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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20250409BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20250409BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20250409BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20250409BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20250409BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0585
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020098796
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021192354
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 敦
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-087402(JP,A)
【文献】特開2005-353309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00 - 4/62
H01M 10/05 -10/0587
H01G 11/00 -11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質層と、前記固体電解質層に積層されるとともに、充電時に前記固体電解質層との間に金属リチウムが析出することで負極リチウム金属層が形成される負極と、を含む全固体電池であって、
前記負極は、前記金属リチウムに対する濡れ性が前記固体電解質層と異なる析出調整層を有し、
前記析出調整層は、
膜状に構成されて前記固体電解質層に施され、前記金属リチウムに対する濡れ性が前記固体電解質層よりも高い高濡れ性層によって構成され、
外周の少なくとも一部に凹凸部が形成され
前記凹凸部における凸部は、充電時における前記金属リチウムの延伸に起因して前記固体電解質層に生じる応力を分散させる傾斜形状又は湾曲形状に形成される、
全固体電池。
【請求項2】
請求項に記載の全固体電池であって、
前記凹凸部における凹部の幅及び凸部の長さが、前記固体電解質層を構成する固体電解質粒子の径以上に構成される、
全固体電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の全固体電池であって、
正極面の存在範囲が、前記高濡れ性層の前記凹凸部における凹部よりも内側に収まる、
全固体電池。
【請求項4】
請求項の何れか1項に記載の全固体電池であって、
前記固体電解質層及び前記負極を含むセル積層体を積層方向において拘束する拘束機構をさらに有し、
前記拘束機構は、前記セル積層体の外周の一部である被拘束領域に沿って配置され、
前記凹凸部は、前記高濡れ性層の外周において前記被拘束領域に対向して形成される、
全固体電池。
【請求項5】
固体電解質層と、前記固体電解質層に積層されるとともに、充電時に前記固体電解質層との間に金属リチウムが析出することで負極リチウム金属層が形成される負極と、を含む全固体電池であって、
前記負極は、前記金属リチウムに対する濡れ性が前記固体電解質層と異なる析出調整層を有し、
前記析出調整層は、前記固体電解質層に施され、前記金属リチウムに対する濡れ性が前記固体電解質層よりも低い低濡れ性層として構成され、
前記低濡れ性層は、前記固体電解質層の中央面領域を除く外周縁部に沿って設けられ、
前記低濡れ性層の内周の少なくとも一部に凹凸部が形成される
全固体電池。
【請求項6】
請求項に記載の全固体電池であって、
正極面の存在範囲が、少なくとも前記低濡れ性層の前記凹凸部における凹部の底面までに亘るように構成される、
全固体電池。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載の全固体電池であって、
前記析出調整層は、前記固体電解質層の表面上に配置される、
全固体電池。
【請求項8】
固体電解質層と、前記固体電解質層に積層される負極と、を含む全固体電池であって、
前記負極は、前記固体電解質層に施された析出調整層と、前記析出調整層に形成された負極リチウム金属層と、を有し、
前記析出調整層は、
金属リチウムに対する濡れ性が前記固体電解質層よりも高い高濡れ性層によって構成され、
膜状に構成され、
外周の少なくとも一部に凹凸部が形成され、
前記負極リチウム金属層の外周の形状が前記析出調整層の外周の形状と一致するように形成され
前記凹凸部における凸部は、充電時における前記金属リチウムの延伸に起因して前記固体電解質層に生じる応力を分散させる傾斜形状又は湾曲形状に形成される、
全固体電池。
【請求項9】
固体電解質層と、前記固体電解質層に積層される負極と、を含む全固体電池であって、
前記負極は、前記固体電解質層に施された析出調整層と、該析出調整層に対向して配置された負極集電体と、を有し、
前記析出調整層は、
金属リチウムに対する濡れ性が前記固体電解質層よりも高い高濡れ性層によって構成され、
膜状に構成され、
外周の少なくとも一部に凹凸部が形成され
前記凹凸部における凸部は、充電時における前記金属リチウムの延伸に起因して前記固体電解質層に生じる応力を分散させる傾斜形状又は湾曲形状に形成される、
全固体電池。
【請求項10】
固体電解質層と、前記固体電解質層に積層される負極と、を含む全固体電池であって、
前記負極は、前記固体電解質層に施された析出調整層と、前記析出調整層に形成された負極リチウム金属層と、を有し、
前記析出調整層は、前記固体電解質層に施され、金属リチウムに対する濡れ性が前記固体電解質層よりも低い低濡れ性層として構成され、
前記低濡れ性層は、前記固体電解質層の中央面領域を除く外周縁部に沿って設けられ、
前記低濡れ性層の内周の少なくとも一部に凹凸部が形成され、
前記負極リチウム金属層の外周の形状が前記低濡れ性層の内周の形状と一致するように形成されている、
全固体電池。
【請求項11】
固体電解質層と、前記固体電解質層に積層される負極と、を含む全固体電池であって、
前記負極は、前記固体電解質層に施された析出調整層と、該析出調整層に対向して配置された負極集電体と、を有し、
前記析出調整層は、前記固体電解質層に施され、金属リチウムに対する濡れ性が前記固体電解質層よりも低い低濡れ性層として構成され、
前記低濡れ性層は、前記固体電解質層の中央面領域を除く外周縁部に沿って設けられ、
前記低濡れ性層の内周の少なくとも一部に凹凸部が形成される、
全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、正極外周に凹凸を設けて周長を増加させて正極の変形の逃げ代を形成し、正極外周縁の伸び量を低減することで、プレス成型時において当該正極外周縁と固体電解質層の接触部分に生じる応力を低減するように構成した全固体電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5831442号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、近年では、正極活物質中のリチウムのみをリチウム源とする構造の全固体電池(以下、本明細書においては「全析出型全固体電池とも称する」)が知られている。この種の全固体電池は、放電時において負極にリチウム金属が含まれず、充電時においてリチウム金属が負極集電体上に析出してリチウム金属層を形成する。この場合において、析出したリチウム金属が固体電解質層の外側に向かって延伸するため、固体電解質層に応力が加わり、短絡発生の要因となるクラックを生じさせる恐れがある。
【0005】
したがって、本発明は、短絡の要因となる固体電解質層のクラックの発生を抑制し得る全固体電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によれば、固体電解質層と、固体電解質層に積層されるとともに、充電時に固体電解質層との間に金属リチウムが析出することで負極リチウム金属層が形成される負極と、を含む全固体電池が提供される。そして、負極は、金属リチウムに対する濡れ性が固体電解質層と異なる析出調整層を有する。さらに、析出調整層は、膜状に構成されて固体電解質層に施され、金属リチウムに対する濡れ性が固体電解質層よりも高い高濡れ性層によって構成され、外周の少なくとも一部に凹凸部が形成され、凹凸部における凸部は、充電時における金属リチウムの延伸に起因して固体電解質層に生じる応力を分散させる傾斜形状又は湾曲形状に形成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、短絡の要因となる固体電解質層のクラックの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の第1実施形態による全固体電池の構成を説明する図である。
図2図2は、負極における放電時と充電時のそれぞれの状態を説明する図である。
図3図3は、高濡れ性層の凹凸部の構成を説明する図である。
図4図4は、負極リチウム金属層の外周形状と固体電解質層の外周形状の関係を説明する図である。
図5図5は、第2実施形態による全固体電池の構成を説明する図である。
図6図6は、第3実施形態による全固体電池の構成を説明する図である。
図7図7は、第4実施形態による全固体電池の構成を説明する図である。
図8図8は、低濡れ性層の内周形状を説明する図である。
図9図9は、第5実施形態による全固体電池の構成を説明する図である。
図10図10は、第1の変形例による全固体電池の構成を説明する図である。
図11図11は、第2の変形例による全固体電池の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について説明する。
【0010】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態にかかる全固体電池10について説明する。
【0011】
図1は、本実施形態の全固体電池10の構成を説明する図である。図示のように、全固体電池10は、正極p及び負極nの間に固体電解質層15が積層されてなるセルユニットを一つ又は複数積層してなるセルユニット10A(図1では一つ)を、ラミネート材20により封止することで構成される全析出型全固体電池である。また、セルユニット10Aには、ラミネート材20に伸長する図示しない電気配線類(正極リード、負極リード、正極集電板、及び負極集電板など)が接続される。
【0012】
本実施形態のセルユニット10Aは平面視で略矩形形状に形成される。すなわち、正極p、負極n、及び固体電解質層15が平面視略矩形状に形成されている。
【0013】
正極pは、主として、固体電解質層15の積層方向における一方側の表面(図上下方の面)に積層される正極活物質層17と、正極活物質層17に接続される正極集電体18と、により構成される。
【0014】
負極nは、主として、固体電解質層15の積層方向における他方側の表面(図上下方の面)に積層される高濡れ性層16と、高濡れ性層16に形成される負極リチウム金属層14と、負極リチウム金属層14に接続される負極集電体12と、により構成される。なお、本実施形態では、高濡れ性層16が析出調整層として機能する。
【0015】
ここで、負極リチウム金属層14は、放電状態においては生成しておらず、充電過程を経て固体電解質層15の面領域(高濡れ性層16の領域)と負極集電体12に金属リチウムが析出することで形成される。
【0016】
高濡れ性層16は、固体電解質層15の外周縁部を除いた中央面領域15Bに施される。特に、高濡れ性層16は、充電時に固体電解質層15と負極集電体12の間で溶解する金属リチウムに対する濡れ性が固体電解質層15よりも高く、リチウムイオンの伝導を確保する観点から一定のイオン伝導性を有する材料により形成される。
【0017】
以下、高濡れ性層16の構成及び機能についてより詳細を説明する。
【0018】
図2は、負極nにおける放電時と充電時のそれぞれの状態を説明する図である。特に、図2(a)及び図2(b)は、それぞれ放電状態及び充電状態における図1の要部A―A矢視図である。
【0019】
図示のように、放電時における負極nでは、高濡れ性層16が固体電解質層15に対して、その外周縁部15Aの除いた中央面領域15Bに施された構造をとる。また、上述のように高濡れ性層16の外周には凹凸部16Aが形成される。
【0020】
一方、充電時には、正極活物質層17からのリチウムイオンが固体電解質層15又は高濡れ性層16内に進入し、固体電解質層15又は高濡れ性層16を構成する金属と合金化して析出した状態の金属リチウムを形成する。そして、この金属リチウムが固体電解質層15又は高濡れ性層16の面領域に拡散することで、負極リチウム金属層14が形成される。
【0021】
特に、本実施形態の負極リチウム金属層14は、金属リチウムに対してより親和性が高い高濡れ性層16の部分に形成されることとなる。より詳細には、本実施形態では、高濡れ性層16の金属リチウムに対する濡れ性が固体電解質層15よりも高く構成されているため、充電時に金属リチウムが高濡れ性層16に集まって析出する。そのため、負極リチウム金属層14が主として固体電解質層15の中央面領域15Bに生成する。そして、上述のように、高濡れ性層16の外周には凹凸部16Aが形成されているところ、生成する負極リチウム金属層14の外周14Aにも当該凹凸部16Aと略同一形状の凹凸形状に形成されることとなる。なお、放電時には、この負極リチウム金属層14が小さくなっていき、一定以上放電が進行するとほぼ消失する。
【0022】
図3は、高濡れ性層16の凹凸部16Aの詳細な構造を説明する図である。なお、図3においては、図面の煩雑化を避ける観点から生成した負極リチウム金属層14の凹凸形状を示している。しかしながら、上述のように、当該凹凸形状は高濡れ性層16の凹凸部16Aの形状と略同一となるため、図3に示す負極リチウム金属層14の凹凸形状は高濡れ性層16の凹凸部16Aと同一視して説明を行う。
【0023】
図示のように、本実施形態の高濡れ性層16の外周にはその全域に凹凸部16Aが形成されている。本実施形態では、凹凸部16Aの凸部16Aaは、断面視において対向する辺部が相互に非平行となる形状、特に台形に形成されている。すなわち、凸部14Aaの側面が傾斜面として形成されることとなる。このため、負極リチウム金属層14はその外周14Aが当該凹凸部16Aと同じ凹凸形状となって析出される。したがって、固体電解質層15にクラックを生じさせる方向の応力(白抜き矢印参照)が、負極リチウム金属層14の凸部14Aaの傾斜面に応じた方向に分散される(黒塗り矢印参照)。すなわち、負極リチウム金属層14の外周14Aを、クラックの要因となる応力を好適に分散させる形状とすることができる。
【0024】
また、凹凸部16Aにおける凹部16Abの幅W及び凸部16Aaの長さLは、固体電解質層15を構成する一つの固体電解質粒子Pの最大径r以上に構成される。
【0025】
これにより、充電時に形成される負極リチウム金属層14の外周14Aの凹部14Abの形状をより好適に維持することができる。より詳細には、一つの固体電解質粒子P内においては金属リチウムが析出し易いため、高濡れ性層16の凹部16Abのサイズが一つの固体電解質粒子Pのサイズよりも小さいと、金属リチウムが凹部16Abを埋めるように析出し易くなる。これに対して、凹部16Abのサイズが一つの固体電解質粒子Pのサイズよりも大きく構成されることで、金属リチウムが当該凹部16Abに析出されることが抑制されるので、負極リチウム金属層14の外周14Aがより確実に凹凸形状に形成されることとなる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態の全固体電池10では、固体電解質層15よりも金属リチウムに対する濡れ性が高く、且つ外周に凹凸部16Aが形成される高濡れ性層16を固体電解質層15に設けることにより、析出される負極リチウム金属層14の外周14Aの形状を、固体電解質層15に応力を生じさせる伸び量を抑制し得る形状とすることができる。
【0027】
なお、上述した負極リチウム金属層14の伸び量を抑制する観点から、高濡れ性層16の外周に適用される形状は凹凸形状に限られない。すなわち、高濡れ性層16は、充電時に形成される負極リチウム金属層14の外周14Aの形状を、上記伸び量を低減させる形状とする機能を果たす限りにおいて任意の形状に調節することができる。特に、高濡れ性層16は、充電時に形成される負極リチウム金属層14の外周14Aの周長を固体電解質層15の相似形状の外周の周長よりも長く形成可能な任意の形態をとる。以下では、その詳細を説明する。
【0028】
図4は、負極リチウム金属層14の外周14Aの形状と固体電解質層15の外周形状の関係を説明する図である。ここで、固体電解質層15の矩形外周においてある外周ラインC1を規定する頂点s1及び頂点e1を設定し、これを当該外周ラインC1に対向する負極リチウム金属層14の外周ラインC2を規定する頂点s2及び頂点e2を設定する。この場合において、固体電解質層15の外周ラインC1の長さと、負極リチウム金属層14の外周ラインC2を規定した頂点s2及び頂点e2の間の直線距離と、の比で定まる相似比により、固体電解質層15を縮小した形状を固体電解質層15の相似形状として設定する。そして、図4に示す例では、負極リチウム金属層14の外周ラインC2の長さ(凹凸ラインに沿った部分的な周長)は、固体電解質層15の相似形状において外周ラインC1に対応する外周ラインC´1の長さ(ほぼ頂点s2及び頂点e2の間の直線距離に一致する)よりも長く形成されている。
【0029】
このように充電時に形成される負極リチウム金属層14の外周ラインC2の長さが、固体電解質層15の相似形状における外周ラインC´1の長さよりも長くなる条件を満たすのであれば、負極リチウム金属層14の変形時の応力の逃げ代が確保されるので、負極リチウム金属層14の伸び量が低減されることとなる。したがって、高濡れ性層16は、充電時に形成される負極リチウム金属層14の外周ラインC2の長さが、固体電解質層15の相似形状における外周ラインC´1の長さよりも長くなるように、当該負極リチウム金属層14の外周14Aの形状を調節できるならば任意の形態をとることが可能である。
【0030】
次に、本実施形態にかかる全固体電池10を構成する各要素(負極n、正極p、及び固体電解質層15)を構成する材料などについて説明する。
【0031】
[負極]
本実施形態の負極nは、負極集電体12と、高濡れ性層16と、を備える。
【0032】
(負極集電体12)
負極集電体12を構成する材料は、本願発明にかかる技術分野において全固体電池10に適用可能な集電体として機能するものであれば特に制限されない。例えば、金属又は導電性を有する樹脂を採用することができる。
【0033】
具体的には、負極集電体12の構成材料としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、又は銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、又は銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、又はニッケルが好ましい。
【0034】
集電体の構成材料として用いる導電性の樹脂としては、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0035】
特に、非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、若しくは低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルアクリレート(PMA)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、又はポリスチレン(PS)などが挙げられる。
【0036】
(高濡れ性層16)
高濡れ性層16は、固体電解質層15よりも金属リチウムに対する濡れ性が高く、一定以上のイオン伝導性を示す任意の材料によって構成することができる。例えば、高濡れ性層16の材料としては、Au、Ag、銅、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛、インジウム、ガリウム、スズ、及びビスマスから成る群から選択される単体金属、二種以上の当該単体金属の合金、炭素材料、プラスチッククリスタル、又はイオン液体が挙げられる。
【0037】
高濡れ性層16の厚さは特に限定されるものではないが、金属リチウムの析出を適切に行う要求、及びエネルギー密度維持の観点から負極リチウム金属層14の厚さを一定以上にする要求の双方を考慮して、好適な値に設定されることが好ましい。また、高濡れ性層16の面積も特に限定されるものではないが、応力の抑制に寄与する負極リチウム金属層14の外周14Aの形状(凹凸形状)を維持する要求と、電極面積をできるだけ確保してエネルギー密度を高くする要求と、のバランスを考慮して適宜、好適な値に設定されることが好ましい。
【0038】
本実施形態の負極nは、高濡れ性層16(凹凸部16Aも含む)を負極集電体12にコーティングすることにより作製される。なお、負極集電体12への高濡れ性層16のコーティングは蒸着等の公知のコーティング方法により実行することができる。このようなコーティング方法として、例えば、無電解めっき法、スパッタリング法、又は真空蒸着法等が挙げられる。
【0039】
さらに、負極集電体12と高濡れ性層16の間は負極リチウム金属層14の析出を考慮した適切な空間高さが確保される。
【0040】
[正極]
正極pは、正極活物質層17と正極集電体18により構成される。
【0041】
正極活物質層17は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵及び放出することが可能な活物質として構成される。例えば、正極活物質層17を構成する材料は、例えばリチウム金属複合酸化物である。より具体的に、リチウム金属複合酸化物としては、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、LiVO2、若しくはLi(Ni-Mn-Co)O2等の層状岩塩型化合物、LiMn24、若しくはLiNi0.5Mn1.54等のスピネル型化合物、LiFePO4、若しくはLiMnPO4等のオリビン型化合物、又はLi2FeSiO4、若しくはLi2MnSiO4等のSi含有化合物等が挙げられる。また上記以外のリチウム金属複合酸化物としては、例えば、Li4Ti512が挙げられる。
【0042】
なお、正極集電体18は、負極集電体12と同様の材料で構成することができる。
【0043】
[固体電解質層]
固体電解質層15は、固体電解質を主成分として含有する層である。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0044】
特に、硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P25、Li2S-P25、LiI-Li3PS4、LiI-LiBr-Li3PS4、Li3PS4、Li2S-P25、Li2S-P25-LiI、Li2S-P25-Li2O、Li2S-P25-Li2OLiI、Li2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-LiBr、Li2S-SiS2-LiCl、Li2S-SiS2-B23-LiI、Li2S-SiS2-P25-LiI、Li2S-B23、Li2S-P25-Zmn(ただし、mnは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、Li2S-GeS2、Li2S-SiS2-Li3PO4、又はLi2S-SiS2-LixMOy(ただし、xyは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「Li2S-P25」の記載は、Li2S及びP25を含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0045】
また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。
【0046】
[作用効果]
以上説明した本実施形態の全固体電池10の構成及びその作用効果をまとめて説明する。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の全固体電池10、固体電解質層15と、固体電解質層15に積層されるとともに、充電時に固体電解質層15との間に金属リチウムが析出することで負極リチウム金属層14が形成される負極と、を含む。そして、負極は、金属リチウムに対する濡れ性が固体電解質層15と異なる析出調整層(高濡れ性層16)を有する。さらに、析出調整層は、充電時に形成される負極リチウム金属層14の外周14Aの周長が、固体電解質層15の外周の相似形状の周長よりも長く形成されるように配置される。
【0048】
これにより、析出調整層の機能によって、充電時に形成される負極リチウム金属層14の外周14Aを周長あたりの伸び量(延伸量)が少ない形状に調節することができる。このため、負極リチウム金属層14の外周14Aの延伸に起因して固体電解質層15に作用する応力が低減され、固体電解質層15のクラックの発生を防止することができる。
【0049】
特に、析出調整層は、金属リチウムに対する濡れ性が固体電解質層15よりも高い高濡れ性層16によって構成される。そして、高濡れ性層16の外周の少なくとも一部(本実施形態では外周の全部)に凹凸部16Aが形成される。
【0050】
これにより、充電時に溶解する金属リチウムは、固体電解質層15よりも当該金属リチウムに対する濡れ性(親和性)が高い高濡れ性層16の部分で析出することとなる。このため、負極リチウム金属層14の外周14Aは高濡れ性層16の外周14Aに凹凸部16Aと略同一の凹凸形状に形成されることとなる。したがって、負極リチウム金属層14の外周14Aの周長がより増加することとなるので、負極リチウム金属層14の変形の逃げ代が確保されて、固体電解質層15に応力を生じさせる方向への外周14Aの伸び量を減少させることができる。結果として、固体電解質層15に生じる応力の抑制効果をより一層高めることができる。
【0051】
また、高濡れ性層16の凹凸部16Aにおける凸部16Aaには、充電時における金属リチウムの延伸に起因して固体電解質層15に生じる応力を分散させる傾斜形状が形成される。
【0052】
これにより、固体電解質層15に生じる応力の特定の方向における集中が抑制されるため、固体電解質層15におけるクラックの発生をより確実に防止することができる。
【0053】
さらに、本実施形態では、高濡れ性層16の凹凸部16Aにおける凹部16Abの幅W及び凸部16Aaの長さLが、固体電解質層15を構成する固体電解質粒子Pの最大径r以上に構成される。
【0054】
これにより、充電時に形成される負極リチウム金属層14の外周14Aの凹凸形状をより好適に維持することができる。より詳細には、一つの固体電解質粒子P内においては金属リチウムが析出し易いため、高濡れ性層16の凹部16Abのサイズが一つの固体電解質粒子Pのサイズよりも小さいと、金属リチウムが凹部16Abを埋めるように析出し易くなる。これに対して、凹部16Abのサイズが一つの固体電解質粒子Pのサイズよりも大きく構成されることで、金属リチウムが当該凹部16Abに析出されることが抑制され、負極リチウム金属層14の外周14Aがより確実に凹凸形状に形成されることとなる。
【0055】
特に全固体電池10を車両に搭載するなど、小型化且つ高電流密度での運転の双方が要求される用途(すなわち、全固体電池10に高いエネルギー密度が要求される用途)に適用される場合においては、負極リチウム金属層14の延伸による伸び量を効果的に低減させる凹部16Abの幅Wと長さLの比を実現しつつ、電極面積(負極リチウム金属層14の面積)を一定以上に確保できるように、負極リチウム金属層14の外周14Aの凹凸をできるだけ小さくすることが望まれる。このため、高濡れ性層16の凹部16Abを一つの固体電解質粒子Pのサイズと同等のオーダーのサイズに構成することも想定される。
【0056】
このような用途においても、上述のように、高濡れ性層16の凹凸部16Aのサイズを一つの固体電解質粒子Pのサイズを超える構成とすれば、負極リチウム金属層14の外周14Aの凹凸形状が好適に確保されることとなる。
【0057】
また、本実施形態では、固体電解質層15と、固体電解質層15に積層される負極と、を含む、充電状態の全固体電池10が提供される。この充電状態の全固体電池10では、負極が、固体電解質層15に施された析出調整層(高濡れ性層16)と、析出調整層に形成された負極リチウム金属層14と、を有する。そして、析出調整層は、金属リチウムに対する濡れ性が固体電解質層15と異なるように構成され、負極リチウム金属層14の外周14Aの形状が析出調整層の外周(凹凸部16A)の形状と略一致するように形成されている。
【0058】
さらに、本実施形態では、固体電解質層15と、固体電解質層15に積層される負極と、を含む、放電状態の全固体電池10が提供される。この放電状態の全固体電池10では、負極は、固体電解質層15に施された析出調整層(高濡れ性層16)と、該析出調整層に対向して配置された負極集電体12と、を有する。そして、析出調整層は、金属リチウムに対する濡れ性が固体電解質層15と異なるように構成され、充電時に形成される負極リチウム金属層14の外周14Aの周長が、固体電解質層15の外周の相似形状の周長よりも長くなるように配置されている。
【0059】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態の全固体電池10について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0060】
図5は、本実施形態による全固体電池10の構成を説明する図である。特に、図5(a)は負極nの負極リチウム金属層14の部分の概略断面構造を表し、図5(b)はセルユニット10Aの全体の積層構造を示している。
【0061】
図示のように、本実施形態の全固体電池10では、正極活物質層17の面積が負極nの面積(特に、高濡れ性層16の面積)よりも小さく構成されている。より詳細には、正極活物質層17の面方向の存在範囲(以下、「正極存在範囲pa」とも称する)が負極リチウム金属層14の外周14A(凹凸部分)よりも内側の面領域内に収まっている。すなわち、正極存在範囲paが、高濡れ性層16の面領域内に収まることとなる。
【0062】
なお、必要に応じて、正極活物質層17の両側(負極リチウム金属層14が対向していない空間部分)に支持部材を配して、セルユニット10Aの構造の安定化を図っても良い。
【0063】
以上説明した本実施形態の全固体電池10では、正極存在範囲paが高濡れ性層16の凹凸部16Aにおける凹部16Abよりも内側に収まるように構成される。
【0064】
これにより、正極活物質層17の全面を負極活物質として機能する負極リチウム金属層14の面領域(すなわち、凹凸形状の外周14A以外の部分)のみに対向させることができる。すなわち、高濡れ性層16における凹凸部16Aに正極活物質層17が対向しない構成となるため、当該凹凸部16Aにおける金属リチウムの析出が抑えられ、負極リチウム金属層14の外周14Aの凹凸形状をより確実に維持することができる。
【0065】
なお、本実施形態の全固体電池10は、正極存在範囲paの外縁が凹凸部16Aにおける凹部16Abの底面と略一致するように構成されている。すなわち、正極活物質層17の面積が高濡れ性層16の凹凸部16Aと重ならない範囲においてできるだけ大きくなるように構成されている。これにより、負極リチウム金属層14の外周14Aの凹凸形状を維持しながらも、負極リチウム金属層14と正極活物質層17との対向面積をできるだけ広くしてエネルギー密度を維持することができる。
【0066】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態の全固体電池10について説明する。なお、第1又は第2実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0067】
図6は、本実施形態の全固体電池10の構成を説明する図である。特に、図6(a)は全固体電池10の概略断面構造を表し、図5(b)はセルユニット10Aの全体の積層構造を示している。
【0068】
図示のように、本実施形態の全固体電池10にはさらに拘束機構Cが配されている。拘束機構Cは、セルユニット10Aの積層方向の両端に配されるエンドプレート40,40を相互に近づく方向に押圧するボルト機構により構成される。特に、本実施形態の拘束機構Cは、セルユニット10Aの外周において一組の対向する辺10Aa,10Aaのそれぞれの延在方向に沿って複数(図6では4つずつ)設けられている。
【0069】
このような拘束機構Cを配することで、セルユニット10Aに対し、正極活物質層17及び負極活物質として機能する負極リチウム金属層14と、固体電解質層15又は高濡れ性層16の間の良好な接触状態を確保するための荷重を与えることができる。
【0070】
そして、本実施形態では、負極リチウム金属層14の外周14Aの凹凸形状は、拘束機構Cが設けられている辺10Aa,10Aaに沿って形成される一方、拘束機構Cが設けられていない辺は直線形状に形成される。すなわち、本実施形態の高濡れ性層16の外周の凹凸部16Aは、拘束機構Cによる拘束力(積層方向の押圧力)が相対的に強く作用する辺10Aa,10Aaに対向する領域にのみ設けられる。
【0071】
以上説明した本実施形態の全固体電池10では、固体電解質層15及び負極nを含むセル積層体としてのセルユニット10Aを積層方向において拘束する拘束機構Cをさらに有する。そして、拘束機構Cは、セルユニット10Aの外周の一部である被拘束領域(辺10Aa,10Aa)に沿って配置される。さらに、凹凸部16Aは、高濡れ性層16の外周において辺10Aa,10Aaに対向して形成される。
【0072】
これにより、高濡れ性層16の外周において、拘束機構Cによる積層方向の押圧力によって、固体電解質層15に応力を生じさせる負極リチウム金属層14の延伸がより助長される部分に、当該負極リチウム金属層14の伸び量を低減させる凹凸部16Aが形成されることで、凹凸部16Aによる応力の抑制効果をより好適に発揮させることができる。一方で、拘束機構Cによる拘束力が直接的に作用しない高濡れ性層16の外周の部分を直線形状に構成することで、応力の抑制効果を維持しつつ電極面積を拡大してエネルギー密度を向上させることができる。
【0073】
(第4実施形態)
以下、第4実施形態の全固体電池10について説明する。なお、第1実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態では、析出調整層として、第1~第3実施形態で説明した高濡れ性層16に代えて低濡れ性層30を設ける例を説明する。
【0074】
図7は、本実施形態の全固体電池10の構成を説明する図である。図8は、低濡れ性層の内周形状を説明する図である。図示のように、本実施形態の全固体電池10では、析出調整層としての低濡れ性層30が、固体電解質層15の外周縁部15Aに沿って設けられている。特に、低濡れ性層30は固体電解質層15の中央面領域15Bを除いて外周縁部15Aの全域に亘って施されている。また、低濡れ性層30の内周に凹凸部30Aが形成されている。
【0075】
低濡れ性層30は、固体電解質層15よりも金属リチウムに対する濡れ性が低い材料によって構成することができる。例えば、低濡れ性層30の材料としては、窒化リチウム(Li3N)又は炭酸リチウム(Li2CO3)が挙げられる。そして、低濡れ性層30は、高濡れ性層16と同様に蒸着等の公知の方法を用いて、固体電解質層15に対して上記形状にコーティングを行うことで形成される。
【0076】
以上説明した本実施形態の全固体電池10では、析出調整層は、金属リチウムに対する濡れ性が固体電解質層15よりも低い低濡れ性層30として構成される。そして、低濡れ性層30は、固体電解質層の中央面領域15Bにおける外周縁部15Aに沿って設けられる。さらに、低濡れ性層30の内周の少なくとも一部に凹凸部30Aが形成される
【0077】
これにより、充電時に溶解する金属リチウムは、低濡れ性層30が形成されている固体電解質層15の外周縁部15A以外の部分(すなわち、中央面領域15)に集まることとなる。すなわち、負極リチウム金属層14が形成される領域を、固体電解質層15の外周縁部15Aを除いた面領域内に調節することができる。特に、低濡れ性層30の内周に凹凸部30Aが形成されるため、負極リチウム金属層14の外周14Aの形状を、当該負極リチウム金属層14の伸び量を抑制可能な凹凸形状に好適に維持することができる。
【0078】
(第5実施形態)
以下、第5実施形態の全固体電池10について説明する。なお、第4実施形態と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0079】
図9は、本実施形態の全固体電池10の構成を説明する図である。特に、図9(a)は負極nの負極リチウム金属層14の部分の概略断面構造を表し、図9(b)はセルユニット10Aの全体の積層構造を示している。
【0080】
図示のように、本実施形態の全固体電池10では、正極活物質層17の面積が負極nの面積よりも小さく構成されている。より詳細には、正極活物質層17の面方向の存在範囲である正極存在範囲paが、低濡れ性層30の凹凸部30Aにおける凹部の底面までに亘っている。
【0081】
これにより、負極リチウム金属層14の外周14Aの凹凸形状を維持しながらも、負極リチウム金属層14と正極活物質層17との対向面積をできるだけ広くしてエネルギー密度を維持することができる。
【0082】
(変形例)
以下、変形例に係る全固体電池10の構成について説明する。
【0083】
図10は、第1の変形例による全固体電池10の構成を説明する図である。また、図11は、第2の変形例による全固体電池10の構成を説明する図である。図10及び図11に示す何れの変形例においても、高濡れ性層16の外周に形成する凹凸部16Aの形状(特に凸部16Aaの形状)が図3で説明した形状(台形状)と異なる形状に形成されている。
【0084】
具体的に、図10に示す第1の変形例では、凸部16Aaの側面が角度の異なる複数(図10では2つ)傾斜形状を有するように構成されている。また、図11に示す第2の変形例では、凸部16Aaの側面が湾曲形状に形成されている。
【0085】
これにより、固体電解質層に生じ得る応力の集中方向に応じて当該応力の方向を好適に分散させる観点から、高濡れ性層16の凹凸部16Aの形状にバリエーションを持たせることができる。
【0086】
なお、高濡れ性層16の凹凸部16Aについては、充電時に形成される負極リチウム金属層14の外周14Aを、当該外周14Aの伸び量を減少させる機能を実現できる限りにおいて、上記実施形態及び各変形例に示した形状以外の形状に構成しても良い。例えば、応力を分散させる効果は低下するものの、凹凸部16Aの凸部16Aaを単純な矩形状(側面に傾斜や湾曲を持たない形状)に形成し、高濡れ性層16の製造プロセスの簡素化を図っても良い。
【0087】
また、第4実施形態で説明した低濡れ性層30の内周の凹凸部30Aについても、高濡れ性層16の凹凸部16Aと同様に形状の変更が可能である。
【0088】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【0089】
例えば、本実施形態の全固体電池10は、用途に応じて、複数積層されたセルユニット10Aを外装材により封止してなる積層型電池として構成することもできる。また、本実施形態の全固体電池10の外観、及び内部における電気的な接続状態(電極構造)は特に限定されない。全固体電池10の外観は、例えば長方形状の扁平な角形状であってもよいし円あるいは楕円形状であっても良い。或いは、全固体電池10を、一以上のセルユニット10Aを巻き回して収容する円筒形状型に構成しても良い。また、全固体電池10の電極構造は、いわゆる非双極型(内部並列接続タイプ)、及び双極型(内部直列接続タイプ)のいずれが採用されてもよい。
【符号の説明】
【0090】
10 全固体電池
10A セルユニット
10Aa 辺
12 負極集電体
14 負極リチウム金属層
14A 外周
14Aa 凸部
14Ab 凹部
15 固体電解質層
15A 外周縁部
15B 中央面領域
16 高濡れ性層
16A 凹凸部
16Aa 凸部
16Ab 凹部
17 正極活物質層
18 正極集電体
20 ラミネート材
30 低濡れ性層
30A 凹凸部
40 エンドプレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11