IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社GSユアサの特許一覧

<>
  • 特許-鉛蓄電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/06 20060101AFI20250408BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20250408BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250408BHJP
   H01M 10/08 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
H01M10/06 L
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
H01M10/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022565144
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(86)【国際出願番号】 JP2021039743
(87)【国際公開番号】W WO2022113623
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2024-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2020197584
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼野 泰如
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-115424(JP,A)
【文献】特開2017-079166(JP,A)
【文献】特開2015-032481(JP,A)
【文献】特開平09-147869(JP,A)
【文献】特開昭60-182662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06-10/16
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、極板群および電解液を備える少なくとも1つのセルを備え、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記負極板および前記正極板の間に介在するセパレータとを備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、界面活性剤およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤と、有機防縮剤とを含み、
前記負極電極材料中の前記添加剤の含有量は、0.001質量%以上0.5質量%以下であり、
前記電解液は、金属イオンを含み、
前記金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、およびアルミニウムイオンからなる群より選択される少なくとも一種の成分を含み、
前記電解液中の前記成分の合計濃度は、0.02mol/L以上であり、
前記電解液中の前記成分のそれぞれの濃度は、0.35mol/L以下である、鉛蓄電池。
【請求項2】
前記成分のそれぞれの濃度は、0.01mol/L以上0.25mol/L以下である、請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記成分は、リチウムイオンおよびナトリウムイオンの少なくとも一方と、アルミニウムイオンとを含む、請求項1または2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記成分は、少なくとも、リチウムイオンおよびアルミニウムイオンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記添加剤は、硫黄元素を含まず、
前記添加剤は、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有する化合物を含み、
前記化合物の数平均分子量は、1000以上10000以下であり、
前記化合物は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含まない、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記界面活性剤は、カチオン界面活性剤を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項7】
前記カチオン界面活性剤は、第4級アンモニウム塩を含む、請求項6に記載の鉛蓄電池。
【請求項8】
前記負極電極材料は、炭素質材料を含み、
前記添加剤は、少なくとも1つ以上の疎水性基と親水性基とを有し、
前記疎水性基の少なくとも1つは、炭素数が8以上の長鎖脂肪族炭化水素基である、請求項1~7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項9】
前記有機防縮剤は、ビスアレーン化合物の縮合物を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
前記成分の合計濃度は、0.7mol/L以下である、請求項1~9のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【請求項11】
前記成分の合計濃度は、0.5mol/L以下である、請求項1~10のいずれか1項に記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池には、負極板、正極板、セパレータ(またはマット)、および電解液などが含まれる。様々な機能を付与する観点から、鉛蓄電池の構成部材に添加剤が添加されることがある。
【0003】
特許文献1は、負極活物質を負極集電体に充填してなる負極板と、正極活物質を正極集電体に充填してなる正極板とをセパレータを介して積層した極板群を、電解液とともに電槽内に収容した構成を有して、充電が間欠的に行われ、部分充電状態で負荷への高率放電が行われる液式鉛蓄電池を開示している。特許文献1は、少なくとも、炭素質導電材と、充放電に伴う負極活物質の粗大化を抑制する有機化合物とが前記負極活物質に添加され、前記正極板は、単位極板群体積[cm]当たりの正極活物質総表面積[m]を、3.5ないし15.6[m/cm]の範囲とするように構成されていること、加えて、電解液には陽イオン系凝集剤、陽イオン系界面活性剤、燐酸から選ばれた化合物が添加されていること、を特徴とする鉛蓄電池を提案している。
【0004】
特許文献2は、特定の式(I)で表されるアンモニウム化合物を含有する鉛蓄電池用電解液を提案している。
【0005】
特許文献3は、リグニンスルホン酸塩と併用してプロピレンオキシドとエチレンオキシドとの共重合体を負極板且つ物質中に添加した鉛蓄電池を提案している。
【0006】
特許文献4は、複数回の充電サイクルおよび放電サイクルに供される再充電可能な電気化学セルを提案している。各充電サイクルは、セル内でガスが発生するガッシング充電に対応する充電部とガッシング充電より低い充電部とを有する。電気化学セルは、正極および負極と、電極間での電流をサポートする、電極とイオン接触する水溶性電解液と、電解液中に配置される不活化可能な阻害手段およびガッシング充電を阻害するバリアを形成するための、負極に結合したその構成成分と、を有する。不活化可能な阻害手段は、活性化されたときには、不活化可能な阻害手段がガッシング充電を阻害してセル内でのガス発生を制限するように、ガッシング充電に対応する充電部によって活性化されるとともに、不活性化されたときには実質的に充電を制限する効果を有さず、不活化可能な阻害手段が、放電サイクルの間、実質的に効果を有さないように、ガッシング充電より低い充電部によって不活性化される。特許文献4は、不活化可能な阻害手段として、アルキルジメチルベンジルアンモニウムクロリドなどの4級アンモニウムを記載している。
【0007】
特許文献5は、カーボンと、ビスフェノール系縮合物と、アルギン酸もしくはその塩の少なくとも一方と、海綿状鉛、とを含有する負極材料と、二酸化鉛を主成分とする正極材料と、アルミニウムイオン、リチウムイオン、及びナトリウムイオンの少なくともいずれかの元素を含む電解液、とを備えている鉛蓄電池を提案している。
【0008】
特許文献6は、主として、配位剤2.5~4重量%、錯化剤2.5~4重量%、触媒0.01~0.5重量%、安定化剤2.3~3.8重量%、調整剤0.1~0.5重量%、消泡剤0.01~0.5重量%、硫酸36~45重量%、および残部の水を混合した鉛蓄電池用の高分子ナノポリマー電解質を提案している。ここで、錯化剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウムまたはポリアクリルアミドであり、安定化剤は、硫酸リチウムまたはリチウムイオンを含むアルカリであり、消泡剤はグリセリンポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテルまたはリン酸トリブチルであり、調整剤は、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム、もしくは炭酸ナトリウムであり、配位剤は、直径が8~15nmのナノフュームドシリカであり、触媒は、ナトリウムアミドまたはナトリウム金属99.5である。
【0009】
なお、特許文献7は、Pb-Ca系合金から成る多孔基板にカルシウムを含む正極活物質を充填して成る正極板とアルミニウムイオンを含む電解液との組み合わせを具備する鉛蓄電池を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2013/058058号
【文献】特開2008-152973号公報
【文献】特開昭60-182662号公報
【文献】米国特許第6899978号明細書
【文献】特開2015-32481号公報
【文献】中国特許第100439438号明細書
【文献】特開2006-4636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
鉛蓄電池は、部分充電状態(PSOC)と呼ばれる充電不足状態で使用されることがある。例えば、アイドリングストップ・スタート(ISS)車に搭載される鉛蓄電池はPSOCで使用される。鉛蓄電池がPSOCで繰り返し充放電されると、硫酸鉛が蓄積し易くなり、寿命性能が低下し易い。硫酸鉛の蓄積を抑制するためには、高い充電受入性が求められる。しかし、充電受入性が高い場合、過充電時の水素イオンの還元反応も顕著になるため、過充電電気量が大きくなり、電解液の減少が顕著になる。負極電極材料に含まれる鉛の表面が有機系添加剤で覆われると、過充電時の水素イオンの還元反応が起こり難くなるため、過充電電気量を低減することができる。しかし、鉛の表面が有機系添加剤で覆われた状態になると、放電時に生成した硫酸鉛が充電時に溶出し難くなるため、充電受入性は低下する。そのため、充電受入性の低下抑制と過充電電気量の低減とを両立させることは困難である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一側面は、鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、極板群および電解液を備える少なくとも1つのセルを備え、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記負極板および前記正極板の間に介在するセパレータとを備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、界面活性剤およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物、および界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤と、有機防縮剤とを含み、
前記電解液は、金属イオンを含み、
前記金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、およびアルミニウムイオンからなる群より選択される少なくとも一種の成分を含み、
前記電解液中の前記成分の合計濃度は、0.02mol/L以上であり、
前記電解液中の前記成分のそれぞれの濃度は、0.35mol/L以下である、鉛蓄電池に関する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一側面に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す、一部を切り欠いた分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般に、鉛蓄電池では、過充電時の反応は、鉛と電解液との界面における水素イオンの還元反応に大きく影響される。鉛蓄電池の負極電極材料に有機系添加剤が含まれると、活物質である鉛の表面に有機系添加剤が付着する。鉛の表面が有機系添加剤で覆われた状態になると、水素イオンの還元反応が起こり難くなるため、過充電電気量は減少する傾向にある。しかし、有機系添加剤は、放電時に生成した硫酸鉛の表面にも付着して、充電時に硫酸鉛が溶出し難くなるため、充電受入性が低下する。従って、充電受入性の低下抑制と、過充電電気量の低減とは、トレードオフの関係にあり、両立させることは従来困難であった。さらに、有機系添加剤が鉛の細孔内で偏在した状態となると、十分な過充電電気量の低減効果を確保するには、負極電極材料中の有機系添加剤の含有量を多くする必要がある。しかし、一般に、有機系添加剤の含有量を多くすると、充電受入性が低下する。
【0015】
鉛蓄電池では、一般に、電解液に硫酸水溶液が用いられるため、有機系添加剤(オイル、高分子、または有機防縮剤など)を負極電極材料中に含有させると、電解液への溶出と鉛への吸着とのバランスを取ることが難しくなる。例えば、鉛への吸着性が低い有機系添加剤を用いると、電解液中に溶出し易くなり、過充電電気量を低減し難くなる。一方、鉛への吸着性が高い有機系添加剤を用いると、鉛表面に薄く付着させることが難しくなり、有機系添加剤が鉛の細孔内に偏在した状態となり易い。
【0016】
鉛の細孔内で有機系添加剤が偏在した状態になると、偏在した有機系添加剤の立体障害により、イオン(鉛イオンおよび硫酸イオンなど)の移動が阻害される。そのため、充放電反応が阻害され易くなる。十分な過充電電気量の低減効果を確保するために、有機系添加剤の含有量を多くすると、細孔内におけるイオンの移動もさらに阻害されることから、充放電反応がさらに阻害される。充放電反応が阻害されると、充電受入性が低下したり、放電性能が低下したりする。
【0017】
上記に鑑み、本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、極板群および電解液を備える少なくとも1つのセルを備える。極板群は、正極板と、負極板と、負極板および正極板の間に介在するセパレータとを備える。負極板は、負極電極材料を備える。負極電極材料は、界面活性剤およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤(以下、第1添加剤と称する。)と、有機防縮剤とを含む。電解液は、金属イオンを含む。金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、およびアルミニウムイオンからなる群より選択される少なくとも一種の成分(以下、第1成分と称する。)を含む。電解液中の第1成分の合計濃度は、0.02mol/L以上である。電解液中の第1成分のそれぞれの濃度は、0.35mol/L以下である。
【0018】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池によれば、有機防縮剤および第1添加剤を含む負極電極材料を備える負極板と、第1成分を上記の濃度で含む電解液とを組み合わせることで、高い充電受入性を確保しながら、過充電電気量を低減することができる。過充電時の水素発生が抑制されることで、電解液の減少量を低減できる。また、PSOCサイクルで充放電を繰り返した場合の寿命性能(以下、PSOC寿命性能と称する。)を顕著に向上することもできる。
【0019】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池において、比較的高い充電受入性を確保しながらも、過充電電気量を低減できるのは、次のような理由によると考えられる。
【0020】
まず、第1添加剤は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造または界面活性剤が有する親水性基の存在により、鉛に対する高い吸着性を有する。また、鉛蓄電池において、負極電極材料中の鉛表面には硫酸水素イオンが吸着しているが、第1成分の作用により、硫酸水素イオンのアニオン性が緩和される。この効果は、第1添加剤が疎水性基を有する場合にはより顕著になると考えられる。そのため、第1添加剤の鉛表面への吸着性がさらに高まると考えられる。また、第1添加剤がオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有する場合には、線状構造を取り易い。また、界面活性剤は、疎水性基の作用により、鉛表面への過度な被覆を抑制できるとともに、両親媒性であるため、凝集が起こり難いと考えられる。そのため、鉛の表面の広範な領域が第1添加剤で薄く広く覆われることになる。これにより、水素過電圧が上昇して、過充電時に水素が発生する副反応が起こり難くなるため、過充電電気量を低減することができる。負極電極材料がごく僅かな量の第1添加剤を含む場合でも、過充電電気量の低減効果が得られることから、第1添加剤を負極電極材料中に含有させることで、鉛の近傍に存在させることができ、これにより、第1添加剤の鉛に対する高い吸着作用が発揮されると考えられる。
【0021】
過充電電気量の低減効果は、負極電極材料中の鉛の表面を第1添加剤が覆うことにより発揮される。そのため、第1添加剤を負極電極材料中で鉛の近傍に存在させることが重要であり、これにより、第1添加剤の効果を有効に発揮させることができる。よって、負極電極材料以外の鉛蓄電池の構成要素に第1添加剤が含まれているか否かに拘わらず、負極電極材料が第1添加剤を含有していることが重要である。
【0022】
負極電極材料が有機系添加剤を含む場合、鉛表面だけでなく、放電時に生成する硫酸鉛の表面にも有機系添加剤が付着するため、充電時における硫酸鉛の溶解性が低下する傾向がある。しかし、鉛および硫酸鉛の表面を覆う第1添加剤の被膜の厚みは薄いため、充電時において、硫酸鉛の溶解および鉛イオンから鉛に還元される際の電子の授受が第1添加剤の被膜により阻害される程度が軽減される。また、第1添加剤の被膜が薄く、偏在が抑制されることで、第1添加剤の被膜による立体障害が小さくなるため、負極電極材料の細孔内における鉛イオンの移動が妨げられることが軽減される。よって、鉛イオンの高い拡散速度が維持される。これらにより、負極電極材料が有機系添加剤である第1添加剤および有機防縮剤を含む場合でも、充放電反応が阻害されることを低減することができる。また、電解液が第1成分を特定の含有量で含むことで、放電時の負極板における硫酸鉛の結晶成長が進行し難くなるため、硫酸鉛の粗大化が抑制される。さらに、電解液が第1成分を含むことで、硫酸鉛の近傍に存在する第1成分の存在により、第1添加剤の硫酸鉛の表面への吸着性が低下すると考えられる。その結果、第1添加剤の硫酸鉛への被覆がさらに低減される。このように、鉛イオンの高い拡散速度を確保できるとともに、硫酸鉛の粗大化を抑制できることに加え、硫酸鉛への第1添加剤の過度な被覆が抑制されることで、高い充電受入性を確保できると考えられる。
【0023】
このように、本発明の一側面の鉛蓄電池では、硫酸鉛の粗大化が抑制されるとともに、高い充電受入性が得られる。これにより、PSOCサイクルで充放電を繰り返した場合でも、硫酸鉛の蓄積が軽減され、蓄積した硫酸鉛が不活性化するサルフェーションの進行を抑制できる。よって、高いPSOC寿命性能を確保することができる。
【0024】
一方、電解液が特定濃度の第1成分を含む場合でも、負極電極材料が有機防縮剤を含み、第1添加剤を含まない場合には、ある程度高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保することができる。しかし、過充電電気量を低減する効果は得られない。また、負極電極材料が有機防縮剤と第1添加剤とを含む場合でも、電解液が第1成分を含まない場合には、過充電電気量をある程度低減することができるが、充電受入性は低下し、PSOC寿命性能はほとんど変わらないかまたは低下する。これらの結果に対し、本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、有機防縮剤および第1添加剤を含む負極電極材料を備える負極板と、特定濃度で第1成分を含む電解液とを組み合わせことで、上述のように、過充電電気量を低減しながら、充電受入性を大きく向上できる。また、PSOC寿命性能を大幅に向上できる。これらの効果のそれぞれは、特定濃度の第1成分を含む電解液と、有機防縮剤を含み、第1添加剤を含まない負極電極材料を備える負極板とを組み合わせる場合、ならびに有機防縮剤および第1添加剤を含む負極電極材料と、第1成分を含まない電解液とを組み合わせる場合、のそれぞれから予想されるよりも優れている。つまり、本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、有機防縮剤および第1添加剤を含む負極電極材料を備える負極板と、特定濃度で第1成分を含む電解液とを組み合わせることで、過充電電気量の低減、ならびに充電受入性およびPSOC寿命性能の向上のそれぞれにおいて、相乗効果が得られる。
【0025】
電解液中の第1成分の合計濃度が0.02mol/L未満では、高い充電受入性を確保することは困難である。また、電解液中の第1成分のそれぞれの濃度を、0.35mol/L以下とすることで、高い充電受入性を確保できるとともに、過充電電気量を低減できる。加えて、優れたPSOC寿命性能を確保することもできる。電解液中の第1成分のそれぞれの濃度は、0.25mol/L以下が好ましい。この場合、第1成分が硫酸塩に変換されて硫酸鉛とともに結晶成長することが抑制され易い。よって、充電受入性の低下をさらに抑制することができるとともに、PSOC寿命性能の低下をさらに抑制することができる。また、鉛表面に形成される電気二重層に多くの第1成分が引き寄せられると、第1添加剤の鉛表面への吸着自体が阻害される傾向がある。しかし、電解液中の第1成分のそれぞれの濃度を上記のように制御することで、鉛表面への過充電電気量を低く抑えることができる。
【0026】
第1成分は、リチウムイオンおよびナトリウムイオンの少なくとも一方と、アルミニウムイオンとを含むことが好ましい。この場合、充電受入性およびPSOC寿命性能をさらに向上することができる。また、過充電電気量をさらに低減することができる。
【0027】
より高い充電受入性を確保する観点からは、第1成分は、少なくとも、リチウムイオンおよびアルミニウムイオンを含むことが好ましい。
【0028】
第1添加剤は、オキシプロピレンユニット(-O-CH(-CH)-CH-)の繰り返し構造を有する化合物を含むことが好ましい。また、このような化合物は、オキシエチレンユニット(-O-CH-CH-)の繰り返し構造を含まなくてもよい。これらの場合、充電受入性およびPSOC寿命性能がさらに高まるとともに、過充電電気量がさらに低減される。オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む化合物は、線状構造を形成し易いため、鉛表面を薄く広く被覆することで、過充電電気量が低減されると考えられる。また、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造に比べると疎水性が高い。よって、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む化合物を用いる場合、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含む化合物を用いる場合と比べて、硫酸鉛への吸着性が低くなり、より高い充電受入性を確保できると考えられる。
【0029】
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有する化合物は、数平均分子量(Mn)が1000以上10000以下であることが好ましい。この場合、第1添加剤が負極電極材料中に留まり易く、過充電電気量をさらに低減することができる。また、鉛表面における第1添加剤の偏在を抑制する効果が高まることで、充電受入性およびPSOC寿命性能をさらに向上することができる。
【0030】
第1添加剤が硫黄元素を含む場合、硫酸鉛の近傍に存在する第1成分の作用により、硫酸鉛の表面に第1添加剤が吸着し易い傾向がある。そのため、第1添加剤は、硫黄元素を含まないことが好ましい。これにより、第1添加剤の硫酸鉛への吸着を低減できるため、より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保し易くなる。
【0031】
界面活性剤は、カチオン界面活性剤を含む場合も好ましい。また、カチオン界面活性剤は、第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤を含むことが好ましい。カチオン界面活性剤は、カチオン性の親水性基を有するため、第1成分の非存在下では、鉛および硫酸鉛近傍に存在する硫酸水素イオンの作用により、鉛表面に対する高い吸着性を示し、放電時に生成する硫酸鉛の表面にも付着した状態となり易い。電解液が第1成分を上記のような濃度で含む場合、第1成分の作用により、カチオン界面活性剤の鉛表面に対する吸着性が緩和され、鉛表面の広い範囲を薄く広く覆い易くなる。また、カチオン界面活性剤は、硫酸鉛の近傍に存在する第1成分に電気的に反発して、硫酸鉛へのカチオン界面活性剤の吸着がさらに低減される。よって、過充電電気量を低く抑えながら、より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を得ることができる。
【0032】
カチオン界面活性剤は、一般に、アミン塩型または第4級アンモニウム塩型などに区分される。カチオン界面活性剤は、第4級アンモニウム塩(換言すると、第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤)を含むことが好ましい。第4級アンモニウム塩を用いると、高い充電受入性およびPSOC寿命性能が得られることに加え、親水性基の高いカチオン性により、アミン塩よりも鉛表面への高い吸着性を示すため、過充電電気量をさらに低減することができる。
【0033】
負極電極材料は、炭素質材料を含んでもよい。第1添加剤は、少なくとも1つ以上の疎水性基と親水性基とを有していてもよい。疎水性基の少なくとも1つは、炭素数が8以上の長鎖脂肪族炭化水素基であってもよい。炭素数8以上の長鎖脂肪族炭化水素基の作用により、鉛表面への第1添加剤の吸着性が緩和され、過度な被覆が軽減される。また、第1添加剤が炭素質材料に吸着され易くなることで、硫酸鉛表面での第1添加剤の偏在が低減される。よって、過充電電気量を低く抑えながら、より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保し易くなる。
【0034】
第1添加剤は、有機系添加剤であるため、通常であれば、負極電極材料に含まれると、充電受入性が低下する。しかし、本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、第1添加剤と第1成分との直接的または間接的な相互作用により、鉛表面を薄く覆うことができる一方で、硫酸鉛表面の被覆を低減できる。よって、過充電電気量を低減することができるとともに、高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保することができる。このような効果は、負極電極材料中の第1添加剤の含有量が少量であっても得ることができる。より高い過充電電気量の低減効果を確保する観点からは、負極電極材料中の第1添加剤の含有量は、質量基準で、50ppm以上であることが好ましい。より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保し易い観点からは、負極電極材料中の第1添加剤の含有量は、質量基準で、10000ppm以下であることが好ましい。
【0035】
なお、鉛蓄電池において、第1添加剤を負極電極材料中に含有させることができればよく、負極電極材料に含まれる第1添加剤の由来は特に制限されない。第1添加剤は、鉛蓄電池を作製する際に、鉛蓄電池の構成要素(例えば、負極板、正極板、電解液、およびセパレータ)のいずれに含有させてもよい。第1添加剤は、1つの構成要素に含有させてもよく、2つ以上の構成要素(例えば、負極板および電解液)に含有させてもよい。
【0036】
有機防縮剤は、ビスアレーン化合物の縮合物を含むことが好ましい。ビスアレーン化合物は、一般に、合成有機防縮剤に分類される。一般に、負極電極材料がビスアレーン化合物の縮合物を含む場合、負極電極材料の比表面積が増加するため、過充電電気量が増加する傾向がある。しかし、本発明の一側面に係る鉛蓄電池では、第1成分を特定の濃度で含む電解液と有機防縮剤および第1添加剤を含む負極電極材料を備える負極板とを組み合わせるため、有機防縮剤がビスアレーン化合物の縮合物を含む場合であっても、過充電電気量を低く抑えることができる。ビスアレーン化合物の縮合物を用いることで、有機防縮剤の偏在が、リグニン化合物に比較して低減されるため、より高い充電受入性およびPSOC寿命性能が得られ易い。
【0037】
鉛蓄電池は、制御弁式(密閉式)鉛蓄電池(VRLA型鉛蓄電池)および液式(ベント式)鉛蓄電池のいずれでもよい。
【0038】
本明細書中、負極電極材料中の第1添加剤の含有量および電解液中の第1成分の濃度は、それぞれ、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板および電解液について求められる。
【0039】
(用語の説明)
(電極材料)
負極電極材料および正極電極材料の各電極材料は、通常、集電体に保持されている。電極材料とは、極板から集電体を除いた部分である。極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は極板と一体として使用されるため、極板に含まれる。極板が貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)を含む場合には、電極材料は、極板から集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0040】
なお、正極板のうち、クラッド式正極板は、複数の多孔質のチューブと、各チューブ内に挿入される芯金(spine)と、複数の芯金(spine)を連結する集電部と、芯金(spine)が挿入されたチューブ内に充填される正極電極材料と、複数のチューブを連結する連座(spine protector)とを備えている。クラッド式正極板では、正極電極材料は、極板から、チューブ、芯金(spine)、集電部、および連座(spine protector)を除いた部分である。クラッド式正極板では、芯金(spine)と集電部とを合わせて正極集電体と称する場合がある。
【0041】
(ポリマー化合物)
第1添加剤のうち、ポリマー化合物が有するオキシC2-4アルキレンユニットは、-O-R-(RはC2-4アルキレン基を示す。)で表されるユニットである。ポリマー化合物は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有していればよく、Mnは特に制限されない。例えば、ポリマー化合物の数平均分子量(Mn)は、300以上であってもよい。
【0042】
(有機防縮剤)
有機防縮剤とは、鉛蓄電池の充放電を繰り返したときに負極活物質である鉛の収縮を抑制する機能を有する化合物のうち、有機化合物を言う。有機防縮剤は、多くの場合、硫黄元素を含む。
【0043】
(有機防縮剤中の硫黄元素含有量)
有機防縮剤中の硫黄元素の含有量がXμmol/gであるとは、有機防縮剤の1g当たりに含まれる硫黄元素の含有量がXμmolであることをいう。
【0044】
(ビスアレーン化合物の縮合物) ビスアレーン化合物の縮合物は、ビスアレーン化合物のユニットを含む縮合物である。ビスアレーン化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれたビスアレーン化合物に由来するユニットを言う。ビスアレーン化合物とは、それぞれ芳香環を有する2つの部位が単結合または連結基を介して連結した化合物である。
【0045】
(数平均分子量)
本明細書中、数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により求められる。Mnを求める際に使用する標準物質は、ポリエチレングリコールとする。
【0046】
(重量平均分子量)
本明細書中、重量平均分子量(Mw)は、GPCにより求められる。Mwを求める際に使用する標準物質は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムとする。
【0047】
(電解液中の第1成分の濃度)
電解液中の第1成分のそれぞれの濃度とは、リチウムイオン、ナトリウムイオンおよびアルミニウムイオンの個々のイオンの濃度を意味する。
電解液中の第1成分の合計濃度は、上記の個々のイオンの濃度の合計である。例えば、電解液にリチウムイオン、ナトリウムイオンおよびアルミニウムイオンが含まれる場合には、これらのイオンの濃度の合計が、第1成分の合計濃度である。
【0048】
(満充電状態)
液式の鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで、定格容量として記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、鉛蓄電池を充電した状態を満充電状態とする。また、制御弁式の鉛蓄電池の場合、満充電状態とは、25℃±2℃の気槽中で、定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.2倍の電流(A)で、2.23V/セルの定電流定電圧充電を行い、定電圧充電時の充電電流が定格容量に記載の数値(単位をAhとする数値)の0.005倍の値(A)になった時点で充電を終了した状態である。
【0049】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池をいう。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池をいう。
【0050】
(鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素の上下方向)
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素(極板、電槽、セパレータなど)の上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。正極板および負極板の各極板は、外部端子と接続するための耳部を備えている。横置き型の制御弁式鉛蓄電池など、耳部が、極板の側部に側方に突出するように設けられることもあるが、多くの鉛蓄電池では、耳部は、通常、極板の上部に上方に突出するように設けられている。
【0051】
以下、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池について、主要な構成要件ごとに説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0052】
[鉛蓄電池]
(負極板)
負極板は、通常、負極電極材料に加え、負極集電体を備える。
【0053】
(負極集電体)
負極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。負極集電体として格子状の集電体を用いると、負極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0054】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、表面層を備えていてもよい。負極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、負極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、負極集電体の耳部に形成されていてもよい。耳部の表面層は、SnまたはSn合金を含有してもよい。
【0055】
(負極電極材料)
負極電極材料は、第1添加剤および有機防縮剤を含む。負極電極材料は、さらに、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(具体的には、鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料は、炭素質材料および第1添加剤以外の添加剤からなる群より選択される少なくとも1つを含んでもよい。第1添加剤以外の添加剤を第2添加剤と称することがある。第2添加剤としては、硫酸バリウム、繊維(樹脂繊維など)などが挙げられるが、これらに限定されない。なお、充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0056】
(第1添加剤)
第1添加剤は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物、および界面活性剤からなる群より選択される少なくとも一種である。オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物には、界面活性剤(より具体的には、ノニオン界面活性剤)に分類されるポリマー化合物も包含される。
【0057】
(ポリマー化合物)
ポリマー化合物が含むオキシC2-4アルキレンユニットとしては、オキシエチレンユニット、オキシプロピレンユニット、オキシトリメチレンユニット、オキシ2-メチル-1,3-プロピレンユニット、オキシ1,4-ブチレンユニット、オキシ1,3-ブチレンユニットなどが挙げられる。ポリマー化合物は、このようなオキシC2-4アルキレンユニットを一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。
【0058】
このようなポリマー化合物は、重クロロホルムを溶媒として用いて測定されるH-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲にオキシC2-4アルキレンユニットに由来するピークを示す。
【0059】
ポリマー化合物において、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造は、一種のオキシC2-4アルキレンユニットを含んでもよく、二種以上のオキシC2-4アルキレンユニットを含んでもよい。ポリマー化合物には、一種の上記繰り返し構造が含まれていてもよく、二種以上の上記繰り返し構造が含まれていてもよい。
【0060】
ポリマー化合物としては、例えば、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物(ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、ポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物など)、これらのヒドロキシ化合物のエーテル化物またはエステル化物が挙げられる。
【0061】
共重合体としては、異なるオキシC2-4アルキレンユニットを含む共重合体などが挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体であってもよい。
【0062】
ポリオールは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール、芳香族ポリオール、および複素環式ポリオールなどのいずれであってもよい。ポリマー化合物が鉛表面に薄く広がり易い観点からは、脂肪族ポリオール、脂環式ポリオール(例えば、ポリヒドロキシシクロヘキサン、ポリヒドロキシノルボルナン)などが好ましく、中でも脂肪族ポリオールが好ましい。脂肪族ポリオールとしては、例えば、脂肪族ジオール、トリオール以上のポリオール(例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、糖または糖アルコール)が挙げられる。脂肪族ジオールとしては、炭素数が5以上のアルキレングリコールなどが挙げられる。アルキレングリコールは、例えば、C5~14アルキレングリコールまたはC5-10アルキレングリコールであってもよい。糖または糖アルコールとしては、例えば、ショ糖、エリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトールが挙げられる。糖または糖アルコールは、鎖状構造および環状構造のいずれであってもよい。ポリオールのポリアルキレンオキサイド付加物においては、アルキレンオキサイドは、ポリマー化合物のオキシC2-4アルキレンユニットに相当し、少なくともC2-4アルキレンオキサイドを含む。ポリマー化合物が線状構造を取り易い観点からは、ポリオールはジオールであることが好ましい。
【0063】
エーテル化物は、上記のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエーテル化された-OR基を有する(式中、Rは有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエーテル化されていてもよく、全ての末端がエーテル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-OR基であってもよい。
【0064】
エステル化物は、上記オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物の少なくとも一部の末端の-OH基(末端基の水素原子とこの水素原子に結合した酸素原子とで構成される-OH基)がエステル化された-O-C(=O)-R基を有する(式中、Rは有機基である。)。ポリマー化合物の末端のうち、一部の末端がエステル化されていてもよく、全ての末端がエステル化されていてもよい。例えば、線状のポリマー化合物の主鎖の一方の末端が-OH基で、他方の末端が-O-C(=O)-R基であってもよい。
【0065】
有機基RおよびRのそれぞれとしては、炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、ヒドロキシ基、アルコキシ基、および/またはカルボキシ基)を有してもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)を有してもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~30であってもよく、1~20または1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。
【0066】
芳香族炭化水素基としては、例えば、炭素数が24以下(例えば、6~24)の芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基の炭素数は、20以下(例えば、6~20)であってもよく、14以下(例えば、6~14)または12以下(例えば、6~12)であってもよい。芳香族炭化水素基としては、アリール基、ビスアリール基などが挙げられる。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。ビスアリール基としては、例えば、ビスアレーンに対応する一価基が挙げられる。ビスアレーンとしては、例えば、ビフェニル、ビスアリールアルカン(例えば、ビスC6-10アリールC1-4アルカン(2,2-ビスフェニルプロパンなど))が挙げられる。
【0067】
脂環族炭化水素基としては、例えば、炭素数が16以下の脂環族炭化水素基が挙げられる。脂環族炭化水素基は、架橋環式炭化水素基であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、10以下または8以下であってもよい。脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上であり、6以上であってもよい。
【0068】
脂環族炭化水素基の炭素数は、5(または6)以上16以下、5(または6)以上10以下、あるいは5(または6)以上8以下であってもよい。
【0069】
脂環族炭化水素基としては、例えば、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基など)、シクロアルケニル基(シクロヘキセニル基、シクロオクテニル基など)が挙げられる。脂環族炭化水素基には、上記の芳香族炭化水素基の水素添加物も包含される。
【0070】
鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは、炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよく、不飽和であってもよい。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、炭素炭素二重結合を2つ有するジエニル基、炭素炭素二重結合を3つ有するトリエニル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状および分岐鎖状のいずれであってもよい。
【0071】
脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、30以下であり、26以下または22以下であってもよく、20以下または16以下であってもよく、14以下または10以下であってもよく、8以下または6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上、トリエニル基では4以上である。鉛表面にポリマー化合物が薄く付着し易い観点からは中でもアルキル基およびアルケニル基が好ましい。
【0072】
アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシル、2-エチルヘキシル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、i-デシル、ウンデシル、ラウリル(ドデシル)、トリデシル、ミリスチル、ペンタデシル、セチル、ヘプタデシル、ステアリル、イコシル、ヘンイコシル、ベヘニルが挙げられる。
【0073】
アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリル、シス-9-ヘプタデセン-1-イル、パルミトレイル、オレイルが挙げられる。アルケニル基は、例えば、C2-30アルケニル基またはC2-26アルケニル基であってもよく、C2-22アルケニル基またはC2-20アルケニル基であってもよく、C10-20アルケニル基であってもよい。
【0074】
ポリマー化合物のうち、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を用いると、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができるため好ましい。また、これらのポリマー化合物を用いた場合にも過充電電気量を低減することができる。また、このようなポリマー化合物のうち、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物、またはオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物などが好ましい。
【0075】
ポリマー化合物は、1つ以上の疎水性基を有してもよい。疎水性基としては、上記の炭化水素基のうち、例えば、芳香族炭化水素基、脂環族炭化水素基、長鎖脂肪族炭化水素基が挙げられる。長鎖脂肪族炭化水素基としては、上記の脂肪族炭化水素基(アルキル基、アルケニル基など)のうち、炭素数が8以上の脂肪族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基の炭素数は12以上が好ましく、16以上がより好ましい。中でも、長鎖脂肪族炭化水素基を有するポリマー化合物は、鉛に対して過度な吸着を起こし難く、充電受入性の低下抑制効果がさらに高まるため、好ましい。ポリマー化合物は、疎水性基の少なくとも1つが、長鎖脂肪族炭化水素基であるポリマー化合物であってもよい。長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、30以下、26以下、または22以下であってもよい。
【0076】
長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、8以上(または12以上)30以下、8以上(または12以上)26以下、8以上(または12以上)22以下、10以上30以下(または26以下)、あるいは10以上22以下であってもよい。
【0077】
ポリマー化合物のうち、親水性基と疎水性基とを有するポリマー化合物は、ノニオン界面活性剤に相当する。ポリオキシエチレンユニットの繰り返し構造は、高い親水性を示し、ノニオン界面活性剤における親水性基となり得る。そのため、上記の疎水性基を有するポリマー化合物は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むことが好ましい。このようなポリマー化合物は、疎水性と、オキシエチレンユニットの繰り返し構造による高い親水性とのバランスにより、鉛に対して選択的に吸着しながらも、鉛の表面を過度に覆うことを抑制できるため、過充電電気量を低減しながら、充電受入性の低下抑制効果をさらに高めることができる。このようなポリマー化合物は、比較的低分子量(例えば、Mnが1000以下)であっても、鉛に対する高い吸着性を確保することができる。
【0078】
上記のポリマー化合物のうち、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエーテル化物およびオキシエチレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物のエステル化物などは、ノニオン界面活性剤に相当する。
【0079】
また、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体などでは、オキシエチレンユニットの繰り返し構造が親水性基に相当し、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造が疎水性基に相当する。このような共重合体も、疎水性基を有するポリマー化合物に包含される。
【0080】
疎水性基を有し、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物としては、ポリエチレングリコールのエーテル化物(アルキルエーテルなど)、ポリエチレングリコールのエステル化物(カルボン酸エステルなど)、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエーテル化物(アルキルエーテルなど)、上記ポリオール(トリオール以上のポリオールなど)のポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物(カルボン酸エステルなど)などが挙げられる。このようなポリマー化合物の具体例としては、オレイン酸ポリエチレングリコール、ジオレイン酸ポリエチレングリコール、ジラウリン酸ポリエチレングリコール、ジステアリン酸ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンヤシ油脂肪酸ソルビタン、オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテルが挙げられる。しかし、ポリマー化合物は、これらに限定されない。中でも、ポリエチレングリコールのエステル化物、上記ポリオールのポリエチレンオキサイド付加物のエステル化物などを用いると、より高い充電受入性を確保できるとともに、過充電電気量を顕著に低減できるため、好ましい。
【0081】
過充電電気量を低減する効果がさらに高まるとともに、より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保し易い観点からは、第1添加剤は、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物を含む場合も好ましい。オキシプロピレンユニットを含むポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、3.2ppm~3.8ppmの範囲に、オキシプロピレンユニットの-CH<および-CH-に由来するピークを有する。これらの基における水素原子の原子核の周囲の電子密度が異なるため、ピークがスプリットした状態となる。このようなポリマー化合物は、H-NMRスペクトルのケミカルシフトにおいて、例えば、3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲と、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲とのそれぞれにピークを有する。3.2ppm以上3.42ppm以下の範囲のピークは、-CH-に由来し、3.42ppmを超え3.8ppm以下の範囲のピークは、-CH<および-CH-に由来する。
【0082】
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物としては、ポリプロピレングリコール、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含む共重合体、上記ポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物、またはこれらのエーテル化物もしくはエステル化物などが挙げられる。共重合体としては、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体(ただし、オキシアルキレンは、オキシプロピレン以外のC2-4アルキレン)などが挙げられる。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体としては、オキシプロピレン-オキシエチレン共重合体、オキシプロピレン-オキシトリメチレン共重合体などが例示される。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ポリオキシプロピレン-ポリオキシアルキレン共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体)と称することがある。オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体は、ブロック共重合体(例えば、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体)であってもよい。エーテル化物としては、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のアルキルエーテル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のアルキルエーテルなど)などが挙げられる。エステル化物としては、カルボン酸のポリプロピレングリコールエステル、オキシプロピレン-オキシアルキレン共重合体のカルボン酸エステル(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体のカルボン酸エステルなど)などが挙げられる。
【0083】
少なくともオキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物としては、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体など)、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル(上記Rが炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(メチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテルなど)など)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル(上記Rが炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(ブチルエーテル、ヒドロキシヘキシルエーテルなど)など)、カルボン酸ポリプロピレングリコール(上記Rが炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるカルボン酸ポリプロピレングリコール(酢酸ポリプロピレングリコールなど)など)、トリオール以上のポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物(グリセリンのポリプロピレンオキサイド付加物など)が挙げられる。しかし、ポリマー化合物は、これらに限定されない。
【0084】
オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を含むポリマー化合物において、オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、5mol%以上であり、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。オキシプロピレンユニットの割合は、例えば、100mol%以下である。
【0085】
充電受入性およびPSOC寿命性能がさらに高まるとともに、過充電電気量がさらに低減される観点からは、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含まない場合も好ましい。中でも、少なくともポリプロピレングリコールを含む第1添加剤を用いると、優れた効果が得られ易い。
【0086】
第1添加剤は、ポリマー化合物を一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0087】
ポリマー化合物は、例えば、Mnが500万以下の化合物を含んでもよく、100万以下の化合物を含んでもよく、10万以下の化合物を含んでもよく、50000以下または20000以下の化合物を含んでもよい。負極電極材料におけるポリマー化合物の偏在を低減して、より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保する観点からは、ポリマー化合物は、Mnが10000以下の化合物を含むことが好ましく、9000以下または8000以下の化合物を含んでもよい。このような化合物のMnは、300以上または400以上であってもよく、500以上であってもよい。負極電極材料中にポリマー化合物が留まって、過充電電気量を低減する効果がさらに高まる観点からは、このような化合物のMnは、1000以上が好ましく、1500以上がより好ましい。ポリマー化合物としては、Mnが異なる2種以上の化合物を用いてもよい。つまり、ポリマー化合物は、分子量の分布において、Mnのピークを複数有するポリマー化合物であってもよい。オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物(オキシエチレンユニットの繰り返し構造を有さないポリマー化合物も含む)のMnがこのような範囲であってもよい。
【0088】
上記の化合物のMnは、300以上(または400以上)500万以下、300以上(または400以上)100万以下、300以上(または400以上)10万以下、300以上(または400以上)50000以下、300以上(または400以上)20000以下、300以上(または400以上)10000以下、300以上(または400以上)9000以下、300以上(または400以上)8000以下、500以上(または1000以上)500万以下、500以上(または1000以上)100万以下、500以上(または1000以上)10万以下、500以上(または1000以上)50000以下、500以上(または1000以上)20000以下、500以上(または1000以上)10000以下、500以上(または1000以上)9000以下、500以上(または1000以上)8000以下、1500以上500万以下、1500以上100万以下、1500以上10万以下、1500以上50000以下、1500以上20000以下、1500以上10000以下、1500以上9000以下、あるいは1500以上8000以下であってもよい。オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物(オキシエチレンユニットの繰り返し構造を有さないポリマー化合物も含む)のMnがこのような範囲であってもよい。
【0089】
(界面活性剤)
界面活性剤としては、例えば、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、および両性界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、親水性基と疎水性基とを含んでいる。界面活性剤が有する疎水性基は、親水性基よりも疎水性が高い官能基である。第1添加剤は、界面活性剤を一種含んでもよく、二種以上を組み合わせて含んでもよい。
【0090】
典型的なノニオン界面活性剤は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造と疎水性基とを有する化合物であり、ポリマー化合物についての説明を参照できる。ノニオン界面活性剤として、ポリオール(ポリマー化合物について例示したポリオール(糖または糖アルコールなど)など)の脂肪酸エステルを用いてもよい。アニオン界面活性剤としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩などが挙げられる。両性界面活性剤としては、アミノ酸型の両性界面活性剤、ベタイン型の両性界面活性剤などが挙げられる。過充電電気量を低く抑えながら、より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保し易い観点から、界面活性剤は、カチオン界面活性剤を含むことが好ましい。また、同様の観点から、上記のノニオン界面活性剤を含む界面活性剤を用いる場合も好ましい。
【0091】
カチオン界面活性剤は、親水性基の種類に応じて、アミン塩型および第4級アンモニウム塩型に分類される。カチオン界面活性剤では、アミン塩部分または第4級アンモニウム塩部分が親水性基に相当する。負極電極材料中において、親水性基は、塩の状態で存在していてもよく、カチオンの状態で存在していてもよい。塩を形成するアニオンの種類は、特に限定されず、例えば、ハロゲン化物イオン、無機酸由来のアニオンが挙げられる。ハロゲン化物イオンとしては、例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、およびヨウ化物イオンが挙げられる。無機酸由来のアニオンに対応する無機酸としては、例えば、ハロゲン化水素酸(塩酸、臭化水素酸など)またはオキソ酸(硫酸、リン酸など)が挙げられる。
【0092】
カチオン界面活性剤は、1分子中に、親水性基を通常1つ有する。しかし、カチオン界面活性剤が、親水性基を1分子中に複数有する場合を排除することを意図しない。
【0093】
カチオン界面活性剤は、1分子中に1つ以上の疎水性基を有する。疎水性基としては、例えば、ポリマー化合物について記載した炭化水素基または疎水性基が挙げられる。カチオン界面活性剤における疎水性基の数は、1つ以上であればよく、2つ以上または3つ以上であってもよい。アミン塩型のカチオン界面活性剤は、通常、アミン塩の窒素原子1つにつき1つ以上3つ以下の疎水性基を有し得る。第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤では、通常、アンモニウム塩の窒素原子1つにつき4つの疎水性基を有し得る。
【0094】
カチオン界面活性剤が有する疎水性基の少なくとも1つは、炭素数が8以上の長鎖脂肪族炭化水素基であることが好ましい。カチオン界面活性剤が有する炭素数が8以上の長鎖脂肪族炭化水素基を、第1疎水性基と称することがある。カチオン界面活性剤が第1疎水性基を有する場合、過充電電気量を低く抑えながら、より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保し易くなる。カチオン界面活性剤は、第1疎水性基以外の疎水性基(第2疎水性基とも称する)を1つ以上有していてもよい。
【0095】
カチオン界面活性剤は、1分子中に、第1疎水性基を1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。カチオン界面活性剤が、1分子中に2つ以上の第1疎水性基を有する場合、少なくとも2つの第1疎水性基の種類は同じであってもよく、全ての第1疎水性基が異なっていてもよい。カチオン界面活性剤における第1疎水性基の個数の上限は、特に制限されない。第1疎水性基の個数は、アミン塩型では、例えば、3以下であり、2以下であってもよい。第4級アンモニウム塩型では、第1疎水性基の個数は、例えば、4以下であり、3以下または2以下であってもよい。
【0096】
カチオン界面活性剤が1分子中に有する第1疎水性基の個数は、アミン塩型では、例えば、1~3であり、1~2であってもよく、2~3であってもよい。カチオン界面活性剤が1分子中に有する第1疎水性基の個数は、第4級アンモニウム塩型では、例えば、1~4であり、1~3または1~2であってもよく、2~4または2~3であってもよい。
【0097】
カチオン界面活性剤は、第2疎水性基を1つ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。カチオン界面活性剤が2つ以上の第2疎水性基を有する場合、少なくとも2つの第2疎水性基の種類は同じであってもよく、全ての第2疎水性基が異なっていてもよい。第2疎水性基の個数の上限は、特に制限されず、アミン塩型では、例えば、2以下であり、第4級アンモニウム塩型では、例えば、3以下または2以下であってもよい。カチオン界面活性剤では、1分子中の第1疎水性基および第2疎水性基の合計数は、1つの窒素原子につき、アミン塩型では3を超えず、第4級アンモニウム塩型では4を超えないようにされる。
【0098】
鉛表面に形成されるカチオン界面活性剤の被膜の厚みをより小さくし易い観点からは、第1疎水性基は、アルキル基またはアルケニル基であることが好ましい。
【0099】
第1疎水性基の炭素数は、例えば、30以下である。親水性基とのバランスにより、カチオン界面活性剤の鉛表面への高い吸着性を確保し易い観点からは、第1疎水性基の炭素数は、26以下が好ましく、24以下または22以下がより好ましい。また、負極電極材料には、炭素質材料が含まれることがあるが、長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数が26以下(例えば、24以下または22以下)の場合には、カチオン界面活性剤の、炭素質材料への吸着を低減して、鉛表面への吸着が起こり易くなる。よって、過充電電気量をさらに低減することができる。
【0100】
第2疎水性基としては、例えば、ポリマー化合物について記載した炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、置換基(例えば、アルコキシ基)を有する炭化水素基であってもよい。炭化水素基は、脂肪族、脂環族、および芳香族のいずれであってもよい。脂肪族炭化水素基は、置換基として、芳香族炭化水素基(例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基)および脂環族炭化水素基(例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基)からなる群より選択される少なくとも一種を有してもよい。このような置換基を有する脂肪族炭化水素基としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、シクロヘキシルメチル基が挙げられる。置換基としての芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基の炭素数は、例えば、5以上20以下であり、6以上12以下であってもよい。芳香族炭化水素基および脂環族炭化水素基は、それぞれ、置換基として、脂肪族炭化水素基(例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基)を有してもよい。置換基としての脂肪族炭化水素基の炭素数は、例えば、1~30であってもよく、1~20または1~10であってもよく、1~6または1~4であってもよい。その他、第2疎水性基については、ポリマー化合物についての炭化水素基の説明を参照できる。
【0101】
鉛表面にカチオン界面活性剤が薄く付着し易い観点からは、第2疎水性基としては、炭化水素基のうち、脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基の炭素数は、8未満であり、6以下であってもよい。炭素数の下限は、脂肪族炭化水素基の種類に応じて、アルキル基では1以上、アルケニル基およびアルキニル基では2以上、ジエニル基では3以上、トリエニル基では4以上である。第2疎水性基としては、アルキル基またはアルケニル基(中でも、アルキル基)が好ましい。アルキル基の炭素数は、4以下がより好ましく、3以下または2以下であってもよい。
【0102】
第2疎水性基としてのアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、i-ブチル、s-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、ネオペンチル、i-ペンチル、s-ペンチル、3-ペンチル、t-ペンチル、n-ヘキシルが挙げられる。アルケニル基の具体例としては、ビニル、1-プロペニル、アリルが挙げられる。
【0103】
高い親水性により鉛に対する高い吸着性が得られ易い観点からは、カチオン界面活性剤は、少なくとも第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤を含むことが好ましい。カチオン界面活性剤は、第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤に加え、アミン塩型のカチオン界面活性剤を含んでもよい。
【0104】
第4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウム塩、塩化アルキルベンザルコニウムが挙げられる。テトラアルキルアンモニウム塩としては、第1疎水性基を1つ有するカチオン界面活性剤(塩化オクチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウムなど)、第1疎水性基を2つ有するカチオン界面活性剤(塩化ジステアリルジメチルアンモニウムなど)などが挙げられる。テトラアルキルアンモニウム塩として、第2疎水性基を4つ有するカチオン界面活性剤(塩化テトラメチルアンモニウムなど)を用いてもよい。塩化アルキルベンザルコニウムとしては、ステアリルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ステアリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ステアリルベンザルコニウムクロライドなどが挙げられる。アミン塩型のカチオン界面活性剤としては、n-オクチルアミン塩酸塩、ドデシルアミン塩酸塩などが挙げられる。これらは、単なる例示であり、カチオン界面活性剤はこれらの具体例に限定されない。
【0105】
第1添加剤は、カチオン界面活性剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0106】
ノニオン界面活性剤以外の界面活性剤では、比較的低分子量の化合物が多い。ノニオン界面活性剤のMnは、ポリマー化合物について記載したMnの範囲から選択できる。より高い充電受入性を確保する観点からは、ノニオン界面活性剤は、Mnが10000以下の化合物を含むことが好ましい。
【0107】
第1添加剤のうち、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤には、>S=O基などに由来する硫黄元素を含む界面活性剤がある。第1添加剤が硫黄元素を含む場合、第1添加剤の硫酸鉛への吸着性が高まる傾向がある。そのため、第1添加剤は、硫黄元素を含まないことが好ましい。この場合、第1添加剤の硫酸鉛への吸着を低減できるため、より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保し易くなる。
【0108】
負極電極材料中の第1添加剤の含有量は、質量基準で、例えば、8ppm以上である。過充電電気量の低減効果をさらに高める観点からは、負極電極材料中の第1添加剤の含有量は、質量基準で、10ppm以上または50ppm以上が好ましく、100ppm以上がより好ましく、300ppm以上または400ppm以上であってもよい。負極電極材料中の第1添加剤の含有量は、質量基準で、例えば、10000ppm以下であり、6000ppm以下または5000ppm以下であってもよく、1000ppm以下または700ppm以下であってもよい。
【0109】
負極電極材料中の第1添加剤の含有量は、質量基準で、8ppm以上(または10ppm以上)10000ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)6000ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)5000ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)1000ppm以下、8ppm以上(または10ppm以上)700ppm以下、50ppm以上(または100ppm以上)10000ppm以下、50ppm以上(または100ppm以上)6000ppm以下、50ppm以上(または100ppm以上)5000ppm以下、50ppm以上(または100ppm以上)1000ppm以下、50ppm以上(または100ppm以上)700ppm以下、300ppm以上(または400ppm以上)10000ppm以下、300ppm以上(または400ppm以上)6000ppm以下、300ppm以上(または400ppm以上)5000ppm以下、300ppm以上(または400ppm以上)1000ppm以下、あるいは300ppm以上(または400ppm以上)700ppm以下であってもよい。
【0110】
(有機防縮剤)
有機防縮剤は、通常、リグニン化合物と合成有機防縮剤とに大別される。合成有機防縮剤は、リグニン化合物以外の有機防縮剤であるとも言える。負極電極材料に含まれる有機防縮剤としては、リグニン化合物および合成有機防縮剤などが挙げられる。負極電極材料は、有機防縮剤を、一種含んでもよく、二種以上含んでもよい。
【0111】
リグニン化合物としては、リグニン、リグニン誘導体などが挙げられる。リグニン誘導体としては、リグニンスルホン酸またはその塩(アルカリ金属塩(ナトリウム塩など)など)などが挙げられる。
【0112】
合成有機防縮剤は、硫黄元素を含む有機高分子であり、一般に、分子内に複数の芳香環を含むとともに、硫黄含有基として硫黄元素を含んでいる。硫黄含有基の中では、安定形態であるスルホン酸基もしくはスルホニル基が好ましい。スルホン酸基は、酸型で存在してもよく、Na塩のように塩型で存在してもよい。
【0113】
有機防縮剤として、少なくともリグニン化合物を用いてもよい。リグニン化合物は合成有機防縮剤に比較すると、充電受入性が低くなり易い。しかし、負極電極材料が第1添加剤を含むことで、有機防縮剤としてリグニン化合物を用いる場合でも、高い充電受入性を確保することができる。
【0114】
有機防縮剤としては、少なくとも芳香族化合物のユニットを含む縮合物を用いる場合も好ましい。このような縮合物としては、例えば、芳香族化合物の、アルデヒド化合物(アルデヒド(例えば、ホルムアルデヒド)およびその縮合物からなる群より選択される少なくとも一種など)による縮合物が挙げられる。有機防縮剤は、一種の芳香族化合物のユニットを含んでもよく、二種以上の芳香族化合物のユニットを含んでいてもよい。
なお、芳香族化合物のユニットとは、縮合物に組み込まれた芳香族化合物に由来するユニットを言う。
【0115】
芳香族化合物が有する芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環などが挙げられる。芳香族化合物が複数の芳香環を有する場合には、複数の芳香環は直接結合または連結基(例えば、アルキレン基(アルキリデン基を含む)、スルホン基)などで連結していてもよい。このような構造としては、例えば、ビスアレーン構造(ビフェニル、ビスフェニルアルカン、ビスフェニルスルホンなど)が挙げられる。芳香族化合物としては、例えば、上記の芳香環と、ヒドロキシ基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種とを有する化合物が挙げられる。ヒドロキシ基またはアミノ基は、芳香環に直接結合していてもよく、ヒドロキシ基またはアミノ基を有するアルキル鎖として結合していてもよい。なお、ヒドロキシ基には、ヒドロキシ基の塩(-OMe)も包含される。アミノ基には、アミノ基の塩(具体的には、アニオンとの塩)も包含される。Meとしては、アルカリ金属(Li、K、Naなど)、周期表第2族金属(Ca、Mgなど)などが挙げられる。
【0116】
芳香族化合物としては、ビスアレーン化合物[ビスフェノール化合物、ヒドロキシビフェニル化合物、アミノ基を有するビスアレーン化合物(アミノ基を有するビスアリールアルカン化合物、アミノ基を有するビスアリールスルホン化合物、アミノ基を有するビフェニル化合物など)、ヒドロキシアレーン化合物(ヒドロキシナフタレン化合物、フェノール化合物など)、アミノアレーン化合物(アミノナフタレン化合物、アニリン化合物(アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸など)など)など]が好ましい。芳香族化合物は、さらに置換基を有していてもよい。有機防縮剤は、これらの化合物の残基を一種含んでもよく、複数種含んでもよい。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどが好ましい。負極電極材料が、ビスアレーン化合物の縮合物(アルデヒド化合物による縮合物など)を含む場合、過充電電気量が増加する傾向があるが、第1成分および第1添加剤の直接的または間接的な相互作用により、過充電電気量を低く抑えることができる。また、リグニン化合物を用いる場合に比べて、充電受入性およびPSOC寿命性能を向上できる。
【0117】
縮合物は、少なくとも硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含むことが好ましい。中でも、硫黄含有基を有するビスフェノール化合物のユニットを少なくとも含む縮合物を用いると、より高い充電受入性を確保する上で有利である。過充電電気量を低減する効果が高まる観点からは、硫黄含有基を有するとともに、ヒドロキシ基およびアミノ基からなる群より選択される少なくとも一種を有するナフタレン化合物のアルデヒド化合物による縮合物を用いることも好ましい。
【0118】
硫黄含有基は、化合物に含まれる芳香環に直接結合していてもよく、例えば、硫黄含有基を有するアルキル鎖として芳香環に結合していてもよい。硫黄含有基としては、特に制限されず、例えば、スルホニル基、スルホン酸基またはその塩が挙げられる。
【0119】
また、有機防縮剤として、例えば、上記のビスアレーン化合物のユニットおよび単環式の芳香族化合物(ヒドロキシアレーン化合物、および/またはアミノアレーン化合物など)のユニットからなる群より選択される少なくとも一種を含む縮合物を少なくとも用いてもよい。有機防縮剤は、ビスアレーン化合物のユニットと単環式芳香族化合物(中でも、ヒドロキシアレーン化合物)のユニットとを含む縮合物を少なくとも含んでもよい。このような縮合物としては、ビスアレーン化合物と単環式の芳香族化合物との、アルデヒド化合物による縮合物が挙げられる。ヒドロキシアレーン化合物としては、フェノールスルホン酸化合物(フェノールスルホン酸またはその置換体など)が好ましい。アミノアレーン化合物としては、アミノベンゼンスルホン酸、アルキルアミノベンゼンスルホン酸などが好ましい。単環式の芳香族化合物としては、ヒドロキシアレーン化合物が好ましい。
【0120】
負極電極材料は、上記の有機防縮剤のうち、例えば、硫黄元素含有量が2000μmol/g以上の有機防縮剤(第1有機防縮剤)を含んでもよい。第1有機防縮剤としては、上記の合成有機防縮剤(上記の縮合物など)などが挙げられる。
【0121】
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、2000μmol/g以上であればよく、3000μmol/g以上が好ましい。第1有機防縮剤の硫黄元素含有量の上限は特に制限されない。過充電電気量を低減する効果がさらに高まる観点からは、有機防縮剤の硫黄元素含有量は、9000μmol/g以下が好ましく、8000μmol/g以下がより好ましい。
【0122】
第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、例えば、2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)9000μmol/g以下、あるいは2000μmol/g以上(または3000μmol/g以上)8000μmol/g以下であってもよい。
【0123】
第1有機防縮剤は、硫黄含有基を有する芳香族化合物のユニットを含む縮合物を含み、縮合物は、芳香族化合物のユニットとして、少なくともビスアレーン化合物(ビスフェノール化合物など)のユニットを含んでもよい。
【0124】
第1有機防縮剤の重量平均分子量(Mw)は、7000以上であることが好ましい。第1有機防縮剤のMwは、例えば、100,000以下であり、20,000以下であってもよい。
【0125】
負極電極材料は、例えば、硫黄元素含有量が2000μmol/g未満の有機防縮剤(第2有機防縮剤)を含むことができる。第2有機防縮剤としては、上記の有機防縮剤のうち、リグニン化合物、合成有機防縮剤(特に、リグニン化合物)などが挙げられる。第2有機防縮剤の硫黄元素含有量は、1000μmol/g以下が好ましく、800μmol/g以下であってもよい。第2有機防縮剤中の硫黄元素含有量の下限は特に制限されず、例えば、400μmol/g以上である。
【0126】
第2有機防縮剤のMwは、例えば、7000未満である。第2有機防縮剤のMwは、例えば、3000以上である。
【0127】
負極電極材料は、第1有機防縮剤に加え、第2有機防縮剤を含んでもよい。第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを併用する場合、これらの質量比は任意に選択できる。
【0128】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、例えば、0.005質量%以上であり、0.01質量%以上であってもよい。有機防縮剤の含有量がこのような範囲である場合、高い放電容量を確保することができる。有機防縮剤の含有量は、例えば、1.0質量%以下であり、0.5質量%以下であってもよい。充電受入性の低下を抑制する効果がさらに高まる観点からは、有機防縮剤の含有量は、0.3質量%以下が好ましく、0.25質量%以下がより好ましく、0.2質量%以下であってもよい。
【0129】
負極電極材料中に含まれる有機防縮剤の含有量は、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)1.0質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.5質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.3質量%以下、0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.25質量%以下、あるいは0.005質量%以上(または0.01質量%以上)0.2質量%以下であってもよい。
【0130】
(炭素質材料)
負極電極材料に含まれる炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボンなどを用いることができる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどが例示される。ファーネスブラックには、ケッチェンブラック(商品名)も含まれる。
【0131】
なお、本明細書中、炭素質材料のうち、ラマンスペクトルの1300cm-1以上1350cm-1以下の範囲に現れるピーク(Dバンド)と1550cm-1以上1600cm-1以下の範囲に現れるピーク(Gバンド)との強度比I/Iが、0以上0.9以下である炭素質材料を、黒鉛と称する。黒鉛は、人造黒鉛、天然黒鉛のいずれであってもよい。
【0132】
負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0133】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。炭素質材料の含有量は、例えば、5質量%以下であり、3質量%以下であってもよい。
【0134】
負極電極材料中の炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上5質量%以下、0.05質量%以上3質量%以下、0.10質量%以上5質量%以下、または0.10質量%以上3質量%以下であってもよい。
【0135】
(硫酸バリウム)
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、0.05質量%以上であり、0.10質量%以上であってもよい。負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、例えば、3質量%以下であり、2質量%以下であってもよい。
【0136】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上3質量%以下、0.05質量%以上2質量%以下、0.10質量%以上3質量%以下、または0.10質量%以上2質量%以下であってもよい。
【0137】
(負極電極材料または構成成分の分析)
以下に、負極電極材料またはその構成成分の分析方法について説明する。測定または分析に先立ち、満充電状態の鉛蓄電池を解体して分析対象の負極板を入手する。入手した負極板を水洗し、負極板から硫酸分を除去する。水洗は、水洗した負極板表面にpH試験紙を押し当て、試験紙の色が変化しないことが確認されるまで行う。ただし、水洗を行う時間は、2時間以内とする。水洗した負極板は、減圧環境下、60±5℃で6時間程度乾燥する。乾燥後に負極板に貼付部材が含まれている場合には、剥離により貼付部材が除去される。次に、負極板から負極電極材料を分離することにより試料(以下、試料Aと称する)を入手する。試料Aは、必要に応じて粉砕され、分析に供される。
【0138】
(1)オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有する第1添加剤の分析
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有する第1添加剤(具体的には、ポリマー化合物、およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有する界面活性剤)の分析は、以下の手順で行われる。
【0139】
(1-1)定性分析
(a)オキシC2-4アルキレンユニットの分析
粉砕した試料Aを用いる。100.0±0.1gの試料Aに150.0±0.1mLのクロロホルムを加え、20±5℃で16時間撹拌し、第1添加剤を抽出する。その後、ろ過によって固形分を除く。抽出により得られる第1添加剤が溶解したクロロホルム溶液またはクロロホルム溶液を乾固することにより得られる第1添加剤について、例えば、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、LC/MSおよび熱分解GC/MSから選択される少なくとも1つから情報を得ることで、第1添加剤を特定する。
【0140】
抽出により得られる第1添加剤が溶解したクロロホルム溶液から、クロロホルムを減圧下で留去することによりクロロホルム可溶分を回収する。クロロホルム可溶分を重クロロホルムに溶解させて、下記の条件でH-NMRスペクトルを測定する。このH-NMRスペクトルから、ケミカルシフトが3.2ppm以上3.8ppm以下の範囲のピークを確認する。また、この範囲のピークから、オキシC2-4アルキレンユニットの種類を特定する。
【0141】
装置:日本電子(株)製、AL400型核磁気共鳴装置
観測周波数:395.88MHz
パルス幅:6.30μs
パルス繰り返し時間:74.1411秒
積算回数:32
測定温度:室温(20~35℃)
基準:7.24ppm
試料管直径:5mm
【0142】
(b)エステル化物における疎水性基の分析
第1添加剤がヒドロキシ化合物のエステル化物である場合、上記(a)において、抽出により得られる第1添加剤が溶解したクロロホルム溶液を乾固することにより得られる第1添加剤を、所定量採取し、水酸化カリウム水溶液を添加する。これにより、エステル化物がケン化され、脂肪酸カリウム塩とヒドロキシ化合物とが生成する。上記の水溶性カリウム水溶液は、ケン化が完了するまで添加される。得られる混合物に、メタノールおよび三フッ化ホウ素の溶液を加えて混合することにより、脂肪酸カリウム塩を脂肪酸メチルエステルに変換する。得られる混合物を、熱分解GC-MSにより下記の条件で分析することにより、エステル化物に含まれる疎水性基が同定される。
分析装置:(株)島津製作所製、高性能汎用ガスクロマトグラムGC-2014
カラム:DEGS(ジエチレングリコールコハク酸エステル) 2.1m
オーブン温度:180~120℃
注入口温度:240℃
検出器温度:240℃
キャリアガス:He(流量:50mL/分)
注入量:1μL~2μL
【0143】
(c)エーテル化物における疎水性基の分析
第1添加剤がヒドロキシ化合物のエーテル化物である場合、上記(a)において、抽出により得られる第1添加剤が溶解したクロロホルム溶液を乾固することにより得られる第1添加剤を、所定量採取し、ヨウ化水素を添加する。これにより、第1添加剤のエーテル部分の有機基(上述のR)に対応するヨウ化物(RI)が生成するとともに、オキシC2-4アルキレンユニットに対応するジヨードC2-4アルカンが生成する。上記のヨウ化水素は、エーテル化物のヨウ化物およびジヨードC2-4アルカンへの変換が完了するのに十分な量を添加する。得られる混合物を、熱分解GC-MSにより上記(b)と同じ条件で分析することにより、エーテル化物に含まれる疎水性基が同定される。
【0144】
(1-2)定量分析
上記のクロロホルム可溶分の適量を、±0.0001gの精度で測定したm(g)のテトラクロロエタン(TCE)と共に重クロロホルムに溶解させて、H-NMRスペクトルを測定する。ケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲に存在するピークの積分値(S)とTCEに由来するピークの積分値(S)を求め、以下の式から負極電極材料中のオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有する第1添加剤の質量基準の含有量C(ppm)を求める。
【0145】
=S/S×N/N×M/M×m/m×1000000
(式中、Mはケミカルシフトが3.2~3.8ppmの範囲にピークを示す構造の分子量(より具体的には、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造の分子量)であり、Nは繰り返し構造の主鎖の炭素原子に結合した水素原子の数である。Nr、はそれぞれ基準物質の分子に含まれる水素数、基準物質の分子量であり、m(g)は抽出に使用した負極電極材料の質量である。)
なお、本分析での基準物質はTCEであるため、N=2、M=168である。また、m=100である。
【0146】
例えば、第1添加剤がポリプロピレングリコールの場合、Mは58であり、Nは3である。第1添加剤がポリエチレングリコールの場合、Mは44であり、Nは4である。共重合体の場合には、NおよびMは、それぞれ、各モノマー単位のN値およびM値を繰り返し構造に含まれる各モノマー単位のモル比率(モル%)を用いて平均化した値である。
【0147】
なお、定量分析では、H-NMRスペクトルにおけるピークの積分値は、日本電子(株)製のデータ処理ソフト「ALICE」を用いて求める。
【0148】
(1-3)第1添加剤のMn測定 上記のクロロホルム可溶分を用いて、第1添加剤のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMnと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線および第1添加剤のGPC測定結果に基づき、第1添加剤のMnを算出する。ただし、エステル化物またはエーテル化物などは、クロロホルム可溶分中で分解した状態であり得る。
【0149】
分析システム:20A system((株)島津製作所製)
カラム:GPC KF-805L(Shodex社製)2本を直列接続
カラム温度:30℃±1℃
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1mL/min.
濃度:0.20質量%
注入量:10μL
標準物質:ポリエチレングリコール(Mn=2,000,000、200,000、20,000、2,000、200)
検出器:示差屈折率検出器(Shodex社製、Shodex RI-201H)
【0150】
(2)界面活性剤の分析
オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有さない界面活性剤の分析は以下の手順で行われる。
【0151】
(2-1)定性分析
粉砕した試料Aを用いる。約1gの試料Aを採取して質量を正確に計量し、5mLのクロロホルムを加えて混合物を調製する。混合物を20±5℃にて、超音波を付与しながら、5.5時間撹拌することにより、カチオン界面活性剤を抽出する。その後、濾過により、濾液を回収するとともに、濾別した固形分および容器をクロロホルムで洗浄して、洗浄液を回収する。濾液および洗浄液を混合して、窒素ガスを用いて濃縮する。
【0152】
得られる濃縮物について、赤外分光スペクトル、紫外可視吸収スペクトル、NMRスペクトル、液体クロマトグラフ/質量分析(LC/MS)および熱分解ガスクロマトグラフ/質量分析(GC/MS)から選択される少なくとも1つから情報を得ることで、界面活性剤を特定する。なお、カチオン界面活性剤のカウンターアニオンについては、硫酸中でイオン交換される場合があるため、カウンターアニオン以外の構造について特定する。
【0153】
(2-2)定量分析
上記(2-1)の場合と同様の手順で得られる濃縮物を、溶液の体積が10mLになるまでクロロホルムを用いて希釈する。このようにして、分析用の試料(試料B)を調製する。
【0154】
試料Bを用いて、SRM(selected reaction monitoring)法を利用するLC/MS分析により、負極電極材料中の界面活性剤の含有量を定量する。より具体的には、試料BのLC/MSスペクトルを測定し、界面活性剤の特徴的な特定のピークのピーク強度から、検量線法により試料B中の界面活性剤の濃度を求める。そして、求められる濃度と、試料Bの調製の際に採取した試料Aの質量とから、負極電極材料中の界面活性剤の含有量が求められる。特定のピークのピーク強度と分析用資料中の界面活性剤の濃度との関係を示す検量線は、定性分析により特定された界面活性剤を別途用意し、この界面活性剤を用いて予め作成される。例えば、界面活性剤が塩化オクチルトリメチルアンモニウムである場合、LC/MSスペクトルのm/z=207.78に特徴的なピークが検出される。LC/MS分析は、下記の条件で行われる。
【0155】
LC/MS装置:LC部(Agilent Technologies製、1200 Series)、MS部(Agilent Technologies製 6140)
カラム:Imtakt製 Unison UK-C18 UP(内径2mm、長さ10cm)
カラム温度:50℃±1℃
移動相:第1溶液と第2溶液との混合物を用い、第1溶液と第2溶液との混合比を20:80(体積比)から0:100(体積比)に3分かけて徐々に変更し、3分後から10分後にかけては、第2溶液のみを用いる。
第1溶液=10mmol/L濃度のギ酸アンモニウムと10mmol/L濃度のギ酸とを含む水溶液
第2溶液=10mmol/L濃度のギ酸アンモニウムと10mmol/Lのギ酸とを含むメタノール溶液
流速:0.4mL/min
試料Bの注入量:1μL
検出器:MS(ESI positive)
測定モード:SCAN(質量測定範囲:m/z=100~1000)
【0156】
(3)有機防縮剤の分析
(3-1)負極電極材料中の有機防縮剤の定性分析
粉砕した試料Aを1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、有機防縮剤を抽出する。次に、抽出物から、必要に応じて、第1有機防縮剤と第2有機防縮剤とを分離する。各有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて、不溶成分を濾過で取り除き、得られた溶液を脱塩した後、濃縮し、乾燥する。脱塩は、脱塩カラムを用いて行うか、溶液をイオン交換膜に通すことにより行うか、もしくは、溶液を透析チューブに入れて蒸留水中に浸すことにより行なう。これを乾燥することにより有機防縮剤の粉末試料(以下、試料Cと称する)が得られる。
【0157】
このようにして得た有機防縮剤の試料Cを用いて測定した赤外分光スペクトル、試料Cを蒸留水等で希釈し、紫外可視吸光度計で測定した紫外可視吸収スペクトル、試料Cを重水等の所定の溶媒で溶解することにより得られる溶液のNMRスペクトル、または物質を構成している個々の化合物の情報を得ることができる熱分解GC/MSなどから得た情報を組み合わせて、有機防縮剤の種類を特定する。
【0158】
なお、上記抽出物からの第1有機防縮剤と第2有機防縮剤との分離は、次のようにして行なう。まず、上記抽出物を、赤外分光、NMR、および/またはGC/MSで測定することにより、複数種の有機防縮剤が含まれているかどうかを判断する。次いで、上記抽出物のGPC分析により分子量分布を測定し、複数種の有機防縮剤が分子量により分離可能であれば、分子量の違いに基づいて、カラムクロマトグラフィーにより有機防縮剤を分離する。分子量の違いによる分離が難しい場合には、有機防縮剤が有する官能基の種類および/または官能基の量により異なる溶解度の違いを利用して、沈殿分離法により一方の有機防縮剤を分離する。具体的には、上記抽出物をNaOH水溶液に溶解させた混合物に、硫酸水溶液を滴下して、混合物のpHを調節することにより、一方の有機防縮剤を凝集させ、分離する。分離物を再度NaOH水溶液に溶解させて得られる混合物から上記のように不溶成分を濾過により取り除く。また、一方の有機防縮剤を分離した後の残りの溶液を、濃縮する。得られた濃縮物は、他方の有機防縮剤を含んでおり、この濃縮物から上記のように不溶成分を濾過により取り除く。
【0159】
(3-2)負極電極材料中における有機防縮剤の含有量の定量
上記(3-1)と同様に、有機防縮剤を含む分離物のそれぞれについて不溶成分を濾過で取り除いた後の溶液を得る。得られた各溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定する。各有機防縮剤に特徴的なピークの強度と、予め作成した検量線とを用いて、負極電極材料中の各有機防縮剤の含有量を求める。
【0160】
なお、有機防縮剤の含有量が未知の鉛蓄電池を入手して有機防縮剤の含有量を測定する際に、有機防縮剤の構造式の厳密な特定ができないために検量線に同一の有機防縮剤が使用できないことがある。この場合には、当該電池の負極から抽出した有機防縮剤と、紫外可視吸収スペクトル、赤外分光スペクトル、およびNMRスペクトルなどが類似の形状を示す、別途入手可能な有機高分子を使用して検量線を作成することで、紫外可視吸収スペクトルを用いて有機防縮剤の含有量を測定する。
【0161】
(3-3)有機防縮剤中の硫黄元素の含有量
上記(3-1)と同様に、有機防縮剤の試料Cを得た後、酸素燃焼フラスコ法によって、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素を硫酸に変換する。このとき、吸着液を入れたフラスコ内で試料Cを燃焼させることで、硫酸イオンが吸着液に溶け込んだ溶出液を得る。次に、トリン(thorin)を指示薬として、溶出液を過塩素酸バリウムで滴定することにより、0.1gの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(c1)を求める。次に、c1を10倍して1g当たりの有機防縮剤中の硫黄元素の含有量(μmol/g)を算出する。
【0162】
(3-4)有機防縮剤のMw測定
上記(3-1)と同様に、有機防縮剤の試料Cを得た後、有機防縮剤のGPC測定を、下記の装置を用い、下記の条件で行う。別途、標準物質のMwと溶出時間のプロットから校正曲線(検量線)を作成する。この検量線および有機防縮剤のGPC測定結果に基づき、有機防縮剤のMwを算出する。
【0163】
GPC装置:ビルドアップGPCシステムSD-8022/DP-8020/AS-8020/CO-8020/UV-8020 (東ソー(株)製)
カラム:TSKgel G4000SWXL,G2000SWXL(7.8mmI.D.×30cm)(東ソー(株)製)
検出器:UV検出器、λ=210nm
溶離液:濃度1mol/LのNaCl水溶液:アセトニトリル(体積比=7:3)の混合溶液
流速:1mL/min.
濃度:10mg/mL
注入量:10μL
標準物質:ポリスチレンスルホン酸Na(Mw=275,000、35,000、12,500、7,500、5,200、1,680)
【0164】
(4)炭素質材料と硫酸バリウムの定量
粉砕した試料A10gに対し、20質量%濃度の硝酸50mlを加え、約20分加熱し、鉛成分を鉛イオンとして溶解させる。得られる溶液を濾過して、炭素質材料、硫酸バリウム等の固形分を濾別する。
【0165】
得られた固形分を水中に分散させて分散液とした後、篩いを用いて分散液から炭素質材料および硫酸バリウム以外の成分(例えば補強材)を除去する。次に、分散液に対し、予め質量を測定したメンブレンフィルタを用いて吸引ろ過を施し、濾別された試料とともにメンブレンフィルタを110℃±5℃の乾燥器で乾燥する。濾別された試料は、炭素質材料と硫酸バリウムとの混合試料である。乾燥後の混合試料(以下、試料Dと称する)とメンブレンフィルタとの合計質量からメンブレンフィルタの質量を差し引いて、試料Dの質量(M)を測定する。その後、試料Dをメンブレンフィルタとともに坩堝に入れ、1300℃以上で灼熱灰化させる。残った残渣は酸化バリウムである。酸化バリウムの質量を硫酸バリウムの質量に変換して硫酸バリウムの質量(M)を求める。質量Mから質量Mを差し引いて炭素質材料の質量を算出する。
【0166】
(その他)
負極板は、負極集電体に負極ペーストを塗布または充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、例えば、鉛粉と、有機防縮剤と、第1添加剤と、必要に応じて、炭素質材料、他の添加剤からなる群より選択される少なくとも一種とに、水および硫酸(または硫酸水溶液)を加えて混練することで作製する。熟成する際には、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0167】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0168】
(正極板)
鉛蓄電池の正極板は、ペースト式、クラッド式などに分類できる。ペースト式およびクラッド式のいずれの正極板を用いてもよい。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを具備する。クラッド式の正極板の構成は前述の通りである。
【0169】
正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛シートまたは鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工および打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0170】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、表面層を備えていてもよい。正極集電体の表面層と内側の層とは組成が異なってもよい。表面層は、正極集電体の一部に形成されていてもよい。表面層は、正極集電体の格子部分のみ、耳部分のみ、または枠骨部分のみに形成されていてもよい。
【0171】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤を含んでもよい。
【0172】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成、乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、添加剤、水、および硫酸を混練することで調製される。未化成のクラッド式正極板は、集電部で連結された芯金(spine)が挿入された多孔質なチューブに鉛粉またはスラリー状の鉛粉を充填し、複数のチューブを連座(spine protector)で結合することにより形成される。その後、これらの未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。
【0173】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0174】
(セパレータ)
負極板と正極板との間には、セパレータを配置することができる。セパレータとしては、不織布、および微多孔膜から選択される少なくとも一種などが用いられる。
【0175】
不織布は、繊維を織らずに絡み合わせたマットであり、繊維を主体とする。不織布は、例えば、不織布の60質量%以上が繊維で形成されている。繊維としては、ガラス繊維、ポリマー繊維(ポリオレフィン繊維、アクリル繊維、ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート繊維など)など)、パルプ繊維などを用いることができる。中でも、ガラス繊維が好ましい。不織布は、繊維以外の成分(例えば、耐酸性の無機粉体、結着剤としてのポリマー)を含んでもよい。
【0176】
一方、微多孔膜は、繊維成分以外を主体とする多孔性のシートであり、例えば、造孔剤含む組成物をシート状に押し出し成形した後、造孔剤を除去して細孔を形成することにより得られる。微多孔膜は、耐酸性を有する材料で構成することが好ましく、ポリマー成分を主体とする微多孔膜が好ましい。ポリマー成分としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)が好ましい。造孔剤としては、ポリマー粉末およびオイルからなる群より選択される少なくとも一種などが挙げられる。
【0177】
セパレータは、例えば、不織布のみで構成してもよく、微多孔膜のみで構成してもよい。また、セパレータは、必要に応じて、不織布と微多孔膜との積層物、異種または同種の素材を貼り合わせた物、または異種または同種の素材において凹凸をかみ合わせた物などであってもよい。
【0178】
セパレータは、シート状であってもよく、袋状に形成されていてもよい。正極板と負極板との間に1枚のシート状のセパレータを挟むように配置してもよい。また、折り曲げた状態の1枚のシート状のセパレータで極板を挟むように配置してもよい。この場合、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ正極板と、折り曲げたシート状のセパレータで挟んだ負極板とを重ねてもよく、正極板および負極板の一方を折り曲げたシート状のセパレータで挟み、他方の極板と重ねてもよい。また、シート状のセパレータを蛇腹状に折り曲げ、正極板および負極板を、これらの間にセパレータが介在するように、蛇腹状のセパレータに挟み込んでもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータを用いる場合、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が水平方向と平行になるように)セパレータを配置してもよく、鉛直方向に沿うように(例えば、折り曲げ部が鉛直方向と平行になるように)セパレータを配置してもよい。蛇腹状に折り曲げられたセパレータでは、セパレータの両方の主面側に交互に凹部が形成されることになる。正極板および負極板の上部には通常耳部が形成されているため、折り曲げ部が鉛蓄電池の水平方向に沿うようにセパレータを配置する場合、セパレータの一方の主面側の凹部のみに正極板および負極板が配置される(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、二重のセパレータが介在した状態となる)。折り曲げ部が鉛蓄電池の鉛直方向に沿うようにセパレータを配置する場合、一方の主面側の凹部に正極板を収容し、他方の主面側の凹部に負極板を収容することができる(つまり、隣接する正極板と負極板との間には、セパレータが一重に介在した状態とすることができる。)。袋状のセパレータを用いる場合、袋状のセパレータが正極板を収容していてもよいし、負極板を収容してもよい。
【0179】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液であり、必要に応じてゲル化させてもよい。電解液は、金属イオンを含んでいる。金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、およびアルミニウムイオンからなる群より選択される少なくとも一種の第1成分を含んでいる。電解液が、第1成分を含むことで、負極電極材料に含まれる第1添加剤との直接的または間接的な相互作用により、過充電電気量の低減効果および充電受入性の向上効果、さらにはPSOC寿命性能の向上効果を得ることができる。
【0180】
さらに高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保する観点からは、電解液は、リチウムイオンおよびナトリウムイオンの少なくとも一方と、アルミニウムイオンとを含んでいてもよい。この場合、過充電電気量をさらに低減することもできる。中でも、第1成分が、少なくとも、リチウムイオンおよびアルミニウムイオンを含む場合には、充電受入性をさらに向上することができるため好ましい。
【0181】
電解液中の第1成分のそれぞれの濃度は、0.35mol/L以下であればよい。より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保し易い観点からは、第1成分のそれぞれの濃度は、0.3mol/L以下または0.25mol/L以下であることが好ましく、0.2mol/L以下であってもよい。第1成分のそれぞれの濃度は、例えば、第1成分の合計濃度が0.02mol/L以上となるように決定される。第1成分のそれぞれの濃度は、例えば、0.01mol/L以上であり、0.02mol/L以上であってもよい。
【0182】
電解液中の第1成分のそれぞれの濃度は、0.01mol/L以上(または0.02mol/L以上)0.35mol/L以下、0.01mol/L以上(または0.02mol/L以上)0.3mol/L以下、0.01mol/L以上(または0.02mol/L以上)0.25mol/L以下、あるいは0.01mol/L以上(または0.02mol/L以上)0.2mol/L以下であってもよい。
【0183】
電解液中の第1成分の合計濃度は、0.02mol/L以上である。第1成分の合計濃度がこのような範囲であることで、優れた充電受入性を確保することができる。第1成分の合計濃度の上限は、個々の第1成分の濃度に応じて決定できる。より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保し易い観点からは、第1成分の合計濃度は、0.7mol/L以下が好ましく、0.5mol/L以下または0.4mol/L以下であってもよい。
【0184】
なお、負極板、正極板、およびセパレータなどの電解液以外の鉛蓄電池の構成要素に第1成分の種類と同じ金属成分(金属化合物など)が含まれている場合でも、構成要素における金属成分の含有量は少なく、電解液中の第1成分の濃度への影響は小さい。具体的には、電解液以外の構成要素に第1成分の種類と同じ金属成分(例えば、負極電極材料中のリグニンスルホン酸ナトリウム、界面活性剤としてのナトリウム塩)が含まれていても、第1成分または第1成分を生成する化合物を添加していない電解液を用いる場合には、電解液中の第1成分の合計濃度は、0.02mol/L未満(通常、0.01mol/L未満)である。
【0185】
電解液は、必要に応じて、第1成分以外のカチオン(例えば、金属カチオン)、およびアニオン(例えば、硫酸アニオン以外のアニオン(リン酸イオンなど))からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいてもよい。第1成分以外の金属カチオンを第2成分と称する場合がある。第2成分としては、例えば、マグネシウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。
【0186】
電解液中の第2成分の合計濃度は、例えば、0.01mol/L以下であってもよい。電解液が第2成分を含まない場合も好ましい。なお、電解液が第2成分を含まない場合には、電解液中の第2成分が検出限界以下である場合が包含される。
【0187】
電解液は、上記の第1添加剤を含んでもよい。
【0188】
満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、例えば、1.20以上であり、1.25以上であってもよい。電解液の20℃における比重は、1.35以下であり、1.32以下であることが好ましい。
【0189】
電解液の20℃における比重は、1.20以上1.35以下、1.20以上1.32以下、1.25以上1.35以下、または1.25以上1.32以下であってもよい。
【0190】
電解液中の第1成分および第2成分のそれぞれの濃度は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した電解液の高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分光法により求められる。より具体的には、電解液について、ICP発光分光測定装置を用いて、電解液中の金属イオンの種類を同定し、金属イオンの発光強度を測定する。この発光光度の測定値と、予め作成した検量線とから、電解液中に含まれる金属イオンの濃度を求める。ICP発光分光測定装置としては、(株)島津製作所製 ICPS-8000が用いられる。
【0191】
(その他)
鉛蓄電池は、電槽のセル室に極板群と電解液とを収容する工程を含む製造方法により得ることができる。鉛蓄電池の各セルは、各セル室に収容された極板群および電解液を備える。極板群は、セル室への収容に先立って、正極板、負極板、およびセパレータを、正極板と負極板との間にセパレータが介在するように積層することにより組み立てられる。正極板、負極板、電解液、およびセパレータは、それぞれ、極板群の組み立てに先立って、準備される。鉛蓄電池の製造方法は、極板群および電解液をセル室に収容する工程の後、必要に応じて、正極板および負極板の少なくとも一方を化成する工程を含んでもよい。
【0192】
極板群における各極板は、1枚であってもよく、2枚以上であってもよい。極板群が2枚以上の負極板を備える場合、少なくとも1枚の負極板において、負極電極材料が第1添加剤を含むという条件を充足していれば、この負極板について充電受入性の向上効果が得られるとともに、このような負極板の枚数に応じて、過充電電気量を低減する効果およびPSOC寿命性能の向上効果が得られる。過充電電気量を低く抑えながら、より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保する観点からは、極板群に含まれる負極板の枚数の50%以上(より好ましくは80%以上または90%以上)が、上記の条件を充足する負極板であることが好ましい。極板群に含まれる負極板のうち、上記の条件を充足する負極板の比率は、100%以下である。極板群に含まれる負極板の全てが、上記の条件を充足する負極板であってもよい。
【0193】
鉛蓄電池が、2つ以上のセルを有する場合には、少なくとも一部のセルの極板群が上記のような条件を充足する負極板を備えていればよい。充電受入性の低下をさらに抑制するとともに、過充電電気量の高い低減効果を確保する観点からは、鉛蓄電池に含まれるセルの個数の50%以上(より好ましくは80%以上または90%以上)が、上記の条件を充足する負極板を含む極板群を備えることが好ましい。鉛蓄電池に含まれるセルのうち、上記の条件を充足する負極板を含む極板群を備えるセルの比率は、100%以下である。鉛蓄電池に含まれる極板群の全てが、上記の条件を充足する負極板を備えることが好ましい。
【0194】
図1に、本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0195】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0196】
正極棚部5は、各正極板3の上部に設けられた耳部同士をキャストオンストラップ方式またはバーニング方式で溶接することにより形成される。負極棚部6も、正極棚部5の場合に準じて各負極板2の上部に設けられた耳部同士を溶接することにより形成される。
【0197】
なお、鉛蓄電池の蓋15は、一重構造(単蓋)であるが、図示例の場合に限らない。蓋15は、例えば、中蓋と外蓋(または上蓋)とを備える二重構造を有してもよい。二重構造を有する蓋は、中蓋と外蓋との間に、中蓋に設けられた還流口から電解液を電池内(中蓋の内側)に戻すための還流構造を備えてもよい。
【0198】
本明細書中、過充電電気量、PSOC寿命性能、および充電受入性のそれぞれは、以下の手順で評価される。評価に用いられる試験電池の定格電圧は、2V/セル、定格5時間率容量は32Ahである。
【0199】
(a)過充電電気量
上記試験電池を用いて、以下の条件で過充電電気量の評価を行う。
JIS D5301:2019に指定される通常の4分-10分試験よりも過充電条件にするために、放電1分-充電10分の試験(1分-10分試験)を75℃±3℃で実施する(高温軽負荷試験)。高温軽負荷試験では充放電を1220サイクル繰り返す。1220サイクルまでの各サイクルにおける過充電電気量(充電電気量-放電電気量)を合計し、平均化することにより1サイクル当たりの過充電電気量(Ah)を求める。
放電:25A、1分
充電:2.47V/セル、25A、10分
水槽温度:75℃±3℃
【0200】
(b)PSOC寿命性能
上記鉛蓄電池を用いて、表1に示すパターンで、充放電を行なう。端子電圧が単セル当たり1.2Vに到達するまでのサイクル数をPSOC寿命性能の指標とする。
【0201】
【表1】
【0202】
(c)充電受入性
満充電状態の試験電池を用いて、10秒目電気量を測定する。具体的には、試験電池を、6.4Aで30分放電し、16時間放置する。その後、電流の上限を200Aとし2.42V/セルで、試験電池を定電圧充電し、このときの10秒間の積算電気量(10秒目電気量)を測定する。いずれの作業も、25℃±2℃の水槽中で行う。10秒間の積算電気量を充電受入性の評価の指標とする。

【0203】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池を以下にまとめて記載する。
【0204】
(1)鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、極板群および電解液を備える少なくとも1つのセルを備え、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記負極板および前記正極板の間に介在するセパレータとを備え、
前記負極板は、負極電極材料を備え、
前記負極電極材料は、界面活性剤およびオキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するポリマー化合物からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤(第1添加剤)と、有機防縮剤とを含み、
前記電解液は、金属イオンを含み、
前記金属イオンは、リチウムイオン、ナトリウムイオン、およびアルミニウムイオンからなる群より選択される少なくとも一種の成分(第1成分)を含み、
前記電解液中の前記成分の合計濃度は、0.02mol/L以上であり、
前記電解液中の前記成分のそれぞれの濃度は、0.35mol/L以下である、鉛蓄電池。
【0205】
(2)上記(1)において、前記第1成分のそれぞれの濃度は、0.3mol/L以下、0.25mol/L以下または0.2mol/L以下であってもよい。
【0206】
(3)上記(1)または(2)において、前記第1成分のそれぞれの濃度は、0.01mol/L以上、または0.02mol/L以上であってもよい。
【0207】
(4)上記(1)~(3)のいずれか1つにおいて、前記第1成分の合計濃度は、0.7mol/L以下、0.5mol/L以下、または0.4mol/L以下であってもよい。
【0208】
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つにおいて、前記第1成分は、リチウムイオンおよびナトリウムイオンの少なくとも一方と、アルミニウムイオンとを含んでもよい。
【0209】
(6)上記(1)~(5)のいずれか1つにおいて、前記第1成分は、少なくとも、リチウムイオンおよびアルミニウムイオンを含んでもよい。
【0210】
(7)上記(1)~(6)のいずれか1つにおいて、前記第1添加剤は、前記ポリマー化合物(オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するノニオン界面活性剤も含む)を含み、
前記ポリマー化合物は、Mnが、500万以下、100万以下、10万以下、50000以下、20000以下、10000以下、9000以下、または8000以下である化合物を含んでもよい。
【0211】
(8)上記(7)において、前記化合物のMnは、300以上、400以上、500以上、1000以上、または1500以上であってもよい。
【0212】
(9)上記(1)~(8)のいずれか1つにおいて、前記第1添加剤は、オキシC2-4アルキレンユニットの繰り返し構造を有するヒドロキシ化合物、前記ヒドロキシ化合物のエーテル化物、および前記ヒドロキシ化合物のエステル化物からなる群より選択される少なくとも一種を含み、
前記ヒドロキシ化合物は、ポリC2-4アルキレングリコール、オキシC2-4アルキレンの繰り返し構造を含む共重合体、およびポリオールのポリC2-4アルキレンオキサイド付加物からなる群より選択される少なくとも一種であってもよい。
【0213】
(10)上記(1)~(9)のいずれか1つにおいて、前記第1添加剤は、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有する化合物(ポリマー化合物)を含んでもよい。
【0214】
(11)上記(10)において、前記化合物(ポリマー化合物)の数平均分子量は、1000以上10000以下、1500以上10000以下であってもよい。
【0215】
(12)上記(10)または(11)において、前記ポリマー化合物は、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレン共重合体(ポリオキシプロピレン-ポリオキシエチレンブロック共重合体など)、ポリプロピレングリコールアルキルエーテル(上記Rが炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(メチルエーテル、エチルエーテル、ブチルエーテルなど)など)、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンアルキルエーテル(上記Rが炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるアルキルエーテル(ブチルエーテル、ヒドロキシヘキシルエーテルなど)など)、カルボン酸ポリプロピレングリコール(上記Rが炭素数10以下(あるいは8以下または6以下)のアルキルであるカルボン酸ポリプロピレングリコール(酢酸ポリプロピレングリコールなど)など)、およびトリオール以上のポリオールのポリプロピレンオキサイド付加物(グリセリンのポリプロピレンオキサイド付加物など)からなる群より選択される少なくとも一種を含んでもよい。
【0216】
(13)上記(10)~(12)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物における前記オキシプロピレンユニットの割合は、5mol%以上、10mol%以上または20mol%以上であってもよい。
【0217】
(14)上記(10)~(13)のいずれか1つにおいて、前記ポリマー化合物における前記オキシプロピレンユニットの割合は、100mol%以下であってもよい。
【0218】
(15)上記(10)~(14)のいずれか1つにおいて、前記化合物(ポリマー化合物)は、オキシエチレンユニットの繰り返し構造を含まなくてもよい。
【0219】
(16)上記(1)~(15)のいずれか1つにおいて、前記第1添加剤(中でも、界面活性剤)は、硫黄元素を含まないことが好ましい。
【0220】
(17)上記(1)~(16)のいずれか1つにおいて、前記界面活性剤は、カチオン界面活性剤を含んでもよい。
【0221】
(18)上記(17)において、前記カチオン界面活性剤は、第4級アンモニウム塩を含んでもよい。
【0222】
(19)上記(1)~(18)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、炭素質材料を含み、
前記第1添加剤は、少なくとも1つ以上の疎水性基と親水性基とを有し、
前記疎水性基の少なくとも1つは、炭素数が8以上の長鎖脂肪族炭化水素基であってもよい。
【0223】
(20)上記(19)において、前記長鎖脂肪族炭化水素基の炭素数は、30以下、26以下、24以下、または22以下であってもよい。
【0224】
(21)上記(1)~(18)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、さらに炭素質材料を含んでもよい。
【0225】
(22)上記(19)~(21)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、0.05質量%以上、または0.10質量%以上であってもよい。
【0226】
(23)上記(19)~(22)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記炭素質材料の含有量は、5質量%以下、または3質量%以下であってもよい。
【0227】
(24)上記(1)~(23)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1添加剤の含有量は、質量基準で、8ppm以上、10ppm以上、50ppm以上、100ppm以上、300ppm以上、または400ppm以上であってもよい。
【0228】
(25)上記(1)~(24)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記第1添加剤の含有量は、質量基準で、10000ppm以下、6000ppm以下、5000ppm以下、1000ppm以下、または700ppm以下であってもよい。
【0229】
(26)上記(1)~(25)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量は、0.005質量%以上、または0.01質量%以上であってもよい。
【0230】
(27)上記(1)~(26)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料中の前記有機防縮剤の含有量は、1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.3質量%以下、0.25質量%以下、または0.2質量%以下であってもよい。
【0231】
(28)上記(1)~(27)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤(または前記負極電極材料)は、硫黄元素含有量が2000μmol/g以上または3000μmol/g以上の第1有機防縮剤を含んでもよい。
【0232】
(29)上記(28)において、前記第1有機防縮剤の硫黄元素含有量は、9000μmol/g以下、または8000μmol/g以下であってもよい。
【0233】
(30)上記(28)または(29)において、前記第1有機防縮剤のMwは、7000以上であってもよい。
【0234】
(31)上記(28)~(30)のいずれか1つにおいて、前記第1有機防縮剤のMwは、100,000以下、または20,000以下であってもよい。
【0235】
(32)上記(1)~(31)のいずれか1つにおいて、前記有機防縮剤(または第1有機防縮剤)は、ビスアレーン化合物の縮合物を含んでもよい。
【0236】
(33)上記(1)~(32)のいずれか1つにおいて、前記負極電極材料は、さらに硫酸バリウムを含んでもよい。
【0237】
(34)上記(33)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、0.05質量%以上、または0.10質量%以上であってもよい。
【0238】
(35)上記(34)において、前記負極電極材料中の前記硫酸バリウムの含有量は、3質量%以下、または2質量%以下であってもよい。
【0239】
(36)上記(1)~(35)のいずれか1つにおいて 満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.20以上または1.25以上であってもよい。
【0240】
(37)上記(1)~(36)のいずれか1つにおいて、満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.35以下または1.32以下であってもよい。
【0241】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0242】
《鉛蓄電池E1~E40、C1~C4、およびR1~R4》
(1)鉛蓄電池の準備
(a)負極板の作製
原料の鉛粉と、硫酸バリウムと、カーボンブラックと、表2~表4に示す第1添加剤と、表2~表4に示す有機防縮剤とを、適量の硫酸水溶液と混合して、負極ペーストを得る。このとき、いずれも既述の手順で求められる、負極電極材料中の第1添加剤および有機防縮剤の含有量が表2~表4に示す値となるとともに、硫酸バリウムの含有量が0.4質量%、カーボンブラックの含有量が0.2質量%となるように各成分を混合する。負極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の負極板を得る。
【0243】
表に示す有機防縮剤としては、下記の成分が用いられる。
(e1)リグニン:リグニンスルホン酸ナトリウム(硫黄元素含有量600μmol/g、Mw5500)
(e2)ビスフェノール縮合物:スルホン酸基を導入したビスフェノール化合物のホルムアルデヒドによる縮合物(硫黄元素含有量4000μmol/g、Mw8000)
【0244】
(b)正極板の作製
原料の鉛粉を硫酸水溶液と混合して、正極ペーストを得る。正極ペーストを、Pb-Ca-Sn合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成乾燥し、未化成の正極板を得る。
【0245】
(c)鉛蓄電池の作製
鉛蓄電池は定格電圧2V/セル、定格5時間率容量は32Ahである。試験電池の極板群は、正極板7枚と負極板7枚で構成する。負極板はポリエチレン製の微多孔膜で形成された袋状セパレータに収容し、正極板と交互に積層し、極板群を形成する。極板群をポリプロピレン製の電槽に電解液とともに収容して、電槽内で化成を施し、液式の鉛蓄電池を作製する。満充電状態の鉛蓄電池における電解液の20℃における比重は、1.28である。電解液としては、表2~表4に示す第1成分に対応する金属硫酸塩を含む硫酸水溶液が用いられる。金属硫酸塩の添加量は、既述の手順で求められる第1成分のそれぞれの濃度が表2~表4に示される値となるように調節される。
【0246】
ただし、表中のNaイオンの濃度が<0.01mol/Lの場合は、Naイオンは負極電極材料に用いたリグニンスルホン酸ナトリウムに由来し、<0.002mol/Lの場合は、Naイオンは、第1添加剤に由来する。これらの場合には、電解液は、硫酸ナトリウムを添加することなく調製される。
【0247】
(2)評価
(a)過充電電気量
上記鉛蓄電池を用いて、既述の手順で1サイクル当たりの過充電電気量(Ah)を求める。鉛蓄電池C1の1サイクル当たりの過充電電気量(Ah)を100としたときの比率(%)で、各鉛蓄電池の過充電電気量を評価する。
【0248】
(b)PSOC寿命性能
上記鉛蓄電池を用いて、既述の手順で、PSOC寿命性能を評価する。各鉛蓄電池のPSOC寿命性能は、鉛蓄電池C1の結果を100としたときの比率(%)で表す。
【0249】
(c)充電受入性
満充電後の上記鉛蓄電池を用いて、既述の手順で充電受入性を評価する。各鉛蓄電池の充電受入性は、鉛蓄電池C1の積算電気量を100としたときの比率(%)で充電受入性を評価する。
【0250】
結果を表2~表4に示す。なお、ポリプロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのMnは既述の手順で求められるMnである。表2中、エステル化物のMnは、負極電極材料の調製に使用されるエステル化物のMnである。鉛蓄電池E1~E40は実施例である。鉛蓄電池C1~C4は比較例である。鉛蓄電池R1~R4は参考例である。
【0251】
【表2】
【0252】
表2に示されるように、第1成分を0.02mol/L以上の合計濃度で含む電解液を用いる場合でも、有機防縮剤を含むが、第1添加剤を含まない負極電極材料を備える負極板と組み合わせると、充電受入性は向上するが、過充電電気量は低減できない(C1とC2との比較)。鉛蓄電池が、有機防縮剤および第1添加剤を含む負極電極材料を備える場合でも、電解液が第1成分を0.02mol/L以上の合計濃度で含まない場合には、過充電電気量を低減できるが、充電受入性が低下する(C1とR1との比較)。これらの結果に対し、有機防縮剤および第1添加剤を含む負極電極材料を備える負極板と、第1成分を0.02mol/L以上の合計濃度で含む電解液とを組み合わせると、過充電電気量を低減しながら、充電受入性を大きく向上できる(C1、C2およびR1と、E1との比較)。また、E1では、PSOC寿命も大きく向上できる。
【0253】
C1、C2およびR1から、電解液が第1成分を0.02mol/L以上の合計濃度で含むことにより、充電受入性は12%向上し、過充電電気量は変化なく、PSOC寿命性能は54%向上している。また、負極電極材料が有機防縮剤に加え第1添加剤を含むことにより、充電受入性は35%低下し、過充電電気量は25%低減され、PSOC寿命性能は10%向上している。これらの結果から、第1成分を0.02mol/L以上の合計濃度で含む電解液と、有機防縮剤および第1添加剤を含む負極電極材料を備える負極板とを組み合わせた場合、充電受入性は77%(=100+12-35)、過充電電気量は75%(=100+0-25)、PSOC寿命性能は164%(=100+54+10)になると予想される。ところが実際にE1では、充電受入性は121%であり、過充電電気量は65%であり、PSOC寿命性能は184%である。このようなE1の結果は、C1、C2およびR1から予想されるよりも格段に優れており、電解液と負極板との組み合わせにより、相乗効果が得られていることが分かる。
【0254】
C3、C4およびR2と、E2との関係においても上記と同様であり、合成有機防縮剤の場合にも、充電受入性およびPSOC寿命性能の向上、ならびに過充電電気量の低減のいずれにおいても、相乗効果が得られる。
【0255】
また、第1添加剤としてポリプロピレングリコールを用いた場合だけでなく、ポリエチレングリコール、エステル化物、または界面活性剤を用いた場合にも、E2の結果と同様のまたは類似の効果が得られる(E5~E11)。
【0256】
より高い充電受入性およびPSOC寿命性能、ならびにより低い過充電電気量を確保し易い観点からは、第1添加剤は、硫黄元素を含まないことが好ましく、カチオン界面活性剤を用いることが好ましい(E8~E9とE1~E7との比較)。同様の観点から、オキシプロピレンユニットの繰り返し構造を有する化合物を含む第1添加剤を用いることが好ましく、このような化合物はオキシエチレンユニットの繰り返し構造を含まないことがより好ましい(E5とE2~E4との比較)。
【0257】
より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保し易い観点からは、界面活性剤が有する疎水性基の少なくとも1つは、炭素数が8以上の長鎖脂肪族炭化水素基であることが好ましい(E6とE7との比較)。
【0258】
【表3】
【0259】
表3に示されるように、負極電極材料中の第1添加剤の含有量を変更しても、優れた効果が得られる。より高い効果が得られる観点からは、第1添加剤の含有量は、10ppm以上(または50ppm以上)10000ppm以下が好ましく、100ppm以上8000ppm以下であってもよい。
【0260】
【表4】
【0261】
表4に示されるように、電解液中の第1成分の合計濃度が0.02mol/L未満では、充電受入性の向上効果がほとんど得られない(R3およびR4)。それに対し、電解液中の第1成分の合計濃度が0.02mol/L以上では、充電受入性およびPSOC寿命性能が大幅に向上する(R3およびR4と、E2およびE15~E40との比較)。過充電電気量をさらに低減し易い観点からは、電解液中の第1成分のそれぞれの濃度は、0.35mol/L以下であり、0.3mol/L以下が好ましく、0.25mol/L以下または0.2mol/L以下がより好ましい。
【0262】
より高い充電受入性およびPSOC寿命性能を確保できる観点からは、第1成分は、LiイオンおよびNaイオンの少なくとも一方と、Alイオンとを含むことが好ましい(E15~E18とE2およびE20~E34との比較、E36~E38とE39およびE40との比較)。この場合、過充電電気量をさらに低く抑えることもできる。
【0263】
より高い充電受入性を確保する観点からは、第1成分は、LiイオンとAlイオンとを少なくとも含むことが好ましい(E15、E17、E18、E20およびE2と、E36~E40との比較)。
【産業上の利用可能性】
【0264】
本発明の一側面に係る鉛蓄電池は、例えば、PSOC条件下で充放電されるIS用鉛蓄電池としてアイドリングストップ車に用いるのに適している。また、鉛蓄電池は、例えば、車両(自動車、バイクなど)の始動用電源、産業用蓄電装置(例えば、電動車両(フォークリフトなど)などの電源)として好適に利用できる。なお、これらは単なる例示であり、鉛蓄電池の用途はこれらに限定されない。
【符号の説明】
【0265】
1:鉛蓄電池
2:負極板
3:正極板
4:セパレータ
5:正極棚部
6:負極棚部
7:正極柱
8:貫通接続体
9:負極柱
11:極板群
12:電槽
13:隔壁
14:セル室
15:蓋
16:負極端子
17:正極端子
18:液口栓
図1