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特許7662042地図更新システム、車載器、および、サーバ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】地図更新システム、車載器、および、サーバ
(51)【国際特許分類】
   G09B 29/00 20060101AFI20250408BHJP
【FI】
G09B29/00 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023545618
(86)(22)【出願日】2022-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2022032663
(87)【国際公開番号】W WO2023033004
(87)【国際公開日】2023-03-09
【審査請求日】2023-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2021144044
(32)【優先日】2021-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真也
(72)【発明者】
【氏名】堀畑 智
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 智仁
【審査官】池田 剛志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-038359(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131903(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0019409(US,A1)
【文献】特開2017-090548(JP,A)
【文献】特開2007-051973(JP,A)
【文献】特開2018-105774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B23/00-29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(2)に搭載されている記憶部(30)に記憶され、前記車両の挙動を制御する車両制御部(50)が使用する地図情報を更新する必要があるか否かを判断する地図更新システム(1)であって、
前記車両制御部が実行する車両制御に不具合があるか否かを判断する不具合判断部(61)を備え、複数の前記車両にそれぞれ搭載される複数の車載器(60)と、
前記不具合の原因が前記地図情報にあると判断したことに基づいて、前記地図情報を更新する必要があると判断する更新判断部(86)を備え、前記車載器と通信するサーバ(80)と、を備え、
前記不具合判断部は、前記車両制御に不具合があるか否かを判断した情報である不具合判断結果情報を車両側通信部(40)から前記サーバに送信し、
前記サーバは、
前記車両から受信した前記不具合判断結果情報に基づいて、前記不具合の原因を検査するか否かを判断する検査要否判断部(84)と、
前記検査要否判断部が、前記不具合の原因を検査すると判断した場合に、前記不具合の原因を検査することを指示する検査指示を、1つ以上の前記車載器へ送信する検査指示部(85)と、を備え、
前記車載器は、
前記検査指示を受信した場合に、前記記憶部に記憶されている前記地図情報と、前記車両に搭載されている周辺検出センサ(21)により検出される情報から作成する認識地図情報とを比較することで、前記記憶部に記憶されている前記地図情報が正しいかを検査し、検査結果を前記車両側通信部から前記サーバに送信する検査部(62)を備え、
前記更新判断部は、前記車両から送信された前記検査結果に基づいて前記地図情報の更新が必要であるか否かを判断する、地図更新システム。
【請求項2】
請求項に記載の地図更新システムであって、
前記不具合判断部は、前記車両のドライバが、前記車両制御部による車両制御を変更する車両操作をしたことに基づいて、前記車両制御部が実行する車両制御に不具合があると判断する、地図更新システム。
【請求項3】
請求項またはに記載の地図更新システムであって、
前記不具合判断結果情報には、前記車両制御の内容を特定する情報が含まれる、地図更新システム。
【請求項4】
請求項またはに記載の地図更新システムであって、
前記不具合判断結果情報には、不具合が生じたときの前記車両の位置を特定する位置特定情報が含まれる、地図更新システム。
【請求項5】
請求項またはに記載の地図更新システムであって、
前記検査要否判断部は、複数の前記車両から前記不具合判断結果情報を取得した場合に、複数の前記不具合判断結果情報を統計処理して、前記不具合の原因を検査するか否かを判断する、地図更新システム。
【請求項6】
請求項またはに記載の地図更新システムであって、
前記更新判断部は、複数の前記車両から送信された前記検査結果を統計処理して、前記不具合の原因が前記地図情報にあるか否かを判断する、地図更新システム。
【請求項7】
請求項に記載の地図更新システムであって、
前記更新判断部の判断により前記地図情報に不具合の原因がある場合に、地図情報の利用を停止する、地図更新システム。
【請求項8】
請求項に記載の地図更新システムであって、
前記更新判断部の判断により前記地図情報に不具合の原因がある場合に、前記車両の自動運転または運転支援に関するアプリケーションの利用を停止する地図更新システム。
【請求項9】
請求項に記載の地図更新システムであって、
前記更新判断部の判断により前記地図情報に不具合の原因がなく、前記車両の自動運転または運転支援に関するアプリケーションに不具合がある場合に、前記アプリケーションを停止する地図更新システム。
【請求項10】
車両(2)に搭載されている記憶部(30)に記憶されている地図情報を使用して前記車両の挙動を制御する車両制御部(50)が実行する車両制御に不具合があるか否かを判断し、判断結果を示す不具合判断結果情報を車両側通信部(40)からサーバ(80)に送信する不具合判断部(61)と、
前記サーバから検査指示を受信した場合に、前記記憶部に記憶されている前記地図情報と、前記車両に搭載されている周辺検出センサ(21)により検出される情報から作成する認識地図情報とを比較することで、前記記憶部に記憶されている前記地図情報が正しいかを検査し、検査結果を前記車両側通信部から前記サーバに送信する検査部(62)を備える車載器。
【請求項11】
車両(2)に搭載されている記憶部(30)に記憶されている地図情報を使用して前記車両の挙動を制御する車両制御部(50)による車両制御に不具合があるか否かを判断した情報である不具合判断結果情報を、前記車両から受信し、前記不具合判断結果情報に基づいて、前記不具合の原因を検査するか否かを判断する検査要否判断部(84)と、
前記検査要否判断部が、前記不具合の原因を検査すると判断した場合に、前記不具合の原因を検査することを指示する検査指示を、1つ以上の車載器(60)へ送信する検査指示部(85)と、
複数の前記車両から前記不具合判断結果情報を取得した場合に、複数の前記不具合判断結果情報を統計処理して、前記不具合の原因が前記地図情報にあるか否かを判断し、前記不具合の原因が前記地図情報にあると判断したことに基づいて、前記地図情報を更新すると判断する更新判断部(86)と、を備えるサーバ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2021年9月3日に日本に出願された特許出願第2021-144044号を基礎としており、基礎の出願の内容を、全体的に、参照により援用している。
【技術分野】
【0002】
地図更新システム、その地図更新システムが備える車載器およびサーバに関する。
【背景技術】
【0003】
特許文献1に記載されている装置は、車両に搭載された外界センサで検出した地物の位置および形状等と、地図データとして記憶部に記憶されている地物情報とを比較する。そして、外界センサで検出した地物に変化があると判断した場合には、差異情報をサーバへ送信する。サーバは、その差異情報をもとに高度化地図データベースを更新する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/212639号
【発明の概要】
【0005】
特許文献1では、高度化地図データベースに含まれている地物情報が、実際に現地を走行した車両に搭載されたセンサで検出した地図の位置および形状等と相違している場合に、高度化地図データベースを更新する。しかし、地図情報が、実際の道路、地物などを正しく表していないとしても、必ずしも地図情報を更新しなければならない訳ではない。地図情報を車両の挙動を制御するために使用する場合、車両制御に影響がなければ、必ずしも地図情報を更新する必要はない。必須ではないにも関わらず地図情報を常に更新してしまうと、地図情報の更新の手間が増える恐れがある。
【0006】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、必須ではない地図情報の更新を抑制できる地図更新システム、車載器、および、サーバを提供することにある。
【0007】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的態様との対応関係を示すものであって、開示した技術的範囲を限定するものではない。
【0008】
上記目的を達成するための地図更新システムに係る1つの開示は、
車両に搭載されている記憶部に記憶され、車両の挙動を制御する車両制御部が使用する地図情報を更新する必要があるか否かを判断する地図更新システムであって、
車両制御部が実行する車両制御に不具合があるか否かを判断する不具合判断部を備え、複数の車両にそれぞれ搭載される複数の車載器と、
不具合の原因が地図情報にあると判断したことに基づいて、地図情報を更新する必要があると判断する更新判断部を備え、車載器と通信するサーバを備え、
不具合判断部は、車両制御に不具合があるか否かを判断した情報である不具合判断結果情報を車両側通信部からサーバに送信し、
サーバは、
車両から受信した不具合判断結果情報に基づいて、不具合の原因を検査するか否かを判断する検査要否判断部と、
検査要否判断部が、不具合の原因を検査すると判断した場合に、不具合の原因を検査することを指示する検査指示を、1つ以上の車載器へ送信する検査指示部と、を備え、
車載器は、
検査指示を受信した場合に、記憶部に記憶されている地図情報と、車両に搭載されている周辺検出センサにより検出される情報から作成する認識地図情報とを比較することで、記憶部に記憶されている地図情報が正しいかを検査し、検査結果を車両側通信部からサーバに送信する検査部を備え、
更新判断部は、車両から送信された検査結果に基づいて地図情報の更新が必要であるか否かを判断する地図更新システムである。
【0009】
この地図更新システムは、車両制御部が実行する車両制御の不具合の原因が地図情報にあると判断したことに基づいて、地図情報を更新する必要があると判断する。そのため、車両制御部が実行する車両制御に不具合がなければ、地図情報が最新でなくても、地図情報を更新する必要がないという判断が可能になる。よって、必須ではない地図情報の更新を抑制できる。
【0012】
上記目的を達成する車載器およびサーバは、この地図更新システムが備える車載器とサーバである。
【0013】
すなわち、車載器は、車両に搭載されている記憶部に記憶されている地図情報を使用して車両の挙動を制御する車両制御部が実行する車両制御に不具合があるか否かを判断し、判断結果を示す不具合判断結果情報を車両側通信部からサーバに送信する不具合判断部と、
サーバから検査指示を受信した場合に、記憶部に記憶されている地図情報と、車両に搭載されている周辺検出センサにより検出される情報から作成する認識地図情報とを比較することで、記憶部に記憶されている地図情報が正しいかを検査し、検査結果を車両側通信部からサーバに送信する検査部を備える車載器である。
【0014】
また、サーバは、車両に搭載されている記憶部に記憶されている地図情報を使用して車両の挙動を制御する車両制御部による車両制御に不具合があるか否かを判断した情報である不具合判断結果情報を、車両から受信し、不具合判断結果情報に基づいて、不具合の原因を検査するか否かを判断する検査要否判断部と、
検査要否判断部が、不具合の原因を検査すると判断した場合に、不具合の原因を検査することを指示する検査指示を、1つ以上の車載器へ送信する検査指示部と、
複数の車両から不具合判断結果情報を取得した場合に、複数の不具合判断結果情報を統計処理して、不具合の原因が地図情報にあるか否かを判断し、不具合の原因が地図情報にあると判断したことに基づいて、地図情報を更新すると判断する更新判断部と、を備えるサーバである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の地図更新システム1の全体構成を示す図。
図2】車載システム10の構成を示す図。
図3】不具合判断部61が実行する処理を示す図。
図4】不具合判断部61が実行する処理を示す図。
図5】サーバ80の構成を示す図。
図6】地図情報の利用停止、アプリケーション利用停止に関するフローチャート。
図7】地図情報の利用停止、アプリケーション利用停止に関するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態の地図更新システム1の全体構成を示す図である。地図更新システム1は、車両2に搭載された車載システム10と、車両2の外の任意の位置に設置されたサーバ80とを備えている。車載システム10とサーバ80とは通信回線網3を介して通信できる。
【0017】
〔車載システム10の構成〕
図2に車載システム10の構成を示す。車載システム10は、車載センサ20、記憶部30、車両側通信部40、車両制御部50、車載器60を備えている。これらは、車内LAN11に接続されており、車内LAN11を介して互いに通信する。
【0018】
車載センサ20は、車両制御に使う種々の情報を検出するために車両2に搭載されるセンサである。車載センサ20は、周辺検出センサ21と、GNSS受信機24と、慣性センサ25と、ドライバ操作検出センサ26とを備えている。この他に、車載センサ20として、ドライバの状態を検出するセンサなど、他のセンサを備えてもよい。
【0019】
周辺検出センサ21は、車両2の周辺に存在する種々の物体を検出するセンサである。物体には、区画線などの平面的な物体も含まれる。図2には、周辺検出センサ21としてカメラ22とLidar23を示している。カメラ22は、車両2の前方の画像を撮影する。また、カメラ22は、車両2の側方および後方を撮影するようになっていてもよい。Lidar23は、光の投光と受光により、車両2の周辺に存在する物体の位置などを検出する。周辺検出センサ21は、これらに加えて、あるいは、これらに代えて、ミリ波レーダなど、車両2の周辺に存在する物体を検出する他のセンサを備えていてもよい。周辺検出センサ21は、カメラ、Lidar、ミリ波レーダなどのうち、いずれか一つ、または複数の組み合わせにより、車両周辺の物体を検出する構成としてもよい。
【0020】
GNSS受信機24は、衛星航法システムであるGNSS(Global Navigation Satellite System)が備える航法衛星が送信する航法信号を受信し、受信した航法信号に基づいて現在位置を逐次算出する。慣性センサ25は、車両2に生じる慣性を検出するセンサであり、加速度センサおよび角速度センサの一方または両方を含む。GNSS受信機24と慣性センサ25は、車両2の現在位置を逐次検出するためのセンサである。現在位置の変化は車両2の挙動を示すので、GNSS受信機24と慣性センサ25は、車両2の挙動を示す情報を検出するセンサである。
【0021】
ドライバ操作検出センサ26は、ドライバが車両2の挙動を変化または維持するためにする入力操作を検出するセンサである。ドライバ操作検出センサ26は、アクセルセンサ、ブレーキセンサ、ステアリングセンサ、シフトポジションセンサなどである。
【0022】
記憶部30は、書き込み可能であり、種々の情報を記憶している。記憶部30には、フラッシュメモリを用いることができる。記憶部30には、地図データベース(以下、地図DB)が記憶されている。地図DBは、高精度地図と呼ばれる地図情報を含んでいる。高精度地図は、3次元地図であり、道路の周辺に存在する地物についての情報を含んでいる。地物には、信号機、道路標識が含まれる。高精度地図には、立体的な情報だけでなく、区画線の位置など、平面的な情報についても、経路探索する際に用いる高精度ではない地図よりも、詳細な情報を持っている。
【0023】
車両側通信部40は、無線通信をする通信部であり、通信回線網3を介してサーバ80との間で通信する。
【0024】
車両制御部50は、車載センサ20から、車両2の挙動を示す情報および車両2の周辺に存在する物体を示す情報の少なくとも一方を取得する。また、車両制御部50は記憶部30に記憶されている地図DBからも情報を取得する。車両制御部50は、これら取得した情報を使い、車両2の挙動を制御する1種類または複数種類の車両制御を実行する。車両制御部50は、少なくとも1つのプロセッサを備えた構成により実現できる。
【0025】
車両制御の一例は、信号停止制御である。信号停止制御は、対象信号機の灯火が赤であって、矢印灯火が示す方向に走行する走行レーンを走行中でない場合には、停止線で停止する制御である。対象信号機は、周辺検出センサ21で複数の信号機が検出できた場合、どれが対象信号機であるかは、車両2に対する信号機の位置と向きなどから判断する。地図DBには、信号機の座標、信号形状、サイズなど、信号機を特定する情報(以下、信号機情報)が含まれている。信号停止制御では、地図DBに記憶されている信号機情報を用いて、周辺検出センサ21を用いて検出した信号機から対象信号機を特定する。そして、特定した対象信号機において点灯している灯火を判断する。
【0026】
車両制御の他の例は、車線維持制御である。車線維持制御は、区画線と車両2との車幅方向の位置を逐次検出しつつ、同じ車線を自動で走行する制御である。車線維持制御は、周辺検出センサ21を使って認識した区画線の位置および形状と、地図DBに含まれている区画線の位置および形状とのずれが許容範囲であるかを条件として制御することがある。周辺検出センサ21が認識した区画線が正しいかを確認して車両制御するためである。
【0027】
なお、周辺検出センサ21を使って認識した区画線から定まる目標軌道と、地図DBに含まれている区画線から定まる目標軌道とを比較してもよい。目標軌道は、車両2の左右両側にある区画線がともに認識できた場合、左右両側の区画線の中間、つまり、車線幅方向中央を示す軌道とすることができる。目標軌道同士を比較しても、区画線同士を比較することと類似の判断ができるからである。
【0028】
また、車線維持制御は、周辺検出センサ21を使って認識した区画線から定まる目標軌道が、地図DBに含まれている区画線と交差しないことを条件として制御することがある。周辺検出センサ21を使って認識した区画線の位置と形状が、地図DBに含まれている区画線の位置と形状と少しずれていることを許容しつつ、車線維持制御を実行しているのに、車両2が区画線を超えてしまうことを抑制するためである。
【0029】
車両制御の他の例は、車線変更制御である。車線変更制御は、区画線が車線変更可能な種類の区画線である道路区間において、その区画線を超える車両2の制御をして、車両2が走行している車線を変更する制御である。車線変更制御は、周辺検出センサ21を使って認識した区画線の位置および形状と、地図DBに含まれている区画線の位置および形状とを比較する。加えて、車線変更制御は、周辺検出センサ21が検出した信号から認識した線種が、地図DBに含まれている区画線の線種であるかも確認する。認識した区画線がかすれていて破線と認識したが、地図DBでは実線の区画線になっていたり、色の誤認識で、黄線を白線と誤認識していたりする可能性もあるからである。また、場合にはよっては、地図DBが間違っており、黄線が白線に変更になっている可能性もある。
【0030】
車両制御部50が実行する車両制御は、上述した具体的な制御に限られず、他の制御、たとえば、定速走行制御、車間距離制御、自動駐車制御などでもよい。車両制御部50は、1種類以上の車両制御を実行する。
【0031】
車載器60は、少なくとも1つのプロセッサを備えた構成により実現できる。たとえば、車載器60は、プロセッサ、不揮発性メモリ、RAM、I/O、およびこれらの構成を接続するバスラインなどを備えたコンピュータにより実現できる。不揮発性メモリには、汎用的なコンピュータを車載器60として作動させるためのプログラムが格納されている。プロセッサが、RAMの一時記憶機能を利用しつつ、不揮発性メモリに記憶されたプログラムを実行することで、車載器60は、不具合判断部61、検査部62、地図更新部63として作動する。これらの作動が実行されることは、プログラムに対応する方法が実行されることを意味する。
【0032】
不具合判断部61は、車両制御部50が実行する車両制御に不具合があるか否かを、車両制御の種類別に判断する。不具合を判断する具体的条件を5つ説明する。不具合判断部61は、以下に説明する5つの条件のうち、いずれか1つの条件飲みを用いてもよいし、2つ以上の条件を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
1つ目の条件は、車両2のドライバが、車両制御部50による車両制御を変更する車両操作をしたことである。1つ目の条件を具体的に説明する。信号停止制御であれば、信号停止制御により停止を予定している位置よりも手前でドライバのブレーキ操作により車両2が停止した場合に、信号停止制御に不具合があると判断できる。これとは反対に、信号停止制御により車両2を停止させるために、車両制御部50が車両2を減速させている状態で、ドライバがアクセル操作をした場合に、信号停止制御に不具合があると判断してもよい。車線維持制御であれば、ドライバのハンドル操作により車幅方向の位置が所定距離以上変更された場合に車線維持制御に不具合があると判断できる。所定距離は、車線を変更する距離でもよいが、1つの車線内で位置を調整する程度の距離でもよい。車線変更制御であれば、車線変更制御により車線変更をしている途中でドライバがハンドル操作により、車線を変更しないように車両2の横位置を戻した場合に、車線変更制御に不具合があると判断してもよい。
【0034】
定速走行制御であれば、ドライバがシフト位置を変更した場合に、定速走行制御に不具合があると判断してもよい。また、これらの車両制御を実行中に、ドライバが操作部を操作して車両制御を強制的に終了させた場合に、ドライバが終了させた車両制御に不具合があると判断してもよい。具体的な車両制御と、その車両制御に不具合があると判断するドライバ操作との対応関係は事前に設定される。
【0035】
不具合を判断する2つ目の条件は、地図起因制御情報とセンサ起因制御情報とが相違する場合である。地図起因制御情報は、車両制御に使う情報であって、地図DBに含まれている情報を使って決定する制御情報である。信号停止制御であれば、信号機の位置などの信号機情報を制御に使う。地図DBに含まれている信号機情報は、地図起因制御情報の一例である。
【0036】
信号機情報を詳しく説明する。信号機情報は、信号機の座標、形状、サイズ、向き、灯火配列、灯火数、灯火色、灯火形状、灯火の点灯パターンのうちの1つ以上を含ませることができる。この信号機情報を地図起因御情報とする場合、対応する情報を、周辺検出センサ21を用いて取得する。取得した情報がセンサ起因制御情報である。
【0037】
地図起因制御情報とセンサ起因制御情報とが相違するかどうかの判断において、誤差と言える相違であれば、相違するとは判断しない。地図起因制御情報とセンサ起因制御情報とが相違するかどうかは、たとえば、地図起因制御情報とセンサ起因制御情報との差が、事前に設定した閾値を超えているか否かにより判断する。
【0038】
地図起因制御情報は、地図DBに含まれている情報を加工して生成することもある。たとえば、車線維持制御において、地図DBに含まれている区画線から定まる目標軌道は、地図DBに含まれている情報を加工して生成する地図起因制御情報の一例である。センサ起因制御情報は、車両制御に使う情報であって、周辺検出センサ21が検出した情報を使って決定する制御情報である。たとえば、周辺検出センサ21を使って認識した区画線の位置および形状は、センサ起因制御情報である。
【0039】
不具合を判断する3つ目の条件は、車両制御部50が車両制御に使う1つ以上の車載センサ20が出力する情報がエラーであるという条件である。車載センサ20が出力する情報がエラーになる場合として、車載センサ20が故障する場合と、車載センサ20は故障していないが、何らかの事情により正しい信号を出力できない場合とがある。後者の例として、GNSS受信機24が、周囲の環境により、必要数の航法衛星から航法信号を受信できなかった場合がある。後者の他の例として、ドライバの状態を検出するセンサが、ドライバの姿勢などにより、ドライバの状態(たとえばドライバの顔)を検出できない場合がある。また、ドライバの状態を検出するセンサが検出したドライバの状態が、たとえばハンドルを握っていないなど、車両制御が継続できない状態である場合を、ドライバの状態を検出するセンサが出力する情報がエラーであるとしてもよい。
【0040】
不具合を判断する4つ目の条件は、車両2において警報が出ているという条件である。車両2における警報は、追突警報、衝突警報、車間距離警報などを含む。この警報は、車両の挙動が急激に変化した場合、例えば急ハンドル、急発進、急加速、急停止などが発生した場合に実行される。
【0041】
不具合を判断する5つ目の条件は、市場クレームが発生しているという条件である。この5つ目の条件は、上記他の条件とは異なり、手動で情報取得するものを含む。5つ目の条件は、人を介して市場クレームに関する情報がサーバ80などに入力されることにより、不具合判断部61による判断において利用可能になる。市場クレームの入手ルートには、例えば、正規ルートと非正規ルートとがある。正規ルートは、エンドユーザから車両メーカやディーラへの伝達ルート、車両メーカなどを含む組織からの内部情報によるルート、公官庁などからの情報ルートである。非正規ルートは、ユーザコミュニティやソーシャルネットワーキングサービスなどから得た情報を人がサーバ80などに入力することで取得できるルートである。ソーシャルネットワーキングサービスでは、登録したユーザがアクセスして情報を提供できる。この非正規ルートによれば、まだ公に顕在化していないソーシャルネットワーキングサービスを利用した情報を広く拾い上げることができる。
【0042】
図3図4は、不具合判断部61が実行する処理を示すフローチャートである。不具合判断部61は、図3に示す処理を、不具合を判断する車両制御が実行されているときに、所定の周期で実行する。S1では、実行中の車両制御に不具合があるかどうかを判断する。車両制御に不具合があると判断する条件は、車両制御の種類別に1つ以上の条件が設定されている。
【0043】
不具合がないと判断した場合には、S1の判断結果がNOになる。S1の判断結果がNOであれば、図3の処理を終了する。図3の処理を終了した場合であって、車両制御が継続中であれば、所定周期後、図3の処理を再び開始する。
【0044】
S1の判断結果がYESであればS2に進む。S2では、不具合判断結果情報を作成し、所定の記憶部に記憶する。不具合判断結果情報は、S1の判断結果を含む。また、不具合判断結果情報には、不具合があると判断した車両制御の内容を特定する情報が含まれる。車両制御の内容を特定する情報は、たとえば、信号停止制御、車線維持制御など、具体的な車両制御の名称である。不具合判断結果情報には、不具合が生じたときの車両2の位置を特定する位置特定情報が含まれる。位置特定情報の一例は座標である。位置特定情報の他の例は、不具合が生じたときに車両2が走行している道路リンク、レーンリンクである。不具合が生じたときに車両2が交差点に位置していれば、位置特定情報がその交差点名でもよい。
【0045】
また、不具合判断結果情報には、不具合が生じた時刻、日付、どの条件により不具合と判断したかを示す情報、天候、地図DBのバージョン情報のうちの1つ以上を含ませてもよい。
【0046】
不具合判断部61は、図4に示す処理を任意に設定されたアップロードタイミングで実施する。アップロードタイミングは、たとえば、車両制御が終了するごとである。また、アップロードタイミングは、車両2の起動時、すなわち、イグニッションスイッチがオンになるときでもよい。また、アップロードタイミングは、図3が終了する都度でもよい。
【0047】
図4において、S11では、不具合判断結果情報が記憶されているかを判断する。S11の判断結果がNOであれば図4の処理を終了する。S11の判断結果がYESであればS12へ進む。
【0048】
S12では、記憶されている不具合判断結果情報を、車両側通信部40からサーバ80にアップロードする。アップロード後は、アップロードした不具合判断結果情報を記憶部から消去する。
【0049】
説明を図2に戻す。検査部62は、サーバ80からの検査指示を車両側通信部40が受信した場合に、検査指示に従って検査を実施する。検査対象には、地図DBが含まれる。すなわち、検査部62は、記憶部30に記憶されている地図DBが正しいかを検査する。また、検査対象には車両制御部50が実行する車両制御が含まれることもある。
【0050】
図DBの検査は、具体的には、記憶部30に記憶されている地図DBと、車両2に搭載されている周辺検出センサ21により検出される情報から作成する認識地図情報とを比較することである。
【0051】
検査指示には、地図DBのうち、地図情報が正しいかを検査すべきエリアが指示されている。指示されるエリアは、道路のある区間など相対的に広いエリアであることもあれば、交差点など相対的に狭いエリアであることもある。検査部62は、車両側通信部40から検査指示を取得した場合であって、検査指示に示されているエリアを走行する場合、検査指示に示されているエリアにおいて、周辺検出センサ21により検出される情報から認識地図情報を作成する。
【0052】
認識地図情報は、たとえば、区画線の位置と形状である。ただし、認識地図情報として具体的にどの地図情報に対応する認識地図情報を作成するかは、任意に設定できる。検査部62は、周辺検出センサ21により検出される情報から作成可能な範囲で、できるだけ多くの認識地図情報を作成することが好ましい。地図DBが正しいかどうかを、より多くの地図情報について判断できるからである。
【0053】
検査部62は、検査指示に車両制御を特定する情報が含まれている場合、検査指示により特定された車両制御を、検査指示により特定された区間で実行する。そして、実行した車両制御に不具合があるか否かを判断する。車両制御に不具合があるかどうかを判断する処理は、不具合判断部61が実行する処理と同じでよい。
【0054】
検査指示に、検査用の地図データが含まれている場合には、地図DBのうち、検査用の地図データに対応する部分を、検査用の地図データにより更新する。その後、車両制御に不具合があるかどうかを検査する。この場合には、地図DBを更新したことにより、車両制御に不具合が生じなければ、不具合の原因が地図情報にあったと推定できる。加えて、地図DBを更新しても車両制御に不具合が生じれば、不具合の原因が地図情報以外にあると推定できる。
【0055】
検査指示には、他に、検査する条件として、天候、時間帯などの条件が指示されていることもある。検査部62は、検査指示に示された条件を満たした状態で、車両制御あるいは地図DBを検査する。
【0056】
検査部62は、検査結果を車両側通信部40からサーバ80に送信する。検査結果の一例は、認識地図情報と、記憶部30に記憶されている地図DBに含まれる情報のうちこの認識地図情報に対応する情報との差分を示す情報である。認識地図情報が区画線であれば、互いに同一リンクとなる認識地図情報である区画線と地図DBに含まれる区画線とにおいて、リンク端点間の距離である。また、検査結果は、上記差分を示す情報を算出する前の情報でもよい。すなわち、検査結果は、認識地図情報と、記憶部30に記憶されている地図DBにおいて認識地図情報に対応する情報でもよい。また、記憶部30に記憶されている地図DBを、バージョン情報などによりサーバ80が管理できていれば、検査結果は、認識地図情報と地図DBのバージョンでもよい。
【0057】
地図更新部63は、更新用地図データを車両側通信部40が受信した場合、その更新用地図データを用いて、記憶部30に記憶された地図DBを更新する。更新用地図データは、サーバ80から配信される。
【0058】
〔サーバ80構成〕
図5にサーバ80の構成を示す。サーバ80は、サーバ側通信部81、記憶部82、サーバ側制御部83を備えている。サーバ側通信部81は、通信回線網3を介して車両側通信部40と通信する通信部である。サーバ側通信部81は、通信回線網3に有線接続してもよいし、無線接続してもよい。
【0059】
記憶部82には、配信地図DBが記憶されている。配信地図DBは、車両2の記憶部30に記憶されている地図DBの一部または全部を更新するために、車両2に配信する地図を格納したデータベースである。
【0060】
サーバ側制御部83は、少なくとも1つのプロセッサを備えた構成により実現できる。たとえば、サーバ側制御部83は、プロセッサ、不揮発性メモリ、RAM、I/O、およびこれらの構成を接続するバスラインなどを備えたコンピュータにより実現できる。不揮発性メモリには、汎用的なコンピュータをサーバ側制御部83として作動させるためのプログラムが格納されている。プロセッサが、RAMの一時記憶機能を利用しつつ、不揮発性メモリに記憶されたプログラムを実行することで、サーバ側制御部83は、検査要否判断部84、検査指示部85、更新判断部86として作動する。これらの作動が実行されることは、プログラムに対応する方法が実行されることを意味する。
【0061】
検査要否判断部84は、車両2から受信した不具合判断結果情報に基づいて、不具合の原因を検査するか否かを判断する。不具合の原因を検査するか否かはエリア別に判断する。エリアは、車両制御の種類別に決定することができる。たとえば、車両制御が信号停止制御であれば、交差点に存在する信号機を含むように設定された交差点の周囲とその交差点の手前の一定距離とすることができる。車両制御が車線維持制御あるいは車線変更制御であれば、車線維持制御あるいは車線変更制御に不具合が生じた道路リンクあるいはレーンリンクを含むようにエリアを決定する。
【0062】
検査要否判断部84は、複数の車両2から送信された不具合判断結果情報を統計処理して、不具合の原因を検査するか否かを判断することができる。たとえば、事前に設定された一定時間内に同じ種類の車両制御について、一定数以上、その車両制御に不具合があることを意味する不具合判断情報を受信した場合に、不具合の原因を検査すると判断する。上記一定時間は、高速道路か一般道路かなど道路種別に応じて変更してもよい。道路種別は、不具合判断結果情報に含まれている位置特定情報と記憶部82に記憶されている配信地図DBとに基づいて決定してもよい。また、交通量に応じて一定時間を決定してもよい。
【0063】
さらに、不具合判断結果情報が示す、どの条件で不具合と判断したかを考慮してもよい。たとえば、不具合の原因が地図DBであるかどうかを判断する場合、不具合と判断した条件が車載センサ20が出力する情報がエラーであるという条件となっている不具合判断結果情報は、不具合判断結果情報として数えないようにしてもよい。
【0064】
検査要否判断部84は、必ずしも、複数の車両2から送信された不具合判断結果情報を統計処理する必要はない。一定時間ごとに、最初に受信した不具合判断結果情報をもとに、不具合の原因を検査するか否かを判断してもよい。この場合、一定時間内に不具合判断結果情報を受信した場合に、不具合の原因を検査すると判断することができる。この判断は、車両制御の内容ごとにすることができる。
【0065】
また、一定時間内に不具合判断結果情報を受信し、かつ、その不具合判断結果情報は、不具合と判断したときに成立した条件が車載センサ20が出力する情報がエラーであるという条件ではない場合に、不具合の原因を検査すると判断してもよい。つまり、不具合と判断したときに成立した条件が、前述した第1の条件または第2の条件である場合に、不具合の原因を検査すると判断してもよい。前述した第1、第2、第3の条件を比較すると、第1、第2の条件が成立した場合、第3の条件が成立した場合よりも地図DBが不具合である可能性が高いからである。
【0066】
検査指示部85は、検査要否判断部84が不具合の原因を検査すると判断した場合に、不具合の原因を検査することを指示する検査指示を、1つ以上の車載システム10へ送信する。検査は、不具合の原因が地図DBにあるか否かを判断することを目的の1つとする。したがって、検査指示には、検査すべき地図のエリアを指示する情報が含まれる。指示されるエリアは、検査要否判断部84が検査すべきと判断したエリア、または、そのエリアを含むように設定されたより広いエリアである。エリアを指示する情報は、エリアの中心など、エリアを特定する1つ以上の座標でもよい。
【0067】
検査指示部85は、検査指示を、通信可能な全部の車載システム10に送信してもよい。あるいは、検査指示により検査することを指示しているエリアの周囲に存在する車載システム10に対して検査指示を送信してもよい。
【0068】
検査指示には、検査する車両制御を特定する情報を含ませることができる。検査する車両制御を特定する場合、時間帯、天候など、車両制御を実行する条件を含ませることができる。また、検査指示には、検査用に、検査指示で特定しているエリアに対する地図データ、配信地図DBから抽出して含ませてもよい。
【0069】
車載システム10は、検査指示を受信して、検査部62が、検査指示にしたがって検査をした場合、検査結果をサーバ80へ送信する。サーバ80の更新判断部86は、検査結果をもとに、地図DBを更新する必要があるかを判断する。正確には、更新判断部86は、地図DBのうち検査指示した地図情報を更新する必要があるかを判断する。地図DBのうち検査指示した地図情報を更新することも、地図DBを更新することになる。以下、「地図DBを更新する」は、地図DBのうち検査指示した地図情報を更新することを意味する場合がある。更新判断部86は、検査結果から、地図DBが正しくないと判断できる場合に、地図DBを更新する必要があると判断する。
【0070】
たとえば、更新判断部86は、複数の車両2から受信した検査結果を統計処理して、地図DBを更新する必要があるかを判断する。一例としては、更新判断部86は、検査結果を事前に設定した一定数、取得した場合に、取得した検査結果において、地図DBが正しいことを示している検査結果の比率が閾値を以上である場合には、地図DBは正しいので、地図DBは更新しないと判断する。この場合、車両制御の不具合の原因は、地図DB以外の原因であると推定できる。
【0071】
図DBが正しいことを示している検査結果の比率が閾値よりも小さい場合には、更新判断部86は、地図DBを更新する必要があると判断する。地図DBを更新する必要があると判断する場合には、車両制御が不具合となった原因が地図DBにあると推定したことになる。
【0072】
更新判断部86は、地図DBを更新する必要があると判断した場合には、記憶部82に記憶されている配信地図DBから更新用地図データを作成する。そして、作成した更新用地図データを、車両制御が不具合があるとの判断結果を送信した車載システム10に送信する。この更新用地図データを車両側通信部40が受信した場合、地図更新部63が地図DBを更新する。なお、更新用地図データを、受信相手を特定せずに放送的に送信してもよい。更新用地図データを放送的に送信する場合、受信側にて、更新用の地図データのバージョンなどから、更新用の地図データを更新するかどうかを決定する。
【0073】
図6に、地図情報の利用停止、アプリケーション利用停止に関するフローチャートを示す。検査要否判断部84は、図6のS100に示す処理を、不具合判断結果情報を取得しているときに所定の周期で実行する。S100では、不具合判断結果情報に基づいて、前述したように、不具合の原因を検査するか否かを判断する。不具合の検査をしないと判断すれば、S100の判断結果がNOになる。S100の判断結果がNOであれば、S100の処理を繰り返し実行する。
【0074】
S100の判断結果がYESであればS110に進む。S110では、更新判断部86は、車両2から送信された検査結果に基づいて、または複数の車両2から送信された検査結果を統計処理して、不具合の原因が地図情報にあるか否かを判断する。不具合の原因が地図情報にあると判断すれば、S110の判断結果がYESになる。S110の判断結果がYESであれば、S120に進む。S120では、地図更新システム1は、地図情報の利用を停止する処理を実行する。車載システム10は、S120の処理が実行されたことを車両2のユーザに対して表示、または音声で報知するようにしてもよい。S120の処理実行後、図6の処理を終了する。図6の処理を終了した場合であって、車両制御が継続中であれば、所定周期後、図6の処理を再び開始する。
【0075】
不具合の原因が地図情報にないと判断すれば、S110の判断結果がNOになる。S110の判断結果がNOであれば、S130に進む。S130では、車載器60または不具合判断部61は、車両2のアプリケーションに不具合があるか否かを判断する。S130は、アプリケーションの機能部が正常に動作していないこと、運転状態や運転支援の表示に不具合があること、その他の故障時等に不具合があると判断する。アプリケーションは、車両制御部50が実行する車両2の自動運転の制御または運転支援の制御に関わるソフトウェアである。アプリケーションは、車両2に搭載されており、車両2においてユーザが操作や視認でき、利用可能なソフトウェアである。自動運転の制御または運転支援の制御は、例えば、定速走行制御、車間距離制御、自動駐車制御、車線変更制御、交差点運転制御などを含む。アプリケーションは、車両内において利用され、車両2の自動運転または運転支援に関するアプリケーションである。アプリケーションは、経路案内、あるいは自動運転または運転支援に関する標識や地物を、表示または音声案内する。
【0076】
アプリケーションに不具合がないと判断すれば、S130の判断結果がNOになる。S130の判断結果がNOであれば、S100に戻る。アプリケーションに不具合があると判断すれば、S130の判断結果がYESになる。S130の判断結果がYESであれば、S140に進む。S140では、車載器60は、アプリケーションの利用を停止する処理を実行する。車載器60は、S140の処理が実行されたことを車両2のユーザに対して表示、または音声で報知するようにしてもよい。S140の処理実行後、図6の処理を終了する。図6の処理を終了した場合であって車両制御が継続中であれば、所定周期後、図6の処理を再び開始する。
【0077】
図7に、地図情報の利用停止、アプリケーション利用停止に関するフローチャートを示す。図7に示す処理は図6に対してS125を実行する点が相違する。図7に示すように、S110の判断結果がYESであれば、S120の処理とともに、S125の処理を実行するようにしてもよい。S125では、車載器60は、アプリケーションの利用を停止する処理を実行する。車載器60は、S125の処理が実行されたことを車両2のユーザに対して表示、または音声で報知するようにしてもよい。S125の処理実行後、図6の処理を終了する。この処理により、更新判断部の判断により地図情報に不具合の原因がある場合に、自動運転または運転支援に関するアプリケーションの利用を停止できる。
【0078】
〔実施形態のまとめ〕
以上、説明した本実施形態の地図更新システム1では、更新判断部86は、車載システム10から送信された検査結果に基づいて地図DBを更新する必要があるかどうかを判断する。検査結果は検査指示に応じて得られる結果であり、検査指示は、車両制御に不具合がある場合に出される。よって、検査結果に基づいて地図DBを更新する必要があると判断することは、車両制御の不具合の原因が地図情報にあると判断したことに基づいて、地図情報を更新する必要があると判断したことを意味する。
【0079】
そのため、車両制御部50が実行する車両制御に不具合がなければ、地図DBが最新でなくても、地図DBを更新する必要がないという判断が可能になる。よって、必須ではない地図DBの更新を抑制できる。
【0080】
また、不具合判断部61は、車両2のドライバが、車両制御部50による車両制御を変更する車両操作をしたことに基づいて、車両制御部50が実行する車両制御に不具合があると判断する。車両制御に不具合がある場合、ドライバが車両制御を変更する車両操作をすることが多いので、不具合判断部61は、車両制御に不具合があるにも関わらず、不具合があると判断できない場合を少なくできる。
【0081】
不具合判断部61は、地図起因制御情報とセンサ起因制御情報とが相違することに基づいて、車両制御部50が実行する車両制御に不具合があると判断する。このようにして車両制御に不具合があるか否かを判断することで、地図情報に起因して車両制御に不具合があるにも関わらず、不具合があると判断できない場合を少なくできる。
【0082】
不具合判断部61は、車載センサ20が出力する情報がエラーであることに基づいて車両制御に不具合があると判断する。このようにして車両制御に不具合があるか否かを判断することで、車両制御の不具合の原因としてある程度の割合を占める可能性がある不具合を、不具合であると判断できなくなってしまうことを抑制できる。
【0083】
地図更新システム1は、車載器60とサーバ80とを備えており、車載器60が不具合判断部61を備え、サーバ80が、検査要否判断部84と検査指示部85と更新判断部86を備える。更新判断部86は、地図DBを更新する必要があるかどうかを、複数の車載器60から不具合判断結果情報を取得して判断できる。また、検査要否判断部84は、不具合判断結果情報に基づいて、不具合の原因を検査するか否かを判断する。検査要否判断部84が不具合の検査をしないと判断すれば、検査指示部85は検査指示を車載器60へ送信しない。この構成により、不具合の原因を検査する必要がない場合にまで、不具合の原因を検査してしまうことを抑制できる。
【0084】
不具合判断結果情報には、車両制御の内容を特定する情報が含まれる。これにより、検査要否判断部84は、車両制御の内容を特定して、不具合の原因を検査する必要があるか否かを判断できる。
【0085】
不具合判断結果情報には、不具合が生じたときの車両2の位置を特定する位置特定情報が含まれる。これにより、検査要否判断部84は、不具合を検査するエリアを特定して、不具合の要因を検査する必要あるか否かを判断できる。
【0086】
検査要否判断部84は、複数の車両2から不具合判断結果情報を取得した場合に、複数の不具合判断結果情報を統計処理して不具合の原因を検査するか否かを判断する。したがって、不具合の原因を検査するか否かを判断する精度が高められる。
【0087】
更新判断部86は、複数の車両2から送信された検査結果を統計処理して不具合の原因が地図情報にあるか否かを判断する。したがって、不具合の原因が地図情報にあるか否かを判断する精度が高められる。
【0088】
地図更新システム1は、更新判断部86の判断により地図情報に不具合の原因がある場合に、地図情報の利用を停止する。これによれば、不具合が生じた地図情報を使用する車両2の挙動制御を回避することができる。
【0089】
地図更新システム1は、更新判断部86の判断により地図情報に不具合の原因がある場合に、車両2の自動運転または運転支援に関するアプリケーションを停止する。これによれば、不具合が生じた地図情報を使用するアプリケーションの使用を回避することができる。
【0090】
地図更新システム1は、更新判断部86の判断により地図情報に不具合の原因がなく、車両2の自動運転または運転支援に関するアプリケーションに不具合がある場合に、アプリケーションを停止する。これによれば、地図情報の不具合があるか否かにかかわらず、不具合の原因があるアプリケーションの使用を回避することができる。
【0091】
以上、実施形態を説明したが、開示した技術は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も開示した範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。なお、以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一である。また、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0092】
<変形例1>
実施形態では、不具合判断部61は、車両制御に不具合があると判断した場合にのみ、不具合判断結果情報を作成していた。しかし、不具合判断部61は、車両制御に不具合がないと判断した場合にも、そのことを意味する不具合判断結果情報を作成してもよい。
【0093】
車両制御に不具合がある場合および不具合がない場合、ともに不具合判断結果情報を作成する場合、検査要否判断部84は、たとえば以下の判断をする。検査要否判断部84は、一定数の不具合判断結果情報を集計し、車両制御に不具合があることを意味する不具合判断結果情報の比率に基づいて、不具合の原因を検査するか否かを判断する。なお、前述した3つ目の条件、すなわち、車載センサ20が出力する情報がエラーであるという条件が成立した場合、地図DBが原因である可能性は低い。そこで、不具合の原因が地図DBであるか否かを検査するか否かを判断する場合、上記の比率において、前述した3つ目の条件が成立したことを意味する不具合判断結果情報は、車両制御に不具合がないとして扱ってもよい。
【0094】
<変形例2>
実施形態では、サーバ80は、車両2の外にあると説明した。しかし、サーバ80は、車両2に搭載されていてもよい。よって、更新判断部86など、サーバ側制御部83の機能を車載器60が備えていてもよい。
【0095】
<変形例3>
実施形態において、検査要否判断部84は統計処理をする必要がないことを説明した。したがって、検査要否判断部84を省略し、不具合判断部61が車両制御に不具合があると判断した場合に、検査指示部85が検査指示を出すようにしてもよい。
【0096】
<変形例4>
地図起因制御情報とセンサ起因制御情報とが相違する場合、地図DBに不具合がある可能性が高い。このように、車両制御の不具合の原因が地図DBにある可能性が高い場合には、検査要否判断部84、検査指示部85、検査部62を省略して、更新判断部86は、不具合の原因が地図情報にあると判断してもよい。なお、この変形例4においても、不具合判断部61は、車両制御に使う地図起因制御情報と、それに対応するセンサ起因制御情報とが相違するかを判断する。地図DBが、現実の道路や地物を正しく表現していないとしても、現実の道路や地物を正しく表現していない地図情報を車両制御に使わないのであれば、不具合判断部61は車両制御に不具合があるとは判断しない。たとえば、車線変更制御においては、区画線が実線か破線かを区別する必要があるが、実線の色は使わない。よって、変形例4の態様でも、必須ではない地図情報の更新を抑制できる。
【0097】
<変形例5>
更新判断部86は、検査結果を必ずしも統計処理する必要はない。更新判断部86は、1つのみの検査結果から、地図DBを更新するかどうかを判断してもよい。
【0098】
<変形例6>
実施形態で説明した不具合判断結果情報には、車両制御の内容を特定する情報と車両2の位置を特定する情報とが含まれていた。しかし、不具合判断結果情報に、車両制御の内容を特定する情報および車両2の位置を特定する情報の一方または両方が含まれていなくてもよい。この場合であっても、不具合判断部61が、車両制御に不具合があると判断しなければ、更新判断部86は地図情報を更新するとは判断しないので、必須ではない地図情報の更新を抑制できる。
【0099】
<変形例7>
実施形態では、サーバ80から配信される更新用地図データをもとに、車載器60の地図更新部63が地図DBをオンラインで更新していた。しかし、地図DBの更新は、オフラインで行われてもよい。
【0100】
(技術的思想の開示)
この明細書は、以下に列挙する複数の項に記載された複数の技術的思想を開示している。いくつかの項は、後続の項において先行する項を択一的に引用する多項従属形式(a multiple dependent form)により記載されている場合がある。さらに、いくつかの項は、他の多項従属形式の項を引用する多項従属形式(a multiple dependent form referring to another multiple dependent form)により記載されている場合がある。これらの多項従属形式で記載された項は、複数の技術的思想を定義している。
【0101】
(技術的思想1)
車両(2)に搭載されている記憶部(30)に記憶され、前記車両の挙動を制御する車両制御部(50)が使用する地図情報を更新する必要があるか否かを判断する地図更新システム(1)であって、
前記車両制御部が実行する車両制御に不具合があるか否かを判断する不具合判断部(61)と、
前記不具合の原因が前記地図情報にあると判断したことに基づいて、前記地図情報を更新する必要があると判断する更新判断部(86)とを備えた、地図更新システム。
【0102】
(技術的思想2)
技術的思想1に記載の地図更新システムであって、
前記不具合判断部は、前記車両のドライバが、前記車両制御部による車両制御を変更する車両操作をしたことに基づいて、前記車両制御部が実行する車両制御に不具合があると判断する、地図更新システム。
【0103】
(技術的思想3)
技術的思想1または2に記載の地図更新システムであって、
前記不具合判断部は、前記記憶部に記憶された地図情報に基づいて定まり、前記車両制御部による車両制御に使う地図起因制御情報と、前記車両に搭載された周辺検出センサ(21)により検出された情報に基づいて定まり、前記地図起因制御情報に対応する情報であるセンサ起因制御情報とが相違することに基づいて、前記車両制御部が実行する車両制御に不具合があると判断する、地図更新システム。
【0104】
(技術的思想4)
技術的思想1~3のいずれか1項に記載の地図更新システムであって、
前記車両制御部は、前記車両に搭載されている車載センサ(20)から、前記車両の挙動を示す情報および前記車両の周辺に存在する物体を示す情報の少なくとも一方を取得して前記車両の挙動を制御し、
前記不具合判断部は、前記車載センサが出力する情報がエラーであることに基づいて、前記車両制御部が実行する前記車両制御に不具合があると判断する、地図更新システム。
【0105】
(技術的思想5)
技術的思想1~4のいずれか1項に記載の地図更新システムであって、
前記不具合判断部を備え、複数の前記車両にそれぞれ搭載される複数の車載器(60)と、
前記更新判断部を備え、前記車載器と通信するサーバ(80)と、を備え、
前記不具合判断部は、前記車両制御に不具合があるか否かを判断した情報である不具合判断結果情報を車両側通信部(40)から前記サーバに送信し、
前記サーバは、
前記車両から受信した前記不具合判断結果情報に基づいて、前記不具合の原因を検査するか否かを判断する検査要否判断部(84)と、
前記検査要否判断部が、前記不具合の原因を検査すると判断した場合に、前記不具合の原因を検査することを指示する検査指示を、1つ以上の前記車載器へ送信する検査指示部(85)と、を備え、
前記車載器は、
前記検査指示を受信した場合に、前記記憶部に記憶されている前記地図情報と、前記車両に搭載されている周辺検出センサ(21)により検出される情報から作成する認識地図情報とを比較することで、前記記憶部に記憶されている前記地図情報が正しいかを検査し、検査結果を前記車両側通信部から前記サーバに送信する検査部(62)を備え、
前記更新判断部は、前記車両から送信された前記検査結果に基づいて前記地図情報の更新が必要であるか否かを判断する、地図更新システム。
【0106】
(技術的思想6)
技術的思想5に記載の地図更新システムであって、
前記不具合判断結果情報には、前記車両制御の内容を特定する情報が含まれる、地図更新システム。
【0107】
(技術的思想7)
技術的思想5または6に記載の地図更新システムであって、
前記不具合判断結果情報には、不具合が生じたときの前記車両の位置を特定する位置特定情報が含まれる、地図更新システム。
【0108】
(技術的思想8)
技術的思想5~7のいずれか1項に記載の地図更新システムであって、
前記検査要否判断部は、複数の前記車両から前記不具合判断結果情報を取得した場合に、複数の前記不具合判断結果情報を統計処理して、前記不具合の原因を検査するか否かを判断する、地図更新システム。
【0109】
(技術的思想9)
技術的思想5~8のいずれか1項に記載の地図更新システムであって、
前記更新判断部は、複数の前記車両から送信された前記検査結果を統計処理して、前記不具合の原因が前記地図情報にあるか否かを判断する、地図更新システム。
【0110】
(技術的思想10)
技術的思想9に記載の地図更新システムであって、
前記更新判断部の判断により前記地図情報に不具合の原因がある場合に、地図情報の利用を停止する地図更新システム。
【0111】
(技術的思想11)
技術的思想9に記載の地図更新システムであって、
前記更新判断部の判断により前記地図情報に不具合の原因がある場合に、前記車両の自動運転または運転支援に関するアプリケーションの利用を停止する地図更新システム。
【0112】
(技術的思想12)
技術的思想9に記載の地図更新システムであって、
前記更新判断部の判断により前記地図情報に不具合の原因がなく、前記車両の自動運転または運転支援に関するアプリケーションに不具合がある場合に、前記アプリケーションを停止する地図更新システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7