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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】炭素繊維テープ材
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/26 20060101AFI20250408BHJP
   C08J 5/06 20060101ALI20250408BHJP
   D03D 15/292 20210101ALN20250408BHJP
   D03D 1/00 20060101ALN20250408BHJP
   D04B 21/16 20060101ALN20250408BHJP
   D04B 21/00 20060101ALN20250408BHJP
【FI】
B32B5/26
C08J5/06
D03D15/292
D03D1/00 A
D04B21/16
D04B21/00 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021036955
(22)【出願日】2021-03-09
(65)【公開番号】P2022137447
(43)【公開日】2022-09-22
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 將之
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-113802(JP,A)
【文献】国際公開第2010/147231(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/095623(WO,A1)
【文献】特開2015-116806(JP,A)
【文献】特表2018-501121(JP,A)
【文献】特開2008-007871(JP,A)
【文献】特開2002-194640(JP,A)
【文献】特開2019-112738(JP,A)
【文献】特開平11-077869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
D04B 1/00-1/28;21/00-21/20
D03D 1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に引きそろえた炭素繊維束が複数並べられた炭素繊維束群と、規則性を有する布地とが一体化している炭素繊維テープ材であって、バインダを介して前記布地が前記炭素繊維束の少なくとも片面に接着していることにより一体化しているとともに、次の(a)、(b)を満たすことを特徴とする炭素繊維テープ材。
(a)前記布地が少なくとも第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とから構成され、第1の熱可塑性樹脂の軟化点T1(℃)と第2の熱可塑性樹脂の軟化点T2(℃)とが以下の関係にある
10<T2-T1<120
(b)前記炭素繊維テープ材の目付が100g/m~400g/mの間にある
【請求項2】
前記布地の目付が2g/m~30g/mの間にあることを特徴とする、請求項1に記載の炭素繊維テープ材。
【請求項3】
炭素繊維束間に0.1mm~1mmのギャップを有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の炭素繊維テープ材。
【請求項4】
布地とバインダが部分的に接着していることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の炭素繊維テープ材。
【請求項5】
布地の構成が編地であって、第1の熱可塑性樹脂により構成される第1の熱可塑性樹脂繊維と、第2の熱可塑性樹脂により構成される第2の熱可塑性樹脂繊維とが、それぞれ規則性に従って位置することにより編地が形成されている、請求項1~のいずれかに記載の炭素繊維テープ材。
【請求項6】
布地の構成が織物であって、第1の熱可塑性樹脂により構成される第1の熱可塑性樹脂繊維が経糸に用いられ第2の熱可塑性樹脂により構成される第2の熱可塑性樹脂繊維が緯糸に用いられている、もしくは第1の熱可塑性樹脂により構成される第1の熱可塑性樹脂繊維が緯糸に用いられ第2の熱可塑性樹脂により構成される第2の熱可塑性樹脂繊維が経糸に用いられる、請求項1~のいずれかに記載の炭素繊維テープ材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維テープ材、およびそれを配置・積層してなる強化繊維積層体ならびに成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と樹脂からなる繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastic:FRP)は、軽量かつ高強度という特性から、航空、宇宙、自動車用途などに用いられている。FRPの生産性と高強度を両立する成形法として、例えばレジン・トランスファー・モールディング成形法(Resin Transfer Molding:RTM)やVaRTM成形法(Vacuum‐assisted Resin Transfer Molding)等のように、強化繊維積層体にあとから樹脂を含浸・硬化させる成形法が挙げられる。RTM成形法は、マトリックス樹脂を予備含浸していないドライな強化繊維束群で構成される強化繊維基材からなる強化繊維積層体を、成形型に配置して、液状で低粘度のマトリックス樹脂を注入することにより、後からマトリックス樹脂を含浸・固化させてFRPを成形する成形法である。特に高い生産性が必要な場合は、樹脂注入時は成形型内キャビティを最終成形品厚みより厚くしておき、型閉じにより高速含浸させることで繊維強化プラスチックの成形時間を短縮する技術などが用いられる。また近年では、強化繊維積層体に液状の樹脂を塗布したのちに型締めを行い、樹脂を含浸させるウェットプレスモールディング法も用いられる。
【0003】
樹脂を含浸・硬化させる強化繊維積層体は、従来は織物やノンクリンプファブリック(Non Crimp Fabric:NCF)のような、強化繊維束に樹脂が含浸されていないドライな強化繊維束群から構成される一定幅の(すなわち、略矩形の)布帛形態をした強化繊維基材から所望の形状を切り出したものを三次元形状に賦形、固着することで形成される。ところがこのように一定幅の布帛から所望形状を切り出すと、その後に残る端材が多く生成される。すなわち、強化繊維の廃棄量が多くなり、あらかじめ一定幅の布帛形態をした強化繊維基材を製造しておく従来の手法では製造コストが高くなるという課題があった。
【0004】
このような課題に対し、強化繊維束を、製品形状に合わせた所望の形状となるよう、必要な箇所のみに配置するファイバープレイスメント法が注目されている。ファイバープレイスメント法によれば、必要な箇所に必要な量の強化繊維を配置するため、強化繊維をテープ状の形態とし、かかるテープ材を必要な箇所にのみ配置することで、廃棄される強化繊維の量を大幅に低減させることができる。さらに、ファイバープレイスメント法で製造される強化繊維基材は、従来の織物やNCFに比べて強化繊維束のクリンプが少なく真直性に優れるため、それに樹脂を注入・硬化させて得られるFRPは高い力学的強度を有する。
【0005】
しかしながら、ファイバープレイスメント法では、炭素繊維テープを直接型に貼り付ける際に、該炭素繊維テープを型形状に追従させ沿わす必要がある。そのため、炭素繊維テープの幅が広いほど、また型形状が複雑になるほど、炭素繊維テープが高い変形性を有していることが求められる。また、炭素繊維テープの積層およびRTM成形やVaRTM成形における樹脂注入において高い生産性を有することが求められる。さらには、成形したFRPは高い炭素繊維含有率が求められる。成形品したFRPの炭素繊維含有率が低いと部材体積に対する炭素繊維の割合が低くなり、部材の強度低下につながることが問題となる。
【0006】
ファイバープレイスメント法に用いられる炭素繊維テープ材に関する従来技術として、例えば特許文献1では、両面にポリマー接着剤を結合した炭素繊維テープ材およびその製造方法が提案されている。かかる方法によれば、ポリマー接着剤を溶融して強化繊維束群に貼り付けることにより、所望する幅の炭素繊維テープを高い精度で製造可能としている。
【0007】
また特許文献2では、炭素繊維束の少なくとも片面に不織ベールを接着した炭素繊維テープ材、プリフォームおよびその製造方法が提案されている。かかる方法によれば、不織ベールを接着した炭素繊維テープ材を用いることにより、RTM成形やVaRTM成形における樹脂注入時において面内方向の樹脂の拡散しやすさを増長する効果が得られる。また、不織ベールに熱可塑繊維材料を用いた場合、結果として、得られる複合材料を強靭化することができる。
【0008】
さらに、特許文献3では、目付が80g/m以下の強化繊維材料と熱可塑性樹脂材料の編地からなる補強シート材料が提案されている。かかる構成によれば、柔軟性を有する編地を用いることで、薄く広幅の状態で真直性を保った、カール等の変形のないシート材料を得られる。また、空隙の多い薄い編地を用いているため、内部の空気を脱気することができ、ボイド(空隙)の少ない成形品を得ることができる。
【0009】
また、特許文献4では、溶融温度の異なる2つのポリマー成分を有する不織布を層間および/または層上に用いたマルチフィラメント強化ヤーンの積層体が提案されている。かかる構成によれば、本積層体を用いて加熱下でのプリフォームを製作する際、層間で1部のポリマーが溶融することによりヤーンが滑りやすくなり、良好なドレープ性が得られる。また、一部のポリマーは溶融せずに形態を保持することで、後の含浸工程にて良好な含浸性が保持できる。
【0010】
さらに、特許文献5では、熱硬化性の母材樹脂が含浸した複合材料積層体であって、積層体内の中間層が、前記母材樹脂に溶解する可溶性の熱可塑性成分と、前記母材樹脂に溶解しない不溶性成分とを含む積層体が提案されている。かかる構成によれば、中間層の母材樹脂に溶解する可溶性の熱可塑性成分を硬化時に溶解することで、中間層の厚さを減らすことができ、高い炭素繊維含有率のFRP成形品を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特表2012-510385号公報
【文献】特表2017-521291号公報
【文献】特開2015-116806号公報
【文献】特表2013-522078号公報
【文献】特開2016-153213号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで特許文献1の発明では、ポリマー接着剤の変形性について言及されていない。そして、ポリマー接着剤に例えば不織ベールを用いた場合、不織ベールは短繊維をランダムに配向させて形成しているため、一般に面方向に十分な変形性を有していない。さらに、ポリマー接着剤が溶融した際に、不織ベールの形態が失われるため、布材本来が有する変形性が低下することになる。
【0013】
特許文献2の発明では、炭素繊維束の少なくとも片面に不織ベールを接着した炭素繊維テープ材を用いている。そのため、引用文献1と同様に、不織ベールが短繊維をランダムに配向させて形成されていることから、十分な変形性を有していない。
【0014】
特許文献3の発明では、変形性を有する布地を用いるが、強化繊維材料の目付が低く所望の製品厚みを得るためには多くのシート材料を積層する必要があり、作業が煩雑となり生産性が低下する。また、特許文献3に記載の発明は補強シート材料に関するものであり、かかる補強シート材料のファイバープレイスメント法への適用を示唆するものではない。
【0015】
特許文献4の発明では、マルチフィラメント強化ヤーンの積層体として、溶融温度の異なる2つのポリマー成分を有する不織布を層間および/または層上に用いているが、その効果は加熱下でのプリフォームを製作する際に層間不織布が溶融して潤滑剤として作用することによるドレープ性向上を狙ったものであり、成形後のFRPパネルの強化繊維含有率向上を狙ったものではない。また、引用文献1と同様に、不織ベールが短繊維をランダムに配向させて形成されていることから、十分な変形性を有していない。
【0016】
特許文献5の発明では、中間層の母材樹脂に溶解する可溶性の熱可塑性成分を硬化時に溶解することで、中間層の厚さを減らすことができ、高い炭素繊維含有率のFRP成形品を得ることができる。一方で、中間層に用いられる材料形態としては、フィルム、粒子、不連続フィラメント、およびベールが提案されているが、これらの形態の中間層はその構成上、十分な変形を有することができず、その中間層を用いたファイバープレイスメント用テープまたは複合材料積層体も十分な変形を有さない。
【0017】
本発明は、かかる従来技術の課題を解決するものであり、具体的には、型への追従性及びマトリックス樹脂の含浸性が良好であり、かつ、ファイバープレイスメント法により強化繊維積層体を製造する際には生産性を高めることができ、樹脂を含浸して成形した際には高い炭素繊維含有率を有し、それゆえに高い力学的強度を有する成形体を提供することができる、炭素繊維テープ材を提供するものである。また、かかる炭素繊維テープ材から得られる強化繊維積層体ならびに成形体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの構成を特徴とするものである。
(1)一方向に引きそろえた炭素繊維束が複数並べられた炭素繊維束群と、規則性を有する布地とが、一体化している炭素繊維テープ材であって、バインダを介して前記布地が前記炭素繊維束の少なくとも片面に接着していることにより一体化しているとともに、次の(a)、(b)を満たすことを特徴とする炭素繊維テープ材。
(a)前記布地が少なくとも第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とから構成され、第1の熱可塑性樹脂の軟化点T1(℃)と第2の熱可塑性樹脂の軟化点T2(℃)とが以下の関係にある
10<T2-T1<120
(b)前記炭素繊維テープ材の目付が100g/m~400g/mの間にある
)布地の目付が2g/m~30g/mの間にあることを特徴とする、(1)に記載の炭素繊維テープ材。
)炭素繊維束間に0.1mm~1mmのギャップを有することを特徴とする、(1)または(2)に記載の炭素繊維テープ材。
)布地とバインダが部分的に接着していることを特徴とする、(1)~()のいずれかに記載の炭素繊維テープ材。
)布地の構成が編地であって、第1の熱可塑性樹脂により構成される第1の熱可塑性樹脂繊維と、第2の熱可塑性樹脂により構成される第2の熱可塑性樹脂繊維とが、それぞれ規則性に従って位置することにより編地が形成されている、(1)~()のいずれかに記載の炭素繊維テープ材。
)布地の構成が織物であって、第1の熱可塑性樹脂により構成される第1の熱可塑性樹脂繊維が経糸に用いられ第2の熱可塑性樹脂により構成される第2の熱可塑性樹脂繊維が緯糸に用いられている、もしくは第1の熱可塑性樹脂により構成される第1の熱可塑性樹脂繊維が緯糸に用いられ第2の熱可塑性樹脂により構成される第2の熱可塑性樹脂繊維が経糸に用いられる、(1)~()のいずれかに記載の炭素繊維テープ材
【発明の効果】
【0019】
本発明の炭素繊維テープ材は、型への追従性及び樹脂の含浸性が良好であり、ファイバープレイスメント法により強化繊維積層体を製造する際にはその高い変形性により生産性を高めることができ、また、樹脂を含浸して成形した際には高い繊維含有率および力学的強度を有する成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る炭素繊維テープ材の概略図である。
図2】本発明に係る別の炭素繊維テープ材の概略図である。
図3】本発明に係る別の炭素繊維テープ材の概略図である。
図4】本発明に係る布地の概略平面図である。
図5】本発明に係る布地に編地を用いた炭素繊維テープ材の概略平面図である。
図6】本発明に係る布地に織物を用いた炭素繊維テープ材の概略平面図である。
図7】布地伸び率の測定方法を示す概略図である。
図8】2辺把持法によるピクチャーフレーム法の実施方法を示す概略図である。
図9】2辺把持法によるピクチャーフレーム法実施時のせん断角―引張荷重の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る炭素繊維テープ材の概略図を図1に示す。
【0022】
図1に示す炭素繊維テープ材100は、一方向に引きそろえた炭素繊維束101が複数、幅方向に互いに平行(並列)に配置させた炭素繊維束群102と、規則性を有する布地103とが一体化されたものである。
【0023】
本発明に用いる炭素繊維束は、例えば事前にサイジング処理を施した炭素繊維束を用いることもできる。サイジング処理を施すことにより、炭素繊維束の集束性を向上させ、毛羽の発生を抑制させることができる。また、本発明に用いる炭素繊維束は、炭素繊維に有機繊維を混合してもよい。
【0024】
炭素繊維束のフィラメント数N(単位:K=1,000本)は、1K(1,000)本以上であり、60K(60,000)本以下であることが好ましい態様である。炭素繊維束101の単繊維数が1K本より少ない場合、炭素繊維束101の糸幅が細く、ねじれ等の不良が生じやすい。炭素繊維束101の単繊維数が60K本より多い場合、炭素繊維束101の炭素繊維目付が高くなり、ファイバープレイスメント法で炭素繊維束101を引き揃えて基材にした際に1層あたりの炭素繊維目付が高くなりすぎるため、配向設計の許容範囲を狭めてしまうおそれがある。
【0025】
炭素繊維テープ材100は、一方向に引きそろえた炭素繊維束101が複数並べられた炭素繊維束群と、規則性を有する布地103とが一体化した構成を具備することにより、炭素繊維テープ材の単位長さあたりの炭素繊維フィラメント数および重量を大きくすることができる。また、ファイバープレイスメント法により炭素繊維テープ材を配置・積層して繊維強化プラスチックを製造する際、所望する繊維体積含有量とするために要する炭素繊維テープ材の配置・積層時間を短縮し、生産性を向上することができる。
【0026】
布地103は、少なくとも2種類の熱可塑性樹脂から構成されることが重要である。ここで熱可塑性樹脂とは、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂のほか、さらに、熱可塑性エラストマー(ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等)や、これらの共重合体、変性体、およびこれら樹脂を2種類以上ブレンドした樹脂等を示す。これら樹脂を繊維状にして織布(織物、編物)や不織布の形態としたり、フィルム状にしたりして布地103とすることができる。このような布地103を部分的に溶融することで、炭素繊維束群102と一体化する。
【0027】
本発明の炭素繊維テープ材は、100g/m~400g/mの間にあることが重要である。炭素繊維テープ材の目付が100g/mより小さい場合、ファイバープレイスメント法で炭素繊維テープ材を配置する際、所望の目付の積層体を得るために積層する炭素繊維テープ材の枚数が多くなり、積層に要する時間が増加し、生産性をさらに向上するうえで制約となる。一方、炭素繊維テープ材の目付が400g/mより大きい場合、所望の目付の積層体を得るために積層する炭素繊維テープ材の枚数が少なくなりすぎて、繊維配向を設計する際の自由度が狭まってしまうおそれがある。かかる目付は、160g/m~300g/mであることが好ましい。
【0028】
本発明の一実施態様では、前記布地が、少なくとも第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂とから構成され、第1の熱可塑性樹脂の軟化点T1(℃)と第2の熱可塑性樹脂の軟化点T2(℃)とが以下の関係にあることが好ましい。
10<T2-T1<120
【0029】
このような関係を保つことで、成形時において、例えばT1(℃)よりも高くT2(℃)よりも低い温度で硬化することにより、第1の熱可塑性樹脂を溶融することで、成形品厚みが低減し炭素繊維含有率の高いCFRP成形品を得ることができる。第2の熱可塑性樹脂は溶融しないことで、成形品内で層間強化材として作用することにより、衝撃後圧縮試験(CAI)の物性向上に寄与することができる。
【0030】
また、ファイバープレイスメント法(AFP法とも称する)の配置工程において、例えばT1(℃)よりも高くT2(℃)よりも低い温度で加熱しながら配置することにより、第1の熱可塑性樹脂を溶融することで、積層品厚みを低減することができ、積層体が嵩高になることを防ぎ、製品寸法に併せたニアネットシェイプのプリフォームを製作可能となる。また、加熱と配置をほぼ同時に行うことで、変形性を有したテープを型形状に沿わせながら第1の熱可塑性樹脂を溶融することができるため、複雑形状への賦形が可能となる。
【0031】
成形時の加熱温度はT1(℃)よりも高くT2(℃)よりも低い温度が好ましい。この温度範囲で加熱することにより、第1の熱可塑性樹脂が溶融した状態で硬化することで成形品厚みを低減することができ、かつ、第2の熱可塑性樹脂は溶融しないことで、第2の熱可塑性樹脂が成形品内に存在し層間強化材として作用することができ、衝撃後圧縮試験(CAI)の物性向上に寄与することができる。
【0032】
本発明においては、布地103が変形性を有することが好ましい。すなわち、布地の少なくとも一方向において、該布地に80mN/50mmの荷重をかけた際の布地伸び率が5%~100%であることが好ましく、15%~100%であることがさらに好ましい。変形性のある布地を用いることで、テープの変形性を向上させることができ、ファイバープレイスメント法で直接型に貼り付ける際に、炭素繊維テープが型形状に追従して沿うことが可能となる。布地伸び率が5%よりも小さい場合、布地に十分な変形性がなく、炭素繊維テープが型形状に追従して沿うことができない。布地伸び率が100%よりも大きい場合、布地がわずかな外力で変形してしまい、炭素繊維に精度よく布地を張り付けて一体化することが困難となる。ここで布地の伸び率は、JIS L 1096(2011年版) 8.16.1に則り、以下の式にて求める。
=[(L-L)/L]×100
:布地伸び率(%)
:元の印間の布地長さ(mm)
:荷重付与時の布地長さ(mm)
【0033】
布地伸び率の測定方法を図7に示す。図7(a)は一定荷重を負荷する前の布地703の状態を表す。指定のサイズに布地をカットし、指定の印711を布地にマーキングし、印間距離Lを測定後、図7(a)に示すようにクランプ710により布地をチャッキングする。その後、荷重を付与する。図7(b)は一定荷重付与後の布地703の状態を表す。図7(b)に示すように、一定荷重付与後の印間距離L1を測定することで、指定の式より伸び率を算出可能となる。なお、炭素繊維束と布地とを一体化したテープ材から布地の伸び率を測定する場合は、布地をテープ材から剥がしたのちに、上記手順で測定する。
【0034】
また、布地103は規則性を有していることが重要である。本発明において、「規則性を有する」とは、ある一定の組織形態が布地の長手方向(すなわち炭素繊維テープ材の長手方向)に連続的に繰り返されていることを意味する。規則性を有する布地の例として編地や織物が挙げられる。編地や織物はその組織形態が長手方向に連続的に繰り返されており、繊維の存在する位置はその組織により定められているため、布地としての繊維目付のばらつきや偏りが少ない材料であるといえる。一方、規則性を有さない布地の例としては不織布(不織ベール)が挙げられる。不織布は短繊維をランダムに散りばめた後に互いの繊維を接着した構成であるため、上記の布地伸び率を発現することが難しく、また、その組織形態が長手方向に連続的に繰り返されていないため、繊維の配向や目付のばらつき・偏りが生じやすいという特徴が挙げられる。
【0035】
規則性を有する布地の組織形態としては、平織、綾織、繻子織といった織組織、デンビ、コード、アトラス、鎖編、インレー、サテン、ハーフ、チュールといった経編組織、緯編組織、またはそれらの組み合わせを用いることができる。
【0036】
これら規則性を有する布地は、繊維同士を互いに編み込む、もしくは織り込むことで形態が保持されている。すなわち、繊維同士が互いに接着されて相対位置が固定されている不織布に比べ、編み込まれたもしくは織り込まれた繊維の位置が完全には固定されておらず自由度が高いため、結果、布地の面内(面方向)に力が加わった際の変形性が優れている。
【0037】
布地103は、目付が2g/mよりも大きく、30g/m以下であることが好ましく、4g/mよりも大きく、20g/m以下であることがさらに好ましい。布地103の目付が2g/m以下の場合、布地の生地が破れやすく、所望の変形性を得られにくくなる。また、布地の厚みが薄くなることで、含浸時におけるマトリックス樹脂流路を十分に確保することが難しくなる。さらに、布地が薄いため成形体における層間強化材の厚みが薄くなり、積層された繊維束の層間を強化することが難しくなる。一方、布地103の目付が30g/mよりも大きい場合、布地の厚みが分厚くなるため炭素繊維テープ材の厚みが増大し、炭素繊維テープ材を用いた強化繊維積層体の厚みが所望の製品厚みよりも大きくなりやすい、すなわち、炭素繊維テープ材を用いた強化繊維積層を所望する成形体のニアネットシェイプにすることが難しくなる。また、この強化繊維積層体を用いて成形した成形体は、層間強化材の厚みが大きくなりやすく、成形体における繊維含有率(Vf:%)を高くすることが難しくなる。
【0038】
また、布地103は、テープの変形性を向上させる目的だけでなく、樹脂含浸時におけるマトリックス樹脂流路を確保する目的や、高いじん性を発揮する材質の樹脂を使用することで層間を強化する目的でも使用することができる。
【0039】
炭素繊維テープ材100を構成する複数の炭素繊維束101同士の間には隙間(ギャップ)106が設けられていることが好ましい。炭素繊維テープ材100を構成する複数の炭素繊維束101間に隙間(ギャップ)106があることで、ファイバープレイスメント法にて一方向に配列し基材とした場合、マトリックス樹脂の流路を確保しやすい。また、複数本の炭素繊維テープ材100をファイバープレイスメント法にて隙間(ギャップ)なく一方向に配列して基材とした場合にも、1本の炭素繊維テープ材100内で固定されている複数の炭素繊維束101の間に隙間(ギャップ)が設けられている場合には、成形時のマトリックス樹脂の流動性を確保しやすくなる。
【0040】
炭素繊維束間の隙間(ギャップ)106は0.1mm~1mmであることが好ましく、0.2mm~0.8mmであることがさらに好ましい。隙間(ギャップ)106が0.1mmより小さい場合、マトリックス樹脂の流路が小さくなるため、成形に要する時間が増加し、生産性低下につながる恐れがある。隙間(ギャップ)106が1mmより大きい場合、ファイバープレイスメント法にて炭素繊維テープ材を積層して強化繊維積層体とし、成形する際に、上層のテープの一部が下層の炭素繊維束間の隙間(ギャップ)に落ち込み、炭素繊維束の真直性が低下する恐れがある。その結果、得られた成形体の圧縮特性が低下する恐れがある。
【0041】
炭素繊維テープ材100のテープ幅は、2mm~2000mmであることが好ましく、5mm~100mmであることがさらに好ましい。炭素繊維テープ材100のテープ幅が2mmよりも小さい場合、ファイバープレイスメント工程でより多くの炭素繊維テープ材を配置する必要が生じ、生産性が低下しやすい。炭素繊維テープ材100のテープ幅が2000mmよりも大きい場合、テープを製造する装置が大型となり、テープコストの増大につながりやすく、好ましくない。
【0042】
図2に示す炭素繊維テープ材200は、本発明に係る別の炭素繊維テープ材の概略斜視図である。この炭素繊維テープ材200においては、図1に示した炭素繊維テープ材と同様に炭素繊維束群202の少なくとも片面に規則性を有する布地203が位置しているが、布地203は、各炭素繊維束201の形態保持を目的して炭素繊維束群202の少なくとも片面に付着している樹脂バインダ204を介して、炭素繊維束群202と一体化されている。その他の点は、図1に示す炭素繊維テープ材100と同じ構成である
樹脂バインダ204は、粒子形状でもよく、不織布形状でもよい。またこれらの形状に限定されるものではなく、フィルム、メッシュ、エマルジョン、コーティング、または炭素繊維束に巻きつける補助糸でも良い。
【0043】
樹脂バインダの材質としては、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、さらに、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、およびこれら樹脂を2種類以上ブレンドした樹脂等を用いることができる。
【0044】
これらの樹脂バインダは、強化繊維積層体とした際の層間を固着する接着機能のほか、樹脂含浸時におけるマトリックス樹脂の流路を確保する目的や、高いじん性を発揮する材質の樹脂を使用することで層間を強化する目的でも使用することができる。
【0045】
樹脂バインダ204による炭素繊維束201の固定形態としては、炭素繊維束201の表面に樹脂バインダ204を見える状態で付着・部分含浸させて、炭素繊維束に含まれる複数のフィラメントを拘束していても良く、また、表面から見えない状態となるように樹脂バインダ204を炭素繊維束201の内部に含浸させて、炭素繊維束に含まれる複数のフィラメントを互いに拘束していても良い。この他にも、樹脂バインダを炭素繊維束201に巻き付ける、または、樹脂バインダで炭素繊維束201を被覆することもできる。
【0046】
炭素繊維束201を固定させるために必要な樹脂バインダの量は、炭素繊維束201の重量に対して25wt%以下であることが好ましく、20wt%以下であることがより好ましく、15wt%以下であることがさらに好ましい。樹脂バインダの量が25wt%よりも大きくなると、テープ材をファイバープレイスメント法により配列、積層して強化繊維積層体とし、成形する際、マトリックス樹脂の粘度が向上して流動性が低下しやすく、そのため生産性が低下しやすい。また、マトリックス樹脂の流動に長時間を要するため、マトリックス樹脂粘度がさらに上昇してしまい、成形体において樹脂未含浸部位が発生しやすく、成形体の力学特性の悪化を招くことにもつながる。
【0047】
布地203の軟化点Ts(℃)は、樹脂バインダ204の軟化点よりも高いことが好ましい。ここで、複数種類の熱可塑性樹脂により布地203を構成している場合、複数種類の熱可塑性樹脂のうち、もっとも軟化点の低い熱可塑性樹脂の軟化点を布地203の軟化点Ts(℃)とみなす。例えば、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂の2種類のみを用いている場合、布地203の軟化点Ts(℃)は、第1の熱可塑性樹脂の軟化点T1(℃)と一致する。この際、樹脂バインダ204の軟化点よりも高く布地203の軟化点よりも低い温度で加熱・加圧することで、溶融された樹脂バインダ204を接着剤として、布地203と炭素繊維束群202とを一体化することができる。この場合、布地203は溶融することなく組織の形態を保持しているため、布地203の持つ変形性を損なうことなく、変形性の優れた炭素繊維テープ材200を得ることができる。
【0048】
また、樹脂バインダ204は、その軟化点(℃)が40℃より高く布地203の軟化点Ts(℃)よりも低い温度であることが好ましい。このような樹脂バインダを用いることによって、加熱により粘度が低下した後、冷却する等して常温に戻った状態のときに、炭素繊維束を構成する複数本のフィラメントを互いに固定し、炭素繊維束として一定の形態をより確実に保持することができる。そして、炭素繊維束の形態を一定に保持すると、ファイバープレイスメント法により炭素繊維テープ材200が型上に配置され、炭素繊維テープ材200に圧力や張力がかかった場合に、炭素繊維束の形態が崩れることを抑制できる。その結果、炭素繊維束201の間に設けられた隙間(ギャップ)206を潰すことなく保持でき、成形する際のマトリックス樹脂の流路をより確実に確保することができる。
【0049】
なお、本明細書において、「軟化点」とは、布地、樹脂バインダ等の樹脂材料がその温度以上の温度になったときに樹脂材料が軟化/溶融する温度を指す。具体的には、樹脂材料が結晶性ポリマーである場合には融点を指すものとし、樹脂材料が非晶性ポリマーである場合にはガラス転移点を指すものとする。
【0050】
また、本発明に係る炭素繊維テープ材は、バインダを介して布地が炭素繊維束の少なくとも片面に接着していることにより一体化していることが好ましい。図3に示す炭素繊維テープ材300の概略斜視図ではテープ材、図2の態様と同様に、炭素繊維束301が複数、平行に並べられた炭素繊維束群302の少なくとも片面(図3では両面)に、規則性を有する布地303が配置されている。布地303は、各炭素繊維束301の形態保持を目的して炭素繊維束群302の表面に付着している樹脂バインダ304を介して、炭素繊維束群302と一体化されている。
【0051】
さらに、本発明に係る炭素繊維テープ材は、地とバインダが部分的に接着していることが好ましい。部分的に接着している一例として、図3に示す態様においては、炭素繊維束群302の表面に設けた樹脂バインダ304のうち、接着領域305で囲まれる領域の樹脂バインダ304のみを溶融して、布地303と炭素繊維束群302との接着に寄与させている。接着領域305は、炭素繊維テープ材300の少なくとも一部において、炭素繊維束301の繊維配向方向に連続的ではなく離散的(間欠的)に形成されている。ここで「接着領域」とは、布地303と炭素繊維束群302とが樹脂バインダ304を介して互いに接着している領域のことを示す。布地303と炭素繊維束群302とが少なくとも一部の接着領域にて接着されることで互いに一体化され、炭素繊維テープ材の形態を保持することができる。図3に示す炭素繊維テープ材300は、上記の点以外は、図2に示す炭素繊維テープ材200と同じ構成である。
【0052】
本発明において、接着領域305は、上記したように炭素繊維束301の繊維配向方向に離散的に形成されていることが好ましい。接着領域305がテープ全域に及び、炭素繊維束群302と布地303とがテープ全面にわたり接着されている場合、布地を構成する熱可塑性繊維は炭素繊維束との接着により位置が完全に固定されてしまい、布地が本来有する変形性が低下する。図3においては、接着領域305が繊維配向方向に離散的に分散していることで、布地が局所的に自由に動ける余地を残しているため、接着による布地の変形性の低下を抑制することができる。
【0053】
図4に、本発明に係る布地の概略平面図を示す。この一実施態様においては、布地403として鎖編とインレー(挿入)による経編組織の編地を用いており、この編地は鎖部406と挿入部407から構成されている。本発明において、布地が少なくとも2種類の異なる熱可塑性樹脂から構成されることが重要である。本実施態様の一例では、鎖部406に第1の熱可塑性樹脂408、挿入部407に第2の熱可塑性樹脂409を用いて構成されている。
【0054】
図5は、布地として図4に示した編地を用いた炭素繊維テープ材の概略平面図である。本発明のコンセプトを説明するために、図5(a)は成形前の炭素繊維テープ材を、図5(b)は樹脂が含浸され成形された後の炭素繊維テープ成形品を模式的に表している。図5(a)において、第1の熱可塑性樹脂508を鎖部に、第2の熱可塑性樹脂509を挿入部に用いて構成された編地を炭素繊維群502に貼り付けて一体化することで、炭素繊維テープ材500が構成されている。ここで、第1の熱可塑性樹脂508の軟化点T1よりも高く、第2の熱可塑性樹脂509の軟化点T2よりも低い硬化温度にて硬化成形することで、図5(b)に示すように、第1の熱可塑性樹脂508が溶融される。その結果、第1の熱可塑性樹脂508が溶融前に占めていた嵩が減り、成形品厚みの低減した、すなわち炭素繊維占有率の高い成形品が得られる。
【0055】
ここで、第1の熱可塑性樹脂508により構成される第1の熱可塑性樹脂繊維と、第2の熱可塑性樹脂509により構成される第2の熱可塑性樹脂繊維とは、それぞれが規則性に従って位置していることが好ましい。成形後の布地は第2の熱可塑性樹脂繊維のみが形態として残るが、第1の熱可塑性樹脂繊維と第2の熱可塑性樹脂繊維とがそれぞれ規則性に従った配置となっていることにより、成形後の布地は第2の熱可塑性樹脂繊維がテープ上に規則的に配置しているため、成形品の部位によって層間靭性のバラつきが小さい、均一な成形品を得ることができる。
【0056】
第1の熱可塑性樹脂繊維と第2の熱可塑性樹脂繊維の配置はそれぞれが特定の箇所に限定されるものではない。例えば、本実施態様において、第1の熱可塑性樹脂508を挿入部に、第2の熱可塑性樹脂509を鎖部に用いてもかまわない。また、鎖編とインレー(挿入)による経編組織の編地以外にも、例えば鎖編とハーフ組織やチュール組織の経編組織、緯編組織の他、織物組織やその他の布地形態のあらゆる箇所に用いてもかまわない。
【0057】
図6は、布地として平織り形状の織物を用いた炭素繊維テープ材の概略平面図である。図5と同様に、図6(a)は成形前の炭素繊維テープ材を、図6(b)は樹脂が含浸され成形された後の炭素繊維テープ成形品を模式的に表している。図6(a)において、第1の熱可塑性樹脂608を経糸に、第2の熱可塑性樹脂609を緯糸に用いて構成された平織り織物を炭素繊維群602に貼り付けて一体化することで、炭素繊維テープ材600が構成されている。ここで、第1の熱可塑性樹脂608の軟化点T1よりも高く、第2の熱可塑性樹脂609の軟化点T2よりも低い硬化温度にて硬化成形することで、図6(b)に示すように、第1の熱可塑性樹脂608が溶融される。その結果、第1の熱可塑性樹脂608が溶融前に占めていた嵩が減り、成形品厚みの低減した、すなわち炭素繊維占有率の高い成形品が得られる。
【0058】
以上のような構成の本発明に係る炭素繊維テープ材は、次のようなせん断変形性能を発現することが可能となる。すなわち、2辺把持法によるピクチャーフレーム法を用いてせん断角θ[°]を0°から45°の範囲で測定した引張荷重F[N]が、せん断角θ[°]が0°から1.0°の間で引張荷重F[N]の最大値を持たず、せん断角θ[°]を0°から45°の範囲で測定した引張荷重F[N]の最大値が0.5[N]より大きく、かつ、θ[°]が0.1°から1.0°の間において、ΔF/Δθが0.1より大きく1.0より小さい。
【0059】
せん断変形性能の評価方法である2辺把持法によるピクチャーフレーム法について説明する。図8は2辺把持法によるピクチャーフレーム法の概略図を示している。長さ220mmの炭素繊維テープ材800を1本または複数本隙間(ギャップ)なく平行に並べ、全幅の和が150mmとなるように準備する。つかみ間隔が200mmとなるようにつかみ部813に印をつけたのち、炭素繊維テープ材800を、つかみ部813が200mm、測定角α[°]が90°、炭素繊維テープの長手方向がピクチャープレーム枠の炭素繊維テープ材を把持していない2辺814と平行になるように、ピクチャーフレーム治具815に炭素繊維テープ両端の2辺を把持するようにとりつける。図示しない万能試験機に測定角α[°]が90°となるようにピクチャーフレーム治具を取り付けたのち、50mm/分の速度でピクチャーフレーム治具を鉛直方向に引っ張り、その時の引張力F[N]および測定角αを測定する。その後、次の式より算出されるせん断角θ[°]、およびθ[°]が0.1°から1.0°の間でのΔF/Δθを算出する。
θ[°]=90°―α[°]
【0060】
本発明に係る炭素繊維テープ材について2辺把持法によるピクチャーフレーム法を実施した時のせん断角―引張荷重グラフの一例を図9に示す。図9(a)はせん断角θ[°]を0から45まで試験した際のせん断角―引張荷重グラフであり、図9(b)は同一グラフのせん断角θ[°]が0から1の近傍を拡大したグラフである。
【0061】
本発明に係る炭素繊維テープ材においては、せん断角θ[°]を0°から45°までとして試験した場合に、せん断角θ[°]が0°から1.0°の間で引張荷重Fが最大値を持たないことが好ましい。引張荷重F[N]の最大値が、せん断角θ[°]が0°から1.0°の間にある場合、炭素繊維テープ材はせん断角θ[°]が1.0°に到達するまでに形態を保持できずに崩壊していることを意味する。この場合、ΔF/Δθの値を炭素繊維テープ材のせん断変形性能として評価することはできない。
【0062】
本発明に係る炭素繊維テープ材は、せん断角θ[°]が0°から1.0°の間で引張荷重Fが最大値を持たない場合、せん断角θ[°]が0.1°から1.0°の間でのΔF/Δθが1.0より小さいことが好ましく、0.4より小さいことがさらに好ましく、0.2より小さいことがさらに好ましい。ΔF/Δθが1.0以上の場合、炭素繊維テープ材をせん断変形する際に大きな力が必要となり、ファイバープレイスメント法にて引き揃えて型へと配置する際に良好な型への追従性が得られない。一方、ΔF/Δθは0.1より大きいことが好ましい。ΔF/Δθが0.1以下の場合、わずかな力の付与で炭素繊維テープ材が大きくせん断変形を起こし、炭素繊維テープ材の安定性が損なわれてしまう。
【0063】
本発明に係る炭素繊維テープ材は、せん断角θ[°]を0°から45°までとして試験した場合に、引張荷重Fの最大値が0.5Nより大きいことが好ましく、1.0Nより大きいことがさらに好ましい。せん断角θ[°]を0°から45°までとして試験した場合に、引張荷重Fの最大値が0.5N以下である場合、炭素繊維テープ材は炭素繊維束と布材が剥がれる等、テープ形態を維持することができない。
【0064】
本発明の炭素繊維テープ材は、強化繊維積層体に用いられる。強化繊維積層体は、本発明の炭素繊維テープ材を配列・積層し、その層間の少なくとも一部を固着することで形状が保持されたものである。このような構成をとることで、強化繊維積層体を構成する炭素繊維束同士の隙間(ギャップ)を任意の距離に設定して配置することができる。その結果、成形時におけるマトリックス樹脂の流動性を確保することができ、注入する樹脂の種類やプロセスウインドウの幅を広げることができる等、生産性を向上させることができる。
【0065】
また、炭素繊維テープ材を用いた強化繊維積層体には、マトリックス樹脂を含浸し繊維強化樹脂成形体とすることが好ましい。前記構成をとることにより、得られる繊維強化樹脂成形体は、その内部まで樹脂が完全に含浸し、高い力学特性を有することができる。
【実施例
【0066】
本発明に係る炭素繊維テープ材について、実施例に基づいて説明する。実施例および比較例の条件および結果を表1に示す。
【0067】
(実施例1)
<強化繊維束>
強化繊維束として、予めサイジング処理を施した、東レ株式会社製炭素繊維「トレカ」(登録商標)T800SC、炭素繊維フィラメント数が24,000本(N=24K)を用いた。
【0068】
<布地>
布地として、トリコット機を用いて鎖編とインレー(挿入)を用いた組織状に経編した、規則性を有する編地(材質:ポリアミド、目付:6g/m)を用いた。
【0069】
<布地の伸び率測定>
布地の伸び率は、JIS L 1096 8.16.1を参考に、以下のとおり測定した。すなわち、前記布地のウェール方向が長手方向となるように幅50mm、長さ300mmにカットし、つかみ間隔が200mmとなるようにつかみ部に印をつけた。試験片の一端をクランプで固定したのち、80mN/50mmの荷重を静かに付与して1分間保持後の印間の長さを測定した。次の式から布地伸び率を算出した結果、伸び率は48%となった。
=[(L-L)/L]×100
:布地伸び率(%)
:元の印間の布地長さ(mm)
:荷重付与時の布地長さ(mm)
【0070】
<炭素繊維テープ材>
図示しない炭素繊維束製造装置を用いて、炭素繊維束1本をボビンから引き出して、厚みを調整しながらスリットせずに幅を狭め、その後、軟化点温度80℃の加熱溶融性のバインダ粒子(平均粒径:0.2mm)を炭素繊維束の表面に散布した。バインダ粒子の重量割合は、5%(得られた炭素繊維束の重量を100%とする)となるように散布した後、溶融、冷却することで、その形態が固定された糸幅4.8mmの炭素繊維束を得た。
【0071】
10本の炭素繊維束を長手方向に平行に引き揃えた後、その炭素繊維束の片面に第1の熱可塑性樹脂(材質:ポリアミド)の軟化点温度T1(℃)が110℃、第2の熱可塑性樹脂(材質:ポリアミド)の軟化点温度T2(℃)が200℃の編地(布地)を配置し、90℃で加熱してバインダ粒子を溶融することで、編地と炭素繊維束とを、バインダ粒子を介して図3のように部分接着して一体化させた。このようにすることにより、幅50mm、テープ材の目付が212g/m、炭素繊維束間の各隙間(ギャップ)が0.2mmの炭素繊維テープ材を得た。
【0072】
<炭素繊維テープ材の変形性>
炭素繊維テープ材の変形性評価として、2辺把持法によるピクチャーフレーム法を実施した。長さ220mm、幅50mmの炭素繊維テープ材を3本平行に並べ、つかみ間隔が200mmとなるようにつかみ部に印をつけた。そして、3本平行に並べた炭素繊維テープ材を、つかみ部が200mm、測定角α[°]が90°となるように、図8に示すピクチャーフレーム治具に2辺を把持するように取り付けて測定を実施した。その結果、せん断角θ[°]が0°から45°の範囲における引張荷重F[N]は、最大値が0.5[N]より大きく、また、該最大値は、せん断角θ[°]が0°から1.0°の間には存在しなかった。そして、ΔF/Δθ=0.22となり、炭素繊維テープ材が面内のせん断の力に対し良好な変形性を示すことを確認した。
【0073】
<強化繊維積層体>
図示しないファイバープレイスメント装置を用いて、架台上に、上記のようにして得られた炭素繊維テープ材を、それぞれの炭素繊維テープ材間にそれぞれ0.7mmの隙間(ギャップ)を設けるように一方向に引き揃えて配置し、300mm×300mmの正方形形状となるように炭素繊維テープ材を切断しながら配置を繰り返してシート基材を製作した。隣り合う炭素繊維テープ材は、隣り合う編地を1mmラップさせて、ラップ部を100℃で加熱することにより接着一体化してシート基材を製作した。
【0074】
得られたシート基材をピラミッド(四面体)形状の型(底面:1辺が14cmの正三角形、高さ:7cm)に配置し、シート基材に張力をかけながら上型を降下してプレス賦形した後、下型を100℃で10分間加熱した。その結果、シート基材は大きなしわが入ることなく良好な賦形性を示した。同様の手順でシート基材をピラミッド形状の型に1層ずつ順次賦形した後、上型を閉じてから下型を100℃で10分間加熱した。その結果、大きなしわが入ることなく良好な強化繊維積層体が得られた。
【0075】
<成形体>
得られた強化繊維積層体を前述のピラミッド形状の下型に配置し、バグフィルムを用いて真空バッグした後、雰囲気温度100℃のオーブン内に型を配置した。その後、マトリックス樹脂(エポキシ樹脂)を注入し、170℃雰囲気下で硬化した。その結果、成形品の炭素繊維含有率は59%となり、樹脂未含浸部位のなく炭素繊維含有率の高い、良好な成形体が得られた。本成形品を用いてCAI(衝撃後圧縮試験)を実施した結果、耐衝撃性に優れた良好な結果が得られた。本試験結果の値を100とした場合の、各実施例と比較例のCAI比率を表1に示す。
【0076】
(実施例2)
以下の点以外は実施例1と同様にして炭素繊維テープを得た。
・布地として、トリコット機を用いて鎖+ハーフ組織状に経編した、規則性を有する編地(材質:ポリアミド、目付:6g/m)を用いた。
・布地として、第1の熱可塑性樹脂の軟化点温度T1(℃)が160℃、第2の熱可塑性樹脂の軟化点温度T2(℃)が180℃の編地を用いた。
【0077】
<布地の伸び率測定>
実施例1と同様の方法で伸び率を測定した結果、ウェール方向の伸び率は35%となった。
【0078】
<炭素繊維テープ材の変形性>
実施例1と同様の方法で2辺把持法によるピクチャーフレーム法を実施した結果、せん断角θ[°]が0°から45°の範囲における引張荷重F[N]は、最大値が0.5[N]より大きく、また、該最大値は、せん断角θ[°]が0°から1.0°の間には存在しなかった。そして、ΔF/Δθ=0.36となり、炭素繊維テープ材が面内のせん断の力に対し良好な変形性を示すことを確認した。
【0079】
<強化繊維積層体>
実施例1と同様の方法で実施した結果、シート基材はよれやしわが生じることなく良好な強化繊維積層体が得られた。
【0080】
<成形体>
実施例1と同様の方法で実施した結果、成形品の炭素繊維含有率は57%となり、樹脂未含浸部位のなく炭素繊維含有率の高い、良好な成形体が得られた。本成形品を用いてCAI(衝撃後圧縮試験)を実施し、実施例1の炭素繊維含有率にノミナル換算した結果、CAI比率は105となり、耐衝撃性に優れた良好な結果が得られた。
【0081】
(実施例3)
以下の点以外は実施例1と同様にして炭素繊維テープを得た。
・布地として、平織り組織の織物(経糸および緯糸の材質:ポリアミド、目付:6g/m、繊維配向:±45°)を用いた。
・布地として、第1の熱可塑性樹脂の軟化点温度T1(℃)が130℃、第2の熱可塑性樹脂の軟化点温度T2(℃)が200℃の織物を用いた。
【0082】
<布地の伸び率測定>
実施例1と同様の方法で伸び率を測定した結果、ウェール方向の伸び率は55%となった。
【0083】
<炭素繊維テープ材の変形性>
実施例1と同様の方法で2辺把持法によるピクチャーフレーム法を実施した結果、せん断角θ[°]が0°から45°の範囲における引張荷重F[N]は、最大値が0.5[N]より大きく、また、該最大値は、せん断角θ[°]が0°から1.0°の間には存在しなかった。そして、ΔF/Δθ=0.19となり、炭素繊維テープ材が面内のせん断の力に対し良好な変形性を示すことを確認した。
【0084】
<強化繊維積層体>
実施例1と同様の方法で実施した結果、シート基材はよれやしわが生じることなく良好な強化繊維積層体が得られた。
【0085】
<成形体>
実施例1と同様の方法で実施した結果、成形品の炭素繊維含有率は60%となり、樹脂未含浸部位のなく炭素繊維含有率の高い、良好な成形体が得られた。本成形品を用いてCAI(衝撃後圧縮試験)を実施し、実施例1の炭素繊維含有率にノミナル換算した結果、CAI比率は97となり、耐衝撃性に優れた良好な結果が得られた。
【0086】
(比較例1)
以下の点以外は実施例1と同様にして炭素繊維テープを得た。
・1種類の熱可塑繊維(材質:ポリアミド、目付:6g/m)から構成され、その軟化点温度が200℃である鎖+インレー(挿入)組織状の編地を用いた。
【0087】
<布地の伸び率測定>
実施例1と同様の方法で伸び率を測定した結果、ウェール方向の伸び率は51%となった。
【0088】
<炭素繊維テープ材の変形性>
実施例1と同様の方法で2辺把持法によるピクチャーフレーム法を実施した結果、せん断角θ[°]が0°から45°の範囲における引張荷重F[N]は、最大値が0.5[N]より大きく、また、該最大値は、せん断角θ[°]が0°から1.0°の間には存在しなかった。そして、ΔF/Δθ=0.24となり、炭素繊維テープ材が面内のせん断の力に対し良好な変形性を示すことを確認した。
【0089】
<強化繊維積層体>
実施例1と同様の方法で実施した結果、シート基材はよれやしわが生じることなく良好な強化繊維積層体が得られた。
【0090】
<成形体>
実施例1と同様の方法で実施した結果、成形品の炭素繊維含有率は47%となり、樹脂未含浸部位はないものの炭素繊維含有率の低い成形体となった。
【0091】
(比較例2)
以下の点以外は実施例1と同様にして炭素繊維テープを得た。
・1種類の熱可塑繊維(材質:ポリアミド、目付:6g/m)から構成され、その軟化点温度が130℃である不織布を用いた。
【0092】
<布地の伸び率測定>
実施例1と同様の方法で伸び率を測定した結果、ウェール方向の伸び率は8%となった。
【0093】
<炭素繊維テープ材の変形性>
実施例1と同様の方法で2辺把持法によるピクチャーフレーム法を実施した結果、せん断角θ[°]が0°から45°の範囲における引張荷重F[N]は、最大値が0.5[N]より大きく、また、該最大値は、せん断角θ[°]が0°から1.0°の間には存在しなかった。そして、ΔF/Δθ=1.16となり、炭素繊維テープ材が面内のせん断の力に対し変形性に乏しいことを確認した。
【0094】
<強化繊維積層体>
実施例1と同様の方法で実施した結果、強化繊維積層体の複数個所にてシート基材によれが生じていることが確認された。
【0095】
<成形体>
実施例1と同様の方法で実施した結果、成形品の炭素繊維含有率は58%となり、炭素繊維含有率の高い成形体が得られた。本成形品を用いてCAI(衝撃後圧縮試験)を実施し、実施例1の炭素繊維含有率にノミナル換算した結果、CAI比率は78となり、耐衝撃性に乏しい結果となった。
【0096】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の炭素繊維テープ材やこれを用いた強化繊維積層体は、マトリックス樹脂の含浸性に優れるため、かかる強化繊維積層体を用いて得られる成形体は、特に、航空機や自動車、船舶等向けの大型部材や、風車ブレードのような一般産業用途の部材にも好適に用いられる。
【符号の説明】
【0098】
100、200、300、500、600、800 炭素繊維テープ材
101、201、301、501,601 炭素繊維束
102、202、302、502、602 炭素繊維束群
103、203、303、403、503、603、703 布地
106、206、306 隙間(ギャップ)
204、304 樹脂バインダ
305 接着領域
406 鎖部
407 挿入部
408、508、608 第1の熱可塑性樹脂
409、509、609 第2の熱可塑性樹脂
710 クランプ
711 印
813 つかみ部
814 炭素繊維テープ材を把持していない2辺
815 ピクチャーフレーム治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9