(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】熱伝導体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/02 20060101AFI20250408BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20250408BHJP
B29C 43/34 20060101ALI20250408BHJP
B29C 43/20 20060101ALI20250408BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20250408BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20250408BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20250408BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20250408BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20250408BHJP
【FI】
B32B5/02 Z
B32B5/18
B29C43/34
B29C43/20
B29C70/16
B29C70/42
B29C70/68
B29K105:08
B29L9:00
(21)【出願番号】P 2020564283
(86)(22)【出願日】2020-11-11
(86)【国際出願番号】 JP2020042008
(87)【国際公開番号】W WO2021106562
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2019216115
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴文
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓望
(72)【発明者】
【氏名】本間 雅登
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-028880(JP,A)
【文献】特開2010-010599(JP,A)
【文献】国際公開第2019/212051(WO,A1)
【文献】特開2002-038033(JP,A)
【文献】特開2017-069341(JP,A)
【文献】特開2010-064391(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0273275(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 43/00-43/34
B29C 70/16
B29C 70/42
B29C 70/68
B29K 105/08
B29L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内熱伝導率が300W/m・K以上のシート状の熱伝導材(II)が、強化繊維と樹脂から構成される多孔質構造体(I)に含まれてなる熱伝導体。
【請求項2】
前記多孔質構造体(I)が前記熱伝導材(II)の
少なくとも一方の表面及び少なくとも
一つの端面を覆っている、請求項1に記載の熱伝導体。
【請求項3】
前記多孔質構造体(I)が前記熱伝導材(II)の両面および全ての端面を覆っている、請求項2に記載の熱伝導体。
【請求項4】
前記熱伝導材(II)が、グラファイトシート、金属シートおよびセラミックスシートからなる群より選択される熱伝導シート含む、請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導体。
【請求項5】
前記熱伝導材(II)が、複数の前記熱伝導シートの積層構造体を含む、請求項4に記載の熱伝導体。
【請求項6】
前記多孔質構造体(I)が、不連続繊維強化樹脂からなる、請求項1~5のいずれかに記載の熱伝導体。
【請求項7】
曲げ弾性率が3GPa以上である、請求項1~6のいずれかに記載の熱伝導体。
【請求項8】
単位幅あたりの曲げ剛性が0.3N・m以上である、請求項1~7のいずれかに記載の熱伝導体。
【請求項9】
最大厚みが0.3mm以上3.0mm以下である、請求項1~8のいずれかに記載の熱
伝導体。
【請求項10】
比重が1.00以下である、請求項1~9のいずれかに記載の熱伝導体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の熱伝導体を用いてなる筐体。
【請求項12】
請求項1~10のいずれかに記載の熱伝導体を製造する方法であって、前記熱伝導材(II)の少なくとも一方の表面及び少なくとも一つの端面に多孔質構造体(I)の前駆体を配置する工程および熱プレスする工程をこの順に含む、熱伝導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導体、それを用いてなる筐体、および熱伝導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、航空機、電子機器等の産業用製品について、軽量性に対する市場要求が年々高まっている。また、エンジン、モーターやプロセッサーなどの発熱モジュールの高性能化に伴い、放熱性に対する市場要求も年々高まりつつある。このような要求に応えるべく、優れた軽量性と高い熱伝導率とを有する成形品が、各種産業用途に幅広く利用されている。中でも、高い熱伝導率を有する熱伝導材と優れた軽量性を有する軽量材とを複合させた熱伝導体は、優れた軽量性に加えて、優れた放熱性を有するため、各製品での活用が期待されており、広く検討されている。
【0003】
特許文献1には、熱伝導材と繊維強化プラスチックから形成される剛性保持材を積層した熱伝導体の発明が記載されている。熱伝導材と繊維強化プラスチックから形成される剛性保持材を積層することで、優れた熱伝導性に加えて、優れた軽量性を両立させた熱伝導体を得ることができるとされている。
【0004】
特許文献2には、グラファイトシートの積層体を樹脂層で被覆する、熱伝導体の発明が記載されている。グラファイトシートと樹脂により筐体を形成することで優れた熱伝導性に加えて、優れた軽量性を両立できるとされている。
【0005】
特許文献3には、グラファイトシートを、二つのスポンジ層の間に介装した熱伝導体の発明が記載されている。グラファイトシートを、二つのスポンジ層の間に介装することで、優れた熱伝導性を得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2016/002457号
【文献】特開2006-95935号公報
【文献】国際公開第2018/198293号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1における熱伝導体は、熱伝導材と剛性保持材を積層することにより、優れた熱伝導性と優れた軽量性を両立できるとされているが、剛性保持材は、密な繊維強化プラスチックであり、軽量性の改善の余地がある。
【0008】
特許文献2における熱伝導体は、グラファイトシートの表面及び端部を樹脂で被覆することにより、優れた熱伝導性と優れた軽量性を両立できるとされているが、グラファイトシートを被覆する樹脂は、密な樹脂であり、軽量性の改善の余地がある。また、非強化の樹脂による被覆のため、熱伝導体の剛性は低いと考えられる。
【0009】
特許文献3における熱伝導体は、グラファイトシートを、二つのスポンジ層の間に介装させることにより、優れた熱伝導性もつとされている。スポンジ層は発泡樹脂であり、軽量性には優れるものの、剛性は非常に低いと考えられる。
【0010】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであって、その目的は、優れた軽量性と優れた剛性を両立し、放熱性に優れる熱伝導体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の熱伝導体は、以下の構成を有する。
【0012】
面内熱伝導率が300W/m・K以上のシート状の熱伝導材(II)が、強化繊維と樹脂から構成される多孔質構造体(I)に含まれてなる熱伝導体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた軽量性と優れた剛性を両立し、放熱性に優れる熱伝導体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本発明の熱伝導体の別の実施形態を示す模式図
【
図3】本発明の熱伝導体の実施形態から除外される一形態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0016】
<熱伝導体>
本発明の熱伝導体を構成する多孔質構造体(I)はシート状の熱伝導材(II)(以下、単に熱伝導材(II)という場合がある)を含む。ここでいう「含む」とは、多孔質構造体(I)の層の一部として熱伝導材(II)が存在していることを意味する。
【0017】
例えば、
図1のような、多孔質構造体(I)2が熱伝導材(II)3の一の端面(
図1における右側の端面)および一方の表面(
図1における上側の表面)を覆う態様や、
図2のような、多孔質構造体(I)2が熱伝導材(II)3の両面(両方の表面)および全ての端面を覆う、すなわち多孔質構造体(I)が熱伝導材(II)を内包している態様は、多孔質構造体(I)が熱伝導材(II)を含んでいると言える。一方、
図3のような、熱伝導材(II)3の全ての端面が露出している、すなわち熱伝導材(II)のみが独立した層をなしているとみなせる態様は、上記の「含む」の概念から除外される。このように、熱伝導材(II)が多孔質構造体(I)に含まれていることで、熱伝導体に加えられた応力を多孔質構造体(I)が負担し、熱伝導材(II)への応力の伝達が抑制され、熱伝導材(II)の破壊を抑えることができる。
【0018】
多孔質構造体(I)は、熱伝導材(II)の少なくとも二つの端面を覆っていることが好ましく、さらに熱伝導材(II)の両面を覆っていることが好ましく、熱伝導材(II)の両面および全ての端面を覆っている、すなわち熱伝導材(II)を内包していることがさらに好ましい。
【0019】
なお、本発明においては、多孔質構造体(I)が熱伝導材(II)を接着剤や緩衝材などの他部材を介して覆っていてもよい。また、多孔質構造体(I)と熱伝導材(II)の間に隙間があってもよい。
【0020】
しかしながら、本発明においては、熱伝導材(II)の少なくとも一つの端面が、多孔質構造体(I)に他部材を介さずに直接接していることが好ましい。また、熱伝導材(II)の少なくとも一方の表面が多孔質構造体(I)に接していることが好ましい。このように熱伝導材(II)が多孔質構造体(I)と直接接していることで、熱伝導体表面から伝わった熱が、多孔質構造体(I)から熱伝導材(II)へと速やかに伝わることができる。
【0021】
さらに、本発明においては、熱伝導材(II)は多孔質構造体(I)と接着されていないことが好ましい。熱伝導材(II)と多孔質構造体(I)とを接着させるためには、一般的に、それらの間に接着剤を介在させる必要があるが、接着剤の分熱伝導体に占める熱伝導材(II)の割合が減少してしまい、熱伝導体の放熱性が低下する。また、熱伝導材(II)が多孔質構造体(I)と接着されていないことにより、熱伝導体に加えられた応力を多孔質構造体(I)が負担する割合が大きくなり、従って熱伝導材(II)への応力の伝達が抑制され、熱伝導材(II)の破壊を抑えることができる。
【0022】
本発明の熱伝導体は、曲げ弾性率が3GPa以上であることが好ましく、5GPa以上であることがより好ましい。熱伝導体の曲げ弾性率の上限については、特に制限はないが通常は20GPa程度である。曲げ弾性率が3GPa以上であることにより、熱伝導体が剛性の構造体となり、筐体等に好適に用いることができる。曲げ弾性率をかかる範囲とするための手段としては、例えば、多孔質構造体(I)として、繊維強化樹脂からなる多孔質構造体を用いる方法が挙げられる。
【0023】
本発明の熱伝導体は、単位幅あたりの曲げ剛性が0.3N・m以上であることが好ましく、0.5N・m以上であることがより好ましく、1.5N・m以上であることがさらに好ましい。熱伝導体の単位幅あたりの曲げ剛性は高ければ高いほど好ましいため、単位幅あたりの曲げ剛性の上限については特に制限はないが、通常は45N・m程度である。単位幅あたりの曲げ剛性は、熱伝導体の弾性率E(Pa)、断面二次モーメントI(m4)、熱伝導体の幅b(m)から、次式により算出できる。
・単位幅あたりの曲げ剛性(N・m)=E(Pa)×I(m4)/b(m)
また、熱伝導体の断面が矩形断面である場合は、矩形断面の断面二次モーメントIは、bh3/12(m4)であるため、次式により算出できる。
・単位幅あたりの曲げ剛性(N・m)=E(Pa)×h3(m3)/12
単位幅当たりの曲げ剛性を上述の範囲とするための手段としては、例えば、多孔質構造体(I)として、繊維強化樹脂からなる多孔質構造体を用いる方法が挙げられる。また、例えば、熱伝導体の厚みを厚肉とする方法が挙げられる。
【0024】
本発明の熱伝導体は、最大厚みが0.3mm以上3.0mm以下であることが好ましく、0.5mm以上1.5mm以下であることがより好ましい。熱伝導体の厚みを薄肉とすることで軽量化の効果があるが、0.3mmよりも薄い熱伝導体は剛性が不足する場合がある。
【0025】
本発明の熱伝導体は、比重が1.00以下であることが好ましく、0.80以下であることがより好ましく、0.50以下であることがさらに好ましい。熱伝導体の比重が小さくなると軽量性に優れるが、比重が0.10以下になると剛性が不足する場合がある。
【0026】
熱伝導体の一部の表面、あるいは全ての表面は樹脂で被覆されてもよい。熱伝導体を樹脂で被覆することで、強化繊維の露出によるショートを防止できる。また、意匠性や機械特性の観点からも好ましい。
【0027】
[熱伝導材(II)]
本発明において、熱伝導材(II)はシート状であり、その面内熱伝導率は、300W/m・K以上である。熱伝導材(II)の面内熱伝導率は、500w/m・K以上であることが好ましく、1000w/m・K以上であることがさらに好ましい。面内熱伝導率は高ければ高いほど好ましいため、面内熱伝導率の上限については特に制限はないが、2000W/m・K程度の面内熱伝導率を有する熱伝導材が知られている。熱伝導材(II)の面内熱伝導率が300W/m・K以上であれば、熱伝導体の面内方向への熱の拡散が優れ、熱伝導体の放熱性は優れるものとなる。熱伝導材(II)の熱伝導率はレーザーフラッシュ法によりインプレーン測定用のサンプルホルダーにサンプルをセットし、サンプルの大きさを直径20~30mm程度、厚みを1mm以下とすることで測定することができる。また、レーザー光を吸収しにくい材料に対しては、サンプル表面に黒化膜を薄く均一に製膜する。赤外線検出素子の測温波長における放射率が低い材料に対しては、サンプル裏面に同様の処理を行う。また、本発明において、シート状とは、厚みが薄くて幅が広いものを指し、厚みが0.01μm以上10mm以下であり、幅と厚みのアスペクト比が10以上のものを意味するものとする。
【0028】
熱伝導材(II)の材質は、面内熱伝導率が300w/m・K以上となる限り特に限定されず、例えば、セラミックス、金属、グラファイト、樹脂に高熱伝導性フィラーを添加することで熱伝導率を高めた高熱伝導性樹脂などを用いることができる。
【0029】
さらに、熱伝導材(II)は、グラファイトシート、金属シートおよびセラミックスシートからなる群より選択される熱伝導シートを含むことが好ましく、グラファイトシート、金属シートおよびセラミックスシートからなる群より選択される熱伝導シートからなることがより好ましい。セラミックスシートとしては、シリカ、ジルコニア、アルミナ、窒化ホウ素、シリコンカーバイド、シリコンナイトライドなどのシートを挙げることができる。金属シートとしては、チタン、アルミニウム、マグネシウム、鉄、銀、金、白金、銅、ニッケル、またはこれらの元素を主成分とする合金からなるシートを挙げることができる。
【0030】
金属シートは比較的安価であり、なかでも銅シートが安価であり熱伝導率にも優れるため、原料コストの観点からは好ましい。グラファイトシートは比重が小さく、かつ熱伝導率が優れるため、熱伝導体の軽量性、放熱性を向上させる観点から、本発明において特に好ましい。
【0031】
グラファイトシートとしては、黒鉛粉末をバインダー樹脂と混合成形したシート、あるいは膨張黒鉛を圧延したシート、炭化水素系ガスを用いCVD法によって炭素原子を基板上に積層させてからアニーリングしたシート、高分子化合物のフィルムをグラファイト化したシートなどを挙げることができる。中でも、高分子化合物のフィルムをグラファイト化したシートは熱伝導性が非常に高いため、好ましい。
【0032】
本発明において、熱伝導材(II)は、複数の熱伝導シートの積層構造体を含むことが好ましく、複数の熱伝導シートの積層構造体であることがより好ましい。特に、グラファイトシートは、シート内のグラフェン構造の配向が熱伝導率に影響し、一般的に、薄いグラファイトシートのほうが熱伝導率は高い。従って、熱伝導シートとしてグラファイトシートを用いる場合、複数枚の積層構造体を熱伝導材(II)とすることで、熱伝導体の放熱性を向上させることができる。この場合、熱伝導材(II)を構成する複数の熱伝導シートは、接着剤などを介さず、互いに直接接触していることが好ましい。熱伝導シートが互いに直接接触することで、熱伝導体に占める熱伝導材(II)の割合を増加させることができ、熱伝導体の放熱性が向上する。また、熱伝導シート同士が直接接触することで、面外方向への熱の拡散にも優れるものとなる。熱伝導シートの積層枚数は、2枚以上10枚以下が好ましく、3枚以上5枚以下がより好ましい。積層枚数を増加させると、熱伝導体の放熱性が向上する。一方、積層枚数を増加させすぎると、プロセス性が低くなる。
【0033】
熱伝導材(II)の平均厚みは、0.01μm以上2.0mm以下であることが好ましく、5μm以上1.0mm以下であることがより好ましく、15μm以上0.5mm以下であることがさらに好ましい。熱伝導材(II)の平均厚みが小さすぎると、熱伝導体の放熱性は低下してしまい、熱伝導材(II)の平均厚みが大きすぎると、熱伝導体の重量が重くなる。熱伝導材(II)の平均厚みの測定方法は、マイクロメーターを用いて熱伝導材(II)の9点の厚みを小数点1桁まで測定し、その平均値を平均厚みとする。測定する点についてはそれぞれ各測定点と隣の点またはサンプル端部の間隔が縦方向と横方向において、均等な間隔となるように縦及び横方向で3点ずつの計9点で測定を行う。
【0034】
[多孔質構造体(I)]
多孔質構造体(I)の材質は、強化繊維と樹脂から構成される繊維強化樹脂である限り特に制限されないが、例えば、連続繊維に発泡剤を含む樹脂を含浸、発泡させたもの、不連続繊維に発泡剤を含む樹脂を含浸、発泡させたもの、あるいは、不連続繊維に樹脂を含浸させ、不連続繊維のスプリングバックにより膨張させたものなどが挙げられる。なお、連続した強化繊維とは、少なくとも一方向に15mm以上、好ましくは100mm以上の長さにわたり連続した強化繊維を意味するものとする。繊維強化樹脂であることで、熱伝導体の軽量性および剛性の観点で有利である。また、多孔質構造体(I)に熱伝導材(II)を含ませる際、多孔質構造体(I)が、面外方向に潰れる、あるいは膨れることで、熱伝導材(II)の位置ずれなく、多孔質構造体(I)が熱伝導材(II)を含むことができる。
【0035】
多孔質構造体(I)における空隙の体積含有率は、多孔質構造体(I)の見掛け体積に対して10%以上85%以下であることが好ましく、20%以上85%以下がより好ましく、軽量性と機械特性の両立の観点から50%以上80%以下であることがさらに好ましい。
【0036】
多孔質構造体(I)の比重は、熱伝導体の軽量性の観点から、0.01~1.5であることが好ましい。より好ましくは0.1~1.3であり、さらに好ましくは0.3~1.1である。比重の測定は、多孔質構造体(I)を切り出し、ISO0845(1988)に準拠して測定する。
【0037】
多孔質構造体(I)に含まれる強化繊維の種類には特に制限はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、ボロン繊維、金属繊維、天然繊維、鉱物繊維などが使用でき、これらは1種または2種以上を併用してもよい。中でも、比強度、比剛性が高く軽量化効果の観点から、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が好ましく用いられる。また、得られる熱伝導体の経済性を高める観点から、ガラス繊維を好ましく用いることができ、とりわけ機械特性と経済性のバランスから炭素繊維とガラス繊維を併用することが好ましい。さらに、得られる熱伝導体の衝撃吸収性や賦形性を高める観点から、アラミド繊維を好ましく用いることができ、とりわけ機械特性と衝撃吸収性のバランスから炭素繊維とアラミド繊維を併用することが好ましい。また、得られる熱伝導体の導電性を高める観点から、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆した強化繊維やピッチ系の炭素繊維を用いることもできる。
【0038】
強化繊維は、サイジング剤で表面処理されていることが、機械特性向上の観点から好ましい。サイジング剤としては多官能エポキシ樹脂、アクリル酸系ポリマー、多価アルコール、ポリエチレンイミンなどが挙げられ、具体的にはグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アラビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリアクリル酸、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体、アクリル酸とマレイン酸との共重合体、あるいはこれらの2種以上の混合物、ポリビニルアルコール、グリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロール、ソルビトール、アラビトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、アミノ基を1分子中により多く含むポリエチレンイミン等が挙げられ、これらの中でも、反応性の高いエポキシ基を1分子中に多く含み、かつ水溶性が高く、塗布が容易なことから、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが好ましく用いられる。
【0039】
多孔質構造体(I)に含まれる樹脂は、特に制限はなく、熱硬化樹脂でも熱可塑性樹脂でもよい。熱可塑性樹脂は、例えば、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂」などの結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」などの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマーなどや、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、得られる熱伝導体の軽量性の観点からはポリオレフィンが好まししい。また、強度の観点からはポリアミドが好ましい。特に、多孔質構造体(I)が繊維強化樹脂からなる場合、強化繊維と樹脂の界面接合強度の観点からポリアミドが好ましい。また、熱硬化性樹脂は、例えば、不飽和ポレステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール(レゾール)樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、マレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂などや、これらの2種類以上をブレンドした樹脂などの熱硬化性樹脂が挙げられる。中でも、特に、多孔質構造体(I)が繊維強化樹脂からなる場合、強化繊維と樹脂の界面接合強度の観点からエポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0040】
さらに、樹脂には、その用途に応じてマイカ、タルク、カオリン、ハイドロタルサイト、セリサイト、ベントナイト、ゾノトライト、セピオライト、スメクタイト、モンモリロナイト、ワラステナイト、シリカ、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスマイクロバルーン、クレー、二硫化モリブデン、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、ポリリン酸カルシウム、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ホウ酸亜カルシウム、ホウ酸アルミニウムウィスカ、チタン酸カリウムウィスカおよび高分子化合物などの充填材、金属系、金属酸化物系、カーボンブラックおよびグラファイト粉末などの導電性付与材、臭素化樹脂などのハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモンなどのアンチモン系難燃剤、ポリリン酸アンモニウム、芳香族ホスフェートおよび赤燐などのリン系難燃剤、有ホウ酸金属塩、カルボン酸金属塩および芳香族スルホンイミド金属塩などの有機酸金属塩系難燃剤、硼酸亜鉛、亜鉛、酸化亜鉛およびジルコニウム化合物などの無機系難燃剤、シアヌル酸、イソシアヌル酸、メラミン、メラミンシアヌレート、メラミンホスフェートおよび窒素化グアニジンなどの窒素系難燃剤、PTFEなどのフッ素系難燃剤、ポリオルガノシロキサンなどのシリコーン系難燃剤、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物系難燃剤、またその他の難燃剤、酸化カドミウム、酸化亜鉛、酸化第一銅、酸化第二銅、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化スズおよび酸化チタンなどの難燃助剤、顔料、染料、滑剤、離型剤、相溶化剤、分散剤、マイカ、タルクおよびカオリンなどの結晶核剤、リン酸エステルなどの可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色防止剤、紫外線吸収剤、流動性改質剤、発泡剤、抗菌剤、制振剤、防臭剤、摺動性改質剤、およびポリエーテルエステルアミドなどの帯電防止剤等を添加しても良い。とりわけ、用途が電気・電子機器、自動車、航空機などの場合には、難燃性が要求される場合があり、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、無機系難燃剤が好ましく添加される。
上記難燃剤は、難燃効果の発現とともに、使用する樹脂の機械特性や成形時の樹脂流動性などと良好な特性バランスを保つために、樹脂100質量部に対して難燃剤1~20質量部とすることが好ましい。より好ましくは1~15質量部である。
【0041】
本発明の熱伝導体において、多孔質構造体(I)が、不連続繊維強化樹脂からなることが特に好ましい。不連続繊維強化樹脂は、不連続繊維が三次元的なネットワークを形成するとともに、不連続繊維同士の交点が樹脂により結合された構造を有する。不連続繊維同士が樹脂により接合することで、多孔質構造体(I)のせん断弾性率が高くなり、熱伝導体の剛性が高くなる。以下、この態様について説明する。
【0042】
不連続繊維強化樹脂中において、不連続繊維は、500本未満の細繊度ストランドとして存在することが好ましく、より好ましくは単繊維状に分散されて存在していることが好ましい。不連続繊維の繊維長は1~50mmが好ましく、3~30mmがより好ましい。1mm以上であると不連続繊維による補強効果を効率良く発揮することができる。また、50mm以下であると不連続繊維の分散を良好に保つことができる。
【0043】
不連続繊維の単繊維同士が樹脂により結合している結合部分の個数の割合は、不連続繊維同士が交叉している全交叉部分の個数に対し50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0044】
不連続繊維の質量割合は、機械特性と成形性を両立する観点から、多孔質構造体(I)中に5~60質量%が好ましく、より好ましくは10~50質量%であり、さらに好ましくは15~40質量%である。
【0045】
多孔質不連続繊維強化樹脂中において、不連続繊維は、その表面の30%以上、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは80%以上が樹脂で被覆されていることが好ましい。かかる被覆率とすることで、多孔質構造体(I)の剛性を高くすることができる。被覆率は、走査型電子顕微鏡(SEM)で、多孔質構造体(I)の断面を観察し強化繊維と樹脂を区別することで測定される。
【0046】
多孔質不連続繊維強化樹脂の空隙は、水銀圧入法によって測定される平均空孔径が200μm以下であることが好ましい。かかる平均空孔径は10μm以上150μm以下が好ましく、30μm以上100μm以下がより好ましい。かかる範囲よりも小さいと軽量化硬化が十分でない場合があり、かかる範囲より大きいと機械特性が低下する場合がある。水銀圧入法とは、水銀圧入ポロしメーターを用いて行う細孔径の測定方法であり、サンプルに水銀を高圧で注入させ、加えた圧力と注入された水銀の量から細孔径を求めることができる。平均空孔径は、次式により算出できる。
・平均空孔径(m)=4×空孔容積(m3/g)/比表面積(m2/g)
<熱伝導体の製造方法>
本発明の熱伝導体の製造方法は、本発明の熱伝導体を製造する方法であって、前記熱伝導材(II)の少なくとも一方の表面及び少なくとも一つの端面に多孔質構造体(I)の前駆体を配置する工程および熱プレスする工程をこの順に含む。かかる方法を用いることにより、多孔質構造体(I)の成形・接合を同時に実施することができるため、生産性に優れる。本発明の熱伝導体の製造方法において、「熱伝導材(II)の少なくとも一方の表面及び少なくとも一つの端面に多孔質構造体(I)の前駆体を配置する」とは、多孔質構造体(I)の前駆体が熱伝導材(II)の少なくとも一方の表面及び少なくとも一つの端面を覆うように配置することをいう。
【0047】
本発明の熱伝導体の製造方法において、熱伝導材(II)の両面に多孔質構造体(I)の前駆体が配置されることが好ましい。また、本発明の熱伝導体の製造方法において、多孔質構造体(I)の前駆体は、熱伝導材(II)の少なくとも二つの端面に配置されることがより好ましく、さらに熱伝導材(II)の両面に配置されることがさらに好ましく、熱伝導材(II)の両面および全ての端面に配置されている、すなわち熱伝導材(II)を内包していることが特に好ましい。
【0048】
多孔質構造体(I)が不連続繊維強化樹脂から構成される場合、多孔質構造体(I)の前駆体は、不連続強化繊維マットに熱可塑性樹脂のフィルムや不織布を圧縮しつつ含浸させることで製造することができる。不連続強化繊維マットは、例えば、不連続の強化繊維を予め、ストランド状、好ましくは略単繊維状、より好ましくは単繊維状に分散して製造される。より具体的には、不連続の強化繊維を空気流にて分散してシート化するエアレイド法や、不連続の強化繊維を機械的にくし削りながらシートに形成するカーディング法などの乾式プロセス、不連続の強化繊維を水中にて攪拌して抄紙するラドライト法による湿式プロセスを公知技術として挙げることができる。
【0049】
不連続の強化繊維をより単繊維状に近づける手段としては、乾式プロセスにおいては、開繊バーを設ける手段、開繊バーを振動させる手段、カードの目をファインにする手段、カードの回転速度を調整する手段などが例示でき、湿式プロセスにおいては、不連続の強化繊維の攪拌条件を調整する手段、分散液の強化繊維濃度を希薄化する手段、分散液の粘度を調整する手段、分散液を移送させる際に渦流を抑制する手段などが例示できる。特に、不連続強化繊維マットは、湿式法で製造されることが好ましく、投入繊維の濃度を増やしたり、分散液の流速(流量)とメッシュコンベアの速度を調整したりすることで、不連続強化繊維マットにおける強化繊維の割合を容易に調整することができる。例えば、分散液の流速に対して、メッシュコンベアの速度を遅くすることで、得られる不連続強化繊維マット中の繊維の配向が引き取り方向に向き難くなり、嵩高い不連続強化繊維マットを製造可能である。不連続強化繊維マットとしては、不連続の強化繊維単体から構成されていてもよく、不連続の強化繊維が粉末形状や繊維形状のマトリックス樹脂成分と混合されていたり、不連続の強化繊維が有機化合物や無機化合物と混合されていたり、不連続の強化繊維同士が樹脂成分で目留めされていてもよい。
【0050】
不連続強化繊維マットに熱可塑性樹脂のフィルムや不織布を含浸させる際の圧力は、好ましくは0.5MPa以上30MPa以下、より好ましくは1MPa以上5MPa以下とするのがよい。0.5MPaよりも圧力が小さいと熱可塑性樹脂が不連続強化繊維マットに含浸しないことがあり、また30MPaよりも大きいと多孔質構造体の前駆体の厚さの調整が困難になる。熱可塑性樹脂のフィルムや不織布を含浸させる際の温度は、熱可塑性樹脂の融点あるいはガラス転移点以上の温度であることが好ましく、融点あるいはガラス転移点に、10℃を加えた温度以上であることがより好ましく、融点あるいはガラス転移点に、20℃を加えた温度以上であることがさらに好ましい。なお、熱可塑性樹脂のフィルムや不織布を含浸させる際の温度が、熱可塑性樹脂の融点あるいはガラス転移点よりも温度が高すぎる場合、熱可塑性樹脂の分解や劣化が生じることがあるため、熱可塑性樹脂の融点あるいはガラス転移点に、150℃を加えた温度以下であるのが好ましい。
【0051】
不連続強化繊維マットに熱可塑性樹脂のフィルムや不織布を含浸させる方法を実現するための設備としては、圧縮成形機、ダブルベルトプレス機を好適に用いることができる。圧縮成形機はバッチ式であり、加熱用と冷却用の2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図れる。ダブルベルトプレス機は連続式であり、連続的な加工を容易におこなうことができるため連続生産性に優れる。
【0052】
本発明の熱伝導体の製造方法は、熱プレスする工程を有する。この工程においては、熱伝導材(II)の少なくとも一つの表面及び少なくとも一つの端面に多孔質構造体(I)の前駆体を配置して、多孔質構造体(I)の前駆体の膨脹温度または接合に必要な温度で熱プレスすることにより、熱伝導材を芯材に含ませることができる。この際に不連続強化繊維マットを使用した場合には不連続強化繊維マットに含浸した樹脂が、溶融または軟化して圧縮状態が解放させることで、スプリングバックが生じる。このスプリングバックにより、微細な空隙が形成され多孔質不連続繊維強化樹脂となる。熱プレスの設備としては、圧縮成形機を好適に用いることができる。圧縮成形機はバッチ式であり、加熱用と冷却用の2機以上を並列した間欠式プレスシステムとすることで生産性の向上が図ることができる。
【0053】
<筐体>
本発明の筐体は、本発明の熱伝導体を用いてなる。本発明の熱伝導体を利用することで優れた力学特性と軽量性を両立した筐体を得ることが出来る。また、量産性の観点でもプレス成形などのハイサイクル成形での成形が可能であるため好ましい。
【0054】
本発明の筐体は、例えば、上述の熱伝導体の製造方法により、所望の筐体の形状の熱伝導体を作製することにより得ることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例より本発明をさらに詳細に説明する。
【0056】
(1)熱伝導体の曲げ弾性率測定
作製した熱伝導体の曲げ試験片を、ISO178法(1993)に従い曲げ特性を測定した。測定数n=5とし、平均値を曲げ弾性率とした。測定装置としてはインストロン・ジャパン(株)製、“インストロン”(登録商標)5565型万能材料試験機を使用した。
【0057】
(2)熱伝導体の放熱性評価
図4に示すように、作製した熱伝導体1の裏面四隅に10mm×10mmの厚み3mmのゴム製スペーサ5を貼り付け、実験台に設置した。設置した熱伝導体の表面片隅に50mm×25mmのマイクロセラミックヒーター4(坂口電熱(株)製、マイクロセラミックヒーターMS-2(商品名))を設置し、一定電流・一定電圧下、10Wでヒーターを加熱した。ヒーター加熱開始から15分後のヒーター温度が一定になった時のヒーター温度から放熱性を、下記基準により評価した。
A:ヒーター温度130℃未満(放熱性が高い)
B:ヒーター温度130℃以上(放熱性が低い)
(参考例1)炭素繊維束の作製
ポリアクリロニトリルを主成分とする重合体から紡糸、焼成処理を行い、総フィラメント数12000本の炭素繊維連続束を得た。該炭素繊維連続束に浸漬法によりサイジング剤を付与し、120℃の空気中で乾燥し、炭素繊維束を得た。この炭素繊維束の特性は次の通りであった。
【0058】
単繊維径:7μm
単位長さ当たりの質量:0.8g/m
密度:1.8g/cm3
引張強度:4.2GPa
引張弾性率:230GPa
サイジング種類:ポリオキシエチレンオレイルエーテル
サイジング付着量:1.5質量%
(参考例2)炭素繊維マットの作製
参考例1の炭素繊維束をカートリッジカッターで繊維長6mmにカットし、チョップド炭素繊維束を得た。界面活性剤(ナカライテクス(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))0.1質量%の水分散液を作製し、この分散液とチョップド炭素繊維束を抄紙機に投入し、炭素繊維マットを作製した。
【0059】
抄紙機は、分散槽、抄紙槽、そして分散槽と抄紙槽を接続する輸送部を備えている。分散槽は、攪拌機が付属し、投入した分散液とチョップド炭素繊維束を分散可能である。抄紙槽は、底部に抄紙面を有するメッシュコンベアを備え、抄紙された炭素繊維マットを運搬可能なコンベアをメッシュコンベアに接続している。抄紙は、分散液中の繊維濃度を0.05質量%として行った。抄紙した炭素繊維マットを200℃の乾燥炉で乾燥した。続いて、コンベアにより運搬される炭素マットの上面部に結着剤として、結着剤(日本触媒(株)製、“ポリメント”(登録商標)SK-1000)の3質量%の水分散液を散布した。余剰分の結着剤を吸引し、200℃の乾燥炉で乾燥し、炭素繊維マットを得た。得られた炭素繊維マットの目付は50g/m2であった。
【0060】
(参考例3)ポリプロピレン樹脂フィルムの作製
無変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製、“プライムポリプロ”(登録商標)J105G)を90質量%と、酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)製、“アドマー”(登録商標)QE510)を10質量%と、をブレンドした。このブレンド品を押出機で溶融混錬した後、T字ダイから押出した。その後、60℃のチルロールで引き取り、樹脂を冷却固化することで、ポリプロピレン樹脂フィルムを得た。
【0061】
(実施例1)
参考例2の炭素繊維マットと、参考例3のポリプロピレン樹脂フィルムと、グラファイトシート(パナソニック(株)製、“PGS”(登録商標)EYGS182307、面内熱伝導率1000W/m・K)とを用いて、熱伝導体を作製した。炭素繊維マットと、ポリプロピレン樹脂フィルムを50mm×150mmのサイズに調整し、グラファイトシートを40mm×140mmのサイズに調整した後、[ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/グラファイトシート/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム]の順に積層した。この際、グラファイトシートは積層体の中央に配置した。この積層体を離型フィルムで挟み、さらにツール板で挟んだ。それらを盤面温度が180℃のプレス成形機に投入し、3MPaで10分間、熱プレスすることで、炭素繊維マットへのポリプロピレン樹脂の含浸を行った。次に、ツール板の間に厚み1mmのスペーサを挿入し、盤面温度が40℃のプレス成形機に投入し、面圧3MPaで積層体が冷えるまで冷却プレスすることで、熱伝導材の周囲に多孔質構造体が配置された、熱伝導体を得た。マイクロメーターでサンプルの厚みを測定したところ、厚みは1.0mmであった。ツール板の間に厚み1mmのスペーサを挿入することで、ポリプロピレン樹脂が含浸した炭素繊維マットがスプリングバックし、多孔質構造体となる。なお、本実施例におけるサンプルは平板であるため、厚みは一定である。したがって、サンプルのいずれかの点で測定した厚みが最大厚みとなる。他の実施例、比較例についても同様である。また、曲げ試験片は、炭素繊維マットと、ポリプロピレン樹脂フィルムを50mm×40mmのサイズに調整し、グラファイトシートを40mm×30mmのサイズに調整したこと以外は同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材の周囲に多孔質構造体が配置された、熱伝導体の曲げ試験片を得た。得られた熱伝導体は、グラファイトシートが、強化繊維を含む多孔質構造体に保護されるため、優れた剛性、軽量性、放熱性を示した。
【0062】
(実施例2)
ポリプロピレン樹脂フィルムと炭素繊維マットの枚数を変更し、[ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/グラファイトシート/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム/炭素繊維マット/ポリプロピレン樹脂フィルム]の順に積層したこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材の周囲に多孔質構造体が配置された、熱伝導体と、熱伝導体の曲げ試験片を得た。得られた熱伝導体は、優れた剛性、放熱性を維持したまま、空隙率が増加したため、より優れた軽量性を示した。
【0063】
(比較例1)
炭素繊維マットを積層せず、積層体の厚みが1.0mmとなるように、ポリプロピレン樹脂フィルムの枚数を調整して、ポリプロピレン樹脂フィルムとグラファイトシートを、[ポリプロピレン樹脂フィルム/グラファイトシート/ポリプロピレン樹脂フィルム]の順に積層したこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材の周囲にポリプロピレン樹脂が配置された、熱伝導体と、熱伝導体の曲げ試験片を得た。得られた熱伝導体は、空隙のない密な樹脂により、グラファイトシートが保護されているため、軽量性に劣る。また、強化繊維を含んでいないため、剛性も低いものであった。
【0064】
(比較例2)
グラファイトシートと、発泡ポリプロピレンシート(古川電機工業(株)製、“エフセル”(登録商標)RC2008W、密度0.46g/cm3)とを用い、発泡ポリプロピレンシートの厚みを0.5mmに調整し、[発泡ポリプロピレンシート/グラファイトシート/発泡ポリプロピレンシート]の順に積層したこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材の周囲に発泡ポリプロピレンが配置された熱伝導体を得た。得られた熱伝導体は、発泡樹脂により保護されているため、優れた軽量性を示すが、剛性が著しく低いものであった。
【0065】
(比較例3)
グラファイトシートを積層しなかったこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材を含まない熱伝導体を得た。また、曲げ試験片作製時も同様に、グラファイトシートを積層しなかったこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材を含まない熱伝導体の曲げ試験片を得た。得られた熱伝導体は、熱伝導材を含んでいないため、放熱性が低かった。
【0066】
(比較例4)
グラファイトシートのサイズを50×150mmのサイズに調整したこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材のすべての端部が露出した熱伝導体を得た。また、曲げ試験片作製時は、グラファイトシートを50mm×40mmのサイズに調整したこと以外は実施例1と同様にして、プリフォーム、プレス成形を行い、熱伝導材のすべての端部が露出した、熱伝導体の曲げ試験片を得た。得られた熱伝導体は、グラファイトシートのすべての端部が露出しているため、グラファイトシートの層間で剥離が生じ剛性が低下した。
【0067】
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の熱伝導体は、優れた軽量性と優れた剛性を両立することができる。そのため、電気・電子機器、ロボット、二輪車、自動車、航空機の構造部材等として幅広い産業分野に適用可能である。特に、高い軽量性が要求されるポータブル電子機器等の筐体に好ましく適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1. 熱伝導体
2. 多孔質構造体(I)
3. 熱伝導材(II)
4. ヒーター
5. ゴム製スペーサ