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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 17/12 20060101AFI20250408BHJP
   F16H 48/30 20120101ALI20250408BHJP
   B60K 23/04 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
B60K17/12
F16H48/30
B60K23/04 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022029146
(22)【出願日】2022-02-28
(65)【公開番号】P2023125179
(43)【公開日】2023-09-07
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】山本 広大
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-508353(JP,A)
【文献】特開平11-344103(JP,A)
【文献】特開2019-44867(JP,A)
【文献】特開平9-79348(JP,A)
【文献】特開2006-199077(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0128316(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 17/12
F16H 48/30
B60K 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二つの電動モータと、
左右輪の一方に接続される一側出力軸と前記一側出力軸よりも動力伝達経路の上流側に配置された一側カウンタ軸との間で回転を変速する第一ギヤ列と、
前記左右輪の他方に接続される他側出力軸と前記他側出力軸よりも動力伝達経路の上流側に配置された他側カウンタ軸との間で回転を変速可能な第二ギヤ列と、
前記一側カウンタ軸及び前記他側カウンタ軸の間且つ同軸上に介装され、前記一側カウンタ軸及び前記他側カウンタ軸のそれぞれに固定されたサイドギヤを有する差動装置と、
前記他側出力軸と前記差動装置のデフケースとの間で回転を変速可能な第三ギヤ列と、
前記他側出力軸に設けられ、前記第二ギヤ列又は前記第三ギヤ列と前記他側出力軸との断接状態を切り替えて前記第二ギヤ列及び前記第三ギヤ列のいずれか一方の回転を前記他側出力軸に伝達する第一切替機構と、を備え、
前記二つの電動モータのうち一方の電動モータの動力は、前記一側カウンタ軸に伝達され、
前記二つの電動モータのうち他方の電動モータの動力は、前記デフケースに伝達される
ことを特徴とする、動力伝達装置。
【請求項2】
前記第一切替機構により前記第二ギヤ列と前記他側出力軸とが接続状態とされているとき、
前記他方の電動モータの動力は、前記デフケースを介して前記一側カウンタ軸及び前記他側カウンタ軸に分配されて、前記左右輪に伝達され、
前記一方の電動モータの動力は、前記一側カウンタ軸に伝達されて、前記左右輪の間に回転数差を能動的に生じさせる
ことを特徴とする、請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記一方の電動モータの回転軸に対し同軸上で一体回転する一側入力軸と前記一側カウンタ軸との間で回転を変速する第四ギヤ列と、
前記他方の電動モータの回転軸に対し同軸上で一体回転する他側入力軸と前記デフケースとの間で回転を変速する第五ギヤ列と、を備える
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記一方の電動モータの回転軸と一体回転するキャリアを第一要素として有する3要素2自由度の一側遊星歯車機構と、
前記他方の電動モータの回転軸と一体回転するキャリアを第一要素として有する3要素2自由度の他側遊星歯車機構と、
前記一側遊星歯車機構の第二要素及び前記他側遊星歯車機構の第二要素の双方に動力を伝達するエンジンと、
前記一側遊星歯車機構の第三要素と前記一側カウンタ軸との間で回転を変速する第六ギヤ列と、
前記他側遊星歯車機構の第三要素と前記デフケースとの間で回転を変速する第七ギヤ列と、を備える
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の動力伝達装置。
【請求項5】
前記一側カウンタ軸に設けられ、前記第六ギヤ列と前記一側カウンタ軸との間の接続を切り離す第二切替機構を備える
ことを特徴とする、請求項4に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二つの電動モータを具備した車両の動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の左右輪のそれぞれに独立してトルクを伝達する二つの電動モータを備えた動力伝達装置が知られている。例えば、特許文献1には、一対の電動モータと、一対の遊星歯車機構と、一対の遊星歯車機構の第三要素の回転を拘束可能なブレーキ手段とを備える動力伝達装置が開示されている。特許文献1において、一対の遊星歯車機構の第一要素は一対の電動モータのそれぞれに連結され、第二要素は左右輪のそれぞれに連結される。また、一対の遊星歯車機構の第三要素は互いに連結されており、ブレーキ手段により当該第三要素の回転が拘束されることで、左右輪のそれぞれが一対の電動モータのそれぞれにより独立して駆動される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-079348号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電動モータ(以下、「モータ」ともいう)の効率は、モータの回転速度及び出力トルクに依存し、その回転速度及び出力トルクが低いほど低くなる傾向がある。このため、例えば要求トルクが低トルク域であるときには、二つのモータで左右輪を駆動するよりも一つのモータで左右輪を駆動した方がモータの損失を低く抑えることが可能となる場合がある。
【0005】
本件の動力伝達装置は、このような課題に鑑み案出されたもので、一つの電動モータで左右輪にトルク伝達する経路と二つの電動モータが独立して左右輪のそれぞれにトルク伝達する経路とを切り替えられることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)ここで開示する動力伝達装置は、二つの電動モータと、左右輪の一方に接続される一側出力軸と前記一側出力軸よりも動力伝達経路の上流側に配置された一側カウンタ軸との間で回転を変速する第一ギヤ列と、前記左右輪の他方に接続される他側出力軸と前記他側出力軸よりも動力伝達経路の上流側に配置された他側カウンタ軸との間で回転を変速可能な第二ギヤ列と、前記一側カウンタ軸及び前記他側カウンタ軸の間且つ同軸上に介装され、前記一側カウンタ軸及び前記他側カウンタ軸のそれぞれに固定されたサイドギヤを有する差動装置と、前記他側出力軸と前記差動装置のデフケースとの間で回転を変速可能な第三ギヤ列と、前記他側出力軸に設けられ、前記第二ギヤ列又は前記第三ギヤ列と前記他側出力軸との断接状態を切り替えて前記第二ギヤ列及び前記第三ギヤ列のいずれか一方の回転を前記他側出力軸に伝達する第一切替機構と、を備える。前記二つの電動モータのうち一方の電動モータの動力は、前記一側カウンタ軸に伝達され、前記二つの電動モータのうち他方の電動モータの動力は、前記デフケースに伝達される。
【0007】
(2)前記第一切替機構により前記第二ギヤ列と前記他側出力軸とが接続状態とされているとき、前記他方の電動モータの動力は、前記デフケースを介して前記一側カウンタ軸及び前記他側カウンタ軸に分配されて、前記左右輪に伝達され、前記一方の電動モータの動力は、前記一側カウンタ軸に伝達されて、前記左右輪の間に回転数差を能動的に生じさせることが好ましい。
【0008】
(3)前記動力伝達装置は、前記一方の電動モータの回転軸に対し同軸上で一体回転する一側入力軸と前記一側カウンタ軸との間で回転を変速する第四ギヤ列と、前記他方の電動モータの回転軸に対し同軸上で一体回転する他側入力軸と前記デフケースとの間で回転を変速する第五ギヤ列と、を備えることが好ましい。
【0009】
(4)前記動力伝達装置は、前記一方の電動モータの回転軸と一体回転するキャリアを第一要素として有する3要素2自由度の一側遊星歯車機構と、前記他方の電動モータの回転軸と一体回転するキャリアを第一要素として有する3要素2自由度の他側遊星歯車機構と、前記一側遊星歯車機構の第二要素及び前記他側遊星歯車機構の第二要素の双方に動力を伝達するエンジンと、前記一側遊星歯車機構の第三要素と前記一側カウンタ軸との間で回転を変速する第六ギヤ列と、前記他側遊星歯車機構の第三要素と前記デフケースとの間で回転を変速する第七ギヤ列と、を備えることが好ましい。
【0010】
(5)上記(4)の場合において、前記動力伝達装置は、前記一側カウンタ軸に設けられ、前記第六ギヤ列と前記一側カウンタ軸との間の接続を切り離す第二切替機構を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
開示の動力伝達装置によれば、一つの電動モータで左右輪にトルク伝達する経路と二つの電動モータが独立して左右輪のそれぞれにトルク伝達する経路とを切り替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一実施形態に係る動力伝達装置のスケルトン図である。
図2】二つの電動モータが独立して左右輪のそれぞれにトルク伝達する場合の図1に示す動力伝達装置のスケルトン図である。
図3】一つの電動モータで左右輪にトルク伝達する場合の図1に示す動力伝達装置のスケルトン図である。
図4】第一実施形態の変形例に係る動力伝達装置のスケルトン図である。
図5】第二実施形態に係る動力伝達装置のスケルトン図である。
図6図5の動力伝達装置の作用を説明するための速度線図である。
図7】第三経路により左右輪にトルク伝達する場合の図5の動力伝達装置のスケルトン図である。
図8図7に示す状態での動力伝達装置の作用を説明するための速度線図である。
図9】第四経路により左右輪にトルク伝達する場合の図5の動力伝達装置のスケルトン図である。
図10図9に示す状態での動力伝達装置の作用を説明するための速度線図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、実施形態としての動力伝達装置について説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0014】
[1.第一実施形態]
[1-1.構成]
図1は、第一実施形態としての動力伝達装置1を示すスケルトン図である。動力伝達装置1は、図示しない車両に適用され、駆動源として設けられた二つの電動モータ2,3(以下、単に「モータ」ともいう)の駆動力(トルク)を車両の左右輪9L,9Rに伝達する。なお、動力伝達装置1は、車両の前輪,後輪のいずれにも適用可能である。また、動力伝達装置1は、発電用のエンジン及びジェネレータ(いずれも図示略)を備えた車両に適用してもよい。動力伝達装置1は、外部充電及び外部給電の少なくとも一方が可能なプラグインハイブリッド車両(PHEV)に適用してもよい。
【0015】
動力伝達装置1には、二つのモータ2,3と、差動装置4と、三つのギヤ列11,12,13と、第一切替機構5とが設けられる。さらに、第一実施形態の動力伝達装置1には、二つのモータ2,3と差動装置4との軸心位置を相違させる二つのギヤ列14,15が設けられている。動力伝達装置1は、二つのモータ2,3が独立して左右輪9L,9Rのそれぞれにトルク伝達する第一経路と、二つのモータ2,3のうち一方が差動装置4を介して左右輪9L,9Rの双方へトルク伝達する第二経路と、を第一切替機構5により切り替え可能に構成される。第一経路において、第一モータ2(一方の電動モータ)の駆動力は左輪9L(左右輪の一方)に伝達され、第二モータ3(他方の電動モータ)の駆動力は右輪9R(左右輪の他方)に伝達される。また、第二経路において、第二モータ3の駆動力は左右輪9L,9Rの双方に伝達される。
【0016】
二つのモータ2,3は、電動機としての機能と発電機としての機能とを兼ね備えた電動発電機(モータ・ジェネレータ)である。二つのモータ2,3の各周囲(又は各内部)には、直流電流と交流電流とを変換するインバータ(図示略)が設けられる。二つのモータ2,3の各回転速度は、インバータを制御することで制御される。なお、二つのモータ2,3及び各インバータの作動状態は、電子制御装置(図示略)で制御される。
【0017】
差動装置4は、容器状のデフケース4cに支持された差動歯車を左側カウンタ軸23(一側カウンタ軸)と右側カウンタ軸24(他側カウンタ軸)との間且つ同軸上に介装させてなるディファレンシャル装置である。左側カウンタ軸23は、左輪9Lに接続される左側出力軸21(一側出力軸)よりも動力伝達経路の上流側に配置される軸である。左側カウンタ軸23は、左側出力軸21と平行に設けられ、その軸心位置は左側出力軸21の軸心位置と相違する。右側カウンタ軸24は、右輪9Rに接続される右側出力軸22(他側出力軸)よりも動力伝達経路の上流側に配置される軸である。右側カウンタ軸24は、右側出力軸22と平行に設けられ、その軸心位置は右側出力軸22の軸心位置と相違する。つまり、差動装置4は、左右輪9L,9Rのそれぞれに同軸接続される出力軸21,22とは異なる位置に配置されたカウンタ軸23,24の間に介装される。
【0018】
デフケース4cの内部には、左側カウンタ軸23に固定された左側サイドギヤ4aと、デフケース4cに枢支されたデフピニオンギヤ4pと、右側カウンタ軸24に固定された右側サイドギヤ4bとが噛合した状態で収納される。左側サイドギヤ4a及び右側サイドギヤ4bの回転軸は同一直線上に配置され、デフピニオンギヤ4pの回転軸はこれに直交して配置される。左側サイドギヤ4a,デフケース4c,右側サイドギヤ4bの三者は、相互に動力を伝達可能であるとともに、共線図上における回転速度がこの順序で直線状に配置されるように各々の構造(位置,形状,歯数)が設定される。
【0019】
三つのギヤ列11,12,13のうち第一ギヤ列11は、左側出力軸21と左側カウンタ軸23との間で回転を変速する。第一ギヤ列11は、左側カウンタ軸23に固定された上流側固定ギヤ11a、及び、左側出力軸21に固定された下流側固定ギヤ11bからなる。二つの固定ギヤ11a,11bは、例えば、平歯車である。二つの固定ギヤ11a,11bは、常時噛合し、左側カウンタ軸23の回転を変速(例えば、減速)して左側出力軸21に伝達する。
【0020】
三つのギヤ列11,12,13のうち第二ギヤ列12は、右側出力軸22と右側カウンタ軸24との間で回転を変速可能に構成される。第二ギヤ列12は、右側カウンタ軸24に固定された上流側固定ギヤ12a、及び、右側出力軸22に対して相対回転可能に支持された下流側遊転ギヤ12bからなる。上流側固定ギヤ12a及び下流側遊転ギヤ12bは、例えば、平歯車であり、常時噛合する。
【0021】
下流側遊転ギヤ12bには、その軸方向の一側に第一切替機構5の第二ドグギヤ5bが連結される。本実施形態において、第二ドグギヤ5bは、下流側遊転ギヤ12bの左側に設けられる。第二ギヤ列12は、第一切替機構5の作動により第二ドグギヤ5bが右側出力軸22に対して相対回転不能な状態となることで、右側出力軸22と右側カウンタ軸24との間で回転を変速する。具体的には、第二ギヤ列12は、右側カウンタ軸24の回転を変速(例えば、減速)して、右側出力軸22に伝達する。なお、第二ギヤ列12の減速比は、例えば、第一ギヤ列11の減速比と同一とされる。
【0022】
三つのギヤ列11,12,13のうち第三ギヤ列13は、右側出力軸22と差動装置4のデフケース4cとの間で回転を変速可能に構成される。本実施形態において、第三ギヤ列13は、第二ギヤ列12の左側(第二ギヤ列12とデフケース4cとの間)に設けられる。第三ギヤ列13は、デフケース4cに固定された上流側固定ギヤ13a、及び、右側出力軸22に対して相対回転可能に支持された下流側遊転ギヤ13bからなる。上流側固定ギヤ13a及び下流側遊転ギヤ13bは、例えば、平歯車であり、常時噛合する。
【0023】
下流側遊転ギヤ13bには、その軸方向の他側に第一切替機構5の第一ドグギヤ5aが連結される。本実施形態において、第一ドグギヤ5aは、下流側遊転ギヤ13bの右側に設けられる。つまり、上述の配置関係から、本実施形態の第一ドグギヤ5aは、第二ギヤ列12の下流側遊転ギヤ12bに連結された第二ドグギヤ5bと軸方向に対向配置されているとも言える。
【0024】
第三ギヤ列13は、第一切替機構5の作動により第一ドグギヤ5aが右側出力軸22に対して相対回転不能な状態となることで、右側出力軸22とデフケース4cとの間で回転を変速する。具体的には、第三ギヤ列13は、デフケース4cの回転を変速(例えば、減速)して、右側出力軸22に伝達する。なお、第三ギヤ列13の減速比は、例えば、第一ギヤ列11及び第二ギヤ列12の減速比と同一とされる。
【0025】
第四ギヤ列14は、第一モータ2の回転軸2sに対し同軸上で一体回転する第一入力軸25(一側入力軸)と左側カウンタ軸23との間で回転を変速する。第一入力軸25は、左側カウンタ軸23よりも動力伝達経路の上流側に配置される軸であり、回転軸2sと一体ものでもよいし、別体で設けられて回転軸2sに接続されるものでもよい。第一入力軸25は、左側カウンタ軸23と平行に設けられ、その軸心位置は左側カウンタ軸23の軸心位置と相違する。つまり、第四ギヤ列14は、第一入力軸25と左側カウンタ軸23との間で回転を変速する役割に加えて、第一モータ2の軸心位置と左側カウンタ軸23の軸心位置とを相違させる役割を担う。
【0026】
第四ギヤ列14は、第一入力軸25に固定された上流側固定ギヤ14a、及び、左側カウンタ軸23に固定された下流側固定ギヤ14bからなる。二つの固定ギヤ14a,14bは、例えば、平歯車であり、常時噛合する。第四ギヤ列14は、第一モータ2の駆動に応じて第一入力軸25の回転を変速(例えば、減速)して左側カウンタ軸23に伝達する。
【0027】
第五ギヤ列15は、第二モータ3の回転軸3sに対し同軸上で一体回転する第二入力軸26(他側入力軸)とデフケース4cとの間で回転を変速する。第二入力軸26は、デフケース4cよりも動力伝達経路の上流側に配置される軸であり、回転軸3sと一体ものでもよいし、別体で設けられて回転軸3sに接続されるものでもよい。第二入力軸26は、デフケース4cの回転軸と平行に設けられ、その軸心位置はデフケース4cの回転軸の軸心位置と相違する。つまり、第五ギヤ列15は、第二入力軸26とデフケース4cとの間で回転を変速する役割に加えて、第二モータ3の軸心位置とデフケース4cの回転軸の軸心位置とを相違させる役割を担う。なお、上述の通り、差動装置4は、左側カウンタ軸23及び右側カウンタ軸24の間に同軸で介装されていることから、上記後者の役割は、第二モータ3の軸心位置とカウンタ軸23,24の軸心位置とを相違させる役割とも換言される。
【0028】
第五ギヤ列15は、第二入力軸26に固定された上流側固定ギヤ15a、及び、デフケース4cに固定された下流側固定ギヤ15bからなる。二つの固定ギヤ15a,15bは、例えば、平歯車であり、常時噛合する。第五ギヤ列15は、第二モータ3の駆動に応じて第二入力軸26の回転を変速(例えば、減速)してデフケース4cに伝達する。
【0029】
なお、図1では、第二入力軸26が第一入力軸25の内側に配設されているように図示されているが、第一入力軸25及び第二入力軸26の配置関係はこれに限らない。例えば、第四ギヤ列14の上流側固定ギヤ14aの軸心位置と第五ギヤ列15の上流側固定ギヤ15aの軸心位置とを車両前後方向に相違させて、第一入力軸25及び第二入力軸26を平行に配設してもよい。この場合、二つのモータ2,3は、左右方向の同位置(車両前後方向に並列)に配置されてもよい。また、第二モータ3を第五ギヤ列15の上流側固定ギヤ15aの右側に配置し、第二入力軸26を第五ギヤ列15の上流側固定ギヤ15aの右側に延出させてもよい。
【0030】
第一切替機構5は、第二ギヤ列12又は第三ギヤ列13と右側出力軸22との断接状態を切り替えて第二ギヤ列12及び第三ギヤ列13のいずれか一方の回転を右側出力軸22に伝達するもので、右側出力軸22に設けられる。本実施形態において、第一切替機構5は、第二ギヤ列12及び第三ギヤ列13のそれぞれの下流側遊転ギヤ12b,13bの間に配置される。
【0031】
第一切替機構5は、第一ドグギヤ5aと、第二ドグギヤ5bと、右側出力軸22に固定されたハブ5hと、ハブ5h(右側出力軸22)に対して相対回転不能であり且つ右側出力軸22の軸方向に摺動自在に結合された環状のスリーブ5sとを有する。スリーブ5sは、図示しないアクチュエータが電子制御装置によって制御されることで、図中のニュートラル位置から左右両側へ移動する。スリーブ5sの径方向内側には、ドグギヤ5a,5bのドグ歯と係合するスプライン歯(図示略)が設けられる。スプライン歯とドグ歯とが係合することで、スリーブ5sと第一ドグギヤ5a又は第二ドグギヤ5bとが係合する。以下、スリーブ5sが第一ドグギヤ5aと係合した状態を第一状態と呼び、スリーブ5sが第二ドグギヤ5bと係合した状態を第二状態と呼ぶ。第一状態は、第三ギヤ列13の回転を右側出力軸22に伝達する状態であり、第二状態は、第二ギヤ列12の回転を右側出力軸22に伝達する状態である。
【0032】
[1-2.作用,効果]
上述した動力伝達装置1によれば、二つのモータ2,3が独立して左右輪9L,9Rのそれぞれにトルク伝達する第一経路と、第二モータ3で左右輪9L,9Rにトルク伝達する第二経路と、を切り替えることができる。以下、図2及び図3を参照して、動力伝達装置1の作用及び効果を詳述する。図2は、第一切替機構5が第一状態であるときの動力伝達経路を説明するためのスケルトン図であり、図3は、第一切替機構5が第二状態であるときの動力伝達経路を説明するためのスケルトン図である。
【0033】
第一切替機構5が第一状態である、すなわち、第一ドグギヤ5aにスリーブ5sが係合しているとき、第三ギヤ列13を介してデフケース4cの回転を右側出力軸22に伝達可能な状態となる。これにより、図2のドット塗の矢印で示すように、第一モータ2の駆動力が左輪9Lに伝達される経路と第二モータ3の駆動力が右輪9Rに伝達される経路との二つの経路からなる第一経路が形成される。
【0034】
詳述すると、動力伝達装置1は、第一モータ2の駆動力を、第一入力軸25,第四ギヤ列14,左側カウンタ軸23(左側サイドギヤ4a),第一ギヤ列11及び左側出力軸21を介して左輪9Lに伝達することができる。また、動力伝達装置1は、第二モータ3の駆動力を、第二入力軸26,第五ギヤ列15,デフケース4c,第三ギヤ列13,第一切替機構5及び右側出力軸22を介して右輪9Rに伝達することができる。よって、二つのモータ2,3が独立して左右輪9L,9Rのそれぞれに駆動力を伝達することができる。なお、この状態では、第二ギヤ列12の下流側遊転ギヤ12bは空転していることから、二つのモータ2,3の差回転は、右側サイドギヤ4bが空転することで吸収される。
【0035】
一方で、第一切替機構5が第二状態である、すなわち、第二ドグギヤ5bにスリーブ5sが係合しているとき、第二ギヤ列12を介して右側カウンタ軸24の回転を右側出力軸22に伝達可能な状態となる。これにより、図3のドット塗の矢印で示すように、第二モータ3の駆動力が差動装置4を介して左右輪9L,9Rに分配される第二経路が形成される。
【0036】
詳述すると、動力伝達装置1は、第二モータ3の駆動力を、第二入力軸26及び第五ギヤ列15を介してデフケース4cに伝達することができる。第二状態では、デフケース4cに固定された上流側固定ギヤ13aを有する第三ギヤ列13の下流側遊転ギヤ13bは、右側出力軸22に対して空転する。このため、デフケース4cに伝達された駆動力は、左右のサイドギヤ4a,4bを介して、左右のカウンタ軸23,24に分配され、第一ギヤ列11及び第二ギヤ列12のそれぞれと左右の出力軸21,22のそれぞれを介して、左右輪9L,9Rに伝達される。つまり、第一切替機構5が第二状態であるとき、左右輪9L,9Rは、第二モータ3から伝達される駆動力のみで駆動される。
【0037】
動力伝達装置1は、上述の第一経路及び第二経路を切り替えることで、モータ効率を考慮しつつ車両を走行させることができる。ここで、モータ2,3の効率は、モータ2,3の回転速度及び出力トルクに依存し、その回転速度及び出力トルクが低いほど低くなる傾向がある。このため、動力伝達装置1は、例えば、各モータ2,3の出力トルクが所定値よりも低くなるときには、第二経路を選択して、二つのモータ2,3の出力トルク(二つ分の出力トルク)を一つのモータ3で出力させることで、モータ効率の良い状態で車両を走行させることができる。
【0038】
例えば、要求トルクが低トルク域であるときに、二つのモータ2,3で左右輪9L,9Rを独立に駆動させると、二つのモータ2,3は、上記の要求トルクを分け合って左右輪9L,9Rを駆動させることとなる。つまり、この場合、各モータ2,3は、上記の要求トルクよりもさらに低いトルクであって、モータ効率の悪い領域で作動することになりうる。動力伝達装置1は、このような場合に第二経路を選択して、一つの第二モータ3により左右輪9L,9Rを駆動させることで、モータ効率の低下を抑制することができる。これにより、車両の電費を良くすることができ、車両の後続距離を向上させることができる。一方で、動力伝達装置1は、高い要求トルクが求められるときには、第一経路を選択して、二つのモータ2,3のそれぞれで左右輪9L,9Rを駆動させることで、高い要求トルクを実現することができる。
【0039】
さらに、動力伝達装置1では、差動装置4が左側出力軸21及び右側出力軸22の間に介装されるのではなく、左側カウンタ軸23及び右側カウンタ軸24の間に介装される。このように、出力軸21,22の軸線位置とは異なる軸線位置に配置されたカウンタ軸23,24の間に差動装置4を介装させる構成とすることで、第一経路と第二経路との切替を一つの第一切替機構5によって実現することができる。よって、車両のコストダウンや、サイズダウンに寄与することができる。
【0040】
また、動力伝達装置1は、図3の黒塗り矢印で示すように、第一切替機構5が第二状態であるときに、第一モータ2を作動させれば、左右輪9L,9Rの間に回転数差を能動的に生じさせることができる。すなわち、トルクベクタリングが可能である。具体的には、第二状態において、第一モータ2の動力(正負のトルク)は、第一入力軸25及び第四ギヤ列14を介して左側カウンタ軸23に入力され、これにより左右輪9L,9Rの間に回転数差が発生する。よって、左右輪9L,9Rにおける駆動力の分担割合を積極的に制御することでヨーモーメントの大きさを調節し、これを以て車両の姿勢を安定させる機能(いわゆる、AYC機能)を実現することができる。なお、左右輪9L,9Rの間の回転数差の大きさ及び方向は、第一モータ2の回転量及び回転方向に応じたものとなる。
【0041】
動力伝達装置1には、第四ギヤ列14及び第五ギヤ列15が設けられている。これにより、二つのモータ2,3の回転軸2s,3sの軸心位置をカウンタ軸23,24の軸心位置と相違させることができるため、レイアウト性の向上を図ることができる。例えば、二つのモータ2,3を左右方向の同位置(車両前後方向に並列)に配置することで、動力伝達装置1の横幅を小さくすることができる。
【0042】
[1-3.変形例]
上述の動力伝達装置1の構成は一例である。動力伝達装置の構成は、上述の動力伝達装置1と左右対称の構成であってもよい。すなわち、特許請求の範囲の「一側」が右側であり、「他側」が左側であってもよい。また、上述の実施形態において、第一切替機構5は、第二ギヤ列12と第三ギヤ列13との間に配置されていたが、第一切替機構5は、第二ギヤ列12又は第三ギヤ列13と右側出力軸22との断接状態を切り替えられる構成であればこの位置に限らない。
【0043】
第四ギヤ列14及び第五ギヤ列15は省略されてもよい。図4は、第四ギヤ列14及び第五ギヤ列15が省略された場合の動力伝達装置1′のスケルトン図である。変形例の動力伝達装置1′は、上述の動力伝達装置1に対し、第四ギヤ列14及び第五ギヤ列15が省略され、二つのモータ2′,3′がカウンタ軸23′,24′と同軸に配置されている点で異なり、他の構成は同様である。図4では、図1に対応する構成には図1の符号にダッシュ(′)を付け、図1と同一構成の符号を一部省略している。
【0044】
変形例の動力伝達装置1′では、第一モータ2′の回転軸2s′と左側カウンタ軸23′とが同軸上で一体回転する。さらに、左側カウンタ軸23′は、第二モータ3′の回転軸3s′の内部を貫通して差動装置4′の左側サイドギヤ4a′に固定される。なお、第二モータ3′の回転軸3s′は中空軸であり、デフケース4c′に直結されている。
【0045】
このような、動力伝達装置1′でも、上述の動力伝達装置1と同様の効果を得ることができる。すなわち、第一切替機構5′が第一状態とされれば、二つのモータ2′,3′が、第一ギヤ列11′及び第三ギヤ列13′のそれぞれを介して、左右輪9L′,9R′のそれぞれにトルク伝達する第一経路を形成することができる。また、第一切替機構5′が第二状態とされれば、第二モータ3′で、差動装置4′と、第一ギヤ列11′及び第二ギヤ列12′のそれぞれとを介して、左右輪9L′,9R′にトルク伝達する第二経路を形成することができる。さらに、上述の動力伝達装置1に対して、動力伝達装置1′では、軸数を低減させることができるため、動力伝達損失を低減できるとともに車両のコストダウンに寄与することもできる。
【0046】
[2.第二実施形態]
[2-1.構成]
図5は、第二実施形態としての動力伝達装置1″を示すスケルトン図である。以下の説明では、上述した第一実施形態と異なる構成をおもに説明し、第一実施形態の構成と対応する構成については図1の符号にダブルクォーテーション(″)を付し、重複する説明は省略する。また、図5では、図1と同一構成の符号を一部省略している。
【0047】
動力伝達装置1″は、おもに、エンジン6と二つの遊星歯車機構71,72と第二切替機構8と第八ギヤ列18とを備える点、及び、第四ギヤ列14及び第五ギヤ列15に代えて第六ギヤ列16及び第七ギヤ列17を備える点で第一実施形態の動力伝達装置1と異なる。すなわち、第二実施形態の動力伝達装置1″は、エンジン6の動力も左右輪9L″,9R″に伝達可能なハイブリッド車両に適用される。なお、当該車両は、外部充電及び外部給電の少なくとも一方が可能なプラグインハイブリッド車両(PHEV)であってもよい。第二切替機構8は、後述する第四経路が形成される場合に、第六ギヤ列16と左側カウンタ軸23″との間の接続を切り離すもので、第四経路以外の経路では第六ギヤ列16と左側カウンタ軸23″とを接続状態とする。
【0048】
動力伝達装置1″は、第一実施形態の動力伝達装置1と同様に、二つのモータ2″,3″が独立して左右輪9L″,9R″のそれぞれにトルク伝達する第一経路と、二つのモータ2″,3″のうち一方が差動装置4″を介して左右輪9L″,9R″の双方へトルク伝達する第二経路と、を第一切替機構5″により切り替え可能に構成される。さらに、動力伝達装置1″には、エンジン6が二つの遊星歯車機構71,72のそれぞれを介して左右輪9L″,9R″のそれぞれにトルク伝達する第三経路が形成される。また、動力伝達装置1″には、第二切替機構8が第六ギヤ列16と左側カウンタ軸23″との間の接続を切り離すことで、エンジン6が差動装置4″を介して左右輪9L″,9R″の双方へトルク伝達する第四経路が形成される。
【0049】
エンジン6と二つのモータ2″,3″との間には、エンジン6の回転を変速する第八ギヤ列18と、第八ギヤ列18の下流側固定ギヤ18bが固定されるエンジン側入力軸27と、二つの遊星歯車機構71,72とが設けられている。エンジン6は、ガソリンや軽油を燃焼とする内燃機関(ガソリンエンジン,ディーゼルエンジン)である。本実施形態においてエンジン6は、クランクシャフト6aの向きが、左右輪9L″,9R″に接続される出力軸21″,22″と平行となるように横向きに配置されたいわゆる横置きエンジンである。エンジン6の作動状態は、電子制御装置で制御される。
【0050】
第八ギヤ列18は、クランクシャフト6aとエンジン側入力軸27との間で回転を変速する。第八ギヤ列18は、クランクシャフト6aと一体回転する上流側固定ギヤ18a、及び、エンジン側入力軸27に固定された下流側固定ギヤ18bからなる。二つの固定ギヤ18a,18bは、例えば、平歯車であり、常時噛合する。本実施形態では、第八ギヤ列18を挟んで、第一モータ2″及び第一遊星歯車機構71と、第二モータ3″及び第二遊星歯車機構72とが同軸配置される。
【0051】
エンジン側入力軸27は、図5に示すように、その一端が第一遊星歯車機構71のリングギヤ71r(第二要素)に連結される。また、エンジン側入力軸27は、第二モータ3″の回転軸3s″の内部を貫通し、その他端が第二遊星歯車機構72のサンギヤ72s(第二要素)に連結される。なお、第一遊星歯車機構71は第一モータ2″の右側に位置し、第二遊星歯車機構72は第二モータ3″の右側に位置する。
【0052】
第一遊星歯車機構71及び第二遊星歯車機構72は、同軸配置されたサンギヤ71s,72sとキャリア71c,72cと、リングギヤ71r,72rとを要素として有する3要素2自由度の遊星歯車である。リングギヤ71r,72rは環状をなし、サンギヤ71s,72sはリングギヤ71r,72rの内側においてリングギヤ71r,72rと同軸に配置される。リングギヤ71r,72r及びサンギヤ71s,72sの間には、リングギヤ71r,72r及びサンギヤ71s,72sの双方に噛合するプラネタリギヤが設けられており、キャリア71c,72cは、プラネタリギヤの回転中心をサンギヤ71s,72sと同軸回転可能に支持する。
【0053】
本実施形態の第一遊星歯車機構71は、リングギヤ71rがエンジン側入力軸27に固定され、キャリア71c(第一要素)が第一モータ2″の回転軸2s″と一体回転し、サンギヤ71s(第三要素)が第一入力軸25″に固定される。なお、第一入力軸25″は第六ギヤ列16の上流側固定ギヤ16aに固定される軸であり、第一モータ2″の回転軸2s″の内部を貫通する。
【0054】
また、本実施形態の第二遊星歯車機構72は、サンギヤ72sがエンジン側入力軸27に固定され、キャリア72c(第一要素)が第二モータ3″の回転軸3s″と一体回転し、リングギヤ72r(第三要素)が第二入力軸26″に固定される。なお、第二入力軸26″は第七ギヤ列17の上流側固定ギヤ17aに固定される。
【0055】
第六ギヤ列16は、第一入力軸25″、すなわち第一遊星歯車機構71のサンギヤ71sと左側カウンタ軸23″との間で回転を変速可能に構成される。第六ギヤ列16には、第一入力軸25″に固定された上流側固定ギヤ16a、及び、左側カウンタ軸23″と同軸且つ左側カウンタ軸23″に対して相対回転可能に支持された下流側遊転ギヤ16bが含まれる。上流側固定ギヤ16a及び下流側遊転ギヤ16bは、例えば、平歯車であり、常時噛合する。
【0056】
下流側遊転ギヤ16bには、その軸方向の他側に第二切替機構8のドグギヤ8aが連結される。本実施形態において、ドグギヤ8aは、下流側遊転ギヤ16bの右側に設けられる。第六ギヤ列16は、第二切替機構8の作動によりドグギヤ8aが左側カウンタ軸23″に対して相対回転不能な状態となることで、第一入力軸25″の回転を変速(例えば、減速)して、左側カウンタ軸23″に伝達する。
【0057】
第七ギヤ列17は、第二入力軸26″、すなわち第二遊星歯車機構72のリングギヤ72rとデフケース4c″との間で回転を変速する。第七ギヤ列17は、第二入力軸26″に固定された上流側固定ギヤ17a、及び、デフケース4c″に固定された下流側固定ギヤ17bからなる。二つの固定ギヤ17a,17bは、例えば、平歯車であり、常時噛合する。なお、第七ギヤ列17の減速比は、例えば、第六ギヤ列16の減速比と同一とされる。
【0058】
第二切替機構8は、左側カウンタ軸23″に設けられる。第二切替機構8は、ドグギヤ8aと、左側カウンタ軸23″に固定されたハブ8hと、ハブ8h(左側カウンタ軸23″)に対して相対回転不能であり且つ左側カウンタ軸23″の軸方向に摺動自在に結合された環状のスリーブ8sとを有する。スリーブ8sの径方向内側には、ドグギヤ8aのドグ歯と係合するスプライン歯(図示略)が設けられる。スプライン歯とドグ歯とが係合することで、スリーブ8sとドグギヤ8aとが係合する。スリーブ8sは、図示しないアクチュエータが電子制御装置によって制御されることで、図中の係合位置から右側へ移動し、第六ギヤ列16と左側カウンタ軸23″との間の接続を切り離す。以下、スリーブ8sがドグギヤ8aと係合した状態を「接続状態」と呼び、スリーブ8sがドグギヤ8aと係合していない状態を「非接続状態」と呼ぶ。
【0059】
[2-2.作用,効果]
上述した動力伝達装置1″においても、第一実施形態の動力伝達装置1と同様の効果を得ることができる。すなわち、エンジン6が停止した状態、且つ、第二切替機構8が接続状態である場合において、第一切替機構5″が第一状態となれば、第一モータ2″の駆動力が左輪9L″に伝達される経路と第二モータ3″の駆動力が右輪9R″に伝達される経路との二つの経路からなる第一経路が形成される。また、第一切替機構5″が第二状態となれば、第二モータ3″の駆動力が差動装置4″を介して左右輪9L″,9R″に分配される第二経路が形成される。よって、動力伝達装置1″は、上述の第一経路及び第二経路を切り替えることで、モータ効率を考慮しつつ車両を走行させることができる。
【0060】
図6には、第一経路又は第二経路により左右輪9L″,9R″に動力が伝達されているときの速度線図を示す。第一経路では、二つモータ2″,3″(MG1,MG2)のそれぞれの駆動力が、左右輪9L″,9R″のそれぞれに伝達される。第二経路では、第二モータ3″(MG2)の駆動力が、差動装置4″(デフ)を介して、左右輪9L″,9R″に伝達される。また、このとき、左側カウンタ軸23″の回転が、第六ギヤ列16,第一入力軸25″及び第一遊星歯車機構71を介して第一モータ2″に伝達されることで、第一モータ2″(MG1)は連れ回される。
【0061】
また、動力伝達装置1″では、エンジン6が作動することで、二つの遊星歯車機構71,72のそれぞれを介して左右輪9L″,9R″のそれぞれにトルク伝達する第三経路が形成される。よって、車両の走行パターンを増やすことができる。以下、図7及び図8を参照して詳述する。図7は、エンジン6が作動中であり、且つ、第一切替機構5″が第一状態であるときの動力伝達経路を説明するためのスケルトン図であり、図8は、図7の状態における動力伝達装置1″の作動を説明するための速度線図である。なお、図7の状態において、第二切替機構8は接続状態とされる。
【0062】
第一切替機構5″が第一状態であるとき、図7のドット塗の矢印で示すように、エンジン6の駆動力が、エンジン側入力軸27で分岐して二つの遊星歯車機構71,72のそれぞれを介して左右輪9L″,9R″に伝達される第三経路が形成される。詳述すると、第一遊星歯車機構71に入力されたエンジン6の駆動力は、第一入力軸25″,第六ギヤ列16,第二切替機構8,左側カウンタ軸23″(左側サイドギヤ4a″),第一ギヤ列11″及び左側出力軸21″を介して左輪9L″に伝達される。また、第二遊星歯車機構72に入力されたエンジン6の駆動力は、第二入力軸26″,第七ギヤ列17,デフケース4c″,第三ギヤ列13″,第一切替機構5″及び右側出力軸22″を介して右輪9″に伝達される。動力伝達装置1″は、このように第三経路を経由することで、エンジン6の駆動力を左右輪9L″,9R″に伝達することもできるため、車両の走行パターンを増やすことができる。
【0063】
また、第三経路は、第一経路と重複する。このため、図7の白抜き矢印で示すように、エンジン6の駆動中に二つのモータ2″,3″を力行状態とすることで、さらなる駆動力を左右輪9L″,9R″に伝達することもできる。図8の実線は、エンジン6の駆動中に二つのモータ2″,3″が力行状態とされた場合(すなわち、パラレル走行時)の速度線図である。エンジン6(EG)の駆動力に加えて、二つのモータ2″,3″(MG1,MG2)のそれぞれの駆動力が、二つの遊星歯車機構71,72のそれぞれを介して左右輪9L″,9R″に伝達される。
【0064】
さらに、図7の黒塗り矢印で示すように、エンジン6の駆動中に二つのモータ2″,3″が回生状態とされれば、左右輪9L″,9R″に伝達されるエンジン6の駆動力の一部を利用して、二つのモータ2″,3″の両方を発電させることもできる。図8の破線は、エンジン6の駆動中に二つのモータ2″,3″が回生状態とされた場合の速度線図である。エンジン6(EG)の駆動力の一部は、二つのモータ2″,3″(MG1,MG2)を負の方向に回転させる(発電させる)動力として利用され、残りが二つの遊星歯車機構71,72のそれぞれを介して左右輪9L″,9R″に伝達される。
【0065】
本実施形態の動力伝達装置1″には、第二切替機構8が設けられているため、車両の走行パターンをさらに増やすことができる。以下、図9及び図10を参照して詳述する。図9は、エンジン6が駆動中であり、第一切替機構5″が第二状態であるとともに、第二切替機構8が非接続状態とされているときの動力伝達経路を説明するためのスケルトン図であり、図10は、図9の状態における動力伝達装置1″の作動を説明するための速度線図である。
【0066】
第二切替機構8が非接続状態されることで、第一入力軸25″と左側カウンタ軸23″との接続が切り離される。この状態で、第一切替機構5″が第二状態とされれば、図9のドット塗の矢印で示すように、エンジン6の駆動力が、差動装置4″を介して左右輪9L″,9R″に分配される第四経路が形成される。
【0067】
詳述すると、エンジン6の駆動力は、第八ギヤ列18,エンジン側入力軸27,第二遊星歯車機構72,第二入力軸26″及び第七ギヤ列17を介してデフケース4c″に入力される。さらに、第二経路と同様に、デフケース4c″に伝達された駆動力が、左右のサイドギヤ4a″,4b″を介して、左右のカウンタ軸23″,24″に分配され、第一ギヤ列11″及び第二ギヤ列12″のそれぞれと左右の出力軸21″,22″のそれぞれを介して、左右輪9L″,9R″に伝達される。動力伝達装置1″は、このように第四経路を経由することで、エンジン6の駆動力を左右輪9L″,9R″に伝達することもできるため、車両の走行パターンを増やすことができる。
【0068】
また、図9の状態のとき、エンジン6は、第一遊星歯車機構71を介して第一モータ2″にもトルクを伝達することができるとともに、図9の黒塗り矢印で示すように、第二遊星歯車機構72を介して第二モータ3″にもトルクを伝達することができる。したがって、エンジン6の駆動中に二つのモータ2″,3″が回生状態とされれば、左右輪9L″,9R″に伝達されるエンジン6の駆動力の一部を利用して、二つのモータ2″,3″の両方を発電させることもできる。図10の実線は、エンジン6の駆動中に二つのモータ2″,3″が回生状態とされた場合の速度線図である。エンジン6(EG)の駆動力の一部は、二つのモータ2″,3″(MG1,MG2)を負の方向に回転させる(発電させる)動力として利用され、残りが差動装置4″(デフ)を介して、左右輪9L″,9R″に伝達される。
【0069】
さらに、第四経路は、第二経路と重複する。このため、図9の白抜き矢印で示すように、エンジン6の駆動中に第二モータ3″を力行状態とすることで、さらなる駆動力を左右輪9L″,9R″に伝達することもできる。図10の破線は、エンジン6の駆動中に第二モータ3″が力行状態とされた場合の速度線図である。左右輪9L″,9R″には、エンジン6(EG)の駆動力に加えて、第二モータ3″(MG2)の駆動力が差動装置4″(デフ)を介して伝達される。なお、このとき、エンジン6(EG)の駆動力の一部を第一モータ2″(MG1)を負の方向に回転させる(発電させる)動力として利用してもよい。
【0070】
[2-3.その他]
上述の動力伝達装置1″の構成も一例である。上述の動力伝達装置1″において、第六ギヤ列16と左側カウンタ軸23″との間の接続を切り離す第二切替機構8は、省略されてもよい。上述の動力伝達装置1″では、第一遊星歯車機構71のリングギヤ71rがエンジン側入力軸27に連結され、第二遊星歯車機構72のサンギヤ72sがエンジン側入力軸27に連結される構成であったが、エンジン側入力軸27に連結される二つの遊星歯車機構71,72の要素はこれに限らない。例えば、第一モータ2″を第一遊星歯車機構71の右側に配置して、第一遊星歯車機構71のサンギヤ71sをエンジン側入力軸27に連結させる構成としてもよい。また、第二モータ3″を第二遊星歯車機構72の右側に配置して、第二遊星歯車機構72のリングギヤ72rをエンジン側入力軸27に連結させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0071】
1,1′,1″ 動力伝達装置
2,2′,2″ 第一モータ(電動モータ)
2s,2s′,2s″ 回転軸
3,3′,3″ 第二モータ(電動モータ)
3s,3s′,3s″ 回転軸
4,4′,4″ 差動装置
4a,4a′,4a″ 左側サイドギヤ
4b,4b′,4b″ 右側サイドギヤ
4c,4c′,4c″ デフケース
5,5′,5″ 第一切替機構
6 エンジン
8 第二切替機構
9L,9L′,9L″ 左輪
9R,9R′,9R″ 右輪
11,11′,11″ 第一ギヤ列
12,12′,12″ 第二ギヤ列
13,13′,13″ 第三ギヤ列
14 第四ギヤ列
15 第五ギヤ列
16 第六ギヤ列
17 第七ギヤ列
21,21′,21″ 左側出力軸(一側出力軸)
22,22′,22″ 右側出力軸(他側出力軸)
23,23′,23″ 左側カウンタ軸(一側カウンタ軸)
24,24′,24″ 右側カウンタ軸(他側カウンタ軸)
25,25″ 第一入力軸(一側入力軸)
26,26″ 第二入力軸(他側入力軸)
71 第一遊星歯車機構(一側遊星歯車機構)
71c キャリア(第一要素)
71r リングギヤ(第二要素)
71s サンギヤ(第三要素)
72 第二遊星歯車機構(他側遊星歯車機構)
72c キャリア(第一要素)
72r リングギヤ(第三要素)
72s サンギヤ(第二要素)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10