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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】リンゴ幼果抽出物を用いた方法、組成物、剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20250408BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018229444
(22)【出願日】2018-12-06
(65)【公開番号】P2020090465
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-08-20
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(73)【特許権者】
【識別番号】000145862
【氏名又は名称】株式会社コーセー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】西田 桃子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 廉
(72)【発明者】
【氏名】上原 静香
(72)【発明者】
【氏名】坂田 修
(72)【発明者】
【氏名】村上 智香子
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】冨永 保
【審判官】関 美祝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-139392号公報(JP,A)
【文献】特開2013-209302号公報(JP,A)
【文献】特開2010-148415号公報(JP,A)
【文献】特開2018-19687(JP,A)
【文献】特表2018-534337号公報(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K8/00-8/99
A61Q1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンゴ幼果抽出物を配合した組成物を使用する、酸化ダメージを受けた表皮及び/又は角層ケラチンにて失われた結合水を酸化ダメージを受ける前の状態に向けて回復する方法(ただし、医療行為、及び、保湿や水分を保持する場合を除く)。
【請求項2】
リンゴ幼果抽出物を有効成分とする、酸化ダメージを受けた表皮及び/又は角層ケラチンにて失われた結合水を酸化ダメージを受ける前の状態に向けて回復するための水分保持機能改善剤(ただし、保湿や水分を保持する場合を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リンゴ幼果抽出物を用いた方法、組成物、剤に関する。
【背景技術】
【0002】
リンゴは、栄養価が高い食品として世界中で愛食されている。リンゴ栽培においては、商品価値の高い果実を収穫するため、結実した果実を間引く摘果という作業が行われ、多くの果実が未熟な状態で摘み取られる。未成熟な果実は、酸味・渋味が強いことから、食用には適さず、ときに廃棄処分されている。資源の有効活用の観点から、リンゴ幼果を産業上利用しようという試みが行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-209302号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リンゴ幼果はさらなる産業上の利用価値を秘めていると考えられる。
本発明は、リンゴ幼果抽出物の新たな用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下の通りである。
本発明の方法は、リンゴ幼果抽出物を配合した組成物を使用する、表皮及び/又は角層ケラチンの結合水及び/又は自由水を回復する方法、表皮及び/又は角層ケラチンのα-へリックス構造の変化を抑制する方法、表皮及び/又は角層ケラチンのα-へリックス構造の変化を回復する方法である。
本発明の組成物は、本発明の方法で使用されるリンゴ幼果抽出物が配合された皮膚用組成物である。
本発明の剤は、リンゴ幼果抽出物を有効成分とする、表皮及び/又は角層ケラチンのα-へリックス構造の変化抑制剤、表皮及び/又は角層ケラチンのα-へリックス構造の変化回復剤、表皮及び/又は角層の水分保持能改善剤である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、リンゴ幼果抽出物の新たな用途を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、CDスペクトル測定の実験において、コントロールAサンプル(リンゴ幼果抽出物無添加)についてCDスペクトル測定を行ったときの波長(nm)に対するθobs(mdeg)のチャートである。バツ印及びこれらを結ぶ曲線は、昇温前のチャートを示し、黒丸印及びこれらを結ぶ曲線は、加熱・冷却後のチャートを示す図である。
図2図2は、CDスペクトル測定の実験において、実施例Aサンプル(リンゴ幼果抽出物添加)についてCDスペクトル測定を行ったときの波長(nm)に対するθobs(mdeg)のチャートである。バツ印及びこれらを結ぶ曲線は、昇温前のチャートを示し、黒丸印及びこれらを結ぶ曲線は、加熱・冷却後のチャートを示す図である。
図3図3は、図1及び図2に示すコントロールAサンプルのチャート及び実施例Aサンプルのチャートにおける波長222nmでのθobs(θ222,obs)(mdeg)の加熱前と加熱・冷却後との間での変化を示す図である。
図4図4は、CDスペクトル測定の実験において、コントロールAサンプル(リンゴ幼果抽出物無添加)及び実施例Aサンプル(リンゴ幼果抽出物添加)についてCDスペクトル測定を行ったときの温度(℃)に対するθ222,obs(mdeg)のチャートである。バツ印及びこれらを結ぶ曲線は、コントロールAサンプルのチャートを示し、黒丸印及びこれらを結ぶ曲線は、実施例Aサンプルのチャートを示す。
図5図5は、顕微IR測定の実験において、未処理サンプル、コントロールBサンプル(リンゴ幼果抽出物無添加)、実施例Bサンプル(リンゴ幼果抽出物添加)について顕微IR測定を行ったときのピーク面積(任意単位)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、図面を参照して詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0009】
(方法)
本実施形態の方法は、リンゴ幼果抽出物を配合した組成物を使用する方法であり、より具体的には、表皮及び/又は角層ケラチンの結合水及び/又は自由水を回復する方法、表皮及び/又は角層ケラチンのα-へリックス構造の変化を抑制する方法、表皮及び/又は角層ケラチンのα-へリックス構造の変化を回復する方法としてよい。本実施形態の方法は、医療行為以外において使用される。
本実施形態の方法に用いられる組成物は、後述の本実施形態の組成物としてよい。
【0010】
本実施形態の方法において用いられるリンゴ幼果抽出物は、バラ科リンゴ属の植物である諸品種のリンゴ(学名:Malus pumila)の幼果の抽出物としてよい。
【0011】
ここで、リンゴの「品種」とは、いずれの品種であってもよく、また、早生種、中生種、晩生種のいずれであってもよい。品種の例としては、ふじ、つがる、王林、ジョナゴールド、北斗、陸奥、千秋、デリシャス系、紅玉、さんさ、秋映、陽光、シナノスイート、世界一、旭、印度、グラニースミス、国光、スターキング、津軽、ハックナイン等が挙げられる。
【0012】
リンゴの「幼果」とは、結実以後成熟前のいずれかの段階にある未成熟の果実をいう。例えば、リンゴの摘果は、通常5月~6月の期間に、結実後20~45日程度を目安に行われるところ、摘み取られる直径2~5cm程度の幼果は、本実施形態の「幼果」に含めることができる。
このとき、「幼果」には、未成熟の果実の全部又は一部を含めてよく、具体的には、果皮、果肉、ピュレ、果汁、種子を含めてよい。
【0013】
「抽出物」とは、リンゴ幼果を抽出溶媒に浸漬して得られた抽出液から固形物を除いて得られたものとしてよく、リンゴ幼果に含まれる果汁から固形物を除いて得られたものとしてよい。「抽出物」は、固形物を除去した抽出液や果汁を濃縮、乾燥等したものであってもよく、液状物を乾固させて固体状としてもよく、スプレードライ法等により乾燥させて粉末状としてもよい。
【0014】
以下、リンゴ幼果から抽出する場合の方法について例示説明する。
抽出に供するリンゴ幼果としては、生のものであってもよく、加工物であってもよい。摘果直後のものを用いてもよく、また、腐敗が進んでいない限り、摘果してしばらく経ったものを用いてもよい。また、リンゴ幼果は、抽出に供する前に、抽出が効率的に行われるように、裁断・粉砕等の前処理を行ってもよい。前処理は、特に限定されないが、低温粉砕や凍結粉砕が好ましい。
抽出溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、多価アルコール類(グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール(BG)等)、ケトン類(アセトン、メチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等)、酢酸エチル等のエステル類;ヘキサン等が挙げられ、中でも、使用性、安全性の点で水、低級アルコール類、多価アルコール類が好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合せて用いてもよい。
抽出のための条件は、当業者であれば適宜設計することができるが、例えば、リンゴ幼果を室温条件(1~30℃)又は加温条件(50~80℃)下で、抽出溶媒中に1時間~数か月の期間浸漬する条件としてよく、低温条件(1~15℃)下で、1~10日間が特に好ましい。
抽出に供するリンゴ幼果と抽出溶媒との質量比は、適宜設計してよく、例えば、抽出溶媒の量の下限は、リンゴ幼果100質量部に対して、原料が十分に浸漬できる量であれば特に限定されず、50質量部以上であることが好ましく、100質量部以上であることがより好ましく、200質量部以上であることがより好ましい。抽出溶媒の量の上限は、経済的な観点から定めることもでき、原料100質量部に対して、例えば、10000質量部以下とすることができ、5000質量部以下とすることが好ましく、1000質量部以下とすることがより好ましい。
また、抽出溶媒として水を用いる場合の抽出は、水蒸気蒸留の方法によってもよい。固形物の除去は常法によってよい。
得られるリンゴ幼果抽出物の溶媒を除去した固形分濃度は、0.1~10質量%であってよい。
【0015】
以下、リンゴ幼果の果汁を利用する場合の方法について例示説明する。
果汁は、洗浄した原料たるリンゴ幼果をpH3.2~4.6、好ましくはpH3.4~4.3で破砕し(pH測定温度:20℃)、得られた破砕物をペクチナーゼ処理して清澄化を行い、固形物を除くことによって得てよい。
【0016】
リンゴ幼果抽出物を配合した組成物は、表皮及び/又は角層に含まれる結合水及び/又は自由水が好適に保たれる。発明者らは、リンゴ幼果抽出物が、表皮及び/又は角層ケラチンの結合水及び/又は自由水を回復させる効果を備える結果を得た。また、リンゴ幼果抽出物は、表皮及び/又は角層ケラチンの結合水及び/又は自由水の減少を抑制する効果や、表皮及び/又は角層ケラチンの水の総量を回復させる効果や水の総量の減少を抑制する効果も奏し得る。
上記の結合水及び/又は自由水に関する効果を奏する機序は、次のとおりと考えられる。
ヒト及び非ヒトを含む動物において、皮膚の表皮及び角層には細胞骨格を構成するタンパク質であるケラチンが含まれている。ケラチンの二次元構造は主としてα-ヘリックス構造であり、α-ヘリックス構造の量を保つことが、表皮及び/又は角層の細胞骨格を好適に保つうえで肝要である。発明者らは、リンゴ幼果抽出物が、ケラチンに対して水和構造の安定化といった作用をして、α-ヘリックス構造が保たれやすくする効果を備えることを示唆する結果を得た。より具体的には、リンゴ幼果抽出物は、後述の実施例においても記載されるとおり、ヒト表皮由来ケラチンのα-へリックス構造の変化を抑制する効果、また、α-へリックス構造の変化を回復する効果を奏する。
発明者らの上記知見は今回の発明により新たに見出されたものといえる。
【0017】
(組成物)
本実施形態の組成物は、リンゴ幼果抽出物を配合したものである。
本実施形態の組成物に用いられるリンゴ幼果抽出物については、本実施形態の方法に用いられるリンゴ幼果抽出物と同様としてよい。
【0018】
本実施形態の組成物は、リンゴ幼果抽出物以外に、必要に応じて添加剤が含まれていてよい。
【0019】
かかる添加剤としては、細胞賦活剤、抗酸化剤、保湿剤、紫外線防止剤、溶剤(水、アルコール類等)、油剤、界面活性剤、増粘剤、粉体、キレート剤、pH調整剤、乳化剤、安定化剤、着色剤、光沢剤、矯味剤、矯臭剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、香料等が挙げられる。
【0020】
本実施形態の組成物は、例えば、液状、乳液状、クリーム状、固形状、ゲル状、ペースト状等、種々の形態で調製してよい。
また、組成物は、油性系、油中水型乳化系、水中油型乳化系等、種々の剤形で調製してよい。
具体的には、組成物は、化粧水、乳液、クリーム、美容液、化粧油、リップクリーム、ハンドクリーム、洗顔料、クレンジング料等のスキンケア化粧料;ファンデーション、メイクアップ下地、ほほ紅、アイシャドウ、マスカラ、アイライナー、アイブロウ、オーバーコート剤、口紅、リップグロス等のメイクアップ化粧料;ヘアトニック、ヘアクリーム、シャンプー、リンス、コンディショナー、整髪料等の頭皮又は毛髪用の化粧料;マッサージ化粧料等、種々の化粧料とすることができる。
【0021】
なお、本実施形態の組成物は、化粧品としてよく、医薬部外品としてよく、医薬品としてもよい。
【0022】
本実施形態の組成物の製造方法としては、特に限定されることなく、当該技術分野において通常の方法としてよい。
本実施形態の組成物は、本実施形態の方法において好適に使用される。
【0023】
(剤)
本実施形態の剤は、リンゴ幼果抽出物を有効成分とするものであり、表皮及び/又は角層ケラチンのα-へリックス構造の変化抑制剤、表皮及び/又は角層ケラチンのα-へリックス構造の変化回復剤、表皮及び/又は角層の水分保持能改善剤、表皮及び/又は角層のダメージ回復剤、表皮及び/又は角層のダメージ抑制剤等が挙げられる。
なお、前述のとおり、リンゴ幼果抽出物は、後述の実施例においても記載されるとおり、ヒト表皮由来ケラチンのα-ヘリックス構造の変化を回復、抑制する効果を備えることから、表皮及び/又は角層ケラチンにおけるα-へリックス構造の変化抑制、変化回復による、熱、酸化、紫外線等の刺激やダメージからの回復及び/又はこれらの抑制の効果を期待できる。
【0024】
本実施形態の剤には、本実施形態の組成物を用いてよい。
【0025】
本実施形態において、リンゴ幼果抽出物は、本実施形態の上記各剤を製造のために使用することもできる。
【実施例
【0026】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0027】
後述の実施例及び比較例で用いた材料を記載する。
[リンゴ幼果抽出物]
果径20mm以内の北海道産ハックナイン種の落花後1月以内の幼果(未熟果)に対し、13倍量の20%(w/w)1,3-ブチレングリコール(1,3-Butylene Glycol)水溶液を加え、低温(1~15℃)にて2日間抽出した。溶媒を除去した固形分濃度は0.3質量%であった。
【0028】
<1.CDスペクトル測定>
<測定方法>
測定装置:円二色分散計J-720(日本分光株式会社)及びペルチェ式恒温キュベットホルダーPTC-423L(日本分光株式会社)を用い、分光光度計用の石英セルで光路長1mmのものを使用した。測定条件は以下のとおりとした。
測定セル:石英1mmセル
測定波長:190~250nm
感度:スタンダード
温度範囲:20.0~98.0℃
昇温速度:1.0℃/min
測定サンプル:ヒト表皮由来ケラチン(SIGMA-ALDRICH社製)を5mM Na2PO4/NaHPO4 buffer,50mM NaCl,pH 7.4の緩衝液にて十分に透析した後、測定可能な濃度まで同緩衝液で希釈したもの。コントロールAサンプルは、緩衝液で希釈したのみであるのに対し、リンゴ幼果抽出物添加の実施例Aサンプルは、溶液中に1容量%となるよう成分を添加した。
測定・解析条件:下記の手順に従って各サンプルの測定を行い、(1)と(4)との比較によって、加熱・冷却後のα-ヘリックス構造の再生率を算出し、(2)によって、熱変性温度を得た。
(1)20.0℃にて波長190~250nmでのCDスペクトル測定を行う。
(2)波長を222nmに固定し、同一サンプルを20.0~98.0℃まで1.0℃/minで昇温測定する
(3)98.0℃での測定終了時から10分間静置した後、ペルチェ温調により20.0℃まで冷却した。
(4)20.0℃で10分間静置した後、再び20.0℃にて波長190~250nmのCDスペクトル測定を行う。
【0029】
<測定結果>
図1は、CDスペクトル測定の実験において、コントロールAサンプル(リンゴ幼果抽出物無添加)についてCDスペクトル測定を行ったときの波長(nm)に対するθobs(mdeg)のチャートである。バツ印及びこれらを結ぶ曲線は、昇温前のチャートを示し、黒丸印及びこれらを結ぶ曲線は、加熱・冷却後のチャートを示す図である。
【0030】
図2は、CDスペクトル測定の実験において、実施例Aサンプル(リンゴ幼果抽出物添加)についてCDスペクトル測定を行ったときの波長(nm)に対するθobs(mdeg)のチャートである。バツ印及びこれらを結ぶ曲線は、昇温前のチャートを示し、黒丸印及びこれらを結ぶ曲線は、加熱・冷却後のチャートを示す図である。
【0031】
図3は、図1及び図2に示すコントロールAサンプルのチャート及び実施例Aサンプルのチャートにおける波長222nmでのθobs(θ222,obs)(mdeg)の加熱前と加熱・冷却後との間での変化を示す図である。
【0032】
天然状態のケラチンタンパク質はα-ヘリックス構造を多く含み、CD測定においてα-ヘリックス構造の含量は波長222nmのピーク強度によって議論することができる。
【0033】
図2に示されるように、測定・解析条件の(2)での昇温完了時(97.6~98.0℃)、(4)の測定時における222nmでのピーク強度を比較したところ、コントロールAでは、加熱時に低下したピーク強度の84.7%が加熱後の冷却により回復していたのに対し、実施例Aでは、上記調製したリンゴ幼果抽出物添加(原液1容量%含有)によって回復率は94.5%にまで増加した。すなわち、単純に加熱・冷却するだけでは再生しないα-ヘリックス構造のうち約64%がリンゴ幼果抽出物の添加により再生されたといえる。
【0034】
図3に示されるように、実施例Aサンプルにおけるθ222,obsの変化量は、コントロールAサンプルにおけるθ222,obsの変化量の約34%であった。
この結果から、リンゴ幼果抽出物存在下での加熱により、ヒト表皮由来ケラチンの構造変化が抑制される効果、及び/又はリンゴ幼果抽出物存在下での冷却により、ヒト表皮由来ケラチンの構造が回復する効果が得られることがわかった。
【0035】
図4は、CDスペクトル測定の実験において、コントロールAサンプル(リンゴ幼果抽出物無添加)及び実施例Aサンプル(リンゴ幼果抽出物添加)についてCDスペクトル測定を行ったときの温度(℃)に対するθ222,obs(mdeg)のチャートである。バツ印及びこれらを結ぶ曲線は、コントロールAサンプルのチャートを示し、黒丸印及びこれらを結ぶ曲線は、実施例Aサンプルのチャートを示す。
図4は、測定波長を222nmに固定して20.0~98.0℃までサンプルを昇温しながら測定して得られた熱変性曲線である。コントロールAとリンゴ幼果抽出物添加の実施例Aサンプルとの熱変性曲線の変曲点から熱変性温度(℃)を算出したところ、コントロールAでは39.28℃であったのに対しリンゴ幼果抽出物添加の実施例Aサンプルでは48.92℃であった。すなわちリンゴ幼果抽出物の添加によりケラチンタンパク質のα-ヘリックス構造の熱力学的安定性が向上することが示された。
【0036】
<2.顕微IR測定>
<測定方法>
測定装置:SPring-8 BL43IRにて湿度RH30%環境下とする調湿装置を用いた。
測定サンプル:市販ヒト皮膚から角層を剥離し10mm×10mm角のヒト皮膚由来角層シートを以下に示す各条件で処理したもの。
(1)未処理サンプル:特に処理をしなかったもの。
(2)(コントロールBサンプル):3%H22水溶液(pH 10.4)に20分間浸漬してダメージ処理を行い、その後水洗する処理を7回繰り返した後、25℃環境下で24時間乾燥させたもの。
(3)(実施例Bサンプル):上記のダメージ処理の後にリンゴ幼果抽出物水溶液(原液1質量%含有)に3時間浸漬し、その後25℃環境下で24時間乾燥させたもの。
測定・解析条件:アパーチャーサイズ約10μm×10μmとし、10μmステップ(各アパーチャー箇所の縦間隔及び横間隔がいずれも10μm)、積算回数512回で、X=5、Y=4の20箇所を測定した。測定結果はベースライン補正を行い、タンパク質のアミド結合に由来するアミドIモードのピーク面積(波数1806~1600cm-1)で規格化した水の総量(波数3620~3100cm-1)、結合水(波数3420~3245cm-1)、自由水(波数3620~3420cm-1)のピーク面積を算出した。
【0037】
<測定結果>
図5は、顕微IR測定の実験において、未処理サンプル、コントロールBサンプル(リンゴ幼果抽出物無添加)、実施例Bサンプル(リンゴ幼果抽出物添加)について顕微IR測定を行ったときのピーク面積(任意単位)を示すグラフである。
【0038】
表1に、図5に示される各ピーク面積の数値データを示す。
【0039】
【表1】
【0040】
IR測定における水のピーク(OH基由来のピーク)は大きく2つに分類される。1つは、構造に弱く結合し、湿度など外界の影響によって増減することの少ない結合水であり、もう1つは、湿度等の影響で容易に増減する自由水である。
今回酸化によるダメージ処理を行ったコントロールBサンプルでは、結合水、自由水ともに未処理サンプルに比べて減少したが、その後、リンゴ幼果抽出物を添加した実施例Bサンプルでは、結合水、自由水ともに未処理サンプルに近い水準にまで回復することが示された。また、実施例Bサンプルでは、コントロールBサンプルの場合と比較して、水の総量についても回復が見られた。すなわち、リンゴ幼果抽出物は、酸化ダメージにより低下する角層内の水分量を本質的に改善することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明によれば、リンゴ幼果抽出物の新たな用途を提供することができる。
図1
図2
図3
図4
図5