(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】摩擦材用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 77/06 20060101AFI20250409BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20250409BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20250409BHJP
C08K 3/40 20060101ALI20250409BHJP
F16D 69/02 20060101ALI20250409BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20250409BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20250409BHJP
H02K 11/215 20160101ALI20250409BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K3/013
C08K7/04
C08K3/40
F16D69/02 C
C09K3/14 520C
C09K3/14 520M
C09K3/14 530H
B25J17/00 A
H02K11/215
(21)【出願番号】P 2021057605
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003823
【氏名又は名称】弁理士法人柳野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川路 朋紘
(72)【発明者】
【氏名】堀内 秀紀
(72)【発明者】
【氏名】菊谷 慎哉
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/107096(WO,A1)
【文献】特開平07-179753(JP,A)
【文献】特開平05-329556(JP,A)
【文献】特開2017-185595(JP,A)
【文献】三井純一,バイオマス由来スーパーエンプラの開発と自動車部材への展開,自動車樹脂化の最新動向,株式会社ジーエムシー出版,2020年10月30日,p.241-249
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C09J
C08F6-246
F16D
C09K
B25J
H02K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦材用樹脂組成物であって、
該摩擦材用樹脂組成物は、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9T及びポリアミド10Tから選択される、ガラス転移点が120℃以上であるポリアミド樹脂
のみからなる熱可塑性樹脂を70体積%以上、及びモース硬度5以上の第一無機充填材及びモース硬度5未満の第二無機充填材を含
み、
前記摩擦材用樹脂組成物の射出成形物の150℃における静摩擦係数:μ(150℃)を25℃における静摩擦係数:μ(25℃)で割った値である摩擦係数低下率α(μ(150℃)/μ(25℃))が、0.90以上、1.00以下であることを特徴とする、摩擦材用樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂は
ポリアミド10Tであることを特徴とする、請求項1記載の摩擦材用樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂が、放射性同位元素である炭素14を含むことを特徴とする請求項1、2いずれか記載の摩擦材用樹脂組成物。
【請求項4】
前記第一無機充填材と前記第二無機充填材が合計20体積%以上30体積%以下を含むことを特徴とする、請求項1~3いずれか記載の摩擦材用樹脂組成物。
【請求項5】
前記第一無機充填材が10体積%以上20体積%以下を含むことを特徴とする、請求項1~4いずれか記載の摩擦材用樹脂組成物。
【請求項6】
前記第一無機充填材がガラス繊維であることを特徴とする、請求項1~5
いずれか記載の摩擦材用樹脂組成物。
【請求項7】
前記第二無機充填材が、少なくとも2種を含むことを特徴とする、請求項1~6いずれか記載の摩擦材用樹脂組成物。
【請求項8】
前記第二無機充填材が10体積%以上20体積%以下を含むことを特徴とする、請求項1~7いずれか記載の摩擦材用樹脂組成物。
【請求項9】
前記第二無機充填材が、無機ウィスカを5体積%以上10体積%以下及び、硫酸塩を5体積%以上10体積%以下含むことを特徴とする、請求項1~8いずれか記載の摩擦材用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか記載の摩擦材用樹脂組成物を用いた摩擦材。
【請求項11】
請求項10に記載の摩擦材を用いた制動装置を備えるサーボモーター。
【請求項12】
請求項11に記載のサーボモーターを備えるロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材に関し、射出成形により形成される摩擦材用樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、熱硬化性樹脂をベースとした摩擦材は、自動車等のブレーキや、大型の産業用ロボットの各関節等の駆動部に搭載されているサーボモーターのブレーキ等に使用されている。このような用途に用いられる摩擦材では、高い安全性が求められているため、高負荷、高温環境下での安定した摩擦摩耗特性を有する熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂をベースとする摩擦材が使用されている(特許文献1、2)。このような摩擦材に用いられる樹脂組成物は、樹脂量が少ないことから溶融流動性に乏しく、また、樹脂組成物中に含まれるモース硬度の高い充填材が射出成形機のスクリュ、シリンダー及びノズルの内面、および金型のランナー部やゲート部を損傷させる恐れがあるため、一般的に圧縮成形法が採用される。
【0003】
また、大気中の炭酸ガス濃度増加による地球温暖化問題が世界的な問題となりつつあり、各産業分野においても、炭酸ガス排出量を削減する技術の開発が行われている。このような背景から、フェノール樹脂に植物系バイオマス由来のリグノセルロース繊維を配合した、環境配慮型の摩擦材が提案されている(特許文献2)。
【0004】
一方、熱可塑性樹脂は摺動部材に多く利用されており、特に、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)といった、スーパーエンジニアリングプラスチックが高温環境下等、過酷な摺動条件下で広く利用されている。
また、近年では、植物系バイオマス由来のポリアミド10Tが摺動部材として、検討されている(特許文献3~5)。ポリアミド10Tのガラス転移点(以下、Tg)は、160℃程度でPPSやPEEKよりも高く、ポリアミド10Tに繊維状強化材や摺動性改良剤を配合することで、低摩擦特性や耐摩耗性を付与し、摺動部材用の樹脂組成物として、それぞれ提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018―131477号公報
【文献】特開2019―137705号公報
【文献】特許第5804313号公報
【文献】特許第6249711号公報
【文献】特開2018―169021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大型の産業ロボットに搭載されている摩擦材は、高負荷用途で使用されており、高摩擦特性、耐摩耗性および緊急時の急制動に対応できる特性を要求されている。緊急時の急制動の際には、大きな摩擦力が働き、この摩擦発熱により、摩耗面は非常に高温になり、溶融摩耗が生じる。そのため、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂をベースとする摩擦材が採用されている。一方で、近年、産業用ロボットの分野では、各種の製造工程で安全柵を設けることなく、人間と直接的に協働することが可能な小型の協働ロボットの需要が高まっている。小型で、軽作業が可能な協働ロボットは、これまでの大型の産業ロボットが導入されていた工業分野だけでなく、食品、化粧品、医療、介護等の各種のサービス産業や第一次産業等において利用の拡大が見込まれている。
【0007】
このような小型で軽作業をする協働ロボットに搭載されている摩擦材には、緊急制動への対応が重要視されておらず、フェノール樹脂をベースとする摩擦材ほどの耐熱性、高摩擦特性が要求されていないが、今後、様々な分野での普及を踏まえると、摩擦材にも優れた量産性が必要になる。これらの観点から、熱可塑性樹脂をベースとした摩擦材のニーズが高まると考えられる。
【0008】
また、特許文献2では、環境配慮型の摩擦材が開発されているとされているが、樹脂組成物に対する、植物系バイオマス由来のリグノセルロース繊維の含有量は2~5質量%と非常に少ない。現在、SDGs(持続可能な開発目標)の観点から、世界的に、より環境負荷の小さい製品の開発が求められている。
【0009】
通常、協働ロボット等の関節等の駆動部では、駆動用モーターや電磁コイルといった様々な素子が比較的狭い空間に組み込まれており、これらの発熱や摩擦材の摩擦発熱を考慮すると、摩擦材の作動雰囲気は120℃程度の高温となる。そのため、これらの部位で作動する摩擦材は、常温から高温まで幅広い温度領域において、特性が安定している必要がある。
【0010】
一般的に、熱硬化性樹脂と比較して、熱可塑性樹脂は温度によって物性が変化しやすく、特に、Tg前後ではその変化度合いは大きくなる。しかし、摩擦材として使用する場合、作動雰囲気温度範囲で安定した摩擦摩耗特性を有する材料が適しているため、常温だけでなく、120℃~150℃においても、摩擦係数の温度依存性が小さく、優れた耐摩耗性を有する熱可塑性樹脂をベースとする樹脂組成物を選定する必要がある。
【0011】
特許文献3~5では、ポリアミド10Tをベース樹脂にガラス繊維や炭素繊維などの繊維状強化材、摺動性改良剤を配合することで、摩擦係数を下げることができ、優れた耐摩耗性を有すると記載されている。しかし、摩擦材として必要な高摩擦、低摩耗特性および、高温時での安定した摩擦摩耗特性に関する記載は存在しなかった。
【0012】
そこで、本発明の目的は、常温から120℃程度より高温の領域において、安定した良好な摩擦摩耗特性を有し、射出成形可能な摩擦材用樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の摩擦材用樹脂組成物は、Tgが120℃以上であるポリアミド樹脂を少なくとも含む熱可塑性樹脂を70体積%以上、及びモース硬度5以上の第一無機充填材及びモース硬度5未満の第二無機充填材を含むことを特徴とする。
【0014】
前記ポリアミド樹脂はテレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,10―デカンジアミンを主成分とするジアミン成分からなるポリアミド樹脂を主成分とすることを特徴とする。
【0015】
前記ポリアミド樹脂が、放射性同位元素である炭素14を含むことを特徴とする。
【0016】
前記第一無機充填材と第二無機充填材が合計20体積%以上30体積%以下を含むことを特徴とする。
【0017】
前記第一無機充填材が10体積%以上20体積%以下を含むことを特徴とする。
【0018】
前記第一無機充填材がガラス繊維であることを特徴とする。
【0019】
前記第二無機充填材が、少なくとも2種を含むことを特徴とする。
【0020】
前記第二無機充填材が10体積%以上20体積%以下を含むことを特徴とする。
【0021】
前記第二無機充填材が、無機ウィスカを5体積%以上10体積%以下及び、硫酸塩を5体積%以上10体積%以下含むことを特徴とする。
【0022】
前述の摩擦材用組成物を用いた摩擦材。
【0023】
前述の摩擦材を用いた制動装置を備えるサーボモーター。
【0024】
前述のサーボモーターを備える協働ロボットに関する。
【0025】
前述の摩擦材に含まれるポリアミド樹脂、無機充填材の成分組成は、赤外線分光法、質量分析法、特性X線分析法などの分析法により特定することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、常温から120℃程度より高温の領域において、安定した良好な摩擦摩耗特性を有し、射出成形可能な摩擦材用樹脂組成物を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態に係る摩擦材は、Tgが120℃以上であるポリアミド樹脂を少なくとも含む熱可塑性樹脂を70体積%以上、及びモース硬度5以上の第一無機充填材及びモース硬度5未満の第二無機充填材を含むことを特徴とする。
【0028】
このように、Tgが120℃以上であるポリアミド樹脂、特定の無機充填材を組み合わせた樹脂組成物を用いることで、例えば協働ロボット等に好適な摩擦摩耗特性を発揮することが可能な摩擦材を提供することができる。
【0029】
大型の産業ロボットに搭載されている摩擦材は、緊急時の急制動への対応が要求される。このような摩擦材は、緊急時の急制動の際は非常に大きな摩擦力が働き、この摩擦発熱のため、非常に高温になり、溶融摩耗が生じる。そのため、熱硬化性樹脂をベースとするフェノール樹脂を主成分とし、種々の無機充填材を配合し、圧縮成形により得られる。
【0030】
ただし、今後、急速に小型で軽作業をする協働ロボットのニーズが増えてくると予測されるため、従来の熱硬化性樹脂をベースとする摩擦材ほどの耐熱性、高静摩擦特性が必要なく、熱可塑性樹脂をベースとした摩擦材のニーズが高まると考えられる。
【0031】
また、一般に熱硬化性樹脂ベースとする樹脂組成物は、リサイクルが困難であるため、埋め立てなどの廃棄に回されてしまい、環境問題の一因となっている。一方、熱可塑性樹脂ベースとする樹脂組成物は、リサイクルが可能であり、廃棄量を低減することができる。
【0032】
一般に、熱可塑性樹脂は高温環境下、特にTgを超えると、各種物性の変化が起こり、摩擦係数が不安定になり不規則に変動する、摩耗量が増大するといった問題が発生するため、摩擦材用樹脂組成物として使用することは困難であった。
【0033】
しかし、本発明者らの検討の結果、樹脂成分として、Tgが120℃以上であるポリアミド樹脂、所定のモース硬度を有する無機充填材を組み合わせて用いると、量産に好適な射出成形が可能で、常温から150℃の温度範囲で、摩擦係数の変動および、摩耗量の増大を抑制した摩擦材用樹脂組成物を得られることが明らかとなった。
【0034】
このような摩擦材用樹脂組成物は、例えば、前記ポリアミド樹脂を少なくとも含む熱可塑性樹脂を70体積%以上、モース硬度5以上の第一無機充填材を10体積%以上20体積%以下、モース硬度5未満の第二無機充填材を10体積%以上20体積%以下含有する熱可塑性樹脂組成物を射出成形により得ることができる。前記ポリアミド樹脂はTgが120℃以上であり、所定の配合比で採用することで、常温でも120℃程度より高温の領域において、安定した良好な摩擦摩耗特性を有する熱可塑性樹脂ベースの摩擦材用樹脂組成物を射出成形により得ることができる。
【0035】
前記ポリアミド樹脂は、そのTgは120℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上である。このポリアミド樹脂は、高温になる作動雰囲気温度(120℃程度)でも、常温での摩擦摩耗特性を維持することができるため、特に協働ロボット用摩擦材に適する。なお、ポリアミド樹脂のTgは、示差走査熱量計(DSC)を用いて、測定することができる。不活性ガス雰囲気下で、ポリアミド樹脂を加熱溶融状態から室温まで急冷して測定試料とし、該測定試料をDSCで測定した際に、得られるDSC曲線に現れるベースラインシフト温度をTgとした。(JIS K7121準拠)
前記ポリアミド樹脂をはじめとする熱可塑性樹脂は、Tg以上の温度で樹脂の分子鎖が運動を始め、該樹脂を用いた組成物の耐熱温度の指標となる。
【0036】
Tgが120℃を超え、射出成形が可能なポリアミド樹脂には、例えば、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10Tなどが挙げられる。その中でも、ポリアミド10Tは、Tgが150℃以上であるため、好ましい。
【0037】
本発明で用いるポリアミド樹脂は、ジカルボン酸成分とからなり、各成分を構成するジカルボン酸とジアミンを重縮合して得られる。前記ポリアミド樹脂を構成するジカルボン酸成分は、テレフタル酸を主成分とすることで、ポリアミド樹脂の耐熱性、高剛性などに優れる。また、前記ポリアミド樹脂を構成するジアミン成分は、1,10-デカンジアミンを主成分とする。1,10―デカンジアミンを主成分とするは直鎖上の脂肪族ジアミンである。テレフタル酸および、1,10―デカンジアミンは、いずれも化学構造の対称性が高いため、これらを主成分とすることで、高い結晶性のポリアミド樹脂が得られる。
【0038】
本発明で用いるポリアミド樹脂において、ジカルボン酸成分またはジアミン成分として、生物由来の原料を用いてもよい。例えば、トウゴマと呼ばれる非可食の植物から得られるひまし油を出発原料とした1,10―デカンジアミンを使用できる。植物系バイオマス由来原料を採用することで、摩擦材の焼却処分に伴う二酸化炭素の実質的な排出量を、バイオマス由来原料を用いない場合よりも低減できる。ここで、バイオマス由来原料を用いた植物性プラスチックであるかどうかは、樹脂を構成している炭素について、放射性同位元素である14Cの濃度を測定することで判別できる。14Cの半減期は5730年であることから、1千万年以上の歳月を経て生成されるとされる化石資源由来の炭素には14Cが全く含まれない。このことから樹脂中に14Cが含まれていれば、少なくともバイオマス由来の原料を用いていると判断できる。
【0039】
前記ポリアミド樹脂の配合比は、樹脂組成物中に70体積%以上が好ましい。より好ましくは70体積%以上80体積%以下である。70体積%未満では、、混練押出、射出成形の流動性を確保することが困難で、成形性が悪くなる。また、70体積%以上では、混練押出、射出成形時の流動性を確保可能であるが、80体積%を超えると、高温時の摩擦摩耗特性が低下する。
【0040】
また、前記ポリアミド樹脂の配合比を低くすると、樹脂組成物中に占める生物などのバイオマス由来の原料の割合が低くなり、環境負荷の低減効果が小さくなる。ちなみに、日本バイオプラスチック協会では「原材料、製品に含まれるバイオマスプラスチック組成中のバイオマス由来成分の全体重に対する割合(重量%)」をバイオマスプラスチック度と定めており、バイオマスプラスチック度が25.0重量%以上のプラスチック製品をバイオマスプラスチックと認証している。
【0041】
第一無機充填材としては、モース硬度5以上のものが好ましく、より良好な射出成形性を確保する観点から、モース硬度は5以上7未満がより好ましい。高摩擦係数を実現するためには、モース硬度の高い充填材、例えば、アルミナ(モース硬度:9)やジルコニア(モース硬度:7.5)など添加するケースがあるが、射出成形においては、スクリュ、シリンダーを傷つけてしまうので、問題がある。よって、ガラス繊維(モース硬度:6~7)、ロックウール(モース硬度:6)がより好ましい。モース硬度は、10種類の硬さの異なる標準鉱物でこすった場合に、標準鉱物への傷つきの有無で判別できる。モース硬度の測定には、市販のモース硬度計を用いることができる。
【0042】
モース硬度5以上の第一無機充填材の配合比は、樹脂組成物中に10体積%以上20体積%以下が好ましい。これにより、樹脂組成物は、摩擦材として所望の摩擦係数を有し、成形性は損なわない。10体積%未満にすると、高摩擦係数を実現することが困難となる。また、20体積%を超えると、射出成形においては、スクリュ、シリンダーの損傷の恐れがあり、成形性が損なわれる恐れがある。
【0043】
第二無機充填材としては、モース硬度5未満、例えば、層状ケイ酸塩、無機ウィスカ、硫酸塩、炭酸塩、非層状ケイ酸塩、(無機ウィスカを除く)、ケイ酸塩以外の鉱物(無機ウィスカを除く)、フッ化カルシウム(鉱物を除く)等が挙げられる。これらは、少なくとも2種含まれるのが好ましい。このように、少なくとも2種のモース硬度5未満の無機充填材が含まれることで、通常の射出成形に適用される場合より樹脂量を減らしても、射出成形性が確保されるとともに、高温時の摩擦摩耗特性の低下を抑制することができる。また、射出成形においては、スクリュ、シリンダーを傷つけにくくなる。
【0044】
層状ケイ酸塩としては、例えばカオリン、蛇紋石、タルク、黒雲母、金雲母、白雲母、バーミキュライト等の粘度鉱物等が挙げられる。
【0045】
無機ウィスカとしては、例えば、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、硫酸マグネシウムウィスカ等が挙げられる。
【0046】
硫酸塩としては、例えば、硫酸バリウム、硫酸カルシウム水和物等が挙げられる。
【0047】
炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸リチウム、炭酸バリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0048】
非層状ケイ酸塩(無機ウィスカを除く)としては、例えば、ゼオライト(沸石)、ケイ酸カルシウム(鉱物を除く)等が挙げられる。
【0049】
ケイ酸塩以外の鉱物(無機ウィスカを除く)としては、例えば、ドロマイト、フルオライト、カルサイト、苦灰石等が挙げられる。
【0050】
モース硬度5未満の第二無機充填材の配合比は、少なくとも2種の前記無機充填材をそれぞれ樹脂組成物中に10体積%以上20体積%以下が好ましい。これにより、射出成形性の確保、高温時の摩擦摩耗特性の低下を抑制することができる。また、摩擦材の耐摩耗性向上、剛性向上を図ることができる。
【0051】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の特性が損なわれない範囲において、前述のポリアミド樹脂、所定の無機繊維及び無機充填剤以外の他の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、当該技術分野において一般に用いられているものが挙げられ、例えば、難燃剤、離型剤、可塑剤、着色剤、耐候剤、酸化防止剤等が挙げられる。なお、添加する場合は、合計で樹脂組成物中5体積%以下が好ましい。
【0052】
上記樹脂組成物を構成する各材料を混合する手段は、特に限定されるものではなく、ヘンシェルミキサー、ボールミキサー、リボンブレンダーなどの汎用の混合機を用いて、2種以上のものを同時に混合してもよい。
【0053】
また、上記樹脂組成物を構成する各材料を溶融混練する手段は、特に限定されるものではなく、一軸混練押出機、二軸混練押出機などの溶融押出機にて、溶融混練し、成形用ペレットを得ることができる。なお、充填材の投入は、押出機などで溶融混練する際にサイドフィードを採用してもよい。その場合の混練温度は、通常300℃~340℃、好ましくは300~320℃である。また、成形方法は、押出成形、射出成形などを採用でき、均一溶融ブレンド体を形成して、射出成形または押出成形を行うこともできる。この中でも、生産性に優れることから、射出成形を採用することが好ましい。射出成形時は、樹脂温度を上述のポリアミド樹脂の融点以上とし、金型温度は130~150℃に保持して行う。
【0054】
以上のような樹脂組成物を成形した摩擦材は、常温でも120℃程度より高温の領域においても安定した良好な摩擦摩耗特性を有し、射出成形による量産が可能なため、制動装置に好適である。前述の摩擦材を適用可能な制動装置は、特に限定なく、例えば、ブレーキ、クラッチなど挙げられる。
【0055】
前述の摩擦材を備える制動装置は、ロボット、各種モーター、アクチュエーター、無人搬送車、電動カート、電動シャッター、医療機械に用いるのが好適である。
【0056】
例えば、前述の摩擦材を備える制動装置は、サーボモーター、特に、小型で軽作業をする協働ロボットに用いるのが好適である。今後、急激な普及が予想される協働ロボットに対して、良好な性能を有し、量産性に優れた摩擦材を提供することができる。さらに、SDGsの観点からも、環境負荷の小さい製品の提供ができる。
【0057】
以下、実施例に基づき本発明に係る摩擦材の実施形態を説明する。
【0058】
(実施例1~4)
表1に示す配合比(体積%)で各成分をドライミキシングした後、二軸混練押出機(芝浦機械株式会社製 TEM-26SX)を用いて混練して、ダイからストランド状に引き取りながら、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてペレット状の樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物のペレットは、熱風乾燥炉(エスペック株式会社製 PHH-201)中、120℃で16時間乾燥後、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製 PS60E5H )にて、各種試験片を射出成形により作製した。成形温度は、シリンダー温度310℃、金型温度130℃とした。
【0059】
(比較例1~4)
比較例1~3について、表1に示す配合比になるようにした以外は、実施例1と同様にして射出成形により試験片の作製を試みた。
比較例4について、混練温度は290℃とし、射出成型時の成形温度は、シリンダー温度290℃、金型温度90℃とした。
【0060】
実施例及び比較例で用いた各成分は、以下のとおりである。
ポリアミド10T(PA10T):ユニチカ株式会社製、Xecot、XN400
ポリアミド66(PA66):旭化成株式会社製、レオナ、1300S
ガラス繊維:セントラルグラスファイバー株式会社製、チョップドストランド ECS03-615、モース硬度6. 5
硫酸バリウム:堺化学工業株式会社製、BA、簸性グレード、モース硬度3
チタン酸カリウムウィスカ:大塚化学株式会社製、ティスモD、モース硬度4
【0061】
(評価)
<金型充填性>
実施例1~4、比較例1~4について試験片の射出成形時における金型への充填性を射出成形品である試験片及びキャビティの外観を目視により、評価した。評価基準は下記のとおりである。完全充填されたものが射出成形品として実施用可能なものと評価される。評価結果を表1に示す。
〇:完全充填、×:充填不可能又は未充填。溶融混練押出が困難。
【0062】
<摩擦摩耗特性>
実施例及び比較例で完全充填され、射出成形物として得られたφ5mm×10mmの円柱状試験片を用い、ピンオンディスク型摩擦摩耗試験機(スターライト工業株式会社製、オートピンディスクAPD-101)にて、各試料の静摩擦係数を測定し、比摩耗量を算出した。試験条件は、以下のとおりとした。
面圧(試料に対する荷重):0.1MPa
速度(設定値):0.05m/秒(静摩擦係数)、1.0m/秒(比摩耗量)
雰囲気:大気中、室温、及び150℃(静摩擦係数)
大気中、室温、100℃及び150℃(比摩耗量)
潤滑:無潤滑
相手材:表面粗さRa≒1.0μmのSPHC鋼。
【0063】
<<静摩擦係数>>
円柱状試験片の底面を相手材と接触させて設置し、前述のピンオンディスク型摩擦摩耗試験機を始動させ、スタート時の摩擦係数のピーク値を静摩擦係数とした。この時の速度(設定値)は0.05m/秒とした。これを室温及び150℃の条件で行った。本試験機は、相手材の下部にヒーターが内蔵されており、相手材の温度を調整することが可能な構造となっている。相手材の温調が必要である場合は、ヒーターを所定温度に設定し、相手材を温調し、試験を行った。評価基準は下記のとおりである。測定結果を表1に示す。なお、表1中の摩擦係数低下率αは、150℃における静摩擦係数:μ(150℃)を25℃における静摩擦係数:μ(25℃)で割った値である。
{α=μ(150℃)/μ(25℃)}
〇:1.00≧α≧0.90、×:α<0.90,α>1.00。
【0064】
<<比摩耗量>>
速度を1.0m/秒に設定し、摩耗量の経時変化を測定した。得られた摩耗量(高さ)の経時変化を示す摩耗進行曲線から、下記式(1)に基づき比摩耗量を算出した。算出結果を表1に示す。相手材の温調は、前述と同様の方法で行った。評価基準は下記のとおりである。尚、本実験では、下記T‘は試験開始後20時間、Tは試験開始後10時間とした。
K=(H‘-H)/{P・V・(T’―T)} (1)
K:比摩耗量[mm3/N・m]
H‘:試験時間T’における摩耗量(高さ)[mm]
H:試験時間Tにおける摩耗量(高さ)[mm]
P:面圧[N/mm2]
V:速度[m/s]
T‘:定常状態における試験時間[s]
T:定常状態における試験時間[s]
定常状態:試験時間後、摩耗進行速度が安定化した状態
〇:25℃、100℃、150℃でのすべての条件において、2.0×10-5[mm3/N・m]以下、×:25℃、100℃、150℃でのいずれかの条件において、2.0×10-5[mm3/N・m]より大きい
【0065】
今回、使用したポリアミド樹脂は、ポリマー換算で、バイオマスプラスチック度が56重量%のポリアミド10Tを使用した。バイオマスプラスチック協会では、バイオマスプラスチック度が25.0重量%以上のプラスチック製品をバイオマスプラスチックと認証している。これを元に、環境低減効果を評価した。評価基準は下記のとおりである。
〇:バイオマスプラスチック度が25.0重量%以上、×:バイオマスプラスチック度が25.0重量%より低い。
【0066】
前記摩擦摩耗特性の評価を行い、実施例1~4及び比較例1、2、4について、曲げ強さを評価した。尚、比較例1、2、4は、摩擦摩耗特性は実施例に及ばないが、参考として測定した。
【0067】
<曲げ強さ>
株式会社島津製作所製、オートグラフAG-Xplusを用いて、実施例及び比較例で完全充填され、射出成形物として得られた試験片について、曲げ強さを測定した。試験片形状および測定条件は、JIS K7171に準拠して行った。
評価結果を表1に示す。
【0068】
【0069】
表1に示すように、実施例1~4では、射出成形が可能であり、常温の静摩擦係数に対する150℃の静摩擦係数の比が0.90以上であり、常温でも150℃の高温でも安定して良好な摩擦摩耗特性有していることが分かる。さらに、バイオマスプラスチック度が25.0重量%以上であり、従来のフェノール樹脂をベースとする摩擦材よりも、環境負荷低減に貢献できる。
【0070】
本発明の熱可塑性樹脂をベースとする摩擦材用樹脂は常温でも120℃程度より高温の領域においても安定した良好な摩擦摩耗特性を有し、射出成形による量産が可能なため、ロボット等に備え付けられる、制動装置に利用できる。