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特許7662999円筒ころ軸受及びそれを有する多段式圧延機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】円筒ころ軸受及びそれを有する多段式圧延機
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/34 20060101AFI20250409BHJP
   F16C 33/62 20060101ALI20250409BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20250409BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20250409BHJP
   C21D 1/06 20060101ALN20250409BHJP
   C21D 1/18 20060101ALN20250409BHJP
   C21D 9/40 20060101ALN20250409BHJP
【FI】
F16C33/34
F16C33/62
C22C38/00 301Z
C22C38/44
C21D1/06 A
C21D1/18 Y
C21D9/40 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021034627
(22)【出願日】2021-03-04
(65)【公開番号】P2022135052
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金谷 康平
(72)【発明者】
【氏名】木村 友規
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-093956(JP,A)
【文献】特開2003-172364(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164014(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/34-33/36
F16C 33/62-33/64
C22C 38/00
C22C 38/44
C21D 1/06
C21D 1/18
C21D 9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定軸に固定され、外周面に内輪軌道を有する内輪と、
内周面に外輪軌道を有する外輪と、
前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動可能に配置される複数の円筒ころと、
を備え、
前記円筒ころが、
日本工業規格 G 4805:2019 高炭素クロム軸受鋼鋼材の規格を満たす鋼材を成分として有し、
前記円筒ころの転動面が、軸方向の第一の側から軸方向の第二の側に向けて、第一の面取り、第一のクラウニング、円筒面、第二のクラウニング、第二の面取りを有し、
前記第一の面取りが、前記軸方向の第一の側の第一の端面に繋がり、
前記第二の面取りが、前記軸方向の第二の側の第二の端面に繋がり、
前記第一の面取りの軸方向の長さをLCha、前記第一のクラウニングの軸方向の長さをLCra、前記円筒面の軸方向の長さをLCy、前記第二のクラウニングの軸方向の長さをLCrb、前記第二の面取りの軸方向の長さをLChbとしたとき、
(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/4.8<LCha+LCra<(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/3.2、及び
(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/4.8<LChb+LCrb<(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/3.2
を満たし、
前記円筒ころの中心軸を含む断面において、前記第一のクラウニングの曲率半径をRRa、前記第二のクラウニングの曲率半径をRRbとしたとき、
900mm<RRa<9000mm、及び
900mm<RRb<9000mm
を満たし、
前記円筒ころの円筒面から、直交せん断応力が最大になる深さZでの硬さが682~805HVであり、
前記内輪が、
成分として、
炭素(C):0.12~0.50mass%、
マンガン(Mn):0.30~0.90mass%、
ケイ素(Si):0.15~0.35mass%、
ニッケル(Ni):0.40~4.50mass%、
クロム(Cr):0.40~2.00mass%、
モリブデン(Mo):0.15~0.90mass%、及び
残部に鉄(Fe)と不可避不純物を有し、
前記内輪軌道の表面から、前記深さZの位置までの炭素濃度が0.60~1.30mass%であり、
前記内輪軌道の表面から、前記深さZでの残留オーステナイト量が25~45vol%であり、
前記内輪軌道の表面から、前記深さZでの平均結晶粒度が8~10番であり、
前記内輪軌道の表面から、前記深さZでの硬さが682~770HVである、
円筒ころ軸受。
【請求項2】
前記内輪は、成分として炭素(C):0.12~0.23mass%を有する、請求項1に記載の円筒ころ軸受。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の円筒ころ軸受を有する、多段式圧延機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒ころ軸受、及びその円筒ころ軸受を有する多段式圧延機に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機器用軸受の中でも、多段式圧延機は、使用環境が苛酷である。多段式圧延機のバックアップロール軸受は、軸受外径に圧延荷重を受けながら外輪が回転し、内輪が固定輪である。内輪が固定輪のため、内輪の軌道面の負荷圏における、転動疲労による剥離が問題となる。
【0003】
剥離を抑制する手法として、例えば、ころの転動面にクラウニングを設けることが知られている。クラウニングを設けることで、転動面のエッジ応力が低減し、ころの転動面が接触する内輪の軌道面のエッジ剥離が抑制される。しかし、クラウニングを長くすると、ころの転動面中央の接触面圧が増大し、内輪の軌道面の内部起点剥離の発生頻度が高くなる。
【0004】
特許文献1には、内外両輪及び転動体の硬さ及び残留オーステナイト量等を特徴とする、寿命を向上した転がり軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-172364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況のもと、内輪のエッジ剥離及び内部起点剥離の抑制を同時に達成し、寿命向上を図ることができる円筒ころ軸受を提供することを目的する。
また、本発明は、軸受交換頻度の低減により、メンテナンス周期及び稼働率の向上を図ることができる、多段式圧延機を提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の円筒ころ軸受は、
固定軸に固定され、外周面に内輪軌道を有する内輪と、
周面に外輪軌道を有する外輪と、
上記内輪軌道と上記外輪軌道との間に転動可能に配置される複数の円筒ころと、
を備え、
上記円筒ころが、
日本工業規格 G 4805:2019 高炭素クロム軸受鋼鋼材の規格を満たす鋼材を成分として有し、
上記円筒ころの転動面が、軸方向の第一の側から軸方向の第二の側に向けて、第一の面取り、第一のクラウニング、円筒面、第二のクラウニング、第二の面取りを有し、
上記第一の面取りが、上記軸方向の第一の側の第一の端面に繋がり、
上記第二の面取りが、上記軸方向の第二の側の第二の端面に繋がり、
上記第一の面取りの軸方向の長さをLCha、上記第一のクラウニングの軸方向の長さをLCra、上記円筒面の軸方向の長さをLCy、上記第二のクラウニングの軸方向の長さをLCrb、上記第二の面取りの軸方向の長さをLChbとしたとき、
(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/4.8<LCha+LCra<(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/3.2、及び
(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/4.8<LChb+LCrb<(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/3.2
を満たし、
上記円筒ころの中心軸を含む断面において、上記第一のクラウニングの曲率半径をRRa、上記第二のクラウニングの曲率半径をRRbとしたとき、
900mm<RRa<9000mm、及び
900mm<RRb<9000mm
を満たし、
上記円筒ころの円筒面から、直交せん断応力が最大になる深さZでの硬さが682~805HVであり、
上記内輪が、
成分として、
炭素(C):0.12~0.50mass%、
マンガン(Mn):0.30~0.90mass%、
ケイ素(Si):0.15~0.35mass%、
ニッケル(Ni):0.40~4.50mass%、
クロム(Cr):0.40~2.00mass%、
モリブデン(Mo):0.15~0.90mass%、及び
残部に鉄(Fe)と不可避不純物を有し、
上記内輪軌道の表面から、上記深さZの位置までの炭素濃度が0.60~1.30mass%であり、
上記内輪軌道の表面から、上記深さZでの残留オーステナイト量が25~45vol%であり、
上記内輪軌道の表面から、上記深さZでの平均結晶粒度が8~10番であり、
上記内輪軌道の表面から、上記深さZでの硬さが682~770HVである。
【0008】
本発明の円筒ころ軸受は、
高炭素クロム軸受鋼鋼材の日本工業規格を満たす鋼材を成分として有し、クラウニングと面取りとの軸方向の所定の長さ、クラウニングの所定の曲率半径、及び上記深さZで所定の硬さを有する円筒ころと、
所定の成分、上記深さZまで所定の炭素濃度、並びに上記深さZで、所定の残留オーステナイト量、所定の平均結晶粒度、及び所定の硬さを有する内輪と、を備える。
そのため、本発明の円筒ころ軸受は、内輪のエッジ剥離及び内部起点剥離の抑制を同時に達成し、寿命向上を図ることができる。
この理由は、以下のように考えている。
上記円筒ころ軸受の上記円筒ころは、軸方向の所定の形状を有するクラウニング及び面取りを備えている。そのため、内輪軌道のエッジ応力は、低減される。その結果、上記内輪のエッジ剥離は、抑制される。
また、上記円筒ころ軸受の上記内輪は、上記深さZで、所定の残留オーステナイト量、所定の平均結晶粒度、及び所定の硬さを有している。そのため、内輪のエッジ剥離及び内部起点剥離は、抑制される。さらに、上記円筒ころの円筒面の接触面圧により、上記内輪の上記残留オーステナイトは、上記円筒ころ軸受の使用中に、マルテンサイトに加工誘起変態する。そのため、上記内輪のミクロ組織は、強化される。その結果、上記内輪の内部起点剥離は、抑制される。
よって、上記円筒ころ軸受は、上記内輪のエッジ剥離及び内部起点剥離の抑制を同時に達成し、寿命向上を図ることができる。
【0009】
上記円筒ころ軸受において、上記内輪は、成分として炭素(C):0.12~0.23mass%を有することが好ましい。
これにより、内輪の靭性を高めることができるため、上記内輪のエッジ剥離及び内部起点剥離に伴って引き起こされる割損を抑制することができる。その結果、上記円筒ころ軸受のさらなる寿命向上を図ることができる。
【0010】
上記円筒ころ軸受において、上記外輪の外周面は、円筒部材の外周面を転動することが好ましい。
上記円筒ころ軸受は、上記内輪のエッジ剥離及び内部起点剥離の抑制を同時に達成し、寿命が向上している。そのため、上記円筒ころ軸受の上記外輪の外周面は、圧延機のワークロールやバックアップロール等の円筒部材の外周面を、長時間転動することができる。
【0011】
また、本発明の多段式圧延機は、上記円筒ころ軸受を有する。
上記円筒ころ軸受を有する上記多段式圧延機は、軸受交換頻度の低減により、メンテナンス周期及び稼働率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の円筒ころ軸受によれば、内輪のエッジ剥離及び内部起点剥離の抑制は、同時に達成される。そのため、円筒ころ軸受の寿命は、向上する。
また、本発明の多段式圧延機によれば、軸受交換頻度の低減により、多段式圧延機のメンテナンス周期及び稼働率は、向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態にかかる多段式圧延機の概略側面図である。
図2図1の多段式圧延機における、バックアップロールを示す概略正面図である。
図3図2の分割ロール15の軸方向の概略断面図である。
図4図3の円筒ころの概略断面図である。
図5】実施例及び比較例において、寿命比の測定に使用した転動疲労寿命試験機の概略側面図である。
図6】実施例及び比較例において、寿命比の測定に使用した転動疲労寿命試験機の正面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第一の実施形態にかかる円筒ころ軸受について、図面を参照しながら詳述する。
図1は、本実施形態にかかる多段式圧延機の概略側面図である。この圧延機10は、1-2-3-4ロール配列を有する20段クラスタ圧延機である。薄板材などの被圧延材RMは、上下一対のワークロール11の間を図1の左右方向に通され、圧延される。上下一対のワークロール11は、4本(上下各2本)の第一中間ロール12によって支持されている。4本の第一中間ロール12は、6本(上下各3本)の第二中間ロール13によって支持されている。そして、6本の第二中間ロール13は、8本(上下各4本)のバックアップロール14によって支持されている。
【0015】
図2は、バックアップロール14を示す概略正面図である。バックアップロール14は、軸方向に6個の分割ロール15を有している。各分割ロール15は、シャフト16に同心状で且つ回転可能に取り付けられている。シャフト16は、図1に示すように、圧延機10のハウジング17に支持されたサドル18によって支持されている。
【0016】
図3は、図2の分割ロール15の、シャフト16の中心を通る軸方向の概略断面図である。各分割ロール15は、シャフト16の外周面に嵌合された内輪20と、内輪20の径方向外側に配置された外輪21と、内輪20及び外輪21の間に配置された3つの円筒ころ22と、3つの円筒ころ22を保持する保持器23とを備えた、円筒ころ軸受である。
【0017】
内輪20は、シャフト16と固定される(図示せず)。そのため、内輪20の内周面20aとシャフト16の相対回転は、阻止されている。内輪20の外周面20bは、円筒ころ22が転動するための内輪軌道を有している。外輪21の内周面21aは、円筒ころ22が転動するための外輪軌道を有している。外輪21の外周面21bは、図1に示すように、第二中間ロール13の外周面と接触している。第二中間ロール13の外周面の回転に応じ、外周面21bは、第二中間ロール13の外周面を転動する。
【0018】
本発明の実施形態に係る円筒ころ軸受の寸法は、円筒ころ軸受を適用する装置に合わせ適宜設定すればよく、特に制限されない。本実施形態の分割ロール15に示される円筒ころ軸受の寸法は、例えば、外輪21の幅Wが、20~250mm、内輪20の幅Tが、20~250mm、内輪20の内周面20aの直径dが、30~200mm、及び外輪21の外周面21bの直径D1が、60~500mmである。
【0019】
図4は、図3の分割ロール15の概略断面図における、円筒ころ22の概略断面図である。円筒ころ22は、日本工業規格 G 4805:2019 高炭素クロム軸受鋼鋼材の規格を満たす鋼材を、成分として有している。日本工業規格 G 4805:2019 高炭素クロム軸受鋼鋼材の規格を満たす鋼材としては、例えば、SUJ2、SUJ3、SUJ4及びSUJ5等が、挙げられる。
円筒ころ22は、転動面22a、図4の軸方向の左側の端面22b、及び右側の端面22cを有している。転動面22aは、端面22bから端面22cに向けて、第一の面取りCha、第一のクラウニングCra、円筒面Cy、第二のクラウニングCrb、及び第二の面取りChbを有している。円筒ころ22の、端面22bから端面22cまでの長さLは、第一の面取りChaの軸方向の長さLCha、第一のクラウニングCraの軸方向の長さLCra、円筒面Cyの軸方向の長さLCy、第二のクラウニングCrbの軸方向の長さLCrb、及び第二の面取りChbの軸方向の長さLChbの合計となる。
長さLは、上述の円筒ころ軸受の寸法に合わせて適宜設定すればよく、特に制限されない。本実施形態の円筒ころ22の長さLは、例えば、19~59mmである。
【0020】
長さLCha及び長さLCraの合計は、長さLの1/4.8を超え、長さLの1/3.2未満の長さである。また、長さLChb及び長さLCrbの合計も、長さLの1/4.8を超え、長さLの1/3.2未満の長さである。すなわち、円筒ころ22の面取り部分及びクラウニング部分の長さは、以下の式1及び式2を満たす。
(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/4.8<LCha+LCra<(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/3.2 ・・・ 式1
(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/4.8<LChb+LCrb<(LCha+LCra+LCy+LCrb+LChb)/3.2 ・・・ 式2
長さLCha及び長さLCraの合計、並びに長さLChb及び長さLCrbの合計が、長さLの1/4.8を超える長さであれば、円筒ころ22の軌道におけるエッジ応力が、低減される。そのため、内輪20の外周面20b及び外輪21の内周面21aにおけるエッジ剥離は、抑制される。また、長さLCha及び長さLCraの合計、並びに長さLChb及び長さLCrbの合計が、長さLの1/3.2未満の長さであれば、転動面22aの円筒面Cyによる、内輪20の外周面20bにおける内輪軌道及び外輪21の内周面21aにおける外輪軌道への接触面圧が、低減される。そのため、内輪20の外周面20b及び外輪21の内周面21aにおける、内部起点剥離の発生頻度は、抑制される。
本実施形態の円筒ころ22において、長さLChaと長さLChbは、実質的に同じ長さである。また、長さLCraと長さLCrbも、実質的に同じ長さである。これにより、円筒ころ22の転動面22aからの、上記内輪軌道及び上記外輪軌道に対する接触面圧の偏りは、低減される。そのため、内輪20の外周面20b及び外輪21の内周面21aにおける、エッジ剥離及び内部起点剥離は、より抑制される。ここで、実質的に同じとは、例えば、一方の長さが、他方の長さの、55%~175%であることを示す。
なお、本実施形態の円筒ころ22の長さLCha及び長さLChbは、それぞれ0.5~2.5mmである。本実施形態の円筒ころ22の長さLCra及び長さLCrbは、それぞれ1.0~21.5mmである。
【0021】
第一のクラウニングCra及び第二のクラウニングCrbは、それぞれ曲率半径RRa及び曲率半径RRbを有する。ここで、曲率半径RRa及び曲率半径RRbは、それぞれ以下の式3及び式4を満たす。
900mm<RRa<9000mm ・・・ 式3
900mm<RRb<9000mm ・・・ 式4
曲率半径RRa及び曲率半径RRbが、900mmを超える長さであれば、Cra部およびCrb部に発生する応力を緩和できる。曲率半径RRa及び曲率半径RRbが、9000mm未満の長さであれば、Cy部に発生する応力を緩和できる。
また、本実施形態の第一のクラウニングCra及び第二のクラウニングCrbは、実質的に同じ曲率半径である。これにより、円筒ころ22の転動面22aからの、上記内輪軌道及び上記外輪軌道に対する接触面圧の偏りが低減される。そのため、内輪20の外周面20b及び外輪21の内周面21aにおける、エッジ剥離がより抑制される。ここで、実質的に同じとは、例えば、一方の曲率半径が、他方の曲率半径の、70%~140%であることを示す。
【0022】
第一の面取りCha及び第二の面取りChbは、900mm以下の曲率半径を有する。
【0023】
円筒面Cyは、9000mm以上の曲率半径を有する。なお、9000mm以上の曲率半径は、軸方向と平行な直線(曲率半径が無限大)を含む概念である。
【0024】
円筒ころ22の円筒面Cyから、直交せん断応力が最大になる深さZでの硬さは、682~805HVである。ここで、直交せん断応力は、円筒ころ22の円筒面Cyに平行な面内のせん断応力を示す。
ここで、深さZは、円筒ころ22と内輪20の接触荷重及び円筒ころ22の形状等に基づき、公知の手法で求めることができる。本実施形態の円筒ころ22の円筒面Cyからの深さZは、円筒面Cyから、円筒ころ22の直径D2の0.2~2.5%の深さに位置している。
直径D2は、上述の円筒ころ軸受の寸法に合わせて適宜設定すればよく、特に制限されない。本実施形態の円筒ころ22の直径D2は、例えば9.5~55mmである。
円筒ころ22の円筒面Cyから深さZでの硬さが、682~805HVであれば、円筒ころ22の転動面22aの強度が、確保できる。そのため、円筒ころ22の転動面22aにおける剥離が、抑制される。なお、ビッカース硬さは、日本工業規格 JIS Z 2244:2009に準拠した方法で測定すれば良い。
クラウニングの長さが長くなることで、円筒面Cyの軸方向長さLCyは短くなり、円筒面Cyが内輪20に与える接触面圧が増大し、内部起点剥離の発生頻度が高くなる。このため、内輪は以下の材料と熱処理を用いる。
【0025】
内輪20は、成分として、炭素(C):0.12~0.50mass%、マンガン(Mn):0.30~0.90mass%、ケイ素(Si):0.15~0.35mass%、ニッケル(Ni):0.40~4.50mass%、クロム(Cr):0.40~2.00mass%、モリブデン(Mo):0.15~0.90mass%、及び残部に鉄(Fe)と不可避不純物を有している。なお、内輪20は、クロム(Cr):0.40~1.00mass%、モリブデン(Mo):0.15~0.35mass%を、成分として有するものが、好ましい。
ここで、上記の各成分の含有量を満たす、日本工業規格、国際規格、及びその他の国の規格で定められたニッケルクロムモリブデン鋼鋼材は、内輪20の成分として用いることができる。内輪20に用いることができる、具体的なニッケルクロムモリブデン鋼鋼材としては、SNCM220、SNCM420、SNCM815、SNCM415、SNCM447、SNCM815、SAE8620、SAE4320、SAE8720、及びSAE4322S等が、挙げられる。
上記成分を有する内輪20は、内輪20の外周面20bにおける、エッジ剥離及び内部起点剥離が、抑制される。そのため、分割ロール15に示される円筒ころ軸受の寿命は、向上する。
【0026】
内輪20は、成分として炭素を0.12~0.23mass%を有することが、好ましい。これにより、内輪20の外周面20bにおける、エッジ剥離及び内部起点剥離に伴って引き起こされる割損を抑制することができる。
【0027】
内輪20の外周面20bの内輪軌道の表面から、上記深さZの位置までの炭素濃度は、0.60~1.30mass%である。
本実施形態の内輪20の外周面20bの内輪軌道の表面からの深さZは、外周面20bの内輪軌道の表面から、円筒ころ22の直径D2の0.2~2.5%の深さに位置している。
炭素濃度の測定は、日本工業規格 G 1253:2013に準拠した方法で測定すればよい。
ここで、上記深さZの位置までの炭素濃度が、0.60mass%以上であれば、内輪20の外周面20bの強度と所定の残留オーステナイト量が、確保できる。上記深さZの位置までの炭素濃度が、1.30mass%以下であれば、後述する上記深さZでの過剰な残留オーステナイトの生成を抑制し、必要な硬さが確保される。そのため、分割ロール15の使用中に、上記残留オーステナイトが、マルテンサイトに加工誘起変態し、上記内輪のミクロ組織が、強化される。その結果、内輪20の外周面20bにおける内部起点剥離が抑制される。
【0028】
内輪20の外周面20bの内輪軌道の表面から、上記深さZの位置までの炭素濃度が、0.60~1.30mass%である内輪20は、浸炭処理により表面から炭素を侵入させ、焼入れ処理、及び焼戻し処理により表面層を硬化させる、一連の熱処理により取得できる。上記熱処理は、内輪20の外周面20bの内輪軌道の表面から上記深さZの位置までの炭素濃度を、0.60~1.30mass%にできれば、特に制限されない。例えば、浸炭焼入れ焼戻し処理は、日本工業規格 B 6914:2002に準拠した処理法を使用できる。また、上記一連の熱処理は、焼入れ後、直ちに0℃以下の低温度に冷却するサブゼロ処理を含むこともできる。
より具体的な浸炭処理としては、カーボンポテンシャル(CP)値 1.1mass%を有する雰囲気中、温度960℃、26時間処理するガス浸炭が、挙げられる。焼入れ処理としては、780~870℃で70分間処理する手法が、挙げられる。焼戻し処理としては、180℃で2時間処理する手法が、が挙げられる。サブゼロ処理としては、-20℃の雰囲気下で1時間処理する手法が、挙げられる。
【0029】
内輪20の外周面20bの内輪軌道の表面から上記深さZでの残留オーステナイト量は、25~45vol%である。上記深さZでの残留オーステナイト量が、25vol%以上であれば、内輪20のミクロ組織を強化するための残留オーステナイトが、確保できる。上記深さZでの残留オーステナイト量が、45vol%以下であれば、内輪20の外周面20bの硬さが、確保できる。そのため、内輪20の外周面20bにおける、エッジ剥離及び内部起点剥離は、抑制される。
なお、上記深さZでの残留オーステナイト量は、電解研磨法により、表面から径方向に上記深さZまで研磨し、X線回折法により、電解研磨で露出した表面のα相(マルテンサイト)とγ相(オーステナイト)との比を算出して求める値である。
【0030】
内輪20の外周面20bの内輪軌道の表面から、上記深さZでの平均結晶粒度は、8~10番であり、好ましくは9~10番である。
平均結晶粒度は、日本工業規格 G 0551:2013に準拠した準拠した方法で測定すればよい。
ここで、上記深さZでの平均結晶粒度が、8番以上であれば、内輪20の外周面20bの内輪軌道の強度が、確保できる。上記深さZでの平均結晶粒度が、10番以下であれば、上記深さZでの残留オーステナイト量が、確保できる。そのため、内輪20の外周面20bにおける、エッジ剥離及び内部起点剥離は、抑制される。
【0031】
内輪20の外周面20bの内輪軌道の表面から上記深さZでの硬さは、682~770HVである。上記深さZでの硬さが、682HV以上であれば、内輪20の外周面20bの内輪軌道の強度が、確保できる。上記深さZでの硬さが、770HV以下であれば、上記深さZでの残留オーステナイト量が、確保できる。そのため、内輪20の外周面20bにおける、エッジ剥離及び内部起点剥離は、抑制される。
【0032】
本実施形態の分割ロール15に示される円筒ころ軸受は、内輪20の外周面20bにおけるエッジ剥離及び内部起点剥離の抑制が、同時に達成されている。そのため、分割ロール15の寿命は、向上している。その結果、分割ロール15を有するバックアップロール14を備える圧延機10は、軸受交換頻度の低減により、メンテナンス周期及び稼働率の向上を図ることができる。
【0033】
(他の実施形態)
第一の本実施形態では、内輪20及び外輪21の間に配置された3列の円筒ころ22を有する円筒ころ軸受を示したが、円筒ころの列数はこれに限定されない。本発明の実施形態に係る円筒ころ軸受は、円筒ころを複数列有するものであればよい。多段式圧延機に適用する円筒ころ軸受としては、円筒ころを2列又は3列有する円筒ころ軸受が好ましい。
第一の実施形態では、バックアップロール14が、分割ロール15に示される本発明の円筒ころ軸受を備えている。本発明の円筒ころ軸受を採用するバックアップロールの数が、増えれば、圧延機10のメンテナンス周期及び稼働率が、さらに向上する。
第一の実施形態では、軸方向に6個の分割ロール15を有するバックアップロール14を示したが、バックアップロールが有する分割ロールの個数は、これに限定されない。本発明の実施形態に係るバックアップロールは、分割ロールを複数有するものであればよい。多段式圧延機に適用するバックアップロールとしては、分割ロールを4~8個有するバックアップロールが好ましい。
多段式圧延機は、圧延機10の20段クラスタ圧延機に限られない。多段式圧延機としては、例えば、6段クラスタ圧延機や12段クラスタ圧延機等のその他の多段式圧延機も、含まれる。
本発明の実施形態に係る円筒ころ軸受は、バックアップロールへの適用に限定されず、例えば、風力発電装置のナセルや超大型ダンプトラックのホイール等への適用も可能である。
【実施例
【0034】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例及び比較例の円筒ころ試験体の材料の成分を、表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
実施例及び比較例の円筒ころ試験体の寸法は、いずれも直径D2が20mm、長さが36mmである。
【0037】
上述の材料で作製された円筒ころを、表2に示す条件の熱処理を行うことで、実施例及び比較例の円筒ころ試験体を作製した。
なお、浸炭焼入れ焼戻し処理は、日本工業規格 B 6914:2002に準拠したガス浸炭焼入れ焼戻しにより行った。また、焼入れ処理及び焼戻し処理は、日本工業規格 B 6913:1999に準拠した処理法で行った。なお、焼入れ処理は、表2に記載の温度及び時間で処理後、速やかに油温80℃の焼入油中に浸漬して行なった。
サブゼロ処理は、焼入れ処理を行った部品を、表2に示される温度の雰囲気下に置くことで行なった。
【0038】
【表2】
【0039】
実施例及び比較例で作製した、円筒ころ試験体を使って下記の評価を行った。
(1)ビッカース硬さ:
ビッカース硬さは、以下の手順で測定した。まず、円筒ころ試験体を、軸方向に垂直な平面で切断した。次に、切断された円筒ころ試験体の切断面をバフ研磨した。バフ研磨後、円筒ころ試験体の外周面から径方向に0.24mmの深さで、ビッカース硬さ計を用いて、試験荷重2.94Nを負荷し、日本工業規格 Z 2244:2009に準拠した方法で、ビッカース硬さを測定した。
なお、深さ0.24mmは、後述の転動疲労寿命試験機40において、実施例及び比較例の円筒ころ試験体44を使用したと想定される円筒ころ軸受における、直交せん断応力が最大になる深さである。この深さは、上述の実施例及び比較例の円筒ころ試験体の寸法に基づき、後述の転動疲労寿命試験機40の試験条件を調整することで設定した。
【0040】
(2)残留オーステナイト量:
電解研磨法により円筒ころ試験体の外周面から径方向に0.24mmの深さまで研磨した。電解研磨で露出した表面を、X線回折法により、α相(マルテンサイト)とγ相(オーステナイト)の、それぞれの回折X線強度を測定した。α相とγ相の回折X線強度の比から残留オーステナイト量を算出した。
【0041】
(3)平均結晶粒度:
平均結晶粒度は、以下の手順で測定した。まず、円筒ころ試験体を、軸方向に垂直な平面で切断した。次に、切断された円筒ころ試験体の切断面をバフ研磨した。バフ研磨された平面を、AGSエッチング液(ピクリン酸,ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム,塩化ナトリウム,硫酸ナトリウムを混合した水溶液)で腐食して、旧オーステナイト粒界を現出させた。旧オーステナイト粒界の現出後、円筒ころ試験体の外周面から径方向に0.24mmの深さの位置の組織を、光学顕微鏡で観察した。光学顕微鏡による観察後、日本工業規格 G 0551:2013に準拠した方法で、平均結晶粒度を算出した。
【0042】
(4)寿命比:
図5は、寿命比の評価で用いた転動疲労寿命試験機40の概略側面図である。図6は、転動疲労寿命試験機40の正面模式図である。転動疲労寿命試験機40は、1つのドライブロール41、2つのボール42及び3つのガイドロール43を備えている。円筒ころ試験体44は、ドライブロール41、及び2つのボール42によって支持される。2つのボール42は、3つのガイドロール43によって支持される。ドライブロール41は、ドライブロール41を回転するための駆動部に接続されている(図示せず)。ドライブロール41は、外周面の軸方向の中央に矩形状の溝が形成されている。円筒ころ試験体44は、両端面が矩形状の溝に案内されて回転する。3つのガイドロール43は、外周面の軸方向の中央に環状の溝が形成されている。2つのボール42は、それぞれ2つのガイドロール43の環状の溝に案内されて回転する。また、ドライブロール41は、ドライブロール41から、円筒ころ試験体44への負荷を設定するための、荷重設定部に接続されている(図示せず)。円筒ころ試験体44は、2つのボール42に支持され、ドライブロール41から荷重を負荷されながら、回転する。さらに、転動疲労寿命試験機40は、試験体44の振動を検知するセンサー、及びセンサーからの振動検知の信号を受け、上記駆動部を停止させるとともに、試験開始から振動検知の信号を受けるまでの寿命時間を記録する制御部を備えている(図示せず)。
【0043】
寿命時間の測定は、実施例及び比較例の円筒ころ試験体44を用いて行った。寿命比は、実施例及び比較例の円筒ころ試験体44の寿命時間を、比較例10の円筒ころ試験体44の寿命時間で除した値の小数点以下を四捨五入した値である。このとき、試験条件としては、
ヘルツの最大接触面圧:5.8GPa
最大直交せん断応力(発生深さ):1.4GPa(0.24mm)
応力繰り返し速度:285Hz
潤滑油(油温):ISO-VG100(60±5℃)
を採用した。
【0044】
表3に、実施例及び比較例における、円筒ころ試験体44のビッカース硬さ、残留オーステナイト量及び平均結晶粒度、並びに円筒ころ試験体44の寿命比を示す。
【表3】
【0045】
表3から、ビッカース硬さが682~770HV、残留オーステナイト量が26~45vol%、及び平均結晶粒度が9又は10の実施例1~8の円筒ころ試験体44は、比較例10の円筒ころ試験体44に比べ、6倍以上の寿命比を有することが分かる。
ビッカース硬さが682HV未満または770HVを超える、比較例1~9、11及び12は、寿命比が、比較例10の5倍以下である。また、残留オーステナイト量が25vol%未満または45vol%を超える、比較例1~3、5~8及び10~12は、寿命比が、比較例10の5倍以下である。さらに、平均結晶粒度が8番未満又は10番を超える、比較例9~12は、寿命比が、比較例10の3倍以下である。
このことから、実施例1~8の円筒ころ試験体44の材料と熱処理とを用いた内輪が、内輪の軌道の外周面から、直交せん断応力が最大になる深さでの、残留オーステナイト量が、25~45vol%であり、平均結晶粒度が、8~10番であり、及びビッカース硬さが、682~770HVである、円筒ころ軸受は、寿命比が、向上することが分かる。
【0046】
これらの評価により、本発明の実施形態に係る材料と熱処理を用いた円筒ころ軸受は、内輪のエッジ剥離及び内部起点剥離の抑制を同時に達成し、寿命向上を図ることができることが、明らかとなった。
【符号の説明】
【0047】
10:圧延機、11:ワークロール、12:第一中間ロール、13:第二中間ロール、14:バックアップロール、15:分割ロール、16:シャフト、17:ハウジング、18:サドル、20:内輪、21:外輪、22:円筒ころ、20a:内輪の内周面、20b:内輪の外周面、21a:外輪の内周面、21b:外輪の外周面、22a:転動面、22b:左側端面、22c:右側端面、40:転動疲労寿命試験機、41:ドライブロール、42:ボール、43:ガイドロール、44:円筒ころ試験体、RM:被圧延材、W:外輪の幅、T:内輪の幅、d:内周面の直径、D1:外周面の直径、Cha:第一の面取り、Chb:第二の面取り、Cra:第一のクラウニング、Crb:第二のクラウニング、Cy:円筒面、LCha:第一の面取りの軸方向の長さ、LChb:第二の面取りの軸方向の長さ、LCra:第一のクラウニングの軸方向の長さ、LCrb:第二のクラウニングの軸方向の長さ、LCy:円筒面の軸方向の長さ、L:円筒ころの軸方向の長さ、RRa:第一のクラウニングの曲率半径、RRb:第二のクラウニングの曲率半径、Z:直交せん断応力が、最大値になる深さ、D2:円筒ころの直径
図1
図2
図3
図4
図5
図6