(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】超音波センサ
(51)【国際特許分類】
H04R 1/34 20060101AFI20250409BHJP
G01S 7/521 20060101ALI20250409BHJP
G01S 15/42 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
H04R1/34 330Z
G01S7/521 A
G01S15/42
(21)【出願番号】P 2021071800
(22)【出願日】2021-04-21
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 達也
(72)【発明者】
【氏名】小島 永児
(72)【発明者】
【氏名】水谷 厚司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲弥
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/230358(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/113503(WO,A2)
【文献】特開2008-089569(JP,A)
【文献】特開平10-224880(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72- 1/82
G01S 3/80- 3/86
G01S 5/18- 5/30
G01S 7/52- 7/64
G01S 15/00-15/96
H04R 1/00- 1/02
H04R 1/06
H04R 1/20- 1/34
H04R 1/40
H04R 1/44
H04R 3/00
H04R 9/00
H04R 13/00
H04R 15/00
H04R 17/00
H04R 17/10
H04R 19/00
H04R 23/00
H04R 29/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の駆動周波数で振動可能な振動部(25)を有する超音波素子(2)と、
前記超音波素子が接着材(3)を介して接着され、前記振動部に対応する位置に形成された貫通孔(41)を有する実装基板(4)と、
前記超音波素子および前記実装基板が収納される収納空間(54)と、前記貫通孔および外部の空間を連通する導波管(511)と、を有するケース材(5)と、
前記超音波素子と前記実装基板との間、または前記導波管
の少なくとも一方に形成された共鳴空間(6、7)
と、を備え、
前記共鳴空間は、前記導波管の延設方向に直交する平面における最小寸法が、前記導波管の直径よりも大き
く、
前記導波管のうち前記外部の空間の側の端部を外端(511a)とし、前記外端とは反対側の端部を内端として、前記導波管は、前記外端と前記内端との間において、少なくとも1回は前記延設方向が変化する形状である、超音波センサ。
【請求項2】
所定の駆動周波数で振動可能な振動部(25)を有する超音波素子(2)と、
前記超音波素子が接着材(3)を介して接着され、前記振動部に対応する位置に形成された貫通孔(41)を有する実装基板(4)と、
前記超音波素子および前記実装基板が収納される収納空間(54)と、前記貫通孔および外部の空間を連通する導波管(511)と、を有するケース材(5)と、
前記超音波素子と前記実装基板との間、または前記導波管の少なくとも一方に形成された共鳴空間(6、7)と、を備え、
前記共鳴空間は、
前記導波管の延設方向に直交する平面における最小寸法が、前記導波管の直径よりも大きく、前記導波管に形成されており、
前記導波管のうち前記共鳴空間よりも前記超音波素子の側に位置する部分を第1導波管(5111)とし、前記共鳴空間よりも前記外部の空間の側に位置する部分を第2導波管(5112)として、前記第2導波管は、前記第1導波管の延長線上とは異なる位置に配置されている
、超音波センサ。
【請求項3】
前記振動部および前記導波管は、互いに離れて複数形成されると共に、少なくとも一方向に沿って配列されている、請求項1
または2に記載の超音波センサ。
【請求項4】
所定の駆動周波数で振動可能な振動部(25)を有する超音波素子(2)と、
前記超音波素子が接着材(3)を介して接着され、前記振動部に対応する位置に形成された貫通孔(41)を有する実装基板(4)と、
前記超音波素子および前記実装基板が収納される収納空間(54)と、前記貫通孔および外部の空間を連通する導波管(511)と、を有するケース材(5)と、
前記超音波素子と前記実装基板との間、または前記導波管の少なくとも一方に形成された共鳴空間(6、7)と、を備え、
前記振動部および前記導波管は、互いに離れて複数形成されると共に、少なくとも一方向に沿って配列されており、
前記共鳴空間は、
前記導波管の延設方向に直交する平面における最小寸法が、前記導波管の直径よりも大きく、かつ複数の前記振動部または前記導波管に跨っており、少なくとも2以上の前記振動部に対応した共通の空間である
、超音波センサ。
【請求項5】
前記共鳴空間は、複数の前記振動部のそれぞれに対応して複数設けられており、
複数の前記共鳴空間のうち少なくとも1つは、他の前記共鳴空間とは形状または寸法が異なっている、請求項
3または4に記載の超音波センサ。
【請求項6】
前記共鳴空間は、前記超音波素子と前記実装基板との間に設けられると共に、前記収納空間に連通している、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項7】
前記共鳴空間のうち前記延設方向に沿った方向の寸法を厚みとし、前記駆動周波数に対応する波長をλとして、前記共鳴空間の厚みは、0.3λ以下である、請求項1ないし
6のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項8】
前記共鳴空間は、前記接着材に形成されている、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項9】
前記共鳴空間は、前記導波管に形成されている、請求項1ないし7のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項10】
前記共鳴空間には、音波を透過する多孔部材(8)が配置されている、請求項9に記載の超音波センサ。
【請求項11】
前記ケース材は、前記導波管を有する基材(51)を備え、
前記基材は、樹脂、金属、セラミックからなる群のうち少なくとも1つまたは2つ以上を組み合わせた複合材である、請求項1ないし
10のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項12】
前記導波管のうち前記外部の空間の側の端部を外端(511a)とし、前記駆動周波数に対応する波長をλとして、前記外端と前記振動部との直線距離は、nλ/2の式(n:1以上の奇数)で表される値に対して、±10%以内である、請求項1ないし
11のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【請求項13】
前記駆動周波数は、30kHz~100kHzの範囲内である、請求項1ないし
12のいずれか1つに記載の超音波センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、受信用の超音波素子を複数備える超音波センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、少なくとも1つの送信用の超音波素子(以下「送信素子」という)と、複数の受信用の超音波素子(以下「受信素子」という)とを備え、障害物との距離およびその方向を検出可能な超音波センサが知られている(例えば特許文献1)。特許文献1に記載の超音波センサは、基材と、送信素子と、基材内において所定間隔で配置された複数の受信素子と、基材に設けられ、外部と受信素子の外面との間で超音波を誘導する導波管とを備える。この超音波センサは、基材により超音波素子が保護されており、見栄えの良さと耐衝撃性の確保とを両立しつつも、導波管により外部で反射した超音波を受信素子に誘導することで、障害物等との距離およびその方位を検知可能な物体検知装置を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この超音波センサは、送信素子により外部に所定の周波数の超音波を送信すると共に、その反射波を所定間隔で配置された複数の受信素子で受信し、当該反射波の位相差に基づいて、超音波センサに対する外部の障害物等の方位を検出する。
【0005】
以下、説明の便宜上、受信素子の受信面に対する法線方向に沿った方向を「基準方向(0°)」と、当該受信面に対する反射波の入射方向を「到来方向」と、基準方向と到来方向とのなす角度を「到来角」と、それぞれ称する。
【0006】
具体的には、この超音波センサは、反射波の到来角に応じて、複数の受信素子が受信する各反射波の位相差が変化することを利用し、反射波の到来方向を算出する。
【0007】
さて、近年、この種の超音波センサを用いた物体検知においては、物体の方位検知の精度をさらに向上させたいというニーズが存在する。上記の方法による方位検知の精度を向上させるには、到来角に対する反射波の位相差の変化量を大きくし、到来角に対する感度を上げることが考えられる。
【0008】
ここで、到来角に対する反射波の位相差は、隣接する受信素子同士の間隔および外部に送信する超音波(以下「送信波」という)の波長によって一義的に決まる。そのため、到来角に対する感度を上げるには、受信素子の間隔あるいは送信波の波長を変更する必要がある。
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の超音波センサは、送信素子および受信素子を基材内に配置しつつ、基材内に配置された、あるいは形成された導波管を通じて、超音波の送受信を行う構成であるため、受信素子同士の間隔を任意に変更することが難しい。また、送信波の波長、すなわち駆動周波数を変更する方法は、到来角に対する感度を改善する一方で、超音波の減衰率の低下や物体との距離計測の分解能低下などが生じるため、到来角に対する感度向上には限界がある。
【0010】
本発明は、上記の点に鑑み、送受信用の超音波素子を外部環境から保護しつつも、外部の障害物等の方位検知精度が向上した超音波センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1、2、4に記載の超音波センサは、所定の駆動周波数で振動可能な振動部(25)を有する超音波素子(2)と、超音波素子が接着材(3)を介して接着され、振動部に対応する位置に形成された貫通孔(41)を有する実装基板(4)と、超音波素子および実装基板が収納される収納空間(54)と、貫通孔および外部の空間を連通する導波管(511)と、を有するケース材(5)と、超音波素子と実装基板との間、または導波管の少なくとも一方に形成された共鳴空間(6、7)と、を備え、共鳴空間は、導波管の延設方向に直交する平面の最小寸法が、導波管の直径よりも大きい。
そして、請求項1に記載の超音波センサは、導波管のうち外部の空間の側の端部を外端(511a)とし、外端とは反対側の端部を内端として、導波管は、外端と内端との間において、少なくとも1回は延設方向が変化する形状である。
請求項2に記載の超音波センサは、共鳴空間が導波管に形成されており、導波管のうち共鳴空間よりも超音波素子の側に位置する部分を第1導波管(5111)とし、共鳴空間よりも外部の空間の側に位置する部分を第2導波管(5112)として、第2導波管は、第1導波管の延長線上とは異なる位置に配置されている。
請求項4に記載の超音波センサは、振動部および導波管が互いに離れて複数形成されると共に、少なくとも一方向に沿って配列されており、共鳴空間は、複数の振動部または導波管に跨っており、少なくとも2以上の振動部に対応した共通の空間である。
【0012】
これにより、超音波素子からの送信波が導波管を通じて外部に送信され、当該導波管を通じてその反射波を受信する超音波センサにおいて、超音波素子と実装基板との間、または導波管に形成された共鳴空間の少なくとも一方を有する。そして、この共鳴空間は、導波管の延設方向を軸とする径方向のなす平面における最小寸法が、導波管の直径よりも大きい。この超音波センサは、超音波の伝搬経路に上記の共鳴空間を備えることで、受信素子の間隔や送信波の波長を変更せずとも、到来角に対する反射波の位相差を調整可能な構造である。したがって、この超音波センサは、送受信用の超音波素子を外部環境から保護しつつも、外部の障害物等の方位検知精度を向上させることができる。
【0013】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態の超音波センサを示す断面図である。
【
図2】超音波素子、接着材および実装基板を示す斜視分解図である。
【
図3】
図2のIII-III間の断面構成を示す断面図である。
【
図4】超音波素子および接着材を導波管側から見た様子を示す平面図である。
【
図5】到来角と位相差との関係を説明するための説明図である。
【
図7】立方体型の空間に生じた音響モードの一例を示す図である。
【
図8】音響シミュレーションにおけるモデルの一例を示す図である。
【
図9】共鳴空間を備えるモデルの音響シミュレーションにより得られた特性を示す図である。
【
図10】第2実施形態の超音波センサを示す断面図である。
【
図11】第2実施形態の超音波センサの変形例の一例を示す断面図である。
【
図12】第2実施形態の超音波センサの変形例の他の一例を示す断面図である。
【
図13】第3実施形態の超音波センサに係る導波管の開口部における配置例を示す図である。
【
図14】第3実施形態の超音波センサに係る導波管の開口部の他の配置例を示す図である。
【
図15】第3実施形態の超音波センサの変形例を説明するための説明図である。
【
図16】第4実施形態の超音波センサを示す断面図である。
【
図17】
図16のXVII-XVII間の断面構成を示す断面図である。
【
図18】第5実施形態の超音波センサを示す断面図である。
【
図19】第6実施形態の超音波センサを示す断面図である。
【
図20】音響シミュレーションにおけるモデルであって、第6実施形態の超音波センサに対応するものを示す図である。
【
図21】
図20の解析モデルの音響シミュレーションにより得られた特性であって、共鳴空間の厚み方向の寸法を変化させたものを示す図である。
【
図22】
図20の解析モデルの音響シミュレーションにより得られた特性であって、共鳴空間の平面方向の寸法を変化させたものを示す図である。
【
図23】
図20の解析モデルの音響シミュレーションにより得られた特性であって、共鳴空間と受信点との距離を変化させたものを示す図である。
【
図24】第6実施形態の超音波センサの第1の変形例を示す断面図である。
【
図25】第6実施形態の超音波センサの第2の変形例を示す断面図である。
【
図26】第6実施形態の超音波センサの第3の変形例を示す断面図である。
【
図27】第7実施形態の超音波センサにおける超音波素子、接着材および実装基板を示す斜視分解図である。
【
図28】第7実施形態の超音波センサに係る超音波素子および接着材を導波管側から見た様子を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0016】
(第1実施形態)
第1実施形態の超音波センサ1について、
図1~
図4を参照して説明する。超音波センサ1は、例えば、自動車等の車両に搭載され、外部の障害物等の物体を検知する物体検知装置に用いられると好適であるが、勿論、他の用途にも適用されうる。
【0017】
図1では、後述する超音波素子2、接着材3、実装基板4、基材51のうち別断面における外郭の一部を破線で示している。
図2では、実装基板4の一面4aのうち接着材3と接触する領域、および超音波素子2のうち
図2に示す角度では見えない後述するダイヤフラム25の外郭をそれぞれ破線で示している。また、
図2では、超音波素子2、接着材3および実装基板4の対応位置を示す補助線を二点鎖線で示している。
図3では、超音波素子2の構成要素でない接着材3の外郭を二点鎖線で示している。
図4では、
図4に示す角度では見えない後述する圧電膜26の外郭を破線で示している。
【0018】
本実施形態の超音波センサ1は、例えば
図1に示すように、所定の駆動周波数で振動可能な振動部を有する超音波素子2と、接着材3と、振動部に対応する貫通孔41を有する実装基板4と、ケース材5と、導波管511とを備える。超音波センサ1は、例えば
図1や
図2に示すように、超音波素子2が接着材3を介して実装基板4に接着されたものが、ケース材5の収納空間54に収納されると共に、貫通孔41および外部空間を連通する導波管511を備える。超音波センサ1は、さらに共鳴空間6を有すると共に、本実施形態では、共鳴空間6が超音波素子2と実装基板4との間に形成されている。
【0019】
超音波素子2は、例えば、
図3に示すように、支持基板21、埋込絶縁膜22、半導体層23がこの順に積層されたSOI(Silicon on Insulatorの略)基板を用いて構成されている。超音波素子2は、例えば、支持基板21および埋込絶縁膜22を貫通し、半導体層23を露出させる凹部24が設けられ、半導体層23のうち凹部24に対応する部分がダイヤフラム25となっている。超音波素子2は、例えば、ダイヤフラム25のうち埋込絶縁膜22とは反対側の面に圧電膜26が形成されている。圧電膜26は、例えば、圧電材料が対となる電極に挟持され、電界の印加により所定の方向に収縮あるいは伸展する構成とされる。ダイヤフラム25は、圧電膜26の駆動により、所定の駆動周波数(例えば、限定するものではないが、車載用途であれば30kHz~100kHzなど)で振動することが可能な振動部となっている。超音波素子2は、例えば
図2に示すように、ダイヤフラム25(駆動部)を4つ有し、
図3に示すように、所定のピッチ間隔P1で2行2列となるように配列されたアレイ素子となっている。超音波素子2は、例えば、複数の駆動部を有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systemsの略)型とされる。超音波素子2は、例えば、ダイヤフラム25が振動部となり、外部に超音波を送信する送信素子、および外部からの音波を受信する受信素子として機能する。
【0020】
以下、説明の簡便化のため、駆動部として機能するダイヤフラム25を「セル」と、セルの直径を「セル径」と、複数のセルを有し、α行β列(α、β:自然数)で配列された素子を「α×βアレイ素子」と、それぞれ称することがある。上記の例では、超音波素子2は、4つのセルを有する2×2アレイ素子となっている。また、超音波素子2から外部に送信する送信波、および外部から導波管511に入射した受信波を総称して「送受信波」と称することがある。
【0021】
接着材3は、超音波素子2を実装基板4に接着固定する部材であり、例えば、任意の接着性樹脂材料が用いられる。接着材3は、例えば
図2や
図4に示すように、超音波素子2と同じ外形、かつ超音波素子2のダイヤフラム25の直下に位置する領域に、ダイヤフラム25よりも大きい平面サイズとされた開口部31を複数有する格子状の枠体形状となっている。接着材3の厚みは、例えば、10μm~200μm程度とされるが、これに限定されない。
【0022】
開口部31は、超音波素子2のセルと同数設けられると共に、本実施形態では、互いに独立している。複数の開口部31は、例えば
図1に示すように、それぞれ、複数のダイヤフラム25のうち対応する1つのダイヤフラム25の全域が収まる配置となっている。複数の開口部31は、それぞれ、基材51に設けられた複数の導波管511のうち対応する1つの導波管511についても、ダイヤフラム25と同様に、その全域が当該開口部31の内側に収まる配置となっている。つまり、複数の開口部31は、超音波素子2のセル径および導波管511の直径よりも最小寸法が大きく、かつ平面視にて対応するセルおよび導波管511を内包する配置となっている。複数の開口部31は、接着材3が超音波素子2および実装基板4に接着することで内部空間となり、送受信波の伝搬経路であると共に、
図1に示すように、それぞれ独立した共鳴空間6として機能する。
【0023】
実装基板4は、例えば、ガラスエポキシ樹脂やセラミック等の任意の絶縁性材料によりなる基板に、図示しない配線や回路が形成され、各種の電子部品等が搭載されうる回路基板である。実装基板4は、例えば、超音波素子2の外郭外側に位置する領域において、超音波素子2とワイヤ等により電気的に接続されると共に、図示しない制御部や電源等に接続され、超音波素子2の駆動制御や電気信号のやり取りを可能にする。実装基板4は、例えば
図2に示すように、ダイヤフラム25に対応する位置に貫通孔41が複数形成されている。複数の貫通孔41は、互いに独立した送受信波の伝搬経路であり、例えば、円形状となっているが、これに限られず、楕円形状や多角形状等の任意の形状とされ得る。複数の貫通孔41は、例えば、連通する導波管511と同じ形状・寸法とされる。
【0024】
ケース材5は、例えば、複数の導波管511が形成された基材51と、超音波素子2、接着材3および実装基板4から離れた状態でこれらを囲む枠体部52と、枠体部52上に配置される蓋部53とを備える。ケース材5は、基材51、枠体部52および蓋部53に囲まれてなる空間が、超音波素子2、接着材3および実装基板4を収納する収納空間54となっている。ケース材5は、例えば、金属、樹脂、セラミックまたはこれらの一部もしくは全部を組み合わせた複合材で構成される。
【0025】
基材51は、例えば
図1に示すように、実装基板4が図示しない接着剤等により実装されるベース部材であり、複数の導波管511が形成されている。基材51のうち導波管511の外部空間側の開口部が形成される一面を外面51aとして、基材51は、例えば、車載用途の場合、外面51aが車体の外装やバンパー等に面する、あるいは接する配置とされる。
【0026】
導波管511は、基材51に複数形成され、送受信波の伝搬経路となる貫通孔であり、例えば、円形筒状とされるが、これに限定されるものではなく、楕円形筒状や多角形筒状などの任意の形状とされ得る。複数の導波管511は、互いに独立すると共に、それぞれ対応する1つの貫通孔41、開口部31およびセルに連通している。複数の導波管511は、例えば、導波管511のうち外部空間側の端部(開口部)を外端511aとし、その反対側の端部を内端として、外端511aと内端とが直線状に繋がった貫通穴となっている。導波管511が延設された方向を「延設方向」として、複数の導波管511は、本実施形態では、延設方向が揃った状態となっている。言い換えると、基材51は、直線状に延設された複数の導波管511が平行配置された構成となっている。複数の導波管511は、例えば、超音波素子2のセルの数と同数とされ、超音波素子2のセル配列がα×βである場合には、外端511aがα×βのアレイ配列とされる。
【0027】
枠体部52は、ケース材5のうち超音波素子2、接着材3および実装基板4を囲む部分であり、例えば、実装基板4の外形に沿った内郭形状となっている。
【0028】
蓋部53は、枠体部52のうち基材51とは反対側の端部に配置され、枠体部52を閉塞する部材である。
【0029】
なお、上記では、ケース材5を構成する基材51、枠体部52および蓋部53が別体である例について説明したが、これに限定されず、基材51と枠体部52、あるいは枠体部52と蓋部53が一体であってもよく、その構成は適宜変更され得る。
【0030】
共鳴空間6は、超音波センサ1の到来角に対する反射波の位相差を調整するために、送受信波の伝搬経路上に設けられた空間であり、本実施形態では、超音波素子2と実装基板4との間に設けられる。共鳴空間6は、例えば、超音波素子2のセルと同じ数だけ設けられ、互いに独立している。共鳴空間6は、複数の導波管511のうち連通する1つの導波管511を「連通導波管」として、連通導波管の延設方向に対して直交する平面の最小寸法が、連通導波管の直交よりも大きいサイズとなっている。具体的には、共鳴空間6は、上記した平面のサイズが連通導波管の直径より大きく、連通導波管の延設方向から見て、連通導波管の外郭を内包する状態となっている。また、導波管511の直径は例えばセル径と略同一とされるため、共鳴空間6は、超音波素子2のセル径よりも大きく、対応するセルを内包する状態となっている。なお、共鳴空間6に対する貫通孔41や導波管511の位置関係については、後述する音響共振モードに応じて適宜され得る。
【0031】
以上が、本実施形態の超音波センサ1の基本的な構成である。超音波センサ1は、超音波素子2と外部空間との送受信波の伝搬経路に、所定の寸法とされた共鳴空間6を備えることで、反射波の到来角に対する位相差の変化量を大きくすることが可能な構造となっている。
【0032】
なお、超音波センサ1は、ダイヤフラム25から導波管511の外端511aまでの直線距離をLとし、駆動周波数の波長換算値をλとして、送信性能の向上の観点から、Lがnλ/2(n:1以上の奇数)で表される値の±10%以内であることが好ましい。
【0033】
〔共鳴空間〕
次に、共鳴空間6の効果について、
図5~
図7を参照して説明する。
【0034】
まず、反射波の到来角および位相差について、
図5を参照して説明する。
【0035】
例えば
図5に示すように、直線状に延設された2つの導波管がピッチd
0で配置され、外部から波長λの反射波が到来角θで入射する場合において、2つの導波管511に入射する反射波にΔxの位相差が生じているとする。この場合、到来角θは、下記の(1)式で表される。
【0036】
θ=sin
-1(Δx×λ/(2π×d
0))・・・(1)
なお、2つの導波管の延長線上に超音波素子のセルが配置されている場合、導波管のピッチd
0は、受信素子のピッチと実質的に同じである。入射する反射波の波長λ〔単位:mm〕は、超音波素子2から送信する送信波の波長、すなわちセルの駆動周波数に依存する。また、ピッチd
0は、
図5に示すように、導波管の外端が面する平面を受信面として、受信面における外端の配置によって決まる。そして、ピッチd
0および反射波の波長λがある1つの値で固定された場合には、(1)式によれば、位相差Δxは、到来角θに依存する。つまり、到来角θと位相差Δxとの関係は、基本的に、受信面におけるピッチd
0の間隔と駆動周波数によって一義的に決定される。したがって、超音波センサにおける到来角θに対する感度を向上させ、方位検知の精度をより高めるためには、到来角1°あたりの位相差Δxの変化量を大きくする必要がある。
【0037】
共鳴空間6を有しない従来の超音波センサ(以下、単に「従来の超音波センサ」という)は、設計自由度が小さく、到来角θに対する感度を向上させることが困難である。具体的には、従来の超音波センサでは、超音波素子の受信素子の間隔あるいは受信面における導波管の間隔(すなわちピッチd0)、もしくは駆動周波数(すなわち波長λ)またはこれらの両方を調整する必要がある。
【0038】
しかしながら、受信素子の間隔または導波管の間隔を変更する場合、超音波素子または導波管の構造や配置等を変更する必要があり、大幅な設計変更となるため、現実的に実施することが困難である。また、受信素子の間隔d0<λ/2の条件式を満たす必要がある。具体的には、d0>λ/2の場合、(1)式に基づき、到来角θが所定の範囲から外れると位相差Δxの符号が反転してしまい、ある1つの位相差Δxに対応する到来角θが2つ以上存在する状態(いわゆる二値化)となり、到来角θの推定が困難となってしまう。そのため、d0<λ/2の制約上の観点からも受信素子の間隔を自由に変更することは困難である。
【0039】
また、超音波素子の駆動周波数を変更する場合、構造や配置等を変更する必要がないものの、超音波の減衰率の低下や物体との距離計測の分解能低下などが生じるため、到来角に対する感度を向上できても、他の特性が低下してしまう。
【0040】
これに対して、本実施形態の超音波センサ1は、送受信波の伝搬経路に反射波の共振モードが生じる共鳴空間6が設けられている。
【0041】
ここで、立方体型の導波路における音響共振モードについて、
図6を参照して説明する。例えば
図6に示すように、導波路の一方向の寸法がa
0〔単位:m〕、これに直交する方向の寸法がb
0〔単位:m〕である立方体型の導波路において、当該導波路内に存在し得る音響共振モードは、下記の式で表される。
【0042】
【数1】
上記の式において、f
mnはモードm、n(m、n:自然数)の共振周波数〔単位:kHz〕であり、cは媒体(例えば空気など)の音速〔単位:m/s〕である。つまり、構造体により内包された空間(例えば壁に囲まれた空間など)である導波路が、空気等の気体媒体で満たされている場合、当該空間の大きさと媒体を伝搬する音波の波長に応じて、気体が音響的に共振する周波数・モードが存在する。そして、導波路を伝搬する音波の周波数fがf>f
mnの場合、共振モードm、nは存在する。
【0043】
共鳴空間6は、伝搬する反射波の周波数において、例えば
図7に示すように、位相差のある音響モードが生じる寸法となっている。
【0044】
なお、共鳴空間6の寸法に対応する音響モードについては、例えば、有限要素法を用いた音響解析ソフト(例えば、アンシス社のAnsys(登録商標)など)を用いたシミュレーションにより算出可能である。
図7では、空間に生じた音響モードにおいて位相差の異なる領域を分かり易くするため、断面を示すものではないが、位相が異なる領域には異なる種類のハッチングを施している。
【0045】
図7に示す例では、例えば、A点、B点に最も大きい位相差が生じている。共鳴空間6は、音響解析のシミュレーション等により音響モードが生じる寸法とされ、かつ当該音響モードにおける位相差が最も大きい箇所に導波管511が接続されている。超音波センサ1は、複数の導波管511それぞれが、互いに独立した異なる共鳴空間6に接続されると共に、共鳴空間6のうち所定の駆動周波数にて生じる音響モードでの位相差が最大となる位置に導波管511が接続された構造となっている。例えば、
図7の場合、1つの導波管511がある共鳴空間6のA点に相当する位置に接続されている場合、当該導波管511に隣接する他の1つの導波管511は、他の共鳴空間6のB点に相当する位置に接続される。
【0046】
これにより、導波管511の外端511aで生じた位相差をΔx1として、共鳴空間6における位相差Δx2がさらに上乗せされることとなり、最終的には、超音波素子2が受信する反射波の位相差がΔx1よりも大きくなる。その結果、共鳴空間6を備える超音波センサ1は、到来角1°の変化に対する位相差Δxが、従来の超音波センサに比べて大きくなり、到来角θに対する感度が向上する。なお、超音波素子2が受信する反射波の位相差は、音響シミュレーションにより算出可能であり、導波管511と共鳴空間6との間に相互作用が生じるため、Δx1+Δx2となるわけではないが、少なくともΔx1よりも大きくなる。
【0047】
次に、音響シミュレーションの結果を
図8、
図9を参照して説明する。
【0048】
本発明者らは、例えば
図8に示すように、本実施形態の超音波センサ1に対応する音響解析のシミュレーションモデルを設計した。
【0049】
以下、説明の便宜上、
図8に示すように、紙面上下方向に沿った方向をz、zを法線方向とする平面の一方向をx、当該平面においてxに直交する方向をyとして、x、yのなす平面における共鳴空間6のサイズを「平面サイズ」と称する。また、z方向における共鳴空間6の寸法を「厚み」と称し、音響解析のシミュレーションモデルを単に「解析モデル」と称する。また、
図8では、外端における導波管の延設方向の延長線を二点鎖線で示している。
図8に示す導波管に入射する音波の方向と当該延長線とのなす角度が到来角θに相当し、受信点が超音波素子2のセル(受信素子)の位置に相当する。
【0050】
解析モデルは、共鳴空間6が立方体型であって、x、y、zの各方向の寸法がそれぞれa、b、cである。音響シミュレーションにおいては、超音波素子2の駆動周波数に対応する波長をλとし、a、bをそれぞれ4λ/4、5λ/4で固定し、共鳴空間6の厚みcごとの到来角θおよび位相差Δxを算出したところ、
図9に示す結果が得られた。ここでは、代表値として、c=4mm、c=8mmの2つの結果を示す。
【0051】
図9では、c=4mmのシミュレーション結果を二点鎖線で、c=8mmのシミュレーション結果を実線で、到来角θが0°~20°の範囲における位相差Δxの傾きを破線で、それぞれ示している。
【0052】
図9に示す到来角θの1°に対する位相差Δxの変化量、すなわち破線で示す傾きが大きいほど、到来角θに対する感度が大きいことを意味する。シミュレーションの結果、c=4mmの場合に比べて、c=8mmの場合のほうがΔxの傾き、すなわち、到来角θに対する感度が大きいことが判明した。これは、共鳴空間6の厚みcの調整により、到来角θに対する感度の向上が可能であることを示している。
【0053】
したがって、共鳴空間6を設けることにより、超音波素子2の駆動周波数、および導波管511の外端511aのピッチを変えることなく、到来角θに対する位相差Δxの変化量を大きくでき、方位検知の精度を向上させることができる。
【0054】
なお、共鳴空間6は、複数設けられる場合、平面寸法a、bや厚みcがすべて同一であってもよいし、一部または全部の平面寸法、厚み寸法や形状が異なっていてもよい。複数の共鳴空間6それぞれへの導波管511の接続位置は、異なる導波管511同士の位相差が大きくなればよく、上記した音響共振モードに対応して適宜変更される。
【0055】
本実施形態によれば、超音波素子2がケース材5に収納されると共に、超音波素子2と外部空間とを繋ぐ送受信波の伝搬経路に共鳴空間6が設けられ、反射波の到来角θに対する位相差Δxの変化量が大きくなった超音波センサ1となる。そのため、超音波素子2を保護しつつも、設計の自由度が高く、方位検知の精度がより向上する効果が得られる。
【0056】
(第2実施形態)
第2実施形態の超音波センサ1について、
図10を参照して説明する。
【0057】
図10では、
図1と同様に、超音波素子2、接着材3、実装基板4、基材51のうち別断面における外郭の一部を破線で示している。これは、後述する
図11、12についても同様である。
【0058】
本実施形態の超音波センサ1は、例えば
図10に示すように、導波管511が連続的にその径が変化した形状である点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0059】
導波管511は、本実施形態では、導波管511の端部のうち外部の空間側を外端511aとし、その反対側の端部を内端として、外端511aの直径が内端の直径よりも大きい形状となっている。導波管511は、例えば、断面視にて、内端から外端511aに向かうにつれて、直径が連続的に大きくなるテーパー形状となっている。この場合、超音波センサ1は、上記第1実施形態に比べて、送信波の範囲が狭くなり、指向性が鋭くなる構成となる。
【0060】
本実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。また、導波管511の径が連続的に変化する形状であることで、送信波の指向性を鋭くする効果も得られる。
【0061】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態の超音波センサ1は、例えば
図11に示すように、断面視にて、導波管511のほか、実装基板4の貫通孔41も導波管511と連続性を有するテーパー形状であってもよい。この場合、貫通孔41は、例えば、超音波素子2側から導波管511側に向かって連続的に直径が大きくなると共に、導波管511側の端部における開口部の直径が、導波管511の内端の直径と略同一となっている。
【0062】
また、第2実施形態の超音波センサ1は、例えば
図12に示すように、断面視にて、導波管511が外端511aから内端に向かって連続的に直径が大きくなるテーパー形状とされてもよい。この場合、実装基板4の貫通孔41は、例えば、導波管511側の開口部における直径が導波管511の内端の直径と略同一とされ、超音波素子2側に向かって連続的に直径が大きくなる形状とされる。また、貫通孔41は、例えば、超音波素子2側の開口部における直径が、ダイヤフラム25の直径と略同一になっている。なお、貫通孔41は、直径が一定の形状であってもよい。この場合、超音波センサ1は、上記第1実施形態に比べて、送信波の送信範囲が広くなる効果が得られる。
【0063】
本変形例によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。また、
図11に示す場合には、上記第2実施形態と同様の指向性が得られ、
図12に示す場合には、送信波の送信範囲が広くなる効果が得られる。つまり、上記第2実施形態およびその変形例では、送信指向性の制御が可能となる。
【0064】
なお、上記第2実施形態およびその変形例では、導波管511および貫通孔41の壁面が断面視にて直線状である例について説明したが、これに限定されるものではなく、曲線状であってもよく、形状や直径の変化度合い等については適宜変更されてもよい。
【0065】
(第3実施形態)
第3実施形態の超音波センサ1について、
図13を参照して説明する。
【0066】
図13では、ケース材5を外面51aに対する法線方向から見た状態を示すと共に、見易くするため、導波管511の外端511a近傍の一部領域のみを示し、他の領域については省略している。
【0067】
本実施形態の超音波センサ1は、例えば
図13に示すように、複数の導波管511の外端511aが一方向に沿って直線状に配列されている点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0068】
複数の導波管511は、本実施形態では、例えばn1個(n1:2以上の自然数)以上とされ、これらの外端511aが一方向に沿って配列された、いわば「1Dアレイ」の配置となっている。
【0069】
本実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。また、この超音波センサ1は、超音波センサ1に対する外部の障害物等の方向(方位・高度)のうち少なくとも1つを検知することが可能な構成となる。
【0070】
(第3実施形態の変形例)
第3実施形態の超音波センサ1は、例えば
図14に示すように、複数の導波管511の外端511aが直交する2つの方向に沿って配列された、いわば「2Dアレイ」の配置であってもよい。この場合、超音波センサ1は、超音波センサ1に対する外部の障害物等の方向(方位・高度)の2つを検知することが可能となる。
【0071】
なお、
図14における左右方向に沿った一行における導波管511の外端511aの数をn1(n1:2以上の自然数)とし、当該左右方向に直交する方向に沿った一列における導波管511の外端511aの数をn2(n2:2以上の自然数)とする。このとき、n1、n2の数については、適宜変更されてもよい。
【0072】
また、第3実施形態の超音波センサ1は、例えば
図15に示すように、超音波素子2のダイヤフラム25の配列と導波管511の外端511aの配列とが異なる構造であってもよい。具体的には、例えば、超音波素子2のセルおよび導波管511がそれぞれ4つである場合において、超音波素子2の4つのセルが一方向に沿った1Dアレイの配列であるのに対し、導波管511の外端511aが2×2のアレイ配置とされていてもよい。この場合、複数の導波管511のうち一部または全部の導波管511は、内端から外端511aに向かう途中で、その延設方向が少なくとも1回変更された形状(例えば、折れ曲がる、湾曲するなど)とされる。これにより、超音波素子2の複数のセルが1Dアレイの配列であっても、外端511aが直交する2つの方向に沿って配列されているため、二方向の方位検知が可能となる。
【0073】
なお、
図15では、超音波素子2のセル配列と導波管511の外端511aの配列との関係を分かり易くするため、セルと外端511aとを結ぶ導波管511を破線で示している。また、
図15では、4つの導波管511のうち2つの導波管511が内端から外端511aに向かう途中で折れ曲がった形状とされた例を示したが、これに限定されるものではなく、延設方向が変化する導波管511の数やその形状等については適宜変更され得る。
【0074】
本変形例によっても、上記第3実施形態と同様の効果が得られる。また、複数の導波管511の外端511aをn1×n2のアレイ配置とすることで、超音波素子2のセル配列に関わらず、外部の障害物等の方向の2つを検知可能な構造の超音波センサ1となる。
【0075】
(第4実施形態)
第4実施形態の超音波センサ1について、
図16、
図17を参照して説明する。
【0076】
図16では、
図1と同様に、超音波素子2、接着材3、実装基板4、基材51のうち別断面における外郭の一部を破線で示している。
図17では、後述する第2の共鳴空間7とこれが設けられた導波管511との位置関係を分かり易くするため、他の断面における導波管511のうち第2の共鳴空間7に連通する部分の外郭を破線で示している。
【0077】
本実施形態の超音波センサ1は、例えば
図16に示すように、超音波素子2の直下に位置する共鳴空間6に加えて、導波管511にも共鳴空間7を備える点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0078】
複数の導波管511は、超音波素子2の直下の共鳴空間6を「第1の共鳴空間」として、内端と外端との間に第2の共鳴空間7がそれぞれ形成されている。
【0079】
第2の共鳴空間7は、例えば
図17に示すように、複数の導波管511と同数設けられ、互いに独立すると共に、
図17に示す平面方向における最小寸法が、導波管511の他の部位の直径よりも大きくなっている。言い換えると、複数の第2の共鳴空間7は、第1の共鳴空間6と同様に、平面サイズが導波管511よりも大きく、その内郭内側に導波管511の連通部分の外郭を内包する配置となっている。複数の第2の共鳴空間7は、第1の共鳴空間6と同様に、それぞれ音響共振モードが生じる平面寸法および厚みとなっている。第2の共鳴空間7は、例えば、基材51を2つの部材、すなわち導波管511の一部およびこれに連通する凹部を有する一方の部材と、導波管511の残部を有する他方の部材とにより構成し、これらを連結することにより形成される。
【0080】
第1の共鳴空間6が接着材3の開口部31で構成され、超音波素子2の平面サイズより大きくできないのに対し、第2の共鳴空間7は、基材51に設けられるため、平面サイズが超音波素子2よりも大きくされうる。そのため、第2の共鳴空間7の
図17に示す平面方向における一方の寸法をaとし、これに直交する他方の寸法をbとして、a、bの寸法は、超音波素子2の平面サイズに制限されない。
【0081】
なお、到来角に対する感度向上の観点から、a、bは、異なる寸法とされると共に、短いほうの寸法が少なくとも3λ/2よりも大きいことが好ましい。また、第2の共鳴空間7の厚み方向の寸法をcとして、同様の観点から、cの寸法は、0.3λよりも小さいことが好ましい。
【0082】
本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果が得られる超音波センサ1となる。また、この超音波センサ1は、導波管511の外端511aおよび第1の共鳴空間6における位相差に加えて、第2の共鳴空間7で生じる位相差がさらに上乗せされるため、反射波の到来角に対する感度の調整範囲が広くなる効果が得られる。また、第2の共鳴空間7の平面サイズが超音波素子2よりも大きくされうるため、設計の自由度がより高くなる構造となる。
【0083】
(第5実施形態)
第5実施形態の超音波センサ1について、
図18を参照して説明する。
【0084】
図18では、
図1と同様に、超音波素子2、接着材3、実装基板4、基材51のうち別断面における外郭の一部を破線で示している。
【0085】
本実施形態の超音波センサ1は、例えば
図18に示すように、複数の導波管511に第2の共鳴空間7が形成されている。また、超音波センサ1は、導波管511のうち第2の共鳴空間7よりも超音波素子2側の部分を第1導波管5111とし、第2の共鳴空間7よりも外部の空間側を第2導波管5112として、これらが断面視にて軸をずらして配置された構成となっている。超音波センサ1は、上記した点で上記第1実施形態と相違する。前者の相違点である第2の共鳴空間7については上記第4実施形態と同様であるため、本実施形態では、後者の相違点について主に説明する。
【0086】
複数の導波管511は、本実施形態では、第1導波管5111と第2導波管5112とを有してなり、断面視にて、これらの導波管がそれぞれの軸(すなわち導波管の中心位置)をずらした、いわばオフセット配置された構成となっている。このように、複数の導波管511は、第2の共鳴空間7に接続された2つの開口部分の位置がずらされた状態で配置された構成であってもよい。
【0087】
本実施形態によっても、上記第4実施形態と同様の効果が得られる。また、超音波センサ1は、超音波素子2のセルのピッチによらず、基材51の外面51aにおける導波管511のピッチを任意に調整可能な構造となっている。
【0088】
(第6実施形態)
第6実施形態の超音波センサ1について、
図19~
図23を参照して説明する。
【0089】
図19では、
図1と同様に、超音波素子2、接着材3、実装基板4、基材51のうち別断面における外郭の一部を破線で示している。
【0090】
本実施形態の超音波センサ1は、例えば
図19に示すように、共鳴空間6が複数の導波管511に跨っており、複数の導波管511に共通した1つの共鳴空間6となっている点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0091】
共鳴空間6は、本実施形態では、例えば、導波管511が4つである場合、4つの導波管511すべてに跨り、すべての導波管511に連通している。つまり、本実施形態では、接着材3が1つの開口部のみを有する枠体形状とされ、超音波素子2と実装基板4とに囲まれることで、1つの共通した共鳴空間6を構成している。
【0092】
本発明者らは、共鳴空間6が連通した共通の空間である場合についても、音響解析のシミュレーションを行い、反射波の到来角に対する感度を向上できるか検証した。
【0093】
具体的には、音響解析において、例えば
図20に示す解析モデルを設計した。この解析モデルは、直線状に延設された2つの導波管が互いに離れて平行配置されると共に、これらの受信点と外部空間との間に共通する共鳴空間が設けられ、2つの導波管が当該共鳴空間を通じて連通している。この解析モデルでは、共鳴空間のx、y、z方向の寸法がそれぞれa、b、cであり、導波管のうち共鳴空間と受信点とのz方向の寸法がdである。この解析モデルにおいて、駆動周波数を46.4kHz(波長7.4mm)、気体媒質を空気として、上記第1実施形態と同様に、有限要素法を用いた音響解析のシミュレーションを行った。
【0094】
厚みcを変化させた場合のシミュレーション結果を
図21に示す。
図21では、横軸が到来角、縦軸が位相差であり、共鳴空間がない場合における理論値に基づく曲線を二点鎖線で示している。これは、後述する
図22、
図23についても同様である。
【0095】
図21に示すように、到来角0°~20°の範囲における位相差の傾きは、c=2mmの場合には、理論値のそれと同程度であった。到来角0°~20°の範囲における位相差の傾きは、c=3mmの場合にはc=2mmの場合や理論値に比べて小さいのに対し、c=1mmの場合にはc=2mmの場合や理論値に比べて大きかった。これは、c=1mmに設計することで、反射波の到来角に対する感度を共鳴空間のない場合よりも高くできることを示している。なお、反射波の到来角に対する感度を向上させる観点から、共鳴空間6の厚みcは、0.3λ〔単位:m〕以下であって、導波管511の長さよりも短いことが好ましい。
【0096】
次に、平面寸法a、bを変化させた場合のシミュレーション結果を
図22に示す。このシミュレーションでは、a=bとし、a(=b)を5λ/4~7λ/4の範囲で変更した。
図22に示すように、到来角0°~20°の範囲における位相差の傾きは、a=b=6λ/4の場合には、理論値のそれと同程度であった。到来角0°~20°の範囲における位相差の傾きは、a=b=5λ/4の場合には理論値に比べて小さいのに対し、a=b=7λ/4の場合には理論値に比べて大きかった。これは、a=b=7λ/4に設計することで、反射波の到来角に対する感度を共鳴空間のない場合よりも高くできることを示している。
【0097】
次に、共鳴空間6と受信点との距離dをλ/8~λ/2の範囲で変化させた場合のシミュレーション結果を
図23に示す。
図23に示すように、到来角0°~20°の範囲における位相差の傾きは、d=λ/2およびλ/4の場合には、ほぼ同じであり、理論値よりも小さかった。到来角0°~20°の範囲における位相差の傾きは、d=λ/8の場合には理論値に比べて大きかった。これは、d=λ/8に設計することで、反射波の到来角に対する感度を共鳴空間のない場合よりも高くできることを示している。
【0098】
上記したように、共鳴空間6が複数の導波管511に連通した1つの共通の空間である場合においても、共鳴空間6の平面サイズ、厚み、受信素子との距離の各パラメータを適宜設計することにより、反射波の到来角に対する感度を高めることが可能である。
【0099】
本実施形態によれば、上記第1実施形態と同様の効果が得られる超音波センサ1となる。また、接着材3に1つの共通の開口部31が設けられ、開口部31が超音波素子2および実装基板4に囲まれて生じる空間が共通の共鳴空間6となっているため、上記第1実施形態よりも製造が容易な構造になる効果も得られる。
【0100】
(第6実施形態の変形例)
第6実施形態の超音波センサ1は、例えば
図24に示すように、第1の共鳴空間6に加えて、導波管511においても複数の導波管511に連通する共通の第2の共鳴空間7を備える構成であってもよい。この場合、上記第4実施形態と同様に、反射波の到来角に対する感度をより高める効果が得られる。
【0101】
また、この場合において、超音波センサ1は、例えば
図25に示すように、第2の共鳴空間7に音波を透過する多孔部材8が配置されていてもよい。多孔部材8は、例えば、任意の樹脂または金属材料によりなり、限定するものではないが、空隙率が90%程度とされる。多孔部材8は、例えば図示しない接着剤などにより、第2の共鳴空間7に固定される。多孔部材8が第2の共鳴空間7に配置されることで、外部からの異物が導波管511に侵入したとしても、当該異物が超音波素子2に付着することを抑制でき、信頼性が向上した超音波センサ1となる。
【0102】
なお、多孔部材8は、音波を透過する部材であればよく、構成材料や構造については適宜変更されてもよい。また、多孔部材8は、音波を透過するため、第2の共鳴空間7における音響モードへの影響が少なく、到来角に対する感度の調整に支障はない。
【0103】
超音波センサ1は、例えば
図26に示すように、第1の共鳴空間6を有さず、第2の共鳴空間7のみを有する構成であってもよい。この場合であっても、導波管511の外端における位相差に、共鳴空間7で生じる位相差を上乗せできる構造であるため、到来角に対する感度の向上が可能である。
【0104】
これらの変形例によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる。また、これに加えて、第2の共鳴空間7を有することによる感度調整の範囲拡大や多孔部材8による異物影響の低減の効果も得られる。
【0105】
(第7実施形態)
第7実施形態の超音波センサ1について、
図27、
図28を参照して説明する。
【0106】
図27では、
図2と同様に、ダイヤフラム25の外郭を破線で示すと共に、超音波素子2、接着材3および実装基板4の対応位置を示す補助線を二点鎖線で示している。
【0107】
本実施形態の超音波センサ1は、例えば
図27に示すように、接着材3が分離した2つの部材により構成され、超音波素子2の直下に位置する共鳴空間6が収納空間54に連通する構成である点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0108】
接着材3は、本実施形態では、例えば
図28に示すように、平面視にて、超音波素子2の外郭のうち対抗する二辺に沿って平行配置される。これにより、超音波素子2と実装基板4とに挟まれた接着材3によりなる共鳴空間6は、超音波素子2が収納されたケース材5の収納空間54に連通する構成となっている。この超音波センサ1は、収納空間54も共鳴空間6として機能する構成となっており、収納空間54の平面サイズや厚み寸法により、音響共振モードを適宜変更することが可能である。
【0109】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られると共に、超音波素子2や導波管511の配置等によらず、収納空間54の寸法調整により音響共振モードを変更でき、設計の自由度が高い構造の超音波センサ1となる。
【0110】
(他の実施形態)
なお、上記した各実施形態に示した超音波センサは、本発明の超音波センサの一例を示したものであり、上記の各実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の超音波センサは、上記各実施形態の様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態などに適宜変更されうる。
【0111】
例えば、上記各実施形態およびその変形例については、可能な範囲内において、適宜自由に組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0112】
2・・・超音波素子、25・・・振動部(ダイヤフラム)、3・・・接着材、
4・・・実装基板、41・・・貫通孔、5・・・ケース材、51・・・基材、
511・・・導波管、511a・・・外端、5111・・・第1導波管、
5112・・・第2導波管、54・・・収納空間、6・・・(第1の)共鳴空間、
7・・・(第2の)共鳴空間