ノロウイルス型を検出する手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記事情に鑑み、鋭意研究を行った結果、特定のオリゴヌクレオチドを核酸プライマーとして用いることで、より高感度に試料中に含まれるGII型ノロウイルスを検出できることを見出し、本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明の概要は以下の通りである。
[項1] 以下の工程を含むことを特徴とする、試料中のGII型ノロウイルスの存在を検出する方法:
(1)以下の(I)及び(II)の組合せからなる一対の核酸プライマーセットを用意する工程:
(I)配列番号6~37若しくは配列番号42~54のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー:及び
(II)配列番号4で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー、
(2)前記試料と、前記工程(1)で用意した一対の核酸プライマーセット及び耐熱性DNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液とを混合した混合液を調製する工程、及び
(3)反応容器を密閉後、1ステップRT-PCR反応を実施する工程。
[項2] 前記1ステップRT-PCR反応液が、更に以下の(III)及び(IV)の組合せからなるGI型ノロウイルスを検出するための一対の核酸プライマーセットを含む、項1に記載の方法:
(III)配列番号2で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー;及び
(IV)配列番号3で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー。
[項3] ノロウイルスGI型およびGII型をそれぞれ検出可能である、項2に記載の方法。
[項4] 前記1ステップRT-PCR反応液が、更に配列番号38、配列番号39、若しくは配列番号40で示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる核酸を含むプローブを含有する、項1から3のいずれかに記載の方法。
[項5] 前記プローブがTaqManプローブである、項4に記載の方法。
[項6] 前記試料が、核酸の単離処理も加熱処理も行っていない試料である、項1から5のいずれかに記載の方法。
[項7] 前記工程(2)及び(3)が同一容器で行われることを特徴とする、項1から6のいずれかに記載の方法。
[項8] 前記工程(3)において反応容器を密閉後、一度も蓋を開閉することなく1ステップRT-PCR反応を実施することを特徴とする項1から7のいずれかに記載の方法。
[項9] 前記工程(3)において、サイクル反応の前及び/又はサイクル反応中に、ウイルスを破砕してウイルス内の核酸を露出させるため及び/又は核酸増幅反応においてホットスタート酵素を活性化させるために熱処理を実施することを含む項1から8のいずれかに記載の方法。
[項10] 前記試料が血液試料、糞便試料、及び/又は拭き取り検査試料である項1から9のいずれかに記載の方法。
[項11] 前記試料が水、生理食塩水または緩衝液に懸濁された懸濁液である項1から10のいずれかに記載の方法。
[項12] 前記耐熱性DNAポリメラーゼが、ファミリーAに属する耐熱性DNAポリメラーゼである、項1から11のいずれかに記載の方法。
[項13] 前記耐熱性DNAポリメラーゼが、Tthポリメラーゼ、HawkZ05ポリメラーゼ、及びそれらの変異体よりなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする項1から12のいずれかに記載の方法。
[項14] 前記1ステップRT-PCR反応液が、更に1mM以上の2価陽イオンを含む、項1から13のいずれかに記載の方法。
[項15] 前記1ステップRT-PCR反応が、一酵素系1ステップRT-PCR法である、項1から14のいずれかに記載の方法。
[項16] 配列番号6~37若しくは配列番号42~54のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる、GII型ノロウイルスを検出するための核酸プライマー。
[項17] 請求項16に記載の核酸プライマーと、
配列番号4で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマーと、
を組み合わせてなる、GII型ノロウイルスを検出するための核酸プライマーセット。
[項18] 請求項17に記載のGII型ノロウイルスを検出するための核酸プライマーセットと、
配列番号2で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー及び配列番号3で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマーを組み合わせてなるGI型ノロウイルスを検出するための核酸プライマーセットと、
を含有する、GI型ノロウイルス及びGII型ノロウイルスをそれぞれ検出可能な核酸プライマーセット組成物。
[項19] 耐熱性DNAポリメラーゼと、
以下の(I)及び(II)の組合せからなる一対の核酸プライマーセットとを含有する、1ステップRT-PCR反応で試料中のGII型ノロウイルスの検査を行うための組成物:
(I)配列番号6~37若しくは配列番号42~54のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー:及び
(II)配列番号4で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー。
[項20] 前記組成物が、更に以下の(III)及び(IV)の組合せからなるGI型ノロウイルスを検出するための一対の核酸プライマーセットを含む、項19に記載の組成物:
(III)配列番号2で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー;及び
(IV)配列番号3で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー。
[項21] ノロウイルスGI型およびGII型をそれぞれ検出可能である、項20に記載の組成物。
[項22] 前記組成物が、更に配列番号38、配列番号39、若しくは配列番号40で示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる核酸を含むプローブを含有する、項19から21のいずれかに記載の組成物。
[項23] 前記プローブがTaqManプローブである、項22に記載の組成物。
[項24] 前記試料が、核酸の単離処理も加熱処理も行っていない試料である、項19から23のいずれかに記載の組成物。
[項25] 前記試料が血液試料、糞便試料、及び/又は拭き取り検査試料である、項19から24のいずれかに記載の組成物。
[項26] 前記試料が水、生理食塩水または緩衝液に懸濁された懸濁液である、項19から25のいずれかに記載の組成物。
[項27] 前記耐熱性DNAポリメラーゼが、ファミリーAに属する耐熱性DNAポリメラーゼである、項19から26のいずれかに記載の組成物。
[項28] 前記耐熱性DNAポリメラーゼが、Tthポリメラーゼ、HawkZ05ポリメラーゼ、及びそれらの変異体よりなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする項19から27のいずれかに記載の組成物。
[項29] 前記組成物が、更に1mM以上の2価陽イオンを含む、項19から28のいずれかに記載の組成物。
[項30] 前記1ステップRT-PCR反応が、一酵素系1ステップRT-PCR法である、項19から29のいずれかに記載の組成物。
[項31] 項16に記載の核酸プライマー、項17に記載の核酸プライマーセット、項18に記載の核酸プライマーセット組成物、及び/又は項19から30のいずれかに記載の組成物を含む、試料中のGII型ノロウイルスの検査を行うためのキット。
【発明の効果】
【0015】
本発明によって、ノロウイルスを含み得る試料から、高感度にGII型ノロウイルスを検出することが可能となる。また、本発明のGII型ノロウイルス検出用核酸プライマーを、GI型ノロウイルス検出用プライマーと組み合わせて、マルチプレックスRT-PCR反応を行う場合に、意外にも、GII型ノロウイルスの検出感度が向上するだけでなく、GI型ノロウイルスの検出感度も向上するという優れた効果が奏され得る。更に、本発明によれば、糞便試料、血液試料、環境拭き取り試料等の夾雑物を多く含む試料からの、ノロウイルスの高感度の検出も可能とする。本発明は、生命科学研究、臨床診断や食品衛生検査、環境検査等にも利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を示しつつ、本発明についてさらに詳説するが、本発明はこれらに限定されない。
【0017】
本発明の一つの実施態様は、試料中に含まれるGII型ノロウイルスを検出するための核酸プライマーであって、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21、配列番号22、配列番号23、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号42、配列番号43、配列番号44、配列番号45、配列番号46、配列番号47、配列番号48、配列番号49、配列番号50、配列番号51、配列番号52、配列番号53、若しくは配列番号54のいずれかで示される塩基配列(本明細書では、これらを総称して「配列番号6~37若しくは配列番号42~54のいずれかで示される塩基配列」ともいう)又はそれらに相補的な塩基配列からなる核酸プライマーである。本発明の核酸プライマーは、縮重プライマーであってもよく、その混合塩基対の表記は当該技術分野の慣用に従って、以下を示すものとする:R=AまたはG、M=AまたはC、W=AまたはT、S=CまたはG、Y=CまたはT、K=GまたはT、H=AまたはTまたはC、B=GまたはTまたはC、D=GまたはAまたはT、V=AまたはCまたはG、N=AまたはCまたはGまたはT。
【0018】
本発明の前記GII型ノロウイルスを検出するための核酸プライマーは、GII型ノロウイルスRNAの塩基配列の一部(配列番号41の4988~5048番目に対応)に対応する。本発明の核酸プライマーを用いてPCR反応(RT-PCR反応等を含む)を行う場合、PCR反応に用いるプライマー対としては、一方のプライマーが他方のプライマーのDNA伸長生成物に互いに相補的である2種一対のプライマーであり得る。また、別の実施形態として、上記プライマーが2対以上含まれる、いわゆるマルチプレックスPCRとすることもできる。さらに、ターゲットとする核酸が亜型からなる場合、縮重プライマーを含んでもよい。本発明においては、特定の好ましい実施形態として、前記の各配列番号で示される塩基配列からなるGII型ノロウイルスを検出するための核酸プライマーをフォワードプライマーとし、従来公知のGII型ノロウイルス検出用核酸プライマーをリバースプライマーとする一対の核酸プライマーセットとして用いることができる。
【0019】
従来公知のノロウイルス検出用核酸プライマーの例としては、例えば、厚生労働省医薬食品局安全部監視安全課の通知(食安監1105001号)に記載のプライマー(GII型ノロウイルス検出のためのフォワードプライマーとして、配列番号1の核酸プライマー(COG2F)、配列番号5の核酸プライマー(ALPF);GII型ノロウイルス検出のためのリバースプライマーとして、配列番号4の核酸プライマー(COG2R);GI型ノロウイルス検出のためのフォワードプライマーとして、配列番号2の核酸プライマー(COG1F);GI型ノロウイルス検出のためのリバースプライマーとして、配列番号3の核酸プライマー(配列番号3))が挙げられるが、これらに限るものではない。好ましい実施形態では、配列番号6~37若しくは配列番号42~54のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる本発明の核酸プライマーと、配列番号4(COG2R)で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマーとで構成される一対の核酸プライマーセットとして用いることで、より高感度にGII型ノロウイルスを検出することができる。
【0020】
更なる実施形態では、GII型ノロウイルスを検出するための本発明の前記一対の核酸プライマーセットと共に、配列番号2(COG1F)で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマーと、配列番号3(COG1R)で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列とで構成される一対の核酸プライマーセットも組み合わせて、GI型及び/又はGII型ノロウイルスを検出するためのマルチプレックスRT-PCR反応を行うこともできる。本発明の前記核酸プライマーを用いることにより、例えば、マルチプレックスでの1ステップRT-PCR反応において、良好な感度でGI型ノロウイルス及び/又はGII型ノロウイルスをそれぞれ検出することができる。
【0021】
更なる本発明の実施態様の一つは、試料中に含まれるGII型ノロウイルスを検出するための核酸プライマーセットであって、以下の(I)及び(II)の組み合わせからなる核酸プライマーセットを提供する。
(I)配列番号6~37若しくは配列番号42~54のいずれかで示される塩基配列又はそれらに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー;及び
(II)配列番号4で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー。
一つの実施形態では、より確実に高い本発明の効果が奏されるという観点から、前記(I)に示す核酸プライマーをフォワードプライマーとし、前記(II)に示す核酸プライマーをリバースプライマーとして用いることが好ましい。本発明の前記核酸プライマーセットは、例えば、1ステップRT-PCR反応において好適に使用することができる。
【0022】
また、本発明の前記核酸プライマー又は前記核酸プライマーセットは、GI型ノロウイルスを検出するための一対の任意の核酸プライマーセットを組合わせて使用されることが好ましく、なかでも以下の(III)及び(IV)の組合せからなるGI型ノロウイルスを検出するための一対の核酸プライマーセットと組み合わせて使用することが好ましい。
(III)配列番号2で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー。
(IV)配列番号3で示される塩基配列又はそれに相補的な塩基配列からなる核酸プライマー。
GI型ノロウイルスを検出するための一対の核酸プライマーセットとして、前記(III)及び(IV)に示される一対の核酸プライマーセットを用いる場合、限定はされないが、より確実に高い本発明の効果が奏されるという観点から、前記(III)に示す核酸プライマーをフォワードプライマーとし、前記(IV)に示す核酸プライマーをリバースプライマーとして用いることが好ましい。
【0023】
本発明で示される核酸プライマーセットは、GI型ノロウイルスを検出するための一対の核酸プライマーセットを含むことで、GI型ノロウイルスおよびGII型ノロウイルスを1ステップRT-PCR反応にて、高感度に同時に検出することが可能である。具体的に、後述の試験例の結果にも示されるように、GII型ノロウイルスを検出するための本発明の核酸プライマーを使用することで、GI型ノロウイルスも同時に検出する場合に、GI型ノロウイルスの検出感度を向上させ得るという全く予想外の優れた効果が発揮される。
【0024】
本発明の核酸プライマーを用いてノロウイルスを検出する場合において、使用する本発明の核酸プライマー濃度としては、本発明の効果を奏する限り、特に限定はされないが、RT-PCR反応液全体に対して、フォワードプライマーの濃度が0.1μM以上3μM以下であり、かつ前記リバースプライマーの濃度が0.1μM以上3μM以下であることが好ましい。より好ましくは、フォワードプライマーの濃度が0.1μM以上2μM以下であり、かつ前記リバースプライマーの濃度が0.5μM以上2μM以下とすることで、より高感度なGII型ノロウイルスの検出が可能となる。本発明の核酸プライマーと組み合わせて用いられるGII型ノロウイルスを検出する他方の核酸プライマーの濃度、並びに、GI型ノロウイルスを検出するための一対の核酸プライマーセットを用いる場合のGI型ノロウイルスを検出するための各核酸プライマーの濃度も、前記核酸プライマー濃度と同程度の使用量とすることが好ましい。
【0025】
ノロウイルスは、食中毒の原因ウイルスのひとつであり、日本での食中毒患者の半数はノロウイルスが原因である(非特許文献1)。ノロウイルスの感染は、感染者の糞便や吐瀉物、あるいは食品を介して起こると言われている。
【0026】
ノロウイルスは、大きく、GI型ノロウイルス及びGII型ノロウイルスの遺伝子型で分類されることが知られている。そして、GI型ノロウイルスとGII型ノロウイルスを判別することが、感染経路の推定などの疫学的データを収集する観点から望まれている。本発明の核酸プライマーを用いたノロウイルスの検査法では、GI型ノロウイルスを検出するための一対の核酸プライマーセットを組合わせても高感度な検出が可能であり、それによりGII型ノロウイルスの存在を確認できるだけでなく、感染しているノロウイルスがGI型であるかGII型であるかの判別(鑑別)も可能であるという点で非常に有益である。
【0027】
本発明の核酸プライマーを用いて、試料中のノロウイルスの存在を検査するための方法は、少なくとも以下の工程が含まれることを特徴としたGII型ノロウイルスの存在を検査するための方法である。
(1)GII型ノロウイルスを検出可能な特定の塩基配列からなる核酸プライマーの組合せで構成される一対の核酸プライマーセットを用意する工程;
(2)試料と、前記工程(1)で用意した一対の核酸プライマーセット並びに耐熱性DNAポリメラーゼおよび任意で逆転写酵素を含む1ステップRT-PCR反応液とを混合した混合液を調製する工程;及び
(3)反応容器を密閉後、1ステップRT-PCR反応を実施する工程。ここで、前記工程(2)における混合液を調製する工程は、例えば、試料に、本発明の核酸プライマーを含む一対の核酸プライマーセット及び耐熱性DNAポリメラーゼ等を含有する1ステップRT-PCR反応液を添加することによって行うことができるが、配合順序は問わない。
【0028】
更なる実施形態として、本発明の前記検査方法においては、工程(1)の前に、工程(1’)としてノロウイルスを含み得る試料に対して、核酸の単離精製処理又は化学的・熱力学的な処理等の前処理を行うことで、試料中のノロウイルスキャプシド構造からRNAを露出させる工程を更に含んでもよい。前記工程(1’)は前期工程(3)の1ステップRT-PCR反応中において、同時に行っても良い。前記工程(1)から(3)又は前記工程(1’)から(3)は、すべて同一容器で行われることが好ましい。すなわち、工程(1)から(3)又は前記工程(1’)から(3)の間においては、混合液の全部または一部を別容器へ移し替えないことが好ましい。更には、工程(3)においては、反応容器を密閉後、反応容器の蓋の開閉を行わないことが好ましい。また、前記工程(1)で使用する試料は、事前に遠心分離操作等を行わず不溶性物質を含みうる試料や、事前に水または緩衝液等にて懸濁した懸濁液であってよく、糞便試料等の試料を1ステップRT-PCR反応液に直接添加してもよい。
【0029】
本発明の核酸プライマー又は核酸プライマーセットを利用したノロウイルスの検出方法の更なる実施態様としては、さらに、少なくとも1種類の標識されたハイブリダイゼーションプローブまたは2本鎖DNA結合蛍光化合物を用いる検出方法である。これによって、増幅産物の分析を通常の電気泳動ではなく、蛍光シグナルのモニタリングで監視することができ、解析労力が低減される。さらには、反応容器を開放する必要がなく、コンタミネーションのリスク低減が可能である。ウイルスのサブタイプに対応する、それぞれのハイブリダイゼーションプローブを異なる蛍光色素で標識することによって、ウイルスのサブタイプを識別することも可能である。より優れた特異性を示すことができるという観点から、限定はされないが、ハイブリダイゼーションプローブを用いることが好ましい。
【0030】
2本鎖DNA結合蛍光化合物としては、例えば、SYBR(登録商標) Green I,SYBR(登録商標) Gold、SYTO-9、SYTP-13、SYTO-82(Life Technologies),EvaGreen(登録商標;Biotium)、LCGreen(Idaho),LightCycler(登録商標) 480 ResoLight(Roche Applied Science)などが挙げられる。
【0031】
本発明において用いられるハイブリダイゼーションプローブとしては、例えば、TaqManプローブ(Taq Man加水分解プローブ等ともいう;米国特許第5,210,015号公報、米国特許第5,538,848号公報、米国特許第5,487,972号公報、米国特許第5,804,375号公報)、モレキュラービーコン(米国特許第5,118,801号公報)、FRETハイブリダイゼーションプローブ(国際公開第97/46707号パンフレット,国際公開第97/46712号パンフレット,国際公開第97/46714号パンフレット)などが挙げられ、なかでもTaq Manプローブを用いることが好ましい。ノロウイルス検出用のプローブの塩基配列としては、厚生労働省医薬食品局安全部監視安全課の通知(食安監1105001号)に記載の配列(配列番号38~40)が挙げられ、本発明においても好適に使用することができるが、これに限るものではない。前記記載のプローブ配列では、配列番号38または39によりノロウイルスG1型、配列番号40によりノロウイルスG2型を検出する。さらに、ターゲットとする核酸が亜型からなる場合、縮重配列を含んでもよい。蛍光標識プローブの濃度としては、0.01μM以上1.0μM以下であることが好ましい。より好ましくは、0.013μM以上0.75μM以下であり、更に好ましくは、0.02μM以上0.5μM以下である。
【0032】
本発明を利用したにおいて用いられる試料として、例えば糞便(排泄便、直腸便)、嘔吐物、唾液などが挙げられるが、限定されるものではなく、生体に由来するもの全般に用いることが可能であり、特に糞便(排泄便、直腸便)からの検出に有用である。前記試料は直接検出に供してもよいし、夾雑物の反応への影響を低減し、より安定した検査結果を得るために、水、生理食塩水または緩衝液に前記試料を懸濁した試料であってもよい。前記緩衝液としては、特に限定されるものではないが、ハンクス緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、グリシン緩衝液、HEPES緩衝液、トリシン緩衝液などが挙げられる。
【0033】
本発明における別の態様の試料としては、拭き取り検査試料に代表される環境に由来する試料である。汚染経路の解明や施設環境等の汚染状況の把握には、ふき取り検査が有用である。本発明において、拭き取り検査とは、特に限定されるものでないが、例えば綿棒等で該当区画や設備等を拭き取り、水や緩衝液に溶出し、ポリエチレングリコール(PEG)沈澱などで濃縮した試料である。具体的な拭き取り検査の要領としては、「ふきとり検体のノロウイルス検査法の改良」(http://idsc.nih.go.jp/iasr/32/382/dj3824.html)などが例示されるが、特に限定はされるものではなく、これに準ずる方法が広く含まれる。拭き取り箇所の例としては、まな板や包丁、ふきん、食器などの調理器具類、冷蔵庫の取手やトイレ、浴室のドアノブ、洗面所、厨房、トイレ、浴室などの蛇口、調理者の手や指、浴室、トイレ、洗面、手すり、居室などの施設などが挙げられる。また、拭き取り検査ではないが、環境検査として、下水試料の濃縮試料にも適用できる。これらの検査試料は、検査場所の汚れやほこりなどの夾雑物を多量含むことから、高感度化を達成しうる本発明の検査手法は、これらの検査に対して有益である。
【0034】
特定の好ましい実施形態では、本発明において用いられる試料(例えば、生体に由来する試料(生体からの分泌物や排泄物等を含む)、環境に由来する試料等)は、例えば事前に市販のRNA精製キット等を用いる試料からの核酸の単離操作及び/又は事前に加熱処理してRNAをウイルス構造から露出させる操作を実施していない試料であってもよい。本発明の方法では、このような事前の核酸単離も加熱処理も省いた試料であっても、1ステップRT-PCR反応のサイクル反応の前及び/又はサイクル反応中に熱処理を内包させて、ウイルス構造からRNAを露出させ、RT-PCR反応に供することができる。このようにして事前の核酸の単離処理も加熱処理も行っていない試料を用いることで、より一層簡便に短時間でウイルスRNAの検査が行えるだけでなく、試料のロスやキャリーオーバーによる他のサンプルへの汚染の危険性を低減することができる。特に糞便を試料とする多数の検体を処理するような検査において、その効果は顕著となる。
【0035】
更に特定の実施形態では、本発明に用いられる試料は、必要に応じて水、生理食塩水または緩衝液等の液体に試料を懸濁した後に、事前の遠心分離操作を行わず、不溶性物質を含むそのままの状態の試料であってもよい。前記のような、事前の遠心分離操作を行わず不溶性物質を含む試料をRT-PCR反応に用いると、濁度の高い反応液となり、その反応液中に含まれる不溶性物質が光の散乱や吸収、自家蛍光による影響等を与え、リアルタイムPCR機での測定時に検出できる蛍光強度が大幅に低下し、感度が低下することが懸念される。しかしながら、本発明の核酸プローブ又は核酸プローブセットを用いることで、高感度な検出が可能になるので、本発明はこのような不溶性物質を含む試料を用いる場合でも十分な検出感度が得られる。例えば、試料を混合後のRT-PCR反応液の濁度がOD660において0.01~5.0Abs/μLとなる場合、例えば、OD660において1.0~3.0Abs/μL程度の濁度を示す場合にも、本発明によればGII型ノロウイルスを良好な感度で検出可能であることが期待できる。
【0036】
前記工程(3)におけるRT-PCRサイクルは、1.熱処理、2.逆転写反応、3.PCRの3ステップから成る。各ステップの前後に、ホットスタート酵素を活性化させるための熱処理工程を含んでもよい。1の熱処理工程では、ウイルスを破砕してウイルス内の核酸を露出させる、及び/もしくは核酸増幅反応においてホットスタート酵素を活性化させる工程を含む。これらの熱処理工程を含むことにより、ウイルスのキャプシド構造からRNAを露出(溶出)させることが可能となる。前記熱処理工程の温度及び時間は、60℃以上であり、かつ1秒以上であればよく、好ましくは70℃、30秒以上、より好ましくは80℃、30秒以上、特に好ましくは85℃、30秒以上である。2の逆転写反応の温度は、耐熱性DNAポリメラーゼの逆転写活性と、プライマー及びプローブのTm値によって決定され、少なくとも25℃以上であればよい。より好ましくは37℃以上である。3のPCRでは、[1]熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの解離)、[2]鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、[3]DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、の3ステップを含んでいればよく、[2]と[3]を同一の温度で実施して、2ステップとしてもよい。迅速なRT-PCRを実施するためには、前記RT-PCR反応に使用するサーマルサイクラーは、前記[2]と[3]のステップの伸長時間を合わせて15秒以下、より好ましくは10秒以下の測定プログラムを設定することが望ましい。なお、本明細書において「PCRの伸長時間」とは、サーマルサイクラーでの設定温度を指す。
【0037】
前記工程(2)にて添加される1ステップRT-PCR溶液は、耐熱性DNAポリメラーゼを含むことを特徴とする。前記工程(2)で用いる1ステップRT-PCR反応液は、逆転写活性を有していない耐熱性DNAポリメラーゼを使用してもよい。逆転写活性を有していない耐熱性DNAポリメラーゼを使用する場合は、逆転写酵素と組み合わせて用いることにより、二酵素系の1ステップRT-PCR反応を行うことができる。更に、前記工程(2)で用いる1ステップRT-PCR反応液は、耐熱性DNAポリメラーゼは逆転写活性を有していてもよく、このような逆転写活性を有した耐熱性DNAポリメラーゼを用いる場合には1酵素系1ステップRT-PCR反応が実施できる。逆転写活性を有するDNAポリメラーゼとは、RNAをcDNAに変換する能力とDNAを増幅する能力を兼ね備えたDNAポリメラーゼである。また、耐熱性とは、70℃で1分以上の熱処理を実施しても、酵素活性が半分以上低下しないことをいう。由来は特に限定されるものではないが、Taq、Tth,Bst,Bca,KOD,Pfu,Pwo、Tbr,Tfi,Tfl,Tma,Tne、Vent,DEEPVENTやこれらの変異体が挙げられる。これまでに逆転写活性を有するDNAポリメラーゼとして、Thermus aquaticus由来のDNAポリメラーゼ(Taq)、Thermus thermophilus HB8由来のDNAポリメラーゼ(Tth)やThermus sp Z05由来のDNAポリメラーゼ(Z05)、Thermotoga maritima由来のDNAポリメラーゼ(Tma)、Bacillus caldotenax由来のDNAポリメラーゼ(Bca)、Bacillus stearothermophilus由来のDNAポリメラーゼ(Bst)などが挙げられ、これらの逆転写活性と耐熱性DNAポリメラーゼ活性が失われていない変異体であってもよい。また、Thermococcus kodakaraensis由来のDNAポリメラーゼ(KOD)の変異体であって、逆転写活性を有するものが知られており(例えば、RTX:reverse transcription xenopolymerase)、前記工程(2)にて添加されるRT-PCR反応液に含まれる耐熱性DNAポリメラーゼとしては、このような耐熱性DNAポリメラーゼであれば、限定されるものではない。特に好ましくは、ファミリーAに属するDNAポリメラーゼが挙げられ、好ましくは、Taq、Tth、Z05及びこれらの変異体からなる群より選択・BR>ウれる逆転写活性を有する耐熱性DNAポリメラーゼが挙げられる。なかでも好ましくは、Tthポリメラーゼ、Hawk Z05ポリメラーゼ、及びそれらの変異体よりなる群より選択される少なくとも1つである。1ステップRT-PCR反応液に含まれる前記耐熱性DNAポリメラーゼの総量は、一例として、少なくとも4.2ng/μL以上あればよく、5.0ng/μL以上であることが好ましく、5.8ng/μL以上であることがより好ましい。なかでも好ましくは、8.3ng/μL以上である。1ステップRT-PCR反応液に含まれる前記耐熱性DNAポリメラーゼの総量の上限は特に限定されないが、一例として、20ng/μL以下とすることができ、16.7ng/μL以下であっても十分に本発明の効果を得ることができる。ポリメラーゼの量は、Bradford法もしくはNanodrop(サーモフィッシャー社)により定量した値であり、安全データシート(SDS)から概算してもよい。BSAなどのタンパク質を含む場合は、後者の方法で算出することが望ましい。
【0038】
本明細書において、耐熱性DNAポリメラーゼの変異体とは、その由来である野生型DNAポリメラーゼのアミノ酸配列に対して、例えば85%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上、なかでも好ましくは99%以上の配列同一性を有し、且つ、野生型DNAポリメラーゼと同様にDNAを増幅する活性、及び必要に応じてRNAをcDNAに変換する活性を有するものをいう。ここで、アミノ酸配列の同一性を算出する方法としては、当該分野で公知の任意の手段で行うことができる。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができ、一例として、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、アミノ酸配列の同一性を算出することが可能である。また、本発明に用いられ得る変異体は、その由来である野生型DNAポリメラーゼのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入および/または付加(以下、これらを纏めて「変異」ともいう)したアミノ酸配列からなるポリペプチドであり、且つ、野生型DNAポリメラーゼと同様にRNAをcDNAに変換する活性及びDNAを増幅する活性を有するものであってもよい。ここで1又は数個とは、例えば、1~80個、好ましくは1~40個、よりこのましくは1~10個、さらに好ましくは1~5個、更により好ましくは1~3個であり得るが、特に限定されない。
【0039】
前記工程(2)にて添加される1ステップRT-PCR反応液は、非特異的反応抑制の効果を高めるため、抗DNAポリメラーゼ抗体との併用、あるいは化学修飾により熱不安定ブロック基のDNAポリメラーゼへ導入することで、1ステップRT-PCR反応を実施する前に、DNAポリメラーゼの酵素活性を抑制され、ホットスタートPCRへの適用ができることが好ましい。
【0040】
前記工程(2)にて添加される1ステップRT-PCR反応液には、耐熱性DNAポリメラーゼの他、緩衝剤、適当な塩、マグネシウム塩又はマンガン塩、デオキシヌクレオチド三リン酸、検出対象のウイルスRNAの検出対象領域に対応するプライマー対、さらに必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。
【0041】
前記工程(2)にて添加される1ステップRT-PCR溶液は、逆転写酵素を含んでいても良い。なかでも、前記工程(1)における1ステップRT-PCR反応液が、逆転写活性を有していない耐熱性DNAポリメラーゼを用いる場合には、逆転写酵素を更に含むことが好ましい。耐熱性DNAポリメラーゼとは異なる逆転写酵素を含む場合、2酵素系1ステップRT-PCR反応が実施できる。前記1ステップRT-PCR反応液に含まれる逆転写酵素としては、RNAをDNAに変換できれば特に限定されないが、MMLV(Moloney Murine Leukemia Virus)-RT、AMV-RT(Avian Myeloblastosis Virus)、HIV-RT、RAV2-RT、EIAV-RT、カルボキシドサーマス・ハイドロゲノフォルマン(Carboxydothermus hydrogenoformam)DNAポリメラーゼ)やその変異体が例示される。より好ましい例としては、MMLV-RT、AMV-RT、またはそれらの変異体である。逆転写酵素の変異体としては、前記耐熱性DNAポリメラーゼ変異体と同様に、アミノ酸配列の同一性等の観点から、野生型の逆転写酵素のアミノ酸配列と相同性の高い変異体(例えば、90%以上のアミノ酸配列同一性を示す変異体、又は野生型のアミノ酸配列において1又は数個のアミノ酸の改変を有する変異体等)を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0042】
前記工程(2)にて添加される1ステップRT-PCR溶液に含まれる緩衝剤としては、特に限定されないが、トリス(Tris),トリシン(Tricine),ビスートリシン(Bis-Tricine),ビシン(Bicine)などが挙げられる。硫酸、塩酸、酢酸、リン酸などでpHを6~9、より好ましくはpH7~9に調整されたものである。また、添加する緩衝剤の濃度としては、10~200mM,より好ましくは20~150mMで使用される。この際、反応に適当なイオン条件とするために、塩溶液が加えられる。塩溶液としては、塩化カリウム、酢酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0043】
前記工程(2)にて添加される1ステップRT-PCR溶液に含まれるdNTPとしては、dATP,dCTP,dGTP,dTTPがそれぞれ0.1~0.5mM、最も一般的には0.2mM程度加えられる。dTTPの代わり及び/又は一部としてdUTPを使用することによって、クロスコンタミネーションに対する予防処置をとってもよい。クロスコンタミネーションに対する予防処置を講じる場合、Uracil-N-glycosylase(UNG)を含むことが好ましい。
【0044】
更に、前記工程(2)にて添加される1ステップRT-PCR溶液には、2価陽イオンを含むことが好ましい。このように2価陽イオンを含むことで、より安定して高い夾雑耐性が得られ高感度な検出が可能となる。2価陽イオンとしては、特に限定されないが、マグネシウムイオン、マンガンイオン、カルシウムイオン、銅イオン、鉄イオン、ニッケルイオン、亜鉛イオン等を挙げることができる。好ましくは、2価陽イオンとして、マグネシウムイオン、マンガンイオンを含むことが好ましい。本発明において、1ステップRT-PCR反応液にマグネシウムイオンやマンガンイオン等を添加する場合は、マグネシウムやマンガンを添加してもよいし、これらの塩を添加してもよい。マグネシウム又はその塩としては、マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酢酸マグネシウム等が例示され、マンガン又はその塩としては、マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガン、酢酸マンガンなどが例示される。このようなマグネシウム、マンガン、又はこれらの塩は、RT-PCR反応液中に1~10mM程度加えられることが好ましい。本発明のRNAウイルス検査方法において安定的に高い感度が得られ易いという観点からは、マンガン又はその塩を含むことが好ましい。特定の実施態様では、RT-PCR反応液において1mM以上のマンガン又はその塩を含むことが好ましく、1.5mM以上のマンガン又はその塩を含むことが好ましく、2.0mM以上のマンガン又はその塩を含むことがより好ましい。
【0045】
さらに1ステップRT-PCR反応液に含まれる添加剤として、アミノ酸におけるアミノ基に3個のメチル基を付加した構造を有する第4級アンモニウム塩(以下、「ベタイン様4級アンモニウム」という)、ウシ血清アルブミン、セリシン、BFP、グリセロール、グリコール、ゼラチン及び界面活性剤よりなる群から選択された少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0046】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるウシ血清アルブミンの濃度は特に限定されないが、RT-PCR反応液全体に対して、好ましくは少なくとも0.5mg/ml以上、より好ましくは少なくとも1mg/ml以上である。夾雑物の多い試料では、ウシ血清アルブミンの濃度が好ましくは2mg/ml以上、さらに好ましくは3mg/ml以上で、良好な検出が可能となる。上限は特に限定されないが、一例として、10mg/ml以下とすることができる。
【0047】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれる界面活性剤としては、トリトンX-100(TritonX-100)、トリトンX-114(TritonX-114)、ツイーン20(Tween20),ノニデットP40、Briji35、Briji58、SDS、CHAPS、CHAPSO、Emulgen420などが挙げられるが、特に限定されない。RT-PCR反応液中の前記界面活性剤の濃度も特に限定はされないが、好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.002%以上、さらに好ましくは0.005%以上で、良好な検出が可能となる。上限は特に限定されないが、一例として、0.1%以下とすることができる。
【0048】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるベタイン様4級アンモニウムとしては、ベタイン(トリメチルグリシン)、カルニチンなどが挙げられるが、特に限定されるものではない。ベタイン構造は分子内に安定な正、負の両電荷を持つ化合物で、界面活性剤のような性質を示し、ウイルス構造の不安定化を引き起こすと考えられる。さらに、DNAポリメラーゼの核酸増幅を促進することが知られる。好ましい前記ベタイン様4級アンモニウム濃度は、0.1M~2M、より好ましくは0.2M~1.2Mである。
【0049】
さらには、当該技術分野でRT-PCRを促進することが知られる物質と組み合わせて使用することもできる。有用な促進物質とは、例えば、グリセロール、ポリオール、プロテアーゼインヒビター、シングルストランド結合タンパク質(SSB)、T4遺伝子32タンパク質、tRNA、硫黄または酢酸含有化合物類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、エクトイン、トレハロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP),塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。さらに反応阻害を低減するように、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N’,N’-四酢酸(EGTA)、1,2-ビス(o-アミノフェノキシ)エタン-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)のようなキレート剤を含んでいてもよい。
【0050】
本発明の別の一態様は、本発明の核酸プライマー又は核酸プライマーセットを含むGII型ノロウイルスRNAの検査用キットまたは組成物である。前記キットは更に、GI型ノロウイルスRNAを検出可能な核酸プライマー又は核酸プライマーセットも含むことができ、これにより、GII型ノロウイルス及びGI型ノロウイルスをそれぞれ検出可能な検査用キット又は組成物とすることもできる。特定の好ましい実施形態では、これらの本発明の検査用キット又は組成物は、耐熱性DNAポリメラーゼを更に含有することができる。ここで耐熱性DNAポリメラーゼが逆転写活性を有していないものである場合には、逆転写酵素を更に含有することが好ましい。更なる好ましい実施形態としては、本発明のノロウイルス検査用キット又は組成物は、1ステップRT-PCRを実施できる反応液(1ステップRT-PCR反応液)を含むことを特徴とする、検査用キットまたは組成物である。
【0051】
この実施態様において使用される、耐熱性DNAポリメラーゼまたは任意で逆転写酵素の種類や量、プライマー又はプローブの種類や量、検査対象となるRNAウイルス等は、前記のRNA検査方法において詳述したものと同様であり得る。本発明の検査用キットは、例えば、本発明の使用方法を説明する使用説明書等を含むことができる。例えば、本発明の検査用キットは、GII型ノロウイルスを検出するための本発明の核酸プライマー又は核酸プライマーセットと、必要に応じて含まれ得る、GI型ノロウイルスを検出するための核酸プライマー又は核酸プライマーセットと、耐熱性DNAポリメラーゼと、逆転写酵素とを同じ容器に封入したもの又は別々の容器に封入したものを、例えば一つの包装体に梱包し、当該キットの使用方法に関する情報を含む態様で提供することができる。
【実施例
【0052】
以下、実施例をもって、本発明を具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0053】
試験例1.各プライマーを用いた検討1
(1)ノロウイルス液の調製
ノロウイルスのサンプルとして、ノロウイルス検体であるNorovirus GIおよびGII Positive Control(ZeptoMetrix、intact)を利用した。G1型およびG2型ノロウイルスの各検体を、1反応当たり250、50、25、10コピー相当添加した。10コピーの条件はN=3の測定を実施した。
(2)反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、1酵素系1ステップRT-PCRにおいて、反応液中のノロウイルスを検出した。プライマーに関しては、(3)に記載した濃度にて各プライマーを添加した。
反応液
2x Master Mix(RNA-directTMRealtime PCR Master mix(東洋紡)添付品)
10x プローブ液(TaqManプローブ)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)20x Mn(OAc)(RNA-directTM Realtime PCR Master mix(東洋紡)添付品)
前記各試薬および、(3)にて記載するプライマー液を混合し、最終液量が49μLとなるようにRT-PCR反応液を調製した。RT-PCR反応液に、ノロウイルス液を1μLずつ添加し、50μL反応系としてRT-PCRを実施した。
(3)プライマー
以下のプライマーをPCR時の最終濃度が下記の濃度となるように反応液中に添加した。また、表1で記載したプライマーを同様に添加した。
0.5μM COG1F(配列番号2)
0.5μM COG1R(配列番号3)
0.5μM COG2R(配列番号4)
0.1μM ALPF(配列番号5)
0.5μM [表1で記載のプライマー]
【表1】
【0054】
(4)RT-PCR反応条件
これをBioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。60℃、40サイクルの伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
90℃ 1分(熱処理条件)
58℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 1秒-60℃ 10秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-60℃ 10秒 40サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(5)結果
結果の評価は、基準となる条件1(従来のGII型ノロウイルス検出用フォワードプライマー;COG2F)との比較にて行った。測定にて得られたCt値は表2および表3にて記載した。条件1では10コピー/反応の検出が不可能であったが、条件6および条件17以外において10コピー/反応の検出を確認した。また、図1には増幅曲線の代表例を記載した。条件6のように、10コピー/反応の検出数としては変化がないものであっても、非特異増幅量が低減されたことにより、反応性が向上し増幅曲線の立ち上がりが改善していた。また、本発明の核酸プライマーを用いることで、予想外に、GII型のみならず、GI型の検出感度も良好になる傾向が示された。
【表2】

【表3】
【0055】
試験例2.実検体における感度比較検討1
(1)検体
ノロウイルス陰性および陽性を含む90検体の糞便を10%糞便懸濁液とした。糞便懸濁液は遠心分離(12,000rpm、5分間)を実施し、上清を得た。
(2)反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、1酵素系1ステップRT-PCRにおいて、反応液中のノロウイルスを検出した。
反応液
2x Master Mix(RNA-directTMRealtime PCR Master mix(東洋紡)添付品)
10x プローブ液(TaqManプローブ)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
20x Mn(OAc)(RNA-directTM Realtime PCR Master mix(東洋紡)添付品)
前記各試薬および、(3)にて記載するプライマー液を混合し、最終液量が49μLとなるようにRT-PCR反応液を調製した。RT-PCR反応液に(1)にて調製した糞便懸濁液の上清を1μLずつ添加し、50μL反応系としてRT-PCRに供した。
(3)プライマー
以下のプライマーをPCR時の最終濃度が下記の濃度となるように反応液中に添加した。また、表4で記載したプライマーを同様に添加した。
0.5μM COG1F(配列番号2)
0.5μM COG1R(配列番号3)
0.5μM COG2R(配列番号4)
0.1μM ALPF(配列番号5)
0.5μM [表4で記載のプライマー]
【表4】
【0056】
(4)RT-PCR反応条件
これをBioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。60℃、40サイクルの伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
90℃ 1分(熱処理条件)
58℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 1秒-60℃ 10秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-60℃ 10秒 40サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(5)結果
各プライマーの条件における陰性検体数および陽性検体数の比較をおこなった。結果は条件1(従来のGII型ノロウイルス検出用フォワードプライマー;COG2F)との比較にておこなった。表5で示す通り、条件3、4、5ではG1およびG2両者において陽性検体数は増加し、感度の向上を確認した。条件2においては、G1検体の陽性数が条件1と比較し減少していたものの、G2陽性数に関しては条件1と比較し上昇していた。
【表5】
【0057】
試験例3.実検体における感度比較検討2
(1)検体
ノロウイルス陰性および陽性を含む85検体の糞便を10%糞便懸濁液とした。糞便懸濁液は遠心分離(12,000rpm、5分間)を実施し、上清を得た。
(2)反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、2酵素系1ステップRT-PCRにおいて、反応液中のノロウイルスを検出した。
2x反応液(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出 Quick step-(東洋紡)添付品)
10x プローブ液(TaqManプローブ)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出 Quick step-(東洋紡)添付品)
10x 酵素液(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出 Quick step-(東洋紡)添付品)
前記各試薬および、(3)にて記載するプライマー液を混合し、最終液量が45μLとなるようにRT-PCR反応液を調製した。ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出 Quick step-(東洋紡)添付品の前処理液3μLに、糞便懸濁液の上清を1μLずつ添加し、前処理液と糞便懸濁液上清の混合物の上から、RT-PCR反応液45μLを添加し、49μL反応系としてRT-PCRに供した。
(3)プライマー
以下のプライマーをPCR時の最終濃度が下記の濃度となるように反応液中に添加した。また、表6で記載したプライマーを同様に添加した。
0.5μM COG1F(配列番号2)
0.5μM COG1R(配列番号3)
0.5μM COG2R(配列番号4)
0.1μM ALPF(配列番号5)
0.5μM [表6で記載のプライマー]
【表6】
【0058】
(4)RT-PCR反応条件
これをBioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。52℃、40サイクルの伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
42℃ 4分(逆転写条件)
95℃ 1分
95℃ 1秒-52℃ 10秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-52℃ 10秒 40サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(5)結果
各プライマーの条件における陰性検体数および陽性検体数の比較をおこなった。結果は条件1(従来のGII型ノロウイルス検出用フォワードプライマー;COG2F)との比較にておこなった。表7で示す通り、条件2、3ともにG1およびG2両者において陽性検体数は増加し、感度の向上を確認した。
【表7】
【0059】
試験例4.各プライマーを用いた検討2
(1)ノロウイルス液の調製
ノロウイルスのサンプルとして、ノロウイルス検体であるNorovirus GIおよびGII Positive Control(ZeptoMetrix、intact)を利用した。G1型およびG2型ノロウイルスの各検体を、1反応当たり50、25、10コピー相当添加した。
(2)反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、1酵素系1ステップRT-PCRにおいて、反応液中のノロウイルスを検出した。プライマーに関しては、(3)に記載した濃度にて各プライマーを添加した。
反応液
2x Master Mix(RNA-directTM Realtime PCR Master mix(東洋紡)添付品)
10x プローブ液(TaqManプローブ)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
20x Mn(OAc)(RNA-directTM Realtime PCR Master mix(東洋紡)添付品)
前記各試薬および、(3)にて記載するプライマー液を混合し、最終液量が49μLとなるようにRT-PCR反応液を調製した。RT-PCR反応液に、ノロウイルス液を1μLずつ添加し、50μL反応系としてRT-PCRを実施した。
(3)プライマー
以下のプライマーをPCR時の最終濃度が下記の濃度となるように反応液中に添加した。
また、表1で記載したプライマーを同様に添加した。
0.5μM COG1F(配列番号2)
0.5μM COG1R(配列番号3)
0.5μM COG2R(配列番号4)
0.1μM ALPF(配列番号5)
0.5μM [表8に記載のプライマー]
【表8】
【0060】
(4)RT-PCR反応条件
これをBioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。60℃、40サイクルの伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
90℃ 1分(熱処理条件)
58℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 1秒-60℃ 10秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-60℃ 10秒 40サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(5)結果
結果の評価は、基準となる条件1(従来のGII型ノロウイルス検出用フォワードプライマー;COG2F)との比較にて行った。測定にて得られたCt値は表9にて記載した。条件1では10コピー/反応の検出が不可能であったが、条件2から条件14すべてにおいて10コピー/反応の検出を確認した。また、本発明の核酸プライマーを用いることで、予想外に、GII型のみならず、GI型の検出感度も良好になる傾向が示された。
【表9】
【0061】
試験例5.実検体における感度比較検討3
(1)検体
ノロウイルス陰性および陽性を含む24検体の糞便を10%糞便懸濁液とした。糞便懸濁液は遠心分離(12,000rpm、5分間)を実施し、上清を得た。
(2)反応液
以下に示される組成の反応液を基本組成とし、1酵素系1ステップRT-PCRにおいて、反応液中のノロウイルスを検出した。
反応液
2x Master Mix(RNA-directTM Realtime PCR Master mix(東洋紡)添付品)
10x プローブ液(TaqManプローブ)
(ノロウイルス検出キットG1/G2-高速プローブ検出-(東洋紡)添付品)
20x Mn(OAc)2(RNA-directTM Realtime PCR Master mix(東洋紡)添付品)
前記各試薬および、(3)にて記載するプライマー液を混合し、最終液量が49μLとなるようにRT-PCR反応液を調製した。RT-PCR反応液に(1)にて調製した糞便懸濁液の上清を1μLずつ添加し、50μL反応系としてRT-PCRに供した。
(3)プライマー
以下のプライマーをPCR時の最終濃度が下記の濃度となるように反応液中に添加した。
また、表10で記載したプライマーを同様に添加した。
0.5μM COG1F(配列番号2)
0.5μM COG1R(配列番号3)
0.5μM COG2R(配列番号4)
0.1μM ALPF(配列番号5)
0.5μM [表10に記載のプライマー]
【表10】
【0062】
(4)RT-PCR反応条件
これをBioRad製CFX96WELL DEEPを使用して、以下の温度サイクルでリアルタイムPCR反応を実施した。60℃、40サイクルの伸長ステップで蛍光値の読み取りを行った。
90℃ 1分(熱処理条件)
58℃ 5分(逆転写条件)
95℃ 1秒-60℃ 10秒 10サイクル(PCR)
95℃ 1秒-60℃ 10秒 40サイクル(PCR-蛍光読み取り)
(5) 結果
各プライマーの条件における陰性検体数および陽性検体数の比較をおこなった。結果は従来のGII型ノロウイルス検出用フォワードプライマー(COG2F)との比較にておこなった。表11で示す通り、条件1~6全てにおいてG1およびG2両者の陽性検体数は増加し、感度の向上を確認した。(G1およびG2の共感染検体を含むため表内の検体数の合計は24検体を超える。)
【表11】
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、分子生物学研究、さらに臨床検査や食品衛生管理などを目的とした検査において、好適に用いられる。
図1
【配列表】
0007661681000001.app