(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】ベンズオキサゾール系コポリマー
(51)【国際特許分類】
C08G 73/22 20060101AFI20250408BHJP
【FI】
C08G73/22
(21)【出願番号】P 2022088803
(22)【出願日】2022-05-31
【審査請求日】2024-07-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科、公聴会用博士学位論文概要、2022年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141472
【氏名又は名称】赤松 善弘
(72)【発明者】
【氏名】金子 達雄
(72)【発明者】
【氏名】ショウ ケンチュウ
(72)【発明者】
【氏名】高橋 史員
(72)【発明者】
【氏名】野中 鏡士朗
(72)【発明者】
【氏名】長村 達也
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-316637(JP,A)
【文献】特開平7-309946(JP,A)
【文献】特表2008-519877(JP,A)
【文献】特表2010-525183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子を示す)
で表わされる繰り返し単位および式(II):
【化2】
(式中、R
3およびR
4は、それぞれ独立しては水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子を示す)
で表わされる繰り返し単位を有するベンズオキサゾール系コポリマー。
【請求項2】
式(I)で表わされる繰り返し単位と式(II)で表わされる繰り返し単位とのモル比〔式(I)で表わされる繰り返し単位/式(II)で表わされる繰り返し単位〕が10/90~50/50である請求項1に記載のベンズオキサゾール系コポリマー。
【請求項3】
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸と3,4-ジアミノ安息香酸とを重合させ、生成したベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応を行なう請求項1または2に記載のベンズオキサゾール系コポリマーの製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のベンズオキサゾール系コポリマーを含有してなるフィルム。
【請求項5】
請求項1または2に記載のベンズオキサゾール系コポリマーを含有してなる成形材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンズオキサゾール系コポリマーに関する。さらに詳しくは、本発明は、ベンズオキサゾール系コポリマーおよびその製造方法、ならびに前記ベンズオキサゾール系コポリマーを含有するフィルムおよび成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリベンズオキサゾールは、耐熱性に優れていることからエンジニアリングプラスチックとして使用されており、繊維材料などに利用されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
ポリベンズオキサゾールが有するベンズオキサゾール骨格は、o-アミノフェノール骨格とカルボン酸との縮合によって生成することから、当該o-アミノフェノール骨格を有する4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸をポリベンズオキサゾールの原料モノマーとして用いることが検討されている(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
近年、4-アミノ安息香酸水酸化活性を有するポリペプチドを用いて4-アミノ安息香酸から4-アミノ-3-安息香酸を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。前記方法によれば、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸を効率よく製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-101626号公報
【文献】特開2021-101627号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】村瀬 浩貴、SENI GAKKAISHI(繊維と工業)、66巻、6号、2010年
【文献】Lon J. Mathias et al., Macromolecules, Vol.18, No.4, pp.616-622 (1985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸は、ポリベンズオキサゾールの原料モノマーとして使用することが検討されている。しかし、当該ポリベンズオキサゾールの単独重合体は、脆性を有することから、当該ポリベンズオキサゾールの単独重合体には、応力特性の面で改善の余地があり、さらに耐熱性の改善が望まれている。
【0008】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有するベンズオキサゾール系コポリマーおよびその製造方法、ならびに前記ベンズオキサゾール系コポリマーを含有するフィルムおよび成形材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
(1)式(I):
【0010】
【0011】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子を示す)
で表わされる繰り返し単位および式(II):
【0012】
【0013】
(式中、R3およびR4は、それぞれ独立しては水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子を示す)
で表わされる繰り返し単位を有するベンズオキサゾール系コポリマー、
(2)4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物とを重合させ、生成したベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応を行なう前記(1)に記載のベンズオキサゾール系コポリマーの製造方法、
(3)前記(1)に記載のベンズオキサゾール系コポリマーを含有してなるフィルム、および
(4)前記(1)に記載のベンズオキサゾール系コポリマーを含有してなる成形材料
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有するベンズオキサゾール系コポリマーおよびその製造方法、ならびに前記ベンズオキサゾール系コポリマーを含有するフィルムおよび成形材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1で得られたベンズオキサゾール系コポリマーの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを示すグラフである。
【
図2】実施例1で得られたベンズオキサゾール系コポリマーのフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを示すグラフである。
【
図3】実施例2で得られたベンズオキサゾール系コポリマーの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを示すグラフである。
【
図4】実施例2で得られたベンズオキサゾール系コポリマーのフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを示すグラフである。
【
図5】実施例3で得られたベンズオキサゾール系コポリマーの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを示すグラフである。
【
図6】実施例3で得られたベンズオキサゾール系コポリマーのフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを示すグラフである。
【
図7】実施例4で得られたベンズオキサゾール系コポリマーの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを示すグラフである。
【
図8】実施例4で得られたベンズオキサゾール系コポリマーのフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを示すグラフである。
【
図9】実施例5で得られたベンズオキサゾール系コポリマーの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを示すグラフである。
【
図10】実施例5で得られたベンズオキサゾール系コポリマーのフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを示すグラフである。
【
図11】実施例6で得られたベンズオキサゾール系コポリマーの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを示すグラフである。
【
図12】実施例6で得られたベンズオキサゾール系コポリマーのフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを示すグラフである。
【
図13】比較例1で得られた2,6-ポリベンズオキサゾールの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを示すグラフである。
【
図14】比較例1で得られた2,6-ポリベンズオキサゾールのフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のベンズオキサゾール系コポリマーは、式(I):
【0017】
【0018】
(式中、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子を示す)
で表わされる繰り返し単位および式(II):
【0019】
【0020】
(式中、R3およびR4は、それぞれ独立しては水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子を示す)
で表わされる繰り返し単位を有する。
【0021】
式(I)で表わされる繰り返し単位において、R1およびR2は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子である。好適なアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1~4のアルキル基などが挙げられる。好適なアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1~4のアルコキシ基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。R1およびR2のなかでは、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有するベンズオキサゾール系コポリマーを得る観点から、水素原子、炭素数1~4のアルキル基および炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、水素原子および炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0022】
式(II)で表わされる繰り返し単位において、R3およびR4は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基またはハロゲン原子である。好適なアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1~4のアルキル基などが挙げられる。好適なアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などの炭素数1~4のアルコキシ基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。R3およびR4のなかでは、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有するベンズオキサゾール系コポリマーを得る観点から、水素原子、炭素数1~4のアルキル基および炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、水素原子および炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。
【0023】
式(I)で表わされる繰り返し単位と式(II)で表わされる繰り返し単位とのモル比〔式(I)で表わされる繰り返し単位/式(II)で表わされる繰り返し単位〕は、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有するベンズオキサゾール系コポリマーを得る観点から、好ましくは10/90~50/50、より好ましくは15/85~45/55、さらに好ましくは15/85~40/60である。
【0024】
本発明のベンズオキサゾール系コポリマーの粘度平均分子量は、特に限定されないが、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有するベンズオキサゾール系コポリマーを得る観点から、15000~800000g/molであることが好ましく、20000~500000g/molであることがより好ましく、50000~200000g/molであることがさらに好ましい。なお、ベンズオキサゾール系コポリマーの粘度平均分子量は、以下の実施例に記載の方法に基づいて測定したときの値である。
【0025】
本発明のベンズオキサゾール系コポリマーには、本発明の目的が阻害されない範囲内で式(I)で表わされる繰り返し単位および式(II)で表わされる繰り返し単位以外の他の繰り返し単位が含まれていてもよい。前記他の繰り返し単位には、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物とを重合させたときに不可避的に副生する繰り返し単位をはじめ、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物および3,4-ジアミノ安息香酸化合物以外の第三のモノマーの使用による当該第三のモノマーに基づく繰り返し単位が含まれる。前記第三のモノマーは、本発明の目的が阻害されない範囲内で使用することができる。
【0026】
本発明のベンズオキサゾール系コポリマーは、例えば、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物とを重合させ、生成したベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応を行なうことによって得ることができる。
【0027】
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物としては、例えば、式(III):
【0028】
【0029】
〔式中、R1およびR2は前記と同じであり、R5はアミノ基または式:-NH3
+X-(Xはハロゲン原子を示す)で表わされる基を示す〕
で表わされる4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物が挙げられる。R1およびR2は、前記と同じであるが、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有するベンズオキサゾール系コポリマーを得る観点から、水素原子、炭素数1~4のアルキル基および炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、水素原子および炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。Xは、ハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらのハロゲン原子のなかでは、塩素原子が好ましい。
【0030】
式(III)において、R1およびR2がそれぞれ水素原子である4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物は、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸である。4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸は、例えば、特開2021-101626号公報および特開2021-101627号公報に記載の方法によって効率よく調製することができる。式(III)において、Xがハロゲン原子である4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物は、常法によって4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸をハロゲン化させることによって容易に調製することができる。
【0031】
3,4-ジアミノ安息香酸化合物としては、例えば、式(IV):
【0032】
【0033】
〔式中、R3およびR4は前記と同じであり、R6およびR7は、それぞれ独立してアミノ基または式:-NH3
+X-(Xはハロゲン原子を示す)で表わされる基を示す〕
で表わされる3,4-ジアミノ安息香酸化合物が挙げられる。R3およびR4は、前記と同じであるが、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有するベンズオキサゾール系コポリマーを得る観点から、水素原子、炭素数1~4のアルキル基および炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、水素原子および炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、水素原子がさらに好ましい。式:-NH3
+X-で表わされる基において、Xは、ハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらのハロゲン原子のなかでは、塩素原子が好ましい。
【0034】
式(IV)においてR3およびR4がそれぞれ水素原子である3,4-ジアミノ安息香酸は、商業的に容易に入手することができる。式(IV)において、Xがハロゲン原子である3,4-ジアミノ安息香酸化合物は、常法によって3,4-ジアミノ安息香酸をハロゲン化させることによって容易に調製することができる。
【0035】
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物とのモル比(4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物/3,4-ジアミノ安息香酸化合物)は、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有するベンズオキサゾール系コポリマーを得る観点から、好ましくは10/90~50/50、より好ましくは15/85~45/55、さらに好ましくは15/85~40/60である。
【0036】
なお、本発明の目的を阻害しない範囲内で4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物および3,4-ジアミノ安息香酸化合物以外の他の化合物が用いられていてもよい。他の化合物としては、例えば、フェニレンジアミン、キシリレンジアミンなどの芳香族ジアミン化合物などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0037】
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物との重合法としては、例えば、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの重合法のなかでは、不純物量が少ないベンズオキサゾール系コポリマーを効率よく調製する観点から、塊状重合法および溶液重合法が好ましく、塊状重合法がより好ましい。
【0038】
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物との重合反応は、有機溶媒の存在下または非存在下で行なうことができる。
【0039】
前記有機溶媒は、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物および3,4-ジアミノ安息香酸化合物を重合反応温度で溶解させることができ、ベンズオキサゾール系コポリマーに対して難溶性ないし不溶性を呈する有機溶媒であることが好ましい。前記有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの炭素数1~4の脂肪族アルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン化合物、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、クロロベンゼン、フェノール、クレゾールなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。前記有機溶媒の量は、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物とを効率よく重合反応させることができる量であればよく、特に限定されないが、通常、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物および3,4-ジアミノ安息香酸化合物の合計量(質量)の3~20倍程度の量(質量)であることが好ましく、5~15倍程度の量(質量)であることがより好ましい。
【0040】
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物とを重合反応させる際には、熱安定剤を適量で用いることができる。熱安定剤としては、フェニルホスホン酸(PPA)、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、ジフェニルホスホン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0041】
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物との重合反応温度は、特に限定されないが、反応効率を高める観点から120~220℃程度であることが好ましい。重合反応温度は、一定であってもよく、段階的に昇温させてもよい。
【0042】
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物との重合反応時間は、重合反応温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、10~40時間程度である。4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物とを重合反応させる際の雰囲気は、大気中に含まれている酸素による影響を受けないようにする観点から、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。
【0043】
以上のようにして4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物とを重合反応させることにより、ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体が得られる。ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体が得られたことは、例えば、核磁気共鳴スペクトル、赤外分光スペクトルなどによって確認することができる。
【0044】
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物とを重合反応させているときに、生成したベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応が同時に進行していてもよい。したがって、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物と3,4-ジアミノ安息香酸化合物との重合反応と、生成したベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応とを連続して行なうことができる。
【0045】
生成したベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応は、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸化合物に基づく繰り返し単位および3,4-ジアミノ安息香酸化合物に基づく繰り返し単位をそれぞれ閉環させる反応を意味する。ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応は、ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の温度を200℃以上の温度に維持することによって行なうことができる。ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応を行なうときのベンズオキサゾール系コポリマーの温度は、効率よく閉環反応を行なう観点から、好ましくは200℃以上、より好ましくは210℃以上、さらに好ましくは220℃以上である。ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応を行なうときのベンズオキサゾール系コポリマーの温度の上限値は、特に制限されないが、生成するベンズオキサゾール系コポリマーの分解を抑制するとともにエネルギー効率を高める観点から、好ましくは300℃以下、より好ましくは280℃以下、さらに好ましくは260℃以下である。ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応を行なうときのベンズオキサゾール系コポリマーの温度は、一定であってもよく、変動させてもよい。
【0046】
ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応を行なう際には、熱安定剤を適量で用いることができる。熱安定剤として、前記と同様の化合物を挙げることができる。
【0047】
ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応に要する時間は、加熱温度などによって異なるので一概には決定することができないが、通常、10~24時間程度である。ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応を行なうときの雰囲気は、大気中に含まれている酸素による影響を受けないようにする観点から、例えば、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスであることが好ましい。
【0048】
以上のようにしてベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応を行なうことにより、本発明のベンズオキサゾール系コポリマーが得られる。ベンズオキサゾール系コポリマーが生成していることは、例えば、核磁気共鳴スペクトル、赤外分光スペクトルなどによって確認することができる。
【0049】
前記で得られたベンズオキサゾール系コポリマーは、そのままの状態で用いてもよく、当該ベンズオキサゾール系コポリマーに含まれている不純物を除去するために当該ベンズオキサゾール系コポリマーを水洗などによって精製してもよく、中和してもよい。前記で得られたベンズオキサゾール系コポリマーは、濾過などの方法によって回収することができる。回収されたベンズオキサゾール系コポリマーは、例えば、減圧乾燥などにより、乾燥させてもよい。
【0050】
本発明のベンズオキサゾール系コポリマーは、式(I)で表わされる繰り返し単位および式(II)で表わされる繰り返し単位を有することから、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有する。
【0051】
ベンズオキサゾール系コポリマーは、通常、式(I)で表わされる繰り返し単位および式(II)で表わされる繰り返し単位を有するランダムコポリマーであるが、式(I)で表わされる繰り返し単位および式(II)で表わされる繰り返し単位が交互に存在していてもよく、あるいはブロック状に存在していてもよい。
【0052】
ベンズオキサゾール系コポリマーには、必要により、その用途に応じて添加剤を適量で含有させてもよい。添加剤としては、例えば、顔料、染料などの着色剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、抗酸化剤、防錆剤、抗菌剤、可塑剤、防藻剤、防カビ剤、難燃剤、発泡剤などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの添加剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。添加剤の量は、当該添加剤の種類によって異なるので一概には決定することができないことから、当該添加剤の種類に応じて適宜決定することが好ましい。
【0053】
本発明のベンズオキサゾール系コポリマーは、各種有機溶媒に溶解することから、所望の形状を有する成形体の成形材料、フィルムの原料などとして好適に用いることができる。成形体は、例えば、ベンズオキサゾール系コポリマーを有機溶媒に溶解させた溶液を成形材料として用い、当該成形材料を用いてブロー成形、押出成形、射出成形などの成形法で成形することにより、得ることができる。
【0054】
前記有機溶媒としては、例えば、トリフルオロ酢酸、メチルスルホン酸、ヘキサフルオロイソプロパノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、ジクロロメタンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
本発明のベンズオキサゾール系コポリマーに対する有機溶媒の量は、当該有機溶媒の種類、所望するベンズオキサゾール系コポリマーの有機溶媒溶液の粘度などによって異なるので一概には決定することができない。通常、ベンズオキサゾール系コポリマーの有機溶媒溶液が所定の温度で所望の粘度を有するようにベンズオキサゾール系コポリマーと有機溶媒とを所望の比率で混合することが好ましい。
【0056】
本発明のベンズオキサゾール系コポリマーからなるフィルムは、ベンズオキサゾール系コポリマーの有機溶媒溶液をキャスティング、流延などの方法によってフィルム化させることにより、得ることができる。フィルムを形成させた後には、当該フィルムに含まれている有機溶媒を除去するために、当該フィルムを乾燥させてもよい。形成されるフィルムの厚さは、当該フィルムの用途によって異なるので一概には決定することができないが、通常、3~800μm程度である。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
なお、以下の各実施例および各比較例で得られたポリマーの構造および分子量は、以下の方法に基づいて特定した。
【0059】
(1)核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトル
ポリマーの核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトルは、核磁気共鳴分光装置〔ブルカー(Bruker)社製、商品名:Bruker Avance III, 500MHz〕を用いて測定した。サンプル(ポリマー)5mgを直径7mmのジルコニアローターに充填し、8kHzで回転させた。接触時間および積算時間をそれぞれ2秒間および5秒間に設定し、積算回数を15000に設定した。
【0060】
(2)フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトル
測定装置としてパーキン・エルマー(Perkin Elmer)社製、商品名:Spectrum 100 (ATR法)を用い、測定波数領域を400~4000cm-1とし、積算回数を16回としてフーリエ変換赤外分光(FT-IR)を測定した。
【0061】
〔ポリマーの粘度平均分子量〕
ポリマーの粘度平均分子量は、ポリマーの固有粘度に基づき、以下の方法にしたがって求めた。
【0062】
ポリマー100mgを98%硫酸15mLに溶解させて均質な溶液を得た。得られた用益の相対粘度を25℃でウベローデ粘度計を用いて測定した。硫酸が粘度計の特定長さを通過する時間(t0)と、ポリマー溶液が当該特定長さを通過する時間(t)を測定し、相対粘度(ηrel)を式(1):
ηrel=t/t0 (1)
に基づいて求めた。
【0063】
次に、比粘度(ηsp)を式(2):
ηsp=(t-t0)/t0=ηrel-1 (2)
に基づいて求めた。その後、固有粘度〔ηint(単位:dL/g)〕をSolomon-Ciutaの式(3):
【0064】
【0065】
(式中、cは前記溶液におけるポリマーの濃度を示す)
に基づいて求めた。なお、参考のため、Solomon-Ciutaの式(3)の参考文献として、R. Pamies, J. G. Hernandez Cifre, M. del Carmen Lopez Martinez and J. Garcia de la Torre, Colloid Polym. Sci., 2008, 286, 1223-1231を掲載する。
【0066】
次に、粘度平均分子量〔Mw(単位:g/mol)〕をMark-Houwinkの式(4):
ηint=KMw
a (4)
(式中、Kは1.94×10-4、aは0.791を示す)
に基づいて求めた。なお、参考のため、Mark-Houwinkの式(4)の参考文献として、J. Lobato, P. Canizares, M. A. Rodrigo, J. J. Linares and J. A. Aguilar, J. Memb. Sci., 2007, 306, 47-55を掲載する。
【0067】
〔ポリマーの性質〕
(1)ポリマーの耐熱性
熱重量分析装置〔セイコーインスツル(株)製、品番:SSC/5200SII〕を用い、窒素ガス雰囲気中で10℃/minの昇温速度で25~800℃の温度範囲にてポリマーの熱重量分析を行なった。当該熱重量分析の結果に基づき、5%重量減少温度(Td5)および10%重量減少温度(Td10)を決定した。なお、5%重量減少温度は、試料(ポリマー)の質量が5%減少したときの温度を意味し、10%重量減少温度は、試料(ポリマー)の質量が10%減少したときの温度を意味する。
【0068】
(2)フィルムの破断応力、破断時の伸び、ヤング率および靭性
幅7mm、長さ40mm、厚さ15μmを有するフィルムを用い、引張試験機〔インストロン(INSTRON)社製、品番:3365―L5)で室温にて0.4mm/secのクロスヘッド速度で引っ張ることにより、フィルムが破断するまでの最大強度(破断応力)を測定した。フィルムの破断時の伸びは、フィルムの引張強度を測定し、フィルムが破断するときにフィルムが伸びた長さを求め、当該伸びた長さをフィルムの元の長さで除し、100倍したときの値である。フィルムのヤング率は、応力-ひずみ曲線の初期傾きによって求めた。フィルムの靭性は、応力-ひずみ曲線で囲まれた領域の積分面積とした。
【0069】
〔ポリマーの溶解性〕
ポリマー5mgを各種溶媒2mLに添加し、室温(約20℃)で静置し、ポリマーの添加の開始から1時間経過した時点でポリマーが溶媒に溶解しているかどうかを調べた。なお、ポリマーの添加の開始から1時間経過してもポリマーが溶媒に溶解しなかった場合には、超音波を照射するか、または60℃に加熱することによって溶解するかどうかを調べた。
【0070】
溶解性の評価基準は、以下のとおりである。
[評価基準]
+:ポリマーが完全に溶解
±:ポリマーが部分的に溶解
-:ポリマーが不溶
【0071】
調製例1(4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸塩酸塩の調製)
4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸6.0g(39.2mmol)をメタノール30mL中に分散させて分散液を得た。前記で得られた分散液に攪拌下で4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸が完全に溶解するまで12N塩酸を滴下し、分散液の色が桃色から暗赤色に変化した後、さらに室温で4時間撹拌を続けることにより、黄色の4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸塩酸塩の分散液を得た。前記で得られた分散液から溶媒を蒸発によって除去することにより、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸塩酸塩5.4gを得た(収率:94%)。
【0072】
調製例2(3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩の調製)
調製例1において、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸の代わりに3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩9.0g(40.0mg)を用いたこと以外は、調製例1と同様にして3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩を得た。
【0073】
実施例1(2,6-ベンズオキサゾール系コポリマーの調製)
【0074】
【0075】
ポリリン酸25gをマグネチックスターラー付きの3つ口丸底フラスコ内に入れ、窒素ガス雰囲気下でフラスコの内容物を100℃で1時間加熱し、微量の水分を除去した。引き続いて4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸226.8mg(1.20mmol)および3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩1080.0mg(4.80mmol)をフラスコ内に添加し、フラスコの内容物を1時間連続的に攪拌することによって各化合物を溶解させた。
【0076】
次に、フラスコの内容物を160℃で4時間加熱し、次いで180℃で4時間加熱し、次いで200℃で4時間し、引き続いて220℃で12時間加熱することにより、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸と3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩との重合反応と、生成した2,6-ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応とを連続して行なったところ、内容物の色は赤色から暗褐色に変化した。
【0077】
前記で得られた溶液を水中に分散させ、得られた分散体を12時間撹拌した後、当該分散体からポリリン酸を除去し、当該分散体を濾過することにより、褐色の固体を得た。
【0078】
前記で得られた固体を減圧乾燥させた後、当該固体を粉砕することによって粉末を得た。得られた粉末を脱イオン水に懸濁させ、得られた懸濁液に1M水酸化ナトリウム水溶液をゆっくりと加え、懸濁液のpHが7.0に到達するまで当該懸濁液を1時間撹拌した。
【0079】
前記懸濁液から固体を濾過によって回収し、減圧乾燥させることにより、褐色の2,6-ベンズオキサゾール系コポリマー(以下、PBOBI-Aという)の粉末621.0mg(5.4mmol)を得た(収率:89%)。
【0080】
前記で得られたPBOBI-Aの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを
図1に、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを
図2に示す。
【0081】
実施例2(2,6-ベンズオキサゾール系コポリマーの調製)
実施例1において、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸の量を113.4mg(0.6mmol)に変更し、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸の量を1215mg(5.4mol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして褐色の2,6-ベンズオキサゾール系コポリマー(以下、PBOBI-Bという)の粉末を得た。
【0082】
前記で得られたPBOBI-Bの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを
図3に、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを
図4に示す。
【0083】
実施例3(2,6-ベンズオキサゾール系コポリマーの調製)
実施例1において、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸の量を340.2mg(1.8mmol)に変更し、3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩の量を945mg(4.2mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして褐色のベンズオキサゾール系コポリマー(以下、PBOBI-Cという)の粉末を得た。
【0084】
前記で得られたPBOBI-Cの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを
図5に、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを
図6に示す。
【0085】
実施例4(2,6-ベンズオキサゾール系コポリマーの調製)
実施例1において、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸の量を453.6mg(2.4mmol)に変更し、3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩の量を810mg(3.6mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして褐色のベンズオキサゾール系コポリマー(以下、PBOBI-Dという)の粉末を得た。
【0086】
前記で得られたPBOBI-Dの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを
図7に、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを
図8に示す。
【0087】
実施例5(2,6-ベンズオキサゾール系コポリマーの調製)
実施例1において、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸の量を567.0mg(3.0mmol)に変更し、3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩の量を675mg(3.0mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして褐色の2,6-ベンズオキサゾール系コポリマー(以下、PBOBI-Eという)の粉末を得た。
【0088】
前記で得られたPBOBI-Eの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを
図9に、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを
図10に示す。
【0089】
実施例6(2,6-ベンズオキサゾール系コポリマーの調製)
実施例1において、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸の量を680.4mg(3.6mmol)に変更し、3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩の量を540mg(2.4mmol)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして褐色の2,6-ベンズオキサゾール系コポリマー(以下、PBOBI-Fという)の粉末を得た。
【0090】
前記で得られたPBOBI-Fの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを
図11に、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを
図12に示す。
【0091】
比較例1(2,6-ポリベンズオキサゾールの調製)
【0092】
【0093】
ポリリン酸25gをマグネチックスターラー付きの3つ口丸底フラスコ内に入れ、窒素ガス雰囲気下でフラスコの内容物を100℃で1時間加熱し、微量の水分を除去した。引き続いて4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸塩酸塩1134mg(6mmol)をフラスコ内に添加し、フラスコの内容物を1時間連続的に攪拌することによって各化合物を溶解させた。
【0094】
次に、フラスコの内容物を160℃で4時間加熱し、次いで180℃で4時間加熱し、次いで200℃で4時間し、引き続いて220℃で12時間加熱した。
【0095】
前記で加熱したフラスコの内容物を水中に分散させ、得られた分散体を12時間撹拌した後、当該分散体からポリリン酸を除去し、当該分散体を濾過することにより、固体を得た。
【0096】
前記で得られた固体を減圧乾燥させた後、当該固体を粉砕することによって粉末を得た。得られた粉末を脱イオン水に懸濁させ、得られた懸濁液に1M水酸化ナトリウム水溶液をゆっくりと加え、懸濁液のpHが7.0に到達するまで当該懸濁液を1時間撹拌した。
【0097】
前記懸濁液から固体を濾過によって回収し、減圧乾燥させることにより、2,6-ポリベンズオキサゾール(以下、PBO-Aという)を得た。
【0098】
前記で得られたPBO-Aの核磁気共鳴(
13C-NMR)スペクトルを
図13に、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを
図14に示す。
【0099】
比較例2(2,5-ポリベンズオキサゾールの調製)
【0100】
【0101】
ポリリン酸25gをマグネチックスターラー付きの3つ口丸底フラスコ内に入れ、窒素ガス雰囲気下でフラスコの内容物を100℃で1時間加熱し、微量の水分を除去した。引き続いて3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸塩酸塩1134mg(6mmol)をフラスコ内に添加し、フラスコの内容物を1時間連続的に攪拌することによって各化合物を溶解させた。
【0102】
次に、フラスコの内容物を160℃で4時間加熱し、次いで180℃で4時間加熱し、次いで200℃で4時間し、引き続いて220℃で12時間加熱した。
【0103】
前記で加熱したフラスコの内容物を水中に分散させ、得られた分散体を12時間撹拌した後、当該分散体からポリリン酸を除去し、当該分散体を濾過することにより、固体を得た。
【0104】
前記で得られた固体を減圧乾燥させた後、当該固体を粉砕することによって粉末を得た。得られた粉末を脱イオン水に懸濁させ、得られた懸濁液に1M水酸化ナトリウム水溶液をゆっくりと加え、懸濁液のpHが7.0に到達するまで当該懸濁液を1時間撹拌した。
【0105】
前記懸濁液から固体を濾過によって回収し、減圧乾燥させることにより、2,5-ポリベンズオキサゾール(以下、PBO-Bいう)を得た。
【0106】
比較例2でPBO-Bが得られていることは、13C-NMRスペクトルおよび赤外吸収スペクトルによって確認した。
【0107】
比較例3(ベンズオキサゾールコポリマーの調製)
【0108】
【0109】
ポリリン酸25gをマグネチックスターラー付きの3つ口丸底フラスコ内に入れ、窒素ガス雰囲気下でフラスコの内容物を100℃で1時間加熱し、微量の水分を除去した。引き続いて4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸塩酸塩567.0mg(3.0mmol)および3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸塩酸塩567.0mg(3.0mmol)をフラスコ内に添加し、フラスコの内容物を1時間連続的に攪拌することによって各化合物を溶解させた。
【0110】
次に、フラスコの内容物を160℃で4時間加熱し、次いで180℃で4時間加熱し、次いで200℃で4時間し、引き続いて220℃で12時間加熱することにより、4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸と3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸塩酸塩との重合反応と、生成した2,6-ポリベンズオキサゾールの前駆体の閉環反応とを連続して行なった。
【0111】
前記で加熱したフラスコの内容物を水中に分散させ、得られた分散体を12時間撹拌した後、当該分散体からポリリン酸を除去し、当該分散体を濾過することにより、固体を得た。
【0112】
前記で得られた固体を減圧乾燥させた後、当該固体を粉砕することによって粉末を得た。得られた粉末を脱イオン水に懸濁させ、得られた懸濁液に1M水酸化ナトリウム水溶液をゆっくりと加え、懸濁液のpHが7.0に到達するまで当該懸濁液を1時間撹拌した。
【0113】
前記懸濁液から固体を濾過によって回収し、減圧乾燥させることにより、2,6-ポリベンズオキサゾール(以下、PBOBOという)を得た。
【0114】
比較例3でPBOBOが得られていることは、13C-NMRスペクトルおよび赤外吸収スペクトルによって確認した。
【0115】
比較例4(2,5-ベンズオキサゾール系コポリマーの調製)
【0116】
【0117】
ポリリン酸25gをマグネチックスターラー付きの3つ口丸底フラスコ内に入れ、窒素ガス雰囲気下でフラスコの内容物を100℃で1時間加熱し、微量の水分を除去した。引き続いて3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸226.8mg(1.20mmol)および3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩1080.0mg(4.80mmol)をフラスコ内に添加し、フラスコの内容物を1時間連続的に攪拌することによって各化合物を溶解させた。
【0118】
次に、フラスコの内容物を160℃で4時間加熱し、次いで180℃で4時間加熱し、次いで200℃で4時間し、引き続いて220℃で12時間加熱することにより、3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸と3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩との重合反応と、生成した2,5-ベンズオキサゾール系コポリマーの前駆体の閉環反応とを連続して行なったところ、内容物の色は赤色から暗褐色に変化した。
【0119】
前記で得られた溶液を水中に分散させ、得られた分散体を12時間撹拌した後、当該分散体からポリリン酸を除去し、当該分散体を濾過することにより、褐色の固体を得た。
【0120】
前記で得られた固体を減圧乾燥させた後、当該固体を粉砕することによって粉末を得た。得られた粉末を脱イオン水に懸濁させ、得られた懸濁液に1M水酸化ナトリウム水溶液をゆっくりと加え、懸濁液のpHが7.0に到達するまで当該懸濁液を1時間撹拌した。
【0121】
前記懸濁液から固体を濾過によって回収し、減圧乾燥させることにより、褐色の2,5-ベンズオキサゾール系コポリマー(以下、PBOBI-Gという)の粉末621.0mg(5.4mmol)を得た(収率:89%)。
【0122】
比較例4でPBOBI-Gが得られていることは、13C-NMRスペクトルおよび赤外吸収スペクトルによって確認した。
【0123】
比較例5(2,5-ベンズオキサゾール系コポリマーの調製)
比較例4において、3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸の量を453.6mg(2.4mmol)に変更し、3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩の量を810mg(3.6mmol)に変更したこと以外は、比較例4と同様にして褐色の2,5-ベンズオキサゾール系コポリマー(以下、PBOBI-Hという)の粉末を得た。
【0124】
前記で得られたPBOBI-Hの核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトルおよび赤外吸収スペクトルは、いずれも比較例4で得られたPBOBI-Gの核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトルおよび赤外吸収スペクトルと同様であった。
【0125】
比較例6(2,5-ベンズオキサゾール系コポリマーの調製)
比較例4において、3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸の量を945.0mg(5.0mmol)に変更し、3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩の量を1125mg(5.0mmol)に変更したこと以外は、比較例4と同様にして褐色の2,5-ベンズオキサゾール系コポリマー(以下、PBOBI-Iという)の粉末を得た。
【0126】
前記で得られたPBOBI-Iの核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトルおよび赤外吸収スペクトルは、いずれも比較例4で得られたPBOBI-Gの核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトルおよび赤外吸収スペクトルと同様であった。
【0127】
比較例7(2,5-ベンズオキサゾール系コポリマーJの調製)
比較例4において、3-アミノ-4-ヒドロキシ安息香酸の量を680.4mg(3.6mmol)に変更し、3,4-ジアミノ安息香酸塩酸塩の量を540mg(2.4mmol)に変更したこと以外は、比較例4と同様にして褐色の2,5-ベンズオキサゾール系コポリマー(以下、PBOBI-Jという)の粉末を得た。
【0128】
前記で得られたPBOBI-Jの核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトルおよび赤外吸収スペクトルは、いずれも比較例4で得られたPBOBI-Gの核磁気共鳴(13C-NMR)スペクトルおよび赤外吸収スペクトルと同様であった。
【0129】
〔各ポリマーの分子量〕
前記で得られた各ポリマーの分子量に関するデータは以下の表1に示すとおりである。
【0130】
【0131】
〔フィルムの作製〕
前記で得られた各ポリマーをそれぞれ100mgの量で取り、各ポリマーをトリフルオロ酢酸3mLとメタンスルホン酸0.19mLとの混合溶媒中にそれぞれ分散させた。前記で得られた分散体を60℃で24時間撹拌し、ポリマーを溶解させて暗褐色の溶液を得た。前記で得られた溶液をスポイトで取り、シリコンプレート上に均一に塗布し、室温で12時間乾燥させて溶媒を蒸発させることにより、フィルムを形成させた。
【0132】
次に、前記で得られたフィルムを25℃の水中に12時間浸漬させ、当該フィルムに含まれているメタンスルホン酸を除去した。その後、フィルムを水中から取り出し、2枚のシリコンプレートの間に挟み、減圧下で12時間乾燥させることにより、厚さが約30μmであるフィルムを得た。
【0133】
ベンズオキサゾール系コポリマーとしてPBOBI-A~PBOBI-Jを用いて前記と同様にしてフィルムを作製したところ、ベンズオキサゾール系コポリマーにおける4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸の含有率が高くなるにしたがってフィルムの耐久性が低下することがわかった。
【0134】
ベンズオキサゾール系コポリマーにおける4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸の含有率が20モル%以下では、フィルムがしなやかになることが確認された。また、ベンズオキサゾール系コポリマーにおける4-アミノ-3-ヒドロキシ安息香酸の含有率が50モル%以上では、フィルムが脆性を有するようになることが確認された。これらのことから、式(I)で表わされる繰り返し単位と式(II)で表わされる繰り返し単位とのモル比〔式(I)で表わされる繰り返し単位/式(II)で表わされる繰り返し単位〕は、20/80~50/50であることが好ましいことが確認された。
【0135】
一方、比較例1で得られたPBO-A100mgを用いて前記と同様にしてフィルムを作製したところ、得られたフィルムをシリコンプレートから剥がそうとしたときに粉末状に破壊されたことから、当該フィルムの脆性が大きく、当該フィルムの機械的特性を測定することができなかった。
【0136】
また、比較例2で得られたPBO-B100mgまたは比較例3で得られたPBOBO100mgを用いて前記と同様にしてフィルムを作製したところ、得られたフィルムは、いずれもシリコンプレートから剥がそうとしたとき、容易に破壊されたことから、これらのフィルムの機械的特性を測定することができなかった。
【0137】
〔ポリマーの耐熱性〕
耐熱性の指標として5%重量減少温度および10%重量減少温度を用いた。PBOBI-A~PBOBI-J、PBO-A、PBO-BおよびPBOBOの5%重量減少温度および10%重量減少温度の測定結果を表2に示す。
【0138】
【0139】
表2に示された結果から、各実施例で得られたPBO-A~PBO-Fの5%重量減少温度および10%重量減少温度は、各比較例で得られたPBOBI-G~PBOBI-Jよりも優れていることがわかる。
【0140】
〔フィルムの破断応力、破断時の伸び、ヤング率および靭性〕
PBOBI-A、PBOBI-B、PBOBI-D、PBO-A、PBO-B、PBOBO、PBOBI-GおよびPBOBI-Iの機械的特性としてフィルムの破断応力、破断時の伸び、ヤング率および靭性を調べた。その結果を表3に示す。
【0141】
【0142】
表3に示された結果から、各実施例で得られたベンズオキサゾール系コポリマーは、各比較例で得られたPBO-A、PBO-BおよびPBOBOと対比して破断応力、破断時の伸び、剛性(ヤング率)および靭性が格段に優れており、ベンズオキサゾール系コポリマーにおける式(II)で表わされる繰り返し単位の含有率が高くなるにしたがって破断応力、破断時の伸び、剛性および靭性が向上することがわかる。
【0143】
〔ポリマーの溶解性〕
各実施例で得られたPBOBI-A~PBOBI-J、PBO-A、PBO-BおよびPBOBOの溶解性を調べた。その結果を表4に示す。
【0144】
【0145】
表4に示された結果から、各実施例で得られたベンズオキサゾール系コポリマーは、いずれも種々の溶媒に溶解しやすいことがわかる。このことから、各実施例で得られたベンズオキサゾール系コポリマーを溶媒に溶解させた溶液は、成形材料として使用することができ、当該溶液をキャスティングなどの方法でフィルム化させてフィルムを製造することができることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明のベンズオキサゾール系コポリマーは、耐熱性およびフィルム形成性に優れており、良好な機械的特性を有することから、耐熱性が要求される電子部品、電子情報材料、航空宇宙材料などの成形材料、各種フィルムなどの成形材料、高性能モーターなどに使用される電線のエナメルなどとして用いることが期待される。また、本発明のベンズオキサゾール系コポリマーは、耐熱性およびフィルム形成性に優れているだけでなく、良好な機械的特性を有するので、紙おむつ用素材、拭き取り化粧水シートなどの化粧用シートなどの種々の用途に使用することが期待される。