(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】電池モジュールおよび電池モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/262 20210101AFI20250408BHJP
H01M 50/264 20210101ALI20250408BHJP
H01M 50/209 20210101ALN20250408BHJP
H01M 50/211 20210101ALN20250408BHJP
【FI】
H01M50/262 S
H01M50/262 E
H01M50/264
H01M50/209
H01M50/211
(21)【出願番号】P 2022136326
(22)【出願日】2022-08-29
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小橋 賢一
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-101485(JP,A)
【文献】国際公開第2019/044581(WO,A1)
【文献】特開2019-102323(JP,A)
【文献】特開2018-32519(JP,A)
【文献】特開2020-77482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/262
H01M 50/209
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルが厚さ方向に積層されたセル積層体と、前記セル積層体の積層方向両端に配置される一対のエンドプレートと、を含む電池スタックと、
上部が開口されるとともに前記電池スタックが収容される収容空間を有するケースと、
を備え、
前記エンドプレートは、積層方向外側の端面として、前記エンドプレートの下端に近づくにつれて前記電池スタックの積層方向の寸法が小さくなるように傾斜するエンドプレート側端面を有し、
前記ケースは、積層方向内側の端面として、前記ケースの下端に近づくにつれて前記収容空間の積層方向の寸法が小さくなるように傾斜するケース側端面を有し、
前記エンドプレート側端面と前記ケース側端面とが接触することにより前記セル積層体に積層方向の拘束荷重が付与される電池モジュールであって、
前記エンドプレートは、前記エンドプレート側端面の一部を囲むように形成された凹部を有し、
前記ケースは、前記エンドプレートの前記凹部に囲まれた領域と積層方向に対向する位置に形成された穴部を有し
、
前記エンドプレート側端面のうち前記ケース側端面と接触する接触面
は、前記ケース側端面
により積層方向内側
に押圧さ
れ、
前記凹部に囲まれた領域
は、前記接触面よりも積層方向外側に突出し、前記穴部の内側に侵入
している
ことを特徴とする電池モジュール。
【請求項2】
前記凹部は、前記接触面よりも積層方向内側に窪んだ溝部であり、
前記溝部に囲まれた領域は、前記接触面が前記ケース側端面から押圧されていない無負荷状態において前記接触面と同じ角度で傾斜する端面を含み、
前記穴部は、前記エンドプレートのうちの前記溝部に囲まれた領域を含む構造部を係止し、前記電池スタックが上方に移動することを規制する
ことを特徴とする請求項1に記載の電池モジュール。
【請求項3】
前記エンドプレートは、
積層方向と直交する平面上に配置される平板状のベース部と、
前記ベース部から積層方向外側に突出するリブと、を有し、
前記リブは、
積層方向外側の端面が前記接触面となる第1リブと、
前記ケース側端面からは押圧されず、前記凹部に囲まれた領域の構造部である第2リブと、を有し、
前記凹部は、前記第2リブの積層方向外側の端面に対する前記ベース部への積層方向の窪みであり、
前記穴部は、前記第2リブを係止し、前記電池スタックが上方に移動することを規制する
ことを特徴とする請求項1に記載の電池モジュール。
【請求項4】
前記第2リブは、上下方向から入力される荷重を受ける補強用のリブを含
み、
前記接触面は、前記第1リブに一体化された弾性体により形成されている
ことを特徴とする請求項3に記載の電池モジュール。
【請求項5】
前記穴部は、前記収容空間の上下方向中央位置よりも下側、かつ前記電池セルの幅方向中央位置に配置され、前記幅方向の開口幅が前記上下方向の開口幅より長い長方形状の開口部を有する
ことを特徴とする請求項1から
4のうちのいずれか一項に記載の電池モジュール。
【請求項6】
複数の電池セルが厚さ方向に積層されたセル積層体と、前記セル積層体の積層方向両端に配置される一対のエンドプレートと、を含む電池スタックと、
上部が開口されるとともに前記電池スタックが収容される収容空間を有するケースと、
を備え、
前記エンドプレートは、積層方向外側の端面として、前記エンドプレートの下端に近づくにつれて前記電池スタックの積層方向の寸法が小さくなるように傾斜するエンドプレート側端面を有し、
前記ケースは、積層方向内側の端面として、前記ケースの下端に近づくにつれて前記収容空間の積層方向の寸法が小さくなるように傾斜するケース側端面を有し、
前記エンドプレート側端面と前記ケース側端面とが接触することにより前記セル積層体に積層方向の拘束荷重が付与される電池モジュールの製造方法であって、
前記電池スタックを積層方向に圧縮した状態で前記ケースの内部に挿入する挿入工程を含み、
前記エンドプレートは、前記エンドプレート側端面の一部を囲むように形成された凹部を有し、
前記ケースは、前記エンドプレートの前記凹部に囲まれた領域と積層方向に対向する位置に形成された穴部を有し、
前記挿入工程において、前記電池スタックが前記ケースに収容された状態では、前記エンドプレート側端面のうち前記ケース側端面と接触する接触面が前記ケース側端面から積層方向内側へと押圧されることにより、前記凹部に囲まれた領域が相対的に前記接触面よりも積層方向外側に突出し、前記穴部の内側に侵入する
ことを特徴とする電池モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、セル積層体とエンドプレートとを含む電池スタックがケースに収容された電池モジュールが開示されている。この電池モジュールでは、セル積層体の拘束荷重をエンドプレートとケースとの接触構造により発生させる。具体的には、積層方向に対向するエンドプレートの端面とケースの端面とを傾斜面とし、電池スタックが積層方向に圧縮された状態で傾斜面同士が接触することによりケースからセル積層体に拘束荷重が付与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、電池スタックの位置ずれとして、電池スタックがケースの端面に沿って上方に移動することを抑制するために、ケースの端面とエンドプレートの端面とに鋸歯状の凹凸が形成されている。しかしながら、鋸歯構造の作製が容易ではないため、鋸歯状の凹凸を形成することによりコスト増加を招く。また、電池スタックをケースに挿入する際、端面同士が摩擦しながら電池スタックを挿入するため、鋸歯状の凹凸による摩擦力のバラツキで拘束荷重にバラツキが生じるとともに、摩耗により鋸歯状の一部が脱落して異物化する虞がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、電池スタックのケースへの挿入性を損なうことなく電池スタックの位置ずれを抑制することができる電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の電池セルが厚さ方向に積層されたセル積層体と、前記セル積層体の積層方向両端に配置される一対のエンドプレートと、を含む電池スタックと、上部が開口されるとともに前記電池スタックが収容される収容空間を有するケースと、を備え、前記エンドプレートは、積層方向外側の端面として、前記エンドプレートの下端に近づくにつれて前記電池スタックの積層方向の寸法が小さくなるように傾斜するエンドプレート側端面を有し、前記ケースは、積層方向内側の端面として、前記ケースの下端に近づくにつれて前記収容空間の積層方向の寸法が小さくなるように傾斜するケース側端面を有し、前記エンドプレート側端面と前記ケース側端面とが接触することにより前記セル積層体に積層方向の拘束荷重が付与される電池モジュールであって、前記エンドプレートは、前記エンドプレート側端面の一部を囲むように形成された凹部を有し、前記ケースは、前記エンドプレートの前記凹部に囲まれた領域と積層方向に対向する位置に形成された穴部を有し、前記電池スタックが前記ケースに収容された状態では、前記エンドプレート側端面のうち前記ケース側端面と接触する接触面が前記ケース側端面から積層方向内側へと押圧されることにより、前記凹部に囲まれた領域が相対的に前記接触面よりも積層方向外側に突出し、前記穴部の内側に侵入することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、エンドプレート側端面のうちの接触面がケース側端面から積層方向内側に押圧されると、エンドプレート側端面のうちの凹部に囲まれた領域が相対的に接触面よりも外側に突出してケースの穴部の内側に侵入する。そのため、ケースとエンドプレートとにより、引っかかり構造を形成することができる。これにより、電池スタックのケースへの挿入性を損なうことなく電池スタックの位置ずれを抑制することができる。
【0008】
また、前記凹部は、前記接触面よりも積層方向内側に窪んだ溝部であり、前記溝部に囲まれた領域は、前記接触面が前記ケース側端面から押圧されていない無負荷状態において前記接触面と同じ角度で傾斜する端面を含み、前記穴部は、前記エンドプレートのうちの前記溝部に囲まれた領域を含む構造部を係止し、前記電池スタックが上方に移動することを規制してもよい。
【0009】
この構成によれば、エンドプレート側端面に溝部を設けることにより、ケースの穴部が、溝部に囲まれた領域を含む構造部を係止する引っかかり構造を実現することができる。
【0010】
また、前記エンドプレートは、積層方向と直交する平面上に配置される平板状のベース部と、前記ベース部から積層方向外側に突出するリブと、を有し、前記リブは、積層方向外側の端面が前記接触面となる第1リブと、前記ケース側端面からは押圧されず、前記凹部に囲まれた領域の構造部である第2リブと、を有し、前記凹部は、前記第2リブの積層方向外側の端面に対する前記ベース部への積層方向の窪みであり、前記穴部は、前記第2リブを係止し、前記電池スタックが上方に移動することを規制してもよい。
【0011】
この構成によれば、エンドプレートに設けられたリブにより、ケースの穴部が、エンドプレートの第2リブを係止する引っかかり構造を実現することができる。
【0012】
また、前記第2リブは、上下方向から入力される荷重を受ける補強用のリブを含んでもよい。
【0013】
この構成によれば、第2リブが穴部に係止された際、補強用のリブが上下方向の荷重を受けるので、第2リブは上下方向の荷重入力に耐えることができる。
【0014】
また、前記接触面は、前記第1リブに一体化された弾性体により形成されてもよい。
【0015】
この構成によれば、エンドプレート側端面のうちの接触面が弾性体により形成されることにより、弾性体が変形して第2リブを相対的により積層方向外側へと突出させることができる。
【0016】
また、前記穴部は、前記収容空間の上下方向中央位置よりも下側、かつ前記電池セルの幅方向中央位置に配置され、前記幅方向の開口幅が前記上下方向の開口幅より長い長方形状の開口部を有してもよい。
【0017】
この構成によれば、穴部の形状がケースの幅方向に幅広な長方形状であることに加え、穴部が電池セルの幅方向中央位置に配置されたことにより、電池スタックが上方の力を受けて移動しようとする際に生じるモーメントを小さくすることができる。また、穴部が収容空間の上下方向中央位置よりも下側に位置することにより、ケース側端面の変形が小さくなるため、積層方向の圧縮力が強くなりやすい。これにより、エンドプレートの突出が起こりやすく、ケースとの機械的な引っかかりを得やすくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、エンドプレート側端面のうちの接触面がケース側端面から積層方向内側に押圧されると、エンドプレート側端面のうちの凹部に囲まれた領域が相対的に接触面よりも外側に突出してケースの穴部の内側に侵入する。そのため、ケースとエンドプレートとにより、引っかかり構造を形成することができる。これにより、電池スタックのケースへの挿入性を損なうことなく電池スタックの位置ずれを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、実施形態における電池モジュールを模式的に示す図である。
【
図2】
図2は、電池スタックをケースに組付ける前の状態を示す図である。
【
図3】
図3は、エンドプレートの積層方向外側の端面を示す図である。
【
図5】
図5は、挿入工程を説明するための図である。
【
図8】
図8は、比較例の構造を模式的に示す図である。
【
図9】
図9は、変形例における電池モジュールを模式的に示す図である。
【
図11】
図11は、変形例のエンドプレートを説明するための図である。
【
図12】
図12は、変形例のエンドプレートの構造を模式的に示す図である。
【
図13】
図13は、機械側工具との関係を説明するための図である。
【
図14】
図14は、さらなる変形例におけるエンドプレートを説明するための図である。
【
図15】
図15は、さらなる変形例におけるエンドプレートの構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態における電池モジュールについて具体的に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、実施形態における電池モジュールを模式的に示す図である。
図2は、電池スタックをケースに組付ける前の状態を示す図である。
【0022】
電池モジュール1は、電池スタック2と、電池スタック2を収容するケース3とを備えている。
【0023】
電池スタック2は、セル積層体4と、セル積層体4の積層方向両側に配置される一対のエンドプレート5とを備えている。電池スタック2は、セル積層体4とエンドプレート5からなる積層体である。電池スタック2は、積層方向に圧縮荷重が掛かっている状態で使用する。なお、セル積層体4の積層方向を単に積層方向と記載するとともに、セル積層体4以外の構成を説明する際に積層方向と平行な方向を積層方向と記載して説明する。
【0024】
セル積層体4は、電池セル6と、セパレータ7とを備えている。セル積層体4は、電池セル6とセパレータ7からなる積層体である。セル積層体4は、複数の電池セル6と複数のセパレータ7とが厚さ方向に交互に積層された構造を有する。電池セル6と電池セル6との間には、絶縁層となる板状のセパレータ7が配置されている。
【0025】
電池セル6は、充放電可能な二次電池である。例えば、電池セル6はリチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池により構成される。電池セル6は、外装がアルミ缶のほか、ラミネート包装されているものを含む。例えば、電池セル6は、電極体が扁平な直方体形状のセルケースに収容された角型電池であり、電池セル6の上端面からは正極端子と負極端子が突出している。なお、電池セル6の外面のうち、積層方向側を向く面を電池セル6の表面と記載する。
【0026】
セパレータ7は、樹脂からなる板状の部材であり、絶縁性材料により構成されている。樹脂からなるセパレータ7は積層方向に伸縮することが可能である。つまり、電池スタック2は、樹脂からなるセパレータ7を有する積層体であるため、積層方向にバネ定数を持った伸縮体となる。
【0027】
これら電池セル6とセパレータ7からなるセル積層体4の積層方向両側に、一対のエンドプレート5が配置されている。一対のエンドプレート5は、積層方向両側からセル積層体4を挟み込み、電池セル6に積層方向の圧縮力である拘束荷重を作用させることができるように構成されている。
【0028】
エンドプレート5は、アルミニウムなどの金属や、樹脂からなる板状の部材である。エンドプレート5は、電池スタック2の端面として、積層方向外側を向くように形成されたエンドプレート側端面8を有する。エンドプレート5では、エンドプレート側端面8とは反対側の面が積層方向に直交する平面(上下方向に沿って延在する鉛直面)に形成されている。
【0029】
エンドプレート側端面8は、積層方向外側の端面であり、積層方向においてケース3の内側端面と対向する。エンドプレート側端面8は、エンドプレート5の下端に近づくにつれて電池スタック2の積層方向の寸法が小さくなるように傾斜する傾斜面に形成されている。これにより、電池スタック2は、電池スタック2の下端に近づくにつれて積層方向の寸法が小さくなる構造を有する。この構造は、電池スタック2をケース3の収容空間9内に収容した状態において、ケース3からセル積層体4に適切な拘束荷重を付与するための構造である。
【0030】
ケース3は、電池スタック2に圧縮荷重(拘束荷重)を付与するための構造部材である。ケース3は、アルミニウムなどの金属を主体とする材料で構成された箱型の部材である。
【0031】
図2に示すように、ケース3は、電池スタック2を収容するための収容空間9を有する。収容空間9は、上部が開口した空間であり、この上部開口から電池スタック2を挿入することができる空間である。また、ケース3は、ケース3の内面として、積層方向内側を向くように形成されたケース側端面10を有する。
【0032】
ケース側端面10は、ケース3の内側端面であり、積層方向においてエンドプレート側端面8と対向する。ケース側端面10は、ケース3の下端に近づくにつれて収容空間9の積層方向の寸法が小さくなるように傾斜する傾斜面に形成されている。すなわち、ケース側端面10は、収容空間9の積層方向外側の端面を形成しており、収容空間9の積層方向長さが小さくなるように傾斜している。ケース側端面10の傾斜角度は、エンドプレート側端面8の傾斜角度と同じ角度に設定されている。
【0033】
また、電池モジュール1は、収容空間9内に電池スタック2が収容された状態において、電池スタック2がケース側端面10に沿って上方へ移動することを規制するための構造として、電池スタック2が機械的にケース3に引っかかる構造(以下、引っかかり構造という)を備える。引っかかり構造は、エンドプレート5とケース3とにより形成されており、エンドプレート5に設けられた溝部11と、ケース3に設けられた穴部13とを含んで構成されている。
【0034】
エンドプレート5は、
図3に示すように、エンドプレート側端面8の一部を囲むように形成された溝部11を有する。エンドプレート側端面8は、溝部11に囲まれた領域12と、溝部11に囲まれていない領域とを含んで構成される。エンドプレート側端面8のうち溝部11に囲まれた領域12は、エンドプレート側端面8と同じ傾斜角度で傾斜する端面を含む。エンドプレート側端面8のうち溝部11に囲まれていない領域は、積層方向におけるケース側端面10との対向面であり、ケース側端面10に接触する接触面である。
【0035】
溝部11は、エンドプレート側端面8のうち幅方向の中央位置かつ上下方向の中央位置よりも下側の位置における領域12を四角形状に囲むように形成されている。溝部11は、相対的に上側で幅方向に沿って直線状に延在する上側溝と、相対的に下側で幅方向に沿って直線状に延在する下側溝と、これら上側溝と下側溝との幅方向両端部を接続するように上下方向に沿って直線状に延在する幅方向両端溝とを含む。
【0036】
また、溝部11は、
図4に示すように、エンドプレート側端面8から積層方向内側に窪んだ形状に形成されている。溝部11の深さは、エンドプレート側端面8の接触面が押圧された際に相対的に領域12が積層方向外側に突出する量を大きくするために、ある程度深く形成されている。例えば、溝部11の深さは、溝部11の開口端を形成するエンドプレート5の積層方向の寸法に対して、その寸法の半分以上の深さに設定することができる。また、溝部11の底部は、積層方向位置が同じ位置に形成されている。つまり、エンドプレート側端面8が上下方向に対して傾斜する傾斜面であるため、溝部11の底部が積層方向で同じ位置に形成されると、溝部11は全体が同じ深さに形成されていないことになる。この場合、溝部11の上側溝は溝部11の下側溝よりも深く形成されている。さらに、溝部11の幅方向両端溝は上下方向に沿って深さが変化する。
【0037】
ケース3は、
図5に示すように、溝部11に囲まれた領域12に対応する位置に設けられた穴部13を有する。穴部13は、ケース側端面10に形成された穴であり、エンドプレート5の領域12と積層方向に対向する位置に形成されている。穴部13は、エンドプレート5の領域12と積層方向に対向する開口部13aを有する。開口部13aは、
図3に示す領域12の形状に対応する四角形状に形成されている。穴部13は、例えばケース3が積層方向に貫通する貫通孔により構成されている。
【0038】
また、電池スタック2をケース3に組付ける前の状態では、
図2に示すように、無負荷状態における電池スタック2の下端の積層方向長さD1が、収容空間9の下端の積層方向長さD2よりも長い(D1>D2)。さらに、無負荷状態における電池スタック2の下端の積層方向長さD1は、収容空間9の上端の積層方向長さD3よりも長い(D1>D3)。収容空間9の上端の積層方向長さD3は、収容空間9の下端の積層方向長さD2よりも長い。そのため、電池モジュール1では、セル積層体4と一対のエンドプレート5とからなる電池スタック2を構成した後、電池スタック2を積層方向に圧縮して、ケース3へ挿入する。
【0039】
図2に示す状態から電池スタック2をケース3に組付ける際、電池スタック2を収容空間9の上部から収容空間9内に挿入する。
【0040】
ここで、電池スタック2をケース3に組付ける際に行われる工程について説明する。まず、挿入工程では、
図5に示すように、電池スタック2を積層方向に圧縮した状態でケース3の内部に挿入する。この挿入状態では、エンドプレート側端面8はケース側端面10に接触していない。例えば、挿入用の工具などを用いて電池スタック2を積層方向に圧縮する。この工具などによる圧縮状態の電池スタック2を収容空間9の上部から挿入する。そして、電池スタック2の下端がケース3の底面に接触した状態(挿入工程)では、工具による圧縮力が電池スタック2に作用しているため、エンドプレート側端面8とケース側端面10との間に隙間G1が設けられている。
【0041】
この挿入工程において、挿入用の工具は、エンドプレート側端面8を押圧することなく、電池スタック2に積層方向の圧縮力を作用させることが可能である。そのため、挿入工程では、エンドプレート5が無負荷状態に保たれる。
【0042】
無負荷状態とは、エンドプレート5の状態を表し、エンドプレート側端面8に積層方向の圧縮力が作用していない状態のことをいう。具体的には、
図2に示すように、圧縮されていない状態の電池スタック2では、エンドプレート5は無負荷状態である。また、挿入工程において、電池スタック2が積層方向に圧縮した状態であっても、積層方向の圧縮力がエンドプレート側端面8に作用していない場合には、エンドプレート5は無負荷状態となる。つまり、挿入工程において、
図5に示すように、エンドプレート側端面8がケース側端面10から離間している場合にはエンドプレート5が無負荷状態である。同様に、挿入工程において、工具による積層方向の圧縮力が電池スタック2に作用している状態では、
図6に示すように、エンドプレート側端面8がケース側端面10に接触している場合であっても、エンドプレート側端面8がケース側端面10から押圧されていない場合には、エンドプレート5は無負荷状態である。
【0043】
挿入工程が完了すると、挿入用の工具などを抜き取る工程が行われる。この工程により、挿入用の工具などが抜き取られると、エンドプレート5は無負荷状態から荷重付与状態に状態が遷移する。電池スタック2が収容空間9に収容された状態では、エンドプレート側端面8とケース側端面10とが接触することにより、電池スタック2が積層方向に圧縮されてケース3から電池スタック2に拘束荷重が付与される。
【0044】
ケース3から電池スタック2に拘束荷重が付与されることにより、電池セル6の表面に圧力が付与されるとともに、セル積層体4を構成する複数の電池セル6およびセパレータ7の相互の動きが規制されて拘束される。この拘束荷重を得るために、電池モジュール1では、電池スタック2および収容空間9の積層方向端面を傾斜面としている。この傾斜面により、ケース側端面10は拘束面として機能し、セル積層体4に適切な拘束荷重を付与することができる。
【0045】
具体的には、電池スタック2をケース3に挿入した後、
図7に示すように、エンドプレート側端面8のうちケース側端面10に接触する部分がケース側端面10から荷重Fを受ける。荷重Fは、ケース側端面10からエンドプレート側端面8へと積層方向内側に作用する力である。そのため、
図7に示す状態は、エンドプレート側端面8がケース側端面10から積層方向の圧縮力(拘束荷重)を受ける状態である。この場合、エンドプレート5は荷重付与状態である。その結果、電池スタック2は、ケース側端面10からエンドプレート側端面8に付与される拘束荷重によって積層方向に圧縮した状態となる。
【0046】
この荷重付与状態では、エンドプレート側端面8のうち、ケース側端面10と接触する部分が荷重Fを受けて電池スタック2が積層方向に圧縮変形している。電池スタック2は、変形量にバネ定数を乗じた大きさの拘束荷重を受ける。そして、電池スタック2に含まれる複数の電池セル6には、その表面に均等に圧力がかかることになる。
【0047】
さらに、荷重付与状態では、エンドプレート側端面8のうち、溝部11に囲まれた領域12は荷重Fを受けない。溝部11に囲まれた領域12は、もともと荷重Fを受けず変形量が小さい。溝部11によって荷重Fを受ける部分(接触面)と荷重Fを受けない部分(領域12)とが分けられている。この構造により、エンドプレート5は、エンドプレート側端面8のうちの接触面が荷重Fを受けると、その接触面を端面とする部位が積層方向内側に圧縮変形する。これに対して、領域12は、溝部11を有する構造によって、荷重付与状態であっても荷重Fを受けている周辺領域の影響を受けにくくなり、荷重付与状態において接触面よりも相対的に積層方向外側に突出する。
【0048】
図7に示すように、電池スタック2がケース3に収容された荷重付与状態では、エンドプレート側端面8のうちケース側端面10と接触する接触面がケース側端面10から積層方向内側へと押圧されることにより、溝部11に囲まれた領域12が相対的に接触面よりも積層方向外側に突出し、穴部13の内側に侵入する。これに対して、無負荷状態では、
図6に示すように、溝部11に囲まれた領域12は、相対的に突出せず、穴部13の内側に侵入していない。
【0049】
エンドプレート5のうちの領域12を含む構造部が、ケース3の穴部13の内側に侵入することによって、引っかかり構造が機能する状態となる。穴部13は、領域12を含む構造部を係止し、電池スタック2が上方に移動することを規制する。溝部11に囲まれた領域12を含む構造部は、エンドプレート5の突起部として機能する。そして、穴部13は、エンドプレート5の突起部を引っかけて、電池スタック2が上下方向に移動することを規制するためのものである。拘束面であるケース側端面10が傾斜面であるため、積層方向の圧縮力である拘束荷重とともに、電池スタック2がケース側端面10に沿って上方側にずれる方向に力が作用する。そこで、ケース3とエンドプレート5との間で引っかかりを作り、機械的に電池スタック2を保持する。このケース3とエンドプレート5とによって引っかかり構造が形成され、電池スタック2の上方への移動を規制することができる。
【0050】
また、挿入工程で用いられる挿入用の工具は、電池スタック2のうちエンドプレート側端面8以外の部位と接触した状態で、エンドプレート側端面8を押圧せずに、電池スタック2に積層方向の圧縮力を作用させることが可能である。そのため、エンドプレート側端面8は、溝部11に囲まれた領域12と、溝部11に囲まれていない領域とが同一の平面上が位置する。つまり、
図5に示す実施形態の電池モジュール1では、隙間G1を小さくすることができる。
【0051】
仮に、
図8に示す比較例の電池モジュール100のように、電池スタック102を構成するエンドプレート105が、エンドプレート側端面108から積層方向外側に突出する凸部101を有する構造である場合、凸部101の突出量以上の隙間として、エンドプレート側端面108とケース側端面10との間に隙間G2を設ける必要がある。この場合には、隙間G2を設けるために、挿入工程での電池スタック2の圧縮量を多くしなければならない。
【0052】
これに対して、
図5に示す実施形態の電池モジュール1では、挿入工程における無負荷状態において、接触面と領域12とを含むエンドプレート側端面8全体が同一平面上で平坦なので(溝部11に囲まれた領域12が相対的に突出していないので)、ケース3と電池スタック2との間の隙間G1を、比較例の電池モジュール100を採用した場合の隙間G2よりも小さくすることができる。
【0053】
以上説明した通り、実施形態によれば、ケース3から電池スタック2への荷重付与時のみ、エンドプレート側端面8のうち溝部11に囲まれた領域12を含む構造部が相対的に積層方向外側に突出し、引っかかり構造が機能する。これにより、電池スタック2をケース3へ挿入する際の挿入性を損なうことなく、電池スタック2の位置ずれを抑制することができる。
【0054】
また、エンドプレート5に設けられた溝部11と、ケース3に設けられた穴部13とからなる簡易な構造により引っかかり構造を実現することができる。
【0055】
なお、穴部13は、ケース側端面10に対して積層方向外側に窪んだ形状であればよく、その深さは特に限定されない。すなわち、穴部13は、底面が領域12と対向する面となるように形成された穴であってもよく、ケース3を積層方向に沿って貫通する貫通孔であってもよい。
【0056】
また、
図9から
図13を参照して、変形例における電池モジュール1について説明する。
【0057】
図9に示すように、変形例の電池モジュール1では、電池スタック2がセル積層体4と一対のエンドプレート20とからなる積層体により構成され、ケース3の外壁部にリブ31が設けられた構造を有する。
【0058】
ケース3は、積層方向外側に設けられた外壁部の外面に、幅方向に延在する直線状のリブ31を有する。リブ31は、
図10に示すように、上下方向で異なる位置に3つ設けられている。例えば、ケース3の一方の外壁部には、上下方向の中央位置Bよりも上側の位置に2つのリブ31が設けられ、上下方向の中央位置Bよりも下側の位置に1つのリブ31が設けられている。
【0059】
図10に示すように、穴部13の形状は、長方形の角を丸くした形状である。穴部13は、幅方向の開口幅が上下方向の開口幅より長い長方形状の開口部を有する。このように、穴部13の形状を長方形としたことで、電池スタック2を回転させようとするモーメントを小さくすることができる。
【0060】
穴部13の位置は、上下方向の中央位置Bよりも下側の位置C、かつ幅方向の中央位置Eに設けられている。ケース3の幅方向の中央位置Eに穴部13を設けることにより、電池スタック2が上方の力を受けて上方へ移動しようとした際に生じるモーメントを小さくすることができる。さらに、ケース3の下部は、ケース3の底面に部材が設けられる影響で、ケース3の上部に比べてケース側端面10の変形が小さい。そのため、ケース3の下部では積層方向の圧縮力が強くなりやすい。したがって、エンドプレート5の突出が起こりやすく、引っかかりが得やすい。要するに、引っかかり構造を設ける位置として適している。
【0061】
また、穴部13が深いと穴部13の作製が困難になるので、穴部13は、ケース3の剛性向上のために設けられたリブ31を避けて配置されている。言い換えれば、穴部13が設けられた位置にはリブ31を配置しないように構成されている。ケース3がアルミ鋳物であることを想定した場合、穴部13の作製は型によるものを想定しており、穴部13は貫通孔により構成される。
【0062】
エンドプレート20は、
図11に示すように、平板状のベース部21と、ベース部21から積層方向外側に突出したリブ22と、リブ22の積層方向外側の端面であるエンドプレート側端面23とを有する。
【0063】
また、エンドプレート20は、
図12に示すように、ケース3の穴部13に対応する位置に形成された係止用のリブ24を有する。係止用のリブ24は、他のリブ22とは独立していて小島のようになっている。エンドプレート20では、リブ22が第1リブとなり、リブ24が第2リブとなる。
【0064】
また、エンドプレート20は、係止用のリブ24の積層方向外側の端面25を有する。この係止用のリブ24は、積層方向外側の端面25に対するベース部21への窪みによって囲まれている。すなわち、端面25は、端面25に対してベース部21へと窪んだ凹部により囲まれた領域となる。
【0065】
さらに、エンドプレート20は、ケース3の穴部13に対応する部分が上下方向の荷重に耐えるために、内部に上下方向に延在する補強用のリブ26が設けられている。つまり、係止用のリブ24は上下方向および幅方向に直線状に延在する四角形状のリブであり、そのリブ24の内部に上下方向に直線状に延在する補強用のリブ26が設けられている。
【0066】
そして、
図13に示すように、ケース3に収容する前に電池スタック2を圧縮しながら挿入できるように、機械側工具40の爪部41を避けるように、ケース側端面10との接触面となるリブ22が設けられている。
【0067】
また、
図14から
図16を参照して、さらなる変形例における電池モジュール1について説明する。
【0068】
図14から
図16に示すように、さらなる変形例の電池モジュール1は、エンドプレート5の積層方向外側の端面にゴムなどの弾性体27が設けられた構造を有する。弾性体27は、リブ22の積層方向先端部に一体化されている。弾性体27の積層方向外側の端面が、エンドプレート側端面28を形成している。
【0069】
荷重変動要因に対して、電池スタック2の拘束荷重変動を小さくすることを目的として、電池スタック2の構成部材の一部に変形しやすい部材である弾性体27を含ませる。エンドプレート側端面28が弾性体27により形成されることで、リブ24をより突出させ、ケース3との引っかかりを強めることができる。弾性体27を設ける部材をエンドプレート5側にすることより、弾性体27を必要最低限な量とすることができる。また、シート状の弾性部材をエンドプレート5とケース3との間に挿入する構造に比べて、部品点数を少なくすることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 電池モジュール
2 電池スタック
3 ケース
4 セル積層体
5 エンドプレート
6 電池セル
7 セパレータ
8 エンドプレート側端面
9 収容空間
10 ケース側端面
11 溝部
12 領域
13 穴部
13a 開口部
20 エンドプレート
21 ベース部
22 リブ
23 エンドプレート側端面
24 リブ
25 端面
26 リブ
27 弾性体
28 エンドプレート側端面