(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20250409BHJP
B60W 30/14 20060101ALI20250409BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20250409BHJP
B60W 40/105 20120101ALI20250409BHJP
B60W 10/184 20120101ALI20250409BHJP
B60W 10/20 20060101ALI20250409BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20250409BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20250409BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20250409BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20250409BHJP
G01W 1/00 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W30/14
B60W40/06
B60W40/105
B60W10/184
B60W10/20
B60T7/12 C
B62D6/00
G01C21/34
G08G1/00 J
G01W1/00 J
(21)【出願番号】P 2021039937
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八木 音樹
【審査官】藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-257307(JP,A)
【文献】特開2019-166877(JP,A)
【文献】特開2019-175020(JP,A)
【文献】特開2020-147139(JP,A)
【文献】特開2019-104377(JP,A)
【文献】特開2021-026387(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179359(WO,A1)
【文献】特開2008-179251(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0189463(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00 ~ 40/13
B60W 10/00 ~ 10/30
G08G 1/00 ~ 1/16
G01C 21/26 ~ 21/36
B60T 7/12
B62D 6/00
G01W 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周辺環境情報を取得する周辺環境情報取得装置と、
外部機器から自車位置及び道路地図情報を含む情報を取得する外部情報受信装置と、
前記周辺環境情報取得装置及び前記外部情報受信装置によって取得された複数の情報に基づいて、減速制御及び操舵制御の少なくとも一方を行って車両の走行を制御する走行制御装置と、
を備え、現在の自車位置と、入力された目的地との間に走行ルートを設定し、設定された前記走行ルートに沿って車両を走行させる車両制御システムにおいて、
前記走行制御装置は、
前記周辺環境情報と、水溜まりに関する水溜まり情報と、前記道路地図情報と、前記車両に関する車両情報とに基づいて、前記車両が水溜まりの上を通過する際に発生する水跳ねを低減させる水跳ね閾値を設定する水跳ね閾値マッ
プと、
前記水溜まり情報と、前記道路地図情報と、前記車両情報とに基づいて、前記車両が当該車両の前方に認識された水溜まりに到達するまでの間に、急減速及び急操舵を生じさせずに当該水溜まりを回避若しくは水跳ねを低減できる減速及び操舵制御閾値を設定する急減速及び急操舵閾値マップと、
を備え、
前記外部情報受信装置によって取得された情報に基づいて道路上の水溜まりを回避する水溜まり回避走行ルートを設定し、
前記水溜まり回避走行ルートの設定ができない場合には、水溜まりの上を通過する水溜まり通過走行ルートを設定し、当該水溜まり通過走行ルートに沿う走行中に、前記車両の前方に水溜まりが認識された場合は、
前記車両の車両速度と、前記車両と当該車両の前方に認識された水溜まりまでの距離とから前記車両が前記水溜まりに到達するまでの予想到達時間を算出し、
前記周辺環境情報取得装置により認識される前記車両の周辺の立体物の存在及びこれら立体物と前記車両との位置関係に応じ
て前記水跳ね閾値マップを参照して前記水跳ね閾値
を確認し、
確認された前記水跳ね閾
値と、算出された前記予想到達時間と、前記急減速及び急操舵閾値マップとを参照して、前記減速制御及び前記操舵制御の少なくとも一方を伴う走行制御を含む新たな走行ルートを設定することを特徴とする車両制御システム。
【請求項2】
前記走行制御装置は、
設定された走行ルートに沿って前記車両を走行中に、認識された水溜まりの上を前記車両の左右の車輪が通過する位置を推定する車輪通過位置推定装置を、さらに備え、
前記走行制御装置は、
前記水溜まり情報と、前記車輪通過位置情報とに基づいて、前記車輪が前記水溜まりの上を通過する際の水跳ねを低減させる新たな走行ルートを設定することを特徴とする請求項1に記載の車両制御システム。
【請求項3】
前記水跳ね閾値マップは、車両が水溜まりの上を通過した際に発生する水跳ねの飛散量、飛散方向、飛散高さを含む水跳ね情報の水跳ね閾値を設定することを特徴とする請求項
1または請求項2に記載の車両制御システム。
【請求項4】
前記水溜まり情報は、水溜まりの位置、形状、大きさ、深さ、水量の情報を含み、
前記道路地図情報は、道路地図、道路の凹凸状況、天候情報を含み、
前記車両情報は、車両の仕様、車両速度の情報を含む
ことを特徴とする請求
項3に記載の車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の周辺環境に応じて水溜まりを回避し、若しくは水溜まり通過時の水跳ねを低減させる走行ルートを設定する車両制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車等の車両においては、運転者の運転操作を必要とせずに車両を自動的に走行させる自動運転制御技術の開発が進められている。また、この種の自動運転制御技術を利用して運転者の運転操作を支援するための各種の走行制御を実行し得る車両制御システムが、種々提案されており、一般に実用化されつつある。
【0003】
従来の車両制御システムにおいては、車両の走行中に、撮像装置(カメラ)等の各種センシングデバイス等を用いて車両の周辺環境(例えば歩行者等や対向他車両、併走他車両等の存在や水溜まり等の路面状況等)を認識し、取得された車両の周辺環境情報等に基づいて水溜まり等を回避する走行ルートを設定し、設定された走行ルートに沿って車両を走行させる走行制御を行って、運転者の運転操作を支援する技術が、例えば特開2008-179251号公報、特開2010-257307号公報等によって、種々提案されている。
【0004】
上記特開2008-179251号公報等によって開示されている技術は、自車両の進行方向に水溜まり等が認識された場合において、後続車が検出されたときには当該後続車を減速させるために自車両の減速制御を行って、自車両及び後続他車両による水跳ね等を抑止するものである。また、自車両の進行方向に水溜まり等が認識された場合において、後続車が検出されないときに、対向車両等を回避する経路があって側方や後方の周辺他車両との衝突のおそれがない場合は、操舵制御を行って水溜まり等を回避する。一方、この場合において周辺他車両との衝突のおそれがある場合は、減速制御を行って水跳ね等を抑止するというものである。
【0005】
上記特開2010-257307号公報等によって開示されている技術は、路面の高度差情報を取得する手段と、降雨を検出する手段とを有し、降雨の有無と路面の高低差とに応じて水溜まり等のできる可能性の高い地点を判定し、判定された地点に車両が接近する場合には、車両の速度制御や水溜まり等の回避操作等の走行制御を行うというものである。このとき、例えば、水溜まり等の一部を通過する場合には、水溜まり等の深さや車両の重量等を鑑みて、水跳ね等を起こさせない通過速度を算出し、減速制御を行うというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-179251号公報
【文献】特開2010-257307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特開2008-179251号公報、上記特開2010-257307号公報等によって開示されている技術は、水溜まり等を認識し、当該水溜まり等の上を通過する場合には、常に水撥ねを発生させない通過速度まで減速制御を行う構成としている。したがって、水溜まりの情報や車両の情報、周辺環境情報等の諸条件によっては、極端な減速が強いられてしまう場合が考えられることから、周辺他車両の交通を阻害してしまう可能性がある。
【0008】
また、水溜まり等を認識し、かつ周辺環境を確認したとき、周辺他車両との衝突のおそれがない場合には、水溜まり等を回避する操舵制御を行う。このとき、同時に車両の周辺に歩行者等が存在している場合もある。このような場合において、歩行者等が存在する方向へ車両が進むように操舵制御を行ってしまうと、歩行者等に対して危険が及ぶ可能性もある。
【0009】
本発明は、走行中の車両の周辺環境や車両状況等を複合的に考慮して、水溜まり等を回避し、若しくは水溜まり等の通過時の水跳ね等を低減させる走行制御を行うことのできる車両制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の一態様の車両制御システムは、車両の周辺環境情報を取得する周辺環境情報取得装置と、外部機器から自車位置及び道路地図情報を含む情報を取得する外部情報受信装置と、前記周辺環境情報取得装置及び前記外部情報受信装置によって取得された複数の情報に基づいて、減速制御及び操舵制御の少なくとも一方を行って車両の走行を制御する走行制御装置と、を備え、現在の自車位置と、入力された目的地との間に走行ルートを設定し、設定された前記走行ルートに沿って車両を走行させる車両制御システムにおいて、前記走行制御装置は、前記周辺環境情報と、水溜まりに関する水溜まり情報と、前記道路地図情報と、前記車両に関する車両情報とに基づいて、前記車両が水溜まりの上を通過する際に発生する水跳ねを低減させる水跳ね閾値を設定する水跳ね閾値マップと、前記水溜まり情報と、前記道路地図情報と、前記車両情報とに基づいて、前記車両が当該車両の前方に認識された水溜まりに到達するまでの間に、急減速及び急操舵を生じさせずに当該水溜まりを回避若しくは水跳ねを低減できる減速及び操舵制御閾値を設定する急減速及び急操舵閾値マップと、を備え、前記外部情報受信装置によって取得された情報に基づいて道路上の水溜まりを回避する水溜まり回避走行ルートを設定し、前記水溜まり回避走行ルートの設定ができない場合には、水溜まりの上を通過する水溜まり通過走行ルートを設定し、当該水溜まり通過走行ルートに沿う走行中に、前記車両の前方に水溜まりが認識された場合は、前記車両の車両速度と、前記車両と当該車両の前方に認識された水溜まりまでの距離とから前記車両が前記水溜まりに到達するまでの予想到達時間を算出し、前記周辺環境情報取得装置により認識される前記車両の周辺の立体物の存在及びこれら立体物と前記車両との位置関係に応じて前記水跳ね閾値マップを参照して前記水跳ね閾値を確認し、確認された前記水跳ね閾値と、算出された前記予想到達時間と、前記急減速及び急操舵閾値マップとを参照して、前記減速制御及び前記操舵制御の少なくとも一方を伴う走行制御を含む新たな走行ルートを設定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、
走行中の車両の周辺環境や車両状況等を複合的に考慮して、水溜まり等を回避し、若しくは水溜まり等の通過時の水跳ね等を低減させる走行制御を行うことのできる車両制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態の車両制御システムの概略構成を示すブロック構成図、
【
図2】本発明の一実施形態の車両制御システムにおいて水溜まり等を考慮した走行制御の処理シーケンスを示すフローチャート(前半部)、
【
図3】本発明の一実施形態の車両制御システムにおいて水溜まり等を考慮した走行制御の処理シーケンスを示すフローチャート(後半部)、
【
図4】本発明の一実施形態の車両制御システムを搭載した車両によって水溜まり等を認識した場合における周囲状況を考慮した走行ルートの一例を示す概念図、
【
図5】本発明の一実施形態の車両制御システムを搭載した車両によって水溜まり等を認識した場合において、歩行者を認識した場合の水跳ね低減走行ルートの一例を示す概念図、
【
図6】本発明の一実施形態の車両制御システムを搭載した車両によって水溜まり等を認識した場合において、他車両(対向車両等)を認識した場合の水跳ね低減走行ルートの一例を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図示の実施の形態によって本発明を説明する。以下の説明に用いる各図面は模式的に示すものであり、各構成要素を図面上で認識できる程度の大きさで示すために、各部材の寸法関係や縮尺等を構成要素毎に異ならせて示している場合がある。したがって、本発明は、各図面に記載された各構成要素の数量や各構成要素の形状や各構成要素の大きさの比率や各構成要素の相対的な位置関係等に関して、図示の形態のみに限定されるものではない。
【0014】
本発明の車両制御システムは、自動車等の車両に搭載され、当該車両の運転者による運転操作を支援するための走行制御を行なう制御システムである。
【0015】
本実施形態の車両制御システムは、例えば車載カメラユニットやレーダー装置等のセンシングデバイスを用いて車両の周辺環境に関する情報(例えば、前方及び周辺を走行する先行車両、後続車両、対向車両、併走車両等の他車両や自転車、歩行者等の移動体、若しくは建造物、各種構築物等や立体的な障害物等のほか、走行中の道路の路面状況等を含む車両の周辺環境に関する情報等;以下、単に周辺環境情報等という)を取得する。
【0016】
また、本実施形態の車両制御システムは、上述のようにして取得された周辺環境情報等のほかに、通信を行って外部機器である高精度道路地図データベース等から取得される道路地図情報等に基づいて、先行車両や後続車両及び各種構築物や立体的な障害物等のほか、道路表面状態等(例えば、道路表面の凹凸や傾斜等の路面形状情報等)に関する情報を含む道路状況等を認識する。
【0017】
道路地図情報等には、一般的な道路地図情報等のほか、例えばリアルタイムの天候情報(例えば、晴雨状況等の天候、降雨量、雲量、日照状態、気温、湿度、気圧等の環境情報)等も含まれている。したがって、当該道路地図情報等を取得することにより、車両が存在する地域を含む所定の領域の天候情報等を取得することができる。
【0018】
これにより、本実施形態の車両制御システムは、これら各種の情報(周辺環境情報等、路面状況情報及び天候情報を含む地図情報等)を、運転者の運転操作を支援するための走行制御を実行する際の情報として適宜利用する。
【0019】
本実施形態の車両制御システムは、走行車線内に設定された走行ルートに沿って車両を走行させる車線維持走行支援制御を少なくとも実行し得る構成を有している。例えば、運転者等の車両の利用者が所望の目的地を入力すると、本実施形態の車両制御システムは、現在の自車位置から目的地までの走行ルートを設定する。このルート設定は、当該車両制御システムによって取得される上記各種の情報に基づいて行われる。例えば、取得した天候情報に基づいて、降雨地域を避けて水溜まり等が存在しないような走行ルート(水溜まり等回避ルート)を設定する。また、水溜まり等を回避し得ない状況においては、本実施形態の車両制御システムは、車線維持走行支援制御の実行中に、走行車線内の道路表面上の水溜まり等を認識すると、当該水溜まり等を考慮した走行ルートの再設定を行う機能を有する。
【0020】
この場合において、水溜まり等を考慮した走行ルートとは、例えば、周囲状況に応じて車線変更等を含めた操舵制御等を行って、認識された水溜まり等の上を通過せずに安全に当該水溜まり等を回避することができる走行ルートである。
【0021】
また、車両近傍を歩行する歩行者や、車両周囲を走行する他車両等が存在する場合や、水溜まり等の形状、大きさ、深さ、水量等を考慮すると当該水溜まり等を安全に回避し得ない場合に、当該水溜まり等の一部を通過する走行ルートである。
【0022】
ここで、認識された水溜まり等の一部を通過する場合には、当該水溜まり等からの「泥土や汚水等の飛沫の飛散」(以下、水跳ね等という)を低減させるための走行制御を行う。
【0023】
この水跳ね等を低減させるための走行制御とは、水溜まり情報と車両情報とに基づいて算出される水跳ね情報を、自車両の近傍に存在する歩行者や他車両(併走車両,対向車両)等の有無等の周囲環境状況を鑑みて、周囲に悪影響を及ぼさない程度にまで水跳ね等を低減させて走行するための所定の走行制御(減速制御、操舵制御等)である。
【0024】
この場合において、水溜まり情報は、水溜まり等の位置、形状、大きさ、深さ、水量等の水溜まり等に関する情報である。車両情報は、本実施形態の車両制御システムを搭載した車両自身の仕様情報(車両重量、車両幅、トレッド幅等)や車両状況(車両速度等)に関する情報である。水跳ね情報は、車両が水溜まり等の上を通過した場合に発生する水跳ね等の飛散量、飛散方向、飛散高さ等の情報である。
【0025】
つまり、本実施形態の車両制御システムは、設定された走行ルートに沿って車両を走行させる際に、進行方向前方に水溜まり等を認識した場合には、適宜、減速制御や操舵制御を行って、当該水溜まり等を回避する走行制御、或いは当該水溜まり等を回避できずに当該水溜まり等の上を通過する場合に水跳ね等を低減するための走行制御を必要に応じて適宜行う。
【0026】
このような形態の本発明の車両制御システムについての一実施形態を、以下に説明する。
図1は、本発明の一実施形態の車両制御システムの概略構成を示すブロック構成図である。
【0027】
本実施形態の車両制御システム1の構成は、従来の形態の同種の車両制御システムの構成と基本的には略同様である。したがって、本実施形態の車両制御システム1の構成を説明するのに際しては、本発明に関わる主要構成のみについて説明するものとする。そして、車両制御システム1の細部の構成については、従来の車両制御システムと略同様であるものとし、本発明に直接関連する構成以外の部分の詳細な説明は省略する。また、
図1においては、本実施形態の車両制御システム1の主要構成のみを図示するに留め、本発明に直接関連しない構成については図示を省略している。
【0028】
本実施形態の車両制御システム1は、
図1に示すように、ロケータユニット11と、周辺監視ユニット20と、カメラユニット21と、走行制御装置である走行制御ユニット22と、エンジン制御ユニット23と、パワーステアリング制御ユニット24と、ブレーキ制御ユニット25等を主な構成ユニットとして具備している。
【0029】
ここで、ロケータユニット11と、周辺監視ユニット20と、カメラユニット21とは、車両の内外の走行環境を認識するためのセンサユニットであり環境認識装置として機能する構成ユニットである。これらの各ユニット(11、20、21)は、互いに依存することなく、完全に独立した構成ユニットとして存在している。
【0030】
走行制御ユニット22と、エンジン制御ユニット23と、パワーステアリング制御ユニット24と、ブレーキ制御ユニット25の各制御ユニットは、ロケータユニット11、周辺監視ユニット20、カメラユニット21と共に、CAN(Controller Area Network)などの車内通信回線10を通じて互いに接続され、適宜必要に応じてデータ共有を行っている。
【0031】
ロケータユニット11は、道路地図上の自車両の位置(自車位置)を推定すると共に、推定された自車位置の主に前方の道路地図情報等を取得する情報取得装置である。
【0032】
ロケータユニット11は、地図ロケータ演算部12と、加速度センサ13と、車輪速センサ14と、ジャイロセンサ15と、GNSS受信機16と、道路情報受信機17と、地図情報記憶部としての高精度道路地図データベース(DB;Data Base:なお、
図1においては道路地
図DBと略記している)18と、ルート情報入力部19等を具備している。
【0033】
このうち、加速度センサ13、車輪速センサ14、ジャイロセンサ15は、自車両の位置(自車位置)を推定するのに際して必要とする各種センサ類である。例えば、加速度センサ13は自車両の前後加速度を検出するセンサである。車輪速センサ14は(四輪車の場合の)前後左右の各車輪の回転速度を検出するセンサである。ジャイロセンサ15は、自車両の角速度または角加速度を検出するセンサである。これらの各センサ(13、14、15)は、運転状態取得部として機能する自律走行センサ群であり、地図ロケータ演算部12の入力側に接続されている。
【0034】
なお、上記自律走行センサ群(各センサ13、14、15)は、例えば、トンネル内走行等においてGNSS衛星(不図示)からの受信感度が低下して測位信号を有効に受信することのできない状況となったときに、自律走行を可能にするために設けられるセンサ群である。自律走行センサ群としては、上述の各センサ(13、14、15)のほかにも、図示されていないが、例えば、車速センサ、ヨーレートセンサ等を有している。
【0035】
GNSS受信機16は、自車位置取得部として機能し、例えばGNSS(Global Navigation Satellite System;全球測位衛星システム)からの各種情報を受信する外部情報受信装置である。つまり、このGNSS受信機16は、複数の測位衛星から発信される測位信号を受信する。GNSS受信機16は、取得した測位信号を、ロケータユニット11の地図ロケータ演算部12へと出力する。地図ロケータ演算部12は、GNSS受信機16が受信した複数の測位衛星からの測位信号に基づいて自車位置(緯度、経度)を推定する。そのため、このGNSS受信機16は、地図ロケータ演算部12の入力側に接続されている。
【0036】
さらに、地図ロケータ演算部12には、道路情報受信機17と、記憶装置としての高精度道路地図データベース18と、ルート情報入力部19等が接続されている。
【0037】
道路情報受信機17は、所定の基地局(不図示)若しくはインターネットを介して接続されるクラウドサーバ(不図示)等に蓄積された各種情報、例えば自動運転に必要な情報や道路地図情報等を受信して取得する外部情報受信装置である。この道路情報受信機17によって受信される道路地図情報等には、例えば道路表面状態等(道路表面の凹凸や傾斜等の路面形状情報等)に関する情報や、リアルタイムの天候情報等も含まれている。
【0038】
道路情報受信機17は、取得した各種情報を、ロケータユニット11の地図ロケータ演算部12へと出力する。なお、道路情報受信機17は、さらに、自車両が取得した各種の情報を、所定の基地局若しくはクラウドサーバ等(不図示)へと送信する機能を備え、道路情報送受信装置の形態として構成されているものであってもよい。
【0039】
地図ロケータ演算部12は、道路情報受信機17が受信した道路地図情報等に基づいて自車位置を地図上にマップマッチングしたり、入力された目的地と自車位置とを結ぶ走行ルートを構築する。さらに、地図ロケータ演算部12は、構築された走行ルート上に、自動運転を実行させるための走行ルートを自車両の前方数キロメートル先まで設定する。ここで、走行ルートとして設定する項目は、自車両を走行させる車線(例えば、車線が3車線の場合に何れの車線を走行させるか)、先行車を追い越すため車線変更及び車線変更を開始するタイミング等の各種の項目がある。
【0040】
高精度道路地図データベース18は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等の大容量記憶媒体等によって主に構成されている。この高精度道路地図データベース18には、周知の高精度な道路地図情報(ローカルダイナミックマップ)が記憶されている。ここで高精度道路地図情報は、例えばクラウドサーバ等(不図示)に備えられているグローバルダイナミックマップと同じ層構造を有しており、基盤とする最下層の静的情報階層において、自動走行をサポートするために必要な付加的地図情報等が重畳された階層構造をなしている。
【0041】
ここで、付加的地図情報としては、道路の種別(一般道路、高速道路等)、道路形状、左右区画線(例えば車道中央線、車道外側線、車線境界線等)、高速道路やバイパス道路等の出口、ジャンクションやサービスエリア、パーキングエリア等に繋がる分岐車線や合流車線の出入口長さ(開始位置と終了位置)等の静的な位置情報のほか、渋滞情報や事故或いは工事による通行規制等の動的な位置情報が含まれている。
【0042】
そして、この付加的地図情報は、地図ロケータ演算部12によって走行ルートが設定された際には、設定された走行ルートに沿って自車両を自律走行させるために必要とする周辺情報として、グローバルダイナミックマップから継続的に取得されかつ順次更新される。
【0043】
また、高精度道路地図情報は、自動運転を行う際に必要とする車線データとして、車線幅データ、車線中央位置座標データ、車線の進行方位角データ、制限速度情報などをも保有している。これらの車線データ等の情報は、道路地図上の各車線に数メートル間隔で格納されている。
【0044】
ルート情報入力部19は、例えば運転者又は搭乗者等、車両に搭乗している人員が操作する端末装置である。このルート情報入力部19は、目的地や経由地(高速道路において立ち寄りたいサービスエリア等)の設定等、地図ロケータ演算部12において走行ルートを設定する際に必要とする一連の情報を集約して入力することができる。
【0045】
ルート情報入力部19は、具体的には、カーナビゲーションシステムの入力部(例えば、モニタのタッチパネル等)、スマートフォン等の携帯端末、パーソナルコンピュータ等である。そして、ルート情報入力部19は、地図ロケータ演算部12に対して有線接続或いは無線接続されている。これにより、運転者又は搭乗者がルート情報入力部19を操作して、目的地や経由地の情報(施設名、住所、電話番号等)の入力を行うと、その入力情報が地図ロケータ演算部12に読み込まれる。地図ロケータ演算部12は、ルート情報入力部19から入力された目的地や経由地について、その位置座標(緯度、経度)を設定する。
【0046】
地図ロケータ演算部12は、自車位置推定部12aと、地図情報取得部12b等を備えている。
【0047】
自車位置推定部12aは、自車位置を推定する機能を有する構成部である。自車位置推定部12aは、GNSS受信機16で受信した測位信号に基づき自車両の位置座標(緯度、経度)を取得する。そして、自車位置推定部12aは、取得した位置座標をルート地図情報上にマップマッチングして、道路地図上の現在の自車位置を推定する。
【0048】
また、自車位置推定部12aは、トンネル内走行などのようにGNSS受信機16の感度低下により測位衛星からの有効な測位信号を受信することができない環境においては、車輪速センサ14で検出した車輪速に基づき求めた車速データ、ジャイロセンサ15で検出した角速度データ、加速度センサ13で検出した前後加速度データ等の各種データに基づいて自車位置を推定する自律航法に切り換えて、道路地図上の自車位置(緯度、経度)を推定する。
【0049】
地図情報取得部12bは、自車位置推定部12aで推定した自車位置の位置情報(緯度、経度)と、運転者等によりルート情報入力部19から入力された目的地や経由地の位置情報(緯度、経度)とに基づき、現在の自車位置から目的地までの間を結ぶ走行ルート情報(高精度道路地図情報上での自車位置と目的地(経由地が設定されている場合は経由地を経由した目的地)とを結ぶ走行ルートに関する情報)を、予め設定されているルート条件(推奨ルート、最速ルート等)に従って構築する。このとき、自車位置推定部12aは、自車両の走行している走行車線を特定し、道路地図データに記憶されている走行車線や合流車線等の道路形状を取得して、これらの情報を逐次、所定の内部記憶メモリ22d(後述)等に記憶する。また、地図情報取得部12bは、走行ルート情報を自車位置推定部12aへ送信する。
【0050】
このようにして、地図ロケータ演算部12は、自車位置推定部12aにより推定された自車位置を道路地図上にマップマッチングして現在の自車位置を特定し、その周辺の状況に関する情報を含む道路地図情報を取得する。また、地図ロケータ演算部12は、地図情報取得部12bにより自車両の目標とする走行ルートを設定する。
【0051】
カメラユニット21は、自車両の主に進行方向(前方)の環境を認識し、画像情報として取得する周辺環境情報取得装置であり周辺環境認識装置の一部を成す。
【0052】
カメラユニット21は、具体的には、例えば、自車両の前方又は前側方を走行する他車両(先行車両両、対向車両、併走車両、後続車両等)のほか、併走する自転車、自動二輪車等の移動体を含む立体物、信号現示(点灯色、点滅状態、矢印方向等)や道路標識、停止線や区画線(例えば車道中央線、車道外側線、車線境界線等)等の道路標示等のほか、道路表面状況(例えば、道路表面の凹凸や、水溜まりの有無(及びその形状、大きさ、深さ等)の状況)等を含む各種の道路周辺環境等を認識する。
【0053】
カメラユニット21は、自車両の車室内前部の上部中央等に固定されており、車幅方向中央を挟んで左右対称な位置に配設されているメインカメラ21a及びサブカメラ21bからなる車載カメラ(ステレオカメラ)と、画像処理ユニット(IPU;Image Processing Unit)21cと、走行環境認識部21d等を有して構成されている。
【0054】
そして、カメラユニット21は、メインカメラ21aで基準画像データを撮像し、サブカメラ21bで比較画像データを撮像する。これら二つのカメラ21a、21bによって取得された2つの画像データは、IPU21cにて所定の画像処理が施される。
【0055】
走行環境認識部21dは、IPU21cで画像処理された基準画像データと比較画像データとを読込んで、両画像間の視差に基づいて両画像中の同一対象物を認識すると共に、両画像内の物体の位置ズレ量から距離データ(自車両から対象物までの距離情報)を三角測量の原理を利用して算出すると共に、この距離情報を含む前方走行環境画像情報(距離画像情報)を生成する。
【0056】
また、走行環境認識部21dは、カメラユニット21によって取得され、IPU21cにより処理済みの距離画像情報等に基づいて、例えば自車両の走行している走行車線の左右を区画する区画線(例えば車道中央線、車道外側線、車線境界線等)等を含む各種さまざまな道路標示を、周辺環境情報として認識する。この場合、走行環境認識部21dは、走行車線の区画線等を検出する区画線検出部として機能する。
【0057】
また、走行環境認識部21dは、自車両が走行する走行路(自車走行レーン)の左右区画線(車線境界線等)の中央の道路曲率[1/m]、左右区画線間の幅(車線幅)等を求める。
【0058】
なお、区画線間中央の道路曲率や車線幅の求め方は種々知られているが、例えば、走行環境認識部21dは、道路曲率を前方走行環境画像情報に基づき輝度差による二値化処理にて、左右の区画線を認識し、最小二乗法による曲線近似式などにて左右区画線の曲率を所定区間毎に求め、さらに、両区画線間の曲率の差分から車線幅を算出する。そして、当該走行環境認識部21dは、自車線の左右区間線の曲率と車線幅とに基づき車線中央の道路曲率を求める。
【0059】
また、走行環境認識部21dは、距離画像情報に対して所定のパターンマッチングなどを行って、道路に沿って存在するガードレール、縁石、各種立体物(自車両周辺に存在する歩行者、二輪車、二輪車以外の車両等)の認識を行う。ここで、走行環境認識部21dにおける立体物の認識では、例えば、立体物の種別、立体物までの距離、立体物の移動速度、立体物と自車両との相対速度などの認識が行われる。
【0060】
さらに、走行環境認識部21dは、IPU21cにより処理済みの画像データ等に基づいて、走行車線内を走行中の車両に前方において、当該走行車線内の道路表面上に形成されている水溜まり等を認識する。
【0061】
ここで、走行環境認識部21dによる水溜まり等の認識は、例えば、次のような処理によって行われる。
【0062】
まず、走行環境認識部21dは、カメラユニット21によって取得されIPU21cにより処理済みの画像データに基づいて、1フレーム分の画像内に設定されている所定の領域(以下、路面探索領域という)内の道路表面の輝度(以下、路面輝度という)の平均値を、連続的に取得される各画像データ毎に求める。こうして連続取得された複数の画像データ毎の路面輝度平均値に基づいて、走行環境認識部21dは、走行中の道路の通常路面輝度値を所定時間(数秒間)毎に推定し、通常路面輝度推定値とする。
【0063】
続いて、走行環境認識部21dは、路面探索領域内において、車両の走行に伴って変化する路面輝度の変化(輝度差)を検出する。そして、通常路面輝度推定値に対して所定の輝度値以上の高輝度領域を検出する。そして、走行環境認識部21dは、検出された高輝度領域毎に、面積分布に基づく所定の形状推定処理を行って、当該高輝度領域が水溜まり等であるか否かを推定する。
【0064】
通常の場合、道路表面上には、平面的で規格化された形状の路面標示やマンホール等が設置されている。一方、水溜まり等は、道路表面上において平面的で不規則形状に形成されているのが一般である。したがって、検出された高輝度領域について、上述の形状推定処理を行うことによって、水溜まり等であるか否かの推定ができる。
【0065】
ここで、上述の所定の形状推定処理とは、走行環境認識部21dによって検出された高輝度領域毎の形状と、路面標示等の表面形状との比較を行って、当該高輝度領域の形状が路面設置物体形状と略一致するか否かを判定し、その形状を推定する処理である。
【0066】
なお、道路表面上に設置される路面標示等としては、例えば、マンホール蓋や各種の道路標示等がある。これらの路面標示等の形状は、一般に規格化されているものである。したがって、それらの形状規格データ等を、当該車両制御システム1における所定の記憶領域(例えば、後述する走行制御ユニット22の内部記憶メモリ22d等)に予め記憶しておき、形状推定処理にて参照し比較する。また、路面標示等の形状規格データ等は、道路地図情報等に含まれているものもあることから、地図データベース等から読み込むようにしてもよい。
【0067】
そして、上述の形状推定処理において、走行環境認識部21dによって検出された高輝度領域毎の形状と、路面標示等の表面形状との比較により、両者の形状が略一致する場合には、路面標示等であると判定する。また、路面標示等と一致せずに、不規則形状領域であると判定した場合には、不規則形状の高輝度領域は、水溜まり等であるものと推定する。
【0068】
なお、道路表面上に形成される水溜まり等であっても、定形の路面標示等に類似している形状を有している場合もあり得る。そのような場合には、路面標示等であるか水溜まり等であるかを確実に判定することができない。したがって、この場合には、安全のために、水溜まり等であると推定して扱うようにするのが望ましい。
【0069】
また、本実施形態においては、上述したように水溜まり等の推定は、高輝度領域の検出によるものとしている。したがって、例えば道路表面上に形成される物体の影などの場合は低輝度であるために、水溜まり等の推定条件に合致せず除外されることになる。
【0070】
このようにして、道路表面上に形成されている水溜まり等は、走行環境認識部21dによって周辺環境情報として認識される。この場合において、走行環境認識部21dは、水溜まり等に関する情報(水溜まり情報)の一部として、水溜まり等の位置、形状、大きさ(表面積)等の情報を取得する。
【0071】
一方、こうして認識された水溜まり等に関しては、さらに、自車位置推定部12aにより推定された自車位置情報と、道路情報受信機17によって受信される道路地図情報等に含まれる位置情報と、道路表面状態(道路表面の凹凸情報等)や、リアルタイムの天候情報(降雨情報、降水量情報等)を参照することによって、水溜まり等の深さや水量等を推定し、水溜まり情報の一部として取得される。
【0072】
なお、水溜まり情報のうち、水溜まり等の深さに関する情報は、例えば、後述する周辺環境認識センサ20aとして超音波センサを設け、この超音波センサを用いることによっても取得することができる。この場合には、例えば、超音波センサから水溜まり等の水面に向けて超音波を発射し、その反射波を検出することによって、水溜まりの深さ情報を取得できる。
【0073】
そして、走行環境認識部21dにより認識されるこれら各種の周辺環境情報は、走行制御ユニット22へと出力される。
【0074】
周辺監視ユニット20は、自車両の周辺の状況を認識し情報として取得する周辺環境情報取得装置であり周辺環境認識装置の一部を成す。この周辺監視ユニット20は、周辺環境認識センサ20aと、周辺環境認識部20b等を有して構成されている。
【0075】
周辺環境認識センサ20aは、例えば、超音波センサ、ミリ波レーダ、ライダー(LiDAR;Light Detection and Ranging)、カメラ等のセンシングデバイスと、これらを組み合せてなる周辺環境検出手段としての自律センサ群である。
【0076】
本実施形態の車両制御システム1においては、例えば、周辺環境認識センサ20aとしての複数のミリ波レーダが、車両の四隅部分(例えば、左前側方、右前側方、左後側方、右後側方等)にそれぞれ配設される。このうち、左右前側方のミリ波レーダは、例えばフロントバンパの左右側部に設けられ、カメラユニット21の2つのカメラ21a、21bにより取得される画像によって認識することの困難な車両周辺の一部領域(車両の左右斜め前方及び側方の領域)を監視するのに用いられる。
【0077】
また、左右後側方のミリ波レーダは、例えばリヤバンパの左右側部に設けられ、上記左右前側方のミリ波レーダでは監視し得ない車両周辺の一部領域(車両の側方から後方にかけての領域)を監視するのに用いられる。
【0078】
周辺環境認識部20bは、周辺環境認識センサ20aからの出力信号に基づいて自車両の周辺の移動体(例えば、併走車両、後続車両、対向車両等のほか、歩行者等)に関する情報である周辺環境情報を取得する。
【0079】
周辺監視ユニット20とカメラユニット21とによって、本実施形態の車両制御システム1における周辺環境情報取得装置であり周辺環境認識装置が構成されている。ここで、カメラユニット21の走行環境認識部21dと、周辺監視ユニット20の周辺環境認識部20bとは、車内通信回線10を通じて走行制御ユニット22の入力側に接続されている。また、走行制御ユニット22と地図ロケータ演算部12との間は、車内通信回線10を通じて双方向通信自在に接続されている。
【0080】
そして、走行制御ユニット22の入力側には、車両内部環境情報を検知する複数の各種スイッチ類若しくは複数のセンサ群として、モード切換スイッチ33と、ハンドルタッチセンサ34と、操舵トルクセンサ35と、ブレーキセンサ36と、アクセルセンサ37等が接続されている。
【0081】
モード切換スイッチ33は、運転者が各種の運転モードの選択や、運転支援制御に関わる複数の制御機能を選択するためのオンオフ切換等を行うスイッチ群を指す。運転者は、モード切換スイッチ33を操作することによって、例えば、手動運転モード、第1運転支援モード(半自動運転モード)、第2運転支援モード(自動運転モード)、退避モード(緊急時自動運転モード)等の各種の運転モードのオンオフの切り換えを選択的に行うことができる。
【0082】
なお、モード切換スイッチ33は、本実施形態の車両制御システム1が実行し得る各種の走行制御(例えば車線維持走行支援制御等)のうち運転者が所望する走行制御のオンオフ切り換えを、運転者が選択的に行うことができる操作部材をも含む。
【0083】
ハンドルタッチセンサ34は、運転者がステアリング装置におけるステアリングホイール(不図示;以下、単にステアリングと略記する)を把持している状態、即ち運転者の保舵状態を検知するためのセンサである。ハンドルタッチセンサ34は、車両のステアリングの所定の部位に設けられている。ハンドルタッチセンサ34は、運転者がステアリングの所定の部位を把持しているとき(保舵状態にあるとき)オン信号を出力する。
【0084】
操舵トルクセンサ35は、運転者による運転操作量としての操舵トルクを検出するセンサである。操舵トルクセンサ35は、車両のステアリング装置におけるステアリングシャフト(不図示)に設けられている。
【0085】
なお、ハンドルタッチセンサ34と操舵トルクセンサ35とは、自車両の運転者によるステアリングの保舵状態を認識するためのセンサであって保舵状態認識部として機能する。これら両センサ(34、35)の出力信号は走行制御ユニット22へと出力される。
【0086】
ブレーキセンサ36は、運転者による運転操作量としてのブレーキペダルの踏込量を検出するセンサである。
【0087】
アクセルセンサ37は、運転者による運転操作量としてのアクセルペダルの踏込量を検出するセンサである。
【0088】
一方、走行制御ユニット22の出力側には、モニタパネルやスピーカ等を備えた報知装置38等が接続されている。この報知装置38は、走行制御ユニット22が走行環境認識部21dや周辺環境認識部20b等によって取得された周辺環境情報、周辺環境情報等に基づいて認識される周辺環境に応じた警報(例えばモニタパネル等の表示装置への視覚的な警報表示や、スピーカ等の発音装置への音声や警笛等による聴覚的な警報表示等)を、運転者に対して報知する装置である。
【0089】
また、報知装置38は、運転者に対して、運転者が行うべき操作を示唆する表示(具体的には、例えば「ブレーキペダルを踏み込んでください」、「アクセルを離してください」、「ステアリングの修正操作を行ってください」等の示唆報知等)等を、聴覚的に若しくは視覚的に知覚させる各種の表示を必要に応じて行う。報知装置38としては、具体的には、例えば、スピーカ等を含む発音装置や表示パネル等を含む表示装置等が適用される。
【0090】
走行制御ユニット22は、車両の走行制御を統括的に行う構成ユニットである。例えば、走行制御ユニット22は、走行環境認識部21dや周辺環境認識部20b等によって取得された各種情報(周辺環境情報等)に基づいて設定された走行ルートに沿って車両を走行させ、走行中の走行車線を維持しながら車両の走行を安全に継続させる車線維持走行支援制御を実行する際の走行制御に寄与する。
【0091】
この場合において、本実施形態の車両制御システム1における走行制御ユニット22は、車線維持走行支援制御の実行中に、例えば、走行車線内の道路表面上に水溜まり等を含む障害物等を認識した場合には、これらの障害物等を回避し、若しくは水溜まり等を考慮した新たな走行ルートを設定し直す走行制御部として機能する。
【0092】
そのために、走行制御ユニット22は、操舵支援制御部22aと、目標走行経路設定部22bと、車輪通過位置推定部22cと、内部記憶メモリ22d等を具備して構成されている。
【0093】
操舵支援制御部22aは、車両を走行車線内において安定させて走行させるためのステアリング操作に加え、車両が走行中に遭遇する危険等や走行ルート上の障害物等との衝突又は接触を回避する際に、運転者によって行われるステアリング操作を支援する等、本実施形態の車両制御システム1が実行し得る各種制御のうち操舵操作を伴う走行制御を支援する制御を行う。
【0094】
例えば、操舵支援制御部22aは、設定された走行ルートに沿って車両を走行させるための車線維持走行支援制御の実行中において適宜必要に応じて操舵支援制御を行う。また、操舵支援制御部22aは、車線維持走行支援制御によって走行中の自車両が、例えば、前方の道路表面上に水溜まり等を含む障害物等を認識した場合に、これを回避するための操舵支援制御を必要に応じて行う。
【0095】
目標走行経路設定部22bは、カメラユニット21の走行環境認識部21dにより認識された周辺環境情報に基づいて求められた自車両の走行車線の左右区画線に関する情報等に基づいて、認識された左右区画線のそれぞれの内側縁に沿う目標設定線を左右それぞれに仮想的に設定すると共に、この目標設定線の中央位置を、車線幅データ等に基づいて走行ルートとして設定する。
【0096】
そして、目標走行経路設定部22bは、目標設定線に挟まれる領域を自車両が走行する走行車線として認識する。こうして認識された走行車線の中央位置に引かれた目標走行経路は、自車線内に設定されており、車線維持走行支援制御を実行して自車両を走行させる際の目標とする仮想的な走行線となる。
【0097】
車輪通過位置推定部22cは、目標走行経路設定部22bによって設定された走行ルートに沿って車両を走行させたときに、自車両の前後左右の車輪が通過する位置を推定する車輪通過位置推定装置若しくは車輪通過位置推定回路である。この場合において、車輪通過位置の推定は、設定されている走行ルートと、自車両の車両幅データ若しくはトレッド幅データ等の自車両に関する各種の情報(車両情報)に基づいて行う。
【0098】
なお、自車両の車両幅データやトレッド幅データ等の車両情報は、当該車両制御システム1における所定の記憶領域(例えば走行制御ユニット22の内部記憶メモリ22d等)に予め記憶してあるものを参照する。
【0099】
内部記憶メモリ22dは、各種のデータ等を予め格納してある記憶領域である。この内部記憶メモリ22dには、例えば、後述する水跳ね閾値マップ、後述する急減速及び急操舵閾値マップ等のほか、車両の仕様情報データ等、各種のデータが記憶されている。
【0100】
また、走行制御ユニット22は、カメラユニット21の走行環境認識部21dや周辺監視ユニット20の周辺環境認識部20b(即ち周辺環境情報取得装置)からの出力情報のほか、地図ロケータ演算部12を通じて得られる各種情報に加えて、モード切換スイッチ33や各種センサ(34,35,36,37)等により取得される車両内部環境情報等に基づいて、各種所定の状況判定等を行い、それらの判定結果に基づいて、エンジン制御ユニット23,パワーステアリング制御ユニット24,ブレーキ制御ユニット25等を通じて自車両の走行制御を行う。
【0101】
なお、走行制御ユニット22は、地図ロケータ演算部12によって設定された走行ルート中に、自動運転制御が許可された自動運転区間が設定されている場合には、当該自動運転区間において自動運転制御を行うための走行ルートを設定する。そして、自動運転区間においては、エンジン制御ユニット23,パワーステアリング制御ユニット24,ブレーキ制御ユニット25等を適宜制御して、各種情報に基づき推定された自車位置から設定された走行ルートに沿って自車両を第2運転支援モードによって自動走行させる機能をも有する。
【0102】
その際、走行制御ユニット22は、走行環境認識部21dで認識した周辺環境情報に基づいて例えば先行車追従制御,車線維持走行支援制御等により、先行車が検出された場合は先行車に追従させ、先行車が検出されない場合は制限速度内のセット車速で自車両を走行させる。また、車線維持走行支援制御,車線逸脱抑制制御,車線変更制御等、適宜選択された操舵支援制御を実行し、さらに、場合によっては運転者異常時対応制御を実行する等の走行制御を行う。
【0103】
また、走行制御ユニット22は、上述したように、エンジン制御ユニット23と、パワーステアリング制御ユニット24と、ブレーキ制御ユニット25等の各制御ユニットとの間で、車内通信回線10を通じて互いに接続されている。これにより、走行制御ユニット22は、各制御ユニット(23,24,25)等を制御する。
【0104】
エンジン制御ユニット23の出力側には、スロットルアクチュエータ27が接続されている。このスロットルアクチュエータ27は、エンジンのスロットルボディに設けられている電子制御スロットルのスロットル弁を開閉動作させるものであり、エンジン制御ユニット23からの駆動信号によりスロットル弁を開閉動作させて吸入空気流量を調整することで、所望のエンジン出力を発生させる。
【0105】
パワーステアリング制御ユニット24の出力側には、電動パワーステアリングモータ(
図1においては電動パワステと略記している)28が接続されている。この電動パワーステアリングモータ28は、ステアリング機構に電動モータの回転力で操舵トルクを付与するものである。手動モード以外の運転モード(第1,第2運転支援モード,退避モード等)においては、パワーステアリング制御ユニット24からの駆動信号により電動パワーステアリングモータ28を制御動作させることで、ステアリングの操作(即ち、操舵)を支援する各種の操舵支援制御が実行される。また、操舵トルクセンサ35は、電動パワーステアリングモータ28の駆動量の変化、若しくはステアリング機構の駆動量等を検知することによって操舵トルク値を提示する。
【0106】
ブレーキ制御ユニット25の出力側には、ブレーキアクチュエータ29が接続されている。このブレーキアクチュエータ29は、各車輪に設けられているブレーキホイールシリンダに対して供給するブレーキ油圧を調整するもので、ブレーキ制御ユニット25からの駆動信号によりブレーキアクチュエータ29が駆動されると、ブレーキホイールシリンダにより各車輪に対してブレーキ力が発生し、車両を強制的に減速させる。本実施形態の車両制御システム1の概略構成は、以上である。
【0107】
なお、地図ロケータ演算部12,周辺環境認識部20b,走行環境認識部21d,走行制御ユニット22,エンジン制御ユニット23,パワーステアリング制御ユニット24,ブレーキ制御ユニット25等の全部又は一部は、ハードウエアを含むプロセッサにより構成されている。
【0108】
ここで、プロセッサは、例えば、中央処理装置(CPU;Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)や、不揮発性メモリ(Non-volatile memory)、不揮発性記憶装置(Non-volatile storage)等を備える周知の構成、及びその周辺機器等によって構成されている。
【0109】
ROMや不揮発性メモリ、不揮発性記憶装置等には、CPUが実行するソフトウエアプログラムやデータテーブル等の固定データ等が予め記憶されている。そして、CPUがROM等に格納されたソフトウエアプログラムを読み出してRAMに展開して実行し、また、当該ソフトウエアプログラムが各種データ等を適宜参照等することによって、上記各構成部や構成ユニット(12,20b,21d,22,23,24,25)等の各機能が実現される。
【0110】
なお、プロセッサは、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの半導体チップなどにより構成されていてもよい。また、上記各構成部や構成ユニット(12,20b,21d,22,23,24,25)等は電子回路によって構成してもよい。
【0111】
さらに、ソフトウエアプログラムは、コンピュータプログラム製品として、フレキシブルディスク、CD-ROM、DVD-ROM等の可搬型板媒体や、カード型メモリ、HDD(Hard Disk Drive)装置,SSD(Solid State Drive)装置等の非一過性の記憶媒体(non-transitory computer readable medium)等に、全体あるいは一部が記録されている形態としてもよい。
【0112】
このように構成される本実施形態の車両制御システム1において水溜まり等を考慮した走行制御の作用を、以下に説明する。
図2、
図3は、本実施形態の車両制御システムにおいて水溜まり等を考慮した走行制御の処理シーケンスを示すフローチャートである。ここで、
図2は当該フローチャートの前半部、
図3は同フローチャートの後半部である。
【0113】
運転者によって、本実施形態の車両制御システム1を搭載した車両が始動されると、車両制御システム1におけるカメラユニット21,周辺監視ユニット20,走行制御ユニット22等の各構成ユニットが作動を開始する。これにより、当該車両は、走行制御の開始を待機する状態になる。この状態においては、当該車両は、運転者による所定の操作入力を待機している。
【0114】
この状態においては、
図2のステップS11において、走行制御ユニット22は、周辺環境認識部20b,走行環境認識部21d等を通じて車両の前方環境及び周辺環境の認識処理を開始する。また、これと同時に、ロケータユニット11の道路情報受信機17は、外部機器との通信を開始して所定の情報を取得する。
【0115】
続いて、ステップS12において、走行制御ユニット22は、ロケータユニット11のGNSS受信機16を通じてGNSSからの各種情報の受信を開始する。これにより、走行制御ユニット22は、道路地図上における現在の自車位置を推定する。
【0116】
次に、ステップS13において、走行制御ユニット22は、ロケータユニット11のルート情報入力部19からの入力信号を確認し、運転者等によって目的地に関する情報の入力操作が行われたか否かの確認を行う。ここで、目的地入力が確認された場合は、次のステップS14の処理に進む。また、目的地入力が確認されない場合は、一連の処理を終了し、通常の走行制御モード、例えばルート設定を行わずに走行する通常走行制御モードへと移行する(リターン)。
【0117】
ステップS14において、走行制御ユニット22は、現在の自車位置と入力された目的地とを結ぶ走行ルートに関する道路情報(特に道路表面の凹凸情報等)と、現在の自車位置及び目的地を含む領域におけるリアルタイムの天候情報(特に降雨情報及び降水量情報等)を確認する。
【0118】
ステップS15において、走行制御ユニット22の目標走行経路設定部22bは、上述のステップS14の処理にて確認される各種情報に基づいて、現在の自車位置と入力された目的地とを結ぶルートとして、水溜まりが存在しない走行ルートの設定が可能か否かの確認を行う。ここで、水溜まりが存在しない走行ルートとは、例えば、降雨地域を走行せずに現在の自車位置から目的地に到着できる走行ルート等が考えられる。
【0119】
ここで、水溜まりが存在しない走行ルートの設定が可能である場合には、ステップS51の処理に進む。そして、ステップS51において、走行制御ユニット22の目標走行経路設定部22bは、水溜まりが存在しない水溜まり回避走行ルートを設定する。その後、ステップS52において、走行制御ユニット22は、設定された水溜まり回避ルートに沿う走行制御を開始し、上述のステップS11の処理に戻る。なお、ここで、ステップS11の処理に戻ることで、設定された水溜まり回避ルートに沿う走行制御の実行中に、走行環境の変化(例えば、天候急変等)が生じた場合には、変化した周辺環境の状況に応じて新たな走行ルートへの変更を行うことができる。このようなループ処理が行われる場合には、ステップS13の処理における判断情報は、既に入力されている目的地情報が参照される。また、ステップS13の処理以前に、新たな目的地情報が入力された場合には、新たな目的地情報を参照するようにすればよい。
【0120】
一方、ステップS15において、水溜まりが存在しない走行ルートの設定が可能ではないと判断されると、ステップS16の処理に進む。
【0121】
ステップS16において、走行制御ユニット22は、現在の自車位置から目的地を結ぶ適切な走行ルートを設定する。ここで設定される走行ルート上には、水溜まり等が存在している。したがって、この場合には、当該水溜まり等の上を通過する水溜まり通過走行ルートが設定される。
【0122】
なお、運転者は、上述のステップS11の処理以前の始動操作の後、ステップS13の処理前の目的地入力操作を行った後は、運転操作のための所定の操作を行って、当該車両の走行を開始させる。これにより、当該車両は、設定された走行ルートに沿う走行制御を開始する。
【0123】
こうして、当該車両がステップS16の処理にて設定された走行ルートに沿う走行制御を開始すると、ステップS17において、走行制御ユニット22は、カメラユニット21等の周辺環境情報取得装置からの取得情報に基づいて、自車両の進行方向(前方)に水溜まり等が認識されたか否かの確認を行う。ここで、水溜まり等が確認された場合には、ステップS18の処理に進む。
【0124】
なお、上述のステップS15の処理にてステップS16の処理に分岐した後の処理シーケンスは、水溜まり等を考慮した走行ルートの設定を行う制御であって、設定される走行ルート上には水溜まり等が存在していることが前提となっている。したがって、当該ステップS17の処理では、車両の走行中に水溜まり等が必ず認識されることを前提としており、処理を簡略的に示すために、水溜まり等が認識されるまでループ処理を行うようにしている。
【0125】
ステップS18において、走行制御ユニット22は、上述のステップS17の処理にて認識された水溜まり等についての水溜まり情報を算出する。なお、水溜まり情報には、水溜まりの位置(自車から水溜まり等までの距離や相対的な位置関係等も含む)、形状、大きさ(表面積)、深さ、水量等の情報が含まれる。
【0126】
ステップS19において、走行制御ユニット22は、車輪速センサ等からの取得情報に基づいて現在の車両速度を検出する。また、ここで、自車両の車両重量等の車両情報を所定の内部記憶メモリ22d等から読み出して取得する。
【0127】
続いて、ステップS20において、走行制御ユニット22は、上述のステップS18の処理にて取得した水溜まり情報と、上述のステップS19の処理にて取得した車両情報とに基づいて、水跳ね情報を算出する。その後、
図3のステップS21の処理に進む(
図2,
図3の丸符号(11)]参照)。
【0128】
図3のステップS21において、走行制御ユニット22は、上述のステップS16の処理にて認識された水溜まり等に自車両が到達する予想到達時間を算出する。この予想到達時間は、自車位置と認識された水溜まり等までの距離(ステップS17で取得)と、現在の車両速度(ステップS18で取得)から演算できる。
【0129】
続いて、ステップS22において、走行制御ユニット22は、カメラユニット21、周辺監視ユニット20等の周辺環境情報取得装置からの取得情報に基づいて、自車両の周囲に、歩行者や他車両(併走車両、対向車両等)等が存在するか否かの確認を行う。ここで、自車両の周囲に、歩行者や他車両(併走車両、対向車両等)等が存在しない場合には、ステップS28の処理に進む。そして、ステップS28において、走行制御ユニット22は、現在の車両速度を維持しながら、そのまま直進する走行ルートを設定し、設定された走行ルートに沿う走行制御を続行する。このときの車両の走行ルートは、例えば
図4に示すようなものとなる。その後、
図2のステップS16の処理に戻る(
図3、
図2の丸符号(10)参照)。
【0130】
図4は、本実施形態の車両制御システムを搭載した車両によって水溜まり等を認識した場合における周囲状況を考慮した走行ルートの一例を示す概念図である。この
図4においては、例えば、自車両Mが片側一車線(往復二車線)の道路を走行している状況を示している。
【0131】
なお、本実施形態の以下の説明においては、自車両の通行区分が左側である左側通行を基本とする道路システムの場合を例示している。したがって、右側通行を基本とする道路システムに、本発明の構成を適用するには、左右を入れ替えて考慮するのみで容易に応用することができる。
【0132】
図4において、符号M,M1,M2は自車両を示している。このうち、符号Mは、水溜まり等を前方に認識した時点の自車位置にある自車両を示している。符号M1は、水溜まり等の上を車両が通過している時点の自車位置にある自車両を示している。符号M2は、水溜まり等の上を車両が通過した後の自車位置にある自車両を示している。
【0133】
また、
図4において、符号201は自車両Mが走行中の車線(自車線)を示している。この自車線201の中央位置に引かれた二点鎖線(符号TC)は、車両制御システム1によって設定済みの走行ルートを示している。符号204は自車線201の右側領域において自車線201に沿って平行に存在する対向車線を示している。符号205は、自車線201に沿って平行に存在する歩道を示している。符号202は、自車線201と歩道205との境界となる縁石を示している。そして、自車線201内において自車両Mの進行方向前方には、水溜まり等210が形成されている状況を示している。この場合において、符号210aは水跳ね等を示している。
【0134】
図4に示す状況は、走行中の自車両Mの周囲に歩行者や他車両等が存在していない場合の状況を示している(ステップS22の処理における[N]への分岐参照)。
【0135】
図4に示す状況にある場合には、上述したように、自車両Mは、認識されている水溜まり等210の上を通過する走行ルートが設定され、当該設定された走行ルートに沿って走行する。したがって、自車両Mが水溜まり等210の上を通過することによって水跳ね等210aが発生することになる。
【0136】
しかしながら、このとき、上述のステップS22の処理にて、水跳ね等210aの影響を受け得る歩行者や他車両等が自車両Mの周辺に存在していない状況であることが確認されている。したがって、自車両Mが水溜まり等210の上を通過して、自車両M1から水跳ね等210aが発生したとしても問題は生じない。
【0137】
なお、この場合には、上述したように、自車両M1が水溜まり等210の上を通過することによって水跳ね等210aが発生している。このとき、自車両M1の周囲に歩行者や他車両等が存在していないので、水溜まり等210からの水跳ね等210aが、自車両Mの周囲に悪影響を及ぼす問題は生じない。しかしながら、当該水跳ね等210aは、例えば自車両Mを汚してしまう等の可能性がある。
【0138】
そのために、自車両M1が水溜まり等210の上を通過する場合には、周辺に歩行者や他車両等が存在していなくても減速制御を行って、水跳ね等210aを低減させるようにしてもよい。この場合の減速制御は、例えば、
図3のステップS22の処理からステップS28の処理へ移行するタイミングで行うようにすればよい。このときの減速制御は、具体的には、例えば現在の車両速度に対して1割から2割程度減速させる等の減速度を若干抑えた減速制御を行う(不図示)。
【0139】
一方、ステップS22において、自車両の周囲に、歩行者や他車両(併走車両、対向車両等)等が存在することが確認された場合には、ステップS23の処理に進む。
【0140】
ステップS23において、走行制御ユニット22は、予め設定されている水跳ね閾値マップを参照して水撥ね閾値を確認する。
【0141】
ここで、水撥ね閾値とは、車両が水溜まり等の上を通過した場合に発生する水撥ね情報のうち、水跳ね量、水跳ね高さ等が、歩行者や他車両等に悪影響を及ぼさないと考えられる許容上限値といったものである。
【0142】
例えば、所定の形態の水溜まり等210に対する水跳ね情報のうち水跳ね量、水跳ね高さ等は、当該水溜まり等の上を通過する際の車両速度を減じることによって低減することができる。
【0143】
この場合において、歩行者に対する水跳ね等の影響の許容上限値(水跳ね閾値)と、他車両等に対する水跳ね等の影響の許容上限値(水跳ね閾値)とは異なる。また、水溜まり等の上を通過する際の車両速度が高くなるほど水跳ね等の度合いが大きくなる傾向があることがわかっている。したがって、これらのことを鑑みると、水跳ね等を考慮する対象が歩行者であるか他車両等であるかによって水跳ね閾値は異なるものになる。また、水溜まり等を通過する際の車両速度が高い状況である程、水跳ね閾値をより低く設定する必要がある。
【0144】
これらのことを鑑みて、本実施形態の車両制御システム1においては、水跳ね情報(
図2のステップS20で算出された情報)と、周辺環境(
図3のステップS22で認識された歩行者や他車両等の水跳ね等を考慮する対象の情報)と、車両情報(
図2のステップS19で検出された車両速度等)等に対応する水跳ね閾値を関連付けて示したデータベースである水跳ね閾値マップを有している。この水跳ね閾値マップは、例えば、走行制御ユニット22の内部記憶メモリ22d等に予め記憶されているものである。
【0145】
なお、本実施形態の車両制御システム1における水跳ね閾値マップには、例えば、歩行者に対する水跳ね閾値として、車両の中低速走行時(例えば時速40~60km程度)に70%程度とし、車両の高速走行時(例えば時速100km程度)に40%程度とする設定等を規定している。また、例えば、他車両に対する水跳ね閾値として、車両の中低速走行時(例えば時速40~60km程度)には80%とし、車両の高速走行時(例えば時速100km程度)には50%とする設定等を規定している。
【0146】
この場合において、水跳ね閾値=70%とは、前方に認識された水溜まり等210の水溜まり情報と現在の車両情報とによって算出される水跳ね情報のうち少なくとも水跳ね量、水跳ね高さ等について、70%を許容上限値とすることを意味している。
【0147】
したがって、この場合には、水跳ね量、水跳ね高さ等が、現在の水跳ね情報の算出値に対して70%以下となるような減速制御を行うことで、歩行者や他車両等の対象への水跳ね等による悪影響を低減させることができる。
【0148】
このように、上述のステップS23の処理における水跳ね閾値は、自車両Mの周辺環境(歩行者や他車両等の存在の有無)と、自車両Mの現在の車両速度等に応じて、適宜設定される。
【0149】
図3のフローチャートに戻って、ステップS23において水跳ね閾値の確認がなされると、次のステップS24の処理に進む。
【0150】
ステップS24において、走行制御ユニット22は、上述の
図2のステップS20の処理にて算出された現在の水撥ね情報は、上述のステップS23の処理にて確認された水跳ね閾値未満であるか否かを確認する。ここで、現在の水撥ね情報が水跳ね閾値未満であることが確認された場合には、ステップS28の処理に進む。
【0151】
そして、ステップS28において、走行制御ユニット22は、現在の車両速度を維持しながら、そのまま直進する走行ルートを設定し、設定された走行ルートに沿う走行制御を続行する(
図4参照)。その後、
図2のステップS16の処理に戻る(
図3、
図2の丸符号(10)参照)。
【0152】
なお、この場合にも、上述のステップS22からステップS28の処理へと移行する際と同様に、同様の理由により、減速度を若干抑えた減速制御を行うようにしてもよい。
【0153】
一方、ステップS24において、現在の水撥ね情報が水跳ね閾値未満ではない(閾値以上である)ことが確認された場合には、ステップS25の処理に進む。
【0154】
ステップS25において、走行制御ユニット22は、水溜まり等210の上を車両が通過する際に、現在の水撥ね情報が所定の水跳ね閾値未満となる目標車両速度を、水跳ね閾値マップを参照して算出する。
【0155】
続いて、ステップS26において、走行制御ユニット22は、水溜まり等210までの予想到達時間(ステップS21にて算出)以内に、現在の車両速度(
図2のステップS19にて検出)から目標車両速度(ステップS25にて算出)までの減速が可能か否かの確認を行う。
【0156】
車両Mが水溜まり等210に到達するまでの予想到達時間以内に、現在の車両速度から目標車両速度まで減速が可能かの判断は、予め設定された急減速及び急操舵閾値マップを参照して判定する。ここで、急減速及び急操舵閾値マップは、水溜まり情報及び水跳ね情報と車両情報等に応じて、急減速及び急操舵を生じさせずに水溜まり等を回避若しくは水溜まり等の通過時の水跳ねを低減できる減速及び操舵の制御閾値を示すデータベースである。この急減速及び急操舵閾値マップは、例えば、走行制御ユニット22の内部記憶メモリ22d等に予め記憶されているものである。
【0157】
即ち、上述のステップS26の処理においては、車両Mが水溜まり等210に到達するまでの予想到達時間以内に、急減速を伴わずに、現在の車両速度から目標車両速度まで、スムーズにかつ安全に減速できるか否かを判定する。
【0158】
上述のステップS26の処理にて、急減速を伴わずにスムーズかつ安全な減速が可能であると判定された場合は、ステップS27の処理に進む。
【0159】
そして、ステップS27において、走行制御ユニット22は、所定の減速制御を行いつつ、そのまま直進する走行ルートを設定し、設定された走行ルートに沿う走行制御を続行する(
図4参照)。その後、
図2のステップS16の処理に戻る(
図3、
図2の丸符号(10)参照)。
【0160】
また、ステップS26の処理において、急減速を伴わずにスムーズかつ安全な減速が不可能であると判定された場合は、ステップS29の処理に進む。
【0161】
そして、ステップS29において、走行制御ユニット22は、水溜まり等210までの予想到達時間以内に急減速とならない所定の減速制御と、急操舵とならない所定の操舵制御を行うことで、所定の水跳ね閾値未満とする水跳ね等の低減が可能か否かの確認を行う。ここで、所定の水跳ね閾値未満とする水跳ね等の低減が可能であることが確認された場合には、ステップS30の処理に進む。
【0162】
そして、ステップS30において、走行制御ユニット22は、急減速とならない所定の減速制御に加えて、急操舵とならない所定の操舵制御を行って、水跳ね等の低減が可能な走行ルートを設定し、設定された走行ルートに沿う走行制御を続行する。このときの車両の走行ルートは、例えば
図5,
図6に示すようなものとなる。その後、
図2のステップS16の処理に戻る(
図3、
図2の丸符号(10)参照)。
【0163】
図5は、本実施形態の車両制御システムを搭載した車両によって水溜まり等を認識した場合において、歩行者を認識した場合の水跳ね低減走行ルートの一例を示す概念図である。
図6は、本実施形態の車両制御システムを搭載した車両によって水溜まり等を認識した場合において、他車両(対向車両等)を認識した場合の水跳ね低減走行ルートの一例を示す概念図である。なお、
図5,
図6においても、
図4と同様に、自車両Mが片側一車線(往復二車線)の道路を走行している状況を示している。また、
図5,
図6においては、
図4と同じ構成又は同じ対象物を示す場合は同じ符号を付して示している。
【0164】
まず、
図5に示す状況は、走行中の自車両Mの周囲において、歩道205上に歩行者Hが存在している状況を示している。なお、
図5においては、対向車線204の対向車両M3を点線で示している。
【0165】
図5に示す状況では、自車両Mは、認識されている水溜まり等210に対して対向車線204側に寄せる方向へと操舵制御を行って、新走行ルートを設定することを示している。
【0166】
まず、自車両Mの近傍に歩行者Hのみが存在する場合には、自車両Mの車両制御システム1は、水溜まり等210の上を通過しながら水跳ね等210aを低減しつつ、自車両Mの近傍の歩行者Hからできるだけ離れた位置を通る走行ルートを新たに設定する。なお、この状況においては、対向車両M3の存在については考慮しないものとする。この状況において対向車両M3が存在する場合の状況は後述する。
【0167】
この状況において新たな走行ルートを設定するには、まず、車両制御システム1は、自車両Mが走行中の自車線201の右側区画線206(
図5の例では道路のセンターラインでもある)から自車線201側に向けて車幅Wの2分の1の距離(W/2)以上離れた水溜まり等210の横位置(自車両Mの幅方向の位置)に目標点Taを設定する。なお、目標点Taは、自車線201の車線幅から自車両Mの車幅の2分の1の距離を減じた位置に設定するようにしてもよい。
【0168】
次いで、この目標点Taと自車両Mの中心位置(現在の走行ルートTC)との間(横方向距離W4)の横方向の中央位置となる目標中間点Tb1を設定する。そして、自車両Mの現在の走行ルートTCから目標中間点Tb1を経て目標点Taを通る新たな走行ルートTC1、TC2を設定する。さらに、水溜まり等210の横位置より進行方向前方に、新たな走行ルートTC2から元の走行ルートTCへと戻る新たな走行ルートTC3を設定する。この新走行ルートTC3は、目標中間点Tb1から自車両Mの進行方向に延長した線上に設定され、目標中間点Tb1と等価な位置に設定される目標中間点Tb2を通る走行ルートである。
【0169】
このようにして、自車両Mの近傍に歩行者Hのみを認識している場合は、
図3のステップS30の処理にて、
図5に示すような新たな走行ルート(TC1,TC2,TC3)を設定し、この新走行ルートに沿う走行制御を行う。これにより、歩行者Hに対する水跳ね等210aを低減することができる。
【0170】
なお、この場合において、対向車線204に対向車両M3が存在せず、かつ当該道路の交通規制がセンターライン(
図5では右側区画線206)をはみ出して走行することを許容する規制区域であることが確認されている場合には、センターラインを超えて対向車線204側にはみ出して走行する新走行ルートを設定してもよい。
【0171】
このような新走行ルートを設定する場合には、自車両Mは、符号M1で示す位置では、歩行者Hよりもさらに、離れた位置を走行することになる。したがって、この場合、歩行者Hに対する水跳ね等210aの低減効果を、さらに向上させることができる。
【0172】
また、上述のように自車両Mの近傍に歩行者Hを認識している状況に加えて、同時に、
図5において点線で示されるような対向車両M3が認識された場合にも、
図5に示す同様の新走行ルートを設定することができる。
【0173】
ただし、自車両Mの近傍に歩行者Hと対向車両M3とが同時に認識された場合に、
図5に示す新走行ルートを設定するためには、まず、自車両Mと対向車両M3との位置関係を確認しておく必要がある。
【0174】
例えば、対向車両M3が対向車線204内において極端に自車線201寄りの位置を走行している可能性がある。このような状況の場合に、自車両Mが右側区画線206(センターライン)寄りの新走行ルート(TC2)を走行すると、自車両Mは、
図5の符号M1で示す位置で、対向車線204を走行中の対向車両M3と接触する可能性が考えられる。したがって、自車両Mの近傍に歩行者Hと対向車両M3とを同時に認識した場合に、
図5の新走行ルートを設定する場合には、自車両Mと対向車両M3とが衝突することを避けるために、自車両Mと対向車両M3との距離が充分離れていることを確認しておく必要がある。
【0175】
そのためには、例えば、目標点Taを、自車両Mと対向車両M3との横方向の距離から自車両Mの車幅分を減じた距離の位置に設定することで、自車両Mと対向車両M3との相対的な横位置を確保することができると考えられる。
【0176】
なお、対向車両M3を認識している場合において、自車両Mと対向車両M3との距離を充分にとれない場合には、次の
図6に示すような新走行ルートの設定を行う。
【0177】
図6に示す状況は、走行中の自車両Mの周囲において、対向車線204上に対向車両M3が存在している状況を示している。そして、このとき対向車両M3は、対向車線204上において自車線201寄り(センターライン寄り)の位置を走行している状況を示している。なお、
図6においては、歩道205上の歩行者Hを点線で示している。
【0178】
図6に示す状況では、自車両Mは、認識されている水溜まり等210に対して歩道205側に寄せる方向へと操舵制御を行って、新走行ルートを設定することを示している。
【0179】
まず、自車両Mの近傍に対向車両M3のみが存在し、かつ当該対向車両M3と自車両Mとの横位置の距離が近い場合には、自車両Mの車両制御システム1は、水溜まり等210の上を通過しながら水跳ね等210aを低減しつつ、対向車両M3からできるだけ離れた位置を通る走行ルートを新たに設定する。なお、この状況においては、歩行者Hの存在については考慮しないものとする。この状況において歩行者Hが存在する場合の状況は後述する。
【0180】
この状況において新たな走行ルートを設定するには、まず、車両制御システム1は、自車両Mが走行中の自車線201の左端(
図6の例では縁石202の縁部)から自車線201側に向けて少なくとも車幅Wの2分の1の距離(W/2)以上離れた水溜まり等210の横位置(自車両Mの幅方向の位置)に目標点Ta1を設定する。なお、目標点Taは、縁石202が存在しない場合は、自車両Mと歩行者Hとの横方向の距離から自車両Mの車幅分を減じた距離の位置に設定するようにしてもよい。また、縁石202が存在する場合の目標点Taは、自車両Mと自車線201の左端(縁石202の縁部)との横方向の距離から自車両Mの車幅分を減じた距離の位置に設定するようにしてもよい。
【0181】
次いで、この目標点Ta1と自車両Mの中心位置(現在の走行ルートTC)との間の横方向の中央位置となる目標中間点Tb3を設定する。そして、自車両Mの現在の走行ルートTCから目標中間点Tb3を経て目標点Ta1を通る新たな走行ルートTC4、TC5を設定する。さらに、水溜まり等210の横位置より進行方向前方に、新たな走行ルートTC5から元の走行ルートTCへと戻る新たな走行ルートTC6を設定する。この新走行ルートTC6は、目標中間点Tb3から自車両Mの進行方向に延長した線上に設定され、目標中間点Tb3と等価な位置に設定される目標中間点Tb4を通る走行ルートである。
【0182】
このようにして、自車両Mに近い位置を走行する対向車両M3のみを認識している場合は、
図3のステップS30の処理にて、
図6に示すような新たな走行ルート(TC4,TC5,TC6)を設定し、この新走行ルートに沿う走行制御を行う。これにより、対向車両M3に対する水跳ね等210aを低減することができる。
【0183】
また、上述のように自車両Mに近い位置の対向車両M3を認識している状況に加えて、同時に、
図6において点線で示されるような歩行者Hを自車両Mの近傍に認識している場合にも、
図6に示す同様の新走行ルートを設定することができる。
【0184】
ただし、自車両Mの近傍に歩行者Hと対向車両M3とを同時に認識している場合に、
図6に示す新走行ルートを設定するためには、まず、自車両Mと歩行者Hとの位置関係を確認しておく必要がある。
【0185】
例えば、歩行者Hが歩道205内において自車線201寄りの位置を歩行している可能性がある。また、歩道205と自車線201との境界となる縁石202が設置されていない場合もある。一般に、縁石202が設置されていない道路では、歩道205の幅が狭くなる傾向にある。したがって、この場合には、走行中の車両Mと歩行者Hとの横方向の距離を充分に広くとることができない傾向がある。
【0186】
このような状況の場合に、自車両Mが歩道205寄りの新走行ルート(TC5)を走行すると、自車両Mは、
図6の符号M1で示す位置で水溜まり等210の上を通過するときに、歩行者Hに対して水跳ね等210aの悪影響を及ぼしてしまう可能性が考えられる。
【0187】
したがって、自車両Mの近傍に歩行者Hと対向車両M3とを同時に認識した場合に、
図6の新走行ルートを設定する場合には、自車両Mと歩行者Hとの距離が充分離れていることを確認しておく必要がある。
【0188】
そのためには、例えば、目標点Taを、自車両Mと歩行者H(若しくは縁石202)との横方向の距離から自車両Mの車幅分を減じた距離の位置に設定することで、自車両Mと対向車両M3との相対的な横位置を確保することができると考えられる。
【0189】
そして、自車両Mと歩行者Hとの距離を充分にとれない場合には、上述の
図5に示すような新走行ルートの設定を行うことも考えられる。ただし、その場合には、自車両Mと対向車両M3との位置関係もまた確認する必要が生じるのは、上述の場合と同様である。
【0190】
一方、
図3に戻って、上述のステップS29において、水溜まり等210までの予想到達時間以内に急減速とならない所定の減速制御に加えて、急操舵とならない所定の操舵制御を行って所定の水跳ね閾値未満とする水跳ね等の低減が不可能である場合には、ステップS31の処理に進む。
【0191】
ステップS31において、走行制御ユニット22は、水溜まり等210の上を通過する際に自車両Mの車輪が通過する位置を車輪通過位置推定部22cによって推定し、水跳ね閾値を超えていながらも、水溜まり等210からの水跳ね等を最も低減できる走行ルートを設定し、設定された走行ルートに沿う走行制御を続行する。その後、
図2のステップS16の処理に戻る(
図3、
図2の丸符号(10)参照)。
【0192】
ここで、水溜まり等210からの水跳ね等を最も低減できる走行ルートとは、水跳ね閾値未満とする水跳ね等の低減ができずに水跳ね閾値を超えながらも、できる限り水跳ね閾値に近い水跳ね情報を確保できる走行ルートを意味する。
【0193】
例えば、認識された水溜まり等210の形状、大きさ(表面積)によっては、操舵制御を行って、自車両Mの左右の車輪のうち片側車輪のみが水溜まり等210の上を通過するような新走行ルートを設定することが考えられる。
【0194】
例えば、水溜まり等210の横方向の幅が、自車両Mの車幅Wに対して狭い場合には、自車両Mの左右の車輪のうちの片輪のみを水溜まり等210の上を通過させると、水跳ね等210aの水跳ね量を低減することができる。
【0195】
さらに、この場合において、認識されている歩行者Hの位置とは横方向において反対側に向けた水跳ね方向となるように、水溜まり等210の上を通過する車輪を設定すれば、歩行者Hへの水跳ね等210aによる悪影響を抑止することができる。
【0196】
具体的には、例えば、
図6に示すように、自車両Mの左側の歩道205上に歩行者Hが存在する場合において、水溜まり等210が自車線201の中央寄りに存在したとすると、自車両Mの右車輪のみを水溜まり等210の上を通過させる新走行ルートを設定できる。この場合には、自車両Mの左車輪からの水跳ね等を抑止でき、かつ右車輪からの水跳ね等210aは、歩行者Hの存在しない右側方向へ飛散するので、歩行者Hへの水跳ね等の影響を低減できる。
【0197】
また、水溜まり等210の横方向の幅が、自車両Mの車幅若しくは自車両Mのトレッド幅よりも充分に狭い場合には、当該水溜まり等210を跨ぐように自車両Mを走行させる新走行ルートを設定する。これによって、自車両Mの左右車輪が水溜まり等210の上を通過しないようにすることができ、よって、水跳ね等の発生を抑止することができる。
【0198】
一方、水溜まり等210の形状、大きさ(表面積)によっては、減速及び操舵制御を行ったとしても、自車両Mの左右両輪が同時に水溜まり等210の上を通過せざるを得ず、かつ水跳ね閾値未満とすることができない状況がある(
図3のステップS29からステップS31へと分岐する場合)。この場合には、自車両Mの周囲状況を確認し、安全が確保される場合(後続車両が存在しない場合等)には、たとえ急制動となっても、水溜まり等に到達する手前の位置で車両を完全に停止させるようにしてもよい。これにより、歩行者Hへの水跳ね等を発生させないようにすることができる。そして、歩行者等や他車両等が自車両近傍を通過したことを確認してから、車両の走行を再開させるといった走行制御も考えられる。
【0199】
以上説明したように上記一実施形態によれば、現在の自車位置と目的地とを結ぶ走行ルートを設定するのに際し、外部機器等から取得した車両の周辺環境情報(道路地図情報、天候情報等)等に基づいて、水溜まり等を回避する走行ルートを予め設定することができる。
【0200】
また、車両制御システム1を搭載した車両が道路上を走行中に、撮像装置(カメラ等)の各種センシングデバイスを用いて車両の周辺環境(歩行者、他車両、水溜まり等)を認識して取得される車両の周辺環境情報と、外部機器等から取得した情報(自車位置情報、天候情報を含む道路地図情報等)と、車両自身の仕様情報(車両重量、車幅等)及び車両の状況情報(車両速度等)等に基づいて、水溜まり等を回避する走行ルート、若しくは水溜まり等からの水撥ね等を低減することのできる走行ルートを設定することができる。
【0201】
また、水溜まり情報と、周辺環境情報と、車両情報等、走行中の車両及び周辺環境に関する各種の情報を複合的に考慮することにより、車両が水溜まり等の上を通過する場合に発生する水撥ね等を低減し、歩行者や他車両等に対する悪影響が及ぶことを抑止することのできる走行ルートを設定しつつ、よりスムーズかつ安全な走行制御を行うことができる。
【0202】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用を実施することができることは勿論である。さらに、上記実施形態には、種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせによって、種々の発明が抽出され得る。例えば、上記一実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題が解決でき、発明の効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。この発明は、添付のクレームによって限定される以外にはそれの特定の実施態様によって制約されない。
【符号の説明】
【0203】
1…車両制御システム
10…車内通信回線
11…ロケータユニット
12…地図ロケータ演算部
12a…自車位置推定部
12b…地図情報取得部
13…加速度センサ
14…車輪速センサ
15…ジャイロセンサ
16…GNSS受信機
17…道路情報受信機
18…高精度道路地図データベース
19…ルート情報入力部
20…周辺監視ユニット
20a…周辺環境認識センサ
20b…周辺環境認識部
21…カメラユニット
21a…メインカメラ
21b…サブカメラ
21d…走行環境認識部
22…走行制御ユニット
22a…操舵支援制御部
22b…目標走行経路設定部
22c…車輪通過位置推定部
22d…内部記憶メモリ
23…エンジン制御ユニット
24…パワーステアリング制御ユニット
25…ブレーキ制御ユニット
27…スロットルアクチュエータ
28…電動パワーステアリングモータ
29…ブレーキアクチュエータ
33…モード切換スイッチ
34…ハンドルタッチセンサ
35…操舵トルクセンサ
36…ブレーキセンサ
37…アクセルセンサ
38…報知装置
201…自車線
202…縁石
204…対向車線
205…歩道
206…右側区画線(センターライン)
210…水溜まり等
210a…水跳ね等