(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】モールド型静止誘導機器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/08 20060101AFI20250408BHJP
H01F 27/06 20060101ALI20250408BHJP
H01F 27/30 20060101ALI20250408BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
H01F27/08 153
H01F27/06
H01F27/30 160
H01F27/28 176
(21)【出願番号】P 2021112224
(22)【出願日】2021-07-06
【審査請求日】2024-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】高井 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】大久保 裕章
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 圭史
(72)【発明者】
【氏名】城条 雅之
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-033176(JP,A)
【文献】特開2015-225894(JP,A)
【文献】特開2000-232022(JP,A)
【文献】特開昭63-160217(JP,A)
【文献】実開昭54-070014(JP,U)
【文献】実開昭57-148823(JP,U)
【文献】特開平11-176651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/08
H01F 27/06
H01F 27/30
H01F 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と、
前記鉄心に装着されている筒状の複数の巻線と、
前記鉄心および前記巻線を収容している容器と、
前記容器の下部側に形成されており、当該容器の外部に設けられている送風ファンによって冷却媒体を当該容器の内部に供給するための供給口と、
前記容器の上部側に形成されており、当該容器の外部に設けられている熱交換器に当該容器の内部から冷却媒体を排出するための排出口と、
前記容器の内部に配置され、当該容器内を、前記供給口に繋がっている下部空間と前記排出口に繋がっている上部空間とに気密に仕切る仕切板と、
前記仕切板の下方に配置されており、当該仕切板を下方から支える複数の仕切板支えと、
前記仕切板の上面に配置され、前記巻線の周囲を覆う風洞と、を備え、
前記仕切板は、それぞれの前記巻線の下方に位置して、前記下部空間と前記上部空間とを繋ぐものであって当該巻線の外形よりも大きい窓部がそれぞれ形成されており、
前記仕切板支えは、複数の前記窓部が形成されている前記仕切板の撓みを抑制しつつ、当該仕切板を前記容器内に配置されている金属部材から所定の沿面絶縁距離を離間した状態に支えるモールド型静止誘導機器。
【請求項2】
前記仕切板支えは、前記金属部材から所定の沿面絶縁距離を離間した位置に配置されている請求項1記載のモールド型静止誘導機器。
【請求項3】
複数の前記仕切板支えのうち少なくとも1つは、冷却媒体が通過可能な枠状に形成されている請求項1または2記載のモールド型静止誘導機器。
【請求項4】
前記巻線を下方から支える巻線支えを備え、
前記巻線支えは、金属材料で柱状に形成されている支持部と、絶縁材料で形成されていて、前記支持部と前記巻線との間に位置して当該巻線に接触する接触部とにより構成されており、
前記仕切板は、前記仕切板支えによって、前記巻線の下端よりも下方であって前記接触部の下端よりも上方で支えられている請求項1から3のいずれか一項記載のモールド型静止誘導機器。
【請求項5】
前記仕切板は、複数個所において前記窓部から外縁までが切断されている複数の板材で形成されており、分割および組み立てが可能になっている請求項1から4のいずれか一項記載のモールド型静止誘導機器。
【請求項6】
前記風洞は、板状の壁部材を筒状あるいは円弧状に成形することで形成されている請求項1から5のいずれか一項記載のモールド型静止誘導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モールド型静止誘導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モールド型静止誘導機器では、高電圧化、大容量化を図るため、密閉した容器内に冷却媒体を循環させて巻線を冷却することがある。その場合、容器内に送風ファンを配置し、巻線に向かう冷却媒体の流れを直接的に形成することで冷却効率を高めることがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高電圧化、大容量化を実現するためには、冷却媒体を効率的に循環させて冷却性能を高めることが求められるものの、高電圧化に伴う絶縁性を考慮した構造が必要となる。
【0005】
そこで、冷却性能を確保しつつ絶縁性を向上させることができるモールド型静止誘導機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
モールド型静止誘導機器は、鉄心と、鉄心に装着されている筒状の複数の巻線と、鉄心および巻線を収容している容器と、容器の下部側に形成されており、当該容器の外部に設けられている送風ファンによって冷却媒体を当該容器の内部に供給するための供給口と、容器の上部側に形成されており、当該容器の外部に設けられている熱交換器に当該容器の内部から冷却媒体を排出するための排出口と、容器の内部に配置され、当該容器内を、供給口に繋がっている下部空間と排出口に繋がっている上部空間とに気密に仕切る仕切板と、仕切板の下方に配置されており、当該仕切板を下方から支える複数の仕切板支えと、仕切板の上面に配置され、巻線の周囲を覆う風洞とを備えている。
【0007】
仕切板は、それぞれの巻線の下方に位置して、下部空間と上部空間とを繋ぐものであって当該巻線の外形よりも大きい窓部がそれぞれ形成されており、仕切板支えは、複数の窓部が形成されている仕切板の撓みを抑制しつつ、当該仕切板を容器内に配置されている金属部材から所定の沿面絶縁距離を離間した状態に支える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態によるモールド型静止誘導機器の外観を模式的に示す図
【
図7】巻線支えの構成例および配置例を模式的に示す図
【
図10】仕切板および仕切板支えの他の構成例を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、モールド型静止誘導機器1は、鉄心2と、鉄心2に装着されている筒状の複数の巻線3と、鉄心2および巻線3を収容している容器4とを備えている。以下、容器4が設置される設置面5に垂直な向きを上下方向と称する。
【0010】
鉄心2は、例えば3本の脚部2aと、各脚部2aの下端側を繋ぐ下端側ヨーク部2bと、各脚部2aの上端側を繋ぐ上端側ヨーク部2cとを備えている。だたし、
図1に示す鉄心2の構成は一例であり、例えば脚部2aの数が異なるものを対象とすることができる。この鉄心2の脚部2aには概ね円筒状に形成された巻線3がそれぞれの装着されている。
【0011】
巻線3は、
図2に示すように内周側に配置される内周側巻線3Aと、外周側に配置される外周側巻線3Bとを同心状に配置した構成となっている。そして、内周側巻線3Aの内周側に脚部2aが位置している。以下、脚部2aが伸びている向きを軸方向と称し、軸方向周りの向きを周方向と称し、軸方向から外側への向きを径方向と称する。
【0012】
内周側巻線3Aと外周側巻線3Bとの間には、巻線3の軸方向の両端部まで繋がっており、冷却媒体が流れる流路を形成するギャップ(G)が設けられている。また、内周側巻線3Aと外周側巻線3Bは、内周側巻線3Aの一部領域(RA)と外周側巻線3Bの一部領域(RB)とを拡大して示すように、導体3Cを同心状に巻回して形成されている。そして、径方向に隣り合う導体3C間には、例えば絶縁紙を波状に成形した流路部材3Dが配置されている。そのため、導体3C間には軸方向の両端部まで繋がっている複数の空間が形成されており、これらの空間は巻線3の内部を冷却媒体が流れる内部流路6を形成している。
【0013】
これら鉄心2および巻線3を収容する容器4には、
図1に示すように、容器4の外部に設けられている送風ファン7によって冷却媒体を容器4の内部に供給するための供給口8が下部側に形成されている。また、容器4には、容器4の外部に設けられている熱交換器9に当該容器4の内部から冷却媒体を排出するための排出口10が上部側に形成されている。以下、供給口8が形成されている側から視た正面視における図示左右への向きを左右方向と称し、側面視および平面視に示すように巻線3が並んで配置されている向きを前後方向と称する。なお、側面視では、説明の簡略化のために送風ファン7および熱交換器9の図示を省略している。
【0014】
供給口8は、本実施形態では容器4の正面側の壁部の下部に1つ設けられている。この供給口8は、供給側ダクト11に接続されており、この供給側ダクト11内に送風ファン7が配置されている。つまり、送風ファン7は、容器4の外部に設けられており、容器4内を冷却するための冷却媒体の流れを形成して容器4内に供給する。
【0015】
排出口10は、容器4の側面側の壁部の上部に複数設けられている。この排出口10は、本実施形態では4つ設けられており、それぞれ排出側ダクト12に繋がっている。この排出側ダクト12は、それぞれ熱交換器9に接続されている。熱交換器9は、詳細な説明は省略するが、冷却媒体が流れる図示しない配管と、その配管の表面に設けられている図示しないフィンとを備えており、配管を流れる冷却媒体と外気との間で熱交換することによって冷却媒体を冷却するものである。なお、排出口10の数や熱交換器9の数は一例であり、これに限定されない。
【0016】
本実施形態では、冷却媒体として、大気圧よりも圧力が高い乾燥空気を想定している。この冷却媒体は、矢印Fにて示すように、容器4とそれぞれの熱交換器9との間を循環する。このとき、容器4の内部は、
図1にも示すように供給口8に繋がっている下部空間4Aと排出口10に繋がっている上部空間4Bとの間が、仕切板13によって気密に仕切られている。この仕切板13は、
図3に示すようにその下方に複数の仕切板支え14が配置されており、仕切板支え14によって下方から支えられている。
【0017】
さて、このような構成のモールド型静止誘導機器1を大容量化、高電圧化する場合には、容器4の内部を効率的に冷却することが求められる。そのため、容器4内には、
図3に示すように、仕切板13の上面に位置して巻線3の周囲を覆う態様で風洞15が設けられている。この風洞15は、冷却媒体を巻線3に集中的に流すためものである。
【0018】
そのため、下部空間4Aとの間を仕切る仕切板13には、
図4に示すように、巻線3の外形ここでは巻線3の直径よりも大きく形成されていて、下部空間4Aと上部空間4Bとを繋ぐ窓部16が形成されている。この窓部16は、各巻線3の下方に位置して形成されているとともに、平面視において風洞15の内側に位置する大きさに形成されている。
【0019】
この仕切板13は、
図3に示すように、断面視にてL字状に形成され、L字の一辺が容器4の内壁に取り付けられていて他辺が容器4の内部に向かって伸びている載置部材17の他辺に載置され、例えば絶縁ボルトによって固定される。このとき、載置部材17には図示しないパッキンが設けられており、仕切板13を載置部材17に載置した場合には、仕切板13と載置部材17との間が気密に封止される。その結果、下部空間4Aからの冷却媒体は、窓部16を経由し、巻線3のギャップ(G)、巻線3の外側および内部流路6を流れることになる。
【0020】
この窓部16の直径は、概ね巻線3の直径に内部流路6の幅を加えた長さに設定されている。また、風洞15は、その直径が概ね窓部16の直径と同じ大きさ、つまりは、巻線3との間に概ね内部流路6と同じ幅の隙間ができる大きさに設定されている。これは、本実施形態では冷却媒体として乾燥空気を想定しており、乾燥空気は、圧力損失の少ない場所に相対的に多く流れることが想定されるためである。
【0021】
つまり、巻線3と風洞15との隙間が大きくなると、その隙間を流れる冷却媒体の流量が相対的に大きくなる一方、内部流路6を流れる冷却媒体の流量が相対的に減ってしまうことが想定される。そのため、窓部16および風洞15は、巻線3の外側における冷却媒体の流量と内部流路6とを流れる冷却媒体の流量とがほぼ等しくなるように上記の大きさに設定されている。
【0022】
この仕切板13は、容器4内に配置可能な大きさであって、容器4内を仕切ることができる大きさに形成されている。具体的には、仕切板13は、
図4に示すように平面視において長方形状であって、図示左右方向の長辺の長さ(L1)が容器4内部の前後方向の長さよりも若干短く、図示上下方向の短辺の長さ(L2)が容器4内部の左右方向の幅よりも若干短く形成されている。なお、仕切板13は、耐熱性および絶縁性を有する例えばフェノール樹脂積層板などの絶縁材料により形成されている。
【0023】
このとき、各窓部16は、図示上下方向において、その中心が仕切板13の図示上下方向の中央に一致するように形成されている。また、中央の窓部16は、その中心が仕切板13の図示左右方向の中央に位置するように形成されており、他の窓部16は、その中心が中央の窓部16の中心から等距離に位置するように形成されている。つまり、仕切板13は、平面視において図示左右方向と図示上下とにおいて対称形状となっている。
【0024】
そして、仕切板13には、窓部16から外縁まで繋がる切断部13Aが複数個所に形成されている。本実施形態の場合、仕切板13には、2つの長辺のそれぞれの中央と2つの短辺のそれぞれの中央に、最も近い窓部16まで繋がる切断部13Aが形成されている。そこのとき、上記したように隣り合う窓部16間が繋がっていることから、仕切板13は、切断部13Aおよび窓部16で分割可能な4枚の板材18の組み合わせで形成されている。
【0025】
これにより、巻線3を鉄心2に装着した状態であっても、つまりは、容器4の外で鉄心2と巻線3とを
図1に模式的に示す状態に組み立てて容器4内に設置する場合であっても、窓部16の中央部分に鉄心2が通る状態で仕切板13を容器4内に配置することが可能となる。これにより、窓部16を有する仕切板13を所定の位置に配置する際の作業を容易に行うことができる。
【0026】
また、仕切板13は平面視における図示上下方向および図示左右方向で対称となっている。そのため、仕切板13を構成する各板材18は、実質的には同一形状のものを利用することができる。これにより、組み立て時には必ずしも板材18の向きや配置を限定する必要はなく、また、比較的大きな仕切板13を実質的に4分割した大きさの板材18を組み合わせればよいことから、作業を容易に行うことができるとともに、在庫管理上の手間を削減することもできる。
【0027】
また、本実施形態の風洞15は、
図5に外観図として示すように、平板状に形成されている壁部材19を複数枚組み立てることで形成されている。具体的には、壁部材19は、図示上下方向の長さ(L3)が巻線3の高さ未満であって、図示左右方向の長さ(L4)が風洞15の円周の1/3よりも若干長くなっている。なお、壁部材19の厚みは、円弧状あるいは筒状に変形させることができることができる範囲で適宜設定することができる。
【0028】
そして、各壁部材19は、成形状態として示すように円弧状に成形され、風洞15の一部を構成するとともに、組み立て状態として示すように互いの端部が重なる状態で筒状に組み立てられることにより、風洞15として機能する。
【0029】
このとき、各壁部材19は、
図6にXA-XA線平面視として示すように、仕切板13の上面において固定部材20におり下端側が固定され、外周側が固定支柱21によって支えられることによって、全体として筒状を維持した状態で仕切板13の上面に配置される。なお、
図6は、
図3のXA-XA線とXB-XB線での平面視を模式的に示しているが、説明の簡略化のために一部の構成については図示を省略している。
【0030】
固定部材20は、C-C線断面視として示すように、L字状に形成されており、L字の一辺が仕切板13に固定され、L字の他辺が壁部材19の外周に絶縁性のボルトなどによってねじ止めされることで、壁部材19の下端側を固定する。また、固定支柱21は、D-D線断面視として示すように、下端が仕切板13に固定された状態で上下方向に延びており、壁部材19を外周側から支えている。これにより、壁部材19が元の平板状に戻ろうとすることが抑制され、全体として筒状に保持される。なお、各壁部材19は、互いに重なっている部位において例えば絶縁ボルトによって連結される。
【0031】
また、B-B線平面視として示すように、固定支柱21の上端には、径方向外側に広がるフランジ板22が配置されており、隣り合う風洞15に対応して設けられているフランジ板22との間を連結部材23によって連結している。これにより、風洞15は、巻線3の軸方向に沿った状態であって、巻線3との間に所定の隙間を存した状態で、仕切板13の上面の所定の位置に、巻線3および窓部16に対して所定の位置関係を保った状態で配置および固定される。
【0032】
このように風洞15を複数の壁部材19を組み合わせて構成することにより、巻線3を鉄心2に装着した状態であっても、つまりは、鉄心2と巻線3とを
図1に模式的に示す状態に組み立てた後であっても、風洞15は、その内周側に鉄心2および巻線3が配置された状態に設置することが可能となる。これにより、風洞15を所定の位置に配置する際の作業を容易に行うことができる。また、同一形状の壁部材19を用いて風洞15を形成することができるため、組み立て時には必ずしも板材18の向きや配置を限定する必要はなく、作業を容易に行うことができるとともに、在庫管理上の手間を削減することもできる。
【0033】
ところで、風洞15を設けたことにより、上部空間4Bにおいては冷却媒体を巻線3に対して集中的に流すことができるようになると考えられる。その一方で、モールド型静止誘導機器1では、冷却媒体の流れを形成するための送風ファン7を容器4の外部に設けている。このとき、下部空間4Aは、仕切板13によって仕切られた空間であり、平面視におけるその面積は概ね仕切板13の面積とほぼ近いものとなっている。
【0034】
そのため、冷却媒体をより効率的に巻線3に向けて流れるようにするためには、下部空間4Aにおける冷却媒体の流れを各窓部16に向かうようにすることが重要になる。これは、送風ファン7を容器4の内部に配置して例えば巻線3の真下から冷却媒体を直接的に巻線3に向けることができる従来の構成では特に考慮する必要が無かった問題であり、送風ファン7を容器4の外部に設けたことにより生じた新たな課題であると言える。
【0035】
また、モールド型静止誘導機器1の高電圧化を図るという目的に鑑みた場合には、さらなる課題が存在する。すなわち、モールド型静止誘導機器1を高電圧化した場合には、仕切板13および仕切板支え14について、容器4の内部に存在する金属部材との間に十分な沿面絶縁距離を確保する必要があるという問題である。
【0036】
ここで、沿面絶縁距離を確保する必要がある対象物としては、容器4内に配置されている金属部材が考えられる。モールド型静止誘導機器1の場合であれば、金属部材として鉄心2と巻線3とが想定される。また、本実施形態の場合には、金属部材として、
図1に示すように鉄心2の下端側となる下端側ヨーク部2bを固定する下部金型24、鉄心2の上端側となる上端側ヨーク部2cを固定する上部金型25、および巻線3を下方および上方から支える巻線支え26が挙げられる。
【0037】
下部金型24は、容器4の底面に固定される下部ベースと、下部ベースから立ち上がって鉄心2を左右方向から挟む態様の下部壁とを備えている。また、上部金型25は、鉄心2の上方を覆う上部ベースと、上部ベースから立ち下がって鉄心2を左右方向から挟む上部壁とを備えている。そして、これら下部金型24および上部金型25は、金属材料で形成されている。
【0038】
また、巻線支え26は、
図7に外観視として示すように、絶縁材料で形成されている接触部26Aと、金属材料で形成されている柱状の支持部26Bとにより構成されている。接触部26Aは、概ね直方体状であって、その一面に内側に窪む凹部が形成されており、その凹部に支持部26Bの一端が配置される。支持部26Bは、一方の端部が下部ベースや上部ベースに固定されるとともに、その全長が調整可能になっている。
【0039】
そして、巻線支え26は、支持状態として示すように、凹部に支持部26Bの一端が配置された状態で凹部とは逆側の面が巻線3の下端に接触し、支持部26Bの全長を調整することによって巻線3を支えている。なお、巻線3の上端側においては、接触部26Aが巻線3の上端に接触し、上部ベース25Aに固定された支持部26Bの全長を調整することで巻線3を支えることになる。
【0040】
この巻線支え26は、平面視として示すように、巻線3の周方向に等間隔で、外周側巻線3Bと内周側巻線3Aとを支えるように配置されている。このとき、径方向外側に配置されている4つの巻線支え26は、外周側巻線3Bを支えるものであり、2本の支持部26Bによって接触部26Aを支えている。なお、
図7では、説明の簡略化のために一部の構成については図示を省略している。
【0041】
一方、径方向内側に配置されている4つの巻線支え26は、内周側巻線3Aを支えるものであり、1本の支持部26Bによって接触部26Aを支えている。このため、それぞれの接触部26Aは、支持部26Bの数に応じてその外形および凹部の大きさが異なるものが採用されている。なお、巻線3の上端側の巻線支え26も同様の配置となっている。
【0042】
そして、仕切板13および仕切板支え14は、これらの金属部材からの沿面絶縁距離を確保できる位置に配置されている。具体的には、仕切板13は、
図3に示すように、上下方向において巻線3の下端よりも下方であって、巻線支え26の接触部26Aの上下方向の範囲内に位置するように配置されている。換言すると、仕切板13は、見かけ上、窓部16を巻線支え26が貫通する状態、より厳密に言えば、接触部26Aが貫通する状態で配置されている。
【0043】
ところで、仕切板13は、上記したように平面視における容器4内部の面積とほぼ同じ面積となる大きさに形成されている。また、仕切板13は、平面視におけるその面積に対して比較的大きい面積で窓部16が複数形成されている。そのため、仕切板13は、外縁部分において載置部材17によって支えられているとしても、その大きさおよび窓部16が形成されていることから、自重によって撓むおそれがある。
【0044】
そして、仕切板13が撓んだ場合には、仕切板13と巻線支え26の支持部26Bとの距離が近くなり、沿面絶縁距離が確保されなくなるおそれがある。そのため、仕切板支え14により仕切板13を下方から支えることが必要となるものの、巻線3の下方には複数の巻線支え26が配置されていることから、それらの巻線支え26と仕切板支え14との間の沿面絶縁距離も確保する必要がある。なお、沿面絶縁距離は、モールド型静止誘導機器1の仕様に基づいて適宜設定されるものである。
【0045】
そこで、仕切板支え14は、
図8に平面視として示すように、窓部16の周囲であって、破線にて示す支持部26Bから所定の沿面絶縁距離が確保される位置に配置されている。具体的には、各仕切板支え14は、自身に最も近い支持部26Bまでの距離が、必要とされる沿面絶縁距離以上となる状態で配置されている。なお、詳細は後述するが、
図8では、形状が異なる仕切板支え14Aと仕切板支え14Bとを異なるハッチングにて示している。
【0046】
この平面視に示すように、窓部16の図示上下側に配置されている仕切板支え14Aは、長手方向が矢印Fにて示す冷却媒体の供給方向に沿って配置されている。また、供給口8から最も遠い図示右端側の仕切板支え14Aは、長手方向が供給方向に対向する向きに配置されている。また、仕切板支え14Bは、供給口8から右端側の窓部16までの間において長手方向が供給方向に対向する向きに配置されている。
【0047】
これにより、より広い範囲で仕切板13を支えることが可能となり、仕切板13が撓むおそれを低減することができると考えられる。換言すると、仕切板13を容器4側の外縁と窓部16に近い側とでそれぞれ支えることにより、仕切板13が撓むことを抑制できる。
【0048】
さて、仕切支え14を上記の配置としたことにより、仕切板13および仕切板支え14の絶縁については問題が無いと考えられる。ただし、本実施形態では、送風ファン7を容器4の外部に設けた構成にしていることから、冷却性能を向上させるためにさらなる工夫を施している。
【0049】
仕切板支え14を平面視にて示す上記の向きおよび配置とした場合、図示左方から供給される冷却媒体について、各窓部16の位置においては図示上下方向つまりは容器4の左右方向への流れを抑制するようにすれば、また、図示右端側においては図示右方への流れを抑制するようにすれば、冷却媒体を窓部16に向かうように整流することができると考えられる。
【0050】
その一方で、図示左方から供給される冷却媒体は、図示右方側の窓部16に供給することも必要になる。この場合、仕切板支え14Bは、冷却媒体の流れに正対する向きに配置されていることから、供給口8から図示右方側の窓部16への流れを阻害するおそれがある。
【0051】
そのため、本実施形態では、仕切板支え14Aについては、
図9に平板形状として示すように整流機能を持たせるために平板状に形成しているとともに、仕切板支え14Bについては、
図9に枠形状としてとして示すように冷却媒体が通過可能なように枠状に形成している。これにより、側面視および正面視にて示すように、図示左方から供給される冷却媒体について、各窓部16の位置においては窓部16以外の向きへの冷却媒体の流れを抑制することができるとともに、供給口8から窓部16への冷却媒体の流れを阻害するおそれを低減することができる。
【0052】
すなわち、下部空間4Aにおいて冷却媒体を集中的に窓部16に向けて流すことができ、冷却性能を確保することができるとともに、仕切板13および仕切板支え14と金属部材との沿面絶縁距離を確保することができる。
【0053】
以上説明したモールド型静止誘導機器1によれば次のような効果を得ることができる。
モールド型静止誘導機器1は、鉄心2と、鉄心2に装着されている筒状の複数の巻線3と、鉄心2および巻線3を収容している容器4とを備えている。この容器4の下部側には、当該容器4の外部に設けられている送風ファン7によって冷却媒体を当該容器4の内部に供給するための供給口8が形成されており、上部側には、当該容器4の外部に設けられている熱交換器9に当該容器4の内部から冷却媒体を排出するための排出口10が形成されている。
【0054】
この容器4の内部には、当該容器4内を供給口8に繋がっている下部空間4Aと排出口10に繋がっている上部空間4Bとに気密に仕切る仕切板13と、仕切板13の下方に配置されており、当該仕切板13を下方から支える複数の仕切板支え14と、仕切板13の上面に配置され、巻線3の周囲を覆う風洞15とが配置されている。
【0055】
そして、仕切板13は、それぞれの巻線3の下方に位置して、下部空間4Aと上部空間4Bとを繋ぐものであって当該巻線3の外形よりも大きい窓部16がそれぞれ形成されており、仕切板支え14は、複数の窓部16が形成されている仕切板13の撓みを抑制しつつ、当該仕切板13を容器4内に配置されている金属部材から所定の沿面絶縁距離を離間した状態に支えている。
【0056】
これにより、高電圧化、大容量化を実現するために冷却性能と絶縁性とが求められるモールド型静止誘導機器1において、風洞15により巻線3に集中的に冷却媒体が流れるようにすることが可能となるとともに、仕切板支え14によって仕切板13を金属部材から沿面絶縁距離を確保した状態で支えることが可能となり、冷却性能を確保しつつ絶縁性を向上させることができる。
【0057】
また、モールド型静止誘導機器1では、仕切板支え14は、金属部材から所定の沿面絶縁距離を離間した位置に配置されている。これにより、絶縁性を確保することができる。
【0058】
また、モールド型静止誘導機器1では、複数の仕切板支え14のうち少なくとも1つは、冷却媒体が通過可能な枠状に形成されている。これにより、冷却媒体の流れを遮るおそれが低減され、冷却性能が低下することを抑制できる。これは、実施形態のように送風ファン7を容器4の外部に配置して1つの供給口8から冷却媒体を供給する構成において特に有意となる。
【0059】
また、モールド型静止誘導機器1では、巻線3を下方から支える巻線支え26を備え、巻線支え26は、金属材料で柱状に形成されている支持部26Bと、絶縁材料で形成されていて、支持部26Bと巻線3との間に位置して当該巻線3に接触する接触部26Aとにより構成されている。そして、仕切板13は、仕切板支え14によって、容器4の上下方向において巻線3の下端よりも下方であって接触部26Aの下端よりも上方で支えられている。これにより、仕切板13と金属部材ここでは巻線3および支持部26Bとの間の沿面絶縁距離を確保することができる。
【0060】
また、モールド型静止誘導機器1では、仕切板13は、複数個所において窓部16から外縁までが切断されている複数の板材18で形成されており、分割および組み立てが可能になっている。これにより、例えば容器4の外で鉄心2と巻線3とを組み立てて容器4内に設置する場合であっても、窓部16の中央部分に鉄心2が通る状態で仕切板13を容器4内に配置することが可能となる。また、比較的大きな仕切板13を分割した大きさの板材18を組み合わせればよいことから、窓部16を有する仕切板13を所定の位置に配置するなど、仕切板13の設置作業を容易に行うことができる。
【0061】
また、モールド型静止誘導機器1では、風洞15は、板状の壁部材19を筒状あるいは円弧状に成形することで形成されている。これにより、例えば容器4の外で鉄心2と巻線3とを
図1に模式的に示す状態に組み立てて容器4内に設置する場合であっても、その内周側に鉄心2および巻線3が位置する状態に風洞15を組み立てることができ、風洞15の設置作業を容易に行うことができる。
【0062】
また、モールド型静止誘導機器1は、仕切板13や仕切板支え14を他の構成とすることができる。例えば、
図10に他の構成例その1として示すように、仕切板13は、図示上下方向に2分割する構成とすることができる。これは、上記したように窓部16の大きさは巻線3の大きさを冠は見て設定されるため、巻線3の大きさによっては各窓部16が繋がっていない状態になることも想定される。
【0063】
その場合、図示上下方向の中央において、図示左端側の外縁から窓部16を通って図示右端側の外縁まで繋がる態様の切断部13Aを設けることで、鉄心2と巻線3とを組み立てた後であっても、仕切板13を窓部16の中央部分に鉄心2が通る状態に設置することができる。この場合、仕切板13は実質的に同一形状の2枚の板材18Aで構成されることから、組み立て時に迷うおそれが低減され、の作業性を向上させることができるとともに、在庫管理上の手間を削減することもできる。
【0064】
また、
図10に他の構成例その2として示すように、仕切板13は、各窓部16の中心において図示上下方向となる切断部13Aを設ける構成とすることができる。この場合、図示両端の2枚の板材18Bは同一形状とすることができ、中央側の2枚の板材18Cも同一形状とすることができる。また、板材18Bおよび板材18Cは、明確に、つまりは、作業者が作業するときに確実に目視にその形状の違いを認識できる形状となっている。これにより、組み立て時に迷うおそれが低減され、の作業性を向上させることができるとともに、在庫管理上の手間を削減することもできる。
【0065】
また、
図10に他の構成例その3として示すように、全体としてT字状に形成した仕切板支え14Cを用い、T字の上辺で仕切板13を支える構成とすることができる。このような構成によっても、仕切板13を支える範囲を広くすることができるとともに、複数配置する場合であっても冷却媒体の流れが阻害されることを抑制でき、冷却性能を確保しつつ絶縁性を向上させることができる。
【0066】
また、図示は省略するが、風洞15は、1枚の壁部材19を筒状に成形することで構成したり、2枚あるいは4枚以上の壁部材19により構成したりすることができる。すなわち、風洞15は、板状の壁部材19を筒状あるいは筒状の一部の円弧状に成形して構成されているものであれば壁部材19の枚数は限定されない。
【0067】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0068】
図面中、1はモールド型静止誘導機器、2は鉄心(金属部材)、3は巻線(金属部材)、4は容器、4Aは下部空間、4Bは上部空間、7は送風ファン、8は供給口、9は熱交換器、10は排出口、13は仕切板、13Aは切断部、15は風洞、16は窓部、18は板材、19は壁部材、24は下部金型(金属部材)、25は上部金型(金属部材)、26は巻線支え(金属部材)、26Bは支持部(金属部材)を示す。