(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】白金被覆耐火物、管ガラス製造装置及び白金被覆耐火物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 41/88 20060101AFI20250408BHJP
C03B 17/04 20060101ALI20250408BHJP
C23C 4/06 20160101ALI20250408BHJP
C23C 4/02 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
C04B41/88 T
C03B17/04 B
C23C4/06
C23C4/02
(21)【出願番号】P 2021141278
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2024-05-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中川 楽
(72)【発明者】
【氏名】天山 和幸
(72)【発明者】
【氏名】板津 裕之
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-121073(JP,A)
【文献】特開平10-195623(JP,A)
【文献】特表2009-541201(JP,A)
【文献】特開2003-013195(JP,A)
【文献】特開2005-008454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/88
C03B 17/04
C23C 4/06
C23C 4/02
C04B 35/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粒子を骨材とする耐火物基材と、前記耐火物基材を被覆する溶射膜である白金被膜と、を備える白金被覆耐火物であって、
前記白金被膜に被覆される前記耐火物基材の表面を被覆面としたとき、
前記被覆面は、単位面積あたりの面積基準の粒子径分布において、粒子径が800μm以上の骨材が占める割合が10%以下である
白金被覆耐火物。
【請求項2】
前記被覆面の表面粗さの指標である最大高さは、200μm以上であって400μm未満である
請求項1に記載の白金被覆耐火物。
【請求項3】
前記耐火物基材と前記白金被膜との密着強度は、10MPa以上である
請求項1又は請求項2に記載の白金被覆耐火物。
【請求項4】
マッフル炉と、前記マッフル炉の内部に配置されるスリーブと、を備え、前記スリーブに供給される溶融ガラスを前記スリーブの先端から引き出すことで、管ガラスを製造する管ガラス製造装置であって、
前記マッフル炉の上壁を構成する耐火物として、請求項1~請求項3の何れか一項に記載の白金被覆耐火物を用いる
管ガラス製造装置。
【請求項5】
セラミック粒子を骨材とする耐火物基材と、前記耐火物基材を被覆する白金被膜と、を備える白金被覆耐火物の製造方法であって、
前記耐火物基材の表面であって、単位面積あたりの面積基準の粒子径分布において、粒子径が800μm以上の骨材が占める割合が10%以下である被覆面を粗面化する表面処理工程と、
白金又は白金合金を溶射することで、前記被覆面に前記白金被膜を生成する被膜生成工程と、を備え、
前記表面処理工程は、前記被覆面をブラスト処理する工程である
白金被覆耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金被覆耐火物、管ガラス製造装置及び白金被覆耐火物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ガラス製品の製造装置及びガラス溶融炉などに使用される白金被覆耐火物が記載されている。この白金被覆耐火物は、耐火物基材と、耐火物基材の表面に白金を溶射することで形成される白金被膜と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした白金被覆耐火物は、耐火物基材から白金被膜が剥がれることのないように、耐火物基材と白金被膜との密着強度をさらに高めることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する白金被覆耐火物は、セラミック粒子を骨材とする耐火物基材と、前記耐火物基材を被覆する溶射膜である白金被膜と、を備える白金被覆耐火物であって、前記白金被膜に被覆される前記耐火物基材の表面を被覆面としたとき、前記被覆面は、単位面積あたりの面積基準の粒子径分布において、粒子径が800μm以上の骨材が占める割合が10%以下である。
【0006】
上記構成の白金被覆耐火物は、被覆面に粒子径の大きな骨材が現れにくい点で、被覆面が粗面になりやすい。その結果、被覆面と白金被膜との間のアンカー効果が得られやすい。したがって、上記構成の白金被覆耐火物は、耐火物基材と白金被膜との密着強度を高めることができる。
【0007】
前記被覆面の表面粗さの指標である最大高さは、200μm以上であって400μm未満であることが好ましい。
上記構成によれば、耐火物基材と白金被膜との密着強度をより高めることができる。
【0008】
前記耐火物基材と前記白金被膜との密着強度は、10MPa以上であることが好ましい。
上記課題を解決する管ガラス製造装置は、マッフル炉と、前記マッフル炉の内部に配置されるスリーブと、を備え、前記スリーブに供給される溶融ガラスを前記スリーブの先端から引き出すことで、管ガラスを製造する管ガラス製造装置であって、前記マッフル炉の上壁を構成する耐火物として、上述した何れかの白金被覆耐火物を用いる。
【0009】
管ガラス製造装置において、上述した白金被覆耐火物の作用効果を得ることができる。
上記課題を解決する白金被覆耐火物の製造方法は、セラミック粒子を骨材とする耐火物基材と、前記耐火物基材を被覆する白金被膜と、を備える白金被覆耐火物の製造方法であって、前記耐火物基材の表面であって、単位面積あたりの面積基準の粒子径分布において、粒子径が800μm以上の骨材が占める割合が10%以下である被覆面を粗面化する表面処理工程と、白金又は白金合金を溶射することで、前記被覆面に前記白金被膜を生成する被膜生成工程と、を備え、前記表面処理工程は、前記被覆面をブラスト処理する工程である。
【0010】
白金被覆耐火物の製造方法において、上述した白金被覆耐火物の作用効果を得ることができる。また、粒子径の小さな骨材が多く存在する被覆面をブラスト処理すると、被覆面から粒子径の小さな骨材が除去される点で、被覆面により複雑な凹凸形状が形成されやすい。こうして、白金被覆耐火物の製造方法は、耐火物基材と白金被覆との間のアンカー効果をより高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
白金被覆耐火物、管ガラス製造装置及び白金被覆耐火物の製造方法は、耐火物基材と白金被膜との密着強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】実施例及び比較例の粒子径の面積分布を示す表。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、管ガラス製造装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態の管ガラス製造装置は、ダンナー方式の管ガラス製造装置である。図面では、説明理解の容易のために、一部の構成を省略したり誇張して図示したりする。
【0014】
<管ガラス製造装置10>
図1及び
図2に示すように管ガラス製造装置10は、溶融ガラスを成形体であるスリーブ31に供給する供給部20と、溶融ガラスをスリーブ31に供給し、管ガラスに成形する成形部30と、成形部30を収容するマッフル炉40と、を備える。
【0015】
成形部30は、円筒状をなすスリーブ31と、スリーブ31の基端部を支持する支持軸32と、を有する。スリーブ31は、耐火物により構成されている。スリーブ31の先端部は、先端に向かうにつれて外径が小さくなっている。言い換えれば、スリーブ31の先端部は、テーパー状をなしている。一方、スリーブ31の先端部を除く部分は、軸方向において外径が略一定となっている。支持軸32は、スリーブ31の軸線が水平方向に対して傾くように、スリーブ31の基端部を支持している。詳しくは、支持軸32は、スリーブ31の先端部がスリーブ31の基端部よりも下方に位置するように、スリーブ31を支持している。支持軸32が回転する場合には、スリーブ31が支持軸32とともに一体回転する。成形部30は、溶融ガラスを管ガラスに成形する際、スリーブ31を回転させることで、スリーブ31に供給される溶融ガラスを引き延ばす。スリーブ31に引き延ばされた溶融ガラスは、スリーブ31の先端から引き出される。このとき、成形部30は、スリーブ31の先端から気体を排出することで、管ガラスを成形する。
【0016】
マッフル炉40は、矩形箱状をなしている。マッフル炉40は、底部を構成する底壁41と、底壁41から延びる側壁42と、上部を構成する上壁43と、マッフル炉40の内部を区画する隔壁44と、隔壁44を支持する支持壁45と、熱源46と、を有する。マッフル炉40は、スリーブ31が配置される成形室47と、熱源46が配置される加熱室48と、を有する。
【0017】
マッフル炉40を構成する壁部は、単体の耐火物で構成されている。マッフル炉40を構成する壁部は、複数の耐火物を組み合わせることにより構成されていてもよい。上記耐火物としては、例えば、アルミナジルコン質耐火物、ムライト質耐火物、アルミナ質耐火物等の酸化物系耐火物、炭化珪素質耐火物、窒化アルミニウム質耐火物、窒化珪素質耐火物等の非酸化物系耐火物が挙げられる。
【0018】
側壁42は、底壁41から上方に延びる第1側壁421、第2側壁422、第3側壁423及び第4側壁424を有する。第1側壁421及び第2側壁422は対向し、第3側壁423及び第4側壁424は対向している。
【0019】
第1側壁421は、スリーブ31の回転軸線の延長線上に位置する2つの壁部のひとつであって、スリーブ31の基端側に位置している。第1側壁421は、板厚方向に貫通する第1貫通孔42aを有する。第1貫通孔42aには、成形部30の支持軸32が挿通している。第2側壁422は、スリーブ31の回転軸線の延びる方向に位置する2つの壁部のひとつであって、スリーブ31の先端側に位置している。第2側壁422は、板厚方向に貫通する第2貫通孔42bを有する。第2貫通孔42bには、スリーブ31から引き出された溶融ガラスが通過する。
【0020】
上壁43は、マッフル炉40の天井部分を構成している。上壁43は、上壁本体431と、上壁本体431を被覆する白金被膜432と、を有する。上壁本体431は、第3側壁423に接続する第1下面43aと、第4側壁424に接続する第2下面43bと、供給部20から供給される溶融ガラスが通過する供給口43cと、を有する。
【0021】
第1下面43a及び第2下面43bは、成形室47に面している。
図2に示すように、第1下面43aは、第3側壁423に接近するにつれて下方に向かうように傾斜し、第2下面43bは、第4側壁424に接近するにつれて下方に向かうように傾斜している。第1下面43a及び第2下面43bにおいて、両者が接続する部分、言い換えれば、スリーブ31の上方に位置する部分は、第1下面43a及び第2下面43bの中で最も上方に位置している。供給口43cは、スリーブ31の上方に位置している。このため、供給部20から流下する溶融ガラスは、スリーブ31上に供給される。
【0022】
白金被膜432は、白金又は白金合金の溶射膜である。白金合金としては、白金-ロジウム合金が好ましく、白金-10%ロジウム合金がより好ましい。白金-ロジウム合金は白金より高価であるが、高温での機械的強度が高いため、機械的強度が必要な場合に採用するとよい。白金合金は、金を含んでいてもよいし、イリジウムを含んでいてもよいし、他の金属を含んでいてもよい。溶射膜の厚さは、例えば、200μm~400μmである。
【0023】
隔壁44は、マッフル炉40の内部を成形室47及び加熱室48に区画する。隔壁44は、成形室47を区画できるのであれば形状は任意である。本実施形態において、隔壁44は、
図2に示す正面視において、U字状をなし、スリーブ31の軸方向に延びている。隔壁44の上端は上壁43に接続し、隔壁44の延びる方向における両端部は第1側壁421及び第2側壁422にそれぞれ接続している。成形室47は、第1貫通孔42a、第2貫通孔42b及び供給口43cを介して外部と接続している。一方、加熱室48は、成形室47に接続しない閉じた空間となっている。熱源46は、例えば、バーナー及び電気ヒータなどである。
【0024】
<白金被覆耐火物の製造方法>
続いて、上壁43などの白金被覆耐火物の製造方法について説明する。
白金被覆耐火物の製造方法は、耐火物基材を製造する耐火物製造工程と、耐火物基材の表面を粗面化する表面処理工程と、耐火物基材の表面に白金被膜432を生成する被膜生成工程と、を備える。ここで、耐火物基材とは、管ガラス製造装置10においては、上壁本体431などに相当する。
【0025】
耐火物製造工程は、いわゆるスリップキャスティングによって、耐火物基材を製造する工程である。詳しくは、耐火物製造工程は、耐火物基材の骨材となるセラミック粒子を溶媒に分散させて泥漿化する分散工程と、型に流し込んだ泥漿を固化させる成形工程と、成形工程を経た固化物を焼成する焼成工程と、を有する。分散工程で溶媒に分散される骨材は、体積基準の粒子径分布において、累積度数が50%であるときの粒子径が150μm未満であることが好ましく、累積度数が90%であるときの粒子径が400μm未満であることが好ましい。これによれば、耐火物基材において、白金被膜432に被膜されることになる表面(以下、「被覆面」ともいう。)は、面積基準の粒子径分布において、粒子径が1.1mm以上の骨材が占める割合が10%以下となる。被覆面は、白金被覆耐火物が上壁43であるとき、第1下面43a及び第2下面43bに相当する。なお、骨材は、1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。骨材の種類は、粒子径が上記のものであれば、耐火物の種類に応じて適宜に選択できる。
【0026】
表面処理工程は、アルミナなどのセラミック粒子を耐火物基材の被覆面にブラストする工程である。被覆面にブラストする粒子の径は、耐火物基材の骨材の粒子径と同等であることが好ましい。表面処理工程において、上記粒子径の粒子を用いると、耐火物基材の被覆面に存在する骨材が当該被覆面から脱落しやすくなる。すると、骨材が脱落することで凹部が形成され、耐火物基材の被覆面の表面積が増大する。
【0027】
表面処理工程が実施された後は、耐火物基材の被覆面から粒子径の小さな骨材が脱落するため、被覆面における粒子径分布が変化する。詳しくは、表面処理工程後において、耐火物基材の被覆面は、面積基準の粒子径分布において、粒子径が800μm以上の骨材が占める割合が10%以下となる。また、被覆面の表面粗さの指標である最大高さは、200μm以上であって400μm未満となる。ここで、表面粗さとは、基準長さにおける輪郭曲線の中で、最も高い山の高さと最も深い谷の深さの和である。また、被覆面の表面粗さの指標である界面の展開面積比は、2.0以上であって6.0未満であることが好ましい。ここで、界面の展開面積比とは、定義領域の展開面積、言い換えれば、定義領域の表面積が、定義領域の面積に対してどれだけ増大しているかを表す指標である。
【0028】
被膜生成工程は、白金又は白金合金を耐火物基材の被覆面に溶射する工程である。溶射方法は、例えば、プラズマ溶射であればよい。
<本実施形態の作用>
次に、本実施形態の作用として、白金被覆耐火物の実施例及び比較例について説明する。
【0029】
実施例に係る白金被覆耐火物は、上述した製造方法によって製造された白金被覆耐火物である。一方、比較例に係る白金被覆耐火物は、骨材を本実施例よりも大きくしたことを除き、実施例と同様の製造方法によって製造された白金被覆耐火物である。すなわち、実施例及び比較例の白金被覆耐火物の製造にあたり、表面処理工程及び被膜生成工程の実施条件は同様である。
【0030】
図3は実施例に係る耐火物基材の被覆面の状態を示し、
図4は比較例に係る耐火物基材の被覆面の状態を示している。
図3及び
図4に示すように、実施例の被覆面及び比較例の被覆面は、表面に露出する骨材の大きさが異なっている。詳しくは、
図3に示すように、実施例の被覆面は、骨材の粒子径が比較的小さいのに対して、
図4に示すように、比較例の被覆面は、骨材の粒子径が比較的大きくなっている。なお、
図3及び
図4において、骨材の存在しない連続した部分は、主に100μm未満の粒子で構成される部分である。
【0031】
図5は、表面処理工程を実施する前の実施例及び比較例における被覆面の単位面積あたりの面積基準の粒子径分布を示す表である。
図5に示す表の骨材の粒子径は、例えば、
図3及び
図4に示す画像から求めることができる。具体的には、
図3及び
図4に示す画像から粒子の断面積を求め、それと同じ面積を持つ円の直径に換算し、粒子径として求めた。
図5に示すように、実施例の被覆面は、粒子径が800μm未満の骨材のみで占められている。詳しくは、実施例の被覆面は、粒子径が100μm未満の骨材が占める面積が70%以上であり、粒子径が200μm未満の骨材が占める面積が80%以上であり、粒子径が400μm未満の骨材が占める面積が90%以上である。一方、比較例の被覆面は、粒子径が100μm未満の骨材も、粒子径が2000μm以上の骨材も存在している。比較例の被覆面は、粒子径が100μm未満の骨材が占める面積が60%以上であり、粒子径が600μm未満の骨材が占める面積が80%以上である。さらに、実施例の被覆面は、粒子径が800μm以上の骨材が占める面積は0.0%であるのに対し、比較例の被覆面は、粒子径が800μm以上の骨材が占める面積は12.6%となっている。
【0032】
続いて、実施例及び比較例の白金被膜432の密着強度の試験結果について説明する。
密着強度の算出は、以下のような試験を行うことで算出した。製造した白金被覆耐火物の白金被膜432に白金インゴットの端面をPtろうで接合する。詳しくは、白金被膜432に直径が5mmの白金インゴットの円形の端面を接合する。続いて、白金インゴットを引っ張ることにより、白金被膜432を耐火物基材から引き離す荷重を、白金被膜432に作用させる。そして、耐火物基材から白金被膜432が剥離するときの荷重を、白金被膜432と白金インゴットとの接合面積で除することにより、密着強度を算出する。
【0033】
実施例の場合、耐火物基材の表面から白金被膜432が剥離することなく、耐火物基材の一部が破断した。耐火物基材の一部が破断したときの引張応力は、12.7MPaであった。つまり、耐火物基材の表面と白金被膜432との密着強度は、12.7MPa以上といえる。これに対し、比較例の場合、耐火物基材の表面と白金被膜432との界面に2.9MPaの引張応力が生じるときに、耐火物基材の表面から白金被膜432が剥がれた。つまり、耐火物基材の表面と白金被膜432との密着強度は、2.9MPaであった。このように、実施例の密着強度は10MPa以上であり、比較例の密着強度は10MPa未満であった。
【0034】
<本実施形態の効果>
(1)白金被覆耐火物は、微粒径のセラミック粒子を骨材として用いる。このため、被覆面に粒子径の大きな骨材が現れにくい点で、被覆面が粗面になりやすい。その結果、被覆面と白金被膜432との間のアンカー効果が得られやすい。したがって、上記構成の白金被覆耐火物は、耐火物基材と白金被膜432との密着強度を高めることができる。
【0035】
(2)被覆面の表面粗さの指標である最大高さは、200μm以上であって400μm未満である。また、被覆面の表面粗さの指標である界面の展開面積比は、2.0以上であって6.0未満である。このため、白金被覆耐火物は、被覆面と白金被膜432との間のアンカー効果をより高めることができる。
【0036】
(3)粒子径の小さな骨材が多く存在する被覆面をブラスト処理すると、被覆面から被覆面に存在する粒子径の小さな骨材が除去される点で、被覆面により複雑な凹凸形状が形成されやすい。こうして、白金被覆耐火物の製造方法は、耐火物基材と白金被覆との間のアンカー効果をより高めることができる。
【0037】
(4)管ガラス製造装置10において、管ガラスを製造する状況下において、マッフル炉40の内部の空気には、溶融ガラスから揮発したホウ酸成分などが含まれている。こうした空気がマッフル炉40の上壁43の下面43a,43bで冷やされると、当該下面43a,43bが結露する。ここで、本実施形態のマッフル炉40は、上壁43の第1下面43aは第3側壁423に向かって下降するように傾き、上壁43の第2下面43bは第4側壁424に向かって下降するように傾いている。このため、下面43a,43bに付着した液体は、第1下面43a及び第2下面43bを伝って、第3側壁423及び第4側壁424に向かって流れる。このため、下面43a,43bに付着した液体は、スリーブ31に供給された溶融ガラスに滴下しにくくなる。
【0038】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0039】
・白金被覆耐火物は、管ガラス製造装置10以外の装置にも適用可能である。例えば、ガラス溶融炉の壁部として使用することもできる。
・白金被覆耐火物の形状は、白金被覆耐火物の用途に応じて適宜に変更することができる。白金被覆耐火物において、白金被膜432は、必要な部位に設けられることが好ましい。
【0040】
・マッフル炉40において、上壁本体431は、第1下面43a及び第2下面43bの一方のみを有していてもよい。また、上壁43の下面43a,43bは、少なくともスリーブ31の上方に位置する部分が水平方向に対して傾いていればよい。
【0041】
・マッフル炉40において、側壁42及び隔壁44のうち、スリーブ31を向く面に白金被膜432を設けてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10…管ガラス製造装置
31…スリーブ
40…マッフル炉
43…上壁(白金被覆耐火物の一例)
43a…第1下面(被覆面の一例)
43b…第2下面(被覆面の一例)
431…上壁本体(耐火物基材の一例)
432…白金被膜