(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】変性エラスチンの分解低下の抑制剤、正常なエラスチン線維の維持剤、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤及びエラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
A61K 36/185 20060101AFI20250409BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20250409BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20250409BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20250409BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20250409BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
A61K36/185
A23L19/00 Z
A61K8/9789
A61P17/00
A61P43/00 111
A61Q19/08
(21)【出願番号】P 2020563279
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050479
(87)【国際公開番号】W WO2020138023
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-05-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-03
(31)【優先権主張番号】P 2018245318
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 壮太
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】伊藤 幸司
【審判官】岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-60404(JP,A)
【文献】国際公開第2018/33227(WO,A1)
【文献】特開2005-343887(JP,A)
【文献】特開2015-17081(JP,A)
【文献】川上晋平, パセノールTMの肌への作用, FOOD STYLE 21, 2016, Vol.20, No.3, pp.58-60
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE(STN)
JMEDPlus/JST7580/JSTPlus(JDream III)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッションフルーツ抽出物を有効成分として含む
日光弾性線維症の予防又は改善剤。
【請求項2】
変性エラスチンの分解低下を抑制する、請求項1に記載の剤。
【請求項3】
エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
請求項1
~3
のいずれか一項に記載の
日光弾性線維症の予防又は改善剤を含む、
日光弾性線維症の予防又は改善用組成物。
【請求項5】
皮膚外用剤である請求項
4に記載の組成物。
【請求項6】
化粧料である請求項
4又は5に記載の組成物。
【請求項7】
飲食品である請求項
4に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性エラスチンの分解低下の抑制剤、正常なエラスチン線維の維持剤及びエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤に関する。本発明はまた、変性エラスチンの分解低下の抑制用組成物、正常なエラスチン線維の維持用組成物及びエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物に関する。本発明はさらに、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質のスクリーニング方法に関する。また、本発明は、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する方法、変性エラスチンの分解低下を抑制する方法及び正常なエラスチン線維を維持する方法等に関する。また、本発明は、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制するための植物抽出物の使用、変性エラスチンの分解低下を抑制するための植物抽出物の使用、正常なエラスチン線維を維持するための植物抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
エラスチンは、エラスチン線維(弾性線維)の主要な構成成分であり、皮膚、血管、肺等の弾性がその機能の発現に必須である組織に広く発現している。例えば皮膚真皮においては、エラスチン線維は皮膚に弾力性を与え、はりを保持する機能を有するが、加齢、紫外線等の要因によって、変性し伸縮性等が失われる。特に、皮膚が長年にわたり紫外線に曝露すると、真皮に変性エラスチンが蓄積して沈着し、弾力性に乏しく、しわが多い日光弾性線維症の原因となるとされている。
【0003】
日光弾性線維症にみられるような局所に変性エラスチンが蓄積する原因の一つとして、変性エラスチン分解の低下が考えられる。紫外線曝露した真皮において、エラスチン線維とエラフィンとの共局在が観察されており、エラスチンとエラフィンとがタンパク質複合体を形成していることが示唆されている。エラフィンはエラスターゼの阻害剤であり、エラスチンがエラフィンと結合して複合体(エラスチン-エラフィン複合体)を形成すると、エラスターゼによる分解に対して抵抗性を示すようになる。
【0004】
ところで植物抽出物の中には、様々な有用な作用を有するものがあることが報告されている。例えば特許文献1には、メラニン生成抑制剤として白芥子抽出物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のようにエラスチンとエラフィンとが結合してエラスチン-エラフィン複合体を形成すると、該複合体は、エラスターゼに対して抵抗性を示す。従ってエラスチン-エラフィン複合体の形成は、エラスチンの分解を低下させ、エラスチン線維のターンオーバーを遅くする。エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することができれば、例えば、変性エラスチンの分解低下を抑制することができ、エラスチン線維のターンオーバーを促進することができる。また、変性エラスチンの蓄積が抑制又は改善されて、正常なエラスチン線維の維持が可能になると期待される。特許文献1には、メラニン生成抑制剤として白芥子抽出物が記載されているが、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質は検討されていない。
【0007】
本発明は、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することができるエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤及びエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することを目的とする。また、本発明は、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する方法、変性エラスチンの分解低下を抑制する方法及び正常なエラスチン線維を維持する方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究したところ、パッションフルーツ等の特定の植物の抽出物が、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下に限定されるものではないが、以下のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤等を包含する。
〔1〕パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物を有効成分として含む変性エラスチンの分解低下の抑制剤。
〔2〕パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物を有効成分として含む正常なエラスチン線維の維持剤。
〔3〕エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する、上記〔1〕又は〔2〕に記載の剤。
〔4〕パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物を有効成分として含むエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤。
〔5〕エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、エラスチン線維のターンオーバー促進のために使用される、上記〔4〕に記載のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤。
〔6〕上記植物抽出物が、パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物及びシロガラシ抽出物からなる群より選択される1以上である上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の剤。
〔7〕上記〔1〕、〔3〕又は〔6〕に記載の変性エラスチンの分解低下の抑制剤を含む、変性エラスチンの分解低下の抑制用組成物。
〔8〕上記〔2〕、〔3〕又は〔6〕に記載の正常なエラスチン線維の維持剤を含む、正常なエラスチン線維の維持用組成物。
〔9〕上記〔4〕~〔6〕のいずれかに記載のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤を含む、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物。
〔10〕皮膚外用剤である上記〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の組成物。
〔11〕化粧料である上記〔7〕~〔10〕のいずれかに記載の組成物。
〔12〕飲食品である上記〔7〕~〔9〕のいずれかに記載の組成物。
〔13〕被検物質の存在下及び非存在下で、エラフィンと固相化エラスチンとを接触させる工程(a)、上記被検物質の存在による、上記エラフィンと固相化エラスチンとの結合の阻害を検出する工程(b)、及び、上記被検物質の存在によりエラフィンと固相化エラスチンとの結合が阻害された場合に、上記被検物質をエラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質として選択する工程(c)を含む、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質のスクリーニング方法。
〔14〕パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物を投与する、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する方法。
〔15〕パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物を投与する、変性エラスチンの分解低下を抑制する方法。
〔16〕パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物を投与する、正常なエラスチン線維を維持する方法。
〔17〕エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制するための、パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物の使用。
〔18〕変性エラスチンの分解低下を抑制するための、パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物の使用。
〔19〕正常なエラスチン線維を維持するための、パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することができるエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤及びエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物等を提供することができる。また、本発明によれば、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することができる。
【0011】
エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、変性エラスチンの分解低下を抑制することが可能となる。また、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制は、正常なエラスチン線維の維持にも寄与し得る。本発明によれば、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する方法、変性エラスチンの分解低下を抑制する方法及び正常なエラスチン線維を維持する方法等を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について説明する。しかしながら、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0013】
本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤は、パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物を有効成分として含む。
【0014】
後記の実施例に示されるように、上記の植物抽出物は、エラスチンとエラフィンとが結合して複合体(エラスチン-エラフィン複合体)を形成することを阻害する作用を有する。上記の植物抽出物は、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制のために使用される。エラスチン-エラフィン複合体形成抑制は、エラスチンとエラフィンとの結合阻害ということもできる。
上記のように、エラスチン-エラフィン複合体の形成によりエラスチンの分解が低下する。エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制することにより、変性エラスチンの分解低下を抑制することができる。変性エラスチンの分解低下抑制により、エラスチン線維のターンオーバーが促進され、皮膚等の組織における変性エラスチンの蓄積が抑制又は改善されると期待される。また、正常なエラスチン線維の維持が可能になると期待される。
【0015】
本発明において、正常なエラスチン線維とは、エラスチン線維の本来の機能及び物性(強度、粘弾性等)を有するエラスチン線維を指す。変性エラスチンとは、本来と比べて有する機能や物性が損なわれたエラスチン線維及びその構成因子(トロポエラスチン、エラスチン分解物等)を指す。
本発明において、単にエラスチンという場合、及び、エラスチン-エラフィン複合体におけるエラスチンは、エラスチン線維の元となるトロポエラスチン、エラスチン線維中に含まれるエラスチン、及び加齢又は刺激に伴い、一部構造の変化、分解又は断片化が見られたトロポエラスチンやエラスチン線維を含む。
正常なエラスチン線維の維持とは、正常なエラスチン線維の量、並びに本来の機能及び物性の低下を抑制することを意味する。正常なエラスチン線維の量、並びに本来の機能及び物性の低下抑制は、本発明において有効成分として使用される植物抽出物を使用しなかった場合と比較して、正常なエラスチン線維の量、並びにその本来の機能及び物性の低下が抑制されればよい。
【0016】
一態様において、本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤は、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、エラスチン線維のターンオーバー促進のために好適に使用される。また、上記の植物抽出物は、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制することから、変性エラスチンの分解低下の抑制及び正常なエラスチン線維の維持のために使用することができる。
パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物を有効成分として含む変性エラスチンの分解低下の抑制剤及び正常なエラスチン線維の維持剤も、本発明に包含される。
【0017】
本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤、変性エラスチンの分解低下の抑制剤及び正常なエラスチン線維の維持剤を、以下ではまとめて複合体形成抑制剤等ともいう。
【0018】
本発明の複合体形成抑制剤等においては、上記の植物抽出物を2以上組み合わせて有効成分として使用してもよい。中でも、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用が高いことから、植物抽出物として、パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物及びシロガラシ抽出物からなる群より選択される1以上が好ましい。
【0019】
本発明において、パッションフルーツは、トケイソウ科トケイソウ属(Passifloraceae Passiflora)のクダモノトケイソウ(Passiflora edulis(学名))の果実を指す。トウキンセンカは、キク科キンセンカ属(Asteraceae Calendula)のCalendula officinalis(学名)を指す。トウキンセンカは、別名カレンデュラともいう。シロガラシは、アブラナ科シロガラシ属(Brassicaceae Sinapis)のSinapis alba(又はBrassica alba)(学名)を指す。アルテアは、アオイ科ビロードアオイ属(Malvaceae Althaea)のAlthaea officinalis(学名)を指す。アルテアは、別名ウスベニタチアオイともいう。セイヨウシロヤナギは、ヤナギ科ヤナギ属(Salicaceae Salix)のSalix alba(学名)を指す。ショウブは、ショウブ科ショウブ属(Acoraceae Martinov Acorus)のAcorus calamus(学名)を指す。トウニンは、バラ科モモ属(Rosaceae Amygdalus)のPrunus persica(又はPrunus persica var. davidiana)(学名)の種子(桃仁)を指す。ダイズは、マメ科ダイズ属(Fabaceae Glycine)のGlycine max(学名)を指す。
【0020】
パッションフルーツ抽出物は、クダモノトケイソウの果実の抽出物である。トウニン抽出物は、モモの種子の抽出物である。トウキンセンカ、シロガラシ、アルテア、セイヨウシロヤナギ、ショウブ及びダイズの抽出物は、これらの植物の任意の部分(例えば、根、根茎、茎、葉、樹皮、花、果実、種子)を溶媒で抽出することにより製造することができる。抽出には、複数の部位を組み合わせて用いてもよい。
トウキンセンカ抽出物は、トウキンセンカの花の抽出物が好ましい。シロガラシ抽出物は、シロガラシの種子の抽出物が好ましい。アルテア抽出物は、アルテアの根の抽出物が好ましい。セイヨウシロヤナギ抽出物は、セイヨウシロヤナギの樹皮の抽出物が好ましい。ショウブ抽出物は、ショウブの根茎の抽出物が好ましい。ダイズ抽出物は、ダイズの芽の抽出物が好ましい。
【0021】
植物抽出物を得るための植物の抽出方法は特に限定されず、植物成分の抽出に用いられる通常の抽出方法により得ることができる。抽出方法は適宜設定することができ、抽出条件も特に限定されない。例えば、上記植物を常温又は加温下にて溶媒(抽出溶媒)で抽出することにより植物抽出物を得ることが好ましい。植物抽出物の調製において、原料である上記植物はそのまま抽出工程に付されてもよく、粉砕、切断又は乾燥された後に抽出工程に付されてもよい。本発明において植物抽出物は、上記植物をそのまま抽出した抽出物であってよいが、該植物を粉砕、切断又は乾燥したものから抽出した抽出物であってよい。好ましくは、上記植物を粉砕、切断又は乾燥したものからの抽出物である。
【0022】
植物抽出物の調製に用いる抽出溶媒は適宜選択することができ、植物成分の抽出に通常用いられるものを使用することができる。抽出溶媒として、例えば水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数1~5の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、2,3-ブチレングリコール等の炭素数2~5の多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル;ポリエチレングリコール等のポリエーテル;スクワラン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせた混合溶媒(混合液)を用いてもよい。炭素数1~5の1価アルコールとして、炭素数1~4のものが好ましく、炭素数2~4のものがより好ましく、エタノールがさらに好ましい。炭素数2~5の多価アルコールとして、炭素数2~4の2価又は3価のアルコールが好ましく、2価のアルコールがより好ましく、1,3-ブチレングリコールがさらに好ましい。中でも、抽出溶媒として、水、炭素数1~5の1価アルコール、炭素数2~5の多価アルコール、これらの2種以上の混合溶媒が好ましく、水、炭素数2~4の1価アルコール又はその水溶液、炭素数2~4の2価アルコール又はその水溶液がより好ましく、水、エタノール、エタノール水溶液、1,3-ブチレングリコール、1,3-ブチレングリコール水溶液がさらに好ましく、水、エタノール水溶液又は1,3-ブチレングリコール水溶液が特に好ましい。一態様において、エタノール水溶液及び1,3-ブチレングリコール水溶液は、エタノール又は1,3-ブチレングリコール濃度が10~98体積%が好ましく、30~90体積%がより好ましく、30~70体積%がさらに好ましい。本発明における植物抽出物として、上記の溶媒抽出物を好適に使用することができる。
【0023】
一態様において、パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物及びアルテア抽出物として、上記植物を1,3-ブチレングリコール水溶液で抽出して得られる抽出物が好ましい。セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物及びトウニン抽出物として、上記植物をエタノール水溶液で抽出して得られる抽出物が好ましい。シロガラシ抽出物及びダイズ抽出物として、上記植物を水(好ましくは熱水)で抽出して得られる抽出物が好ましい。
【0024】
抽出に際して酸又はアルカリを添加し、抽出溶媒のpHを調整してもよい。抽出後には、植物残渣(抽出後の植物体又はその部分)を抽出液から除去することが好ましい。植物残渣を抽出液から除去する方法は特に限定されず、ろ過、遠心分離等の公知の分離手段が挙げられる。
【0025】
植物の抽出方法の一例として、例えば以下の方法が使用できる。植物をそのまま又は乾燥したものを、細砕し、抽出溶媒を重量で0.1~30倍量加え、常圧下、室温で好ましくは10分~15日、より好ましくは30分~10日、さらに好ましくは1時間~7日抽出するか、又は、抽出溶媒の沸点付近で好ましくは10分~1日(より好ましくは10分~2時間)程抽出してからろ過してろ液を得る。抽出の際は、静置してもよく、適宜攪拌を行ってもよい。また、得られたろ液(植物抽出液)をそのまま植物抽出物としてもよく、必要に応じ希釈、濃縮又は乾燥等してもよい。
【0026】
本発明においては、抽出により得られた植物抽出液をそのまま植物抽出物として用いることができる。また、本発明の効果を損なわない限り、公知の方法により希釈、濃縮又は乾燥して、希釈液、濃縮物や粉末としてもよく、ペースト状に調製して用いることもできる。乾燥方法として、例えば、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられる。さらに、上記の植物抽出液、その濃縮物や乾燥粉末等について、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、さらに脱臭、脱色等の精製を行ってもよい。このような精製方法は、通常の手段を任意に選択して行えばよい。
本発明における植物抽出物は、上記のような抽出方法で得られた各種溶媒抽出液、その希釈液、その濃縮物又はその乾燥粉末、これらの精製物を含む。また、抽出物は、抽出溶媒とは異なる溶媒で希釈又は溶解させて用いることもできる。
【0027】
また、上記の植物抽出物は市販されており、市販品を使用することもできる。
【0028】
本発明の複合体形成抑制剤等は、上記植物抽出物からなるものであってもよく、さらに他の成分や添加剤等を配合して組成物の形態として使用してもよい。
本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤、変性エラスチンの分解低下の抑制剤及び正常なエラスチン線維の維持剤は、それ自体をエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤、変性エラスチンの分解低下の抑制剤及び正常なエラスチン線維の維持剤として使用することができる。また、後述するエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物等に配合して使用することができる。本発明の複合体形成抑制剤等は、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物等の有効成分として好適に使用される。
【0029】
上記の本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤を含む、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物も本発明の1つである。本発明の変性エラスチンの分解低下の抑制剤を含む、変性エラスチンの分解低下の抑制用組成物も本発明の1つである。本発明の正常なエラスチン線維の維持剤を含む、正常なエラスチン線維の維持用組成物も本発明の1つである。
本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物、変性エラスチンの分解低下の抑制用組成物及び正常なエラスチン線維の維持用組成物を、まとめて複合体形成抑制用組成物等ともいう。本発明の複合体形成抑制用組成物等は、上記の植物抽出物を有効成分として含有するものである。植物抽出物及びその好ましい態様は、上記の通りである。
本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等は、例えば、皮膚におけるエラスチン-エラフィン複合体の形成抑制のため、皮膚における変性エラスチンの分解低下の抑制のため、又は、皮膚において正常なエラスチン線維を維持するために好適に使用することができる。
【0030】
本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等は、治療用途(医療用途)又は非治療用途(非医療用途)のいずれにも適用することができる。
上記の植物抽出物を有効成分として含む本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等は、例えば、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制が所望される状態又は症状の予防又は改善に用いることができる。一態様において、本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等は、例えば、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、日光弾性症等の予防又は改善に用いることができる。また、本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等は、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制することにより、皮膚の弾性の維持、しわ及び/又はたるみの予防又は改善等の美容目的のためにも有用である。予防は、発症の防止、発症の遅延、発症率の低下等を包含する。改善は、症状の軽快、症状の好転、症状の進行抑制、症状の治癒等を包含する。
【0031】
本発明の複合体形成抑制用組成物等は、化粧料、飲食品、医薬品、医薬部外品等の様々な用途に使用することができる。本発明の複合体形成抑制用組成物等は、それ自体が、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、正常なエラスチン線維を維持するための化粧料、飲食品、医薬品又は医薬部外品であってもよく、又は、該化粧料、飲食品、医薬品又は医薬部外品等に配合して使用される素材又は製剤等であってもよい。
【0032】
本発明の複合体形成抑制用組成物等は、例えば、皮膚外用剤として好適に使用される。皮膚外用剤は、化粧料、医薬品、医薬部外品を含み、好ましくは化粧料である。一実施態様において、皮膚におけるエラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、皮膚における変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、皮膚において正常なエラスチン線維を維持するために使用する場合は、複合体形成抑制用組成物等を、皮膚外用剤とすることが好ましく、化粧料がより好ましい。
本発明の複合体形成抑制用組成物等は、皮膚外用剤以外の医薬品又は医薬部外品として使用することもできる。
別の実施態様においては、複合体形成抑制用組成物等を飲食品とすることもできる。本発明の複合体形成抑制用組成物等を化粧料、医薬品、医薬部外品等の皮膚外用剤、飲食品等とする場合について以下に説明する。
【0033】
本発明の複合体形成抑制用組成物等を皮膚外用剤とする場合、剤形等は特に限定されず、例えば溶液、乳液、クリーム、ゲル、粉末、エアゾール、ミスト、カプセル及びシート等任意の形態とすることができる。皮膚外用剤は、好ましくは化粧料である。化粧料の製品形態も特に限定されず、例えば、洗顔料、メーク落とし、化粧水、美容液、パック、乳液、クリーム、日焼け止め等のスキンケア化粧料;ファンデーション、化粧下地、口紅、アイシャドー、アイライナー、マスカラ、アイブロー、頬紅、ネイルエナメル等のメイクアップ化粧料;ヘアシャンプー、ヘアリンス、整髪料、染毛料、育毛剤等の毛髪化粧料;石けん、ボディソープ等の洗浄料;入浴剤等が挙げられる。
【0034】
上記化粧料には、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧料に許容される担体、添加剤等の成分、例えば、水、アルコール類、油剤、界面活性剤、増粘剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、キレート剤、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、包接化合物、抗菌剤、消臭剤、塩類、pH調整剤、紫外線吸収剤、上記以外の動植物・微生物由来の抽出物、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、他のビタミン類、保湿剤、殺菌剤、抗炎症剤、香料等の1又は2以上を適宜含有させることができる。化粧料は、一般的な製造法により製造することができる。例えば、上記植物抽出物と、上記の化粧料に使用し得る成分1又は2以上とを混合した後、所望の形態に加工することによって得ることができる。
【0035】
皮膚外用剤を医薬品又は医薬部外品とする場合、本発明の効果を損なわない範囲で、医薬品又は医薬部外品に許容される担体、添加剤等の成分を使用してもよい。そのような成分として、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤等の1又は2以上が挙げられ、これらは必要に応じて使用できる。
【0036】
本発明の複合体形成抑制用組成物等は、上述した皮膚外用剤以外の医薬品、医薬部外品とすることもできる。このような医薬品又は医薬部外品は、経口投与されてもよく、非経口投与されてもよい。医薬品又は医薬部外品は経口投与製剤(内服剤)又は非経口投与製剤の形態とすることができる。経口投与製剤の剤形としては、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤等が挙げられる。非経口投与製剤の剤形としては、注射剤、輸液剤等が挙げられる。このような医薬品又は医薬部外品には、医薬品又は医薬部外品に許容される担体、添加剤等の成分を使用してもよい。そのような成分として、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、抗酸化剤、着色剤、矯味剤等の1又は2以上が挙げられ、これらは必要に応じて使用できる。医薬品、医薬部外品は、一般的な製造法により製造することができる。例えば、上記植物抽出物と、医薬品又は医薬部外品において使用し得る成分の1又は2以上とを混合した後、所望の形態に加工することによって得ることができる。
【0037】
本発明の複合体形成抑制用組成物等を飲食品とする場合、飲食品は特に限定されず、例えば、一般的な飲食品、健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品等が挙げられる。飲食品の形態も特に限定されない。上記健康食品、機能性表示食品、特定保健用食品は、例えば、液剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、糖衣錠、カプセル剤、懸濁液、乳剤、チュアブル剤、流動食等の各種製剤形態とすることもできる。
【0038】
上記飲食品には、本発明の効果を損なわない範囲で、飲食品に許容される成分、例えば、他の飲食品材料、飲食品に配合される添加剤等を配合してもよい。このような飲食品は、一般的な製造法により製造することができる。例えば、飲食品の製造において、飲食品材料等に上記植物抽出物を配合すればよい。
【0039】
本発明の複合体形成抑制用組成物等が、皮膚外用剤、皮膚外用剤以外の医薬品又は医薬部外品、飲食品のいずれの形態の場合も、上記植物抽出物の含有量は、該組成物中に、例えば、該抽出物の乾燥物換算の重量として、0.0000001~100重量%が好ましく、0.000001~100重量%がより好ましく、0.00001~10重量%がさらに好ましい。上記含有量は、2種以上の植物抽出物を含む場合は、その合計の含有量である。
【0040】
本発明の複合体形成抑制用組成物等の使用量は、特に限定されず、エラスチン-エラフィン複合体の形成を抑制する効果が得られるような量であればよく、対象者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って適宜設定することができる。化粧料等の皮膚外用剤であれば、例えば、成人(60kg)1人当たり1日当たり、上記植物抽出物(乾燥物換算)として、例えば、0.01~500mgが好ましい。医薬品又は医薬部外品を経口投与する場合の投与量は、例えば、成人(60kg)1人当たり1日当たり、上記植物抽出物(乾燥物換算)として、例えば、0.01~500mgが好ましい。飲食品であれば、その摂取量は、例えば、成人(60kg)1人当たり1日当たり、上記植物抽出物(乾燥物換算)として、例えば、0.01~500mgが好ましい。上記量の植物抽出物を、単回又は複数回に分けて摂取又は投与することができる。上記植物抽出物を含む皮膚外用剤を皮膚に適用(投与)するタイミング、飲食品、医薬品又は医薬部外品を摂取又は投与するタイミングは特に限定されない。
【0041】
本発明の複合体形成抑制用組成物等の適用対象(投与対象ということもできる)としては、特に限定されず、ヒト又は非ヒト哺乳動物等に適用することができるが、ヒトが好ましい。適用対象としては、例えば、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制を希望する又は必要とする対象、変性エラスチンの分解低下の抑制を希望する又は必要とする対象、正常なエラスチン維持を希望する又は必要とする対象等が挙げられる。このような対象として、例えば、紫外線曝露(特に過剰な紫外線への曝露)や、加齢に伴う望まない皮膚変化、特にしわ及び/又はたるみに悩む男性及び女性が挙げられる。
【0042】
本発明は、以下の使用及び方法も包含する。
エラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、正常なエラスチン線維を維持するための、パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物の使用。
パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物、シロガラシ抽出物、アルテア抽出物、セイヨウシロヤナギ抽出物、ショウブ抽出物、トウニン抽出物及びダイズ抽出物からなる群より選択される1以上の植物抽出物を投与する、エラスチン-エラフィン複合体形成を抑制する方法;上記植物抽出物を投与する、変性エラスチンの分解低下を抑制する方法;上記植物を投与する、正常なエラスチン線維を維持する方法。
上記植物抽出物は、好ましくは皮膚に適用され、皮膚におけるエラスチン-エラフィン複合体形成抑制のため、皮膚における変性エラスチンの分解低下抑制のため、又は、皮膚において正常なエラスチン線維を維持するために好適に使用される。
【0043】
上記使用及び方法において、植物抽出物、これを投与する対象及びこれらの好ましい態様等は、上述した本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等におけるものと同じである。植物抽出物は、そのまま使用してもよく、その他の成分と組み合わせて使用してもよい。本発明の複合体形成抑制剤等又は複合体形成抑制用組成物等を使用してもよい。植物抽出物は上述した皮膚外用剤、飲食品等の形態で使用することができる。
上記使用は、治療的使用であってもよく、非治療的使用であってもよい。上記方法は、治療的な方法であってもよく、非治療的な方法であってもよい。非治療的とは、医療行為、すなわち人間の手術、治療又は診断を含まない概念である。
【0044】
本発明の別の態様は、上記植物抽出物の、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制剤又はエラスチン-エラフィン複合体形成抑制用組成物を製造するための使用;上記植物抽出物の、変性エラスチンの分解低下抑制剤又は変性エラスチンの分解低下の抑制用組成物を製造するための使用;上記植物抽出物の、正常なエラスチン線維維持剤又は正常なエラスチン線維の維持用組成物を製造するための使用でもある。植物抽出物及びこれらの好ましい態様等は、上述した本発明の複合体形成抑制剤等及び複合体形成抑制用組成物等におけるものと同じである。
【0045】
本発明は、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質のスクリーニング方法も包含する。次に、本発明のスクリーニング方法について説明する。
本発明のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質のスクリーニング方法は、被検物質の存在下及び非存在下で、エラフィンと固相化エラスチンとを接触させる工程(a)、上記被検物質の存在による、上記エラフィンと固相化エラスチンとの結合の阻害を検出する工程(b)、及び、上記被検物質の存在によりエラフィンと固相化エラスチンとの結合が阻害された場合に、上記被検物質をエラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質として選択する工程(c)を含む。本発明スクリーニング方法は、インビトロのスクリーニング方法である。
【0046】
工程(a)では、被検物質の存在下及び非存在下で、エラフィンと固相化エラスチンとを接触させる。
エラスチンは、固相担体にあらかじめ固相化して使用する。固相化エラスチンを使用すると、洗浄等の操作が容易となる。
固相化するエラスチンには、トロポエラスチン、αエラスチン等を使用することが好ましい。特にヒトの上記エラスチンを使用することが好ましい。ヒト等のエラスチンは市販されており、市販品を使用することができる。エラスチンには、タグペプチドなどの修飾が付加されたものを使用しても良い。
固相担体は特に限定されず、例えば、マイクロプレート、マイクロチップ、スライドガラス等の形態のものを用いることができる。固相担体の材質は特に限定されず、プラスチック、ガラス、セラミックス、金属酸化物等の材質のものを使用することができる。
例えば、固相担体として、96ウェル等のマイクロプレートを用いる場合、エラスチンを緩衝液に溶解又は懸濁させたエラスチン溶液を、マイクロプレートの各ウェルに分注し、4~37℃で0.5~30時間放置することにより、エラスチンを固相化することができる。エラスチン溶液を調製するための緩衝液は特に限定されず、炭酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の緩衝液を使用することができる。エラスチン溶液中のエラスチンの濃度は、1~100μg/mLが好ましい。
固相化したエラスチン及び固相担体は、工程(a)を行う前にPBS等の緩衝液で洗浄し、結合しなかったエラスチンを除去することが好ましい。また、結合しなかったエラスチンを除去後、ブロッキング液(スキムミルク、アルブミン等を1~10%含有するPBS)を添加してブロッキングすることが好ましい。
【0047】
エラフィンには、ヒトのエラフィンを使用することが好ましい。ヒト等のエラフィンは市販されており、市販品を使用することができる。またエラフィンは、固相化されたエラスチンに結合するものであればよく、タグペプチドなどの修飾が付加されたものを使用しても良い。エラフィンは、全長タンパク質に限定されず、エラフィンの全長タンパク質のアミノ酸配列において1又は複数個(例えば、1~9個、1~5個、1~3個、1~2個又は1個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、エラスチンに結合するタンパク質を使用してもよい。
被検物質は特に限定されず、例えば、植物抽出液、細胞抽出液、細胞培養上清、発酵生産物、タンパク質、ペプチド、ビタミン類、合成化合物等が挙げられる。これらは既知物質であってもよく、新規物質であってもよい。
【0048】
被検物質の存在下で、エラフィンと固相化エラスチンとを接触させる方法は特に限定されず、例えば、被検物質を含む溶液中で、エラフィン及び固相化エラスチンをインキュベートすることによって行うことができる。被検物質の非存在下で工程(a)を行う場合には、被検物質を含まない溶液中で、エラフィン及び固相化エラスチンをインキュベートすればよい。溶液には、PBS等の緩衝液を使用することができる。溶液中のエラフィンの濃度は特に限定されないが、0.1~10μg/mLとすることが好ましい。被検物質の濃度は、適宜設定すればよく、例えば、1~100μg/mLとすることができる。溶液のpH(25℃)は、3~12が好ましい。工程(a)で用いる溶液には、血清等を添加してもよい。エラフィン及び固相化エラスチンを接触させる際の温度は、4~40℃が好ましい。エラフィン及び固相化エラスチンを接触させる時間は、通常15分~24時間とすればよく、30分~2時間が好ましい。
工程(a)の後、工程(b)を行う前に、PBS等の緩衝液で洗浄し、未反応の被検物質やエラフィンを除去することが好ましい。
【0049】
工程(b)においては、上記被検物質の存在による、上記エラフィンと固相化エラスチンとの結合の阻害を検出する。上記結合の阻害の検出は、工程(a)において被検物質の存在下及び非存在下で固相化エラスチンに結合したエラフィンの量を定量し、被検物質の存在下で固相化エラスチンと結合したエラフィンの量と、被検物質の非存在下で固相化エラスチンと結合したエラフィンの量とを比較することにより行うことができる。
【0050】
固相化エラスチンに結合したエラフィンの定量方法は特に限定されず、Enzyme Linked Immunosorbent Assay(ELISA)等で行うことができる。例えば、工程(a)を経た固相化エラスチンに、抗エラフィン抗体を反応させ、洗浄して未反応の抗体を除去した後、抗エラフィン抗体と反応する2次抗体と反応させ、洗浄して未反応の2次抗体を除去する。2次抗体には、例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリフォスファターゼ(AP)等の酵素、又は、蛍光色素で標識された抗エラフィン抗体と反応する抗体を使用することができる。2次抗体に結合しているHRP、AP等の酵素に対応した基質を反応させて発色又は発光を得て、又は、励起により蛍光を得て、該発色若しくは発光又は蛍光をプレートリーダー等を用いて定量することにより、固相化エラスチンに結合したエラフィンを定量することができる。
また、別の実施態様においては、工程(a)を経た固相化エラスチンに、HRP、AP等の酵素、又は、蛍光色素で標識された抗エラフィン抗体を反応させ、未反応の抗体を洗浄した後、抗体に結合していたHRP、AP等の酵素に対応した基質を反応させて発色又は発光を得て、又は、励起により蛍光を得て、該発色若しくは発光又は蛍光をプレートリーダー等を用いて定量することにより、固相化エラスチンに結合したエラフィンを定量することができる。
上記蛍光色素として、Alexa Fluor(登録商標)488、Alexa Fluor(登録商標)596(Thermo Fisher Scientific Inc.)等を使用することができる。
被検物質の存在下及び非存在下で固相化エラスチンに結合したエラフィンの量を比較し、被検物質が存在する方が、存在しない場合と比較して固相化エラスチンに結合したエラフィンの量が少ない場合、該被検物質は、エラフィンと固相化エラスチンとの結合を阻害したと評価される。
【0051】
上記工程(b)において、被検物質の存在下において、被検物質の非存在下と比較して固相化エラスチンに結合したエラフィンの量が少ないことが検出された場合、該被検物質の存在によりエラフィンと固相化エラスチンとの結合が阻害されたと判定される。工程(c)においては、該被検物質の存在によりエラフィンと固相化エラスチンとの結合が阻害された場合に、該被検物質をエラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質として選択する。
本発明のスクリーニング方法によれば、簡便に、効率よくエラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質のスクリーニングを行うことができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
<実施例1>
サンプルには、以下の植物抽出物を使用した。
(1)パッションフルーツ抽出物:パッションフルーツ(クダモノトケイソウの果実)の抽出物
(2)トウキンセンカ抽出物:トウキンセンカの花の抽出物
(3)シロガラシ抽出物:シロガラシの種子の抽出物
(4)アルテア抽出物:アルテアの根の抽出物
(5)セイヨウシロヤナギ抽出物:セイヨウシロヤナギの樹皮の抽出物
(6)ショウブ抽出物:ショウブの根茎の抽出物
(7)トウニン抽出物:モモの種子の抽出物
(8)ダイズ抽出物:ダイズ芽の抽出物
【0054】
上記植物抽出物は、上記植物を溶媒で抽出した抽出液からろ過により植物残渣を除去し、ろ液をエバポレーターで濃縮後、乾燥することにより得たものである。上記(1)、(2)及び(4)は、植物の破砕物それぞれを重量の10倍量の1,3-ブチレングリコール水溶液に浸し、室温下、1日1回攪拌操作を加えて10分~7日間抽出した。上記(5)、(6)及び(7)については、1,3-ブチレングリコール水溶液の代わりに30~90vol%エタノール水溶液を使用し、上記方法で抽出した。上記(3)及び(8)については、1,3-ブチレングリコール水溶液の代わりに熱水を使用し、上記方法で抽出した。得られた粉末状の植物抽出物を、以下の評価に用いた。
【0055】
Solid phase binding assayにより、サンプルのエラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を評価した。Solid phase binding assayは、以下の方法で行った。希釈バッファーには、0.5%血清アルブミン含有リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を使用した。植物抽出物(粉末)は、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させて使用した。
トロポエラスチン及び血清アルブミンを重炭酸バッファー(14mM 炭酸水素ナトリウム、6mM 炭酸ナトリウム)にて20μg/mLに希釈したものを、96穴プレートに100μLずつ添加した。
パラフィルムで蓋を密閉した後、4℃で24時間反応させた。反応液を除去し、各ウェルあたり150μLのウォッシュバッファー(0.5% Tween20 in PBS)を添加した後、ウォッシュバッファーを除去した。これを3回繰り返した。このステップを以下「洗浄」とする。次いで、各ウェルあたり100μLのブロッキングバッファー(5% スキムミルク in PBS)を添加した後、室温で1時間反応させた。ブロッキングバッファーの洗浄を行った後、複合体形成反応を行った。サンプルの複合体形成反応においては、各ウェルあたり50μLの複合体反応液(エラフィン(終濃度1μg/mL)、上記の植物抽出物(終濃度10μg/mL)及びDMSO(終濃度0.1%) in 希釈バッファー)を添加し、37℃で1時間反応させた。
【0056】
複合体反応液を洗浄した後、エラフィン認識1次抗体反応液を添加し、37℃で1時間反応させた。1次抗体反応液を洗浄した後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ標識特異的2次抗体反応液を添加し、室温で1時間反応させた。2次抗体反応液を洗浄した後、各ウェルあたり100μLのTMB(3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン)溶液を添加し、室温で30分間反応させた。各ウェルあたり100μLの1M リン酸を添加し反応を停止した後、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度を測定した(波長450nm)。
【0057】
陰性対照として、複合体形成反応において、上記のエラフィン及び植物抽出物を含む複合体反応液の代わりに、エラフィン(終濃度1μg/mL)及びDMSO(終濃度0.1%)を含む希釈バッファーを各ウェルあたり50μL添加して反応を行った。バックグラウンドとして、複合体形成反応において、上記のエラフィン及び植物抽出物を含む複合体反応液の代わりに、DMSO(終濃度0.1%)を含む希釈バッファー(エラフィン及び植物抽出物を含まない)を各ウェルあたり50μL添加して反応を行った。上記以外は、植物抽出物を添加したサンプルと同じ方法で抗体反応液との反応を行い、マイクロプレートリーダーを用いて吸光度を測定した(波長450nm)。
【0058】
上記アッセイで使用した試薬等はいずれも市販品を使用した。トロポエラスチンには、非修飾の全長ヒトトロポエラスチン(Sigma-Aldrich社、#T0706)を、エラフィンには、C末端にポリヒスチジンタグ(Hisタグ)が付加した全長ヒトエラフィン(Sino Biological Inc.、#12187-H08H)を使用した。
【0059】
植物抽出物(サンプル)、陰性対照及びバックグラウンドの450nmの吸光度から、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制率(%)を、下記の計算式により算出した。なお、上記の試験は、植物抽出物、陰性対照及びバックグラウンドについて各n=4~6で試験を行い、450nmの吸光度の平均から複合体形成抑制率を求めた。
複合体形成抑制率(%)=100-100×(Ab(S)-Ab(NC))/(Ab(PC)-Ab(NC))
【0060】
上記式中、Ab(S)は植物抽出物(サンプル)の波長450nm吸光度、Ab(NC)はバックグラウンドの波長450nm吸光度、Ab(PC)は、陰性対照の波長450nm吸光度を示す。有意差検定は、Dunnett’s testにより行った(vs.陰性対照)(有意水準:p<0.05)。
【0061】
植物抽出物のエラスチン-エラフィン複合体形成抑制率を、表1に示す。パッションフルーツ抽出物、トウキンセンカ抽出物及びシロガラシ抽出物の複合体形成抑制率には、陰性対照と比較して有意差(p<0.05)が認められた。
【0062】
【0063】
実施例1に記載の方法において、上記植物抽出物の代わりに任意の被検物質を使用して、エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質をスクリーニングすることができる。エラスチン-エラフィン複合体形成抑制作用を有する物質として選択された被検物質は、変性エラスチンの分解低下の抑制、正常なエラスチン線維の維持又はエラスチン-エラフィン複合体形成抑制のための有効成分として使用することができる。