(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】多層配線基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20250409BHJP
H01L 23/12 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
H05K3/46 T
H05K3/46 Q
H05K3/46 X
H01L23/12 F
H01L23/12 Q
(21)【出願番号】P 2021055852
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2023-10-30
(73)【特許権者】
【識別番号】593215380
【氏名又は名称】株式会社伸光製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】東馬 由和
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 翔太
【審査官】沼生 泰伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-246143(JP,A)
【文献】特開2008-010689(JP,A)
【文献】特開2013-045823(JP,A)
【文献】特開2011-044552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H01L 23/12-23/15
H05K 3/00
H05K 1/11
H05K 3/40- 3/42
H05K 1/00- 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性率αの絶縁層をキャビティの底部とし、前記弾性率αより大きな弾性率βを有する絶縁層をキャビティの側壁部とするキャビティを備えた多層配線基板であって、
前記キャビティの底部に備わる配線が、前記キャビティの底部を構成する絶縁層の表面より突出していることを特徴とする多層配線基板。
【請求項2】
前記弾性率βと前記弾性率αの弾性率差が、2.3GPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の多層配線基板。
【請求項3】
前記キャビティの底部と前記キャビティの側壁部が、ブラスト加工面であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はキャビティを備えた多層配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品を実装するキャビティを備えた多層配線基板は、一方の面側からキャビティ部分をNC加工機で座ぐり加工することにより、半導体素子等を実装するためのキャビティを形成する。
座ぐり加工する場合には、加工具の先端の深さを高精度に制御して、キャビティ底部に形成された配線の厚さを最大限に残すようにしなければならない。しかし、この加工深さは、NC加工機の精度や生産における連続加工による累積誤差、層配線基板の厚さのばらつき等によりキャビティ底部に形成された配線の厚さを一定厚さに保つことが困難であった。
【0003】
そこで、例えば特許文献1では、多層配線基板の内層に形成したパターンと加工具とが接触することで電気的に加工深さを検知する技術が開示されている。
この特許文献1に開示された技術を含めて従来の加工では、キャビティ形成後にキャビティ底部の配線表面と絶縁層表面が同じ高さに形成される。
【0004】
ところで、多層配線基板の表面に形成された配線は、表面の絶縁層より高く突出した配線であり、この多層配線基板の表面の配線に半導体素子を搭載する場合とキャビティの底部の配線に半導体素子を搭載する場合では、接合する条件が異なる問題を抱えている。
例えば、多層配線基板の表面の配線は、はんだが配線の表面と側面を覆う接合となるが、キャビティ底部の配線は、はんだが配線の表面のみで接合するため接合強度が下がることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況に鑑み、多層配線基板のキャビティの底部に形成されている配線が、その底部の絶縁層より高く突出した特徴を有する多層配線基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、弾性率αの絶縁層をキャビティの底部とし、前記弾性率αより大きな弾性率βを有する絶縁層をキャビティの側壁部とするキャビティを備えた多層配線基板であって、前記キャビティの底部に備わる配線が、前記キャビティの底部を構成する絶縁層の表面より突出していることを特徴とする多層配線基板である。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様における前記弾性率βと前記弾性率αの弾性率差が、2.3GPa以上であることを特徴とする多層配線基板である。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1及び第2の態様における前記キャビティの底部と前記キャビティの側壁部が、ブラスト加工面であることを特徴とする多層配線基板である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、キャビティの底部に形成されている配線が、そのキャビティの底部の絶縁層の表面より突出した多層配線基板を得ることができ、配線と、その配線に接合する搭載素子との信頼性を高める工業的に顕著な効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の多層配線基板のキャビティ部分を概略的に示した断面図である。
【
図2】従来の多層配線基板のキャビティ部分を概略的に示した断面図である。
【
図3】本発明の多層配線基板を製造するフローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の態様及び従来における実施の態様を
図1、
図2を用いて説明する。
図1は本発明に係る実施の態様を示す図で、
図2は従来における実施の態様を示す図である。
図1、2において、AおよびBは多層配線基板(3層配線基板)である。
なお、3層配線基板を用いて説明しているが、3層を超える多層配線基板においても、同様のキャビティを備える。
【0013】
まず、従来の「キャビティ」を備えた多層配線基板について
図2を用いて説明する。
従来の多層配線基板Bは、弾性率が同じ絶縁層である基板を積層したもので、その積層する個々の基板にNC加工機を用いて貫通穴加工や必要な加工を施し、必要な層数の基板を積層して多層配線基板とした後、キャビティが必要な位置にNC加工機を用いて座ぐり加工を行うことでキャビティが形成される。
【0014】
図2に示すように、座ぐり加工によって側壁部210と底部110と必要に応じて配線300を備えたキャビティ100が形成される。キャビティ100の底部110の表面は、側壁部210を構成する絶縁層420である絶縁層430と、絶縁層410の基板に形成された配線300が同じ高さを有する。
そして、前述した通りNC加工機の精度や生産時の連続加工による累積誤差、多層配線基板の厚さのばらつき等により、キャビティの底部110に形成された配線300の高さを一定に保つことが難しい。
【0015】
このような従来のキャビティを備える多層配線基板及び、その製造方法に対し、本発明者らは、本発明に係る発想を、基板の種類によってブラスト加工の処理時間が異なることから、絶縁層の弾性率とブラスト加工による加工深さの関係に、課題解決の鍵を見出し、鋭意研究、調査することで、本発明に至ったものである。
【0016】
そこで、本発明者らは、試験材として、弾性率の異なる5種類の絶縁層を準備した(本願では、メーカーカタログの「曲げ弾性率」を「弾性率」と記載)。
次に、それら5種類の試験材の片面に同じ大きさの開口部を有するレジストマスクを形成し、同じ条件でブラスト加工を施して加工深さを測定した。
なお、ブラスト加工は、1種類の条件(砥粒・吐出量・送り速度、等)を用いて、同じ部分を1回加工から4回加工まで行い、その加工深さをマイクロスコープ(ハイロックス社製:RH-2000)で測定した。
その結果を表1に示す。
【0017】
【0018】
表1より、同じブラスト加工を施しても弾性率の違いにより加工深さが異なることが分かる。
また、絶縁層1に絶縁層2を積層した多層配線基板でも絶縁層1はブラスト加工よって研磨される速度が遅いことから、弾性率に2.3GPa以上の差があれば、低弾性率の絶縁層を底部とするキャビティがブラスト加工によって作製できることになる。
更に、弾性率が5GPa以下の絶縁層1と絶縁層2は、1回あたりの平均深さが10μm以下の結果であることから、5GPa以下の絶縁層をキャビティ底部とし、それより高弾性率の絶縁層である基板を積層して高弾性率の絶縁層を側壁部としたキャビティを製造すると、安定した深さのキャビティを備えた多層配線基板が得られると考えられる。
【0019】
次に、上記のような知見を基に、多層配線基板への適用を行った。
本発明の実施形態を
図1に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の多層配線基板の一実施形態に係る3層配線基板Aを用いて説明する。
弾性率αの絶縁層10(以降、「低弾性率αの絶縁層10」とも称す)と、その弾性率αより大きな弾性率βの絶縁層20(以降、「高弾性率βの絶縁層20」とも称す)を有し、
図1に示すようにキャビティ1の底部11は、低弾性率αの絶縁層10で形成され、キャビティ1の側壁部21は、高弾性率βの絶縁層20で形成されている。
【0020】
このキャビティの底部を構成している低弾性率αの絶縁層10の基板は、その下に弾性率を問わない絶縁層の基板が積層された構成でもよい。また、キャビティ側壁部21を構成する高弾性率βの絶縁層20は、複数の基板が積層された絶縁層でもよい。
【0021】
次に、本発明の多層配線基板の製造フローを、3層配線基板を例にして
図3に示す。
図3(1)は、キャビティの底部となる低弾性率αの絶縁層10に、必要な配線30等を形成した基板aを示すものである。
次に、
図3(2)に示すように、この基板a上に高弾性率βの絶縁層20と銅箔を積層し、必要な配線30等を形成する。
そして、
図3(3)に示すように、形成した配線30等と高弾性率βの絶縁層20の表面にブラスト用レジストマスク40を形成する。
その後、
図3(4)に示すように、ブラスト加工を行う。このブラスト加工により
図3(5)に示すように低弾性率αの絶縁層10が底部となり、高弾性率βの絶縁層20が側壁部となったキャビティ1が形成される。
そして、
図3(6)に示すように、ブラスト用レジストマスク40を除去することによってキャビティ1を備えた多層配線基板Aを得ることができる。
【0022】
このようにして、深さ方向の寸法が安定したキャビティを備えた多層配線基板を得ることができると共に、キャビティの底部に露出した配線は、その底部の絶縁層10の表面より高い、即ち突出した特徴を有している。
図3では、3層配線基板における本発明の特徴を示したが、より多層の配線基板においても同様に深さ方向の寸法が安定したキャビティを備え得ることができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
以下のような工程フローにより、本発明に係る実施態様の多層配線基板である6層配線基板を作製し、評価した。
【0025】
まず、ガラスエポキシ製の絶縁層の両面に銅層を備えた基板材料に貫通穴加工、穴埋め加工、配線加工等を行い、コア基板を作製した。
次に、コア基板の表裏両面に、低弾性率αの絶縁層10として弾性率2.7GPaのエポキシ系熱硬化樹脂と銅箔を組み合わせ、熱圧着を行って積層した基板を作製した。その積層した基板にビア加工、穴埋め加工、配線加工等を行い、4層基板を作製した。
【0026】
次に、その4層基板の表裏両面に、絶縁層10の弾性率αより高い弾性率βの絶縁層20として弾性率35GPaの熱硬化樹脂と銅箔を組み合わせて熱圧着を行って積層した。そして、貫通穴加工、穴内への銅めっき加工、配線加工等を行い、6層基板を作製した。
次に、6層基板の表面側に、キャビティ部分が開口したブラスト用レジストマスクを形成した。
そして6層基板の表面側からブラスト加工を行った結果、低弾性率αの絶縁層10を底部とし、弾性率αより高弾性率βの絶縁層20を側壁部としたキャビティが形成できた。
そのブラスト加工により露出したキャビティの底部に形成されている配線は、底部の絶縁層の表面より高く、突出した形態となることを確認した。
【0027】
このように、キャビティ底部となる基板の絶縁層10と、その上に積層するキャビティの側壁部となる基板の絶縁層20との弾性率の関係において、底部となる絶縁層10の弾性率αが、側壁部となる絶縁層20の弾性率βより低い弾性率である関係の基板を用いて多層配線基板を作製し、その多層配線基板の表面に所定の開口を備えたレジストマスクを形成して、所定の条件でブラスト加工を行ってキャビティ部分を形成することで、形成された多層配線基板は、弾性率がキャビティの側壁部より低い絶縁層を底部とした深さが一定のキャビティを備えることが確認できた。
【符号の説明】
【0028】
1、100 キャビティ
10 弾性率αの絶縁層
11 キャビティの底部
20 弾性率βの絶縁層(β>α)
21、210 キャビティの側壁部
30、300 配線
40 ブラスト用レジストマスク
110 従来加工のキャビティの底部
410、420 絶縁層(弾性率不問)
430 キャビティの底部の絶縁層
A 本発明例の多層配線基板(3層配線基板)
B 従来例の多層配線基板(3層配線基板)
a 基板