(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F02B 37/00 20060101AFI20250408BHJP
F02B 37/24 20060101ALI20250408BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20250408BHJP
F02B 37/007 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
F02B37/00 400C
F02B37/24
F02D23/00 N
F02B37/007
(21)【出願番号】P 2022002116
(22)【出願日】2022-01-11
【審査請求日】2024-04-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】岡村 昌明
【審査官】村山 美保
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-122467(JP,A)
【文献】特開2008-190412(JP,A)
【文献】特開2009-275644(JP,A)
【文献】特開2003-120354(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0118166(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/00
F02B 37/24
F02D 23/00
F02B 37/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気経路から流入する吸気を用いて燃焼室にて燃料を燃焼させ、且つ前記燃焼室にて発生した排気を排気経路に排出させる内燃機関と、
前記排気経路に介装された第1タービン、前記吸気経路に介装され且つ前記第1タービンと連動して回転する第1コンプレッサ、前記第1タービンの回転速度を上昇させる場合に第1制御パラメータが増加させられる第1タービンアクチュエータを有する第1過給機と、
前記第1過給機と同型且つ同サイズであり、前記排気経路に介装された第2タービン、前記吸気経路に介装され且つ前記第2タービンと連動して回転する第2コンプレッサ、前記第2タービンの回転速度を上昇させる場合に第2制御パラメータが増加させられる第2タービンアクチュエータを有する第2過給機と、
に適用される内燃機関の制御装置であって、
前記吸気経路に流入した空気である吸入空気が前記第1コンプレッサ及び前記第2コンプレッサのそれぞれに流入し、前記第1コンプレッサ及び前記第2コンプレッサによって圧送された加圧空気が合流して前記燃焼室に流入するように前記吸気経路が構成され、且つ前記燃焼室から排出された前記排気が前記第1タービン及び前記第2タービンのそれぞれに流入するように前記排気経路が構成されているときに成立するパラレルターボ条件が成立しているとき、
前記加圧空気の圧力の目標値に応じて決定される値である目標パラメータ値を取得し、且つ前記第1制御パラメータ及び前記第2制御パラメータを前記目標パラメータ値に設定する空気量均等処理を実行し、
前記パラレルターボ条件が成立し、且つ、前記第1コンプレッサ及び前記第2コンプレッサの一方において、流入する空気量が前記吸入空気の圧力に対する前記加圧空気の圧力の比率である圧縮圧力比に対して定まる必要空気量よりも小さくなると予測されたとき、
前記目標パラメータ値及びオフセット値を取得し、前記第1制御パラメータ及び前記第2制御パラメータのうちの前記一方に対応するパラメータを前記目標パラメータ値よりも前記オフセット値だけ大きい値に設定し、且つ前記第1制御パラメータ及び前記第2制御パラメータのうちの他方のパラメータを前記目標パラメータ値よりも前記オフセット値だけ小さい値に設定する空気量相違処理を実行する、
制御部を備える内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
前記制御部は、
前記内燃機関の回転速度が大きいほど前記オフセット値を大きな値に設定し、且つ前記燃焼室内に噴射される前記燃料の量が多いほど前記オフセット値を大きな値に設定する、
内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、
前記第1タービンアクチュエータ及び前記第2タービンアクチュエータのそれぞれは、
前記第1タービン又は前記第2タービンに前記排気を導く流路の閉度を制御するノズルベーンを有する可変ノズル装置であり、
前記第1制御パラメータ及び前記第2制御パラメータのそれぞれは、
前記ノズルベーンの状態が全開状態から全閉状態に近づくほど大きくなるパラメータである、
内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。例えば、互いに並列に配置される2つの過給機を備える内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに並列に配置される2つの過給機を備える内燃機関が知られている。2つの過給機の作動状態は、一般に、一方の過給機(第1過給機)のみが作動するシングルターボ状態と、他方の過給機(第2過給機)も作動するパラレルターボ状態と、の間で切換えられる。
【0003】
過給機の作動状態がパラレルターボ状態であるとき、内燃機関の燃焼室から排出された排気(燃焼ガス)の一部が第1過給機のタービン(第1タービン)に流入し、他の排気が第2過給機のタービン(第2タービン)に流入する。一方、吸気経路を流れる空気(吸気)の一部が第1過給機のコンプレッサ(第1コンプレッサ)に流入し、他の吸気が第2過給機のコンプレッサ(第2コンプレッサ)に流入する。第1コンプレッサから圧送された吸気、及び第2コンプレッサから圧送された吸気が共に燃焼室に流入する。
【0004】
例えば、特許文献1に記載された過給システムでは、第1コンプレッサに流入する吸入空気量と、第1コンプレッサの入口圧力に対する出口圧力(即ち、過給圧)の比である圧縮圧力比と、に基づいてシングルターボ状態及びパラレルターボ状態の何れかが選択される。その結果、排気から得られるエネルギー量(排気エネルギー量)が比較的小さいときにはシングルターボ状態が選択されるので、内燃機関に導入される吸気の圧力(即ち、過給圧)の応答性が向上する。即ち、所謂ターボラグが大きくなることが回避される。一方、排気エネルギー量が比較的大きいときにはパラレルターボ状態が選択されるので、2つの過給機を用いて内燃機関の燃焼室に導入される吸気量を増加させることが可能となる。
【0005】
加えて、当該過給システムにおいて、第1タービン及び第2タービンのそれぞれは、可変ノズル機構を備えている。可変ノズル機構は複数のノズルベーンを備え、各ノズルベーンの回転角度に応じてノズル閉度(即ち、ノズルベーンが排気経路を閉じる度合い)が変化する。ノズル閉度が上昇するほど排気経路が絞られ、タービンに導入される排気の流速が上昇するので、タービンの回転速度が上昇する。即ち、タービンに供給される排気エネルギー量が大きくなる。従って、第1タービン及び第2タービンのノズル閉度を制御することによって第1コンプレッサ及び第2コンプレッサの作動状態を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
第1コンプレッサ及び第2コンプレッサのそれぞれから圧送された吸気が合流して燃焼室に流入する場合、2つのコンプレッサの出口圧力は互いに略等しい。加えて、第1コンプレッサ及び第2コンプレッサの入口圧力は、大気圧と略等しい。そのため、2つのコンプレッサの圧縮圧力比は、互いに略等しい。
【0008】
加えて、第1タービン及び第2タービンのノズル閉度が互いに等しければ、2つのタービンに導入される排気の流速(即ち、タービンに供給される排気エネルギー量)が互いに略等しくなる。そのため、2つのタービンの回転速度が互いに略等しくなり、その結果、2つのコンプレッサの吸入空気量が互いに略等しくなる。即ち、この場合、第1コンプレッサ及び第2コンプレッサのそれぞれの吸入空気量と圧縮圧力比との組合せ(即ち、コンプレッサの動作点)が互いに略等しくなる。第1タービン及び第2タービンのノズル閉度を互いに等しい値に設定する処理は、以下、「空気量均等処理」とも称呼される。
【0009】
ところで、コンプレッサの吸入空気量が、圧縮圧力比に対して定まる必要空気量よりも小さいと、所謂サージングが発生する可能性が高くなる。加えて、第1過給機及び第2過給機がパラレルターボ状態にて作動しているとき、第1コンプレッサの必要空気量と第2コンプレッサの必要空気量とが互いに異なる場合がある。即ち、サージングが発生する条件が、第1コンプレッサと第2コンプレッサとで異なる場合がある。換言すれば、サージングが発生する可能性が高くなる吸入空気量と圧縮圧力比との組合せ(即ち、コンプレッサの動作点)の集合であるサージラインが、第1コンプレッサと第2コンプレッサとで互いに異なる場合がある。
【0010】
例えば、2つの同型且つ同サイズのコンプレッサが内燃機関に対して並列に配置されても、第1コンプレッサに至る吸気通路と第2コンプレッサに至る吸気通路とが互いに異なっていると、2つのコンプレッサのサージラインが互いの異なる可能性がある。具体的には、吸気経路が2つに分岐して第1コンプレッサ及び第2コンプレッサに至る場合、分岐した2つの経路に含まれる湾曲部の数及び直線区間の長さ等が互いに異なると、サージラインが互いに異なる可能性がある。
【0011】
第1コンプレッサ及び第2コンプレッサのサージラインが互いに異なっている場合、2つのコンプレッサの動作点が互いに略等しければ、一方のコンプレッサのみにてサージングが発生する可能性が高い状況が発生し得る。即ち、空気量均等処理が実行されているとき、一方のコンプレッサにてサージングが発生する可能性が高く、且つ他方のコンプレッサにてサージングが発生する可能性は低い状況が発生し得る。
【0012】
一方のコンプレッサにてサージングが発生しないように他方のコンプレッサの作動状態も制御されると、当該他方のコンプレッサについて、コンプレッサマップ上の使用されない運転領域が発生する。この運転領域は、具体的には、一方のコンプレッサのサージラインよりも上方にあり、且つ他方のコンプレッサのサージラインよりも下方にある領域である。そのため、パラレルターボ状態であるときに空気量均等処理が常に実行されると、この運転領域に当該他方のコンプレッサの動作点が含まれないように2つの過給機が制御され、その結果、当該他方のコンプレッサの過給能力を充分に発揮させられない虞がある。
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載された過給システムにおいて、2つのコンプレッサのサージラインが互いに異なる場合であっても2つのコンプレッサのそれぞれに過給能力を充分に発揮させることは考慮されていなかった。
【0014】
本発明は、このような点に鑑みて創案されたものであり、パラレルターボ状態にある2つの過給機が備える、サージラインが互いに異なる2つのコンプレッサのそれぞれに過給能力を充分に発揮させることを可能とする内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の第1の発明に係る内燃機関の制御装置は、内燃機関、第1過給機、及び第2過給機に適用される。前記内燃機関は、吸気経路から流入する吸気を用いて燃焼室にて燃料を燃焼させ、且つ前記燃焼室にて発生した排気を排気経路に排出させる。前記第1過給機は、前記排気経路に介装された第1タービン、前記吸気経路に介装され且つ前記第1タービンと連動して回転する第1コンプレッサ、前記第1タービンの回転速度を上昇させる場合に第1制御パラメータが増加させられる第1タービンアクチュエータを有する。前記第2過給機は、前記第1過給機と同型且つ同サイズであり、前記排気経路に介装された第2タービン、前記吸気経路に介装され且つ前記第2タービンと連動して回転する第2コンプレッサ、前記第2タービンの回転速度を上昇させる場合に第2制御パラメータが増加させられる第2タービンアクチュエータを有する。
【0016】
内燃機関の制御装置は、前記吸気経路に流入した空気である吸入空気が前記第1コンプレッサ及び前記第2コンプレッサのそれぞれに流入し、前記第1コンプレッサ及び前記第2コンプレッサによって圧送された加圧空気が合流して前記燃焼室に流入するように前記吸気経路が構成され、且つ前記燃焼室から排出された前記排気が前記第1タービン及び前記第2タービンのそれぞれに流入するように前記排気経路が構成されているときに成立するパラレルターボ条件が成立しているとき、前記加圧空気の圧力の目標値に応じて決定される値である目標パラメータ値を取得し、且つ前記第1制御パラメータ及び前記第2制御パラメータを前記目標パラメータ値に設定する空気量均等処理を実行し、前記パラレルターボ条件が成立し、且つ、前記第1コンプレッサ及び前記第2コンプレッサの一方において、流入する空気量が前記吸入空気の圧力に対する前記加圧空気の圧力の比率である圧縮圧力比に対して定まる必要空気量よりも小さくなると予測されたとき、前記目標パラメータ値及びオフセット値を取得し、前記第1制御パラメータ及び前記第2制御パラメータのうちの前記一方に対応するパラメータを前記目標パラメータ値よりも前記オフセット値だけ大きい値に設定し、且つ前記第1制御パラメータ及び前記第2制御パラメータのうちの他方のパラメータを前記目標パラメータ値よりも前記オフセット値だけ小さい値に設定する空気量相違処理を実行する、制御部を備える。
【0017】
本発明の第2の発明は、上記第1の発明に係る内燃機関の制御装置において、前記制御部は、前記内燃機関の回転速度が大きいほど前記オフセット値を大きな値に設定し、且つ前記燃焼室内に噴射される前記燃料の量が多いほど前記オフセット値を大きな値に設定する。
【0018】
本発明の第3の発明は、上記第1の発明又は第2の発明に係る内燃機関の制御装置において、前記第1タービンアクチュエータ及び前記第2タービンアクチュエータのそれぞれは、前記第1タービン又は前記第2タービンに前記排気を導く流路の閉度を制御するノズルベーンを有する可変ノズル装置であり、前記第1制御パラメータ及び前記第2制御パラメータのそれぞれは、前記ノズルベーンの状態が全開状態から全閉状態に近づくほど大きくなるパラメータである。
【発明の効果】
【0019】
第1の発明に係る内燃機関の制御装置は、第1コンプレッサ及び第2コンプレッサの一方にのみサージングが発生する可能性が高くなると予測(判定)されたとき、当該一方のコンプレッサの吸入空気量を増加させる一方、他方のコンプレッサの吸入空気量を減少させる。そのため、当該他方のコンプレッサの過給能力を活用しながら、当該一方のコンプレッサにおけるサージングの発生を回避することが可能となる。従って、第1の発明によれば、サージラインが互いに異なる2つのコンプレッサのそれぞれ過給能力を充分に発揮させられる可能性が高くなる。
【0020】
第2の発明において、一方のコンプレッサにのみサージングが発生する可能性が高くなると予測されたとき、当該一方のコンプレッサにおけるサージングの発生を回避するために必要となる目標パラメータ値を機関回転速度及び燃料噴射量に基づいて決定される。換言すれば、第2の発明によれば、サージングの発生回避に必要となる、当該一方のコンプレッサと連動するタービンに供給される排気エネルギー量の増加量に相当する目標パラメータ値を、簡易な処理により取得することが可能となる。
【0021】
第3の発明によれば、ノズルベーンが閉じるほど大きくなる値(ノズル閉度)を第1制御パラメータ及び第2制御パラメータとして調整することにより、第1タービン及び第2タービンに供給される排気エネルギー量を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係る内燃機関の制御装置が適用されるエンジンシステムの概略構成図である。
【
図2】過給機が備えるコンプレッサの動作点が示されるコンプレッサマップである。
【
図3】ノズルオフセット量を機関回転速度及び噴射量に基づいて決定するためのマップである。
【
図4】コンプレッサの空気量及び圧力比、並びにタービンのノズル閉度の変化を示すタイムチャートである。
【
図5】内燃機関の制御装置が実行する「過給機制御処理ルーチン」を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態を
図1~
図5を参照しながら説明する。説明中の同じ参照番号は、重複する説明をしないが同じ機能を有する同じ要素を意味する。本発明に係る内燃機関の制御装置は、
図1に示されるエンジンシステム1に適用される。エンジンシステム1は、内燃機関2、第1過給機3、第2過給機4、吸気システム5、排気システム6、及び、制御部であるECU7を含んでいる。
【0024】
本実施形態における内燃機関2は、図示しない車両に駆動力源として搭載された多気筒ディーゼル機関である。内燃機関2は、複数の燃料噴射弁21を含んでいる。燃料噴射弁21のそれぞれは、ECU7からの指示に応じて図示しないコモンレール装置の蓄圧室から供給される高圧の燃料を燃焼室(気筒)内に噴射する。
【0025】
第1過給機3は、第1タービン31、第1可変ノズル機構32及び第1コンプレッサ33を含んでいる。第1タービン31は、内燃機関2の燃焼室から排出された排気(燃焼ガス)の圧力によって作動(回転)する。第1可変ノズル機構32は、第1タービン31に流入する排気の絞り機構であるノズルベーンを備えている。
【0026】
具体的には、第1可変ノズル機構32が備えるノズルベーンの回転位置である第1ノズル閉度Vn1に応じて第1タービン31における排気流路の閉度(即ち、排気流路が閉じられる度合い)が変化する。第1可変ノズル機構32はアクチュエータを含み、ECU7からの指示に応じて第1ノズル閉度Vn1を所定の全開位置(全開状態)から全閉位置(全閉状態)までの間で変化させる。第1コンプレッサ33は、第1タービン31と連動して作動(回転)し、内燃機関2の燃焼室に吸入される空気(吸気)を加圧する。第1可変ノズル機構32及び第1ノズル閉度Vn1のそれぞれは、便宜上、「第1タービンアクチュエータ」及び「第1制御パラメータ」とも称呼される。
【0027】
第2過給機4は、第1過給機3と同型且つ同サイズの過給機である。第2過給機4は、第2タービン41、第2可変ノズル機構42及び第2コンプレッサ43を含んでいる。第2タービン41は、内燃機関2の排気の圧力によって作動する。第2可変ノズル機構42が備えるノズルベーンの回転位置である第2ノズル閉度Vn2に応じて第2タービン41における排気流路の閉度が変化する。第2可変ノズル機構42はアクチュエータを含み、ECU7からの指示に応じて第2ノズル閉度Vn2を全開位置から全閉位置までの間で変化させる。第2コンプレッサ43は、第2タービン41と連動して作動し、内燃機関2の燃焼室に吸入される空気を加圧する。第2可変ノズル機構42及び第2ノズル閉度Vn2のそれぞれは、便宜上、「第2タービンアクチュエータ」及び「第2制御パラメータ」とも称呼される。
【0028】
吸気システム5は、吸気経路を形成する吸気管51a~51g、吸気マニホールド52、吸気切換え弁53及び吸気バイパス弁54を含んでいる。吸気管51aは、外部(車外)から吸入された吸気(新気)を吸気管51b及び吸気管51cに導入する。吸気管51bは、吸気管51aから流入した吸気を第1コンプレッサ33に導入する。吸気管51cは、吸気管51aから流入した吸気を第2コンプレッサ43に導入する。吸気管51dは、第1コンプレッサ33から排出された吸気を吸気管51fに導入する。吸気管51eは、第2コンプレッサ43から排出された吸気を吸気管51fに導入する。
【0029】
吸気管51fは、吸気管51d及び吸気管51eから流入した吸気を吸気マニホールド52に導入する。吸気管51gは、吸気管51bにおける分岐部と、吸気管51eにおける分岐部と、を連通する。吸気マニホールド52は、吸気管51fから流入した吸気を内燃機関2の燃焼室に導入する。
【0030】
吸気切換え弁53は、吸気管51eにおける、吸気管51gとの分岐部(即ち、吸気管51gの一方の端部)と、吸気管51d及び吸気管51fとの合流部(即ち、吸気管51eの一方の端部)と、の間の位置に介装されている。吸気切換え弁53は、ECU7からの指示に応じて閉状態と開状態との間で切換えられる。吸気バイパス弁54は、吸気管51gに介装されている。吸気バイパス弁54は、ECU7からの指示に応じて閉状態と開状態との間で切換えられる。
【0031】
排気システム6は、排気マニホールド61a~61b、排気経路を形成する排気管62a~62e、排気切換え弁63及び排ガス浄化装置64を含んでいる。排気マニホールド61aは、内燃機関2の一部の燃焼室から排出された排気(燃焼ガス)の一部を排気管62aに導入する。排気マニホールド61bは、内燃機関2の他の燃焼室から排出された排気を排気管62bに導入する。
【0032】
排気管62aは、排気を第1タービン31に導入する。排気管62bは、排気を第2タービン41に導入する。排気管62cは、排気管62aと排気管62bとを連通させる。排気管62dは、第1タービン31から排出された排気、及び排気管62eから流入した排気を外部(車外)へ排出する。排気管62eは、第2タービン41から排出された排気を排気管62dに導入する。
【0033】
排気切換え弁63は、排気管62bにおける、第2タービン41と、排気管62cとの分岐部(即ち、排気管62cの一方の端部)と、の間の位置に介装されている。排気切換え弁63は、ECU7からの指示に応じて閉状態と開状態との間で切換えられる。
【0034】
排ガス浄化装置64は、排気管62dにおける排気管62eとの合流部よりも下流の位置に介装されている。排ガス浄化装置64は、周知の酸化触媒、DPF(Diesel Particulate Filter)及びSCR(Selective Catalytic Reduction)等を含んでおり、排気を浄化する。
【0035】
ECU7は、CPU、ROM、RAM及びEEPROMを含む電子制御ユニット(Electronic Control Unit)である。CPUは、所定のプログラムを逐次実行することによってデータの読み込み、数値演算、及び演算結果の出力等を行う。ROMは、CPUが実行するプログラム及びマップ(ルックアップテーブル)等を記憶している。RAMは、CPUによって参照されるデータを一時的に記憶する。EEPROMは、CPUによって参照されるデータを記憶し、更に、ECU7が作動を停止しても記憶したデータを保持する。
【0036】
ECU7は、クランク角度センサ71、カムポジションセンサ72、エアフローセンサ73、ベーン閉度センサ74a~74b、圧力センサ75a~75c、温度センサ76a~76b及びアクセル開度センサ77と接続されている。クランク角度センサ71は、内燃機関2の図示しないクランクシャフトが所定角度だけ回転する毎にパルス信号をECU7へ出力する。カムポジションセンサ72は、内燃機関2の図示しないカムシャフトの回転位置に応じた信号をECU7へ出力する。
【0037】
ECU7は、クランク角度センサ71から入力された信号に基づいて内燃機関2の機関回転速度NEを取得する。ECU7は、クランク角度センサ71及びカムポジションセンサ72から入力された信号に基づいて内燃機関2が備える特定の燃焼室のクランク角度CAを取得する。
【0038】
エアフローセンサ73は、吸気管51aに配設されている。エアフローセンサ73は、吸気管51aを流れる吸気(吸入空気)の量である空気量Gaを検出し、空気量Gaを表す信号をECU7へ出力する。ベーン閉度センサ74aは、第1ノズル閉度Vn1を検出し、第1ノズル閉度Vn1を表す信号をECU7へ出力する。ベーン閉度センサ74bは、第2ノズル閉度Vn2を検出し、第2ノズル閉度Vn2を表す信号をECU7へ出力する。
【0039】
圧力センサ75aは、外気の圧力(即ち、第1コンプレッサ33及び第2コンプレッサ43に流入する吸気の圧力)である大気圧P1を検出し、大気圧P1を表す信号をECU7へ出力する。圧力センサ75bは、吸気管51dにおける吸気管51e及び吸気管51fとの合流位置(即ち、吸気管51dの一方の端部)の近傍に配設されている。圧力センサ75bは、内燃機関2の燃焼室に流入する吸気(加圧空気)の圧力である過給圧P3を検出し、過給圧P3を表す信号をECU7へ出力する。圧力センサ75cは、吸気管51aに配設されている。圧力センサ75cは、内燃機関2の燃焼室から流出した排気の圧力である排気圧P4を検出し、排気圧P4を表す信号をECU7へ出力する。
【0040】
温度センサ76aは、吸気管51aに配設されている。温度センサ76aは、第1コンプレッサ33及び第2コンプレッサ43に流入する吸気の温度である吸気温度δ0を検出し、吸気温度δ0を表す信号をECU7へ出力する。温度センサ76bは、排気管62aに配設されている。温度センサ76bは、内燃機関2の燃焼室から流出した排気の温度である排気温度T4を検出し、排気温度T4を表す信号をECU7へ出力する。
【0041】
アクセル開度センサ77は、内燃機関2が搭載された車両の運転者が車両を加速させるために操作するアクセルペダル(不図示)の開度であるアクセルペダル開度Apを検出し、アクセルペダル開度Apを表す信号をECU7へ出力する。
【0042】
ECU7は、アクセルペダル開度Apに基づいて機関回転速度NEを制御する。機関回転速度NEを上昇させるとき、ECU7は、燃料噴射弁21から噴射される燃料の量である噴射量Qiを増加させる。更にECU7は、後述されるように第1過給機3及び第2過給機4の作動により過給圧P3を上昇させて内燃機関2の燃焼室に流入する吸気の圧力及び量を増加させる。
【0043】
噴射量Qiが決定されると、ECU7は、クランク角度CAによって表される燃料を噴射するタイミングとそのタイミングにおける燃料噴射量との(複数の)組合せを含む燃料噴射パターンを噴射量Qiに応じて決定する。ECU7は、燃料噴射パターンに従って各燃焼室の燃料噴射弁21に燃料を噴射させる。
【0044】
過給圧P3を制御するためECU7は、目標過給圧Ptgtを決定する。ECU7は、過給圧P3が目標過給圧Ptgtに近づくように第1過給機3及び第2過給機4を制御する。具体的には、ECU7は、第1過給機3及び第2過給機4の作動状態(以下、「過給状態」とも称呼される。)を「シングルターボ状態」と「パラレルターボ状態」との間で切換える。目標過給圧Ptgtは、便宜上、「目標パラメータ値」とも称呼される。
【0045】
シングルターボ状態は、第1過給機3のみが内燃機関2の燃焼室に流入する吸気を加圧している状態である。パラレルターボ状態は、第1過給機3及び第2過給機4の両方が内燃機関2の燃焼室に流入する吸気を加圧している状態である。過給状態がシングルターボ状態であるとき、吸気切換え弁53、排気切換え弁63及び吸気バイパス弁54のそれぞれは「閉状態」となっている。過給状態がパラレルターボ状態であるとき、吸気切換え弁53及び排気切換え弁63は「開状態」であり、吸気バイパス弁54は「閉状態」となっている。過給状態がパラレルターボ状態でるときに成立する条件は、便宜上、「パラレルターボ条件」とも称呼される。
【0046】
過給状態がシングルターボ状態であるときに所定のパラレルターボ切換え条件が成立すると、ECU7は、過給状態をパラレルターボ状態に切換える。過給状態がパラレルターボ状態であるときに所定のシングルターボ切換え条件が成立すると、ECU7は、過給状態をシングルターボ状態に切換える。概して、ECU7は、目標過給圧Ptgtが比較的大きいときに過給状態をパラレルターボ状態とする。
【0047】
ECU7は、過給状態をシングルターボ状態からパラレルターボ状態へ切換えるとき、先ず、排気切換え弁63及び吸気バイパス弁54を「開状態」に切換える。次いで、所定の切換え時間Tcが経過すると、吸気バイパス弁54を「閉状態」に切換え且つ吸気切換え弁53を「開状態」に切換える。
【0048】
過給状態がシングルターボ状態であるとき、ECU7は、目標過給圧Ptgt、排気温度T4、排気圧P4、空気量Ga及び噴射量Qi等のパラメータ(以下、「タービンパラメータ」とも総称される。)に基づき第1ノズル閉度Vn1の目標値である目標閉度V1tgtを決定する。目標閉度V1tgtは、(タービンパラメータの1つである)目標過給圧Ptgtが大きくなるほど大きくなる。目標閉度V1tgtは、排気温度T4及び排気圧P4のそれぞれが大きくなるほど小さくなる。更にECU7は、実際の第1ノズル閉度Vn1が目標閉度V1tgtに近づくように第1可変ノズル機構32を制御する。
【0049】
一方、過給状態がパラレルターボ状態であるとき、ECU7は、タービンパラメータに基づき目標閉度V1tgt、及び第2ノズル閉度Vn2の目標値である目標閉度V2tgtを取得する。目標閉度V1tgt及び目標閉度V2tgtは、目標過給圧Ptgtが大きくなるほど大きくなる。加えてECU7は、実際の第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2のそれぞれが目標閉度V1tgt及び目標閉度V2tgtに近づくように第1可変ノズル機構32及び第2可変ノズル機構42を制御する。
【0050】
後述される「近傍条件」が成立していなければ、ECU7は、目標閉度V1tgt及び目標閉度V2tgtのそれぞれを互いに等しい値に設定し、従って、第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2が互いに略等しくなる。この場合、第1コンプレッサ33に流入する空気量である第1空気量Ga1と、第2コンプレッサ43に流入する空気量である第2空気量Ga2と、が互いに略等しくなる。
【0051】
なお、エアフローセンサ73によって検出される空気量Gaは、第1空気量Ga1と第2空気量Ga2との和に等しい(即ち、Ga=Ga1+Ga2)。過給状態がシングルターボ状態であるとき、第2空気量Ga2は「0」となる。本実施形態に係るエンジンシステム1は、第1空気量Ga1及び第2空気量Ga2のそれぞれを直接的に検出するセンサを含んでいない。
【0052】
過給状態がパラレルターボ状態であり且つ近傍条件が成立していないときに実行される、第1空気量Ga1及び第2空気量Ga2を互いに略等しくする処理は、「空気量均等処理」とも称呼される。一方、過給状態がパラレルターボ状態であるときに近傍条件が成立していると、ECU7は、第2空気量Ga2を第1空気量Ga1よりも大きくする「空気量相違処理」を実行する。
【0053】
空気量相違処理及び近接条件について
図2~
図4を参照しながら説明する。
図2は、第1コンプレッサ33及び第2コンプレッサ43のそれぞれの動作点(作動状況)が表される、所謂コンプレッサマップの一部である。
図2における第1コンプレッサ33の動作点は、第1修正空気量Gam1と圧力比Prとの組合せによって定められる。
【0054】
第1修正空気量Gam1は、第1空気量Ga1に補正係数Kを乗じて得られる値である(即ち、Gam1=K×Ga1)。補正係数Kは、所定の基準温度θ0(本実施形態において、θ0=288.215K(=15℃))を、絶対温度で表される吸気温度δ0で除して得られる値の平方根である(即ち、K=(θ0/δ0)1/2)。圧力比Prは、大気圧P1に対する過給圧P3の比率である(即ち、Pr=P3/P1)。圧力比Prは、便宜上、「圧縮圧力比」とも称呼される。
【0055】
同様に、
図2における第2コンプレッサ43の動作点は、第2修正空気量Gam2と圧力比Prとの組合せによって定められる。第2修正空気量Gam2は、第2空気量Ga2に補正係数Kを乗じて得られる値である(即ち、Gam2=K×Ga2)。
【0056】
図2に示される曲線Laは、第1コンプレッサ33のサージラインの一部である。即ち、第1コンプレッサ33の動作点が
図2において曲線Laよりも上に移動すると、第1コンプレッサ33にてサージングが発生する可能性が高くなる。一方、
図2に示される曲線Lbは、第2コンプレッサ43のサージラインの一部である。即ち、第2コンプレッサ43の動作点が
図2において曲線Lbよりも上に移動すると、第2コンプレッサ43にてサージングが発生する可能性が高くなる。
【0057】
換言すれば、曲線Laは、圧力比Prに対して定まる、第1コンプレッサ33においてサージングを発生させないために必要となる第1修正空気量Gam1を示している。同様に、曲線Lbは、圧力比Prに対して定まる、第2コンプレッサ43においてサージングを発生させないために必要となる第2修正空気量Gam2を示している。
【0058】
上述したように、第1コンプレッサ33及び第2コンプレッサ43は互いに同型且つ同サイズのコンプレッサである。しかし、吸気管51aから第1コンプレッサ33に至る吸気経路と、吸気管51aから第2コンプレッサ43に至る吸気経路と、が互いに一致していない。具体的には、第1コンプレッサ33と第2コンプレッサ43とにおいて、吸気経路に含まれる湾曲部の数及び位置並びに直線区間の長さ等が互いに異なっている。そのため、第1コンプレッサ33及び第2コンプレッサ43のそれぞれのサージライン(即ち、曲線La及び曲線Lb)が互いに異なっている。
【0059】
ここで、過給状態がパラレルターボ状態であるときに空気量相違処理が実行されず(即ち、空気量均等処理の実行が継続され)且つ第1コンプレッサ33及び第2コンプレッサ43の動作点が共に曲線Lc上を点Paから点Pb乃至点Peを経て点Pfに移動すると仮定する。本例において、第1修正空気量Gam1、第2修正空気量Gam2及び圧力比Prが時間の経過と共に増加している。従って、この場合、機関回転速度NEが上昇している。
【0060】
点Pcは曲線Lb上の動作点であるので、第2コンプレッサ43の動作点が点Pcに到達したときには第2コンプレッサ43にてサージングが発生する可能性が高くなっている。一方、第1コンプレッサ33の動作点が点Pcに到達しても、第1コンプレッサ33にてサージングが発生する可能性は低い。
【0061】
近傍条件は、このように、空気量均等処理の実行が継続されると第2コンプレッサ43のみにおいてサージングが発生する可能性が高くなるときに成立する条件である。本実施形態における近接条件は、以下の(条件A)及び(条件B)が共に成立しているときに成立する。
(条件A):修正空気量Gamが
図2に示される所定空気量g1から所定空気量g2までの範囲に含まれる。
(条件B):修正空気量Gamと圧力比Prとの組合せにより得られる動作点が、
図2に示される破線Ldよりも上に位置している。
【0062】
過給状態がパラレルターボ状態であるときの修正空気量Gamは、空気量Gaの半分の値に補正係数Kを乗じて得られる値である(即ち、Gam=0.5×K×Ga)。一方、過給状態がシングルターボ状態であるときの修正空気量Gamは、空気量Gaに補正係数Kを乗じて得られる値である(即ち、Gam=K×Ga)。破線Ldは、
図2において曲線Lbを所定の圧力比差分Δrだけ下方に移動させて得られる曲線である。
【0063】
図2の例において、曲線Lc上の動作点(即ち、修正空気量Gamと圧力比Prとの組合せ)が曲線Lc上を点Paから点Peまで移動しているとき、近傍条件が成立している。そのため、この期間において空気量相違処理が実行され、その結果、第1コンプレッサ33の実際の動作点は、一点鎖線Le上を点Paから点Pb1及び点Pe1を経て点Pfに至る。加えて、第2コンプレッサ43の実際の動作点は、破線Lf上を点Paから点Pb2及び点Pe2を経て点Pfに至る。
【0064】
より具体的に述べると、ECU7は、空気量相違処理の実行時、第2修正空気量Gam2を所定の空気量差分Δgだけ増加させ且つ第1修正空気量Gam1を空気量差分Δgだけ減少させる。そのため、ECU7は、第2ノズル閉度Vn2をノズルオフセット量Vfだけ増加させ且つ第1ノズル閉度Vn1をノズルオフセット量Vfだけ減少させる。ノズルオフセット量Vfは、便宜上、「オフセット値」とも称呼される。
【0065】
ECU7は、
図3に示される、機関回転速度NE及び噴射量Qiと、ノズルオフセット量Vfと、の関係に機関回転速度NE及び噴射量Qiを適用することによってノズルオフセット量Vfを決定する。
図3から理解されるように、ノズルオフセット量Vfは、機関回転速度NEが大きくなるほど大きくなり、噴射量Qiが大きくなるほど大きくなる。
【0066】
換言すれば、第2修正空気量Gam2を空気量差分Δgだけ増加させる(且つ第1修正空気量Gam1を空気量差分Δgだけ減少させる)ために必要なノズルオフセット量Vfは、機関回転速度NE及び噴射量Qiのそれぞれが大きくなるほど大きくなる。機関回転速度NE及び噴射量Qiが大きいとき、排気圧P4及び排気温度T4並びに排気の空気量等が大きくなるので、内燃機関2の排気から第2タービン41に供給されるエネルギー量(排気エネルギー量)が大きくなっている。そのため、第2修正空気量Gam2を空気量差分Δgだけ増加させるために必要となる、第2タービン41に供給される排気エネルギー量の増加量が大きくなる。
【0067】
図3に示される、機関回転速度NE及び噴射量Qiと、ノズルオフセット量Vfと、の関係は「オフセット量マップ」とも称呼される。オフセット量マップは、ルックアップテーブルの形式にてECU7のROMに記憶されている。
【0068】
図2の曲線Lcに示される状況における第1修正空気量Gam1、第2修正空気量Gam2、修正空気量Gam、第1圧力比Pr1、第2圧力比Pr2、第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2の変化が
図4に示される。
【0069】
第1圧力比Pr1は、第1コンプレッサ33の流入口(即ち、吸気管51bの一端)の吸気圧力に対する第1コンプレッサ33の流出口(即ち、吸気管51dの一端)の吸気圧力の比率である。同様に、第2圧力比Pr2は、第2コンプレッサ43の流入口(即ち、吸気管51cの一端)の吸気圧力に対する第1コンプレッサ33の流出口(即ち、吸気管51eの一端)の吸気圧力の比率である。過給状態がシングルターボ状態とパラレルターボ状態との間で切換えられる際の過渡的な期間を除き、第1圧力比Pr1及び第2圧力比Pr2は、圧力比Prに略等しい。
【0070】
図4に示される実線Lg、破線Lh及び一点鎖線Liのそれぞれは、第1修正空気量Gam1、第2修正空気量Gam2及び修正空気量Gamを示している。実線Lj及び破線Lkのそれぞれは、第1圧力比Pr1及び第2圧力比Pr2を示している。実線Lm及び破線Lnのそれぞれは、第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2を示している。
【0071】
図4の例では時刻t1までの期間において、過給状態はシングルターボ状態である。そのため、第2修正空気量Gam2が「0」となっている一方、第1修正空気量Gam1が修正空気量Gamと等しくなっている。時刻t1にてパラレルターボ切換え条件が成立し、過給状態がシングルターボ状態からパラレルターボ状態に切換えられ、その結果、第2修正空気量Gam2が上昇を開始している。
【0072】
時刻t1から切換え時間Tcが経過して時刻t2になると、第1修正空気量Gam1と第2修正空気量Gam2とが互いに略等しくなっている。一点鎖線Liによって示される修正空気量Gamは、第1修正空気量Gam1と第2修正空気量Gam2との和に等しい。
【0073】
その後、時刻t3になると、
図2における第1コンプレッサ33及び第2コンプレッサ43の動作点が
図2の点Paに表される状態と等しくなり、近傍条件が成立する。そのため、時刻t3にて空気量相違処理が開始される。即ち、
図3のオフセット量マップに基づいてノズルオフセット量Vfが取得される。
【0074】
加えて、実線Lmに示されるように第1ノズル閉度Vn1がノズルオフセット量Vfだけ小さくなるように第1可変ノズル機構32が制御される。更に、破線Lnに示されるように第2ノズル閉度Vn2がノズルオフセット量Vfだけ大きくなるように第2可変ノズル機構42が制御される。その結果、破線Lhに示されるように第2修正空気量Gam2が上昇を開始し、且つ実線Lgに示されるように第1修正空気量Gam1が減少を開始する。
【0075】
時刻t4が到来すると、
図2における第1コンプレッサ33の動作点が点Pb1に表される状態となり、且つ第2コンプレッサ43の動作点が点Pb2に表される状態となる。具体的には、空気量均等処理の実行が継続された場合と比較して、第2修正空気量Gam2が空気量差分Δgだけ大きくなり且つ第1修正空気量Gam1が空気量差分Δgだけ小さくなる。即ち、第2修正空気量Gam2と第1修正空気量Gam1との差分が、空気量差分Δgの2倍の値と等しくなる。
【0076】
その結果、第2コンプレッサ43の実際の動作点が
図2において曲線Lbよりも下方の領域を移動するので(
図2の破線Lfを参照)、第2コンプレッサ43にてサージングが発生する可能性が高くなることが回避される。なお、時刻t3から時刻t4までの期間は、第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2がノズルオフセット量Vfだけ変化し、且つ第1修正空気量Gam1及び第2修正空気量Gam2が実際に空気量差分Δgだけ変化するまでの時間(タイムラグ)である。
【0077】
時刻t5にて
図2における動作点(具体的には、修正空気量Gamと圧力比Prとの組合せ)が点Peによって示される状態となり、近傍条件が成立しなくなる。そのため、空気量相違処理に代わり、空気量均等処理が実行される。即ち、第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2が互いに等しくなるように、第1可変ノズル機構32及び第2可変ノズル機構42が制御される。その結果、時刻t6が到来して
図2における動作点が点Pfによって示される状態になると、第1修正空気量Gam1及び第2修正空気量Gam2が互いに略等しくなる。
【0078】
なお、時刻t3から時刻t5までの期間において(即ち、空気量相違処理が実行されているとき)、機関回転速度NE及び噴射量Qiが増加しており、それに伴ってノズルオフセット量Vfが増加している。
【0079】
(具体的作動)
次に、ECU7の具体的作動について
図5を参照しながら説明する。ECU7のCPU(以下、単位「CPU」とも称呼される)は、
図5にフローチャートにより表された「過給機制御処理ルーチン」を所定の時間周期が経過する毎に実行する。
【0080】
適当なタイミングとなると、CPUは、
図5のステップ500から処理を開始してステップ505に進み、噴射量Qiを決定する。具体的には、CPUは、アクセルペダル開度Apが大きいほど噴射量Qiを大きな値に設定する。
【0081】
次いで、CPUは、ステップ510に進み、目標過給圧Ptgtを決定する。具体的には、CPUは、機関回転速度NEが大きくなるほど目標過給圧Ptgtを大きな値に設定する。加えて、CPUは、噴射量Qiが大きくなるほど目標過給圧Ptgtを大きな値に設定する。
【0082】
次いで、CPUは、ステップ515に進み、第1過給機3及び第2過給機4の作動状態(即ち、過給状態)がパラレルターボ状態であるか否かを判定する。過給状態がシングルターボ状態であれば、CPUは、ステップ515にて「No」と判定してステップ555に進み、シングルターボ状態における目標ノズル閉度Vtgtsをタービンパラメータに基づいて決定する。目標ノズル閉度Vtgtsは、過給状態がシングルターボ状態であるときに過給圧P3が目標過給圧Ptgtと等しくなるようにタービンパラメータに対して予め適合された第1ノズル閉度Vn1の値である。
【0083】
次いで、CPUは、ステップ565に進み、第1過給機3の目標閉度V1tgtを目標ノズル閉度Vtgtsに等しい値に設定する。更に、CPUは、ステップ550に進み、目標閉度V1tgtに基づいて第1過給機3を制御する。具体的には、CPUは、第1ノズル閉度Vn1が目標閉度V1tgtに近づくように第1可変ノズル機構32を制御する。次いで、CPUは、ステップ595に進み、本ルーチンの処理を終了する。
【0084】
一方、過給状態がパラレルターボ状態であれば、CPUは、ステップ515にて「Yes」と判定してステップ520に進み、パラレルターボ状態における目標ノズル閉度Vtgttをタービンパラメータに基づいて決定する。目標ノズル閉度Vtgttは、過給状態がパラレルターボ状態であるときに過給圧P3が目標過給圧Ptgtと等しくなるようにタービンパラメータに対して予め適合された第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2の値である。
【0085】
次いで、CPUは、ステップ525に進み、近傍条件が成立しているか否かを判定する。即ち、CPUは、上述した(条件A)及び(条件B)が共に成立しているか否かを判定する。近傍条件が成立していれば、CPUは、ステップ525にて「Yes」と判定して以下に説明するステップ530~ステップ545の処理を順に実行し、ステップ550に進む。この場合、空気量相違処理が実行される。
【0086】
ステップ530:CPUは、機関回転速度NE及び噴射量Qiに基づいてノズルオフセット量Vfを決定する。即ち、CPUは、
図3のオフセット量マップに機関回転速度NE及び噴射量Qiを適用することによってノズルオフセット量Vfを決定する。
ステップ535:CPUは、第2過給機4の目標閉度V2tgtを、目標ノズル閉度Vtgttにノズルオフセット量Vfを加えた値に設定する。
【0087】
ステップ540:CPUは、目標閉度V2tgtに基づいて第2過給機4を制御する。具体的には、CPUは、第2ノズル閉度Vn2が目標閉度V2tgtに近づくように第2可変ノズル機構42を制御する。
ステップ545:CPUは、第1過給機3の目標閉度V1tgtを、目標ノズル閉度Vtgttからノズルオフセット量Vfを減じた値に設定する。
【0088】
近傍条件が成立していなければ、CPUは、ステップ525にて「No」と判定してステップ560に進み、ノズルオフセット量Vfを「0」に設定する。次いで、CPUは、ステップ535に進む。即ち、この場合、空気量均等処理が実行される。
【0089】
以上説明したように、ECU7は、空気量均等処理が継続されると第2コンプレッサ43のみにおいてサージングが発生する可能性が高くなると判定(予測)した場合、空気量相違処理を実行する。そのため、サージングの発生を回避しながら第1コンプレッサ33及び第2コンプレッサ43の過給能力を充分に発揮させられる可能性が高くなる。加えて、ECU7は、空気量相違処理の実行時に第2修正空気量Gam2を空気量差分Δgだけ増加させ且つ第1修正空気量Gam1を空気量差分Δgだけ減少させるために必要なノズルオフセット量Vfを、オフセット量マップに基づいて簡易な処理により取得することができる。
【0090】
加えて、ECU7は、近傍条件が成否に応じて第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2を互いに等しい値に設定する空気量均等処理と、第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2のそれぞれをノズルオフセット量Vfだけ変化させる空気量相違処理と、を切換える。そのため、エンジンシステム1が2つのエアフローセンサを備えていなくても、これらの簡易な処理によってサージングの発生を回避しながら第1コンプレッサ33及び第2コンプレッサ43の過給能力を充分に発揮させられる可能性が高くなる。
【0091】
更に、ECU7は、第2コンプレッサ43の動作点が曲線Lbに到達する前に(近傍条件が成立した時点にて)空気量相違処理を開始する。そのため、第2コンプレッサ43の動作点が曲線Lbに到達したときに空気量相違処理が開始される場合と比較して第2コンプレッサ43におけるサージングの発生を低くすることが可能となる。具体的には、空気量相違処理の開始から第2修正空気量Gam2が実際に空気量差分Δgだけ上昇するまでの期間(例えば、
図4における時刻t3から時刻t4までの期間)に起因して第2コンプレッサ43にサージングが発生する事象の発生が回避される。
【0092】
以上、本発明の実施形態を上記の構造を参照して説明したが、本発明の目的を逸脱せずに多くの交代、改良、変更が可能であることは当業者であれば明らかである。従って本発明の形態は、添付された請求項の精神と目的を逸脱しない全ての交代、改良、変更を含み得る。本発明の形態は、前記特別な構造に限定されず、例えば下記のように変更が可能である。
【0093】
ECU7は、近傍条件が成立したとき(即ち、第2コンプレッサ43のみにおいてサージングが発生する可能性が高くなると判定したとき)、第2ノズル閉度Vn2をノズルオフセット量Vfだけ大きくする一方、第1ノズル閉度Vn1をノズルオフセット量Vfだけ小さくする処理を実行していた。これに加えて、ECU7は、第1コンプレッサ33のみにおいてサージングが発生する可能性が高くなると判定したとき、第1ノズル閉度Vn1をノズルオフセット量Vfだけ大きくする一方、第2ノズル閉度Vn2をノズルオフセット量Vfだけ小さくする処理を実行しても良い。この場合におけるノズルオフセット量Vfは、
図3のオフセット量マップとは異なるオフセット量マップに基づいて決定されても良い。
【0094】
ECU7は、上述した(条件A)及び(条件B)が共に成立しているとき、近傍条件が成立していると判定していた。これに代えて、ECU7は、
図2のコンプレッサマップにおける第1コンプレッサ33の動作点と曲線Laとの距離が所定の第1閾値よりも大きく、且つ、第2コンプレッサ43の動作点と曲線Lbとの距離が所定の第2閾値よりも小さいとき、近傍条件が成立していると判定しても良い。
【0095】
ECU7は、タービンパラメータに基づいて目標ノズル閉度Vtgts及び目標ノズル閉度Vtgttを取得していた。即ち、ECU7は、フィードフォワード処理により過給圧P3が目標過給圧Ptgtに近くなるような第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2の目標値を取得していた。これに代えて、ECU7は、フィードバック処理によって、過給圧P3が目標過給圧Ptgtに近くなるような第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2の変化量を取得しても良い。
【0096】
第1タービンアクチュエータ及び第2タービンアクチュエータは、第1可変ノズル機構32及び第2可変ノズル機構42であった。加えて、第1制御パラメータ及び第2制御パラメータは、第1ノズル閉度Vn1及び第2ノズル閉度Vn2であった。これに代えて、第1タービンアクチュエータ及び第2タービンアクチュエータのそれぞれは、第1タービン31及び第2タービン41に流入する排気の量を調整するウェイストゲートバルブであっても良い。この場合、第1制御パラメータ及び第2制御パラメータのそれぞれは、ウェイストゲートバルブの開度に応じた値であって大きくなるほど過給圧P3が大きくなるパラメータであっても良い。
【符号の説明】
【0097】
1…エンジンシステム
2…内燃機関
3…第1過給機
4…第2過給機
5…吸気システム
6…排気システム
7…ECU
21…燃料噴射弁
31…第1タービン
32…第1可変ノズル機構(可変ノズル装置)
33…第1コンプレッサ
41…第2タービン
42…第2可変ノズル機構(可変ノズル装置)
43…第2コンプレッサ
51a~51g…吸気管
52…吸気マニホールド
53…吸気切換え弁
54…吸気バイパス弁
61a、61b…排気マニホールド
62a~62e…排気管
63…排気切換え弁
64…排ガス浄化装置
71…クランク角度センサ
72…カムポジションセンサ
73…エアフローセンサ
74a、74b…ベーン閉度センサ
75a~75c…圧力センサ
76a、76b…温度センサ
77…アクセル開度センサ