(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20250409BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250409BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20250409BHJP
B32B 23/08 20060101ALI20250409BHJP
C09J 167/02 20060101ALI20250409BHJP
B01D 39/16 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/00 D
B32B27/42 101
B32B23/08
C09J167/02
B01D39/16 E
(21)【出願番号】P 2021554287
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2020038464
(87)【国際公開番号】W WO2021085099
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2019199972
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浜崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 純希
(72)【発明者】
【氏名】舩岡 大樹
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/016605(WO,A1)
【文献】特表2018-525225(JP,A)
【文献】特表2015-502833(JP,A)
【文献】特開2016-195589(JP,A)
【文献】米国特許第05670238(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
C09J 1/00- 5/10
9/00-201/10
B01D39/00- 41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基材と第2の基材とを有する積層体であり、
前記第1の基材と前記第2の基材とは接着剤を介して接着されており、
前記第1及び前記第2の基材は
、下記熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件1で
保持時間が12.0分以上19.1分未満である低沸点の脂肪族炭化水素(A1)を0.5~3質量%含み、保持時間が19.1分以上30.0分未満である高沸点の脂肪族炭化水素(A2)を0.5~3質量%含み、
前記脂肪族炭化水素(A1)は、分岐を有し、かつ、炭素数15~24の脂肪族炭化水素であり、前記脂肪族炭化水素(A2)は、分岐を有し、かつ、炭素数25~35の脂肪族炭化水素であり、
前記第1及び前記第2の基材は、ポリエチレンテレフタレート、セルロース、及びフェノール系樹脂からなる濾材であり、
前記接着剤は、ブチレンテレフタレートユニットを65モル%以上、ブチレンイソフタレートユニットを5モル%以上含み、前記接着剤の酸価は100eq/ton以下、ガラス転移温度は-10~60℃、比重は1.20以上である
ことを特徴とする積層体。
熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件1:
[PY部]
・分解炉加熱条件:200℃×10min
・分解炉加熱雰囲気:ヘリウム
・インターフェース温度:320℃
[GC部]
・使用カラム:長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
・カラム温度:40℃で2分間経過後、10℃/minで昇温し、300℃で15分間保持する
・キャリアガス:ヘリウム
・キャリアガス制御モード:圧力一定モード
・カラム入口圧:80kPa(注入時カラム線速度43.4cm/sec)
・パージ流量:3.0mL/min
・注入口温度:320℃
・注入方法:スプリット注入法
・スプリット比:30
[MS部]
・イオン源温度:250℃
・インターフェース温度:320℃
・測定モード:SCANモード
・測定質量範囲(SCAN):m/z30-550
・イベント時間:0.5sec
・イオン化法:電子イオン化法(EI法)
・イオン化電圧:70eV
【請求項2】
前記第1及び前記第2の基材は、下記熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件2で検出されるフェノール系樹脂の分解物が0.1質量%以下である請求項1に記載の積層体。
熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件2:
[PY部]
・分解炉加熱条件:500℃×1min
・分解炉加熱雰囲気:ヘリウム
・インターフェース温度:320℃
[GC部]
・使用カラム:長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
・カラム温度:40℃で2分間経過後、10℃/minで昇温し、300℃で15分間保持する
・キャリアガス:ヘリウム
・キャリアガス制御モード:圧力一定モード
・カラム入口圧:80kPa(注入時カラム線速度43.4cm/sec)
・パージ流量:3.0mL/min
・注入口温度:320℃
・注入方法:スプリット注入法
・スプリット比:30
[MS部]
・イオン源温度:250℃
・インターフェース温度:320℃
・測定モード:SCANモード
・測定質量範囲(SCAN):m/z30-550
・イベント時間:0.5sec
・イオン化法:電子イオン化法(EI法)
・イオン化電圧:70eV
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料、自動車用エンジンオイルなど(以下、燃料等という)の各種液体中に含有される粒子等の浮遊物を除去し、清浄な液体を得るために積層体であるフィルタ濾材が用いられている。
【0003】
フィルタ濾材としては、例えば、以下の特許文献1~2が開示されている。特許文献1には、繊維径が異なる複数の繊維を含むフィルタ濾材が開示されている。また、特許文献2には、上流側と下流側の層のそれぞれの最大、平均孔径を特定の範囲に制御し、かつ、上流側の層に捲縮かつ異型断面形状を有する繊維を有するフィルタ濾材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-126112号公報
【文献】特開平5-49825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献に記載のフィルタ濾材への燃料等の吸収速度(以下、燃料等との親和性という)については改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、フェノール系樹脂と所定の脂肪族炭化水素とを含む基材を用いることにより、燃料等との親和性が高い積層体が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の発明を含む。
[1]第1の基材と第2の基材とを有する積層体であり、前記第1の基材と前記第2の基材とは接着剤を介して接着されており、前記第1及び前記第2の基材は、フェノール系樹脂と、下記熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件1で保持時間12.0~30.0分の間に検出される脂肪族炭化水素(A)とを含み、前記接着剤は、ブチレンテレフタレートユニットを65モル%以上、ブチレンイソフタレートユニットを5モル%以上含み、前記接着剤の酸価は100eq/ton以下、ガラス転移温度は-10~60℃、比重は1.20以上であることを特徴とする積層体。
熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件1:PY部では200℃で10分間保持する、GC部では40℃で2分間保持し、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温する
[2]前記第1及び前記第2の基材は、下記熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件2で検出されるフェノール系樹脂の分解物が0.1質量%以下である上記[1]に記載の積層体。
熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件2:PY部では500℃で1分間保持する、GC部では40℃で2分間保持し、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温する
[3]前記第1及び前記第2の基材は、前記脂肪族炭化水素(A)を0.1質量%以上含む上記[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]前記脂肪族炭化水素(A)は、分岐を有する脂肪族炭化水素を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記第1及び前記第2の基材は、ポリエチレンテレフタレート及びセルロースから選ばれる少なくとも1種を含む上記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層体は、燃料等との親和性に優れている。これにより燃料等を効率的に濾過することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】融点及びガラス転移温度の算出方法を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層体は、第1の基材と第2の基材とを有する積層体であり、前記第1の基材と前記第2の基材とは接着剤を介して接着されている。
【0010】
<第1の基材>
第1の基材は、ポリエチレンテレフタレート及びセルロースから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、ポリエチレンテレフタレート及びセルロースを含むことがより好ましい。
【0011】
第1の基材は、フェノール系樹脂と、下記熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件1で保持時間12.0~30.0分の間に検出される脂肪族炭化水素(A)とを含む。脂肪族炭化水素(A)を含む基材を用いることにより、本発明の積層体は燃料等との親和性に優れた積層体となり、燃料の濾過性が良好となる。なお、脂肪族炭化水素(A)の含有率については、下記熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件1により算出することができる。本測定は、得られたクロマトグラムにおける標準試料(ジメチルシロキサン環状4量体)に由来するピークのピーク面積と定量対象成分(測定条件1では脂肪族炭化水素、後述の測定条件2ではフェノール系樹脂の分解物)に由来するピークのピーク面積との比に基づいて定量する方法である。下記以外の具体的な測定方法や測定条件については後述する。
【0012】
熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件1:PY部では200℃で10分間保持する、GC部では40℃で2分間保持し、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温する。
【0013】
第1の基材は、脂肪族炭化水素(A)を0.1質量%以上含むことが好ましく、0.5質量%以上含むことがより好ましく、1質量%以上含むことがさらに好ましく、脂肪族炭化水素(A)の含有率は5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましい。脂肪族炭化水素(A)は、分岐を有する脂肪族炭化水素であることが好ましく、分岐を有し、かつ、炭素数6~50の脂肪族炭化水素であることがより好ましく、分岐を有し、かつ、炭素数10~40の脂肪族炭化水素であることがさらに好ましく、分岐を有し、かつ、炭素数15~30の脂肪族炭化水素であることが特に好ましい。
【0014】
第1の基材に含まれる脂肪族炭化水素(A)は、沸点が異なる2種類以上の脂肪族炭化水素を含むことが好ましい。中でも保持時間が12.0分以上19.1分未満である低沸点の脂肪族炭化水素(A1)及び保持時間が19.1分以上30.0分未満である高沸点の脂肪族炭化水素(A2)を含むことが好ましい。沸点が異なる2種以上の脂肪族炭化水素を含む基材を用いることにより、燃料等との親和性をより高めることができる。第1の基材は、低沸点である脂肪族炭化水素(A1)を0.1質量%以上含むことが好ましく、0.5質量%以上含むことがより好ましい。脂肪族炭化水素(A1)の含有率は3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。また、第1の基材は、高沸点である脂肪族炭化水素(A2)を0.1質量%以上含むことが好ましく、0.5質量%以上含むことがより好ましい。脂肪族炭化水素(A2)の含有率は3質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0015】
低沸点の脂肪族炭化水素(A1)は、炭素数6~24の脂肪族炭化水素であることが好ましい。中でも、分岐を有する脂肪族炭化水素であることがより好ましく、分岐を有し、かつ、炭素数15~24の脂肪族炭化水素であることがさらに好ましい。また、高沸点の脂肪族炭化水素(A2)は、炭素数25~50の脂肪族炭化水素であることが好ましい。中でも、分岐を有する脂肪族炭化水素であることがより好ましく、分岐を有し、かつ、炭素数25~35の脂肪族炭化水素であることがさらに好ましい。
【0016】
第1の基材はフェノール系樹脂を含むが、第1の基材は下記熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件2で検出されるフェノール系樹脂の分解物が0.5質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。500℃まで昇温してもフェノール系成分がほとんど析出しない基材を用いることにより耐熱性を高めることができる。下記測定条件2で検出されるフェノール系樹脂の分解物としては、例えば、o-クレゾール、p-クレゾール、2,6-ジメチルフェノール、2,4-ジメチルフェノール、トリメチルフェノール、ジヒドロキシジフェニルメタンなどの分解物が挙げられるが、上記の6つのフェノール系樹脂の分解物の合計量を下記測定条件2で検出されるフェノール系樹脂の分解物とする。各化合物の特定はMSのフラグメントにより行い、2種類以上の化合物のピークが重複したときは、フラグメントにより、化合物を特定した後、含有量測定を行う。なお、トリメチルフェノール及びジヒドロキシジフェニルメタンは位置異性体を含む。
【0017】
熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件2:PY部では500℃で1分間保持する、GC部では40℃で2分間保持し、10℃/分の昇温速度で300℃まで昇温する。
【0018】
なお、以下では、上記熱分解温度及び熱分解条件で測定したときのフェノール系樹脂の分解物を単に「フェノール系樹脂の分解物」という。上記以外の具体的な測定方法や測定条件については後述する。
【0019】
第1の基材は、例えば、ポリエチレンテレフタレートやセルロースからなる濾材繊維を抄紙して濾材原紙とし、この濾材原紙にフェノール系樹脂を含浸させ、その後、フェノール系樹脂を硬化することにより作製できる。
【0020】
第1の基材は、例えば、以下の方法により組成を分析することができる。
【0021】
第1の濾材を約100mg採取し、クロロホルムに浸漬後、抽出液を採取する。クロロホルムに浸漬後、抽出液を採取する操作を3回繰り返した後、残渣をクロロホルムとヘキサフルオロ-2-プロパノールの混合液(クロロホルム:ヘキサフルオロ-2-プロパノール=50:50(質量比))に浸漬後、抽出液を採取する。クロロホルムとヘキサフルオロ-2-プロパノールの混合液に浸漬後、抽出液を採取する操作を3回繰り返した後に生じた残渣をIR分析することにより成分を特定する。また、上記の操作により得られた6回分の抽出液をまとめて乾固した後、CDCl3とトリフルオロ酢酸の混合液(CDCl3:トリフルオロ酢酸=85:15(質量比))に溶解し、1H NMR測定により成分を特定する。上記IR分析及び1H NMR測定の結果から第1の濾材の組成を特定することができる。
【0022】
<第2の基材>
第2の基材は、第1の基材と同じ基材を用いてもよく、異なる基材を用いてもよいが、第1の基材と第2の基材とが同一であることが好ましい。第2の基材における好適な組成、物性、製法などは、第1の基材に関する記載と同一となるため、説明を省略する。
【0023】
<接着剤>
接着剤は、ポリエステル樹脂が主体であり、具体的には、ブチレンテレフタレートユニットを65モル%以上、ブチレンイソフタレートユニットを5モル%以上含む。
【0024】
接着剤は、ブチレンテレフタレートユニットを70モル%以上含むことが好ましい。また、ブチレンテレフタレートユニットを95モル%以下含み、90モル%以下含むことが好ましく、80モル%以下含むことがより好ましく、75モル%以下含むことがさらに好ましい。
【0025】
接着剤は、ブチレンイソフタレートユニットを10モル%以上含むことが好ましく、20モル%以上含むことがより好ましく、25モル%以上含むことがさらに好ましい。また、ブチレンイソフタレートユニットを35モル%以下含み、30モル%以下含むことが好ましい。
【0026】
接着剤の酸価は100eq/ton以下であり、10~70eq/tonであることが好ましく、15~60eq/tonであることがより好ましい。
【0027】
接着剤のガラス転移温度は-10~60℃であり、0~50℃であることが好ましく、10~40℃であることがより好ましい。
【0028】
接着剤の比重は1.20以上であり、1.20~1.50であることが好ましく、1.25~1.40であることがより好ましい。
【0029】
接着剤の融点は150~200℃であることが好ましく、160~190℃であることがより好ましい。
【0030】
接着剤の還元粘度は0.5~1.2dl/gであることが好ましく、0.6~1.0dl/gであることがより好ましい。
【0031】
なお、接着剤の酸価、ガラス転移温度、比重、融点、還元粘度の測定方法については後述する。
【0032】
接着剤は、ブチレンテレフタレートユニット及びブチレンイソフタレートユニット以外のユニット(以下、その他のユニットという)を含んでもよい。具体的には、その他のユニットは、1,4-ブタンジオール以外のジオール成分に由来するユニットでもよく、テレフタル酸及びイソフタル酸以外のジカルボン酸に由来するユニットでもよい。
【0033】
その他のユニットを構成するジカルボン酸としては、オルソフタル酸、1,5-ナフタル酸、2,6-ナフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
【0034】
その他のユニットを構成するジオール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール;ビスフェノールA等の芳香族系ジオール等が挙げられる。
【0035】
接着剤に含まれるその他のユニットは、20モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、5モル%以下であることがさらに好ましく、1モル%以下であることが特に好ましく、0モル%(ブチレンテレフタレートユニット及びブチレンイソフタレートユニットのみからなる)であることが最も好ましい。
【0036】
ただし、脂肪族ジカルボン酸に由来するユニットは、耐加水分解性を悪くして、高温の燃料への耐久性を低下させてしまうので、接着剤において、脂肪族ジカルボン酸に由来するユニットは3モル%以下含むことが好ましく、1モル%以下含むことがより好ましく、0モル%(脂肪族ジカルボン酸に由来するユニットを含まない)であることがさらに好ましい。
【0037】
接着剤に用いられるポリエステルの製造方法としては、公知の方法をとることができる。例えば、上記のジカルボン酸及びジオール成分を150~250℃でエステル化反応後、減圧しながら230~300℃で重縮合することにより、目的のポリエステルを得ることができる。
【0038】
接着剤には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、タルクやシリカ、雲母等の充填材や高級脂肪酸等の可塑剤、フェノール系、リン系もしくはアミン系の酸化防止剤、イオウ系の熱老化防止剤、チタンもしくはリン系の触媒、又は、エポキシやカルボジイミドなどの耐加水分解剤等を含んでもよい。充填材や可塑剤、酸化防止剤、耐加水分解剤等を含む場合であっても、含有率は少量であることが好ましく、具体的には、接着剤中におけるポリエステル樹脂の質量は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましく、100質量%であることが最も好ましい。
【0039】
なお、接着剤については、接着剤をCDCl3とトリフルオロ酢酸の混合液(CDCl3:トリフルオロ酢酸=85:15(質量比))に溶解し、溶解液を遠心分離した後に1H NMR測定を行うことにより成分を特定することができる。
【0040】
<積層体>
本発明の積層体は、例えば内燃機関に供給される燃料濾過用の燃料フィルタに好適に用いられる。この燃料フィルタは、燃料ポンプから内燃機関に燃料を供給する通路や内燃機関から燃料タンクに燃料が戻される通路などに設置することができる。燃料フィルタの設置位置は、燃料タンクの内部または外部のいずれでもよい。さらに、本発明の積層体をフィルタハウジングに収容して燃料フィルタを構成する場合、このフィルタハウジングを燃料タンクの開口部に設けられた樹脂製の蓋に一体化することも可能である。
【0041】
燃料フィルタとしては、例えば、第1の基材を長尺状の平板濾材とし、第2の基材を長尺状の波板濾材として、長尺状の平板濾材と長尺状の波板濾材とを重ねたものを長手方向に巻回したロール状の積層体が挙げられる。ロール状の積層体において幅方向の一端部から他端部へと燃料を通過させることによって燃料の濾過を行うことができる。以下では、積層体の幅方向の一端部を上流側、他端部を下流側と言うことがある。
【0042】
ロール状の積層体の作製方法を説明する。平板濾材は、セルロースからなる濾材繊維を抄紙して濾材原紙とし、この濾材原紙にフェノール系樹脂を含浸させ硬化させることにより作製できる。また、波板濾材は、波型ローラにより平板濾材を波状に成形することによって得られる。長尺状の平板濾材と長尺状の波板濾材とを重ね、積層体の下流側において平板濾材と波板濾材との間に接着剤を塗布し、ローラでプレスして加熱圧着する。また、波板濾材の谷部が平板濾材に固定されるように上流側においても平板濾材と波板濾材との間に接着剤を塗布する。次に、波板濾材側が径方向内側となるように巻回してロール状の積層体を形成する。巻回時に波板濾材の上流側に接着剤を塗布することにより、波板濾材とその径方向内側に位置する部分の平板濾材とが接着される。
【0043】
上流側から流入した燃料は、平板濾材または波板濾材を通過して下流側へと流れる。平板濾材または波板濾材を通過するときに燃料は濾過される。
【0044】
本願は、2019年11月1日に出願された日本国特許出願第2019-199972号に基づく優先権の利益を主張するものである。2019年11月1日に出願された日本国特許出願第2019-199972号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
以下、接着剤の酸価、融点、ガラス転移温度、比重、還元粘度の測定方法を示す。
【0047】
<酸価>
試料樹脂(接着剤)0.2gを精秤し20mlのクロロホルムに溶解した。ついで、0.01Nの水酸化カリウム(エタノール溶液)で滴定して求めた。指示薬には、フェノールフタレイン溶液を用いた。酸価の単位はeq/ton、すなわち試料1トン当たりの当量とした。
【0048】
<融点・ガラス転移温度>
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量分析計「DSC220型」にて、試料樹脂(接着剤)5mgをアルミパンに入れ、蓋を押さえて密封した。次いで、一度250℃で5分ホールドした後、液体窒素で急冷して、その後-100℃から250℃まで、20℃/minの昇温速度で測定した。得られた曲線においての
図1に示したようなDSCで変極点が表れる部分の変極点前のベースラインから得られる接線(1)と変極点後のベースラインから得られる接線(2)の交点(図内丸印)をガラス転移温度、吸熱ピークの極小点(図内×印)を融点とした。
【0049】
<比重>
あらかじめ比重値が分かっている塩化カルシウム溶液が入ったメスシリンダーを30℃の水槽に15~20分入れ、所定の温度に暖めた。その後、60℃にて結晶化を完了させた試料樹脂(接着剤)の小片(5mm×5mm)を、メスシリンダーに投入した。サンプルが液中に浮かんだ状態となるように塩化カルシウム溶液濃度を水または濃度の濃い塩化カルシウム溶液を添加し調整した。調整後の塩化カルシウム溶液について比重計を浮かべ測定した。
【0050】
<還元粘度>
試料樹脂(接着剤)約0.1gを25mlのメスフラスコに入れ、混合溶媒(フェノール/テトラクロロエタン=60/40(重量比))にて溶解し、ウベローデ粘度管を用いて、30℃で測定した。
【0051】
<熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析>
フィルタ中における脂肪族炭化水素の測定は以下の測定方法1に記載の方法により行った。また、フィルタ中におけるフェノール系樹脂の分解物の測定は以下の測定方法2に記載の方法により行った。測定方法1、2共に熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)装置を用いて測定を行った。
【0052】
(測定方法1)
試料0.5mgを秤量し、熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)装置のPY部に導入した。外部標準物質には110mg/Lのジメチルシロキサン環状4量体を用い、外部標準法による1点検量により測定した。脂肪族炭化水素(A)の含有量は、保持時間12.0~30.0分に検出される脂肪族炭化水素の合計量とした。
【0053】
(測定方法2)
試料0.2mgを秤量し、熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)装置のPY部に導入した。外部標準物質には110mg/Lのジメチルシロキサン環状4量体を用い、外部標準法による1点検量により測定した。なお、フェノール系樹脂の分解物の保持時間(ピーク位置)は以下の通りであり、下記6つのフェノール系樹脂の分解物の合計量をフェノール系樹脂の分解物の含有量とした。
・o-クレゾール・・・9.38分~9.53分
・p-クレゾール・・・9.75分~9.88分
・2,6-ジメチルフェノール・・・10.28分~10.42分
・2,4-ジメチルフェノール・・・10.96分~11.15分
・トリメチルフェノール・・・11.93分~11.99分
・ジヒドロキシジフェニルメタン・・・22.86分~23.07分
【0054】
測定方法1及び2で用いたPY-GC/MS装置および測定条件は、以下の通りである。なお、分解炉加熱条件以外は測定方法1、2共に同じ測定条件である。
[PY部]
・使用装置:フロンティア・ラボ(株)社製 ダブルショットパイロライザー PY-2020iD
・分解炉加熱条件:200℃×10min(脂肪族炭化水素測定時:測定条件1)、500℃×1min(フェノール系樹脂の分解物測定時:測定条件2)
・分解炉加熱雰囲気:ヘリウム(He)
・インターフェース温度:320℃
[GC部]
・使用装置:(株)島津製作所製 GC/MS-QP2010Plus
・使用カラム:フロンティア・ラボ(株)社製 Ultra ALLOY-5(MS/HT) 長さ30m 内径0.25mm 膜厚0.25μm
・カラム温度:40℃で2分間経過後、10℃/minで昇温し、300℃で15分間保持する
・キャリアガス:ヘリウム(He)
・キャリアガス制御モード:圧力一定モード
・カラム入口圧:80kPa(注入時カラム線速度43.4cm/sec)
・パージ流量:3.0mL/min
・注入口温度:320℃
・注入方法:スプリット注入法
・スプリット比:30
[MS部]
・イオン源温度:250℃
・インターフェース温度:320℃
・測定モード:SCANモード
・測定質量範囲(SCAN):m/z30-550
・イベント時間:0.5sec
・イオン化法:電子イオン化法(EI法)
・イオン化電圧:70eV
【0055】
<フィルタA>
第1の基材を長尺状の平板濾材とし、第2の基材を長尺状の波板濾材とし、後述の接着剤を用いて、長尺状の平板濾材と長尺状の波板濾材とを重ねたものを長手方向に巻回したロール状のフィルタAを作製した。ロール状のフィルタAの作製方法は上述の<第1の基材>及び<積層体>の項目に記載したとおりである。第1の基材は、セルロース、フェノール系樹脂、及びポリエチレンテレフタレートを含んでおり、基材中に含まれるポリエチレンテレフタレートの質量は38質量%である。また、第1の基材は、熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件1での保持時間が12.0分以上19.1分未満の脂肪族炭化水素(A1)を0.92質量%含み、保持時間が19.1分以上30.0分以下の脂肪族炭化水素(A2)を0.70質量%含んでおり、測定条件2でのフェノール系樹脂の分解物は0.06質量%である。第2の基材は、第1の基材と同じであり、波型ローラにより第1の基材である平板濾材を波状に成形することによって得たものである。接着剤は、ブチレンテレフタレートユニットを71モル%、ブチレンイソフタレートユニットを29モル%含んでおり、接着剤の酸価は37eq/ton、ガラス転移温度は27℃、融点は176℃、比重は1.30、還元粘度は0.73dl/gであった。
【0056】
<フィルタB>
第1の基材を長尺状の平板濾材とし、第2の基材を長尺状の波板濾材とし、後述の接着剤を用いて、長尺状の平板濾材と長尺状の波板濾材とを重ねたものを長手方向に巻回したロール状のフィルタAを作製した。ロール状のフィルタAの作製方法は上述の<積層体>の項目に記載したとおりである。第1の基材は、セルロース、フェノール系樹脂、及びポリエチレンテレフタレートを含んでおり、基材中に含まれるポリエチレンテレフタレートの質量は50質量%である。また、第1の基材には、熱分解-ガスクロマトグラフ質量分析(PY-GC/MS)の測定条件1での保持時間が12.0分以上30.0分未満の脂肪族炭化水素(A)は含まれておらず、測定条件2でのフェノール系樹脂の分解物は0.13質量%である。第2の基材は、第1の基材と同じであり、波型ローラにより第1の基材である平板濾材を波状に成形することによって得たものである。接着剤は、ブチレンテレフタレートユニットを71モル%、ブチレンイソフタレートユニットを29モル%含んでおり、接着剤の酸価は37eq/ton、ガラス転移温度は27℃、融点は176℃、比重は1.30、還元粘度は0.73dl/gであった。
【0057】
<質量変化率の測定>
厚み1.5mmのフィルタAを1cm×3.5cmのサイズに切り出した後、23℃、55%RHの恒温恒湿下で12時間静置した後、精密天秤でフィルタAの試験片の質量を測定した(約0.21g)。その後、23℃の室温にてフィルタAの試験片の一端(1cm長さ面)を、内径6cmφのプラスチック容器に入れた10mlの灯油に浸漬させ、他端に灯油が染みわたるまでの時間をストップウォッチで計測した。上記試験後、フィルタAの試験片を取り出して紙製ワイパーで表面の灯油を軽く拭いた後、精密天秤で質量測定を行い、試験前からの質量変化率(質量増加率)を以下の式で算出した。
質量変化率(%)=100×(灯油浸漬後のフィルタの質量(g)-灯油浸漬前のフィルタの質量(g))/灯油浸漬前のフィルタの質量(g)
【0058】
また、上記浸漬終了時点から15分経過後、2時間経過後、21時間経過後、24時間経過後においても質量変化率の算出を行った。
【0059】
フィルタBについても上記と同様に質量変化率の測定を行った。
【0060】
フィルタA及びBの質量変化率を以下の表1で整理する。
【0061】
【0062】
フィルタの一端から他端に灯油が染み渡るまでの時間は、フィルタAが11.00秒であるのに対し、フィルタBは13.72秒とフィルタAの方が短いことがわかった。また、浸漬終了直後の質量変化率(質量増加率)はフィルタAが152%であるのに対し、フィルタBが100%であり、フィルタAの方が質量変化率が大きいこともわかった。以上のことから、フィルタAの方がフィルタBよりも、灯油との親和性が高く、短時間で灯油を吸収することがわかる。
【0063】
また、浸漬終了から15分後、2時間後、21時間後、24時間後の質量変化率からフィルタAはフィルタBよりも吸収した灯油を短時間で徐放することがわかった。以上より、フィルタAを用いることで、高効率に灯油を濾過できることがわかった。