(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】燃料電池産業車両及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04858 20160101AFI20250409BHJP
H01M 8/00 20160101ALI20250409BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20250409BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20250409BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20250409BHJP
B60L 58/40 20190101ALI20250409BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/00 Z
H01M8/04313
H01M8/04537
H01M8/04 Z
H01M8/00 A
B60L58/40
(21)【出願番号】P 2021065055
(22)【出願日】2021-04-07
【審査請求日】2023-04-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】富本 尚也
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-165210(JP,A)
【文献】特開2009-298348(JP,A)
【文献】特開2011-200079(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00-3/12
7/00-13/00
15/00-58/40
H01M 8/04-8/0668
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を備える燃料電池
産業車両であって、
負荷と、
前記燃料電池と前記負荷との間に接続される
キャパシタと、
前記燃料電池
産業車両の走行を制御する走行制御部と、
を備え、
前記走行制御部は、前記燃料電池
産業車両から前記
キャパシタに要求される要求電力と、前記燃料電池
産業車両の速度と、前記燃料電池
産業車両のアクセル開度と、前記燃料電池
産業車両の加速度とに基づいて、前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していると判断
し、通常発電制御から登坂発電制御に移行することで前記燃料電池の目標発電電力を最大発電電力に設定し、その後、前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していると判断し、かつ、前記
キャパシタの充電量が上限充電量より小さい場合、前記目標発電電力を前記最大発
電電力に継続して設定し、前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していないと判断し、かつ、前記
キャパシタの充電量が前記上限充電量より小さい下限充電量以上である場合、前記目標発電電力を前記最大発電電力より小さい中発電電力に設定した後、前記登坂発電制御から前記通常発電制御に移行する
ことを特徴とする燃料電池
産業車両。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池
産業車両であって、
前記走行制御部は、
前記要求電力が所定電力以上である場合で、かつ、前記速度が所定速度以下である場合で、かつ、前記アクセル開度が所定アクセル開度以上である場合で、かつ、前記加速度が所定加速度以下である場合、カウンタ値をインクリメントし、
前記要求電力が前記所定電力より小さい場合、または、前記速度が前記所定速度より大きい場合、または、前記アクセル開度が前記所定アクセル開度より小さい場合、または、前記加速度が前記所定加速度より大きい場合、前記カウンタ値をデクリメントし、
前記カウンタ値が閾値以上になると、前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していると判断する
ことを特徴とする燃料電池
産業車両。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池
産業車両であって、
前記走行制御部は、前記カウンタ値がゼロ以下になると、前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していないと判断する
ことを特徴とする燃料電池
産業車両。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載の燃料電池
産業車両であって、
前記走行制御部は、
前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していないと判断している場合、ゼロから
前記最大発電電力までの間において前記
キャパシタの充電量に応じて前記燃料電池の発電電力を変化させ、
前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していると判断すると、前記燃料電池の発電電力を、前記最大発電電力まで増大させる
ことを特徴とする燃料電池
産業車両。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池
産業車両であって、
前記走行制御部は、前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していると判断すると、前記燃料電池の発電電力を、前記最大発電電力まで徐々に増大させる
ことを特徴とする燃料電池
産業車両。
【請求項6】
燃料電池
産業車両に搭載される燃料電池システムであって、
燃料電池と、
前記燃料電池と前記燃料電池
産業車両に搭載される負荷との間に接続される
キャパシタと、
前記燃料電池の発電を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記燃料電池
産業車両から前記
キャパシタに要求される要求電力と、前記燃料電池
産業車両の速度と、前記燃料電池
産業車両のアクセル開度と、前記燃料電池
産業車両の加速度とに基づいて、前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していると判断すると、通常発電制御から登坂発電制御に移行することで前記燃料電池の目標発電電力を最大発電電力に設定し、その後、前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していると判断し、かつ、前記
キャパシタの充電量が上限充電量より小さい場合、前記目標発電電力を前記最大発
電電力に継続して設定し、前記燃料電池
産業車両が上り坂を走行していないと判断し、かつ、前記
キャパシタの充電量が前記上限充電量より小さい下限充電量以上である場合、前記目標発電電力を前記最大発電電力より小さい中発電電力に設定した後、前記登坂発電制御から前記通常発電制御に移行する
ことを特徴とする燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池の発電制御に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両として、燃料電池と負荷との間に蓄電装置を備え、燃料電池から負荷に流れる電流が所定時間以上継続して所定電流以上となった場合、燃料電池の発電電力を現在の発電電力より増大させるものがある。関連する技術として、特許文献1がある。
【0003】
しかしながら、上記燃料電池車両では、燃料電池から負荷に流れる電流が所定電流以上になってからその状態が所定時間継続するまでの期間において、蓄電装置が過放電状態になるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一側面に係る目的は、燃料電池車両及び燃料電池システムにおいて、燃料電池の後段に設けられる蓄電装置が過放電状態になることを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一つの形態である燃料電池車両は、燃料電池と、負荷と、前記燃料電池と前記負荷との間に接続される蓄電装置と、当該燃料電池車両の走行を制御する走行制御部とを備える。
【0007】
前記走行制御部は、当該燃料電池車両から前記蓄電装置に要求される要求電力と、当該燃料電池車両の速度と、当該燃料電池車両のアクセル開度と、当該燃料電池車両の加速度とに基づいて、当該燃料電池車両が上り坂を走行していると判断すると、前記燃料電池の発電電力を現在の発電電力より増大させる。
【0008】
これにより、燃料電池から負荷に流れる電流が所定電流以上になる状態が所定時間継続することを待つ必要がないため、蓄電装置の残容量が比較的小さい場合であっても蓄電装置の残容量を急峻に増加させることができ、蓄電装置が過放電状態になることを抑制することができる。
【0009】
また、前記走行制御部は、前記要求電力が所定電力以上である場合で、かつ、前記速度が所定速度以下である場合で、かつ、前記アクセル開度が所定アクセル開度以上である場合で、かつ、前記加速度が所定加速度以下である場合、カウンタ値をインクリメントし、前記要求電力が前記所定電力より小さい場合、または、前記速度が前記所定速度より大きい場合、または、前記アクセル開度が前記所定アクセル開度より小さい場合、または、前記加速度が前記所定加速度より大きい場合、前記カウンタ値をデクリメントし、前記カウンタ値が閾値以上になると、当該燃料電池車両が上り坂を走行していると判断するように構成してもよい。
【0010】
これにより、要求電力、速度、アクセル開度、または加速度が変動することで燃料電池車両が上り坂を走行していることが頻繁に判断されることを抑制することができるため、燃料電池車両が上り坂を走行していることが頻繁に判断されることで燃料電池車両の走行に与える影響を抑えることができ、運転者が燃料電池車両の走行に対して違和感を覚えることを抑制することができる。
【0011】
また、前記走行制御部は、前記カウンタ値がゼロ以下になると、当該燃料電池車両が上り坂を走行していないと判断するように構成してもよい。
【0012】
これにより、要求電力、速度、アクセル開度、または加速度が変動することで燃料電池車両が上り坂を走行していないことが頻繁に判断されることを抑制することができるため、燃料電池車両が上り坂を走行していないことが頻繁に判断されることで燃料電池車両の走行に与える影響を抑えることができ、運転者が燃料電池車両の走行に対して違和感を覚えることを抑制することができる。
【0013】
また、前記走行制御部は、当該燃料電池車両が上り坂を走行していないと判断している場合、ゼロから最大発電電力までの間において前記蓄電装置の充電量に応じて前記燃料電池の発電電力を変化させ、当該燃料電池車両が上り坂を走行していると判断すると、前記燃料電池の発電電力を、前記最大発電電力まで増大させるように構成してもよい。
これにより、燃料電池の発電制御を最適化することができる。
【0014】
また、前記走行制御部は、当該燃料電池車両が上り坂を走行していると判断すると、前記燃料電池の発電電力を、前記最大発電電力まで徐々に増大させるように構成してもよい。
【0015】
これにより、燃料電池から補機にかかる電力が急峻に増大することを抑制することができる。
【0016】
本発明に係る一つの形態である燃料電池システムは、燃料電池車両に搭載される燃料電池システムであって、燃料電池と、前記燃料電池と前記燃料電池車両に搭載される負荷との間に接続される蓄電装置と、前記燃料電池の発電を制御する制御部とを備える。
【0017】
前記制御部は、前記燃料電池車両から前記蓄電装置に要求される要求電力と、前記燃料電池車両の速度と、前記燃料電池車両のアクセル開度と、前記燃料電池車両の加速度とに基づいて、前記燃料電池車両が上り坂を走行していると判断すると、前記燃料電池の発電電力を現在の発電電力より増大させる。
【0018】
これにより、燃料電池から負荷に流れる電流が所定電流以上になる状態が所定時間継続することを待つ必要がないため、蓄電装置の残容量が比較的小さい場合であっても蓄電装置の残容量を急峻に増加させることができ、蓄電装置が過放電状態になることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、燃料電池車両及び燃料電池システムにおいて、燃料電池の後段に設けられる蓄電装置が過放電状態になることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施形態の燃料電池車両の一例を示す図である。
【
図2】燃料電池の発電制御を説明するための図である。
【
図3】走行制御部の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図4】制御部の動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下図面に基づいて実施形態について詳細を説明する。
図1は、実施形態の燃料電池車両の一例を示す図である。
図1に示す燃料電池車両Veは、フォークリフトなどの産業車両や自動車などの車両であり、負荷Loと、燃料電池システム1と、アクセル開度検出部2と、走行制御部3とを備える。
【0022】
負荷Loは、走行用モータや荷役モータなどのモータを駆動するためのインバータや電装機器などであり、燃料電池システム1から供給される電力により駆動する。また、負荷Loは、モータなどで発生した回生電力を燃料電池システム1に供給する。
【0023】
燃料電池システム1は、燃料電池FCと、水素タンクHTと、インジェクタINJと、エアコンプレッサACPと、DCDCコンバータCNVと、蓄電装置Bと、記憶部4と、制御部5とを備える。なお、燃料電池システム1は、
図1に示す構成に限定されない。
【0024】
燃料電池FCは、互いに直列接続される複数の燃料電池セルにより構成される燃料電池スタックであり、燃料ガス(水素ガスなど)に含まれる水素と酸化剤ガス(空気など)に含まれる酸素との電気化学反応により電気を発生させる。
【0025】
水素タンクHTは、燃料ガスの貯蔵容器である。水素タンクHTに貯蔵された燃料ガスはインジェクタINJを介して燃料電池FCに供給される。
【0026】
インジェクタINJは、燃料電池FCに供給される燃料ガスの流量を調整する。
【0027】
エアコンプレッサACPは、酸化剤ガスを圧縮し燃料電池FCに供給する。
【0028】
DCDCコンバータCNVは、燃料電池FCの後段に設けられ、燃料電池FCから出力される電力を蓄電装置Bに供給する。なお、DCDCコンバータCNVから出力される電力のうち、エアコンプレッサACPなどの補機により電力が消費された残りの電力が蓄電装置Bに供給されるものとする。
【0029】
蓄電装置Bは、DCDCコンバータCNVと負荷Loとの間に設けられ、負荷LoやエアコンプレッサACPなどの補機に電力を供給する。なお、蓄電装置Bをリチウムイオンキャパシタなどのキャパシタにより構成してもよい。一般に、キャパシタは、二次電池のなかで容量が比較的小さく、充放電特性が優れているため、蓄電装置Bをキャパシタにより構成することで、燃料電池システム1の充放電特性を比較的高くすることができる。
【0030】
記憶部4は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などのメモリにより構成され、後述する所定要求電力、所定速度、所定アクセル開度、及び所定加速度などを記憶する。
【0031】
制御部5は、マイクロコンピュータなどにより構成される。
【0032】
また、制御部5は、通常発電制御時、燃料電池FCで発電される電力が目標発電電力Ptになるように、インジェクタINJやエアコンプレッサACPなどの動作を制御する。
【0033】
また、制御部3は、通常発電制御時、蓄電装置Bの充電量に応じて、目標発電電力Ptを変化させる。なお、充電量とは、蓄電装置Bの充電率[%](満充電容量に対する残容量の割合)、または、蓄電装置Bに電流が流れていないときの蓄電装置Bの開回路電圧[V]とする。
【0034】
また、制御部5は、蓄電装置Bの充電量に応じて、段階的に、目標発電電力Ptを変化させるように構成してもよい。
【0035】
ここで、
図2は、燃料電池FCの発電制御を説明するための図である。なお、第1充電量<第2充電量<第3充電量<第4充電量<第5充電量<第6充電量<第7充電量とする。また、第1発電電力<第2発電電力<第3発電電力<最大発電電力とする。また、第1発電電力と第2発電電力との差、第2発電電力と第3発電電力との差、第3発電電力と最大発電電力との差は、一定値でもよいし、任意の値でもよい。
【0036】
制御部5は、蓄電装置Bの充電量が第6充電量より小さくなると、目標発電電力Ptとしてゼロから第1発電電力に変化させる。また、制御部5は、蓄電装置Bの充電量が第4充電量より小さくなると、目標発電電力Ptとして第1発電電力から第2発電電力に変化させる。また、制御部3は、蓄電装置Bの充電量が第2充電量より小さくなると、目標発電電力Ptとして第2発電電力から第3発電電力に変化させる。また、制御部5は、蓄電装置Bの充電量が第1充電量より小さくなると、目標発電電力Ptとして第3発電電力から最大発電電力に変化させる。また、制御部5は、蓄電装置Bの充電量が第3充電量より大きくなると、目標発電電力Ptとして最大発電電力または第3発電電力から第2発電電力に変化させる。また、制御部5は、蓄電装置Bの充電量が第5充電量より大きくなると、目標発電電力Ptとして第2発電電力から第1発電電力に変化させる。また、制御部5は、蓄電装置Bの充電量が第7充電量より大きくなると、目標発電電力Ptとして第1発電電力からゼロに変化させる。
【0037】
また、
図1に示すアクセル開度検出部2は、アクセルペダルに接続されるポテンションメータなどにより構成され、運転者によるアクセルペダルの操作量をアクセル開度Oとして検出し、その検出したアクセル開度Oを走行制御部3に送る。
【0038】
走行制御部3は、マイクロコンピュータなどにより構成され、負荷Loの動作を制御することで、燃料電池車両Veの走行や荷役などを制御する。
【0039】
また、走行制御部3は、蓄電装置Bに要求する要求電力Pr(負荷Loを駆動するために必要な電力)を求める。例えば、走行制御部3は、蓄電装置Bの出力電圧と蓄電装置Bから負荷Loに流れる電流との乗算値、または、負荷Loの動作制御から予想される負荷Loの消費電力を、要求電力Prとする。
【0040】
また、走行制御部3は、燃料電池車両Veの速度V[m/s]及び加速度A[m/s2]を求める。例えば、走行制御部3は、(走行モータの回転数[rpm]×タイヤ外径[m]×円周率)/(ギア比×減速比)の計算結果を、速度Vとする。また、走行制御部3は、1秒間あたりの速度Vの変化量を、加速度Aとする。または、走行制御部3は、燃料電池車両Veに搭載される不図示の加速度センサや走行用モータに接続されるトルクセンサの出力値に基づいて、加速度Aを求めるように構成してもよい。
【0041】
また、走行制御部3は、要求電力Prと、速度Vと、アクセル開度Oと、加速度Aとに基づいて、燃料電池車両Veが上り坂を走行している(燃料電池車両Veが勾配を有する坂を上っている)か否かを判断する。
【0042】
一般に、上り坂の勾配[%]が大きくなるほど、走行用モータで消費される電力が大きくなる傾向がある。特に、燃料電池車両Veが産業車両である場合、燃料電池車両Veの重量が比較的大きくなるため、上り坂の勾配が大きくなるほど、走行用モータで消費される電力がさらに大きくなる傾向がある。また、上り坂の勾配が大きくなるほど、燃料電池車両Veの速度が小さくなる傾向がある。また、燃料電池車両Veが上り坂を走行している場合、平坦路を走行している場合に比べて、燃料電池車両Veの速度が小さくなるため、平坦路と同じ速度に保とうとする運転者の心理によりアクセルペダルの操作量が比較的大きくなる傾向がある。また、燃料電池車両Veが上り坂を走行している場合、燃料電池車両Veの速度が一定速度になり易いため、燃料電池車両Veの加速度が比較的小さくなる傾向がある。すなわち、燃料電池車両Veが上り坂を走行しているとき、要求電力Pr及びアクセル開度Oが比較的大きくなるとともに、速度V及び加速度Aが比較的小さくなる。
【0043】
そこで、実施形態の走行制御部3は、要求電力Prが所定要求電力以上であり、かつ、速度Vが所定速度以下であり、かつ、アクセル開度Oが所定アクセル開度以上であり、かつ、加速度Aが所定加速度以下である場合、燃料電池車両Veが上り坂を走行していると判断する。また、走行制御部3は、要求電力Prが所定要求電力より小さい場合、または、速度Vが所定速度より大きい場合、または、アクセル開度Oが所定アクセル開度より小さい場合、または、加速度Aが所定加速度より大きい場合、燃料電池車両Veが上り坂を走行していないと判断する。所定アクセル開度は、100%(アクセル開度が全開)であることに限定されず、運転者が上り坂を走行するにあたって開くと推定される開度を実験的・経験的に求めた上で設定される。
【0044】
また、走行制御部3は、燃料電池車両Veが上り坂を走行していると判断した場合、その旨を登坂フラグによって燃料電池システム1の制御部5に伝え、燃料電池FCの発電電力を現在の発電電力より増大させる。
【0045】
図3は、登坂フラグ切替処理時の走行制御部3の動作の一例を示すフローチャートである。なお、
図3に示す登坂フラグ切替処理は、所定タイミング毎、または、一定周期毎に繰り返し実行されるものとする。
【0046】
まず、走行制御部3は、要求電力Prが所定要求電力以上であり、かつ、速度Vが所定速度以下であり、かつ、アクセル開度Oが所定アクセル開度以上であり、かつ、加速度Aが所定加速度以下である場合(ステップS11:Yes)、カウンタのカウンタ値をインクリメントする(ステップS12)。
【0047】
次に、走行制御部3は、カウンタ値が閾値以上である場合(ステップS13:Yes)、カウンタ値を閾値と同じ値にし、登坂フラグをオンし(ステップS14)、登坂フラグ切替処理を終了する。なお、走行制御部3は、登坂フラグがオンになると、燃料電池車両Veが上り坂を走行していると判断してもよい。これにより、要求電力Pr、速度V、アクセル開度O、または加速度Aが変動することで燃料電池車両Veが上り坂を走行していることが頻繁に判断されることを抑制することができるため、燃料電池車両Veが上り坂を走行していることが頻繁に判断されることで燃料電池車両Veの走行に与える影響を抑えることができ、運転者が燃料電池車両Veの走行に対して違和感を覚えることを抑制することができる。
【0048】
一方、走行制御部3は、要求電力Prが所定要求電力より小さい場合、または、速度Vが所定速度より大きい場合、または、アクセル開度Oが所定アクセル開度より小さい場合、または、加速度Aが所定加速度より大きい場合(ステップS11:No)、カウンタのカウンタ値をデインクリメントする(ステップS15)。
【0049】
次に、走行制御部3は、カウンタ値がゼロ以下である場合(ステップS16:Yes)、カウンタ値をゼロにするとともに登坂フラグをオフし(ステップS17)、登坂フラグ切替処理を終了する。なお、走行制御部3は、登坂フラグがオフになると、燃料電池車両Veが上り坂を走行していないと判断してもよい。これにより、要求電力Pr、速度V、アクセル開度O、または加速度Aが変動することで燃料電池車両Veが上り坂を走行していないことが頻繁に判断されることを抑制することができるため、燃料電池車両Veが上り坂を走行していないことが頻繁に判断されることで燃料電池車両Veの走行に与える影響を抑えることができ、運転者が燃料電池車両Veの走行に対して違和感を覚えることを抑制することができる。
【0050】
また、走行制御部3は、カウンタ値が閾値より小さい場合(ステップS13:No)、または、カウンタ値がゼロより大きい場合(ステップS16:No)、登坂フラグ切替処理を終了する。
【0051】
図4は、制御部5の動作の一例を示すフローチャートである。
【0052】
まず、制御部5は、登坂フラグがオフである場合(ステップS21:No)、通常発電制御を行う(ステップS22)。例えば、制御部5は、通常発電制御として、
図2に示すように、蓄電装置Bの充電量に応じて、段階的に、目標発電電力を切り替える。
【0053】
一方、制御部5は、登坂フラグがオンである場合(ステップS21:Yes)、目標発電電力を最大発電電力に設定する(ステップS23)。なお、制御部5は、燃料電池FCの発電電力を最大発電電力まで増大させる際、燃料電池FCの発電電力を最大発電電力まで徐々に増大させるように構成してもよい。具体的には、目標発電電力Ptを現在の発電電力より増大させる際、発電電力の変化量に上限値を設けることが挙げられる。これにより、燃料電池FCから補機にかかる電力が急峻に増大することを抑制することができる。
【0054】
次に、制御部5は、登坂フラグが継続してオン状態であるが(ステップS24:Yes)、蓄電装置Bの充電量が上限充電量より小さい場合(ステップS25:No)、または、登坂フラグがオン状態からオフ状態に切り替わったが(ステップS24:No)、蓄電装置Bの充電量が下限充電量より小さい場合(ステップS26:No)、目標発電電力を継続して最大発電電力に設定する(ステップS23)。例えば、上限充電量を
図2に示す第7充電量とし、下限充電量を
図2に示す第3充電量とする場合、制御部5は、登坂フラグが継続してオン状態であるが(ステップS24:Yes)、蓄電装置Bの充電量が第7充電量より小さい場合(ステップS25:No)、または、登坂フラグがオン状態からオフ状態に切り替わったが(ステップS24:No)、蓄電装置Bの充電量が第3充電量より小さい場合(ステップS26:No)、目標発電電力を継続して最大発電電力に設定する(ステップS23)。これにより、燃料電池車両Veが上り坂を走行していることが継続され蓄電装置Bが過放電状態になり易い状況であっても、燃料電池車両Veが上り坂を走行している間、蓄電装置Bの充電量が上限充電量になるまで蓄電装置Bを充電し続けることができるため、蓄電装置Bが過放電状態になることを抑制することができる。
【0055】
また、制御部5は、登坂フラグが継続してオン状態である場合において(ステップS24:Yes)、蓄電装置Bの充電量が上限充電量以上になると(ステップS25:Yes)、目標発電電力をゼロにして燃料電池FCの発電を停止させる(ステップS27)。
【0056】
一方、制御部5は、登坂フラグがオン状態からオフ状態に切り替わった後(ステップS24:No)、蓄電装置Bの充電量が下限充電量以上になると(ステップS26:Yes)、目標発電電力を中発電電力に設定し(ステップS28)、その後、通常発電制御に移行する(ステップS22)。例えば、中発電電力を
図2に示す第2発電電力とする場合、制御部5は、登坂フラグがオン状態からオフ状態に切り替わった後(ステップS24:No)、蓄電装置Bの充電量が下限充電量以上になると(ステップS26:Yes)、目標発電電力を第2発電電力に設定し(ステップS28)、その後、通常発電制御に移行する(ステップS22)。これにより、燃料電池車両Veが上り坂を走行した後、燃料電池車両Veが平坦路を走行している状態において、目標発電電力が中発電電力に設定されているため、登坂判断時の発電電力制御から通常発電電力制御に移行し易くすることができる。
【0057】
このように、実施形態の走行制御部3では、要求電力Pr、速度V、アクセル開度O、及び加速度Aを用いて、燃料電池車両Veが上り坂を走行していると判断すると、燃料電池FCの発電電力を現在の発電電力より増大させる構成である。これにより、燃料電池システム1から負荷Loに流れる電流が所定電流以上になる状態が所定時間継続することを待つ必要がないため、蓄電装置Bの残容量が比較的小さい場合であっても蓄電装置Bの残容量を急峻に増加させることができ、蓄電装置Bが過放電状態になることを抑制することができる。
【0058】
また、実施形態の走行制御部3では、要求電力Pr、速度V、アクセル開度O、及び加速度Aの4つのパラメータを用いて、燃料電池車両Veが上り坂を走行しているか否かを判断する構成である。これにより、要求電力Pr、速度V、アクセル開度O、及び加速度Aの4つのパラメータのうちの少なくとも3つのパラメータを用いて、燃料電池車両Veが上り坂を走行しているか否かを判断する場合に比べて、燃料電池車両Veが上り坂を走行しているか否かの判断の精度を向上させることができる。また、要求電力Pr、速度V、アクセル開度O、及び加速度Aの4つのパラメータを既存のセンサなどで検出することができるため、勾配検出センサなどを新たに設ける必要がなく、燃料電池車両Veの製造コストが増大することを抑制することができる。
【0059】
また、実施形態の走行制御部3では、燃料電池車両Veが上り坂を走行していると判断すると、燃料電池FCの発電電力を現在の発電電力より増大させる構成である。これにより、燃料電池車両Veが上り坂を走行しているときや燃料電池車両Veが上り坂を走行した後において、蓄電装置Bの電圧を比較的高く保つことができるため、蓄電装置Bから各種補機に流れる電流を比較的小さくすることができ、蓄電装置Bの損失を低減することができる。
【0060】
また、実施形態の走行制御部3は、燃料電池車両Veが上り坂を走行していないと判断している場合に、ゼロから最大発電電力までの間において蓄電装置Bの充電量に応じて燃料電池FCの発電電力を変化させる発電制御系と、燃料電池車両Veが上り坂を走行していると判断した場合に、燃料電池FCの発電電力を最大発電電力まで増大させることを優先する発電制御系の2つの発電制御系を有する構成である。このように、2つの発電制御系を有する場合では、1つの発電制御系(例えば、蓄電装置Bの充電量に応じて燃料電池FCの発電電力を変化させる発電制御系)のみを有する場合に比べて、燃料電池FCの発電制御を最適化することができる。
【0061】
なお、本発明は、以上の実施の形態に限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更が可能である。
【0062】
<変形例>
上記実施形態では、燃料電池車両Veが上り坂を走行しているか否かの判断が走行制御部3により行われる構成であるが、燃料電池車両Veが上り坂を走行しているか否かの判断を制御部5が行うように構成してもよい。このように構成する場合、制御部5は、走行制御部3から定期的に送信される要求電力Pr、速度V、アクセル開度O、及び加速度Aを受信し、その受信した要求電力Pr、速度V、アクセル開度O、及び加速度Aを用いて燃料電池車両Veが上り坂を走行しているか否かを判断する。
【0063】
このように構成しても、燃料電池システム1から負荷Loに流れる電流が所定電流以上になる状態が所定時間継続することを待つ必要がないため、蓄電装置Bの残容量が比較的小さい場合であっても蓄電装置Bの残容量を急峻に増加させることができ、蓄電装置Bが過放電状態になることを抑制することができる。
【符号の説明】
【0064】
1 燃料電池システム
2 アクセル開度検出部
3 走行制御部
4 記憶部
5 制御部
Ve 燃料電池車両
Lo 負荷
FC 燃料電池
HT 水素タンク
INJ インジェクタ
ACP エアコンプレッサ
CNV DCDCコンバータ
B 蓄電装置