(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-04-08
(45)【発行日】2025-04-16
(54)【発明の名称】電動送風機
(51)【国際特許分類】
F04D 29/32 20060101AFI20250409BHJP
F04D 29/054 20060101ALI20250409BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20250409BHJP
【FI】
F04D29/32 C
F04D29/054
H02K7/14 A
(21)【出願番号】P 2021105489
(22)【出願日】2021-06-25
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】日本キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小見山 嘉浩
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-068206(JP,U)
【文献】実開昭52-085874(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/32
F04D 29/054
H02K 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力軸としての段付き軸を有する電動機と、
ボス穴を有する羽根車と、を備え、
前記段付き軸は、前記ボス穴に配置される小径部と、前記小径部より直径が大きい大径部と、を有し、
前記ボス穴の内周面および前記小径部の外周面は、前記羽根車を正回転させた場合に前記小径部と前記大径部との直径差による段差部へ向かって前記羽根車を進行させるように嵌まり合う螺旋状の凹部および凸部を有し、
前記小径部の突出端部は、前記段付き軸の径方向へ延びる溝を有し、
前記ボス穴は、前記小径部の根元端側に配置されて前記段差部に接する一方の開口端部と、前記小径部の突出端側に配置される他方の開口端部と、を有し、
前記羽根車は、前記溝に嵌め込まれて前記羽根車と前記段付き軸との相対的な回転変位を阻害する回り止め部を有する電動送風機。
【請求項2】
前記突出端部は、
前記段付き軸の中心線に近い前記突出端部の中央部よりも
前記小径部の外周面に近い前記突出端部の外周縁部を前記段差部へ近づける面取部を有する請求項1に記載の電動送風機。
【請求項3】
前記回り止め部は、向かい合う一対の片持ち梁状の固定片を有する請求項1または2に記載の電動送風機。
【請求項4】
前記凸部の突出高さをHとし、前記凹部の深さをdとするとき、前記凸部の突出高さHと前記凹部の深さdとの関係は、
0.8≦(H÷d)≦1.25
である請求項1から3のいずれか1項に記載の電動送風機。
【請求項5】
回転中心線方向にお
いて、
前記凸部と前記凹部との隙間は、前記溝と前記回り止め部との重なりよりも小さい請求項1から4のいずれか1項に記載の電動送風機。
【請求項6】
前記凸部および前記凹部のいずれか一方は、前記ボス穴の内周面に設けられ、かつ前記ボス穴の前記他方の開口端部に未達であって、前記ボス穴の中心線方向において前記回り止め部より前記ボス穴の中央部に近い請求項1から5のいずれか1項に記載の電動送風機。
【請求項7】
前記凸部および前記凹部は、互いに嵌合可能な円弧形状、または多角形状の断面形状を有する請求項1から6のいずれか1項に記載の電動送風機。
【請求項8】
前記小径部の外周面は複数条からなる前記
凹部を有し、前記ボス穴の内周面は前記
凹部よりも少ない条の前記
凸部を有する請求項1から7のいずれか1項に記載の電動送風機。
【請求項9】
前記ボス穴の内周面は複数条からなる前記凹部を有し、前記小径部の外周面は前記凹部よりも少ない条の前記凸部を有する請求項1から7のいずれか1項に記載の電動送風機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電動送風機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のファンは、ファンボスのボス穴を二分する内壁と、この内壁に差し込む軸方向溝を有する回転軸と、を備えている。軸方向溝に差し込まれたファンボスの内壁は、回転軸からファンボスへ駆動力を伝達する。
【0003】
また、従来のファンは、回転軸の外周面に設けられる環状溝と、ボス穴の内周面に設けられて環状溝に嵌め込まれる突起と、を備えている。環状溝に嵌め込まれた突起は、回転軸がボス穴から抜け出ることを妨げる。
【0004】
そして、従来のファンのファンボスは、回転軸の径方向へ突起を弾性的に移動させるためのすり割り(スリット)を備えている。すり割りは、環状溝へ突起を容易に嵌め込ませ、また環状溝から突起を容易に抜け出させる。従来のファンは、このファンボスのすり割りを備えることによって、ナットのような締結部材を要することなく、ファンボスと回転軸との容易な連結と容易な分解とを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えばプロペラファンは、回転によって軸方向の推力を発生させる。
【0007】
したがって、従来のファンは、回転軸の径方向へ弾性的に支持される突起が軸方向の推力に抗しきれずに環状溝から抜け出してしまう虞がある。突起が環状溝から抜け出せば、ファンボスは、回転軸から意図せず離脱してしまう。
【0008】
そこで、本発明は、羽根車と回転軸とを容易、かつ強固に連結可能であって、羽根車と回転軸とを容易に分解することが難しい電動送風機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態に係る電動送風機は、出力軸としての段付き軸を有する電動機と、ボス穴を有する羽根車と、を備え、前記段付き軸は、前記ボス穴に配置される小径部と、前記小径部より直径が大きい大径部と、を有し、前記ボス穴の内周面および前記小径部の外周面は、前記羽根車を正回転させた場合に前記小径部と前記大径部との直径差による段差部へ向かって前記羽根車を進行させるように嵌まり合う螺旋状の凹部および凸部を有し、前記小径部の突出端部は、前記段付き軸の径方向へ延びる溝を有し、前記ボス穴は、前記小径部の根元端側に配置されて前記段差部に接する一方の開口端部と、前記小径部の突出端側に配置される他方の開口端部と、を有し、前記羽根車は、前記溝に嵌め込まれて前記羽根車と前記段付き軸との相対的な回転変位を阻害する回り止め部を有している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る電動送風機の模式的な断面図。
【
図2】本発明の実施形態に係る電動送風機の一部を拡大した断面図。
【
図3】本発明の実施形態に係る電動送風機の段付き軸の斜視図。
【
図4】本発明の実施形態に係る電動送風機のボス部の断面図。
【
図5】本発明の実施形態に係る電動送風機のボス部の断面図。
【
図6】本発明の実施形態に係る電動送風機のボス穴の出口側の斜視図。
【
図7】本発明の実施形態に係る電動送風機のボス穴の正面図。
【
図8】本実施形態に係る電動送風機の凹部と凸部との模式的な断面図。
【
図9】本実施形態に係る電動送風機の凹部と凸部との模式的な断面図。
【
図10】本発明の実施形態に係る電動送風機のボス部の他の例の斜視図。
【
図11】本発明の実施形態に係る電動送風機の他の例の一部を拡大した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る電動送風機の実施形態について
図1から
図11を参照して説明する。なお、複数の図面中、同一または相当する構成には同一の符号を付している。
【0012】
図1は、本発明の実施形態に係る電動送風機の模式的な断面図である。
【0013】
図2は、本発明の実施形態に係る電動送風機の一部を拡大した断面図である。
【0014】
図1および
図2に示すように、本実施形態に係る電動送風機1は、出力軸としての段付き軸2を有する電動機3と、ボス穴5を有する羽根車6と、を備えている。ボス穴5に固定された段付き軸2は、電動機3と羽根車6とを一体化する。
【0015】
電動送風機1は、実線矢印Aで示す正面視において羽根車6を反時計回りに回転させて実線矢印Fで示す正面へ向けて流体、もっぱら空気を流動させる。また、電動送風機1は、実線矢印Aで示す正面視において羽根車6を時計回りに回転させると、実線矢印Fの反対方向(実線矢印A方向)である背面へ向けて流体を流動させる。
【0016】
なお、実線矢印Fで示す正面へ向けて流体を流動させる羽根車6の回転および段付き軸2の回転を以下「正回転」と言い、実線矢印Fの反対方向(実線矢印A方向)である背面へ流体を流動させる羽根車6の回転および段付き軸2の回転を以下「逆回転」と言う。正回転する羽根車6は、
図1において、回転中心線Cより左側を紙面の手前側へ移動させ、回転中心線Cより右側を紙面の奥側へ移動させて回転する。逆回転する羽根車6は、
図1において、回転中心線Cより左側を紙面の奥側へ移動させ、回転中心線Cより右側を紙面の手前側へ移動させて回転する。
【0017】
また、羽根車6の背面側から羽根車6の正面側へ流れる流体、つまり実線矢印F方向へ流れる流体が羽根車6の背面に吹き掛かった場合には、羽根車6および段付き軸2は正回転する。また、羽根車6の正面側から羽根車6の背面側へ流れる流体、つまり実線矢印Fの反対方向へ流れる流体が羽根車6の正面に吹き掛かった場合には、羽根車6および段付き軸2は逆回転する。
【0018】
電動機3は、羽根車6を回転駆動させる。段付き軸2は、電動機3の回転駆動力を羽根車6へ伝達し、または羽根車6の回転駆動力を電動機3へ伝達する。段付き軸2は、羽根車6の回転中心である。
【0019】
羽根車6は、例えば軸流インペラー(Axial flow impeller)であって、いわゆるプロペラである。羽根車6は、ボス穴5を有するハブ11と、ハブ11の外周面からハブ11の径方向外側へ放射状に突出する複数の羽根12と、を備えている。羽根車6は、例えば樹脂の成形品である。羽根車6は、一体成形品であっても良いし、複数の部品の組み立て品であっても良い。
【0020】
ハブ11は、ボス穴5を有する筒状のボス部15と、ボス部15から径方向外側へ円形に広がるフランジ部16と、ボス部15およびフランジ部16を環状に囲む円筒部17と、を有している。ボス部15の中心線、フランジ部16の中心線、および円筒部17の中心線は、羽根車6の回転中心線Cに実質的に一致している。
【0021】
ボス部15は、羽根車6を段付き軸2に支えている。
【0022】
複数の羽根12は、円筒部17の外周面に設けられて円筒部17の周方向へ実質的に等間隔に整列している。
【0023】
図3は、本発明の実施形態に係る電動送風機の段付き軸の斜視図である。
【0024】
図1から
図3に示すように、本実施形態に係る電動送風機1の段付き軸2は、羽根車6のボス穴5に配置される小径部21と、小径部21より直径が大きい大径部22と、を有している。また、段付き軸2は、小径部21と大径部22との直径差による段差部23を有している。
【0025】
小径部21は、実質的に一様な直径を有している。小径部21の外周面25は、螺旋状の凹部26を有している。凹部26は、小径部21の根元端から小径部21の突出端に達している。凹部26は、実線矢印A方向視において、小径部21の根元端から小径部21の突出端へ向かって反時計回りに巻かれている。つまり、凹部26は、右ねじと同じ方向へ巻く螺旋形状を有している。
【0026】
本実施形態の段付き軸2は、一条の凹部26を有しているが、二条の凹部26を有していても良い。二条の凹部26は、小径部21の周方向へ等間隔で、つまり180度間隔で並んでいることが好ましい。
【0027】
また、小径部21の突出端部は、段付き軸2の径方向へ延びる溝27と、突出端部の中央部よりも突出端部の外周縁部を段差部23へ近づける面取部28と、を有している。
【0028】
溝27は、小径部21の中心線であり、段付き軸2の中心線であり、電動送風機1の回転中心線Cを通って一直線に延びている。溝27は、小径部21の延長方向へ開放される矩形状を有している。溝27は、小径部21の突出端部に現れる凹部26の端に重ならないことが好ましい。本実施形態では、小径部21の突出端部に現れる凹部26の端は、溝27から最も遠い箇所、つまり、溝27の中心線から小径部21の周方向へ90度離れた箇所に配置されている。
【0029】
面取部28は、溝27の縁(角)を除く、小径部21の突出端部の全ての角に設けられている。
【0030】
面取部28は、小径部21の突出端部の角を平面に切削するC面取り(チャンファー)であっても良いし(
図3)、小径部21の突出端部の角を丸形に切削するR面取り(ラウンド)であっても良い。
【0031】
また、面取部28は、小径部21の突出端部の角を単に除去したものであっても良いし、小径部21よりも若干直径が小さい凸部31を小径部21の突出端部から突出させて、凸部31の角を除去したものであっても良い(
図3)。
【0032】
小径部21の突出端部に現れる凹部26の端の近傍では、面取部28は、凹部26を避けて小径部21の中心側に配置されていることが好ましい。そのため、面取部28の大部分は、軸方向視において円弧状に延びる一方、面取部28は、凹部26の端の近傍に凹部26を避けて、円弧の弦のように直線状に延びる回避部28aを有している。また、面取部28の回避部28aは、小径部21の突出端部に現れる凹部26の端が溝27の中心線から小径部21の周方向へ90度離れた箇所に配置されているため、溝27に平行に延びることで、凹部26を確実に避けている。つまり、回避部28aは、面取部28の他の部位よりも小径部21の中心線に寄っている。
【0033】
段差部23は、環状の面であって段付き軸2の突出端部を臨み、段付き軸2の回転中心線Cに実質的に平行する法線を有している。段差部23は、羽根車6のボス穴5の電動機3に近い方の開口端部32に接している。段差部23は、羽根車6が電動機3へ近づく方向における羽根車6の位置を定め、羽根車6を電動機3へ近づけようとする力(推力)を支える。
【0034】
図4および
図5は、本発明の実施形態に係る電動送風機のボス部の断面図である。
【0035】
図4は、
図1および
図2と同じ断面位置の断面図である。
図5は、段付き軸2の回転中心線Cを通り、かつ
図4の断面に直交する断面位置の断面図である。
【0036】
図1、
図2、
図4、および
図5に示すように、本実施形態に係る電動送風機1のボス穴5は、段付き軸2の小径部21の根元端側に配置されて段差部23に対向する一方の開口端部32と、小径部21の突出端側に配置される他方の開口端部33と、を有している。一方の開口端部32は、他方の開口端部33よりも電動機3に近い。一方の開口端部32は、段付き軸2の段差部23に接している。説明の便宜上、一方の開口端部32側の開口をボス穴5の入口32aと呼び、他方の開口端部33側の開口をボス穴5の出口33aと呼ぶ。
【0037】
ボス穴5は、実質的に一様な内径を有している。ボス穴5の内周面35は、螺旋状の凸部36を有している。凸部36は、一方の開口端部32から他方の開口端部33へ向かって延びているが、他方の開口端部33へは達していない。凸部36は、実線矢印A方向視において、一方の開口端部32から他方の開口端部33へ向かって反時計回りに巻かれている。つまり、凸部36は、右ねじと同じ方向へ巻く螺旋形状を有している。
【0038】
本実施形態のボス穴5は、一条の凸部36を有しているが、二条の凸部36を有していても良い。二条の凸部36は、ボス穴5の周方向へ等間隔に並んでいることが好ましい。ボス穴5の凸部36は、小径部21の凹部26と同数在ることが好ましいが、小径部21の凹部26より少なくても良い。
【0039】
そして、小径部21の凹部26は、
図1の実線矢印Aの方向視において段付き軸2を羽根車6よりも反時計回りに回転させるほどボス穴5の凸部36に締まり込む。したがって、小径部21の凹部26とボス穴5の凸部36とは、電動機3で羽根車6を正回転させた場合に段差部23へ向かって羽根車6を進行させるように嵌まり合っている。また、小径部21の凹部26とボス穴5の凸部36とは、実線矢印F方向へ流れる流体が羽根車6の背面に吹き掛かった場合に段差部23へ向かって羽根車6を進行させるように嵌まり合っている。
【0040】
図6は、本発明の実施形態に係る電動送風機のボス穴の出口側の斜視図である。
【0041】
図7は、本発明の実施形態に係る電動送風機のボス穴の正面図である。つまり、
図7は、
図1における実線矢印A方向へボス穴を見た図である。なお、羽根車6は、上述したとおり反時計回り(実線矢印X)に正回転し、時計回り(実線矢印Y)に逆回転する。
【0042】
図1、
図2、
図4から
図7に示すように、羽根車6は、ボス穴5の他方の開口端部33に片持ち梁状に設けられる回り止め部39を備えている。
【0043】
回り止め部39は、ボス部15に一体成形されている。回り止め部39は、段付き軸2がボス穴5に挿入される過程で、段付き軸2の突出端部の溝27に嵌め込まれて羽根車6と段付き軸2との相対的な回転変位を阻害する、いわゆる回り止めである。回り止め部39は、ボス穴5の内周面35から突出するように設けられている。そのため、ボス穴5の内周面35に接続された端部を固定端として曲がる(撓る)ように弾性変形する。
【0044】
回り止め部39は、向かい合う一対の片持ち梁状の固定片41を有している。一対の固定片41は、ボス穴5の中心線上の隙間で分断されている。回り止め部39は、段付き軸2の矩形の溝27に嵌まり込む矩形断面を有している。
【0045】
ボス穴5の入口32aに段付き軸2の突出端部を合わせ、かつボス穴5の凸部36を段付き軸2の凹部26に嵌め込みながら、
図1の実線矢印Aの方向視において段付き軸2を羽根車6よりも反時計回りに回転させる(羽根車6を段付き軸2よりも時計回りに回転させること、および右ねじを締め付ける方向へ回転させることと同意)と、ボス穴5の凸部36が段付き軸2の凹部26を進行しながら段付き軸2がボス穴5に捻じ込まれる。そして、ボス穴5の入口32aが段付き軸2の段差部23に達するより先に、ボス穴5の出口33aに設けられた回り止め部39は、段付き軸2の小径部21の突出端部に接する。段付き軸2がボス穴5にさらにねじ込まれると、小径部21の突出端部に接した回り止め部39は、小径部21に押されて弾性的に曲がり始める。
【0046】
このとき、回り止め部39は、ボス穴5の内周面35に繋がる根元を固定端とする片持ち梁のように、固定片41の先端部分をボス穴5の外側へ移動させて曲がる。つまり、一対の固定片41は、山型に変形する。それぞれの固定片41の撓り量(曲げ変位の大きさ)は、小径部21の突出端部の面取部28によって制御され、折れ曲がってしまうことなく、弾性変形可能な範囲に小さく抑えられる。面取部28によって、小径部21の突出端部は、先細り形状、いわゆるテーパー形状を有している。そのため、面取部28は、面取りされずに角張った突出端部に比べて小径部21と回り止め部39との接触箇所を小径部21の中心線側へ近づけ、換言すると、回り止め部39の固定端から遠ざける。したがって、小径部21に押されて曲がる回り止め部39の撓り量は、面取りされずに角張った突出端部に押されて曲がる場合に比べて抑制される。そして、この回り止め部39の撓りが回り止め部39の弾性変形の範囲に収まるよう、面取部28の範囲が決定されている。
【0047】
回り止め部39を小径部21で押し曲げたまま、段付き軸2がボス穴5にさらにねじ込まれると、ボス穴5の入口32aが段付き軸2の段差部23に達してこれに接触する。また、ボス穴5の入口32aが段付き軸2の段差部23に接触すると実質的に同時に、回り止め部39は、段付き軸2の突出端部の溝27に嵌まり込み、回り止め部39の弾性変形(撓り、曲がり)が復元する。
【0048】
そうすると、段付き軸2の段差部23に接することで電動機3に近づく方向への羽根車6の移動が制限され、段付き軸2の溝27に嵌まり込んだ回り止め部39によって段付き軸2に対する羽根車6の回転が制限され、かつ電動機3から遠ざかる方向への羽根車6の移動が制限される。
【0049】
溝27に嵌まり込んだ回り止め部39は、羽根車6が正回転した場合であっても逆回転した場合であっても、溝27の側面に強く押され、溝27の底面に強く押されることはない。つまり、溝27に嵌まり込んだ回り止め部39は、羽根車6の回転による負荷、または荷重によって、溝27から抜け出るような曲げ変形を生じることはない。仮に羽根車6を段付き軸2から分離する場合には、回り止め部39を意図的に大きく撓らせて溝27から離脱させ、かつその状態を保ったまま右ねじが抜ける方向へ羽根車6および段付き軸2を回転さなければならない。
【0050】
電動機3を回転駆動させて羽根車6を正回転させた場合には、羽根車6には電動機3へ近づく方向(
図1中の実線矢印Aの方向)へ推力が発生するが、この推力は、段付き軸2の段差部23によって支持される。また、羽根車6の正面側から羽根車6の背面側へ流れる流体(
図1中の実線矢印Fの反対方向)へ流れる流体が羽根車6の正面に吹き掛かった場合には、羽根車6は逆回転しながら電動機3に近づく方向へ押し込まれるが、この流体による力は、段付き軸2の段差部23によって支持される。
【0051】
一方、電動機3を回転駆動させて羽根車6を逆回転させた場合には、羽根車6には電動機3から遠ざかる方向(
図1中の実線矢印Aの反対方向)へ推力が発生するが、この推力は、回り止め部39によって回転変位が制限され、規制された段付き軸2の凹部26と羽根車6の凸部36とによって支持される。また、羽根車6の背面側から羽根車6の正面側へ流れる流体(
図1中の実線矢印Fの方向)へ流れる流体が羽根車6の背面に吹き掛かった場合には、羽根車6は正回転しながら電動機3から遠ざかる方向へ押し出されるが、この流体による力は、回り止め部39によって回転変位が制限され、規制された段付き軸2の凹部26と羽根車6の凸部36とによって支持される。
【0052】
ボス穴5の他方の開口端部33に未達の凸部36は、ボス穴5の中心線方向において回り止め部39よりボス穴5の中央部に近い。つまり、ボス穴5の中心線に直交する断面視において、回り止め部39の断面と凸部36の断面とが同時に現れることはない。そのような断面構造を有するボス部15および羽根車6は、ボス穴5内に凸部36と回り止め部39とを樹脂で容易に一体成形できる。
【0053】
次いで、段付き軸2の凹部26とボス穴5の凸部36との嵌め合いについて説明する。
【0054】
図8および
図9は、本実施形態に係る電動送風機の凹部と凸部との模式的な断面図である。
【0055】
図8に示すように、ボス穴5の凸部36の突出高さ寸法Hが段付き軸2の凹部26の深さ寸法dよりも大きい場合には、凹部26の深さ寸法dは、凸部36の突出高さ寸法Hの0.8倍以上であることが好ましい。
[数1]
(凹部26の深さ寸法d)≧(凸部36の突出高さ寸法H)×0.8
【0056】
また、
図8に示すように、段付き軸2の凹部26の深さ寸法dがボス穴5の凸部36の突出高さ寸法Hよりも大きい場合には、凸部36の突出高さ寸法Hは、段付き軸2の凹部26の深さ寸法dの0.8倍以上であることが好ましい。
[数2]
(凸部36の突出高さ寸法H)≧(凹部26の深さ寸法d)×0.8
【0057】
つまり、凸部36と凹部26とは、少なくとも高さ(深さ)の8割以上が嵌まり合っていることが好ましい。したがって、凸部36の突出高さ寸法Hと凹部26の深さ寸法dとの間には、[数3]の関係が成り立つことが好ましい。
[数3]
0.8≦(凸部36の突出高さ寸法H)÷(凹部26の深さ寸法d)≦1.25
【0058】
また、段付き軸2の回転中心線Cに平行な方向における凸部36と凹部26との隙間、いわゆる遊びは、段付き軸2の回転中心線Cに平行な方向における段付き軸2の溝27と回り止め部39との重なりよりも小さいことが好ましい。このような隙間は、電動機3へ近づく方向の力が羽根車6に作用した場合であっても、溝27から回り止め部39が抜け出ることを確実に阻止し、段付き軸2と羽根車6との回り止め機能を確実に保つ。
【0059】
なお、凹部26はボス穴5に設けられ、凸部36は段付き軸2に設けられていても良い。換言すると、ボス穴5の内周面35および小径部21の外周面25は、羽根車6を正回転させた場合に段差部23へ向かって羽根車6を進行させるように嵌まり合う螺旋状の凹部26および凸部36を有していれば良い。
【0060】
また、凹部26がボス穴5に設けられ、凸部36が段付き軸2に設けられている場合には、凹部26は、他方の開口端部33に未達であって、ボス穴5の中心線方向において回り止め部39よりボス穴5の中央部に近い。そのような断面構造を有するボス部15および羽根車6は、ボス穴5内に凹部26と回り止め部39とを樹脂で容易に一体成形できる。つまり、凸部36および凹部26のいずれか一方は、ボス穴5の内周面35に設けられ、かつボス穴5の他方の開口端部33に未達であって、ボス穴5の中心線方向において回り止め部39よりボス穴5の中央部に近ければ良い。
【0061】
さらに、凸部36および凹部26は、互いに嵌合可能な円弧形状の断面形状を有しているが、三角形状や四角形状などの多角形状の断面形状を有していても良い。
【0062】
図10は、本発明の実施形態に係る電動送風機のボス部の他の例の斜視図である。
【0063】
図11は、本発明の実施形態に係る電動送風機の他の例の一部を拡大した断面図である。
【0064】
図10および
図11に示すように、本実施形態に係る電動送風機1の羽根車6Aは、ボス穴5Aの外側に配置される回り止め部39Aを備えている。つまり、回り止め部39Aは、ボス穴5Aの出口33aの外側に設けられている。ボス穴5Aに段付き軸2を締め込むと、小径部21の突出端部は、回転中心線C方向における溝27と回り止め部39Aとの重なり寸法の範囲でボス穴5Aの出口33aからボス穴5Aの外側に突出する。
【0065】
羽根車6Aでは、凸部36は、ボス穴5Aの入口32aから出口33aに達していても良い。回り止め部39Aがボス穴5Aの外側に配置されているので、ボス穴5Aの中心線に直交する断面視において、回り止め部39Aの断面と凸部36の断面とが同時に現れることはない。そのため、ボス部15Aおよび羽根車6Aは、ボス穴5内の凹部26とボス穴5外の回り止め部39とを樹脂で容易に一体成形できる。
【0066】
以上のように、本実施形態に係る電動送風機1は、ボス穴5、5Aの内周面35および小径部21の外周面25に設けられて羽根車6、6Aを正回転させた場合に小径部21と大径部22との直径差による段差部23へ向かって羽根車6、6Aを進行させるように嵌まり合う螺旋状の凹部26および凸部36と、ボス穴5、5Aの他方の開口端部33に片持ち梁状に設けられ、小径部21の突出端部の溝27に嵌め込まれて羽根車6、6Aと段付き軸2との相対的な回転変位を阻害する回り止め部39、39Aと、を備えている。そのため、電動送風機1は、羽根車6、6Aと段付き軸2とを容易、かつ強固に連結できる一方、羽根車6、6Aと段付き軸2とを容易に分解することができない。つまり、従来のプロペラファンのように、羽根車6、6Aが段付き軸2から意図せず離脱することはない。なお、プロペラファンのように回転方向を逆転させることで分解する虞のない、シロッコファン、横流ファン、およびターボファンであっても、本実施形態に係る電動送風機1と同様な段付き軸と羽根車との固定構造は、容易に適用できる。
【0067】
また、本実施形態に係る電動送風機1は、小径部21の突出端部の中央部よりも突出端部の外周縁部を段差部23へ近づける面取部28を有している。そのため、電動送風機1は、羽根車6、6Aを段付き軸2に固定する際に、段付き軸2をボス穴5にスムーズに挿入可能であり、かつ回り止め部39、39Aが小径部21の溝27に嵌まり込む直前であって小径部21の突出端部に接触した際に、回り止め部39、39Aを緩やかに曲げ、かつ撓り量を抑えることができる。
【0068】
さらに、本実施形態に係る電動送風機1は、向かい合う一対の片持ち梁状の固定片41を有する回り止め部39、39Aと、を備えている。そのため、電動送風機1は、羽根車6、6Aの回転負荷によって固定片41の固定端に生じる応力を低減できる。
【0069】
また、本実施形態に係る電動送風機1は、0.8≦(凸部36の突出高さ寸法H)÷(凹部26の深さ寸法d)≦1.25の関係で嵌まり合う螺旋状の凹部26および凸部36を備えている。そのため、電動送風機1は、羽根車6、6Aと段付き軸2との滑りや隙間(遊び)を抑制し、かつ組み立て性を向上できる。
【0070】
さらに、本実施形態に係る電動送風機1は、溝27と回り止め部39、39Aとの重なりよりも小さい、回転中心線C方向における隙間を有する凹部26および凸部36を備えている。そのため、電動送風機1は、羽根車6、6Aと段付き軸2とが意図せず分解してしまうことを確実に阻止することができる。
【0071】
また、本実施形態に係る電動送風機1は、ボス穴5の内周面35に設けられ、かつボス穴5の他方の開口端部33に未達であって、ボス穴5の中心線方向において回り止め部39よりボス穴5の中央部に近い凸部36または凹部26を備えている。そのため、電動送風機1は、樹脂製の羽根車6を容易に一体成形できる。
【0072】
さらに、本実施形態に係る電動送風機1は、互いに嵌合可能な円弧形状、または多角形状の断面形状を有する凸部36および凹部26を備えている。つまり、電動送風機1は、組み立て性や、凹部26と凸部36との嵌め合いの強固さを的確に設定できる。
【0073】
したがって、本実施形態に係る電動送風機1によれば、羽根車6、6Aと段付き軸2とを容易、かつ強固に連結可能であって、羽根車6、6Aと段付き軸2とを容易に分解することが難しい。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1…電動送風機、2…段付き軸、3…電動機、5、5A…ボス穴、6、6A…羽根車、11…ハブ、12…羽根、15、15A…ボス部、16…フランジ部、17…円筒部、21…小径部、22…大径部、23…段差部、25…小径部の外周面、26…凹部、27…溝、28…面取部、28a…回避部、31…凸部、32…一方の開口端部、32a…入口、33…他方の開口端部、33a…出口、35…ボス穴の内周面、36…凸部、39、39A…回り止め部、41…固定片。