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特許7662918クエン酸含有コロイダルシリカ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-07
(45)【発行日】2025-04-15
(54)【発明の名称】クエン酸含有コロイダルシリカ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/149 20060101AFI20250408BHJP
【FI】
C01B33/149
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2025508990
(86)(22)【出願日】2024-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2024029205
【審査請求日】2025-02-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000238164
【氏名又は名称】扶桑化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中野 智陽
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/179558(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/179557(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/189701(WO,A1)
【文献】特開2020-180012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子、及び、クエン酸を含有するクエン酸含有コロイダルシリカであって、
(1)前記シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が1.6×1019~14.5×1019個/mであり、
(2)前記シリカ粒子の単位表面積当たりの前記クエン酸の含有量が1.0~10.0μg/mである、
ことを特徴とするクエン酸含有コロイダルシリカ。
【請求項2】
前記シリカ粒子の平均二次粒子径が10~200nmである、請求項1に記載のクエン酸含有コロイダルシリカ。
【請求項3】
前記シリカ粒子のBET比表面積は、20~300m/gである、請求項1に記載のクエン酸含有コロイダルシリカ。
【請求項4】
前記シリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量が1.5×1021~5.0×1021個/gである、請求項1に記載のクエン酸含有コロイダルシリカ。
【請求項5】
前記シリカ粒子の含有量は、10質量%以上である、請求項1に記載のクエン酸含有コロイダルシリカ。
【請求項6】
請求項1に記載のクエン酸含有コロイダルシリカの製造方法であって、
(1)アルカリ触媒、アルコール及び水を含む母液を調製する工程1、
(2)アルコキシシラン及びアルコールを含む原料溶液を、前記母液に添加して反応液を調製する工程2、及び、
(3)前記反応液にクエン酸を添加する工程3、
を有することを特徴とする製造方法。
【請求項7】
前記工程2は、前記原料溶液を定速で前記母液に添加する工程である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程3の後に、更に、前記クエン酸含有コロイダルシリカのシリカ粒子濃度を濃縮し、溶媒を水に置換する工程4を有する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記工程4は、前記クエン酸含有コロイダルシリカを15時間以下の加熱時間で加熱する工程である、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程2において、前記反応液中の水の濃度が14.5質量%以下である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程2において、前記反応液の温度が15~25℃である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項12】
前記クエン酸のシリカ粒子1gあたりの添加量は、50~600μg/gである、請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クエン酸含有コロイダルシリカ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コロイダルシリカは、シリカ粒子を水等の媒体に分散させたものであり、紙、繊維、鉄鋼等の分野で物性改良剤として使用されている他、半導体ウエハ等の半導体デバイスの研磨(CMP)に用いられる研磨剤としても使用されている。
【0003】
半導体デバイスの製造過程で行われる化学機械研磨においては、研磨対象基板表面における研磨キズを低減するために、粗大粒子の少ない研磨用組成物が求められる。このような研磨用組成物を調製するための原料として、平均粒子径が10~200nm程度のコロイダルシリカ用いられるが、上述の研磨キズ低減の必要性から、当該コロイダルシリカには、0.20μm以上の大きさの粗大粒子の含有量が少ないことが求められる。
【0004】
コロイダルシリカを砥粒原料として研磨用組成物を調合する際には、通常コロイダルシリカと他の化学成分との混合液を撹拌する処理が行われる。例えば、特許文献1には、シリカ粒子のシラノール基密度が1.0~3.0個/nmである化学機械研磨用水系分散体が提案されており、多価カルボン酸の含有量が0.001~3.0質量%であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-16344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、従来のコロイダルシリカには下記の問題があることを見出した。すなわち、当該化学機械研磨用水系分散体に含まれるコロイダルシリカは、シリカ粒子の単位表面積当たりの多価カルボン酸の含有量が多く、剪断力を加えた際に0.20μm以上の大きさの粗大粒子の含有量が増大するという問題がある。このようなコロイダルシリカは、半導体デバイスの製造過程で行われる化学機械研磨等において、研磨対象基板表面における研磨キズを低減することができない。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、剪断力を加えた際に0.20μm以上の大きさの粗大粒子の生成が抑制されている多価カルボン酸含有コロイダルシリカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、シリカ粒子、及び、クエン酸を含有するコロイダルシリカにおいて、シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度、及び、シリカ粒子の単位表面積当たりの前記クエン酸の含有量が特定の範囲内であるクエン酸含有コロイダルシリカによれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記のクエン酸含有コロイダルシリカ及びその製造方法に関する。
1.シリカ粒子、及び、クエン酸を含有するクエン酸含有コロイダルシリカであって、
(1)前記シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が1.6×1019~14.5×1019個/mであり、
(2)前記シリカ粒子の単位表面積当たりの前記クエン酸の含有量が1.0~10.0μg/mである、
ことを特徴とするクエン酸含有コロイダルシリカ。
2.前記シリカ粒子の平均二次粒子径が10~200nmである、項1に記載のクエン酸含有コロイダルシリカ。
3.前記シリカ粒子のBET比表面積は、20~300m/gである、項1又は2に記載のクエン酸含有コロイダルシリカ。
4.前記シリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量が1.5×1021~5.0×1021個/gである、項1~3のいずれかに記載のクエン酸含有コロイダルシリカ。
5.前記シリカ粒子の含有量は、10質量%以上である、項1~4のいずれかに記載のクエン酸含有コロイダルシリカ。
6.項1~5のいずれかに記載のクエン酸含有コロイダルシリカの製造方法であって、
(1)アルカリ触媒、アルコール及び水を含む母液を調製する工程1、
(2)アルコキシシラン及びアルコールを含む原料溶液を、前記母液に添加して反応液を調製する工程2、及び、
(3)前記反応液にクエン酸を添加する工程3、
を有することを特徴とする製造方法。
7.前記工程2は、前記原料溶液を定速で前記母液に添加する工程である、項6に記載の製造方法。
8.前記工程3の後に、更に、前記クエン酸含有コロイダルシリカのシリカ粒子濃度を濃縮し、溶媒を水に置換する工程4を有する、項6又は7に記載の製造方法。
9.前記工程4は、前記クエン酸含有コロイダルシリカを15時間以下の加熱時間で加熱する工程である、項8に記載の製造方法。
10.前記工程2において、反応液中の水の濃度が14.5質量%以下である、項6~9のいずれかに記載の製造方法。
11.前記工程2において、反応液の温度が15~25℃である、項6~10のいずれかに記載の製造方法。
12.前記クエン酸のシリカ粒子1gあたりの添加量は、50~600μg/gである、項6~11のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のクエン酸含有コロイダルシリカは、剪断力を加えた際に0.20μm以上の大きさの粗大粒子の生成が抑制されている。また、本発明の製造方法によれば、上記本発明のクエン酸含有コロイダルシリカを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態及び具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0012】
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。また、本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値又は実施例から一義的に導き出せる値に置き換えてもよい。さらに、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。
【0013】
本明細書において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0014】
本発明のクエン酸含有コロイダルシリカ(以下、単に「コロイダルシリカ」とも示す。)は、シリカ粒子、及び、クエン酸を含有するクエン酸含有コロイダルシリカであって、(1)前記シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が1.6×1019~14.5×1019個/mであり、(2)前記シリカ粒子の単位表面積当たりの前記クエン酸の含有量が1.0~10.0μg/mであることを特徴とする。本発明のコロイダルシリカは、シリカ粒子、及び、クエン酸を含有しているが、上記(1)及び(2)の構成を備えているため、シリカ粒子濃度が高い条件下で剪断力を加えても粒子の凝集が進行し難くなっており、0.20μm以上の大きさの粗大粒子の含有量の増大が抑制されている。当該コロイダルシリカは、研磨用砥粒として極めて好適に用いることができる。
【0015】
また、本発明の製造方法は、上記本発明のクエン酸含有コロイダルシリカの製造方法であって、(1)アルカリ触媒、アルコール及び水を含む母液を調製する工程1、(2)アルコキシシラン及びアルコールを含む原料溶液を、前記母液に添加して反応液を調製する工程2、及び、(3)前記反応液にクエン酸を添加する工程3を有する製造方法である。このような本発明の製造方法によれば、上記本発明のクエン酸含有コロイダルシリカを製造することができる。
【0016】
以下、本発明のコロイダルシリカ、及び、その製造方法について詳細に説明する。
【0017】
1.クエン酸含有コロイダルシリカ
本発明のクエン酸含有コロイダルシリカは、シリカ粒子、及び、クエン酸を含有するクエン酸含有コロイダルシリカであって、(1)前記シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が1.6×1019~14.5×1019個/mであり、(2)前記シリカ粒子の単位表面積当たりの前記クエン酸の含有量が1.0~10.0μg/mである。
【0018】
本発明のコロイダルシリカが含有するシリカ粒子は、単位表面積当たりのシラノール基密度が1.6×1019~14.5×1019個/mである。シラノール基密度が1.6×1019未満であると、シリカ粒子の分散安定性が低下し、シリカ粒子が凝集して、剪断力を加えた際に粗大粒子が生成する。また、シラノール基密度が14.5×1019個/mを超えても、シリカ粒子の分散安定性が低下し、シリカ粒子が凝集して、剪断力を加えた際に粗大粒子が生成する。上記シラノール基密度は、1.8×1019~14.2×1019個/mが好ましく、1.9×1019~14.0×1019個/mがより好ましい。
【0019】
本明細書において、コロイダルシリカが含有するシリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度は、以下の測定方法により測定される。
【0020】
(シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度の測定方法)
[手順1]
コロイダルシリカを77400G、5℃、90分の条件で遠心分離し、得られた沈殿物を60℃、ゲージ圧-0.1MPa以下の条件で90分間減圧乾燥し、シリカ乾燥粉を得る。
【0021】
[手順2]
手順1で得られたシリカ乾燥粉を固体29Si-DD/MAS-NMRで分析し、29Si-NMRスペクトルを得る。当該NMR分析ではDD-MAS法を用いる。NMR装置としては、日本電子株式会社製ECZ500R等を用いることができる。また、NMRシグナル検出用のプローブとしては日本電子株式会社製8mmHXMAS probe等を用いることができる。
【0022】
[手順3]
手順2で得られた29Si-NMRスペクトルデータを解析し、テトラメチルシランのシリコン原子の信号を0ppmとした場合のケミカルシフトが約-84ppmのピークをQ1、約-92ppmのピークをQ2、約-101ppmのピークをQ3、約-111ppmのピークをQ4とし、Q1、Q2、Q3及びQ4のそれぞれのシグナル面積a1、a2、a3、a4を求める。
【0023】
なお、スペクトルデータの解析においては、フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについて、ローレンツ波形とガウス波形の混合により作成したピーク形状の中心位置、高さ、半値幅を可変パラメータとして、非線形最小二乗法により最適化計算を行う。
【0024】
また、Q1は酸素原子に隣接するシリコン原子の配位数が1のシリコン原子に由来すると考えられており、組成式としてSiO1/2(OH)3と表現でき、その式量は87.11g/molである。Q2は酸素原子に隣接するシリコン原子の配位数が2のシリコン原子に由来すると考えられており、組成式としてSiO(OH)2と表現でき、その式量は78.10g/molである。Q3は酸素原子に隣接するシリコン原子の配位数が3のシリコン原子に由来すると考えられており、組成式としてSiO3/2(OH)と表現でき、その式量は69.09g/molである。Q4は酸素原子に隣接するシリコン原子の配位数が4のシリコン原子に由来すると考えられており、組成式としてSiO2と表現でき、その式量は60.08g/molである。
【0025】
[手順4].
手順3で求めたシグナル面積a1、a2、a3、a4、及び、Q1、Q2、Q3、Q4成分の式量から、下記式を用いてシリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量を算出する。
シリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量(×1021個/g)
={[(a1×3)+(a2×2)+(a3×1)]×NA×10-21
÷{(a1×87.11)+(a2×78.10)+(a3×69.09)+(a4×60.08)}
ここで、NAはアボガドロ数:6.022×1023を表す。
【0026】
[手順5]
手順4で算出したシリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量、並びに後述する測定方法で得られたシリカ粒子のBET比表面積から、下記式を用いてシリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度を算出する。
シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度(×1019個/m)
=[シリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量(×1021個/g)×102
÷BET比表面積(m/g)
【0027】
本発明のコロイダルシリカが含有するシリカ粒子のBET比表面積は、20~300m/gが好ましく、25~200m/gがより好ましく、30~150m/gが更に好ましい。BET比表面積の下限が上記範囲であると、本発明のコロイダルシリカを研磨用砥粒として用いて研磨したときの研磨対象基板表面の平坦性がより向上する。また、BET比表面積の上限が上記範囲であるとシリカ粒子の分散安定性がより向上する。
【0028】
本明細書において、コロイダルシリカが含有するシリカ粒子のBET比表面積は、以下の測定方法により測定される。
【0029】
(BET比表面積)
コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理して測定用サンプルを調製する。調製した測定用サンプルを用いて、窒素ガス吸着法(BET法)によりBET比表面積(m/g)を測定する。
【0030】
本発明のコロイダルシリカに含まれるシリカ粒子の平均一次粒子径は、135nm以下が好ましく、110nm以下がより好ましく、90nm以下が更に好ましい。平均一次粒子径の上限が上記範囲であると、本発明のコロイダルシリカを用いて研磨したときの平坦性がより向上する。また、上記シリカ粒子の平均一次粒子径は、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径の下限が上記範囲であると、コロイダルシリカの保存安定性がより向上する。上記シリカ粒子の平均一次粒子径は、下記測定方法により測定される。
【0031】
(平均一次粒子径の測定方法)
コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理して測定用サンプルを調製する。調製した測定用サンプルを用いて、BET比表面積を測定する。シリカの真比重を2.2として、2727/BET比表面積(m/g)の値を換算して、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均一次粒子径(nm)とする。
【0032】
本発明のコロイダルシリカが含有するシリカ粒子の平均二次粒子径は、10~200nmである。平均二次粒子径が10nm未満であると、シリカ粒子の分散安定性が低下し、剪断力を加えた際に粗大粒子が生成し易くなる。また、平均二次粒子径が200nmを超えると、研磨砥粒として用いた際に研磨対象基板表面に研磨キズがつき易くなる。上記平均二次粒子径は、20~170nmが好ましく、30~150nmがより好ましい。上記シリカ粒子の平均二次粒子径は、下記測定方法により測定される。
【0033】
(平均二次粒子径の測定方法)
平均二次粒子径の測定用サンプルとして、コロイダルシリカを0.3質量%クエン酸水溶液に加えて、シリカ濃度として0.8質量%となるよう均一化したものを調製する。当該測定用サンプルを用いて、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELSZ-2000S」)により平均二次粒子径(nm)を測定する。
【0034】
本発明のコロイダルシリカが含有するシリカ粒子の会合比は、3.0以下が好ましく、2.5以下がより好ましく、2.0以下が更に好ましい。会合比の上限が上記範囲であると、シリカ粒子がより安定的に分散することが可能となり、研磨の際に欠陥の原因となる凝集の発生がより一層抑制される。また、上記シリカ粒子の会合比は、1.0以上が好ましく、1.2以上がより好ましく、1.4以上が更に好ましい。シリカ粒子の会合比の下限が上記範囲であると、本発明のコロイダルシリカを研磨剤として使用した際の研磨性能がより向上する。
【0035】
(会合比の算出方法)
シリカ粒子の会合比は、上述の測定方法で得られたシリカ粒子の平均一次粒子径及び平均二次粒子径から、下記式を用いて算出する。
会合比=シリカ粒子の平均二次粒子径(nm)÷シリカ粒子の平均一次粒子径(nm)
【0036】
本発明のコロイダルシリカが含有するシリカ粒子は、単位重量当たりのシラノール基量が、1.5×1021~5.0×1021個/gが好ましく、1.8×1021~4.7×1021個/gがより好ましく、2.0×1021~4.5×1021個/gが更に好ましい。単位重量当たりのシラノール基量が上記範囲であると、シリカ粒子とクエン酸との相互作用により適度に安定化され、シリカ粒子がより安定的に分散することが可能となり、研磨の際に欠陥の原因となる凝集の発生がより一層抑制される。
【0037】
本発明のコロイダルシリカ中のシリカ粒子の含有量は、コロイダルシリカを100質量%として、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましい。また、コロイダルシリカ中のシリカの含有量は、コロイダルシリカを100質量%として、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましく、40質量%以下が更に好ましい。コロイダルシリカ中のシリカ粒子の含有量の下限が上記範囲であることにより、コロイダルシリカを研磨剤として使用した際の研磨性能がより向上する。また、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の含有量の上限が上記範囲であることにより、シリカ粒子の分散安定性がより向上する。
【0038】
本発明のコロイダルシリカは、シリカ粒子の単位表面積当たりのクエン酸の含有量が1.0~10.0μg/mである。クエン酸の含有量が1.0μg/m未満であると、シリカ粒子の分散安定性が低下し、シリカ粒子が凝集して、剪断力を加えた際に粗大粒子が生成する。また、クエン酸の含有量が10.0μg/mを超えても、シリカ粒子の分散安定性が低下し、シリカ粒子が凝集して、剪断力を加えた際に粗大粒子が生成する。上記クエン酸の含有量は、1.5μg/m以上が好ましく、2.0μg/m以上がより好ましい。また、上記クエン酸の含有量は、9.5μg/m以下が好ましく、9.0μg/m以下がより好ましい。
【0039】
本明細書において、シリカ粒子の単位表面積当たりのクエン酸の含有量は、以下の測定方法により測定される。
【0040】
(シリカ粒子の単位表面積当たりのクエン酸の含有量)
[手順1]
コロイダルシリカ5gを坩堝に取り分け、38%のフッ化水素酸を9mL添加し、100℃に熱したホットプレート上で6時間加熱してシリカを分解及び蒸発させる。
【0041】
[手順2]
坩堝内の残渣を0.1mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液を6mL加えて溶かし出し、当該水溶液を全量回収する。回収後、当該水溶液に追加で0.1mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液を加えて、全量として10gとなるように希釈し、測定用希釈液とする。
【0042】
[手順3]
手順2で得た測定用希釈液を液体クロマトグラフィーで分析し、絶対検量線法を用いてクエン酸濃度を測定する。液体クロマトグラフィーの装置としては島津製作所製LC-2010CHT、クロマトグラフィー用のカラムとしてはジーエルサイエンス製Inertsil ODS-3等を用いることができる。
【0043】
[手順4]
手順3で得られた測定用希釈液のクエン酸濃度をC(μg/g)とし、上述の測定方法で得られたシリカ粒子の含有量及びシリカ粒子のBET比表面積から、下記式を用いてシリカ粒子の単位表面積当たりのクエン酸の含有量を算出する。
シリカ粒子の単位表面積当たりのクエン酸の含有量(μg/m)
={C(μg/g)×10÷(5×シリカ粒子の含有量(質量%)÷100)}
÷シリカ粒子のBET比表面積(m/g)
【0044】
本発明のコロイダルシリカのpHは、コロイダルシリカの用途に合わせて適宜設定すればよく、特に限定されないが、2.0以上が好ましく、3.0以上がより好ましい。また、pHは、11.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましい。pHの下限が上記範囲であることにより、コロイダルシリカのシリカ粒子の長期的な分散安定性がより向上する。また、pHの上限が上記範囲であることにより、コロイダルシリカの長期的な分散安定性がより向上する。
【0045】
本発明のコロイダルシリカは、ナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン、コバルト等の金属不純物の含有量が、1ppm以下であることが好ましい。金属不純物の含有量が1ppmを超えると、コロイダルシリカに含まれるクエン酸が金属イオンに配位し、その結果、シリカ粒子表面へのクエン酸の吸着量が減少し、シリカ粒子の分散安定性が低下する。金属不純物の含有量が1ppm以下であることにより、十分な量のクエン酸がシリカ粒子表面に吸着し、シリカ粒子の分散安定性が向上する。また、金属不純物の含有量が1ppm以下であることにより、金属汚染のリスクが低下するため、電子材料等の研磨に好適に用いることができる。
【0046】
(金属不純物の含有量の測定方法)
金属不純物の含有量は、原子吸光測定装置を用いて測定することができる。
【0047】
本発明のコロイダルシリカは、半導体ウエハ等の半導体デバイスの研磨剤(CMP)として用いることができる。また、例えば、紙、繊維、鉄鋼等の分野で物性改良剤として使用できる他、乾燥させてパウダーとすることで、フィラー用添加剤、トナー外添剤等としても使用できる。
【0048】
2.コロイダルシリカの製造方法
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、(1)アルカリ触媒、アルコール及び水を含む母液を調製する工程1、(2)アルコキシシラン及びアルコールを含む原料溶液を、前記母液に添加して反応液を調製する工程2、及び、(3)前記反応液にクエン酸を添加する工程3を有することを特徴とする。本発明の製造方法は、上記構成であることにより、上述の本発明のクエン酸含有コロイダルシリカを好適に製造することができる。
【0049】
以下、本発明の製造方法について、工程毎に詳細に説明する。
【0050】
(工程1)
工程1は、アルカリ触媒、アルコール及び水を含む母液を調製する工程である。
【0051】
アルカリ触媒としては特に限定されず、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミンが好ましい。このようなアミンとしては、下記一般式(X)で表されるアミンを好適に用いることができる。
NR (X)
(式中、R、R、Rは置換されてもよい炭素数1~12のアルキル基、又は水素を示す。)
【0052】
上記アミンとしては、R、R、Rのすべてが水素の場合、つまりアンモニアを好適に用いることができる。
【0053】
、R、Rは、同一でも異なっていてもよい。R、R、Rは直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0054】
直鎖状又は分岐状のアルキル基の炭素数は、1~12であってもよく、好ましくは1~8、より好ましくは1~6である。直鎖状のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。分岐状のアルキル基としては、イソプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-メチル-1-エチルプロピル基、2-メチル-2-エチルプロピル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、5-エチルヘキシル基などが挙げられる。好ましい直鎖状又は分岐状のアルキル基は、n-プロピル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基などである。
【0055】
環状のアルキル基の炭素数は、例えば3~12、などであってもよく、好ましくは3~6である。環状のアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。好ましい環状のアルキル基は、シクロヘキシル基である。
【0056】
上記一般式(X)中のR、R、Rにおいてアルキル基は置換されていてもよい。置換基の数としては、例えば0個、1個、2個、3個、4個などであってもよく、好ましくは0個、1個又は2個、より好ましくは0個又は1個である。なお、置換基の数が0個のアルキル基とは置換されていないアルキル基である。置換基としては、例えば炭素数1~3のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基)、アミノ基、炭素数1~4の直鎖状アルキル基で置換された1級アミノ基、炭素数1~4の直鎖状アルキル基でジ置換されたアミノ基(例えばジメチルアミノ基、ジn-ブチルアミノ基など)、置換されていないアミノ基などが挙げられる。ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する。複数の置換基を有するアルキル基において、置換基は、同一であっても異なっていてもよい。
【0057】
上記一般式(X)中のR、R、Rは、置換されてもよい炭素数1~8(好ましくは炭素数1~6 )の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましい。また、R、R、Rは、炭素数1~3のアルコキシ基で置換されてもよい炭素数1~8(好ましくは炭素数1~6)の直鎖状又は分岐状のアルキル基であってもよい。
【0058】
また、R、R、Rは、置換されていなくともよい。好ましくはR、R、Rは、置換されていない直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基、またはアルコキシ基で置換された直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基である。一実施形態におけるアミンとして、3-エトキシプロピルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジプロピルアミン、トリエチルアミンからなる群から選択される少なくとも1種のアミン等が挙げられる。
【0059】
上記アミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0060】
母液中のアルカリ触媒の含有量は、母液を100質量%として、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が更に好ましい。アルカリ触媒の含有量の下限が上記範囲であることにより、シリカ粒子の粒子径をより一層制御し易くなる。また、母液中のアルカリ触媒の含有量の上限は特に限定されず、3.0質量%以下、2.5質量%以下、2.0質量%以下であってもよい。
【0061】
アルコールとしては特に限定されず、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等が挙げられる。
【0062】
母液中のアルコールの含有量は、母液を100質量%として、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。アルコールの含有量の下限が上記範囲であることにより、シリカ粒子の粒子径をより一層制御し易くなる。また、母液中のアルコールの含有量の上限は特に限定されず、95質量%以下、90質量%以下、87質量%以下であってもよい。
【0063】
母液中の水の含有量は、10.0~14.5質量%が好ましく、11.0~14.0質量%がより好ましく、12.0~13.5質量%が更に好ましい。母液中の水の含有量が上述の範囲の下限未満だと、シリカ粒子の凝集体が生成しやすくなる。母液中の水の含有量が上述の範囲の上限を超えていると、シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が低くなり、シリカ粒子の分散安定性が低くなる。
【0064】
母液を調製する方法としては特に限定されず、水にアルカリ触媒、及び、アルコールを従来公知の方法により添加して撹拌すればよい。
【0065】
母液のpHは特に限定されず、9.5以上が好ましく、10.0以上がより好ましい。母液のpHの下限が上記範囲であることにより、より一層粒子径を制御しやすくなる。また、母液のpHの上限は特に限定されず、11.5以下、11.0以下程度である。
【0066】
以上説明した工程1により、アルカリ触媒、アルコール及び水を含む母液が調製される。
【0067】
(工程2)
工程2は、アルコキシシラン及びアルコールを含む原料溶液を、前記母液に添加して反応液を調製する工程である。
【0068】
工程2で用いられるアルコールとしては、上記工程1で説明したアルコールと同一のものを用いることができる。
【0069】
原料溶液中のアルコールの含有量は、コロイダルシリカを形成することができれば特に限定されず、適宜調整することができる。アルコールの含有量は、原料溶液を100質量%として、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましい。また、アルコールの含有量は、原料溶液を100質量%として、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。
【0070】
アルコキシシランとしては特に限定されず、下記一般式(1)で示されるアルコキシシランを用いることができる。また、当該アルコキシシランの誘導体を用いてもよい。
【0071】
Si(OR) (1)
〔式中、Rはアルキル基であり、好ましくは炭素数1~8の低級アルキル基であり、より好ましくは炭素数1~4の低級アルキル基である。〕
【0072】
上記Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を例示することができ、Rがメチル基であるテトラメトキシシラン、Rがエチル基であるテトラエトキシシラン、Rがイソプロピル基であるテトライソプロポキシシランが好ましい。また、アルコキシシランの誘導体としては、アルコキシシランを部分的に加水分解して得られる低縮合物を例示することもできる。本発明では、加水分解速度を制御し易い点、未反応物の残留が少ない点でテトラメトキシシランを用いることが好ましい。
【0073】
原料溶液中のアルコキシシランの含有量は、コロイダルシリカを形成することができれば特に限定されず、適宜調整することができる。アルコキシシランの含有量は、原料溶液を100質量%として、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。また、アルコキシシランの含有量は、原料溶液を100質量%として、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましい。
【0074】
原料溶液を調製する方法としては特に限定されず、アルコキシシラン、及び、アルコールを混合し、従来公知の方法により撹拌すればよい。
【0075】
工程2では、上記原料溶液を、母液に添加して反応液を調製する。
【0076】
原料溶液を母液に添加する際の添加速度としては特に限定されないが、定速であることが好ましい。当該添加速度は、1.0~20g/min/母液1kgが好ましく、2.0~15g/min/母液1kgがより好ましく、3.0~10g/min/母液1kgが更に好ましい。
【0077】
工程2において、反応液の温度は15~25℃が好ましい。反応液の温度が上述の範囲の下限未満だと、シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が過剰に高くなり、シリカ粒子の分散安定性が低下する。反応液の温度が上述の範囲の上限よりも高いと、シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が低くなり、シリカ粒子の分散安定性が低下する。
【0078】
工程2において、反応液中の水の濃度は、14.5質量%以下が好ましく、14.0質量%以下がより好ましい。反応液中の水の濃度の上限が上記範囲であることにより、シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が高くなり、シリカ粒子の分散安定性が高くなる。反応液中の水の濃度の下限は特に限定されず、例えば、5質量%であってもよい。
【0079】
以上説明した工程2により、アルコキシシラン及びアルコールを含む原料溶液が、母液に添加されて、反応液が調製される。
【0080】
(工程3)
工程3は、上記反応液にクエン酸を添加する工程である。
【0081】
反応液にクエン酸を添加する方法としては特に限定されず、クエン酸を反応液に、従来公知の方法により滴下して撹拌すればよい。
【0082】
工程3において、反応液にクエン酸を添加する際のクエン酸のシリカ粒子1gあたりの添加量は、50~600μg/gが好ましく、100~595μg/gがより好ましい。クエン酸の添加量の下限が上記範囲であることにより、シリカ粒子の分散安定性がより向上し、シリカ粒子の凝集が抑制されて、剪断力を加えた際の粗大粒子の生成をより一層抑制することができる。クエン酸の添加量の上限が上記範囲であることにより、分散状態がより向上し、剪断力を加えた際の粗大粒子の生成がより一層抑制される。
【0083】
以上説明した工程3により、反応液にクエン酸が添加される。上記工程3により、本発明のコロイダルシリカを製造することができる。
【0084】
(工程4)
本発明の製造方法では、工程3の後に、更に、上記クエン酸含有コロイダルシリカのシリカ粒子濃度を濃縮し、溶媒を水で置換する工程4を有していてもよい。本発明の製造法が工程4を有することにより、工程3により調製されたコロイダルシリカの、水に不純物等を含む溶媒が、新たに水で置換され、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の分散安定性がより向上し、シリカ粒子の凝集がより抑制されて、剪断力を加えた際の粗大粒子の生成をより一層抑制することができる。
【0085】
コロイダルシリカのシリカ粒子濃度を濃縮する方法としては特に限定されず、例えば、コロイダルシリカを従来公知の方法により加熱し、溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。
【0086】
上記コロイダルシリカのシリカ粒子濃度を濃縮する際の加熱温度としては、コロイダルシリカの溶媒を蒸発させることができれば特に限定されず、50~100℃が好ましい。
【0087】
上記コロイダルシリカのシリカ粒子濃度を濃縮する際の加熱時間としては、0~15時間が好ましい。加熱時間が上記範囲の上限を超えると、シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が低くなり、シリカ粒子の分散安定性が低下する。
【0088】
コロイダルシリカの溶媒を水に置換する方法としては特に限定されず、例えば、濃縮されたコロイダルシリカに水を添加し、従来公知の方法により加熱して、溶媒を水に置換する方法が挙げられる。
【0089】
上記コロイダルシリカの溶媒を水に置換する際の加熱温度としては、60~100℃が好ましい。加熱温度が上記範囲の下限未満だと、コロイダルシリカに含まれるアルコールを十分に留去することができない。加熱温度が上記範囲の上限を超えると、シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が低くなり、シリカ粒子の分散安定性が低下する。
【0090】
上記コロイダルシリカの溶媒を水に置換する際の加熱時間としては、0~15時間が好ましい。加熱時間が上記範囲の上限を超えると、シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が低くなり、シリカ粒子の分散安定性が低下する。
【0091】
工程4において、上記濃縮する際の加熱時間と、水に置換する際の加熱時間の合計、すなわち、工程4でのコロイダルシリカの加熱時間は、15時間以下が好ましく、13時間以下がより好ましい。工程4での加熱時間が上記範囲の上限を超えると、シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が低くなり、シリカ粒子の分散安定性が低下する。
【0092】
以上説明した工程4により、コロイダルシリカのシリカ粒子濃度が濃縮され、溶媒が水に置換される。
【0093】
以上説明した工程を有する製造方法により、上述の本発明のクエン酸含有コロイダルシリカを製造することができる。
【実施例
【0094】
以下、実施例等を参照して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0095】
実施例1
(クエン酸含有コロイダルシリカの製造)
純水1186質量部、26質量%アンモニア水452質量部、メタノール10055質量部の混合液11693質量部を含む母液を調製した。次いで、当該母液にテトラメトキシシラン1236質量部、メタノール316質量部を含む原料溶液1552質量部を、反応系中の液温を23℃に保ちつつ25分かけて定速注入し、水及びメタノールを分散媒とするシリカゾル反応液を調製した。当該シリカゾル反応液に、2質量%クエン酸水溶液を7.673質量部添加し、30分間撹拌混合した。撹拌混合後のシリカゾル4317質量部を常圧下で加熱蒸留しつつ濃縮した。濃縮工程での加熱時間は10.0時間であった。この濃縮液を、容量を一定に保つために純水を追加しながら常圧化で加熱蒸留し、濃縮液中のメタノール及びアンモニアを水置換し、pHが8以下になった時点で純水の滴下及び加熱を終了して、クエン酸含有コロイダルシリカを製造した。水置換工程での加熱時間は3.0時間であった。
【0096】
実施例2
濃縮工程での加熱時間を7.0時間とし、水置換工程での加熱時間を2.0時間とした以外は実施例1と同じ製造条件でクエン酸含有コロイダルシリカを製造した。
【0097】
実施例3
濃縮工程での加熱時間を5.0時間とした以外は実施例2と同じ製造条件でクエン酸含有コロイダルシリカを製造した。
【0098】
実施例4
シリカゾル反応液への2質量%クエン酸水溶液の添加量を3.215質量部とした以外は実施例2と同じ製造条件でクエン酸含有コロイダルシリカを製造した。
【0099】
実施例5
シリカゾル反応液への2質量%クエン酸水溶液の添加量を11.936質量部とした以外は実施例2と同じ製造条件でクエン酸含有コロイダルシリカを製造した。
【0100】
実施例6
原料溶液を母液に注入する際に反応系中の液温を25℃に保ち、シリカゾル反応液への2質量%クエン酸水溶液の添加量を14.470質量部とした以外は実施例2と同じ製造条件でクエン酸含有コロイダルシリカを製造した。
【0101】
実施例7
原料溶液を母液に注入する際に反応系中の液温を18℃に保ち、シリカゾル反応液への2質量%クエン酸水溶液の添加量を4.409質量部とした以外は実施例2と同じ製造条件でクエン酸含有コロイダルシリカを製造した。
【0102】
比較例1
純水1712質量部、26質量%アンモニア水452質量部、メタノール9529質量部の混合液11693質量部を含む母液を調製した。次いで、当該母液にテトラメトキシシラン1236質量部、メタノール316質量部を含む原料溶液1552質量部を、反応系中の液温を23℃に保ちつつ25分かけて定速注入し、水及びメタノールを分散媒とするシリカゾル反応液を調製した。当該シリカゾル反応液に、2質量%クエン酸水溶液を7.673質量部添加し、30分間撹拌混合した。撹拌混合後のシリカゾル4317質量部を常圧下で加熱蒸留しつつ濃縮した。濃縮工程での加熱時間は7.0時間であった。この濃縮液を、容量を一定に保つために純水を追加しながら常圧化で加熱蒸留し、濃縮液中のメタノール及びアンモニアを水置換し、pHが8以下になった時点で純水の滴下及び加熱を終了して、クエン酸含有コロイダルシリカを製造した。水置換工程での加熱時間は2.0時間であった。
【0103】
比較例2
純水952質量部、26質量%アンモニア水452質量部、メタノール10289質量部の混合液11693質量部を含む母液を調製した。次いで、当該母液にテトラメトキシシラン1236質量部、メタノール316質量部を含む原料溶液1552質量部を、反応系中の液温を14℃に保ちつつ25分かけて定速注入し、水及びメタノールを分散媒とするシリカゾル反応液を調製した。当該シリカゾル反応液に、2質量%クエン酸水溶液を7.673質量部添加し、30分間撹拌混合した。撹拌混合後のシリカゾル4317質量部を常圧下で加熱蒸留しつつ濃縮した。濃縮工程での加熱時間は7.0時間であった。この濃縮液を、容量を一定に保つために純水を追加しながら常圧化で加熱蒸留し、濃縮液中のメタノール及びアンモニアを水置換し、pHが8以下になった時点で純水の滴下及び加熱を終了して、クエン酸含有コロイダルシリカを製造した。水置換工程での加熱時間は2.0時間であった。
【0104】
比較例3
シリカゾル反応液への2質量%クエン酸水溶液の添加量を0.706質量部とした以外は実施例2と同じ製造条件でクエン酸含有コロイダルシリカを製造した。
【0105】
比較例4
シリカゾル反応液への2質量%クエン酸水溶液の添加量を15.347質量部とした以外は実施例2と同じ製造条件でクエン酸含有コロイダルシリカを製造した。
【0106】
実施例1~7及び比較例1~4に記載のコロイダルシリカの製造条件ついて、原料溶液の注入量、原料溶液のテトラメトキシシラン(TMOS)濃度、母液量、母液の水濃度、母液のアンモニア濃度、原料溶液の母液への注入速度、反応温度、反応中における最大水濃度、反応液へのクエン酸添加量、濃縮工程での加熱時間、水置換工程での加熱時間、及び、濃縮工程と水置換工程の総加熱時間を表1に示す。
【0107】
評価方法
上述のようにして得られた実施例及び比較例のコロイダルシリカを、以下の方法により評価した。
【0108】
(シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度、シリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量)
以下の手順により、シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度を評価した。
【0109】
[手順1]
コロイダルシリカを77400G、5℃、90分の条件で遠心分離し、得られた沈殿物を60℃、ゲージ圧-0.1MPa以下の条件で90分間減圧乾燥し、シリカ乾燥粉を得た。
【0110】
[手順2]
手順1で得られたシリカ乾燥粉を固体29Si-DD/MAS-NMRで分析し、29Si-NMRスペクトルを得た。当該NMR分析ではDD-MAS法を用いた。NMR装置としては、日本電子株式会社製ECZ500Rを用いた。NMRシグナル検出用のプローブとしては日本電子株式会社製8mmHXMAS probeを用いた。
【0111】
[手順3]
手順2で得られた29Si-NMRスペクトルデータを解析し、テトラメチルシランのシリコン原子の信号を0 ppmとした場合のケミカルシフトが約-84ppmのピークをQ1、約-92ppmのピークをQ2、約-101ppmのピークをQ3、約-111ppmのピークをQ4とし、Q1、Q2、Q3及びQ4のそれぞれのシグナル面積a1、a2、a3、a4を求めた。
【0112】
なお、スペクトルデータの解析においては、フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについて、ローレンツ波形とガウス波形の混合により作成したピーク形状の中心位置、高さ、半値幅を可変パラメータとして、非線形最小二乗法により最適化計算を行った。
【0113】
[手順4]
手順3で求めたシグナル面積a1、a2、a3、a4、及び、Q1、Q2、Q3、Q4成分の式量から、下記式を用いてシリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量を算出した。
シリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量(×1021個/g)
={[(a1×3)+(a2×2)+(a3×1)]×NA×10-21
÷{(a1×87.11)+(a2×78.10)+(a3×69.09)+(a4×60.08)}
ここで、NAはアボガドロ数:6.022×1023を表す。
【0114】
[手順5]
手順4で算出したシリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量、並びに後述する測定方法で得られたシリカ粒子のBET比表面積から、下記式を用いてシリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度を算出した。
シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度(×1019個/m)
=[シリカ粒子の単位重量当たりのシラノール基量(×1021個/g)×102
÷BET比表面積(m/g)
【0115】
(シリカ粒子の単位表面積当たりのクエン酸の含有量)
以下の手順により、シリカ粒子の単位表面積当たりのクエン酸の含有量を評価した。
【0116】
[手順1]
コロイダルシリカ5gを坩堝に取り分け、38%のフッ化水素酸を9mL添加し、100℃に熱したホットプレート上で6時間加熱してシリカを分解及び蒸発させた。
【0117】
[手順2]
坩堝内の残渣を0.1mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液を6 mL加えて溶かし出し、当該水溶液を全量回収した。回収後、当該水溶液に追加で0.1mol/Lのリン酸水素二アンモニウム水溶液を加えて、全量として10gとなるように希釈し、測定用希釈液とした。
【0118】
[手順3]
手順2で得た測定用希釈液を液体クロマトグラフィーで分析し、絶対検量線法を用いてクエン酸濃度を測定した。液体クロマトグラフィーの装置としては島津製作所製LC-2010CHT、クロマトグラフィー用のカラムとしてはジーエルサイエンス製Inertsil ODS-3を用いた。
【0119】
[手順4]
手順3で得られた測定用希釈液のクエン酸濃度をC(μg/g)とし、後述の測定方法で得られたシリカ粒子の含有量及びシリカ粒子のBET比表面積から、下記式を用いてシリカ粒子の単位表面積当たりのクエン酸の含有量を算出した。
シリカ粒子の単位表面積当たりのクエン酸の含有量(μg/m)
={C(μg/g)×10÷(5×シリカ粒子の含有量(質量%)÷100)}
÷シリカ粒子のBET比表面積(m/g)
【0120】
(BET比表面積)
コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理して測定用サンプルを調製した。調製した測定用サンプルを用いて、窒素ガス吸着法(BET法)によりBET比表面積(m/g)を測定した。
【0121】
(平均一次粒子径)
コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理して測定用サンプルを調製した。調製した測定用サンプルを用いて、BET比表面積を測定した。シリカの真比重を2.2として、2727/BET比表面積(m/g)の値を換算して、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均一次粒子径(nm)とした。
【0122】
(平均二次粒子径)
コロイダルシリカを0.3質量%クエン酸水溶液に加えて、シリカ濃度として0.8質量%となるよう均一化したものを調製した。当該測定用サンプルを用いて、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELSZ-2000S」)により平均二次粒子径(nm)を測定した。
【0123】
(会合比)
シリカ粒子の会合比は、上述の測定方法で得られたシリカ粒子の平均一次粒子径及び平均二次粒子径から、下記式を用いて算出した。
会合比=シリカ粒子の平均二次粒子径(nm)÷シリカ粒子の平均一次粒子径(nm)
【0124】
(シリカ粒子の含有量)
コロイダルシリカ中のシリカ粒子の含有量は、コロイダルシリカ10.0gを150℃のホットプレートで乾固後、800℃で1時間加熱処理することで水分を除去し、得られた固形分の量をWgとして、下記の式より算出した。
コロイダルシリカ中のシリカ粒子の含有量[%]=(W÷10.0)×100
【0125】
(金属不純物の含有量)
金属不純物の含有量は、原子吸光測定装置を用いて測定した。コロイダルシリカ中のナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン、コバルトの含有量の和を金属不純物の含有量とした。
【0126】
(撹拌処理により剪断力を加えた際のLPC増加率)
各実施例及び比較例のコロイダルシリカについて、剪断力をかけるために、後述の方法で撹拌処理を行った。撹拌処理を行う前後での0.2μm以上の粗大粒子数(LPC)を後述の方法で測定し、下記式を用いて撹拌処理により剪断力を加えた際のLPC増加率を算出した。
撹拌処理により剪断力を加えた際のLPC増加率(%)
={[撹拌処理後のLPC(#/mL)-攪拌処理前のLPC(#/mL)]×100}
÷攪拌処理前のLPC(#/mL)
【0127】
(コロイダルシリカの撹拌処理)
各実施例及び比較例のコロイダルシリカについて、剪断力をかけるために、以下の手順で撹拌処理を行った。
【0128】
[手順1]
500mL容量の丸底フラスコに400mLのコロイダルシリカを仕込んだ。
【0129】
[手順2]
手順1で準備した丸底フラスコに翼直径8.6mmの2枚パドル翼を設置し、室温下において350rpmの回転速度でコロイダルシリカを24時間撹拌した。
【0130】
(LPCの測定)
コロイダルシリカに超純水を加えてシリカ濃度として1.0質量%となるように希釈した。希釈液を測定用サンプルとし、Particle sizing system Inc.社製Accusizer FX-nano を用いて0.2μm以上の粗大粒子数を測定した。測定条件は以下の通りとした。
【0131】
<System Setup>
・Stirred Vessel Volume:13.22mL
・Sample Loop Volume: 0.52mL
・Autodilution delay time:3sec.
・Normal Speed Flow Rate:15 mL/min
<Sensor Setup Menu>
・FX-Nano HG Minimum Size:0.15μm
・FX-Nano HG Maximum Size:0.27μm
・FX-Nano HG Collection Time:60sec.
・HG Starting Concentration:8000#/mL
【0132】
結果を表1に示す。
【0133】
【表1】
【要約】
本発明は、剪断力を加えた際に0.20μm以上の大きさの粗大粒子の生成が抑制されているクエン酸含有コロイダルシリカを提供する。
本発明は、シリカ粒子、及び、クエン酸を含有するクエン酸含有コロイダルシリカであって、
(1)前記シリカ粒子の単位表面積当たりのシラノール基密度が1.6×1019~14.5×1019個/mであり、
(2)前記シリカ粒子の単位表面積当たりの前記クエン酸の含有量が1.0~10.0μg/mである、
ことを特徴とするクエン酸含有コロイダルシリカ。