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特許7662511マスクブランク用基板、導電膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】マスクブランク用基板、導電膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/60 20120101AFI20250408BHJP
   G03F 1/24 20120101ALI20250408BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20250408BHJP
   C03C 17/22 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
G03F1/60
G03F1/24
C03C17/36
C03C17/22 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021509467
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020013139
(87)【国際公開番号】W WO2020196555
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2019063692
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】楢原 秀明
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-107007(JP,A)
【文献】特開2005-301304(JP,A)
【文献】国際公開第2017/169973(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0057064(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/20-1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面形状が略四角形であり、大きさが152mm×152mmであるマスクブランク用基板であって、
転写パターンが形成される側の面である第1の主表面と、前記第1の主表面に対向し、露光装置のマスクステージに固定される側の面である第2の主表面とを備え、
前記第1の主表面は、中心側に位置する第1の領域と、前記第1の領域の外側に位置する第2の領域を備えており、
前記第2の主表面は、中心側に位置する第3の領域と、前記第3の領域の外側に位置する第4の領域を備えており、
前記第1の領域の最小二乗平面と、前記第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満であり、
前記第2の領域及び前記第4の領域の表面のPV値が400nm以下であり、
前記第2の領域の前記PV値が、前記第1の領域の最小二乗平面を基準とした、前記第2の領域の平面の一番高い点から一番低い点の高低差を表す数値の絶対値であり、
前記第4の領域の前記PV値が、前記第3の領域の最小二乗平面を基準とした、前記第4の領域の平面の一番高い点から一番低い点の高低差を表す数値の絶対値であり、
前記第1の領域は、前記転写パターンが形成される領域であり、前記基板の中心を基準とした132mm×132mm以上の大きさを有し、
前記第3の領域は、前記基板の中心を基準とした142mm×142mm以上の大きさを有し、
前記第2の領域及び前記第4の領域は、前記基板の中心を基準とした148mm×148mmの領域の外側の領域である、マスクブランク用基板。
【請求項2】
前記第1の領域の平坦度は、100nm以下である、請求項1に記載のマスクブランク用基板。
【請求項3】
前記第3の領域の平坦度は、100nm以下である、請求項1または2に記載のマスクブランク用基板。
【請求項4】
前記角度αは、0.8°未満である、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のマスクブランク用基板。
【請求項5】
前記PV値は、310nm以下である、請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載のマスクブランク用基板。
【請求項6】
前記マスクブランク用基板は、反射型マスクブランク用基板である、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載のマスクブランク用基板。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちいずれか1項に記載のマスクブランク用基板の第2の主表面上に、導電膜を有する導電膜付き基板。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうちいずれか1項に記載のマスクブランク用基板の第1の主表面上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜を有する多層反射膜付き基板。
【請求項9】
請求項8に記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜上に、転写パターンとなる吸収体膜を有する反射型マスクブランク。
【請求項10】
請求項9に記載の反射型マスクブランクにおける前記多層反射膜上に、前記吸収体膜がパターニングされた吸収体パターンを有する反射型マスク。
【請求項11】
請求項10に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィープロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有する半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクブランク用基板、導電膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置の製造工程では、フォトリソグラフィ法を用いて微細パターンの形成が行われる。この微細パターンの形成には、通常何枚ものフォトマスクと呼ばれている転写用マスクが使用される。この転写用マスクは、一般に透光性のガラス基板上に、金属薄膜等からなる微細パターンを設けたものであり、この転写用マスクの製造においても、フォトリソグラフィ法が用いられている。
【0003】
フォトリソグラフィ法による転写用マスクの製造には、ガラス基板等の透光性基板上に転写パターン(マスクパターン)を形成するための薄膜(例えば遮光膜など)を有するマスクブランクが用いられる。このマスクブランクを用いた転写用マスクの製造方法は、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、所望のパターン描画を施す描画工程と、描画後、前記レジスト膜を現像して所望のレジストパターンを形成する現像工程と、このレジストパターンをマスクとして前記薄膜をエッチングするエッチング工程と、残存するレジストパターンを剥離除去する工程とを有している。上記現像工程では、マスクブランク上に形成されたレジスト膜に対し、所望のパターンを描画した後、現像液を供給する。これにより、現像液に可溶なレジスト膜の部位が溶解するため、レジストパターンが形成される。上記エッチング工程では、このレジストパターンをマスクとして、ドライエッチング又はウェットエッチングによって、レジストパターンによって被覆されていない薄膜が露出した部位を除去する。これにより、所望のマスクパターンを透光性基板上に形成する。
【0004】
転写用マスクの種類としては、従来の透光性基板上にクロム系材料からなる遮光膜パターンを有するバイナリー型マスクのほかに、位相シフト型マスクが知られている。この位相シフト型マスクは、透光性基板と、透光性基板上に形成された位相シフト膜を有する。この位相シフト膜は、所定の位相差を有するものであり、例えばモリブデンシリサイド化合物を含む材料等によって形成される。また、モリブデン等の金属のシリサイド化合物を含む材料を遮光膜として用いるバイナリー型マスクも用いられるようになってきている。これら、バイナリー型マスク、位相シフト型マスクを総称して、本明細書では透過型マスクと称する。また、透過型マスクに使用される原版であるバイナリー型マスクブランク、位相シフト型マスクブランクを総称して、透過型マスクブランクと称する。
【0005】
また、近年、半導体産業において、半導体デバイスの高集積化に伴い、従来の紫外光を用いたフォトリソグラフィ法の転写限界を上回る微細パターンが必要とされてきている。このような微細パターンの形成を可能とするため、極紫外(Extreme Ultra Violet:以下、「EUV」と呼ぶ。)光を用いた露光技術であるEUVリソグラフィーが有望視されている。ここで、EUV光とは、軟X線領域又は真空紫外線領域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2~100nm程度の光のことである。このEUVリソグラフィーにおいて用いられる転写用マスクとして、反射型マスクが提案されている。このような反射型マスクは、基板上に露光光を反射する多層反射膜が形成され、該多層反射膜上に露光光を吸収する吸収体膜が形成されたものである。反射型マスクの吸収体膜には、転写パターンが形成されている。
【0006】
特許文献1には、基板上に、露光光を反射する多層反射膜と、該多層反射膜上に形成された露光光を吸収する吸収体層とを有する反射型マスクブランクであって、前記マスクブランクの転写パターンが形成された面とは反対側の面の形状が、凸面を有する形状であることを特徴とする反射型マスクブランクが開示されている。この反射型マスクブランクによれば、静電チャックにより反射型マスクを露光装置のマスクステージに固定する際の吸着不良の問題を解消できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-103481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
反射型マスクを用いて転写パターンを半導体基板等の被転写体に転写する際には、反射型マスクは、露光装置のマスクステージ上に、転写パターンが形成された側の面を下向きにした状態でセットされる。反射型マスクの転写パターンが形成された側とは反対側の面(裏面)には、反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電チャックによって吸着するための導電膜が形成されている。
【0009】
したがって、反射型マスクが露光装置のマスクステージにセットされると、反射型マスクの裏面のほぼ全面が、静電チャックによって露光装置のマスクステージに吸着された状態となる。露光装置のマスクステージは平坦である一方、反射型マスクの裏面は完全には平坦ではなく、凹凸が存在する。そのため、反射型マスクの裏面の凹凸形状は、反射型マスクの転写パターンが形成された側の面(表面)に転写される。
【0010】
例えば、反射型マスクの裏面に凸形状が存在すると、その凸形状がマスクステージによって下方に押し付けられることにより、その凸形状の位置に対向する反射型マスクの表面が、その凸形状の高さの分だけ下方に変形する。
【0011】
反対に、例えば、反射型マスクの裏面に凹形状が存在すると、その凹形状の分だけ反射型マスクがマスクステージに向かって上方に引き上げられるため、その凹形状の位置に対向する反射型マスクの表面が、その凹形状の深さの分だけ上方に変形する。
【0012】
このように、従来の反射型マスクは、露光装置のマスクステージにセットされる前後で、転写パターンが形成された側の主表面の形状が変化してしまうため、半導体基板等の被転写体に転写パターンを正確に転写することが困難であるという問題があった。
【0013】
このような問題を解決するために、マスクブランク用基板(あるいは、反射型マスクブランク、反射型マスク)の表面及び裏面の形状を表面形状測定装置によって予め測定し、測定によって得られたデータから、シミュレーションによって露光装置のマスクステージにセットされた後のマスクブランク用基板(あるいは、反射型マスクブランク、反射型マスク)の表面形状を算出することが考えられる。マスクステージにセットされた後のマスクブランク用基板(あるいは、反射型マスクブランク、反射型マスク)の表面形状をシミュレーションによって予め知ることができれば、描画装置によって描画される転写パターンの形状に補正を加えることによって、反射型マスクが露光装置のマスクステージにセットされた後の転写パターンの形状が所望の形状となるように制御できる。
【0014】
しかし、マスクブランク用基板の表面及び裏面は、完全には平行になっていない。このため、従来のマスクブランク用基板では、表面形状測定装置によって測定した表面の形状データと、裏面の形状データとを正確に対応させることが困難であった。
【0015】
すなわち、表面形状測定装置によってマスクブランク用基板(あるいは、反射型マスクブランク、反射型マスク)の表面形状を測定する際には、その表面をグリッド状に複数の領域(例えば197μm×197μmの領域)に分割して、分割した領域毎に表面の形状を測定する。しかし、マスクブランク用基板の表面及び裏面は完全には平行になっていないため、表面のある領域で測定された形状データと、その領域に対向する位置で測定された裏面の形状データとを正確に対応させることが困難であった。このため、マスクステージにセットされた後のマスクブランク用基板(あるいは、反射型マスクブランク、反射型マスク)の表面形状を、シミュレーションによって正確に算出することが困難であった。
【0016】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、露光装置のマスクステージにセットされた後の表面形状を正確に算出することのできるマスクブランク用基板、導電膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、反射型マスク、及び半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
(1)平面形状が略四角形であり、大きさが152mm×152mmであるマスクブランク用基板であって、
転写パターンが形成される側の面である第1の主表面と、前記第1の主表面に対向し、露光装置のマスクステージに固定される側の面である第2の主表面とを備え、
前記第1の主表面は、中心側に位置する第1の領域と、前記第1の領域の外側に位置する第2の領域を備えており、
前記第2の主表面は、中心側に位置する第3の領域と、前記第3の領域の外側に位置する第4の領域を備えており、
前記第1の領域の最小二乗平面と、前記第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満であり、
前記第2の領域及び前記第4の領域の表面のPV値が400nm以下である、マスクブランク用基板。
【0018】
(2)前記第1の領域は、前記転写パターンが形成される領域であり、前記基板の中心を基準とした132mm×132mm以上の大きさを有する、(1)に記載のマスクブランク用基板。
【0019】
(3)前記第3の領域は、前記基板の中心を基準とした142mm×142mm以上の大きさを有する、(1)または(2)に記載のマスクブランク用基板。
【0020】
(4)前記第2の領域及び前記第4の領域は、前記基板の中心を基準とした148mm×148mmの領域の外側の領域である、(1)から(3)のうちいずれかに記載のマスクブランク用基板。
【0021】
(5)前記マスクブランク用基板は、反射型マスクブランク用基板である、(1)から(4)のうちいずれかに記載のマスクブランク用基板。
【0022】
(6)(1)から(5)のうちいずれかに記載のマスクブランク用基板の第2の主表面上に、導電膜を有する導電膜付き基板。
【0023】
(7)(1)から(6)のうちいずれかに記載のマスクブランク用基板の第1の主表面上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜を有する多層反射膜付き基板。
【0024】
(8)(7)に記載の多層反射膜付き基板の前記多層反射膜上に、転写パターンとなる吸収体膜を有する反射型マスクブランク。
【0025】
(9)(8)に記載の反射型マスクブランクにおける前記多層反射膜上に、前記吸収体膜がパターニングされた吸収体パターンを有する反射型マスク。
【0026】
(10)(9)に記載の反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィープロセスを行い、被転写体上に転写パターンを形成する工程を有する半導体装置の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】マスクブランク用基板の斜視図である。
図2】マスクブランク用基板の部分断面図である。
図3】第1の主表面の平面図である。
図4】第2の主表面の平面図である。
図5】平面を回転させたとき、その平面上の点が移動する距離の最大値を計算するための模式図である。
図6】多層反射膜付き基板を示す模式図である。
図7】反射型マスクブランクを示す模式図である。
図8】反射型マスクを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
[マスクブランク用基板]
まず、本実施形態のマスクブランク用基板について説明する。
図1は、本実施形態に係るマスクブランク用基板10を示す斜視図である。図2は、本実施形態のマスクブランク用基板10の部分断面図である。
【0029】
マスクブランク用基板10(以下、単に基板10と称することがある。)は、大きさが152mm×152mmの略四角形(好ましくは正方形)の板状体からなる。マスクブランク用基板10は、2つの主表面12a、12bと、4つの端面14a~14dを有する。本明細書では、転写パターンとなる薄膜が形成される側の面を、第1の主表面12aと呼ぶ。第1の主表面12aに対向し、露光装置のマスクステージに静電チャックされる側の面を、第2の主表面12bと呼ぶ。
【0030】
なお、本明細書において、「上」とあるのは、必ずしも鉛直方向における上側を意味するものではない。また、「下」とあるのは、必ずしも鉛直方向における下側を意味するものではない。これらの用語は、部材や部位の位置関係の説明のために便宜的に用いられているに過ぎない。
【0031】
4つの端面14a~14dは、略四角形の第1の主表面12a及び第2の主表面12bの4つの辺にそれぞれ隣接している。
4つの端面14a~14dは、ぞれぞれ、側面16と、側面16と主表面12a、12bとの間に形成された2つの面取り面18a、18b(図2参照)とを有する。
【0032】
側面16は、2つの主表面12a、12bに略垂直な面であり、「T面」と呼ばれることがある。
面取り面18a、18bは、2つの主表面12a、12bと側面16との間に形成された面であり、斜めに面取りされることで形成された面である。面取り面18a、18bは、「C面」と呼ばれることがある。
【0033】
図3は、第1の主表面12aの平面図である。
図3に示すように、第1の主表面12aは、基板10の中心側に位置する第1の領域20aと、第1の領域20aの外側に位置する第2の領域20bを備えている。
【0034】
第1の領域20aは、略四角形の領域であり、132mm×132mm以上の大きさを有している。「132mm×132mm」は、マスクブランク用基板10を用いて転写用マスク(例えば反射型マスク)を製造したときに、薄膜に転写パターンが形成される領域の大きさである。「132mm×132mm」は、基板10の中心を基準とする1辺が132mmの正方形の領域の大きさである。なお、以下の領域の記載についても、基板10の中心を基準とした大きさを示す。
第1の領域20aの平坦度は、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。平坦度とは、最小二乗平面を基準とした、平面の一番高い点から一番低い点の高低差を表す数値(絶対値)である。
【0035】
第2の領域20bは、第1の領域20aの外側に位置する枠状の領域である。第2の領域20bは、好ましくは、中心側に位置する略四角形の148mm×148mmの領域の外側の領域である。「148mm×148mm」は、表面形状測定装置によって基板10の平坦度を精密に測定することのできる領域の大きさである。なお、第2の領域20bは、面取り面18aを含まない領域である。
【0036】
図4は、第2の主表面12b(裏面)の平面図である。
図4に示すように、第2の主表面12bは、基板10の中心側に位置する第3の領域20cと、第3の領域20cの外側に位置する第4の領域20dを備えている。
【0037】
第3の領域20cは、略四角形の領域であり、好ましくは、142mm×142mm以上の大きさを有している。「142mm×142mm」は、マスクブランク用基板10を用いて製造された転写用マスク(例えば反射型マスク)において、裏面が平坦であること、すなわち、裏面の平坦度が所定値以下であることが要求される領域の大きさである。第3の領域20cの平坦度は、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは50nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。
【0038】
第3の領域20cは、好ましくは、146mm×146mm以下の大きさを有している。「146mm×146mm」は、第2の主表面12bが静電チャックによって露光装置のマスクステージに吸着される領域の大きさとすることができる。静電チャックによって吸着されない領域はそれほど平坦度が高いことが要求されないため、第3の領域20cは、146mm×146mm以下の大きさを有していることが好ましい。
【0039】
第4の領域20dは、第3の領域20cの外側に位置する枠状の領域である。第4の領域20dは、好ましくは、中心側に位置する略四角形の148mm×148mmの領域の外側の領域である。「148mm×148mm」は、表面形状測定装置によって基板10の平坦度を精密に測定することのできる領域の大きさである。なお、第4の領域20dは、面取り面18bを含まない領域である。
【0040】
本実施形態のマスクブランク用基板10は、第1の領域20aの最小二乗平面と、第3の領域20cの最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満であることを特徴とする。以下、角度αの求め方について詳しく説明する。
【0041】
まず、表面形状測定装置によって、第1の主表面12aの全面(152mm×152mm)の表面形状を測定する。表面形状測定装置としては、白色干渉計、レーザー干渉計、レーザー変位計、超音波変位計、接触式変位計等を使用できるが、白色干渉計(例えば、Zygo社製 NewView6300)、レーザー干渉計(例えば、トロペル社製「UltraFlat200」)を用いることが好ましい。
【0042】
表面形状測定装置によって基板10の表面形状を測定する際には、重力による基板10の歪みを低減するため、基板10をほぼ直立させた状態(例えば、基板10を鉛直方向に対して2°傾斜させた状態)で測定を行うことができる。
【0043】
測定の際には、表面形状測定装置によって、第1の主表面12aがグリッド状に複数の領域(例えば33μm×33μmの領域)に分割される。そして、分割された領域毎に、表面形状測定装置によって設定される任意の基準面と、この基準面から第1の主表面12aまでの距離(高さ)が測定される。領域毎に測定された高さデータの集合が、第1の主表面12aの形状データとなる。
【0044】
第1の主表面12aの形状データを測定した後、測定によって得られた形状データを用いて、第1の領域20aの最小二乗平面を求める。例えば、測定の基準面をxy平面とし、その基準面からの高さ方向をz方向とした場合には、第1の領域20aの最小二乗平面がxyzの関数(a1x + b1y + c1z + d1 = 0)として求められる。
【0045】
次に、第1の主表面12aの形状データと、基板10の板厚データとを用いて、第2の主表面12b(裏面)の形状データを求める。すなわち、第1の主表面12aのある領域で測定された形状データ(高さデータ)と、同じ領域で測定された基板10の板厚データを用いることによって、その領域における第2の主表面12b(裏面)の形状データ(高さデータ)を求めることができる。基板10の板厚データの測定には、例えば、レーザー干渉計を使用することができる。
【0046】
なお、別の方法を用いて第2の主表面12b(裏面)の形状データを測定してもよい。例えば、三次元形状測定装置を用いて、第2の主表面12b(裏面)の形状データを測定してもよい。
【0047】
第2の主表面12bの形状データを測定した後、測定によって得られた形状データを用いて、第3の領域20cの最小二乗平面を求める。例えば、測定の基準面をxy平面とし、その基準面からの高さ方向をz方向とした場合には、第3の領域20cの最小二乗平面がxyzの関数(a2x + b2y + c2z + d2 = 0)として求められる。
【0048】
第1の領域20aの最小二乗平面(a1x + b1y + c1z + d1 = 0)と、第3の領域20cの最小二乗平面(a2x + b2y + c2z + d2 = 0)とがなす角度αは、例えば、以下の式(1)によって求めることができる。
【0049】
【数1】
【0050】
本実施形態のマスクブランク用基板10において、第1の領域20aの最小二乗平面と、第3の領域20cの最小二乗平面とがなす角度αを1.2°未満とした理由は、以下の通りである。
【0051】
図5に示すように、1辺の長さLの平面を角度αだけ回転させた場合、回転後の平面の、回転前の平面への射影の長さは、L×cosαとなる。つまり、ある平面を角度αだけ回転させた場合、その平面上の点が移動する距離(ズレ量)の最大値Pは、以下の式(2)の通りとなる。
【0052】
P = L-L×cosα ・・・(2)
【0053】
前述した通り、表面形状測定装置によって第1の主表面12aの形状を測定する際には、第1の主表面12aがグリッド状に複数の領域に分割される。1つのグリッドの大きさをPgとした場合、「P < Pg」という条件を満たすことができれば、ズレ量がPgを超えないため、基板の表面のある領域で測定した形状データと、その領域に対向する位置で測定した裏面の形状データとを正確に対応させることができる。
【0054】
表面形状測定装置によって基板10の平坦度を精密に測定することのできる領域の大きさをLmとした場合、上記式(2)のLにLmを代入することによって、表面形状測定装置によって測定される平面を角度αだけ回転させたときのズレ量の最大値Pを求めることができる。すなわち、ズレ量の最大値Pは、以下の式(3)の通りとなる。
【0055】
P = Lm-Lm×cosα ・・・(3)
【0056】
上記式(3)と、前述の「P < Pg」という条件を組み合わせることによって、下記式(4)が得られる。
【0057】
Lm-Lm×cosα < Pg ・・・(4)
【0058】
上記式(4)のLmに148mm(=148000μm)を代入し、Pgに33μmを代入することによって、α < 1.2°という計算結果が得られる。グリッドの大きさを小さくすればするほど、より詳細な形状データが得られるため、Pgは33μm以下であることが好ましく、24μm以下であることがより好ましく、15μm以下であることがさらに好ましい。なお、グリッドの大きさを小さくし過ぎると、形状データの測定に時間がかかるため、Pgは、9μm以上であることが好ましい。また、ズレ量の最大値Pは、Pg/3以下であることが好ましく、Pg/5以下であることがより好ましい。
【0059】
この結果より、第1の領域20aの最小二乗平面と、第3の領域20cの最小二乗平面とがなす角度αは、1.2°未満である。角度αは、好ましくは1.0°未満であり、より好ましくは0.8°未満である。第1の領域20aの最小二乗平面と、第3の領域20cの最小二乗平面とがなす角度αが1.2°未満であれば、基板表面のある領域で測定した形状データと、その領域に対向する位置で測定した裏面の形状データとを正確に対応させることができる。
【0060】
一般的に、第1の主表面12aの外周部の領域では、基板10の端部の加工の影響等により、表面形状に乱れが生じていることが多い。したがって、最小二乗平面を計算する際には、第1の主表面12aの全面ではなく、外周部を除いた中心側の領域の形状データを用いることが好ましい。すなわち、第1の主表面12aの最小二乗平面を計算する際には、中心側の第1の領域20aの形状データを用いることが好ましい。第1の領域20aの大きさは、転写パターンが形成される領域の大きさである132mm×132mm以上であることが好ましい。
【0061】
また、第2の主表面12bの外周部の領域においても、基板10の端部の加工の影響等により、表面形状に乱れが生じていることが多い。したがって、最小二乗平面を計算する際には、第2の主表面12bの全面ではなく、外周部を除いた中心側の領域の形状データを用いることが好ましい。すなわち、第2の主表面12bの最小二乗平面を計算する際には、中心側の第3の領域20cの形状データを用いることが好ましい。第3の領域20cの大きさは、基板10の裏面が平坦であること(平坦度が所定値以下であること)が要求される領域の大きさである142mm×142mm以上であることが好ましい。
【0062】
本実施形態のマスクブランク用基板10において、第2の領域20b及び第4の領域20dの表面のPV値は400nm以下であり、好ましくは310nm以下である。第2の領域20bのPV値は、第1の領域20aの最小二乗平面を基準とした、平面の一番高い点から一番低い点の高低差を表す数値(絶対値)である。また、第4の領域20dのPV値は、第3の領域20cの最小二乗平面を基準とした、平面の一番高い点から一番低い点の高低差を表す数値(絶対値)である。第2の領域20b及び第4の領域20dの表面のPV値が400nm以下であるとした理由は、以下の通りである。
【0063】
表面形状測定装置によって、基板表面の凹凸形状(基準面からの高さ)を測定することができる。しかし、基板の外周部表面の傾斜が一定以上に大きい場合は、表面形状測定装置によって基板表面の凹凸形状を精密に測定することが難しい場合がある。表面形状測定装置によって基板表面の凹凸形状を精密に測定することのできる傾斜の最大値は、以下の式(5)で表される。
【0064】
Z = β × X ・・・(5)
【0065】
上記式(5)において、Xは、基板上の水平距離(mm)を表している。Zは、基板表面の高さ(μm)を表している。βは、表面形状測定装置によって決まる値であるが、表面形状測定装置によらずに本発明を適用可能とするために、βに小さい値を採用している。レーザー干渉計の場合には、例えばβ=0.2178であり、白色干渉計の場合にはそれよりも大きい値である。
【0066】
第1の主表面12a(152mm×152mm)において、第2の領域20bは、中心側に位置する148mm×148mmの領域の外側の領域である。第1の主表面12aの最外周に位置する面取り面18aの幅Waは、0.4±0.2mmである。したがって、それらの間にある第2の領域20bの幅の大きさは、以下の通りとなる。
【0067】
第2の領域20bの幅の最大値 =
{152-148-(2×0.2)}/2 = 1.8[mm]
第2の領域20bの幅の最小値 =
{152-148-(2×0.6)}/2 = 1.4[mm]
【0068】
第2の主表面12b(152mm×152mm)において、第4の領域20dは、中心側に位置する148mm×148mmの領域の外側の領域である。第2の主表面12bの最外周に位置する面取り面18bの幅Wbは、0.4±0.2mmである。したがって、それらの間にある第4の領域20dの幅の大きさは、以下の通りとなる。
【0069】
第4の領域20dの幅の最大値 =
{152-148-(2×0.2)}/2 = 1.8[mm]
第4の領域20dの幅の最小値 =
{152-148-(2×0.6)}/2 = 1.4[mm]
【0070】
したがって、第2の領域20b及び第4の領域20dの幅の大きさは、1.4~1.8[mm]である。
【0071】
上記式(5)に、β=0.2178、X=1.4~1.8を代入することによって、Z=0.305~0.392[μm]が得られる。この結果より、第2の領域20b及び第4の領域20dにおける高さの変化の絶対値が0.305~0.392[μm]よりも小さい場合、基板の外周部の傾斜が十分に小さいため、表面形状測定装置によって基板表面の凹凸形状を精密に測定することができる。
【0072】
つまり、第2の領域20b及び第4の領域20dの表面のPV値が400nm以下(好ましくは310nm以下)であれば、表面形状測定装置によって基板表面の凹凸形状を精密に測定することができる。
【0073】
本実施形態のマスクブランク用基板10は、透過型マスクブランク用基板であってもよく、反射型マスクブランク用基板であってもよい。
【0074】
ArFエキシマレーザー露光用の透過型マスクブランク用基板の材料としては、露光波長に対して透光性を有するものであれば何でもよい。一般的には、合成石英ガラスが使用される。その他の材料としては、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラスであっても構わない。
【0075】
EUV露光用の反射型マスクブランク用基板の材料としては、低熱膨張の特性を有するものが好ましい。例えば、SiO-TiO系ガラス(2元系(SiO-TiO)及び3元系(SiO-TiO-SnO等))、例えばSiO-Al-LiO系の結晶化ガラスなどの所謂、多成分系ガラスを使用することができる。また、上記ガラス以外にシリコンや金属などの基板を用いることもできる。前記金属基板の例としては、インバー合金(Fe-Ni系合金)などが挙げられる。
【0076】
上述のように、EUV露光用のマスクブランク用基板の場合、基板に低熱膨張の特性が要求されるため、多成分系ガラス材料を使用するが、合成石英ガラスと比較して高い平滑性を得にくいという問題がある。この問題を解決すべく、多成分系ガラス材料からなる基板上に、金属、合金からなる又はこれらのいずれかに酸素、窒素、炭素の少なくとも一つを含有した材料からなる薄膜(下地層)を形成してもよい。
【0077】
上記薄膜の材料としては、例えば、Ta(タンタル)、Taを含有する合金、又はこれらのいずれかに酸素、窒素、炭素の少なくとも一つを含有したTa化合物が好ましい。Ta化合物としては、例えば、TaB、TaN、TaO、TaON、TaCON、TaBN、TaBO、TaBON、TaBCON、TaHf、TaHfO、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSi、TaSiO、TaSiN、TaSiON、TaSiCONなどを適用することができる。これらTa化合物のうち、窒素(N)を含有するTaN、TaON、TaCON、TaBN、TaBON、TaBCON、TaHfN、TaHfON、TaHfCON、TaSiN、TaSiON、TaSiCONがより好ましい。
【0078】
本実施形態のマスクブランク用基板10において、第1の領域20aの最小二乗平面と、第3の領域20cの最小二乗平面とがなす角度αが1.2°未満であるという条件を満たすための加工方法は、特に限定されない。また、第2の領域20b及び第4の領域20dの表面のPV値が400nm以下であるという条件を満たすための加工方法は、特に限定されない。
【0079】
本実施形態のマスクブランク用基板10の製造方法は、第1の主表面12aの表面形状を測定して第1の主表面12aの形状データを取得する工程と、基板10の板厚データを用いて第2の主表面12bの形状データを算出する工程と、第1の主表面12a及び第2の主表面12bの各形状データから第1の領域20a及び第3の領域20cの最小二乗平面を各々求める工程と、第1の領域20aの最小二乗平面と、第3の領域20cの最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満であり、第2の領域20b及び前記第4の領域20dの表面のPV値が400nm以下である基板10を選定する工程とを有することが好ましい。
【0080】
また、選定された基板10の第2の主表面12b上に、導電膜36を形成して導電膜付き基板を製造してもよい。選定された基板10の第1の主表面12a上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜32を形成して多層反射膜付き基板を製造してもよい。選定された基板10の第1の主表面12a上の多層反射膜32又は保護膜34上に、転写パターンとなる吸収体膜42を形成して反射型マスクブランクを製造してもよい。
【0081】
[導電膜付き基板]
本実施形態のマスクブランク用基板10において、第2の主表面12b上に、転写用マスクを露光装置のマスクステージに静電チャックによって吸着するための導電膜が形成されてもよい。なお、第2の主表面12bにおいて、静電チャックによってマスクステージに吸着される領域は、中心側の146mm×146mmの領域である。
【0082】
基板10の第2の主表面12bに導電膜が形成された状態で、基板10の表面及び裏面の形状データを測定してもよい。つまり、導電膜付き基板の第1の主表面と、第2の主表面(裏面)の形状データを、表面形状測定装置によって測定してもよい。測定によって得られた形状データから、第1の領域の最小二乗平面と、第3の領域の最小二乗平面とがなす角度αを求めてもよい。
【0083】
本実施形態の導電膜付き基板において、第1の領域の最小二乗平面と、第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満であってもよい。また、角度αは、1.0°未満が好ましく、0.8°未満がより好ましい。
【0084】
すなわち、本発明は、以下の態様であってもよい。
平面形状が略四角形であり、大きさが152mm×152mmであり、転写パターンが形成される側の面である第1の主表面と、前記第1の主表面に対向し、露光装置のマスクステージに静電チャックされる側の面である第2の主表面とを備え、前記第2の主表面には、静電チャック用の導電膜が形成されている導電膜付き基板であって、
前記第1の主表面は、中心側に位置する第1の領域と、前記第1の領域の外側に位置する第2の領域を備えており、
前記第2の主表面は、中心側に位置する第3の領域と、前記第3の領域の外側に位置する第4の領域を備えており、
前記第1の領域の最小二乗平面と、前記第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満である、導電膜付き基板。
【0085】
本実施形態の導電膜付き基板の製造方法は、マスクブランク用基板の第2の主表面上に導電膜を形成する工程と、第1の主表面の表面形状を測定して第1の主表面の形状データを取得する工程と、基板の板厚データを用いて導電膜が形成された第2の主表面の形状データを算出する工程と、第1の主表面及び第2の主表面の各形状データから第1の領域及び第3の領域の最小二乗平面を各々求める工程と、第1の領域の最小二乗平面と、第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満である導電膜付き基板を選定する工程とを有することが好ましい。
【0086】
また、選定された導電膜付き基板の第1の主表面上に、高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層した多層反射膜を形成して多層反射膜付き基板を製造してもよい。選定された導電膜付き基板の第1の主表面上の多層反射膜又は保護膜上に、転写パターンとなる吸収体膜を形成して反射型マスクブランクを製造してもよい。
【0087】
[多層反射膜付き基板]
次に、本実施形態の多層反射膜付き基板について説明する。
図6は、本実施形態の多層反射膜付き基板30を示す模式図である。
【0088】
本実施形態の多層反射膜付き基板30は、上記のマスクブランク用基板10の転写パターンが形成される側の第1の主表面12a上に、多層反射膜32を形成した構成を有する。この多層反射膜32は、EUVリソグラフィー用反射型マスクにおいてEUV光を反射する機能を付与するものであり、屈折率の異なる元素が周期的に積層された多層膜を含む。
【0089】
多層反射膜32は、EUV光を反射する限りその材質は特に限定されないが、その単独での反射率は通常65%以上であり、上限は通常73%である。このような多層反射膜32は、一般的には、高屈折率の材料からなる薄膜(高屈折率層)と、低屈折率の材料からなる薄膜(低屈折率層)とが、交互に40~60周期程度積層された多層反射膜を含む。
【0090】
例えば、波長13~14nmのEUV光に対する多層反射膜32としては、Mo膜とSi膜とを交互に40周期程度積層したMo/Si周期積層膜が好ましい。その他、EUV光の領域で使用される多層反射膜の例として、Ru/Si周期多層膜、Mo/Be周期多層膜、Mo化合物/Si化合物周期多層膜、Si/Nb周期多層膜、Si/Mo/Ru周期多層膜、Si/Mo/Ru/Mo周期多層膜、及びSi/Ru/Mo/Ru周期多層膜が挙げられる。
【0091】
多層反射膜32は、当該技術分野において公知の方法によって形成できる。例えば、マグネトロンスパッタリング法や、イオンビームスパッタリング法などにより、各層を形成することができる。上述したMo/Si周期多層膜の場合、例えば、イオンビームスパッタリング法により、まずSiターゲットを用いて厚さ数nm程度のSi膜を基板10上に形成し、その後、Moターゲットを用いて厚さ数nm程度のMo膜を形成し、これを一周期として、40~60周期積層して、多層反射膜32を形成することができる。
【0092】
上記で形成された多層反射膜32の上に、EUVリソグラフィー用反射型マスクの製造工程におけるドライエッチングやウェット洗浄からの多層反射膜32の保護のため、保護膜34(図7を参照)が形成されてもよい。
【0093】
保護膜34の材料の例として、Ru、Ru-(Nb,Zr,Y,B,Ti,La,Mo),Si-(Ru,Rh,Cr,B),Si,Zr,Nb,La,及びBからなる群から選択される少なくとも1種を含む材料が挙げられる。これらのうち、ルテニウム(Ru)を含む材料を使用すると、多層反射膜の反射率特性が良好となる。具体的には、保護膜34の材料として、Ru、及び、Ru-(Nb,Zr,Y,B,Ti,La,Mo)が好ましい。このような保護膜は、特に、吸収体膜がTa系材料を含み、Cl系ガスのドライエッチングで当該吸収体膜をパターニングする場合に有効である。
【0094】
上述したように、基板10の多層反射膜32と接する面と反対側の面には、静電チャックの目的のために導電膜36(図7を参照)が形成されてもよい。尚、導電膜36に求められる電気的特性(シート抵抗)は、通常100Ω/□以下である。導電膜36は、公知の方法によって形成できる。例えば、導電膜36は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法により、Cr、Ta等の金属やそれらの合金のターゲットを使用して形成することができる。
【0095】
基板10と多層反射膜32との間に、上述の下地層が形成されてもよい。下地層は、基板10の主表面の平滑性向上、欠陥低減、多層反射膜32の反射率向上、及び、多層反射膜32の応力低減等の目的で形成することができる。
【0096】
基板10の第1の主表面12aに、多層反射膜32が形成された状態、又は多層反射膜32及び保護膜34が形成された状態で、基板10の表面及び裏面の形状データを測定してもよい。つまり、多層反射膜付き基板の第1の主表面と、第2の主表面(裏面)の形状データを、表面形状測定装置によって測定してもよい。このとき、第2の主表面12bに導電膜36が形成された状態で、基板10の表面及び裏面の形状データを測定してもよい。測定によって得られた形状データから、第1の領域の最小二乗平面と、第3の領域の最小二乗平面とがなす角度αを求めてもよい。
【0097】
本実施形態の多層反射膜付き基板において、第1の領域の最小二乗平面と、第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満であってもよい。また、角度αは、1.0°未満が好ましく、0.8°未満がより好ましい。
【0098】
すなわち、本発明は、以下の態様であってもよい。
平面形状が略四角形であり、大きさが152mm×152mmであり、転写パターンが形成される側の面である第1の主表面と、前記第1の主表面に対向し、露光装置のマスクステージに静電チャックされる側の面である第2の主表面とを備え、前記第1の主表面には、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜がこの順番で形成されており、前記第2の主表面には、静電チャック用の導電膜が形成されている多層反射膜付き基板であって、
前記第1の主表面は、中心側に位置する第1の領域と、前記第1の領域の外側に位置する第2の領域を備えており、
前記第2の主表面は、中心側に位置する第3の領域と、前記第3の領域の外側に位置する第4の領域を備えており、
前記第1の領域の最小二乗平面と、前記第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満である、多層反射膜付き基板。
【0099】
本実施形態の多層反射膜付き基板の製造方法は、マスクブランク用基板の第1の主表面上に多層反射膜を形成する工程と、多層反射膜が形成された第1の主表面の表面形状を測定して第1の主表面の形状データを取得する工程と、基板の板厚データを用いて第2の主表面の形状データを算出する工程と、第1の主表面及び第2の主表面の各形状データから第1の領域及び第3の領域の最小二乗平面を各々求める工程と、第1の領域の最小二乗平面と、第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満である多層反射膜付き基板を選定する工程とを有することが好ましい。
【0100】
また、選定された多層反射膜付き基板の第2の主表面上に、導電膜を形成して導電膜付き基板を製造してもよい。選定された多層反射膜付き基板の多層反射膜又は保護膜上に、転写パターンとなる吸収体膜を形成して反射型マスクブランクを製造してもよい。
【0101】
[反射型マスクブランク]
次に、本実施形態の反射型マスクブランクについて説明する。
図7は、本実施形態の反射型マスクブランク40を示す模式図である。
本実施形態の反射型マスクブランク40は、上記の多層反射膜付き基板30の保護膜34上に、転写パターンとなる吸収体膜42を形成した構成を有する。
【0102】
吸収体膜42の材料は、EUV光を吸収する機能を有するものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、Ta(タンタル)単体、又はTaを主成分とする材料を用いることが好ましい。Taを主成分とする材料は、例えば、Taの合金である。あるいは、Taを主成分とする材料の例として、TaとBを含む材料、TaとNを含む材料、TaとBを含み、更にOとNのうち少なくとも1つを含む材料、TaとSiを含む材料、TaとSiとNを含む材料、TaとGeを含む材料、及び、TaとGeとNを含む材料を挙げることができる。
【0103】
本実施形態の反射型マスクブランクは、図7に示す構成に限定されるものではない。例えば、吸収体膜42の上に、吸収体膜42をパターニングするためのマスクとなるレジスト膜を形成してもよい。吸収体膜42の上に形成するレジスト膜は、ポジ型でも、ネガ型でもよい。また、吸収体膜42の上に形成するレジスト膜は、電子線描画用でも、レーザー描画用でもよい。さらに、吸収体膜42とレジスト膜との間に、ハードマスク(エッチングマスク)膜を形成してもよい。
【0104】
多層反射膜32の上に、吸収体膜42が形成された状態、又は吸収体膜42及びハードマスク膜が形成された状態で、表面及び裏面の形状データを測定してもよい。つまり、反射型マスクブランクの第1の主表面と、第2の主表面(裏面)の形状データを、表面形状測定装置によって測定してもよい。このとき、第2の主表面12bに導電膜36が形成された状態で、基板10の表面及び裏面の形状データを測定してもよい。測定によって得られた形状データから、第1の領域の最小二乗平面と、第3の領域の最小二乗平面とがなす角度αを求めてもよい。
【0105】
本実施形態の反射型マスクブランクにおいて、第1の領域の最小二乗平面と、第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満であってもよい。また、角度αは、1.0°未満が好ましく、0.8°未満がより好ましい。
【0106】
すなわち、本発明は、以下の態様であってもよい。
平面形状が略四角形であり、大きさが152mm×152mmであり、転写パターンが形成される側の面である第1の主表面と、前記第1の主表面に対向し、露光装置のマスクステージに静電チャックされる側の面である第2の主表面とを備え、前記第1の主表面には、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、EUV光を吸収する吸収体膜がこの順番で形成されており、前記第2の主表面には、静電チャック用の導電膜が形成されている反射型マスクブランクであって、
前記第1の主表面は、中心側に位置する第1の領域と、前記第1の領域の外側に位置する第2の領域を備えており、
前記第2の主表面は、中心側に位置する第3の領域と、前記第3の領域の外側に位置する第4の領域を備えており、
前記第1の領域の最小二乗平面と、前記第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満である、反射型マスクブランク。
【0107】
本実施形態の反射型マスクブランクの製造方法は、マスクブランク用基板の第1の主表面上に多層反射膜、保護膜及び吸収体膜を形成する工程と、吸収体膜が形成された第1の主表面の表面形状を測定して第1の主表面の形状データを取得する工程と、基板の板厚データを用いて第2の主表面の形状データを算出する工程と、第1の主表面及び第2の主表面の各形状データから第1の領域及び第3の領域の最小二乗平面を各々求める工程と、第1の領域の最小二乗平面と、第3の領域の最小二乗平面とのなす角度αが1.2°未満である反射型マスクブランクを選定する工程とを有することが好ましい。
【0108】
また、選定された反射型マスクブランクの第2の主表面上に、導電膜36を形成してもよい。
【0109】
[反射型マスク]
次に、本実施形態の反射型マスク50について説明する。
図8は、本実施形態の反射型マスク50を示す模式図である。
【0110】
本実施形態の反射型マスク50は、上記の反射型マスクブランク40の吸収体膜42をパターニングして得られた吸収体膜パターン52を有する。本実施形態の反射型マスク50は、吸収体膜パターン52のある部分では露光光が吸収され、吸収体膜42が除去されることで多層反射膜32(あるいは保護膜34)が露出した部分では露光光が反射される。これにより、本実施形態の反射型マスク50は、例えばEUV光を露光光として用いるリソグラフィー用の反射型マスクとして使用することができる。
【0111】
[半導体装置の製造方法]
上記で説明した反射型マスク50と、露光装置を使用したリソグラフィープロセスにより、半導体装置を製造することができる。具体的には、半導体基板上に形成されたレジスト膜に、反射型マスク50の吸収体パターン52を転写する。その後、現像工程や洗浄工程等の必要な工程を経ることにより、半導体基板上にパターン(回路パターン等)が形成された半導体装置を製造することができる。
【実施例
【0112】
[実施例]
マスクブランク用基板10として、大きさが152mm×152mm、厚さが6.4mmのSiO-TiO系のガラス基板を準備した。両面研磨装置を用いて、当該ガラス基板の表面及び裏面を、酸化セリウム砥粒やコロイダルシリカ砥粒により段階的に研磨した。その後、当該ガラス基板の表面を、低濃度のケイフッ酸で処理した。得られたガラス基板の表面粗さを、原子間力顕微鏡で測定した。その結果、ガラス基板の表面の二乗平均平方根粗さ(Rq)は、0.15nmであった。
【0113】
当該ガラス基板の表面の形状(表面形態、平坦度)を、表面形状測定装置(トロペル社製 UltraFlat200)を用いて測定した。表面形状の測定は、ガラス基板の周縁領域を除外した148mm×148mmの領域に対して、1024×1024の地点で行った。その結果、ガラス基板の表面の平坦度は、290nm(凸形状)であった。ガラス基板の表面の形状(平坦度)の測定結果は、測定点ごとに、ある基準面に対する高さの情報としてコンピュータに保存した。また、ガラス基板の板厚データを用いて、ガラス基板の裏面の形状データを求めた。具体的には、ガラス基板のある領域で測定された形状データ(高さデータ)と、同じ領域で測定されたガラス基板の板厚データを用いることによって、その領域におけるガラス基板(裏面)の形状データ(高さデータ)を求めた。ガラス基板の板厚データの測定には、レーザー干渉計を使用した。ガラス基板の表面の基準面と、裏面の基準面とがなす角度αを計算によって求めた。角度αを考慮に入れて、測定点ごとに、高さの情報と、ガラス基板に必要な表面平坦度の基準値20nm(凸形状)とを比較し、その差分(必要除去量)をコンピュータで計算した。同様に、角度αを含め、高さの情報と、裏面平坦度の基準値20nmと比較し、その差分(必要除去量)をコンピュータで計算した。
【0114】
次に、ガラス基板の表面の加工スポット領域ごとに、必要除去量に応じた局所表面加工の条件を設定した。事前にダミー基板を用いて、実際の加工と同じように、ダミー基板を、一定時間、基板を移動させずにスポット加工した。そのダミー基板の形状を、上記の表面及び裏面の形状を測定する際に用いた装置と同じ装置で測定した。単位時間当たりのスポットの加工体積を算出した。そして、スポットの情報と、ガラス基板の表面形状の情報より得られた必要除去量に従い、ガラス基板をラスタ走査する際の走査スピードを決定した。
【0115】
設定した加工条件に従い、磁気流体による基板仕上げ装置(QED Technologies社製)を用いて、磁気粘弾性流体研磨(Magneto Rheological Finishing : MRF)加工法により、ガラス基板の表面及び裏面の平坦度が上記の基準値以下となるように、局所表面加工処理をして表面形状を調整した。尚、このとき使用した磁気粘弾性流体は、鉄成分を含んでいた。研磨スラリーは、アルカリ水溶液+研磨剤(約2wt%)であり、研磨剤として酸化セリウムを使用した。最大の加工取り代は150nmであり、加工時間は30分であった。
【0116】
その後、ガラス基板を濃度約10%の塩酸水溶液(温度約25℃)が入った洗浄槽に約10分間浸漬した後、純水によるリンス、及び、イソプロピルアルコール(IPA)による乾燥を行った。
【0117】
次に、ガラス基板の表面及び裏面の仕上げ研磨を、以下の条件で行った。
加工液:アルカリ水溶液(NaOH)+研磨剤(濃度:約2wt%)
研磨剤:コロイダルシリカ、平均粒径:約70nm
研磨定盤回転数:約1~50rpm
加工圧力:約0.1~10kPa
研磨時間:約1~10分
【0118】
その後、ガラス基板をアルカリ水溶液(NaOH)で洗浄し、EUV露光用のマスクブランク用基板10を得た。
【0119】
得られたマスクブランク用基板10の第1の主表面12aの形状(高さ)を、表面形状測定装置(Zygo社製 NewView6300)を用いて測定した。具体的には、第1の主表面12aの148mm×148mmの領域をグリッド状に12μm×12μmの領域に分割し、分割した領域毎に表面形状を測定した。測定によって得られた形状データを用いて、第1の領域20aの最小二乗平面を求めた。また、第1の領域20aの平坦度は、20nmであった。
【0120】
また、第1の主表面12aの形状データと、基板10の板厚データとを用いて、第2の主表面12b(裏面)の形状データを求めた。具体的には、第1の主表面12aのある領域で測定された形状データ(高さデータ)と、同じ領域で測定された基板10の板厚データを用いることによって、その領域における第2の主表面12b(裏面)の形状データ(高さデータ)を求めた。基板10の板厚データの測定には、レーザー干渉計を使用した。測定によって得られた形状データを用いて、第3の領域20cの最小二乗平面を求めた。また、第3の領域20cの平坦度は、22nmであった。
【0121】
第1の領域20aの最小二乗平面と、第3の領域20cの最小二乗平面とがなす角度αを計算によって求めた。その結果、α=0.73°であった。
【0122】
つぎに、得られたマスクブランク用基板10の第2の領域20b及び第4の領域20dの表面のPV値を、表面形状測定装置(Zygo社製 NewView6300)を用いて測定した。第2の領域20b及び第4の領域20dは、中心側に位置する148mm×148mmの領域の外側の領域に設定した。その結果、第2の領域20bのPV値は、302nmであった。第4の領域20dのPV値は、296nmであった。
【0123】
マスクブランク用基板10の第1の主表面12aの形状データと、第2の主表面12bの形状データを用いて、マスクブランク用基板10が露光装置のマスクステージに静電チャックによって吸着された後の第1の主表面12aの形状をシミュレーションによって求めた。具体的には、測定領域毎に第1の主表面12aの形状データと、第2の主表面12bの形状データを足し合わせることによって、露光装置のマスクステージに吸着された後の第1の主表面12aの形状(高さ)を求めた。また、シミュレーションによって求めた第1の主表面12aの形状データを用いて、後述の吸収体膜の上に形成されるレジスト膜に描画するパターンのデータを補正した。
【0124】
マスクブランク用基板10の第2の主表面12b(裏面)に、以下の条件で、CrNからなる裏面導電膜をマグネトロンスパッタリング法により形成した。
(条件):Crターゲット、Ar+N ガス雰囲気(Ar:N =90%:10%)、膜組成(Cr:90原子%、N:10原子%)、膜厚20nm
【0125】
マスクブランク用基板10の第1の主表面12aに、Mo膜/Si膜を周期的に積層することで多層反射膜を形成し、多層反射膜付き基板を製造した。
【0126】
具体的には、MoターゲットとSiターゲットを使用し、イオンビームスパッタリング(Arを使用)により、基板上に、Mo膜及びSi膜を交互に積層した。Mo膜の膜厚は、2.8nmである。Si膜の膜厚は、4.2nmである。1周期のMo/Si膜の膜厚は、7.0nmである。このようなMo/Si膜を、40周期積層し、最後にSi膜を4.0nmの膜厚で成膜し、多層反射膜を形成した。
【0127】
多層反射膜の上に、Ru化合物を含む保護膜を形成した。具体的には、RuNbターゲット(Ru:80原子%、Nb:20原子%)を使用し、Arガス雰囲気にて、DCマグネトロンスパッタリングにより、多層反射膜の上に、RuNb膜からなる保護膜を形成した。保護膜の膜厚は、2.5nmであった。
【0128】
保護膜の上に吸収体膜を形成し、反射型マスクブランクを製造した。具体的には、TaBN(膜厚56nm)とTaBO(膜厚14nm)の積層膜からなる吸収体膜を、DCマグネトロンスパッタリングにより形成した。TaBN膜は、TaBターゲットを使用し、ArガスとNガスの混合ガス雰囲気における反応性スパッタリングにより形成した。TaBO膜は、TaBターゲットを使用し、ArガスとOガスの混合ガス雰囲気における反応性スパッタリングにより形成した。
【0129】
反射型マスクブランクの吸収体膜上に、レジスト膜を形成した。電子線描画装置を用いて、レジスト膜にパターンを描画した。パターンを描画する際には、上述の補正されたパターンデータを用いた。パターンを描画した後、所定の現像処理を行い、吸収体膜上にレジストパターンを形成した。
【0130】
レジストパターンをマスクとして、吸収体膜にパターン(吸収体パターン)を形成した。具体的には、フッ素系ガス(CFガス)により、上層のTaBO膜をドライエッチングした後、塩素系ガス(Clガス)により、下層のTaBN膜をドライエッチングした。
【0131】
吸収体膜パターン上に残ったレジストパターンを、熱硫酸で除去することで、EUV反射型マスクを製造した。製造した反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィープロセスを行い、半導体装置を製造した。具体的には、半導体基板上に形成されたレジスト膜に、反射型マスクの吸収体パターンを転写した。その後、現像工程や洗浄工程等の必要な工程を経ることにより、半導体基板上に回路パターンが形成された半導体装置を製造した。製造した半導体装置の半導体基板上には、回路パターンが設計通りに正確に形成されていた。
【0132】
[比較例]
比較例では、上記実施例と同様に、マスクブランク用基板を製造した。ただし、上記実施例における局所表面加工処理は行わなかった。
【0133】
比較例で製造したマスクブランク用基板において、第1の領域20aの最小二乗平面と、第3の領域20cの最小二乗平面とのなす角度αは、1.3°であった。
【0134】
比較例で製造したマスクブランク用基板において、第2の領域20b及び第4の領域20dの表面のPV値は、421nmであった。
【0135】
比較例で製造したマスクブランク用基板を用いて、上記実施例と同様に、導電膜付き基板、多層反射膜付き基板、反射型マスクブランク、及び反射型マスクを製造した。製造した反射型マスクを用いて、露光装置を使用したリソグラフィープロセスを行い、半導体装置を製造した。具体的には、半導体基板上に形成されたレジスト膜に、反射型マスクの吸収体パターンを転写した。その後、現像工程や洗浄工程等の必要な工程を経ることにより、半導体基板上に回路パターンが形成された半導体装置を製造した。製造した半導体基板上の回路パターンを検査したところ、回路パターンが設計通りに正確に形成されていない箇所が確認された。
【符号の説明】
【0136】
10 マスクブランク用基板
12a 第1の主表面
12b 第2の主表面
20a 第1の領域
20b 第2の領域
20c 第3の領域
20d 第4の領域
30 多層反射膜付き基板
40 反射型マスクブランク
50 反射型マスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8