IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

7661991太陽光発電パネル構造体及びそのための補強板
<>
  • -太陽光発電パネル構造体及びそのための補強板 図1
  • -太陽光発電パネル構造体及びそのための補強板 図2
  • -太陽光発電パネル構造体及びそのための補強板 図3
  • -太陽光発電パネル構造体及びそのための補強板 図4
  • -太陽光発電パネル構造体及びそのための補強板 図5
  • -太陽光発電パネル構造体及びそのための補強板 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】太陽光発電パネル構造体及びそのための補強板
(51)【国際特許分類】
   E04D 13/18 20180101AFI20250408BHJP
   H02S 20/23 20140101ALI20250408BHJP
   E04D 3/40 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
E04D13/18 ETD
H02S20/23 A
E04D3/40 V
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023033269
(22)【出願日】2023-03-04
(65)【公開番号】P2024125245
(43)【公開日】2024-09-17
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 広幸
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 清人
(72)【発明者】
【氏名】岩本 昭一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏祐
【審査官】眞壁 隆一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-186585(JP,A)
【文献】特開2019-31896(JP,A)
【文献】特開平11-350687(JP,A)
【文献】特開平11-323973(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/97134(US,A1)
【文献】実開昭59-4954(JP,U)
【文献】中国実用新案第214364468(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 13/18
E04D 3/40
H02S 20/00 - 20/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽光発電パネルに補強板が積層されて固定された太陽光発電パネル構造体であって、前記補強板が、その面に沿って延在する複数条の切り起こしビードを有し、前記切り起こしビードの延在方向が湾曲している構造体。
【請求項2】
請求項1の構造体であって、複数条の前記切り起こしビードが円又は楕円上に沿って配置されている構造体。
【請求項3】
請求項1の構造体であって、複数条の前記切り起こしビードが互いに交差しないように延在している構造体
【請求項4】
請求項3のいずれかの構造体であって、複数条の前記切り起こしビードが前記補強板の面内に於ける縦方向又は横方向に沿って隣接して延在している構造体。
【請求項5】
太陽光発電パネルに積層されて固定される補強板であって、その面に沿って延在する複数条の切り起こしビードを有し、前記切り起こしビードの延在方向が湾曲している補強板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池セルが配列されてなる太陽電池モジュールが板状のパネル部材上に形成された太陽光発電パネルに係り、より詳細には、太陽光発電パネルの耐衝撃性或いは耐荷重性を向上する補強板と、それが太陽光発電パネルに備えられてなる太陽光発電パネル構造体に係る。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電の普及に伴い、太陽光が照射される建物や移動体など(建物等)の屋根の上など、種々の場所に太陽光発電パネルが配置されるようになっている。太陽光発電パネルは、通常、屋外に設置されるので、その設置の際に受け得る外力に対する抵抗性を考慮して太陽光発電パネルを設置する種々の構成が提案されている。例えば、特許文献1では、軽量で耐衝撃性能が向上された太陽電池パネルが屋根上に置かれた梁の上に載置される構成が開示されている。特許文献2では、太陽電池モジュールが、設置場所の状況に見合う耐荷重性を持つように、太陽電池パネルの外縁に平行な長尺形状をなし、外縁の側方にて立てられた側面部を含み、太陽電池パネルの外縁を保持する保持フレームと、側面部よりも太陽電池パネルの側において保持フレームへ着脱可能に嵌合されて保持フレームを補強する補強部品とを備えるように構成され、太陽電池モジュールの底側に配置され屋根上に配置される梁状の支持ラックが保持フレームに対して補強部品を介して固定金具により係合されている構成が開示されている。特許文献3では、太陽電池パネルと太陽電池パネルの外縁を保持するフレームを支持する支持体である縦桟が屋根の上に載置され、縦桟にフレームを固定する固定部品である固定金具が、縦桟から取り外されているときには、フレームに設けられているレール溝に沿ってレール溝に嵌め合わせられた状態でスライド可能となり、フレームがその高さに関わらず支持体へ容易に固定することができる太陽電池モジュールの構成が開示されている。そして、特許文献4には、屋根材として軽量気泡コンクリート(ALC)パネルが用いられた建物の屋根に、太陽電池モジュールを設置する際に、ALCパネルを支える梁の上に支柱を立て、その上に、太陽電池モジュールの固定される桟を配置する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2022-82923
【文献】特開2019-143306
【文献】特開2021-90251
【文献】特開2020-165233
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の如き太陽光発電パネルが設置される建物等の屋根には、その種類によって載置可能な重量の制限があるので、太陽光発電パネルとそれを設置するための構造体(太陽光発電パネル構造体)の重量は、できるだけ軽量であることが好ましい。一方、屋外に設置される太陽光発電パネルは、降雹などによる落下物による局所的な衝撃荷重或いは風雪による分布荷重に対する十分な耐性(耐衝撃性或いは耐荷重性)を有していることが好ましいので、かかる耐衝撃性或いは耐荷重性を向上するための手法として、面剛性を有する板状部材(補強板)を太陽光発電パネルに積層又は貼着して、太陽光発電パネルを補強する構成が用いられる。その際、補強板の面剛性を高めるために、単に補強板の厚みを増大すると、太陽光発電パネル構造体の重量が増大してしまうこととなる。従って、できるだけ多くの種類の建物等の屋根の上に太陽光発電パネルを設置できるようにするために、太陽光発電パネル構造体の重量をできるだけ増大せずに、太陽光発電パネル構造体又は補強板の面剛性を向上できると有利である。
【0005】
ところで、一般に太陽光発電パネル構造体の如き板状部材の任意の位置に印加された荷重pと、その荷重による板状部材の撓み量wとの関係は、平面板の曲げ理論によれば、
p=D・∇w …(1)
により与えられる。ここで、▽は、∂4/∂x4+2∂4/∂x2∂y2+∂4/∂y4であり、Dは、板状部材の曲げ剛性率である。ここで、曲げ剛性率Dは、縦弾性率E、ポアソン比ν、板厚tを用いて、
D=E・t/{12(1-ν)} …(2a)
又は、剪断弾性率G、ポアソン比ν、板厚tを用いて、
D=G・t/{6(1-ν)} …(2b)
により表わされるので、ポアソン比νを低減できれば、Dを大きくすることが可能となる(板厚tを増大しても、Dは増大するが、板状部材の重量が増大してしまう。)。そして、曲げ剛性率Dが大きいほど、荷重pに対する撓みを小さくできることとなり(Dが大きいほど、荷重pによるエネルギーが貯蔵弾性エネルギーとなり、パネル状部材の撓みは低減する。)、板状部材の面剛性が増大し、板状部材の破壊が発生し難くなる。即ち、太陽光発電パネルを補強板で補強する際に、補強板として、板厚tを増大せずに、ポアソン比νが低減された部材を採用すれば、太陽光発電パネル構造体の重量の増大をできるだけ抑えて、太陽光発電パネルの耐衝撃性或いは耐荷重性を向上できることとなる。本発明に於いては、この知見が利用される。
【0006】
かくして、本発明の主な課題は、太陽光発電パネル構造体の重量をできるだけ増大せずに、太陽光発電パネル構造体又は補強板の面剛性を高め、太陽光発電パネルの耐衝撃性或いは耐荷重性を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記の課題は、太陽光発電パネルに補強板が積層されて固定された太陽光発電パネル構造体であって、前記補強板が、その面に沿って延在する複数条の切り起こしビードを有し、前記切り起こしビードの延在方向が湾曲している構造体によって達成される。
【0008】
上記に於いて、「太陽光発電パネル」は、既に触れられている如く、複数枚の太陽電池セルが板状のパネル部材上にて縦方向又は横方向に並列されてなる太陽電池モジュールが載置されたパネルであってよい。太陽電池セルの各々は、概ね矩形の板状形状を有し、太陽光発電パネルの形状は、概ね矩形の平板状であってよいが、これに限定されない。「補強板」は、任意の金属材料又は樹脂材料等にて形成された薄板であってよく、太陽光発電パネルのパネル部材の裏面(太陽電池セルが貼着された面と反対の面)に積層され、ねじ止めにより又は接着剤による接着により固定されてよい。「切り起こしビード」とは、補強板の面上に線状に延在する打ち抜き孔又は貫通孔の縁が曲げ加工により補強板の面に垂直な方向に曲げられて形成されたビード(凸型の突起)である。
【0009】
そして、特に、上記の本発明の構造体に於いては、補強板に於いて複数条の切り起こしビードが設けられており、且つ、切り起こしビードの各々は、その延在方向が湾曲するように、即ち、ビードの接線方向が徐々に変化するように形成される。かかる構成によれば、まず、補強板を貫通する孔である切り起こしビードが設けられていることから、太陽光発電パネルの面に垂直な方向に作用する荷重成分(垂直荷重成分)に対し、補強板の面から突出したビードの存在により構造体の曲げに対する剛性が付与され、それだけではなく、ビードの開孔した孔の部分が補強板の面方向の歪みを吸収し、構造体の(みかけの)ポアソン比が低減され、上記の式(2a)又は(2b)から理解される如く、曲げ剛性率が高くなるので、太陽光発電パネルに於ける垂直荷重成分に対する撓みが低減されることとなる。また、切り起こしビードの場合、補強板に於いて肉抜きされていることとなるので、もしビードが一定の方向に延在している場合には、その延在方向周りの捩れに対して脆弱になるところ、本発明の場合には、ビードは、その延在方向が徐々に変化するように湾曲していることから、特定の方向の捩れに対して脆弱になるといったことが回避されるよう構成されている。かくして、本発明の構成に於いては、延在方向が湾曲した切り起こしビードが形成された補強板が太陽光発電パネルに裏当てされることで、補強板の厚み、即ち、重量を増大せずに、太陽光発電パネルの耐衝撃性或いは耐荷重性が向上されることとなる。なお、上記の作用効果を得るために、切り起こしビードは、補強板に於いて、円弧、放物線、双曲線など、任意の曲線を描くように形成されていてよい。
【0010】
上記の本発明の構造体に於いて、より具体的には、複数条の切り起こしビードは、補強板上で、概ね円又は楕円に沿って延在するように配置されていてよい。かかる構成によれば、複数条の切り起こしビードが配置されている領域に於いて、ポアソン比が略均等に低減されると共に、捩れに対して脆弱となる方向が均等に分散されて、いずれかの方向に局所的に捩れに対して脆弱になることが回避されるので、これにより、複数条の切り起こしビードが配置されている領域に於いて、太陽光発電パネルの面に於ける概ね全方向に対して均等に面剛性が増大し、耐衝撃性或いは耐荷重性が向上されることとなる。この点に関し、後述の図面にも描かれている如く、切り起こしビードの描く複数個の円又は楕円が、補強板の全域に亙って配置されるように、そして、切り起こしビードの描く複数個の円又は楕円が互いに交差するように、複数条の切り起こしビードが配列されていてよい。
【0011】
また、上記の湾曲した切り起こしビードは、太陽光発電パネル上に並置されている太陽電池セルの各々の任意の対角に位置する二つの角部に対応する部位間に延在するよう形成されていてよい。湾曲した切り起こしビードが延在している領域は、曲げ剛性が向上するところ、各太陽電池セルの任意の対角に位置する二つの角部間に対応して切り起こしビードが延在することで、各太陽電池セルの設置された領域に於ける耐衝撃性或いは耐荷重性が向上されることとなる。
【0012】
なお、上記の補強板上に設けられる複数条の切り起こしビードの貫通孔は、互いに交差しないように延在していることが好ましい。上記の如く、各切り起こしビードの部分は、肉抜きされているところ、二つ以上の切り起こしビード、即ち、線状の貫通孔が交差すると、その交差部位の剛性が低下することとなる。従って、好適には、各切り起こしビードの両端間が別のビードを横切らないように、互いに交差しないように形成される。例えば、或る一つのビード、即ち、線状の貫通孔、の延在方向の先に、別のビードが存在する場合には、一つのビードの端は、別のビードに到達する手前に形成されることが好ましい。
【0013】
上記の本発明の構成に於いて、複数条の切り起こしビードは、補強板の面内に於ける縦方向又は横方向に沿って隣接して延在するように形成されてよい。これにより、補強板のできるだけ広い範囲にて、曲げ剛性が高められることとなる。
【0014】
上記まで説明から理解される如く、本発明の課題は、上記の如き湾曲した切り起こしビードの形成された補強板を太陽光発電パネルに裏当てすることにより達成される。従って、本発明のもう一つの態様に於いて、太陽光発電パネルに積層されて固定される補強板であって、その面に沿って延在する複数条の切り起こしビードを有し、前記切り起こしビードの延在方向が湾曲している補強板が提供される。かかる補強板に於いても、上記の太陽光発電パネル構造体に用いられている補強板に於ける種々の特徴的な構成が具備されていてよい。
【発明の効果】
【0015】
かくして、上記の本発明によれば、複数条の切り起こしビードの形成された補強板にてより太陽光発電パネルを補強することにより、太陽光発電パネルの耐衝撃性或いは耐荷重性が向上される。ここに於いて、補強板の垂直荷重に対する撓みを低減する曲げ剛性を高めるために、線状の打ち抜き孔又は貫通孔である切り起こしビードを形成することにより、補強板のポアソン比を低減する手法を用いているので、補強板の重量ができるだけ軽量にして、曲げ剛性が高められることとなり、これにより、重量の増大をできるだけ抑制しながら、太陽光発電パネル構造体の耐衝撃性又は耐荷重性の向上が図られることとなる。本発明の構成によれば、太陽光発電パネル構造体の重量の増大が抑制されることで、より多くの種類の建物等の屋根上に、太陽光発電パネルが設置可能となることが期待される。
【0016】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(A)は、建物等の屋根上に設置される本実施形態による太陽光発電パネルに補強板が裏当てされた太陽光発電パネル構造体を設置する際の様子を表わした模式的斜視図であり、図1(B)は、図1(A)中の(B)が付された枠内の拡大図である。
図2図2(A)は、本実施形態による太陽光発電パネル構造体に於ける補強板の模式的な斜視図であり、線l-m-nに於いて破断して描かれている。図2(B)は、図2(A)中の線l-m-n近傍の拡大斜視図である。図2(C)は、切り起こしビードの模式的な断面図である。
図3図3(A)は、本実施形態による太陽光発電パネル構造体に於ける補強板の模式的な平面図であり、図3(B)は、図3(A)のXが付された枠内の補強板の拡大平面図である。
図4図4(A)~(C)は、補強板に於いて形成された切り起こしビードに於いて発生し易い捩れの向きを説明する補強板の一部の模式的な平面図である。(A)、(B)は、切り起こしビードが直線状に形成された場合であり、(C)は、本実施形態の教示に従い、切り起こしビードが湾曲して形成された場合である。
図5図5(A)、(B)は、本実施形態による太陽光発電パネル構造体に於ける補強板の別の態様の模式的な平面図である。図5(C)は、補強板上の切り起こしビードの延在方向の向きが変更可能であることを説明する図である。
図6図6(A)~(B)は、シミュレーションによる太陽光発電パネルに強制的な点状変位を与えた際の撓み変形の分布を等高線にて表わした太陽光発電パネルの平面図である。(A)は、ビードのない補強板が適用された場合と同じ厚みの太陽光発電パネル構造体の場合であり、(B)は、本実施形態による補強板が適用された太陽光発電パネル構造体の場合である。
【符号の説明】
【0018】
1…太陽光発電パネル構造体,2…太陽光発電パネル,3…パネル部材,4…太陽電池セル,5…補強板,5a…切り起こしビード,5o…貫通孔,5e…ビード縁,6…留めネジ、6h…ネジ用孔,7…ブシュ,R…建物等の屋根面
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に添付の図を参照しつつ、本発明を幾つかの好ましい実施形態について詳細に説明する。図中、同一の符号は、同一の部位を示す。
【0020】
太陽光発電パネル構造体の構成
図1(A)、(B)に模式的に描かれている如く、本実施形態による太陽光発電パネル構造体1は、典型的には、建物等の屋根面R上に設置される。太陽光発電パネル構造体1は、板状のパネル部材3上に於いて、その縦方向或いは横方向に沿って、複数の概ね四角形状の太陽電池セル4が並置された太陽光発電パネル2と、それに裏当てされた補強板5とを含む。ここに於いて、補強板5は、太陽光発電パネル2に対して接着剤により接着されてもよく、図示の如く適当な間隔に配置される留めネジ6を用いて固定されてもよい。その場合、ネジ6は、太陽光発電パネル2と補強板5とのそれぞれに(線pに沿って)穿孔されたネジ孔6hを貫通して、好適には、任意の弾性材製であってよいブシュ7を介して、太陽光発電パネル2と補強板5とを屋根面R上に固定するようになっていてよい。パネル部材3と補強板5とは、この分野で利用される通常の金属製板材又は硬質の樹脂製板材から形成されてよい。
【0021】
補強板の構成
補強板5は、太陽光発電パネル2の降雹等による点状の衝撃荷重や風雪による分布荷重に対する抵抗性を向上するために太陽光発電パネル2の裏面に積層される。そして、特に、本実施形態による補強板5には、図2(A)、(B)によりよく描かれているように、複数条の湾曲した切り起こしビード5aが形成される。切り起こしビード5aとは、より具体的には、図2(B)、(C)から理解される如く、補強板5に形成された線状の貫通孔5oであって、各孔の縁5eが曲げ加工により、補強板5の一方の側(通常、太陽光発電パネル2とは反対の側)に突出した形状を有するビードである。貫通孔5oの幅、縁5eの突出高さは、適合により決定されてよい。かかる切り起こしビード5aは、典型的には、図3(A)に描かれている如く、補強板5にて、その略全域を均等に網羅するように形成されていてよい(同図に於いては、切り起こしビード5aと太陽光発電パネル2上の太陽電池セル4との位置関係を示すために、各太陽電池セル4の輪郭が点線にて描かれている。)。
【0022】
上記の如き切り起こしビード5a(以下、単に「ビード」と称する。)が形成されていると、その領域に於いて、まず、ビード5aの延在方向に対して垂直な方向の曲げに対する剛性が向上されることとなる。また、ビード5aは、打ち抜き孔又は貫通孔の構造であるので、補強板5の面の法線方向の成分を含む荷重が作用した際、ビード5aが延在している領域では、補強板5の面方向の歪みが貫通孔部分で吸収され、構造体1のポアソン比が低減されることとなり、上記の式(2a)、(2b)で示されている如く、曲げ剛性率が更に増大することとなる。そうすると、ビード5aが延在している領域に於いて、曲げ剛性率の増大に対応して、補強板5の面の法線方向の荷重成分のエネルギーを貯蔵弾性エネルギーとして吸収する割合が増大し、面の撓み(面に垂直な方向の変位)が低減されることとなるので、その領域が破壊し難くなり、かくして、耐衝撃性或いは耐荷重性が向上されることとなる。
【0023】
更に、本実施形態の場合、ビード5aが湾曲して延在するように形成されており、この構成によれば、特定の方向に於いて捩れに対し脆弱になることが回避されることとなる。より詳細には、本実施形態の場合、ビード5aの部分は肉抜きされているので、ビード5aの延在方向周りの捩れに対し脆弱となる。従って、ビード5aが、仮に、図4(A)、(B)の如く、直線状に形成されている場合には、補強板は、広い範囲で、特定の方向周りの捩れm1、m2に対して、脆弱となり、これにより、補強板全体がその特定の方向の捩れに対して脆弱となり得る。一方、本実施形態に於いては、ビード5aは、その延在方向が湾曲しているように、即ち、ビード5aの延在方向の接線が徐々に変化するように形成されていることから、図4(C)に示されている如く、捩れに対し脆弱となる方向msが徐々に変化し、補強板全体では、捩れに脆弱な方向が分散されることとなり、捩れに対して脆弱な方向が形成されないこととなる。
【0024】
また更に、本実施形態のビード5aは、図3(A)から理解される如く、互いに交差しないように形成されることが好ましい。即ち、好適には、補強板5に於いて、十字状の貫通孔が形成されないように、複数条のビード5aが配置される。もし図4(A)の如く貫通孔が交差すると、その交差部位に於いて、いずれの方向についても、曲げ又は捩れmx、myに対する剛性が低下してしまう。そこで、好適には、本実施形態に於いては、そのような脆弱な部位が補強板5に於いて形成されないように、複数条のビード5aの配置が調整される。具体的には、いずれのビードも両端間が他のビードを跨がないように形成されることが好ましい。
【0025】
切り起こしビードの配置
既に触れた如く、本実施形態に於いては、複数条の切り起こしビード5aが、補強板5の略全域を網羅するように形成されてよい。一つの態様に於いては、図3(A)、(B)に描かれている如く、複数条のビード5aは、補強板5に於いて、略円又は楕円上に沿って配置されてよく、これにより、ビード5aの配置された領域に於いて剛性が均等に分配されることとなる。また、特に、本実施形態に於いては、太陽電池セルの各々を保護することを目的としているところ、ビード5aの存在領域が太陽電池セルの各々を網羅できるように、ビード5aが太陽電池セルの各々に於ける対角に位置する二つの角部に接する部位の間を概ね結ぶように配置されてよい。即ち、円弧状のビード5aが各太陽電池セルの対角の間の各々に概ね重畳するように設けられることで、ビード5aが各太陽電池セルを網羅するように配置できることとなる。
【0026】
例として、図3(A)、(B)の態様の場合、パネル部材3上に、2行10列にて太陽電池セルが並置されているところ、2行2列の太陽電池セルを一組として、かかる4枚の太陽電池セルの外周に概ね内接する円(内接円)上に沿ってビード5aが配列されてよく、更に、ビード5aの配列される内接円が列方向に1セルずつずれて重なるように配列されていてよい。具体的には、図3(B)に描かれているように、ビード(i)が、P1を中心とし、中央の4枚の太陽電池セルの占有領域の外周に内接する円αに沿って配置され、ビード(ii)、(iii)が、P2を中心とし、左側の4枚の太陽電池セルの占有領域の外周に内接する円βに沿って配置され、かかる配列が補強板5の全域に亙って構成されることで、各太陽電池セルに於いて対角に位置する角部の間に、湾曲したビード5aが、延在することとなる。そして、かかるビードの配置によれば、各太陽電池セルに於いて、二組の対角間の面剛性が増大されることとなり、耐衝撃性或いは耐荷重性が向上されることとなる。
【0027】
補強板5上のビード5aの配置は、図3(A)に例示のパターンに限らず、補強板5の略全域に亙って、湾曲したビード5aが隣接して配置されていれば、任意のパターンであってよい。例えば、図5(A)、(B)に例示されている如く、図3(A)のパターンを変化させたものであってもよい(いずれの場合も各太陽電池セルの対角の間に対応する部位にビード5aが延在するように、ビード5aが配置されている。)。或いは、図5(C)の如く、図5(A)のパターンを45°回転させたパターンが採用されてもよい。
【0028】
太陽光発電パネル2に於いて、太陽電池セルは、任意の行及び任意の列にて配置されてよく、その場合も本発明の範囲に属する。また、ビードの延在形状は、円弧又は楕円弧に限らず、放物線、双曲線、或いは、接線が徐々に変化するその他の任意の曲線形状であってもよい(ただし、円又は楕円の場合、ビードが配置された領域の剛性が全方向に均等に分配される点で有利である。)。
【0029】
計算実験例
本実施形態による切り起こしビードの形成された補強板を裏当てした太陽光発電パネルに於いて、点状変位を与えた際の面の変位分布を算出して、本実施形態の作用を評価した。
【0030】
変位分布の算出に於いて、太陽光発電パネル2は、ガルバリウム鋼板(登録商標):厚み0.4mm、アイオノマー:厚み0.8mm、シリコン単結晶セル(太陽電池セル):厚み0.18mm、アイオノマー:厚み0.4mm、ETFEフィルム:厚み0.05mmを順に積層し加熱固定したものとした。補強板は、ガルバリウム鋼板(登録商標):厚み0.27mmに20mmの幅の切り起こしビードを図3(A)の如く形成したものとした。太陽電池セルの一辺の長さは158mmとし、ビード(i)、(ii)の描く円の半径は、143mmとし、ビード(iii)のの描く円の半径は、135mmとした。太陽光発電パネル2と補強板5とは、M5タップネジにて、ネジ孔6hに於いて固定した。そして、一つの太陽電池セルの対角線の中点に下向きに3mmの強制変位を付与した場合の反力を有限要素法により試算した。
【0031】
図6(A)、(B)は、それぞれ、上記の強制変位を付与した場合の太陽光発電パネルの変位の分布を等高線で示した図である。等高線のピッチは、付与した強制変位の1/20である。図6(A)は、厚み0.67mmのパネル部材を用いた場合(ビードのない補強板を太陽光発電パネルへ適用した場合と同等)の結果であり、図6(B)は、本実施形態の教示によりビードを有する補強板を太陽光発電パネルへ適用した場合の結果である。これらの図を比較して、図6(B)の本実施形態によるビードを有する場合の方が、図6(A)のビードのない場合よりも、変位が広い範囲に拡がって分布していることが理解される。この結果は、本実施形態によるビードを有する場合の方が、ビードのない場合に比して、局所的に作用する点荷重に対する撓みがより浅く且つより広く分布することとなり、局所にて大きな撓みが発生せずに、構造体が破壊され難くなっていることを示している。また、上記の変位が付与された場合の貯蔵弾性エネルギーは、図6(A)のビードのない場合が、1.3×10-1Jであったのに対し、図6(B)のビードのある場合は、1.9×10-1Jであり、貯蔵弾性エネルギーが46%増大した。このことは、本実施形態の教示による補強板を用いた方が荷重のエネルギーがより多く貯蔵弾性エネルギーとして吸収され、構造体の変位が小さくなって、破壊が生じにくくなり、耐衝撃性或いは耐荷重性が向上されることを示している。
【0032】
かくして、上記の本実施形態による補強板を用いた構成によれば、構造体の耐衝撃性或いは耐荷重性の向上のための補強板の面剛性の増大が、補強板に切り起こしビードの形成により達成される。かかる構成に於いては、構造体の面剛性を増大するために補強板の厚みを増大することがないので、重量の増大をできるだけ抑えつつ、構造体の耐衝撃性或いは耐荷重性の向上が図られる点で有利である。そして、本実施形態によれば、設置物の重量制限のある建物等の屋根に於いても、太陽光発電パネルを設置可能な機会が増えることが期待される。
【0033】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6