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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20250408BHJP
   C22C 1/10 20230101ALN20250408BHJP
   C01B 33/02 20060101ALN20250408BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
C22C1/10 J
C01B33/02 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022086156
(22)【出願日】2022-05-26
(65)【公開番号】P2023173713
(43)【公開日】2023-12-07
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】内山 貴之
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-166153(JP,A)
【文献】特開2022-077326(JP,A)
【文献】特開2019-210194(JP,A)
【文献】特開2021-022554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
C22C 1/10
C01B 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質の製造方法であって、
Li元素とSi元素とを含有するLiSi前駆体を準備すること、及び
Li抽出溶媒を用いて前記LiSi前駆体から前記Li元素を抽出して空隙を形成すること、を含み、
前記Li抽出溶媒が、エタノール、メタノール、及び、1-プロパノールを含む、
製造方法。
【請求項2】
Si粒子とLi金属とを混合して前記LiSi前駆体を得ること、
前記LiSi前駆体を分散媒に分散させて分散液を得ること、及び
前記分散液と前記Li抽出溶媒とを混合して、前記LiSi前駆体から前記Li元素を抽出して空隙を形成すること、を含む、
請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は活物質の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、Li抽出溶媒を用いてLiSi前駆体からLi元素を抽出することで、空隙を有する活物質を製造する方法が開示されている。特許文献1及び2には、Li抽出溶媒としてエタノール、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ヘキサノール及び酢酸が開示されている。特許文献1及び2に開示された技術によれば、充放電に伴う体積変化量の小さな活物質が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-022554号公報
【文献】特開2021-166153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては活物質の細孔径を調整する余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
活物質の製造方法であって、
Li元素とSi元素とを含有するLiSi前駆体を準備すること、及び
Li抽出溶媒を用いて前記LiSi前駆体から前記Li元素を抽出して空隙を形成すること、を含み、
前記Li抽出溶媒が、エタノール、メタノール、及び、プロパノールからなる群より選択される2種以上を含むもの、
を開示する。
【0006】
本開示の製造方法において、前記Li抽出溶媒が、エタノールと、メタノール及びプロパノールのうちの1種以上と、を含むものであってもよい。
【0007】
本開示の製造方法において、前記Li抽出溶媒が、エタノール及びプロパノールを含むものであってもよい。
【0008】
本開示の製造方法において、前記Li抽出溶媒が、エタノール、メタノール、及び、1-プロパノールを含むものであってもよい。
【0009】
本開示の製造方法は、
Si粒子とLi金属とを混合して前記LiSi前駆体を得ること、
前記LiSi前駆体を分散媒に分散させて分散液を得ること、及び
前記分散液と前記Li抽出溶媒とを混合して、前記LiSi前駆体から前記Li元素を抽出して空隙を形成すること、を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示の製造方法によれば、細孔径が調整された活物質を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】活物質の製造方法の流れの一例を示している。
図2】活物質における直径55nm以下の細孔量と、電池の拘束圧増加量との関係を示している。
図3参考例1~2、実施例3及び比較例1、2の各々の活物質について、細孔径と細孔量との関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.活物質の製造方法
図1に活物質の製造方法の流れの一例を示す。図1に示されるように、本開示の活物質の製造方法は、Li元素とSi元素とを含有するLiSi前駆体を準備すること、及び、Li抽出溶媒を用いて前記LiSi前駆体から前記Li元素を抽出して空隙を形成すること、を含む。ここで、前記Li抽出溶媒は、エタノール、メタノール、及び、プロパノールからなる群より選択される2種以上を含む。
【0013】
1.1 LiSi前駆体の準備
LiSi前駆体は、Li元素とSi元素とを含む。LiSi前駆体は、例えば、LiとSiとの合金であってもよい。LiSi前駆体は、後述のLi抽出溶媒によってLiを抽出することで空隙を形成できるようなものであればよい。LiSi前駆体は、Si(ダイヤモンド型)の結晶相を有するものであってもよい。Siの結晶相は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=28.4°、47.3°、56.1°、69.2°、76.4°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.5°の範囲で前後していてもよく、±0.3°の範囲で前後していてもよい。LiSi前駆体は、Si(ダイヤモンド型)の結晶相を主相として有していてもよい。「主相」とは、XRDチャートにおいて、最も強度が大きいピークが属する結晶相をいう。LiSi前駆体は、Li22Siの結晶相やLi15Siの結晶相を有していてもよい。Li22Siの結晶相は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=24.8°及び40.8°の位置に典型的なピークを有し、Li15Siの結晶相は、CuKα線を用いたXRD測定において、2θ=20.3°、26.2°、39.4°、41.2°及び42.9°の位置に典型的なピークを有する。これらのピーク位置は、それぞれ、±0.5°の範囲で前後していてもよく、±0.3°の範囲で前後していてもよい。
【0014】
LiSi前駆体の組成は特に限定されない。LiSi前駆体は、Li元素及びSi元素のみを含有するものであってもよく、Li元素及びSi元素に加えて、他の元素を含有していてもよい。LiSi前駆体に含まれる全ての元素に対する、Li元素及びSi元素の合計の割合は、例えば、50mol%以上、70mol%以上、又は、90mol%以上であってもよい。LiSi前駆体において、Li元素及びSi元素の合計に対するLi元素の割合は、例えば、30mol%以上、50mol%以上、又は、80mol%以上であってもよく、95mol%以下、又は、90mol%以下であってもよい。
【0015】
LiSi前駆体は、Li元素を含有する原料とSi元素を含有する原料とを混合することにより得られたものであってもよい。例えば、本開示の製造方法においては、Si粒子とLi金属とを混合してLiSi前駆体を得てもよい。混合方法としては、例えば、Si粒子とLi金属とをメノウ乳鉢を用いて混合する方法、Si粒子とLi金属とをメカニカルミリング法を用いて混合する方法等が挙げられる。混合時の温度や圧力は特に限定されるものではない。混合時に加熱や冷却がされてもよいし、されなくてもよく、加圧や減圧がされてもよいし、されなくてもよい。混合時の雰囲気も特に限定されず、例えば、Ar雰囲気等の不活性ガス雰囲気であってよい。混合されるSi粒子やLi金属の形状や大きさも特に限定されるものではなく、目的とする活物質の形状や大きさ等に応じて適宜選択されればよい。
【0016】
1.2 Li元素の抽出及び空隙の形成
上述のLiSi前駆体からLi元素が抽出されることにより、空隙が形成される。Li元素の抽出にはLi抽出溶媒が用いられる。例えば、LiSi前駆体をLi抽出溶媒に接触させることで、Li抽出溶媒とLiとが反応し、LiSi前駆体からLi抽出溶媒へとLi元素が抽出される。LiSi前駆体をLi抽出溶媒に接触させる形態は特に限定されるものではなく、LiSi前駆体がLi抽出溶媒に浸漬されてもよいし、LiSi前駆体に対してLi抽出溶媒が吹き付けられてもよいし、LiSi前駆体とLi抽出溶媒とが混合されてもよいし、LiSi前駆体を分散媒に分散させて分散液とし、当該分散液とLi抽出溶媒とが混合されてもよい。
【0017】
特に、本開示の製造方法が、LiSi前駆体を分散媒に分散させて分散液を得ること、及び、当該分散液とLi抽出溶媒とを混合して、LiSi前駆体からLi元素を抽出して空隙を形成すること、を含む場合に、Li抽出後の活物質における細孔径が一層適切に調整され易い。分散媒としては、例えば、n-ヘプタン、n-オクタン、n-デカン、2-エチルヘキサン、シクロヘキサン等の飽和炭化水素、ヘキセン、ヘプテン等の不飽和炭化水素、1,3,5-トリメチルベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,2,3-トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素、n-ブチルエーテル、n-ヘキシルエーテル、イソアミルエーテル、ジフェニルエーテル、メチルフェニルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル類、から選ばれる1種以上の溶媒が挙げられる。これらの中でも、n-ブチルエーテル、1,3,5-トリメチルベンゼン及びn-ヘプタンから選ばれる1種以上が好ましく、特に1,3,5-トリメチルベンゼンが好ましい。尚、分散媒における水分量は少ないことが好ましい。水分はLiSi前駆体と反応するためである。分散媒における水分量は、例えば、100ppm以下、50ppm以下、30ppm以下、又は、10ppm以下であってもよい。分散液におけるLiSi前駆体の割合(固形分率)は特に限定されるものではなく、分散媒にLiSi前駆体を分散可能な程度の割合であればよい。分散液は、例えば、LiSi前駆体と分散媒とを混合することにより得られる。この場合の混合手段は特に限定されるものではない。
【0018】
Li抽出溶媒を用いてLiSi前駆体からLi元素を抽出する際の温度や圧力は特に限定されるものではない。Li抽出時に加熱や冷却がされてもよいし、されなくてもよく、加圧や減圧がされてもよいし、されなくてもよい。Li抽出時の雰囲気やLi抽出時間についても特に限定されるものではない。また、Li抽出時のLiSi前駆体とLi抽出溶媒との比も特に限定されるものではない。LiSi前駆体から必要な量のLiが抽出できるように温度、圧力、時間、比等が調整されればよい。
【0019】
本開示の製造方法においては、Li抽出溶媒を用いてLiSi前駆体からLi元素を抽出することで空隙が形成される。Li抽出後の活物質に形成される空隙は様々な細孔径を有する。ここで、Li抽出後の活物質における細孔径を調整することで、活物質が加圧された場合(例えば、電池製造時に電極がプレスされた場合)等においても細孔が潰れ難くなる。本発明者の知見によると、活物質において直径55nm以下の細孔の量を増加させることで、細孔が潰れ難くなり、充放電時の活物質の膨張収縮が一層抑制され易くなる。
【0020】
一方で、本発明者の知見によると、LiSi前駆体からLiを抽出する場合、Li抽出溶媒の種類によって、Li抽出速度が異なり、Li抽出後に形成される細孔の径が変化する。Li抽出溶媒の炭素数が多いほど、また、立体障害が大きいほど、Liと反応し難くなるためと考えられる。具体的には、Li抽出速度は、メタノールを用いた場合に最も速くなり、次いでエタノール、次いで1-プロパノール、次いでイソプロパノールを用いた場合である。また、Li抽出後の細孔径は、メタノールを用いた場合に最も大きくなり易く、次いでエタノール、次いで1-プロパノール、次いでイソプロパノールを用いた場合である。より具体的には、Li抽出溶媒としてエタノールのみを用いた場合、Li抽出後の活物質において10nm未満の径を有する細孔が形成され難い。また、Li抽出溶媒としてプロパノールのみを用いた場合、Li抽出後の活物質において10nm未満の径を有する細孔が形成され易いものの、20~55nmの径を有する細孔を形成する能力がエタノールよりも小さい。さらに、Li抽出溶媒としてメタノールのみを用いた場合、Li抽出後の活物質において45nmを超える径を有する細孔が形成され易くなる。すなわち、Li抽出溶媒として、エタノール、メタノール、又は、プロパノールのいずれかが単独で用いられた場合よりも、これらが2種以上組み合わせて用いられた場合のほうが、直径55nm以下の細孔の量が増加し、加圧時の細孔の潰れが抑制されて、充放電時の活物質の膨張収縮が抑制され易くなる。本発明者の知見によれば、Li抽出溶媒が、エタノールと、メタノール及びプロパノールのうちの1種以上と、を含む場合、中でも、Li抽出溶媒が、エタノール及びプロパノールを含む場合、さらにその中でも、Li抽出溶媒が、エタノール、メタノール、及び、1-プロパノールを含む場合に、Li抽出後の活物質において直径55nm以下の細孔の量が一層増加し易い。Li抽出溶媒におけるエタノール、メタノール及びプロパノールの質量比は特に限定されるものではなく、目的とする細孔径や細孔量に応じて適宜調整されればよい。
【0021】
尚、本願において「プロパノール」とは、1-プロパノール、イソプロパノール又はこれらの組み合わせをいう。また、本願において、「Li抽出溶媒が、エタノール、メタノール、及び、プロパノールからなる群より選択される2種以上を含む」とは、Li抽出溶媒が、少なくともエタノールとメタノールとを含む場合、少なくともエタノールとプロパノールとを含む場合、少なくともメタノールとプロパノールとを含む場合、及び、少なくともエタノールとメタノールとプロパノールとを含む場合のいずれかを意味する。すなわち、1-プロパノールとイソプロパノールとを含み、且つ、エタノール及びメタノールを含まない場合については、本開示のLi抽出溶媒には該当しない。
【0022】
Li抽出溶媒は、エタノール、メタノール、及び、プロパノールからなる群より選択される2種以上を含むものであればよく、さらに、これら以外の副溶媒を含んでいてもよい。副溶媒は、空隙の形成に悪影響を及ぼさないものであればよい。副溶媒としては、例えば、後述の酸が挙げられる。本開示の製造方法においては、エタノール、メタノール、及び、プロパノールからなる群より選択される2種以上の合計が、Li抽出溶媒の50質量%以上、70質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は、99質量%以上を占めていてもよい。
【0023】
Li元素の抽出は、1段階で行われてもよいし、2段階以上で行われてもよい。例えば、LiSi前駆体とLi抽出溶媒とを反応させることのみによって空隙を有する活物質を1段階で得てもよいし、Li抽出溶媒を用いた空隙の形成の後に、再度、Li抽出溶媒を用いてLi元素を抽出したり、或いは、酸を用いてLiを抽出するなどして、2段階以上の抽出処理を経て活物質を得てもよい。Li抽出溶媒を用いた後に酸を用いることで、LiSi前駆体からLi元素をより適切に抽出することができる。酸としては、例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸及びシュウ酸のうちの1種以上が挙げられる。特に酢酸が好ましい。酸を用いたLi抽出時の温度、圧力、時間、体積比等は特に限定されるものではない。
【0024】
本開示の製造方法においては、Li抽出後の活物質を任意に洗浄してもよい。これにより、活物質に含まれる不純物が低減され得る。LiSi前駆体とLi抽出溶媒との合計に占めるLiSi前駆体の濃度が高いと、製造効率は高くなる反面、不純物の生成量が多くなり易い。例えば、LiSi前駆体の濃度が、1LのLi抽出溶媒に対して、3.3g以上である場合に、Li抽出後の活物質を洗浄することで、製造効率の向上と、不純物の低減とを両立できる。洗浄は、例えば、活物質に酸を接触させる酸洗浄であってもよい。尚、上記の酸によるLi元素の抽出が、活物質の酸洗浄を兼ねていてもよい。
【0025】
以上の通りにして得られた活物質は、任意の方法で回収すればよい。例えば、Li抽出後の分散液、或いは、洗浄後の分散液から固体反応物(活物質)を分離して、乾燥することにより、活物質を回収することができる。
【0026】
2.活物質
本開示の技術は、活物質そのものとしての側面も有する。例えば、本開示の活物質は、Siを含む多孔質活物質であって、直径55nm以下の細孔を0.21cc/g以上含むものである。直径55nm以下の細孔が、活物質1gあたり0.21cc以上含まれることで、上述したように、加圧時の細孔の潰れが抑制されて、充放電時の活物質の膨張収縮が抑制され易くなる。本開示の活物質は、直径55nm以下の細孔を0.22cc/g以上、又は、0.23cc/g以上含むものであってもよく、0.30cc/g以下、0.28cc/g以下、又は、0.26cc/g以下含むものであってもよい。活物質に含まれる直径55nm以下の細孔の量は、例えば、窒素ガス吸着法、DFT法による細孔径分布から求めることができる。
【0027】
本開示の活物質の組成は特に限定されるものではない。本開示の活物質に含まれる全ての元素に対する、Si元素の割合は、例えば、50mol%以上、70mol%以上、又は、90mol%以上であってもよい。本開示の活物質は、Si元素以外に、Li元素を含んでいてもよい。また、酸化物等の不純物を含んでいてもよい。本開示の活物質は非晶質であっても結晶であってもよい。本開示の活物質に含まれる結晶相は特に限定されるものではない。
【0028】
本開示の活物質は粒子状であってもよい。本開示の活物質の平均一次粒子径は、50nm以上、100nm以上、又は、150nm以上であってもよく、3000nm以下、1500nm以下、又は、1000nm以下であってもよい。また、本開示の活物質の平均二次粒子径は、1μm以上、2μm以上、5μm以上、又は、7μm以上であってもよく、60μm以下、又は、40μm以下であってもよい。なお、平均一次粒子径及び平均二次粒子径は、例えばSEMによる観察によって求めることができ、例えば、複数の粒子の最大フェレ径の平均値として求められる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。平均一次粒子径及び平均二次粒子径は、例えば、活物質の製造条件を適宜変更したり、分級処理を行ったりすることで、適宜調整可能である。
【0029】
本開示の活物質は、所定の空隙率を有していてもよい。空隙率は、5%以上、10%以上、又は、20%以上であってもよく、50%以下、40%以下、又は、30%以下であってもよい。空隙率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察により求めることができる。サンプル数は多いことが好ましく、例えば100以上である。空隙率は、これらサンプルから求めた平均値とすることができる。
【0030】
本開示の活物質は、正極活物質であっても、負極活物質であってもよい。特に負極活物質であることが好ましい。また、本開示の活物質の用途は特に限定されないが、例えば、リチウムイオン二次電池に用いられることが好ましい。中でも、固体電解質、特に無機固体電解質、中でも硫化物固体電解質を含むリチウムイオン二次電池に用いられることが好ましい。固体電解質を含むリチウムイオン二次電池は、活物質の膨張収縮による拘束圧の変化が大きくなり易いところ、本開示の活物質を用いることで、拘束圧の変化を小さくすることができるためである。
【0031】
3.リチウムイオン二次電池の製造方法及びリチウムイオン二次電池
本開示の技術は、リチウムイオン二次電池の製造方法としての側面やリチウムイオン二次電池としての側面も有する。すなわち、本開示のリチウムイオン二次電池の製造方法は、上記本開示の製造方法によって活物質を製造すること、正極を得ること、負極を得ること、及び、前記正極と前記負極との間に電解質層を形成すること、を含み、前記活物質が、前記正極における正極活物質、又は、前記負極における負極活物質のいずれか一方として用いられることを特徴とする。また、本開示のリチウムイオン二次電池は、正極、負極及び電解質層を含み、前記正極及び前記負極のうちの一方が、上記本開示の活物質を含むことを特徴とする。
【0032】
上述の通り、本開示の活物質は、特に負極活物質として用いられることが好ましい。活物質以外の正極及び負極の構成は従来と同様であることから、詳細な説明を省略する。また、電解質層は、固体電解質、特に、無機固体電解質、中でも、硫化物固体電解質を含むものであることが好ましい。硫化物固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiS-P-LiI-LiBr、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P-GeS等が挙げられる。特に、構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高い。
【0033】
本開示のリチウムイオン二次電池は、正極活物質又は負極活物質として上記の本開示の活物質が用いられることで、充放電時の活物質の膨張収縮を抑えることができ、電池の拘束圧が過剰に増加するようなことが起こり難い。これにより、例えば、電池の入出力特性やサイクル特性等が改善され易くなる。
【0034】
本開示のリチウムイオン二次電池の正極、負極及び電解質層は、例えば、以下のようにして製造することができる。ただし、以下の方法に限定されるものではなく、例えば、乾式成形等によって各層が形成されてもよい。
(1)負極活物質等を溶媒に分散させて負極スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。その後、ドクターブレード等を用いて、負極スラリーを負極集電体或いは後述の電解質層の表面に塗工し、その後乾燥させることで、負極集電体或いは電解質層の表面に負極活物質層を形成し、負極とする。ここで、負極活物質層がプレス成形されてもよい。
(2)正極活物質等を溶媒に分散させて正極スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。その後、ドクターブレード等を用いて、正極スラリーを正極集電体或いは後述の電解質層の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極集電体或いは電解質層の表面に正極活物質層を形成し、正極とする。ここで、正極活物質層はプレス成形されてもよい。
(3)負極と正極とで電解質層を挟み込むように各層を積層し、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。電解質層は、例えば、電解質とバインダーとを含む電解質合剤を成形して得られたものであってよく、プレス成形されて得られたものであってもよい。或いは、電解液電池を製造する場合は、電解質層となるセパレータを負極活物質層と正極活物質層との間に挟み込めばよい。ここで、さらに積層体がプレス成形されてもよい。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材が取り付けられる。
(4)積層体を電池ケースに収容し密封することで、リチウムイオン二次電池が得られる。電解液電池を製造する場合は、電解液とともに積層体を電池ケースに収容し密封してもよい。
【実施例
【0035】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
1.評価用活物質の作製
1.1 参考例1
1.1.1 LiSi前駆体の準備
Si粒子(粒径0.5μm、高純度化学製)0.65gと、Li金属(本城金属製)0.60gとを、Ar雰囲気にて、メノウ乳鉢で混合して、LiSi前駆体を得た。
【0037】
1.1.2 LiSi前駆体の分散液の調製
Ar雰囲気下のガラス反応器内で、LiSi前駆体1.0gと、分散媒(1,3,5-トリメチルベンゼン、ナカライテスク製)125mlとを、超音波ホモジナイザー(UH-50、SMT社製)を用いて混合して分散液を得た。
【0038】
1.1.3 Li抽出溶媒によるLi元素の抽出
エタノール(ナカライテスク製)、メタノール(ナカライテスク製)、及び、イソプロパノール(ナカライテスク製)を、質量比で、85.5:13.4:1.1の割合となるように混合してLi抽出溶媒を得た。上記の分散液を0℃に冷却し、ここに上記のLi抽出溶媒125mlを滴下して、120分間反応させた。
【0039】
1.1.4 酸によるLi元素の抽出
Li抽出溶媒による反応後、さらに酢酸(ナカライテスク製)50mlを滴下して、60分間反応させた。
【0040】
1.1.5 活物質の回収
反応後、吸引ろ過にて液体と固体反応物とを分離した。得られた固体反応物を120℃で2時間真空乾燥して、評価用活物質として回収した。
【0041】
1.2 実施例2
Li抽出溶媒として、エタノール、イソプロパノール、及び、1-プロパノール(ナカライテスク製)を、質量比で、85.5:4.9:9.6の割合となるように混合したものを用いたこと以外は、参考例1と同様にして活物質を作製した。
【0042】
1.3 実施例3
Li抽出溶媒として、エタノール、メタノール、及び、1-プロパノールを、質量比で、85.5:4.9:9.6の割合となるように混合したものを用いたこと以外は、参考例1と同様にして活物質を作製した。
【0043】
1.4 比較例1
Li抽出溶媒として、エタノールを単独で用いたこと以外は、参考例1と同様にして活物質を作製した。
【0044】
1.5 比較例2
Li抽出溶媒として、1-プロパノールを単独で用いたこと以外は、参考例1と同様にして活物質を作製した。
【0045】
2.細孔径及び細孔量の測定
窒素ガス吸着法、DFT法による細孔径分布から、活物質に含まれる直径55nm以下の細孔の量を特定した。
【0046】
3.評価用電池の作製
3.1 硫化物固体電解質の合成
LiS(フルウチ化学製)0.550gと、P(アルドリッチ製)0.887gと、LiI(日宝化学製)0.285gと、LiBr(高純度化学製)0.277gとを、メノウ乳鉢で5分間混合した。得られた混合物に、n-ヘプタン(脱水グレード、関東化学製)を4g加え、遊星型ボールミルを用いて40時間メカニカルミリングすることで硫化物固体電解質を得た。
【0047】
3.2 正極合材の作製
LiNi1/3Co1/3Mn1/3(日亜化学工業製)に、LiNbOを用いて表面処理を施して正極活物質を得た。この正極活物質1.5gと、導電助剤(VGCF、昭和電工製)0.023gと、上記固体電解質0.239gと、バインダー(PVdF、クレハ製)0.011gと、酪酸ブチル(キシダ化学製)0.8gとを、超音波ホモジナイザー(UH-50、SMT社製)を用いて混合し、正極合材を得た。
【0048】
3.3 負極合材の作製
参考例1~2、実施例3、比較例1、2のいずれかの活物質1.0gと、導電助剤(VGCF、昭和電工製)0.04gと、上記固体電解質0.776gと、バインダー(PVdF、クレハ製)0.02gと、酪酸ブチル(キシダ化学製)1.7gとを、超音波ホモジナイザー(UH-50、SMT社製)を用いて混合し、負極合材を得た。
【0049】
3.4 電池の作製
1cmのセラミックス製の型に上記固体電解質0.065gを入れて、1ton/cmでプレスしセパレート層(固体電解質層)を作製した。その片側に上記正極合材0.018gを入れ、1ton/cmでプレスして正極活物質層を作製した。正極活物質層とは逆側に上記負極合材0.0054gを入れ4ton/cmでプレスすることで負極活物質層を作製した。正極集電体としてのアルミニウム箔を上記正極活物質層に積層し、負極集電体としての銅箔を上記負極活物質層に積層することで、評価用電池を作製した。
【0050】
4.拘束圧増加量の測定
評価用電池について、0.245mAで4.55VまでCC/CV充電した後、0.245mAで3.0VまでCC/CV放電を行った。初回充電において、電池の拘束圧力をモニタリングし、4.55Vでの拘束圧を測定した。比較例1の活物質を用いた電池における拘束圧を1.00として、比較例2及び参考例1~2、実施例3の活物質を用いた電池における拘束圧を相対評価した。
【0051】
5.評価結果
下記表1に、参考例1~2、実施例3及び比較例1、2の各々について、活物質の製造に用いたLi抽出溶媒の種類、活物質に含まれる直径55nm以下の細孔の量、及び、評価用電池の拘束圧増加量を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1に示される結果から、Li抽出溶媒として、エタノール、メタノール、及び、プロパノールから選ばれる2種以上の混合溶媒を用いた場合、エタノールやプロパノールを単独で用いた場合よりも、Li抽出後の活物質において、直径55nm以下の細孔の量が増加することが分かる。これは、溶媒の種類によってLiとの反応速度が異なり、形成される細孔のサイズも変化することによるものと考えられる。具体的には、Li抽出溶媒の炭素数が多いほど、また、立体障害が大きいほど、Liと反応し難い傾向にある。本発明者が確認した限りでは、Li抽出速度は、メタノールを用いた場合に最も速くなり、次いでエタノール、次いで1-プロパノール、次いでイソプロパノールを用いた場合である。また、Li抽出後の細孔径は、メタノールを用いた場合に最も大きくなり易く、次いでエタノール、次いで1-プロパノール、次いでイソプロパノールを用いた場合である。
【0054】
図2に、上記表1に示される結果に基づいて、直径55nm以下の細孔の量と拘束圧増加量との関係をプロットしたものを示す。図2から明らかなように、活物質に含まれる直径55nm以下の細孔の量が増加するほど、充電時の拘束圧増加量が顕著に小さくなることが分かる。直径55nm以下の細孔は、電池作製時のプレスによっても潰れ難く、細孔として適切に存在し、これにより、活物質の膨張を吸収する効果が発揮されるものと考えられる。
【0055】
図3参考例1~2、実施例3及び比較例1、2の各々の活物質について、細孔径と細孔量との関係を示す。図3に示される結果から、以下のことが分かる。まず、Li抽出溶媒としてエタノールのみを用いた場合(比較例1)、Li抽出後の活物質において10nm未満の径を有する細孔が形成され難い。また、Li抽出溶媒としてプロパノールのみを用いた場合(比較例2)、Li抽出後の活物質において10nm未満の径を有する細孔が形成されるものの、20~55nmの径を有する細孔を形成する能力がエタノールよりも小さい。また、Li抽出溶媒におけるメタノールの量が多い場合(参考例1)、Li抽出後の活物質において45nmを超える径を有する細孔が形成され易くなる。Li抽出溶媒が、エタノール、メタノール、及び、プロパノールからなる群より選択される2種以上を含む場合(参考例1~2、実施例3)、Li抽出後の活物質において、直径55nm以下の細孔が数多く形成されることが分かる。
【0056】
6.補足
尚、上記実施例においては、LiSi前駆体を分散媒に分散させて分散液を得たうえで、当該分散液とLi抽出溶媒とを混合してLi元素の抽出を行う形態を例示したが、本開示の技術はこの形態に限定されるものではない。LiSi前駆体をLi抽出溶媒に接触させることで、Li元素の抽出を行うことができるものと考えられ、接触方法として様々な方法が採用され得る。
【0057】
また、上記実施例においては、Li抽出溶媒によってLi元素を抽出した後の活物質を、さらに酢酸で処理する形態を例示したが、本開示の技術はこの形態に限定されるものではない。図3に示される結果から、活物質の細孔径や細孔量はLi抽出溶媒の種類によって調整されることが明らかであり、その後の酸処理については任意である。
【0058】
また、上記実施例においては、Li抽出後の活物質を負極活物質として用いる形態を例示したが、当該活物質は正極活物質として用いることも可能である。さらに、上記実施例においては、評価用電池として液体を含まない全固体電池を作製した場合を例示したが、本開示の技術は、全固体電池以外の電池にも適用可能である。ただし、本開示の技術による効果は、Li抽出後の活物質を負極活物質として用いた場合により顕著となり易く、また、固体電解質を含むリチウムイオン二次電池に当該活物質を適用した場合により顕著となり易い。
図1
図2
図3