(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】ブレーキシステム及び車両
(51)【国際特許分類】
B60W 20/15 20160101AFI20250408BHJP
B60T 17/00 20060101ALI20250408BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20250408BHJP
B60K 6/22 20071001ALI20250408BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20250408BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20250408BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20250408BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
B60W20/15
B60T17/00 C
B60K6/442 ZHV
B60K6/22
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/30 900
B60T17/18
(21)【出願番号】P 2023217153
(22)【出願日】2023-12-22
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】横井 健
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-123798(JP,A)
【文献】特開2005-212519(JP,A)
【文献】特開平10-089123(JP,A)
【文献】特開2000-104586(JP,A)
【文献】国際公開第2012/086088(WO,A1)
【文献】特開2021-054209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/15
B60T 17/00
B60K 6/442
B60K 6/22
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 10/30
B60T 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関及びモータを動力源として有するハイブリット車用のブレーキシステムであって、
ブレーキペダルと、
外力を油圧に変換するマスターシリンダと、
前記内燃機関により駆動する機械式バキュームポンプと、
電力により駆動する電動式バキュームポンプと、
前記機械式バキュームポンプと接続される第1室、及び、大気と接続される第2室を有し、前記第1室及び前記第2室の圧力差によって、前記ブレーキペダルの操作により生じた力を増幅して前記マスターシリンダに伝達するブレーキブースターと、
前記第1室の圧力を検知する圧力センサと、
減速動作の開始時に前記内燃機関が停止している場合において、前記圧力センサで検出した前記圧力が所定の圧力より高い場合に前記内燃機関を始動
し、前記機械式バキュームポンプを駆動する制御部と、
を備えるブレーキシステム。
【請求項2】
前記ブレーキペダルの操作を検出する検知センサを備え、
前記制御部は、前記検知センサで前記ブレーキペダルの作動を検出すると、前記減速動作の開始を判定する、請求項1に記載のブレーキシステム。
【請求項3】
前記制御部は、前記検知センサで前記ブレーキペダルの作動が解除されたことを検出すると、前記減速動作の完了を判定する、請求項2に記載のブレーキシステム。
【請求項4】
前記制御部は、前記減速動作が完了した場合であって、且つ、前記減速動作の開始時に前記内燃機関が停止していた場合には、前記内燃機関を停止する、請求項1に記載のブレーキシステム。
【請求項5】
前記制御部は、前記減速動作が完了した場合であって、且つ、前記内燃機関が搭載された車両の状態が前記内燃機関の停止条件を満たす場合には、前記内燃機関を停止する、請求項1に記載のブレーキシステム。
【請求項6】
前記制御部は、前記減速動作の開始時の前記第1室の圧力が前記所定の圧力以下である場合、前記内燃機関が停止している場合であっても、前記内燃機関を始動させない、請求項1に記載のブレーキシステム。
【請求項7】
請求項1乃至
請求項6のいずれか一項に記載のブレーキシステムを備える、ハイブリット車である車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリット車(HEV)用のブレーキシステム及びブレーキシステムを搭載する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に用いられるブレーキシステムとして、必要なブレーキアシスト力を確保するために、ブレーキペダルの操作によって生じた力をブレーキブースターで増幅してマスターシリンダに伝達する技術が知られている。このようなブレーキブースターは、大気圧と負圧との圧力差によって、ブレーキペダルの操作によって生じた力を増幅する。例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関を動力とする車両のブレーキシステムにおいては、機械式バキュームポンプによって負圧を生じさせることができる。
【0003】
一方、電気自動車においては、内燃機関を有さないことから、電動式バキュームポンプを採用している。
【0004】
ハイブリット車は、内燃機関を有するが、走行モードによっては走行時に内燃機関を停止することがある。よって、ハイブリット車においては、機械式バキュームポンプを駆動することができない場合があることから、電動式バキュームポンプを採用している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電動式バキュームポンプは、機械式バキュームポンプに比べてコストが高い。特に、冗長性の確保のために、2台の電動式バキュームポンプを搭載させると、車両のコストが増大する。
【0007】
そこで、本発明は、ハイブリット車であっても、機械式バキュームポンプを用いることができるブレーキシステム及び車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、ブレーキシステムは、内燃機関及びモータを動力源として有するハイブリット車用のブレーキシステムであって、ブレーキペダルと、外力を油圧に変換するマスターシリンダと、前記内燃機関により駆動する機械式バキュームポンプと、電力により駆動する電動式バキュームポンプと、前記機械式バキュームポンプと接続される第1室、及び、大気と接続される第2室を有し、前記第1室及び前記第2室の圧力差によって、前記ブレーキペダルの操作により生じた力を増幅して前記マスターシリンダに伝達するブレーキブースターと、前記第1室の圧力を検知する圧力センサと、減速動作の開始時に前記内燃機関が停止している場合において、前記圧力センサで検出した前記圧力が所定の圧力より高い場合に前記内燃機関を始動し、前記機械式バキュームポンプを駆動する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ハイブリット車であっても、機械式バキュームポンプを用いることができるブレーキシステム及び車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両の構成を概略的に示す説明図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る車両のブレーキシステムの構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る車両のブレーキシステムを用いた減速動作の一例を示す流れ図である。
【
図4】
図4は、他の実施形態に係る車両のブレーキシステムを用いた減速動作の他の例及び減速動作時における第1バキュームポンプの故障判定の一例を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態に係る車両1について、
図1乃至
図3を参照して説明する。
図1は、車両1の構成を概略的に示す説明図である。
図2は、車両1に用いられるブレーキシステム17の構成を概略的に示す説明図である。
図3は、車両1のブレーキシステム17を用いた減速動作の一例を示す流れ図である。なお、各図において、適宜構成を拡大、縮小または省略して示す。
【0012】
図1に示すように、車両1は、動力源として内燃機関12、第1モータ13及び第2モータ15を搭載した、ハイブリット車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)である。車両1は、例えばトラックである。車両1は、例えば、平ボディ車、ウイング車、幌付き車、ユニック車、車載車、タンクローリー車等である。なお、車両1は、HEVであれば、トラックに限定されず、バス、乗用車、特殊用途自動車等であってもよい。
【0013】
車両1は、バッテリ11と、内燃機関12と、第1モータ13と、切替装置としてのクラッチ14と、第2モータ15と、走行部16と、ブレーキシステム17と、制御部18と、を備える。
【0014】
バッテリ11は、車両1の電力源である。バッテリ11は、インバータを介して、第1モータ13及び第2モータ15にそれぞれ接続される。例えばバッテリ11として、リチウムイオン電池、固体リチウムイオン電池、グラフェン二次電池等が用いられる。例えばバッテリ11は、複数の電池セルを有する電池モジュールを備える。
【0015】
内燃機関12は、ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等のエンジンである。内燃機関12は、例えば複数の気筒を備える多気筒型のエンジンである。内燃機関12は、燃料タンクに接続される。内燃機関12は、燃料タンクから燃料を供給され、作動することで、駆動力となる動力(トルク)を発生する。
【0016】
内燃機関12は、例えば、クラッチ14を介して走行部16に接続され、走行部16を駆動する。また、内燃機関12は、第1モータ13に接続され、第1モータ13を駆動して発電させる。
【0017】
第1モータ13は、例えばモータケースと、モータケースに固定されたステータと、モータケースに軸支される軸に固定されたロータと、を備える。例えば第1モータ13はインバータを介してバッテリ11に接続される。
【0018】
第1モータ13の主軸は、内燃機関12に接続される。第1モータ13は内燃機関12の動力で発電可能に構成される。すなわち、第1モータ13は、主軸に内燃機関12から回転力が入力されることで、発電機として機能する。また、第1モータ13は内燃機関12のトルクを吸収して発電された電力によって、バッテリ11を充電する。
【0019】
第1モータ13は、バッテリ11から電力を供給されることで、走行部16を駆動させる駆動モータとして機能してもよい。さらに、第1モータ13は、内燃機関12を始動させるスタータとして機能してもよい。すなわち、第1モータ13は、運転状態に応じて、車両1の動力源、発電機、あるいはスタータとなり得る。
【0020】
インバータは、バッテリ11と第1モータ13の間、バッテリ11と第2モータ15との間にそれぞれ設けられ、パワー素子、コンデンサ、制御回路等を有する。インバータは、バッテリ11からの直流電圧を交流電圧に変換して、三相電流を、モータ13、15に供給する。また、インバータは、モータ13で発電された交流電圧を直流電圧に変換する。
【0021】
クラッチ14は、例えば内燃機関12の出力側に設けられる乾式の摩擦クラッチである。クラッチ14は、制御部18の制御により、内燃機関12から走行部16に至る動力伝達経路を断接可能に構成される。
【0022】
第2モータ15は、モータケースと、モータケースに固定されたステータと、モータケースに軸支される軸に固定されたロータと、を備える。第2モータ15は、走行部16に接続される。また、第2モータ15はインバータを介してバッテリ11に接続される。第2モータ15は、バッテリ11から電力が供給されることで、走行部16の軸を回転させる駆動モータとして機能する。すなわち、第2モータ15は、車両1の動力源となる。
【0023】
走行部16は、ドライブシャフト、自動変速機、動力伝達装置、前輪、及び後輪等を備える。例えば、内燃機関12の出力軸に、クラッチ14を介して自動変速機が断接可能に接続され、自動変速機の出力軸に、プロペラシャフト、デファレンシャルギヤ、トランスファ、等を備える動力伝達装置を介して、駆動輪である左右の前輪及び後輪が接続される。走行部16は、クラッチ14を介して伝達された内燃機関12の回転による動力を、自動変速機によって所定の変速比で変速し、動力伝達装置を介して前輪及び後輪に伝達する。
【0024】
ブレーキシステム17は、フットブレーキである。ブレーキシステム17は、ブレーキペダル21と、ブレーキブースター22と、第1バキュームポンプ23と、第2バキュームポンプ24と、マスターシリンダ25と、油圧回路26と、複数のディスクロータ27と、複数のブレーキパッド28と、複数のブレーキキャリパ29と、圧力センサ30と、検知センサ31と、を備える。
【0025】
ブレーキペダル21は、ブレーキシステム17のインターフェースであり、運転者に足で操作されることで、ペダル比によって操作力を増加させて、ブレーキブースター22に力を伝える。
【0026】
ブレーキブースター22は、ブレーキペダル21の操作で生じた力を増幅させる。例えば、ブレーキブースター22は、内部に第1室22a及び第2室22bを有する。第1室22aは、第1バキュームポンプ23及び/又は第2バキュームポンプ24により、大気圧よりも低圧の負圧に設定され、第2室22bは、大気圧に設定される。第1室22aは、マスターシリンダ25側であり、第2室22bは、ブレーキペダル21側に配置される。ブレーキブースター22は、第1室22a及び第2室22bの圧力差によって、ブレーキペダル21の操作で生じた力を増幅し、マスターシリンダ25へ伝達する。
【0027】
第1バキュームポンプ23は、機械式バキュームポンプである。第1バキュームポンプ23は、内燃機関12によって駆動される。第1バキュームポンプ23は、ブレーキブースター22の第1室22aに流体的に接続される。第1バキュームポンプ23は、駆動することで、第1室22aを大気圧よりも低い所定の圧力(負圧)とする。
【0028】
第2バキュームポンプ24は、例えば、電動式バキュームポンプであり、バッテリ11から供給された電力によって駆動される。第2バキュームポンプ24は、ブレーキブースター22の第1室22aに流体的に接続される。第2バキュームポンプ24は、駆動することで、第1室22aを大気圧よりも低い所定の圧力(負圧)とする。
【0029】
マスターシリンダ25は、例えば、内部にピストンを有し、ピストンに加わる外力を油圧に変換する。マスターシリンダ25は、油圧回路26に接続される。マスターシリンダ25は、ブレーキペダル21の操作により生じ、ブレーキブースター22で増幅された力によりピストンが駆動されることで、油圧回路26の油圧を増圧させる。
【0030】
油圧回路26は、例えば、マスターシリンダ25及び複数のブレーキキャリパ29に接続され、油圧により複数のブレーキキャリパ29を駆動する。例えば、油圧回路26は、マスターシリンダ25及び複数のブレーキキャリパ29を流体的に接続する配管部26aと、油圧制御を行うためのバルブ等を含む油圧制御部26bと、を備える。
【0031】
複数のディスクロータ27は、例えば、走行部16の前輪及び後輪にそれぞれ設けられる。ブレーキパッド28は、ディスクロータ27に押しつけられることで、ディスクロータ27との間に摩擦力を生じさせる。ブレーキキャリパ29は、ブレーキパッド28をディスクロータ27に対して移動させる。ブレーキキャリパ29は、油圧回路26の油圧に応じて駆動することで、ブレーキパッド28をディスクロータ27から退避した位置、及び、ブレーキパッド28をディスクロータ27に押しつけた位置の間で、ブレーキパッド28を移動させる。
【0032】
圧力センサ30は、第1室22aの圧力を検出し、検出した圧力値に対応する信号を制御部18に出力する。
【0033】
検知センサ31は、ブレーキペダル21の操作を検出し、検出した情報に対応する信号を制御部18に出力する。
【0034】
制御部18は、演算処理を行う装置であり、入出力装置、記憶装置(ROM,RAM,不揮発性RAM等)、中央演算処理装置(CPU)等の各種処理回路を備える。制御部18は、各種プログラムを実行することにより、走行制御装置、減速動作制御装置、車両状態検出装置等として機能する。制御部18は、車両1に設けられていてもよく、一部または全部が別の外部端末に設けられていてもよい。例えば、制御部18は、内燃機関12を制御するECUの一部であってもよい。また、減速動作制御装置となる制御部18は、ブレーキシステム17の一部に含まれる構成であってもよい。
【0035】
制御部18には、圧力センサ30及び検知センサ31等の各種センサが接続され、これらの機器からの出力信号が入力される。また、制御部18は、内燃機関12、第1モータ13、クラッチ14、第2モータ15、第2バキュームポンプ24に接続され、これらの要素の動作を制御する。
【0036】
例えば制御部18は、車両1のアクセル操作情報等の作動情報や各種検出値に基づいて、車両1を駆動制御する。すなわち制御部18は、各部へ制御信号を送信して、モータ13,15の出力制御、第1モータ13の発電量の制御、クラッチ14の切替制御や内燃機関12の動作制御など、各種運転に必要な制御処理を行う。例えば制御部18は内燃機関12の燃料噴射量を制御することで、内燃機関12の発生するトルク及び回転数を制御する。また、制御部18は、クラッチ14の断接を制御することで、動力源の接続状態を切り替え、走行モードを切り替える。また、制御部18は、モータ13,15の出力を制御する。
【0037】
例えば制御部18は、運転状態に応じて、第1モータ13、第2モータ15、及び内燃機関12の複数の動力源を適宜組み合わせた、異なる複数の走行モードで車両1を運転する。たとえば、内燃機関12を停止して第2モータ15を動力源とする第1走行モードの他、第1モータ13及び第2モータ15の両方を動力源とする走行モード、第1モータ13及び第2モータ15のいずれかあるいは両方と内燃機関12とを動力源とする走行モード、内燃機関12のみを動力源とする走行モードなど、複数の異なる走行モードを運転状態に応じて切替えて車両1を制御する。
【0038】
また、制御部18は、ブレーキペダル21が操作されたときに、減速動作として、ブレーキシステム17を制御する。具体例として、制御部18は、ブレーキペダル21の作動を検知センサ31で検出したときに、ブレーキブースター22の第1室22aの圧力が、第2室22bの圧力である大気圧よりも低い所定の圧力(必要負圧)となるように、第1バキュームポンプ23及び/又は第2バキュームポンプ24を駆動制御する。ここで、所定の圧力とは、ブレーキシステム17の駆動に必要な圧力(必要負圧)である。
【0039】
減速動作の一例として、制御部18は、ブレーキペダル21の操作を検知センサ31で検出したときに、圧力センサ30で検出した第1室22aの圧力が必要圧力よりも高い、即ち、検出した負圧が必要負圧に到達していない場合であって、且つ、第2モータ15で走行する第1走行モード等のように、内燃機関12を停止している場合には、制御部18は、停止している内燃機関12を始動して第1バキュームポンプ23を駆動する。
【0040】
以下、実施形態に係るブレーキシステム17の減速動作の一例について、
図3の流れ図を用いて説明する。先ず、運転者がブレーキペダル21を操作すると、検知センサ31がブレーキペダル21の作動を検出し、信号を出力する。制御部18は、検知センサ31からの出力信号によって、ブレーキペダル21の作動を検出する(ステップST11)と、減速動作の開始を判定する。次に、制御部18は、内燃機関12が停止しているか否かの判定を行う(ステップST12)。制御部18は、内燃機関12が停止していると判定する(ステップST12のYES)と、圧力センサ30で検出した第1室22aの圧力(負圧)がブレーキシステム17の駆動に必要な圧力(必要負圧)より高いか否かを判定する(ステップST13)。ここで、ブレーキシステム17の駆動に必要な圧力(必要負圧)とは、ブレーキブースター22によって、ブレーキペダル21の操作で生じた力を所定の力に増幅できる第1室22aの圧力(負圧)である。例えば、ブレーキシステム17を駆動するための必要圧力は、予め設定され、制御部18の記憶装置に記憶される。
【0041】
圧力センサ30で検出した圧力が必要圧力より高い場合(ステップST13のYES)には、制御部18は、停止している内燃機関12を始動し、第1バキュームポンプ23を始動する(ステップST14)。第1バキュームポンプ23が駆動することで、第1室22aの圧力が必要圧力(必要負圧)以下に低下し、第1室22a及び第2室22bの圧力差が所望の圧力差となる。これにより、ブレーキペダル21の操作で生じた力がブレーキブースター22によって増幅され、マスターシリンダ25のピストンが所定の力で操作されることで、油圧回路26内の油圧が所望の圧力となる。よって、ブレーキキャリパ29が油圧回路26の油圧によって駆動し、ブレーキパッド28がディスクロータ27に押しつけられて、車両1の減速動作が行われる。
【0042】
減速動作時において、運転者は、ブレーキングとして、車両1が所望の車速となるか、又は、停止するまで、ブレーキペダル21を操作することになる。よって、制御部18は、運転者によるブレーキペダル21の操作解除を検知センサ31の出力信号に基づいて監視し、ブレーキングが終了したか否かの判定を行う(ステップST15)。具体例として、制御部18は、ブレーキング終了判定として、ブレーキペダル21の操作が解除されたか否かを、検知センサ31からの出力信号により判定する。ブレーキペダル21の操作が解除されるたこと検知センサ31からの出力信号に基づき判定する(ステップST15のYES)と、制御部18は、車両1の減速動作の完了を判定する(ステップST16)。なお、ブレーキペダル21の操作が解除されたことを検知センサからの出力信号に基づいて判定できない場合(ステップST15のNO)には、制御部18は、検知センサ31からの出力信号の監視を継続する。
【0043】
なお、ステップST12において、内燃機関12が駆動している場合(ステップST12のNO)には、第1バキュームポンプ23が駆動していることから、制御部18は、第1室22aの圧力が必要圧力(必要負圧)以下であると判定し、ステップST15以降の処理を行う。また、ステップST13において、圧力センサ30で検出した圧力が、必要圧力以下である場合には、第1室22aの圧力が所望の負圧であることから、制御部18は、内燃機関12(第1バキュームポンプ)を始動せず、ステップST15以降の処理を行う。
【0044】
また、例えば、制御部18は、完了した減速動作の開始時、即ち、ST11で検出したブレーキペダル21の作動時において、内燃機関12が停止していたか否かの判定を行う(ステップST17)。ブレーキペダル21の作動時に内燃機関12が停止していた場合(ステップST17のYES)には、現在の車両1の状況が内燃機関12の停止条件を満たしているか否かを判定する(ステップST18)。車両1の状態が内燃機関12の停止条件を満たしている場合(ステップST18のYES)には、制御部18は、内燃機関12を停止する(ステップST19)。なお、ブレーキペダル21の作動時に内燃機関12が駆動している場合(ステップST17のNO)や、内燃機関12の停止条件を満たしていない場合(ステップST18のNO)には、内燃機関12の駆動を継続する。これらのように、制御部18は、減速動作時において、内燃機関12の停止時にブレーキブースター22の第1室22a及び第2室22bが所望の圧力差であるかを判定し、所望の圧力差でない場合には、内燃機関12を始動することで、第1バキュームポンプ23を駆動し、第1室22aを負圧とする。
【0045】
このように構成されたブレーキシステム17を有する車両1によれば、内燃機関12及び第2モータ15を動力とするHEVであっても、必要ブレーキアシスト力を生じさせるブレーキブースター22に負圧を生じさせる第1バキュームポンプ23に機械式バキュームポンプを使用することができる。ブレーキシステム17は、電動式バキュームポンプよりもコストで有利な機械式バキュームポンプを使用することで、車両1の製造コストを低減することができる。特に、車両1は、冗長性確保の観点から、バキュームポンプを2台用いることが想定される。実施形態の車両1は、第1バキュームポンプ23を機械式バキュームポンプとし、第2バキュームポンプ24を電動式バキュームポンプとすることで、電動式バキュームポンプを2台搭載する構成に比べて、コストを低減することができる。加えて、車両1は、第1バキュームポンプ23や内燃機関12の不具合時に、バッテリ11からの電力によって第2バキュームポンプ24を駆動することが可能となるため、ブレーキシステム17の減速動作時にブレーキブースター22で必要ブレーキアシスト力を生じさせる負圧を確実に生じさせることができる。よって、ブレーキシステム17は、コスト低減に加えて、安全性及び冗長性を確保することができる。
【0046】
上述したように本発明の一実施形態に係るブレーキシステム17及び車両1によれば、減速動作時に内燃機関12が停止しているときに、負圧が所望の圧力でない場合に、内燃機関12を始動させることで、ハイブリット車であっても、機械式バキュームポンプを用いることができる。
【0047】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、上述した例では、制御部18は、ブレーキペダル21の作動時に第1室22aの圧力が必要圧力より高い場合には、必要圧力以下とすべく、内燃機関12を始動して第1バキュームポンプ23を駆動する構成を説明した。しかしながら、ブレーキシステム17は、第1バキュームポンプ23を駆動し、第1バキュームポンプ23の駆動後の第1室22aの圧力値から、第1バキュームポンプ23の故障を判定してもよく、また、第1バキュームポンプ23の駆動だけでは第1室22aの圧力が必要圧力以下とならない場合に、第2バキュームポンプ24を始動してもよい。
【0048】
このような車両1のブレーキシステム17を用いた減速動作の他の実施形態の例を
図4に示す流れ図を用いて説明する。
【0049】
先ず、制御部18は、検知センサ31から出力された信号によりブレーキペダル21が作動したことを判定する(ステップST21)と、第1バキュームポンプ23を始動する(ステップST22)。なお、このステップST21及びステップST22の動作は、例えば、上述したステップST11乃至ステップST14の動作と同じ動作が行われる。
【0050】
続いて、制御部18は、第1バキュームポンプ23の始動後、圧力センサ30により、第1室22aの圧力を検出し、第1室22aの圧力が記憶装置に記憶された必要圧力より高いか否かの判定を行う(ステップST23)。例えば、第1室22aの圧力が必要圧力以下である、即ち、必要負圧であると判定する(ステップST23のNO)と、第1バキュームポンプ23の駆動によって負圧が保たれており、第1バキュームポンプ23は正常と判定する。以降、制御部18は、例えば、上述したステップST15以降の処理を行う。
【0051】
例えば、第1室22aの圧力が必要圧力よりも高い場合(ステップST23のYES)には、制御部18は、第1バキュームポンプ23の駆動では必要圧力に達しないと判定し、第2バキュームポンプ24を始動する(ステップST24)。制御部18は、第1バキュームポンプ23の始動後に、第1室22aの圧力が所定の圧力(必要圧力、必要負圧)に低下せずに第2バキュームポンプ24を始動した回数をカウントし、記憶装置に記憶する。また、制御部18は、第2バキュームポンプ24を始動した回数が、記憶装置に予め記憶された閾値nに達したか否かを判定する(ステップST25)。
【0052】
ここで、閾値nは、第1バキュームポンプ23を駆動しても所望の負圧にならないことが繰り返されることで、第1バキュームポンプ23の機能が低下、又は、機能が停止したと判定できる回数である。
【0053】
第2バキュームポンプ24の始動回数が閾値nより小さい場合(ステップST25のNO)には、制御部18は、第1バキュームポンプ23を正常と判定し、例えば、ステップST15以降の処理を行う。第2バキュームポンプ24の始動回数が閾値nである場合(ステップST25のYES)には、制御部18は、第1バキュームポンプ23が故障していると判定する(ステップST26)。
【0054】
なお、制御部18は、例えば、第1バキュームポンプ23が故障と判定した場合には、以後の減速動作時において、第1バキュームポンプ23に変えて、第2バキュームポンプ24を始動する。また、制御部18は、第1バキュームポンプ23が故障している情報を記憶装置に記憶してもよく、また、車両1のキャビンに設けられたインストルメントパネルの表示装置に、第1バキュームポンプ23が故障している情報を表示してもよい。また、制御部18は、無線通信により、運転者の携帯端末やメンテナンス用の管理端末に第1バキュームポンプ23が故障している情報を送信してもよい。
【0055】
このように、制御部18は、第1バキュームポンプ23が始動した後に所望の負圧に達しない場合に、第2バキュームポンプ24を始動して、第2バキュームポンプ24を補助的に使用するとともに、繰り返し第2バキュームポンプ24が始動したときに、第1バキュームポンプ23の故障を判定してもよい。
【0056】
さらに、本発明は、これらの実施形態に限定されない。例えば、ブレーキシステム17は、冗長性のための第2バキュームポンプ24を有さない構成としてもよい。また、冗長性のための第2バキュームポンプ24は、電動式バキュームポンプでなく、機械式バキュームポンプであってもよい。また、第1バキュームポンプ23及び第2バキュームポンプ24は、異なる性能としてもよい。例えば、第1バキュームポンプ23を機械式バキュームポンプとし、第2バキュームポンプ24を電動式バキュームポンプとする場合には、フリクションの影響を小さくするために、第1バキュームポンプ23を第2バキュームポンプ24よりも小さい出力としてもよい。また、第1バキュームポンプ23の補助、又は、第1バキュームポンプ23の故障時に第2バキュームポンプ24を始動させる構成とする場合には、第2バキュームポンプ24を第1バキュームポンプ23よりも小さい出力としてもよい。また、ブレーキシステム17は、第1バキュームポンプ23及び第2バキュームポンプ24を交互に駆動する構成としてもよく、また、内燃機関12の燃料の残量等の種々の要因によって、第1バキュームポンプ23及び第2バキュームポンプ24の一方を選択的に始動させる構成としてもよい。
【0057】
また、上述した例では、ブレーキシステム17は、ディスクブレーキシステムの例を説明したがこれに限定されず、ドラムブレーキシステム等に適用してもよい。即ち、負圧によりブレーキペダル21の操作力を増大させて、ブレーキアシスト力を生じさせる、HEV用のブレーキシステム17であれば、種々の構成が適用できる。
【0058】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明と同等の記載を付記する。
[1] 内燃機関及びモータを動力源として有するハイブリット車用のブレーキシステムであって、
ブレーキペダルと、
外力を油圧に変換するマスターシリンダと、
前記内燃機関により駆動する機械式バキュームポンプと、
前記機械式バキュームポンプと接続される第1室、及び、大気と接続される第2室を有し、前記第1室及び前記第2室の圧力差によって、前記ブレーキペダルの操作により生じた力を増幅して前記マスターシリンダに伝達するブレーキブースターと、
前記第1室の圧力を検知する圧力センサと、
減速動作の開始時に前記内燃機関が停止している場合において、前記圧力センサで検出した前記圧力が所定の圧力より高い場合に前記内燃機関を始動する制御部と、
を備えるブレーキシステム。
[2] 前記ブレーキペダルの操作を検出する検知センサを備え、
前記制御部は、前記検知センサで前記ブレーキペダルの作動を検出すると、前記減速動作の開始を判定する、[1]に記載のブレーキシステム。
[3] 前記制御部は、前記検知センサで前記ブレーキペダルの作動が解除されたことを検出すると、前記減速動作の完了を判定する、[2]に記載のブレーキシステム。
[4] 前記制御部は、前記減速動作が完了した場合であって、且つ、前記減速動作の開始時に前記内燃機関が停止していた場合には、前記内燃機関を停止する、[1]に記載のブレーキシステム。
[5] 前記制御部は、前記減速動作が完了した場合であって、且つ、前記内燃機関が搭載された車両の状態が前記内燃機関の停止条件を満たす場合には、前記内燃機関を停止する、[1]に記載のブレーキシステム。
[6] 前記制御部は、前記減速動作の開始時の前記第1室の圧力が前記所定の圧力以下である場合、前記内燃機関が停止している場合であっても、前記内燃機関を始動させない、[1]に記載のブレーキシステム。
[7] 電動式バキュームポンプをさらに備える、[1]に記載のブレーキシステム。
[8] [1]乃至[7]のいずれか一項に記載のブレーキシステムを備える、ハイブリット車である車両。
【符号の説明】
【0059】
1…車両、11…バッテリ、12…内燃機関、13…第1モータ、13…モータ、14…クラッチ、15…第2モータ、15…モータ、16…走行部、17…ブレーキシステム、18…制御部、21…ブレーキペダル、21b…ブレーキペダル、22…ブレーキブースター、22a…第1室、22b…第2室、23…第1バキュームポンプ(機械式バキュームポンプ)、24…第2バキュームポンプ、25…マスターシリンダ、26…油圧回路、26a…配管部、26b…油圧制御部、27…ディスクロータ、28…ブレーキパッド、29…ブレーキキャリパ、30…圧力センサ、31…検知センサ。
【要約】
【課題】ハイブリット車であっても、機械式バキュームポンプを用いることができるブレーキシステム及び車両を提供すること。
【解決手段】内燃機関12及びモータ15を動力源として有するハイブリット車用のブレーキシステム17は、ブレーキペダル21と、外力を油圧に変換するマスターシリンダ25と、内燃機関12により駆動する機械式バキュームポンプ23と、機械式バキュームポンプ23と接続される第1室22a及び大気と接続される第2室22bを有し、第1室22a及び第2室22bの圧力差によって、ブレーキペダル21bの操作により生じた力を増幅してマスターシリンダ25に伝達するブレーキブースター22と、第1室22aの圧力を検知する圧力センサ30と、減速動作の開始時に内燃機関12が停止している場合において、圧力センサ30で検出した圧力が所定の圧力より高い場合に内燃機関12を始動する制御部18と、を備える。
【選択図】
図2