(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】工作機械支援装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20250408BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20250408BHJP
G05B 19/4155 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
G05B19/18 W
G05B19/418 Z
G05B19/4155 V
G05B19/18 X
(21)【出願番号】P 2021009227
(22)【出願日】2021-01-24
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110000604
【氏名又は名称】弁理士法人 共立特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石榑 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 章
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-067136(JP,A)
【文献】特開2018-018507(JP,A)
【文献】特開2020-177579(JP,A)
【文献】特開平05-104395(JP,A)
【文献】特開2020-144555(JP,A)
【文献】特開2019-159561(JP,A)
【文献】特開2019-020959(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0091393(US,A1)
【文献】国際公開第2019/163084(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0015554(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18-19/416
G05B 23/00-23/02
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に設置されたセンサにより検出されたデータを取得するデータ取得部と、
前記センサにより前記データが検出される際に、使用されていた工具の種類、及び、適用されていた加工条件を取得する諸元取得部と、
前記センサにより検出される前記データを説明変数とし、且つ、前記工作機械による加工状況を目的変数とする機械学習の学習済みモデルであって、前記諸元取得部により取得された少なくとも前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類毎に生成された複数の学習済みモデルを記憶するモデル記憶部と、
推定フェーズにおいて、前記モデル記憶部に記憶された前記複数の学習済みモデルの中から、前記諸元取得部により取得された前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類に対応する前記学習済みモデルを選択するモデル選択部と、
前記推定フェーズにおいて、選択された前記学習済みモデル及び前記データ取得部により取得された前記データに基づいて、前記工作機械による推定加工状況を出力する出力部と、を備え
、
前記加工状況は、前記工具の消耗度合、又は、前記工具の異常の有無であり、
前記モデル選択部は、前記推定フェーズにおいて、前記モデル記憶部に記憶された前記複数の学習済みモデルの中に、前記諸元取得部により取得された前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類に対応する前記学習済みモデルが存在しない場合に、類似する前記学習済みモデルを選択し、
前記出力部は、前記推定フェーズにおいて、選択された前記類似する前記学習済みモデル及び前記データ取得部により取得された前記データに基づいて、前記工具の消耗度合の推定値を出力し、
前記類似する前記学習済みモデルは、前記工具の種類、又は、前記加工条件の内の一つの項目以外が同じであって、前記一つの項目が最も近い諸元に対応する学習済みモデルである、工作機械支援装置。
【請求項2】
工作機械に設置されたセンサにより検出されたデータを取得するデータ取得部と、
前記センサにより前記データが検出される際に、使用されていた工具の種類、及び、適用されていた加工条件を取得する諸元取得部と、
前記センサにより検出される前記データを説明変数とし、且つ、前記工作機械による加工状況を目的変数とする機械学習の学習済みモデルであって、前記諸元取得部により取得された少なくとも前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類毎に生成された複数の学習済みモデルを記憶するモデル記憶部と、
推定フェーズにおいて、前記モデル記憶部に記憶された前記複数の学習済みモデルの中から、前記諸元取得部により取得された前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類に対応する前記学習済みモデルを選択するモデル選択部と、
前記推定フェーズにおいて、選択された前記学習済みモデル及び前記データ取得部により取得された前記データに基づいて、前記工作機械による推定加工状況を出力する出力部と、を備え
、
前記加工状況は、前記工具の消耗度合、又は、前記工具の異常の有無であり、
前記モデル選択部は、前記推定フェーズにおいて、前記モデル記憶部に記憶された前記複数の学習済みモデルの中に、前記諸元取得部により取得された前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類に対応する前記学習済みモデルが存在しない場合に、前記学習済みモデルを選択せず、
前記出力部は、前記モデル選択部により前記学習済みモデルが選択されなかった場合には、前記学習済みモデルを用いることなく、前記工具による工作物の加工数が所定数に達したか否かにより前記工具の寿命の到達の有無を出力する、工作機械支援装置。
【請求項3】
前記工具は、切削工具であり、
前記加工条件は、切削速度及び送り速度の少なくとも1つを含む、請求項1
又は2に記載の工作機械支援装置。
【請求項4】
前記諸元取得部は、さらに、前記センサにより前記データが検出される際の加工対象の工作物の種類を含み、
前記モデル記憶部は、前記諸元取得部により取得された少なくとも前記工具の種類、前記加工条件及び前記工作物の種類により分類された分類毎に生成された前記複数の学習済みモデルを記憶し、
前記モデル選択部は、前記推定フェーズにおいて、前記モデル記憶部に記憶された前記複数の学習済みモデルの中から、前記諸元取得部により取得された前記工具の種類、前記加工条件及び前記工作物の種類により分類された分類に対応する前記学習済みモデルを選択する、請求項1
-3の何れか1項に記載の工作機械支援装置。
【請求項5】
前記工作機械は、複数の前記工作機械により構成された生産ラインの1つを構成し、
前記生産ラインは、複数種の工作物を生産可能、又は、複数種の加工種別により工作物を生産可能であり、
前記工作機械は、複数種の工作物又は複数種の加工種別に対応した複数種の工具又は複数種の加工条件により前記工作物を生産する、請求項1-
4の何れか1項に記載の工作機械支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械支援装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1-3には、工作機械において、工作物の加工品質や工具の異常判定を、機械学習を利用して推定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-138279号公報
【文献】特開2019-067137号公報
【文献】特開2020-023040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
機械学習を利用して高精度に加工品質や工具異常の推定結果を得るためには、工具の種類毎に異なる学習済みモデルを生成しておき、使用していた工具の種類に応じた学習済みモデルを用いて加工品質や工具異常を推定することが求められる。
【0005】
しかしながら、学習済みモデルを工具の種類毎に生成するのみでは、出力される推定結果を推定精度の誤差が生じることがあることが分かった。例えば、同一工具や同一工作物であっても、加工条件や加工材質等が異なれば、加工中に得られるデータの分布や傾向が変化することがある。これらの理由により、推定精度の誤差が生じることがあると考えられる。
【0006】
本発明は、機械学習の推定結果の精度を向上することができる工作機械支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
工作機械に設置されたセンサにより検出されたデータを取得するデータ取得部と、
前記センサにより前記データが検出される際に、使用されていた工具の種類、及び、適用されていた加工条件を取得する諸元取得部と、
前記センサにより検出される前記データを説明変数とし、且つ、前記工作機械による加工状況を目的変数とする機械学習の学習済みモデルであって、前記諸元取得部により取得された少なくとも前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類毎に生成された複数の学習済みモデルを記憶するモデル記憶部と、
推定フェーズにおいて、前記モデル記憶部に記憶された前記複数の学習済みモデルの中から、前記諸元取得部により取得された前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類に対応する前記学習済みモデルを選択するモデル選択部と、
前記推定フェーズにおいて、選択された前記学習済みモデル及び前記データ取得部により取得された前記データに基づいて、前記工作機械による推定加工状況を出力する出力部と、を備え、
前記加工状況は、前記工具の消耗度合、又は、前記工具の異常の有無であり、
前記モデル選択部は、前記推定フェーズにおいて、前記モデル記憶部に記憶された前記複数の学習済みモデルの中に、前記諸元取得部により取得された前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類に対応する前記学習済みモデルが存在しない場合に、類似する前記学習済みモデルを選択し、
前記出力部は、前記推定フェーズにおいて、選択された前記類似する前記学習済みモデル及び前記データ取得部により取得された前記データに基づいて、前記工具の消耗度合の推定値を出力し、
前記類似する前記学習済みモデルは、前記工具の種類、又は、前記加工条件の内の一つの項目以外が同じであって、前記一つの項目が最も近い諸元に対応する学習済みモデルである、工作機械支援装置にある。
本発明の他の態様は、
工作機械に設置されたセンサにより検出されたデータを取得するデータ取得部と、
前記センサにより前記データが検出される際に、使用されていた工具の種類、及び、適用されていた加工条件を取得する諸元取得部と、
前記センサにより検出される前記データを説明変数とし、且つ、前記工作機械による加工状況を目的変数とする機械学習の学習済みモデルであって、前記諸元取得部により取得された少なくとも前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類毎に生成された複数の学習済みモデルを記憶するモデル記憶部と、
推定フェーズにおいて、前記モデル記憶部に記憶された前記複数の学習済みモデルの中から、前記諸元取得部により取得された前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類に対応する前記学習済みモデルを選択するモデル選択部と、
前記推定フェーズにおいて、選択された前記学習済みモデル及び前記データ取得部により取得された前記データに基づいて、前記工作機械による推定加工状況を出力する出力部と、を備え、
前記加工状況は、前記工具の消耗度合、又は、前記工具の異常の有無であり、
前記モデル選択部は、前記推定フェーズにおいて、前記モデル記憶部に記憶された前記複数の学習済みモデルの中に、前記諸元取得部により取得された前記工具の種類及び前記加工条件により分類された分類に対応する前記学習済みモデルが存在しない場合に、前記学習済みモデルを選択せず、
前記出力部は、前記モデル選択部により前記学習済みモデルが選択されなかった場合には、前記学習済みモデルを用いることなく、前記工具による工作物の加工数が所定数に達したか否かにより前記工具の寿命の到達の有無を出力する、工作機械支援装置にある。
【0008】
上記工作機械支援装置によれば、モデル記憶部に記憶されている複数の学習済みモデルは、工具の種類及び加工条件により分類された分類毎に生成されている。そして、モデル選択部が、推定フェーズにおいて、諸元取得部により取得された工具の種類及び加工条件により分類された分類に対応する学習済みモデルを選択し、出力部が、選択された当該学習済みモデルに基づいて工作機械の推定加工状況を出力する。このように、推定フェーズにて使用する学習済みモデルは、工具の種類のみならず、加工条件を考慮したモデルである。従って、出力部が出力する推定加工状況は、より高精度な結果となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】工作機械と工作機械支援装置とを含むシステム全体を示す図である。
【
図3】工作機械による加工方法の例を示すフローチャートである。
【
図5】諸元取得部により取得される諸元と学習済みモデルとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1.工作機械支援装置の概要)
工作機械支援装置は、工作機械に設置されたセンサにより検出されたデータに基づいて、機械学習を利用することにより、工作機械の加工状況を推定する装置である。推定される加工状況は、工作機械により加工される工作物の加工品質、工作機械の故障の有無、工作機械の劣化状態、工作機械の熱変位量等である。
【0011】
工作物の加工品質は、工作物の形状精度、工作物の寸法精度、工作物の面性状、工作物の加工変質層の有無、工作物の表面のキズの有無等を含む。工作機械の故障の有無及び工作機械の劣化状態は、工作機械を構成する部品の故障の有無及び劣化状態を含む。部品の故障の有無及び劣化状態は、例えば、工具の折損や欠け等による異常の有無(故障の有無に相当)、工具の摩耗等による消耗度合(劣化状態に相当)、軸受の劣化状態等を含む。工作機械の熱変位量は、工作機械の構成部材の熱変位に伴う工具と工作物との相対位置のずれ量や、工作機械の構成部材単体での熱変位量等を含む。
【0012】
また、機械学習における学習済みモデルは、多数用意されている。具体的には、機械学習の学習フェーズにおいて、加工に使用されていた工具の種類、適用されていた加工条件、加工対象の工作物の種類等により分類された分類毎に学習済みモデルが生成される。また、機械学習の推定フェーズにおいては、工具の種類、加工条件、工作物の種類等により対応する学習済みモデルを選択し、選択した学習済みモデルを用いて推定加工状況を出力する。
【0013】
特に、工作機械は、複数の工作機械により構成された生産ラインの1つを構成する場合に好適である。生産ラインは、複数種の工作物を生産可能、又は、複数種の加工種別により工作物を生産可能である。いわゆる、当該生産ラインは、多種の加工を実施できる。そして、工作機械は、複数種の工作物又は複数種の加工種別に対応した複数種の工具又は複数種の加工条件により工作物を生産することができる。つまり、生産ラインを構成するそれぞれの工作機械が、複数種の加工を実施できるようになっている。ここでの複数種の加工とは、異なる工具による加工、同一工具による異なる加工条件による加工、異なる工具による異なる加工条件による加工等を含む意味である。
【0014】
(2.支援システム100の構成)
工作機械1及び工作機械支援装置2(以下、「支援装置」と称する)を含む支援システム100について、
図1を参照して説明する。
図1には、説明の容易化のために1台の工作機械1のみを示すが、上述したように、複数台の工作機械1により構成される生産ラインに適用されるのが好適である。
【0015】
工作機械1は、工作物Wを加工する機械であって、切削加工、研削加工等、種々の加工を行う。本例では、工作機械1は、
図1に示すように、切削加工を行うマシニングセンタを例にあげる。
【0016】
図1に示す工作機械1は、工具Tと工作物Wとを相対的に移動させることにより、工具Tによって工作物Wを加工する装置である。また、工作機械1は、工具交換可能に構成されており、装着された工具Tに応じた加工が可能である。例えば、交換可能な工具Tとしては、エンドミル、フライス工具、ドリル、旋削工具、ネジ切り工具、歯形創成工具等の切削工具、及び、研削工具等である。なお、
図1において、工具交換装置及び工具Tを保管する工具マガジンは、図示しない。また、本例では、工作機械1は、横形マシニングセンタを基本構成とする。ただし、工作機械1は、立形マシニングセンタ等、他の構成を適用することができる。
【0017】
図1に示すように、工作機械1は、例えば、相互に直交する3つの直進軸(X軸,Y軸,Z軸)を駆動軸として有する。ここで、工具Tの回転軸線(工具主軸の回転軸線に等しい)の方向をZ軸方向と定義し、Z軸方向に直交する2軸をX軸方向及びY軸方向と定義する。
図1においては、水平方向をX軸方向とし、鉛直方向をY軸方向とする。さらに、工作機械1は、さらに、工具Tと工作物Wとの相対姿勢を変更するための2つの回転軸(A軸及びB軸)を駆動軸として有する。また、工作機械1は、工具Tを回転するための回転軸としてのCt軸を有する。
【0018】
つまり、工作機械1は、自由曲面を加工可能な5軸加工機(工具主軸(Ct軸)を考慮すると6軸加工機となる)である。ここで、工作機械1は、A軸(基準状態においてX軸回りの回転軸)及びB軸(基準状態においてY軸回りの回転軸)を有する構成に代えて、Cw軸(基準状態においてZ軸回りの回転軸)及びB軸を有する構成としても良いし、A軸及びCw軸を有する構成としても良い。
【0019】
工作機械1において、工具Tと工作物Wとを相対的に移動させる構成は、適宜選択可能である。本例では、工作機械1は、工具TをY軸方向及びZ軸方向に直動可能とし、工作物WをX軸方向に直動可能とし、さらに工作物WをA軸回転及びB軸回転可能とする。また、工具Tは、Ct軸回転可能である。
【0020】
工作機械1は、ベッド10と、工作物保持装置20と、工具保持装置30とを備える。ベッド10は、略矩形状等の任意の形状に形成されており、床面に設置される。工作物保持装置20は、工作物Wをベッド10に対して、X軸方向に直動可能とし、A軸回転及びB軸回転可能とする。工作物保持装置20は、X軸移動テーブル21と、B軸回転テーブル22と、工作物主軸装置23とを主に備える。
【0021】
X軸移動テーブル21は、ベッド10に対してX軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、X軸方向(
図1前後方向)へ延びる一対のX軸ガイドレールが設けられ、X軸移動テーブル21は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置によって駆動されることにより、一対のX軸ガイドレールに案内されながらX軸方向へ往復移動する。
【0022】
B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21の上面に設置され、X軸移動テーブル21と一体的にX軸方向へ往復移動する。また、B軸回転テーブル22は、X軸移動テーブル21に対し、B軸回転可能に設けられる。B軸回転テーブル22には、図示しない回転モータが収納され、B軸回転テーブル22は、回転モータに駆動されることでB軸回転可能となる。
【0023】
工作物主軸装置23は、B軸回転テーブル22に設置され、B軸回転テーブル22と一体的にB軸回転する。工作物主軸装置23は、工作物WをA軸回転可能に支持する。工作物主軸装置23は、工作物Wを回転させる回転モータ(図示せず)を備える。このようにして、工作物保持装置20は、工作物Wを、ベッド10に対して、X軸方向へ移動可能とし、且つ、A軸回転及びB軸回転可能とする。
【0024】
工具保持装置30は、コラム31と、サドル32と、工具主軸装置33とを主に備える。コラム31は、ベッド10に対してZ軸方向に移動可能に設けられる。具体的に、ベッド10には、Z軸方向(
図1左右方向)へ延びる一対のZ軸ガイドレールが設けられ、コラム31は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置によって駆動されることにより、一対のZ軸ガイドレールに案内されながらZ軸方向へ往復移動する。
【0025】
サドル32は、コラム31における工作物W側の側面(
図1の左側面)であって、Z軸方向に直交する平面に平行な側面に配置される。このコラム31の側面には、Y軸方向(
図1の上下方向)へ延びる一対のY軸ガイドレールが設けられ、サドル32は、図示しないリニアモータ又はボールねじ機構等の駆動装置に駆動されることで、Y軸方向へ往復移動する。
【0026】
工具主軸装置33は、サドル32に設置されると共に、サドル32と一体的にY軸方向へ移動する。工具主軸装置33は、工具TをCt軸回転可能に支持する。工具主軸装置33は、工具Tを回転させる回転モータ(図示せず)を備える。このように、工具保持装置30は、工具Tを、ベッド10に対して、Y軸方向及びZ軸方向に移動可能とし、且つ、Ct軸回転可能に保持する。
【0027】
支援装置2は、工作機械1に設置されたセンサに接続されており、当該センサにより検出されたデータを取得し、機械学習により工作機械1の加工状況、例えば、工作物Wの加工品質、工具Tの異常(故障)の有無、工具Tの消耗度合、工作機械1の熱変位量等を推定する。
【0028】
(3.対象の加工方法の例)
支援装置2の説明を容易にするために、工作機械1による加工方法の例について、
図2及び
図3を参照して説明する。加工方法の例は、
図2に示すように、ドリルによる穴あけ加工である。つまり、当該加工方法は、工作機械1の工具Tとしてドリルを用いて、工作物Wに穴あけ加工(切削加工)を行う場合である。ただし、支援装置2による対象の加工方法は、穴あけ加工に限られるものではなく、他の加工方法にも適用可能である。
【0029】
本例は、穴あけ加工の途中で、送り速度を変化させる場合とする。
図2において、加工初期の範囲Aでは、工具Tの送り速度を第一速度Vaとし、加工中期の範囲Bでは、工具Tの送り速度を第二速度Vbとし、加工終期の範囲Cでは、工具Tの送り速度を第三速度Vcとする。ここで、第一速度Vaと第三速度Vcは、同一とし、第二速度Vbは、第一速度Va及び第三速度Vcよりも高速としている。つまり、加工開始直後は、ゆっくり加工を行い、安定した後に高速加工を行い、加工終了深さに近づく前に速度を遅くする。
【0030】
より詳細には、
図3に示すように、まず早送り動作により工具Tを工作物Wに接近させ、工具Tを工作物Wの穴あけ位置へ移動させる(S1)。続いて、工具Tを第一速度Vaにて移動させながら、工作物Wに対して穴あけ加工を行う(S2)。このときの穴あけ加工の範囲は、
図2の加工初期の範囲Aである。
【0031】
続いて、工具Tを一時停止した直後に、工具Tを第一速度Vaより高速の第二速度Vbにて移動させながら、工作物Wに対してさらに穴あけ加工を行う(S3)。このときの穴あけ加工の範囲は、
図2の加工中期の範囲Bである。続いて、工具Tを第二速度Vbより低速の第三速度Vcに変更して、工作物Wに対してさらに穴あけ加工を行う(S4)。このときの穴あけ加工の範囲は、
図2の加工終期の範囲Cである。続いて、工具Tを加工済みの穴から脱出させて(S5)、工具Tを早送り動作により工作物Wから退避させる(S6)。
【0032】
(4.支援装置2の構成)
支援装置2の構成について、
図4及び
図5を参照して説明する。支援装置2は、工作機械1に設置されたセンサにより検出されたデータを用いて機械学習により、工作機械1の加工状況、例えば、工作物Wの加工品質、工具Tの異常(故障)の有無、工具Tの消耗度合、工作機械1の熱変位量等を推定する。
【0033】
支援装置2は、プロセッサ、記憶装置、インターフェース等を備えて構成される。支援装置2は、
図4に示すように、データ取得部41、諸元取得部42、モデル生成部43、モデル記憶部44、モデル選択部45、出力部46を備える。
【0034】
データ取得部41は、工作機械1に設置されたセンサにより検出されたデータを取得する。データ取得部41は、例えば、工作機械1の動作の負荷の時系列データを取得する。工作機械1に生じる負荷は、例えば、工具主軸装置33に設置された力センサにより検出される力、工具主軸装置33におけるモータに設置された電流センサの電流値、工具主軸装置33に設置された振動センサにより検出される振動の大きさ等を用いることができる。また、当該負荷は、工作物Wを支持する部材に設置された振動センサにより検出される振動の大きさ、当該部材に設置された力センサにより検出される力としても良い。
【0035】
また、データ取得部41は、工作機械1に生じる負荷の時系列データの他に、工作物Wに対する工具Tの相対位置を表す各移動体の制御位置データを取得しても良い。さらに、データ取得部41は、加工中における工作物Wの形状情報、面性状情報等のデータを取得しても良い。
【0036】
諸元取得部42は、センサによりデータが検出される際に、使用されていた工具Tの種類、適用されていた加工条件、工作物Wの種類を含む諸元情報を取得する。工具Tの種類は、エンドミル、フライス工具、ドリル、旋削工具、ネジ切り工具、歯形創成工具等の切削工具、及び、円筒砥石、総形砥石、ネジ切り砥石等の研削工具である。さらに、工具Tの種類は、工具Tの材質、工具Tの形状等により分類しても良い。
【0037】
加工条件は、切削加工においては切削速度、送り速度、切込量等を含み、研削加工においては研削速度、送り速度、切込量等を含む。また、加工条件は、例えば、振止装置の有無や、工作物Wを支持する装置の構成等の情報により分類しても良い。工作物Wの種類は、工作物Wの材質、熱処理の有無、熱処理の種類等の情報により分類される。
【0038】
モデル生成部43は、機械学習の学習フェーズとして、工具Tの種類、加工条件及び工作物Wの種類により分類された分類毎に、学習済みモデルを生成する。学習済みモデルは、データ取得部41により取得したデータを説明変数とし、且つ、工作機械1による加工状況を目的変数とする機械学習モデルである。学習済みモデルに対応する分類は、諸元取得部42により取得される工具Tの種類、加工条件、工作物Wの種類により分類される。
【0039】
諸元取得部42により取得される工具Tの種類、加工条件、工作物Wの種類による分類と、学習済みモデルとの関係は、
図5に示すとおりである。例えば、工具Tの種類として、T1,T2が存在し、加工条件として、C1,C2が存在し、工作物Wの種類として、W1,W2が存在する。この場合、例えば、工具Tの種類T1、加工条件C1、工作物Wの種類W1の分類に対応する学習済みモデルはM1である。このように、工具Tの種類、加工条件、工作物Wの種類に応じて、例えば、8種類の学習済みモデルM1-M8が生成される。
【0040】
例えば、
図2に示すような穴あけ加工においては、工具T1がドリル工具であって、加工条件C1は、範囲A,Cにおける第一速度Va及び第三速度Vcによる穴あけ加工の条件と、範囲Bにおける第二速度Vbによる穴あけ加工の条件とが別々に分類される。工作物Wの種類は、共通する。この例においては、範囲A,Cにおける穴あけ加工に対応する学習済みモデルM1、範囲Bにおける穴あけ加工に対応する学習済みモデルM2が生成される。
【0041】
例えば、学習済みモデルM1は、データ取得部41により、範囲A,Cにおける穴あけ加工の際のデータを訓練データセットとして、機械学習により生成される。この場合、学習済みモデルM1は、範囲A,Cにおける穴あけ加工の際のデータを入力データとした場合に、工作機械1の加工状況、例えば、工作物Wの加工品質、工具Tの異常の有無、工具Tの消耗度合等を出力することができるモデルとなる。他の学習済みモデルM2-M8については、訓練データセットが異なるのみで、同様の処理により生成される。このように、学習済みモデルM1-M8は、工具Tの種類のみならず、加工条件や工作物Wの種類により分類された分類毎に生成される。
【0042】
モデル記憶部44は、モデル生成部43により生成された複数の学習済みモデルM1-M8を記憶する。さらに、モデル記憶部44は、複数の学習済みモデルM1-M8に対応する諸元の分類と関連付けて記憶されている。
【0043】
モデル選択部45は、機械学習の推定フェーズにおいて、モデル記憶部44に記憶された複数の学習済みモデルM1-M8の中から、諸元取得部42により取得された工具Tの種類、加工条件及び工作物Wの種類により分類された分類に対応する学習済みモデルを選択する。例えば、
図5に示すように、工具Tの種類T1、加工条件C2、工作物Wの種類W2の場合には、学習済みモデルM4が選択される。
【0044】
ここで、機械学習の推定フェーズにおいて、モデル記憶部44に記憶された複数の学習済みモデルM1-M8の中に、諸元取得部42により取得された工具Tの種類、加工条件及び工作物Wの種類により分類された分類に対応する学習済みモデルが存在しない場合がある。
【0045】
この場合、モデル選択部45は、以下の2通りの手段を取ることができる。1つ目の手段は、類似する学習済みモデルを選択する手段である。例えば、工具Tの種類、工作物Wの種類が同一であって、加工条件のうち送り速度が異なる場合において、送り速度が最も近い諸元に対応する学習済みモデルが選択される。
【0046】
2つ目の手段は、学習済みモデルを選択しない手段である。学習済みモデルが異なれば、出力される推定加工状況が変化する。つまり、学習済みモデルの選択は、出力される推定加工状況に大きな影響を与える。そこで、学習済みモデルを選択せず、機械学習による出力を得ないこととする。ただし、一度は学習済みモデルを選択しないと決定したとしても、当該情報を蓄積して再度学習を行うことにより、次に同一の諸元が登場した場合には、新たに生成した学習済みモデルが選択されることになる。
【0047】
出力部46は、機械学習の推定フェーズにおいて、モデル選択部45により選択された学習済みモデル及びデータ取得部41により取得されたデータに基づいて、工作機械1による推定加工状況を出力する。つまり、出力部46は、選択された学習済みモデルを用いて、データ取得部41により取得されたデータを入力データとすることで、推定加工状況を出力する。なお、入力データは、データ取得部41により取得されたデータそのものである必要はなく、当該データから抽出された特徴量を用いても良い。
【0048】
例えば、出力部46は、推定加工状況として、例えば、工作物Wの加工品質、工具Tの異常の有無、工具Tの消耗度合等の推定値を出力する。ここで、上述したように、諸元取得部42により取得された諸元の分類に対応する学習済みモデルが存在しない場合、モデル選択部45が類似する学習済みモデルを選択した場合には、出力部46は当該類似する学習済みモデルを用いて推定加工状況を出力する。
【0049】
一方、モデル選択部45により学習済みモデルが選択されなかった場合には、出力部46は、学習済みモデルを用いることなく、他の手段により加工状況を出力すると良い。例えば、加工状況として工具Tの消耗度合を出力する場合には、出力部46は、工具Tによる工作物Wの加工数が所定数に達したか否かにより工具Tの寿命の到達の有無を出力する。このように、機械学習を利用できない場合には、機械学習によらず他の手段により推定加工状況を出力することが選択される。
【0050】
(5.効果)
上記の支援装置2によれば、モデル記憶部44に記憶されている複数の学習済みモデルM1-M8は、工具Tの種類、加工条件、工作物Wの種類等により分類された分類毎に生成されている。そして、モデル選択部45が、推定フェーズにおいて、諸元取得部42により取得された工具Tの種類、加工条件及び工作物Wの種類により分類された分類に対応する学習済みモデルを選択し、出力部46が、選択された当該学習済みモデルに基づいて工作機械1の推定加工状況を出力する。このように、推定フェーズにて使用する学習済みモデルは、工具Tの種類のみならず、加工条件や工作物Wの種類等を考慮したモデルである。従って、出力部46が出力する推定加工状況は、より高精度な結果となる。
【符号の説明】
【0051】
1:工作機械、 2:工作機械支援装置、 10:ベッド、 20:工作物保持装置、 30:工具保持装置、 41:データ取得部、 42:諸元取得部、 43:モデル生成部、 44:モデル記憶部、 45:モデル選択部、 46:出力部、 100:支援システム、 M1-M8:学習済みモデル、 T:工具、 W:工作物