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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】撮像レンズ及び撮像装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 13/04 20060101AFI20250408BHJP
   G02B 13/18 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
G02B13/04
G02B13/18
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021527742
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020025089
(87)【国際公開番号】W WO2020262553
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】P 2019119161
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006633
【氏名又は名称】京セラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100132045
【弁理士】
【氏名又は名称】坪内 伸
(72)【発明者】
【氏名】五月女 翔
(72)【発明者】
【氏名】金井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆春
(72)【発明者】
【氏名】木原 悟
(72)【発明者】
【氏名】杉木 宏介
【審査官】小倉 宏之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/054407(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/006842(WO,A1)
【文献】特開2013-003267(JP,A)
【文献】特開平08-122634(JP,A)
【文献】特開2013-073141(JP,A)
【文献】国際公開第2013/014913(WO,A1)
【文献】特開2017-009973(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198943(WO,A1)
【文献】特開2015-172654(JP,A)
【文献】国際公開第2011/027622(WO,A1)
【文献】特開2004-088181(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0293772(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 13/04
G02B 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側から順に、負のパワーを有する前群と、絞りと、正のパワーを有する後群とを配してなり、
前記前群は、物体側に最も近い第1のレンズ面が物体側に凸形状であり、
前記後群は、物体側に最も近い第2のレンズ面が物体側に凸形状であり、像側に最も近い第3のレンズ面が像側に凸形状であり、かつ、前記第3のレンズ面が赤外線カットコートを有し、
下記条件式(1)を満足する撮像レンズと、
平板状のカバーガラスとを、物体側から順に、備え、
下記条件式(3)を満足する撮像装置。
1.6<(Rr+|Re|)/Da<2.3 (1)
ただし、Rrは前記第2のレンズ面の曲率半径、Reは前記第3のレンズ面の曲率半径、Daは光軸上における前記第2のレンズ面から前記第3のレンズ面までの距離である。
0.50≦R1/(Dt+Db)≦0.52 (3)
ただし、R1は前記第1のレンズ面の曲率半径、Dtは光軸上における前記第1のレンズ面から前記第3のレンズ面までの距離、Dbは光軸上における前記第3のレンズ面から前記カバーガラスの物体側面までの距離である。
【請求項2】
前記前群は、物体側から順に、前記第1のレンズ面を有する凹メニスカス形状の第1レンズと、凹メニスカス形状の第2レンズとを配してなり、
前記第2レンズは、像側に凸面を向けて配される請求項1の撮像装置。
【請求項3】
前記後群は、物体側から順に、前記第2のレンズ面を有する第3レンズと、第4レンズと、接合レンズとを配してなり、
前記第3レンズ、第4レンズ、及び接合レンズは、いずれも正のパワーを有する請求項1又は2に記載の撮像装置。
【請求項4】
前記接合レンズは、物体側から順に、凹レンズである第5レンズと、凸レンズである第6レンズとからなり、
前記第6レンズは、前記第3のレンズ面を有する請求項に記載の撮像装置。
【請求項5】
下記条件式(2)を満足する請求項1ないしのいずれか1項に記載の撮像装置。
1.20≦(R1+|Re|)/Dt≦1.46 (2)
ただし、R1は前記第1のレンズ面の曲率半径、Reは前記第3のレンズ面の曲率半径、Dtは光軸上における前記第1のレンズ面から前記第3のレンズ面までの距離である。
【請求項6】
下記条件式(4)を満足する請求項1ないしのいずれか1項に記載の撮像装置。
0.66≦Rr/(Da+Db)≦0.83 (4)
ただし、Rrは前記第2のレンズ面の曲率半径、Daは光軸上における前記第2のレンズ面から前記第3のレンズ面までの距離、Dbは光軸上における前記第3のレンズ面から前記カバーガラスの物体側面までの距離である。
【請求項7】
下記条件式(5)を満足する請求項1ないしのいずれか1項に記載の撮像装置。
2.28≦|Re|/Db≦2.88 (5)
ただし、Reは前記第3のレンズ面の曲率半径、Dbは光軸上における前記第3のレンズ面から前記カバーガラスの物体側面までの距離である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、撮像レンズ及び撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、監視カメラや車載カメラ等が普及している。監視カメラや車載カメラ(以下、車載カメラ等という)に搭載する撮像レンズは、普及に伴って、より簡易な構成、かつ高性能であるものが求められている。車載カメラ等の性能としては、画角が広いこと、画質が良好であること、温度変化があっても性能が劣化しないこと、及び小型であること等が挙げられる。
【0003】
車載用の撮像レンズとして、物体側面のレンズ面に凹面を形成した4群5枚の撮像レンズが開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-145828号公報
【発明の概要】
【0005】
本開示の撮像装置は、撮像レンズと平板状のカバーガラスとを物体側から順に備える。撮像レンズは、物体側から順に、負のパワーを有する前群と、絞りと、正のパワーを有する後群とを配してなる。前群は、物体側に最も近い第1のレンズ面が物体側に凸形状である。後群は、物体側に最も近い第2のレンズ面が物体側に凸形状であり、像側に最も近い第3のレンズ面が像側に凸形状であり、かつ、第3のレンズ面が赤外線カットコートを備える。また、撮像レンズは、下記条件式(1)を満足する。また、撮像装置は、下記条件式(3)を満足する。
1.6<(Rr+|Re|)/Da<2.3 (1)
ただし、Rrは第2のレンズ面の曲率半径である。Reは第3のレンズ面の曲率半径である。Daは光軸上における第2のレンズ面から第3のレンズ面までの距離である。
0.50≦R1/(Dt+Db)≦0.52 (3)
ただし、R1は前記第1のレンズ面の曲率半径、Dtは光軸上における前記第1のレンズ面から前記第3のレンズ面までの距離、Dbは光軸上における前記第3のレンズ面から前記カバーガラスの物体側面までの距離である
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】撮像レンズ及び撮像装置の断面図である。
図2】第2のレンズ面(面S6)での再反射に起因して発生するゴーストのモデルを説明する説明図である。
図3】第1のレンズ面(面S1)での再反射に起因して発生するゴーストのモデルを説明する説明図である。
図4】第2のレンズ面(面S6)での再反射に起因して発生するゴーストのモデルを説明する説明図である。
図5】第3のレンズ面(面S12)での再反射に起因して発生するゴーストのモデルを説明する説明図である。
図6】実施例1の撮像レンズの断面図である。
図7】実施例1の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
図8】実施例1のMTFを示すグラフである。
図9】実施例2の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
図10】実施例2のMTFを示すグラフである。
図11】実施例3の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
図12】実施例3のMTFを示すグラフである。
図13】実施例4の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
図14】実施例4のMTFを示すグラフである。
図15】実施例5の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
図16】実施例5のMTFを示すグラフである。
図17】実施例6の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
図18】実施例6のMTFを示すグラフである。
図19】実施例7の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
図20】実施例7のMTFを示すグラフである。
図21】実施例8の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
図22】実施例8のMTFを示すグラフである。
図23】実施例9の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
図24】実施例9のMTFを示すグラフである。
図25】実施例10の(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーションを示すグラフである。
図26】実施例10のMTFを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
車載カメラ等では、撮像素子として、CCD(Charge Coupled Device)、又はCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等を備える。そして、車載カメラ等では、画像の品質の低下に起因する不要な光が、これらの撮像素子に入射することを防止する機能を付与することにより、画質の劣化等を防いでいる。以下、簡易な構成で、画質の低下を抑制する本開示の撮像レンズおよび撮像装置について説明する。
【0008】
実施形態に係る撮像レンズは、物体側から順に、負のパワーを有する前群と、絞りと、正のパワーを有する後群とを配してなる。前群は、物体側に最も近い第1のレンズ面が物体側に凸形状である。後群は、物体側に最も近い第2のレンズ面が物体側に凸形状であり、像側に最も近い第3のレンズ面が像側に凸形状であり、かつ、第3のレンズ面が赤外線カットコートを備える。また、撮像レンズは、下記条件式(1)を満足する。
1.6<(Rr+|Re|)/Da<2.3 (1)
ただし、Rrは第2のレンズ面の曲率半径である。Reは第3のレンズ面の曲率半径である。Daは光軸上における第2のレンズ面から第3のレンズ面までの距離である。
【0009】
前群は、物体側から順に、第1のレンズ面を有する凹メニスカス形状の第1レンズと、凹メニスカス形状の第2レンズとを配してなる。第2レンズは、像側に凸面を向けて配されるようにしてもよい。
【0010】
後群は、物体側から順に、第2のレンズ面を有する第3レンズと、第4レンズと、接合レンズとを配してなる。第3レンズ、第4レンズ、及び接合レンズは、いずれも正のパワーを有するようにしてもよい。
【0011】
接合レンズは、物体側から順に、凹レンズである第5レンズと、凸レンズである第6レンズとからなる。第6レンズは、第3のレンズ面を有するようにしてもよい。
【0012】
下記条件式(2)を満足してもよい。
1.20≦(R1+|Re|)/Dt≦1.46 (2)
ただし、R1は第1のレンズ面の曲率半径である。Reは第3のレンズ面の曲率半径である。Dtは光軸上における第1のレンズ面から第3のレンズ面までの距離である。
【0013】
また、実施形態に係る撮像装置は、物体側から順に、上記のいずれかの撮像レンズと、平板状のカバーガラスと、を備える。
【0014】
下記条件式(3)を満足してもよい。
0.50≦R1/(Dt+Db)≦0.53 (3)
ただし、R1は第1のレンズ面の曲率半径、Dtは光軸上における第1のレンズ面から第3のレンズ面までの距離、Dbは光軸上における第3のレンズ面からカバーガラスの物体側面までの距離である。
【0015】
下記条件式(4)を満足してもよい。
0.66≦Rr/(Da+Db)≦0.83 (4)
ただし、Rrは第2のレンズ面の曲率半径である。Daは光軸上における第2のレンズ面から第3のレンズ面までの距離である。Dbは光軸上における第3のレンズ面からカバーガラスの物体側面までの距離である。
【0016】
下記条件式(5)を満足してもよい。
2.28≦|Re|/Db≦2.88 (5)
ただし、Reは第3のレンズ面の曲率半径である。Dbは光軸上における第3のレンズ面からカバーガラスの物体側面までの距離である。
【0017】
以下、本開示の撮像レンズおよび撮像装置について、詳細を説明する。
【0018】
例えば、赤外域に着目すると、撮像素子は赤外域にも感度を有する。そのため、赤外線が撮像素子に入射することにより画像の品質が低下する場合がある。車載カメラ等では、赤外線フィルタ、又はレンズ等への赤外線カットコート等、撮像素子への赤外線の入射を防止する機能(赤外線カット機能)を付与することにより、赤外線による画質の劣化等を防いでいる。
【0019】
しかしながら、赤外線フィルタを用いた場合、特に、高輝度の光源からの入射光は、赤外線フィルタの入射側面(撮像レンズの物体側面)で一部反射する。この反射光に起因して、例えば、赤外線フィルタと対向するレンズ面で再反射することにより、撮像素子の受光面で結像し、いわゆるゴーストと呼ばれる光の像となって、画像の品質低下の原因となる場合がある。また、レンズ等に赤外線カットコート等を施す場合、一般に、赤外線カットの性能を優先するため、反射防止性能が低下する場合がある。したがって、赤外線カットコート等を施したレンズ等においても、赤外線フィルタの場合と同様に、例えば、赤外線カットコート等を施したレンズのレンズ面による反射光に起因して、ゴーストが発生する場合がある。そのため、本開示の一実施形態では、以下のような構成を備えている。
【0020】
図1に示すように、撮像装置20は、撮像レンズ10と、イメージセンサ11とを含む。イメージセンサ11は、撮像面IPを保護するカバーガラスCGを備える。そのため、撮像レンズ10は、カバーガラスCGを介して撮像面IPに被写体の像を結像し、被写体を撮像するレンズである。
【0021】
撮像レンズ10は、光軸Z1に沿って、物体側から順に、負のパワーを有する前群G1と、開口絞りSTと、正のパワーを有する後群G2とを配してなる。撮像レンズ10は、レトロフォーカス型の広角レンズである。画角は、例えば、100度を超える超広角レンズである。使用する温度環境は、例えば、約-40℃から約120℃である。
【0022】
本実施形態では、前群G1は、物体側から順に、第1レンズL1と、第2レンズL2とを配してなる。後群G2は、物体側から順に、第3レンズL3と、第4レンズL4と、第5レンズL5と、第6レンズL6とを配してなる。第5レンズL5と第6レンズL6とは接合レンズCLを形成する。したがって、本実施形態の撮像レンズ10は、5群6枚の構成である。また、第2レンズL2と第3レンズL3の間には、開口絞りSTを備える。第1レンズから第6レンズまでのそれぞれのレンズは、例えば、ガラスを用いて形成される。
【0023】
前群G1は、物体側に最も近い第1のレンズ面(面S1)が物体側に凸形状である。後群G2は、物体側に最も近い第2のレンズ面(面S6)が物体側に凸形状である。後群G2は、像側に最も近い第3のレンズ面(面S12)が像側に凸形状である。さらに、後群G2は、第3のレンズ面(面S12)が赤外線カットコートIRを備える。なお、図1において、赤外線カットコートIR等は、模式的に示しているため、実際の寸法と異なる場合がある。
【0024】
面S1は、光軸Z1付近の中心部の曲率半径が小さくなるように物体側の凸形状を形成してもよい。このように形成することにより、例えば、入射光の反射光が像側へ再反射することによるゴースト発生等、撮像レンズ10の面S1に起因したゴースト発生を抑制することができる。
【0025】
面S6の曲率半径Rrと、面S12の曲率半径Reの絶対値|Re|、及び光軸上における面S6から面S12までの距離Daが、以下の式(1)を満たす。
【0026】
1.6<(Rr+|Re|)/Da<2.3 (1)
【0027】
図2図4とに示すように、式(1)を満たすことにより、撮像レンズ10の光学性能を維持しつつ、面S12で物体側に反射した反射光が、面S6で再反射して撮像面IPに集光した場合に、反射光を積極的にクロス拡散させるため、集光径が拡大する。したがって、赤外線カットコートIRを備える面S12での反射光に起因して、例えば、赤色等の特定の色のゴーストが発生しても、撮像面IPでのゴースト像は集光径が拡大されたものとなっているので輝度が十分に低下しており、画質に目立った影響を及ぼすことが抑えられる。本実施形態では、式(1)を満たすことにより、例えば、輝度は、入射光を基準として1/10程度に弱められる。以上のように、撮像レンズ10は、赤外線カット機能を有しながらも、赤外線フィルタ等の別段の要素を組み込むこと等がない簡易な構成で、反射光に起因するゴーストの発生を抑制する。なお、式(1)において、下限値である1.6は、1.7であってもよい。式(1)において、下限値である1.6は、1.8であってもよい。また、式(1)において、上限値である2.3は、2.1であってもよい。式(1)において、上限値である2.3は、2.0であってもよい。
【0028】
面S6の曲率半径Rrと、面S12の曲率半径Reとが、以下の式(1a)を満たしてもよい。式(1a)を満たす場合は、より良好に、撮像レンズ10の光学性能を維持しつつ、ゴーストの発生を抑制する。
【0029】
-1.11≦Rr/Re≦-0.90 (1a)
【0030】
面S12の曲率半径Reと、光軸Z1上における面S6から面S12までの距離Daとが、以下の式(1b)を満たしてもよい。式(1b)を満たす場合は、より良好に、撮像レンズ10の光学性能を維持しつつ、ゴーストの発生を抑制する。
【0031】
-1.13≦Re/Da≦-0.82 (1b)
【0032】
面S6の曲率半径Rrと、光軸Z1上における面S6から面S12までの距離Daとが、以下の式(1c)を満たしてもよい。式(1c)を満たす場合は、より良好に、撮像レンズ10の光学性能を維持しつつ、ゴーストの発生を抑制する。
【0033】
0.90≦Rr/Da≦1.21 (1c)
【0034】
撮像レンズ10は、撮像レンズ10の焦点距離、すなわち、第1レンズ、第2レンズ、第3レンズ、第4レンズ、第5レンズ、及び第6レンズとからなる撮像レンズ10の焦点距離f16と、光軸上の面S1から面S12までの距離Dtとが、以下の式(1d)を満たしてもよい。式(1d)を満たすことにより、撮像レンズとして適切な光学性能を有し、かつ、小型化することができる。
【0035】
3.93≦Dt/f16≦4.56 (1d)
【0036】
図1に示すように、本実施形態において、前群G1は、物体側から順に、第1レンズL1と、第2レンズL2とを配してなる。第1レンズL1は、第1のレンズ面(面S1)を有する凹メニスカス形状のレンズである。第2レンズL2は、凹メニスカス形状のレンズである。なお、前群G1に含まれるレンズ(第1レンズL1および第2レンズL2)は、例えば、設置環境に露呈しても良いように、耐久性に優れる硝材で形成してもよい。
【0037】
第1レンズL1は、負のパワーを有する非球面レンズである。例えば、第1レンズL1は、20℃から40℃での相対屈折率の温度係数dn/dtが、3.6(10-6/℃)程度の正の値を有する。なお、本明細書において、温度係数dn/dtは、日本光学硝子工業会規格、JOGIS J18-2008「光学ガラスの屈折率の温度係数の測定方法」に準じて測定した値である。また、第1レンズL1は、面S1において光軸Z1付近の中心部の曲率半径を小さくし、一方、周辺部の曲率半径を比較的大きく設定することにより、収差の発生を抑えてもよい。
【0038】
第2レンズL2は、負のパワーを有する非球面レンズである。したがって、第1レンズL1と第2レンズL2とにより、撮像レンズ10において、収差が抑えられ、画角全体で安定して高い光学性能を確保することができる。
【0039】
第2レンズL2は、像側に凸面を向けて配される。第1レンズL1及び第2レンズL2の2枚のレンズを、開口絞りSTに対して近接配置する。これにより、第1レンズL1の有効径を小さく抑えつつも、所望の広角化を確保することができる。また、第2レンズL2は、撮像レンズ10を構成する各レンズの中で、比較的、MTF(Modulation Transfer Function)及び収差への影響が大きい。そのため、第2レンズL2は、撮像レンズ10全体としての優れた光学性能に寄与する。また、開口絞りSTの物体側直前に、非球面で形成した第2レンズL2を配置する。これにより、撮像レンズ10は、第2レンズL2に起因するゴーストを防止することができる。
【0040】
後群は、物体側から順に、第3レンズL3と、第4レンズL4と、接合レンズCLとを配してなる。第3レンズL3は、第2のレンズ面(面S6)を有する。接合レンズCLは、第3のレンズ面(面S12)を有する。また、面S12は赤外線カットコートIRを備える。第3レンズL3、第4レンズL4、及び接合レンズCLは、いずれも正のパワーを有する。
【0041】
第3レンズL3は、球面レンズである。第3レンズL3は、温度係数dn/dTが負の値である材料を用いて形成する。第3レンズL3は、例えば、20℃から40℃での相対屈折率の温度係数dn/dtが、-5.6(10-6/℃)程度の負の値を有する。また、第3レンズL3は、異常分散性を有する。さらに、第3レンズL3は、焦点距離が比較的小さい。
【0042】
第4レンズL4は、非球面レンズである。第4レンズL4は、撮像レンズ10を構成する他のレンズの材料と比較して、線膨張係数が大きく、温度係数dn/dtが負の硝材から形成される。第4レンズL4は、例えば、20℃から40℃での相対屈折率の温度係数dn/dtが、-8.5(10-6/℃)程度の負の値を有する。また、第4レンズL4は、異常分散性を有する。さらに、第4レンズL4は、焦点距離が比較的小さい。
【0043】
以上のとおり、第3レンズL3と第4レンズL4とにより、撮像レンズ10全体として温度補償する機能を有する。したがって、例えば、撮像レンズ10全体として、ピント移動量を小さく抑える機能も有する。また、第3レンズL3と第4レンズL4とを組み合わせて用いたことから、撮像レンズ10の光学性能を維持しつつ、第3レンズL3の物体側面である面S6の曲率半径を、ゴーストを高度に抑制するように制御して設定することができる。したがって、例えば、赤外線カットコートIRを備える接合レンズCLの像側面である面S12での反射光が、面S6で再反射することに基づくゴーストを高度に抑制することができる。
【0044】
接合レンズCLは、物体側から順に、第5レンズL5と、第6レンズL6とからなる。第5レンズL5は、凹レンズである。第6レンズL6は、凸レンズである。第5レンズL5と第6レンズL6とは、球面レンズである。接合レンズCLであることから、撮像レンズ10全体として、色収差補正等の光学性能を向上させる機能を有する。また、接合レンズCLとすることにより、撮像レンズ10の偏心感度を低下させるため、生産性が向上する。
【0045】
第6レンズL6は、第3のレンズ面(面S12)を有する。面S12は、像側に凸形状である。面S12は赤外線カットコートIRを備える。赤外線カットコートIRは、可視光を透過させ、例えば、700nmから1200nmといった近赤外領域の透過を阻止する構成である。赤外線カットコートIRは、例えば、蒸着膜であり、公知の方法で形成することができる。このように、赤外線防止機能をレンズに付与することにより、撮像レンズ10として、簡易な構成で小型化することができる。
【0046】
なお、接合レンズCLは、第5レンズを凸レンズとし、第6レンズをメニスカスレンズとしてもよい。この場合、面S12は、像側に凸形状であり、凸形状の面S12に、赤外線カットコートIRを備える。
【0047】
撮像レンズ10の焦点距離f16と、光軸上における面S6から面S12までの距離Daとが、以下の式(1e)を満たしてもよい。式(1e)を満たす場合は、撮像レンズ10の光学性能がより良好である。
【0048】
2.74≦Da/f16≦3.30 (1e)
【0049】
光軸上における面S1から開口絞りSTまでの距離Dfと、光軸上における開口絞りSTから面S12までの距離Drとが、以下の式(1f)を満たしてもよい。式(1f)は、前群の全長と後群の全長との比を規定する。式(1f)を満たす場合は、撮像レンズ10の光学性能がより良好である。
【0050】
0.33≦Df/Dr≦0.42 (1f)
【0051】
次に、本実施形態においては、面S1の光軸Z1付近の中心部における曲率半径R1、面S12の曲率半径Reの絶対値|Re|、及び光軸Z1上における第1のレンズ面面S1から面S12までの距離Dtが、以下の式(2)を満たしてもよい。
【0052】
1.20≦(R1+|Re|)/Dt≦1.46 (2)
【0053】
図3に示すように、式(2)を満たすことにより、撮像レンズ10の光学性能を維持しつつ、面S12で物体側に反射した反射光が、面S1で再反射してゴーストとなることを防ぐ。したがって、式(2)を満たすことにより、撮像レンズ10は、赤外線カット機能を有しながらも、赤外線フィルタ等の別段の要素を組み込むこと等がない簡易な構成で、反射光に起因するゴーストの発生を抑制する。なお、式(2)において、下限値である1.20は、1.25であってもよい。式(2)において、下限値である1.20は、1.27であってもよい。また、式(2)において、上限値である1.46は、1.40であってもよい。式(2)において、上限値である1.46は、1.36であってもよい。
【0054】
また、面S1の光軸Z1付近の中心部における曲率半径R1と、面S12の曲率半径Reとが、以下の式(2a)を満たしてもよい。式(2a)は、曲率半径R1と曲率半径Reとの比を規定する。式(2a)を満たす場合は、撮像レンズ10の光学性能を維持しつつ、より良好に、ゴーストの発生を抑制する。
【0055】
―1.04≦R1/Re≦-0.89 (2a)
【0056】
図1に示すように、撮像装置20は、物体側から順に、撮像レンズ10と、イメージセンサ11と、を含む。イメージセンサ11は、平板状のカバーガラスCGを備える。カバーガラスCGは、イメージセンサ11の撮像面IPを保護しており、物体側から、カバーガラスCG、撮像面IPの順に配される。したがって、カバーガラスCGの物体側面S13は、面S12と対向する。
【0057】
本実施形態では、撮像装置20において、第1のレンズ面の光軸Z1付近の中心部における曲率半径R1、光軸Z1上における面S1から面S12までの距離Dt、及び光軸Z1上における面S12からカバーガラスCGの物体側面S13までの距離Dbが、以下の式(3)を満たしてもよい。
【0058】
0.50≦R1/(Dt+Db)≦0.53 (3)
【0059】
式(3)を満たすことにより、撮像レンズ10の光学性能を維持しつつ、面S13で物体側に反射した反射光が、面S1で再反射してゴーストとなることを防ぐ。したがって、式(3)を満たすことにより、撮像レンズ10において、カバーガラスに起因するゴーストの発生をより良好に抑制する。なお、式(3)の下限値は、0.51であってもよい。式(3)の上限値は、0.52であってもよい。
【0060】
本実施形態では、撮像装置20において、面S6の曲率半径Rr、光軸上における面S6から面S12までの距離Da、及び光軸上における面S12から面S13までの距離Dbが、以下の式(4)を満たしてもよい。
【0061】
0.66≦Rr/(Da+Db)≦0.83 (4)
【0062】
式(4)を満たすことにより、撮像レンズ10の光学性能を維持しつつ、面S13で物体側に反射した反射光が、面S6で再反射してゴーストとなることを防ぐ。したがって、式(4)を満たすことにより、撮像レンズ10において、カバーガラスに起因するゴーストの発生をより良好に抑制する。なお、式(4)の下限値は、0.68であってもよい。式(4)の下限値は、0.70であってもよい。式(4)の上限値は、0.74であってもよい。式(4)の下限値は、0.72であってもよい。
【0063】
また、本実施形態では、撮像装置20において、面S12の曲率半径Reの絶対値|Re|、光軸上における面S12から面S13までの距離Dbが、以下の式(5)を満たしてもよい。
【0064】
2.28≦|Re|/Db≦2.88 (5)
【0065】
面S12から面S13までの距離と、面S12の曲率半径の値との関係によっては、撮像面IP付近において、ゴーストが結像する場合がある。しかしながら、式(5)を満たすことにより、図5に示すように、面S12から面S13までの距離Dbとの関係において、面S12の曲率半径Reが一定の値をとる。これにより、撮像面IP付近において、ゴーストが結像しない。したがって、撮像レンズ10において、カバーガラスCG又は面S12に起因するゴーストの発生をより良好に抑制する。なお、式(5)の下限値は、2.31であってもよい。式(5)の下限値は、2.35であってもよい。式(5)の上限値は、2.71であってもよい。式(5)の上限値は、2.64であってもよい。
【0066】
[実施例]
以下、撮像レンズ10の実施例を説明する。図6は、実施例1の撮像レンズ10の断面図である。面番号は第1レンズL1の物体側の面S1から順にSi(i=1~15)で示す。S5は開口絞りSTである。S13はカバーガラスCGの物体側の面である。S14はカバーガラスCGの像側の面である。S15はイメージセンサ11の撮像面IPである。面間隔Di(i=1~14、単位mm)は、光軸Z1に沿った面Siから面Si+1の間隔である。
【0067】
実施例1のレンズデータを下記表1及び表2に示す。表1は、実施例1の撮像レンズ10の各面Siの面番号「i」、各面Siの曲率半径Ri(i=1~12、単位mm)、面間隔Di、d線(波長587.6nm)に対する屈折率nd、アッベ数νd(=(nd-1)/(nF-nC);nFはF線(波長486.1nm)に対する屈折率、nCはC線(波長656.3nm)に対する屈折率である)を示す。また、面番号「i」に付した「*」印は非球面であることを表す。面番号「i」に「*」印がない面は球面である。相対屈折率の温度係数dn/dt(-20/0)、dn/dt(20/40)、及びdn/dt(60/80)は、温度が-20℃から0℃での範囲内、20℃から40℃での範囲内、及び60℃から80℃での範囲内における値である。相対屈折率の温度係数dn/dtの単位は10-6/℃である。また数値等を記載しない箇所には、「-」を記載した(後述する他の実施例についても同じ)。
【0068】
【表1】
【0069】
非球面は、下記式(6)の非球面式を用いて表す。数1の非球面式において、「Z」は非球面の深さ(mm)、「C」は近軸曲率(すなわち近軸曲率半径をR(mm)とする場合にC=1/Rである)、「h」は光軸からレンズ面までの距離(mm)、「K」は円錐定数、「Ai」は非球面係数である。表2には、実施例1の各非球面(表1*印参照)の「K」及び「Ai」を示す。
【0070】
【数1】
【0071】
【表2】
【0072】
実施例1の撮像レンズ10は、下記表3に示す通り、式(1)、式(2)、式(3)、式(4)、及び式(5)の条件を満たす。また、式(1a)、式(1b)、式(1c)、式(1d)、式(1e)、式(1f)、及び式(2a)の条件を満たす。Daは、D6からD11までの和である。Drは、D5からD11までの和である。DtはD1からD11までの和である。DbはD12である。DfはD1からD4までの和である。また、Rrは面S6の曲率半径R6である。Reは面S12の曲率半径R12である。
【0073】
【表3】
【0074】
なお、実施例1の撮像レンズ10の各レンズ、前群及び後群、並びに撮像レンズ10全体での焦点距離(mm)を表4に示す。
【0075】
【表4】
【0076】
図7(A)は実施例1の撮像レンズ10について、d線、F線、及びC線の各球面収差を示す。図7(B)は実施例1の撮像レンズ10について、d線のサジタル(ラジカル)方向の非点収差Sと、タンジェンシャル(メリジオナル)方向の非点収差Tを示す。図7(C)は実施例1の撮像レンズ10のディストーションを示す。図8には、22℃における実施例1のMTFを示す。なお、図8において、符号F1は、光軸Z1上におけるMTFである。符号F2Rは光軸Z1から26度の点におけるサジタル方向のMTFである。符号F2Tは光軸Z1から26度の点におけるタンジェンシャル方向のMTFである。同様に、符号F3Rは光軸Z1から60度の点におけるサジタル方向のMTFである。符号F3Tは光軸Z1から60度の点におけるタンジェンシャル方向のMTFである。
【0077】
図6図8に示されたとおり、実施例1の撮像レンズ10は、5群6枚という簡易な構成で、赤外線カットコートによる赤外線カット機能を有しながらも、反射光に起因するゴーストの発生を抑制し、優れた光学性能を有していた。
【0078】
以下、上記実施例1と同様に、実施例2~10の撮像レンズ10における、各種レンズデータを表5~表31に、また、(A)球面収差、(B)非点収差、及び(C)ディストーション並びにMTFを図9図26に示す。
【0079】
実施例において、球面収差、非点収差、及びディストーションは、いずれも22℃におけるデータである。
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
【表9】
【0085】
【表10】
【0086】
【表11】
【0087】
【表12】
【0088】
【表13】
【0089】
【表14】
【0090】
【表15】
【0091】
【表16】
【0092】
【表17】
【0093】
【表18】
【0094】
【表19】
【0095】
【表20】
【0096】
【表21】
【0097】
【表22】
【0098】
【表23】
【0099】
【表24】
【0100】
【表25】
【0101】
【表26】
【0102】
【表27】
【0103】
【表28】
【0104】
【表29】
【0105】
【表30】
【0106】
【表31】
【0107】
なお、上記実施形態及び実施例は、種々の変更が可能である。例えば、上記実施例に挙げた撮像レンズ10以外にも、曲率半径や屈折率、赤外線カットコートの有無、赤外線カットコートを備える面、その他レンズデータを変えて、形状や配置及び結像性能が撮像レンズ10と同等の撮像レンズを構成することができる。
【符号の説明】
【0108】
10 撮像レンズ
20 撮像装置
L1 第1レンズ
L2 第2レンズ
L3 第3レンズ
L4 第4レンズ
L5 第5レンズ
L6 第6レンズ
ST 開口絞り
CG カバーガラス
IP 撮像面
LT 光線
REF1 1回目の反射
REF2 2回目の反射
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
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図24
図25
図26