IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の特許一覧

特許7663347非晶質の難水溶性素材を含有する固体組成物、及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】非晶質の難水溶性素材を含有する固体組成物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20250409BHJP
   A61K 31/353 20060101ALI20250409BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20250409BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20250409BHJP
   A61K 9/00 20060101ALI20250409BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20250409BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20250409BHJP
   A23L 33/15 20160101ALI20250409BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20250409BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20250409BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20250409BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20250409BHJP
   A61K 8/67 20060101ALI20250409BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20250409BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20250409BHJP
   A61P 43/00 20060101ALN20250409BHJP
   A61P 3/02 20060101ALN20250409BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALN20250409BHJP
   A61Q 1/00 20060101ALN20250409BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALN20250409BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALN20250409BHJP
   A61K 45/00 20060101ALN20250409BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K31/353
A61K47/38
A61K47/36
A61K9/00
A61K47/40
A23L33/105
A23L33/15
A61K8/35
A61K8/34
A61K8/49
A61K8/73
A61K8/67
A61K8/02
A61Q11/00
A61P43/00 111
A61P3/02 102
A61Q19/00
A61Q1/00
A61Q13/00
A61Q5/00
A61K45/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020203049
(22)【出願日】2020-12-07
(62)【分割の表示】P 2020546188の分割
【原出願日】2020-08-28
(65)【公開番号】P2021120368
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2023-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2019159126
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020022821
(32)【優先日】2020-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中尾 友洋
(72)【発明者】
【氏名】今井 優希
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2001/095941(WO,A1)
【文献】特開平05-262642(JP,A)
【文献】国際公開第2016/198576(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/160146(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/174475(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/021707(WO,A1)
【文献】特開2007-002243(JP,A)
【文献】特開2019-123700(JP,A)
【文献】特開2018-078860(JP,A)
【文献】国際公開第2017/061627(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 8/00- 8/99
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質の難水溶性素材(1a)、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(2)、及び
ヒドロキシプロピルメチルセルロース以外の5糖以上の多糖類(3)を含有する固体組成物であって、
前記非晶質の難水溶性素材(1a)が、ルテオリン、ヘスペレチン、ナリンゲニン、ケルセチン、シリマリン、レスベラトロール、及びアスタキサンチンからなる群から選択される1種以上であり、
前記固体組成物のXRD分析値が4.0%以下である、固体組成物:
ここでXRD分析値は、前記固体組成物を粉末X線回折装置で分析した際に得られるチャートにおいて、2θ=5~60°の範囲のハローピークの面積を(S1)、ハローピークを越える部分の結晶質状態の難水溶性素材(1b)由来のシャープピークの面積を(S2)とした場合に、
式:{(S2)/((S1)+(S2))}×100(%)で算出される数値である。
【請求項2】
前記多糖類(3)が、アラビアガム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ガティガム、低分子ガティガム、加工澱粉、ローカストビーンガム、グァーガム、アルギン酸又はその塩、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、微結晶セルロース、発酵セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、シクロデキストリン、大豆多糖類、寒天、タマリンド種子ガム、グァーガム分解物、カラヤガム、タラガム、ウェランガム、及びジェランガムからなる群より選択される一種以上である、請求項1に記載の固体組成物。
【請求項3】
前記多糖類(3)が、ヒドロキシプロピルセルロースとそれ以外の多糖類(3)との組合せである、請求項1又は2に記載の固体組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の固体組成物に、非晶質の難水溶性素材(1a)に対応する結晶質の難水溶性素材(1b)を添加した、固体組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の固体組成物を含有する、経口組成物。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の固体組成物を、医薬品、医薬部外品、飲食品、オーラルケア製品又は化粧品の添加剤とともに含有する、医薬品、医薬部外品、飲食品、オーラルケア製品又は化粧品。
【請求項7】
結晶質の難水溶性素材(1b)、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(2)、及び
ヒドロキシプロピルメチルセルロース以外の5糖以上の多糖類(3)を、混錬機を用いて加熱混練し溶融する工程を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の固体組成物の製造方法であり、
前記結晶質の難水溶性素材(1b)が、ルテオリン、ヘスペレチン、ナリンゲニン、ケルセチン、シリマリン、レスベラトロール、及びアスタキサンチンからなる群から選択される1種以上である、前記製造方法。
【請求項8】
前記加熱混練工程を、結晶質の難水溶性素材(1b)のガラス転移温度Tg以上の温度条件で実施する方法である、請求項7に記載する製造方法。
【請求項9】
さらに、冷却工程、解砕若しくは粉砕工程、乾燥工程、造粒工程、整粒工程よりなる群から選択される少なくとも1つの工程を有する、請求項7または8に記載する製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、非晶質の難水溶性素材を含有する固体組成物、及びその製造方法等に関する。また本開示は、前記固体組成物に含まれる難水溶性素材中の結晶質及び/または非晶質の割合を求める方法に関する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年8月30日及び2020年2月13にそれぞれ日本国に出願された特願2019-159126号及び特願2020-22821号の優先権を主張する。それらのすべての内容は、その全体が、本明細書において、参照により本開示の中へ組み込まれている。
【背景技術】
【0003】
従来、難水溶性素材の水溶性、又は体内吸収性を高めることを目的として、難水溶性素材を非晶質化する技術が知られている。
例えば、水-有機溶剤混合溶液に溶解させる工程を有する有機溶媒法を用いて、クルクミン及び/又はその類縁体と水溶性セルロース誘導体との複合体を形成する方法(特許文献1)、(A)難溶解性ポリフェノール類と(B)植物由来の多糖類、海藻由来の多糖類、微生物由来の多糖類、植物由来のポリペプチド、及び微生物由来のポリペプチドから選ばれる少なくとも1種と(C)単糖類及び二糖類から選ばれる少なくとも1種を混合した後、加熱溶融し、当該溶融物を冷却固化する方法(特許文献2)、結晶質の難水溶性ポリフェノール、親水性ポリマー、非イオン界面活性剤を加熱混練する方法(特許文献3及び4)、及び結晶質のクルクミンを単独で溶融して非晶質化した後に、デキストリン等の水溶性高分子を添加する方法(特許文献5)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2015/174475号パンフレット
【文献】特開2016-049105号公報
【文献】WO2017/061627号パンフレット
【文献】特開2019-123700号公報
【文献】WO2019/160146パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、更に新しい非晶質の難水溶性素材を含有する固体組成物、及びその製造方法の提供が求められている。
本開示は、新たな、非晶質の難水溶性素材を含有する固体組成物、及びその製造方法等を提供することを目的とする。
また、本開示は、前記固体組成物に含まれる難水溶性素材中の結晶質及び/または非晶質の割合を簡便に求める方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、次の態様を含む。
[1]非晶質の難水溶性素材を含む固体組成物
[1-1]非晶質の難水溶性素材(1a)、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」と略称する)(2)、及び
HPMC以外の5糖以上の多糖類(3)
を含有する固体組成物であって、
前記固体組成物のXRD分析値が4.0%以下である、固体組成物:
なお、ここでXRD分析値は、前記固体組成物を粉末X線回折装置で分析した際に得られるチャートにおいて、2θ=5~60°の範囲のハローピークの面積を(S1)、ハローピークを越える部分の結晶質状態の難水溶性素材(1b)由来のシャープピークの面積を(S2)とした場合に、式:{(S2)/((S1)+(S2))}×100(%)で算出される数値である(以下、同じ)。
[1-2]前記非晶質の難水溶性素材(1a)がポリフェノール、ポリフェノール誘導体、カロテノイド、コエンザイムQ10、ビタミン、及びセサミンからなる群から選択される少なくとも1種である、前記[1-1]に記載の固体組成物。
[1-3]前記ポリフェノールが、クルクミン、ルテオリン、シリマリン、ルチン、ケルセチン、ミリシトリン、クエルシトリン、イソクエルシトリン、ナリンゲニン、レスベラトロール、及びヘスペレチンからなる群から選択される少なくとも1種であり、
ポリフェノール誘導体がポリメトキシフラボノイドであり、
前記カロテノイドが、キサントフィル類、カロテン類、及びアポカロテノイドからなる群より選択される少なくとも1種であり、
前記ビタミンが、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、及びビタミンKからなる群より選択される少なくとも1種である、
[1-2]に記載の固体組成物。
[1-4]前記多糖類(3)が、アラビアガム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ガティガム、低分子ガティガム、加工澱粉、ローカストビーンガム、グァーガム、アルギン酸、アルギン酸の塩、カラギーナン、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、微結晶セルロース、発酵セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デキストリン(難消化性デキストリンを含む)、シクロデキストリン(α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンを含む)、大豆多糖類、寒天、タマリンド種子ガム、グァーガム分解物、カラヤガム、タラガム、ウェランガム、及びジェランガムからなる群より選択される、[1-1]~[1-3]の少なくとも1つに記載の固体組成物。
[1-5]前記多糖類(3)が、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)とそれ以外の多糖類との組合せである、[1-4]に記載の固体組成物。
[1-6]前記それ以外の多糖類がアラビアガムである[1-5]に記載の固体組成物。
[1-7]前記XRD分析値が1.0%以下である、[1-1]~[1-6]のいずれか一つに記載する固体組成物。
[1-8][1-1]~[1-7]のいずれか一つに記載の固体組成物に、結晶質の難水溶性素材(1b)を添加した、固体組成物。
【0007】
[2]固体組成物の用途
[2-1]前記[1-1]~[1-8]のいずれか一つに記載の固体組成物を含有する、経口組成物。
[2-2]前記[1-1]~[1-8]のいずれか一つに記載の固体組成物を、医薬品、医薬部外品、飲食品、オーラルケア製品または化粧品の添加剤とともに含有する、医薬品、医薬部外品、飲食品、オーラルケア製品又は化粧品。
【0008】
[3]非晶質の難水溶性素材を含む固体組成物の製造方法
[3-1]結晶質の難水溶性素材(1b)、HPMC(2)、及びHPMC以外の5糖以上の多糖類(3)を、混練機を用いて加熱混練する工程を含む、前記[1-1]~[1-8]のいずれか一つに記載の固体組成物の製造方法。
[3-2]前記結晶質の難水溶性素材(1b)が、ポリフェノール、ポリフェノール誘導体、カロテノイド、コエンザイムQ10、ビタミン、及びセサミンからなる群から選択される少なくとも1種である、前記[3-1]に記載の製造方法。
[3-3]前記加熱混練工程を、結晶質の難水溶性素材(1b)のガラス転移温度Tg以上の温度条件で実施する方法である、前記[3-1]または[3-2]に記載する製造方法。
[3-4]さらに、冷却工程、解砕若しくは粉砕工程、乾燥工程、造粒工程、及び整粒工程よりなる群から選択される少なくとも一つの工程を有する、前記[3-1]~[3-3]のいずれか一つに記載する製造方法。
【0009】
[4]難水溶性素材中の結晶質及び/または非晶質の割合を算出する方法
[4-1]難水溶性素材(1)、HPMC(2)、及びHPMC以外の5糖以上の多糖類(3)を含有する固体組成物(測定試料)において、難水溶性素材(1)に含まれる結晶質(1b)及び/または非結晶質(1a)の割合を算出する方法であって、
以下の工程:
(A)測定試料のXRD分析値を求める工程;及び
(B)(A)のXRD分析値を、予め作成した検量線に当てはめて、測定試料に含まれる難水溶性素材中の結晶質(1b)及び/又は非晶質(1a)の割合を算出する工程;
を含み、
前記検量線は、結晶質の難水溶性素材(1b)を種々の割合で含む標準試料について、各標準試料のXRD分析値を求め、標準試料中または標準試料に含まれる難水溶性素材中の結晶質(1b)割合(%;理論値)をX軸に、XRD分析値をY軸にプロットして作成されるものである、
前記算出方法。
[4-2]前記標準試料が、所定の割合で結晶質及び非晶質の難水溶性素材を含有する難水溶性素材(1)、HPMC(2)、及びHPMC以外の5糖以上の多糖類(3)を含有する2以上の固体組成物である、[4-1]に記載する算出方法。
[4-3][4-1]又は[4-2]に記載する方法により、固体組成物に含まれる難水溶性素材中の結晶質及び/非晶質の割合を算出し、固体組成物の品質を評価または管理する方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高い非晶質性と長期安定性とを備えた、新たな非晶質の難水溶性素材を含有する固体組成物、及びその製造方法等が提供される。また、本開示によれば、結晶質及び非晶質の難水溶性素材を含有する固体組成物について、難水溶性素材中に含まれる結晶質及び/または非晶質の割合(含有率)を算出することができ、前記固体組成物の品質の評価または管理に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1-1】試験例1で製造した固体組成物(実施例1~4、及び実施例1’)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。具体的には 難水溶性素材(クルクミン)の含量残存率(%)、難水溶性素材の非晶質性の評価結果(粉末X線解析装置(XRD)分析チャート、非晶質化度[XRD分析値/評価])、及び保存後の外観変化の評価結果を示す。 図中、XRD分析チャートのX軸は2θ(°)を示し、2θ=5°~60°で測定した。なお、2θ=40°~60°の範囲にはピークが見られなかったことから、以下の図1-2~図7-1では、2θ=5°~40°の範囲のみ示す。また、XRD分析チャートのY軸はシグナル強度であり、0~5000Countsを示す(図1-2~図4-4、及び図6も同じ)。 図中、*で示す「XRD分析値」は、{(S2)/((S1)+(S2))}×100で算出される値を意味する(図2-1~図7-1も同じ)。図中、**で示す保存の条件は「40℃、相対湿度75%で1ヶ月間」である(図1-2~図4-4も同じ。但し、保存期間を変更して試験した難水溶性素材については、下記の説明に記載する。)。
図1-2】試験例1で製造した固体組成物(比較例1~5)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図2-1】試験例2で製造した固体組成物(実施例5~8)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図2-2】試験例2で製造した固体組成物(実施例9~12)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図3-1】試験例3で製造した固体組成物(実施例13~16)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図3-2】試験例3で製造した固体組成物(実施例17~20)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図3-3】試験例3で製造した固体組成物(実施例21~24)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図3-4】試験例3で製造した固体組成物(実施例25~28)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図3-5】試験例3で製造した固体組成物(実施例29~32)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図3-6】試験例3で製造した固体組成物(実施例33~36)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図3-7】試験例3で製造した固体組成物(実施例37~38)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図4-1】試験例4で製造した固体組成物(実施例39~42)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。
図4-2】試験例4で製造した固体組成物(実施例43~45)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。**:実施例43のみ2週間保存後。
図4-3】試験例4で製造した固体組成物(実施例46~48)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。**:実施例46のみ2週間保存後。
図4-4】試験例4で製造した固体組成物(実施例49~50、比較例6)の材料、及び固体組成物の評価結果を示す。**:実施例50及び比較例6は、2週間保存後。
図5】試験例5において有機溶媒法を用いて製造した固体組成物(比較例7及び8)の材料、及び得られた固体組成物の評価結果を示す。
図6】試験例6で製造した固体組成物(比較例9~12)の材料、及び得られた固体組成物の評価結果を示す。
図7-1】試験例7で製造した粉末混合物(被験試料1~5)の材料、及び得られた粉末混合物のXRD分析結果(XDR分析チャート、XRD分析値)を示す。
図7-2】図7-1に示す粉末混合物(被験試料1~5)中の結晶質クルクミンの割合(粉末混合物中の結晶CUR含有率%)をX軸に、当該粉末混合物について得られるXRD分析値をY軸にプロットした検量線を示す。
図7-3】図7-1に示す粉末混合物(被験試料1~5)に含まれる総クルクミン(CUR)中の結晶質クルクミンの割合(総CUR含量中の結晶CUR含有率%)をX軸に、当該粉末混合物について得られるXRD分析値をY軸にプロットした検量線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
用語
本明細書中の記号及び略号は、特に限定のない限り、本明細書の文脈に沿い、本発明が属する技術分野において通常用いられる意味に理解できる。本明細書中、語句「含有する」は、語句「から本質的になる」の意味、及び語句「からなる」の意味を包含することを意図して用いられる。特に限定されない限り、本明細書中に記載されている工程、処理、又は操作は、室温で実施され得る。本明細書中、室温は、10~40℃の範囲内の温度を意味することができる。
【0013】
<非晶質の難水溶性素材(1a)を含有する固体組成物>
本開示の一態様である固体組成物(以下、「本固体組成物」とも称する)は、
非晶質の難水溶性素材(1a)、
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(2)、及び
HPMC以外の多糖類(3)を含有する。
【0014】
1.難水溶性素材(1)
以下、本明細書において、非晶質の難水溶性素材を「非晶質(1a)」又は「難水溶性素材(1a)」、結晶質の難水溶性素材を「結晶質(1b)」又は「難水溶性素材(1b)」、両者を区別することなく総称する場合を「難水溶性素材(1)」と記載する。
【0015】
本開示が対象とする難水溶性素材(1)は、水に溶解しないか、溶解しても少量である、難水溶性の物質である。非晶質化工程を経る前の難水溶性素材は、結晶質の状態にある難水溶性素材(1b)を多く含む。
当該結晶質の状態の難水溶性素材(1b)は、下記のいずれか少なくとも1つの特性を有することができる。
(i)25℃の純水に対する溶解性が、0.1質量%以下である。
ここで溶解性の評価判定は、日本薬局方の規定に準じて、下記のようにして実施することができる。
25℃の純水に0.1質量%濃度になる割合でいれて、5分ごとに強く30秒間振り混ぜたとき、30分以内に溶ける程度で評価する。30分たった時点で、水溶液を目視で観察した場合に不溶物を認める場合は、25℃の純水に対する溶解性が0.1質量%以下であると判断することができる。
(ii)オクタノール/水分配係数(logP)が1より大きく21以下の範囲内である。
好ましくは1より大きく9以下の範囲である。当該logP値は、分子構造が解明されている化合物については、ALOGPS(URL:http://www.vcclab.org/lab/alogps/)等の計算ソフトウェアを用いて、in silicoで決定することができる。
一方、分子構造が未知の化合物については、JIS Z 7260-117(2006)に準拠して、高速液体クロマトグラフィー法により、次式を用いて実験的に決定することができる。
logP=log(Coc/Cwa)
Coc:1-オクタノール層中の被験物質濃度
Cwa:水層中の被験物質濃度
(iii)日本薬局方溶出試験法(パドル法)に準拠した方法で測定した、第十六改正日本薬局方の第2液に対する溶解度が3mg/100mL以下である。
【0016】
難水溶性素材(1)は、例えば、難水溶性の生理活性物質であることができる。本明細書中、生理活性物質は、生体、好ましくは人体に作用して何らかの生物反応を生じさせるか、又は生体反応を制御する化合物を意味する。
【0017】
難水溶性素材(1)の好適な例は、ポリフェノール、ポリフェノール誘導体、カロテノイド、コエンザイムQ10、ビタミン、及びセサミンからなる群から選択される1種以上を包含する。難水溶性素材(1)のより好適な例は、ポリフェノール、ポリフェノール誘導体としてポリメトキシフラボノイド(PMF)、及びカロテノイドからなる群から選択される1種以上を包含する。難水溶性素材(1)のさらにより好適な例は、ポリフェノールの中から選択される1種以上を包含する。
【0018】
難水溶性素材(1)は、1以上(好ましくは2以上)の共役ジエンを含有し、及び所望により1個以上の酸素原子を含有していてもよい化合物であることができる。当該共役ジエン構造は、環(例:ベンゼン、シクロヘキサジエン)の一部であってもよい。
【0019】
こうした難水溶性素材(1)の例には、クルクミノイド;フラボン骨格、イソフラボン骨格、フラボノール骨格又はフラバノン骨格を有するフラボノイド;スチルベノイド;ヒドロキシ桂皮酸やロスマリン酸等のフェノール類(以上、ポリフェノール);カロテノイド;ユビキノン(コエンザイムQ10);ビタミンA、D、E、及びK(以上、ビタミン)が好適に含まれる。これらの群に含まれる難水溶性素材の具体例は下記に説明する。
【0020】
1―1.ポリフェノール、及びポリフェノール誘導体
ポリフェノールは、1種又は2種以上の組み合わせであることができる。
ポリフェノールは、分子内に2以上の複数のフェノール性ヒドロキシ基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシ基)を持つ植物成分であり、その例には、以下のものが包含される。以下の例は、化合物、又は組成物であり得る。
1.クルクミノイド[例:クルクミン(ケト型、及びエノール型が含まれる)、ジメトキシクルクミン、ビスジメトキシクルクミン]、並びにテトラヒドロクルクミン、
2.フラボノイド[ルテオリン、アピゲニン、ジオスミン、ヘスペレチン、ナリンゲニン、ヘスペリジン、エリオジクチオール、ケルセチン、ミリセチン、シリビニン、シリマリン[シリビニン、イソシリビニン、シリクリスチン、及びシリジアニンといったフラボノリグナン類の混合物]、ルチン、イソクエルシトリン、クエルシトリン、ミリシトリン、ケンフェロール)、フラバノール(例:カテキン(E)、ガロカテキン、エピカテキン(EC)、エピカテキンガレート(ECg)、エピガロカテキン(EGC)、エピガロカテキンガレート(EGCg)、テアフラビン、テアフラビン3-ガレート、テアフラビン3’-ガレート、テアフラビン3,3’-ガレート)、イソフラボン(例:ゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン)、アントシアニジン(例:シアニジン、デルフィニジン、マルビジン、ペラルゴニジン、ペオニジン、オーランチニジン、ヨーロビニジン、ルテオリニジン、ペチュニジン、ロシニジン)、プロシアニジン、ポリシアニジン]、
3.スチルベノイド[例:レスベラトロール、ピセアタンノール]、
4.タンニン[例:縮合型タンニン(プロアントシアニジン、オリゴメリックプロアントシアニジン(OPC))、加水分解性タンニン]、
5.モノフェノール[例:ヒドロキシチロソール、p-チロソール]、
6.カプサイシノイド[例:カプサイシン、ジヒドロカプサイシン]、
7.フェノール酸[例:ヒドロキシ桂皮酸(例:p-クマル酸、コーヒー酸、フェルラ酸)、ヒドロキシ安息香酸(例:p-ヒドロキシ安息香酸、没食子酸、エラグ酸)、ロスマリン酸]、
8.前記化合物のアグリコン、
9.前記化合物の少なくとも1つのフェノール性ヒドロキシ基の水素原子が、他の基で置換されてなる化合物(例:アセチル化物、マロニル化物、メチル化物、配糖体等)。
【0021】
前記ポリフェノールは、例えば、合成されたものであっても、また天然から単離精製されたものであってもよい。さらに、粗精製物であってもよく、例えば天然物由来の抽出物の状態であってもよい。
【0022】
天然物由来の抽出物の例には、ウコン抽出物、ヤマモモ抽出物、エンジュ抽出物、オオアザミ抽出物、コーヒー抽出物、カンゾウ抽出物、キュウリ抽出物、ケイケットウ抽出物、ゲンチアナ(又は、リンドウ)抽出物、ゲンノショウコ抽出物、コレステロール及びその誘導体、サンザシ抽出物、シャクヤク抽出物、イチョウ抽出物、コガネバナ(又は、オウゴン)抽出物、ニンジン抽出物、マイカイカ(又は、マイカイ、ハマナス)抽出物、サンペンズ(又は、カワラケツメイ)抽出物、トルメンチラ抽出物、パセリ抽出物、ボタン(又は、ボタンピ)抽出物、モッカ(又は、ボケ)抽出物、メリッサ抽出物、ヤシャジツ(又は、ヤシャ)抽出物、ユキノシタ抽出物、ローズマリー(又は、マンネンロウ)抽出物、レタス抽出物、茶抽出物(例、烏龍茶エキス、紅茶エキス、緑茶エキス)、羅漢果抽出物、及び微生物醗酵代謝産物の抽出物等が包含される。
【0023】
ポリフェノール誘導体とは、前述するポリフェノールの少なくとも1つのフェノール性ヒドロキシ基の水素原子が、他の基(例えば、アシル基、マロニル基、アルキル基、グリコシル基等)で置換されることにより、当該フェノール性ヒドロキシ基が0又は1つになった化合物を意味する。ポリフェノールの誘導体の例としては、制限されないものの、例えば、ポリメトキシフラボノイド(以下、PMFと称する)が挙げられる。PMFは、メトキシ基(-OCH3)を4以上有するフラボノイドをいう。好ましい例には、メトキシ基を4以上有するフラボンが含まれる。PMFは1種又は2種以上の組み合わせであることができる。
PMFの例には、以下のものが包含される。
4つの-OCH3 基を有するPMF:5,6,7,4’-テトラメトキシフラボン
5つの-OCH3 基を有するPMF:タンゲレチン、シネンセチン
6つの-OCH3 基を有するPMF:ノビレチン、3,5,6,7,3’,4’-ヘキサメトキシフラボン
7つの-OCH3 基を有するPMF:3,5,6,7,8,3’,4’-ヘプタメトキシフラボン
【0024】
PMFは、例えば、合成されたものであっても、また天然から単離精製されたものであってもよい。さらに、粗精製物であってもよく、例えば天然物由来の抽出物の状態であってもよい。
【0025】
ポリフェノールの好ましい例には、クルクミノイド、フラボノイド、スチルベノイド、及びこれらのアグリコンが包含される。なかでもクルクミノイドの好適な例には、クルクミンが含まれる。またフラボノイドの好適な例には、フラボン(例:ルテオリン)、フラバノン(例:ヘスペレチン、ナリンゲニン)、フラボノール(例:シリビニン、シリマリン、ルチン、ケルセチン、ミリシトリン、クエルシトリン、イソクエルシトリン)が含まれる。さらにスチルベノイドの好適な例にはレスベラトロールが含まれる。
またポリフェノール誘導体の好適な例には、フラボンのメチル化物であるノビレチン、及びタンゲレチンが含まれる。
【0026】
1―2.カロテノイド
カロテノイドは、1種又は2種以上の組み合わせであることができる。
カロテノイドの例には、以下のものが包含される。以下の例は、化合物、又は組成物であり得る。
キサントフィル類[例:ルテイン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、フコキサンチン、アスタキサンチン、アンテラキサンチン、ビオラキサンチン、クリプトキサンチン]、カロテン類[例:α-カロテン、β-カロテン、γ-カロテン、δ-カロテン、リコペン]、及びアポカロテノイド[例:アポカロテナ-ル、ビキシン、クロセチン]。
その好ましい例には、キサントフィル類、及びカロテン類が包含される。なかでもキサントフィル類の好適な例にはルテイン、及びアスタキサンチンが含まれる。またカロテン類の好適な例にはβ-カロテン、及びリコペンが含まれる。
【0027】
カロテノイドは、例えば、合成されたものであっても、また天然から単離精製されたものであってもよい。さらに、粗精製物であってもよく、例えば天然物由来の抽出物の状態であってもよい。
【0028】
1―3.コエンザイムQ10
コエンザイムQ10は、1種又は2種以上の組み合わせであることができる。
コエンザイムQ10の例には、ユビキノン(酸化型CoQ)、ユビキノール(還元型CoQ:CoQH)、及びセミキノンラジカル中間体(CoQH・)が包含される。本開示において、コエンザイムQ10の好ましい例には、ユビキノールが含まれる。ユビキノールは、別名、還元型コエンザイムQ10、還元型補酵素Q、還元型CoQ、又は還元型UQとも呼ばれる脂溶性成分であり、効果的な脂溶性抗酸化物質として知られている。
【0029】
コエンザイムQ10は、例えば、合成されたものであっても、また天然から単離精製されたものであってもよい。さらに、粗精製物であってもよく、例えば天然物由来の抽出物の状態であってもよい。
【0030】
1―4.ビタミン
ビタミンは、1種又は2種以上の組み合わせであることができる。
ビタミンの例は、以下の例を包含する。以下の例は、化合物、又は組成物であり得る。 ビタミンA[例、レチノール]、ビタミンD[例、エルゴステロール、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール]、ビタミンE[例、トコフェロール、トコトリエノール]、ビタミンK[例、フィロキノン]。
【0031】
ビタミンは、例えば、合成されたものであっても、また天然から単離精製されたものであってもよい。さらに、粗精製物であってもよく、例えば天然物由来の抽出物の状態であってもよい。
【0032】
1―5.セサミン
セサミンは、例えば、ゴマ、サンショウ、及びイチョウ等に含まれるリグナンの一種である。
【0033】
セサミンは、例えば、合成されたものであっても、また天然から単離精製されたものであってもよい。さらに、粗精製物であってもよく、例えば天然物由来の抽出物の状態であってもよい。
【0034】
本開示の一態様である本固体組成物は、前述する難水溶性素材(1)からなる群より選択される少なくとも1つを、非晶質状態で、つまり非晶質の難水溶性素材(1a)として、HPMC(2)、及びHPMC以外の多糖類(3)とともに含有する組成物である。
【0035】
当該本固体組成物における、難水溶性素材(1a)の含有量は、制限されないものの、通常、1質量%以上の範囲から選択することができる。好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であることができる。また難水溶性素材(1a)の含有量の上限値は、制限されないものの、通常60質量%以下から選択することができる。好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下であることができる。例えば、通常1~60質量%の範囲内、好ましくは5~50質量%の範囲内、より好ましくは10~40質量%の範囲内、更に好ましくは15~35質量%の範囲内であることができる。
【0036】
2.結晶質の難水溶性素材(1b)を非晶質化するための素材
本発明においては、結晶質の難水溶性素材(1b)を非晶質化し、非晶質の難水溶性素材(1a)を得るために、2種以上の多糖類を併用することを特徴とする。2種以上の多糖類を併用することで、高い収率で、結晶質の難水溶性素材(1b)を非晶質化することができる。また、好ましくは、得られた難水溶性素材(1a)の非晶質状態を安定化することもできる。さらに好ましくは、高温多湿の影響下や保存下で生じる外観変化(例えば、ケーキング、固化、色変化など)が抑制され、保存安定性に優れる、非晶質の難水溶性素材(1a)を含む固体組成物を提供することができる。
【0037】
本開示の一態様においては、難水溶性素材(1b)を非晶質化し、非晶質の難水溶性素材(1a)を調製するための素材として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(2)と、HPMC以外の1種以上の多糖類(3)との組み合わせを挙げることができる。
以下に、難水溶性素材(1b)を非晶質化するために使用される物質を具体的に説明する。
【0038】
2-1.ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)(2)
以下、本明細書において、本発明の固体組成物等に含まれる第二成分を「HPMC」と記載する場合がある。
HPMCは、メチルセルロースにヒドロキシプロポキシル基を導入したセルロースエーテルであり、水溶性のセルロース誘導体である。
【0039】
本開示において使用されるHPMCには、特に制限されないが、メトキシ基及びヒドロキシプロポキシ基による置換度(メトキシ基及びヒドロキシプロポキシ基の含量)が各々下記の範囲にあるHPMCが含まれる:
メトキシ基による置換度:20~40%、好ましくは25~35%、より好ましくは27~30%の範囲、
ヒドロキシプロポキシ基による置換度:3~20%、好ましくは5~15%、より好ましくは7~12%の範囲。
【0040】
好ましくはメトキシ基による置換度が25~35%、ヒドロキシプロポキシ基による置換度5~15%の範囲にあるHPMCであり、より好ましくはメトキシ基による置換度が27~30%、ヒドロキシプロポキシ基による置換度7~12%の範囲にあるHPMCである。HPMCは、所望により2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0041】
また本開示において使用されるHPMCには、特に制限されないが、2質量%濃度の水溶液(20℃)に調製した場合の粘度が2~120mm/sの範囲にあるHPMCが含まれる。好ましくは3~100mm/sの範囲であり、より好ましくは4~80mm/sの範囲である。
【0042】
こうしたHPMCは、食品添加物用又は医薬製剤用として市販されている。このようなHPMCとしては、メトローズ(登録商標。以下、同じ)SE-03、メトローズSE-06、メトローズNE-100、メトローズSFE-400、メトローズNE-4000、メトローズSFE-4000(以上、信越化学工業株式会社製)を例示することができる。
【0043】
本固体組成物におけるHPMCの含有量は、制限されないものの、通常、20質量%以上の範囲から選択することができる。好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であることができる。またHPMCの含有量の上限値は、制限されないものの、通常95質量%以下から選択することができる。好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下であることができる。例えば、通常20~95質量%の範囲内、好ましくは30~90質量%の範囲内、より好ましくは35~85質量%の範囲内、更に好ましくは40~80質量%の範囲内であることができる。
【0044】
2-2.HPMC以外の5糖以上の多糖類(3)
本発明において、HPMCと併用される多糖類は、HPMC以外の多糖類であって、5個以上の構成糖を含有することを特徴とする。以下、本明細書において、当該多糖類を「5糖以上の多糖類(3)」又は単に「多糖類(3)」と記載する場合がある。当該多糖類(3)にはHPMCは包含されない。当該多糖類(3)は5糖以上の多糖類であることを限度として、多糖類を構成する単糖の数は制限されない。5糖(例:分子量は約800)よりも大きいことが好ましく、例えば、6糖以上(例:α-CDの分子量は972)、7糖以上(例:β-CDの分子量は1135)、8糖以上(例:γ-CDの分子量は1297)、9糖以上、10糖以上を例示することができる。なお、多糖類を構成する単糖は、特に制限されず、五炭糖(アルドペントース、ケトペントース、及びそれらのデオキシ糖が含まれる)、及び六炭糖(アルドヘキソース、ケトヘキソース、及びそれらのデオキシ糖が含まれる)が包含される。これらの多糖類(3)の例には、直鎖状、分岐状、及び環状の多糖類がいずれも含まれる。例えば、後述するシクロデキストリンは、6~8つの単糖が環状に結合した構造を有する環状の水溶性多糖類である。
【0045】
HPMCと併用される多糖類(3)の例としては、制限されないものの、アラビアガム、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ガティガム、低分子ガティガム、加工澱粉、ローカストビーンガム、グァーガム、アルギン酸又はその塩、カラギーナン(ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、κ-カラギーナンが含まれる)、ペクチン(HMペクチン、LHペクチンが含まれる)、キサンタンガム、プルラン、微結晶セルロース、発酵セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デキストリン(難消化性デキストリンが含まれる)、シクロデキストリン(α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンが含まれる)、大豆多糖類、寒天、タマリンド種子ガム、グァーガム分解物、カラヤガム、タラガム、ウェランガム、及びジェランガム(ネイティブジェランガム、アセチル化ジェランガムが含まれる)が挙げられる。ここで、ガティガムには分子量が80万以上のものが含まれ、低分子ガティガムには分子量が80万未満、好ましくは乳化力の点から10~20万程度のものが含まれる。好適な多糖類(3)の例としては、制限されないものの、アラビアガム、HPC、低分子ガティガム、加工澱粉、ペクチン、大豆多糖類、プルラン、微結晶セルロース、発酵セルロース、タマリンド種子ガム、グァーガム分解物、デキストリン(難消化性デキストリンが含まれる)、CMC、シクロデキストリン、カラギーナンが挙げられる。より好ましい多糖類(3)は、アラビアガム及びHPCである。
【0046】
これらの多糖類(3)は1種単独でHPMC(2)と併用することもできるし、また2種以上を任意に組み合わせてHPMC(2)と併用することもできる。組み合わせは、特に制限されないが、例えばHPCは他の任意の多糖類(3)と組み合わせやすい水溶性の多糖類である。組み合わせる態様の例としては、制限されないものの、好ましくは、HPCとアラビアガムとの組み合わせを挙げることができる。
【0047】
HPCは、セルロースの水酸基を酸化プロピレンでエーテル化することで得られ、多数のヒドロキシプロピル基(-OCH2CH(OH)CH3)を有する水溶性のセルロース誘導体である。1グルコースあたりの置換された水酸基の平均数である置換度(DS)は最大3である。また1グルコースあたりのヒドロキシプロピル基の数であるモル置換度(MS)は4以上である。HPCの分子量は、食品添加物として市販されているものとして、質量平均分子量40000~910000の範囲を挙げることができるが、必要に応じて分子量の範囲を適宜選択設定することができる。例えば、制限されないものの、セルニー(登録商標。以下、同じ)SSL(分子量40000)、セルニーSL(分子量100000)、セルニーL(分子量140000)、セルニーM(分子量620000)、セルニーH(分子量910000)(以上、日本曹達株式会社製)を挙げることができる。本開示では、水溶性を有するものであればよく、制限されないものの、好ましくは質量平均分子量が40000~140000ものを例示することができる。なおHPCの分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC法)で測定可能である。
【0048】
HPMCと併用される多糖類(3)の、難水溶性素材(1b)の非晶質化における役割は、下記のように考えることができる。但し、これはあくまでも仮説であり、これに拘泥されるものではない。
【0049】
難水溶性素材(1b)に、HPMC(2)とともに多糖類(3)を添加し、全成分を加熱混練(好ましくは、難水溶性素材(1b)のガラス転移点以上の温度条件下での加熱混練)した後に冷却すると、加熱混練により非晶質化された難水溶性素材(1a)が、冷却されるまでの間、多糖類(HPMC(2)と多糖類(3))にトラップされ、その結果、難水溶性素材同士の凝集による再結晶化が阻止される。
このため、多糖類(3)の分子量は、非晶質化する対象の難水溶性素材(1b)の分子量より大きいことが好ましい。つまり、難水溶性素材(1b)を非晶質化するために使用する多糖類(3)は、当該難水溶性素材(1b)の分子量を指標として、それよりも大きい分子量を有する多糖類の中から選択することができる。
例えば、多糖類(3)の分子量として、制限されないものの、800以上、1×10以上、5×10以上、又は1×10以上を例示することができる。
【0050】
本発明においては、難水溶性素材(1b)を非晶質化するために、多糖類(3)以外の素材をHPMCと併用することを排除するものではない。しかし、例えば、パラチノース(登録商標。以下、同じ)やマルトース等の二糖類、ラフィノース等の三糖類、及びポリソルベート80等の界面活性剤を、HPMCと併用することは、難水溶性素材(1a)の非晶質状態を安定に保持するために、好ましくない場合がある。
従って、本開示の一態様においては、難水溶性素材(1b)を非晶質化するためにHPMCと併用される素材として、パラチノースやマルトース等の二糖類、ラフィノース等の三糖類、及びポリソルベート80等の界面活性剤は用いないことが好ましい。
【0051】
本固体組成物における多糖類(3)の含有量(総量)は、通常、1質量%以上の範囲から選択することができる。好ましくは4質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上又は12質量%以上であることができる。また、多糖類(3)の含有量の上限値は、制限されないものの、通常80質量%以下から選択することができる。好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下又は50質量%以下であることができる。例えば、通常1~80質量%の範囲内、好ましくは4~75質量%の範囲内、より好ましくは5~70質量%の範囲内、更に好ましくは10~60質量%の範囲内であることができる。
【0052】
なお、多糖類(3)として、HPCを単独又は他の多糖類(3)と組み合わせて用いる場合の本固体組成物におけるHPCの含有量は、制限されないものの、通常1質量%以上の範囲から選択することができる。好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であることができる。また、本固体組成物におけるHPCの含有量の上限値は、通常50質量%以下の範囲から選択設定することができる。好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下であることができる。本固体組成物におけるHPCの含有量は、通常1~50質量%の範囲内、好ましくは3~40質量%の範囲内、より好ましくは5~30質量%の範囲内、更に好ましくは、8~20質量%の範囲内であることができる。
【0053】
本開示の一態様である本固体組成物における非晶質の難水溶性素材(1a)及びHPMC(2)の質量比は、難水溶性素材(1a)1質量部に対するHPMC(2)の割合が通常、0.3~95質量部の範囲内になるように設定することができる。好適には0.5~20質量部の範囲内である。少なくともこの範囲になるように、難水溶性素材(1b)とHPMC(2)を多糖類(3)とともに併用することで、難水溶性素材(1b)を収率よく安定的に非晶質化することができ、安定して難水溶性素材(1a)を含む本固体組成物を得ることができる。より好ましくは1~20質量部、さらに好ましくは3~20質量部の範囲内である。少なくともこの範囲になるように、難水溶性素材(1b)とHPMC(2)を多糖類(3)とともに併用することで、収率よく難水溶性素材(1b)を安定して非晶質化することができるとともに、得られた本固体組成物は良好な保存安定性を有し、保存による外観変化(ケーキング、変色など)を有意に抑制することが可能になる。なお、別の態様として、本固体組成物に含まれる難水溶性素材(1a)1質量部に対するHPMC(2)の割合は0.6~18質量部の範囲内、より好適に1~8.5質量部の範囲内、更に好適に1.5~5質量部の範囲内であることができる。
【0054】
本開示の一態様である本固体組成物における非晶質の難水溶性素材(1a)及びHPMC(2)と併用する多糖類(3)の質量比は、難水溶性素材(1a)1質量部に対する多糖類(3)の割合が通常、0.02~50質量部の範囲内になるように設定することができる。好適には0.05~20質量部の範囲内である。少なくともこの範囲になるように、難水溶性素材(1b)と多糖類(3)をHPMC(2)とともに併用することで、難水溶性素材(1b)を収率よく安定的に非晶質化することができ、安定して難水溶性素材(1a)を含む本固体組成物を得ることができる。より好ましくは1~10質量部、さらに好ましくは1~5質量部の範囲内である。少なくともこの範囲になるように、難水溶性素材(1b)と多糖類(3)をHPMC(2)とともに併用することで、収率よく難水溶性素材(1b)を安定して非晶質化することができるとともに、得られた本固体組成物は良好な保存安定性を有し、保存による外観変化(ケーキング、変色など)を有意に抑制することが可能になる。なお、別の態様として、本固体組成物に含まれる難水溶性素材(1a)1質量部に対する多糖類(3)の割合は、好適に0.06~8質量部の範囲内、より好適に0.1~3質量部の範囲内、更に好適に0.2~2質量部の範囲内であることができる。
【0055】
本開示の一態様である本固体組成物におけるHPMC(2)と多糖類(3)の質量比は、HPMC(2)1質量部に対する多糖類(3)の割合が、通常0.01~5質量部の範囲内になるように設定することができる。好適には0.05~5質量部の範囲内である。少なくともこの範囲になるように、難水溶性素材(1b)にHPMC(2)と多糖類(3)を併用することで、難水溶性素材(1b)を収率よく安定的に非晶質化することができ、安定して難水溶性素材(1a)を含む本固体組成物を得ることができる。より好ましくは0.05~1質量部、さらに好ましくは0.05~0.5質量部の範囲内である。少なくともこの範囲になるように、難水溶性素材(1b)にHPMC(2)と多糖類(3)を併用することで、収率よく難水溶性素材(1b)を安定して非晶質化することができるとともに、得られた本固体組成物は良好な保存安定性を有し、保存による外観変化(ケーキング、変色など)を有意に抑制することが可能になる。なお、別の態様として、HPMC(2)1質量部に対する多糖類(3)の割合は0.01~2.5質量部の範囲内、好適に0.03~1.3質量部の範囲内、より好適に0.06~0.9質量部の範囲内、更に好適に0.1~0.5質量部の範囲内であることができる。
【0056】
本固体組成物は、固体形状を有することを特徴とする。かかる固体形状には、粉末状、顆粒状、塊状、及び棒状が含まれる。本固体組成物は、後述するように、例えば、難水溶性素材(1)の結晶状態(結晶質と非晶質の割合)に影響しない他の任意の添加剤と混合して、所望の形態(例えば、製剤形態)を有する製品を作製するために使用される。この場合、本固体組成物は、粉末状又は顆粒状の形態に調製されることが好ましい。
【0057】
この場合の粉末又は顆粒の粒子径は、その形態に応じて適宜選択できる。
例えば、-粒子径(メジアン径。以下、同じ)は、0.1~2000μm、1.0~1000μm、10~500μm、100~500μm、100~400μm、1~100μm、5~100μm又は10~100μmの範囲内であることができる。
本発明の固体組成物においては、その粒子径が小さいほど表面積が大きくなり、過飽和状態に達する速度が向上すると考えられる。一方、粗大粉末が多いとハードカプセルに充填できない、錠剤化できない等の不都合が生じることから、該粒子径は、粉砕機による粉砕等の手段で調整しても良い。また粒子径(メジアン径)は、後述する実施例の記載に従って測定することができる。
【0058】
本発明の固体組成物に含まれる難水溶性素材(1)の非晶質状態は、粉末X線回折の方法により確認することができる。粉末X線回折法は、試料中に含まれている結晶質を検出するために慣用的に使用されている方法である。当該方法で得られるチャートにおいて、非晶質による散乱光はブロードなピーク(本発明では、これを「ハローピーク」と称する)として検出され、結晶質による回折線はシャープなピーク(本発明では、これを「シャープピーク」と称する)として検出される。
本発明の固体組成物に含まれる難水溶性素材(1)の非晶質状態は、簡易には、本固体組成物を粉末X線回折装置で分析して得られるチャート(XRD分析チャート)において、2θ=5~60°の範囲のハローピークの面積を(S1)、同範囲の、結晶質状態の難水溶性素材(1b)由来のシャープピーク(ハローピークを越える部分)の面積を(S2)とし、式:{(S2)/((S1)+(S2))}×100(%)から得られる数値(本発明ではこれを「XRD分析値」とも称する)に基づいて評価することが出来る。
当該数値(XRD分析値)は、小さいほど、本固体組成物に含まれる難水溶性素材中の非晶質状態の難水溶性素材(1a)が多く含まれることを示唆している。しかし、精度よく定量できるものではなく、試料中に含まれる非晶質状態の難水溶性素材(1a)の具体的な割合を示すものではない。
【0059】
本固体組成物においては、XRD分析値は、例えば、4.0%以下、3.0%以下、2.0%以下、1.0%以下、0.8%以下、0.5%以下、又は0%である。本固体組成物は、好ましくはXRD分析値が1.0%以下である。さらに好ましい本固体組成物はXRD分析値が0%であり、かかる固体組成物は、結晶質の難水溶性素材(1b)を実質的に、又は完全に含有しない。
【0060】
本固体組成物は、それに含まれる難水溶性素材(1)の結晶性が低下ないし消失しているため、水系媒体(例:水、体液)に接触したときの崩壊性、分散性、溶出性及び/又は非凝集性に優れるものと考えられる。
そのため、本固体組成物を生体内に投与した場合、当該組成物に含まれる難水溶性素材(1a)の血中濃度最大値(Cmax)が高くなる効果、及び当該素材の血中への総吸収量が増加する効果が期待できる。
【0061】
この性質により、本固体組成物によれば難水溶性素材(1)が有する機能(例、生理活性)を高度に発揮させ得る。
【0062】
また本固体組成物は、保存によるケーキング、及び色変化が抑制されており、保存性に優れる。
【0063】
本固体組成物は、例えば、以下に説明する製造方法(本明細書において、「本発明の製法」と称する場合がある)により製造可能である。
<非晶質の難水溶性素材(1a)を含有する固体組成物の製造方法>
本固体組成物は、例えば、
結晶質の難水溶性素材(1b)、
HPMC(2)、及び
HPMC以外の5糖以上の多糖類(3)
を加熱混練する工程を含む製造方法により製造することができる。当該加熱混練工程により前記結晶質の難水溶性素材(1b)を非晶質に変化させることが可能になる。
【0064】
加熱混練工程は、結晶質の難水溶性素材(1b)を溶融することができる限り、特に限定されることなく、当業界の定法に従って実施することができる。例えば、結晶質の難水溶性素材(1b)を非晶質化させる方法としては、結晶質の難水溶性素材(1b)が溶融するまで加熱する方法が挙げられる。一方、有機溶媒に結晶質の難水溶性素材(1b)等を溶解する有機溶媒法(溶解度を上げるために加温や撹拌する場合もある)は、本固体組成物の組成では、高い純度の非晶質製剤を調製できないことから、本発明の製法には含まれない。
【0065】
本発明の製法においては、有機溶媒を使用しないことから、結晶質の難水溶性素材(1b)が融解する温度まで加熱する必要があり、また、非晶質状態を維持するために併用するHPMC(2)及び多糖類(3)の中でも、粘弾性が高い素材(例、キサンタンガム等)を用いた場合には、混錬工程においては、ある程度のトルクが必要とされる。この点、本発明の製法において使用し得る加熱混練工程は、例えば温度制御が可能な、ニーダーやミキサー等の混練機;または、一軸押出機、噛み合い型スクリュー押出機、又は多軸押出機(例、二軸押出機)等の押出機(エクストルーダー)を用いることにより好適に実施することができる。混練機によると、混ぜる、潰す、練る、つく等の複数の作業(混練作業)を並行して行うことで、前記材料が均一に混ざった状態を作り出すとともに、結晶質の難水溶性素材(1b)を非晶質に変化させることが可能になる。押出機は、前記混練作業と押出しを同時もしくは連続的に実施することができる機械である。当該押出機によると、前記混練機と同様に、前記材料を均一に混ぜるとともに結晶質の難水溶性素材(1b)を非晶質に変化させ、次いで、得られた非晶質の難水溶性素材(1a)を含む本固体組成物を押出しにより排出することができる。
【0066】
本発明の製法において使用し得る加熱混練工程は、例えば、難水溶性素材(1b)とHPMC(2)及び多糖類(3)との混練を、当該難水溶性素材(1b)のガラス転移温度Tg(℃)以上の温度条件下で実施することが好ましい。難水溶性素材(1b)を2種以上組み合わせて用いる場合は、最もガラス転移温度が高い難水溶性素材(1b)のガラス転移温度Tg(℃)以上の温度条件下で、加熱混練することにより実施することができる。当該ガラス転移温度(Tg)の決定は、JIS K 7121:2012に準拠して実施できる。例えば、難水溶性素材(1b)がクルクミノイドである場合、そのガラス転移温度Tgは72℃であることから、加熱混練温度として、80℃以上、好ましくは80℃より高い温度を採用することができる。従って、例えば、クルクミノイドを非晶質化する際の混練温度としては、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上、140℃以上、150℃以上、又は160℃以上であることができる。
【0067】
当該加熱混練に採用する温度の上限は特に制限されないが、例えば、難水溶性素材(1b)の融点Tm+40(℃)~Tm-10(℃)であることができる。なお、難水溶性素材(1b)を2種以上組み合わせて用いる場合は、前記融点Tm(℃)は、最も融点が高いものの融点Tm(℃)を意味する。当該融点(Tm)は、JIS K 7121-1987に準拠して決定することができる。
また、上限温度は多糖類(3)が過度に分解しない温度が望ましく、例えば240℃以下、好ましくは230℃以下、さらに好ましくは220℃以下が挙げられる。
【0068】
例えば、難水溶性素材(1b)がクルクミノイドである場合、その融点は191℃であることから、当該混錬の温度は、231℃以下、220℃以下、210℃以下、200℃以下、190℃以下、180℃以下であることができる。
つまり、難水溶性素材(1b)がクルクミノイドである場合、加熱混錬に採用する温度として、例えば100℃~231℃の範囲内、120℃~220℃の範囲内、120℃~200℃の範囲内であることができる。
【0069】
なお、前記混練工程は、HPMC(2)及び多糖類(3)に加えて他の成分(4)とともに、前述する難水溶性素材(1b)を加熱混練する工程であることもできる。
【0070】
本開示の製造方法は、その一態様において、前記の混練工程において、難水溶性素材(1b)、HPMC(2)及び多糖類(3)を加熱混練することで、非晶質化された難水溶性素材(1a)を含む本固体組成物を調製した後、当該本固体組成物を室温などの所望の温度まで冷却する工程を含むことができる。さらに、斯くして得られた固体組成物を、解砕機や粉砕機等で解砕又は粉砕する工程を含むこともできる。
また、本開示の製造方法は、前記混練工程、又は冷却工程や解砕・粉砕工程を含む方法以外に、固液分離工程(例えば、溶媒沈殿法)、乾燥工程(例えば、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、減圧乾燥法など)、整粒工程(篩分け等)、及び/又は造粒工程を有する方法により製造することもできる。これらの方法は、当業界の定法に従って実施することができる。
【0071】
<本固体組成物の用途>
前述する本固体組成物は、そのままの状態で経口組成物、医薬品、医薬部外品、飲食品、オーラルケア製品、又は化粧品の原料として用いることができる。また、本固体組成物は、それに含まれる非晶質状態の難水溶性素材(1a)の割合が極めて高いため、それに非晶質化前の同じ難水溶性素材(1b)原料を添加して使用しても良い。このように、非晶質化前の原料粉末を添加する利点としては、非晶質製剤の体内吸収性が高すぎた場合に、吸収量を容易に調節できる点や、粉体の吸湿性等の物性を容易に調節できる点等が挙げられる。この場合、製剤中に含まれる難水溶性素材(1)は、例えば、非晶質:結晶質=1:0.1~1:5(質量比)の範囲に調製しても良く、好ましくは、非晶質:結晶質=1:2である。
【0072】
更に、本固体組成物は、それに含まれる難水溶性素材(1a)の非晶質状態に影響しないように、必要に応じて、他の成分(例えば、医薬品、医薬部外品、飲食品、オーラルケア製品、又は化粧品の成分やそれらの添加剤等)と任意に混合して、所望の医薬品、医薬部外品、飲食品、オーラルケア製品、又は化粧品を作製するために使用することができる。
【0073】
他の添加剤の例としては、前記の限り、制限されないものの、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、賦型剤、着色剤、着香剤、香料、香油、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、保湿剤、及びpH調整剤が挙げられる。こうした成分には、医薬品、医薬部外品、又は食品分野において、添加剤として規定されているものが含まれる。
【0074】
より具体的には、ショ糖、果糖、デンプン類、セルロース、デキストリン、アラビアガム末、ガディガム末、メチルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、タルク、二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、寒天末、カルボキシメチルセルロース(カルシウム)、エステル油、ロウ、高級脂肪酸、高級アルコール、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤、多価アルコールが挙げられる。
【0075】
前述する飲食品には、一般的な飲食品のほか、例えば健康食品、機能性表示食品、健康補助食品(又はサプリメント)、栄養機能食品、栄養補助食品、特別用途食品、及び特定保健用食品などが、制限なく含まれる。またオーラルケア製品には、例えばハミガミ剤(粉、ペースト)、口臭予防・消臭剤(ガム、タブレットなど)、歯周病予防・改善剤などが、制限なく含まれる。また化粧品には、例えば、機能性化粧品、スキンケア製品、メークアップ製品、香粧品、及びヘアケア製品等が含まれる。本固体組成物は、それ自体、又はこれを含有する最終製品が、経口投与又は経口摂取される組成物(例:経口医薬品、飲食品)、口腔内に適用される組成物(例:オーラルケア製品)、気管支・肺に適用される組成物、目に投与される組成物、耳に投与される組成物、鼻に適用される組成物、直腸に適用される組成物、膣に適用される組成物、又は皮膚に適用される組成物であることができる。
【0076】
本固体組成物を含む製品形態の例には、錠剤(例:裸錠、糖衣錠、複層錠、口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解錠などが含まれる)、カプセル剤、顆粒剤(例:発泡顆粒剤が含まれる)、散剤、経口ゼリー剤、口腔用錠剤(例:トローチ剤、舌下錠、バッカル錠、付着錠、ガム剤などが含まれる)、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤、含嗽剤、透析用剤(例:腹膜透析用剤、血液透析用剤)、吸入剤(例:吸入粉末剤、吸入エアゾール剤)、坐剤、直腸用半固形剤、注腸剤、眼軟膏剤、点耳剤、点鼻剤(点鼻粉末剤)、膣錠、膣用坐剤、外用固形剤(例:外用散剤)、スプレー剤(例:外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤)を包含する。また本固体組成物を、用時に液体と混合することで、液状の製剤形態に調製することができる。かかる製剤形態には、経口液剤(例:エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、リモナーデ剤)、シロップ剤(例:シロップ用剤)、口腔用スプレー剤、吸入液剤、注腸剤、点鼻液剤、外用液剤(例:リニメント剤、ローション剤)、スプレー剤(例:外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤)が含まれる。
【0077】
<難水溶性素材の結晶質及び/または非結晶質の割合の算出方法>
本開示の一態様である前記算出方法(以下、「本算出方法」と称する)は、難水溶性素材(1)、HPMC(2)、及びHPMC以外の5糖以上の多糖類(3)を含有する固体組成物において、難水溶性素材(1)に含まれる結晶質及び/または非結晶質状態の難水溶性素材の割合を算出するために有用に使用することができる。
【0078】
当該固体組成物には、前述する本発明の固体組成物、及び前述する本発明の製造方法で得られる固体組成物が含まれるほか、前記固体組成物と同じく難水溶性素材(1)、HPMC(2)、及び多糖類(3)を含有しながらも本発明の製造方法とは異なる非晶化方法で製造される固体組成物も含まれる。また、本発明の製造方法で得られた固体組成物に、別途結晶質の難水溶性素材(1b)を追加(外添)して調製される固体組成物も含まれる。当該固体組成物は、医薬品、医薬部外品、飲食品、オーラルケア製品又は化粧品であることもできるし、またこれらの各製品に添加配合して使用される材料であることもできる。
以下、本算出方法で測定対象とする固体組成物を、「測定固体組成物」または「測定試料」と称する。なお、当該測定固体組成物(測定試料)を構成する難水溶性素材(1)、HPMC(2)、及び多糖類(3)は、前述の通りであり、前記の記載はここに援用することができる。
【0079】
本算出方法は、下記(A)及び(B)の工程により行うことができる:
(A)測定固体組成物(測定試料)を粉末X線回折装置で分析して得られたチャートにおいて、XRD分析値を求める工程;及び
(B)(A)のXRD分析値を、あらかじめ作成された検量線に当てはめて、測定固体組成物(測定試料)に含まれる難水溶性素材中の結晶質(1a)及び/または非晶質(1b)の割合を算出する工程。
【0080】
なお、検量線は下記の方法で作成することができる:
(C)測定固体組成物(測定試料)に含まれる難水溶性素材(1)を対象として、結晶質の難水溶性素材(1b)を本発明の製造方法を用いて非晶質化した組成物に、結晶質の難水溶性素材(1b)を種々の割合で配合した混合物(標準試料)について、各標準試料のXRD分析値を求め、標準試料中の結晶質の難水溶性素材(1b)の割合(%;理論値)をX軸に、XRD分析値をY軸にプロットする。X軸には、標準試料中の結晶質の難水溶性素材(1b)の割合に代えて、標準試料に含まれる難水溶性素材(総量)中の結晶質(1b)の割合(%;理論値)をプロットすることもできる。なお、XRD分析値は前述の通りである。
当該検量線の作成工程は、前記(A)及び(B)工程の前に実施してもよい。
【0081】
当該(A)及び(B)工程、又はこれにさらに(C)工程を含む本算出方法は、本発明の製造方法によって、非晶質の割合が極めて高い固体組成物を調製できるようになったことに基づいて、使用できるため、後述する試験例6に示すように、難水溶性素材(1)、HPMC(2)、及び多糖類(3)を含有する固体組成物について、XRD分析値が、当該固体組成物に含まれる難水溶性素材の結晶質(1a)の割合、又は難水溶性素材(1)中の結晶質(1a)の割合と正の相関関係を示すことに基づく。つまり、両者の相関関係を反映した検量線を予め作成しておくことで、測定試料のXRD分析値を求めれば、前記検量線により、当該測定試料に含まれている、難水溶性素材の結晶質(1a)の割合、又は難水溶性素材(1)中の結晶質(1a)の割合を簡単に知ることができる。また難水溶性素材(1)中の結晶質(1a)の割合(結晶質含有率%)がわかれば、難水溶性素材(1)中の非晶質(1b)の割合(非晶質含有率%)も同時に知ることができる。
【0082】
前記(A)において使用する標準試料は、本発明の製造方法によって難水溶性素材を非晶質化した組成物:結晶質の該難水溶性素材(1b)=1:0.1~1:10の範囲で、適宜、混合比を選択し、異なる混合比の試料を2以上調製すれば良い。
【0083】
本算出方法によれば、固体組成物に含まれる難水溶性素材中の結晶質及び/非晶質の割合を算出し、固体組成物の品質を評価または管理することが可能になる。
【実施例
【0084】
以下、試験例や実施例等によって本発明を更に詳細に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当業者により多くの変形が可能である。なお、以下の試験は、特に言及しない限り、室温(25±5℃)、及び大気圧条件で実施した。また、特に言及しない限り、「%」は「質量%」を、また「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0085】
下記の試験で採用した製造方法、及び試験方法は、以下の通りである。
(1)固体組成物の製造方法
<加熱混練法>
全ての原料を均一に混合し、押出機(二軸エクストルーダー)(製品:Process11;Thermo Fisher社製)を用いて加熱混練した(詳細な条件は、表2、3、5~8、11及び12に記載の通り)。
加熱混練後、棒状態として押出し排出された組成物を、粉砕機を用いて粉砕して、粉状の固体組成物(メジアン径:約100μm~400μm)を取得した。なお、粉砕物の粒子径は、マイクロトラックMT3300EX II(マイクロトラック・ベル社製)を使用して、以下の測定条件にて測定した。
【0086】
<粒子径の測定条件>
測定モード:乾式
乾式フィーダ:Turbotrac One-Shot Dry
Set Zero時間:5秒
測定時間:5秒
粒子屈折率:1.81
粒子形状:非球形
【0087】
(2)試験方法
(2-1)固体組成物に含まれる難水溶性素材の含有量及び含有残存率(%)
製造した固体組成物中に含まれる難水溶性素材の含有量を測定し、固体組成物100%中の含有割合(測定値(%))を算出した。なお、難水溶性素材の含有量は、アスタキサンチンは吸光度法により、それ以外の難水溶性素材はHPLC法により測定した。
下式に示すように、得られた測定値(%)を、製造時に配合した割合(理論値(%))で除して、得られた値の百分率を「難水溶性素材の含量残存率(%)」とした。
難水溶性素材の含量残存率(%)=「測定値(%)/理論値(%)」×100
【0088】
(a)クルクミンの含有量の測定
(i)測定試料及び標準試料の調製
Curcumin 1(長良サイエンス株式会社)をメタノールにて溶解後、50%アセトニトリル水にて0.4~40μg/mlに希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して標準試料とした。
また、製造した固体組成物を50%アセトニトリル水にて1000~1250倍程度に希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して測定試料とした。
【0089】
標準試料及び測定試料を、下記条件にてHPLC分析した。
(ii)測定条件
HPLC装置:Agilent 1220 Infinity II LCシステム(Agilent Technologies Japan, Ltd. 以下、同じ)
固定相:Atlantis T3カラム(シリカベース逆相C18)(2.1×150mm、3μm)(Waters、以下、同じ)
移動相:0.1%(v/v)リン酸含有50%(v/v)アセトニトリル水溶液
流速:0.5 ml/min
カラム温度:40℃
【0090】
(b)シリマリンの含有量の測定
(i)測定試料及び標準試料の調製
Silybin(mixture of SilybinA and SilybinB)(東京化成工業株式会社)をメタノールにて溶解後、35%メタノール水にて0.4~40μg/ml(シリビン総量として)に希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して標準試料とした。
また、製造した固体組成物を65%メタノール水にて溶解後、35%メタノール水にて1000倍希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して測定試料とした。
標準試料及び測定試料を、下記条件にてHPLC分析した。
シリマリン含量は、シリビン(シリビンAとシリビンBの総量として)を98.7%含有するシリビン標準試料の検量線を用いて算出した。
【0091】
(ii)測定条件
HPLC装置:Agilent 1220 Infinity II LCシステム 固定相:Atlantis T3カラム(2.1×150mm、3μm)
移動相:A:0.2%(v/v)リン酸水溶液、B:メタノール
流速:0.6 ml/min
カラム温度:40℃
移動相のグラジェント条件:表1
【表1】
【0092】
(c)ルテオリンの含有量の測定
(i)測定試料及び標準試料の調製
3',4',5,7-Tetrahydroxyflavone(東京化成工業株式会社)をエタノールにて溶解後、40%アセトニトリル水にて0.4~40μg/mlに希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して標準試料とした。
また、製造した固体組成物を50%エタノール水にて溶解後、40%アセトニトリル水にて1000倍希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して測定試料とした。
標準試料及び測定試料を、下記条件にてHPLC分析した。
【0093】
(ii)測定条件
HPLC装置:Agilent 1220 Infinity II LCシステム 固定相:Atlantis T3カラム(2.1×150mm、3μm)
移動相:0.1%(v/v)リン酸含有40%(v/v)アセトニトリル水溶液
流速:0.3 ml/min
カラム温度:40℃
【0094】
(d)ナリンゲニン、ヘスペレチンの含有量の測定
(i)測定試料及び標準試料の調製
Naringenin(東京化成工業株式会社)、又は、Hesperetin(東京化成工業株式会社)をそれぞれメタノールにて溶解後、20%アセトニトリル水にて0.4~40μg/mlに希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して標準試料とした。
また、製造した固体組成物を50%アセトニトリル水にて溶解後、20%アセトニトリル水にて1000倍希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して測定試料とした。 標準試料及び測定試料を、下記条件にてHPLC分析した。
【0095】
(ii)測定条件
HPLC装置:Agilent 1220 Infinity II LCシステム 固定相:Atlantis T3カラム(2.1×150mm、3μm)
移動相:A:0.2%(v/v)リン酸水溶液、B:アセトニトリル
流速:0.6 ml/min
カラム温度:40℃
移動相のグラジェント条件:表2
【表2】
【0096】
(e)ポリメトキシフラボノイド(PMF)の含有量の測定
(i)測定試料及び標準試料の調製
Nobiletin(富士フィルム和光純薬株式会社)をアセトニトリルにて溶解後、50%アセトニトリル水にて0.4~40μg/mlに希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して標準試料とした。
また、製造した固体組成物をアセトニトリルにて溶解後、50%アセトニトリル水にて1250倍希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して測定試料とした。
標準試料及び測定試料を、下記条件にてHPLC分析した。
PMF含量は、ノビレチン標準試料の検量線を用いて算出した。
【0097】
(ii)測定条件
HPLC装置:Agilent 1220 Infinity II LCシステム 固定相:Atlantis T3カラム(2.1×150mm、3μm)
移動相:0.1%(v/v)リン酸含有50%(v/v)アセトニトリル水溶液
流速:0.5 ml/min
カラム温度:40℃
【0098】
(f)セサミンの含有量の測定
(i)測定試料及び標準試料の調製
(+)-Sesamin、及び(+)-Episesamin(いずれも長良サイエンス株式会社)をそれぞれメタノールにて溶解後、70%メタノール水にて約0.4~40μg/mlに希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して標準試料とした。
また、製造した固体組成物を50%メタノール水にて溶解後、70%メタノール水にて1000倍希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して測定試料とした。
標準試料及び測定試料を、下記条件にてHPLC分析した。
(+)-Sesamin含量と(+)-Episesamin含量をそれぞれ算出し、その合計値をセサミン含量とした。
【0099】
(ii)測定条件
HPLC装置:JASCO LC-2000Plus seriesシステム(日本分光株式会社)
固定相:L-column2 ODSカラム(4.6×250mm、5μm)(化学物質評価研究機構)
移動相:70%(v/v)メタノール水溶液
流速:1.0 ml/min
カラム温度:30℃
【0100】
(g)レスベラトロールの含有量の測定
(i)測定試料及び標準試料の調製
Resveratrol(富士フィルム和光純薬株式会社)をメタノールにて溶解後、25%アセトニトリル水にて0.4~40μg/mlに希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して標準試料とした。
また、製造した固体組成物を50%メタノール水にて溶解後、50%アセトニトリル水にて1000倍希釈し、0.45μmメンブランフィルターでろ過して測定試料とした。
標準試料及び測定試料を、下記条件にてHPLC分析した。
【0101】
(ii)測定条件
HPLC装置:Agilent 1220 Infinity II LCシステム
固定相:Atlantis T3カラム(2.1×150mm、3μm)
移動相:0.15%(v/v)リン酸含有25%(v/v)アセトニトリル水溶液
流速:0.6 ml/min
カラム温度:40℃
【0102】
(h)アスタキサンチンの含有量の測定
製造後の固形組成物に含まれる総カロテノイド含量を吸光度法により測定した。
(i)測定試料の調製
製造した固体組成物を特定量秤量し(試料秤取量)、これを1.2mMのBHT(ジブチルヒドロキシトルエン)含有アセトンにて2500~5000倍希釈し、0.2μmメンブランフィルターでろ過して測定試料とした。
【0103】
(ii)測定条件
測定試料の吸光度を、分光光度計JASCO V-660DS(日本分光株式会社製)を用いて測定した。具体的には、1.2mMのBHT含有アセトンを対照液として、波長474nm付近の極大吸収波長での吸光度Aを測定し、次式により、測定試料中に含まれる総カロテノイドの割合(%)を算出した。
【数1】
【0104】
(2-2)固体組成物の非晶性評価
<粉末X線回折装置(XRD)分析>
固体組成物の結晶性は、製造直後(初期)と製造後1週間~1ヶ月間保存した後(保存後)の試料の各々をXRD分析することにより評価した。なお、保存は、製造直後の固体組成物を、低密度ポリエチレン製袋(商品名「ユニパック A-8」、株式会社生産日本社製)に収容した状態で、40℃又は60℃、相対湿度75%又は常湿(相対湿度45-85%)の暗所条件下に1週間~1ヶ月間放置することで実施した。
【0105】
(i)測定条件
前記で製造した、製造直後の固体組成物と保存後の固体組成物を、下記の粉末X線回折装置に供した。
粉末X線回折装置:Smart Lab(リガク社)
条件:集中法
X線出力:3kW範囲:5~60°
ステップ幅:0.05°
検出器:D/teX Ultra250
光学系:CBO-E(集中法用) 解析ソフトウェア:Smart Lab Studio II
【0106】
得られたXRD分析結果から、下記の基準に従って、2θ=5~60°の範囲における、シャープピーク(結晶質状態の難水溶性素材(1b)に由来するピーク)の面積(S2)、並びに、当該面積(S2)とハローピークの面積(S1)との合計面積((S1)+(S2))を、ソフトウェアPDXLII(リガク社)を用いて、そのマニュアルに従って算出した。これらの値を下式に当てはめて算出されたXRD分析値に基づいて、下記の基準に従って非晶質化度の評価を行った。
【0107】
[XRD分析値]
{(S2)/((S1)+(S2))}×100(%)
[非晶質化度の評価基準]
◎:XRD分析値が1.0%以下である。
○:XRD分析値が1.0%より大きく4.0%以下である。
×:XRD分析値が4.0%より大きい。
【0108】
(2-3)固体組成物の外観評価
固体組成物の外観(色の変化、ケーキングの有無、固化の有無)を評価した。評価は、製造直後(初期)と製造後1週間~1ヶ月間保存した後(保存後)の試料の各々について、目視により行った。ここで「ケーキング」とは、粉が固まっているが、ほぐせば粉状に戻る状態を意味し、「固化」はほぐそうとしても固着していて塊のまま粉に戻らない状態を意味する。なお、期間以外の保存条件は、前記結晶性評価と同じである。
【0109】
試験例1(実施例1~4、比較例1~5)
表4に示すように、各材料を各割合で配合し、前述する加熱混練法及び、粉砕機を用いて粉末形状の固体組成物(実施例1~4、実施例1’、比較例1~5)を製造した。下記表3に用いた材料の表記とその詳細を記載する。
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
これらの固体組成物について、前述する方法で、難水溶性素材(1)の含有量(含量残存率)、非晶化度評価、及び外観評価を行った(図1-1及び1-2)。
【0112】
図1-1に示すように、多糖類(3)としてアラビアガムを使用するか、又はアラビアガムとHPCとを併用して製造された固体組成物(実施例1~4、実施例1’)は、材料として配合したクルクミン(難水溶性素材)が高度に非晶質化していることが確認された。また当該クルクミンの非晶質性は長期にわたって安定していた。さらに外観の大きな変化(色の変化、ケーキングや固化の有無)はなく、物理的性状も安定していた。一方、図1-2に示すように、多糖類(3)に代えて、二糖類である還元パラチノースや三糖類であるラフィノースを用いて製造された固体組成物(比較例1及び5)は、製造直後は良好な非晶質性を有していたものの、保存後にはクルクミンの再結晶化物のピークが多く認められ、また外観変化(ケーキング)が観察された。また、多糖類(3)に代えて、同様に二糖類であるマルトースを用いて製造された固体組成物(比較例3)や、界面活性剤であるポリソルベート80を用いて製造された固体組成物(比較例2)は、調製直後からクルクミンの結晶化物のピークが認められ、保存後はそのピークが顕著になると共に、外観変化(ケーキング、褐変化)が観察された。また、HPMC(2)を配合しないで製造された固体組成物(比較例4)も、調製直後からクルクミンの結晶化物のピークが認められ、保存後はそのピークが顕著になると共に、外観変化(固化、褐変化)が観察された。このため、比較例1~5は、XRD分析値を算出するまでもなく、本発明の効果を奏しない固体組成物であると判断した。
【0113】
以上のことから、難水溶性素材(1b)を、高い含有率を保持した状態で安定的に非晶質化するためには、難水溶性素材(1b)を加熱混練する際に、アラビアガムやHPC等の多糖類(3)とHPMC(2)とを併用すること、つまり難水溶性素材(1b)を多糖類(3)とHPMC(2)の存在下で加熱混練することが有効であることが確認された。
【0114】
試験例2(実施例5~12)
表5に示す材料を各割合で配合し、前述する製造方法(加熱混練法)により各固体組成物(実施例5~12)を製造した。
【0115】
【表5】
【0116】
これらの固体組成物について、前述する方法で、難水溶性素材の含有量(含量残存率)、非晶化度評価、及び外観評価を行った(図2-1及び図2-2)。
【0117】
図2に示すように、多糖類(3)としてアラビアガム又はアラビアガムとHPCを併用して製造された固体組成物(実施例5~12)は、材料として配合したクルクミン(難水溶性素材)が高度に非晶質化していることが確認された。実施例5、6、11及び12の組成物については、保存後にケーキングが見られたものの、XRD分析の結果からは、実施例5~12のいずれにおいても、クルクミンの結晶質は認められず、非晶質状態を維持していた。
【0118】
試験例1と2の結果から、固体組成物中のクルクミン(難水溶性素材(1b))の含量が4~60%、HPMC(2)の含量が20~90%、及び多糖類(3)の含量が4~75%であって、各成分の割合が下記(1)~(3)の範囲(質量比)になるように調製された固体組成物は、加熱混練法により、クルクミンを高い割合で含みながらも良好に非晶質化することができることが確認された。
(1)難水溶性素材(1b):HPMC(2)=1:0.5~1:20
(2)難水溶性素材(1b):多糖類(HPMCとの合計)=1:0.05~1:20
(3)HPMC(2):それ以外の多糖類(3)=1:0.05~1:5。
【0119】
また、これらの範囲のうち、各成分の割合をさらに下記(1’)~(3’)の範囲(質量比)になるように調製することで、物理的安定性に優れ、保存後の外観変化が抑制された固形組成物が得られることが確認された。
(1’)難水溶性素材(1b):HPMC(2)=1:3~1:20
(2’)難水溶性素材(1b):多糖類(HPMCとの合計)=1:1~1:5
(3’)HPMC(2):それ以外の多糖類(3)=1:0.05~1:0.5。
【0120】
試験例3(実施例13~38)
試験例1及び2で使用したアラビアガムに代えて、他の各種の多糖類(3)を用いて、試験例1と同様にして各種の固体組成物(実施例13~38)を製造し、クルクミン(難水溶性素材)の非晶質化の有無、及び固体組成物の保存安定性(非晶質性と外観変化)を評価した。
【0121】
具体的には、後述する表7~10に示す材料を各割合で配合し、前述する加熱混練法及び、粉砕機を用いて、粉末形状を有する各固体組成物(実施例13~38)を製造した。下記表6に、用いた材料の詳細を記載する。
【表6】
【0122】
【表7】
【0123】
【表8】
【0124】
【表9】
【0125】
【表10】
【0126】
これらの固体組成物について、前述する方法で、クルクミン(難水溶性素材)の含有量(含量残存率)、非晶化度評価、及び外観評価を行った(図3-1~図3-7)。
【0127】
図3-1~図3-7に示すように、HPMC(2)と多糖類(分子量972以上)(3)を併用して製造された固体組成物(実施例13~38)は、材料として配合したクルクミン(難水溶性素材(1b))が高度に非晶質化していることが確認された。また当該クルクミンの非晶質性は長期にわたって安定していた。λ-カラギーナンを用いて製造した固体組成物(実施例37及び38)は、保存により多少の外観変化(ケーキング)が認められたものの、他の多糖類(3)を用いて製造した固体組成物(実施例13~36)は、おおむね外観変化(色の変化、ケーキングや固化の有無)はなく、物理的性状も安定していた。また、実施例33及び34のXRD分析で見られた結晶質のピークは、デキストリンに由来するものであり、クルクミンに由来するものでないことを確認した(データ非表示)。
【0128】
試験例4(実施例39~50、比較例6)
難水溶性素材として試験例1~3で使用したクルクミンに代えて、他の難水溶性素材を用いて、試験例1と同様にして各種の固体組成物(実施例39~50、比較例6)を製造し、各種の難水溶性素材の非晶質化の有無、及び固体組成物の保存安定性(非晶質性と外観変化)を評価した。
【0129】
具体的には、表12~13に示す材料を各割合で配合し、前述する製造方法(加熱混練法)により、粉末状の各固体組成物(実施例39~50、比較例6)を製造した。表11に用いた材料の詳細を記載する。
【表11】
【0130】
【表12】
【0131】
【表13】
【0132】
これらの固体組成物について、前述する方法で、難水溶性素材の含有量(含量残存率)、非晶質度評価、及び外観評価を行った(図4-1~図4-4)。
図4-1~図4-4に示すように、多糖類(分子量972以上)(3)とHPMC(2)を併用して製造された固体組成物(実施例39~50)は、材料として配合した難水溶性素材(1b)がいずれも高度に非晶質化していることが確認された。また難水溶性素材の非晶質性はいずれも長期にわたって安定していた。
なお、アスタキサンチンに関しては、HPMCとポリソルベートとの組合せは、長期に非晶質状態を維持していたものの、試料中の残存率が46%と極めて低下しており、保存後の色調変化が見られた(比較例6)。アスタキサンチンは食用色素としての価値も高いことから、保存後の色調変化を生じず、組成物中の安定性が高い点において、本発明のアスタキサンチン組成物(実施例50)は優れていた。
【0133】
試験例5(比較例7及び8)
(1)有機溶媒法によるCUR含有製剤の調製
300 mLの70%エタノール水に、表14に記載する割合で各成分を添加し、80℃に加温しながらCUR原料が溶解するまで撹拌した。この混合液を80℃に保持しながら、エバポレーター(ロータリーエバポレーター N-1300、EYELA社)を用いて減圧乾燥し、溶媒を除去した。得られた乾燥物を、乳鉢と乳棒で粉砕し、前記条件のXRD分析に供した。
【表14】
【0134】
(2)CUR単独での加熱混錬(溶融)による非晶質製剤の調製
CUR原料のみをエクストルーダーを用いて溶融するまで加熱混錬し、非晶質化した物を、冷却した後、乳鉢と乳棒で粉砕し、室温条件下で、賦形剤として、表15に記載のHPMC及び/又はデキストリンを添加した製剤を調製した。
【表15】
【0135】
(3)CUR含有製剤のXRD分析
上記(1)及び(2)で調製したCUR含有製剤のXRD分析結果を図5及び図6に示す。有機溶媒法で製造された比較例7及び8の製剤はいずれも、製造直後(初期)から結晶構造の残存が認められ、所望の非晶質状態が形成されていなかった(図5)。また、クルクミンを単独で溶融し非晶質化した場合は、非晶質化後に添加した多糖類量に応じて、XRD分析値が小さくなった(図6)。しかし、クルクミンの約3倍量の多糖類を添加した場合であっても、調製直後のXRD分析値は4.9%又は4.8%にしか過ぎなかったことから(比較例9、10)、より非晶質度を高めるためには、加熱混錬時に本発明で規定する多糖類(3)を添加することが重要であると考えられる。
【0136】
試験例6
加熱概算時間を約2分にする以外は、試験例1で調製した実施例1’と同じ処方と製造条件を用いて、粉末形状の固体組成物(実施例51)を調製した。該組成物のXRD分析値は、実施例1’と同様(図1-1)、0%であった。
次いで、該固体組成物(実施例51)に、結晶質のクルクミン原料(表3)を、表16に記載する割合で粉末混合し、得られた粉末混合物(被験試料1~5)を前述する条件のXRD分析装置に供して、そのチャートからXRD分析値を求めた。表16に、各粉末混合物(被験試料1~5)中に含まれる総CUR含量(%)、及び総CUR含量(100%)中の結晶CUR含有率(%)を併せて示す。
【表16】
【0137】
被験試料1~5のXRD分析チャートとそれから算出したXRD分析値を図7―1に示す。また各被験試料について、X軸に(C)粉末混合物中の結晶CUR((B)欄のカッコ内)含有率(%)(表16の(D)欄)を、Y軸にXRD分析値をプロットした図を図7-2に示す。図7-2に示すように、(C)粉末混合物中の結晶CUR含有率(%)と、XRD分析値{(S2)/((S1)+(S2))×100(%)}との間には、良好な相関性があることが確認された(R=0.9984)。
このことから、上記のような検量線を作成すると共に、測定試料のXRD分析値を用いることで、測定試料中の難水溶性素材の結晶質の割合(または非晶質の割合)を求めることができると考えられる。
【0138】
また、各被験試料について、X軸に総クルクミン含量((A)と(B)欄のカッコ内の合計)中の結晶CUR((B)欄のカッコ内)含有率(%)(表16の(E)欄)を、Y軸にXRD分析値をプロットした図を図7-3に示す。図7-3に示すように、総CUR含量中の結晶CUR含有率(%)と、XRD分析値との間には、良好な相関性があることが確認された(R=0.9907)。
このことから、上記のような検量線を作成すると共に、測定試料のXRD分析値を用いることで、測定試料中の難水溶性素材の結晶質の割合(または非晶質の割合)を求めることができると考えられる。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図3-5】
図3-6】
図3-7】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図4-4】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】