(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】タンク
(51)【国際特許分類】
B29C 70/32 20060101AFI20250408BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20250408BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20250408BHJP
F17C 1/06 20060101ALI20250408BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20250408BHJP
B29L 22/00 20060101ALN20250408BHJP
【FI】
B29C70/32
B29C70/16
F16J12/00 A
F17C1/06
B29K105:08
B29L22:00
(21)【出願番号】P 2021518810
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2021010286
(87)【国際公開番号】W WO2021193180
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2023-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2020055302
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永松 大介
(72)【発明者】
【氏名】大内山 直也
(72)【発明者】
【氏名】松井 明彦
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-197414(JP,A)
【文献】特開2011-248394(JP,A)
【文献】特開平9-280496(JP,A)
【文献】国際公開第2018/135155(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/32
B29C 70/16
F16J 12/00
F17C 1/06
B29K 105/08
B29L 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内殻であるライナーと、前記ライナーの外表面を覆う補強層とを有するタンクであって、前記補強層は前記ライナーの周囲に樹脂含浸済み繊維束を連続的に巻き付けることにより形成されてなり、前記補強層は前記ライナー側に配置される
複数層のフープ層と
複数層のヘリカル層と
が積層されて構成され、前記フープ層
のうち少なくともひとつのフープ層に
前記ライナーの軸方向に対して、80°以上110°以下の角度で巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に隙間が設けられるとともに、前記ヘリカル層において隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束
を前記ライナーの軸方向に対して、0°より大きく80°より小さい、または110°より大きく180°より小さい角度で隙間なく巻き付けられた箇所が少なくとも1ヶ所存在し、前記タンクを構成する前記樹脂
の靭性値が1.0MPa・m
0.5以上であ
り、前記ライナーの胴部表面積に対する、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間から露出する面積の総和の比率が0%より大きく50%より小さく、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間の最小値をLmin(mm)、最大値をLmax(mm)、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間と隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の平均幅をW(mm)とした時、0.01<Lmin/W<0.5、かつ0.01<Lmax/W<0.5の関係を満たすタンク。
【請求項2】
前記フープ層のうち少なくともひとつのフープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間が
、前記ライナーと接触する
最内層のフープ層にのみ設けられている請求項1に記載のタンク。
【請求項3】
前記フープ層に巻き付けられた隣り合う
前記樹脂含浸済み繊維束の間に隙間の無い箇所が1ヶ所以上存在する請求項1
または2に記載のタンク。
【請求項4】
前記補強層に含まれる前記樹脂の重量割合が21%~30%である請求項1から
3のいずれかに記載のタンク。
【請求項5】
前記樹脂含浸済み繊維束に含まれる
前記樹脂
の粘度が25℃で10~150Pa・sである請求項1から
4のいずれかに記載のタンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastic,FRP)製のタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
FRPは、樹脂を強化繊維で補強した複合材料であり、鉄やアルミ等の金属材料と比較して軽量でありながらも金属材料と同等以上の強度および剛性を発揮できることから、広く利用されている。
【0003】
FRPは平板、H形状、筒状体など種々の形に成形することが可能である。このうち、高圧の気体または液体を貯蔵するタンクとして用いるタンクは、一般にフィラメントワインディング(Filament Winding)成形によって製造される。フィラメントワインディング成形法は、ボビンに巻き取られた繊維束に張力をかけながら連続的に巻き出し、硬化性樹脂を含浸させた後に、繊維束をライナーに巻回して補強層を形成する成形方法である。
【0004】
フィラメントワインディング成形法で作ったタンクにおいて、成形時の繊維束間の隙間が耐圧力低下の要因なる場合がある。そのため、繊維間に隙間できないように隣り合う繊維束を重ねて成形することが一般的である。しかしながら、この方法だと繊維束同士が重なった部分とそうでない部分で凹凸が生まれ、繊維束にかかる張力に差が発生し、かかる張力が低い繊維束でたるみが起こり、繊維束のアライメントが乱れる。その結果、タンクの耐圧力が低下する場合がある。
【0005】
そのため、例えば特許文献1には、繊維束の重ね方を工夫して繊維束の重なりによる凹凸が生まれないように、幅方向に厚み差をつけた繊維束を準備し、前記繊維束の薄い部分同士を重ねて成形する方法が提案されている。また、特許文献2には、扁平の繊維束を四角状に変形させることにより、成形時のバンド間に隙間ができない方法が提案されている。また、特許文献3には、フィラメントワインディング成形時のバンド間の隙間を検出する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-209887号公報
【文献】特開2012-140997号公報
【文献】特開2017-7104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のような繊維束の側面を突き合わせて隙間なく巻き付けていくことや、特許文献2のように工程内で扁平の繊維束を四角状に変形させることは、生産速度も求められる状況下においては困難なことである。また、特許文献3に記載のように、フィラメントワインディング成形時の繊維束間の隙間を検出する方法では、検出装置が必要になりタンクのコストアップが懸念される。
【0008】
そこで、本発明はかかる背景に鑑み、従来行っていた繊維束を精度よく配置する作業や、繊維束間の隙間を検出する装置などを必要としない安価なタンクを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため本発明のタンクは次の構成を有する。すなわち、
内殻であるライナーと、前記ライナーの外表面を覆う補強層とを有するタンクであって、前記補強層は前記ライナーの周囲に樹脂含浸済み繊維束を連続的に巻き付けることにより形成されてなり、前記補強層は前記ライナー側に配置される複数層のフープ層と複数層のヘリカル層とが積層されて構成され、前記フープ層のうち少なくともひとつのフープ層に前記ライナーの軸方向に対して、80°以上110°以下の角度で巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に隙間が設けられるとともに、前記ヘリカル層において隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束を前記ライナーの軸方向に対して、0°より大きく80°より小さい、または110°より大きく180°より小さい角度で隙間なく巻き付けられた箇所が少なくとも1ヶ所存在し、前記タンクを構成する前記樹脂の靭性値が1.0MPa・m0.5以上であり、前記ライナーの胴部表面積に対する、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間から露出する面積の総和の比率が0%より大きく50%より小さく、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間の最小値をLmin(mm)、最大値をLmax(mm)、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間と隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の平均幅をW(mm)とした時、0.01<Lmin/W<0.5、かつ0.01<Lmax/W<0.5の関係を満たすタンク、である。
【0010】
本発明のタンクは、前記フープ層のうち少なくともひとつのフープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間が、前記ライナーと接触する最内層のフープ層にのみ設けられていることが好ましい。
【0011】
本発明のタンクは、前記ライナーの胴部表面積に対する、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間から露出する面積の総和の比率が0%より大きく50%より小さい。
【0012】
本発明のタンクは、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間の最小値をLmin(mm)、最大値をLmax(mm)、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間と隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の平均幅をW(mm)とした時、次の関係を満たす。
【0013】
0.01<Lmin/W<0.5、かつ0.01<Lmax/W<0.5
【0014】
本発明のタンクは、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に隙間の無い箇所が1ヶ所以上存在することが好ましい。
【0015】
本発明のタンクは、前記補強層に含まれる前記樹脂の重量割合が21%~30%であることが好ましい。
【0016】
本発明のタンクは、前記樹脂含浸済み繊維束に含まれる樹脂の粘度が25℃で10~150Pa・sであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、従来行っていた樹脂含浸済み繊維束を精度よく配置する作業や、樹脂含浸済み繊維束間の隙間を検出する装置などを必要としない安価なタンクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】(a)はタンクのフープ層の一例を示す概略図であり、(b)はタンクのヘリカル層の一例を示す概略図である。
【
図3】タンクの積層構成の一例を示す概略図である。
【
図4】ライナーと接触するフープ層に繊維束隙間を設けたタンクの一例を示す概略図である。
【
図5】ライナーと接触するフープ層に繊維束隙間が無い箇所を1か所以上設けたタンクの一例を示す概略図である。
【
図6】タンクの製造工程の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について順次説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施例形態に限定されるものではない。
【0020】
本発明に係るタンク101は、内殻であるライナー102と、ライナー102の外表面を覆う補強層103とを有するタンク101であって、補強層103はライナー102の周囲に樹脂含浸済み繊維束403を連続的に巻き付けることにより形成されてなるとともに、補強層103はライナー102側に配置される複数層のフープ層201と複数層のヘリカル層203とが積層されて構成され、フープ層201のうち少なくともひとつのフープ層に前記ライナーの軸方向に対して、80°以上110°以下の角度で巻き付けられた隣り合う樹脂含浸済み繊維束の間に隙間402が設けられるとともに、ヘリカル層203において隣り合う樹脂含浸済み繊維束403を前記ライナーの軸方向に対して、0°より大きく80°より小さい、または110°より大きく180°より小さい角度で隙間なく巻き付けられた箇所が少なくとも1ヶ所存在し、タンク101を構成する樹脂の靭性値が1.0MPa・m0.5以上であり、前記ライナー102の胴部表面積に対する、前記フープ層201に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束403の間に設けられた前記隙間402から露出する面積の総和の比率が0%より大きく50%より小さく、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間402の最小値をLmin(mm)、最大値をLmax(mm)、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間402と隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束403の平均幅をW(mm)とした時、0.01<Lmin/W<0.5、かつ0.01<Lmax/W<0.5の関係を満たすタンク101である。
【0021】
図1に、タンク101の断面図を示す。ライナー102は、円筒状の胴部と、胴部の両端に設けられた開口部に連設するドーム状の鏡部とを有する。タンク101は、内部に充填した気体を保持するため、ガスバリア性を有するアルミニウム、鋼鉄、樹脂などを用いることが好ましい。
【0022】
補強層103は、ライナー102の周囲に樹脂含浸済み繊維束を連続的に巻き付けることにより形成されたものからなり、タンク101の耐圧力を発現することができる。
【0023】
また、補強層103はライナー102側に配置されるフープ層とヘリカル層とから構成される。フープ層とヘリカル層を必要な層数、角度を組み合わせて必要な厚みになるように積層することで、必要な耐圧力を発現することができる。ここで、フープ層とヘリカル層について説明する。
【0024】
フープ層201の一例を示す概略図を
図2(a)に示す。フープ層201は樹脂含浸済み繊維束403をライナー102の円筒状の胴部に、前記ライナーの軸方向204に対して、80°以上110°以下の角度で巻き付けて積層したものである。
図2(a)に示すような積層角度で胴部の一方の端から他方の端に樹脂含浸済繊維束を巻き付けて胴部全体を覆う成形パターンをフープ巻きとし、その単位を1層とする。フープ巻きを繰り返して必要なフープ層厚みを得る。積層したフープ層201の厚みによりタンクの円周方向202の耐圧力が決まる。
【0025】
次に、ヘリカル層203の一例を示す概略図を
図2(b)に示す。ヘリカル層203は樹脂含浸済み繊維束403をライナーの軸方向204に対して、0°より大きく80°より小さい、もしくは110°より大きく180°より小さい角度で巻き付けて積層したものである。積層角度で鏡部から胴部全体を覆う成形パターンをヘリカル巻きとし、その単位を1層とする。ヘリカル巻きを繰り返して必要なヘリカル層厚みを得る。積層したヘリカル層203の厚みによりタンクの軸方向204の耐圧力が決まる。
【0026】
このようにフープ層201とヘリカル層203を組み合せて、
図3に示すようなタンク101ができあがる。
【0027】
また、本発明において、前記フープ層201のうち少なくともひとつのフープ層に前記ライナーの軸方向に対して、80°以上110°以下の角度で巻き付けられた隣り合う樹脂含浸済み繊維束の間に隙間402が設けられるとともに、ヘリカル層203において隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束403を前記ライナーの軸方向に対して、0°より大きく80°より小さい、または110°より大きく180°より小さい角度で隙間なく巻き付けられた箇所が少なくとも1ヶ所存在することが重要である。
【0028】
タンク101は破壊時の安全性を担保するために、KHKS0121(2016)に記載の通り破壊の起点は胴部であることが要求されることがある。この要求を実現するために、気体充填時に補強層103に発生する圧力について、タンクの円周方向202の圧力がタンクの軸方向204の圧力より高くなるように補強層103の厚みを設計し、破壊の起点が胴部になるようにしていることが一般的である。
【0029】
そのため、フープ層201の樹脂含浸済み繊維束403が一様に巻回されていない、すなわち、アライメントが乱れていると、樹脂含浸済み繊維束403の強度発現が不十分になり、設計どおり胴部で破壊しない場合がある。特に、ライナー102に巻き付けていく樹脂含浸済み繊維束403が重なりあうと、樹脂含浸済み繊維束403が重なった部分とそうでない部分とに張力差が生まれ、張力が低い樹脂含浸済み繊維束403がゆるんで繊維アライメントが乱れる。そのため、フープ層201に巻き付けられた隣り合う樹脂含浸済み繊維束の間に隙間402を設けることが重要である。このような構成としなければ、樹脂含浸済み繊維束403の重なりを無くすることができず、樹脂含浸済み繊維束403に張力差が生まれ繊維アライメントを整えることができない。
【0030】
さらに、ヘリカル層203において、隣り合う樹脂含浸済み繊維束403の隙間なく巻き付けられた箇所が少なくとも1ヶ所存在することが重要である。ヘリカル層203内に隙間を設けることは繊維アライメントを整える役割があるものの、隙間が多くなると連結した隙間が大きな欠陥として存在し、欠陥が起点になりタンク101の耐圧力が低下する。気体充填時において、ヘリカル層203に作用する圧力はフープ層201に比べて低いため、ヘリカル層203の繊維アライメントが乱れてもタンク101が破壊に至ることは無いため、ヘリカル層203内に隣り合う樹脂含浸済み繊維束の隙間なく巻き付けられた箇所が少なくとも1ヶ所存在させることが重要である。この構成としなければ補強層103内全体に隙間が連結することを止めることができない。
【0031】
さらに、タンク101を構成する樹脂靭性値は1.0MPa・m0.5以上であることが重要である。樹脂靭性値は1.4MPa・m0.5以上であるのが好ましい。樹脂靭性値が1.0MPa・m0.5より小さいと樹脂含浸済み繊維束403の間の隙間が破壊の起点となりタンク101の耐圧力が低下する。なお、樹脂靭性値の好ましい上限は3.0MPa・m0.5であり、2.6MPa・m0.5がより好ましい。樹脂靭性値の上限が上記好ましい範囲であると、圧力がかかった時に発生するクラックの伝播が抑えられ、タンク101に必要な耐圧性を確保することが容易となる。
【0032】
また、本発明において、前記フープ層のうち少なくともひとつのフープ層に巻き付けられた隣り合う樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間402が、前記ライナー102と接触する最内層のフープ層201にのみ設けられていることが好ましい。気体充填時にタンク補強層103に発生する圧力は外層に比べて内層が高く、ライナー102と接触する層に最も大きな圧力がかかる。そのため、破壊の起点になる、ライナー102との接触面にフープ層201を配置することが好ましい。なお、最内層に設けたフープ層201の上に設置したヘリカル層203よりも外層側の補強層は、フープ層201・ヘリカル層203ともに樹脂含浸済み繊維束403間に隙間を設ける必要はない。これは、最内層に比べて外層側の補強層にかかる圧力が低いので、樹脂含浸済み繊維束403のアライメント乱れが耐圧力に与える影響が低いためである。
【0033】
また、本発明において、内殻であるライナー102の胴部表面積に対する、前記フープ層201に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束403の間に設けられた前記隙間から露出する面積(以下、「繊維束間の隙間面積」ということがある)の総和の比率が、0%より大きく50%より小さくなるように存在している。前記比率が0.01%より大きく、45%より小さいことがより好ましい。上記比率が上記範囲であると、フープ層201に隙間を確保することができる一方、フープ層201の隙間が大きな欠陥になり難く、耐圧力の低下を有効に防止できる。
【0034】
ここで、
図4を用いて繊維束間の隙間面積と内殻であるライナー102の胴部面積の測定方法を説明する。ライナー102はタンク直胴部と曲面との境目の線であるタンジェントライン401の内側にある円筒状の胴部と前記胴部の両端に設けられた開口部に連設するドーム状の鏡部とから構成されている。ライナー102の胴部面積はタンジェントライン401の内側の円筒状の胴部面積であり、樹脂含浸済み繊維束の間の隙間402の面積は前記胴部面積から樹脂含浸済み繊維束403の巻き付け面積を引いたものである。前記これら面積はライナー102に樹脂含浸済み繊維束403を巻き付けている時にフィラメントワインディング成形機を一時停止して測定することができる。ライナー102の外観画像を取得した後、画像ソフトやメジャーを使用して繊維束間の隙間面積と内殻であるライナーの胴部面積を算出する。画像で面積を算出する場合、色調差などのアルゴリズムを使用した自動プログラムでも良いし、目視で画像をトリミングしても良い。また、一つの画像でライナー102全体が写っている必要は無く、複数の画像を連結しても良い。なお、成形中に樹脂含浸済み繊維束の間の隙間402の測定ができない場合、硬化後のタンクを分解して樹脂含浸済み繊維束403の幅と樹脂含浸済み繊維束の間の隙間402を測定してもよい。具体的には、タンク101をタンクの軸方向204に切断してライナー102と補強層103を分離させた後に、ライナー102側から補強層103の画像を取得し、繊維束間の隙間面積と内殻であるライナー102の胴部面積を算出する。なお、補強層103の形態が保持されるのであれば、層間に力を加えたり、熱を加えて樹脂を焼き飛ばしたりして補強層103を分離してもよい。
【0035】
また、本発明において、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間402の最小値をLmin(mm)、前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間402の最大値をLmax(mm)、前記フープ層に巻き付けられた隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束の間に設けられた前記隙間402と隣り合う前記樹脂含浸済み繊維束403の平均幅をW(mm)とした時、0.01<Lmin/W<0.5、かつ0.01<Lmax/W<0.5の関係を満たす。Lmin/WとLmax/Wが上記下限を満たす場合、巻き付けた樹脂含浸済み繊維束403のゆるみによる糸幅変動や硬化中の樹脂染み出しによる樹脂含浸済み繊維束403の位置移動によっても、樹脂含浸済み繊維束403が重なる場所ができ難く、安定して樹脂含浸済み繊維束の間の隙間402が形成される。また、Lmin/WとLmax/Wが上記上限を満たす場合、樹脂含浸済み繊維束の間の隙間402が大きな欠陥になり難く、耐圧力が低下するのを有効に防止できる。Lmin/Wの下限は0.05より大であるのが好ましい。Lmax/Wの下限は0.05より大であるのが好ましく、0.06より大であるのがより好ましい。Lmin/Wの上限は0.45より小さいのが好ましく、0.4より小さいのがより好ましい。Lmax/Wの上限は0.45より小さいのが好ましく、0.4より小さいのがより好ましい。
【0036】
ここで、
図5を用いて樹脂含浸済み繊維束の間の隙間402と樹脂含浸済み繊維束403の幅の測定方法について説明する。樹脂含浸済み繊維束の間の隙間402と樹脂含浸済み繊維束403の幅は、ライナー102に樹脂含浸済み繊維束403を巻き付けている時にフィラメントワインディング成形機を一時停止して測定することができる。目視で、樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最大のもの(以下、「最大の隙間」ということがある)601を見つけて、隙間を計測する。隙間が測定できる限り、ノギスやレーザー計など方法に制限はない。見つけた最大の隙間を起点にしながらライナーの軸方向204に沿って樹脂含浸済み繊維束の間の隙間402を観察し、前記最大の隙間601の幅をLmaxとし、前記最大の隙間601と同一軸方向204における樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最小のもの(以下、「最小の隙間」ということがある)603の幅をLminとする。続いて、前記最大の隙間601と隣り合う樹脂含浸済み繊維束403の幅を(2か所)測定するとともに、同様の方法で最小の隙間603と隣り合う樹脂含浸済み繊維束403の幅も測定する。それら幅の4点の測定値を平均して樹脂含浸済み繊維束403の平均幅Wとする。そして、得られたLminとLmax、Wを用いて、Lmin/WとLmax/Wを計算する。ここで、ライナーの軸方向204に沿って樹脂含浸済み繊維束間に重なり605がある場合、Lminを0と定義する。ここでLminが0の場合、樹脂含浸済み繊維束403の平均幅Wは最大隙間と隣り合う樹脂含浸済み繊維束403のみの幅(2か所)の平均値とする。さらに、最大樹脂含浸済み繊維束の隙間の両端の樹脂含浸み繊維束403に隙間が無い場合、樹脂含浸済み繊維束403の平均幅Wは無しと定義する。なお、樹脂含浸済み繊維束403の平均幅Wが無しの場合、測定した場所でのLmin/WとLmax/Wはともに値無しとする。続いて、測定の起点にした隙間からライナー円周方向202におおよそ1°回転移動した地点を起点とし、その起点からライナーの軸方向204に沿って、前述した方法でLmin/WおよびLmax/Wを測定する。この測定をライナーの円周方向202全周に対して繰り返し、得られたすべての測定値の中で、最小のLmin/Wと最大のLmax/Wを求める。なお、すべての測定場所において、樹脂含浸済み繊維束403に隙間が無い場合は、Lmin/WとLmax/Wともに0と定義する。
【0037】
また、本発明において、フープ層201に設けられた樹脂含浸済み繊維束の間の隙間402に関して、隙間が無く巻き付けられた箇所が1ヶ所以上存在することが重要である。フープ層201に隙間を設けると、樹脂含浸済み繊維束403の重なりが無くなるため、樹脂含浸済み繊維束403に一様な張力がかかり繊維アライメントを整えることができるものの、圧力がかかった時に発生するクラックがタンク101全体に伝播し、低い圧力で破壊する場合がある。そのため、隙間が無く巻き付けられた箇所を1ヶ所以上存在させないと、クラックの伝搬が抑制されず、タンク101の耐圧性を向上させることができない。
【0038】
また、本発明において、補強層103に含まれる前記樹脂の重量割合(=樹脂含浸済み繊維束403中のマトリックス樹脂重量/樹脂含浸済み繊維束403全体重量)は21~30%であることが好ましい。補強層103に含まれる前記樹脂の重量割合は22.5~28.5%がより好ましい。補強層103に含まれる前記樹脂の重量割合が上記好ましい範囲であると、樹脂含浸済み繊維束403内の樹脂量が十分で、樹脂含浸済み繊維束403間に設けた隙間が空隙として残り難く、耐圧力が低下するのを有効に防止できる一方、ライナーに巻き付けた際に樹脂含浸済み繊維束403が広がり難く、安定して隙間を形成することが容易となる。
【0039】
また、本発明に使用する樹脂粘度は、25℃での樹脂粘度が10~150Pa・sであることが好ましい。前記樹脂粘度が上記好ましい範囲であると、ライナーに巻き付けた際に樹脂含浸済み繊維束403が広がり難く安定して隙間を形成することが容易となる一方、樹脂の含浸が容易で、樹脂含浸済み繊維束403間に設けた隙間が空隙として残り難く、耐圧力が低下するのを有効に防止できる。
【0040】
ここで、本発明で使用する繊維束と樹脂について説明する。
【0041】
本発明において用いられる繊維束を構成する繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、黒鉛繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維等が挙げられる。これらの強化繊維を2種以上混合して用いることも可能である。より高強度の成形品を得るために、繊維束に炭素繊維を用いることが好ましい態様である。
【0042】
本発明においては、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であるが、高強度を有する成形品を得られることからJIS R 7601(1986)に記載の方法によるストランド引張試験における引張弾性率が3~8GPaの炭素繊維が好ましく用いられる。
【0043】
また本発明で用いられる樹脂としては、液状の樹脂が好ましく用いられる。具体的には、タンクに必要な耐熱性や耐環境性能を得るために、エポキシ樹脂と、硬化剤とを含むエポキシ樹脂組成物であることが好ましい。また、硬化時間を短縮させるために、硬化触媒を適宜加えることも可能である。
【0044】
本発明で用いられるフィラメントワインディング成形装置の一例を
図6に示す。
図6は、本発明のタンクの製造方法における成形フローの一例の全体構成を説明する概略図である。
【0045】
成形フロー701は、主として、ボビン702から繊維束703の送出工程を担うクリールローラ704と、繊維束703に樹脂を含浸させる樹脂含浸工程を担う樹脂含浸ローラ705と樹脂含浸槽706とガイドローラ707を含む樹脂含浸部、樹脂を含浸させた繊維束703を巻き付ける巻付工程を担うフィードアイ708、ライナー102および成形装置とライナー102を接続する固定軸709が、この順で配置されていることを示している。なお、
図7では1本のボビン702のみを図示しているが、これに限定されるものではなく、複数のボビン702を配置することができる。
【0046】
ボビン702として、あらかじめ別工程で樹脂を含浸させたトウプレグを使用してもよい。トウプレグを使用する場合は、樹脂含浸工程を省くことができる。
【0047】
本発明で製造されるタンクは、水素ガス自動車や天然ガス自動車に限らず、船舶と航空機等、および、地上に固定されて使用される据え置き型や病院や消防士が使用する空気呼吸器等に好適に用いられる。また、このタンクで保管される物質としては、窒素、酸素、アルゴン、液化石油ガスおよび水素等の気体であってもよいし、前記物質を液化したもの等が挙げられる。
【実施例】
【0048】
<タンクに使用する樹脂の破壊靭性値の評価方法>
タンクに使用する硬化前の樹脂を真空中で脱泡した後、6mm厚の“テフロン(登録商標)”製スペーサーにより厚み6mmになるように設定したモールド中で、実施例および比較例に記載の時間と温度で硬化させ、厚さ6mmの樹脂硬化板を得た。得られた樹脂硬化板を、ASTM D5045-99に記載の試験片形状に加工を行った後、ASTM D5045-99に従ってSENB試験を実施した。この際、サンプル数n=16とし、その平均値を破壊靭性値として採用した。
【0049】
<タンクに使用する樹脂粘度の評価方法>
タンクに使用する硬化前の樹脂の粘度を、JIS Z8803(2011)における「円すい-平板形回転粘度計における粘度測定方法」に従い、標準コーンローター(1°34’×R24)を装着したE型粘度計(東機産業(株)製 TVE-22HT)を使用して、25℃で設定した状態で、回転速度5回転/分で測定した粘度の、5回の平均値を採用した。
【0050】
<トウプレグの作製方法>
クリール、キスロール、ニップロール、ワインダーを備えたトウプレグ製造装置を用いて、炭素繊維“トレカ”(登録商標)の片面に、25℃の温度に調整した樹脂組成物を塗工した後、ニップロールを通過させることで前記樹脂組成物を繊維束内部まで含浸してトウプレグを得た。トウプレグのボビンは、初期張力を600~1000gf、ワインド比を6~10として、巻き幅が230~260mmの円筒型となるよう、2300mを紙管に巻き取った。
【0051】
<繊維束間の隙間面積と内殻であるライナーの胴部面積の測定方法>
成形中にフィラメントワインディング成形機を一時停止した後に、カメラ(IXY650、Canon製)で樹脂含浸済み繊維束を巻き付けたライナーの写真を取得する。この作業を、ライナーを90°、180°、270°と円周方向に回転させる毎に実施し、写真を取得する。取得した画像を画像処理ソフトImageJ(http://imagej.nih.gov/ij/)で読み込み、目視で樹脂含浸済み繊維束部分を判別しながら同ソフトのpolygonとMeasureを使い面積を算出する。続いて、同様の方法で画像からライナーの胴部面積を算出する。その後、ライナー胴部面積から樹脂含浸済み繊維束面積を引いて繊維束間の隙間面積を計算する。同様の処理を行い、取得した残りの画像から繊維束間の隙間面積とライナーの胴部面積を算出する。最後に、算出した面積を平均して取得した残りの画像から繊維束間の隙間面積とライナーの胴部面積とした。
【0052】
<樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最小値Lmin、同隙間の最大値Lmax、前記隙間と隣り合う樹脂含浸済み繊維束の平均幅Wの算出>
成形中にフィラメントワインディング成形機を一時停止した後に、目視で最大個所を見つけ出し、ノギス(ポケットノギス100mm、シンワ測定製)で前記箇所の幅を測定する。その隙間を起点にしながらライナーの軸方向に沿って樹脂含浸済み繊維束の隙間を観察し、樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最大値(Lmax)と、樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最小値(Lmin)を測定した。続いて、そして、Lmaxと隣り合う樹脂含浸済み繊維束の幅(2か所)を測定するとともに、同様の方法でLminと隣り合う樹脂含浸済み繊維束の幅も測定する。それら幅の4点の測定値を平均して樹脂含浸済み繊維束の平均幅Wとする。ただし、測定箇所に繊維束の間の隙間の最小値(Lmin)がない場合はその隙間を0とし、また、樹脂含浸済み繊維束の平均幅は最大の隙間と隣り合う樹脂含浸済み繊維束の幅(2か所)のみの平均値とする。また、樹脂含浸済み繊維束の隙間の最大値の両端の樹脂含浸済み繊維束に隙間が無い場合、樹脂含浸済み繊維束の平均幅は無しと定義する。なお、樹脂含浸済み繊維束の平均幅が無しの場合、測定した場所でのLmin/WとLmax/Wはともに値無しとし、測定結果に含めない。続いて、起点にした隙間からライナー円周方向におおよそ1°回転移動した地点を起点とし、その起点からライナーの軸方向に沿って樹脂含浸済み繊維束の隙間を観察し、樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最大値をLmaxとし、樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最小値をLminとする。そして、前述した方法で樹脂含浸済み繊維束の幅Wを測定し、Lmin/WとLmax/Wを計算する。この測定をライナー円周全体に対して繰り返し、得られた結果の中で、最大のLmax/Wと最小のLmin/Wを算出する。なお、測定範囲の全周において、樹脂含浸済み繊維束に隙間が無い場合は、Lmin/W、Lmax/Wともに0と定義する。
【0053】
<強度利用率の計算方法>
KHKS0121(2005)に記載の方法で、タンク中に水圧を付与して破裂試験を行い、破裂時の圧力を計測した。MIL-HDBK-17-3F Volume 3 of 5 17 HUNE 2002 5.3.5.3.1(e)式に従い、タンクの強度を計算(以下、計算強度)し、次の計算式によりタンクの強度利用率を算出した。
【0054】
強度利用率(%)=(破裂時の圧力/計算強度)×100
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
(実施例1)
“jER(登録商標)”828を88質量部、“デコナール(登録商標)”EX821を12質量部、末端カルボキシ変性アクリルゴムとして、“Hypro(登録商標)”1300×8を4質量部、“カネエース(登録商標)”MX125を17質量部、ジシアンジアミドとしてDICY7Tを7.4質量部、芳香族ウレア化合物としてDCMU99を2.7質量部,攪拌・混合して樹脂組成物を得た。
【0055】
この樹脂組成物について、「タンクに使用する樹脂の破壊靭性値の評価方法」に従い、破壊靭性値を評価したところ2.1MPa・m0.5であった。この樹脂組成物と炭素繊維“トレカ(登録商標)”T910SC-36K-50Cを用いて樹脂含有量が24%のトウプレグを作成した。なお、使用した炭素繊維のストランド強度は6200MPaであった。フィラメントワインディング成形装置に、外径160mmの7.5Lのアルミニウム製ライナーを設置し、前記トウプレグをライナー全体に巻きつけた。第1層として、ライナーの軸方向に対して89°、91°をなすフープ層を厚み0.79mm巻き付けた。この時、隣り合うトウプレグが重ならないように配置することにより、第一層に周期的な隙間を設けた。この時、Lmin/WとLmax/Wを「樹脂含浸済み繊維束間隙間の最小値Lmin、同隙間の最大値Lmax、前記隙間と隣り合う樹脂含浸済み繊維束の平均幅Wの算出」に従い算出したところ、Lmin/Wが0.1、Lmax/Wが0.44であった。第2層として、ライナーの軸方向に対して18°、162°をなすヘリカル層を厚み1.07mm巻き付けた。さらに、第3層として、ライナーの軸方向に対して89°、91°をなすフープ層を0.52mm巻き付け、中間体を得た。前記中間体を硬化炉中で回転させながら、150℃、2時間で硬化させてタンクを得た。
【0056】
得られたタンクの強度利用率を「強度利用率の計算方法」に従い算出した。強度利用率は98.3%、破裂圧力は71.5MPa、計算強度は72.7MPaであった。
【0057】
(実施例2)
“jER(登録商標)”828を21質量部、“jER(登録商標)”806を67質量部、“エポトート(登録商標)”YDF-2001を5質量部、キシレンジアミン型エポキシ樹脂としてTETRAD-Xを7質量部、“カネエース(登録商標)”MX-125を7質量部、ジシアンジアミドとしてDICY7Tを5質量部、芳香族ウレア化合物としてDCMU99を4質量部、攪拌・混合して樹脂組成物を得た。
【0058】
この樹脂組成物について、「タンクに使用する樹脂の破壊靭性値の評価方法」に従い、破壊靭性値を評価したところ1.6MPa・m0.5であった。この樹脂組成物と炭素繊維“トレカ(登録商標)”T720SC-36K-50Cを用いて樹脂含有量が24%のトウプレグを作成した。なお、使用した炭素繊維のストランド強度は5800MPaであった。フィラメントワインディング成形装置に、外径160mmの7.5Lのアルミニウム製ライナーを設置し、前記トウプレグをライナー全体に巻きつけた。第1層として、ライナーの軸方向に対して89°、91°をなすフープ層を厚み0.79mm巻き付けた。この時、Lmin/WとLmax/Wを「樹脂含浸済み繊維束間隙間の最小値Lmin、同隙間の最大値Lmax、前記隙間と隣り合う樹脂含浸済み繊維束の平均幅Wの算出」に従い算出したところ、Lmin/Wが0.19、Lmax/Wが0.45であった。第2層として、ライナーの軸方向に対して18°、162°をなすヘリカル層を厚み1.07mm巻き付けた。さらに、第3層として、ライナーの軸方向に対して89°、91°をなすフープ層を0.52mm巻き付け、中間体を得た。前記中間体を硬化炉中で回転させながら、110℃、10時間で硬化させてタンクを得た。
【0059】
得られたタンクの強度利用率を「強度利用率の計算方法」に従い算出した。強度利用率は108.5%、破裂圧力は73.8MPa、計算強度は68.0MPaであった。
【0060】
(実施例3)
第1層のフープ層の樹脂含浸済み繊維束を0.5mmずつ隙間を開けて成形した以外は実施例1と同じ方法でタンクを作製した。この時、樹脂含浸済み繊維束の幅ばらつきにより、第1層のフープ層内に、繊維束が重なっている“隙間がない箇所”が5か所できた。この時、Lmin/WとLmax/Wを「樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最小値Lmin、同隙間の最大値Lmax、前記隙間と隣り合う樹脂含浸済み繊維束の平均幅Wの算出」に従い算出したところ、Lmin/Wが0、Lmax/Wが0.1であった。
【0061】
続いて、得られたタンクの強度利用率を「強度利用率の計算方法」に従い算出した。強度利用率は102.1%、破裂圧力は74.2MPa、計算強度は72.7MPaであった。
【0062】
(比較例1)
第1層のフープ層の樹脂含浸済み繊維束を2.5mmずつ重ねて成形した以外は実施例1と同じ方法でタンクを作製した。この時、第1層のフープ層内に隙間が無かったので「樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最小値Lmin、同隙間の最大値Lmax、前記隙間と隣り合う樹脂含浸済み繊維束の平均幅Wの算出」の定義に従い、Lmin/W、Lmax/Wともに0とした。
【0063】
得られたタンクの強度利用率を「強度利用率の計算方法」に従い算出した。強度利用率は90.6%、破裂圧力は65.9MPa、計算強度は72.7MPaであり、樹脂含浸済み繊維束の重なりがあると強度利用率が下がる結果となった。
【0064】
(比較例2)
“jER(登録商標)”828を75質量部、GAN(日本火薬工業製)を40質量部、硬化剤としてDICY7T(三菱ケミカル製)を8質量部、硬化助剤としてDCMUを2質量部、攪拌・混合して樹脂組成物を得た。
【0065】
この樹脂組成物について、「タンクに使用する樹脂の破壊靭性値の評価方法」に従い、破壊靭性値を評価したところ0.72MPa・m0.5であった。この樹脂組成物と炭素繊維“トレカ(登録商標)”T720SC-36K-50Cを用いて樹脂含有量が24%のトウプレグを作成した。なお、使用した炭素繊維のストランド強度は5800MPaであった。フィラメントワインディング成形装置に、外径160mmの7.5Lのアルミニウム製ライナーを設置し、前記トウプレグをライナー全体に巻きつけた。第1層として、ライナーの軸方向に対して89°、91°をなすフープ層を厚み0.79mm巻き付けた。この時、Lmin/WとLmax/Wを「樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最小値Lmin、同隙間の最大値Lmax、前記隙間と隣り合う樹脂含浸済み繊維束の平均幅Wの算出」に従い算出したところ、Lmin/Wが0.09、Lmax/Wが0.32であった。第2層として、ライナーの軸方向に対して18°、162°をなすヘリカル層を厚み1.07mm巻き付けた。さらに、第3層として、ライナーの軸方向に対して89°、91°をなすフープ層を0.52mm巻き付け、中間体を得た。前記中間体を硬化炉中で回転させながら、110℃、10時間で硬化させてタンクを得た。
【0066】
得られたタンクの強度利用率を「強度利用率の計算方法」に従い算出した。強度利用率は79.0%、破裂圧力は53.7MPa、計算強度は68.0MPaであり、樹脂含浸済み繊維束間に隙間がある場合、破壊靭性値が低いと強度利用率が下がる結果になった。
【符号の説明】
【0067】
101:タンク
102:ライナー
103:補強層
201:フープ層
202:円周方向
203:ヘリカル層
204:タンク軸方向
401:タンジェントライン
402:樹脂含浸済み繊維束の間の隙間
403:樹脂含浸済み繊維束
601:樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最大のもの
602:ライナー軸方向
603:601と同一軸方向における樹脂含浸済み繊維束の間の隙間の最小のもの
604:ライナー円周方向
605:樹脂含浸済み繊維束の重なり
701:成形フロー
702:ボビン
703:繊維束
704:クリールローラ
705:樹脂含浸ローラ
706:樹脂含浸槽
707:ガイドローラ
708:フィードアイ
709:固定軸