IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ 図1
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ 図2
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ 図3
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ 図4
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ 図5
  • 特許-内燃機関用のスパークプラグ 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】内燃機関用のスパークプラグ
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/39 20060101AFI20250408BHJP
   H01T 13/54 20060101ALI20250408BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20250408BHJP
   C22C 19/05 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
H01T13/39
H01T13/54
C22C19/03 Z
C22C19/05 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021083734
(22)【出願日】2021-05-18
(65)【公開番号】P2022177464
(43)【公開日】2022-12-01
【審査請求日】2024-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 恭輔
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-194762(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102010055120(DE,A1)
【文献】特開2017-091605(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 5/00-25/00
C22C 27/00-28/00
C22C 30/00-30/06
C22C 35/00-45/10
H01T 7/00-23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の絶縁碍子(3)と、
該絶縁碍子の内周側に保持されると共に該絶縁碍子から先端側に突出した中心電極(4)と、
上記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
上記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、
上記放電ギャップが配される副燃焼室(50)を覆うよう上記ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(5)と、を有し、
上記プラグカバーには、上記副燃焼室と外部とを連通させる噴孔(51)が形成されており、
上記プラグカバーは、Niを主成分とすると共に、YとTiとをそれぞれ0.01質量%以上含有し、
上記プラグカバーにおけるYとTiとの合計の含有量は1.21質量%以下であり、
上記プラグカバーは、Crを含有せず
上記プラグカバーは、上記副燃焼室の外周側を覆う周壁部(52)と、上記副燃焼室の先端側を覆う底壁部(53)と、上記周壁部の先端と上記底壁部の外周とを曲面状に繋ぐ角部(54)と、を有し、
上記プラグカバーは、ビッカース硬さが120HV未満である、内燃機関用のスパークプラグ(1)。
【請求項2】
上記プラグカバーは、YとTiとをそれぞれ0.02質量%以上含有する、請求項1に記載のスパークプラグ。
【請求項3】
上記プラグカバーは、0.3~1.5質量%のSiを含有する、請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されているように、先端に副燃焼室を備えたスパークプラグが知られている。当該スパークプラグにおいて、副燃焼室を覆うプラグカバーには、噴孔が形成されている。これにより、噴孔を介して副燃焼室から主燃焼室に火炎を噴出させ、主燃焼室の混合気を燃焼させようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-35517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のスパークプラグにおいて、プラグカバーは、Crを所定の割合以上含む合金からなるため、加工性が悪くなりやすい。その一方で、プラグカバーの耐消耗性を確保する必要もある。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、プラグカバーの耐消耗性を確保しつつ、加工性を向上させることができる内燃機関用のスパークプラグを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、筒状の絶縁碍子(3)と、
該絶縁碍子の内周側に保持されると共に該絶縁碍子から先端側に突出した中心電極(4)と、
上記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
上記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、
上記放電ギャップが配される副燃焼室(50)を覆うよう上記ハウジングの先端部に設けられたプラグカバー(5)と、を有し、
上記プラグカバーには、上記副燃焼室と外部とを連通させる噴孔(51)が形成されており、
上記プラグカバーは、Niを主成分とすると共に、YとTiとをそれぞれ0.01質量%以上含有し、
上記プラグカバーにおけるYとTiとの合計の含有量は1.21質量%以下であり、
上記プラグカバーは、Crを含有せず
上記プラグカバーは、上記副燃焼室の外周側を覆う周壁部(52)と、上記副燃焼室の先端側を覆う底壁部(53)と、上記周壁部の先端と上記底壁部の外周とを曲面状に繋ぐ角部(54)と、を有し、
上記プラグカバーは、ビッカース硬さが120HV未満である、内燃機関用のスパークプラグ(1)にある。
【発明の効果】
【0007】
上記スパークプラグにおいて、プラグカバーは、Cr(すなわち、クロム)を含有しない。また、プラグカバーは、Y(すなわち、イットリウム)とTi(すなわち、チタン)とをそれぞれ0.01質量%以上含有すると共に、YとTiとの合計の含有量が1.21質量%以下である。また、プラグカバーは、ビッカース硬さが120HV未満である。それゆえ、プラグカバーは、加工しやすいと共に、噴孔を介して副燃焼室から主燃焼室に噴出させる火炎によって消耗しにくい。その結果、プラグカバーの耐消耗性を確保しつつ、加工性を向上させることができる。
【0008】
以上のごとく、上記態様によれば、プラグカバーの耐消耗性を確保しつつ、加工性を向上させることができる内燃機関用のスパークプラグを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態1における、スパークプラグの先端部付近の、プラグ軸方向に沿った断面図であって、図2のI-I線矢視断面相当図。
図2図1のII-II線矢視断面相当図。
図3】実施形態1における、スパークプラグが設置された内燃機関の断面図。
図4】実験例1における、Ni合金のCrの含有量とビッカース硬さとの関係を示すグラフ。
図5】実験例2における、プラグカバーのYとTiとの含有量と、直径変化率との関係を示すグラフ。
図6】実験例3における、プラグカバーのSiの含有量と、直径変化率が5%となるまでの内燃機関の運転時間との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(実施形態1)
内燃機関用のスパークプラグに係る実施形態について、図1図3を参照して説明する。
本形態の内燃機関用のスパークプラグ1は、図1図2に示すごとく、筒状の絶縁碍子3と、中心電極4と、筒状のハウジング2と、接地電極6と、プラグカバー5と、を有する。中心電極4は、絶縁碍子3の内周側に保持されると共に絶縁碍子3から先端側に突出している。ハウジング2は、絶縁碍子3を内周側に保持する。接地電極6は、中心電極4との間に放電ギャップGを形成する。プラグカバー5は、放電ギャップGが配される副燃焼室50を覆うようハウジング2の先端部に設けられている。プラグカバー5には、副燃焼室50と外部とを連通させる噴孔51が形成されている。
【0011】
プラグカバー5は、Niを主成分とすると共に、YとTiとをそれぞれ0.01質量%以上含有する。プラグカバー5におけるYとTiとの合計の含有量は1.21質量%以下である。また、プラグカバー5におけるCrの含有量は1.0質量%未満である。
【0012】
本形態において、好ましくは、プラグカバー5におけるCrの含有量は0.5質量%以下である。プラグカバー5におけるCrの含有量は、例えば、0.1~0.5質量%とすることができる。また、プラグカバー5は、例えば、実質的にCrを含有しないものとすることができる。
【0013】
また、プラグカバー5は、YとTiとをそれぞれ0.02質量%以上含有する。さらに、本形態において、プラグカバー5は、0.3~1.5質量%のSi(すなわち、珪素)を含有する。
【0014】
また、プラグカバー5におけるNiの含有量は、例えば、98質量%以上である。
【0015】
本形態のスパークプラグ1は、例えば、自動車等の内燃機関における着火手段として用いることができる。図3に示すごとく、ハウジング2の外周面に形成したネジ部21を、シリンダヘッド71のプラグホール711の雌ネジ部に螺合して、スパークプラグ1が内燃機関10に取り付けられる。
【0016】
また、内燃機関10は、シリンダ70内を往復運動するピストン74を備える。主燃焼室101は、ピストン74の往復運動によって、容積変化する。内燃機関10には、吸気ポート721及び排気ポート731が形成されており、それぞれ吸気弁72又は排気弁73が備えられている。
【0017】
そして、スパークプラグ1の軸方向Zの一端が、内燃機関10の主燃焼室101に配置される。スパークプラグ1の軸方向Zにおいて、主燃焼室101に露出する側を先端側、その反対側を基端側というものとする。また、スパークプラグ1の軸方向Zを、適宜、プラグ軸方向Zともいう。また、図1図2に示すごとく、スパークプラグ1の中心軸Cは、本形態において、中心電極4の中心軸でもある。
【0018】
プラグカバー5は、ハウジング2の先端部に溶接等によって接合されている。プラグカバー5は、ハウジング2と熱的に接触している。図3に示すごとく、スパークプラグ1が内燃機関10に取り付けられた状態において、プラグカバー5は、副燃焼室50を主燃焼室101と区画している。噴孔51は、副燃焼室50と主燃焼室101とを連通させている。
【0019】
副燃焼室50は、図1に示すごとく、絶縁碍子3から先端側に突出した中心電極4の周辺における、ハウジング2の先端部の内周側の空間を含む。また、副燃焼室50は、絶縁碍子3の外周面とハウジング2の内周面との間に形成された環状の空間であるポケット部501をも含む。
【0020】
また、本形態において、プラグカバー5は、周壁部52と底壁部53と角部54とを有する。周壁部52は、副燃焼室50の外周側の一部を覆う略円筒形状の部分である。底壁部53は、副燃焼室50の先端側を覆う部分である。角部54は、周壁部52の先端と底壁部53の外周とを曲面状に繋ぐ部分である。
【0021】
本形態において、プラグカバー5には、図1図2に示すごとく、5つの噴孔51が形成されている。角部54には、4つの噴孔51が形成されている。底壁部53には、1つの噴孔51が形成されている。
【0022】
角部54に形成されている噴孔51は、先端側へ向かうほどプラグ径方向の外側へ向かうように、プラグ軸方向Zに対して傾斜して開口している。図2に示すごとく、プラグ軸方向Zから見たとき、角部54に形成されている噴孔51は、プラグ周方向に等間隔で形成されている。なお、プラグ径方向とは、スパークプラグ1の中心軸Cに直交する平面上において、スパークプラグ1の中心軸Cを中心とする円の半径方向を意味する。また、プラグ周方向とは、スパークプラグ1の中心軸Cに直交する平面上において当該中心軸Cを中心とする円周方向をいうものとする。
【0023】
また、底壁部53に形成されている噴孔51は、その中心軸が、プラグ軸方向Zに沿うように、形成されている。
【0024】
本形態においては、図1に示すごとく、それぞれの噴孔51の直径Dは、互いに略同じとなっている。それぞれの噴孔51は、その中心軸に直交する断面形状が略円形状となるように形成されている。
【0025】
次に、プラグカバー5の製造方法について説明する。
本形態においては、Ni合金からなる板状の合金部材を冷鍛加工することにより、噴孔51を形成する前のプラグカバーを形成する。当該合金部材は、Niを主成分とすると共に、YとTiとSiとを含有する。当該合金部材は、上述したプラグカバー5の組成と同様の組成である。
【0026】
次いで、冷鍛加工後のプラグカバーに対し、噴孔51を開口することにより、本形態におけるプラグカバー5を製造することができる。そして、噴孔51を開口したプラグカバー5を、ハウジング2の先端部に対し、溶接等によって接合することにより、本形態のスパークプラグ1を得ることができる。
【0027】
次に、本形態の作用効果を説明する。
上記スパークプラグ1において、プラグカバー5は、Crの含有量が1.0質量%未満である。また、プラグカバー5は、YとTiとをそれぞれ0.01質量%以上含有すると共に、YとTiとの合計の含有量が1.21質量%以下である。それゆえ、プラグカバー5は、加工しやすいと共に、噴孔51を介して副燃焼室50から主燃焼室に噴出させる火炎によって消耗しにくい。その結果、プラグカバー5の耐消耗性を確保しつつ、加工性を向上させることができる。
【0028】
Niを主成分とするプラグカバーにおいて、耐消耗性を向上させるために、Crを所定割合含有させることは、知られている。しかし、Crの含有量が多いと、プラグカバーの加工性が低下する。そこで、本願発明者らは、プラグカバーの耐消耗性と加工性との両立を図るべく、鋭意研究の結果、上記の組成にてプラグカバーを構成することを見出した。
まず、プラグカバーの耐消耗性の課題、及び消耗のメカニズムにつき、説明する。この説明においては、プラグカバーが、Cr、Y、Tiのいずれをも含まないと仮定した場合につき、説明する。ただし、符号は、敢えて、図1図3に付したものを利用する。
【0029】
スパークプラグ1は、放電ギャップGに放電を生じさせることにより、副燃焼室50内の混合気を着火させ、火炎を形成する。そして、副燃焼室50内にて生じた火炎を、噴孔51を介して主燃焼室に噴出させる。これにより、主燃焼室内に火炎を伝搬させて混合気を燃焼させる。ここで、プラグカバー5の消耗によって、噴孔51を介して副燃焼室50から主燃焼室に噴出させる火炎ジェットの強さ又は向きが変わると、内燃機関における混合気の主燃焼期間が変化するおそれがある。そして、主燃焼期間が長すぎる場合、主燃焼室における未燃燃料の着火性が上昇し、ノッキング等の原因となる燃焼異常を引き起こすおそれがある。また、主燃焼期間が短すぎる場合、シリンダ内の圧力の急激な変化によって、ノイズが発生するおそれがある。そのため、主燃焼期間が所定の期間内に収まるよう、火炎ジェットの強さ及び向きを所定の範囲内とする必要がある。なお、本明細書において、「主燃焼期間」とは、例えば、内燃機関における質量燃焼割合が10%から90%になるまでの期間である。
【0030】
ここで、火炎ジェットの強さは、噴孔51の開口面積Sと副燃焼室50の容積Vとの比(以下、単にS/V比という。)に大きく影響される。それゆえ、噴孔51の内周面511及びその付近の部分が消耗し、噴孔51の開口面積Sが変化した場合、消耗前と比較し、S/V比が変化することとなる。そして、S/V比が変化すると、火炎ジェットの強さが変化するおそれがある。また、噴孔51の内周面511及びその付近の部分の消耗が進みすぎると、火炎ジェットの向きが変化するおそれもある。そのため、噴孔51の内周面511及びその付近の部分が消耗しすぎると、ノッキング等の原因となる燃焼異常、又はノイズが発生するおそれがある。
【0031】
また、内燃機関に設置されたスパークプラグ1は、噴孔51を介して火炎ジェットを主燃焼室に噴出させると共に、噴孔51を介して、比較的温度の低い混合気を主燃焼室から副燃焼室50に導入する。そして、噴孔51を介した火炎ジェットの噴出と混合気の導入とは、繰り返し行われる。つまり、噴孔51の内周面511及びその付近の部位は、高温、かつ加熱と冷却とを繰り返す環境に晒され続けることになる。そのため、一般に、噴孔51の内周面511及びその付近の部位は、比較的酸化による消耗を招きやすい部位でもある。
【0032】
より詳細には、プラグカバー5は、その表面に酸化被膜が形成されていることにより、酸化の進行を抑えている。しかし、加熱と冷却とを繰り返す噴孔51の内周面511及びその付近の部位は、酸化被膜と、酸化被膜の内側のNi合金との互いの線膨張係数の差により、酸化被膜に熱応力が発生しやすい。そのため、酸化被膜の割れ及び剥離が発生するおそれがある。そして、酸化被膜の剥離等が生じるとプラグカバー5の酸化が進み、噴孔51の内周面511及びその付近の部位が消耗するおそれがある。
【0033】
また、噴孔51の内周面511及びその付近の部位は、加熱と冷却とを繰り返すため、金属組織が変化しやすい。それゆえ、結晶粒界に不純物の偏析が生じ、結晶粒界での腐食が進むおそれがある。そのため、噴孔51の内周面511及びその付近の部位が消耗するおそれがある。
【0034】
かかる問題に対して、プラグカバー5を構成するNiに、Crを含有させて、耐酸化性を向上させることが考えられるが、上述したように、加工性が低下するという新たな課題が生じる。
【0035】
そこで、本形態のスパークプラグ1において、プラグカバー5は、YとTiとをそれぞれ0.01質量%以上含有する。プラグカバー5は、Yを含有することにより、酸化被膜と、酸化被膜の内側のNi合金との密着性を強化することができる。そのため、酸化被膜の剥離等を抑制し、プラグカバー5の耐酸化性を向上させることができる。また、プラグカバー5は、Tiを含有することにより、耐酸化性を向上させることができ、特に結晶粒界での腐食を抑制することができる。それゆえ、プラグカバー5における、噴孔51の内周面511及びその付近の部位の消耗を抑えることができる。それゆえ、内燃機関に設置されたスパークプラグ1は、火炎ジェットの強さ及び向きが変化しにくい。それゆえ、ノッキング等の原因となる燃焼異常、及びノイズの発生を抑えることができる。その結果、スパークプラグ1の寿命を延ばすことができる。
【0036】
また、酸化被膜の剥離等を抑制するYと、結晶粒界での腐食を抑制するTiとの双方を含有することにより、プラグカバー5の耐消耗性を確実に向上させることができる。それゆえ、スパークプラグ1の寿命を確実に延ばすことができる。
【0037】
また、一方で、プラグカバー5におけるYとTiとの含有量が多くなり過ぎると、プラグカバー5の熱伝導率が低下しやすい。そして、熱伝導率が低下すると、プラグカバー5が高温となりやすく、YとTiとの耐酸化性向上効果が低くなりやすい。ここで、本形態のスパークプラグ1において、プラグカバー5は、YとTiとの合計の含有量が1.21質量%以下である。それゆえ、プラグカバー5の熱伝導率は低下しにくい。それゆえ、プラグカバー5が高温となることを抑えることができる。その結果、プラグカバー5の耐消耗性を確実に確保することができる。
【0038】
また、プラグカバーを、コストをかけることなく、効率的に製造するためには、切削加工よりも冷鍛加工によって製造する方が望ましい。上述のように、Crは、耐酸化性を高める元素ではあるものの、プラグカバーを製造するための合金部材に所定の割合以上含有させると、合金部材を硬くさせやすい。そのため、合金部材がCrを所定の割合以上含む場合、冷鍛加工では、プラグカバーの製造時に割れが生じやすく、加工しにくい。また、切削加工では、効率的に製造しにくい。そこで、本形態のスパークプラグ1において、プラグカバー5は、Crの含有量を1.0質量%未満としている。それゆえ、プラグカバー5を冷鍛加工によって形成しやすい。その結果、プラグカバー5の加工性を向上させることができる。
【0039】
より好ましくは、プラグカバー5におけるCrの含有量は0.5質量%以下である。これにより、プラグカバー5を冷鍛加工によって一層形成しやすい。その結果、プラグカバー5の加工性を一層向上させることができる。
【0040】
また、プラグカバー5は、上述のように、耐酸化性を向上させるYとTiとを含有する。それゆえ、耐酸化性を向上させるCrの含有量を抑制しても、プラグカバー5は酸化されにくい。その結果、プラグカバー5の耐消耗性を確保することができる。
【0041】
プラグカバー5は、YとTiとをそれぞれ0.02質量%以上含有する。それゆえ、プラグカバー5は一層消耗しにくい。その結果、プラグカバー5の耐消耗性を効果的に確保することができる。
【0042】
また、プラグカバー5は、0.3~1.5質量%のSiを含有する。そして、Siは、耐酸化性に優れた元素である。それゆえ、高温下での耐酸化性を、より一層向上させることができる。それゆえ、プラグカバー5は、火炎ジェットによる消耗を、より一層抑制することができる。その結果、プラグカバー5の耐消耗性を、一層効果的に確保することができる。
【0043】
また、YとTiとSiとは、それぞれ上述のような少量の添加によって、プラグカバー5の耐酸化性を向上させることができる。それゆえ、プラグカバー5の熱伝導率の低下を抑えつつ、耐酸化性を向上させることができる。その結果、プラグカバー5の耐消耗性を効果的に確保することができる。
【0044】
以上のごとく、本形態によれば、プラグカバー5の耐消耗性を確保しつつ、加工性を向上させることができる内燃機関用のスパークプラグ1を提供することができる。
【0045】
(実験例1)
本例では、図4のグラフに示すごとく、基本組成を実施形態1におけるプラグカバーと同様とするNi合金につき、Crの含有量とビッカース硬さとの関係を調べた。本例では、下記の表1に示すごとく、Crの含有量が互いに異なる4種類のNi合金からなる試料を用意した。そして、各試料につき、ビッカース硬さ試験を行った。ビッカース硬さ試験には、Mitutoyo社製 HM-200(マイクロビッカース硬さ試験機)を用いた。
【0046】
【表1】
【0047】
図4のグラフにおいて、丸印は、表1における試料1~4の測定結果をプロットしたものである。また、図4のグラフには、これらのプロットにおける近似直線を示した。なお、一般に、Ni合金は、ビッカース硬さが120HV以上の場合、冷鍛加工を行うと割れが生じやすく、加工性が悪くなりやすい。
【0048】
表1及び図4のグラフより、Crの含有量が少なくなるに従って、ビッカース硬さの値が小さくなることが分かる。この結果より、冷鍛加工によって、Niを主成分とする合金部材からプラグカバーを製造する際、合金部材のCrの含有量を少なくするほど、加工性を向上させることができると考えられる。
【0049】
また、図4のグラフに示す近似直線より、ビッカース硬さが120HV未満となるCrの含有量は、1.0質量%未満と推測された。この結果より、Niを主成分とする合金部材は、Crの含有量を1.0質量%未満とすることにより、冷鍛加工する際、加工性を向上させることができると考えられる。さらに、Crの含有量を0.5質量%以下とすることにより、加工性を充分に向上させることができると考えられる。
【0050】
(実験例2)
本例では、表2に示すごとく、基本構造及びプラグカバーの基本組成を実施形態1と同様とする複数のスパークプラグを用いて、プラグカバーの組成と、プラグカバーの加工性及び噴孔消耗性との関係を調べた。本例では、表2に示すごとく、プラグカバーにおけるCr、Ti、Yのそれぞれの含有量が互いに異なる実施例1~7及び比較例1~11のスパークプラグを用意した。また、実施例1~7及び比較例1~11において、表2に示した組成以外の残部は、Niである。なお、表2中の「-」は、含有量が0.001質量%未満であることを示す。
【0051】
【表2】
【0052】
本例において、加工性評価は、実験例1と同様に、ビッカース硬さ120HV未満を基準として評価した。そして、表2に示すごとく、ビッカース硬さが120HV未満の場合を「○」、120HV以上の場合を「×」にて示した。
【0053】
表2に示すように、Ti及びYの含有量にかかわらず、Crの含有量が1.0質量%未満のとき、ビッカース硬さが120HV未満となった。具体的には、Crの含有量が0.5質量%以下のとき、ビッカース硬さが120HV未満となった。この結果より、Ti及びYの含有量にかかわらず、Crの含有量を0.5質量%以下とすることにより、プラグカバーの加工性を確実に向上させることができると考えられる。
【0054】
また、本例において、噴孔消耗性の評価は、スパークプラグを設置した内燃機関を運転させる前と、所定の時間運転させた後とにおいて、それぞれ噴孔の直径を測定し、運転前に対する運転後の直径の変化率(以下、単に直径変化率という。)を求め、評価した。噴孔消耗性評価における内燃機関の運転条件は、スパークプラグを設置する内燃機関を、排気量が1.8Lである4気筒の4ストロークエンジンとし、スロットル全開、回転数を6500rpmとした。また、噴孔の直径は、内燃機関を20時間運転させる毎に、ピンゲージを用いて測定した。そして、スパークプラグ毎に、すべての噴孔における直径変化率を測定し、その平均値を評価に用いた。
【0055】
また、噴孔消耗性の評価は、スパークプラグの耐ノッキング性と耐ノイズ性との両立を考慮し、S/V比の変化率10%未満を基準とした。そして、実施形態1のスパークプラグにおいては、直径変化率が5%のとき、S/V比の変化率が10%となる。そのため、本例では、内燃機関を所定の時間運転させた後において、直径変化率が5%未満となるプラグカバーの組成を求めた。
【0056】
また、一般的な運転頻度から換算すると、乗用車が10万km走行したときの内燃機関の運転時間は300時間となる。また、一般的な運転頻度から換算して、乗用車が10万マイル走行したときの内燃機関の運転時間は480時間となる。したがって、表2に示すごとく、噴孔消耗性評価は、内燃機関を480時間運転させたとき、直径変化率が5%未満である場合を「◎」とした。また、噴孔消耗性評価は、内燃機関を300時間運転させたとき、直径変化率が5%未満である場合を「○」とし、直径変化率が5%以上である場合を「×」とした。
【0057】
表2に示すごとく、Crの含有量が1.0質量%以上である比較例1を除き、プラグカバーにおけるYとTiとの含有量のうち、少なくともどちらか一方の含有量が0.01質量%未満である比較例2~6、9、10は、噴孔消耗性評価が「×」となった。この結果より、YとTiとのうち、一方だけがプラグカバーに0.01質量%以上含有していても、耐消耗性効果を充分に発揮できないと考えられる。また、YとTiとの合計の含有量が1.21質量%を超える比較例5、7、8、10、11も、噴孔消耗性評価が「×」となった。また、YとTiとの双方を、プラグカバーに0.01質量%以上含有する比較例7、8、11であっても、YとTiとの合計の含有量が1.21質量%を超えたとき、噴孔消耗性評価は「×」となった。これは、YとTiとの合計の含有量が多くなり過ぎたことによって、プラグカバーの熱伝導率が低下したためと考えられる。つまり、熱伝導率が低いとプラグカバーが高温になりやすいため、YとTiとの添加による耐酸化性効果が低くなったと考えられる。
【0058】
一方、YとTiとをそれぞれ0.01質量%以上含有すると共に、YとTiとの合計の含有量が1.21質量%以下の実施例1~7は、噴孔消耗性評価が「○」又は「◎」となった。また、特に、YとTiとをそれぞれ0.02質量%含有する実施例4及び実施例7は、噴孔消耗性評価が「◎」となった。つまり、図5に示すごとく、YとTiとの含有量が、破線で示す三角の内側にある場合、噴孔消耗性評価は「◎」又は「○」になると考えられる。一方、破線で示す三角の外側の場合においては、耐消耗性は充分に確保できないと考えられる。
【0059】
(実験例3)
本例では、実験例2と同様に、基本構造及びプラグカバーの基本組成を実施形態1と同様とする複数のスパークプラグを用いて、プラグカバーの組成と、プラグカバーの加工性及び噴孔消耗性との関係を調べた。本例では、表3に示すごとく、プラグカバーにおけるSi、Ti、Yのそれぞれの含有量が互いに異なる実施例2、5、8~17のスパークプラグを用意した。その他の試験条件は、実験例2と同様である。
【0060】
【表3】
【0061】
加工性評価については、表3に示すように、Siの含有量にかかわらず、Crの含有量が0.5質量%のとき、ビッカース硬さが120HV未満となった。この結果より、Siの含有量にかかわらず、Crの含有量を0.5質量%以下とすることにより、プラグカバーの加工性を確実に向上させることができると考えられる。
【0062】
噴孔消耗性評価については、表3に示すように、Siを所定の割合含有させることにより、評価が向上することがわかる。具体的には、Cr、Ti、Yのそれぞれの含有量が互いに同じである実施例5、11~13を比較したとき、Siの含有量が0.3質量%未満の実施例5では評価が「〇」であるのに対し、Siを0.3~1.5質量%含有する実施例11~13では評価が「◎」となった。また、Cr、Ti、Yのそれぞれの含有量が互いに同じである実施例2、8~10を比較したときも、同様の結果となった。つまり、図6のグラフに示すごとく、TiとYとの含有量が互いに同じであっても、Siを0.3~1.5質量%含むことにより、プラグカバーの耐消耗性を一層向上させることができると考えられる。これは、Siの耐酸化性効果によって、プラグカバーの耐消耗性が向上したためと考えられる。
【0063】
一方、表3に示すごとく、Siの含有量が1.5質量%を超える実施例14~17においては、噴孔消耗性評価が「○」となった。これは、Siの含有量が多くなり過ぎたことによって、プラグカバーの熱伝導率が低下したためと考えられる。つまり、熱伝導率が低いと、プラグカバーが高温になりやすいため、Siの添加による耐酸化性効果が低くなったと考えられる。
【0064】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…スパークプラグ、2…ハウジング、3…絶縁碍子、4…中心電極、5…プラグカバー、50…副燃焼室、51…噴孔、6…接地電極、G…放電ギャップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6