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特許7662810冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体および該作動媒体を用いた冷凍サイクル装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体および該作動媒体を用いた冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/04 20060101AFI20250408BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20250408BHJP
   C10M 111/04 20060101ALI20250408BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20250408BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20250408BHJP
   C10M 107/34 20060101ALN20250408BHJP
   C10M 135/30 20060101ALN20250408BHJP
   C10M 129/68 20060101ALN20250408BHJP
   C10M 129/10 20060101ALN20250408BHJP
   C10M 133/04 20060101ALN20250408BHJP
   C10M 133/44 20060101ALN20250408BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20250408BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20250408BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20250408BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20250408BHJP
【FI】
C09K5/04 B
F25B1/00 396G
C10M111/04
C10M169/04
C10M101/02
C10M107/34
C10M135/30
C10M129/68
C10M129/10
C10M133/04
C10M133/44
C10N20:00 Z
C10N30:02
C10N30:06
C10N40:30
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2023556461
(86)(22)【出願日】2022-10-25
(86)【国際出願番号】 JP2022039731
(87)【国際公開番号】W WO2023074686
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/039624
(32)【優先日】2021-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518460716
【氏名又は名称】ジーエス カルテックス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】GS CALTEX CORPORATION
【住所又は居所原語表記】(Yeoksam-dong),508,Nonhyeon-ro,Gangnam-gu,Seoul 06141,Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(72)【発明者】
【氏名】横井 清重
(72)【発明者】
【氏名】河村 親哉
【審査官】林 建二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-053199(JP,A)
【文献】特開2001-181661(JP,A)
【文献】特開2005-325151(JP,A)
【文献】特開2006-275013(JP,A)
【文献】特開2014-114354(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132676(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/112417(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/00-5/20
F25B 1/00-7/00
C10M 101/00-177/00
C10N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素を含む冷媒と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルおよび鉱油を含む冷凍機油と、チオビスフェノール化合物と、を含み、
前記ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、下記一般式(1):
【化2】
[式(1)中、Rは炭素数1~の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。]
で表され、数平均分子量が100~1500であり、40℃における動粘度が2mm/s以上40mm/s以下であり、
前記鉱油は、アニリン点が55℃以上105℃以下であり、流動点が-15℃以下であり、40℃における動粘度がmm/sを超え100mm/s以下であり、
前記ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上60質量%以下で含有され、前記鉱油は、前記冷凍機油の全質量に対して、40質量%以上90質量%以下で含有される、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項2】
前記チオビスフェノール化合物が、前記冷凍機油全質量に対して、0.05質量%以上3.0質量%以下で含有される、請求項に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項3】
前記冷凍機油は、0.1質量%以上20質量%以下のエステル化合物をさらに含有する、請求項1または2に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項4】
前記鉱油は、アニリン点が55℃以上95℃以下であり、流動点が-30℃以下のナフテン系鉱油である、請求項1または2に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項5】
前記冷凍機油は、25℃における体積抵抗率が1×1011Ω・cm以上である、請求項1または2に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項6】
前記冷凍機油は、湿度50%で25℃における飽和水分が1質量%以下であり、-10℃において均一な液体である、請求項1または2に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項7】
前記冷媒は、プロパンである、請求項またはに記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項8】
前記ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、前記一般式(1)のRが炭素数4のアルキル基であり、ORがオキシプロピレン基である、請求項1または2に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項9】
前記冷凍機油は、アミン化合物、フェノール化合物およびベンゾトリアゾール化合物からなる群より選択される1種以上の添加剤を、前記冷凍機油全質量に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下で含有する、請求項1または2に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項10】
前記冷凍機油は、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上40質量%以下の前記ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、60質量%以上90質量%以下の前記鉱油と、0.1質量%以上15質量%以下の前記エステル化合物と、を含む、請求項に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項11】
炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素を含む冷媒と、ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルおよび鉱油を含む冷凍機油と、チオビスフェノール化合物と、を含み、
前記ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、下記一般式(1):
【化3】
[式(1)中、Rは炭素数1~の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。]
で表され、数平均分子量が100~1500であり、40℃における動粘度が2mm/s以上40mm/s以下であり、
前記鉱油は、アニリン点が55℃以上105℃以下であり、流動点が-15℃以下であり、40℃における動粘度がmm/sを超え100mm/s以下であり、
前記ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上60質量%以下で含有され、前記鉱油は、前記冷凍機油の全質量に対して、40質量%以上90質量%以下で含有される、耐摩耗用冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【請求項12】
請求項1または2に記載の作動媒体を用いた密封型冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体および該作動媒体を用いた冷凍サイクル装置に関する。詳しくは、本発明は、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置に用いられる、冷媒と冷凍機油とを含む作動媒体およびこれを用いた冷凍サイクル装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
空調機、電気冷蔵庫、産業用冷凍機、冷蔵または冷凍倉庫等の冷媒を圧縮して用いる冷凍サイクル装置においては、フッ素原子を含有する炭化水素であるハイドロフルオロカーボン(HFC)が冷媒として用いられている。しかし、このHFCは大気中での寿命が長いため温室効果が大きく、地球温暖化を防止する上では満足な冷媒ではなく、その使用が制限される動きにある。
【0003】
上記HFCの代わりに、強燃性ではあるがオゾン破壊係数がゼロでありかつ地球温暖化係数も、HFCに比べれば格段に小さい、ハロゲン原子を含まない炭化水素(以下、単に「炭化水素冷媒」とも称する)を冷凍サイクル装置の冷媒として用いることが進められている。例えば、ハロゲン原子を含まない炭化水素であるイソブタン(R600a)を冷媒として用いた電気冷蔵庫が実用化されている。さらに、ハロゲン原子を含まない炭化水素を冷媒として用いた大型の機器開発が検討され、空調機にはプロパン(R290)が実用化されつつある。これらの炭化水素冷媒を用いる場合、炭化水素冷媒と共に作動媒体成分として用いられる冷凍機油としては鉱油、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、ポリエーテル等が知られている。(例えば、特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2000-60031号明細書
【文献】特開2003-041278号公報
【文献】特許第3664511号公報
【文献】特許第5086782号公報
【文献】特許第4603117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1~3で提案された鉱油、アルキルベンゼンまたはポリオールエステルを含む冷凍機油は、プロパン、イソブタンなどの炭化水素冷媒との相溶性が良く、冷凍機油に溶解する冷媒量が多くなる。このため、冷凍サイクル装置において十分な能力を発揮させるには、冷凍サイクル装置内に大量の炭化水素冷媒を充填する必要がある。しかし、プロパン、イソブタンなどの炭化水素は強燃性であるので、炭化水素冷媒量は運転効率を充分発揮する範囲内で極力少量であることが安全面から望まれる。また、冷凍機油中に溶解する炭化水素冷媒量が少ないほど、運転時の条件変動によって生じる炭化水素冷媒の冷凍機油に対する溶解と蒸発との変動が少なくなり、作動媒体の粘度変化が少なくなり好ましい。また、冷凍機油中に溶解する炭化水素冷媒量が少ない場合、より低粘度の冷凍機油を選定することができるため、冷凍サイクル装置の高効率化が図れ、省エネルギーにつながる。
【0006】
上記特許文献4で提案されたポリオールエステルとポリアルキレングリコールとを含む冷凍機油は、ポリオールエステルとポリアルキレングリコールとの両方が高い極性を有するため、冷凍機油の吸湿性が高くなる。この場合、冷凍機油中の水分含有量が高くなり、ポリオールエステルの加水分解が進行してしまい、冷凍機油が劣化することが懸念される。冷凍機油は、冷媒との共存下で冷凍サイクル装置において長期間使用され、低温と高温とにさらされるため、高い安定性が要求される。このような吸湿性の高い冷凍機油を冷凍サイクル装置において使用すると、冷凍サイクル装置内における水分含量の増加や冷凍機油の劣化等により、トラブルが生じるおそれがある。また、ポリオールエステルとポリアルキレングリコールとを含む冷凍機油は、体積抵抗率で示される電気絶縁性が低いため、冷凍サイクル装置においてリーク電流を起こしやすいという問題点がある。
【0007】
特許文献5には、ポリエーテル化合物および鉱油を含む冷凍機油が開示されている。特許文献5においては、ポリエーテル化合物としては、ポリアルキレングリコールまたはポリビニルエーテルであること、および、鉱油としては、潤滑性を向上させるために特定の硫黄分を有することが定められているのみである。そのため、特許文献5に開示された冷凍機油は、非常に広範囲の冷凍機油を含むものである。ここで、特許文献5に開示された冷凍機油は、冷媒としてアンモニア冷媒を用いるものである。すなわち、特許文献5に開示された冷凍機油は、大型開放型の冷凍機であるアンモニア冷媒使用の冷凍機、つまり冷媒と冷凍機油とが混合されて冷凍サイクルを循環することのない非循環式のシステムに適した冷凍機油である。
【0008】
非循環式のシステムに対して、コンプレッサの中にモーターが内蔵され、炭化水素冷媒と冷凍機油とが混合された媒体として冷凍サイクルを循環する小型密閉型の循環式のシステムが知られている。この循環式のシステムでは、モーターが内蔵されているために冷凍機油に高い電気絶縁性が求められる。特許文献5において用いられたアンモニア冷媒は極性が大きく電流がリークするため、循環式のシステムには使用できない。また、循環式のシステムでは、低温(例えば、-25℃)まで冷却されるため、低温においても媒体が均一な液体であることが求められる。そのため、冷媒として、低温においても液体である炭化水素冷媒が好ましく用いられる。冷凍機油としては、低温においても炭化水素冷媒と均一に溶け合うことが求められる。例えば、特許文献5に開示された冷凍機油では、ポリエーテル化合物(特にポリアルキレングリコール)は極性を有し、鉱油は無極性である。この場合、ポリエーテル化合物は、極性の違いにより、鉱油および炭化水素冷媒と低温(例えば、-25℃)では溶け合いにくく、低温において分離または析出してしまう。以上のように、特許文献5に開示されたアンモニア冷媒および冷凍機油は、循環式のシステムには適していない。
【0009】
以上のように、冷凍機油としての特性、すなわち、安定性、炭化水素冷媒との適切な相溶性、電気絶縁性などについて、いまだ改善の余地があった。
【0010】
本発明の目的は、炭化水素冷媒と冷凍機油とを含む冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体において、冷凍機油が、高い安定性、冷媒との適切な溶解性、高い潤滑性、および高い電気絶縁性のうち少なくともひとつを達成する、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素を含む冷媒と、ポリアルキレングリコールおよび鉱油を含む冷凍機油と、を含み、前記ポリアルキレングリコールは、下記一般式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
〔式(1)中、Rは炭素数1~25の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。〕
で表され、40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下であり、前記鉱油は、アニリン点が55℃以上105℃以下であり、流動点が-15℃以下であり、40℃における動粘度が2mm/s以上100mm/s以下であり、前記ポリアルキレングリコールは、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上60質量%以下で含有され、前記鉱油は、前記冷凍機油の全質量に対して、40質量%以上90質量%以下で含有される、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体が提供される。
【0014】
本発明の他の実施形態によれば、炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素を含む冷媒と、ポリアルキレングリコールおよび鉱油を含む冷凍機油と、チオビスフェノール化合物と、を含み、前記ポリアルキレングリコールは、下記一般式(1):
【0015】
【化2】
【0016】
[式(1)中、Rは炭素数1~25の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。]
で表され、40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下であり、前記鉱油は、アニリン点が55℃以上105℃以下であり、流動点が-15℃以下であり、40℃における動粘度が2mm/s以上100mm/s以下であり、前記ポリアルキレングリコールは、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上60質量%以下で含有され、前記鉱油は、前記冷凍機油の全質量に対して、40質量%以上90質量%以下で含有される、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、炭化水素を含む冷媒と冷凍機油とを含む冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体において、冷凍機油が、高い安定性、冷媒との適切な溶解性、高い潤滑性、および高い電気絶縁性のうち少なくともひとつを達成する、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の冷凍機油および作動媒体について詳細に説明する。なお、本明細書において、特記しない限り、操作及び物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。また、本明細書において、「X~Y」は、その前後に記載される数値(XおよびY)を下限値および上限値として含む意味で使用し、「X以上Y以下」を意味する。
【0019】
本発明に係る冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体(以下、単に「作動媒体」と称する)は、炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素を含む冷媒と、特定のポリアルキレングリコールおよび特定の鉱油を含む冷凍機油と、を含む。また、本発明に係る作動媒体は、40℃における動粘度が1mm/s以上32mm/s以下であるのが好ましく、3mm/s以上30mm/s以下であるのがより好ましく、5mm/s以上25mm/s以下であるのがさらに好ましい。なお、本明細書中、動粘度は、実施例に記載の方法で測定されたものである。
【0020】
まず、本発明の作動媒体に含まれる冷媒について説明する。冷媒は、炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素(以下、単に「炭化水素」とも称する)を含む。炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素としては、エタン(R170)、プロパン(R290)、ノルマルブタン(R600)、イソブタン(R600a)といった飽和炭化水素やエチレン、プロペンなどの不飽和炭化水素を挙げることができる。炭化水素としては、これらのうち、飽和炭化水素から選択される少なくとも1種、すなわち、エタン、プロパン、ノルマルブタンおよびイソブタンからなる群より選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。作動媒体としては、特にはプロパン、エタンあるいはそれらの混合冷媒と、特定のポリアルキレングリコールおよび特定の鉱油を含む冷凍機油との組み合わせが本発明の効果が高く、より好ましい。作動媒体として、プロパンを含む冷媒と、特定のポリアルキレングリコールおよび特定の鉱油を含む冷凍機油との組み合わせであると、本発明の効果がより一層高く、さらに好ましい。炭化水素としては、炭化水素の1種を単独で用いてもよく、2種以上の炭化水素を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
好ましい実施形態において、炭化水素は、プロパン(R290)を含む。この場合、冷媒は、プロパンに加えて、エタン、n-ブタン(ノルマルブタン)(R600)、イソブタン(R600a)などの飽和炭化水素;エチレン、プロペンなどの不飽和炭化水素;などのプロパン以外の他の炭化水素をさらに含有してもよい。プロパンを含む炭化水素がプロパン以外の他の炭化水素をさらに含む場合、炭化水素の主成分は、プロパンであるのが好ましい。なお、本発明において、「主成分」とは、炭化水素全質量に対して、50質量%を超える(上限100質量%)成分を意味する。よって、炭化水素がプロパンと、プロパン以外の炭化水素とを含む場合、プロパン以外の炭化水素の含有量は、炭化水素全質量に対して、好ましくは1質量%以上50質量%未満であり、より好ましくは2質量%以上40質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以上35質量%以下であり、特に好ましくは5質量%以上25質量%以下であり、最も好ましくは10質量%以上20質量%以下である。一実施形態において、炭化水素は、プロパン(R290)からなる(プロパン100質量%)。
【0022】
また、本発明の作動媒体は、冷媒として、飽和ハイドロフルオロカーボン、不飽和ハイドロフルオロカーボン、ジメチルエーテル、二酸化炭素などの他の冷媒(以下、「他の冷媒」と称する)をさらに含有してもよい。この場合、他の冷媒は、炭化水素100質量部に対して1~100質量部であるのが好ましく、5~50質量部であるのがより好ましく、10~30質量部であるのがさらに好ましい。
【0023】
好ましい実施形態において、冷媒は、プロパンを、冷媒全質量に対して、好ましくは50質量%を超えて含み、より好ましくは60質量%以上含み、さらに好ましくは75質量%以上含み、特に好ましくは80質量%以上含み、最も好ましくは90質量%以上含む。また、冷媒は、プロパンのみから構成されていてもよく、よって、冷媒中のプロパンの含有量の上限は100質量%である。よって、一実施形態において、冷媒は、プロパン(R290)からなる(プロパン100質量%)。すなわち、冷媒は、プロパン(R290)である。
【0024】
本発明の冷凍機油は、特定のポリアルキレングリコールと特定の鉱油とを含む。一実施形態において、冷凍機油は、特定のポリアルキレングリコールと特定の鉱油とを含む混合油を基油とする。冷凍機油の基油とは、冷凍機油全質量に対して、50質量%を超えて(上限100質量%)含有される成分を指し、好ましくは80質量%以上含有される成分、より好ましくは90質量%以上含有される成分である。ポリアルキレングリコールは、単独でも冷凍機油として使用できるが、極性を有するため吸湿性が高い。そのため、ポリアルキレングリコールを冷凍機油として単独で用いた場合、冷凍機油中の水分含有量が増加し、当該水分により、冷凍サイクル装置においてトラブルが起こるおそれがある。また、ポリアルキレングリコールは、電気絶縁性が低い、すなわち体積抵抗率が低いため、密閉型コンプレッサを使用する空調機、電気冷蔵庫、産業用冷凍機などでは電流リークを起こしやすい。しかし、その一方で、ポリアルキレングリコールは、極性を有しているため炭化水素を含む冷媒への溶解量が少ないという長所がある。
【0025】
鉱油は、吸湿性が低く、電気絶縁性が高いものの、冷媒に含まれる炭化水素と同じ炭化水素からなる成分であるため、炭化水素を含む冷媒への溶解量が多い。そのため、鉱油を冷凍機油として単独で用いた場合、冷凍サイクル装置において冷凍機油の粘度が低下することにより潤滑性、すなわち耐摩耗性が低下するという短所がある。
【0026】
そこで、ポリアルキレングリコールと鉱油との両者の混合により、短所を補うことができ、特性バランスの良い冷凍機油となる可能性がある。しかし、極性を有するポリアルキレングリコールと無極性の鉱油とでは溶け合いにくく、二層に分離することが考えられる。これらポリアルキレングリコールと鉱油とが二層に分離すると冷凍機油として用いることはできない。そこで、鋭意検討した結果、冷凍機油として、特定のポリアルキレングリコールと特定の鉱油とを特定の質量比で含有することにより、冷凍機油は均一な液体となり、冷凍機油として好適な特性を発揮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
本発明の特定のポリアルキレングリコールは、下記一般式(1)で表される。
【0028】
【化3】
【0029】
〔ただし、Rは炭素数1~25の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは炭素数2~4のオキシアルキレン基の1種または2種以上を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。〕
上記式(1)中、Rは、炭素数1~25の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基を表す。直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基としては、炭素数1~20の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基が好ましく、炭素数1~10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基がより好ましく、炭素数1~8の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基がさらに好ましく、炭素数1~5の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基が特に好ましく、炭素数3~5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基が最も好ましく用いられる。炭素数1~25の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、直鎖状または分岐状のプロピル基(n-プロピル基、イソプロピル基)、直鎖状または分岐状のブチル基(n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基)、直鎖状または分岐状のペンチル基(n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基)などが挙げられる。Rは、炭化水素を含む冷媒への溶解度と、冷凍機油としての特性とのバランスから、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基が好ましく、炭素数4の直鎖状または分岐状のブチル基(n-ブチル基、tert-ブチル基)がより好ましい。ポリアルキレングリコールにおいてRが短鎖アルキル基の場合、低温流動性に優れる。
【0030】
上記一般式(1)中、ORは、同一または異なって、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表す。すなわち、Rは、炭素数2~4のアルキレン基を表す。ここで、ORは、1種のオキシアルキレン基であってもよく、2種以上のオキシアルキレン基で構成されていてもよい。このようなオキシアルキレン基としては、具体的には、オキシエチレン基(-OCHCH-)、オキシプロピレン基(-OCH(CH)CH-)、オキシトリメチレン基(-OCHCHCH-)、オキシブチレン基(-OCHCHCHCH-)などが挙げられる。これらのオキシアルキレン基の中でも、オキシエチレン基、オキシプロピレン基が好ましく、オキシプロピレン基がより好ましい。この際、(ORで表される繰り返し単位中におけるオキシアルキレン基(OR)は、それぞれ同一のオキシアルキレン基であっても、異なるオキシアルキレン基であってもよい。ポリアルキレングリコールにおけるOR全体に占めるオキシプロピレン基の割合の上限は、特に制限されないが、ポリアルキレングリコールにおいてORはすべてオキシプロピレンで構成されることが最も好ましく、よって、上限は100モル%である。例えば、ORがオキシエチレン基およびオキシプロピレン基で構成される場合、オキシプロピレン基の割合は、OR全体(すなわちオキシエチレン基およびオキシプロピレン基の総付加モル数)に対して、70モル%以上であるのが好ましく、80モル%以上であるのがより好ましい。この場合、OR全体に占めるオキシエチレン基(Rが炭素数2)の割合は、冷凍機油としての特性の面、すなわち冷凍機油の吸湿性を低くするために、30モル%以下であるのが好ましく、20モル%以下とすることがより好ましい。
【0031】
一実施形態において、ポリアルキレングリコールは、一般式(1)のRが炭素数4のアルキル基であり、ORがオキシプロピレン基である。これにより、冷凍機油の低温流動性と吸湿性とがより一層優れたものとすることができる。
【0032】
上記一般式(1)中、nは、ORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数(重合度)を表す。一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールの数平均分子量は、100~1500であるのが好ましく、200~1200であるのがより好ましく、300~1000であるのがさらに好ましく、350~850であるのが特に好ましく、350~700であるのが最も好ましい。nは、当該ポリアルキレングリコールの数平均分子量が上記の条件を満たすような数であることが好ましい。ポリアルキレングリコールの数平均分子量が上記範囲内である場合、鉱油との相溶性も良好であり、炭化水素を含む冷媒との共存下において冷凍機油の潤滑性を十分に発揮することができる。本明細書中、数平均分子量は、標準物質としてポリスチレンを用いたGPC(ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー)により測定されている。式(1)における付加モル数nは、測定により得られた数平均分子量に基づき算出できる。
【0033】
本発明において、ポリアルキレングリコールは、40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下である。ポリアルキレングリコールの40℃における動粘度が2mm/s未満の場合、ポリアルキレングリコールが形成する油膜が薄くなる。つまり、冷凍サイクル装置の心臓部であるコンプレッサの摺動材料(摺動部)において金属同士の接触が起きやすくなり、冷媒との共存下における冷凍機油の潤滑性が不十分となる。ポリアルキレングリコールの40℃における動粘度が60mm/sを超える場合、冷凍機油の粘性抵抗が高くなりすぎ、冷凍サイクル装置の効率が低下する。ポリアルキレングリコールの40℃における動粘度は、好ましくは5mm/s以上55mm/s以下であり、より好ましくは8mm/s以上50mm/s以下であり、さらに好ましくは9mm/s以上45mm/s以下であり、特に好ましくは10mm/s以上40mm/s以下であり、最も好ましくは10mm/s以上35mm/s以下である。ポリアルキレングリコールの40℃における動粘度が上記範囲であることにより、冷凍機油として良好な潤滑性を発揮することができる。
【0034】
また、本発明において、ポリアルキレングリコールの100℃における動粘度は、0.1mm/s以上であるのが好ましく、0.25mm/s以上であるのがより好ましく、0.3mm/s以上であるのが特に好ましく、0.4mm/s以上であるのが特により好ましく、0.5mm/s以上であるのが最も好ましい。ポリアルキレングリコールの100℃における動粘度は、15mm/s以下であるのが好ましく、10mm/s以下であるのがより好ましく、5mm/s以下であるのが特に好ましく、3mm/s未満であるのが特により好ましく、2.9mm/s以下であるのが最も好ましい。すなわち、ポリアルキレングリコールの100℃における動粘度は、0.1mm/s以上15mm/s以下であるのが好ましく、0.25mm/s以上10mm/s以下であるのがより好ましく、0.3mm/s以上5mm/s以下であるのが特に好ましく、0.4mm/s以上3mm/s未満であるのが特により好ましく、0.5mm/s以上2.9mm/s以下であるのが最も好ましい。一実施形態において、ポリアルキレングリコールの100℃における動粘度は、0.1mm/s以上10mm/s以下、0.1mm/s以上8mm/s以下、0.1mm/s以上7.5mm/s以下、0.1mm/s以上7mm/s以下、0.1mm/s以上6mm/s以下である。また、一実施形態において、ポリアルキレングリコールの100℃における動粘度は、0.1mm/s以上3mm/s未満s、0.1mm/s以上2.9mm/s以下である。ポリアルキレングリコールの100℃における動粘度が0.1mm/s以上であれば、ポリアルキレングリコールの形成する油膜が十分な厚みで形成され、冷凍機油の潤滑性を十分に発揮できる。ポリアルキレングリコールの100℃における動粘度が15mm/s以下である場合、冷凍機油の粘度が低いため、冷凍サイクル装置の高効率化がさらに発揮できる。
【0035】
本発明において、ポリアルキレングリコールは、40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下であり、かつ100℃における動粘度が0.1mm/s以上15mm/s以下であるのが好ましい。ポリアルキレングリコールは、より好ましくは40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下であり、かつ100℃における動粘度が0.4mm/s以上3mm/s未満であり、さらに好ましくは40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下であり、かつ100℃における動粘度が0.5mm/s以上2.9mm/s以下である。
【0036】
本発明の一実施形態において、ポリアルキレングリコールは、40℃における動粘度が5mm/s以上55mm/s以下であり、かつ100℃における動粘度が0.1mm/s以上10mm/s以下であるのが好ましい。ポリアルキレングリコールは、より好ましくは40℃における動粘度が8mm/s以上50mm/s以下であり、かつ100℃における動粘度が0.4mm/s以上8mm/s以下であり、さらに好ましくは40℃における動粘度が9mm/s以上45mm/s以下であり、かつ100℃における動粘度が0.5mm/s以上7.5mm/s以下である。
【0037】
ポリアルキレングリコールは、流動点が-25℃以下のものが好ましく、-30℃以下であるのがより好ましく、-40℃以下であるのがさらに好ましい。ポリアルキレングリコールの流動点が-25℃以下の場合、ポリアルキレングリコールと鉱油とを含む冷凍機油の流動性が高くなり、冷凍機油として好適に用いることができる。
【0038】
本発明に係るポリアルキレングリコールは、従来公知の方法を用いて合成することができる(「アルキレンオキシド重合体」、柴田満太他、海文堂出版、1990年11月20日発行)。例えば、アルコール(ROH;Rは上記一般式(1)の中のRと同一の定義内容を表す)に所定のアルキレンオキサイドの1種以上を付加重合させることにより得られる。なお、上記の製造工程において異なる2種以上のアルキレンオキサイドを使用する場合、得られるポリアルキレングリコールはランダム共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0039】
一般式(1)で表されるポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノプロピルエーテル(ポリプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル)、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル(ポリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル)、ポリプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノヘキシルエーテル(ポリプロピレングリコールモノn-ヘキシルエーテル)、ポリプロピレングリコールモノオクチルエーテル(ポリプロピレングリコールモノn-オクチルエーテル);ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノメチルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメチルエーテル)、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノエチルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノエチルエーテル)、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノn-プロピルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル)、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノイソプロピルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル)、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノn-ブチルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル)、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノtert-ブチルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテル)、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノヘキシルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノn-ヘキシルエーテル)、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体のモノオクチルエーテル(ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノn-オクチルエーテル);等が挙げられる。
【0040】
これらのポリアルキレングリコールのうち、電気絶縁性の高いポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノエチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ポリプロピレングリコールモノオクチルエーテルなどのポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルが好ましく、より電気絶縁性の高く、吸湿性の低いポリプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ポリプロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ポリプロピレングリコールモノオクチルエーテルなどがより好ましい。
【0041】
本発明のポリアルキレングリコールは、片末端が極性の大きな水酸基であることから、冷媒に含まれる無極性な炭化水素とは親和力が小さく、冷媒への溶解量を少なくすることができるものと考えられる。よって、作動媒体における冷媒の充填量を低減することができる。また、水酸基は金属材料への吸着力が大きいことから、ポリアルキレングリコールは、冷凍サイクル装置の心臓部であるコンプレッサの摺動材料への油膜形成しやすく、良好な潤滑性(耐摩耗性)を示す。このことから、本発明において、特定のポリアルキレングリコールを用いることにより、冷凍機油の低粘度化が図れ、冷凍サイクル装置の高効率化につながるものと推測される。しかし、吸湿性が高く、電気絶縁性が低いのが短所である。なお、本発明は、上記推論によって何ら制限されるものではない。
【0042】
本発明で使用される鉱油は、アニリン点が55℃以上105℃以下であり、流動点が-15℃以下であり、40℃における動粘度が2mm/s以上100mm/s以下である。本発明において、鉱油はポリアルキレングリコールと溶け合うものであり、鉱油のアニリン点は、ポリアルキレングリコールとの溶解性の目安である。鉱油のアニリン点が55℃未満の場合、粘度指数などの冷凍機油としての粘度特性が不充分となり、冷凍機油として良好な性能(例えば、高温での充分な厚さの油膜形成)を発揮できない。鉱油のアニリン点が105℃を超える場合、鉱油とポリアルキレングリコールとが溶け合いにくくなり、二層に分離しやすく、冷凍機油としての安定性が維持できない。鉱油のアニリン点は、好ましくは65℃以上100℃以下であり、より好ましくは75℃以上95℃以下である。鉱油のアニリン点が上記範囲内である場合、鉱油とポリアルキレングリコールとの相溶性が良好であり、冷凍機油としてのそれぞれの成分の長所がより一層発揮できる。
【0043】
本発明で使用される鉱油は、流動点が-15℃以下である。鉱油の流動点が-15℃を超えると、ポリアルキレングリコールと鉱油とを含む冷凍機油の流動性が低くなり、冷凍機油として良好な性能(例えば、高温での充分な厚さの油膜形成)を発揮できない。鉱油の流動点は、-25℃以下であるのが好ましく、-30℃以下であるのがより好ましく、-35℃以下であるのが特に好ましい。
【0044】
本発明において、鉱油の40℃における動粘度は、2mm/s以上100mm/s以下である。鉱油の40℃における動粘度が2mm/s未満の場合、コンプレッサの摺動材料へ形成される油膜が薄くなり、粘性にともなう特性が不充分となり、冷凍機油として良好な潤滑性、シール性を発揮できない。鉱油の40℃における動粘度が100mm/sを超える場合、鉱油がポリアルキレングリコールと溶け合わなくなり、二層に分離してしまい、冷凍機油としての安定性が維持できない。鉱油の40℃における動粘度は、好ましくは3mm/s以上95mm/s以下であり、より好ましくは3mm/s以上90mm/s以下であり、さらに好ましくは5mm/s以上80mm/s以下である。一実施形態において、鉱油の40℃における動粘度は、好ましくは3mm/s以上65mm/s以下であり、より好ましくは3mm/s以上50mm/s以下であり、さらに好ましくは5mm/s以上45mm/s以下である。本発明の一実施形態によれば、鉱油は、40℃における動粘度が8mm/sを超え70mm/s以下である。
【0045】
冷凍機油としては、-25℃で均一な液体である必要がある。本発明の冷凍機油は、特定のポリアルキレングリコールと特定の鉱油とを特定の質量比で含有することにより、-25℃で均一な液体である。
【0046】
また、本発明において、鉱油の100℃における動粘度は、0.1mm/s以上であるのが好ましく、0.25mm/s以上であるのがより好ましく、0.3mm/s以上であるのが特に好ましく、0.5mm/s以上であるのが最も好ましい。鉱油の100℃における動粘度は、30mm/s以下であるのが好ましく、15mm/s以下であるのがより好ましく、10mm/s以下であるのが特に好ましく、8mm/s以下であるのが最も好ましい。鉱油の100℃における動粘度が0.1mm/s以上であれば、粘性にともなう特性を十分に付与でき、冷凍機油として良好な潤滑性を発揮できる。鉱油の100℃における動粘度が30mm/s以下である場合、冷凍機油の粘度が低いため、冷凍サイクル装置の高効率化がさらに発揮できる。一実施形態において、鉱油の100℃における動粘度は、0.5mm/s以上15mm/s以下、1mm/s以上12mm/s以下、または1.5mm/s以上10mm/s以下である。
【0047】
鉱油としては、例えば、パラフィン基系原油(パラフィン系鉱油)、中間基系原油またはナフテン基系原油(ナフテン系鉱油)を常圧蒸留するかまたは常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油を常法に従って精製することによって得られる精製油、例えば溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油,白土処理油等を挙げることができる。なかでも、鉱油としては、ポリアルキレングリコールと混合した場合の低温での安定性(液体の均一性)の観点から、アニリン点の低い、流動点が-25℃以下のパラフィン系鉱油またはナフテン系鉱油が好ましく;アニリン点が55℃以上95℃以下であり、流動点が-30℃以下のナフテン系鉱油がより好ましく;アニリン点が55℃以上90℃以下であり、流動点が-35℃以下のナフテン系鉱油がさらに好ましく;アニリン点が55℃以上85℃以下であり、流動点が-35℃以下のナフテン系鉱油が特に好ましい。ここで、鉱油がナフテン系の場合、鉱油の40℃における動粘度は、好ましくは3mm/s以上100mm/s以下であり、より好ましくは3mm/s以上95mm/s以下であり、さらに好ましくは5mm/s以上90mm/s以下である。鉱油がパラフィン系の場合、鉱油の40℃における動粘度は、好ましくは3mm/s以上65mm/s以下であり、より好ましくは3mm/s以上50mm/s以下であり、さらに好ましくは5mm/s以上45mm/s以下である。
【0048】
本発明の冷凍機油は、ポリアルキレングリコールが10~60質量%で含有され、かつ、鉱油が40~90質量%で含有される。本発明の冷凍機油において、特定のポリアルキレングリコールと特定の鉱油とが上記質量比で含有されることにより、ポリアルキレングリコールと鉱油とが良好に溶け合うことができる。また、冷凍機油が特定のポリアルキレングリコールと特定の鉱油とを特定の質量比で含有することにより、本発明の冷凍機油は高い電気絶縁性を有する。一実施形態において、冷凍機油の25℃における体積抵抗率は、1×1011Ω・cm以上である。ポリアルキレングリコールの質量比が60質量%を超える(すなわち、鉱油の質量比が40質量%未満である)と、冷凍機油の吸湿性が高くなりすぎ、電気絶縁性が低下する。鉱油の質量比が90質量%を超える(すなわち、ポリアルキレングリコールの質量比が10質量%未満である)と、冷媒に含まれる炭化水素への溶解量が多くなり、冷凍機油の粘度が下がってしまう。すなわち、冷凍機油の潤滑性の低下により、冷凍サイクル装置において摩耗が生じやすくなる。冷凍機油において、好ましくは、ポリアルキレングリコールは10~40質量%で含有され、かつ、鉱油は60~90質量%で含有される。ポリアルキレングリコールおよび鉱油の質量比が上記範囲内であれば、両者が良好に溶け合い、良好な潤滑性を発揮できる。
【0049】
本発明の冷凍機油において、ポリアルキレングリコールと鉱油とは、質量比で、1:9~6:4で包含されるのが好ましく、2:8~6:4で包含されるのがより好ましく、2:8~5:5で包含されるのがさらに好ましく、2:8~4.6:5.4で包含されるのが特に好ましい。
【0050】
冷凍機油は、特定のポリアルキレングリコールと特定の鉱油とが特定の質量比で含有されることにより、冷凍機油中に含まれる水分量を低くすることができる。一実施形態において、本発明の冷凍機油は、湿度50%で25℃における飽和水分が1質量%以下である。これにより、冷凍機油に含まれるポリアルキレングリコールおよび鉱油が加水分解等の化学的変化を生じにくく、冷凍機油としての安定性が高くなる。
【0051】
冷凍機油は、上述のようにいろいろな特性が要求されるが、最も重要な特性は潤滑性、つまり耐摩耗性、耐焼き付き性である。冷凍機のコンプレッサのような機械は摩耗や焼き付きにより運転できなくなると、工場などの稼働ができなくなるからである。
【0052】
冷凍機油は冷凍サイクル内のコンプレッサの潤滑油であるため、一般の潤滑油とは異なり、空気つまり酸素のほとんど無い雰囲気で使用される。一般の潤滑油は空気中で使用されるため、摺動部の金属材料の表面は酸化膜になっており、その酸化膜に有効な摩耗防止添加剤が適用される。一方、冷凍機油の場合は摺動材料表面の初期の酸化膜が削り取られた後は冷凍サイクル内の酸素量が少ないため、酸化膜の修復が難しく、金属母材の新生面での潤滑となるため、一般の潤滑油で使用されている摩耗防止添加剤の効果が小さく、潤滑性向上が課題であった。
【0053】
冷凍機油の潤滑性を向上させると摩耗、焼き付きを防ぐとともに、コンプレッサに粘度の低い油を適用できることから、稼働時の抵抗が小さくなりコンプレッサの高効率化、しいては冷凍システムの省電力化が図れることになる。よって、本発明の他の目的は、炭化水素冷媒と冷凍機油とを含む冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体において、冷凍機油が、高い安定性、冷媒との適切な溶解性、高い潤滑性、および高い電気絶縁性のうち少なくともひとつと、高い耐摩耗性と、を達成する、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体を提供することである。
【0054】
そこで、本発明者らは、冷凍機油の潤滑性を向上させるため、添加剤について鋭意検討を行った。その結果、発明者らは、本発明の基油の組み合わせに、一般には安定剤(酸化防止剤)として知られているチオビスフェノール化合物を配合することにより、従来から冷凍機油に使用されているリン酸エステルなどよりも大幅に潤滑性を向上させることを見出した。本発明者らは、本発明によってこのような効果が得られるメカニズムを以下のように推定している。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が限定されることがない。
【0055】
チオビスフェノール化合物は、電子供与性の化合物であり、摺動材料表面の初期の酸化膜が削り取られた後の金属母材の新生面は電子が欠乏した状態のルイス酸となるが、その表面と反応膜を形成して金属と金属の接触を防ぐ潤滑状態となるため、結果として、本発明の冷凍機油がチオビスフェノール化合物を包含することにより、冷凍機油に耐摩耗性を付与できることを見出した。
【0056】
よって、本発明の一実施形態は、冷媒としてのプロパンと、ポリアルキレングリコールおよび鉱油を含む冷凍機油と、チオビスフェノール化合物と、を含み、前記ポリアルキレングリコールは、下記一般式(1):
【0057】
【化4】
【0058】
[式(1)中、Rは炭素数1~25の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。]
で表され、40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下であり、前記鉱油は、アニリン点が55℃以上105℃以下であり、流動点が-15℃以下であり、40℃における動粘度が2mm/s以上100mm/s以下であり、前記ポリアルキレングリコールは、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上60質量%以下で含有され、前記鉱油は、前記冷凍機油の全質量に対して、40質量%以上90質量%以下で含有される、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体が提供される。
【0059】
ここで、本発明の一実施形態によれば、冷凍機油に含まれるチオビスフェノール化合物は、耐摩耗性を付与するものである。すなわち、本発明の一実施形態によれば、チオビスフェノール化合物が、耐摩耗材として用いられる、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体が提供される。また、チオビスフェノール化合物を含む冷凍機油により、当該冷凍機油を含む作動媒体においても耐摩耗性が付与される。よって、本発明の一実施形態によれば、 炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素を含む冷媒と、ポリアルキレングリコールおよび鉱油を含む冷凍機油と、チオビスフェノール化合物と、を含み、
前記ポリアルキレングリコールは、下記一般式(1):
【0060】
【化5】
【0061】
[式(1)中、Rは炭素数1~25の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。]
で表され、40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下であり、
前記鉱油は、アニリン点が55℃以上105℃以下であり、流動点が-15℃以下であり、40℃における動粘度が2mm/s以上100mm/s以下であり、前記ポリアルキレングリコールは、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上60質量%以下で含有され、前記鉱油は、前記冷凍機油の全質量に対して、40質量%以上90質量%以下で含有される、耐摩耗用冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体が提供される。
【0062】
チオビスフェノール化合物としては、4,4’-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)などが好適である。チオビスフェノール化合物の含有量は、冷凍機油全質量を基準として0.05~3.0質量%であり、0.05~1.0質量%が好ましく、0.1~0.5質量%がより好ましい。
【0063】
本発明に係る作動媒体は、一実施形態において、多リン酸エステル化合物を実質的に含有しない。作動媒体が多リン酸エステル化合物を含有した場合、その劣化により活性の高いリン酸が生成し、腐食摩耗の原因となり、油の安定性が低下することがある。なお、本明細書中、「実質的に含有しない」とは、作動媒体において1質量以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。特に好ましくは、本発明に係る作動媒体は、多リン酸エステル化合物を含有しない。ここで、多リン酸エステル化合物としては、下記式(2)で表される化合物:
【0064】
【化6】
【0065】
[式(2)中、mは1~10の整数を表し、R~Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上20以下のアルキル基を表し、Rは炭素数2以上20以下の2価の炭化水素基を表す。]
が挙げられる。
【0066】
ポリアルキレングリコールと鉱油とが-25℃で二層分離せずに均一な液体になるかどうかは両者の分子量、つまり動粘度によるところが大きく、両者の分子量が小さいほど均一液体になりやすい。冷凍機油の場合、機種により要求される粘度が異なる。例えば、粘度が高い冷凍機油の場合、冷凍機油全質量に対して、0.1質量%以上20質量%以下のエステル化合物を配合することにより安定性が向上し、長期的により一層高い安定性が発揮できる。エステル化合物としては、ポリオールエステル、モノエステル、ジエステル、リン酸エステル(多リン酸エステル化合物を除く)などが挙げられる。よって、一実施形態において、冷凍機油は、基油として、特定のポリアルキレングリコールと、特定の鉱油と、特定のエステル化合物と、を含む混合油である。エステル化合物は加水分解する可能性があることから、その配合割合は、安定性の観点から少ないほうが好ましく、0.1質量%以上15質量%以下が好ましく、より好ましくは0.1質量%以上12質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上10質量%以下である。
【0067】
よって、一実施形態によれば、本発明の冷凍機油は、冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上40質量%以下のポリアルキレングリコールと、60質量%以上90質量%以下の鉱油と、0.1質量%以上15質量%以下のエステル化合物と、を含む。ここで、冷凍機油の全質量とは、冷凍機油の含有成分の合計質量(100質量%)とする。
【0068】
ポリオールエステルとしては、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のアルコールとオクチル酸、ノナン酸またはオレイン酸等のカルボン酸とのエステルが挙げられる。モノエステルとしては、オレイン酸オクチル、オクタン酸ブチル、2-エチルヘキサン酸ヘキシルのような各種カルボン酸のアルキルエステル等が挙げられる。ジエステルとしては、セバシン酸ジオクチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジオレエート等の二塩基酸とアルコールとのエステルが挙げられる。リン酸エステルとしては、トリアルキルフォスフェートやトリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート等が挙げられる。なかでも、加水分解安定性の観点から、ポリオールエステルが好ましく、ネオペンチルグリコールとカルボン酸(例えば、2-エチルヘキサン酸)とのエステルなどが、分子量が小さく低粘度であることから、より好ましい。
【0069】
また、冷凍機油としての機能を満足する範囲において、上記成分(ポリアルキレングリコール、鉱油およびエステル化合物)以外の成分をさらに含有することができる。上記成分以外の成分としては、基油として含有されていてもよいし、添加剤として含有されていてもよい。本実施形態に係る冷凍機油が含有し得るその他の成分としては、両末端をエーテル化したポリアルキレングリコール、両末端あるいは片末端をエステル化したポリアルキレングリコールやポリビニルエーテルなどのエーテル類、炭化水素系であるアルキルベンゼン、ポリオレフィンが挙げられる。
【0070】
また、本実施形態に係る冷凍機油は、実使用における冷媒と冷凍機油との作動媒体の安定性を一層高めるため、添加剤として安定性向上剤をさらに含有することができる。好ましい安定性向上剤としては、チオビスフェノール化合物、芳香族アミン化合物、フェノール化合物およびベンゾトリアゾール化合物からなる群より選択される1種以上が挙げられる。ここで、チオビスフェノール化合物を添加する場合、芳香族アミン化合物と併用することがより好ましい。また、本実施形態に係る冷凍機油は、添加剤として油性剤をさらに含有することができる。好ましい油性剤としては、グリセロールモノオレエート(グリセリンモノオレート)、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル(ただし、冷凍機油の基油として含有されるエステル化合物を除く)が挙げられる。安定性向上剤および油性剤の含有量は合計で、冷凍機油全質量を基準として、0.1質量%以上3.0質量%以下とすることが好ましい。一実施形態では、冷凍機油は、好ましくは、芳香族アミン化合物、フェノール化合物およびベンゾトリアゾール化合物からなる群より選択される1種以上の添加剤を、冷凍機油全質量に対して0.1質量%以上3.0質量%以下含有する。
【0071】
一実施形態によれば、本発明の冷凍機油は、冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上40質量%以下のポリアルキレングリコールと;60質量%以上90質量%以下の鉱油と;0.1質量%以上3.0質量%以下のチオビスフェノール化合物、芳香族アミン化合物、フェノール化合物およびベンゾトリアゾール化合物からなる群より選択される1種以上の添加剤と;を含む。冷凍機油の全質量とは、冷凍機油の含有成分の合計質量(100質量%)とする。
【0072】
また、一実施形態によれば、本発明の冷凍機油は、冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上40質量%以下のポリアルキレングリコールと;60質量%以上90質量%以下の鉱油と;0.1質量%以上15質量%以下のエステル化合物と;0.1質量%以上3.0質量%以下のチオビスフェノール化合物、芳香族アミン化合物、フェノール化合物およびベンゾトリアゾール化合物からなる群より選択される1種以上の添加剤と;を含む。ここで、冷凍機油の全質量とは、冷凍機油の含有成分の合計質量(100質量%)とする。
【0073】
チオビスフェノール化合物としては、上述したものと同様のものが使用できる。例えば、安定性向上剤のうち、チオビスフェノール化合物としては、4,4’-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)などが好適である。チオビスフェノール化合物の含有量は、冷凍機油全質量を基準として、0.05~1.0質量%が好ましく、0.1~0.5質量%がより好ましい。
【0074】
芳香族アミン化合物としては、α-ナフチルアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミンなどが挙げられ、炭素数4~12のアルキル基を有するジ(アルキルフェニル)アミン(例えば、p,p’-ジ-オクチル-ジフェニルアミン)やアルキル化フェニル-α-ナフチルアミン、アルキル化フェニル-β-ナフチルアミンが好ましい。芳香族アミン化合物の含有量は、冷凍機油全質量を基準として、好ましくは0.05~1.0質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0075】
フェノール化合物としては、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノールなどが好適である。フェノール化合物の含有量は、冷凍機油全質量を基準として、0.05~1.0質量%が好ましく、0.1~0.5質量%がより好ましい。
【0076】
ベンゾトリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール、各種アルキル基の1-〔ビス(アルキル)アミノメチル〕-アルキル-1H-ベンゾトリアゾールで、例えば1-〔ビス(2-エチルヘキシル)アミノメチル〕-4-メチル-1H-ベンゾトリアゾールが挙げられる。ベンゾトリアゾール化合物の含有量は、冷凍機油全質量を基準として、好ましくは0.05~1.0質量%、より好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0077】
また、本実施形態に係る冷凍機油は、ヒンダードフェノールなどの酸化防止剤、リン酸エステル、有機硫黄化合物などの摩耗防止剤、一価アルコール、高級脂肪酸類などの油性剤、ベンゾトリアゾール誘導体などの金属不活性化剤、シリコーンオイルなどの消泡剤等の添加剤を適宜添加することができる。さらには、冷凍機油の流動点を下げるためにポリメタクリレートなどの流動点降下剤を添加することができ、その添加量は冷凍機油全質量を基準として0.05~1.0質量%、好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0078】
一実施形態によれば、本発明の冷凍機油は、冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上40質量%以下のポリアルキレングリコールと;60質量%以上90質量%以下の鉱油と;0.05質量%以上3.0質量%以下のチオビスフェノール化合物と;0.1質量%以上3.0質量%以下の芳香族アミン化合物、フェノール化合物およびベンゾトリアゾール化合物からなる群より選択される1種以上の添加剤と;を含む。ここで、ポリアルキレングリコール、鉱油、チオビスフェノール化合物および添加剤の合計は100質量%とする。
【0079】
一実施形態によれば、本発明の冷凍機油は、冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上40質量%以下のポリアルキレングリコールと;60質量%以上90質量%以下の鉱油と;0.1質量%以上15質量%以下のエステル化合物と;0.1質量%以上3.0質量%以下の芳香族アミン化合物、フェノール化合物およびベンゾトリアゾール化合物からなる群より選択される1種以上の添加剤と;を含む。ここで、ポリアルキレングリコール、鉱油、エステル化合物および添加剤の合計は100質量%とする。
【0080】
また、一実施形態によれば、本発明の冷凍機油は、冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上40質量%以下のポリアルキレングリコールと;60質量%以上90質量%以下の鉱油と;0.05質量%以上3.0質量%以下のチオビスフェノール化合物と;0.1質量%以上15質量%以下のエステル化合物と;0.1質量%以上3.0質量%以下の芳香族アミン化合物、フェノール化合物およびベンゾトリアゾール化合物からなる群より選択される1種以上の添加剤と;を含む。ここで、ポリアルキレングリコール、鉱油、チオビスフェノール化合物、エステル化合物および添加剤の合計は100質量%とする。
【0081】
冷凍サイクル装置の効率の面から、本発明の冷凍機油の40℃における動粘度は、好ましくは0.1mm/s以上65mm/s以下であり、より好ましくは0.5mm/s以上60mm/s以下であり、さらに好ましくは1mm/s以上50mm/s以下であり、特に好ましくは1mm/s以上45mm/s以下であり、最も好ましくは5mm/s以上40mm/s以下である。一実施形態において、冷凍機油の40℃における動粘度の上限は、40mm/s以下であることが好ましく、39mm/s以下であることがより好ましく、35mm/s以下であることがさらに好ましく、30mm/s以下であることがさらにより好ましく、28mm/s以下であることが特に好ましい。また、一実施形態において、冷凍機油の40℃における動粘度の下限は、0.1mm/s以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.2mm/s以上、さらにより好ましくは0.5mm/s以上、特に好ましくは1mm/s以上であり、最も好ましくは1.5mm/s以上である。冷凍機油の動粘度が上記範囲である場合、本発明の効果がより発揮される。一実施形態において、冷凍機油は、40℃における動粘度が0.1mm/s以上30mm/s以下である。
【0082】
本発明の冷凍機油は、通常、冷凍サイクル装置において、上述したような炭化水素を含む冷媒と混合された作動媒体の形で存在している。この作動媒体における冷凍機油と炭化水素を含む冷媒との配合割合は特に制限されないが、炭化水素を含む冷媒100質量部に対して冷凍機油が好ましくは1~500質量部、より好ましくは2~400質量部である。
【0083】
なお、本発明において、「冷媒との相溶性に優れる(冷媒との適切な相溶性を有する)」とは、二層分離温度が低く、かつ冷媒と溶けすぎないことを意味する。本発明では、冷媒と冷凍機油との二層分離温度が、好ましくは-30℃以下であり、より好ましくは-35℃以下であり、さらに好ましくは-40℃以下であり、さらにより好ましくは-45℃以下である。二層分離温度の下限は、冷凍サイクルにおける蒸発器からコンプレッサへの冷凍機油の戻りと冷凍機油の潤滑性のバランスで決定され、冷凍システムの設計に依存する。二層分離温度は、後述の実施例に記載の方法により測定される。また、ポリアルキレングリコールは、鉱油およびポリオールエステルに比べると極性が高く、炭化水素を含む冷媒と溶けすぎることがない。よって、本発明に係る冷凍機油は、鉱油に加えてポリアルキレングリコールを含むことにより、冷媒と溶けすぎることがない。以上のように、本発明に係る冷凍機油は冷媒との相溶性に優れる(冷媒との適切な相溶性を有する)ため、本発明に係る冷凍機油を含む作動媒体は、強燃性の炭化水素を含む冷媒の充填量が少なくても良好な性能を発揮できるものである。
【0084】
本発明において冷凍機油が有する高い安定性とは、熱・化学安定性試験(後述の実施例に詳細な方法を記載)の前後において、冷凍機油の酸価が0.01~0.05mgKOH/gである;冷凍機油の色相がL0.5~L1.0である;の少なくともひとつを達成するものである。酸価が熱・化学安定性試験前後において上記範囲内である場合、安定性が高い(熱安定性に優れる)といえる。また、冷凍機油の色相が熱・化学安定性試験前後において上記範囲内である場合、安定性が高い(熱安定性に優れる)といえる。
【0085】
本発明において、冷凍機油が有する潤滑性は、焼付荷重により評価される。具体的には、焼付荷重が、3000N未満であることが好ましく、2950N未満であることがより好ましい。焼付荷重は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0086】
本発明において、冷凍機油は、吸湿性が低い方が好ましく、例えば、冷凍機油の飽和水分は、1%未満であることが好ましく、0.9%以下であることがより好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.6質量%以下であることが特に好ましい。飽和水分は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0087】
本発明において、冷凍機油が有する電気絶縁性は、体積抵抗率により評価される。具体的には、体積抵抗率が、1.0×1011Ω・cm以上であることが好ましく、5.0×1011Ω・cm以上であることがより好ましく、1.0×1012Ω・cm以上であることがさらに好ましい。体積抵抗率は、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0088】
本発明の作動媒体は、冷凍サイクル装置に好適に用いることができ、例えば、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有する空調機、電気冷蔵庫、産業用冷凍機に好ましく用いられる。また、本発明の作動媒体は、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、ショーケース、自動販売機、化学プラント等の冷却装置に好ましく用いられる。さらには、遠心式の圧縮機を有するものにも好ましく用いられる。本発明の作動媒体は、密閉型の冷凍サイクル装置に好適に用いることができる。よって、本発明によれば、作動媒体を用いた密封型冷凍サイクル装置も提供される。
【0089】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0090】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0091】
[1]炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素を含む冷媒と、ポリアルキレングリコールおよび鉱油を含む冷凍機油と、を含み、前記ポリアルキレングリコールは、下記一般式(1):
【0092】
【化7】
【0093】
[式(1)中、Rは炭素数1~25の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。]
で表され、40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下であり、前記鉱油は、アニリン点が55℃以上105℃以下であり、流動点が-15℃以下であり、40℃における動粘度が2mm/s以上100mm/s以下であり、前記ポリアルキレングリコールは、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上60質量%以下で含有され、前記鉱油は、前記冷凍機油の全質量に対して、40質量%以上90質量%以下で含有される、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0094】
[2]炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素を含む冷媒と、ポリアルキレングリコールおよび鉱油を含む冷凍機油と、チオビスフェノール化合物と、を含み、前記ポリアルキレングリコールは、下記一般式(1):
【0095】
【化8】
【0096】
[式(1)中、Rは炭素数1~25の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。]
で表され、40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下であり、前記鉱油は、アニリン点が55℃以上105℃以下であり、流動点が-15℃以下であり、40℃における動粘度が2mm/s以上100mm/s以下であり、前記ポリアルキレングリコールは、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上60質量%以下で含有され、前記鉱油は、前記冷凍機油の全質量に対して、40質量%以上90質量%以下で含有される、冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0097】
[3]前記チオビスフェノール化合物が、前記冷凍機油全質量に対して、0.05質量%以上3.0質量%以下で含有される、上記[2]に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0098】
[4]前記冷凍機油は、0.1質量%以上20質量%以下のエステル化合物をさらに含有する、請求項上記[1]~[3]のいずれかに記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0099】
[5]前記鉱油は、アニリン点が55℃以上95℃以下であり、流動点が-30℃以下のナフテン系鉱油である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0100】
[6]前記冷凍機油は、25℃における体積抵抗率が1×1011Ω・cm以上である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0101】
[7]前記冷凍機油は、湿度50%で25℃における飽和水分が1質量%以下であり、-10℃において均一な液体である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0102】
[8]前記冷媒は、プロパンである、上記[1]~[7]のいずれかに記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0103】
[9] 前記冷媒は、プロパンである、上記[1]~[8]のいずれかに記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0104】
[10]前記ポリアルキレングリコールは、前記一般式(1)のRが炭素数4のアルキル基であり、ORがオキシプロピレン基である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0105】
[11]前記冷凍機油は、アミン化合物、フェノール化合物およびベンゾトリアゾール化合物からなる群より選択される1種以上の添加剤を、前記冷凍機油全質量に対して、0.1質量%以上3.0質量%以下で含有する、上記[1]~[9]のいずれかに記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0106】
[12]前記冷凍機油は、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上40質量%以下の前記ポリアルキレングリコールと、60質量%以上90質量%以下の前記鉱油と、0.1質量%以上15質量%以下の前記エステル化合物と、を含む、上記[4]に記載の冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0107】
[13]炭素数2~4のハロゲン原子を含まない炭化水素を含む冷媒と、ポリアルキレングリコールおよび鉱油を含む冷凍機油と、チオビスフェノール化合物と、を含み、前記ポリアルキレングリコールは、下記一般式(1):
【0108】
【化9】
【0109】
[式(1)中、Rは炭素数1~25の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、ORは、同一または異なって、炭素数2~4のオキシアルキレン基を表し、nはORで表されるオキシアルキレン基の付加モル数を表す。]
で表され、40℃における動粘度が2mm/s以上60mm/s以下であり、前記鉱油は、アニリン点が55℃以上105℃以下であり、流動点が-15℃以下であり、40℃における動粘度が2mm/s以上100mm/s以下であり、前記ポリアルキレングリコールは、前記冷凍機油の全質量に対して、10質量%以上60質量%以下で含有され、前記鉱油は、前記冷凍機油の全質量に対して、40質量%以上90質量%以下で含有される、耐摩耗用冷媒圧縮式冷凍サイクル装置用作動媒体。
【0110】
[14]上記[1]~[13]のいずれかに記載の作動媒体を用いた密封型冷凍サイクル装置。
【実施例
【0111】
以下、実施例および比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。また、実施例において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0112】
以下の実施例では、冷媒として、プロパンの代わりにペンタンを用いる場合がある。ペンタンは、極性または比誘電率の観点から、冷媒としてプロパンと同様の相溶性を冷凍機油に対して示すものと考えられる。また、後述の二層分離温度は、冷媒としてペンタンを用いた場合でも、冷媒としてプロパンを用いた場合と同様の数値が得られることが確認されている。よって、以下の実施例において冷媒としてペンタンを用いた実施例は、本願発明の構成要件を満たしているものとみなす。
【0113】
下記で示す各成分を混合し、40℃で10分間撹拌することにより、実施例1~8および比較例1~8の各冷凍機油を得た。
【0114】
(実施例1)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基で、動粘度が40℃で10.5mm/s、100℃で2.8mm/s、流動点が-50℃のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して40.0質量%)と;動粘度が40℃で7.1mm/s、100℃で2.2mm/s、流動点が-35℃で、アニリン点が90℃のパラフィン系鉱油(冷凍機油全質量に対して60.0質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0115】
(実施例2)
実施例1のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して40.0質量%)と;動粘度が40℃で10.5mm/s、100℃で2.5mm/s、流動点が-45℃で、アニリン点が65℃のナフテン系鉱油(冷凍機油全質量に対して60.0質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0116】
(実施例3)
実施例1のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して40.0質量%)と;動粘度が40℃で45.4mm/s、100℃で5.5mm/s、流動点が-40℃で、アニリン点が77℃のナフテン系鉱油(冷凍機油全質量に対して60.0質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0117】
(比較例1)
実施例1のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して40.0質量%)と;動粘度が40℃で45.0mm/s、100℃で6.7mm/s、流動点が-15℃で、アニリン点が106℃のパラフィン系鉱油(冷凍機油全質量に対して60.0質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0118】
(比較例2)
実施例1のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して40.0質量%)と;動粘度が40℃で97.0mm/s、100℃で10.9mm/s、流動点が-15℃で、アニリン点が115℃のパラフィン系鉱油(冷凍機油全質量に対して60.0質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0119】
(比較例3)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基で、動粘度が40℃で108mm/s、100℃で19.3mm/s、流動点が-45℃のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して40.0質量%)と;動粘度が40℃で10.5mm/s、100℃で2.5mm/s、流動点が-45℃で、アニリン点が65℃のナフテン系鉱油(冷凍機油全質量に対して60.0質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤なし)。
【0120】
(比較例4)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基で、動粘度が40℃で108mm/s、100℃で19.3mm/s、流動点が-45℃のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して40.0質量%)と;動粘度が40℃で45.4mm/s、100℃で5.5mm/s、流動点が-40℃で、アニリン点が77℃のナフテン系鉱油(冷凍機油全質量に対して60.0質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤なし)。
【0121】
(実施例4)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基で、動粘度が40℃で10.5mm/s、100℃で2.7mm/sで、流動点が-50℃のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して30.0質量%)と;動粘度が40℃で46.5mm/s、100℃で5.4mm/sで、流動点が-35℃で、アニリン点が78℃でのナフテン系鉱油(冷凍機油全質量に対して70.0質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0122】
(実施例5)
(末端)がエチル基、ORがオキシプロピレン基で、動粘度が40℃で22.1mm/s、100℃で5.1mm/sで、流動点が-50℃のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して29.9質量%)と;動粘度が40℃で22.2mm/s、100℃で3.7mm/sで、流動点が-45℃で、アニリン点が72℃のナフテン系鉱油(冷凍機油全質量に対して69.9質量%)と;添加剤として、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)(冷凍機油全質量に対して0.2質量%)と;を含む冷凍機油。
【0123】
(実施例6)
(末端)がtert-ブチル基、ORがオキシエチレン基およびオキシプロピレン基で、動粘度が40℃で32.7mm/s、100℃で7.3mm/sで、流動点が-40℃のポリエチレンポリプロピレングリコール(オキシエチレン基とオキシプロピレン基との割合はモル比で1対9、冷凍機油全質量に対して19.8質量%)と;動粘度が40℃で10.6mm/s、100℃で2.5mm/sで、流動点が-45℃で、アニリン点が65℃のナフテン系鉱油(冷凍機油全質量に対して79.3質量%)と;添加剤として、4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)(冷凍機油全質量に対して0.2質量%)およびp,p’-ジ-オクチル-ジフェニルアミン(冷凍機油全質量に対して0.5質量%)と;油性剤として、グリセロールモノオレエート(冷凍機油全質量に対して0.2質量%)と;を含む冷凍機油。
【0124】
(実施例7)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基で、動粘度が40℃で32.5mm/s、100℃で7.1mm/sで、流動点が-50℃のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して40質量%)と;動粘度が40℃で7.1mm/s、100℃で2.2mm/sで、流動点が-35℃で、アニリン点が90℃のパラフィン系鉱油(冷凍機油全質量に対して50質量%)と;エステル化合物として、ジオクチルセバケート(冷凍機油全質量に対して10質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0125】
(実施例8)
実施例1のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して30.0質量%)と;動粘度が40℃で95.8mm/s、100℃で8.4mm/s、流動点が-30℃で、アニリン点が82℃のナフテン系鉱油(冷凍機油全質量に対して70.0質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0126】
(比較例5)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基で、動粘度が40℃で32.5mm/s、100℃で7.1mm/sで、流動点が-50℃のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して40質量%)と;動粘度が40℃で136mm/s、100℃で13.7mm/sで、流動点が-15℃で、アニリン点が118℃のパラフィン系鉱油(冷凍機油全質量に対して60質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0127】
(比較例6)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基で、動粘度が40℃で32.5mm/s、100℃で7.1mm/sで、流動点が-50℃のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して40質量%)と;動粘度が40℃で9.8mm/s、100℃で2.6mm/sで、流動点が-5℃で、アニリン点が85℃のパラフィン系鉱油(冷凍機油全質量に対して60質量%)と;を含む冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0128】
(比較例7)
(末端)がn-ブチル基、ORがオキシプロピレン基で、動粘度が40℃で32.5mm/s、100℃で7.1mm/sで、流動点が-50℃のポリプロピレングリコール(冷凍機油全質量に対して100質量%)の冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0129】
(比較例8)
動粘度が40℃で22.2mm/s、100℃で3.7mm/sで、流動点が-45℃で、アニリン点が72℃のパラフィン系鉱油(冷凍機油全質量に対して100質量%)の冷凍機油(添加剤の配合なし)。
【0130】
[評価]
実施例および比較例で用いたポリアルキレングリコールおよび鉱油について、動粘度、アニリン点、流動点は以下の方法に従って評価した。また、実施例および比較例で得られた各冷凍機油について、アンモニア冷媒との分離試験、粘度(動粘度の測定)、低温特性(流動点の測定)、電気絶縁性(体積抵抗率の測定)、吸湿性(飽和水分の測定)、潤滑性(焼付荷重の測定)、相溶性(炭化水素冷媒と混合時の二層分離温度の測定)および熱・化学安定性(色相、酸価の測定)の評価試験を実施した。
【0131】
〈動粘度、アニリン点、流動点〉
動粘度は、JIS K2283(2000);アニリン点は、JIS K2256(2013年);流動点は、JIS K2269(1987)に準拠して測定した。
【0132】
〈体積抵抗率〉
体積抵抗率は、JIS C2101(2010)に準拠して測定した。
【0133】
〈-25℃における安定性試験〉
目視で、-25℃における冷凍機油の状態を観察した。実施例および比較例の各冷凍機油0.1Lをガラス容器(0.3L)に入れた後、密閉し、所定の温度(-10℃および-25℃)において5時間静置し、液体の状態を観察した。炭化水素冷媒に用いる冷凍機油は、-25℃で均一液体であることが必須である。よって、-25℃での安定性試験において、均一な液体である(分離しない)ことが必要である。
【0134】
〈アンモニア冷媒との分離試験〉
冷凍機油10質量%とアンモニア90質量%とをガラスチューブに封入し、室温(25℃)で30分静置後の状態を観察した。アンモニア冷媒と冷凍機油とが分離する場合、その冷凍機油が密封型の冷凍サイクルでの使用できないことを意味する。
【0135】
〈飽和水分〉
温度30℃、湿度80%で48時間後(冷凍機油50gを100mlのビーカーで静置)の水分量を測定した。水分測定はJIS K2275-2(2015年版)に準拠した。
【0136】
〈熱・化学安定性の評価〉
各冷凍機油30gと、イソブタン(R600a)30gと、触媒(鉄、銅、アルミの各線)とをオートクレーブに封入した後、175℃に加熱して7日間保持して試験した。試験後は冷凍機油の色相および酸価を評価した。色相は、ASTM D156に準拠して測定した。酸価は、JIS K2501(2003)に準拠して測定した。また、熱・化学安定性の評価では、冷媒としてイソブタンを用いて行っているが、プロパンで行った場合も熱・化学安定性は同様の結果が得られることが確認された。
【0137】
〈焼付荷重〉
ASTMD-3233-19法に準拠 回転数:290rpm、温度:室温。
【0138】
〈炭化水素冷媒との二層分離温度〉
冷凍機油と炭化水素冷媒との相溶性試験として、JIS法(冷凍機油:K2211(2009))に準拠し、二層分離温度の測定を行った。なお、相溶性試験は、冷媒としてプロパンの代わりにペンタンを用いて、冷媒42.5gに対して、冷凍機油7.5gで行った。なお、本実施例では、室温(25℃)から-50℃までの温度範囲で測定を行った。そのため、冷凍機油と冷媒とを含む試料において、-50℃においても分離を生じなかった場合、その二層分離温度は「-50℃以下」(表中、「<-50℃」と記載)と評価した。
【0139】
得られた結果を表1および表2に示した。なお、表1および表2において、「PAG」はポリアルキレングリコールを示し、「-」は該当する成分を用いなかったことを示す。また、冷凍機油を25℃において30分間静置して二層に分離したサンプルは、各種評価が測定できなかった(表中、「二層に分離」または「NA」と記載)。
【0140】
なお、二層分離温度の評価では、冷媒としてペンタンを用いて行っているが、プロパンで行った場合でも同様の結果が得られることは上述のとおりである。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
表1および表2から、特定のポリアルキレングリコールと特定の鉱油の組み合わせでのみ-25℃の低温でも均一な液体であり、冷凍機油として使用できることがわかる。なお、実施例および比較例のいずれの冷凍機油もアンモニアとの混合では白濁分離することから、実施例1~8の冷凍機油は、密閉系の、冷媒と冷凍機油とが混合されて循環する冷凍サイクルの冷凍機油としては使用できないことがわかる。
【0144】
表1および表2から、実施例1~8の冷凍機油は特性のバランスの良い冷凍機油であることがわかる。つまり、実施例1~8の冷凍機油は、流動点が充分に低く、低温でも均一な液体であり、電気絶縁性(体積抵抗率)、潤滑性(焼付荷重)、および熱・化学的安定性が良好で、炭化水素冷媒との二層分離温度および吸湿性(水分含量)も良好である。比較例5は、動粘度が60mm/sを超え、アニリン点が105℃を超える鉱油と特定のポリアルキレングリコールとを組み合わせた冷凍機油であるが、二層に分離して均一な液体とならないため、冷凍機油としての使用に適していないことわかった。比較例6は、粘度流動点が-15℃以上の鉱油と特定のポリアルキレングリコールとを組み合わせた冷凍機油であるが、冷凍機油の流動点が高くなり、潤滑性が不充分であり、冷凍機油としての使用に適していないことがわかる。
【0145】
比較例7の冷凍機油は、特定のポリアルキレングリコールを単独で含む冷凍機油であるが、潤滑性(焼付荷重)は良好だが、電気絶縁性(体積抵抗率)が低く、吸湿性が高い(飽和水分が多い)。実施例5、6の冷凍機油は、添加剤の配合により、潤滑性の点において、比較例7の冷凍機油と遜色ないレベルになり、鉱油を単独で含む冷凍機油である比較例8よりもかなり高い潤滑性を有することがわかる。比較例8の冷凍機油は、潤滑性に劣り、熱・化学安定性において油の着色が見られ、安定性の面で劣ることがわかる。なお、鉱油は炭化水素であることから、同じ炭化水素の冷媒とは溶け合いすぎるという問題がある。
【0146】
次に、チオビスフェノール化合物を含む冷凍機油を調製し、チオビスフェノール化合物の効果を評価した。まず、下記に示す各成分を混合し、40℃で10分間撹拌することにより、実施例9~13の各冷凍機油を得た。得られた各冷凍機油を用いて、下記に示す方法に従って潤滑性試験を行った。
【0147】
(実施例9)
実施例1の冷凍機油(基油)に4,4’-チオビス(2,6-ジ-tert-ブチルフェノール)を0.3質量%含む冷凍機油。
【0148】
(実施例10)
実施例1の基油に4,4’-チオビス(2-メチル-6-tert-ブチルフェノール)を0.2質量含む冷凍機油。
【0149】
(実施例11)
実施例1の基油に4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール)を0.1質量%含む冷凍機油
(実施例12)
実施例1の冷凍機油(基油のみ)。
【0150】
(実施例13)
実施例1の基油に、代表的な冷凍機油用摩耗防止剤であるトリクレジルフォスフェート(TCP)を0.5質量%含む冷凍機油。
【0151】
<潤滑性試験>
チオビスフェノール化合物の効果を潤滑性試験で評価した。評価試験にはストライベック曲線により各潤滑領域(流体潤滑領域、混合潤滑領域、境界潤滑領域)の評価ができ、
実際の機械と相関があると言われている、英国のPCS Instrument社製のMTM(Mini Traction Machine)試験機を用いた。
【0152】
なお、試験は、通常の空気中と、冷凍機油とより相関のある酸素の無い雰囲気にした窒素ガス吹き込み条件(100ml/min)との2つの雰囲気下で行い、スチールボール(直径3/4インチ)とスチールディスク(直径46mm)との摩擦試験(転がり/すべり接触)における摩擦特性を測定した。試験条件は、油温:40℃、荷重:10N、滑り率:30%、周速:10~2500mm/sで行った。
【0153】
この試験では周速が遅いほど厳しい条件となる。試験により得られた摩擦係数については、以下の評価基準に基づき、A~Cで評価される。
(評価基準)
A:摩擦係数0.03未満:流体潤滑領域。金属同士の接触が無いため摩耗が無い。
B:摩擦係数0.03~0.05:混合潤滑領域。わずかに摩耗がある。
C:摩擦係数0.05超え:境界潤滑領域。高いほど摩耗が多い。
【0154】
なお、表3の評価結果は、周速500mm/sと周速50mm/sとにおける摩擦係数を上記評価に基づき、A~Cで示し、摩擦係数の数値をカッコ内に示した。
【0155】
【表3】
【0156】
表3の結果から、本発明に係る冷凍機油においてチオビスフェノールを含む場合、酸素の無い窒素雰囲気でも摩擦係数が低く、潤滑性に優れることがわかる。また、一般に冷凍機油の摩耗防止添加剤として使用されているリン酸エステルであるTCPは空気中ではその効果があるものの、酸素の無い窒素雰囲気では効果が小さくなる(実施例13)。
【0157】
以上のように、本発明によれば、冷凍サイクル装置へのエタン、プロパン、ノルマルブタン、イソブタンなどの炭化水素を含む冷媒使用時に、良好な性能を発揮できる作動媒体を提供できる。
【0158】
本出願は、2021年10月27日に出願された国際特許出願PCT/JP2021/039624号に基づいており、その開示内容は、その全体が参照により本明細書に組みこまれる。