(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルムの製造方法及び金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20250408BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
B32B15/08 U
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2020153906
(22)【出願日】2020-09-14
【審査請求日】2023-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019178132
(32)【優先日】2019-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 哲平
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-065266(JP,A)
【文献】特開平02-138340(JP,A)
【文献】特開2006-192861(JP,A)
【文献】国際公開第2019/013169(WO,A1)
【文献】今井淑夫、横田力男,3.製膜方法によって左右される構造と物性 -面内配向と熱膨張特性,日本ポリイミド研究会編 最新ポリイミド~基礎と応用~,日本,株式会社エヌ・ティー・エス,2002年,p.113-123
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C08G73/00- 73/26
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の片面又は両面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板の製造方法であって、
前記絶縁樹脂層は、樹脂成分が非熱可塑性ポリイミドからなるポリイミド層を有するものであり、
ジアミン成分から誘導されるジアミン残基と、酸無水物成分から誘導される酸無水物残基と、を含有するポリアミド酸を金属箔の上に直接又は間接的に積層し、続く赤外線ヒータによる熱処理によってイミド化することによって前記ポリイミド層を形成する工程を含み、
前記非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が
50~99モル部の範囲内であり、下記の一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が1~50モル部の範囲内であることを特徴とする金属張積層板の製造方法。
【化1】
[式(1)において、連結基Zは単結合若しくは-COO-を示し、Yは独立にハロゲン原子若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1~3の1価の炭化水素基又は炭素数1~3のアルコキシ基、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、又はアルケニル基を示し、nは1又は2の整数を示し、p及びqは独立に0~4の整数を示す。]
【化2】
[式(2)において、Rは独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、Z
1
は独立に単結合、-O-、-S-、-CH
2
-、-CH(CH
3
)-、-C(CH
3
)
2
-、-CO-、-SO
2
-、又は-NH-から選ばれる2価の基を示し、n
3
は独立に0~4の整数、n
4
は1~2の整数を示す。但し、Z
1
の少なくとも1つは-O-、-S-、-CH
2
-、-CH(CH
3
)-、-C(CH
3
)
2
-、-CO-、-SO
2
-、又は-NH-から選ばれる2価の基を示す。]
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるジアミン化合物が、下記一般式(A1)で表されるジアミン化合物であることを特徴とする請求項
1に記載の金属張積層板の製造方法。
【化3】
[一般式(A1)において、Xは独立にフッ素原子で置換されてもよい炭素数1~3のアルキル基を示し、n
1及びn
2は独立に1~4の整数を示す。]
【請求項3】
前記非熱可塑性ポリイミドに含まれる全酸無水物残基の100モル部に対して、3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるBPDA残基が20~70モル部の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項4】
前記ポリイミド層は、熱膨張係数(CTE)が、20ppm/K未満であるとともに、23℃、湿度50%の条件下で、20時間調湿後の50mm角のポリイミドフィルムとしたときの中央部の凸面が平らな面上に接するように静置し、4角の浮き上がり量の平均値を平均反り量としたとき、平均反り量が15mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項5】
前記ポリイミド層の厚みが5~80μmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムの製造方法及び金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、高い絶縁性、寸法安定性、易成形性、軽量等の特徴を有するために、回路基板などの材料として電子、電気機器や電子部品に広く用いられている。ポリイミドは、一般に、フィルム状(ポリイミドフィルム)や、任意の基材に積層された層状(ポリイミド層)などの形態で用いられる。なお、本発明において「ポリイミドフィルム」には、ポリイミド層の状態も含むものとする。ポリイミドフィルムの形成方法として、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の樹脂溶液を基材上に塗布して塗布膜を形成し、この塗布膜を乾燥、イミド化することによってポリイミドフィルムを得る方法(いわゆるキャスト法)が知られている。
【0003】
キャスト法では、ポリアミド酸の溶液を基材に塗布し、乾燥、硬化させるため、溶媒の揮発は基材が存在しない表面側からのみであり、加えて、熱に直接さらされるのも基材が存在しない表面側からのみとなる。その為、熱に直接さらされる表面(表層部)においては、分子の配向やイミド化が進みやすく、形成されるポリイミドフィルムにおいて、厚み方向の配向分布に差が生じやすいという傾向があった。この傾向は特に配向が形成されやすい、すなわち、低熱膨張係数(CTE)化しやすい樹脂組成ほど顕著となる。
【0004】
特許文献1では、キャスト法によるポリアミド酸の塗布膜に対して短時間で均質なイミド化を行うために、遠赤外線を用いて熱硬化させることが提案されている。
【0005】
ところで、ポリイミドを用いた銅張積層板(CCL)においては、絶縁樹脂層をボトム層/ベース層/トップ層の3層構造とし、ボトム層やトップ層の厚みを意図的に変更することによって、ベース層に配向分布がある場合の反りの発生を抑制していた。その為、一定厚み以上のボトム層、トップ層を設ける必要があり、絶縁樹脂層の薄膜化や、ベース層を構成する樹脂の特性を重視した設計が困難となっていた。
【0006】
配向分布の評価としては、ポリイミドフィルム単膜での反りの評価が有効である。これは、厚み方向に配向分布が生じる事で、厚み方向のCTEにも分布が生じ、冷却時の熱収縮により反りが生じるためである。特許文献2では、高温加工性に優れ、接着性が良好なフレキシブル金属積層板として、特定の酸無水物成分とジアミン成分を原料に用いて得られる単層のポリイミド層を有するフレキシブル金属積層板が提案されているが、ポリイミド層の厚み方向の配向分布については、何ら考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-192861号公報
【文献】特開2010-53322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のとおり、キャスト法にて作製されるポリイミドフィルムは、低CTE化とフィルムの厚み方向の配向分布の均一化とが、トレード・オフの関係にあった。
従って、本発明の目的は、キャスト法によって、低CTE化とフィルムの厚み方向の配向分布の均一化とを両立させたポリイミドフィルムを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定の樹脂組成のポリアミド酸に対し、熱処理の手段として赤外線ヒータを用いてイミド化することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、ジアミン成分から誘導されるジアミン残基と、酸無水物成分から誘導される酸無水物残基と、を含有するポリアミド酸の溶液を基材上に塗布し、赤外線ヒータによる熱処理によってイミド化することによって、樹脂成分が非熱可塑性ポリイミドからなるポリイミドフィルムを形成する工程を含むポリイミドフィルムの製造方法である。そして、本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が50モル部以上であることを特徴とする。
【0011】
【0012】
式(1)において、連結基Zは単結合若しくは-COO-を示し、Yは独立にハロゲン原子若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1~3の1価の炭化水素基又は炭素数1~3のアルコキシ基、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、又はアルケニル基を示し、nは1又は2の整数を示し、p及びqは独立に0~4の整数を示す。
【0013】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、前記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が50~99モル部の範囲内であってもよく、下記の一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が1~50モル部の範囲内であってもよい。
【0014】
【0015】
式(2)において、Rは独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、Z1は独立に単結合、-O-、-S-、-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-CO-、-SO2-、又は-NH-から選ばれる2価の基を示し、n3は独立に0~4の整数、n4は0~2の整数を示す。但し、Z1の少なくとも1つは-O-、-S-、-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-CO-、-SO2-、又は-NH-から選ばれる2価の基を示す。
【0016】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記一般式(1)で表されるジアミン化合物が、下記一般式(A1)で表されるジアミン化合物であってもよい。
【0017】
【化3】
一般式(A1)において、Xは独立にフッ素原子で置換されてもよい炭素数1~3のアルキル基を示し、n
1及びn
2は独立に1~4の整数を示す。
【0018】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記非熱可塑性ポリイミドに含まれる全酸無水物残基の100モル部に対して、3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるBPDA残基が20~70モル部の範囲内であってもよい。
【0019】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、ポリイミドフィルムの熱膨張係数(CTE)が、20ppm/K未満であるとともに、23℃、湿度50%の条件下で、20時間調湿後の50mm角のポリイミドフィルムの中央部の凸面が平らな面上に接するように静置し、4角の浮き上がり量の平均値を平均反り量としたとき、平均反り量が15mm以下であってもよい。
【0020】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、ポリイミドフィルムの厚みが5~80μmの範囲内であってもよい。
【0021】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記熱処理が前記基材上で行われてもよい。
【0022】
本発明の金属張積層板の製造方法は、絶縁樹脂層と、この絶縁樹脂層の片面又は両面に積層された金属層と、を備えた金属張積層板の製造方法である。
本発明の金属張積層板の製造方法において、前記絶縁樹脂層は、樹脂成分が非熱可塑性ポリイミドからなるポリイミド層を有するものである。
また、本発明の金属張積層板の製造方法は、ジアミン成分から誘導されるジアミン残基と、酸無水物成分から誘導される酸無水物残基と、を含有するポリアミド酸を金属箔の上に直接又は間接的に積層し、続く赤外線ヒータによる熱処理によってイミド化することによって前記ポリイミド層を形成する工程を含んでいる。
そして、本発明の金属張積層板の製造方法は、前記非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が50モル部以上であることを特徴とする。
【0023】
【化4】
式(1)において、連結基Zは単結合若しくは-COO-を示し、Yは独立にハロゲン原子若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1~3の1価の炭化水素基又は炭素数1~3のアルコキシ基、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、又はアルケニル基を示し、nは1又は2の整数を示し、p及びqは独立に0~4の整数を示す。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、特定の樹脂組成のポリアミド酸に対し、熱処理の手段として赤外線ヒータを用いてイミド化することによって、ポリイミドフィルムの低CTE化と、配向分布の均一化とを両立させることが可能となる。また、本発明方法は、例えばCCL用の単層ポリイミドフィルム、POP(パッケージ・オン・パッケージ)用の単層ポリイミドフィルム、セミアディティブ(SAP)用の単層ポリイミドフィルム等の製造にも適用可能である。従って、本発明方法は、特に、工業的規模のポリイミドフィルムの製造プロセスにおいて有用であり、利用価値が高い。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施の形態に係るポリイミドフィルムの製造方法は、
(1)基材にポリアミド酸溶液を塗布することによって塗布膜を形成する塗布膜形成工程、
(2)塗布膜に対し熱処理を行って乾燥させる第1の熱処理工程、
(3)乾燥後の塗布膜に対し赤外線ヒータによる熱処理を行ってポリアミド酸をイミド化してポリイミドフィルムを形成する第2の熱処理工程、
を含むことができる。
【0026】
複数のポリイミド層を積層する場合は、第2の熱処理工程の前に、塗布膜形成工程と第1の熱処理工程を繰り返し実施することができる。すなわち、基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布し、乾燥することを複数回繰り返し、複数の塗布膜を積層した状態としてから、第2の熱処理工程を実施し、複数の塗布膜中のポリアミド酸を一括してイミド化することが好ましい。この場合、複数のポリイミド層の中の1層が、本実施の形態の方法により製造されるポリイミドフィルムであればよい。
【0027】
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0028】
[塗布膜形成工程]
塗布膜形成工程では、基材にポリアミド酸溶液を塗布することによって塗布膜を形成する。
【0029】
基材としては、例えば、銅箔などの金属箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等を用いることができる。
【0030】
ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸は、例えば、原料モノマーである酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることによって得られる。
【0031】
原料モノマーである酸二無水物とジアミン化合物については、後述する非熱可塑性ポリイミドの説明で挙げるものを使用することができる。原料モノマーの組成比については、非熱可塑性ポリイミドに含まれている酸無水物残基とジアミン残基の組成比と同じである。なお、本発明において、酸無水物残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを表し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを表す。
【0032】
ポリアミド酸の重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0033】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することができるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。これらの中のいずれも、本実施の形態のポリアミド酸の溶液として用いることができる。
【0034】
ポリアミド酸の溶液中には、必要に応じてフィラーを含有してもよい。好ましいフィラーとしては、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0035】
ポリアミド酸の溶液を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターを用いることが好ましい。
【0036】
ポリアミド酸の溶液の粘度は、例えば500cps~100,000cpsの範囲内とすることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0037】
塗布膜形成工程における塗布膜の厚みは、最終的に得られるポリイミドフィルムの膜厚に応じて適宜設定できるため特に限定されないが、イミド化後の厚み(つまり、ポリイミドフィルムの厚み)として、好ましくは5~80μmの範囲内、より好ましくは25~50μmの範囲内となるように塗布することがよい。
【0038】
[第1の熱処理工程]
第1の熱処理工程では、塗布膜に対し熱処理を行って溶媒を乾燥させる工程である。
第1の熱処理工程における加熱手段としては、塗布膜を所定温度まで加熱できるものであれば特に制限はなく、例えば、熱風による加熱乾燥(熱風乾燥)、赤外線ヒータによる加熱乾燥などが好ましい。第1の熱処理工程における条件として、加熱温度は、例えば80~160℃の範囲内が好ましく、加熱時間は30秒間~6分間の範囲内が好ましい。
なお、本明細書において「熱処理温度」や「加熱温度」は、特に断りのない限り、熱処理容器中の基材温度を意味する。
【0039】
[第2の熱処理工程]
第2の熱処理工程は、乾燥後の塗布膜に対し熱処理を行い、ポリアミド酸をイミド化して樹脂成分がポリイミドからなるポリイミドフィルムを形成する。本工程における熱処理は、赤外線ヒータを用いる。赤外線は、塗布膜の厚さ方向に均一な加熱が可能であることから、塗布膜の厚み方向に均一にイミド化が進行していく。そのため、熱風のように塗布膜の表面側からイミド化が進行し、厚み方向の配向分布に差が生じることがない。従って、赤外線ヒータを用いることによって、ポリイミドフィルムの配向分布の均一化を図ることができる。また、赤外線ヒータは、省スペースであり、短時間で厚み方向にむらなく加熱することが可能である。
【0040】
赤外線の波長は、塗布膜のエネルギー吸収を効率的に行う観点から、最大放射エネルギー波長として、例えば1~8μmの範囲内が好ましく、4~6μmの範囲内がより好ましい。最大放射エネルギー波長が上記範囲外ではイミド化の効率が低下することがある。
【0041】
第2の熱処理工程における条件として、加熱温度は、例えば100~450℃の範囲内が好ましく、120~400℃の範囲内がより好ましい。また、熱処理の時間は、塗布膜の厚みにより適宜設定すればよく、上記の加熱温度で、例えば3時間以内で完結することが好ましく、60分間以内で完結させることがより好ましい。また、熱処理は、上記温度範囲内で段階的に昇温させて行うことが好ましい。
【0042】
なお、本工程では、基材上でポリアミド酸のイミド化を行うことが好ましい。ポリアミド酸の塗布膜が基材に固定された状態でイミド化されるので、形成されるポリイミドフィルムの伸縮変化を抑制して、ポリイミドフィルムの厚みや寸法精度を維持することができる。
【0043】
以上の工程により得られるポリイミドフィルムは、樹脂成分が以下に説明する非熱可塑性ポリイミドからなり、低CTEであり、かつ、反りが抑制されたものである。なお、本実施の形態の方法により製造されるポリイミドフィルムは単層であり、複数のポリイミド層が積層された構造とする場合は、複数のポリイミド層の中の1層が、本実施の形態の方法により製造されるポリイミドフィルムであればよい。
【0044】
<非熱可塑性ポリイミド>
ポリイミドフィルムを構成する非熱可塑性ポリイミドは、そこに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を50モル部以上含有する。
【0045】
【0046】
式(1)において、連結基Zは単結合若しくは-COO-を示し、Yは独立にハロゲン原子若しくはフェニル基で置換されてもよい炭素数1~3の1価の炭化水素基又は炭素数1~3のアルコキシ基、又は炭素数1~3のパーフルオロアルキル基、又はアルケニル基を示し、nは1又は2の整数を示し、p及びqは独立に0~4の整数を示す。なお、「ジアミン化合物」は、末端の二つのアミノ基における水素原子が置換されていてもよく、例えば-NR1R2(ここで、R1,R2は、独立にアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0047】
一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、秩序構造を形成しやすく、低CTE化することから寸法安定性を高めることができる。また、ベンゼン環を2つ以上含むことから、イミド基濃度を下げ、低吸湿化に寄与する事も寸法安定性を高める上で有利な点である。このような観点から、一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、60~100モル部の範囲内で含有することが好ましい。一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が50モル部未満ではCTEが増大し、寸法安定性が悪化する。
【0048】
一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の好ましい具体例としては、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EB)、2,2’-ジエトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EOB)、2,2’-ジプロポキシ-4,4’-ジアミノビフェニル(m-POB)、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、2,2’-ジビニル-4,4’-ジアミノビフェニル(VAB)、4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノ-2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、4、4''―ジアミノ-p-テルフェニル(DATP)等のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。これらの中でも、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-EB)、4,4’‐ジアミノ‐2,2’‐ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、4、4''-ジアミノ-p-テルフェニル(DATP)が好適なものとして挙げられ、特に、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)は、秩序構造を形成しやすく、かつイミド基濃度を下げ、吸湿率を下げることから最も好ましい。
【0049】
また、一般式(1)で表されるジアミン化合物が、下記一般式(A1)で表されるジアミン化合物であることがより好ましい。
【0050】
【0051】
一般式(A1)において、Xは独立にフッ素原子で置換されてもよい炭素数1~3のアルキル基を示し、n1及びn2は独立に1~4の整数を示す。
【0052】
一般式(A1)で表されるジアミン化合物は、ビフェニル骨格を有し、かつ側鎖に分子の運動抑制に効果的な置換基を有するため、ポリイミドフィルムの低CTE化に寄与する。また、全ジアミン残基の100モル部に対して、一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の含有量を50モル部以上含有する樹脂組成によって、分子の配向が進み過ぎることがないため、赤外線ヒータによる熱処理によって、低CTE化と配向分布の低減による反りの抑制を両立することができる。
【0053】
また、非熱可塑性ポリイミドは、下記の一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含有することが好ましい。
【0054】
【0055】
式(2)において、Rは独立に、ハロゲン原子、又は炭素数1~6のハロゲン原子で置換されてもよいアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数1~6の1価の炭化水素基若しくはアルコキシ基で置換されてもよいフェニル基若しくはフェノキシ基を示し、Z1は独立に単結合、-O-、-S-、-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-CO-、-SO2-、又は-NH-から選ばれる2価の基を示し、n3は独立に0~4の整数、n4は0~2の整数を示す。但し、Z1の少なくとも1つは-O-、-S-、-CH2-、-CH(CH3)-、-C(CH3)2-、-CO-、-SO2-、又は-NH-から選ばれる2価の基を示す。
【0056】
一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、屈曲性の部位を有するので、ポリイミドフィルムに柔軟性を付与することができる。このような観点から、一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基は、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、1~50モル部の範囲内で含有することが好ましく、1~40モル部の範囲内で含有することがより好ましい。一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を、50モル部を超えて含有するとCTEが増大し、寸法安定性が悪化する。また、含有量が1モル部未満の場合は柔軟性が悪化することから、屈曲特性が悪化する。また、非熱可塑性ポリイミドが、上記一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基と、一般式(2)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の両方を含有する場合は、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全ジアミン残基の100モル部に対して、一般式(1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の含有量を50~99モル部の範囲内とすることがより好ましく、60~99モル部の範囲内とすることが最も好ましい。
【0057】
一般式(2)で表されるジアミン化合物の好ましい具体例としては、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DAPE)、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン、1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,4-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)等が挙げられる。これらの中でも,一般式(2)中のn3が0であるものが好ましく、例えば4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(4,4’-DAPE)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,4-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-Q)、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン(BAPP)が好ましい。
【0058】
ただし、本発明の目的を阻害しない限り、ポリイミドの原料として通常用いられる他のジアミンを併用することも可能である。他のジアミンとしては、例えば、p‐フェニレンジアミン(p-PDA)、m‐フェニレンジアミン(m-PDA)等が挙げられる。
【0059】
非熱可塑性ポリイミドに含まれる酸無水物残基としては、特に制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導される酸無水物残基(以下、PMDA残基ともいう)が好ましく挙げられる。PMDA残基は酸無水物残基の中でもベンゼン環数が一つである事からイミド基濃度を高くする事ができ、低CTE化する上で有利な酸無水物残基である。また、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導される酸無水物残基(以下、BPDA残基ともいう。)も好ましく挙げられる。BPDA残基は、ビフェニル構造を有し秩序構造を形成しやすく、低CTE化する事ができ、かつPMDA残基と比較し、イミド基濃度を下げ、低吸湿化に寄与する事から寸法安定性を高める上で有利な酸無水物となる。また、ベンゼン環を2つ以上含むことから、イミド基濃度を下げ、低吸湿化に寄与する事も寸法安定性を高める上で有利な点である。
特に、非熱可塑性ポリイミドに含まれる全酸無水物残基の100モル部に対して、BPDA残基を好ましくは20~70モル部の範囲内、より好ましくは20~50モル部の範囲内で含有することがよい。BPDA残基の含有量が20モル部未満では、吸湿率が悪化し、寸法安定性が悪化する傾向となる。BPDA残基の含有量が70モル部を超えると、CTEが増大し、寸法安定性が悪化する傾向となる。
【0060】
非熱可塑性ポリイミドに含まれる他の酸無水物残基としては、例えば、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される酸無水物残基が挙げられる。
【0061】
上記酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合、それぞれのモル比を選定することにより、非熱可塑性ポリイミドの熱膨張性、配向性等の物性を制御することができる。
【0062】
また、非熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0063】
非熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、35重量%以下であることが好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)2-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が35重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化する。上記酸無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、非熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0064】
非熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、ポリイミドフィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際に厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0065】
<CTE>
本実施の形態の方法により製造されるポリイミドフィルムは、上記樹脂組成のポリアミド酸に対して赤外線ヒータによる加熱を行うことによって、低CTE化が実現されている。ポリイミドフィルムのCTEは、20ppm/K未満であることが好ましく、18ppm/K以下であることがより好ましい。CTEが20ppm/K以上であると、例えば、ポリイミドフィルムを金属層と複合化して金属張積層板としたときに反りが発生しやすくなったり、金属層をエッチングしてパターニングしたときの寸法安定性が低下したりする。
【0066】
<反り>
本実施の形態の方法により製造されるポリイミドフィルムは、上記樹脂組成のポリアミド酸に対して赤外線ヒータによる加熱を行うことによって、配向分布が均一化されており、反りが効果的に低減されている。ポリイミドフィルムの反りは、例えば、23℃、湿度50%の条件下で、20時間調湿後の50mm角のポリイミドフィルムの中央部の凸面が平らな面上に接するように静置し、4角の浮き上がり量の平均値を平均反り量としたとき、平均反り量が15mm以下であり、好ましくは10mm以下である。
【0067】
<厚み>
本実施の形態の方法により製造されるポリイミドフィルムの厚みは、回路基板の絶縁層として使用する際の絶縁性の観点から、好ましくは5~80μmの範囲内、より好ましくは25~50μmの範囲内である。なお、本実施の形態の方法により製造されるポリイミドフィルムは、必要に応じて他の樹脂層との積層構造にすることができる。
【0068】
本実施の形態の方法によって製造されるポリイミドフィルムは、低CTEであり、かつ、反りが抑制されていることから、例えばCCL用の単層ポリイミドフィルム、POP(パッケージ・オン・パッケージ)用の単層ポリイミドフィルム、セミアディティブ(SAP)用の単層ポリイミドフィルム等の用途に好ましく利用できる。
従って、本実施の形態の方法は、特に、工業的規模のポリイミドフィルムの製造プロセスにおいて有用であり、利用価値が高いものである。
【0069】
[金属張積層板]
本実施の形態の金属張積層板は、絶縁樹脂層と、該絶縁樹脂層の少なくとも一方の面に設けられている金属層と、を備えており、絶縁樹脂層の一部分又は全部をなすポリイミド層が、上記実施の形態の製造方法によって得られるポリイミドフィルムによって形成されていればよい。
【0070】
金属層の材質としては、特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等が挙げられる。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。なお、後述する回路基板における配線層の材質も金属層と同様である。
【0071】
金属層の厚みは特に限定されるものではないが、例えば銅箔に代表される金属箔を用いる場合、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5~25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から金属箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔を用いる場合は、圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0072】
また、金属箔は、例えば、防錆処理や、接着力の向上を目的として、例えばサイディング、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等による表面処理を施しておいてもよい。
【0073】
[回路基板]
上記実施の形態の金属張積層板は、主にFPCなどの回路基板材料として有用である。すなわち、金属張積層板の金属層を常法によってパターン状に加工して配線層を形成することによって、回路基板を製造できる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0075】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
熱膨張係数は、3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から250℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0076】
[貯蔵弾性率の測定]
貯蔵弾性率は、5mm×20mmサイズのポリイミドフィルムを、120℃のオーブンで2時間、170℃で3時間加熱し、動的粘弾性装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、昇温速度4℃/分で30℃から400℃まで段階的に加熱し、周波数11Hzで測定を行った。30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、350℃における貯蔵弾性率が1.0×108Pa以上であるポリイミドを非熱可塑性とし、30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、350℃における貯蔵弾性率が1.0×108Pa未満であるポリイミドを熱可塑性とする。
【0077】
[反りの測定]
ポリイミドフィルムの反りは、50mm×50mmのサイズのポリイミドフィルムを23℃、湿度50%の条件下で20時間調湿後、サンプルの中央部の凸面が平らな面上に接するよう静置し、サンプルの4角について静置面からの距離を計測し、その平均値を平均反り量とした。
【0078】
[銅箔の表面粗度の測定]
銅箔の表面粗度は、AFM(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:Dimension Icon型SPM)、プローブ(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:TESPA(NCHV)、先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m )を用いて、タッピングモードで、銅箔表面の80μm×80μmの範囲について測定し、十点平均粗さ(Rzjis)を求めた。
【0079】
実施例及び参考例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
m-TB:2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル
DAPE:4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
TFMB:2,2’ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン
TPE-R:1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン
p-PDA:p‐フェニレンジアミン
BAPP:2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
【0080】
(合成例1)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、14.472gのDAPE(0.0723モル)、及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、15.528gのPMDA(0.0712モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液1を調製した。
【0081】
(合成例2)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、8.139gのDAPE(0.0407モル)、4.296gのp‐PDA(0.0407モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、17.466gのPMDA(0.0801モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液2を調製した。
【0082】
(合成例3)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、8.995gのp‐PDA(0.0832モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、12.07gのBPDA(0.041モル)と8.935gのPMDA(0.041モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液3を調製した。
【0083】
(合成例4)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、7.385gのDAPE(0.0369モル)、3.988gのp‐PDA(0.03688モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、10.704gのBPDA(0.0363モル)と7.923gのPMDA(0.0363モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液4を調製した。
【0084】
(合成例5)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、2.883gのDAPE(0.0144モル)、6.227gのp‐PDA(0.0576モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、20.891gのBPDA(0.0709モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液5を調製した。
【0085】
(合成例6)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、7.13gのDAPE(0.0356モル)、7.571gのm‐TB(0.0356モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、15.3gのPMDA(0.0701モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液6を調製した。
【0086】
(合成例7)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、1.947gのTPE-R(0.0066モル)、12.745gのm‐TB(0.0599モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、3.86gのBPDA(0.0131モル)と11.447gのPMDA(0.0525モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液7を調製した。
【0087】
(合成例8)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、13.707gのm‐TB(0.0646モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、9.356gのBPDA(0.0318モル)と6.936gのPMDA(0.0318モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液8を調製した。
【0088】
(合成例9)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、6.299gのDAPE(0.0315モル)、10.087gのTFMB(0.0315モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、13.613gのPMDA(0.0624モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液9を調製した。
【0089】
(合成例10)
窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに、固形分濃度が15重量%となるように、26.44gのBAPP(0.0636モル)及び170gのDMAcを投入し、室温で撹拌して溶解させた。次に、18.56gのBPDA(0.063モル)を添加した後、室温で3時間撹拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液10を調製した。
【0090】
(参考例1)
銅箔1(電解銅箔、厚さ;12μm、Rzjis;0.6μm)にポリアミド酸溶液1を硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥し、ポリアミド酸の塗布膜を形成した。その後、塗布膜を130℃から360℃まで赤外線ヒータを用いて、最大放射エネルギー波長;3~7μmの条件で段階的な熱処理を行い、15分以内にイミド化を完結した。塩化第二鉄水溶液を用いて、銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム1(非熱可塑性、CTE;40.4ppm/K)を調製した。ポリイミドフィルム1の反りの評価では、反りが大きく筒状になり反りの測定が不可能であった。結果を表1に示す。
【0091】
(参考例2~5、実施例1~4)
表1に示すポリアミド酸溶液を用いた以外は、参考例1と同様にして、ポリイミドフィルム2~9を調製した。ポリイミドフィルム2~9についてCTE及び反りの測定を行い、これらの結果を表1に示す。
【0092】
以上の結果をまとめて表1に示す。なお、表1中の「反り」において、筒状になり測定できないサンプルは「大」と表示した。
【0093】
【0094】
表1の結果より、ジアミン成分として、全ジアミン残基の100モル部に対してm-TBを50モル部以上含む実施例1~3のポリイミドフィルム6~8及びTFMBを50モル部以上含む実施例4のポリイミドフィルム9は、いずれもCTEが20ppm/Kを下回り、反りも15mmを下回っていることが判る。従って、これらのジアミン化合物を使用したポリアミド酸を赤外線ヒータにより硬化することで、銅箔上に積層したポリイミド層の厚み方向におけるポリイミドの配向状態の勾配が小さくなり、ポリイミド層の低CTE化と反りの抑制を実現することが確認された。
【0095】
(参考例6)
ポリアミド酸溶液7を使用し、参考例1と同様にして、ポリアミド酸の塗布膜を形成した。その後、塗布膜を130℃から360℃まで熱風硬化炉を用いて熱処理を行い、15分以内にイミド化を完結した。参考例1と同様にして、銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルム10(非熱可塑性、CTE;16.8ppm/K)を調製した。ポリイミドフィルム10の反りは16mmであった。
【0096】
(実施例5)
銅箔1にポリアミド酸溶液10を硬化後の厚みが2.5μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥した。その上にポリアミド酸溶液7を硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥した。更に、その上にポリアミド酸溶液10を硬化後の厚みが2.5μmとなるように均一に塗布した後、130℃で加熱乾燥し、ポリアミド酸の塗布膜を形成した。その後、塗布膜を130℃から360℃まで赤外線ヒータを用いて、最大放射エネルギー波長;3~7μmの条件で段階的な熱処理を行い、15分以内にイミド化を完結し、金属張積層板10を調製した。
【0097】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。