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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】車両の操舵支援装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20250409BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20250409BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20250409BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20250409BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D119:00
B62D137:00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019126410
(22)【出願日】2019-07-05
(65)【公開番号】P2021011190
(43)【公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-03-29
【審判番号】
【審判請求日】2024-03-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青山 裕紀
【合議体】
【審判長】八木 誠
【審判官】中尾 麗
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-214680号公報(JP,A)
【文献】特開2016-203897号公報(JP,A)
【文献】国際公開第2018/143408(WO,A1)
【文献】特開2003-237607号公報(JP,A)
【文献】特開2018-30406(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
B62D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のハンドル操作による操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、
前記操舵トルクに対するアシスト操舵トルクを算出するアシスト操舵トルク算出手段と、
運転者のハンドル操舵とは独立して操舵支援制御を行うための目標操舵トルクを算出する目標操舵トルク算出手段と、
記アシスト操舵トルク算出手段アクティブ状態非アクティブ状態とを切り替えアシスト操舵トルク出力制御手段と、
前記目標操舵トルク算出手段からの出力と前記アシスト操舵トルク出力制御手段からの出力とに基づいてEPSモータを駆動するためのEPSトルクを設定するEPSトルク設定手段と、
運転者によるハンドルに対する保舵状態を検出する保舵検出手段と、
前記目標操舵トルク算出手段のアクティブ状態と非アクティブ状態との切替判定を行う操舵支援実行判定手段と、
を備え、
前記アシスト操舵トルク出力制御手段は、前記目標操舵トルク算出手段がアクティブ状態であり、かつ前記保舵検出手段によって運転者が前記ハンドルを保舵した状態が検出されていない場合には、前記目標操舵トルク算出手段のアクティブ状態を維持して前記目標操舵トルク算出手段により算出された前記目標操舵トルクの前記EPSトルク設定手段への入力を許可したまま、前記アシスト操舵トルク算出手段を非アクティブ状態として前記アシスト操舵トルク算出手段により算出された前記アシスト操舵トルクの前記EPSトルク設定手段への入力を禁止することにより、前記EPSトルク設定手段に、前記目標操舵トルクに相当する値を前記EPSトルクとして設定させ、
前記アシスト操舵トルク出力制御手段は、前記目標操舵トルク算出手段がアクティブ状態であり、かつ前記保舵検出手段によって前記運転者が前記ハンドルを保舵した状態が検出されている場合には、前記目標操舵トルク算出手段のアクティブ状態を維持して前記目標操舵トルク算出手段により算出された前記目標操舵トルクの前記EPSトルク設定手段への入力を許可したまま、前記アシスト操舵トルク算出手段を非アクティブ状態からアクティブ状態へと切り替えて前記アシスト操舵トルク算出手段により算出された前記アシスト操舵トルクの前記EPSトルク設定手段への入力を許可することにより、前記EPSトルク設定手段に、前記目標操舵トルクに前記アシスト操舵トルクを加算した値を前記EPSトルクとして設定させ、
前記操舵支援実行判定手段は、運転者が前記ハンドルを保舵した状態において、操舵トルク検出手段により設定値以上の操舵トルクが検出されたとき、前記目標操舵トルク算出手段をアクティブ状態から非アクティブ状態へと切り替えることを特徴とする車両の操舵支援装置。
【請求項2】
前記アシスト操舵トルク出力制御手段は、前記アシスト操舵トルク算出手段がアクティブ状態から非アクティブ状態に切り替わる際には、出力を零まで漸減させ、前記アシスト操舵トルク算出手段が非アクティブ状態からアクティブ状態に切り替わる際には、出力を零から前記アシスト操舵トルク算出手段が算出した前記アシスト操舵トルクまで漸増させることを特徴とする請求項1に記載の車両の操舵支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転支援制御が非アクティブ状態にあるとき、運転者によるステアリングの操舵に応じたアシスト操舵トルクをステアリング系に付与する車両の操舵支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、運転者がステアリングを操作した際の操舵力を、電動モータにより発生させたアシスト操舵トルクによって補助する、いわゆる電動パワーステアリング装置(EPS)が知られている。
【0003】
又、車線の所定位置(例えば、車線中央)を目標走行軌跡として設定し、車両が目標走行位置に沿って走行するように電動モータにより目標操舵トルクを発生させて、操舵支援を行う車線維持支援(ALK)制御も知られている。
【0004】
近年、操舵支援装置では、運転者がステアリングから手を離した状態であっても操舵支援制御のアクティブ状態を維持することが可能となっている。そして、このような運転支援装置では、運転者がステアリングを把持して所定以上の操舵トルクをステアリング系に付与したとき、オーバーライドを判定して操舵支援制御を非アクティブ状態へと遷移させ、ステアリング系に電動パワーステアリング制御によるアシスト操舵トルクのみを付与する。
【0005】
ところで、車線維持支援(ALK)制御等の操舵支援制御においても、電動モータを駆動させる際に、ハンドル側のステアリング系が同時に回動するので、操舵トルクセンサは、当該ステアリング系の摩擦力(静止摩擦力)の影響を受ける。すなわち、目標操舵トルクがステアリング系に伝達されると、当該ステアリング系の静止摩擦力の影響によって、操舵トルクセンサが操舵支援制御による操舵方向とは逆方向のトルク値を、運転者による操舵トルクとして検出する。そして、このようなトルク値が検出されると、操舵支援制御において算出される目標操舵トルクを相殺する方向のアシスト操舵トルクが、電動パワーステアリング制御において算出される。
【0006】
このような操舵支援制御時における不要なアシスト操舵トルクの発生を防止して、操舵支援制御時の制御性を向上するため、例えば、特許文献1には、操舵支援制御がアクティブ状態となってから、オーバーライドを判定するまでの間、電動パワーステアリング制御を実質的に非アクティブ状態とする技術が開示されている。ここで、特許文献1の技術では、運転者のハンドル操作により操舵トルクセンサが検出した操舵トルクと、操舵角センサで検出した操舵角及び車速センサで検出した車速からマップ参照等により設定した操舵反力トルクとを比較し、操舵トルクが操舵反力トルクを超えている場合にオーバーライドと判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-171224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述の特許文献1に開示された技術のように、運転支援制御がアクティブ状態となってからオーバーライドを判定するまでの間の電動パワーステアリング制御を非アクティブ状態とした場合、運転者がステアリング操作を開始してからオーバーライドが判定されるまでの間、運転者のハンドル操作に対するアシスト操舵トルクが発生しないため、ハンドル操作が一時的に重くなり、操舵フィーリングが悪化する虞がある。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、操舵支援制御の制御性と運転者の操舵フィーリングとを両立することができる車両の操舵支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様による車両の操舵支援装置は、運転者のハンドル操作による操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段と、前記操舵トルクに対するアシスト操舵トルクを算出するアシスト操舵トルク算出手段と、運転者のハンドル操舵とは独立して操舵支援制御を行うための目標操舵トルクを算出する目標操舵トルク算出手段と、記アシスト操舵トルク算出手段アクティブ状態非アクティブ状態とを切り替えアシスト操舵トルク出力制御手段と、前記目標操舵トルク算出手段からの出力と前記アシスト操舵トルク出力制御手段からの出力とに基づいてEPSモータを駆動するためのEPSトルクを設定するEPSトルク設定手段と、運転者によるハンドルに対する保舵状態を検出する保舵検出手段と、前記目標操舵トルク算出手段のアクティブ状態と非アクティブ状態との切替判定を行う操舵支援実行判定手段と、を備え、前記アシスト操舵トルク出力制御手段は、前記目標操舵トルク算出手段がアクティブ状態であり、かつ前記保舵検出手段によって運転者が前記ハンドルを保舵した状態が検出されていない場合には、前記目標操舵トルク算出手段のアクティブ状態を維持して前記目標操舵トルク算出手段により算出された前記目標操舵トルクの前記EPSトルク設定手段への入力を許可したまま、前記アシスト操舵トルク算出手段を非アクティブ状態として前記アシスト操舵トルク算出手段により算出された前記アシスト操舵トルクの前記EPSトルク設定手段への入力を禁止することにより、前記EPSトルク設定手段に、前記目標操舵トルクに相当する値を前記EPSトルクとして設定させ、前記アシスト操舵トルク出力制御手段は、前記目標操舵トルク算出手段がアクティブ状態であり、かつ前記保舵検出手段によって前記運転者が前記ハンドルを保舵した状態が検出されている場合には、前記目標操舵トルク算出手段のアクティブ状態を維持して前記目標操舵トルク算出手段により算出された前記目標操舵トルクの前記EPSトルク設定手段への入力を許可したまま、前記アシスト操舵トルク算出手段を非アクティブ状態からアクティブ状態へと切り替えて前記アシスト操舵トルク算出手段により算出された前記アシスト操舵トルクの前記EPSトルク設定手段への入力を許可することにより、前記EPSトルク設定手段に、前記目標操舵トルクに前記アシスト操舵トルクを加算した値を前記EPSトルクとして設定させ、前記操舵支援実行判定手段は、運転者が前記ハンドルを保舵した状態において、操舵トルク検出手段により設定値以上の操舵トルクが検出されたとき、前記目標操舵トルク算出手段をアクティブ状態から非アクティブ状態へと切り替えるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両の操舵支援装置によれば、操舵支援制御の制御性と運転者の操舵フィーリングとを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】操舵支援装置を搭載する車両の概略構成図
図2】操舵支援装置の機能ブロック図
図3】EPSトルク設定ルーチンを示すフローチャート(その1)
図4】EPSトルク設定ルーチンを示すフローチャート(その2)
図5】(a)はトルクセンサによって検出されるトルクセンサ値のタイムチャート、(b)は操舵角センサによって検出される操舵角のタイムチャート、(c)はアシスト操舵トルク算出部において算出されるアシスト操舵トルクのタイムチャート
図6】(a)は目標操舵トルク算出部において算出される目標操舵トルクのタイムチャート、(b)は操舵角センサによって検出される操舵角のタイムチャート、(c)はトルクセンサによって検出されるトルクセンサ値のタイムチャート、(d)はアシスト操舵トルク算出部において算出されるアシスト操舵トルクのタイムチャート
図7】(a)は保舵検出センサによって検出される保舵検出センサ値のタイムチャート、(c)は出力制御後のアシスト操舵トルクのタイムチャート、(d)は目標操舵トルク算出部において算出される目標操舵トルクのタイムチャート、(e)は操舵角センサにおいて検出される操舵角のタイムチャート
図8】比較例に係り、(a)は保舵検出センサによって検出される保舵検出センサ値のタイムチャート、(c)はアシスト操舵トルクのタイムチャート、(d)は目標操舵トルク算出部において算出される目標操舵トルクのタイムチャート、(e)は操舵角センサにおいて検出される操舵角のタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。尚、以下においては、操舵支援制御としてALK制御を例示して説明する。
【0014】
図1において、車両(自車両)1は、左右前輪FL,FRと左右後輪RL,RRとを有し、この左右前輪FL,FRが駆動輪であり、ラック&ピニオン機構等のステアリング機構2にタイロッド3を介して連設されている。又、このステアリング機構2に、先端にハンドル4を固設するステアリング軸5が連設されている。運転者がハンドル4を操作すると、ステアリング機構2を介して前輪FL,FRが転舵される。
【0015】
又、ステアリング軸5に電動パワーステアリング(EPS)装置6のEPSモータ7が、図示しない伝達機構を介して連設されている。EPS装置6はEPSモータ7とEPS制御ユニット(EPS_ECU)8とを有しており、このEPS_ECU8にて、EPSモータ7がステアリング軸5に付加するアシストトルク(EPSトルク)を制御する。このEPS_ECU8は、例えば、CAN(Controller Area Network)通信等を用いた車内ネットワークを介して、DSS_ECU11と接続されている。
【0016】
このEPS_ECU8は、DSS_ECU11からの駆動信号に従い、基本的には、操舵支援制御が非アクティブ状態のときは運転者がハンドル4に加える操舵トルクをアシストするアシストトルクを設定する。一方、ALK制御がアクティブ状態のときは、DSS_ECU11にて設定したアシストトルクに対応する指令信号がEPS_ECU8に送信され、EPS_ECU8にてEPSモータ7に所定のアシストトルクを発生させて、自車両1が、後述する目標進行軌跡(例えば、車線中央)をトレースして走行するように制御する。尚、図示しないが、車内ネットワークには、EPS_ECU8、DSS_ECU11以外に、エンジン制御ユニット、変速機制御ユニット、ブレーキ制御を含む車両操安定制御(VDC:Vehicle Dynamics Control)ユニット等、自車両1の走行状態を制御するユニット類が相互通信自在に接続されており、これら制御ユニットは、例えば、CPU、RAM、ROM等を備えたマイクロコンピュータを主体に構成されている。
【0017】
DSS_ECU11には、ALK制御を行う際に必要とする各種パラメータとして、ステアリング軸5に取り付けられてハンドル4の操舵角である操舵角を検出する操舵角センサ12、自車両1に作用するヨーレートを検出するヨーレートセンサ13、車速を検出する車速センサ14、EPSモータ7の回転角を検出するEPSモータ回転角センサ15、及び、ステアリング軸5に介装されているトーションバ5aの捩れ角から、運転者がハンドル4に加える操舵トルクを検出する操舵トルク検出手段としての操舵トルクセンサ16、ハンドル4に設けられたタッチセンサ等によって構成され、運転者がハンドルを保舵していることを検出する保舵検出手段としての保舵検出センサ17等、自車両1の挙動を検出するセンサ類からの信号が受信される。
【0018】
一方、符号21は前方認識装置であり、例えば、CPU、RAM、ROM等を備えたマイクロコンピュータを主体に構成されていると共に、メインカメラ22aとサブカメラ22bとからなるステレオカメラで構成された車載カメラを有し、この車載カメラ22で撮像した画像を画像処理して、ALK制御に必要な画像情報を生成する。
【0019】
両カメラ22a,22bは、例えば車内前部であって、フロントガラスに近接する位置の車幅方向中央から左右に等間隔を開けて水平な状態で設置されている。又、この各カメラ22a,22bにCCDやCMOS等の撮像素子が設けられており、この両撮像素子によって自車両が走行している走行レーンを含む進行方向前方の走行環境の三次元画像が撮影される。尚、本実施形態では、車載カメラ22で撮影した画像データに基づいて、自車両1の走行車線や先行車を含む立体物、障害物等を認識するものである。従って、これらを認識できるものであれば、車載カメラ22に代えて、ミリ波レーダ、赤外線レーザレーダ等を採用してもよく、更には、これらとの組み合わせであっても良い。
【0020】
前方認識装置21は、各カメラ22a,22bで撮影した一対のアナログ画像を所定輝度階調のデジタル画像に変換し、メインカメラ22aの出力信号から基準画像データを生成し、又、サブカメラ22bの出力信号から比較画像データを生成する。そして、この基準画像データ及び比較画像データとの視差に基づいて両画像中の同一対象物の三次元情報、すなわち自車両から対象物までの距離を算出する。前方認識装置21は、生成された画像データに基づき左右区画線を認識し、その区画線間の幅(斜線幅)Wを算出する。尚、車載カメラ22は単眼カメラであっても良く、この場合、周知のモーションステレオ法等を用いて三次元情報を得ることができる。
【0021】
図2に示すように、DSS_ECU11はALK制御を実行する機能として、パワーステアリングアシスト制御部(以下、「PSA制御部」と称する)31、操舵支援制御部32、アシスト操舵トルク出力制御手段としてのアシスト操舵トルク出力制御部33、及びEPSトルク設定手段としてのトルク加算部34を備えている。
【0022】
更に、PSA制御部31は、アシスト操舵トルク算出手段としてのアシスト操舵トルク算出部31aを有して構成されている。一方、操舵支援制御部32は、目標操舵角算出部32aと、目標操舵トルク算出手段としての目標操舵トルク算出部32bと、操舵支援実行判定手段としての操舵支援実行判定部32cと、を有して構成されている。
【0023】
PSA制御部31のアシスト操舵トルク算出部31aは、車速センサ14で検出した自車両1の車速、及び操舵トルクセンサ16で検出した操舵トルク(トルクセンサ値)、EPSモータ回転角センサ15で検出したEPSモータ7の回転角に基づき、運転者のハンドル操作に応じたアシスト制御量としてのアシスト操舵トルクを算出する。
【0024】
又、操舵支援制御部32は、自車両1前方の走行車線に設定した目標走行軌跡に沿って自車両1が走行するように操舵支援制御(ALK制御)を行うものであり、目標操舵角算出部32aは、前方認識装置21からの画像データ、車速センサ14で検出した自車両1の車速、ヨーレートセンサ13で検出したヨーレートに基づき、自車両1が目標走行軌跡に沿って走行するのに必要な目標操舵角を算出する。
【0025】
又、目標トルク算出部32bは、目標操舵角算出部32aで算出した目標操舵角に対応してEPSモータ7を駆動させるための目標操舵トルクを算出する。
【0026】
更に、操舵支援実行判定部32cは、例えば、ハンドル4に設けられた図示しない操舵支援制御スイッチが運転者によってオンされたとき、操舵支援制御(ALK制御)の実行を開始する旨の判定を行う。一方、操舵支援実行判定部32cは、操舵支援制御の実行中において、運転者がハンドル4を保舵していることを保舵検出センサ17が検出しているとき、操舵トルクセンサ16で検出した運転者のハンドル操作に伴う操舵トルクと、操舵角センサ12で検出した操舵角及び車速センサ14で検出した車速に基づいて設定した操舵反力トルクとを比較する。そして、操舵トルクが操舵反力トルクを上回っている場合に、オーバーライドと判定して操舵支援制御(ALK制御)の実行を禁止する旨の判定を行う。
【0027】
一方、アシスト操舵トルク出力制御部33は、ALK制御中か否か、或いは、ALK制御中であっても運転者によりハンドル4が保舵されているか否かを調べ、それらの結果に基づいて、アシスト操舵トルクをアクティブ、或いは、非アクティブに設定する。
【0028】
尚、上述したアシスト操舵トルク算出部31a、目標操舵角算出部32a、目標操舵トルク算出部32b、操舵支援実行判定部32cでの演算は周知であるため詳細な説明は省略する。
【0029】
DSS_ECU11において設定されるEPSトルクは、具体的には、図3,4に示すEPSトルク設定ルーチンに従って設定される。
【0030】
このルーチンでは、設定時間毎に繰り返し実行されるものであり、ルーチンがスタートすると、DSS_ECU11は、先ず、EPSトルクを算出する際に必要とするパラメータを、各センサ12~17からのセンサ信号から検出する。
【0031】
次いで、ステップS102に進み、DSS_ECU11は、例えば、車速センサ14で検出した自車両1の車速、操舵トルクセンサ16で検出した操舵トルク、EPSモータ回転角センサ15で検出したEPSモータ7の回転角に基づき、運転者のハンドル操作に対するアシスト操舵トルクを算出する。なお、このステップS102は、アシスト操舵トルク算出部31aで実行される処理に対応している。
【0032】
一方、ステップS101からステップS103に進むと、DSS_ECU11は、操舵角センサ12で検出した操舵角、ヨーレートセンサ13で検出したヨーレート、及び、車速センサ14で検出した車速に基づき自車両1の走行状態を推定し、又、前方認識装置21で取得した画像データから自車両1前方の走行車線状態を推定する。そして、DSS_ECU11は、これら自車両1の走行状態及び自車両1前方の走行車線状態に基づいて、目標操舵角を算出する。なお、このステップS103は、目標操舵角算出32aで実行される処理に対応している。
【0033】
次いで、ステップS104に進み、DSS_ECU11は、例えば、フィードバック制御等により、操舵角センサ12で検出した操舵角を目標操舵角に収束させるための目標操舵トルクを算出する。なお、このステップS104は、目標操舵トルク算出部32bで実行される処理に対応している。
【0034】
次いで、ステップS105に進み、DSS_ECU11は、操舵支援制御の作動判断を行う。すなわち、DSS_ECU11は、例えば、ハンドル4に設けられた操舵支援制御スイッチが運転者によってオンされたとき、操舵支援制御の実行を開始する旨の判定(運転支援制御をアクティブとする旨の判定)を行う。一方、DSS_ECU11は、操舵支援制御の実行中において、運転者がハンドル4を保舵していることを保舵検出センサ17が検出しているとき、操舵トルクセンサ16で検出した運転者のハンドル操作に伴う操舵トルクと、操舵角センサ12で検出した操舵角及び車速センサ14で検出した車速に基づいて設定した操舵反力トルクとを比較する。そして、操舵トルクが操舵反力トルクを上回っている場合に、オーバーライドと判定して操舵支援制御の実行を禁止する旨の判定(運転支援制御を非アクティブとする旨の判定)を行う。なお、このステップS105は、操舵支援実行判定部32cで実行される処理に対応している。
【0035】
次いで、ステップS106に進み、DSS_ECU11は、現在、操舵支援制御がアクティブ状態にあるか否かの判定を行う。
【0036】
そして、DSS_ECU11は、ステップS106において、操舵支援制御が非アクティブ状態にないと判定した場合には、ステップS108にジャンプする。
【0037】
一方、DSS_ECU11は、ステップS106において、操舵支援制御がアクティブ状態にあると判定した場合には、ステップS107に進み、ステップS104において算出した目標操舵トルクを出力した後、ステップS108に進む。なお、ステップS104、ステップS106、及び、ステップS107は、目標操舵トルク算出部32bで実行される処理に対応している。
【0038】
ステップS102、ステップS106、或いは、ステップS107からステップS08に進むと、DSS_ECU11は、上述のステップS105における判断に基づき、現在、操舵支援制御がアクティブ状態にあるか否かの判定を行う。
【0039】
そして、DSS_ECU11は、ステップS108において、操舵支援制御が非アクティブ状態にないと判定した場合には、ステップS117に進む。
【0040】
一方、DSS_ECU11は、ステップS108において、操舵支援制御がアクティブ状態にあると判定した場合には、ステップS109に進み、保舵検出センサ17からの信号に基づき、現在、運転者がハンドル4を保舵中であるか否かを調べる。なお、このステップS108から以下に示すステップS123までは、アシスト操舵トルク出力制御部33で実行される処理に対応している。
【0041】
そして、DSS_ECU11は、ステップS109において、運転者が保舵中であると判定した場合にはステップS117に進み、運転者が保舵中ではないと判定した場合にはステップS110に進む。
【0042】
ステップS109からステップS110に進むと、DSS_ECU11は、例えば、アシスト操舵トルク算出部31aからアシスト操舵トルク出力制御部33へのアシスト操舵トルクの入力を禁止することでアシスト操舵トルク制御を非アクティブ状態とする。
【0043】
次いで、ステップS111に進み、DSS_ECU11は、アシスト操舵トルク制御が非アクティブ状態となった後の過渡時において出力するアシスト操舵トルクを漸減処理するためのフラグFdecが「1」にセットされているか否かを調べる。
【0044】
そして、DSS_ECU11は、ステップS111において、フラグFdecが「1」にセットされていると判定した場合にはステップS112に進み、フラグFdecが「0」にクリアされていると判定した場合にはステップS124にジャンプする。
【0045】
ステップS111からステップS112に進むと、DSS_ECU11は、現在、アシスト操舵トルク制御がアクティブ状態から非アクティブ状態に切り替わった直後であるか否かを調べる。
【0046】
そして、DSS_ECU11は、ステップS112において、非アクティブ状態に切り替わった直後でないと判定した場合には、ステップS114にジャンプする。
【0047】
一方、DSS_ECU11は、ステップS112において、非アクティブ状態に切り替わった直後であると判定した場合には、ステップS113に進み、フラグFdecを「1」にセットした後、ステップS114に進む。
【0048】
ステップS112、或いは、ステップS113からステップS114に進むと、DSS_ECU11は、前回のアシスト操舵トルクを予め設定された漸減レートを用いて減少させる漸減処理を行う。
【0049】
次いで、DSS_ECU11は、ステップS115において、アシスト操舵トルクに対する漸減処理が終了したか否かを調べる。
【0050】
そして、DSS_ECU11は、ステップS115において、漸減処理が終了していないと判定した場合には、ステップS124にジャンプする。
【0051】
一方、DSS_ECU11は、ステップS115において、漸減処理が終了したと判定した場合には、ステップS116に進み、フラグFdecを「0」にクリアした後、ステップS124に進む。なお、本判定では、例えば、アシスト操舵トルクが零となったとき、漸減処理が終了したと判定する。
【0052】
また、ステップS108、或いは、ステップS109からステップS117に進むと、DSS_ECU11は、例えば、アシスト操舵トルク算出部31aからアシスト操舵トルク出力制御部33へのアシスト操舵トルクの入力を許可することでアシスト操舵トルク制御をアクティブ状態とする。
【0053】
次いで、ステップS118に進み、DSS_ECU11は、アシスト操舵トルク制御がアクティブ状態となった後の過渡時において出力するアシスト操舵トルクを漸増処理するためのフラグFincが「1」にセットされているか否かを調べる。
【0054】
そして、DSS_ECU11は、ステップS118において、フラグFincが「1」にセットされていると判定した場合にはステップS119に進み、フラグFincが「0」にクリアされていると判定した場合にはステップS124にジャンプする。
【0055】
ステップS118からステップS119に進むと、DSS_ECU11は、現在、アシスト操舵トルク制御が非アクティブ状態からアクティブ状態に切り替わった直後であるか否かを調べる。
【0056】
そして、DSS_ECU11は、ステップS119において、アクティブ状態に切り替わった直後でないと判定した場合には、ステップS121にジャンプする。
【0057】
一方、DSS_ECU11は、ステップS119において、アクティブ状態に切り替わった直後であると判定した場合には、ステップS120に進み、フラグFincを「1」にセットした後、ステップS121に進む。
【0058】
ステップS119、或いは、ステップS120からステップS121に進むと、DSS_ECU11は、前回のアシスト操舵トルクを予め設定された漸増レートを用いて増加させる漸増処理を行う。
【0059】
次いで、DSS_ECU11は、ステップS122において、アシスト操舵トルクに対する漸増処理が終了したか否かを調べる。
【0060】
そして、DSS_ECU11は、ステップS122において、漸増処理が終了していないと判定した場合には、ステップS124にジャンプする。
【0061】
一方、DSS_ECU11は、ステップS122において、漸増処理が終了したと判定した場合には、ステップS123に進み、フラグFincを「0」にクリアした後、ステップS124に進む。なお、本判定では、例えば、漸増されたアシスト操舵トルクがアシスト操舵トルク算出部31aから入力されるアシスト操舵トルクと一致したとき、漸増処理が終了したと判定する。
【0062】
ステップS111、ステップS115、ステップS116、ステップS118、ステップS122、或いは。ステップS123からステップS124に進むと、DSS_ECU11は、目標操舵トルク算出部32bから出力された目標操舵トルクと、アシスト操舵トルク出力制御部33から出力されたアシスト操舵トルクと、を加算した値を最終的なアシストトルク(EPSトルク)として出力した後、ルーチンを抜ける。なお、ステップS124は、トルク加算部34で実行される処理に対応している。
【0063】
すなわち、ステップS111からステップS124に進んだ場合、目標操舵トルク算出部32bから出力される目標操舵トルクが、そのままEPSトルクとして出力される。
【0064】
又、ステップS116からステップS124に進んだ場合、目標操舵トルク算出部32bから出力される目標操舵トルクに、アシスト操舵トルク制御が非アクティブとなる直前のアシスト操舵トルクを漸減処理した値を加算した値が、EPSトルクとして出力される。
【0065】
又、ステップS115からステップS124に進んだ場合、目標操舵トルク算出部32bから出力される目標操舵トルクに、従前のアシスト操舵トルクを漸減処理した値を加算した値が、EPSトルクとして出力される。
【0066】
又、ステップS118からステップS124に進んだ場合、目標操舵トルク算出部32bから出力される目標操舵トルクに、アシスト操舵トルク算出部31aから出力されるアシスト操舵トルクを加算した値が、EPSトルクとして出力される。
【0067】
又、ステップS123からステップS124に進んだ場合、目標操舵トルク算出部32bから出力される目標操舵トルクに、アシスト操舵トルク(=零)を漸増した値が、EPSトルクとして出力される。
【0068】
又、ステップS122からステップS124に進んだ場合、目標操舵トルク算出部32bから出力される目標操舵トルクに、従前のアシスト操舵トルクを漸増処理した値を減算した値が、EPSトルクとして出力される。
【0069】
次に、図5図7を参照し、上述のEPSトルク設定ルーチンにおいて設定される各トルクについて説明する。
【0070】
例えば、目標操舵トルク算出部32bが非アクティブ状態にある場合、アシスト操舵トルク算出部31aでは、運転者による操舵トルク(トルク出力値:図5(a)参照))及び操舵角(図5(b)参照)に応じた、アシスト操舵トルク(図5(c)参照)が算出される。
【0071】
又、例えば、目標操舵トルク算出部32bがアクティブ状態にある場合、目標操舵トルク算出部32bでは、操舵角センサにおいて検出される操舵角(図6(b)参照)を目標操舵角に収束させるための目標操舵トルク(図6(a)参照)が算出される。そして、このような目標操舵トルクによって操舵制御された場合、ステアリング系の静止摩擦力の影響を受けて、操舵トルクセンサ16では操舵支援制御による操舵方向とは逆方向の操舵トルク(トルクセンサ値)が検出される(図6(b)参照)。これにより、アシスト操舵トルク算出部31aでは、目標操舵トルクを打ち消す方向の操舵アシストトルクが算出される(図6(c)参照)。
【0072】
このようにアシスト操舵トルク算出部31aにおいて算出されるアシスト操舵トルクに対し、本実施形態では、アシスト操舵トルク出力制御部33における出力制御が行われることにより、操舵支援制御の制御性と、運転者の操舵フィーリングの両立を図ることができる。
【0073】
すなわち、例えば、運転者によってハンドル4が保舵されており(図7(a)参照)、且つ、目標操舵トルク算出部32bが非アクティブな状態であるタイミングt1からt2までの区間では、操舵トルクセンサ16によって検出される操舵トルク(図7(b)参照)に応じてアシスト操舵トルク算出部31aで算出されるアシスト操舵トルクが、出力制御後のアイスと操舵トルクとしてそのまま出力される(図7(c)参照)。
【0074】
又、運転者の手がハンドル4から離され(図7(a)参照)、且つ、目標操舵トルク算出部32bがアクティブ状態(図7(d)参照)であるタイミングt2からt3までの区間では、アシスト操舵トルク算出部31aは非アクティブ状態となり、出力制御後のアシスト操舵トルクは、漸減処理された後、零のまま維持される(図7(c)参照)。これにより、目標操舵トルクとアシスト操舵トルクとの干渉を防止することができ、操舵支援制御の制御性を向上することができる。
【0075】
又、目標操舵トルク算出部32bがアクティブ状態(図7(d)参照)である場合において、運転者によってハンドル4が保舵された(図7(a)参照)タイミングt3において、アシスト操舵トルク算出部31aは再びアクティブ状態となり、出力制御後のアシスト操舵トルクは、アシスト操舵トルク算出部31aによって算出されたアシスト操舵トルクまで漸増される(タイミングt3からタイミングt4参照)。その後のタイミングt4以降において、出力制御後のアシスト操舵トルクは、アシスト操舵トルク算出部31aで算出されたアシスト操舵トルクがそのまま出力される(タイミングt4以降参照)。これにより、運転者がハンドル4を操舵した場合にも、アシスト操舵トルクが出力されないことによる一時的なハンドル操作の重さが解消される。
【0076】
更に、オーバーライドが判定されると(タイミングt5参照)、目標操舵トルクが非アクティブ状態となる。
【0077】
なお、図8の比較例に示すように、アシスト操舵トルクがそのまま出力される場合には、操舵支援制御時において、目標操舵トルクとアシスト操舵トルクが干渉することとなる。
【0078】
このような実施形態によれば、目標操舵トルク算出部32bがアクティブ状態であるとき、アシスト操舵トルク出力制御部33により、アシスト操舵トルク算出部31aをアクティブ状態から非アクティブ状態へと切り替えてアシスト操舵トルクの出力を制限する一方、目標操舵トルク算出部32bがアクティブ状態であっても、運転者がハンドル4を保舵した状態が検出されている場合には、アシスト操舵トルク出力制御部33により、アシスト操舵トルク算出部31aを非アクティブ状態からアクティブ状態へと切り替えることにより、操舵支援制御の制御性と運転者の操舵フィーリングとを両立することができる。
【0079】
なお、本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の技術的範囲内である。
【符号の説明】
【0080】
1 … 自車両
2 … ステアリング機構
3 … タイロッド
4 … ハンドル
5 … ステアリング軸
5a … トーションバ
6 … 電動パワーステアリング装置
7 … EPSモータ
8 … EPS_ECU
11 … DSS_ECU
12 … 操舵角センサ
13 … ヨーレートセンサ
14 … 車速センサ
15 … EPSモータ回転角センサ
16 … 操舵トルクセンサ
17 … 保舵検出センサ
21 … 前方認識装置
22 … 車載カメラ
22a … メインカメラ
22b … サブカメラ
31 … PSA制御部
31a … アシスト操舵トルク算出部
32 … 操舵支援制御部
32a … 目標操舵角算出部
32b … 目標操舵トルク算出部
32c … 操舵支援実行判定部
33 … アシスト操舵トルク出力制御部
34 … トルク加算部
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8