(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】捺染用インクジェットインク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/324 20140101AFI20250408BHJP
C09D 11/326 20140101ALI20250408BHJP
D06P 1/52 20060101ALI20250408BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250408BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
C09D11/324
C09D11/326
D06P1/52
B41M5/00 120
B41M5/00 114
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2024052017
(22)【出願日】2024-03-27
【審査請求日】2024-04-02
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000105947
【氏名又は名称】サカタインクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】植木 将博
(72)【発明者】
【氏名】野田 竜太
(72)【発明者】
【氏名】村上 正樹
(72)【発明者】
【氏名】小西 廣幸
(72)【発明者】
【氏名】中島 興範
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-215506(JP,A)
【文献】特開2009-30014(JP,A)
【文献】特開2010-150453(JP,A)
【文献】特開2010-150454(JP,A)
【文献】特開2023-31506(JP,A)
【文献】特開2023-5164(JP,A)
【文献】特開2020-7543(JP,A)
【文献】特開2017-110102(JP,A)
【文献】特開2015-183027(JP,A)
【文献】特開2018-203794(JP,A)
【文献】特開2017-197674(JP,A)
【文献】特開2021-38279(JP,A)
【文献】特開2019-31611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D、D06P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、水分散性樹脂と、水とを少なくとも含有する捺染用インクジェットインク組成物であって、
前記カーボンブラックが、自己分散型カーボンブラックと樹脂分散型カーボンブラックとを含有し、
前記水分散性樹脂が、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、及び、ポリカーボネート系ポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種の水分散性ウレタン樹脂を含有し、
前記水分散性ウレタン樹脂は、破断伸度が700%以上1700%以下であり、かつ、引張強度が30MPa以下であり、
前記水分散性ウレタン樹脂の含有量は、前記カーボンブラック100質量部に対して、固形分で100質量部以上300質量部以下であり、
前記自己分散型カーボンブラックと、前記樹脂分散型カーボンブラックとの質量比率が1:
4~
1:1である
捺染用インクジェットインク組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、捺染用インクジェットインク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
顔料を含有するインクのインクジェット印刷により、布帛への捺染する方法が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、顔料、水分散性樹脂、架橋剤、及び水を含み、前記水分散性樹脂として、破断伸度が1200~1800%、引張強度が10~48MPaの樹脂を、前記顔料1質量部に対して1.0~3.0質量部含有し、かつ前記架橋剤を前記水分散性樹脂1質量部に対して0.03~0.17質量部含有する捺染用インクジェットインクが開示されている。また、上記捺染用インクジェットインクを印刷した印刷物(捺染物)が堅牢度及び風合いに優れることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
顔料を含有するインク組成物によるインクジェット印刷による捺染は、染料を含有するインク組成物に比べて印刷物の濃度が低い傾向にあるが、堅牢性は顔料を含有するインクのほうが優れているという利点がある。
【0006】
一方で、顔料を含有するインク組成物の濃度を上げるために前処理剤を使用する技術が知られているが、堅牢性とのバランスを取るのが難しく、コストアップや生産性の低下につながるため、前処理剤を使用せずとも印刷物の濃度が良好なインジェット捺染用の顔料を含有するインク組成物が求められていた。
【0007】
また、捺染用のインク組成物は、インクジェット方式による射出性の観点から、粘度を一定に保つ性質(粘度安定性)が要求される。
【0008】
そこで本発明は、印刷物(捺染物)の堅牢度及び風合い加えて、印刷物の濃度、及び、インク組成物の粘度安定性にも優れる捺染用インクジェットインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カーボンブラックと、水分散性樹脂と、水とを少なくとも含有する捺染用インクジェットインク組成物であって、上記カーボンブラックが、自己分散型カーボンブラックを含有し、上記水分散性樹脂が、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、及び、ポリカーボネート系ポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種の水分散性ウレタン樹脂を含有し、上記水分散性ウレタン樹脂は、破断伸度が700%以上1700%以下であり、かつ、引張強度が30MPa以下であり、上記水分散性ウレタン樹脂の含有量は、上記カーボンブラック100質量部に対して、固形分で100質量部以上300質量部以下である捺染用インクジェットインク組成物である。
【0010】
本発明の捺染用インクジェットインク組成物において、上記カーボンブラックが、樹脂分散型カーボンブラックを更に含有することが好ましい。
また、上記自己分散型カーボンブラックと、上記樹脂分散型カーボンブラックとの質量比率が1:5~5:1であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、粘度安定性が良好で、かつ、印刷物の濃度、堅牢性及び風合いに優れる捺染用インクジェットインク組成物の提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の捺染用インクジェットインク組成物は、カーボンブラックと、水分散性樹脂と、水とを少なくとも含有する捺染用インクジェットインク組成物であって、上記カーボンブラックが、自己分散型カーボンブラックを含有し、上記水分散性樹脂が、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、及び、ポリカーボネート系ポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種の水分散性ウレタン樹脂を含有し、上記水分散性ウレタン樹脂は、破断伸度が700%以上1700%以下であり、かつ、引張強度が30MPa以下であり、上記カーボンブラック100質量部に対して、上記水分散性ウレタン樹脂を固形分で100質量部以上300質量部以下含有する。
【0013】
本発明の捺染用インクジェットインク組成物(以下、本発明のインク組成物ともいう)は、自己分散型カーボンブラックを用いることで良好な印刷物の濃度が得られつつも、特定の物性を有する水分散性樹脂の添加量を最適化することで、印刷物の堅牢性と風合い、及び、インク組成物の保存安定性を両立することができる。
ただし、本発明は上記メカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0014】
(カーボンブラック)
本発明のインク組成物は、カーボンブラックを含有する。
【0015】
上記カーボンブラックは、自己分散型カーボンブラックを含有する。
上記自己分散型カーボンブラックと、特定の水分散性ウレタン樹脂とを含有することにより、インク組成物の粘度安定性が良好で、かつ、印刷物の濃度、堅牢性及び風合いに優れるインク組成物を得ることができる。
なお、上記自己分散型カーボンブラックとは、カーボンブラックの表面に化学処理を行い、カルボキシル基やリン酸基等の親水性官能基を付加させることで、顔料分散剤を使用しなくても水に分散可能なカーボンブラックである。
【0016】
上記自己分散型カーボンブラックとしては、例えば、カーボンブラックの表面にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基等の親水性基、及び、それらの塩の少なくとも一種が、直接又は他の基を介して化学結合により導入されているものが挙げられる。
なかでもカーボンブラックの表面にカルボキシル基、リン酸基が導入されているものが好ましく、粘度安定性を好適に付与する観点から、カルボキシル基が導入されているものがより好ましい。
【0017】
上記自己分散型カーボンブラックは、平均粒子径が300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることが更に好ましい。
なお、上記「平均粒子径」は、動的光散乱法により測定した粒度分布における体積基準の平均値である。
【0018】
上記自己分散型カーボンブラックの市販品としては、例えば、キャボット社製CAB-O-JETシリーズ「CAB-O-JET200」、「CAB-O-JET300」、「CAB-O-JET400」、「CAB-O-JET250C」、「CAB-O-JET260M」、「CAB-O-JET270」、「CAB-O-JET450C」等、オリヱント化学工業株式会社製「BONJET BLACK CW-1」、「BONJET BLACK CW-2」、「BONJET BLACK CW-3」、「BONJET BLACK CW-4」等が挙げられる。
【0019】
上記カーボンブラックは、樹脂分散型カーボンブラックを更に含有することが好ましい。
上記樹脂分散型カーボンブラックを含有することにより、印刷物の堅牢性を好適に付与することができる。
なお、上記樹脂分散型カーボンブラックは、顔料分散剤(樹脂)により分散性を付与することができるカーボンブラックである。
【0020】
上記樹脂分散型カーボンブラックに用いることができるカーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等をいずれも使用することができる。
【0021】
上記顔料分散剤としては、高分子分散剤(樹脂分散剤)を使用することが好ましい。
このような顔料分散剤としては、例えば、アクリル酸-アクリロニトリル共重合体、アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチン-メタクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-マレイン酸共重合体、及び、ビニルナフタレン-マレイン酸共重合体、並びにこれらの無機塩又は有機塩(中和物)が挙げられる。
これら顔料分散剤は単独で又は2種以上を混合して使用できる。
なかでも、インク組成物の保存安定性の観点から、スチレン-アクリル酸共重合体や、その中和物が好ましく、アクリル酸/アクリル酸ラウリル/スチレン共重合体や、その中和物を使用することがより好ましい。
【0022】
上記顔料分散剤としては、インク組成物の保存安定性の観点から、重量平均分子量が15000以上50000以下であることが好ましく、20000以上40000以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において「重量平均分子量」は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定し、標準ポリスチレンに換算したときの重量平均分子量である。
【0023】
上記顔料分散剤としては、インク組成物の保存安定性の観点から、酸価が80mgKOH/g以上180mgKOH/g以下であることが好ましく、100mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることがより好ましい。
なお、本明細書において「酸価」は、上記樹脂(顔料分散剤)1gの未中和物を中和するのに理論上要する水酸化カリウムのmg数を算術的に求めた理論酸価である。
【0024】
上記顔料分散剤は、上記カーボンブラック100質量部に対して、1質量部以上200質量部以下で含有することが好ましい。
上記顔料分散剤の含有量は、上記カーボンブラック100質量部に対して、5質量部以上で含有することがより好ましく、60質量部以下で含有することがより好ましい。
【0025】
上記樹脂分散型カーボンブラックの分散液を作製する方法としては特に限定されず、上記顔料分散剤を溶解させたワニス中にカーボンブラックを加え、各種分散機、例えばボールミル、ビーズミル、アトライター、ロールミル、サンドミル、アジテーターミル等を利用して調製すればよい。
【0026】
上記自己分散型カーボンブラックと、上記樹脂分散型カーボンブラックとの質量比率は、1:5~5:1であることが好ましい。
上記自己分散型カーボンブラックと、上記樹脂分散型カーボンブラックとの質量比率が上記範囲とすることにより、印刷物の堅牢性を好適に付与することができる。
上記自己分散型カーボンブラックと、上記樹脂分散型カーボンブラックとの質量比率は、1:4~1:1であることがより好ましい。
【0027】
上記カーボンブラックは、本発明の効果に影響を及ぼさない範囲で、界面活性剤や樹脂分散剤以外の分散剤により分散されたカーボンブラックを含んでもよい。
【0028】
上記カーボンブラックの含有量としては、例えば、インク組成物の全質量に対して、3質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下がより好ましい。
【0029】
(水分散性樹脂)
本発明のインク組成物は、水分散性樹脂を含有する。
【0030】
上記水分散性樹脂は、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、及び、ポリカーボネート系ポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種の水分散性ウレタン樹脂を含有する。
【0031】
上記水分散性ウレタン樹脂は、破断伸度が700%以上1700%以下である。
上記水分散性ウレタン樹脂の破断伸度が上記範囲であることにより、インク組成物の粘度安定性を良好にすることができ、かつ、印刷物の風合いを付与することができる。
上記水分散性ウレタン樹脂は、破断伸度が750%以上であることが好ましく、800%以上であることがより好ましい。また、破断伸度が1500%以下であることが好ましく、1200%以下であることがより好ましい。
【0032】
上記水分散性ウレタン樹脂は、引張強度が30MPa以下である。
上記水分散性ウレタン樹脂の引張強度が上記範囲であることにより、インク組成物の粘度安定性を良好にすることができ、かつ、印刷物の風合いを付与することができる。
上記水分散性ウレタン樹脂の引張強度は、10MPa以上が好ましく、15MPa以上がより好ましく、20MPa以上が更に好ましい。
【0033】
本明細書において「引張強度」及び「破断伸度」は、以下の方法により求める。
ポリテトラフルオロエチレンシート上に水分散性ウレタン樹脂を塗布し、常温で12時間乾燥し、更に60で6時間乾燥を行った後、シートを剥離して、膜厚が500μmの水分散性ウレタン樹脂からなる樹脂フィルムを作成する。
引張試験機[(株)安田精機製作所製]を用いて、測定温度25℃、引張速度200mm/minで得られた樹脂フィルムを引張り、破断した時の強度及び伸度を求める。
【0034】
上記水分散性ウレタン樹脂の市販品としては、例えば、住化コベストロウレタン社製「インプラニールDLU」、「インプラニールDL1380」、アデカ社製「アデカボンタイターHUX-282」、ダイセルオルネクス社製「DAOTON TW6490」、三井化学社製「タケラック W-6061T」等が挙げられる。
【0035】
上記水分散性ウレタン樹脂の含有量は、上記カーボンブラック100質量部に対して、固形分で100質量部以上300質量部以下である。
上記水分散性ウレタン樹脂を上記範囲で含有することにより、印刷物の堅牢性及び風合いと、インク組成物の粘度安定性を付与することができる。
上記水分散性ウレタン樹脂は、上記カーボンブラック100質量部に対して、固形分で125質量部以上あることが好ましく、150質量部以上であることがより好ましい。
上記水分散性ウレタン樹脂は、上記カーボンブラック100質量部に対して、固形分で275質量部以下であることが好ましく、250質量部以下であることがより好ましい。
【0036】
(水)
本発明のインク組成物は、水を含有する。
【0037】
本発明のインク組成物中における水の含有量としては、例えば、30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0038】
(有機溶剤)
本発明のインク組成物は、必要に応じて有機溶剤を含有してもよい。
【0039】
上記有機溶剤としては、水溶性有機溶剤が好ましい。
上記水溶性有機溶剤としては、グリセリン、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル等のグリコールエーテル類、グリコールエーテルエステル類、アルコール類、ケトン類、有機カーボネート類及びそれらの混合物等が挙げられる。
【0040】
本発明のインク組成物中における上記有機溶剤の含有量としては、例えば、15質量%以上50質量%以下であることが好ましい。
【0041】
(界面活性剤)
本発明のインク組成物は、必要に応じて界面活性剤を含有してもよい。
【0042】
上記界面活性剤としては、陽イオン性、陰イオン性、両性、非イオン性のいずれも用いることができ、これらは公知の界面活性剤から適宜選択すればよい。
なかでも、インク組成物の保存安定性の観点からは、非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0043】
本発明のインク組成物中における上記界面活性剤の含有量としては、例えば、0.01質量%以上1質量%以下であることが好ましい。
【0044】
(その他)
本発明のインク組成物には、必要に応じて各種の添加剤を添加することができる。
具体的には、光安定化剤、表面処理剤、酸化防止剤、老化防止剤、架橋促進剤、可塑剤、防腐剤、pH調整剤、消泡剤、保湿剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、公知のものを適宜選択して用いることができる。
【0045】
(インク組成物の製造方法)
本発明のインク組成物の製造方法としては特に限定されず、上記材料を公知の方法により撹拌混合すればよい。
【0046】
(印刷物)
本発明のインク組成物により捺染される基材としては、従来から使用されている布帛でよいが、例えば、綿、絹、麻、レーヨン、アセテート、ナイロンもしくはポリエステル繊維からなる布帛、これら繊維の2種以上からなる混紡布帛等を使用できる。
【0047】
本発明のインク組成物を印刷する方法としては特に限定されず、公知のインクジェット印刷装置を用いて上記基材に印刷をすればよい。
【0048】
(インク組成物の物性)
本発明のインク組成物は、粘度安定性が良好である。
本明細書において、粘度安定性は以下の方法により評価する。
【0049】
インク組成物をガラス瓶に採り、25℃での粘度を粘度計(東機産業社製RE100L型)により測定する。その後、密栓し、60℃、4週間保存し、保存後の粘度(25℃)を上記粘度計により測定する。
粘度安定性は、粘度変化率〔[(60℃、4週間後の粘度-保存前の粘度)/(保存前の粘度)]×100〕に基づいて評価する。
粘度変化率が5%以下であれば粘度安定性が良好であると評価し、3%以下であれば粘度安定性が極めて良好であると評価する。
【0050】
本発明のインク組成物は、印刷物の濃度に優れる。
本明細書において、印刷物の濃度は以下の方法により評価する。
【0051】
綿100%の白色布帛に対して、SPECTRA社製ヘッドを搭載した評価用プリンターを用いてインク組成物のベタ画像を印刷し、その後コンベアオーブンを用いて乾燥し、評価用印刷物を作製する。
評価用印刷物の画像濃度(OD値)を分光測色計(エックスライト社製、X-Rite eXact)を用いて測定する。
OD値が1.45以上であれば印刷物の濃度が優れると評価し、1.5以上であれば印刷物の濃度が極めて優れると評価する。
【0052】
本発明のインク組成物は、印刷物の堅牢性に優れる。
本明細書において、印刷物の堅牢性は、上記印刷物の濃度の評価方法と同様にして評価用印刷物を作製し、洗濯堅牢度、乾摩擦堅牢度、及び、湿摩擦堅牢度の試験による評価を行い、全ての試験が合格以上であれば印刷物の堅牢性に優れると判断する。
【0053】
洗濯堅牢度は、以下の方法により評価する。
上記評価用印刷物を家庭用洗濯機で通常の洗濯(洗濯条件:通常モードでの洗濯、脱水、乾燥)を5回実施し、印刷物の洗濯前後の画像濃度(OD値)を分光測色計(エックスライト社製、X-Rite eXact)を用いて測定し、初期値(洗濯前)からの変化率で評価する。
洗濯後においてOD値が80%以上であれば合格と評価し、90%以上であれば特に優れていると評価する。
【0054】
乾摩擦堅牢度は、以下の方法により評価する。
上記評価用印刷物において、学振型堅牢度試験機(大栄科学精器製作所社製)を用いて、晒し布で200gの荷重をかけて、印刷面を100回擦る。そのときの晒し布の汚染度合いを、汚染グレースケールを用いてJIS L 0805:2005に準じて評価する。
上記評価が3-4級以上であれば合格と評価し、4-5級以上であれば特に優れていると評価する。
【0055】
湿摩擦堅牢度は、以下の方法により評価する。
上記評価用印刷物において、学振型堅牢度試験機(大栄科学精器製作所社製)を用いて、水で濡らした晒し布で200gの荷重をかけて、印刷面の表面を100回擦る。そのときの晒し布の汚染度合いを、汚染グレースケールを用いてJIS L 0805:2005に準じて評価する。
上記評価が3-4級以上であれば合格と評価し、4-5級以上であれば特に優れていると評価する。
【0056】
本発明のインク組成物は、風合いに優れる。
本明細書において、風合いは、上記印刷物の濃度の評価方法と同様にして評価用印刷物を作製し、触手により評価する。
印刷物が容易に折れ曲がるが、布帛そのものよりも若干ごわつきを感じるものを風合いに優れると評価し、印刷物が容易に折れ曲がり、綿100%の布帛そのものの柔らかさに近いものを風合いが特に優れていると評価する。
【0057】
本明細書では、以下の事項が開示されている。
【0058】
本開示(1)は、カーボンブラックと、水分散性樹脂と、水とを少なくとも含有する捺染用インクジェットインク組成物であって、上記カーボンブラックが、自己分散型カーボンブラックを含有し、上記水分散性樹脂が、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、及び、ポリカーボネート系ポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種の水分散性ウレタン樹脂を含有し、上記水分散性ウレタン樹脂は、破断伸度が700%以上1700%以下であり、かつ、引張強度が30MPa以下であり、上記水分散性ウレタン樹脂の含有量は、上記カーボンブラック100質量部に対して、固形分で100質量部以上300質量部以下である捺染用インクジェットインク組成物である。
本開示(2)は、上記カーボンブラックが、樹脂分散型カーボンブラックを更に含有する本開示(1)に記載の捺染用インクジェットインク組成物である。
本開示(3)は、上記自己分散型カーボンブラックと、上記樹脂分散型カーボンブラックとの質量比率が1:5~5:1である本開示(1)又は(2)に記載の捺染用インクジェットインク組成物である。
【実施例】
【0059】
以下に実施例をあげて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0060】
実施例及び比較例で用いた材料は以下の通りである。
【0061】
(自己分散型カーボンブラック分散液)
自己分散型カーボンブラック分散液1(製品名「CAB-O-JET300」、キャボット社製、顔料濃度15質量%、カルボキシル基含有)
自己分散型カーボンブラック分散液2(製品名「CAB-O-JET400」、キャボット社製、顔料濃度15質量%、リン酸基含有)
【0062】
(樹脂分散型カーボンブラック分散液)
顔料分散剤(アクリル酸/アクリル酸ラウリル/スチレン共重合体、重量平均分子量20,000、酸価140mgKOH/g)25質量部を水酸化カリウム3.5質量部と水71.5質量部との混合溶液に溶解させて、固形分25質量%の顔料分散剤を含む水性樹脂ワニスを得た。
上記水性樹脂ワニス12質量部に水73質量部を加え混合し、更にカーボンブラック(製品名「MA100」、三菱ケミカル社製)15質量部を加えて撹拌混合後、湿式サーキュレーションミルで練肉を行ない、樹脂分散型カーボンブラック分散液を作製した。
なお、顔料分散剤の重量平均分子量、酸価は、本明細書に記載の方法により測定した。
【0063】
(水分散性樹脂)
樹脂1(ポリカーボネート系ポリウレタン、製品名「インプラニールDLU」、住化コベストロウレタン社製、固形分60質量%、破断伸度800%、引張強度30MPa)
樹脂2(ポリエステル系ポリウレタン、製品名「インプラニールDL1380」、住化コベストロウレタン社製、固形分60質量%、破断伸度1200%、引張強度25MPa)
樹脂3(ポリエーテル系ポリウレタン、製品名「アデカボンタイターHUX-282」、アデカ社製、固形分55質量%、破断伸度1100%、引張強度25MPa)
樹脂4(ポリエステル系ポリウレタン、製品名「インプラニールDLC-T」、住化コベストロウレタン社製、固形分35質量%、破断伸度500%、引張強度6MPa)
樹脂5(ポリエステル系ポリウレタン、製品名「アデカボンタイターHUX-895」、アデカ社製、固形分48質量%、破断伸度900%、引張強度40MPa)
樹脂6(ポリエーテル系ポリウレタン、製品名「NeoRez R-967」、住化コベストロウレタン社製、固形分40質量%、破断伸度600%、引張強度34.3MPa)
樹脂7(ポリエステル系ポリウレタン、製品名「ヨドゾールRA85」、ヘンケルジャパン社製、固形分40質量%、破断伸度400%、引張強度30MPa)
なお、水分散性樹脂の破断伸度、引張強度は、本明細書に記載の方法により測定した。
【0064】
(界面活性剤)
界面活性剤1(製品名「E1010」、日信化学工業社製)
界面活性剤2(製品名「サーフィノール440」、日信化学工業社製)
【0065】
(水)
水(精製水)
【0066】
(有機溶剤)
グリセリン
【0067】
(実施例1~8、比較例1~7)
<インク組成物の作製>
表1及び2に基づいて、各材料を配合し、公知の方法により撹拌混合して各インク組成物を作製した。
なお、表1及び2中の「カーボンブラックに対する樹脂量」は、カーボンブラック100質量部に対する水分散性ウレタン樹脂の含有量(固形分の質量部)を意味する。
【0068】
<粘度安定性>
作製したインク組成物をガラス瓶に採り、25℃での粘度を粘度計(東機産業社製RE100L型)により測定した。
その後、密栓し、60℃、4週間保存し、保存後の粘度(25℃)を上記粘度計により測定した。
上記測定した粘度から、粘度変化率〔[(60℃、4週間後の粘度-保存前の粘度)/(保存前の粘度)]×100〕を算出し、以下の基準より評価した。その結果を表1及び2に示した。
(評価基準)
◎:粘度変化率が3%未満であった。
〇:粘度変化率が3%以上5%未満であった。
×:粘度変化率が5%以上10%未満であった。
××:粘度変化率が10%以上であった。
【0069】
<評価用印刷物の作製>
綿100%の白色布帛に対して、SPECTRA社製ヘッドを搭載した評価用プリンターを用いて作製したインク組成物のベタ画像を印刷し、その後コンベアオーブンを用いて乾燥し、評価用印刷物を作製した。
【0070】
<濃度>
作製した評価用印刷物の画像濃度(OD値)を分光測色計(エックスライト社製、X-Rite eXact)を用いて測定し、以下の基準より評価した。その結果を表1及び2に示した。
(評価基準)
◎:OD値が1.5以上であった。
○:OD値が1.45以上1.5未満であった。
×:OD値が1.4以上1.45未満であった。
××:OD値が1.4未満であった。
【0071】
<洗濯堅牢度>
作製した評価用印刷物を家庭用洗濯機で通常の洗濯(洗濯条件:通常モードでの洗濯、脱水、乾燥)を5回実施し、印刷物の洗濯前後の画像濃度(OD値)を分光測色計(エックスライト社製、X-Rite eXact)を用いて測定した。
初期値(洗濯前)からの変化率に基づいて、以下の基準で評価した。その結果を表1及び2に示した。
(評価基準)
◎:洗濯後においてOD値が初期値の90%以上であった。
○:洗濯後においてOD値が初期値の80%以上90%未満であった。
×:洗濯後においてOD値が初期値の70%以上80%未満であった。
××:洗濯後においてOD値が初期値の70%未満であった。
【0072】
<乾摩擦堅牢度>
作製した評価用印刷物において、学振型堅牢度試験機(大栄科学精器製作所社製)を用いて、晒し布で200gの荷重をかけて、印刷面を100回擦った。そのときの晒し布の汚染度合いを、汚染グレースケールを用いてJIS L 0805:2005に準じ、以下の基準で評価した。その結果を表1及び2に示した。
(評価基準)
◎:4-5級~5級であった。
○:3-4級~4級であった。
×:2-3級~3級であった。
××:2級以下であった。
【0073】
<湿摩擦堅牢度>
作製した評価用印刷物において、学振型堅牢度試験機(大栄科学精器製作所社製)を用いて、水で濡らした晒し布で200gの荷重をかけて、印刷面の表面を100回擦った。そのときの晒し布の汚染度合いを、汚染グレースケールを用いてJIS L 0805:2005に準じ、以下の基準で評価した。その結果を表1及び2に示した。
(評価基準)
◎:4-5級~5級であった。
○:3-4級~4級であった。
×:2-3級~3級であった。
××:2級以下であった。
【0074】
<風合い>
作製した評価用印刷物を触手し、以下の基準で評価した。その結果を表1及び2に示した。
(評価基準)
◎:印刷物が容易に折れ曲がり、綿100%の布帛そのものの柔らかさに近いもの
○:印刷物が容易に折れ曲がるが、布帛そのものよりも若干ごわつきを感じるもの
×:印刷物がごわつきを感じるもの
××:印刷物が自由に折れ曲がらないほど固いもの
【0075】
【0076】
【0077】
表1及び2より、実施例のインク組成物では、粘度安定性が良好で、かつ、印刷物の濃度、堅牢性及び風合いに優れることが確認された。
ことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0078】
粘度安定性が良好で、かつ、印刷物の濃度、堅牢性及び風合いに優れる捺染用インクジェットインク組成物を提供することができる。
【要約】
【課題】粘度安定性が良好で、かつ、印刷物の濃度、堅牢性及び風合いに優れる捺染用インクジェットインク組成物を提供する。
【解決手段】カーボンブラックと、水分散性樹脂と、水とを少なくとも含有する捺染用インクジェットインク組成物であって、上記カーボンブラックが、自己分散型カーボンブラックを含有し、上記水分散性樹脂が、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、及び、ポリカーボネート系ポリウレタンからなる群から選択される少なくとも1種の水分散性ウレタン樹脂を含有し、上記水分散性ウレタン樹脂は、破断伸度が700%以上1700%以下であり、かつ、引張強度が30MPa以下であり、上記水分散性ウレタン樹脂の含有量は、上記カーボンブラック100質量部に対して、固形分で100質量部以上300質量部以下である捺染用インクジェットインク組成物。
【選択図】なし