(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】X線CT検査システム、X線CT検査方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20250409BHJP
G01N 23/10 20180101ALI20250409BHJP
G01V 5/08 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
G01N23/046
G01N23/10
G01V5/08
(21)【出願番号】P 2023098384
(22)【出願日】2023-06-15
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】502071609
【氏名又は名称】財務省大臣官房会計課長
(74)【代理人】
【識別番号】110001667
【氏名又は名称】弁理士法人プロウィン
(72)【発明者】
【氏名】篠原 淳一郎
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0184757(US,A1)
【文献】特開2011-200550(JP,A)
【文献】特開2018-101165(JP,A)
【文献】特開2005-257401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01B 15/00-G01B 15/08
A61B 6/00-A61B 6/58
G01V 1/00-G01V 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1検査対象から第1測定データを取得する第1X線CT部と、
前記第1測定データの中から対象範囲を選択してテンプレートデータとして記録するテンプレート登録部と、
第2検査対象を検査して第2測定データを取得する第2X線CT部と、
前記第2測定データから得られる切出データと前記テンプレートデータとの類似度を算出し、前記類似度が閾値以上である場合に検査結果を通知するテンプレート判定部と、
を備え、
前記対象範囲は、前記第1検査対象に含まれていた発見対象及び前記発見対象の隠匿または偽装に用いられ、かつ、前記第1検査対象の内部に存在する対象物品が含まれる範囲であることを特徴とするX線CT検査システム。
【請求項2】
請求項
1に記載のX線CT検査システムであって、
前記発見対象は輸入規制品または輸出規制品であることを特徴とするX線CT検査システム。
【請求項3】
請求項1に記載のX線CT検査システムであって、
前記第1測定データは三次元ボクセルデータであり、
前記テンプレートデータおよび前記切出データは二次元ボクセルデータであることを特徴とするX線CT検査システム。
【請求項4】
請求項
3に記載のX線CT検査システムであって、
前記テンプレート判定部は、三次元ボクセルデータである前記第2測定データから、複数の切り口で複数の前記切出データを切り出し、複数の前記切出データそれぞれと前記テンプレートデータとの前記類似度を算出することを特徴とするX線CT検査システム。
【請求項5】
請求項
4に記載のX線CT検査システムであって、
前記複数の切り口は、互いに平行な複数の面または複数の回転平面であることを特徴とするX線CT検査システム。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一つに記載のX線CT検査システムであって、
前記テンプレートデータおよび前記切出データは、それぞれ実効原子番号データおよび密度データを含むことを特徴とするX線CT検査システム。
【請求項7】
請求項6に記載のX線CT検査システムであって、
前記テンプレートデータおよび前記切出データは、それぞれ、実効原子番号を第1の色彩群で表示し、密度を前記第1の色彩群とは異なる第2の色彩群で表示する画像データであり、
前記テンプレート判定部は、これらの画像データ同士を比較することにより前記類似度を算出することを特徴とするX線CT検査システム。
【請求項8】
第1検査対象から第1測定データを取得する第1測定工程と、
前記第1測定データの中から対象範囲を選択してテンプレートデータとして記録するテンプレート登録工程と、
第2検査対象を検査して第2測定データを取得する第2測定工程と、
前記第2測定データと前記テンプレートデータを比較して類似度を算出し、前記類似度が閾値以上である場合に検査結果を通知するテンプレート判定工程とを備え、
前記対象範囲は、前記第1検査対象に含まれていた発見対象及び前記発見対象の隠匿または偽装に用いられ、かつ、前記第1検査対象の内部に存在する対象物品が含まれる範囲であることを特徴とするX線CT検査方法。
【請求項9】
コンピュータに、
第1検査対象から第1測定データを取得する第1測定手順と、
前記第1測定データの中から対象範囲を選択してテンプレートデータとして記録するテンプレート登録手順と、
第2検査対象を検査して第2測定データを取得する第2測定手順と、
前記第2測定データと前記テンプレートデータを比較して類似度を算出し、前記類似度が閾値以上である場合に検査結果を通知するテンプレート判定手順とを実行させるためのプログラムであって、
前記対象範囲は、前記第1検査対象に含まれていた発見対象及び前記発見対象の隠匿または偽装に用いられ、かつ、前記第1検査対象の内部に存在する対象物品が含まれる範囲であるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CT検査システム、X線CT検査方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、国外から国内に持ち込まれる不正薬物等の禁制品を発見するために、税関検査場等において、X線装置による検査が用いられている。X線装置では、検査対象に対してX線を照射し、X線の透過率分布によって検査対象の内部における構造を画像化し、非接触かつ非破壊で検査することができる。また、検査対象を移動させながらX線の照射と検出の方向を変化させることで、検査対象の内部構造を三次元画像化するX線CT(Computed Tomography)装置も用いられている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
図13は、従来から用いられているX線CT装置による検査対象の検査について説明する模式図である。
図13に示したように、X線CT装置1は、検査対象2をベルトコンベアー3で搬送しながら、X線の照射と検出を行う。より具体的には、
図13(a)~
図13(f)に示したように、X線の照射部と検出部が環状に配置されたスリップリング4を回転させながら、ベルトコンベアー3で検査対象2をスリップリング4内で移動させるヘリカルスキャンを行う。これにより、X線を照射する位置と方向を経時的に変化させながら、三次元のボクセル(volume+pixel)データを撮像画像として得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、X線CT装置を用いた検査だけでは、検査対象内にある物質が不正薬物であるかを特定することが困難な場合があるため、その際は検査員が目視で検査対象をチェックし、疑わしい物品を選別して別途検査を行うことで物質を特定する必要がある。したがって、X線CT装置を用いた個別の検査では、検査時間の短縮を図ることが困難であった。また、近年になって、不正薬物の隠匿方法が巧妙化し、かつ越境電子商取引の拡大に伴う輸入貨物の急増や訪日外国人の増加などから、取締・検査機器を活用した水際での効果的・効率的な取締りが極めて重要な状況にあり、X線CT装置を用いた検査時間を短縮する要請が高まっている。
【0006】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、検査時間の短縮化を図り、巧妙な隠匿手口や増加する検査対象物に対し、的確かつ迅速に対応できるX線CT検査システム、X線CT検査方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のX線CT検査システムは、第1検査対象から第1測定データを取得する第1X線CT部と、前記第1測定データの中から対象範囲を選択してテンプレートデータとして記録するテンプレート登録部と、第2検査対象を検査して第2測定データを取得する第2X線CT部と、前記第2測定データから得られる切出データと前記テンプレートデータとの類似度を算出し、前記類似度が閾値以上である場合に検査結果を通知するテンプレート判定部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
このような本発明のX線CT検査システムでは、第1測定データからテンプレートデータを選択して記録し、第2測定データとテンプレートデータを比較して類似度が閾値以上の場合に検査結果を通知するため、検査時間の短縮化を図り、巧妙な隠匿手口や増加する検査対象物に対し、的確かつ迅速に対応可能となる。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記テンプレートおよび前記切出は、それぞれ実効原子番号データおよび密度データを含む。
【0010】
また、本発明の一態様では、前記テンプレートデータおよび前記切出データは、それぞれ、実効原子番号を第1の色彩群で表示し、密度を前記第1の色彩群とは異なる第2の色彩群で表示する画像データであり、前記テンプレート判定部は、これらの画像データ同士を比較することにより前記類似度を算出する。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記テンプレートデータは、二次元ボクセルデータまたは三次元ボクセルデータである。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記テンプレート判定部は、前記第2測定データから複数の切り口で複数の前記切出データを切り出し、複数の前記切出データそれぞれと前記テンプレートデータとの前記類似度を算出する。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記対象範囲は、前記第1検査対象に含まれていた発見対象及び前記発見対象の隠匿または偽装に用いられた物品である対象物品が含まれる範囲である。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明のX線CT検査方法は、第1検査対象から第1測定データを取得する第1測定工程と、前記第1測定データの中から対象範囲を選択してテンプレートデータとして記録するテンプレート登録工程と、第2検査対象を検査して第2測定データを取得する第2測定工程と、前記第2測定データと前記テンプレートデータを比較して類似度を算出し、前記類似度が閾値以上である場合に検査結果を通知するテンプレート判定工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明のプログラムは、コンピュータに、第1検査対象から第1測定データを取得する第1測定手順と、前記第1測定データの中から対象範囲を選択してテンプレートデータとして記録するテンプレート登録手順と、第2検査対象を検査して第2測定データを取得する第2測定手順と、前記第2測定データと前記テンプレートデータを比較して類似度を算出し、前記類似度が閾値以上である場合に検査結果を通知するテンプレート判定手順と、を実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、検査時間の短縮化を図り、巧妙な隠匿手口や増加する検査対象物に対し、的確かつ迅速に対応できるX線CT検査システム、X線CT検査方法およびプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るX線CT検査システム1000の概要を説明する模式図である。
【
図2】X線CT検査システム1000を用いたX線CT検査方法の概要を説明するフローチャートである。
【
図3】X線CT検査システム1000を用いた輸入規制品の発見について説明する模式図であり、
図3(a)は第1測定工程での発見を示し、
図3(b)はテンプレート登録工程を示し、
図3(c)は第2測定工程およびテンプレート判定工程を示している。
【
図4】テンプレート登録工程における第1X線CT部100とテンプレート登録部200の動作を説明するフローチャートである。
【
図5】テンプレート判定工程における第2X線CT部300とテンプレート判定部400の動作を説明するフローチャートである。
【
図6】テンプレート登録工程の具体例を説明する図であり、
図6(a)は第1測定データの三次元ボクセルデータを示し、
図6(b)は測定データ提示部210と対象範囲指定部220の画面表示例を示し、
図6(c)はテンプレートデータにおける密度データを示し、
図6(d)はテンプレートデータにおける実効原子番号データを示している。
【
図7】第2測定データからの切出データの切り出しについて説明する模式図であり、
図7(a)は第2測定データを示し、
図7(b)は長さ方向及び幅方向に沿った断面(XZ平面)での切り出しを示し、
図7(c)は水平方向及び長さ方向に沿った断面(XY平面)での切り出しを示し、
図7(d)は幅方向及び水平方向に沿った断面(YZ平面)での切り出しを示している。
【
図8】第2測定データから切り出した切出データについて説明する模式図であり、
図8(a)~
図8(c)はそれぞれ切り出し位置を示し、
図8(d)~
図8(f)はそれぞれ切り出し位置から切り出した二次元ボクセルデータを示し、
図8(g)~
図8(i)は二次元画像化した切出データを示している。
【
図9】テンプレートマッチング工程での類似度の算出について説明する模式図である。
【
図10】第2実施形態に係る切出データの切り出しについて説明する模式図であり、
図10(a)は一つの軸を中心に回転させて得られる複数の平面での切り出しを示し、
図10(b)は二つの軸を中心に回転させて得られる複数の平面での切り出しを示し、
図10(c)は立体での切り出しを示している。
【
図11】第2実施形態での検査対象10からの切出データの切り出しについて説明する模式図であり、
図11(a)、
図11(b)は二つの軸を中心に回転させて得られる複数の平面での切り出しを示し、
図11(c)、
図11(d)は立体での切り出しを示している。
【
図12】第3実施形態に係るヒストグラムでのテンプレートデータを示すグラフであり、
図12(a)は密度データのヒストグラムであり、
図12(b)は実効原子番号のヒストグラムである。
【
図13】従来から用いられているX線CT装置による検査対象の検査について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付すものとし、適宜重複した説明は省略する。
図1は、本実施形態に係るX線CT検査システム1000の概要を説明する模式図である。
図1に示すようにX線CT検査システム1000は、第1X線CT部100と、テンプレート登録部200と、第2X線CT部300と、テンプレート判定部400を備えている。
図1では第1X線CT部100、テンプレート登録部200、第2X線CT部300およびテンプレート判定部400を分離して示しているが、実際の検査場では、一つのX線CT装置が各部の機能を実装しており、場面に応じて各部の機能を用いて各工程が実行される。
【0019】
第1X線CT部100および第2X線CT部300は、検査対象に対してX線を照射するとともにX線の透過率分布を測定して、測定データを取得するX線CT装置である。第1X線CT部100は、発見対象(第1検査対象)を発見した際に使用したX線CT装置であり、第2X線CT部300は、過去の発見対象を参照して新たな検査対象(第2検査対象)の検査を実行するX線CT装置である。
図1では第1X線CT部100と第2X線CT部300を別装置として示しているが、同一のX線CT装置としてもよい。また、第1X線CT部100と第2X線CT部300は同じ装置構成であってもよく、異なる装置構成であってもよい。
【0020】
第1X線CT部100で取得した測定データは本発明における第1測定データに相当し、第2X線CT部300で取得した測定データは本発明における第2測定データに相当する。また、第1X線CT部100および第2X線CT部300は、電気情報通信回線等を介して他の装置と情報通信可能に接続されてもよい。測定データに含まれるデータの内容は限定されないが、検査対象の空間的な密度の分布である密度データと、検査対象を構成する元素の空間的な分布を実効原子番号で表したデータである実効原子番号データが含まれていることが好ましい。
【0021】
本実施形態における第1X線CT部100は、実効原子番号データ取得部110と、密度データ取得部120とを備えている。また、本実施形態における第2X線CT部300は、実効原子番号データ取得部310と、密度データ取得部320とを備えている。
図1に示した例では、第1X線CT部100および第2X線CT部300内に実効原子番号データ取得部110,310と密度データ取得部120,320がそれぞれ設けられた例を示しているが、X線CT装置とは別の情報処理装置で所定のプログラムを実行することで、実効原子番号データ取得部110,310と密度データ取得部120,320を構成するとしてもよい。
【0022】
第1X線CT部100および第2X線CT部300の具体的な構成は限定されないが、検査対象の三次元ボクセルデータを取得可能であることが好ましく、スリップリングを回転させながら測定を行うヘリカルスキャン方式のものが好ましい。また、第1X線CT部100および第2X線CT部300は、所定のプログラムに従ってX線CT装置の駆動制御を行う制御部や、得られた各種情報を所定の手順にしたがって処理する情報処理部、各種情報を記録する記録部、他の部分や外部との間で各種情報を伝達する情報通信部等を備えている(図示省略)。
【0023】
実効原子番号データ取得部110,310は、それぞれ第1X線CT部100および第2X線CT部300での測定結果から、検査対象の各ボクセルにおける実効原子番号を算出し、実効原子番号データを取得する部分である。実効原子番号データは、検査対象の全ボクセルについて実効原子番号を三次元的に配列した三次元ボクセルデータであり、検査対象の構造と実効原子番号が関連付けられたデータである。実効原子番号データ取得部110,310の具体的な構成は限定されず、従来公知のX線干渉法、屈折コントラスト法等を用いることができる。
【0024】
密度データ取得部120,320は、それぞれ第1X線CT部100および第2X線CT部300での測定結果から、検査対象の各ボクセルにおける密度を算出し、密度データを取得する部分である。密度データは、検査対象の全ボクセルについて密度を三次元的に配列した三次元ボクセルデータであり、検査対象の構造と密度が関連付けられたデータである。密度データ取得部120の具体的な構成は限定されず、従来公知の実効原子番号と吸収係数に基づく算出方法を用いることができる。
【0025】
テンプレート登録部200は、第1X線CT部100で取得した第1測定データの中から、発見された物件の対象範囲を選択して、選択された範囲に含まれるデータをテンプレートデータとして記録する部分である。またテンプレート登録部200は、測定データ提示部210と、対象範囲指定部220と、テンプレート記録部230とを備えている。テンプレート登録部200は、各種情報を処理する情報処理部、各種情報を記録する記録部、各種情報を表示する表示部、操作者が入力作業を行う入力部、他の部分や外部との間で各種情報を伝達する情報通信部等を備え(図示省略)ており、これらの各部が所定のプログラムに従って所定手順を実行することで各機能が実現される。また、テンプレート登録部200は、電気情報通信回線等を介して他の装置と情報通信可能に接続されている。
【0026】
測定データ提示部210は、第1X線CT部100が取得した第1測定データを取得し、入力部からの入力に応じた態様で、表示部等を用いて操作者に第1測定データを提示する部分である。より具体的な例としては、操作者の入力に応じて、測定データ提示部210は、第1測定データの三次元ボクセルデータを立体的な画像として表示したり、視点位置を変更させて当該立体的な画像を表示したり、当該立体的な画像の断面画像を表示したり、断面位置を変更したりする。また、測定データ提示部210で提示する第1測定データの三次元ボクセルデータに実効原子番号データと密度データが含まれている場合には、特定の実効原子番号と密度の部分に所定の色彩を施して表示するとしてもよい。これにより、予め登録された不正薬物の実効原子番号と密度に一致する部分を抽出して色分けすることができ、疑わしい部分の視覚的な判別が容易になる。
【0027】
対象範囲指定部220は、測定データ提示部210に提示された第1測定データの中から、発見対象の範囲(対象範囲)を指定する部分である。より具体的な例としては、操作者の入力に応じて、対象範囲指定部220は、表示部に表示された第1測定データの一部の範囲を選択する。選択される範囲は二次元であっても三次元であってもよい。対象範囲指定部220については詳細を後述する。
【0028】
テンプレート記録部230は、第1測定データの中の対象範囲指定部220で選択された範囲に含まれるデータをテンプレートデータとして記録する部分である。テンプレート記録部230には、複数のテンプレートデータが発見された物件毎に記録されている。各テンプレートデータは、テンプレート判定部400から随時読み取り可能とされている。ここでテンプレートデータは、テンプレートが二次元で選択された場合には二次元ボクセルデータとなり、三次元で選択された場合には三次元ボクセルデータとなる。また、テンプレートデータとしてヒストグラムを用いるとしてもよい。テンプレートデータについては詳細を後述する。
【0029】
テンプレート判定部400は、第2X線CT部300で取得した第2測定データと、テンプレート記録部230に記録されたテンプレートデータを比較して類似度を算出し、前記類似度が閾値以上である場合に検査結果を通知する部分である。またテンプレート判定部400は、テンプレート取得部410と、テンプレートマッチング部420と、検査結果通知部430とを備えている。テンプレート判定部400は、各種情報を処理する情報処理部、各種情報を記録する記録部、各種情報を表示する表示部、操作者が入力作業を行う入力部、他の部分や外部との間で各種情報を伝達する情報通信部等を備え(図示省略)ており、これらの各部が所定のプログラムに従って所定手順を実行することで各機能が実現される。また、テンプレート判定部400は、電気情報通信回線等を介して他の装置と情報通信可能に接続されている。
【0030】
テンプレート取得部410は、第2X線CT部300が取得した第2測定データを取得するとともに、テンプレート記録部230に記録されたテンプレートデータを取得する部分である。テンプレート取得部410が取得するテンプレートデータは単数であってもよく、複数であってもよい。また、第2X線CT部300で第2検査対象を一つ検査して第2測定データを一つ取得する毎に、テンプレート記録部230から複数のテンプレートデータを順次取得するとしてもよい。また、第2X線CT部300で複数の第2検査対象を検査する際に、テンプレート記録部230から複数のテンプレートデータを一括して取得するとしてもよい。
【0031】
テンプレートマッチング部420は、テンプレート取得部410が取得した第2測定データとテンプレートデータを比較して類似度を算出する部分である。テンプレートマッチング部420における第2測定データとテンプレートデータとの類似度の算出方法は限定されない。一例としては、第2測定データから所定の切り口で切出された切出データを、テンプレートデータと比較し、それらの類似度を算出する方法が挙げられる。ここで、切出データの切り口は、第2測定データにおける複数の異なる位置または角度とすることが好ましく、全ての切り口での切出データとテンプレートデータを比較することが好ましい。
【0032】
テンプレートデータがヒストグラムである場合には、テンプレートマッチング部420は、第2測定データの三次元ボクセルデータから所定の切り口で切出データを切り出し、切出データに含まれる情報をヒストグラムに変換して比較する。このとき、切出データとテンプレートデータのヒストグラムは画像として扱うことができるため、従来公知の画像比較技術を用いて類似度を算出することができる。
【0033】
テンプレートデータが二次元ボクセルデータの場合には、テンプレートマッチング部420は、第2測定データの三次元ボクセルデータから切り出しデータが二次元ボクセルデータとなる所定の切り口で切出データを切り出し比較する。このとき、切出データとテンプレートデータはともに二次元ボクセルデータであり、画像として扱うことができるため、従来公知の画像比較技術を用いて類似度を算出することができる。
【0034】
テンプレートデータが三次元ボクセルデータの場合には、テンプレートマッチング部420は、テンプレートデータおよび第2測定データの三次元ボクセルデータから、それぞれ切出しデータが二次元ボクセルデータとなる所定の切り口で切出データを切り出し比較する。このとき、切出データとテンプレートデータはともに二次元ボクセルデータであり、画像として扱うことができるため、従来公知の画像比較技術を用いて類似度を算出することができる。
【0035】
検査結果通知部430は、テンプレートマッチング部420で算出された類似度を閾値と比較し、類似度が閾値以上である場合に検査結果を通知する部分である。検査結果通知部430による検査結果の通知方法は限定されず、画像表示または音声、ランプ点灯等の従来公知の方法を用いることができる。好ましくは、テンプレート判定部400が表示部を備えており、当該表示部が第2測定データを表示するとともに、第2測定データの中のテンプレートデータとの類似度が高い領域を強調表示するように構成されていることが好ましい。
【0036】
また、テンプレートデータおよび切出データは、それぞれ、実効原子番号を第1の色彩群で表示し、密度を前記第1の色彩群とは異なる第2の色彩群で表示する画像データとしてもよい。ここで、第1の色彩群と第2色彩群の一例は、第1の色と第2の色の濃淡からなる色彩群である。より具体的な例としては、第1の色彩群として赤色の濃淡を用い、第2の色彩群として黄色の濃淡を用いることが挙げられる。また、第1の色彩群と第2色彩群の他の例は、第1の色から第2の色へのグラデーションと、第3の色から第4の色へのグラデーションである。より具体的な例としては、第1の色彩群として赤色から黄色のグラデーションを用い、第2の色彩群として青色から緑色のグラデーションを用いることが挙げられる。
【0037】
テンプレート判定部400は、第1の色彩群と第2の色彩群を含んだテンプレートデータと切出データの画像データ同士を比較することにより類似度を算出する。テンプレートデータと切出データがそれぞれ第1の色彩群と第2の色彩群を含む画像データであるため、テンプレートデータや切出データを表示部に表示した際に、発見対象30の存在を視覚的に認識することが容易となる。
【0038】
図1に示したX線CT検査システム1000は、各部に備えらえた制御部や情報処理部が、記録部に予め記録されたプログラムによって、第1測定工程と、テンプレート登録工程と、第2測定工程と、テンプレート判定工程を実行することで実現される。各工程および手順については詳細を後述する。
【0039】
図2は、X線CT検査システム1000を用いたX線CT検査方法の概要を説明するフローチャートである。また、
図3は、X線CT検査システム1000を用いた輸入規制品の発見について説明する模式図であり、
図3(a)は第1測定工程での発見を示し、
図3(b)はテンプレート登録工程を示し、
図3(c)は第2測定工程およびテンプレート判定工程を示している。各地の検査場にはX線CT装置が備えられており、各X線CT装置には、第1X線CT部100と、テンプレート登録部200と、第2X線CT部300と、テンプレート判定部400の機能が備わっている。何れかのX線CT装置において、操作者が疑わしいものを検査対象の内部に発見した場合には、検査対象10から対象物品20を取り出して分析を行う。分析の結果、対象物品20が不正薬物等の発見対象30として発見された場合には、当該検査対象10を発見したX線CT装置が第1X線CT部100となり、全てのX線CT装置が第2X線CT部300となる。また、発見対象30を発見した際の第1X線CT部100での検査工程(ステップS10)が、本発明における第1測定工程に相当する。
【0040】
ステップS11のテンプレート登録工程では、第1X線CT部100およびテンプレート登録部200を用いて、発見対象30についてテンプレートデータを記録する。次にステップS12の第2測定工程およびテンプレート判定工程では、第2X線CT部300およびテンプレート判定部400を用いて、テンプレートデータを反映させた検査を実行する。したがって、初回の発見以降は、全てのX線CT装置においてテンプレートデータを用いて迅速な検査を行うことができる。
【0041】
図3(a)に示したように、第1測定工程では、第1X線CT部100を用いて検査対象10を検査して第1測定データを取得する。このとき、実効原子番号データ取得部110によって検査対象10の実効原子番号に関するボクセルデータを実効原子番号データとして取得する。また、密度データ取得部120によって、検査対象の密度に関するボクセルデータを密度データとして取得する。測定データ提示部210の表示部には、実効原子番号と密度の分布が表示されており、操作者は検査対象10(例えば、段ボール箱またはスーツケース等の容器とその収納物)を検査する。操作者が不正薬物等の輸入規制品の疑いがあるもの、つまり疑義物品を検査対象10の中に発見した場合、疑義物品を取り出して輸入規制品であるか否かを確認する。不正薬物の場合は、分析が行われる。
【0042】
確認(分析)の結果、疑義物品が不正薬物等の発見対象30であることが判明した場合には、テンプレート登録工程を実行する。
図3(b)に示したように、テンプレート登録工程では、第1X線CT部100が測定した第1測定データの中から、発見対象30及び発見対象30の隠匿または偽装に用いられた物品である対象物品20を含む範囲を対象範囲として対象範囲指定部220で選択し、テンプレート記録部230でテンプレートデータとして記録する。
【0043】
なお、発見対象30の発見は、第1X線CT部100による検査対象10の検査によらなくてもよい。つまり、第1X線CT部100を用いない検査、例えば麻薬探知犬による検査によって、検査対象10の中の発見対象30が発見されてもよい。そのような場合には、発見対象30を含むことが確認済みである検査対象10が、発見対象30および対象物品20を含む状態で、テンプレートデータを取得及び記録するために第1X線CT部100によって測定される。この場合、第1測定工程は、発見対象30を発見するための検査対象10の検査とは別の工程として行われることになる。
【0044】
最初の発見以後は、
図3(c)に示したように、第2X線CT部300を用いた第2測定工程で、検査対象50a,50b,50cの検査を順次実行し、第2測定データを取得する。このとき、各検査対象50a,50b,50cのそれぞれの検査が終了し、第2測定データが得られる度に、テンプレート判定工程を実行する。テンプレート判定工程では、テンプレートマッチング部420が第2測定データとテンプレートデータの比較と類似度の算出を行う。また、検査結果通知部430は、例えば検査対象50bの類似度が閾値以上の場合に、類似度が高いという検査結果の通知を行う。類似度が閾値未満の場合には、検査結果の通知を行わないとしてもよく、類似度が低いという通知を行うとしてもよい。
【0045】
図4は、テンプレート登録工程における第1X線CT部100とテンプレート登録部200の動作を説明するフローチャートである。
図4に示すように、テンプレート登録工程は、テンプレート選択工程と、対象範囲指定工程と、記録工程とを含んでいる。
【0046】
ステップS21のテンプレート選択工程では、操作者はテンプレート登録部200の入力部を用いて、利用するテンプレートの形式を選択する。選択方法は限定されないが、テンプレート登録部200が表示部に所定のユーザーインターフェースでテンプレートの形式をリスト表示して、操作者が当該リストから用いるテンプレートの形式を選択することが挙げられる。ここでテンプレートの形式とは、第1測定データのボクセルデータから抽出されるデータの形式であり、例えばヒストグラム、二次元ボクセルデータ、三次元ボクセルデータ等が挙げられる。
【0047】
次に、ステップS22の対象範囲指定工程では、測定データ提示部210が第1X線CT部100から第1測定データを取得し、表示部に第1測定データを表示する。また、操作者は対象範囲指定部220を用いて第1測定データの中から、対象物品20および発見対象30のボクセルデータが含まれるように、テンプレートデータに含めるべきデータの範囲を指定する。測定データ提示部210での第1測定データの表示は、対象範囲指定部220での範囲指定と関連付けられていることが好ましい。対象範囲指定部220での操作に応じて第1測定データの表示領域が逐次更新されることで、操作者が最適な範囲を選択することが容易となる。
【0048】
次に、ステップS23の記録工程では、第1測定データのうち対象範囲指定部220で指定された範囲に含まれるデータがテンプレートデータとしてテンプレート記録部230に記録される。記録されるテンプレートデータは、対象範囲指定工程で選択された範囲内に含まれているボクセルデータについて、テンプレート選択工程で選択されたテンプレートの形式で切り出したものとなる。
【0049】
図5は、テンプレート判定工程における第2X線CT部300とテンプレート判定部400の動作を説明するフローチャートである。
図5に示すように、テンプレート判定工程は、テンプレート取得工程と、閾値設定工程と、第2測定データ取得工程と、テンプレートマッチング工程と、類似度判断工程と、検査結果通知工程とを含んでいる。上述したように、テンプレート判定工程が実行される前には、第2X線CT部300によって第2検査対象の検査が実施されて第2測定データが取得されている。
【0050】
ステップS31のテンプレート取得工程では、テンプレート取得部410がテンプレート記録部230から、第2測定データと比較するテンプレートデータを取得する。ここで、取得するテンプレートデータを操作者が選択するとしてもよく、テンプレート取得部410が自動的に選択するとしてもよい。また、選択されるテンプレートデータは、一つであってもよく複数であってもよい。
【0051】
次に、ステップS32の閾値設定工程では、後工程で用いられる類似度の閾値を設定する。閾値の設定は、予め登録された閾値を読み込むとしてもよく、操作者が所定のユーザーインターフェースを用いて閾値を入力するとしてもよい。
【0052】
次に、ステップS33の第2測定データ取得工程では、テンプレート取得部410が第2X線CT部300から第2測定データを取得する。このとき、一つの第2検査対象に関する第2測定データを取得するとしてもよく、複数の第2検査対象に関する第2測定データを一括して取得するとしてもよい。複数の第2測定データを取得した場合には、それぞれの第2測定データに対して、後のテンプレートマッチング工程と閾値判断工程が実行される。
【0053】
次に、ステップS34のテンプレートマッチング工程では、取得した第2測定データとテンプレートデータをテンプレートマッチング部420が比較して類似度を算出する。ここで、第2測定データは第2検査対象全体を対象とした三次元ボクセルデータであるため、テンプレートマッチング部420は第2測定データから複数の切り口で切出データを切り出して、それぞれの切出データとテンプレートデータの比較を行う。切出データの形式は、テンプレートデータの形式と整合する形式であり、一例としては二次元断面である。切出データの切り出しについては詳細を後述する。
【0054】
また、切出データとテンプレートデータは、実効原子番号データと密度データを色分けして重ね合わせた二次元画像であることが好ましい。切出データとテンプレートデータを色分けされた二次元画像とすることで、従来公知の画像認識方法を用いて類似度の算出を行うことができる。また実効原子番号データまたは密度データのどちらか一方で類似度を算出するよりも、比較の精度を向上させることができる。
【0055】
次に、ステップS35の類似度判断工程では、検査結果通知部430は、閾値設定工程で設定された閾値と、テンプレートマッチング工程で算出された類似度の比較を行う。第2測定データ中に類似度が閾値以上の領域が存在する場合にはステップS36に移行し、存在しない場合にはテンプレート判定工程を終了する。
【0056】
次に、ステップS36の検査結果通知工程では、検査結果通知部430が閾値以上の領域が存在するという検査結果を操作者に通知する。より具体的には、例えば第2検査対象のボクセルデータにおいて、類似度が閾値以上の領域に彩色等の強調表示を加えて、テンプレート判定部400に設けられた表示部に二次元画像または三次元画像を表示する。また、テンプレート判定部400は、強調表示が加えられた二次元画像または三次元画像を記録部に記録するとしてもよい。なお、テンプレート判定工程におけるステップS31、ステップS32およびステップS33は、ステップS34よりも前に行われる限り、どのような順序で行われてもよい。
【0057】
図6は、テンプレート登録工程の具体例を説明する図であり、
図6(a)は第1測定データの三次元ボクセルデータを示し、
図6(b)は測定データ提示部210と対象範囲指定部220の画面表示例を示し、
図6(c)はテンプレートデータにおける密度データを示し、
図6(d)はテンプレートデータにおける実効原子番号データを示している。
図6では、検査対象10がキャリングケースであり、対象物品20が靴であり、発見対象30が靴の内部に配置された例を示している。
【0058】
図6(a)に示したように、測定データ提示部210は第1測定データの三次元ボクセルデータを画像として表示して、第1検査対象の全体を操作者に提示することもできる。このとき、三次元ボクセルデータには実効原子番号データと密度データが含まれており、それらを互いに色分けしたうえで重ね合わせた表示をするとしてもよい。第1測定データはX線CT装置での測定結果であるため、検査対象10の内部に配置された対象物品20の位置と向きも視認可能である。
【0059】
図6(b)に示したように、操作者は測定データ提示部210及び対象範囲指定部220によって表示される画像を視認しながら操作を行い、検査対象10のうち発見対象30が含まれる対象物品20を選択し、テンプレートデータとして記録する。一例としては、検査対象10の向き、位置を選択して断面位置を決定し、断面位置において対象物品20が含まれるように範囲を選択する。ここで、テンプレートデータとして発見対象30だけが含まれるように範囲を選択することも可能であるが、例えばショットガン方式の密輸のように、同様の物品に同様の発見対象30が隠匿されている場合に発見対象30を確実に発見できるようにするため、対象物品20を含めることが好ましい。また、対象物品20を含めたテンプレートデータと、発見対象30のみを含めたテンプレートデータを同時に選択して記録するとしてもよい。ここで、測定データ提示部210と対象範囲指定部220が、実効原子番号データと密度データを色分けして重ね合わせて表示することで、発見対象30の位置と形状を視認して適切な範囲を指定することが容易となる。
【0060】
図6(c)、
図6(d)に示したように、テンプレートデータに含まれる密度データと実効原子番号データによって、検査対象10の内部に存在する対象物品20と発見対象30の位置および形状が明確となる。ここで、テンプレートマッチング工程で類似度の算出が容易になるように、テンプレート登録工程においては、対象物品20や発見対象30の特徴的な形状が反映された断面位置と向きになるように、切り口と指定範囲を選択することが好ましい。
【0061】
図7は、第2測定データからの切出データの切り出しについて説明する模式図であり、
図7(a)は第2測定データを示し、
図7(b)は長さ方向及び幅方向に沿った断面(XZ平面)での切り出しを示し、
図7(c)は水平方向及び長さ方向に沿った断面(XY平面)での切り出しを示し、
図7(d)は幅方向及び水平方向に沿った断面(YZ平面)での切り出しを示している。
図8は、第2測定データから切り出した切出データについて説明する模式図であり、
図8(a)~
図8(c)はそれぞれ切り出し位置を示し、
図8(d)~
図8(f)はそれぞれ切り出し位置から切り出した二次元ボクセルデータを示し、
図8(g)~
図8(i)は二次元画像化した切出データを示している。ここで長さ方向、水平方向、幅方向は互いに直交する方向であり、第2測定データの三次元ボクセルデータにおけるx軸、y軸、z軸に対応する。長さ方向、水平方向、幅方向又はそれら以外の方向のいずれの方向に沿った断面で切出すかによって、検査対象10における切り出す方向(角度)が異なることになる。また、長さ方向および幅方向とは、検査対象10の長さと幅を基準に便宜的に用いている用語であり、切り出しの具体的な方向は限定されない。また、切り出しの位置および数は例示であり、限定されない。
【0062】
図7および
図8に示したように、第2測定データのボクセルデータから、検査対象10および対象物品20の様々な位置および角度で切出データの切り出しを行い、一つの検査対象10について複数の切出データを切り出す。
図7では、複数の切り出し位置に間隔を空けた例を示しているが、長さ方向、水平方向、幅方向における全ての二次元ボクセルを切り出すことが好ましい。
【0063】
図9は、テンプレートマッチング工程での類似度の算出について説明する模式図である。テンプレートマッチング部420は、複数の位置および角度で切り出された複数の切出データの二次元画像と、テンプレートデータの二次元画像を比較する。このとき、各切出データを二次元面内で回転させながら、各回転角度における当該切り出しデータとテンプレートデータの比較を行うことが好ましい。また、テンプレートデータを線対称に反転させたものと各切出データとの比較も行うことが好ましい。
【0064】
上述したように本実施形態のX線CT検査システム1000、X線CT検査方法およびプログラムでは、第1測定データからテンプレートデータを選択して記録し、第2測定データとテンプレートデータを比較して類似度が閾値以上の場合に検査結果を通知するため、検査時間の短縮化を図り、巧妙な隠匿手口や増加する検査対象物に対し、的確かつ迅速に対応可能となる。
【0065】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について
図10を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。第1実施形態では、第2測定データからの切出データの切り出しとして、ボクセルデータの軸方向に沿った3つの平面で切り出す例を示したが、本実施形態では切出データの異なる切り出し方法を示す。
図10は、本実施形態に係る切出データの切り出しについて説明する模式図であり、
図10(a)は一軸方向を中心とした複数の回転平面での切り出しを示し、
図10(b)は二軸方向を中心とした複数の回転平面での切り出しを示し、
図10(c)は立体での切り出しを示している。
【0066】
図10(a)に示した例では、図中の上下方向に延びる軸を中心として平面を回転させ、各位置における平面で切出データを切り出す。一つの軸を中心に回転させて得られる複数の平面での切出データを用いることで、検査対象10内における対象物品20の向きがテンプレートデータとは異なる方向に傾斜していても、良好に両者の類似度を比較することが可能となる。
【0067】
図10(b)に示した例では、図中の上下方向に延びる軸および左右方向に延びる軸を中心として平面を回転させ、各平面で切出データを切り出す。二つの軸を中心に回転させて得られる複数の平面での切出データを用いることで、検査対象10内における対象物品20の向きがテンプレートデータとは異なる方向に傾斜していても、さらに良好に両者の類似度を比較することが可能となる。
【0068】
図10(c)に示した例では、第2測定データの一部から立体形状で切出データを切り出す。この場合には、テンプレートデータも第1測定データの一部から立体形状の三次元ボクセルデータを選択して記録していることが好ましい。また、テンプレートデータと切出データは三次元ボクセルデータであるため、テンプレートマッチング工程では立体形状の類似度を算出する。立体の切出データを用いることで、類似度の精度を向上させることができる。
【0069】
図10(a)、
図10(b)では一つの軸または二つの軸を中心に回転させて得られる複数の平面での切り出しを示したが、回転の中心となる軸の数は三以上であってもよい。また、
図10(c)では切り出す立体として球体形状を示したが、多面体形状や立方体形状、筒形状等で立体を切り出すとしてもよい。また、立体での切り出しと回転平面での切り出しを組み合わせるとしてもよく、第1実施形態で示した3平面での切り出しと組み合わせるとしてもよい。
【0070】
図11は、本実施形態での検査対象10からの切出データの切り出しについて説明する模式図であり、
図11(a)、
図11(b)は二つの軸を中心に回転させて得られる複数の平面での切り出しを示している。また、
図11(c)、
図11(d)は立体での切り出しを示している。
図11では検査対象10の所定位置での切り出しのみを示しているが、検査対象10内の複数位置で同様の切出データの切り出しを行うことが好ましい。なお、一つまたは二つの軸を中心に回転させて得られる複数の平面による切断は、検査対象10の全体に対して行われてもよい。
【0071】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について
図12を用いて説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。第1実施形態では、テンプレートデータとして二次元ボクセルデータまたは三次元ボクセルデータを用いる例を示したが、本実施形態では第1測定データのヒストグラムを用いる例を示す。
図12は、本実施形態に係るヒストグラムでのテンプレートデータを示すグラフであり、
図12(a)は密度データのヒストグラムであり、
図12(b)は実効原子番号のヒストグラムである。
【0072】
図12(a)において、横軸は密度を示し、縦軸はボクセルのカウント数を示している。
図12(b)において、横軸は実効原子番号を示し、縦軸はボクセルのカウント数を示している。本実施形態では、対象範囲指定工程において選択した範囲に含まれるボクセルについて、実効原子番号と密度をカウントしヒストグラムを作成する。
図12(a)は、密度の階級区間が0.4のボクセルが60個カウントされた例を示している。また、
図12(b)は、実効原子番号の階級区間が10のボクセルが160個カウントされた例を示している。
【0073】
テンプレートデータとしてヒストグラムを用いる場合には、切り出された複数の切出データ毎に含まれるボクセルについて、実効原子番号と密度をカウントしヒストグラムを作成する。また、テンプレートマッチング工程では、テンプレートデータおよび切出データのヒストグラムを画像化して、両者の類似度を算出する。ヒストグラムでは、二次元ボクセルデータまたは三次元ボクセルデータよりも形状や構造の情報量が不足しているため、類似度の精度は高くないが、両者を比較する際の計算量を抑制して迅速に類似度を算出することができる。
【0074】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について説明する。第1実施形態と重複する内容は説明を省略する。第3実施形態ではテンプレートデータおよび切出データとしてヒストグラムを用いた例を示したが、本実施形態ではボクセルデータとヒストグラムを併用する例を示す。
【0075】
本実施形態では、はじめにヒストグラムのテンプレートデータを用いて、テンプレートマッチング工程を行う。具体的には、テンプレートデータと、検査対象10を検査した際に得られたすべての切出データとの類似度を算出し、類似度が第1閾値以上である切出データを抽出する。次に、二次元または三次元のボクセルデータのテンプレートデータを用いて、テンプレートマッチング工程を行う。具体的には、当該抽出された切出データと、二次元または三次元のボクセルデータのテンプレートデータとの類似度を算出し、類似度が第2閾値以上である切出データが存在する場合に、検査対象10内に発見対象30が含まれていると判断する。これにより、ヒストグラムを用いた迅速なスクリーニングと、ボクセルデータを用いた正確な検査を両立させ、迅速かつ正確に発見対象30の存在を通知することが可能となる。
【0076】
また、ヒストグラムでのテンプレートマッチング工程では、立体での切り出しを用い、ボクセルデータでのテンプレートマッチング工程では、第1実施形態または第2実施形態で用いたられた平面での切り出しを用いることが好ましい。
【0077】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。例えば、上記各実施形態においては、輸入規制品が対象とされているが、輸出規制品が対象とされてもよい。
【符号の説明】
【0078】
1000…X線CT検査システム
100…第1X線CT部
110…実効原子番号データ取得部
120…密度データ取得部
200…テンプレート登録部
210…測定データ提示部
220…対象範囲指定部
230…テンプレート記録部
300…第2X線CT部
310…実効原子番号データ取得部
320…密度データ取得部
400…テンプレート判定部
410…テンプレート取得部
420…テンプレートマッチング部
430…検査結果通知部
10,50a,50b,50c…検査対象
20…対象物品
30…発見対象