(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/14 20060101AFI20250408BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20250408BHJP
H01M 10/12 20060101ALI20250408BHJP
H01M 4/74 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
H01M10/12 K
H01M4/74 B
(21)【出願番号】P 2020197589
(22)【出願日】2020-11-27
【審査請求日】2023-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 雄輔
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特許第5424145(JP,B1)
【文献】特開2017-110031(JP,A)
【文献】特開平06-196157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/14
H01M 4/62
H01M 4/73
H01M 10/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と負極板とを含み、
前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体に支持された負極電極材料とを含み、
前記負極電極材料は、第1の負極電極材料と、前記第1の負極電極材料よりも外側に配置された第2の負極電極材料とを含み、
前記第1の負極電極材料におけるポリマー化合物の質量基準の含有量(ppm)が、前記第2の負極電極材料における前記ポリマー化合物の質量基準の含有量(ppm)よりも多く、
前記ポリマー化合物は、オキシC
2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含み、
前記第1の負極電極材料における前記ポリマー化合物の質量基準の含有量が、80ppm~500ppmの範囲にある、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記ポリマー化合物は、前記オキシC
2-4アルキレンユニットの前記繰り返し構造を含むヒドロキシ化合物、前記ヒドロキシ化合物のエーテル化物、および前記ヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項
1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記ポリマー化合物は、アルキレン基の炭素数が2~4の範囲にあるポリアルキレングリコールのエステル化物を含む、請求項
1に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記負極集電体は、複数の線状部を含み、
前記第1の負極電極材料は、前記複数の線状部間の空隙に配置されている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記負極集電体は、前記複数の線状部で構成された格子部を有する、請求項
4に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記第2の負極電極材料における前記ポリマー化合物の質量基準の含有量(ppm)が、前記第1の負極電極材料における前記ポリマー化合物の質量基準の含有量(ppm)の0~0.7倍の範囲にある、請求項1~
5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、通常、負極板、正極板、セパレータ(またはマット)、および電解液などを含む。通常、各極板は、集電体と、集電体に支持された電極材料とを含む。
【0003】
極板の電極材料は、通常、全体的に均一な組成を有する。一方、特許文献1(特開昭59-042771号)は、「格子体の表面に熱可塑性樹脂の微細粒子を分散させた層を形成した後に、熱可塑性樹脂の微細粒子を含存する陽極用ペーストを充填することを特徴とする鉛蓄電池用陽極板の製造法。」を開示している。
【0004】
特許文献2(特開2000-149981号公報)は、重合度30以上3000以下のポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、またはそれらのエステルよりなる群の内のいずれかを含む高分子化合物、または該高分子化合物とコロイド状硫酸バリウム粒子のいずれかを電解液および/または電極活物質成形体中に含むことを特徴とする鉛蓄電池を開示している。
【0005】
特許文献3(特開平9-147874号公報)は、防縮剤を含有するペースト式活物質が集電体に充填されてなる鉛蓄電池用負極板において、前記防縮剤として特定の化学式で示されるポリオキシパーフルオロエチレンフェニルアミンを用い、前記ポリオキシパーフルオロエチレンフェニルアミンは前記ペースト式活物質に対して0.005~3重量%含有されていることを特徴とする鉛蓄電池用負極板を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開昭59-042771号公報
【文献】特開2000-149981号公報
【文献】特開平9-147874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉛蓄電池では、過充電によって、正極集電体の劣化や電解液の減少などが生じる。そのため、過充電電気量が大きいと、電池の劣化が促進されやすくなる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、鉛蓄電池に関する。当該鉛蓄電池は、正極板と負極板とを含み、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体に支持された負極電極材料とを含み、前記負極電極材料は、前記負極集電体に接する第1の負極電極材料と、前記第1の負極電極材料よりも外側に配置された第2の負極電極材料とを含み、前記第1の負極電極材料におけるポリマー化合物の質量基準の含有量(ppm)が、前記第2の負極電極材料における前記ポリマー化合物の質量基準の含有量(ppm)よりも多く、前記ポリマー化合物は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。
【0009】
本発明の他の一側面は、他の鉛蓄電池に関する。当該他の鉛蓄電池は、正極板と負極板とを含み、前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体に支持された負極電極材料とを含み、前記負極電極材料は、前記負極集電体に接する第1の負極電極材料と、前記第1の負極電極材料よりも外側に配置された第2の負極電極材料とを含み、前記第1の負極電極材料におけるポリマー化合物の質量基準の含有量(ppm)が、前記第2の負極電極材料における前記ポリマー化合物の質量基準の含有量(ppm)よりも多く、前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過充電電気量が小さい鉛蓄電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【
図2A】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の負極板の一例の断面図である。
【
図2B】
図2Aに示した負極板の線IIB-IIBにおける断面図である。
【
図3】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の負極板の他の一例の断面図である。
【
図5】実施例の結果の他の一部を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明では、具体的な数値や材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や材料を適用してもよい。なお、この明細書において、「数値A~数値B」という場合、当該範囲は、数値Aおよび数値Bを含む。
【0013】
(鉛蓄電池)
本実施形態に係る鉛蓄電池は、正極板と負極板とを含む。負極板は、負極集電体と、負極集電体に支持された負極電極材料とを含む。負極電極材料は、第1の負極電極材料と、第1の負極電極材料よりも外側に配置された第2の負極電極材料とを含む。第1の負極電極材料におけるポリマー化合物の質量基準の含有量(ppm)は、第2の負極電極材料における上記ポリマー化合物の質量基準の含有量(ppm)よりも多い。当該ポリマー化合物を、以下では、「ポリマー化合物(P)」と称する場合がある。以下において、ポリマー化合物(P)の含有量とは、特別な記載がない限り、質量基準の含有量(ppm、含有率)を意味する。
【0014】
ポリマー化合物(P)の第1の例は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有するポリマー化合物である。この明細書において、1H-NMRスペクトルは、特に記載がない限り、重クロロホルムを溶媒として用いて測定されたスペクトルである。ポリマー化合物(P)の第2の例は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物である。ポリマー化合物(P)の第1の例に含まれるポリマー化合物と、ポリマー化合物(P)の第2の例に含まれるポリマー化合物とは、少なくとも一部で重複している。ポリマー化合物(P)には、市販のものを用いてもよい。あるいは、公知の方法でポリマー化合物(P)を合成してもよい。
【0015】
第2の負極電極材料は、第1の負極電極材料よりも外側(負極板の厚さ方向における外側)に配置されている。第2の負極電極材料は、第1の負極電極材料の一方の外側のみに配置されていてもよい。あるいは、第2の負極電極材料は、第1の負極電極材料の両方の外側に配置されていてもよい。この場合、第2の負極電極材料は、第1の負極電極材料を挟むように配置される。1つの観点では、負極電極材料におけるポリマー化合物(P)の質量基準の含有量(ppm)は、負極板の表面側よりも負極板の厚さ方向の中央部の方が多い。以下では、負極板の厚さ方向の中央部を、単に、「負極板の中央部」と称する場合がある。第1の負極電極材料は、負極集電体に接していてもよい。
【0016】
鉛蓄電池では、充電時に負極板で電解液中の水が電気分解されて水素ガスが発生する。過充電電気量が多いと、水の電気分解によって電解液の減少量が多くなる。また、過充電電気量が多いと、正極集電体の劣化が促進される。そのため、鉛蓄電池では、過充電電気量を低減することが特に重要である。
【0017】
検討の結果、本願発明者らは、負極板の中央部におけるポリマー化合物(P)の含有量を多くすることによって、水素ガスの発生量を特に抑制でき、その結果、過充電電気量を低下させることができることを見出した。この発明は、この新たな知見に基づく。さらに本願発明者らは、負極板の中央部におけるポリマー化合物(P)の含有量を多くすることによって、低温における高レート放電の性能が向上することを新たに見出した。これらの効果について、実施例で説明する。
【0018】
水素ガスの発生が多くなる過充電時には、負極板の表面部よりも、負極板の厚さ方向の中央部の方が水素ガスの発生量が多くなる。そのため、過充電電気量を抑制する作用を奏するポリマー化合物(P)を負極板の中央部に配置することによって、過充電電気量を特に低下させることが可能である。
【0019】
後述するように、ポリマー化合物(P)は、負極電極材料中の鉛の表面を覆う。低温における高レート放電では、硫酸の拡散が律速因子となって、負極板の中央部における反応よりも負極板の表面近傍における反応が主となる。そのため、負極板の表面部におけるポリマー化合物(P)の含有量が多いと、低温高レート放電の持続時間が急激に低下してしまう。負極板の中央部にポリマー化合物(P)を偏在させることによって、負極板全体におけるポリマー化合物(P)の含有量を維持したまま、負極板の表面部におけるポリマー化合物(P)の含有量を少なくできる。これによって、負極電極材料にポリマー化合物(P)を添加したときの、鉛蓄電池の性能の低下(低温高レート放電の持続時間の低下)を抑制できる。
【0020】
ポリマー化合物(P)によって過充電電気量を低減できるのは、次のような理由によるものと考えられる。ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造などを含むため、線状構造を取り易い。そのため、負極電極材料に添加されたポリマー化合物(P)は、負極電極材料中の鉛の表面を薄く広く覆う。ポリマー化合物(P)で鉛の表面が覆われることによって、水素過電圧が上昇し、その結果、過充電時に水素が発生する副反応が起こり難くなる。一方で、ポリマー化合物(P)の添加量が多いと、充電受入性の低下が生じる場合がある。本発明では、過充電時の水素ガス発生量が多い負極板の中央部のポリマー化合物(P)の含有量が多い。そのため、負極板全体のポリマー化合物(P)の量を抑制する一方で、過充電電気量を効果的に低減することが可能である。すなわち、本発明によれば、高い充電受入性能と、低い過充電電気量とを実現することができる。
【0021】
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)を用いる場合、ポリマー化合物(P)が鉛に対してより吸着し易くなるとともに、線状構造を取り易いことで鉛表面を薄く覆い易くなると考えられる。よって、過充電電気量をより効果的に低減することができるとともに、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができる。
【0022】
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むヒドロキシ化合物、当該ヒドロキシ化合物のエーテル化物、および当該ヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むヒドロキシ化合物の例については後述する。
【0023】
ポリマー化合物(P)は、アルキレン基の炭素数が2~4の範囲にあるポリアルキレングリコールのエステル化物であってもよい。この構成によれば、充電電気量が特に低く、低温高レート放電性能が特に高い鉛蓄電池が得られる。ポリマー化合物(P)は、例えば、ポリエチレングリコールのエステル化物およびポリプロピレングリコールのエステル化物からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0024】
負極集電体は、複数の線状部(別の観点では細い棒状部)を含んでもよい。その場合、第1の負極電極材料は、複数の線状部間の空隙に配置されてもよい。第1の負極電極材料は、当該空隙だけでなく、線状部の外側および当該空隙の外側にも配置されてもよい。典型的な一例では、負極電極材料は、第1の負極電極材料と第2の負極電極材料とで構成される。
【0025】
負極電極材料の一例は、第1の電極材料と第2の電極材料とで構成され、第2の電極材料は、第1の負極電極材料と複数の線状部とを挟むように配置されている。この場合、第2の負極電極材料は、負極板の2つの主面に、層状に配置されている。この場合、第1の負極電極材料も、層状に配置されてもよい。
【0026】
負極集電体は、複数の線状部で構成された格子部を有してもよい。その場合、第1の負極電極材料は、格子間の空隙に配置される。第1の負極電極材料は、当該空隙だけでなく、格子部の外側および当該空隙の外側にも配置されてもよい。格子部を有する負極集電体の例には、エキスパンド加工によって形成されたエキスパンド格子を含む集電体などが含まれる。
【0027】
第1の負極電極材料は、第1の層状部を構成してもよい。第2の負極電極材料は、第1の層状部の外側に配置された第2の層状部を構成してもよい。あるいは、第1の負極電極材料と第2の負極電極材料との境界は明確ではなくてもよい。例えば、負極板の厚さ方向の中央部から、負極板の表面側に向かって、ポリマー化合物(P)の含有量が徐々に低下していってもよい。
【0028】
一例では、負極板に配置された負極電極材料を厚さ方向に3つの領域に分けたときに、中央の第1の領域におけるポリマー化合物(P)の含有量が、その両側の2つの第2の領域におけるポリマー化合物(P)の含有量よりも多くてもよい。第1の領域に配置される負極電極材料は、負極集電体に接する。負極板に配置された負極電極材料の厚さをTとしたときに、第1の領域の厚さT1は、0.2T~0.8Tの範囲(例えば0.4T~0.7Tの範囲)にあってもよく、1つの第2の領域の厚さT2は、0.1T~0.4Tの範囲(例えば0.15T~0.3Tの範囲)にあってもよい。上記3つの領域を隔てる2つの境界は、負極集電体の両側の表面と一致していてもよい。
【0029】
負極板の厚さに特に限定はなく、0.6mm~2.0mmの範囲(例えば1.0mm~1.4mmの範囲)にあってもよいし、これ以外の範囲にあってもよい。
【0030】
第2の負極電極材料におけるポリマー化合物の含有量Ct(2)は、第1の負極電極材料におけるポリマー化合物の含有量Ct(1)の0~0.7倍の範囲にあってもよい。この範囲によれば、高い充電受入性能と、低い過充電電気量とを特にバランスよく実現できる。含有量Ct(2)は、含有量Ct(1)の0倍以上、0.1倍以上、または0.3倍以上であってもよい。含有量Ct(2)は、含有量Ct(1)の0.7倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下、または0.3倍以下であってもよい。これらの下限と上限とは矛盾がない限り任意に組み合わせることができる。含有量Ct(2)は、含有量Ct(1)の0~0.5倍の範囲、0~0.4倍の範囲、0.1~0.7倍の範囲、0.3~0.7倍の範囲、または0.1~0.5倍の範囲にあってもよい。
【0031】
第1の負極電極材料におけるポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で80ppm~500ppmの範囲(例えば80ppm~400ppmの範囲)にあってもよい。この範囲によれば、高い充電受入性能と、低い過充電電気量とを特にバランスよく実現できる。
【0032】
負極電極材料におけるポリマー化合物(P)の含有量は、以下の条件(1)~(3)のうちの少なくとも1つを満たしてもよい。例えば、以下の条件(1)および(2)、(1)および(3)、(2)および(3)が満たされてもよい。あるいは、以下の条件(1)~(3)のすべてが満たされてもよい。
(1)第1の負極電極材料におけるポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で40ppm以上、60ppm以上、80ppm以上、140ppm以上、または280ppm以上にある。当該含有量は、質量基準で、1000ppm以下、500ppm以下、400ppm以下、または300ppm以下である。これらの下限と上限とは矛盾がない限り任意に組み合わせることができる。例えば、当該含有量は、質量基準で、40~1000ppmの範囲、60~500ppmの範囲、60~400ppmの範囲、80~500ppmの範囲、80ppm~400ppmの範囲、または60~300ppmの範囲にあってもよい。
(2)第2の負極電極材料におけるポリマー化合物の含有量Ct(2)と、第1の負極電極材料におけるポリマー化合物の含有量Ct(1)との関係が、上記の例示の関係にある。
(3)負極電極材料全体におけるポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で40ppm以上、60ppm以上、80ppm以上、140ppm以上、または280ppm以上にある。当該含有量は、質量基準で、400ppm以下、または300ppm以下である。
【0033】
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池(VRLA型鉛蓄電池)および液式(ベント式)鉛蓄電池のいずれでもよい。
【0034】
本明細書中、負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板について求められる。
【0035】
(用語の説明)
(電極材料)
負極電極材料および正極電極材料の各電極材料は、通常、集電体に保持されている。電極材料とは、極板から集電体を除いたものである。極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は極板と一体として使用されるため、極板に含まれるものとする。極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、電極材料は、集電体および貼付部材を除いたものである。
【0036】
(ポリマー化合物(P))
ポリマー化合物(P)は、下記(i)および(ii)の少なくとも一方の条件を充足する。
条件(i)
ポリマー化合物(P)は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。
条件(ii)
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む。
【0037】
条件(i)において、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークは、オキシC2-4アルキレンユニットに由来するものである。つまり、条件(ii)を充足するポリマー化合物(P)は、条件(i)を充足するポリマー化合物(P)でもある。条件(i)を充足するポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニット以外のモノマーユニットの繰り返し構造を含んでもよく、ある程度の分子量を有すればよい。上記(i)または(ii)を充足するポリマー化合物(P)の数平均分子量(Mn)は、例えば、300以上であってもよい。
【0038】
(オキシC2-4アルキレンユニット)
オキシC2-4アルキレンユニットは、-O-R1-で表されるユニットである。ここで、R1はC2-4アルキレン基(炭素数が2~4の範囲にあるアルキレン基)を示す。R1は、炭素数が異なるアルキレン基を含んでもよい。
【0039】
(有機防縮剤)
有機防縮剤とは、鉛蓄電池の充放電を繰り返したときに負極活物質である鉛の収縮を抑制する機能を有する化合物のうち、有機化合物を言う。
【0040】
(数平均分子量)
数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められるものである。Mnを求める際に使用する標準物質は、ポリエチレングリコールとする。
【0041】
(重量平均分子量)
重量平均分子量(Mw)は、GPCにより求められるものである。Mwを求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
【0042】
(有機防縮剤中の硫黄元素含有量)
有機防縮剤中の硫黄元素の含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0043】
(満充電状態)
液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、定格容量として記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで、鉛蓄電池を充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.005倍の値(A)になった時点で充電を終了した状態である。
【0044】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電したものをいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0045】
(鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素の上下方向)
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素(極板、電槽、セパレータなど)の上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。正極板および負極板の各極板は、外部端子と接続するための耳部を備えている。横置き型の制御弁式鉛蓄電池など、耳部が、極板の側部に側方に突出するように設けられることもあるが、多くの鉛蓄電池では、耳部は、通常、極板の上部に上方に突出するように設けられている。
【0046】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0047】
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、負極集電体と、負極集電体に支持された負極電極材料とを含む。
【0048】
(負極集電体)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0049】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有するものであってもよい。
【0050】
(負極電極材料)
負極電極材料は、ポリマー化合物(P)を含む。負極電極材料は、さらに、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(具体的には、鉛もしくは硫酸鉛)を含む。負極電極材料は、炭素質材料および他の添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。添加剤としては、有機防縮剤、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0051】
(ポリマー化合物(P))
ポリマー化合物(P)の第1の例は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する。このようなポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットを有する。ポリマー化合物(P)に含まれるオキシC2-4アルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット、オキシトリメチレンユニット、オキシ2-メチル-1,3-プロピレンユニット、オキシ1,4-ブチレンユニット、オキシ1,3-ブチレンユニットなどが挙げられる。ポリマー化合物(P)は、このようなオキシC2-4アルキレンユニットを一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0052】
ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。繰り返し構造は、一種のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよく、二種以上のオキシC2-4アルキレンユニットを含むものであってもよい。ポリマー化合物(P)には、一種の上記繰り返し構造が含まれていてもよく、二種以上の上記繰り返し構造が含まれていてもよい。
【0053】
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物(P)には、界面活性剤(より具体的には、ノニオン界面活性剤)に分類されるものも包含される。
【0054】
ポリマー化合物(P)としては、例えば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物(ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、ポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物など)、これらのヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物などが挙げられる。ポリC2-4アルキレングリコールの例には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールが含まれる。
【0055】
共重合体としては、異なるオキシC2-4アルキレンユニットを含む共重合体などが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0056】
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)において、全構成単位に占めるオキシC2-4アルキレンユニットの割合は、50mol%~100mol%の範囲にあってもよく、60mol%~100mol%の範囲(例えば75mol%~100mol%の範囲)にあってもよく、60mol%~95mol%の範囲(例えば75mol%~95mol%の範囲)にあってもよい。ここで、オキシC2-4アルキレンユニットは、オキシエチレンユニットおよび/またはオキシプロピレンユニットであってもよい。
【0057】
ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、および複素環式ポリオールなどのいずれであってもよい。ポリマー化合物(P)が鉛表面に薄く広がり易い観点からは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール(例えば、ポリヒドロキシシクロヘキサン、ポリヒドロキシノルボルナンなど)などが好ましく、中でも脂肪族ポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖または糖アルコールなど)などが挙げられる。脂肪族ジオールとしては、炭素数が5以上のアルキレングリコールなどが挙げられる。アルキレングリコールは、例えば、C5~14アルキレングリコールまたはC5-10アルキレングリコールであってもよい。糖または糖アルコールとしては、例えば、ショ糖、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールなどが挙げられる。糖または糖アルコールは、鎖状構造および環状構造のいずれであってもよい。ポリオールのポリアルキレンオキサイド付加物においては、アルキレンオキサイドは、ポリマー化合物(P)のオキシC2-4アルキレンユニットに相当し、少なくともC2-4アルキレンオキサイドを含む。ポリマー化合物(P)が線状構造を取りやすい観点からは、ポリオールはジオールであることが好ましい。
【0058】
エーテル化物は、上記のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエーテル化された-OR2基を有する(式中、R2は有機基である。)。ポリマー化合物(P)の末端のうち、一部の末端がエーテル化されていてもよく、全ての末端がエーテル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物(P)の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-OR2基であってもよい。
【0059】
エステル化物は、上記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエステル化された-O-C(=O)-R3基を有する(式中、R3は有機基である。)。ポリマー化合物(P)の末端のうち、一部の末端がエステル化されていてもよく、全ての末端がエステル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物(P)の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-O-C(=O)-R3基であってもよい。
【0060】
有機基R2およびR3のそれぞれとしては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、および/またはカルボキシ基など)を有するものであってもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基など)を有するものであってもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~30であってもよく、1~20であってもよく、1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。
【0061】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が24以下(例えば、6~24)の芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基の炭素数は、20以下(例えば、6~20)であってもよく、14以下(例えば、6~14)または12以下(例えば、6~12)であってもよい。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ビスアリール基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などが挙げられる。ビスアリール基としては、例えば、ビスアレーンに対応する一価基が挙げられる。ビスアレーンとしては、ビフェニル、ビスアリールアルカン(例えば、ビスC6-10アリールC1-4アルカン(2,2-ビスフェニルプロパンなど)など)が挙げられる。
【0062】
脂環族炭化水素基としては、例えば、炭素数が16以下の脂環族炭化水素基が挙げられる。脂環族炭化水素基は、架橋環式炭化水素基であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、10以下または8以下であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上であり、6以上であってもよい。
【0063】
脂環族炭化水素基の炭素数は、5(または6)以上16以下、5(または6)以上10以下、あるいは5(または6)以上8以下であってもよい。
【0064】
脂環族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基など)、シクロアルケニル基(シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基など)などが挙げられる。脂環族炭化水素基には、上記の芳香族炭化水素基の水素添加物も包含される。
【0065】
鉛表面にポリマー化合物(P)が薄く付着し易い観点からは、炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭素炭素二重結合を2つ有するジエニル基、炭素炭素二重結合を3つ有するトリエニル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0066】
脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上、トリエニル基では4以上である。鉛表面にポリマー化合物(P)が薄く付着し易い観点からは中でもアルキル基やアルケニル基が好ましい。
【0067】
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、i-デシル、ウンデシル、ラウリル(ドデシル)、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、イコシル、ヘンイコシル、ベヘニルなどが挙げられる。
【0068】
アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリル、シス-9-ヘプタデセン-1-イル、パルミトレイル、オレイルなどが挙げられる。アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
【0069】
ポリマー化合物(P)のうち、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を用いると、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができるため好ましい。また、これらのポリマー化合物(P)を用いた場合にも過充電電気量を低減することができる。また、このようなポリマー化合物(P)のうち、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有するもの、またはオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するものなどが好ましい。
【0070】
ポリマー化合物(P)は、1つ以上の疎水性基を有するものであってもよい。疎水性基としては、上記の炭化水素基のうち、例えば、芳香族炭化水素基、脂環族炭化水素基、長鎖脂肪族炭化水素基が挙げられる。長鎖脂肪族炭化水素基としては、上記の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基など)のうち、炭素数が8以上のものが挙げられ、12以上が好ましく、16以上がより好ましい。中でも、長鎖脂肪族炭化水素基を有するポリマー化合物(P)は、鉛に対して過度な吸着を起こし難く、充電受入性の低下抑制効果がさらに高まるため、好ましい。ポリマー化合物(P)は、疎水性基の少なくとも1つが、長鎖脂肪族炭化水素基であるものであってもよい。長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、30以下、26以下、または22以下であってもよい。
【0071】
長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、8以上(または12以上)30以下、8以上(または12以上)26以下、8以上(または12以上)22以下、10以上30以下(または26以下)、あるいは10以上22以下であってもよい。
【0072】
ポリマー化合物(P)のうち、親水性基と疎水性基とを有するものはノニオン界面活性剤に相当する。オキシエチレンユニットの繰り返し構造は、高い親水性を示し、ノニオン界面活性剤における親水性基となり得る。そのため、上記の疎水性基を有するポリマー化合物(P)は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。このようなポリマー化合物(P)は、疎水性と、オキシエチレンユニットの繰り返し構造による高い親水性とのバランスにより、鉛に対して選択的に吸着しながらも、鉛の表面を過度に覆うことを抑制できるため、過充電電気量を低減しながら、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができる。このようなポリマー化合物(P)は、比較的低分子量(例えば、Mnが1000以下)であっても、鉛に対する高い吸着性を確保することができる。
【0073】
上記のポリマー化合物(P)のうち、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物などは、ノニオン界面活性剤に相当する。
【0074】
疎水性基を有し、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)としては、ポリエチレングリコールのエーテル化物(アルキルエーテルなど)、ポリエチレングリコールのエステル化物(カルボン酸エステルなど)、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエーテル化物(アルキルエーテルなど)、上記ポリオール(トリオール以上のポリオールなど)のポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物(カルボン酸エステルなど)などが挙げられる。このようなポリマー化合物(P)の具体例としては、オレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。中でも、ポリエチレングリコールのエステル化物、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物などを用いると、より高い充電受入性を確保できるとともに、過充電電気量を顕著に低減できるため、好ましい。
【0075】
過充電電気量を低減する効果がさらに高まるとともに、より高い充電受入性を確保し易い観点からは、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造が少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む場合も好ましい。この場合、オキシエチレンユニットの繰り返し構造の場合と比べると、充電受入性が低くなる傾向があるが、この場合であっても、過充電電気量を低く抑えながら、高い充電受入性を確保することができる。オキシプロピレンユニットを含むポリマー化合物(P)は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm~3.8ppmの範囲に、オキシプロピレンユニットの-CH<および-CH2-に由来するピークを有する。これらの基における水素原子の原子核の周囲の電子密度が異なるため、ピークがスプリットした状態となる。このようなポリマー化合物(P)は、1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、例えば、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲と、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲とのそれぞれにピークを有する。3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲のピークは、-CH2-に由来し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲のピークは、-CH<および-CH2-に由来する。
【0076】
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)としては、ポリプロピレングリコール、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む共重合体、上記ポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物、またはこれらのエーテル化物もしくはエステル化物などが挙げられる。共重合体としては、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体(ただし、オキシアルキレンは、オキシプロピレン以外のC2-4アルキレン)などが挙げられる。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体としては、オキシプロピレン-オキシエチレン共重合体、オキシプロピレン-オキシトリメチレン共重合体などが例示される。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ポリオキシプロピレン-ポリオキシアルキレン共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体)と称することがある。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ブロック共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体)であってもよい。エーテル化物としては、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のアルキルエーテル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のアルキルエーテルなど)などが挙げられる。エステル化物としては、カルボン酸のポリプロピレングリコールエステル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のカルボン酸エステル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のカルボン酸エステルなど)などが挙げられる。
【0077】
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体など)、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル(上記R2が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(メチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテルなど)など)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル(上記R2が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(ブチルエーテル、ヒドロキシヘキシルエーテルなど)など)、カルボン酸ポリプロピレングリコール(上記R3が炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるカルボン酸ポリプロピレングリコール(酢酸ポリプロピレングリコールなど)など)、トリオール以上のポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物(グリセリンのポリプロピレンオキサイド付加物など)が挙げられる。しかし、ポリマー化合物(P)は、これらに限定されない。
【0078】
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)において、オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、5mol%以上であり、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、100mol%以下である。上記共重合体においては、オキシプロピレンユニットの割合は、90mol%以下であってもよく、75mol%以下または60mol%以下であってもよく、50mol%以下または43mol%以下であってもよい。
【0079】
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物(P)において、オキシプロピレンユニットの割合は、5mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、10mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、20mol%以上100mol%以下(または90mol%以下)、5mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、10mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、20mol%以上75mol%以下(または60mol%以下)、5mol%以上50mol%以下(または43mol%以下)、10mol%以上50mol%以下(または43mol%以下)、あるいは20mol%以上50mol%以下(または43mol%以下)であってもよい。
【0080】
鉛に対する吸着性が高まるとともに、線状構造を取り易くなる観点から、ポリマー化合物(P)は、オキシC2-4アルキレンユニットを多く含むことが好ましい。このようなポリマー化合物(P)は、例えば、末端基に結合した酸素原子と、酸素原子に結合した-CH2-基および/または-CH<基とを含んでいる。ポリマー化合物(P)の1H-NMRスペクトルでは、3.2ppm~3.8ppmのピークの積分値V1が、所定のピークの積分値の合計VSUMに占める割合が大きい。ここで、ピークの積分値の合計VSUMは、積分値V1と、-CH2-基の水素原子のピークの積分値と、-CH<基の水素原子のピークの積分値との合計である。この割合は、例えば、50%以上であり、80%以上であってもよい。過充電電気量を低減する効果がさらに高まるとともに、より高い充電受入性を確保し易い観点からは、上記の割合は、85%以上が好ましく、90%以上であることがより好ましい。例えば、ポリマー化合物(P)が末端に-OH基を有するとともに、この-OH基の酸素原子に結合した-CH2-基や-CH<基を有する場合、1H-NMRスペクトルにおいて、-CH2-基や-CH<基の水素原子のピークは、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲にある。
【0081】
負極電極材料は、ポリマー化合物(P)を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0082】
ポリマー化合物(P)は、例えば、Mnが500万以下の化合物を含んでもよく、300万以下または200万以下の化合物を含んでもよく、50万以下または10万以下の化合物を含んでもよく、50000以下または20000以下の化合物を含んでもよい。より高い充電受入性を確保する観点からは、ポリマー化合物(P)は、Mnが10000以下の化合物を含むことが好ましく、5000以下または4000以下の化合物を含んでもよく、3000以下または2500以下の化合物を含んでもよい。このような化合物のMnは、300以上または400以上であってもよく、500以上であってもよい。過充電電気量を低減する効果がさらに高まる観点からは、このような化合物のMnは、1000以上が好ましく、1500以上または1800以上がより好ましい。ポリマー化合物(P)としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物(P)は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有するものであってもよい。
【0083】
上記の化合物のMnは、300以上(または400以上)500万以下、300以上(または400以上)300万以下、300以上(または400以上)200万以下、300以上(または400以上)50万以下、300以上(または400以上)10万以下、300以上(または400以上)50000以下、300以上(または400以上)20000以下、300以上(または400以上)10000以下、300以上(または400以上)5000以下、300以上(または400以上)4000以下、300以上(または400以上)3000以下、300以上(または400以上)2500以下、500以上(または1000以上)500万以下、500以上(または1000以上)300万以下、500以上(または1000以上)200万以下、500以上(または1000以上)50万以下、500以上(または1000以上)10万以下、500以上(または1000以上)50000以下、500以上(または1000以上)20000以下、500以上(または1000以上)10000以下、500以上(または1000以上)5000以下、500以上(または1000以上)4000以下、500以上(または1000以上)3000以下、500以上(または1000以上)2500以下、1500以上(または1800以上)500万以下、1500以上(または1800以上)300万以下、1500以上(または1800以上)200万以下、1500以上(または1800以上)50万以下、1500以上(または1800以上)10万以下、1500以上(または1800以上)50000以下、1500以上(または1800以上)20000以下、1500以上(または1800以上)10000以下、1500以上(または1800以上)5000以下、1500以上(または1800以上)4000以下、1500以上(または1800以上)3000以下、あるいは1500以上(または1800以上)2500以下であってもよい。
【0084】
負極電極材料の全体におけるポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、例えば、8ppm以上であり、10ppm以上であってもよい。過充電電気量の低減効果をさらに高める観点からは、負極電極材料の全体におけるポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、20ppm以上であることが好ましく、30ppm以上であることがより好ましい。負極電極材料の全体におけるポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、例えば、1000ppm以下であり、1000ppm未満であってもよく、700ppm以下であってもよく、600ppm以下または500ppm以下であってもよい。より高い充電受入性を確保し易い観点からは、負極電極材料の全体におけるのポリマー化合物(P)の含有量は、質量基準で、400ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましく、200ppm以下または160ppm以下であってもよく、150ppm以下または120ppm以下であってもよく、100ppm以下であってもよい。
【0085】
負極電極材料の全体におけるのポリマー化合物(P)の含有量(質量基準)は、8ppm以上(または10ppm以上)1000ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)1000ppm未満、8ppm以上(または10ppm以上)700ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)600ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)500ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)400ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)300ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)200ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)160ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)150ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)120ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)100ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)1000ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)1000ppm未満、20ppm以上(または30ppm以上)700ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)600ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)500ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)400ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)300ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)200ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)160ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)150ppm以下、20ppm以上(または30ppm以上)120ppm以下、あるいは20ppm以上(または30ppm以上)100ppm以下であってもよい。
【0086】
(有機防縮剤)
有機防縮剤は、通常、リグニン化合物と合成有機防縮剤とに大別される。合成有機防縮剤は、リグニン化合物以外の有機防縮剤であるとも言える。負極電極材料に含まれる有機防縮剤としては、リグニン化合物および合成有機防縮剤などが挙げられる。負極電極材料は、有機防縮剤を、一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。有機防縮剤には、鉛蓄電池に用いられている公知の有機防縮剤を用いてもよい。
【0087】
リグニン化合物としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。
【0088】
合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0089】
有機防縮剤としては、少なくとも芳香族化合物のユニットを含む縮合物を用いてもよい。このような縮合物としては、例えば、芳香族化合物の、アルデヒド化合物(アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)およびその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種など)による縮合物が挙げられる。有機防縮剤は、一種の芳香族化合物のユニットを含んでもよく、二種以上の芳香族化合物のユニットを含んでいてもよい。
なお、芳香族化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットを言う。芳香族化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。
【0090】
負極電極材料は、上記の有機防縮剤のうち、例えば、硫黄元素含有量が2000μmol/g以上の有機防縮剤(第1有機防縮剤)を含んでもよい。第1有機防縮剤としては、上記の合成有機防縮剤(上記の縮合物など)などが挙げられる。
【0091】
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、2000μmol/g以上であればよく、3000μmol/g以上が好ましい。有機防縮剤の硫黄元素含有量の上限は特に制限されないが、過充電電気量を低減する効果がさらに高まる観点からは、9000μmol/g以下が好ましく、8000μmol/g以下がより好ましい。
【0092】
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、例えば、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)9000μmol/g以下、あるいは2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)8000μmol/g以下であってもよい。
【0093】
第1有機防縮剤は、硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含む縮合物を含み、縮合物は、芳香族化合物のユニットとして、少なくともビスフェノール化合物のユニットを含んでもよい。
【0094】
第1有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、7000以上であることが好ましい。第1有機防縮剤のMwは、例えば、100,000以下であり、20,000以下であってもよい。
【0095】
負極電極材料は、例えば、硫黄元素含有量が2000μmol/g未満の有機防縮剤(第2有機防縮剤)を含むことができる。第2有機防縮剤としては、上記の有機防縮剤のうち、リグニン化合物、合成有機防縮剤(特に、リグニン化合物)などが挙げられる。第2有機防縮剤の硫黄元素含有量は、1000μmol/g以下が好ましく、800μmol/g以下であってもよい。第2有機防縮剤中の硫黄元素含有量の下限は特に制限されないが、例えば、400μmol/g以上である。
【0096】
第2有機防縮剤のMwは、例えば、7000未満である。第2有機防縮剤のMwは、例えば、3000以上である。
【0097】
負極電極材料は、第1有機防縮剤に加え、第2有機防縮剤を含んでもよい。第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを併用する場合、これらの質量比は任意に選択できる。
【0098】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.005質量%以上であり、0.01質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量がこのような範囲である場合、高い低温ハイレート放電容量を確保することができる。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。充電受入性の低下を抑制する効果がさらに高まる観点からは、有機防縮剤の含有量は、0.3質量%以下が好ましく、0.25質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下または0.15質量%以下がさらに好ましく、0.12質量%以下であってもよい。
【0099】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)1.0質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.5質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.3質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.25質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.2質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.15質量%以下、あるいは0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.12質量%以下であってもよい。
【0100】
(炭素質材料)
負極電極材料に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。黒鉛は、黒鉛型の結晶構造を含む炭素質材料であればよく、人造黒鉛および天然黒鉛のいずれであってもよい。負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0101】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば、5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。
【0102】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下、0.10質量%以上5質量%以下、または0.10質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0103】
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。
【0104】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0105】
(負極電極材料または構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。測定または分析に先立ち、満充電状態の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。負極板に貼付部材が含まれている場合、必要に応じて、貼付部材を除去する。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aと称する)を入手する。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。なお、負極板の厚さ方向の特定の部分におけるポリマー化合物(P)の含有量を測定する場合、当該部分から測定用の資料を入手すればよい。
【0106】
(1)ポリマー化合物(P)の分析
(1-1)ポリマー化合物(P)の定性分析
粉砕した試料Aを用いる。100.0±0.1gの試料Aに150.0±0.1mLのクロロホルムを加え、20±5℃で16時間撹拌し、ポリマー化合物(P)を抽出する。その後、ろ過によって固形分を除く。抽出により得られるポリマー化合物(P)が溶解したクロロホルム溶液またはクロロホルム溶液を乾固することにより得られるポリマー化合物(P)について、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、LC-MSおよび熱分解GC-MSから選択される少なくとも1つから情報を得ることで、ポリマー化合物(P)を特定する。
【0107】
抽出により得られるポリマー化合物(P)が溶解したクロロホルム溶液から、クロロホルムを減圧下で留去することによりクロロホルム可溶分を回収する。クロロホルム可溶分を重クロロホルムに溶解させて、下記の条件で1H-NMRスペクトルを測定する。この1H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークを確認する。また、この範囲のピークから、オキシC2-4アルキレンユニットの種類を特定する。
【0108】
装置:日本電子(株)製、AL400型核磁気共鳴装置
観測周波数:395.88MHz
パルス幅:6.30μs
パルス繰り返し時間:74.1411秒
積算回数:32
測定温度:室温(20~35℃)
基準:7.24ppm
試料管直径:5mm
【0109】
1H-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲に存在するピークの積分値(V1)を求める。また、ポリマー化合物(P)の末端基に結合した酸素原子に対して結合した-CH2-基および-CH<基の水素原子のそれぞれについて、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値の合計(V2)を求める。そして、V1およびV2から、V1がV1およびV2の合計に占める割合(=V1/(V1+V2)×100(%))を求める。
【0110】
なお、定性分析で、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値を求める際には、1H-NMRスペクトルにおいて、該当するピークを挟むように有意なシグナルがない2点を決定し、この2点間を結ぶ直線をベースラインとして各積分値を算出する。例えば、ケミカルシフトが3.2ppm~3.8ppmの範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.2ppmと3.8ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。例えば、ケミカルシフトが3.8ppmを超え4.0ppm以下の範囲に存在するピークについては、スペクトルにおける3.8ppmと4.0ppmとの2点間を結ぶ直線をベースラインとする。
【0111】
(1-2)ポリマー化合物(P)の定量分析
上記のクロロホルム可溶分の適量を、±0.0001gの精度で測定したmr(g)のテトラクロロエタン(TCE)と共に重クロロホルムに溶解させて、1H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(Sa)とTCEに由来するピークの積分値(Sr)を求め、以下の式から負極電極材料中のポリマー化合物(P)の質量基準の含有量Cn(ppm)を求める。
【0112】
Cn=Sa/Sr×Nr/Na×Ma/Mr×mr/m×1000000
(式中、Maはケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲にピークを示す構造の分子量(より具体的には、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造の分子量)であり、Naは繰り返し構造の主鎖の炭素原子に結合した水素原子の数である。Nr、Mrはそれぞれ基準物質の分子に含まれる水素数、基準物質の分子量であり、m(g)は抽出に使用した負極電極材料の質量である。)
なお、本分析での基準物質はTCEであるため、Nr=2、Mr=168である。また、m=100である。
【0113】
例えば、ポリマー化合物(P)がポリプロピレングリコールの場合、Maは58であり、Naは3である。ポリマー化合物(P)がポリエチレングリコールの場合、Maは44であり、Naは4である。NaおよびMaは、各モノマー単位のNa値およびMa値を繰り返し構造に含まれる各モノマー単位のモル比率(モル%)を用いて平均化した値である。
【0114】
なお、定量分析では、1H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値は、日本電子(株)製のデータ処理ソフト「ALICE」を用いて求める。
【0115】
(1-3)ポリマー化合物(P)のMn測定
上記のクロロホルム可溶分を用いて、ポリマー化合物(P)のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMnと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線およびポリマー化合物(P)のGPC測定結果に基づき、ポリマー化合物(P)のMnを算出する。ただし、エステル化物またはエーテル化物などは、クロロホルム可溶分中で分解した状態であり得る。
【0116】
分析システム:20A system((株)島津製作所製)
カラム:GPC KF-805L(Shodex社製)2本を直列接続
カラム温度:30℃±1℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min.
濃度:0.20質量%
注入量:10μL
標準物質:ポリエチレングリコール(Mn=2,000,000、200,000、20,000、2,000、200)
検出器:示差屈折率検出器(Shodex社製、Shodex RI-201H)
【0117】
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、例えば、鉛粉と、ポリマー化合物(P)と、必要に応じて、有機防縮剤、炭素質材料、他の添加剤からなる群より選択される少なくとも一種とに、水および硫酸(または硫酸水溶液)を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0118】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0119】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。クラッド式の正極板の構成は前述の通りである。
【0120】
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工や打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0121】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なるものであってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみや、耳部分のみ、枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0122】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0123】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0124】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0125】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、不織布、および微多孔膜から選択される少なくとも一種などが用いられる。
【0126】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分、例えば耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマーなどを含んでもよい。
【0127】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とするものが好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。造孔剤としては、ポリマー粉末およびオイルからなる群より選択される少なくとも一種などが挙げられる。
【0128】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0129】
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0130】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液には、上記のポリマー化合物(P)が含まれていてもよい。
【0131】
電解液は、必要に応じて、カチオン(例えば、金属カチオン)、および/またはアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))を含んでいてもよい。金属カチオンとしては、例えば、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0132】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。
【0133】
電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0134】
(その他)
鉛蓄電池は、電槽のセル室に極板群と電解液とを収容する工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の各セルは、各セル室に収容された極板群および電解液を備える。極板群は、セル室への収容に先立って、正極板、負極板、およびセパレータを、正極板と負極板との間にセパレータが介在するように積層することにより組み立てられる。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、極板群の組み立てに先立って、準備される。鉛蓄電池の製造方法は、極板群および電解液をセル室に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含んでもよい。
【0135】
極板群における各極板は、1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。過充電電気量の高い低減効果を確保する観点からは、極板群に含まれる負極板の枚数の50%以上(より好ましくは80%以上または90%以上)が、上記の条件を充足するものであることが好ましい。極板群に含まれる負極板のうち、上記の条件を充足するものの比率は、100%以下である。極板群に含まれる負極板の全てが、上記の条件を充足するものであってもよい。
【0136】
鉛蓄電池が、2つ以上のセルを有する場合には、少なくとも一部のセルの極板群が上記のような条件を充足する負極板を備えるものであればよい。過充電電気量の高い低減効果を確保する観点からは、鉛蓄電池に含まれるセルの個数の50%以上(より好ましくは80%以上または90%以上)が、上記の条件を充足する負極板を含む極板群を備えることが好ましい。鉛蓄電池に含まれるセルのうち、上記の条件を充足する負極板を含む極板群を備えるセルの比率は、100%以下である。鉛蓄電池に含まれる極板群の全てが、上記の条件を充足する負極板を備えるものであることが好ましい。
【0137】
本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例を、図面を参照しながら以下に説明する。以下で説明する実施形態には、上述した説明を適用できる。また、以下で説明する実施形態を、上述した説明に基づいて変更してもよい。また、以下で説明する事項を、上述した実施形態に適用してもよい。また、以下で説明する事項のうち、本発明に必須ではない事項は省略してもよい。
【0138】
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0139】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0140】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式やバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
【0141】
なお、鉛蓄電池の蓋15は、一重構造(単蓋)であるが、図示例の場合に限らない。蓋15は、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有するものであってもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えるものであってもよい。
【0142】
一例の負極板2の一部の断面図を
図2Aに模式的に示す。
図2Aの線IIB-IIBにおける断面図を
図2Bに模式的に示す。
図2Aの断面図は、
図2Bの線IIA-IIAにおける断面図である。なお、
図2Aおよび
図2Bは模式的な図であり、実際の図とは異なる。例えば、負極集電体2aがエキスパンド格子の場合、
図2Aおよび
図2Bに示すような断面図とはならない場合がある。
【0143】
負極板2は、格子状の負極集電体2aと、負極集電体2aに支持された負極電極材料2bとを含む。負極集電体2aは、複数の線状部2aaで構成された格子部を含む。負極電極材料2bは、第1の負極電極材料(第1の層状部)2b1と、第2の負極電極材料2b2(第2の層状部)とを含む。第1の負極電極材料2b1は、複数の線状部2aa間の空隙(格子部の空隙)に配置されており、負極集電体2aに接している。
図2Aに示す一例では、第1の負極電極材料(第1の層状部)2b1は、その外側に配置された2つの第2の層状部(第2の負極電極材料2b2)によって挟まれている。すなわち、
図2Aに示す一例では、2つの第2の層状部(第2の負極電極材料2b2)が、第1の層状部(第1の負極電極材料2b1)および負極集電体2aを挟むように配置されている。
【0144】
なお、
図2Bには、第1の負極電極材料2b1と第2の負極電極材料2b2との間の境界が明確である一例を示した。しかし、それらの境界は明確ではなくてもよい。例えば、負極板2の厚さ方向の中央部から負極板2の表面側に向かって、ポリマー化合物(P)の含有量が徐々に低下していってもよい。
【0145】
一例では、
図3に示すように、負極板2に配置された負極電極材料2bを厚さ方向に3つの領域に分けて考えることも可能である。
図3では、負極電極材料2bを、厚さ方向に、中央の第1の領域2baと、その両側の2つの第2の領域2bbとに分けている。この一例では、2つの第2の領域2bbの厚さは等しいが、それらは異なってもよい。この一例では、中央の第1の領域2baにおけるポリマー化合物(P)の含有量が、その両側の2つの第2の領域2bbにおけるポリマー化合物(P)の含有量よりも多い。第1の領域2baを構成する負極電極材料は、負極集電体2aに接する第1の負極電極材料である。第2の領域2bbを構成する負極電極材料は、第1の負極電極材料の外側に配置された第2の負極電極材料である。負極板2に配置された負極電極材料2bの厚さをTとしたときに、第1の領域2baの厚さT1と1つの第2の領域2bbの厚さT2とは、上述した範囲にあってもよい。
【0146】
第1の領域2baと第2の領域2bbとの間の2つの境界はそれぞれ、負極集電体2aの両側の表面S1およびS2と一致していてもよい。ここで、表面S1は、例えば、負極集電体2aと同じ材質の金属板(例えば厚さ1mm)を負極集電体2aに押し当てたときの、負極集電体2aに接触する金属板の表面に等しい。なお、表面S1と表面S2との間の間隔を、負極集電体2aの厚さとみなすことができる。
【0147】
図2Bおよび
図3には、第1の負極電極材料の2つの主面の外側に第2の負極電極材料が配置される場合について例示した。しかし、第2の負極電極材料は、第1の負極電極材料の1つの主面の外側のみに配置されてもよい。すなわち、
図2Bおよび
図3に示される、2つの層状の第2の負極電極材料のうちの一方はなくてもよい。ただし、2つの層状の第2の負極電極材料を用いる方が、得られる効果が高くなる。
【0148】
図2A、
図2B、および
図3に示すような負極板2の製造方法に特に限定はない。製造方法の第1および第2の例について以下に説明する。第1の例では、ポリマー化合物(P)の含有量が異なる負極ペーストを用いて負極板を製造する。具体的には、まず、ポリマー化合物(P)を含む第1の負極ペーストと、第1の負極ペーストよりもポリマー化合物(P)の含有量が少ない第2の負極ペーストとを調製する。次に、負極集電体の空隙に第1の負極ペーストが充填されるように、負極集電体に第1の負極ペーストを塗布する。次に、負極集電体と第1の負極ペーストを挟むように、それらの両側に第2の負極ペーストを塗布する。その後は、必要に応じて、乾燥などの処理を行う。このようにして、負極板2を製造できる。
【0149】
第1の負極ペーストにおけるポリマー化合物(P)の含有量と第2の負極ペーストにおけるポリマー化合物(P)の含有量とを変化させることによって、第1の負極電極材料におけるポリマー化合物(P)の含有量、第2の負極電極材料におけるポリマー化合物の含有量、およびそれらの比を変化させることができる。
【0150】
第2の例では、まず、第1および第2の負極ペーストを調製する。第1および第2の負極ペーストはそれぞれ、ポリマー化合物(P)を含んでもよいし含まなくてもよい。次に、負極集電体の空隙に第1の負極ペーストが充填されるように、負極集電体に第1の負極ペーストを塗布する。次に、塗布された第1の負極ペーストを乾燥させ、第1の電極材料層を形成する。次に、第1の電極材料層を、ポリマー化合物(P)を含む液体に接触させる。これによって、第1の電極材料層内のポリマー化合物(P)の含有量を上昇させる。例えば、第1の電極材料層を、ポリマー化合物(P)を含む液体に浸漬してもよい。あるいは、第1の電極材料層に、ポリマー化合物(P)を含む液体をスプレーしてもよい。液体中のポリマー化合物(P)の濃度や接触時間によって、最終的に得られる第1の負極電極材料におけるポリマー化合物(P)の含有量を変化させることができる。次に、負極集電体と第1の電極材料層とを挟むように、それらの両側に第2の負極ペーストを塗布する。その後は、必要に応じて、乾燥などの処理を行う。このようにして、負極板2を製造できる。第2の例では、第1の負極ペーストにおけるポリマー(P)の含有量と第2の負極ペーストにおけるポリマー化合物(P)の含有量の大小関係は限定されない。最終的に、上述した負極板が製造されればよい。なお、第1の負極ペーストの塗布と第2の負極ペーストの塗布との間において、第1の負極ペーストを乾燥する工程を行ってもよいし、行わなくてもよい。
【0151】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
【0152】
(1)鉛蓄電池であって、
正極板と負極板とを含み、
前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体に支持された負極電極材料とを含み、
前記負極電極材料は、前記負極集電体に接する第1の負極電極材料と、前記第1の負極電極材料よりも外側に配置された第2の負極電極材料とを含み、
前記第1の負極電極材料におけるポリマー化合物の含有量(ppm)が、前記第2の負極電極材料における前記ポリマー化合物の含有量(ppm)よりも多く、
前記ポリマー化合物は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定される1H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にピークを有する、鉛蓄電池。
【0153】
(2)鉛蓄電池であって、
正極板と負極板とを含み、
前記負極板は、負極集電体と、前記負極集電体に支持された負極電極材料とを含み、
前記負極電極材料は、前記負極集電体に接する第1の負極電極材料と、前記第1の負極電極材料よりも外側に配置された第2の負極電極材料とを含み、
前記第1の負極電極材料におけるポリマー化合物の含有量(ppm)が、前記第2の負極電極材料における前記ポリマー化合物の含有量(ppm)よりも多く、
前記ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を含む、鉛蓄電池。
【0154】
(3)上記(2)の鉛蓄電池において、前記ポリマー化合物は、前記オキシC2-4アルキレンユニットの前記繰り返し構造を含むヒドロキシ化合物、前記ヒドロキシ化合物のエーテル化物、および前記ヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0155】
(4)上記(2)の鉛蓄電池において、前記ポリマー化合物は、アルキレン基の炭素数が2~4の範囲にあるポリアルキレングリコールのエステル化物を含んでもよい。
【0156】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1項に記載の鉛蓄電池において、前記負極集電体は、複数の線状部を含んでもよい。その場合、前記第1の負極電極材料は、前記複数の線状部間の空隙に配置されていてもよい。
【0157】
(6)上記(5)の鉛蓄電池において、前記負極集電体は、前記複数の線状部で構成された格子部を有してもよい。
【0158】
(7)上記(1)~(6)の鉛蓄電池において、前記第2の負極電極材料における前記ポリマー化合物の含有量(ppm)が、前記第1の負極電極材料における前記ポリマー化合物の含有量(ppm)の0~0.7倍の範囲にあってもよい。
【0159】
(8)上記(1)~(7)の鉛蓄電池において、前記第1の負極電極材料における前記ポリマー化合物の質量基準の含有量が、80ppm~500ppmの範囲にあってもよい。
【0160】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0161】
《鉛蓄電池A1~A6、C1~C6、R1》
(1)鉛蓄電池の準備
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、有機防縮剤(リグニンスルホン酸ナトリウム)と、必要に応じてポリマー化合物(P)とを、適量の硫酸水溶液と混合して、第1の負極ペーストを得る。ポリマー化合物(P)は、第1の負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量(質量基準)が表1の含有量となるように第1の負極ペーストに添加する。同様に、第1の負極電極材料中の有機防縮剤の含有量が0.1質量%、硫酸バリウムの含有量が0.4質量%、カーボンブラックの含有量が0.2質量%となるように各成分を混合する。有機防縮剤には、リグニンスルホン酸ナトリウムを用いる。
【0162】
次に、第2の負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量(質量基準)が表1の含有量となるようにポリマー化合物(P)を添加することを除いて、第1の負極ペーストと同様に、第2の負極ペーストを作製する。次に、負極集電体の格子部の空隙に第1の負極ペーストが充填されるように、第1の負極ペーストを負極集電体に塗布する。負極集電体には、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子を含む負極集電体を用いる。次に、エキスパンド格子とそれに支持される第1の負極ペーストとを挟むように、それらの両側に第2の負極ペーストを塗布する。次に、得られる電極を熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。第1の負極ペーストが第1の負極電極材料となり、第2の負極ペーストが第2の負極電極材料となる。
【0163】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0164】
(c)試験電池の作製
試験電池は定格電圧2V、定格5時間率容量は32Ahである。試験電池の極板群は、正極板7枚と負極板7枚で構成する。負極板はポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、正極板と交互に積層し、極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液(硫酸水溶液)とともに収容して、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を作製する。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.28である。
【0165】
(2)評価
(a)過充電電気量の評価
上記の試験電池(鉛蓄電池)を用いて、以下の条件で過充電電気量を測定する。JIS D5301に指定される通常の4分-10分試験よりも過充電条件にするために、放電1分-充電10分の試験(1分-10分試験)を75℃±3℃で実施する(高温軽負荷試験)。高温軽負荷試験において充放電を1220サイクル繰り返すことで高温軽負荷試験を行う。1220サイクルまでの各サイクルにおける過充電電気量(充電電気量-放電電気量)を合計して、過充電電気量の積算値(Ah)を求める。鉛蓄電池R1の過充電電気量の積算値(Ah)を100%としたときの比率で各鉛蓄電池の過充電電気量を評価する。
放電:25A、1分
充電:2.47V/セル、25A、10分
水槽温度:75℃±3℃
【0166】
(b)軽負荷試験後の低温高レート放電性能
上記(a)における高温軽負荷試験後の満充電後の試験電池を、放電電流150Aにて、-15℃で端子電圧が1.0V/セルに到達するまで放電する。このときの放電時間(s)を、軽負荷試験後における低温高レート放電の放電持続時間とする。放電持続時間が長いほど、低温高レート放電性能に優れる。鉛蓄電池R1の放電持続時間を100としたときの比率(%)で、各電池の低温高レート放電性能を評価する。
【0167】
(c)電解液の減少量
試験電池の質量(M0)を測定する。60℃±5℃の水槽中で、試験電池について、最大電流50Aで14.4Vの定電圧充電を84日間行う。充電後、水槽から取り出した試験電池を室温(20~35℃)になるまで放置した後、試験電池の質量(M1)を測定する。M0からM1を差し引くことにより、電解液の減少量を求める。電池R1の電解液の減少量を100としたときの比率(%)で各電池の電解液の減少量を評価する。
【0168】
製造条件および評価結果の一部を表1に示す。表1において、「PEGエステル化物」は、ポリエチレングリコールのエステル化物であり、具体的にはポリオキシエチレンオレイン酸エステルである。当該ポリオキシエチレンオレイン酸エステルは、C17H33COO(-CH2-CH2-O)5-Hで表されるポリマー化合物である。表1において、「PPG」は、ポリプロピレングリコール(数平均分子量が約2000)である。
【0169】
【0170】
電池A1~A6では、負極板の中央部に配置された第1の負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量が、負極板の表面部に配置された第2の負極電極材料中のポリマー化合物(P)の含有量よりも多い。一方、電池C1~C6では、ポリマー化合物(P)は、負極電極材料に実質的に均一に分散している。電池R1の負極電極材料は、ポリマー化合物(P)を含まない。
【0171】
表1の結果のうち、過充電電気量の結果を
図4に示し、軽負荷試験後の低温高レート放電性能の結果を
図5に示す。表1および
図4に示すように、ポリマー化合物(P)の種類が同じで且つ負極電極材料全体におけるポリマー化合物(P)の含有量が同じである場合、電池A1~A6の過充電電気量は、対応する電池C1~C6の過充電電気量よりも低い。これは、上述した理由(段落0018)によるものであると考えられる。なお、ポリマー化合物(P)を添加する電池A1~A6および電池C1~C6は、いずれも、電池R1と比較して過充電電気量が低い。
【0172】
表1および
図5に示すように、ポリマー化合物(P)の種類が同じで且つ負極電極材料全体におけるポリマー化合物(P)の含有量が同じである場合、電池A1~A6の低温高レート放電性能は、対応する電池C1~C6の低温高レート放電性能よりも高い。これは、上述した理由(段落0019)によるものであると考えられる。電池A1~A6では、負極全体におけるポリマー化合物(P)の含有量を多くしたときの低温高レート放電性能の低下が、電池C1~C6と比較して、顕著に小さい。
【0173】
電池A1~A3と電池A4~A6とを比較すると、ポリプロピレングリコールよりもポリエチレングリコールのエステル化物を用いる方が、過充電電気量が低く、低温高レート放電性能が高い。
【0174】
電池A1~A3と電池C1~C3との比較、および、電池A5と電池C5との比較をする。ポリマー化合物(P)の種類が同じで且つ負極電極材料全体におけるポリマー化合物(P)の含有量が同じである場合には、ポリマー化合物(P)を負極板中央に添加する電池の方が、ポリマー化合物を負極板全体に均一に添加する電池よりも、減液量(電解液の減少量)が少なかった。電池A2と電池A5とを比較すると、ポリプロピレングリコールよりもポリエチレングリコールのエステル化物を用いる方が、減液量を低減できる。
【0175】
《鉛蓄電池A7およびC7》
第1の負極電極材料および第2の負極電極材料におけるポリマー化合物(P)の質量基準の含有量を表2に示すように変更することを除いて、鉛蓄電池A1の製造方法と同様の方法で、電池A7およびC7を作製する。ポリマー化合物(P)には、電池A1で用いるものと同じポリマー化合物を用いる。製造条件および評価結果の一部を表2に示す。
【0176】
【0177】
電池A7において、第2の負極電極材料におけるポリマー化合物(P)の含有量は、第1の負極電極材料におけるポリマー化合物(P)の含有量の約0.5倍である。電池A7の過充電電気量は電池C7の過充電電気量よりも低く、良好な特性を示す。また、電池A7の低温高レート放電性能は、電池C7の低温高レート放電性能よりも良好である。電池A7の電解液の減少量は、電池C7の電解液の減少量よりも少ない。
【0178】
以上のように、本発明によれば、過充電電気量が特に低い鉛蓄電池が得られる。さらに、本発明によれば、過充電電気量が特に低く、且つ、低温高レート放電性能が高い鉛蓄電池が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明は、鉛蓄電池に利用できる。本発明の鉛蓄電池は、例えば、PSOC条件下で充放電されるIS用鉛蓄電池としてアイドリングストップ車に用いるのに適している。また、鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源や、産業用蓄電装置(例えば、電動車両(フォークリフトなど)などの電源)などとして好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示であり、これらの用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0180】
1:鉛蓄電池
2:負極板
2a:負極集電体
2aa:線状部
2b:負極電極材料
2b1:第1の負極電極材料
2b2:第2の負極電極材料
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓