(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】神経再生誘導チューブ
(51)【国際特許分類】
A61F 2/04 20130101AFI20250408BHJP
A61F 2/02 20060101ALI20250408BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20250408BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20250408BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20250408BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
A61F2/04
A61F2/02
A61L27/18
A61L27/38 100
A61L27/50 100
A61L27/58
(21)【出願番号】P 2021518685
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010026
(87)【国際公開番号】W WO2021187354
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020049014
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】張本 乾一
(72)【発明者】
【氏名】坂口 博一
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0118456(US,A1)
【文献】特開2011-206203(JP,A)
【文献】特許第6397887(JP,B2)
【文献】特表2015-527895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/02
A61L 27/18
A61L 27/38
A61L 27/50
A61L 27/58
C08G 63/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の筒状体、ならびに、前記筒状体を連結する連結層を有する、神経再生誘導チューブであって、
前記
神経再生誘導チューブの長軸方向に沿った方向の前記筒状体の長さが、1.0mm~10mmであり、
前記連結層が、ヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーを含み、
前記ポリエステルコポリマーが、下記条件(A)および条件(B)を満たす、神経再生誘導チューブ:
条件(A)R値が0.45以上0.99以下である;
R値=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ポリエステルコポリマー中の、ヒドロキシカルボン酸残基のモル分率(%)
[B]:ポリエステルコポリマー中の、ラクトン残基のモル分率(%)
[AB]:ポリエステルコポリマー中の、ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
条件(B)ヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満である。
【請求項2】
隣り合う前記筒状体の間隔が、1mm以下である、請求項1に記載の神経再生誘導チューブ。
【請求項3】
前記筒状体および前記連結層が接しており、前記連結層が、前記筒状体の外側に配置されている、請求項1または2に記載の神経再生誘導チューブ。
【請求項4】
前記筒状体および前記連結層が接しており、前記連結層が、前記筒状体の内側に配置されている、請求項1~3のいずれかに記載の神経再生誘導チューブ。
【請求項5】
前記筒状体および前記連結層が接しており、前記連結層が、隣接する筒状体のうち、一方の筒状体(筒状体A)の内側に配置され、他方の筒状体(筒状体B)の外側に配置されている、請求項1~3のいずれかに記載の神経再生誘導チューブ。
【請求項6】
前記筒状体のヤング率が6.3MPa以上であり、前記連結層のヤング率が6.3MPa未満である、請求項1~5のいずれかに記載の神経再生誘導チューブ。
【請求項7】
前記連結層が、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を含み、
前記ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体が、下記条件(C)および条件(D)を満たす、請求項1~6のいずれかに記載の神経再生誘導チューブ:
条件(C)R値が0.45以上0.99以下である;
R値=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ジラクチド残基のモル分率(%)
[B]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ε-カプロラクトン残基のモル分率(%)
[AB]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
条件(D)ジラクチド残基またはε-カプロラクトン残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満である。
【請求項8】
前記筒状体が、生体吸収性ポリエステルを含む、請求項1~7のいずれかに記載の神経再生誘導チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具用筒状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
人体の組織に欠損や障害が生じた場合において、その治療のために本来の組織の代替や支持を目的として、人体に無害な材料を用いて作成された成形体を移植するインプラント治療が行われている。内部が中空である筒状の成形体はインプラント治療でよく用いられている形状であり、組織を囲って保護したり、中空部に薬剤を充填して徐放したり、血管や神経の様な管状体の組織の代替としたりと、様々な医療用途で用いられている。神経再生を誘導して治療する筒状の成形体として、神経再生誘導チューブが知られている。神経再生誘導チューブを用いることによって、神経再生の障害となる結合組織が損傷部位に侵入することが抑制される。
【0003】
図1は、従来の神経再生誘導チューブの使用例を説明する図である。
図1に示す神経再生誘導チューブ10には、一端側に神経細胞200およびシュワン細胞210が配置される。神経再生誘導チューブ10の内部には足場材料11が充填される。神経再生誘導チューブ10では、内部においてシュワン細胞211が増殖する。この増殖したシュワン細胞211の内部を、軸索201が延びていく。この間、神経再生誘導チューブ10により結合組織の進入が抑制されることにより、軸索201が伸長しようとする経路が阻害されることが抑制される。このようにして、神経再生誘導チューブ10を用いた神経再生が進んでいく。
【0004】
ところで、神経再生誘導チューブはチューブ内で再生する神経を保護するため、チューブの強度を向上させる形状が研究されてきた。例えば特許文献1では複数本の有機高分子繊維から形成される糸条を、組角度が50°~87.5°になるようにして編組した組紐の単層構造からなる管状体が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
チューブの強度が高いと、チューブの短軸を押しつぶす圧力に対して強い抵抗を発揮することができ内部を保護することができる。しかし、チューブの強度が高すぎると、湾曲や屈折の変形に対して柔軟性が不十分となり、移植部位周辺の組織を障害してしまうおそれがある。一方、単純にチューブのヤング率を調整して柔軟性を付加した場合、湾曲する際にキンクが発生し、チューブの閉塞や内部の組織を障害してしまうことが問題となっている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、湾曲や屈折による外力が発生した場合、チューブの耐圧性を維持したまま、湾曲や屈折に対して柔軟に変形し、キンク発生を抑制できる医療器具用筒状成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、以下である。
【0009】
複数の筒状体、ならびに、前記筒状体を連結する連結層を有する、医療器具用筒状成形体。
【0010】
前記の成形体を含む、医療器具。
【0011】
前記の成形体を含む、神経再生誘導チューブ。
【発明の効果】
【0012】
本発明の医療器具用筒状成形体によれば、複数の筒状体を連結する柔軟な層により、湾曲や屈折に対して柔軟に変形し、キンク発生を抑制することができるという効果を奏する。本発明の医療器具用筒状成形体は、神経再生誘導チューブに好適に適用可能である。本発明の神経再生誘導チューブは、例えば筋肉組織、維管束組織、神経組織、脊髄組織および皮膚組織等の再生に、特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、従来の神経再生誘導チューブの使用例を説明する図である。
【
図2】筒状体および連結層が接しており、連結層が筒状体の外側に配置されている態様の模式図。
【
図3】筒状体および連結層が接しており、連結層が筒状体の内側に配置されている態様の模式図。
【
図4】筒状体および連結層が接しており、連結層が筒状体の外側に配置されている態様の模式図。
【
図5】筒状体および連結層が接しており、連結層が筒状体の内側に配置されている態様の模式図。
【
図6】筒状体および連結層が接しており、連結層が前記筒状体Aの内側および筒状体Bの外側に配置されている態様の模式図。
【
図7】実施例および比較例の医療器具用筒状成形体を測定例6において、60°角に折り曲げた状態の写真。
【
図8】実施例2の医療器具用筒状成形体の耐キンク性を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面とともに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ、および位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。すなわち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、および位置関係のみに限定されるものではない。さらに、図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付している。
【0015】
本発明の医療器具用筒状成形体は、複数の筒状体、ならびに、前記筒状体を連結する連結層を有する。つまり本発明の成形体は、少なくとも二つの筒状体を有する。隣り合う2つの筒状体が連結層により連結されている部分を連結部と呼ぶ。本発明の医療器具用筒状成形体は、少なくとも1つの連結部を有する。筒状体の数は2つに限定されるものではなく、連結部の数も1つに限定されるものではない。つまり本発明の成形体は、筒状体の数や連結部の数は特に限定されるものではなく、例えば、3つの筒状体および2つの連結部を有していても構わない。
【0016】
本発明の医療器具用筒状成形体は、硬い筒状体を有することで耐圧性を発揮し、柔らかい連結層を有することによって湾曲や屈折に対して柔軟性や耐キンク性を発揮することができる。隣り合う筒状体の間隔が大きすぎると、十分に耐圧性を発揮することができなくなるため、隣り合う筒状体の間隔は1mm以下が好ましい。なお、隣り合う筒状体の間隔の下限は、特に限定されないが、間隔がない態様、つまり間隔が0mmである。
【0017】
隣り合う筒状体の間隔とは、成形体に外力が加わらず、連結層が初期状態に対して伸び縮みがない状態において、一方の筒状体の端部から、当該端部に近接する他方の筒状体の端部までの距離であり、ノギスなどによって測定できる。また、一方の筒状体が他方の筒状体の内部に挿入する構造の成形体の場合、つまり後述するように、連結部において一方の筒状体Aの内径Aが、他方の筒状体Bの外径Bよりも大きく、筒状体Aの内側に筒状体Bが挿入している態様の場合、隣り合う筒状体の間隔がない態様であるため、隣り合う筒状体の間隔は0mmとなる。ここで初期状態とは、成形体作成後に成形体の長軸方向に一度も外力が加わっていない状態のことである。
【0018】
また、筒状体の長さが短すぎても、耐圧性を発揮することができなくなるため、成形体の長軸方向に沿った方向における筒状体の長さは1.0mm以上が好ましい。一方、筒状体の長さが長いと筒状体の柔軟性が十分に発揮できなくなるため、成形体の長軸方向に沿った方向における筒状体の長さは、10mm以下が好ましい。
【0019】
そして本発明の医療器具用筒状成形体は、複数の筒状体が連結層により連結されている。
図2に示すように、連結層が、筒状体の外側に配置されている態様、
図3に示すように、連結層が、筒状体の内側に配置されている態様のいずれも好ましい。
【0020】
本発明の医療器具用筒状成形体は、
図4~6に示すように、前記連結部において、一方の筒状体Aの内径が、一方の筒状体Bの外径よりも大きく、筒状体Aの内側に筒状体Bが挿入しうるように連結部が構成されている態様とすることができる。ここで、筒状体の内径とは、筒状体の短軸の垂直断面の内円の直径である。また、筒状体の外径とは、筒状体の短軸の垂直断面の外円の直径である。この場合、
図4に示すように、筒状体および前記連結層が接しており、連結層が筒状体の外側に配置されている態様、
図5に示すように、筒状体および前記連結層が接しており、連結層が筒状体の内側に配置されている態様、
図6に示すように、筒状体および前記連結層が接しており、連結層が隣接する筒状体のうち、一方の筒状体(筒状体A)の内側に配置され、他方の筒状体(筒状体B)の外側に配置されている態様のいずれも好ましい。
【0021】
この態様においては、成形体の両端から押し込んだ場合に、筒状体Aの内側に筒状体Bが挿入しうる。連結部において、筒状体Aの内側に筒状体Bが挿入されていてもよいし、挿入されていなくてもよい。
【0022】
また本発明の医療器具用筒状成形体は、複数の筒状体が連結層によって連結されることにより、成形体全体の形状が筒状となる。
【0023】
本発明の医療器具用筒状成形体は、神経再生誘導チューブなどの医療器具として用いられる場合、生体内外に留置されるものであるため、圧迫、屈折や湾曲などの変形によって外力が成形体に加わることが想定される。そのため、筒状成形体を形成する筒状体の内部を圧迫から保護するためには、筒状体のヤング率が6.3MPa以上であることが好ましい。留置箇所周辺に骨などの硬組織がある場合を想定すると、筒状体のヤング率は10MPa以上とするのがさらに好ましい。一方、骨や歯などの硬組織より軟らかい組織(例えば筋膜や腱、靱帯や神経、筋肉など)の再生誘導に用いる場合、硬すぎると痛みが発生する場合があることから、筒状体のヤング率は100GPa以下が好ましく、10GPaがさらに好ましく、1GPa以下がより更に好ましい。
【0024】
また、筒状体を連結する連結層のヤング率が6.3MPa未満であることが好ましい。このようにすることで、筒状成形体が屈折や湾曲などの変形に対して柔軟性を発揮して追随して変形することが可能となり、筒状成形体のキンク発生を抑制することができる。これによって、筒状体内の組織を圧迫から保護することができるため好ましい。他方、連結層のヤング率が低すぎる場合は連結強度が不十分となり、筒状成形体の屈折や湾曲時に筒状体の乖離が生じたり、連結部においてつぶれやキンクが発生したりするため、連結層のヤング率は、限定されないものの、1MPa以上が好ましい。
【0025】
本発明の医療器具用筒状成形体は、医療器具、特には神経再生誘導チューブに好適に用いることができる。そこで、以下において、本発明の成形体を用いた神経再生誘導チューブを例にとって詳細を説明する。
【0026】
(実施の形態)
本発明の実施の形態にかかる神経再生誘導チューブは、複数の筒状体と、該複数の筒状体を連結する連結層で構成される。
【0027】
連結部の隙間から繊維組織または細胞が侵入しないよう、連結層は連結部全てを覆うことが好ましく、医療器具用筒状成形体の全部を覆っていることがより好ましい。
【0028】
複数の筒状体が連結層で連結された構造を有することで、連結部の両側の筒状体が可動となり、柔軟性やキンク発生抑制が可能となる。医療器具用筒状成形体に含まれる連結部は1個以上が好ましく、十分なキンク発生抑制を発揮するためには4個以上がより好ましい。チューブの耐久度が低下する観点から連結部は100個以下が好ましい。
【0029】
医療器具用筒状成形体において、隣接する筒状体のうち、一方の筒状体Aの内径Aが、他方の筒状体Bの外径Bよりも大きく、筒状体Aの内側に筒状体Bが挿入しうるように連結部が構成されている態様は、成形体の長軸方向に圧縮する圧力が発生した場合、筒状体Bが筒状体Aに挿入されることで、圧力を緩衝できるので、好ましい。筒状体Bが筒状体Aに挿入されている部分の長さをXとする。筒状体Aのうち、筒状体Bに挿入されていない長さをYとする。筒状体Bのうち、筒状体Aに挿入していない長さをZとする。筒状体中の筒状体Bと筒状体Aとの中心にズレが生じて、筒状体Bが筒状体Aに挿入されないことを防ぐために、Xは0より大きいことが好ましい。また、筒状体A内を筒状体Bが移動する部分が緩衝領域となるため、各連結部におけるYとZの小さい方の値の総和が、医療器具用筒状成形体の長さの5%以上であることが好ましく、50%以下が好ましい。
【0030】
医療器具用筒状成形体を構成する複数の筒状体の長さは、一様であっても良く、異なる長さの筒状体を用いてもよい。医療器具用筒状成形体の湾曲時に柔軟さを発揮し、キンク発生を抑制する観点から、筒状体の長さは10mm以下が好ましい。連結層による連結強度を強める観点から、筒状体の長さは1.0mm以上が好ましい。
【0031】
本発明の医療器具用筒状成形体の内径は、使用する部位に合わせて選択するのが好ましく、例えば神経再生誘導チューブならば、20mm~0.5mmが好ましい。また医療器具用筒状成形体の両端の内径は同じであることに限定されない。両端の内径に差があることで、中枢側と抹消側で太さの違う神経を接続させるのが容易であり、細い抹消側の神経が脱落するのを抑制することができる。本発明の成形体の一方の端の内径と他方の端の内径の差、つまり両端の内径の差は、0mm以上20mm以下であることが好ましい。
【0032】
医療器具用筒状成形体の強度が高いほど、突出事故を抑制できるので、筒状体のヤング率は6.3MPa以上であることが好ましい。一方、医療器具用筒状成形体の柔軟性は、連結層によって発揮されるため、連結層のヤング率は6.3MPa未満であることが好ましい。筒状体のヤング率は筒状の成形体から該当する部分を切り出して、後述する引っ張り試験によって測定することができる。連結層のヤング率は、後述の測定例8に記載のように、筒状成形体を引っ張り試験することで測定することができる。また、別の方法として、後述の測定例3に記載のように連結層に用いるポリマーを溶媒に溶解してフィルムを製造し、そのフィルムを引っ張り試験することでも連結層のヤング率を測定できる。
【0033】
本発明の医療器具用筒状成形体は、湾曲や屈折により外力が加わった際に、柔らかい連結層が伸びたり縮んだりすることで柔軟性やキンク発生抑制が可能となるため、変形後に元の長さに自発的に復元することが望ましい。そのため連結層には復元性を持つ材料を用いることが好ましい。復元性は後述の測定例5のように仕事量保存率を求めることで定量的に評価することができる。仕事量保存率とは、筒状成形体の長手方向に引張り応力を加えて、初期長に対して100%の引張ひずみを生じさせる操作を10回繰り返した際の、初回操作時の仕事量に対する10回目の操作時の仕事量の割合であり、具体的には後述する測定例5に記載の方法により算出できるものである。連結層に用いる材料の仕事量保存率が100%に近いほど、圧力緩衝後に成形体が復長しやすい。筋肉の近位に用いる成形体は頻繁に変形を受けるため、本発明の医療器具用筒状成形体の仕事量保存率は55%以上が好ましく、関節など屈折や湾曲によって頻繁に大きな変形が起きる部位に用いる筒状体の仕事量保存率は60%以上がより好ましい。
【0034】
引張強さは、筒状成形体の耐破断強度に直結する因子である。筋肉の膨張や収縮等の変形によって外力を受ける部位に用いることを想定すると、筒状成形体の引張強さは5MPa以上であることが好ましい。屈折や湾曲などのより激しい変形が生じる部位に用いる筒状成形体は、引張強さは20MPa以上であることが好ましい。
【0035】
破断伸度は筒状成形体の耐破断強度を示す因子である。筋肉の膨張や収縮、振動等によって外力を受ける部位に用いることを想定すると、筒状成形体の破断伸度は、200%以上が好ましい。屈折や湾曲などのより激しい変形が生じる部位に用いる筒状成形体は、破断伸度は500%以上であることが好ましい。関節など屈折や湾曲によって特に大きな変形が起きる部位に用いる筒状成形体では、破断伸度は1000%以上であることがさらに好ましい。なお、破断伸度は、JIS K6251(2010)に従って測定した値(JIS中では「切断時伸び」と表記される)であり、具体的には後述する引張試験により測定するものとする。
【0036】
また、本発明の医療器具用筒状成形体は、生体内外に留置して用いられるものであるため、筋肉や関節の動きよって繰り返し力を受け、変形と復元を繰り返すことが想定される。そのため、本成形体は繰り返す変形に対して耐久性が要求される。耐久性は前記仕事保存率を測定する際に発生した永久歪みを測定することで定量的に評価することができる。筋肉の近位に用いる筒状体は頻繁に変形を受けるため、筒状成形体は永久歪みが20%以下であり、関節など屈折や湾曲によって頻繁に大きな変形が起きる部位に用いる筒状成形体の永久歪みは15%以下が好ましい。
【0037】
本発明の医療器具用筒状成形体は、生体吸収性ポリエステルを含むことにより生体吸収性を発現することができるので好ましい。各々の用途において必要とされる程度の生体吸収性が発現する限り、その配合率は限定されないが、一般的には生体吸収性ポリエステルを筒状成形体の50重量%以上含むことが好ましく、80重量%以上含むことがより好ましい。生体に適用した際に完全に消失することが求められる場合には、生体吸収性ポリエステルのみからなることが好ましい。
【0038】
本発明の医療器具用筒状成形体が、生体吸収性ポリエステルを含むために、筒状成形体を構成する筒状体は、生体吸収性ポリエステルを含むことが好ましい。
【0039】
ここで、生体吸収性とは、生体内外に留置された後、加水分解反応や酵素反応によって自然に分解し、その分解物が代謝または排泄されることによって消失する性質である。このような生体吸収性ポリエステルとしては、ポリグリコール酸、ポリ乳酸(D、L、DL体)、ポリε-カプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリヒドロキシブチレート吉草酸、ポリオルソエステル、ポリヒドロキシバレリル酸、ポリヒドロキシヘキサン酸、ポリヒドロキシブタン酸、ポリコハク酸ブチレン、ポリブチレンサクシネート、ポリテレフタール酸トリメチレン、ポリヒドロキシアルカノエート、およびこれらの共重合体からなる群より選択されるポリエステルが挙げられる。なかでも、筒状体は、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体、およびポリグリコール酸とポリε-カプロラクトンとの共重合体のいずれかを含むことがさらに好ましい。
【0040】
好ましい態様において、連結層は、生体吸収性ポリエステルとして、ヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基から選択されるモノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーを含み、より好ましい態様において、ヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基の2種類のモノマー残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーを含む。ラクトンとは、ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシ基とカルボキシル基が分子内脱水縮合した環状化合物である。
【0041】
ここで、あるモノマー残基を「主構成単位」とする、とは、当該モノマー残基が、その他のモノマー残基を含めたポリマー全体の残基数の50モル%以上であることを意味する。また、2種類のモノマー残基を「主構成単位」とする、とは、当該2種類のモノマー残基数の和が、その他のモノマー残基を含めたポリマー全体の残基数の50モル%以上であり、かつ2種類のそれぞれの残基が、ポリマー全体の残基数の20モル%以上であることを意味する。
【0042】
例えば、ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基とを主構成単位とする、とは、ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基の残基数の和が、ポリマー全体の残基数の50モル%以上であり、かつヒドロキシカルボン酸残基がポリマー全体の残基数の20モル%以上であり、かつラクトン残基がポリマー全体の残基数の20モル%以上であることを意味する。各モノマー残基のモル分率は、核磁気共鳴(NMR)測定により、それぞれの残基に由来するシグナルの面積値より決定できる。例えば、ヒドロキシカルボン酸残基が乳酸残基、ラクトン残基がカプロラクトン残基である場合には、後述する測定例2に記載の方法で測定することができる。
【0043】
ヒドロキシカルボン酸残基を形成するためのモノマーとしては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸が特に好ましい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシヘプタン酸等が挙げられ、特に、乳酸、グリコール酸、ヒドロキシカプロン酸が好ましい。乳酸としては、L-乳酸、D-乳酸、およびそれらの混合体を用いることができる。得られるポリマーの物性や生体適合性の面からは乳酸を用いることが好ましく、特にL-乳酸を用いることがより好ましい。モノマーとして混合体を用いる場合、L体の含有率が85モル%以上であることが好ましく、95モル%以上である方がより好ましい。
【0044】
ヒドロキシカルボン酸残基を形成するためのモノマーとして、2分子のヒドロキシカルボン酸の互いのヒドロキシ基とカルボキシル基が脱水縮合した環状化合物であるラクチドを用いてもよい。ラクチドとしては、乳酸2分子が脱水縮合したジラクチドや、グリコール酸2分子が脱水縮合したグリコリド、テトラメチルグリコリドを用いることができる。
【0045】
ラクトン残基を形成するためのモノマーとしては、ε-カプロラクトン、ジオキセパノン、エチレンオキザラート、ジオキサノン、1、4-ジオキサン-2、3-ジオン、β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、β-プロピオラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、ピバロラクトンが挙げられる。
【0046】
また、以上例示したモノマーの誘導体を用いることもできる。
【0047】
なお、本明細書において、ポリエステルコポリマーに含まれる「モノマー残基」とは、原則として、当該モノマーを含む重合原液から得られたポリエステルコポリマーの化学構造中における、当該モノマーに由来する化学構造の反復単位を言う。例えば、乳酸(CH3CH(OH)COOH)と、ε-カプロラクトン(下記式)
【0048】
【0049】
とを重合して乳酸とカプロラクトンのコポリマーとした場合、下記式で表される単位
【0050】
【0051】
が乳酸モノマー残基であり、下記式で表される単位がε-カプロラクトンモノマー残基である。
【0052】
【0053】
なお、例外として、モノマーとしてラクチド等の2量体を用いる場合には、「モノマー残基」は当該2量体に由来する2回繰り返し構造のうちの1つを意味するものとする。例えば、ジラクチド(L-(-)-ラクチド:下記式)
【0054】
【0055】
とε-カプロラクトンとを重合した場合、コポリマーの化学構造には、ジラクチド残基として上記式(R1)に示される構造が2回繰り返された構造が形成されるが、この場合にはそのうち1つの乳酸単位を「モノマー残基」と捉え、ジラクチドに由来して「モノマー残基」、すなわち乳酸残基が2つ形成されたと考えるものとする。
【0056】
本発明に用いる生体吸収性ポリエステルの重量平均分子量は、ポリマー鎖が絡み合うことによる引張強さの向上効果を得るために、好ましくは10万以上である。上限は特に限定されないが、粘度の上昇による製造方法の問題および成形性の低下の点を考えると、好ましくは160万以下であり、より好ましくは80万以下、さらに好ましくは40万以下である。重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により求めることができ、具体的には後述する測定例1に記載の方法で求めるものとする。
【0057】
以下、本発明において特に好ましい生体吸収性ポリエステルである、ヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーについて説明する。
【0058】
当該ポリエステルコポリマーにおいて、ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基の和は、前述の定義から、その他のモノマー残基を含めたポリマー全体の50モル%以上であり、75モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましい。また、ヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基は、同じく前述の定義からそれぞれ20モル%以上であり、30モル%以上であることが好ましく、40モル%以上であることがより好ましい。ヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基の和がポリマー全体の100%である、すなわちヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基のみからなるポリマーは、特に好ましい態様として挙げられる。
【0059】
ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基のモル比は、一方が過剰に存在するとホモポリマー様の性質に近づくことから、好ましくは7/3から3/7であり、より好ましくは6/4から4/6である。
【0060】
また、ヒドロキシカルボン酸およびラクトンと共重合し得る別のモノマーをさらに共重合させることもできる。リンカーとして機能するモノマーを共重合させることは好ましい態様である。リンカーとして機能するモノマーとしては、主構成単位を構成するヒドロキシカルボン酸とは別のヒドロキシカルボン酸や、ジアルコール、ジカルボン酸、アミノ酸、ジアミン、ジイソシアネート、ジエポキシド等が挙げられる。なお、本明細書においては、ヒドロキシカルボン酸およびラクトン以外のモノマー単位を構成単位に含むことにより、一部にエステル結合以外の結合で連結された構成単位を含むコポリマーも含めて「ポリエステルコポリマー」と表記するものとする。
【0061】
当該ポリエステルコポリマーは、ヒドロキシカルボン酸残基を形成するモノマー(「モノマーA」とする)とラクトン残基を形成するモノマー(「モノマーB」とする)を等モルで共重合させた場合の各モノマーの初期重合速度をそれぞれVA、VBとしたとき、1.1≦VA/VB≦40を満たすものであることが好ましい。
【0062】
ここで、VA、VBは以下の方法で求められる。モノマーAとモノマーBを等モル混合し、必要に応じて溶媒、触媒を添加し、最終的に合成された、あるいは合成しようとするポリエステルコポリマーにおける後述するR値と誤差10%の範囲内で同じR値になるように温度等の条件を調整し重合反応を開始する。重合中の試料から定期的にサンプリングを行い、モノマーAとモノマーBの残量を測定する。残量は、例えば、クロマトグラフィーや核磁気共鳴(NMR)測定で測定する。仕込み量から残量を差し引くことで、重合反応に供されたモノマー量が求められる。サンプリング時間に対して重合反応に供されたモノマー量をプロットすると、その曲線の初期勾配がVA、VBである。
【0063】
このようなモノマーAとモノマーBとを反応させると、重合初期においてモノマーAが重合中のポリマー末端に結合する確率が高い。一方、モノマーAが消費され、反応液中のモノマーAの濃度が減少する重合後期においては、モノマーBが重合中のポリマー末端に結合する確率が高くなる。その結果、一方の末端においてモノマーA残基の割合が高く、他方の末端にかけてモノマーA残基の割合が徐々に減少するグラジエントポリマーが得られる。このようなグラジエントポリマーは、結晶性が低くなり、ヤング率上昇も抑えられる。こうしたグラジエント構造が形成されやすくするため、VA/VBは、1.3以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましい。一方、モノマーAとモノマーBの重合速度の差が大きすぎると、モノマーAのみが重合した後にモノマーBが重合したブロックポリマーに近い構造となり、結晶性が高くなってヤング率の上昇を招く場合があることから、VA/VBは30以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましく、10以下であることが一層好ましい。
【0064】
このようなモノマーAとモノマーBの好ましい組み合わせとしては、ジラクチドとε-カプロラクトン、グリコリドとε-カプロラクトン、ジラクチドとジオキセパノン、ジラクチドとδ-バレロラクトン、グリコリドとδ-バレロラクトンが挙げられる。
【0065】
また、連結層に含まれるポリエステルコポリマーは、下記条件(A)および条件(B)を満たすことが好ましい。ポリエステルコポリマー中のモル分率は、ポリエステルコポリマーを構成するモノマー残基全体100%に対する百分率である。
【0066】
条件(A)R値が0.45以上0.99以下である。
【0067】
R値=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ポリエステルコポリマー中の、ヒドロキシカルボン酸残基のモル分率(%)
[B]:ポリエステルコポリマー中の、ラクトン残基のモル分率(%)
[AB]:ポリエステルコポリマー中の、ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
条件(B)ヒドロキシカルボン酸残基またはラクトン残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満である。
【0068】
R値は、2種類のモノマー残基、すなわちヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基を主構成単位とするコポリマーにおける、モノマー残基の配列のランダム性を示す指標として用いられる。例えば、完全にモノマー配列がランダムなランダムコポリマーでは、R値は1となる。また、ブロックコポリマーではR値は0~0.44である。
【0069】
R値は核磁気共鳴(NMR)測定によって、隣り合う二つのモノマーの組み合わせ(A-A、B-B、A-B、B-A)の割合を定量することで決定できる。具体的には後述する測定例2に記載の方法で測定するものとする。R値が0.45未満であると、結晶性が高く、コポリマーの成形体は硬くなりヤング率が上昇する。一方、R値が0.99を超えると、コポリマー成形体は柔らかくなりすぎ、粘着性を示すようになり、取扱性が低下する。同様の観点から、本発明で用いるポリエステルコポリマーのR値は0.50以上であることが好ましく、また0.80以下であることが好ましい。
【0070】
また、ポリマーの結晶性は、成形体の機械強度に大きな影響を与えることが知られている。一般に、低結晶性のポリマーは低ヤング率を示すため、柔軟性を得るためには結晶性が低いことが望ましい。ポリマーの結晶化率は、示差走査熱量(DSC)測定により融解熱から求められる。
【0071】
当該ポリエステルコポリマーにおいては、ヒドロキシカルボン酸残基またはラクトン残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満であることが好ましい。当該結晶化率が14%未満であれば、ヤング率の上昇が抑えられ、筒状体に適したポリエステルコポリマーを得ることができる。ヒドロキシカルボン酸残基および/またはラクトン残基の結晶化率は10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
【0072】
ここで言うモノマー残基の結晶化率とは、あるモノマー残基のみからなるホモポリマーの単位重量当たりの融解熱を100%とした場合の、ポリエステルコポリマー中の当該モノマー残基の単位重量当たりの融解熱の相対値である。具体的には、ヒドロキシカルボン酸残基の結晶化率とは、そのヒドロキシカルボン酸のみからなるホモポリマーの単位重量あたりの融解熱とポリエステルコポリマー中のそのヒドロキシカルボン酸残基の重量分率の積を分母として、ポリエステルコポリマーの融解熱を測定した際に検出されるそのヒドロキシカルボン酸残基由来の融解ピークから求められる、当該残基のポリエステルコポリマーの単位重量当たりの融解熱を分子として計算した割合である。ポリエステルコポリマーにおけるヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基の結晶化率は、コポリマーを形成しているヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基それぞれの中で、結晶構造を形成している割合を示す。結晶化率は、具体的には後述する測定例4に記載の方法で求めるものとする。
【0073】
さらに、本発明は体内に留置して用いるため、臨床的安全性の実績が高い生体吸収性ポリエステルコポリマーであることが好ましい。すなわち、連結層が、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体を含み、当該ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体が、下記条件(C)および条件(D)を満たすことが好ましい。ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中のモル分率は、ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体をジラクチド残基およびε-カプロラクトン残基の全体100%に対する百分率である。
【0074】
条件(C)R値が0.45以上0.99以下である。
【0075】
R値=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ジラクチド残基のモル分率(%)
[B]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ε-カプロラクトン残基のモル分率(%)
[AB]:ジラクチド/ε-カプロラクトン共重合体中の、ジラクチド残基とε-カプロラクトン残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
条件(D)ジラクチド残基またはε-カプロラクトン残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満である。
【0076】
上記のようなポリエステルコポリマーは、一例として、ヒドロキシカルボン酸残基を形成するモノマーAおよびラクトン残基を形成するモノマーBを、重合完了時においてヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基の和が全残基の50モル%以上、かつヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基がそれぞれ全残基の20モル%以上となるよう配合して重合させるマクロマー合成工程;
マクロマー合成工程で得られたマクロマー同士を連結するか、あるいはマクロマー合成工程で得られたマクロマー溶液にヒドロキシカルボン酸およびラクトンを追添加することによりマルチ化するマルチ化工程;
を有する合成方法により製造することができる。
【0077】
マクロマー合成工程では、ヒドロキシカルボン酸残基を形成するモノマーAおよびラクトン残基を形成するモノマーBを、理論上重合完了時においてヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基の和が全残基の50モル%以上、かつヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基がそれぞれ全残基の20モル%以上となるよう配合して重合を行う。これにより、ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基を主構成単位とするポリエステルコポリマーが得られるが、本製造方法においてはさらに後述するマルチ化工程を行うため、本明細書においては、本工程により得られるポリエステルコポリマーを「マクロマー」と表現する。
【0078】
ヒドロキシカルボン酸残基およびラクトン残基の分布のランダム性は、重合時のモノマーの反応性の違いにより変化する。すなわち、重合時に、当該2種類のモノマーのうち、一方のモノマーの後に、同じモノマーと他方のモノマーが同確率で結合すれば、モノマー残基が完全にランダムに分布したランダムコポリマーが得られる。しかし、一方のモノマーの後にいずれかのモノマーが結合し易い傾向がある場合は、モノマー残基の分布に偏りのあるグラジエントコポリマーが得られる。得られたグラジエントコポリマーは、その分子鎖にそって重合開始末端から重合終了末端にかけてモノマー残基の組成が連続的に変化している。
【0079】
ここで、一般にヒドロキシカルボン酸はラクトンよりも初期重合速度が大きいモノマーであるため、マクロマー合成工程においてヒドロキシカルボン酸とラクトンとを共重合させた場合、ヒドロキシカルボン酸の後にヒドロキシカルボン酸が結合し易い。そのため、合成されたマクロマーにおいては、重合開始末端から重合終了末端にかけてヒドロキシカルボン酸単位の割合が徐々に減少するグラジエント構造が形成される。すなわち、本工程で得られるマクロマーは、ヒドロキシカルボン酸とラクトンとの初期重合速度差により、ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基とが骨格中で組成勾配をなすグラジエント構造を有するマクロマーとなる。このようなマクロマーを、本明細書においては「グラジエントマクロマー」と呼ぶ場合がある。
【0080】
マクロマー合成工程においては、このようなグラジエント構造を実現するために、開始末端から一方向に起こる重合反応によりマクロマーを合成することが望ましい。このような合成反応としては、開環重合、リビング重合を利用することが好ましい例として挙げられる。
【0081】
本工程で得られるマクロマーは、最終的に上記条件(A)に示すR値を満たすポリエステルコポリマーを製造しやすくするため、上記条件(A)と同様のR値を有すること、すなわち、下記式
R値=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:マクロマー中の、ヒドロキシカルボン酸残基のモル分率(%)
[B]:マクロマー中の、ラクトン残基のモル分率(%)
[AB]:マクロマー中の、ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)
で表されるR値が0.45以上0.99以下であることが好ましく、0.50以上0.80以下であることがより好ましい。
【0082】
また同様に、本工程で得られるマクロマーは、最終的に上記条件(B)に示すヒドロキシカルボン酸残基またはラクトン残基の結晶化率を有するポリエステルコポリマーを製造しやすくするため、上記条件(B)と同様の結晶化率を有するもの、すなわち、ヒドロキシカルボン酸残基またはラクトン残基の少なくとも一方の結晶化率が14%未満であるものであることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、1%以下であることが最も好ましい。
【0083】
マクロマー合成工程で合成されるマクロマーの重量平均分子量は、好ましくは1万以上、より好ましくは2万以上である。また、結晶性を抑え柔軟性を保つためには15万以下であることが好ましく、10万以下であることがより好ましい。
【0084】
マルチ化工程では、マクロマー合成工程で得られたマクロマー同士を連結するか、あるいはマクロマー合成工程で得られたマクロマー溶液にヒドロキシカルボン酸およびラクトンを追添加することによりマルチ化する。本工程においては、一のマクロマー合成工程で得られたマクロマー同士を連結してもよいし、二以上のマクロマー合成工程で得られた複数のマクロマーを連結してもよい。なお、「マルチ化」とは、これらのいずれかの方法で、ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基とが骨格中で組成勾配を有するグラジエント構造を有する分子鎖が複数繰り返される構造を形成することを意味する。
【0085】
マルチ化するマクロマー単位の数は2以上であれば良いが、連結数が多いと分子鎖の絡み合いによる引張強さの向上効果が出ることから、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、6以上であることがさらに好ましい。一方、結果的にポリエステルコポリマーの分子量が過度に増大すると、粘度上昇により成形性に悪影響を及ぼす懸念があるため、マクロマー単位の数は80以下であることが好ましく、40以下であることがより好ましく、20以下であることがさらに好ましい。
【0086】
マクロマー単位の連結数は、マルチ化行程において使用する触媒や反応時間によって調整することができる。マクロマー同士を連結させてマルチ化を行う場合、マクロマー単位の数は、最終的に得られたポリエステルコポリマーの重量平均分子量を、マクロマーの重量平均分子量で除して求めることができる。
【0087】
ポリエステルコポリマーは、マクロマー単位が直線状に連結した直鎖状ポリマーでも良いし、分岐して連結した分岐鎖状ポリマーであっても良い。
【0088】
直鎖状のポリエステルコポリマーは、例えば、グラジエントマクロマーの両末端に同様のグラジエントマクロマーを1分子ずつ、末端同士を介して結合させてゆくことで合成できる。
【0089】
グラジエントマクロマーがヒドロキシル基とカルボキシル基を各末端に有する場合は、末端同士を縮合剤により縮合させることで、マルチ化したポリエステルコポリマーが得られる。縮合剤としては、p-トルエンスルホン酸4,4-ジメチルアミノピリジニウム、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド、塩酸1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N、N’-カルボニルジイミダゾール、1、1’-カルボニルジ(1,2,4-トリアゾール)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウム=クロリドn水和物、トリフルオロメタンスルホン酸(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-(2-オクトキシ-2-オキソエチル)ジメチルアンモニウム、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロリン酸塩、(7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ)トリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、クロロトリピロリジノホスホ二ウムヘキサフルオロリン酸塩、ブロモトリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン酸塩、3-(ジエトキシホスホリルオキシ)-1,2,3-ベンゾトリアジン-4(3H)-オン、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩、O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-NN,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸塩、O-(3,4-ジヒドロ-4-オキソ-1,2,3-ベンゾトリアジン-3-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩、S-(1-オキシド-2-ピリジル)-N,N,N’,N’-テトラメチルチウロニウムテトラフルオロホウ酸塩、O-[2-オキソ-1(2H)-ピリジル]-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムテトラフルオロホウ酸塩、{{[(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデン)アミノ]オキシ}-4-モルホリノメチレン}ジメチルアンモニウムヘキサフルオロリン酸塩、2-クロロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロリン酸塩、1-(クロロ-1-ピロリジニルメチレン)ピロリジニウムヘキサフルオロリン酸塩、2-フルオロ-1,3-ジメチルイミダゾリニウムヘキサフルオロリン酸塩、フルオロ-N,N,N’,N’-テトラメチルホルムアミジニウムヘキサフルオロリン酸塩等が使用可能である。
【0090】
また、重合反応がリビング性を有する場合、すなわち重合物の末端から連続して重合反応を開始しうる場合には、重合反応が終了した後のグラジエントマクロマー溶液にヒドロキシカルボン酸およびラクトンを追添加する操作を繰り返すことで、マルチ化することができる。
【0091】
あるいは、グラジエントマクロマー同士は、ポリマーの力学的特性に影響を与えない範囲においてリンカーを介してマルチ化しても良い。特に、複数のカルボキシル基および/または複数のヒドロキシ基を有するリンカー、例えば2、2-ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸を使用すると、リンカーが分岐点となった分岐鎖状のポリエステルコポリマーを合成することができる。
【0092】
以上のような製造方法により得られるポリエステルコポリマーは、ヒドロキシカルボン酸残基とラクトン残基とが骨格中で組成勾配を有するマクロマー単位が2つ以上連結した構造のコポリマーとなる。本明細書においては、このような構造を便宜的に「マルチグラジエント」、マルチグラジエント構造を有するコポリマーを「マルチグラジエントコポリマー」と記載する場合がある。マルチグラジエントコポリマーとしては、ヒドロキシカルボン酸残基と前記ラクトン残基とが骨格中で組成勾配をなすグラジエント構造を有するマクロマー単位が2つ以上連結した構造を有することが好ましく、3つ以上連結した構造を有することが好ましい。
【0093】
前述の通り、ヒドロキシカルボン酸残基が乳酸残基、ラクトン残基がカプロラクトン残基またはバレロラクトン残基であるポリエステルコポリマーは、連結層に適用するために特に好ましい態様である。このようなポリエステルコポリマーは、下記のような製造方法により好ましく製造される。
【0094】
まず、マクロマー合成工程において、触媒の存在下にてジラクチドとε-カプロラクトン(またはバレロラクトン。以下同じ)を重合させる。ジラクチド、ε-カプロラクトン単量体は、使用前に不純物を取り除くために、好ましくは精製される。ジラクチドの精製は、たとえばナトリウムによって乾燥されたトルエンからの再結晶で可能である。ε-カプロラクトンは、たとえばCaH2からN2雰囲気下で減圧蒸留によって精製される。
【0095】
ジラクチドとε-カプロラクトンの反応性は文献(D.W.Grijpmaetal.PolymerBulletin25、335、341)に記されているように大きく異なり、ジラクチドモノマーの方がε-カプロラクトンよりも初期重合速度が大きい。ジラクチドのVAは、反応率(%)で示すと3.6%/hであり、ε-カプロラクトンのVBは、0.88%/hであり、VA/VBは4.1となる。そのため、ジラクチドとε-カプロラクトンを共重合して得られるマクロマーはグラジエントマクロマーとなる。
【0096】
乳酸残基とカプロラクトン残基とを有するマクロマー合成工程の触媒としては、通常のゲルマニウム系、チタン系、アンチモン系、スズ系触媒等のポリエステルの重合触媒が使用可能である。このようなポリエステルの重合触媒の具体例としては、オクチル酸スズ、三フッ化アンチモン、亜鉛粉末、酸化ジブチルスズ、シュウ酸スズ等が挙げられる。触媒の反応系への添加方法は特に限定されるものではないが、好ましくは原料仕込み時に原料中に分散させた状態で、あるいは減圧開始時に分散処理した状態で添加する方法である。触媒の使用量は使用するモノマーの全量に対して金属原子換算で0.01~3重量%、より好ましくは0.05~1.5重量%である。
【0097】
乳酸残基とカプロラクトン残基とを有するマクロマーは、ジラクチド、カプロラクトンおよび触媒を、撹拌機を備えた反応容器に入れ、150~250℃、窒素気流下で反応させることにより得ることができる。水を助開始剤として使用する場合は、重合反応に先立って、90℃付近で助触媒反応を行うことが好ましい。反応時間としては2時間以上、好ましくは4時間以上、さらには重合度を上げるためにはより長時間例えば8時間以上が好ましい。ただし、長時間反応を行いすぎるとポリマーの着色の問題が生じるため、反応時間は3~12時間が好ましい。
【0098】
次に、マルチ化工程において、乳酸残基とカプロラクトン残基とを有するグラジエントマクロマーの末端同士を縮合反応により連結し、マルチ化する。縮合反応の反応温度は10~100℃が好ましく、さらに好ましくは20~50℃である。反応時間としては1日以上、さらに好ましくは2日以上が好ましい。ただし、長時間反応を行いすぎるとポリマーの着色の問題が生じるため、反応時間は2~4日が好ましい。
【0099】
<筒状体>
本発明の医療器具用筒状成形体を構成する筒状体は、前述の生分解性ポリマー繊維を含むことが好ましい。筒状体の構造としては、例えば、編み、織り、配向、不織布などが挙げられる。これらの中でも、不織布構造が好ましい。不織布構造は、繊維同士が立体的に不規則に絡み合うため、空隙が多くなり、繊維径の太径化による透過性向上の効果がより顕著に奏される。
【0100】
筒状体の製造方法としては、前記のようなポリマーを用い、溶融成形法または溶媒成形法を用いて筒状の形状に成形加工することができる。溶融成形法とは、ポリマーを加熱して溶融させ、鋳型や押出成形機、プレス機、エレクトロスピニング、メルトブローなどを用いて成形する方法である。例えばφ0.5~4mmの芯入り口金をセットした押出成形機内で200℃までポリマーを加熱し、押し出すことでポリマーを筒状に成形することができる。溶媒成形法とはポリマーを溶媒に溶解させ、鋳型や凝固浴に注入し、溶媒と溶質を分離することで成形する方法や、エレクトロスピニング法やスプレー法である。溶媒成形法の例としてはクロロホルムに20%溶解させたポリマー溶液に、φ0.5~4mmの棒を浸漬させた後引き上げ、溶媒の揮発を待ってから再度浸漬させることを5~10回程度繰り返すことで筒状に成形することができる。また、φ0.5~4mmの棒にエレクトロスピニング法を用いて、繊維を筒状に堆積させることで筒状に成形することもできる。
【0101】
このようにして得られた筒状の成形体を剃刀等を用いて切断することにより、所望の長さの筒状体を得ることができる。
【0102】
筒状体の厚みは、強度を向上させる観点から、100μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましい。ここで、筒状体の厚みは、顕微鏡を用いて筒状体の断面を拡大観察することにより、測定することができる。筒状体の厚みは、例えば、エレクトロスピニング法による紡糸時間によって所望の範囲に調整することができる。
【0103】
<筒状成形体の製造方法>
例えば、上記のようにして製造した複数の筒状体に連結層を構成する素材を塗布することで二つの筒状体を連結し、本発明の医療器具用筒状成形体を製造することができる。連結層の塗布方法としては、例えばエレクトロスピニング法が挙げられる。
【0104】
製造方法の一例としては、(1)筒状体を構成する生体吸収性ポリマーをエレクトロスピニン法によりファイバーを形成させ、コレクターに集積する、(2)コレクターごと筒状体を回収し、任意の箇所にカミソリ等でコレクターの回転方向に切れ込みを入れる、(3)工程(2)により得られた切り込みを入れられたファイバー集積体を再度エレクトロスピニング装置にセットし、連結層を構成する生体吸収性ポリマーをエレクトロスピニング法によりファイバーを形成させ、筒状体上に集積する方法が挙げられる。
【0105】
得られた成形体は断裂した神経の両末端に装着させることで、神経再生を保護する神経再生誘導チューブとして用いることができる。
【実施例】
【0106】
以下、具体的に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はそれらの実施例に限定的に解釈されるべきでなく、本発明の概念に接した当業者が想到し、実施可能であると観念するであろう、あらゆる技術的思想およびその具体的態様が本発明に含まれるものとして理解されるべきものである。
【0107】
[測定例1:ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量の測定]
機器名:Prominence(株式会社島津製作所製)
移動相:クロロホルム(HPLC用)(和光純薬工業株式会社製)
流速:1mL/min
カラム:TSKgel GMHHR-M(φ7.8mmX300mm;東ソー株式会社製)
検出器:UV(254nm)、RI
カラム、検出器温度:35℃
標準物質:ポリスチレン
精製後のポリマーをクロロホルムに溶解し、0.45μmのシリンジフィルター(DISMIC-13HP;ADVANTEC社製)を通過させて不純物等を除去した後にGPCにより測定して、ポリマーの重量平均分子量を算出した。
【0108】
[測定例2:核磁気共鳴(NMR)による各残基のモル分率およびR値の測定]
精製したポリマーを重クロロホルムに溶解し、1H-NMRにより測定してポリマー中の乳酸モノマー残基およびカプロラクトンモノマー残基の比率をそれぞれ算出した。また、1Hホモスピンデカップリング法により、乳酸のメチレン基(5.10ppm付近)、カプロラクトンのαメチレン基(2.35ppm付近)、εメチレン基(4.10ppm付近)について、隣り合うモノマー残基が乳酸に由来するかもしくはカプロラクトンに由来するかをシグナルで分離し、それぞれのピーク面積を定量した。それぞれのピーク面積比から[A]、[B]、[AB]を計算し、R値を算出した。
機器名:JNM-EX270(日本電子株式会社製)
1Hホモスピンデカップリング照射位置:1.66ppm
溶媒:重クロロホルム
測定温度:室温
R値=[AB]/(2[A][B])×100
[A]:ポリマー中の、乳酸モノマー残基のモル分率(%)
[B]:ポリマー中の、カプロラクトンモノマー残基のモル分率(%)
[AB]:ポリマー中の、乳酸モノマー残基とカプロラクトンモノマー残基が隣り合った構造(A-B、およびB-A)のモル分率(%)。
【0109】
[測定例3:引張試験]
ポリマーを減圧乾燥し、これを濃度が5重量%になるようにクロロホルムに溶解させた。その溶液をテフロン製シャーレ上に移して、常圧、室温下で1昼夜乾燥させた。これを減圧乾燥させて、フィルムを得た。
【0110】
乾燥したフィルム(厚さ約0.1mm)を50mm×5mmに切り出し、卓上引張試験機(SHIMAZU社製 EZ-LX)でJIS K6251(2010)に従い、下記の条件で引張試験を測定し、破断伸度および引張強さを算出した。さらに、変位に対して応力をプロットしたグラフにおいて、応力の発生開始から5点のデータから近似できる1次式の傾きをヤング率として算出した。
機器名:卓上引張試験機(SHIMAZU社製 EZ-LX)
初期長:10mm
引張速度:500mm/min
ロードセル:1kN
試験回数:5回。
【0111】
[測定例4:示差走査熱量(DSC)による乳酸残基の結晶化率の測定]
精製後のポリマーを減圧乾燥し、これを濃度が5重量%になるようにクロロホルムに溶解させ、その溶液をテフロン製シャーレ上に移して、常圧、室温下で1昼夜乾燥させた。これを減圧乾燥させて、フィルムを得た。
【0112】
得られたフィルムをアルミナPANに採取し、示差走査熱量計でDSC法により下記の条件で測定し、温度条件(D)から(E)の範囲の測定結果から融解熱を算出した。結晶化率は下記式から算出した。
【0113】
結晶化率=(ポリエステルコポリマーの単位重量当たりの乳酸残基の融解熱)/{(乳酸残基のみからなるホモポリマーの単位重量当たり融解熱)×(ポリエステルコポリマー中の乳酸残基の重量分率)}×100
機器名:EXSTAR 6000(セイコーインスツル株式会社製)
温度条件:(A)25℃→(B)250℃(10℃/min)→(C)250℃(5min)→(D)-70℃(10℃/min)→(E)250℃(10℃/min)→(F)250℃(5min)→(G)25℃(100℃/min)
標準物質:アルミナ。
【0114】
[測定例5:仕事量保存率および永久歪みの測定]
精製後のポリマーを減圧乾燥し、これを濃度が5重量%になるようにクロロホルムに溶解させ、その溶液をテフロン製シャーレ上に移して、常圧、室温下で1昼夜乾燥させた。これを減圧乾燥させて、フィルムを得た。
【0115】
フィルム(厚さ約0.1mm)を短冊状(50mm×5mm)に切り出し、卓上引張試験機(SHIMAZU社製 EZ-LX)にセットした。下記の条件でフィルムを初期長(L0)10mmに対して、引張長(L)10mm、すなわち引張ひずみが100%になるまで伸長させた後、初期長(L0)まで復元させる操作を10回繰り返し、引張応力と変位の変化を記録した。
機器名:卓上引張試験機(SHIMAZU社製 EZ-LX)
保持時間:1s
引張速度:500mm/min
復元速度:500mm/min
ロードセル:1kN
変位(X1,X2,・・・)に対する応力が(N1,N2,・・・)の時、100%の引張ひずみを生じさせる仕事量(W)は変位-応力曲線下部の面積に相等し、下記の式により算出される。
W=ΣNn(Xn-Xn-1)ただし X0=0とする。
初回のWをW1、10回目のWをW10としたとき、仕事量保存率(%)=W10/W1×100となる。
【0116】
上記のように、伸長および復元操作を10回繰り返して仕事保存率を測定した後、再度同じ引張速度でフィルムを伸長させ引張応力と変位の変化を記録する際、応力が発生し始める変位量をL1とする。永久歪みは下記式により計算できる。
永久歪み(%)=L1/L0×100。
【0117】
[測定例6:筒状成形体のキンク発生抑制試験]
全長6cmの針金を準備した。この針金の中心を起点に180°(直線のままのもの)、120°角に折り曲げたもの、90°角に折り曲げたもの、60°角に折り曲げたものを準備した。
【0118】
作成した医療器具用筒状成形体を40mmの長さに切りそろえ、内部に上記で作成した針金をそれぞれ通し、それぞれの針金の形状に屈曲させた。その後、成形体の両端の内側上部を針金に押しつけた際に、作成したそれぞれの針金の角の部分において、成形体にキンクが発生したかを目視で観察した。キンクが観察された場合を「有」、キンクが観察されなかった場合を「無」として記録した。
【0119】
[測定例7:筒状成形体の耐圧性テスト]
医療器具用筒状成形体の全長を20mmに調製し、卓上引張試験機(SHIMAZU社製 EZ-LX)で下記の条件で圧縮試験を実施し、初期高さの50%の高さになった時点の圧力を記録した。
機器名:卓上引張試験機(SHIMAZU社製 EZ-LX)
圧縮距離:6mm
保持時間:1s
圧縮速度:10mm/min
ロードセル:1kN。
【0120】
[測定例8:筒状体および筒状成形体の引っ張り試験]
筒状体のヤング率の測定は、切断前の筒状体を20mmの長さに切断し、卓上引張試験機(SHIMAZU社製 EZ-LX)で下記の条件で引っ張り試験を実施し、ヤング率、伸び率および破断強度を求めた。また、筒状成形体のヤング率の測定は、筒状成形体を20mmの長さに切断し、同様に行った。なお、筒状成形体の引っ張り試験で伸縮するのは連結層のみであることから、筒状成型体の引っ張り試験で得られたヤング率、伸び率および破断強度を連結層のヤング率、伸び率および破断強度として取り扱った。
機器名:卓上引張試験機(SHIMAZU社製 EZ-LX)
初期長(L0):10mm
引張速度:500mm/min。
ロードセル:1kN。
【0121】
<実施例1>
(筒状体の作製)
ポリ-L-乳酸(PLLA)(株式会社BMG社製、Mw=220,000、Mw/Mn=1.51)を濃度が20重量%となるようにクロロホルムに溶解させた。PLLA溶液を5mLのシリンジ(テルモ社)に採取し、シリンジにMECC社の紡糸装置NANON-3専用の18Gの針(MECC社)を取り付けた。PLLA溶液の入ったシリンジとφ4mmの金属製マンドレルを紡糸装置NANON-3にセットし、PLLA溶液をエレクトロスピニング法により、前記マンドレル上に紡糸することにより、PLLA製の筒状体を得た。紡糸条件は、紡糸距離:15cm、紡糸電圧:25kV、紡糸速度:3mL/時間、回転速度:50~100rpm、紡糸振幅:15cm、紡糸時間:60分間とした。紡糸後、得られた筒状体(切断前)は取り外さずにマンドレルごと、一晩常温で真空乾燥させた。筒状体を形成するPLLA層の厚みは、マイクロスコープ(ハイロックス社 KH-1300)で測定した結果、487μmであった。その後、筒状体(切断前)をマンドレルから取り外さないまま、ミクロトーム刃(フェザー安全剃刀株式会社製、S35TYPE、標準製品)を用いて、筒状体(切断前)の円周方向(全円周)に5mm毎に切れ込みを入れて切断し、筒状体(切断後)を作製した。
【0122】
(連結層用のポリマーの合成)
連結層用のポリマーは次の様に合成した。50.0gのL-ラクチド(PURASORB L;PURAC社製)と、38.5mLのε-カプロラクトン(和光純薬工業株式会社製)とを、モノマーとしてセパラブルフラスコに採取した。フラスコ内をアルゴン雰囲気下とし、触媒として0.81gのオクチル酸スズ(II)(和光純薬工業株式会社製)を14.5mLのトルエン(超脱水)(和光純薬工業株式会社製)に溶解したもの、助開始剤としてイオン交換水をモノマー/助開始剤比が142.9となる量で添加した。90℃で、1時間助触媒反応を行ったあと、150℃で、6時間、共重合反応させて、粗コポリマーを得た。
【0123】
得られた粗コポリマーを100mLのクロロホルムに溶解し、攪拌状態にある1400mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を3回繰り返した後、沈殿物を70℃で減圧乾燥してマクロマーを得た。
【0124】
当該マクロマー7.5gと、触媒である0.28gのp-トルエンスルホン酸4,4-ジメチルアミノピリジニウム(合成品)と、0.10gの4,4-ジメチルアミノピリジン(和光純薬工業株式会社製)を採取した。これらをアルゴン雰囲気下とし、濃度が30%となるようにジクロロメタン(脱水)(和光純薬工業株式会社製)を加えて溶解した。ここに、縮合剤として0.47gのアミレン(東京化成工業社製)を5mLのジクロロメタンに溶解したものを添加し、室温で2日間縮合重合させた。
【0125】
得られた反応混合物に30mLのクロロホルムを添加し、攪拌状態にある15mMとなるよう酢酸を添加した500mLのヘキサンに滴下して、沈殿物を得た。この沈殿物を50mLのクロロホルムに溶解し、攪拌状態にある500mLのメタノールに滴下して、沈殿物を得た。この操作を2回繰り返した後、沈殿物として精製ポリエステルコポリマーを得た。
【0126】
得られた精製ポリエステルコポリマーを、前記測定例1~5に記載の方法で測定した結果、重量平均分子量は240,000、共重合比は乳酸:カプロラクトン=53.0:47.0(重量比)、R値は0.60、結晶化率は0%、ヤング率は2.98MPa、引張強さは33.7MPa、破断伸度は1032%、仕事保存率は57.5%、永久歪み20%であった。
【0127】
(医療器具用筒状成形体(複数の筒状体を連結層で連結した成形体)の作製)
前記「筒状体の作製」で切断した筒状体(切断後)を有するマンドレルを再度紡糸装置NANON-3にセットした。上記のようにして合成した連結層用のポリマーを濃度が30重量%となるようにクロロホルムに溶解させた。連結層用のポリマー溶液を5mLのシリンジ(テルモ社)に採取し、シリンジにMECC社の紡糸装置NANON-3専用の18Gの針(MECC社)を取り付けた。連結層用のポリマー溶液の入ったシリンジを紡糸装置NANON-3にセットし、連結層用のポリマー溶液をエレクトロスピニング法により、前記筒状体(切断後)を有するマンドレル上へ紡糸することによって、筒状体(切断後)の外側に連結層を作成した。紡糸条件は、紡糸距離:15cm、紡糸電圧:30kV、紡糸速度:3mL/時間、回転速度:50~100rpm、紡糸振幅:15cm、紡糸時間:60分間とした。紡糸後、筒状の成形体は取り外さずにマンドレルごと、一晩常温で真空乾燥させた。その後、マンドレルを抜去することにより、複数の筒状体が連結層で連結された医療器具用筒状成形体を得た。連結層を含む筒状成形体の厚みをマイクロスコープ(ハイロックス社 KH―1300)で測定し、前記筒状体を形成するPLLA層の厚みを差し引くことで、連結層の厚みは309μmと算出された。
【0128】
実施例1の医療器具用筒状成形体は、長さ5mmの複数の筒状体が0.2mmの間隔で配置され、該複数の筒状体が連結層によって連結されており、該連結層は筒状体の外側に接して配置された態様となった。
【0129】
また、筒状体のヤング率測定のため、切断の間隔を20mmにした以外は、前記「筒状体の作製」と同様の方法により、20mmに切断された筒状体を作成した。測定例8に記載のように、作成した20mmの筒状体を初期長10mmとなるよう試験機にセットし、引っ張り試験を実施した結果、筒状体のヤング率は34.8MPaであった。
【0130】
得られた医療器具用筒状成形体を測定例6に記載のキンク発生抑制試験および測定例7に記載の耐圧性試験を実施した結果を表1に示した。また、
図5に測定例6において、筒状成形体を60°角に折り曲げた状態の写真を示す。
図5に示す通り、実施例1の筒状成形体は、60°角に折り曲げてもキンクが発生していない。写真中、筒状成形体に挿入されている細いものが針金である。
【0131】
また前述のとおり、筒状体のヤング率は6.3MPa以上であり、連結層のヤング率は6.3MPa未満となった。
【0132】
<比較例1>
実施例1と同様にして筒状体(切断前)を作成した後、ミクロトーム刃で切断しなかった以外は、実施例1と同様にして医療器具用筒状成形体を作成した。
【0133】
得られた筒状成形体を測定例6に記載のキンク発生抑制試験および測定例7に記載耐圧性試験を実施した結果を表1に示した。120°角でキンクが発生しているため、キンク発生抑制効果が無いことが分かる。
【0134】
実施例1と比較例1を比較すると50%圧縮圧力がほぼ同じであることから、実施例1と比較例1において耐圧性がほぼ変わらなかった。それにも関わらず実施例1では60°角までキンク発生がないことから、実施例1ではキンク発生が抑制できたことが分かる。
【0135】
<実施例2>
(筒状体の作製)
筒状体を作製するためのポリマー溶液として、PLLA溶液の代わりにグリコール酸/L-乳酸共重合体(PGLA)(株式会社BMG社製、Mw=260,000、Mw/Mn=1.64、GA:LA=10.1:89.9)を濃度が10重量%となるようにクロロホルムに溶解させた溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして筒状体(切断前)を作成した。
【0136】
筒状体を形成するPGLA層の厚みは高速・高精度寸法測定器(キーエンス社製、LS-9030)で測定した結果、336μmであった。その後、筒状体(切断前)をマンドレルから取り外さずさないまま、ミクロトーム刃(フェザー安全剃刀株式会社製、S35TYPE、標準製品)を用いて、筒状体(切断前)の円周方向(全円周)に2.5mm毎に切れ込みを入れ、筒状体(切断後)を作製した。
【0137】
(医療器具用筒状成形体(複数の筒状体を連結層で連結した成形体)の作製)
前記「筒状体の作製」で切断した筒状体(切断後)を有するマンドレルを再度紡糸装置NANON-3にセットした。実施例1記載の連結層用のポリマーを用い、実施例1と同様にして、複数の筒状体が連結層で連結された医療器具用筒状成形体を得た。
【0138】
連結層を含む筒状成形体の厚みを高速・高精度寸法測定器(キーエンス社製、LS-9030)で測定し、前記筒状体を形成するPGLA層の厚みを差し引くことで、連結層の厚みは362μmと算出された。
【0139】
また、実施例1と同様に筒状体のヤング率を測定したところ74.4MPaであった。
【0140】
実施例2の医療器具用筒状成形体は、長さ2.5mmの複数の筒状体が0.2mmの間隔で配置され、該複数の筒状体が連結層によって連結されており、該連結層は筒状体の外側に接して配置された態様となった。
【0141】
得られた医療器具用筒状成形体を測定例6に記載のキンク発生抑制試験および測定例7に記載の耐圧性試験を実施した結果を表1に示した。なお、実施例2の筒状成形体は、
図6の写真に示すように、測定例6の条件よりもさらに厳しい、一巻きした状態でもキンクが発生していない。
【0142】
また、測定例8に記載の引っ張り試験を実施した結果、ヤング率は1.5MPa、伸び率は1900%、破断強度は4.4MPaであった。
【0143】
<実施例3>
(筒状体の作製)
筒状体を作製するためのポリマー溶液として、PLLA溶液の代わりにグリコール酸/L-乳酸共重合体(PGLA)(株式会社BMG社製、Mw=250,000、Mw/Mn=1.63、GA:LA=20.5:79.5)を濃度が10重量%となるようにクロロホルムに溶解させた溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして筒状体(切断前)を作成した。
【0144】
PGLA層の厚みは高速・高精度寸法測定器(キーエンス社製、LS-9030)で測定した結果、328μmであった。その後、筒状体(切断前)をマンドレルから取り外さずさないまま、ミクロトーム刃(フェザー安全剃刀株式会社製、S35TYPE、標準製品)を用いて、筒状体(切断前)の円周方向(全円周)に2.5mm毎に切れ込みを入れ、筒状体(切断後)を作製した。
【0145】
(医療器具用筒状成形体(複数の筒状体を連結層で連結した成形体)の作製)
前記「筒状体の作製」で切断した筒状体(切断後)を有するマンドレルを再度紡糸装置NANON-3にセットした。実施例1記載の連結層用のポリマーを用い、実施例1と同様にして、複数の筒状体が連結層で連結された医療器具用筒状成形体を得た。
【0146】
連結層を含む筒状成形体の厚みを高速・高精度寸法測定器(キーエンス社製、LS-9030)で測定し、前記PGLA層の厚みを差し引くことで、連結層の厚みは384μmと算出された。
【0147】
また、実施例1と同様に筒状体のヤング率を測定したところ、79.2MPaであった。
【0148】
実施例3の医療器具用筒状成形体は、長さ2.5mmの複数の筒状体が0.2mmの間隔で配置され、該複数の筒状体が連結層によって連結されており、該連結層は筒状体の外側に接して配置された態様となった。
【0149】
得られた医療器具用筒状成形体を測定例6に記載のキンク発生抑制試験および測定例7に記載の耐圧性試験を実施した結果を表1に示した。
【0150】
また、測定例8に記載の引っ張り試験を実施した結果、ヤング率は0.7MPa、伸び率は1200%、破断強度は4.3MPaであった。
【0151】
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明の医療器具用筒状成形体は、複数の筒状体を連結する柔軟な層により、湾曲や屈折に対して柔軟に変形し、キンク発生を抑制することができることから、神経再生誘導チューブなどに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0153】
10 神経再生誘導チューブ
11 足場材料
200 神経細胞
201 軸索
210 シュワン細胞
211 シュワン細胞
A 隣接する一方の筒状体
B 隣接する他方の筒状体
C 連結層