(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20250408BHJP
【FI】
H01L21/52 B
(21)【出願番号】P 2022012940
(22)【出願日】2022-01-31
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊森 雅哉
(72)【発明者】
【氏名】川端 大輔
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/060346(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/002793(WO,A1)
【文献】特開2006-202944(JP,A)
【文献】特開2006-352080(JP,A)
【文献】特開2015-076500(JP,A)
【文献】特開2021-107569(JP,A)
【文献】特開2021-027116(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0256894(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
H01L 21/60
H01L 23/12
H01L 25/07
H01L 25/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板と、
前記絶縁基板と直接接合された多孔質材と、
前記多孔質材と、金属ナノ粒子を含む接合材を介して接合された半導体素子
を備え
、
前記接合材は、前記金属ナノ粒子が有機膜により保護された状態で有機溶媒に分散されたペースト状の接合材である
半導体装置。
【請求項2】
絶縁基板と、
前記絶縁基板と直接接合された多孔質材と、
前記多孔質材と、金属ナノ粒子を含む接合材を介して接合された半導体素子
を備え、
前記多孔質材が、
前記接合材との接合面に凹部を有する
半導体装置。
【請求項3】
絶縁基板と、
前記絶縁基板と直接接合された多孔質材と、
前記多孔質材と、金属ナノ粒子を含む接合材を介して接合された半導体素子
を備え、
前記多孔質材が、
前記接合材との接合面に凸部を有する
半導体装置。
【請求項4】
前記凹部が、前記半導体素子の四隅の直下に位置する
請求項2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記凸部が、前記半導体素子の四隅の直下に位置する
請求項3に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記半導体素子がワイドバンドギャップ半導体で形成されている
請求項1から5の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料又はダイヤモンドである請求項6に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金属ナノ粒子を含む接合材を用いる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属ナノ粒子を含む接合材を用いる接合方法及び接合構造が開示されている。この接合材には金属ナノ粒子を被覆する有機保護膜や、ペースト化に必要な有機溶媒が用いられている。接合の際はこれらの有機物を揮発させる必要があるが、接合面が大きい場合、その中央部を良好に揮発させるのが難しいという課題があった。
【0003】
特許文献1は、この課題を解決する手法として、接合する二つの部材の間に多孔質金属層を設置することを開示している。この手法では、まず下層の部材に接合材により多孔質金属層が接合される。次いで多孔質金属層の上に、接合材により上層の部材が接合される。この手法によれば、多孔質金属層の空孔を揮発経路として利用できるため、有機物を良好に揮発させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上述の方法では、接合材を用いる接合を多孔質金属層の上下の二箇所で行う必要がある。印刷及び焼結を一括で行う場合、一回目に印刷した接合材が二回目の印刷時に押し潰されるため、接合材の厚みがバラつき製品の信頼性が低下する課題が生じる。印刷及び焼結を多孔質金属層の上下で二回実施する場合、工数がかかる課題が生じる。
【0006】
本開示は上述の問題を解決するため、多孔質金属層の上面のみを金属ナノ粒子を含む接合材で接合し、多孔質金属層の下面は圧着等により直接接合することで、接合層の印刷厚みが均等かつ必要工数が少ない半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の態様は、絶縁基板と、絶縁基板と直接接合された多孔質材と、多孔質材と金属ナノ粒子を含む接合材を介して接合された半導体素子を備え、接合材は、金属ナノ粒子が有機膜により保護された状態で有機溶媒に分散されたペースト状の接合材である半導体装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の態様によれば、多孔質金属層の上面のみを金属ナノ粒子を含む接合材で接合するため、接合層の印刷厚みが均等かつ必要工数が少ない半導体装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】本開示の実施の形態2に係る接合構造の断面図である。
【
図3】本開示の実施の形態2に係る接合構造の平面図である。
【
図4】本開示の実施の形態3に係る接合構造の断面図である。
【
図5】本開示の実施の形態3に係る接合構造の平面図である。
【
図6】本開示の実施の形態4に係る接合構造の断面図である。
【
図7】本開示の実施の形態4に係る接合構造の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1
図1に本発明の実施の形態1に係る断面図を示す。本実施形態1の接合構造は、絶縁基板1を有する。絶縁基板1はセラミック基板11の上面及び下面に回路パターン12を有する。セラミック基板11はアルミナ(Al
2O
3)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si
3N
4)等の無機セラミック材料で構成され、回路パターン12はアルミニウム(Al)、銅(Cu)またはそれらの合金で構成される。
【0011】
絶縁基板1の上面には多孔質材2が接合されている。多孔質材2は、空孔の孔径が後述する接合材5に含まれる金属成分の粒子径以下となるように形成されている。なお、多孔質材2は空孔率が80%以内であることが望ましく、例えばCuまたは銀(Ag)等で構成することができる。また多孔質材2の空孔は、接合材5に含まれる有機成分が揮発する経路として機能するため、外周まで繋がっていることが望ましい。技術的に確立している一例として、多数の細長い気孔が同一方向に配列された多孔質金属であるロータス金属が挙げられる。更に多孔質材2の熱伝導率は、40W/m・K以上であることが望ましい。なお熱伝導率については、空孔率が高いほど低下する傾向にあることが報告されているため、その意味でも空孔率が低い方が望ましい。
【0012】
絶縁基板1が有する回路パターン12と多孔質材2の接合方法は直接接合であり、特に圧着であることが好ましい。圧着では材料同士を密着させ、加熱及び加圧を行って固層拡散接合を進行させることで、材料間の隙間を減らし接合界面を一体化させることができる。圧着可能な材料条件としては、二つの材料の表面粗さが100nm未満であること、接合面に異物、汚れ及び酸化膜といった接合を阻害する物質がないことが挙げられる。圧着以外の直接接合の例としては、溶接や超音波接合等が挙げられる。
【0013】
多孔質材2の上面には接合材5によって半導体素子6が接合されている。接合材5はAg、Cu等の金属ナノ粒子が、有機膜により保護された状態で有機溶媒に分散されたペースト状の接合材である。これが加熱されると、有機保護膜が揮発して金属ナノ粒子が表面に露出するため、焼結して接合材として機能する。つまり接合材5を用いると加圧無しで接合が行えるため、接合時の半導体素子へのダメージを最小限にすることができる。
【0014】
半導体素子6はケイ素(Si)等から構成されるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)またはSBD(Schottky Barrier Diode)等である。
【0015】
多孔質材2と半導体素子6との接合方法を述べる。まず接合材5を多孔質材2の上に塗布する。この際スクリーン印刷を用いることで接合材5の厚みが一定となるようにする。続けて半導体素子6を接合材5の上に搭載し加熱すると、接合材5に含まれる有機溶媒や有機保護膜が分解及び揮発し、金属ナノ粒子が表面に露出する。露出した金属ナノ粒子同士、又は金属ナノ粒子と多孔質材及び半導体素子が接合することで、焼結が進行する。
【0016】
接合材5を用いて接合する場合、上述の通り、焼結の過程で有機溶媒及び有機保護膜といった有機成分を揮発させる必要がある。しかし半導体素子6と回路パターン12を接合材5で接合すると、有機成分の揮発経路が接合部の側面のみとなる。そのため特に接合部が広い場合、つまり半導体素子6の面積が大きい場合はその中央付近に有機成分が残留しやすくなることから、接合強度の低下等の問題が生じていた。そこで、半導体素子6と回路パターン12の間に多孔質材2を設置することで、気孔を有機成分の揮発経路とし、半導体素子6の面積が大きくても良好に接合できる。
【0017】
従来例では、接合材での接合を多孔質材の上面と下面で二回行っていた。しかし印刷及び焼結を一括で実施する場合、一回目に印刷した接合材が二回目の印刷時に上から押し潰されるため、接合面全体への力のかかり方が不均一となる。接合材にかかる力はスクリーン印刷の圧力、速度及び接合材の粘度に影響することから、接合材の厚みも不均一となり、製品の信頼性低下が懸念される。また印刷及び焼結を接合面毎に実施する場合、印刷及び焼結のプロセスを二回行うため工数がかかってしまう。
【0018】
本開示では多孔質材2の下面を圧着での直接接合、上面を接合材5での接合としている。接合材5による接合が一回のみとなるため、接合材5の厚みが不均一にならず、必要工数も少ない半導体装置が製造できる。また接合材5の厚みが均一であることから接合強度が向上するため、半導体装置の製品寿命を向上させることもできる。
【0019】
仮に多孔質材2の上面を圧着で接合した場合、半導体素子6を加熱及び加圧する必要があることから、半導体素子6にキズ及びクラックといったダメージが発生する懸念がある。しかし多孔質材2の上面を接合材5での接合とした場合、前述の通り加圧無しで接合できることから、半導体素子6へのダメージを最小限にすることができる。
【0020】
なお、圧着を行うと拡散接合の進行により界面が一体化し、断面で界面が判別できない程度まで接合されることから、耐熱性は金属融点まで高くなる。また接合材5での接合についても、前述した原理により耐熱性は金属融点まで高くなる。つまり多孔質材2の下面を圧着としても耐熱性に問題はない。
【0021】
半導体素子6は回路パターン12とワイヤ配線7により接続されている。ワイヤ配線7は、Al、Cuまたはそれらの合金等で構成される金属配線である。
【0022】
実施の形態2
図2に本開示の実施の形態2に係る接合構造の断面図を示す。実施の形態2の接合構造は、多孔質材2の代わりに、機械加工処理等により形成された凹部3を有する多孔質材2aを備える。多孔質材2aを備えることで、本実施形態1と同様に、半導体素子6の中央付近の有機成分を効率よく揮発させることができる。更に多孔質材2aが凹部3を有することで、接合材5との接触面積が大きくなるため、有機成分をより効率よく揮発させることができ、半導体素子6を良好に接合させることができる。
【0023】
図3に本開示の実施の形態2に係る接合構造の平面図を示す。凹部3は
図3に直線で示した通り、半導体素子6が載置される領域に位置するが、長さはその領域を超えて長くても良い。凹部3の幅は接合材5が含有する金属ナノ粒子の粒径より大きく、半導体素子6の幅よりも小さい。
【0024】
実施の形態3
図4に本開示の実施の形態3に係る接合構造の断面図を示す。実施の形態3の接合構造は、多孔質材2の代わりに、機械加工処理等により形成された凸部4を有する多孔質材2bを備える。多孔質材2bを備えることで、本実施形態1と同様に、半導体素子6の中央付近の有機成分を効率よく揮発させることができる。更に多孔質材2bが凸部4を有することで、接合材5との接触面積が大きくなるため、有機成分をより効率よく揮発させることができ、半導体素子6を良好に接合させることができる。
【0025】
また多孔質材2bが凸部4を有することにより、接合材5が凸部4の高さより厚くなる。その結果、加熱及び冷却時の伸縮による剪断応力への耐性が高くなり、接合層に亀裂等が生じにくくなるため、製品の信頼性向上を期待できる。
【0026】
図5に本開示の実施の形態3に係る接合構造の平面図を示す。凸部4は
図5に直線で示した通り、半導体素子6が載置される領域に位置するが、長さはその領域を超えて長くても良い。凸部4の幅は接合材5が含有する金属ナノ粒子の粒径より大きく、半導体素子6の幅よりも小さい。また凸部4の高さは接合材5の厚みより小さい。
【0027】
実施の形態4
図6に本開示の実施の形態4に係る接合構造の断面図を示す。実施の形態4の接合構造は、多孔質材2の代わりに、機械加工処理等により形成された凹部3aを有する多孔質材2cを備える。なお本実施形態4では形成された形状が凹部である態様を示しているが、同じ位置に凸部を形成する態様でも良い。
【0028】
図7に本開示の実施の形態4に係る接合構造の平面図を示す。凹部3aは
図7に直線で示した通り、半導体素子6が載置される四角形の領域に位置し、各内角を構成する二辺それぞれと交点を持つように形成される。多孔質材2cを備えることで、本実施形態1と同様に、半導体素子6の中央付近の有機成分を効率よく揮発させることができる。更に多孔質材2cが凹部3aを有することでアンカー効果が働くため、半導体素子6が剥離しやすい四隅の接合強度を上げることができる。その結果半導体素子6を良好に接合させることができる。
【0029】
なお本開示は半導体素子6がSiによって形成されたものを示したが、Siと比べてバンドギャップが大きいワイドバンドギャップ半導体によって形成しても良い。ワイドバンドギャップ半導体としては例えば、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)系材料又はダイヤモンドがある。
【符号の説明】
【0030】
1 絶縁基板
2 多孔質材
2a 多孔質材
2b 多孔質材
2c 多孔質材
3 凹部
3a 凹部
4 凸部
5 接合材
6 半導体素子