(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】X線発生装置およびX線撮像装置
(51)【国際特許分類】
H05G 1/02 20060101AFI20250408BHJP
H05G 1/06 20060101ALI20250408BHJP
H01J 35/00 20060101ALI20250408BHJP
H01J 35/16 20060101ALI20250408BHJP
【FI】
H05G1/02 S
H05G1/06
H01J35/00 Z
H01J35/16
(21)【出願番号】P 2024568404
(86)(22)【出願日】2024-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2024031347
【審査請求日】2024-11-15
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/033421
(32)【優先日】2023-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 順也
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-073625(JP,A)
【文献】特開2013-101879(JP,A)
【文献】国際公開第2021/044525(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/044524(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/213039(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05G1/00-2/00
H01J35/00-35/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1開口端および第2開口端を有する絶縁管、前記第1開口端を閉塞するように配置され第1方向に電子を放出する電子放出部を含む陰極、および、前記第2開口端を閉塞するように配置され前記電子放出部から放射された電子が衝突することによってX線を発生するターゲットを含む陽極を有するX線発生管と、
第1空間を形成する第1部分
、前記第1方向と直交する第2方向における幅が前記第1空間よりも小さく前記X線発生管の少なくとも一部を取り囲むように
前記第1空間に接して配置され
た第2空間を形成する第2部分、および
、前記第1部分および前記第2部分を相互に連結する連結部を有し、前記連結部
と前記第2部分との間に角部を有する、収容容器と、
前記X線発生管から離隔するように前記
角部と前記X線発生管と間に配置され、前記X線発生管を取り囲む第1絶縁部と、
前記X線発生管の少なくとも一部分と接触しかつ前記第1絶縁部から離隔して配置され、前記X線発生管を取り囲む第2絶縁部と、を備え、
前記第2絶縁部の外径は、前記第1絶縁部の内径よりも大きい、
ことを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記第1絶縁部は、前記絶縁管の全体において、前記絶縁管と前記
角部との間の直線経路を遮断するように配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記第2部分の前記第1方向の長さは、前記X線発生管の前記第1方向の長さよりも短い、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記第2部分の前記第1方向の長さは、前記X線発生管の前記第1方向の長さよりも長い、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記第2絶縁部は、ゴム材料で構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記X線発生管は、
前記陰極のうち前記X線発生管の外側表面の一部を構成する陰極部材を有し、
前記第2絶縁部は、前記第1絶縁部と前記陰極部材との間、かつ前記絶縁管の周囲に設けられる
ことを特徴とする請求項3に記載のX線発生装置。
【請求項7】
前記絶縁管は、前記第2方向において前記第1絶縁部と対面する領域を有し、
前記第2絶縁部は、前記領域
と前記第1絶縁部との間に配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項8】
前記第2絶縁部は、前記第1絶縁部と前記陽極の間に配置され、
前記第2絶縁部は、前記絶縁管に接触している
ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項9】
前記第1絶縁部は、円筒部と、前記円筒部の一部から放射方向に広がったリング部とを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項10】
前記X線発生管は管軸を有し、
前記第2絶縁部
は、前記管軸を含む断面
において、円形状
を有する、
ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項11】
前記X線発生管は、透過型X線発生管である
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のX線発生装置。
【請求項12】
前記第1絶縁部
は、前記角部から離隔している、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のX線発生装置。
【請求項13】
前記第1絶縁部と前記第2絶縁部との最短距離は、前記第1絶縁部と前記収容容器との最短距離よりも小さい、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のX線発生装置。
【請求項14】
前記陰極の周囲に配置された第3絶縁部を有する、
ことを特徴とする請求項3に記載のX線発生装置。
【請求項15】
前記
収容容器に充填された絶縁性液体を更に備える、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載のX線発生装置。
【請求項16】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のX線発生装置と、
前記X線発生装置から放射され物体を透過したX線を検出するX線検出装置と、
を備えることを特徴とするX線撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線発生装置およびX線撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線透過像の拡大率は、ターゲット上に形成されるX線発生部と被検体との距離が近いほど増加しうる。そこで、被検体が奥まった位置にある場合であっても十分な拡大率が得られるように、収納容器の本体部に、本体部から細長く突出させた突出部を設け、その突出部の先端にX線発生部を取り付けたX線発生装置が知られている。このようなX線発生装置は、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1には、X線発生管と、X線発生管を収納する収納容器とを備えるX線発生装置が記載されている。X線発生管は、陽極と、電子放出源を有する陰極と、陽極と陰極との間に真空空間を形成する絶縁管とを備え、陽極は、収納容器に電気的に接続されている。収納容器は、後方収納部と、後方収納部から連なる部分からX線発生管の絶縁管に向かって近づき絶縁管を囲むフランジ部と、フランジ部から突出した突出部を有し、突出部にX線発生管の陽極が固定されている。突出部とフランジ部との間に環状屈曲部が形成されている。X線発生管の陰極と、環状屈曲部との間には保護部材が配置されている。保護部材は、L字状の断面を回転させた環状部材である。
【0004】
特許文献1のような保護部材を設けた場合、保護部材とX線管の絶縁管との隙間が狭くなる。これにより、隙間に存在する絶縁油の電界が強くなり、X線管の陰極と陽極との間で放電が発生しうるという問題が本出願人による実験によって明らかになった。また、保護部材をX線管の陰極側に延ばすことによって陰極と陽極との間の放電経路を物理的に遮断する構成では、X線管製造時、突出部先端への絶縁油の充填不良が生じてしまうため不適な構成となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本発明は、X線管の陰極と陽極との間における放電防止と製造時の突出部先端への絶縁油の注油を容易にするために有利な技術を提供する。
【0007】
本発明の第1の側面は、X線発生装置に係り、前記X線発生装置は、第1開口端および第2開口端を有する絶縁管、前記第1開口端を閉塞するように配置され第1方向に電子を放出する電子放出部を含む陰極、および、前記第2開口端を閉塞するように配置され前記電子放出部から放射された電子が衝突することによってX線を発生するターゲットを含む陽極を有するX線発生管と、第1空間を形成する第1部分と、前記第1方向と直交する第2方向における幅が前記第1空間よりも小さく前記X線発生管の少なくとも一部を取り囲むように配置され第2空間を形成する第2部分、および、前記第1空間と前記第2空間とが連通した内部空間が形成されるように前記第1部分および前記第2部分を相互に連結する連結部を有し、前記連結部が前記内部空間に向けて尖った凸部を有する、収容容器と、前記X線発生管から離隔するように前記凸部と前記X線発生管と間に配置され、前記X線発生管を取り囲む第1絶縁部と、前記X線発生管の少なくとも一部分と接触しかつ前記第1絶縁部から離隔して配置され、前記X線発生管を取り囲む第2絶縁部と、を備え、前記第2絶縁部の外径は、前記第1絶縁部の内径よりも大きい。
【0008】
本発明の第2の側面は、X線撮像装置に係り、前記X線撮像装置は、第1の側面に係るX線発生装置と、前記X線発生装置から放射され物体を透過したX線を検出するX線検出装置と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態のX線発生装置の構成を示す図。
【
図3】第2実施形態のX線発生装置の構成を示す図。
【
図4】第2実施形態のX線発生装置の構成を示す図。
【
図5】第3実施形態のX線発生装置の構成を示す図。
【
図6A】第3実施形態のX線発生装置の構成を示す図。
【
図7A】第3実施形態のX線発生装置の構成を示す図。
【
図8A】第3実施形態のX線発生装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
図1には、第1実施形態のX線発生装置100の構成が模式的に示されている。X線発生装置100は、X線発生管102と、電圧供給部110と、収容容器130と、絶縁性液体108と、絶縁構造120とを備えうる。
図1は、X線発生管102の管軸AXを含む仮想平面による断面を示している。X線発生管102は、管軸AXに平行な方向である第1方向(Z方向)に電子を放出する電子放出部23を含む陰極104、および、電子放出部23から放射された電子が衝突することによってX線を発生するターゲット1を含む陽極103を有しうる。また、X線発生管102は、X線発生管102の外側表面の一部を構成する絶縁管4を含みうる。絶縁管4は、第1開口端OP1および第2開口端OP2を有しうる。陰極104は、第1開口端OP1を閉塞するように配置されうる。陽極103は、第2開口端OP2を閉塞するように配置されうる。絶縁管4は、円筒形状等の筒形状を有しうる。絶縁管4は、絶縁管4の内部空間の真空気密性および絶縁性を提供するように構成されうる。絶縁管4は、例えば、アルミナまたはジルコニア等を主成分とするセラミック材料で構成されうる。絶縁管4は、あるいは、ボロシリケートガラス等のガラス材料で構成されうる。電圧供給部110は、導電線109を介してX線発生管102、より詳しくは陰極104に電圧を供給する。導電線109は、導電性部材と、該導電性部材を被覆する絶縁材とを含みうるが、該絶縁材を有しなくてもよい。
【0012】
収容容器130は、第1部分131、第2部分132および連結部133を含みうる。第1部分131は、X線発生管102の側面の少なくとも一部を取り囲むように配置され第1空間SP1を形成しうる。また、第1部分131は、電圧供給部110を収容しうる。第2部分132は、X線発生管102の該側面の他の一部を取り囲むように配置され第2空間SP2を形成しうる。連結部133は、第1部分131によって形成される第1空間SP1と第2部分132によって形成される第2空間SP2とが連通した内部空間ISPが形成されるように第1部分131および第2部分132を相互に連結しうる。第2部分132は、第1方向(Z方向)と直交する第2方向(Y方向)における幅が第1部分131より小さい。また、第2空間SP2は、第1方向(Z方向)と直交する第2方向(Y方向)における幅が第1空間SP1より小さい。
【0013】
連結部133は、X線発生管102の管軸AXを含む仮想平面による断面において、収容容器130の内部空間ISPに向けて尖った凸部135を有しうる。第2部分132は、例えば、円筒形状等の管形状を有しうる。
図1のようにX線発生管102の管軸AXを含む仮想平面による断面において、凸部135は、90度の内角を有してもよいし、鋭角の内角を有してもよいし、鈍角の内角を有してもよい。第1方向(Z方向)において、凸部135が陰極104と陽極103との間に配置された構造を有する。
図1に示された例では、第2部分132の第1方向の長さは、X線発生管102の第1方向の長さより短い。
【0014】
絶縁性液体108は、陰極104に接触し導電線109を取り囲むように収容容器130の内部空間ISPに充填されうる。絶縁構造120は、絶縁管4の少なくとも一部分を取り囲むように収容容器130の内部空間ISPに配置されうる。また、絶縁構造120は、陰極104の少なくとも一部分を取り囲むように収容容器130の内部空間ISPに配置されうる。絶縁構造120は、第1絶縁部121および第2絶縁部122を含みうる。第1絶縁部121および第2絶縁部122は、互いに第1方向(Z方向)に離隔して配置されうる。
【0015】
第1絶縁部121は、凸部135と接触しかつX線発生管102から離隔するように凸部135とX線発生管102と間に配置され、X線発生管102を取り囲む。第1絶縁部121は、絶縁管4と連結部133の凸部135との間の少なくとも最短経路を遮断するように配置されうる。第1絶縁部121は、絶縁管4の全体において、絶縁管4と連結部133の凸部135との間の直線経路を遮断するように配置されうる。絶縁管4の全体において絶縁管4と連結部133の凸部135との間の直線経路を遮断するように第1絶縁部121が配置される場合は、第1絶縁部121と凸部135とが非接触であってもよい。また、第1絶縁部121は、陰極104のうちX線発生管102の外側表面の一部を構成する陰極部材21と連結部133の凸部135との間の直線経路を遮断するように配置されうる。第1方向(Z方向)に直交する、ある平面(における断面図)において、絶縁管4の少なくとも一部は、第1絶縁部121と対面するように配置されうる。
【0016】
第1絶縁部121と凸部135あるいは収容容器130とが接触する配置は、第1絶縁部121と絶縁管4との隙間G1と、第1絶縁部121と第2絶縁部122との隙間G2を大きくするために有利である。隙間G1、G2を大きくすることで絶縁性液体108を充填する際の第1空間SP1から第2空間SP2への絶縁性液体108のコンダクタンスが大きくなるため、第2空間SP2全体に絶縁性液体108を充填させることができる。隙間G2に比べて隙間G1が大きいことが望ましい。また、隙間G1、G2を大きくすることで、隙間G1、G2における電界を小さくすることができる。
【0017】
第2絶縁部122は、陰極104の少なくとも一部分と接触しかつ第1絶縁部121から離隔して配置され、陰極104を取り囲む。ここで、陰極104の少なくとも一部分、例えば、陰極部材21は、第2絶縁部122と接するように配置されうる。第2絶縁部122は、陰極部材21の少なくとも一部分と絶縁管4の少なくとも一部分との双方に接触するように配置されうる。他の観点において、第2絶縁部122は、陰極部材21と絶縁管4との境界面(接触部)と接するように配置されうる。さらに、第2絶縁部122は、陰極部材21と絶縁管4との境界面(接触部)の全体と接して該境界面(接触部)を取り囲むことが望ましい。
【0018】
第1絶縁部121は、内径R1の開口S1を有する。また、第2絶縁部122は、外径R2を有する。R2はR1より大きいことが望ましい。これにより、陰極部材21のうち第2絶縁部122によって覆われていない部分と第2部分132のうち第1絶縁部121によって覆われていない部分との間の放電距離を大きくし、異常放電を防止することができる。X線発生管102の少なくとも一部は、開口S1内に配置されうる。他の観点において、X線発生管102は、開口S1を貫通するように配置されうる。更の他の観点において、X線発生管102の絶縁管4は、開口S1を貫通するように配置されうる。
【0019】
第1絶縁部121は、内径R1を有する円筒部141と、円筒部141の一部分(例えば、一端)から放射方向に広がったリング部142とを含みうる。円筒部141の中心軸およびリング部142の中心軸は、相互に一致しうる。他の観点において、円筒部141の中心軸およびリング部142の中心軸は、X線発生管102の管軸AXに一致しうる。第2絶縁部121は、第1絶縁部121のリング部142に平行に配置されたリング部で構成されうる。第2絶縁部121の中心軸は、円筒部141の中心軸およびリング部142部の中心軸に一致しうる。他の観点において、第2絶縁部121の中心軸は、X線発生管102の管軸AXに一致しうる。
【0020】
第1絶縁部121および第2絶縁部122は、絶縁性の固体であればよく、例えば、セラミック、ガラス材料、および、ガラスエポキシ、ポリカーボネートを用いた樹脂材料等から選択される材料で構成されうる。第1絶縁部121および第2絶縁部122は、25℃における体積抵抗において1×105Ωm以上の絶縁性を有することが好ましい。
【0021】
第2部分132に収容されたX線発生管102のターゲット1は、第2部分132の先端部(
図1において上端部)に位置しうる。X線発生管102は、透過型X線発生管でありうる。X線発生管102において、陽極103、陰極部材21および絶縁管4は、真空気密容器を構成する。絶縁管4は、管形状、例えば、円筒形状を有し、陽極103と陰極104とを相互に絶縁しつつ接続する。陽極103は、ターゲット1と、陽極部材2とを含みうる。ターゲット1は、ターゲット層1aと、ターゲット層1aを支持する支持窓1bとを含みうる。陽極部材2は、環形状を有しうる。陽極部材2は、ターゲット1を支持する。陽極部材2は、ターゲット層1aと電気的に接続されうる。陽極部材2と支持窓1bとは、例えば、ろう材によって結合されうる。
図1に示された例では、ターゲット1と第2部分132の先端部とが同一平面上に配置されている。しかしながら、ターゲット1は、第2部分132と同電位(即ち、接地)されていれば、第2部分132の先端部から外側に突出するように配置されていてもよいし、第2部分132の先端部から窪むように配置されていてもよい。ターゲット1が第2部分132の先端部に位置する形態は、このような形態も含みうる。
【0022】
ターゲット層1aは、例えば、タングステンまたはタンタル等の重金属を含有し、電子が照射されることによってX線を発生する。ターゲット層1aの厚さは、X線の発生に寄与する電子侵入長と、発生したX線が支持窓1bを透過する際の自己減衰量と、のバランスから決定されうる。ターゲット層1aの厚さは、例えば、1μm~数十μmの範囲内でありうる。
【0023】
支持窓1bは、ターゲット層1aで発生したX線を透過させX線発生管102の外に放出する機能を有する。支持窓1bは、X線を透過させる材料、例えば、ベリリウム、アルミニウム、窒化珪素、または、炭素の同素体等で構成されうる。支持窓1bは、ターゲット層1aの発熱を効果的に陽極部材2に伝達するために、例えば、熱伝導性が高いダイヤモンドで構成されうる。
【0024】
絶縁管4は、真空気密性と絶縁性とを備えたアルミナまたはジルコニア等のセラミック材料、ソーダライム、または、石英等のガラス材料で構成されうる。陰極部材21および陽極部材2は、絶縁管4との間の熱応力を低減する観点において、絶縁管4の線膨張係数αi(ppm/℃)に近い線膨張係数αc(ppm/℃)、αa(ppm/℃)を有する材料で構成されうる。陰極部材21および陽極部材2は、例えば、コバールまたはモネル等の合金で構成されうる。
【0025】
陰極104は、電子放出部23と、X線発生管102の外側表面の一部を構成する陰極部材21と、電子放出部23を陰極部材21に対して固定する固定部22とを含みうる。電子放出部23は、例えば、陰極部材21に対して、ろう材を介して接続されてもよいし、レーザ溶接等により熱融着されてもよいし、他の方法で電気的に接続されてもよい。電子放出部23は、含浸型熱電子源、フィラメント型熱電子源または冷陰極電子源等の電子源を含みうる。電子放出部23は、引出グリッド電極、集束レンズ電極等の静電場を規定する不図示の静電レンズ電極を含みうる。固定部22は、電子源、静電レンズ電極に電気的に接続される導電線109を通す管形状を有しうる。導電線109は、互いに絶縁された複数の導電部材を含みうる。
【0026】
X線発生装置100は、陽極103が接地された陽極接地方式として構成されうる。陽極接地方式では、陽極103が収容容器130に電気的に接続されうる。収容容器130は、接地端子105に電気的に接続されうる。陰極104は、導電線109を介して電圧供給部110に電気的に接続されうる。
【0027】
電圧供給部110は、電源回路111と、電源回路111から電源線107を介して供給される電力を受けて、導電線109を介してX線発生管102を駆動する駆動回路112とを含みうる。駆動回路112は、電源線107、電源回路111および接地線106を介して収容容器130に電気的に接続されうる。駆動回路112は、電子源、引出グリッド電極、集束レンズ電極等に供給する電圧を制御することによって、電子源からの放出電子量や電子ビーム径を制御しうる。電源回路111の正極端子は、接地線106および収容容器130を介して接地され、電源回路111の負極端子は、電源線107を介して駆動回路112に接続され、駆動回路112に負の電圧を供給する。駆動回路112には、例えば、収容容器130の外部に配置された不図示の制御部から光ファイバケーブル等のケーブルを介して制御信号が供給されうる。
【0028】
収容容器130を構成する第1部分131、第2部分132および連結部133は、導電性を有する材料で構成され、相互に電気的に接続され、接地されうる。このような構成は、電気的な安全性を確保するために有利である。第1部分131、第2部分132および連結部133は、金属材料で構成されうる。絶縁性液体108は、収容容器130に対して真空充填されうる。この理由は、絶縁性液体108の中に気泡が存在すると、周囲の絶縁性液体108に比較して局所的に低誘電率な領域が形成され、これが放電の要因となりうるためである。
【0029】
絶縁性液体108は、X線発生管102と収容容器130との間の放電および電圧供給部110(電源回路111、駆動回路112)と収容容器130との間の放電を抑制する機能も有する。絶縁性液体108としては、X線発生装置100の動作温度域における耐熱性、流動性、電気的絶縁性が優れた液体、例えば、シリコーン油、フッ素樹脂系オイル等の化学合成油、鉱油等が使用されうる。
【0030】
X線発生管102は、収容容器130の第2部分132の先端部(
図1において下端部)に設けられた開口部に接合されることによって第2部分132に固定されうる。X線発生管102と第2部分132との内側面との間には、絶縁性液体108で満たされうる。電源回路111および駆動回路112は、不図示の固定部材によって収容容器130の第1部分131に固定されうる。電源回路111および駆動回路112は、絶縁性液体108によって取り囲まれうる。導電線109は、絶縁性液体108によって取り囲まれうる。
【0031】
収容容器130の連結部133は、例えば、第1方向(Z方向)に直交する方向に広がった板部を有し、該板部は、X線発生管102が通る開口を有する。該板部は、X線発生装置100を支持する構造体(例えば、筐体)の取り付け面に対して当接されうる。あるいは、該板部は、X線発生装置100を支持する構造体の開口部に嵌め込まれうる。収容容器130において、該板部の開口の側面と第2部分132の内側側面とは、段差を有しない連続した面を構成しうる。一例において、該板部の開口は、円形開口であり、第2部分132の内側側面は、円筒面でありうる。凸部135は、該板部の開口の端部で構成されうる。
【0032】
なお、凸部135を規定する開口の寸法を大きくすることによって凸部135と陰極104との距離を大きくする方法があるが、このような方法はX線発生装置100の大型化をもたらすので、好ましくない。
【0033】
図2には、一実施形態のX線撮像装置200の構成が示されている。X線撮像装置200は、X線発生装置100と、X線発生装置100から放射され物体191を透過したX線192を検出するX線検出装置210とを備えうる。X線撮像装置200は、制御装置220および表示装置230を更に備えてもよい。X線検出装置210は、X線検出器212と、信号処理部214とを含みうる。制御装置220は、X線発生装置100およびX線検出装置210を制御しうる。X線検出器212は、X線発生装置100から放射され物体191を透過したX線192を検出あるいは撮像する。信号処理部214は、X線検出器212から出力される信号を処理して、処理された信号を制御装置220に供給しうる。制御装置220は、信号処理部214から供給される信号に基づいて、表示装置230に画像を表示させうる。
【0034】
図3には、第2実施形態のX線発生装置100の構成が例示的かつ模式的に示されている。第2実施形態の説明として言及しない事項は、第1実施形態に従いうる。第2実施形態では、第2絶縁部122は、リング形状部であるか、リング形状部を含む形状を有しうる。他の観点において、第2絶縁部122の断面は円形状でありうる。リング形状部は、陰極104の一部(管軸AXに沿った方向における一部)を全周にわたって取り囲みうる。第2絶縁部122は、例えば、ニトリルゴム、フッ素ゴム、合成ゴム等に代表されるゴム材料で構成されうる。また、第2絶縁部122は、Oリングで構成されうる。第2実施形態においても、第2絶縁部122の外径R2が第1絶縁部121の内径R1より大きいことが望ましい。第2絶縁部122は、第1空間SP1内に配置されうる。第1絶縁部121と第2絶縁部122とは、互いに接触しないように配置される。
【0035】
第2絶縁部122がOリングで構成される場合、Oリングは円形状の断面を有するために、第2絶縁部122と陰極104との接触面積が小さい可能性がある。その場合、
図4に例示されるように、絶縁構造120は、X線発生管の管軸AXに平行な方向における第2絶縁部122と第1絶縁部121との間に、第3絶縁部123を含んでもよい。第3絶縁部123は、陰極104と第1絶縁部121との間、かつ、絶縁管4の周囲に配置されうる。第3絶縁部123は、第2絶縁部122と同じ構成を有してもよいし、第2絶縁部122と異なる構成を有してもよい。第3絶縁部123の外径は、第1絶縁部121の内径R1より大きいことが望ましい。
【0036】
図5には、第3実施形態のX線発生装置100の構成が例示的かつ模式的に示されている。第3実施形態は、第2実施形態の変形例であり、第3実施形態として言及しない事項は、第1実施形態又は第2実施形態に従いうる。第3実施形態では、絶縁耐圧を向上させるために第2方向(Y方向)における第2空間SP2の寸法を大きくすることが意図されている。R2>R1を満たすために、第1絶縁部121は、凸部135から離隔して配置されてもよい。第3実施形態は、第2実施形態よりも、高い絶縁耐性を実現するために有利である。第1絶縁部121と凸部135とが離隔していることによって、第1空間SP1と第2空間SP2との間において絶縁性液体108が流れやすくなる。これにより、X線発生管102が発生する熱が絶縁性液体108を通して効率的にX線発生装置100の外部に排出されうる。
【0037】
また、
図6Aおよび
図6Bに例示されるように、第2実施形態と同様に、第3絶縁部123を設けてもよい。第3絶縁部123は、第1絶縁部121とX線発生管102との間隙を通して絶縁性液体108が移動する量を低下させるが、この問題は、第1絶縁部121と収容容器130との間隙を通して絶縁性液体108が移動することによって緩和されうる。また、
図6Aおよび
図6Bに示された例では、絶縁性液体108と絶縁管4との摩擦による帯電が減ることで、絶縁管4と収容容器130又は絶縁管4と第1絶縁部121との間の異常放電が抑制されうる。このような異常放電の抑制は、第2絶縁部122を設けない構造においても期待される。そのため、第1絶縁部121と凸部135とが離隔した構成においては、陰極104と第1絶縁部121との間、かつ絶縁管4の周囲に第3絶縁部123を設ける一方で、第2絶縁部122を設けなくてもよい。第3絶縁部123と第1絶縁部121との最短距離D4は、第1絶縁部121と収容容器130の最短距離D3より小さいことが望ましい。
【0038】
第3絶縁部123は、
図7Aおよび
図7Bに例示されるように配置されてもよい。第1絶縁部121は、円筒部141と、リング部142とを含みうる。第3絶縁部123は、円筒部141と絶縁管4との間に配置されうる。言い換えると、絶縁管4は、第2方向において円筒部141に対面する領域を有し、第3絶縁部123は、該領域の周囲に配置されうる。他の観点において、第3絶縁部123は、第2方向において円筒部141に対面する領域の周囲に配置されうる。ここで、領域の周囲に配置されることの意味は、領域に接するように第3絶縁部123が設置されることを含む。第3絶縁部123の外径R3が第1絶縁部121の内径(最小内径)R1より大きい構成を実現するために、円筒部141の内径よりもリング部142の内径が小さくされうる。このような構造とすることで第1絶縁部121とX線発生管102との間隙を絶縁性液体108が移動し難くなる。これにより絶縁性液体108と絶縁管4との摩擦による帯電が減り、絶縁管4と収容容器130、又は絶縁管4と第1絶縁部121との間の異常放電が抑制されうる。
【0039】
図8Aおよび
図8Bには、第4実施形態のX線発生装置100の構成が例示的かつ模式的に示されている。第4実施形態として言及しない事項は、第1乃至第3実施形態に従いうる。第4実施形態では、X線発生管102の全体が第2部分132によって囲まれている。あるいは、第4実施形態では、絶縁管4の全体が第2部分132によって囲まれている。このような構成では、第2絶縁部122は、第1絶縁部121と陽極103との間に設けられることが望ましい。第2絶縁部122は、絶縁管122に接触するように配置されうる。第1絶縁部121の内径R1よりも、第2絶縁部122の外径R2が大きいことが望ましい。第2絶縁部122と第1絶縁部121との最短距離D5は、第1絶縁部121と収容容器130との最短距離D3より小さいことが望ましい。
【0040】
図4、
図6A、
図7Aに示された構成では、第2絶縁部122および第3絶縁部123の両方が設けられている。しかし、第2絶縁部122を設けることは必須ではない。つまり、第1絶縁部121とX線発生管102との間のコンダクタンスを小さくすること、即ち、第1絶縁部121とX線発生管102との間隙における絶縁性液体108の流れを減らし、絶縁性液体108と絶縁管4の摩擦による帯電を減らし、絶縁管4と収容容器130又は絶縁管4と第1絶縁部121との間の異常放電を抑制するという効果は、第2絶縁部122が存在しない構成によっても提供される。
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【要約】
X線発生装置は、電子を放出する電子放出部を含む陰極、および、前記電子放出部から放射された電子が衝突することによってX線を発生するターゲットを含む陽極を有するX線発生管と、第1空間を形成する第1部分と、前記第1方向と直交する第2方向における幅が前記第1空間よりも小さく前記X線発生管の少なくとも一部を取り囲むように配置され第2空間を形成する第2部分、および、前記第1空間と前記第2空間とが連通した内部空間が形成されるように前記第1部分および前記第2部分を相互に連結する連結部を有し、前記連結部が前記内部空間に向けて尖った凸部を有する、収容容器と、前記X線発生管から離隔するように前記凸部と前記X線発生管と間に配置され、前記X線発生管を取り囲む第1絶縁部と、前記X線発生管の少なくとも一部分と接触しかつ前記第1絶縁部から離隔して配置され、前記X線発生管を取り囲む第2絶縁部と、を備え、前記第2絶縁部の外径は、前記第1絶縁部の内径よりも大きい。