IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

<>
  • 特許-鉛蓄電池 図1
  • 特許-鉛蓄電池 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/06 20060101AFI20250408BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20250408BHJP
   H01M 50/489 20210101ALI20250408BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250408BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20250408BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20250408BHJP
【FI】
H01M10/06 Z
H01M50/417
H01M50/489
H01M4/62 B
H01M4/14 Q
H01M50/411
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021154668
(22)【出願日】2021-09-22
(65)【公開番号】P2023046005
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】福田 創太
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-109171(JP,A)
【文献】特開2022-186309(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066808(WO,A1)
【文献】特開2021-068551(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06
H01M 50/417
H01M 50/489
H01M 4/62
H01M 4/14
H01M 50/411
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、極板群および電解液を含む少なくとも1つのセルを含み、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータとを含み、
前記負極板は、硫酸バリウム粒子を含む負極電極材料を含み、
前記硫酸バリウム粒子の体積基準の粒度分布において、頻度の累積が10%、50%および90%となる粒子径をそれぞれ、D10、D50およびD90とするとき、(D90-D50)/(D50-D10)で表される粗大粒子頻度が3.23以下であり、
前記セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含み、
前記セパレータのX線回折スペクトルにおいて、100×I/(I+I)で示される結晶化度が20%以上であり、
は、前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度であり、
は、前記非晶質領域に相当するハローの積分強度であり、
前記セパレータにおいて、0.005μm以上10μm以下の細孔径を有する細孔の容積の合計Vtは、0.8cm/g以上である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記粗大粒子頻度は、3.20以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記容積の合計Vtは、1.05cm/g以上である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記結晶化度は、40%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記セパレータは、ポリオレフィンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記ポリオレフィンは、少なくともエチレン単位を含み、
前記ピーク高さが最大である前記回折ピークは、前記結晶質領域による(110)面に相当する、請求項5に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記セパレータは、100μm以上300μm以下の厚さを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記セパレータは、オイルを含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、正極板および負極板と、これらの間に介在するセパレータと、電解液と、を含む。鉛蓄電池の代表的な用途の1つに自動車用途がある。自動車用途では、近年の高性能化に伴い、電装負荷が増加しており、鉛蓄電池にはさらなる高性能化が求められている。そのため、セパレータ、極板などの構成要素の改良を含めて、鉛蓄電池の構成要素全体の作用を考慮した電池設計が求められるようになっている。
【0003】
例えば、特許文献1は、ポリオレフィン微孔性膜を含む鉛蓄電池のためのセパレータであって、前記ポリオレフィン微孔性膜は、好ましくは超高分子量ポリエチレンであるポリエチレンと、粒子状充填剤と、処理可塑剤と、を含み、前記粒子状充填剤は重量で40%以上の量で存在し、前記ポリエチレンは、複数の伸び切り鎖結晶(シシ形成)及び複数の折り畳み鎖結晶(ケバブ形成)を含むシシケバブ形成のポリマーを含み、前記ケバブ形成の平均繰り返し又は周期は1nmから150nmであり、好ましくは120nm未満である、セパレータを提案している。
【0004】
特許文献2は、正極と、負極と、前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータと、電解液と、を備える鉛蓄電池であって、前記負極が、負極活物質の原料と、バリウムを含む粒子と、を含有する混合物の化成処理物を含む負極材を有し、前記粒子の化成処理前における平均一次粒径が0.10μm以下であり、前記電解液がアルミニウムイオンを含有する、鉛蓄電池を提案している。
【0005】
特許文献3は、硫酸バリウムを含有し、前記硫酸バリウムは、少なくとも第1の粒子群と第2の粒子群とを含み、第1の粒子群の一次粒子径は10μm以下で平均値が0.3μm以上0.9μm以下であり、第2の粒子群の一次粒子径は10μm以下で平均値が2μm以上5μm以下であり、前記第1の粒子群が、体積頻度基準で硫酸バリウムの全量に対し、28%以上72%以下である鉛蓄電池用の負極板を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-514173号公報
【文献】国際公開第2018/100635号
【文献】特開2015-109171号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉛蓄電池では、充電時に比重の大きな硫酸イオンが下降して、電槽の上部と下部とで電解液の比重差(つまり、硫酸の濃度差)が生じる成層化が起こり易い。成層化は、鉛蓄電池が部分充電状態(Partial State Of Charge:PSOC)と呼ばれる充電不足状態で使用される場合に顕著になる。例えば、アイドリングストップシステム車などのアイドリングストップ(IS)(Idle Reductionとも言う。)用途または充電制御用途では、鉛蓄電池がPSOCで使用されるため、成層化が顕著になり易い。成層化が顕著になると、負極板が劣化して、PSOCで用いたときの鉛蓄電池の寿命性能(IS寿命性能とも言う)が低下する。
【0008】
セパレータの細孔容積が大きくなると、電解液の拡散性が向上するため、成層化を抑制する観点からは有利であると期待される。しかし、電解液との接触面積が増加するため、セパレータの酸化劣化が進行し易くなる。セパレータの損傷によって、短絡が生じて寿命となるため、IS寿命性能の向上効果が限定的である。
【0009】
また、鉛蓄電池の負極板では、放電時に硫酸鉛が形成される。硫酸鉛の粒子が粗大化すると、充電時に硫酸鉛から鉛に還元され難くなるため、充電受入性が低下する。これによって、成層化がさらに進行するとともに、容量が低下する。このような点からも、IS寿命性能が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一側面は、鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、極板群および電解液を含む少なくとも1つのセルを含み、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータとを含み、
前記負極板は、硫酸バリウム粒子を含む負極電極材料を含み、
前記硫酸バリウム粒子の体積基準の粒度分布において、頻度の累積が10%、50%および90%となる粒子径をそれぞれ、D10、D50およびD90とするとき、(D90-D50)/(D50-D10)で表される粗大粒子頻度が3.23以下であり、
前記セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含み、
前記セパレータのX線回折スペクトルにおいて、100×I/(I+I)で示される結晶化度が20%以上であり、
は、前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピークの積分強度であり、
は、前記非晶質領域に相当するハローの積分強度であり、
前記セパレータにおいて、0.005μm以上10μm以下の細孔径を有する細孔の容積の合計Vtは、0.8cm/g以上である、鉛蓄電池に関する。
【発明の効果】
【0011】
優れたIS寿命性能が得られる鉛蓄電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す一部切り欠き斜視図である。
図2】実施例の鉛蓄電池E1の鉛蓄電池用セパレータのX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
鉛蓄電池のIS寿命性能の向上を目的として、様々な検討がされている。成層化抑制には、細孔容積が大きなセパレータを用いることがある程度有効である。IS用途では、定電圧充電が行われ、流れる電流が増加するため、ガスが発生し、セパレータの多くの空孔を通してガスが拡散する際に、電解液を混合する効果が得られるためである。しかし、その背反として、セパレータとガスとの接触面積が大きくなり、接触機会が増加することで、セパレータの酸化劣化が進行し易くなる。加えて、正極電極材料の軟化が進行すると、脱落した正極電極材料がセパレータに接触したときの破れが起こり易くなる。これらの観点から、セパレータの短絡機会が増加して、IS寿命性能が低下する。そのため、セパレータの大きな細孔容積を維持した状態で、酸化劣化を抑制することができれば、IS寿命性能の向上に有効である。
【0014】
負極板では、放電時に生成する硫酸鉛の粗大化を抑制できれば、充電受入性が向上し、充電時に硫酸鉛から鉛への還元をスムーズに進行させることができると考えられる。負極板での充放電反応が極板全体でより均一に進行することで、正極板での充放電反応がより均一に進行し易くなる。よって、成層化が進行し難くなるとともに容量の低下が抑制されることから、IS寿命性能を向上する上で有利であると考えられる。
【0015】
負極電極材料は、添加剤として硫酸バリウム粒子を含むことがある。この場合、放電時に、負極板では、硫酸バリウム粒子を核として硫酸鉛が形成される。そのため、放電時に粗大な硫酸鉛の生成をある程度低減することができる。しかし、核となる硫酸バリウムの粒子径のばらつきが大きいと、生成される硫酸鉛の粒子径のばらつきが大きくなる傾向がある。硫酸鉛の粒子径のばらつきが大きいと、充電時の反応性にばらつきが生じる。
【0016】
上記に鑑み、本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、極板群および電解液を含む少なくとも1つのセルを含む。極板群は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在するセパレータとを含む。負極板は、硫酸バリウム粒子を含む負極電極材料を含む。硫酸バリウム粒子の体積基準の粒度分布において、頻度の累積が10%、50%および90%となる粒子径をそれぞれ、D10、D50およびD90とする。このとき、(D90-D50)/(D50-D10)で表される粗大粒子頻度が3.23以下である。また、セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含む。セパレータのX線回折(X-ray diffraction:XRD)スペクトルにおいて、100×I/(I+I)で示される結晶化度が20%以上である。ここで、Iは、結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピーク(以下、第1回折ピークと称することがある)の積分強度であり、Iは、非晶質領域に相当するハローの積分強度である。0.005μm以上10μm以下の細孔径を有する細孔の容積の合計Vtは、0.8cm/g以上である。以下、0.005μm以上10μm以下の細孔径を有する細孔を第1細孔と称することがある。また、第1細孔の容積の合計Vtを、単に、第1細孔容積Vtと称することがある。
【0017】
硫酸バリウム粒子の粗大粒子頻度が増加すると、粗大な硫酸鉛では、硫酸鉛から鉛への還元が起こり難くなる一方で、小さな硫酸鉛では、還元がスムーズに起こる。同じ時間充電を行っても、鉛に還元された硫酸鉛の量が少なくなるため、充電容量が低下する。その結果、放電反応にもばらつきが生じ、放電容量も低下する。
【0018】
ところが、負極電極材料における硫酸バリウム粒子の粗大粒子頻度が3.23以下である場合に、結晶化度が20%以上で、第1細孔の容積の合計Vt(第1細孔容積Vt)が0.8cm/g以上のセパレータを組み合わせると、IS寿命性能が格段に向上する。
【0019】
より具体的に説明すると、まず、硫酸バリウム粒子の粗大粒子頻度が3.23以下であることで、放電時に形成される硫酸鉛の粒子サイズのばらつきが軽減される。そのため、充電時に、硫酸鉛から鉛への還元反応の進行のばらつきが少なくなり、充電受入性が向上し、充電反応がより均一に起こる。同じ時間充電を行った場合に、粗大粒子頻度が3.23を超える場合に比べて、より多くの硫酸鉛を鉛に還元することができる。また、負極板における充電反応のばらつきが少なくなることで正極板での充電反応もばらつきが少なくなり、全体として充電反応が進行し易くなる。
【0020】
その際、セパレータにおける第1細孔の容積の合計Vt(第1細孔容積Vt)が0.8cm/g以上である場合、電解液の高い拡散性が得られるとともに、セパレータの抵抗を低く抑えることができる。そのため、成層化を抑制する効果が高まる。よって、粗大粒子頻度を小さくすることで向上した充電特性も合わさって、負極における充放電反応がスムーズに進行する。しかし、第1細孔容積Vtが上記の範囲である場合、電解液との接触面積が増加するため、セパレータの酸化劣化が進行し易い傾向がある。鉛蓄電池において、セパレータが酸化劣化すると、柔軟性が低下して亀裂が生じ、短絡が起こることで寿命となる。成層化を低減できても、IS寿命性能の向上効果が限定的になる。それに対し、本発明の上記側面では、結晶化度が20%以上であるため、セパレータ自体の耐酸化性を高めることができる。よって、セパレータの酸化劣化が軽減されることで、短絡に伴うIS寿命性能の低下が抑制され、粗大粒子頻度が小さいことによるIS寿命性能の向上効果およびセパレータによる成層化抑制に伴うIS寿命性能の向上効果が十分に発揮される。これらの結果として、優れたIS寿命性能を確保することができる。
【0021】
なお、第1細孔容積Vtが0.8cm/g未満の場合には、結晶化度を変更してもIS寿命性能はほとんど変わらない。この場合、セパレータの表面積が小さいことで、電解液との接触が低下し、酸化劣化が抑制されているため、成層化が顕著になることによって寿命となる。そのため、セパレータの結晶化度を高めても、IS寿命性能には影響がないと考えられる。このように、第1細孔容積Vtが0.8cm/g未満の場合と0.8cm/g以上の場合とでは、セパレータの結晶化度を変更したときのIS寿命性能の挙動が全く異なる。
【0022】
なお、鉛蓄電池用のセパレータは、リチウムイオン二次電池などのセパレータとは異なり、ある程度大きな厚さを有する。また、セパレータの厚さが大きいほど、結晶化度を高めることが難しくなる傾向があることに加え、結晶化度が大きくなると、セパレータが硬く脆くなる傾向がある。このような観点から、従来の鉛蓄電池用のセパレータでは、結晶化度を制御することはなされていなかった。従来の鉛蓄電池用のセパレータの結晶化度は、例えば、約18%以下と比較的低い傾向がある。このような従来の常識に対し、本発明の一側面の鉛蓄電池によれば、第1細孔容積Vtが0.8cm/g以上の場合に、結晶化度が20%以上であるセパレータを、硫酸バリウム粒子の粗大粒子頻度が3.23以下の負極板と組み合わせることで、IS寿命性能を大きく向上できることが明らかとなった。
【0023】
IS寿命性能は、硫酸バリウム粒子の粗大粒子頻度が増加するに伴って、低下する傾向がある。硫酸バリウム粒子の粗大粒子頻度が比較的小さい場合には、セパレータによる短絡抑制効果および成層化抑制効果が発揮され易い。しかし、粗大粒子頻度が増加するにつれて、セパレータによる効果だけでは負極板の劣化を抑制する効果が弱まる傾向がある。そのため、より高いIS寿命性能を確保するには、粗大粒子頻度は3.20以下が好ましい。
【0024】
セパレータにおける第1細孔の容積の合計Vt(第1細孔容積Vt)とは、水銀圧入法により求められるセパレータ中の第1細孔(0.005μm以上10μm以下の細孔径を有する細孔)の容積の総和である。
【0025】
なお、硫酸バリウム粒子の体積基準の粒度分布とは、レーザー回折または散乱式の粒度分布測定装置により測定される体積基準の粒度分布である。この体積基準の粒度分布における頻度の累積(積算値)が、10%、50%および90%のときの粒子径が、それぞれ、D10、D50、およびD90である。体積基準の粒度分布における積算値の50%に相当する粒子径D50は、メディアン径とも呼ばれる。なお、本明細書中、硫酸バリウム粒子の粒子径は、いずれも一次粒子の粒子径を意味する。
【0026】
第1細孔容積Vtは、1.05cm/g以上が好ましい。この場合、粗大粒子頻度を小さくすることによるIS寿命性能の向上効果がさらに顕著になる。また、セパレータのより高い耐酸化性が得られる点からも、高いIS寿命性能が得られ易い。
【0027】
結晶化度は、40%以下であってもよい。この場合、セパレータの柔軟性を担保し易いことに加え、製造が容易である。
【0028】
セパレータは、ポリオレフィンを含むことが好ましく、少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンを含むことがより好ましい。このようなセパレータは、酸化劣化し易いが、結晶化度を比較的容易に高めることができる。少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンをセパレータが含む場合、第1回折ピークは、結晶質領域による(110)面に相当する。
【0029】
セパレータの厚さは、100μm以上300μm以下であることが好ましい。厚さがこのような範囲である場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果がさらに高まり、IS寿命性能をさらに向上することができる。
【0030】
セパレータは、オイルを含むことが好ましい。この場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果がさらに高まり、より高いIS寿命性能を確保することができる。
【0031】
鉛蓄電池は、制御弁式電池であってもよいが、液式電池(ベント型電池)が好ましい。制御弁式鉛蓄電池は、VRLA(Valve Regulated Lead-Acid Battery)と呼ばれることがある。
【0032】
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素(極板、電槽、セパレータなど)の上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。なお、正極板および負極板の各極板は、外部端子と接続するための耳部を備えており、液式電池では、耳部は、極板の上部に上方に突出するように設けられている。
【0033】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0034】
(セパレータ)
セパレータは、セパレータの構成材料の分子が比較的規則正しく配列した(つまり、配列性が高い)結晶質領域と、配列性が低い非晶質領域とを含む。そのため、セパレータのXRDスペクトルでは、結晶質領域による回折ピークが観察されるとともに、非晶質領域による散乱光がハローとして観察される。セパレータのXRDスペクトルにおいて、100×I/(I+I)で表される結晶化度が20%以上であることによって、優れたIS寿命性能が得られる。ここで、Iは、結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピーク(第1回折ピーク)の積分強度であり、Iは、非晶質領域に相当するハローの積分強度である。
【0035】
例えば、エチレン単位を含むポリオレフィンを含むセパレータのXRDスペクトルでは、結晶質領域の(110)面に相当する回折ピークが、2θが20°以上22.5°以下の範囲に観察され、結晶質領域の(200)面に相当する回折ピークが、2θが23°以上24.5°以下の範囲に観察される。また、非晶質領域のハローは、2θが17°以上27°以下の範囲に観察される。結晶質領域による回折ピークのうち、(110)面に相当する回折ピークは、ピーク高さが最大であり、第1回折ピークに相当する。
【0036】
結晶化度は、20%以上であり、より高いIS寿命性能を確保する観点からは、23%以上または25%以上であってもよい。セパレータの結晶化度は、40%以下であってもよく、35%以下または30%以下であってもよい。結晶化度がこのような範囲である場合、セパレータの柔軟性を担保し易いことに加え、製造が容易である。
【0037】
セパレータの結晶化度は、20%以上(または23%以上)40%以下、20%以上(または23%以上)35%以下、20%以上(または23%以上)30%以下、25%以上40%以下(または35%以下)、あるいは25%以上30%以下であってもよい。
【0038】
回折ピークおよびハローの積分強度は、セパレータのXRDスペクトルにおいて、結晶質領域による回折ピークと非晶質領域によるハローとをフィッティングすることによって求められる。求められた第1回折ピークの積分強度Iおよびハローの積分強度Iを用いて、上記の式から結晶化度が求められる。
【0039】
セパレータにおける第1細孔容積Vtは、0.8cm/g以上である。第1細孔容積Vtがこのような範囲であることで、電解液の高い拡散性が得られるとともに、セパレータの抵抗を低く抑えることができる。よって、優れたIS寿命性能が得られる。第1細孔容積Vtは、0.9cm/g以上であってもよい。より高いIS寿命性能を確保する観点からは、第1細孔容積Vtは、1.05cm/g以上が好ましい。第1細孔容積Vtは、例えば、2.2cm/g以下である。結晶化度を高めることによるIS寿命性能の向上効果がより発揮され易い観点からは、第1細孔容積Vtは、2.0cm/g以下が好ましく、1.9cm/g以下または1.6cm/g以下がより好ましい。
【0040】
第1細孔容積Vtは、0.8cm/g以上2.2cm/g以下(または2.0cm/g以下)、0.9cm/g以上2.2cm/g以下(または2.0cm/g以下)、1.05cm/g以上2.2cm/g以下(または2.0cm/g以下)、0.8cm/g以上1.9cm/g以下(または1.6cm/g以下)、0.9cm/g以上1.9cm/g以下(または1.6cm/g以下)、あるいは1.05cm/g以上1.9cm/g以下(または1.6cm/g以下)であってもよい。
【0041】
セパレータは、ポリマー材料(以下、ベースポリマーとも称する。)を含む。セパレータは、結晶質領域を含むため、ベースポリマーは、通常、結晶性ポリマーを含む。セパレータは、例えば、ポリオレフィンを含む。ポリオレフィンとは、少なくともオレフィン単位を含む重合体(つまり、少なくともオレフィンに由来するモノマー単位を含む重合体)である。
【0042】
ベースポリマーとして、ポリオレフィンと他のベースポリマーとを併用してもよい。セパレータに含まれるベースポリマー全体に占めるポリオレフィンの比率は、例えば、50質量%以上であり、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。ポリオレフィンの比率は、例えば、100質量%以下である。ベースポリマーをポリオレフィンのみで構成してもよい。ポリオレフィンの比率がこのように多い場合、セパレータの耐酸化性が低くなる傾向があるが、このような場合であっても、結晶化度を上記の範囲とするため、高いIS寿命性能を確保することができる。
【0043】
ポリオレフィンには、例えば、オレフィンの単独重合体、異なるオレフィン単位を含む共重合体、オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体が包含される。オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体は、1種または2種以上のオレフィン単位を含んでいてもよい。また、オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体は、1種または2種以上の共重合性モノマー単位を含んでいてもよい。共重合性モノマー単位とは、オレフィン以外で、かつオレフィンと共重合可能な重合性モノマーに由来するモノマー単位である。
【0044】
ポリオレフィンとしては、例えば、少なくともC2-3オレフィンをモノマー単位として含む重合体が挙げられる。C2-3オレフィンとして、エチレンおよびプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、C2-3オレフィンをモノマー単位として含む共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体)がより好ましい。ポリオレフィンの中では、少なくともエチレン単位を含むポリオレフィン(ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体など)を用いることが好ましい。エチレン単位を含むポリオレフィン(ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体など)と他のポリオレフィンとを併用してもよい。
【0045】
セパレータは、オイルを含むことが好ましい。セパレータがオイルを含む場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果をさらに高めることができるため、より高いIS寿命性能を確保することができる。オイルとは、室温(20℃以上35℃以下の温度)で液状であり、水と分離する疎水性物質を言う。オイルには、天然由来のオイル、鉱物オイル、および合成オイルが包含される。オイルとしては、鉱物オイル、合成オイルなどが好ましい。オイルとしては、例えば、パラフィンオイル、シリコーンオイルが挙げられる。セパレータは、オイルを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0046】
セパレータ中のオイルの含有率は、11質量%以上または12質量%以上であってもよい。オイルの含有率は、18質量%以下であってもよい。オイルの含有率がこのような範囲である場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果がさらに高まる。また、セパレータの抵抗を比較的低く抑えることができる。
【0047】
セパレータは、シート状であってもよい。また、蛇腹状に折り曲げたシートをセパレータとして用いてもよい。セパレータは袋状に形成してもよい。正極板または負極板のうちのいずれか一方を袋状のセパレータに包んでもよい。
【0048】
セパレータは、リブを有してもよく、リブを有さなくてもよい。リブを有するセパレータは、例えば、ベース部とベース部の表面から立設されたリブとを備える。リブは、セパレータまたは各ベース部の一方の表面のみに設けてもよく、両方の表面にそれぞれ設けてもよい。なお、セパレータのベース部とは、セパレータの構成部位のうち、リブなどの突起を除く部分であり、セパレータの外形を画定するシート状の部分をいう。
【0049】
セパレータの厚さは、例えば、90μm以上である。より高いIS寿命性能が得られる観点からは、100μm以上または150μm以上が好ましい。セパレータの厚さは、例えば、300μm以下である。セパレータの抵抗を低く抑える観点からは、セパレータの厚さは、250μm以下または200μm以下であってもよい。セパレータの厚さとは、セパレータの電極材料に対向する部分における平均厚さを意味する。セパレータが、ベース部とベース部の少なくとも一方の表面から立設されたリブとを備える場合には、セパレータの厚さとは、ベース部における平均厚さである。セパレータに貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚さは、セパレータの厚さには含まれない。
【0050】
セパレータの厚さは、90μm以上300μm以下(または250μm以下)、90μm以上200μm以下、100μm以上(または150μm以上)300μm以下、100μm以上(または150μm以上)250μm以下、あるいは100μm以上(または150μm以上)200μm以下であってもよい。
【0051】
セパレータがリブを有する場合、リブの高さは、0.05mm以上であってもよい。また、リブの高さは、1.2mm以下であってもよい。リブの高さは、ベース部の表面から突出した部分の高さ(突出高さ)である。
【0052】
セパレータの正極板と対向する領域に設けられるリブの高さは、0.4mm以上であってもよい。セパレータの正極板と対向する領域に設けられるリブの高さは、1.2mm以下であってもよい。
【0053】
セパレータは、例えば、ベースポリマーと、造孔剤と、浸透剤(界面活性剤)とを含む樹脂組成物をシート状に押出成形し、延伸処理した後、造孔剤の少なくとも一部を除去することにより得られる。少なくとも一部の造孔剤を除去することで、ベースポリマーのマトリックス中に微細孔が形成される。セパレータ(またはセパレータの製造に供される樹脂組成物)は、無機粒子を含んでもよい。シート状のセパレータは、造孔剤を除去した後、必要に応じて乾燥処理される。例えば、押出成形する際のシートの冷却速度、延伸処理の際の延伸倍率、および乾燥処理の際の温度からなる群より選択される少なくとも1つを調節することによって、結晶化度が調節される。例えば、押出成形する際にシートを急冷したり、延伸倍率を高くしたり、または乾燥処理の際の温度を低くしたりすると、結晶化度が高くなる傾向がある。延伸処理は、二軸延伸によって行ってもよいが、通常、一軸延伸によって行われる。シート状のセパレータは、必要に応じて、蛇腹状に折り曲げたり、袋状に加工したりしてもよい。
【0054】
リブを有するセパレータでは、リブは、樹脂組成物を押出成形する際にシートに形成してもよい。また、リブは、樹脂組成物をシート状に成形した後または造孔剤を除去した後に、各リブに対応する溝を有するローラでシートを押圧することにより形成してもよい。
【0055】
セパレータ内の細孔構造および第1細孔容積Vtは、ベースポリマーと造孔剤および/または浸透剤との親和性を調節したり、造孔剤の分散性を調節したり、無機粒子の種類および/または粒子径を選択したり、浸透剤の種類を選択したり、無機粒子の量、造孔剤の量、および/または浸透剤の量を調節したり、ならびに/もしくは、無機粒子の表面に存在する官能基および/または原子などの量を調節したりすることにより、調節することができる。
【0056】
造孔剤としては、液状造孔剤および固形造孔剤などが挙げられる。造孔剤は、少なくともオイルを含むことが好ましい。オイルを用いることで、オイルを含有するセパレータが得られ、酸化劣化を抑制する効果がさらに高まる。造孔剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。オイルと他の造孔剤とを併用してもよい。液状造孔剤と、固形造孔剤とを併用してもよい。なお、室温(20℃以上35℃以下の温度)において、液状の造孔剤を液状造孔剤、固形の造孔剤を固形造孔剤と分類する。
【0057】
液状造孔剤としては、上述のオイルが好ましい。固形造孔剤としては、例えば、ポリマー粉末が挙げられる。
【0058】
セパレータ中の造孔剤の量は、種類によっては変化することがある。セパレータ中の造孔剤の量は、ベースポリマー100質量部あたり、例えば、30質量部以上である。造孔剤の量は、ベースポリマー100質量部あたり、例えば、60質量部以下である。
【0059】
例えば、造孔剤としてのオイルを用いて形成されるシートから、溶剤を用いて一部のオイルを抽出除去することによって、オイルを含有するセパレータが形成される。溶剤は、例えば、オイルの種類に応じて選択される。例えば、溶剤の種類および組成、抽出条件(抽出時間、抽出温度、溶剤を供給する速度など)などを調節することによって、セパレータ中のオイルの含有率が調節される。
【0060】
浸透剤としての界面活性剤としては、例えば、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれであってもよい。界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
セパレータ中の浸透剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であってもよい。セパレータ中の浸透剤の含有率は、10質量%以下であってもよい。
【0062】
無機粒子としては、例えば、セラミックス粒子が好ましい。セラミックス粒子を構成するセラミックスとしては、例えば、シリカ、アルミナ、およびチタニアからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0063】
セパレータ中の無機粒子の含有率は、例えば、40質量%以上であってもよい。無機粒子の含有率は、例えば、80質量%以下であり、70質量%以下であってもよい。
【0064】
(セパレータの分析またはサイズの計測)
(セパレータの準備)
セパレータの分析またはサイズの計測には、未使用のセパレータまたは使用初期の満充電状態の鉛蓄電池から取り出したセパレータが用いられる。鉛蓄電池から取り出したセパレータは、分析または計測に先立って、洗浄および乾燥される。
【0065】
鉛蓄電池から取り出したセパレータの洗浄および乾燥は、次の手順で行われる。鉛蓄電池から取り出したセパレータを純水中に1時間浸漬し、セパレータ中の硫酸を除去する。次いで浸漬していた液体からセパレータを取り出して、25℃±5℃環境下で、16時間以上静置し、乾燥させる。
【0066】
本明細書中、液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、鉛蓄電池を、定格容量として記載の数値の1/10の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態が満充電状態である。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.005倍の値(A)になった時点で充電を終了した状態である。定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0067】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池である。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。
【0068】
本明細書中、使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池である。
【0069】
(XRDスペクトル)
セパレータのXRDスペクトルは、セパレータの表面に垂直な方向からX線を照射することによって測定される。測定用のサンプルは、セパレータの電極材料に対向する部分を短冊状に加工することによって作製される。リブを有するセパレータでは、リブを含まないように、ベース部を短冊状に加工してサンプルを作製する。XRDスペクトルの測定およびフィッティングは、以下の条件で行われる。
(測定条件)
測定装置:RINT-TTR2、株式会社リガク製
フィッティング:FT(ステップスキャン)法
測定角度範囲:15-35°
ステップ幅:0.02°
計測速度:5°/min
XRDデータ処理:XRDパターン解析ソフト(PDXL2、株式会社リガク製)を使用。
【0070】
(第1細孔容積Vt)
セパレータの電極材料に対向する部分を20mm×5mmの短冊状に加工してサンプル(以下、サンプルAと称する)を作製する。リブを有するセパレータでは、リブを含まないように、ベース部を短冊状に加工してサンプルAを作製する。サンプルAについて、水銀ポロシメータを用いて下記の条件で細孔分布を求め、第1細孔の容積を合計することによりVtが求められる。
水銀ポロシメータ:オートポアIV9510、株式会社島津製作所製
測定の圧力範囲:4psia(≒27.6kPa)以上60,000psia(≒414MPa)以下
細孔分布:0.01μm以上50μm以下
【0071】
(セパレータの厚さおよびリブの高さ)
セパレータの厚さは、セパレータの断面写真において、任意に選択した5箇所について厚みを計測し、平均化することによって求められる。
【0072】
リブの高さは、セパレータの断面写真において、リブの任意に選択される10箇所において計測したリブのベース部の一方の表面からの高さを平均化することにより求められる。
【0073】
(セパレータ中のオイル含有率)
セパレータの電極材料に対向する部分を短冊状に加工してサンプル(以下、サンプルBと称する)を作製する。リブを有するセパレータでは、リブを含まないように、ベース部を短冊状に加工してサンプルBを作製する。
【0074】
サンプルBの約0.5gを採取し、正確に秤量し、初期のサンプルの質量(m0)を求める。秤量したサンプルBを、適当な大きさのガラス製ビーカーに入れ、n-ヘキサン50mLを加える。次いで、ビーカーごと、サンプルに約30分間、超音波を付与することにより、サンプルB中に含まれるオイル分をn-ヘキサン中に溶出させる。次いで、n-ヘキサンからサンプルを取り出し、大気中、室温(20℃以上35℃以下の温度)で乾燥させた後、秤量することにより、オイル除去後のサンプルの質量(m1)を求める。そして、下記式により、オイルの含有率を算出する。10個のサンプルBについてオイルの含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中のオイルの含有率とする。
オイルの含有率(質量%)=(m0-m1)/m0×100
【0075】
(セパレータ中の無機粒子の含有率)
上記と同様に作製したサンプルBの一部を採取し、正確に秤量した後、白金坩堝中に入れ、ブンゼンバーナーで白煙が出なくなるまで加熱する。次に、得られるサンプルを、電気炉(酸素気流中、550℃±10℃)で、約1時間加熱して灰化し、灰化物を秤量する。サンプルBの質量に占める灰化物の質量の比率(百分率)を算出し、上記の無機粒子の含有率(質量%)とする。10個のサンプルBについて無機粒子の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中の無機粒子の含有率とする。
【0076】
(セパレータ中の浸透剤の含有率)
上記と同様に作製したサンプルBの一部を採取し、正確に秤量した後、室温(20℃以上35℃以下の温度)で大気圧より低い減圧環境下で、12時間以上乾燥させる。乾燥物を白金セルに入れて、熱重量測定装置にセットし、昇温速度10K/分で、室温から800℃±1℃まで昇温する。室温から250℃±1℃まで昇温させたときの重量減少量を浸透剤の質量とし、サンプルBの質量に占める浸透剤の質量の比率(百分率)を算出し、上記の浸透剤の含有率(質量%)とする。熱重量測定装置としては、T.A.インスツルメント社製のQ5000IRが使用される。10個のサンプルBについて浸透剤の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中の浸透剤の含有率とする。
【0077】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極集電体と、負極電極材料とで構成されている。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いた部分である。なお、負極板には、上述のような貼付部材が貼り付けられている場合がある。この場合、貼付部材は、負極板に含まれる。負極板が貼付部材を含む場合には、負極電極材料は、負極板から負極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0078】
負極集電体は、正極集電体の場合と同様にして形成できる。正極集電体および負極集電体の少なくとも一方が、エキスパンド加工により形成された集電体であってもよい。
【0079】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は1層であってもよく、複数層でもよい。
【0080】
負極板に含まれる負極電極材料は、硫酸バリウム粒子を含んでいる。負極電極材料は、通常、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでおり、有機防縮剤、炭素質材料などを含んでもよい。負極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤(補強材など)を含んでもよい。
【0081】
硫酸バリウム粒子の(D90-D50)/(D50-D10)で表される粗大粒子頻度は、3.23以下である。最大粒子頻度が3.23を超えると、IS寿命性能の向上効果がほとんど得られない。また、浅い放電を行った後の充電特性が低下したり、暗電流放電後の回復性が低下したりする場合がある。より高いIS寿命性能が得られる観点からは、最大粒子頻度は3.20以下が好ましく、3.18以下がより好ましい。最大粒子頻度は小さいほど、IS寿命性能が高くなる傾向があるため、最大粒子頻度を、3以下や2.90以下にしてもよく、2.75以下にしてもよい。最大粒子頻度を小さくすることは技術的に難易度が高いため、最大粒子頻度の下限は特に制限されず、例えば、1.5以上であってもよい。
【0082】
負極電極材料において、硫酸バリウム粒子のD50(平均粒子径)は、1μm以下であり、0.7μm以下であってもよく、0.4μm以下であってもよい。D50がこのような範囲である場合、硫酸バリウム粒子を核として硫酸鉛が成長し易いことで粗大粒子頻度をほどよい範囲に調節し易い。加えて、硫酸バリウム粒子の凝集を抑制し易く、取り扱い性を向上できる。硫酸バリウム粒子の平均粒子径は、例えば、0.01μm以上である。
【0083】
負極電極材料において、硫酸バリウム粒子のD90は、2.5μm以下であってもよく、2.0μm以下であってもよく、1.7μm以下であってもよい。D90がこのような範囲である場合、粗大粒子頻度を小さくし易い。また、硫酸バリウム粒子のD90は、1.0μm以上であってよい。
【0084】
負極電極材料において、硫酸バリウム粒子のD10は、0.25μm以下であってもよく、0.24μm以下であってもよく、0.22μm以下であってもよい。D10がこのような範囲である場合、粗大粒子頻度を適度な範囲に調節し易い。また、硫酸バリウム粒子のD10は、0.01μm以上であってよい。
【0085】
負極電極材料中の硫酸バリウム粒子の含有量は、例えば、0.1質量%以上であり、好ましくは0.5質量%以上または1質量%以上である。硫酸バリウム粒子の含有量がこのような範囲である場合、放電時に硫酸鉛の核となる硫酸バリウムが適度に存在することになるため、より均一な放電反応が進行し易い。また、負極電極材料中の硫酸バリウム粒子の含有量は、例えば、7.5質量%以下であり、好ましくは5.3質量%以下である。この場合、高い初期容量を確保することができる。
【0086】
負極電極材料中の硫酸バリウム粒子の含有量は、0.1質量%以上7.5質量%以下(または5.3質量%以下)、0.5質量%以上7.5質量%以下(または5.3質量%以下)、あるいは1質量%以上7.5質量%以下(または5.3質量%以下)であってもよい。
【0087】
有機防縮剤としては、リグニン、リグニンスルホン酸、合成有機防縮剤(フェノール化合物のホルムアルデヒド縮合物など)などが挙げられる。負極電極材料は、有機防縮剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0088】
負極電極材料中の有機防縮剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上である。有機防縮剤の含有率は、例えば、1.2質量%以下である。
【0089】
炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛など)、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0090】
負極電極材料中の炭素質材料の含有率は、例えば、0.1質量%以上である。炭素質材料の含有率は、例えば、3.5質量%以下であってもよい。
【0091】
補強材としては、例えば、繊維(無機繊維、有機繊維など)が挙げられる。有機繊維を構成する樹脂(または高分子)としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂など)、ポリエステル系樹脂(ポリアルキレンアリーレート(ポリエチレンテレフタレートなど)を含む)、およびセルロース類(セルロース、セルロース誘導体(セルロースエーテル、セルロースエステルなど)など)からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。セルロース類には、レーヨンも含まれる。
【0092】
負極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.03質量%以上である。また、負極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.6質量%以下である。
【0093】
(負極電極材料またはその構成成分の分析)
以下、負極電極材料中の有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウム粒子、および補強材の定量方法、および硫酸バリウム粒子のサイズの計測について記載する。負極電極材料の構成成分の定量分析は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板から採取した負極電極材料を用いて行われる。
【0094】
負極電極材料は、次の手順で負極板から回収される。まず、満充電状態の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に、負極板に貼付部材が含まれる場合には、剥離により負極板から貼付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離してすることによりサンプル(以下、サンプルCと称する)を得る。サンプルCは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
【0095】
《有機防縮剤の定量》
粉砕されたサンプルCを1mol/LのNaOH水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。抽出された有機防縮剤を含むNaOH水溶液から不溶成分を濾過で除き、濾液(以下、濾液Dとも称する。)回収する。
【0096】
濾液Dの所定量を測り取り、脱塩した後、濃縮し、乾燥すれば、有機防縮剤の粉末(以下、サンプルEとも称する。)が得られる。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、濾液Dをイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、濾液Dを透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行われる。
【0097】
サンプルEの赤外分光スペクトル、サンプルEを蒸留水等に溶解して得られる溶液の紫外可視吸収スペクトル、サンプルFを重水等の溶媒に溶解して得られる溶液のNMRスペクトル、または物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC-MSなどから得た情報を組み合わせて、有機防縮剤を特定する。
【0098】
上記濾液Dの紫外可視吸収スペクトルを測定する。スペクトル強度と予め作成した検量線と測り取った濾液Dの量とサンプルCの質量とから、負極電極材料中の有機防縮剤の含有率を定量する。分析対象の有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができず、同一の有機防縮剤の検量線を使用できない場合は、分析対象の有機防縮剤と類似の紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、NMRスペクトルなどを示す、入手可能な有機防縮剤を使用して検量線を作成する。
【0099】
《炭素質材料、硫酸バリウム粒子、および補強材の定量》
粉砕されたサンプルC10gに対し、20質量%濃度の硝酸を50mL加え、約20分加熱し、鉛成分を鉛イオンとして溶解させる。次に、得られた溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0100】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から補強材を回収する。補強材を、水洗および乾燥し、質量を測定する。乾燥物の質量がサンプルCの質量に占める比率(百分率)を求める。この比率が負極電極材料中の補強材の量に相当する。
【0101】
補強材を除去した後の分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルターを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルターを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。得られる試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料(以下、サンプルFとも称する)である。乾燥後のサンプルFとメンブレンフィルターとの合計質量からメンブレンフィルターの質量を差し引いて、サンプルFの質量(M)を測定する。その後、乾燥後のサンプルFをメンブレンフィルターとともに坩堝に入れ、1300℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(M)を求める。質量Mから質量Mを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0102】
《硫酸バリウム粒子の粒子径》
サンプルFの所定量を坩堝に入れ、酸素雰囲気下、500℃で加熱することにより炭素質材料を二酸化炭素に変換して除去する。これにより、残渣として硫酸バリウムを回収する。回収された硫酸バリウム(サンプルG)を用いて、硫酸バリウム粒子の体積基準の粒度分布を、レーザー回折式の粒度分布測定装置により測定する。レーザー回折式の粒度分布測定装置としては、Malvern Panalytical社製のマスターサイザー3000を用いる。硫酸バリウム粒子の平均粒子径は、サンプルGをヘキサメタリン酸ナトリウム(NaHMP)水溶液(NaHMPの濃度:0.05質量%)中に添加し、1分間の超音波分散を行うことにより得られた分散液を用いて測定される。得られる粒度分布から、D10、D50およびD90を求める。これらの値から、上記式を用いて最大粒子頻度が求められる。
【0103】
(負極板の製造方法)
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉、硫酸バリウム粉末、有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。例えば、硫酸バリウム粉末を分級するなどして、粒子径の大きな硫酸バリウム粒子および粒子径の小さな硫酸バリウム粒子を除去した硫酸バリウム粉末を原料に用いると、負極電極材料中の硫酸バリウム粒子の最大粒子頻度を小さくすることができる。また、硫酸バリウム粉末を合成する場合には、反応条件を調節して、粉末の粒子径および粒子径分布を調節してもよい。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0104】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0105】
(正極板)
正極板としては、ペースト式正極板が用いられる。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを備える。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いた部分である。なお、極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は極板と一体として使用されるため、極板に含まれる。正極板が貼付部材を含む場合には、正極電極材料は、正極板から正極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0106】
正極板に含まれる正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0107】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は1層であってもよく、複数層でもよい。
【0108】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤(補強材など)を含んでもよい。
【0109】
補強材としては、例えば、繊維(無機繊維、有機繊維(負極電極材料の補強材について記載した樹脂で構成された有機繊維など)など)が挙げられる。
【0110】
正極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.03質量%以上である。また、正極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.5質量%以下である。
【0111】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、アンチモン化合物、および必要に応じて他の添加剤(補強材など)に、水および硫酸を加えて混練することで調製される。
【0112】
未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0113】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液である。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。
【0114】
電解液は、さらに、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンなどを含んでもよい。
【0115】
電解液の20℃における比重は、例えば、1.10以上である。電解液の20℃における比重は、1.35以下であってもよい。なお、これらの比重は、満充電状態の鉛蓄電池の電解液についての値である。
【0116】
本明細書中に記載した事項は、任意に組み合わせることができる。
【0117】
以下、IS寿命性能の評価方法について説明する。
SBA S 0101:2014に基づき、下記の手順でIS寿命試験を行う。
a)全試験期間を通して、蓄電池を25±2℃の気相中に置く。蓄電池近傍の風速は、2.0m/s以下とする。
b)蓄電池を寿命試験装置に接続し、次に示す放電(放電1および放電2)および充電を行う。この放電および充電を、放電および充電のサイクルの1回とする。そして、放電および充電のサイクルを連続的に繰り返す。
放電:放電1 放電電流I±1Aで59.0±0.2秒(ここで、Iは、次の換算式を用いて算出し、小数点以下第1位で四捨五入する。I=18.3×I20
放電2 放電電流300±1Aで1.0±0.2秒
充電:充電電圧14.00±0.03V(制限電流100.0±0.5A)で60.0±0.3秒
サイクルの3600回ごとに40~48時間放置した後、再びサイクルを開始する。保水は、サイクルの30000回までは行わない。
放電2の放電終期電圧(端子電圧)を測定し、7.2Vに達するまでのサイクル数を求め、IS寿命性能の指標とする。
【0118】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0119】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0120】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0121】
《鉛蓄電池E1~E54およびC1~C36》
下記の手順で各鉛蓄電池を作製した。
(1)セパレータの作製
ポリエチレン100質量部と、シリカ粒子約160質量部と、造孔剤としてのパラフィン系オイル約80質量部と、2質量部の浸透剤とを含む樹脂組成物を、シート状に押出成形し、延伸処理した後、造孔剤の一部を除去することによって、片面にリブを有する微多孔膜を作製した。このとき、既述の手順で求められるセパレータの結晶化度が、表1~表3に示す値となるように、押出成形されたシートの冷却速度および延伸処理の倍率を調節した。また、既述の手順で求められる第1細孔容積Vtおよびオイル含有率が表1~表3に示す値となるように、ポリエチレンに対するシリカ粒子および造孔剤の量を調節するとともに、造孔剤の除去量を調節した。
【0122】
既述の手順で求められるシリカ粒子の含有率は、約60質量%であった。既述の手順で求められるリブの高さは0.6mmであった。既述の手順で求められるセパレータの厚さ(ベース部の厚さ)は0.2mmであった。
【0123】
次に、シート状の微多孔膜を外面にリブが配置されるように二つ折りにして袋を形成し、重ね合わせた両端部を圧着して、袋状セパレータを得た。
【0124】
なお、セパレータの結晶化度、第1細孔容積Vt、オイル含有率、シリカ粒子の含有率、ベース部の厚さ、およびリブの高さは、鉛蓄電池の作製前のセパレータについて求めた値であるが、作製後の鉛蓄電池から取り出したセパレータについて既述の手順で測定した値とほぼ同じである。
【0125】
(2)正極板の作製
鉛酸化物、補強材(合成樹脂繊維)、水および硫酸を混合して正極ペーストを調製した。正極ペーストを、アンチモンを含まないPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成および乾燥を行うことによって、幅100mm、高さ115mm、厚さ1.6mmの未化成の正極板を得た。
【0126】
(3)負極板の作製
鉛酸化物、カーボンブラック、硫酸バリウム粉末、リグニン、補強材(合成樹脂繊維)、水および硫酸を混合して負極ペーストを調製した。硫酸バリウム粉末としては、平均粒子径D50が0.6μmであり、必要に応じて、分級によって粒子径が小さな粒子および粒子径が大きな粒子を除去した粉末を用いた。除去する粒子の粒子径を調節することによって、最大粒子頻度を調節した。
【0127】
負極ペーストをPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成、乾燥して、未化成の負極板(幅100mm、高さ115mm、厚さ1.2mm)を得た。カーボンブラック、リグニンおよび合成樹脂繊維の量は、既化成の満充電の状態で測定したときに、それぞれ0.3質量%、0.1質量%および0.1質量%になるように調節した。分散液の添加量は、鉛酸化物を主成分とする粉末100質量部に対する硫酸バリウムの量が2.1質量部となるように調節した。
【0128】
(4)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、袋状セパレータに収容し、正極板と積層し、未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。
【0129】
正極板の耳部同士および負極板の耳部同士をそれぞれキャストオンストラップ方式で正極棚部および負極棚部と溶接した。極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、定格電圧12Vおよび定格容量が30Ah(5時間率容量(定格容量に記載のAhの数値の1/5の電流(A)で放電するときの容量))の液式の鉛蓄電池を組み立てた。なお、電槽内では6個の極板群が直列に接続されている。
【0130】
電解液としては、硫酸水溶液を用いた。化成後の電解液の20℃における比重は1.285であった。
【0131】
(5)評価
鉛蓄電池E1のセパレータについて、既述の手順で測定されたXRDスペクトルを図2に示す。図2に示されるように、ポリエチレンの結晶質領域の(110)面に相当する回折ピークが、2θ=21.5°~22.5°の範囲に観察され、(200)面に相当する回折ピークが、2θ=23°~24.5°の範囲に観察された。そして、非晶質領域によるハローが2θ=17°~27°の広い範囲にブロードに観察された。
【0132】
得られた鉛蓄電池を用いて、既述の手順でIS寿命性能を評価するとともに、負極電極材料中の硫酸バリウム粒子の最大粒子頻度を既述の手順で測定した。IS寿命性能は、鉛蓄電池C1のサイクル数を100(%)としたときの各鉛蓄電池のサイクル数の比率(%)によって評価した。
【0133】
IS寿命性能の評価結果を表1~表3に示す。表中のE1~E54は実施例である。C1~C36は比較例である。
【0134】
【表1】
【0135】
【表2】
【0136】
【表3】
【0137】
表1に示されるように、セパレータの結晶化度が20%未満の場合、第1細孔容積Vtが変化してもIS寿命性能は総じて低く、Vtが大きくなるほどIS寿命性能は低くなった。また、負極電極材料中の硫酸バリウム粒子の最大粒子頻度が大きくなるほどIS寿命性能の低下は顕著であった。
【0138】
それに対し、表2および表3では、セパレータの結晶化度が20%以上になると、Vtが0.8cm/g以上の場合には、硫酸バリウム粒子の最大粒子頻度が大きくなっても、高いIS寿命性能が得られた。表2および表3からは最大粒子頻度が3.23以下であれば、高いIS寿命性能が確保でき、最大粒子頻度が小さくなるほど、IS寿命性能は高くなる傾向があることが分かる。また、セパレータの結晶化度が高くなるほど、高いIS寿命性能が得られる傾向があることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明の上記側面に係る鉛蓄電池は、例えば、IS用途(アイドリングストップシステム車用の鉛蓄電池など)、様々な車両(自動車、バイクなど)の始動用電源などに適している。また、鉛蓄電池は、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源にも好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示である。本発明の上記側面に係る鉛蓄電池の用途は、これらに限定されない。
【符号の説明】
【0140】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
図1
図2